説明

多層構造体及びその製造方法

【課題】レトルト処理後のガスバリア性が良好で、かつ外観が美麗な多層構造体を提供する。
【解決手段】樹脂組成物(A)の層とエチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層とを有し、それらの層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された多層構造体であって;樹脂組成物(A)が、ポリオレフィン(D)、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)、及びエチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のけん化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)を含有し、質量比(E/F)が0.05〜30であり、(D)のマトリックス中に平均粒子径0.1〜1.8μmの(E)が分散している

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンからなる層とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなる層を有する多層構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる層と、バリア性に優れるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(以下、EVOHと略称することがある)からなる層とを含む多層構造体は、そのバリア性を活かして各種用途、特に食品包装容器や医薬品容器などに広く用いられている。このような多層構造体はフィルム、シート、カップ、トレイ、ボトルなどの各種成形品として用いられる。このとき、上記各種成形品を得る際に発生する端部や不良品等を回収し、溶融成形してポリオレフィン層とEVOH層を含む多層構造体の少なくとも1層として再使用する場合がある。このような回収技術は、廃棄物削減や経済性の点で有用であり、広く採用されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン層とEVOH層を含む多層構造体の回収物を再使用する際には、溶融成形時の熱劣化によりゲル化を起こしたり、劣化物が押出機内に付着したりして、長期間の連続溶融成形を行うことが困難であった。さらに、このような劣化物が成形品中にしばしば混入するため、得られる成形品においてフィッシュアイが発生したり、相分離異物(目ヤニ)が発生したりするという問題があった。また、ポリオレフィンとEVOHの相溶性が悪いために外観が悪化するという問題もあった。食品、医薬品包装容器においては、内容物に対して滅菌や殺菌などの処理が必要とされることが多い。しかしながら、EVOHは高温多湿条件下ではガスバリア性が低下するため、レトルト処理中の高温多湿状態を経た後であってもガスバリア性が優れた多層構造体が求められている。
【0004】
このような問題を解決する方策として、特許文献1には、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はそのけん化物に対して、脂肪酸金属塩及び/又はハイドロタルサイトを配合した樹脂組成物を、EVOH層を有する積層体の回収物に配合する溶融成形方法が記載されている。この方法によれば、ロングラン成形性が良好となり、目ヤニの発生が抑制できるとされている。
【0005】
特許文献2には、ポリオレフィン;エチレン含有率が20〜65モル%で酢酸ビニル成分のけん化度が96モル%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物;炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩及びハイドロタルサイトから選ばれる少なくとも1種の化合物;及びエチレン含有率が68〜98モル%で酢酸ビニル成分のけん化度が20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物からなる樹脂組成物が記載されている。この樹脂組成物は優れた相溶性を有しており、この樹脂組成物を用いて得られた成形物の表面には波模様の発生がなく、外観が美麗であるとされている。
【0006】
特許文献3には、ポリオレフィン系樹脂層とEVOH層を含む積層体の回収物に、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン含有量70モル%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物を配合した樹脂組成物からなる層を有する多層構造体が記載されている。この多層構造体は、目ヤニや変色が抑制されていて、外観に優れているとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された発明では、得られる成形物におけるレトルト処理後のガスバリア性が不十分であり、さらに、外観不良を引き起こすことがあるという問題があった。
【0008】
また、特許文献4には、EVOH層を中間層とし、接着剤層を介して、ポリオレフィン系樹脂とEVOHとスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有する樹脂組成物の層と、最内外層のポリオレフィン系樹脂層とからなる積層体が記載されている。この積層体は、レトルト処理等の高温多湿条件下でガスバリア性が良好であるとされている。しかしながら、スチレン系エラストマーは樹脂の価格が高いため、経済性に合わない場合がある。
【0009】
さらに、特許文献5には、ガスバリア層であるEVOH層の両側に不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン層、その両側に非晶性ポリアミド層、その両側にEVOH層とプロピレン系重合体層と不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン層と非晶性ポリアミド層に用いた樹脂を含有する樹脂組成物層、さらにその両側にプロピレン系重合体層を配置した多層構造体が記載されている。この樹脂組成物層は、成形物を得る際に発生するスクラップを再使用して形成することができ、得られた多層構造体は、レトルト処理前後の高温多湿条件下でガスバリア性が良好であると記載されている。しかしながら、層構成が9層であるため、成形機器が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−234971号公報
【特許文献2】特開平3−72542号公報
【特許文献3】特開2009−97010号公報
【特許文献4】特開平4−246533号公報
【特許文献5】特開平4−255349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ポリオレフィン及びEVOHを含有する樹脂組成物層と、ポリオレフィン層と、EVOH層とを有し、レトルト処理後のガスバリア性が良好で、かつ外観が美麗な多層構造体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、樹脂組成物(A)の層とエチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層とを有し、それらの層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された多層構造体であって;
樹脂組成物(A)が、ポリオレフィン(D)、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)、及びエチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のけん化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)を含有し、
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)の質量比(E/F)が0.05〜30であり、
ポリオレフィン(D)のマトリックス中に平均粒子径0.1〜1.8μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)が分散しており、
樹脂組成物(A)の層の厚みが50〜1000μmであり、かつ
両側のポリオレフィン(C)の層の厚みがいずれも50〜1000μmであることを特徴とする多層構造体を提供することによって解決される。
【0013】
このとき、樹脂組成物(A)が、さらにエチレン−酢酸ビニル共重合体(G)を含有し、エチレン−酢酸ビニル共重合体(G)とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)の質量比(G/F)が0.1〜15であることが好適である。樹脂組成物(A)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)を2〜15質量%含有することも好適である。
【0014】
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層を挟むように樹脂組成物(A)の層が両側に配置され、さらにそれら全ての層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置されることも好適である。エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して6〜12%であることも好適である。多層構造体の全体の厚みが400〜10000μmであることも好適である。ポリオレフィン(C)の融点が120〜220℃であることも好適である。また、120℃、0.15MPaで30分間レトルト処理してから24時間経過後の酸素透過速度が、0.1〜6cc/m・day・atmであることも好適である。
【0015】
また、上記課題は、ポリオレフィン(D)の層とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)の層を有する多層構造体のスクラップと、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)と、脂肪酸金属塩(G)とを溶融混練して得られた樹脂組成物(A)、
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)、及び
ポリオレフィン(C)を用いて溶融成形することを特徴とする多層構造体の製造方法を提供することによっても解決される。
【0016】
また、上記課題は、前記多層構造体からなる多層容器を提供することによっても解決される。このとき、前記多層容器が、レトルト処理用であることが好適である。
【0017】
上記多層容器に内容物が充填された包装体が本発明の好適な実施態様である。このとき、上記包装体が、レトルト処理されたものであることが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリオレフィン及びEVOHを含有する樹脂組成物層と、ポリオレフィン層と、EVOH層とを有し、レトルト処理後のガスバリア性が良好で、かつ外観が美麗な多層構造体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の多層構造体は、樹脂組成物(A)の層とエチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)(以下、EVOH(B)と略称することがある)の層とを有し、それらの層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された多層構造体である。
【0020】
ここで用いられる樹脂組成物(A)は、ポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びエチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のけん化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)(以下、S−EVOH(F)と略称することがある)を含有する。
【0021】
樹脂組成物(A)に含まれるポリオレフィン(D)は、ポリエチレン(低密度、直鎖状低密度、中密度、高密度など);エチレンと1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン類またはアクリル酸エステルを共重合したエチレン系共重合体;ポリプロピレン;プロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン類を共重合したプロピレン系共重合体;ポリ(1−ブテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、上述のポリオレフィンに無水マレイン酸を作用させた変性ポリオレフィン;アイオノマー樹脂などを含んでいる。中でも、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体などのポリプロピレン系樹脂、またはポリエチレン、エチレン系共重合体などのポリエチレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリオレフィン(D)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0022】
樹脂組成物(A)に含まれるEVOH(E)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル単位をけん化して得られたものである。エチレン含有量が少なく、かつ酢酸ビニル単位のけん化度が高いEVOHは、ポリオレフィンとの相容性が不良となりやすい。一方、EVOHのエチレン含有量が多すぎる場合には、ガスバリア性が低下する。また、酢酸ビニル単位のけん化度が低いEVOHは、EVOH自体の熱安定性が不良となりやすい。このような観点から、EVOH(E)のエチレン含有量は20〜65モル%である。エチレン含有量は25モル%以上であることが好ましい。また、エチレン含有量は55モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましい。一方、EVOH(E)の酢酸ビニル単位のけん化度は96%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。特に、エチレン含有量が20〜65モル%であり、かつけん化度が99%以上のEVOHは、ポリオレフィンと積層して用いることにより、ガスバリア性に優れる容器類が得られるので、本発明で特に好適に用いられる。
【0023】
EVOH(E)は、本発明の効果を阻害しない範囲、一般的には5モル%以下の範囲で、他の重合性単量体を含んでいてもよい。このような重合性単量体としては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;アルキルビニルエーテル;N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミドまたはその4級化物、N−ビニルイミダゾールまたはその4級化物、N−ビニルピロリドン、N,N−ブトキシメチルアクリルアミド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランなどが挙げられる。
【0024】
また、EVOH(E)のメルトインデックス(MI;190℃、2160g荷重下で測定)は0.1g/10分以上、好適には0.5g/10分以上であり、また100g/10分以下、好適には50g/10分以下、最適には30g/10分以下であることが望ましい。このとき、EVOH(E)の分散性の観点から、EVOH(E)のMIをMI(EVOH)、ポリオレフィンのMI(190℃、2160g荷重下で測定)をMI(PO)としたときの比[MI(EVOH)/MI(PO)]は0.1〜100であることが好ましく、0.3〜50であることがより好ましい。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0025】
樹脂組成物(A)に含まれるS−EVOH(F)は、エチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のけん化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物であり、エチレン含有量が高く、ポリオレフィン(D)及びEVOH(E)の相容性を顕著に改善する効果がある。S−EVOH(F)のエチレン含有量は、70モル%以上であることが好ましい。一方、S−EVOH(F)のエチレン含有量は、96モル%以下であることが好ましく、94モル%以下であることがより好ましい。また、酢酸ビニル単位のけん化度は30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。けん化度の上限には特に限定はなく、99モル%以上であってもよく、実質的にほぼ100%のけん化度のものも使用できる。エチレン含有量が68モル%未満である場合、98モル%を超える場合、または酢酸ビニル単位のけん化度が20%未満の場合には、ポリオレフィン(D)及びEVOH(E)の相溶性を改善する効果が不十分である。
【0026】
S−EVOH(F)のエチレン含有量は、EVOH(E)のエチレン含有量より高い。ポリオレフィン(D)及びEVOH(E)の相容性改善の観点から、S−EVOH(F)のエチレン含有量とEVOH(E)のエチレン含有量との差は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましい。
【0027】
S−EVOH(F)のMI(190℃、2160g荷重下で測定)は0.1g/10分以上であることが好ましく、0.5g/10分以上であることがより好ましく、1g/10分以上であることがさらに好ましい。一方、S−EVOH(F)のMIは、100g/10分以下であることが好ましく、50g/10分以下であることがより好ましく、30g/10分以下であることがさらに好ましい。なお、S−EVOH(F)は不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されていてもよく、かかる不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸;前記した酸のメチルまたはエチルエステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
樹脂組成物(A)に含まれる成分として、上記のポリオレフィン(D)、EVOH(E)及びS−EVOH(F)に加えて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(G)(以下、EVAc(G)と略称することがある)を配合することが好ましい。EVAc(G)を配合することによって、EVOH(E)の分散性を高め、レトルト処理後のガスバリア性を良好にすることができる。EVAc(G)としては、エチレンと酢酸ビニルを公知の方法にて重合したランダム共重合体のほか、さらに他のモノマーを共重合した三元共重合体や、グラフト化などにより変性した変性EVAcであってもよい。EVAc(G)の酢酸ビニル単位はけん化されておらず、その含有量は、2〜40モル%であることが好ましく、5〜25モル%であることがより好ましい。酢酸ビニル単位の含有量が2モル%未満、あるいは40モル%を超えると、EVOH(E)の分散性の改善に十分な効果が得られないことがある。また、EVAc(G)のメルトインデックス(MI;190℃、2160g荷重下で測定)は0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.5〜30g/10分であることがより好ましく、1〜20g/10分であることがさらに好ましい。
【0029】
また、樹脂組成物(A)に含まれる成分として、上記のポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びS−EVOH(F)に加えて、脂肪酸金属塩(H)を配合することも好ましい。脂肪酸金属塩(H)を配合することによって、成形品のフィッシュアイの発生を抑制しやすくなる。脂肪酸金属塩(H)としては、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、モンタン酸などの炭素数10〜26の高級脂肪族の金属塩、特に周期律表第1族、第2族または第3族の金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。また、上記した脂肪酸の亜鉛塩、鉛塩を用いることもできる。これらの中で、カルシウム塩、マグネシウム塩などの周期律表第2族の金属塩は、少量の添加で上記効果を奏するので好ましい。
【0030】
さらに、樹脂組成物(A)に含まれる成分として、上記のポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びS−EVOH(F)に加えて、ハイドロタルサイト(I)を配合することも好ましい。ハイドロタルサイト(I)を配合することによって、成形品のフィッシュアイの発生を抑制しやすくなる。ハイドロタルサイト(I)としては、
Al(OH)2x+3y−2z(A)・aH
(MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Pb、Snの1つ以上を表わし、AはCOまたはHPOを表わし、x、y、zは正数であり、aは0または正数であり、2x+3y−2z>0である)
で示される複塩であるハイドロタルサイト(I)を好適なものとして挙げることができる。
【0031】
上記ハイドロタルサイト中、MとしてはMg、CaまたはZnが好ましく、これらの2つ以上の組み合わせがより好ましい。これらハイドロタルサイトの中でも特に好適なものとしては次のようなものが例示できる。
MgAl(OH)16CO・4H
MgAl(OH)20CO・5H
MgAl(OH)14CO・4H
Mg10Al(OH)22(CO・4H
MgAl(OH)16HPO・4H
CaAl(OH)16CO・4H
ZnAl(OH)16CO・4H
MgZnAl(OH)12CO・2.7H
MgZnAl(OH)20CO・1.6H
MgZn1.7Al3.3(OH)20(CO1.65・4.5H
【0032】
また、樹脂組成物(A)に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、又は他の高分子化合物を挙げることができる。添加剤の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
【0033】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)など。
【0034】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなど。
【0035】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステルなど。
【0036】
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックスなど。
【0037】
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレートなど。
【0038】
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウムなど。
【0039】
また、他の多くの高分子化合物も、本発明の作用効果が阻害されない程度に樹脂組成物(A)に配合することもできる。
【0040】
樹脂組成物(A)が、ポリオレフィン(D)を70〜96質量%含有することが好適である。ポリオレフィン(D)の含有量が96質量%よりも大きい場合、EVOH(E)によるレトルト処理後のガスバリア性の改善効果が発現しにくくなる。ポリオレフィン(D)の含有量が94質量%以下であることがより好適である。一方、ポリオレフィン(D)の含有量が70質量%未満の場合、レトルト処理時にEVOH(B)層への水の侵入量が増加し、ガスバリア性が悪化する場合がある。ポリオレフィン(D)の含有量が76質量%以上であることがより好適である。
【0041】
樹脂組成物(A)が、EVOH(E)を2〜15質量%含有することが好適である。EVOH(E)の含有量が15質量%よりも大きい場合、レトルト処理後のガスバリア性が不良となることがあり、また、外観不良を生じることもある。EVOH(E)の含有量が13質量%以下であることがより好適である。一方、EVOH(E)の含有量が2質量%未満の場合、EVOH(E)によるレトルト処理後のガスバリア性の改善効果が発現しにくくなる。EVOH(E)の含有量が3質量%以上であることがより好適である。
【0042】
樹脂組成物(A)が、S−EVOH(F)を0.2〜2.0質量%含有することが好適である。S−EVOH(F)の含有量が2.0質量%よりも大きい場合、フィッシュアイが発生するおそれがある。S−EVOH(F)の含有量が1.5質量%以下であることがより好適である。一方、S−EVOH(F)の含有量が0.2質量%未満の場合、EVOH(E)の分散が不十分となり、レトルト処理後のガスバリア性が上昇し、また外観が悪化する場合がある。S−EVOH(F)の含有量が0.3質量%以上であることがより好適である。
【0043】
樹脂組成物(A)が、EVAc(G)を0.2〜8.0質量%含有することが好適である。EVAc(G)の含有量が8.0質量%よりも大きい場合、フィッシュアイが発生するおそれがある。EVAc(G)の含有量が6.0質量%以下であることがより好適である。一方、EVAc(G)の含有量が0.2質量%未満の場合、EVOH(E)の分散が不十分となり、レトルト処理後のガスバリア性が上昇し、また多層構造体の外観が悪化する場合がある。EVAc(G)の含有量が0.5質量%以上であることがより好適である。
【0044】
樹脂組成物(A)が、脂肪酸金属塩(H)を0.02〜1.0質量%含有することが好適である。脂肪酸金属塩(H)の含有量が1.0質量%よりも大きい場合、樹脂組成物(A)の層の透明性が悪化する場合がある。脂肪酸金属塩(H)の含有量が0.8質量%以下であることがより好適である。一方、脂肪酸金属塩(H)の含有量が0.02質量%未満の場合、焦げやスクリュー付着物が発生しやすくなる。脂肪酸金属塩(H)の含有量が0.05質量%以上であることがより好適である。
【0045】
樹脂組成物(A)が、ハイドロタルサイト(I)を0.02〜1.0質量%含有することが好適である。ハイドロタルサイト(I)の含有量が1.0質量%よりも大きい場合、樹脂組成物(A)の層の透明性が悪化する場合がある。ハイドロタルサイト(I)の含有量が0.8質量%以下であることがより好適である。一方、ハイドロタルサイト(I)の含有量が0.02質量%未満の場合、多層構造体の色相が悪化する場合がある。ハイドロタルサイト(I)の含有量が0.05質量%以上であることがより好適である。
【0046】
樹脂組成物(A)中の、EVOH(E)とS−EVOH(F)の質量比(E/F)は0.05〜30であることが必要である。質量比(E/F)が30よりも大きい場合、EVOH(E)の分散性が悪く、レトルト処理後のガスバリア性が不良となる。質量比(E/F)は27以下であることが好適である。一方、質量比(E/F)が0.05未満の場合、EVOH(E)の分散が不十分となり、レトルト処理後のガスバリア性が上昇し、また外観が悪化する。質量比(E/F)は2以上であることが好適である。
【0047】
樹脂組成物(A)中の、EVAc(G)とS−EVOH(F)の質量比(G/F)が0.1〜15であることが好適である。質量比(G/F)が15よりも大きい場合、レトルト処理後のガスバリア性が不良となることがある。質量比(G/F)は13以下であることがより好適である。一方、質量比(G/F)が0.1未満の場合、EVOH(E)の分散が安定せず、ガスバリア性が悪くなる場合がある。質量比(G/F)は1以上であることがより好適である。
【0048】
樹脂組成物(A)を得るための混合方法について特に制限はなく、ポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びS−EVOH(F)を一度にドライブレンドして溶融混練する方法;ポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びS−EVOH(F)の一部を予め溶融混練してから、他の成分を配合して溶融混練する方法;ポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びS−EVOH(F)の一部を含有する多層構造体と、他の成分を配合して溶融混練する方法が挙げられる。
【0049】
中でも、ポリオレフィン(D)の層及びEVOH(E)の層を含有する多層構造体からなる成形物を得る際に発生する端部や不良品を回収したスクラップと、S−EVOH(F)を溶融混練する方法が好適である。このように、回収されたスクラップを溶融混練する際に配合される添加剤を回収助剤といい、ここでは、S−EVOH(F)が回収助剤として用いられる。このとき、S−EVOH(F)に他の成分を追加する場合は、それらを予め溶融混練して、それら全てを含有する樹脂組成物としてからスクラップに添加することが好ましい。このような回収助剤は、好適にはペレット形状でスクラップに配合される。スクラップは、適当な寸法に粉砕しておくことが好ましく、粉砕されたスクラップに対してペレット形状の回収助剤をドライブレンドしてから溶融混練するのが、本発明の樹脂組成物の好適な製造方法である。なお、スクラップとしては、一つの成形物から得られるスクラップを用いてもよいし、二つ以上の成形物から得られる関連するスクラップを混合して使用してもよい。なお、ポリオレフィン(D)の層及びEVOH(E)の層を含有する多層構造体は、通常、さらに接着性樹脂の層を有するため、得られるスクラップ及びそれを用いて得られた樹脂組成物は接着性樹脂を含有することとなる。
【0050】
さらに、樹脂組成物(A)の原料とされるスクラップが、回収物層を含有する多層構造体からなるものであってもよい。すなわち、回収物から得られた樹脂組成物からなる回収物層を含有する多層構造体からなる成形品を製造し、その成形品のスクラップ回収物を、再び同様の多層構造体における回収物層の原料として用いてもよい。
【0051】
樹脂組成物(A)が、ポリオレフィン(D)、EVOH(E)、及びS−EVOH(F)以外の成分を含む場合、それらの成分を配合する方法は特に限定されず、上述の(D)〜(F)の各成分と同様の操作で配合することができる。中でも、樹脂組成物(A)がEVAc(G)、脂肪酸金属塩(H)又はハイドロタルサイト(I)を含有する場合、S−EVOH(F)にこれらの成分を加えて回収助剤として用いることが好適である。このような回収助剤の製造方法としては、前述と同様の方法が採用される。
【0052】
樹脂組成物(A)において、ポリオレフィン(D)のマトリックス中に平均粒子径0.1〜1.8μmのEVOH(E)が分散していることが必要である。EVOH(E)の平均粒子径が1.8μmよりも大きい場合、EVOH(E)の分散性が悪く、レトルト処理後のガスバリア性が不良となる。EVOH(E)の平均粒子径は1.7μm以下であることが好適である。一方、EVOH(E)の平均粒子径を0.1μm未満とすることは、必要とされる膨大な労力に見合うだけのガスバリア性の改善効果が望めないため、現実的ではない。
【0053】
樹脂組成物(A)中のEVOH(E)の分散性が良好であると、EVOH(E)の表面積が増加するため、レトルト処理中に樹脂組成物(A)中のEVOH(E)が吸湿しやすくなり、さらにレトルト処理後に樹脂組成物(A)中のEVOH(E)の湿度が低下しやすくなる。
【0054】
本発明の多層構造体は、上記のようにして得られた樹脂組成物(A)の層とEVOH(B)の層とを有し、それらの層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された多層構造体である。このとき、EVOH(B)としては、EVOH(E)と同じものを用いることができる。また、ポリオレフィン(C)としては、ポリオレフィン(D)と同じものを用いることができる。
【0055】
ポリオレフィン(C)の融点は、レトルト処理条件(120℃、0.15MPa、30分)における耐熱性の観点から、120〜220℃であることが好ましい。ポリオレフィン(C)の融点は、122℃以上であることがより好ましく、また、210℃以下であることがより好ましい。
【0056】
本発明の多層構造体の製造方法としては、樹脂層の種類に対応する数の押出機を使用し、それぞれの押出機内で溶融した樹脂の層を重ね合わせて同時押出成形する、いわゆる共押出成形が好適である。別の方法として、押出コーティング、ドライラミネーションなどの成形方法も採用され得る。また、本発明の多層構造体に対して、一軸延伸、二軸延伸、ブロー延伸などの延伸操作を施すことにより、力学的物性、ガスバリア性などが改良された成形物を得ることもできる。
【0057】
本発明の多層構造体は、樹脂組成物(A)の層とEVOH(B)の層とを有し、それらの層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置されている。接着性樹脂を(AD)と表すと、例えば次のような層構成とすることができる。ここで接着性樹脂としては、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂を好適に用いることができる。
6層 C/A/AD/B/AD/C
7層 C/A/AD/B/AD/A/C
8層 C/A/AD/B/AD/B/AD/C
9層 C/A/AD/B/AD/B/AD/A/C
【0058】
中でも、EVOH(B)の層を挟むように樹脂組成物(A)の層が両側に配置され、さらにそれら全ての層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された多層構造体が好ましい。樹脂組成物(A)の層がEVOH(B)の層の両側に配置される場合、樹脂組成物(A)中に分散しているEVOH(E)の粒子が水分を吸収することにより、レトルト処理中のEVOH層(B)の含水率の上昇が抑制される。その結果、レトルト処理中の多層構造体におけるガスバリア性の低下が抑制される。さらにレトルト処理後には、樹脂組成物(A)中の水分の放出が早いために、多層構造体のガスバリア性が迅速に回復する。
【0059】
本発明の多層構造体における樹脂組成物(A)の層の厚みは、50〜1000μmであることが必要である。樹脂組成物(A)の層の厚みが1000μmよりも大きい場合、多層構造体の外観が不良となる。樹脂組成物(A)の層の厚みは950μm以下であることが好適である。一方、樹脂組成物(A)の層の厚みが50μm未満の場合、レトルト処理後のガスバリア性が不良となる。樹脂組成物(A)の層の厚みが100μm以上であることが好適である。
【0060】
本発明の多層構造体における、両側のポリオレフィン(C)の層の厚みは、いずれも50〜1000μmであることが必要である。ポリオレフィン(C)の層の厚みが1000μmよりも大きい場合、経済性の観点からは好ましくない。ポリオレフィン(C)の層の厚みは800μm以下であることが好適である。一方、ポリオレフィン(C)の層の厚みが50μm未満の場合、外観不良が生じる。ポリオレフィン(C)の層の厚みは100μm以上であることが好適である。
【0061】
本発明の多層構造体の全体の厚みが400〜10000μmであることが好適である。多層構造体の全体の厚みが10000μmよりも厚い場合、経済性の観点からは好ましくない。多層構造体の全体の厚みが8000μm以下であることがより好適である。一方、多層構造体の全体の厚みが400μm未満である場合、多層構造体の強度不足により破損する場合がある。多層構造体の全体の厚みが500μm以上であることがより好適である。
【0062】
本発明の多層構造体は、EVOH(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して6〜12%であることが好適である。EVOH(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して12%よりも厚い場合、成形不良が生じる場合がある。EVOH(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して10%以下であることがより好適である。一方、EVOH(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して6%よりも薄い場合、EVOHの厚みムラが大きくなるのでガスバリア性が不良となり易い。EVOH(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して6.5%以上であることがより好適である。
【0063】
本発明の多層構造体からなる成形品の用途は特に限定されないが、容器であることが好適である。容器の形態としては、パウチ、ボトル、カップなどが例示される。本発明の多層構造体からなる容器は高温高湿条件下でも優れたガスバリア性を示すことから、レトルト処理用の容器として特に好適である。レトルト処理としては、100℃以上に加熱して加圧する通常のレトルト処理以外にも、スチームレトルト処理、ウォーターカスケードレトルト処理、マイクロウェーブレトルト処理なども採用される。
【0064】
本発明の多層構造体は、レトルト処理のような高温高湿条件での処理を経た後でも、ガスバリア性が低下しにくい。多層構造体を120℃、0.15MPaで30分間レトルト処理した場合、24時間経過後の酸素透過速度が、0.1〜6cc/m・day・atmであることが好適である。これは、レトルト処理の24時間後に、20℃、相対湿度65%の環境下で測定したときに、1気圧の酸素の差圧がある状態で、面積1mの多層構造体を1日に透過する酸素の体積が、0.1〜6ccであることを意味する。レトルト処理後の、より好適な酸素透過速度は5.5cc/m・day・atm以下である。
【0065】
さらに、上記多層容器は、レトルト処理が必要な食品包装用容器や医薬品包装容器などとして有用である。内容物を充填した包装体も好適な実施様態である。また、殺菌処理や滅菌処理の為に上記包装体をレトルト処理することも好適な実施様態である。
【実施例】
【0066】
本実施例では以下の原料を使用した。なお、以下の製造例、実施例及び比較例において、(部)は特に断わりのない限り質量基準で表したものである。
【0067】
[ポリオレフィン(C)及びポリオレフィン(D)]
PP−1:ポリプロピレン[密度0.90g/cm、メルトインデックス1.4g/10分(ASTM−D1238、230℃、2160g荷重)]、日本ポリプロ株式会社製、「ノバテックPP EA7A」
【0068】
[EVOH(B)及びEVOH(E)]
EVOH−1:エチレン含有量32モル%、けん化度99.7モル%、含水フェノール中30℃における極限粘度1.1dL/g、密度1.15g/cm、メルトインデックス1.6g/10分(ASTM−D1238、230℃、2160g荷重)
【0069】
[S−EVOH(F)]
F−1:エチレン含有量89モル%、けん化度97モル%、メルトインデックス5.1g/10分(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)
【0070】
[EVAc(G)]
G−1:酢酸ビニル含有量19質量%、メルトインデックス2.5g/10分(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)、三井デュポン株式会社製、「エバフレックスEV460」
【0071】
[脂肪酸金属塩(H)]
H−1:ステアリン酸カルシウム
【0072】
[ハイドロタルサイト(I)]
I−1:協和化学工業株式会社製、「ZHT−4A」
【0073】
[その他]
LDPE:密度0.92g/cm、メルトインデックス2.5g/10分(ASTM−D1238、230℃、2160g荷重)、宇部丸善ポリエチレン株式会社製、「F120N」
接着性樹脂:密度0.90g/cm3、メルトインデックス3.2g/10分(ASTM−D1238、230℃、2160g荷重)、三菱化学株式会社製、「モディックAP P604V」
酸化防止剤:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバスペシャリティーケミカルズ社製、「イルガノックス1010」
【0074】
実施例で得られた多層フィルムの、樹脂組成物(A)の層に含まれるEVOH(E)の分散粒子径、レトルト処理前後の酸素透過速度、及び熱成形容器の外観は、それぞれ以下の方法で測定を行った。
【0075】
[樹脂組成物(A)の層に含まれるEVOH(E)の分散粒子径]
多層フィルムを該フィルム面と直角の方向にミクロトームで丁寧に切断し、さらにメスを用いて樹脂組成物(A)層を取り出した。露出した断面に減圧雰囲気下で白金を蒸着した。白金が蒸着された断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍に写真撮影し、この写真中のEVOH(E)の粒子20個程度を含む領域を選択し、該領域中に存在する各々の粒子像の粒径を測定し、その平均値を算出して、これを分散粒子径とした。なお、各々の粒子の粒径については、写真中に観察される粒子の長径(最も長い部分)を測定し、これを粒径とした。上記フィルムの切断は押出方向に垂直に行い、切断面に対して、垂直方向からの写真撮影を行った。
【0076】
[レトルト処理前酸素透過速度(レトルト処理前OTR)]
多層フィルムを20℃、65%RHの室内で1日放置した後、酸素透過速度を測定した。単位をcc/m・day・atmとして計算した。測定条件を以下に示す。
酸素透過量測定装置:MOCON OX−TRAN2/20(モダンコントロール社製)
酸素圧:1気圧
キャリアガス圧力:1気圧
【0077】
[レトルト処理後酸素透過速度(レトルト処理後OTR)]
多層フィルムをレトルト処理装置(日阪製作所製、「フレーバーエース RCS−60」)により、120℃、30分、0.15MPaの条件で熱水式レトルト処理を行った。レトルト処理後、加熱を停止した。レトルト処理装置の内部温度が60℃になった時点で、レトルト処理装置から多層フィルムを取り出した。多層フィルムを20℃、65%RHの室内で1日放置した後、酸素透過速度を測定した。単位をcc/m・day・atmとして計算した。測定条件を以下に示す。
酸素透過量測定装置:MOCON OX−TRAN2/20(モダンコントロール社製)酸素圧:1気圧
キャリアガス圧力:1気圧
【0078】
[熱成形容器の外観]
熱成形容器をランダムに5個用意し、各容器の側面を蛍光灯に透かし、観察して、以下のように目視で評価した。
A:スジが無く、色相が一定。
B:スジがあり、色相ムラがある。
【0079】
[マスターバッチの製造]
以下の方法にしたがって、マスターバッチ(MB1〜MB4)を得た。
【0080】
MB1
S−EVOH(F)としてF−1、EVAc(G)としてG−1、脂肪酸金属塩(H)としてH−1、ハイドロタルサイト(I)としてI−1、及び酸化防止剤を用い、F−1/G−1/H−1/I−1/酸化防止剤=25/67.5/5/2.5/0.2の質量比になるようにドライブレンドで配合した。得られた混合物を30mmφの同方向二軸押出機(日本製鋼所製、TEX−30N)を用いて200℃の押出温度で溶融混練した後ペレット化し、マスターバッチ(MB1)を得た。
【0081】
MB2
S−EVOH(F)としてF−1、EVAc(G)としてG−1、脂肪酸金属塩(H)としてH−1、ハイドロタルサイト(I)としてI−1、酸化防止剤を用い、F−1/G−1/H−1/I−1/酸化防止剤=14.3/78.2/5/2.5/0.2の質量比になるようにドライブレンドで配合した以外はMB1と同様に溶融混練し、マスターバッチ(MB2)を得た。
【0082】
MB3
S−EVOH(F)としてF−1、LDPE、脂肪酸金属塩(H)としてH−1、ハイドロタルサイト(I)としてI−1、酸化防止剤を用い、F−1/LDPE/H−1/I−1/酸化防止剤=25/67.5/5/2.5/0.2の質量比になるようにドライブレンドで配合した以外はMB1と同様に溶融混練し、マスターバッチ(MB3)を得た。
【0083】
MB4
S−EVOH(F)としてF−1、EVAc(G)としてG−1、脂肪酸金属塩(H)としてH−1、ハイドロタルサイト(I)としてI−1、酸化防止剤を用い、F−1/G−1/H−1/I−1/酸化防止剤=5/85.0/5/5/0.2の質量比になるようにドライブレンドで配合した以外はMB1と同様に溶融混練し、マスターバッチ(MB4)を得た。
【0084】
実施例1
[回収物の製造]
最外層にポリオレフィン(D)としてPP−1、最内層にEVOH(E)としてEVOH−1、接着性樹脂層として「モディックAP P604V」を用い、フィードブロックダイにてポリオレフィン層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/ポリオレフィン層=340μm/30μm/60μm/30μm/340μmの3種5層共押出を行い、多層構造体を作成した。フィードブロックへのそれぞれの樹脂の供給は、ポリオレフィン層は32mmφ押出機、接着性樹脂層は25mmφ押出機、EVOH層は20mmφ押出機をそれぞれ使用した。また、押出の温度は各樹脂とも220℃とし、ダイス部及びフィードブロック部の温度も220℃とした。
【0085】
続いて、得られた多層構造体を径8mmφメッシュの粉砕機で粉砕して回収物を得た。得られた回収物の各成分の質量比は、PP−1/EVOH−1/接着性樹脂=83.3/9.4/7.3であった。
【0086】
[多層フィルムの作成]
最外層にポリオレフィン(C)としてPP−1、最外層の隣層に回収物とマスターバッチ(MB1)を回収物/マスターバッチ(MB1)=100/3の質量比でブレンドした樹脂組成物(A)、最内層にEVOH(B)としてEVOH−1、接着性樹脂層として「モディックAP P604V」を用い、フィードブロックダイにてポリオレフィン層/樹脂組成物(A)層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/樹脂組成物(A)層/ポリオレフィン層=120μm/220μm/30μm/60μm/30μm/220μm/120μmの4種7層共押出を行い、多層フィルムを作成した。フィードブロックへのそれぞれの樹脂の供給は、ポリオレフィン層及び樹脂組成物(A)層は32mmφ押出機、接着性樹脂層は25mmφ押出機、EVOH層は20mmφ押出機をそれぞれ使用した。また、押出の温度は各樹脂とも220℃とし、ダイス部及びフィードブロック部の温度も220℃とした。
【0087】
得られた多層フィルムにおいて、樹脂組成物(A)層中のEVOH(E)の粒径を測定した。結果を表2に記載する。
【0088】
得られた多層フィルムを熱成形することにより熱成形容器を得た。成形条件を以下に示す。
熱成形機:真空圧空深絞り成形機FX−0431−3型(浅野製作所製)
圧縮空気圧:気圧5kgf/cm
金型形状(丸カップ形状):上部75mmφ、下部60mmφ、深さ30mm、絞り比S=0.4)
金型温度:70℃
シート温度:130℃
ヒーター温度:400℃
プラグ寸法:45φ×65mm
プラグ温度:120℃
【0089】
得られた熱成形容器の外観を評価し、結果を表2に記載する。
【0090】
実施例2
マスターバッチ(MB1)の替わりにマスターバッチ(MB2)を用いたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0091】
実施例3
実施例1において回収物の製造に用いる多層構造体の層厚みをポリオレフィン層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/ポリオレフィン層=390μm/3.5μm/7μm/3.5μm/390μmとしたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て、評価した。なお、回収物の各成分の質量比は、PP−1/EVOH−1/接着性樹脂=98.0/1.1/0.9であった。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0092】
実施例4
実施例1において多層フィルムの層厚みを、ポリオレフィン層/樹脂組成物(A)層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/樹脂組成物(A)層/ポリオレフィン層=220μm/120μm/30μm/60μm/30μm/120μm/220μmとしたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0093】
実施例5
マスターバッチ(MB1)の替わりにマスターバッチ(MB3)を用いたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0094】
比較例1
マスターバッチ(MB1)の替わりにマスターバッチ(MB4)を用いたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0095】
比較例2
実施例1において回収物の製造に用いる多層構造体の層厚みをポリオレフィン層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/ポリオレフィン層=200μm/20μm/120μm/20μm/200μmとしたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。なお、回収物の各成分の質量比は、PP−1/EVOH−1/接着性樹脂=67.4/25.8/6.7であった。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0096】
比較例3
実施例1において多層フィルムの層厚みをポリオレフィン層/樹脂組成物(A)層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/樹脂組成物(A)層/ポリオレフィン層=320μm/20μm/30μm/60μm/30μm/20μm/320μmとしたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0097】
比較例4
実施例1において多層フィルムの層厚みをポリオレフィン層/樹脂組成物(A)層/接着性樹脂層/EVOH層/接着性樹脂層/樹脂組成物(A)層/ポリオレフィン層=20μm/320μm/30μm/60μm/30μm/320μm/20μmとしたこと以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成し、熱成形容器を得て評価した。層構成を表1に示し、樹脂組成物(A)の組成及び多層構造体の評価結果を表2にまとめて示す。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
表2の結果から、EVOH(E)とS−EVOH(F)の質量比(E/F)、EVOH(E)の分散粒子径、樹脂組成物(A)の層の厚み及びポリオレフィン(C)の層の厚みがいずれも本願請求項の範囲内にある実施例1〜5の多層構造体は、レトルト処理前OTR、レトルト処理後OTR及び外観のいずれにも優れていることが分かる。
【0101】
EVOH(E)とS−EVOH(F)の質量比(E/F)が高く、EVOH(E)の分散粒子径が大きい比較例1及び2はレトルト処理後OTRが不良となった。樹脂組成物(A)の層が薄い比較例3はレトルト処理後OTRが不良となり、ポリオレフィン(C)の層が薄い比較例4は外観が不良となった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物(A)の層とエチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層とを有し、それらの層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された多層構造体であって;
樹脂組成物(A)が、ポリオレフィン(D)、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のけん化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)、及びエチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のけん化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)を含有し、
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)の質量比(E/F)が0.05〜30であり、
ポリオレフィン(D)のマトリックス中に平均粒子径0.1〜1.8μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)が分散しており、
樹脂組成物(A)の層の厚みが50〜1000μmであり、かつ
両側のポリオレフィン(C)の層の厚みがいずれも50〜1000μmであることを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
樹脂組成物(A)が、さらにエチレン−酢酸ビニル共重合体(G)を含有し、エチレン−酢酸ビニル共重合体(G)とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)の質量比(G/F)が0.1〜15である請求項1記載の多層構造体。
【請求項3】
樹脂組成物(A)が、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)を2〜15質量%含有する請求項1又は2記載の多層構造体。
【請求項4】
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層を挟むように樹脂組成物(A)の層が両側に配置され、さらにそれら全ての層を挟むようにポリオレフィン(C)の層が両側に配置された請求項1〜3のいずれか記載の多層構造体。
【請求項5】
エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)の層の厚みが、多層構造体全体の厚みに対して6〜12%である請求項1〜4のいずれか記載の多層構造体。
【請求項6】
多層構造体の全体の厚みが400〜10000μmである請求項1〜5のいずれか記載の多層構造体。
【請求項7】
ポリオレフィン(C)の融点が120〜220℃である請求項1〜6のいずれか記載の多層構造体。
【請求項8】
120℃、0.15MPaで30分間レトルト処理してから24時間経過後の酸素透過速度が、0.1〜6cc/m・day・atmである請求項1〜7のいずれか記載の多層構造体。
【請求項9】
ポリオレフィン(D)の層とエチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(E)の層を有する多層構造体のスクラップと、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(F)とを溶融混練して得られた樹脂組成物(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物(B)、及び
ポリオレフィン(C)を用いて溶融成形することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の多層構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載の多層構造体からなる多層容器。
【請求項11】
レトルト処理用である請求項10記載の多層容器。
【請求項12】
請求項10記載の多層容器に内容物が充填された包装体。
【請求項13】
レトルト処理された包装体である請求項12記載の包装体。


【公開番号】特開2010−208331(P2010−208331A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−81342(P2010−81342)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】