説明

多層構造体

【課題】間接着性が向上し、層間の耐剥離性に優れた多層構造体を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を有するジカルボン酸成分単位と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分単位からなり、上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が全ジカルボン酸成分の2モル%以上15モル%未満であるポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分として含有する層(A)と、上記層(A)に隣接して、ある特定式で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、さらにアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を、上記ポリビニルアルコール系樹脂の全構造単位に対して、0.03〜1モル%含有する層(B)とが積層されてなる層構造を有する多層構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする層と、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする層とを有する多層構造体であって、これらの層間接着性に優れる多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリビニルアルコール系樹脂は、その透明性、バリア性等に優れており、このような特性を生かし、フィルムやシート等に成形して、各種包装材料に用いられている。さらに、高度なガスバリア性を要求されるボトルなどの容器に対し、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の間に、ポリビニルアルコール系樹脂層を有する多層構造の容器が従来から用いられている。
【0003】
上記のような多層構造の容器は、ポリビニルアルコール系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート系樹脂の共溶融押出により得られる。
【0004】
しかしながら、上記ポリビニルアルコール系樹脂は、融点と分解点が近接しているため、例えば、溶融成形にて成形物を得ようとすると、異物や焦げの発生等により、得られる成形物の外観性に劣ることから、これらを解決する目的で、例えば、重合度200〜1200、ケン化度75〜99.99モル%および融点160〜230℃の、末端カルボキシル基および末端ラクトン環の合計量が0.008〜0.15モル%のポリビニルアルコールおよびアルカリ金属塩からなる溶融成形用ポリビニルアルコール系樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたポリビニルアルコール系樹脂組成物では、完全ケン化物の融点が200〜230℃程度と依然として融点が高く上記問題を解決するには未だ不充分であった。そこで、このような問題を解決すべく、側鎖に1,2−グリコール結合を2〜10モル%含有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−178396号公報
【特許文献2】特開2004−75866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2においては、確かに、可塑剤を含むことなく、融点を低くすることが可能となり、比較的低温の溶融成形温度条件においても外観の良好な成形物を得ることが可能となった。しかしながら、上記ポリビニルアルコール系樹脂と、その両面にポリエステル系樹脂を溶融押出することにより得られる成形物において、層間接着性という点に関しては改善の余地があり、層間の耐剥離性に関してさらなる向上が望まれている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ポリエチレンテレフタレート系樹脂とポリビニルアルコール系樹脂の層間接着性に優れた多層構造体の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の多層構造体は、テレフタル酸を有するジカルボン酸成分単位と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分単位からなり、上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が全ジカルボン酸成分の2モル%以上15モル%未満であるポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分として含有する層(A)と、上記層(A)に隣接して、下記の一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、さらにアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を、上記ポリビニルアルコール系樹脂の全構造単位に対して、0.03〜1モル%含有する層(B)とが積層されてなる層構造を有するという構成をとる。
【化1】

【0010】
すなわち、本発明者らは、上記事情に鑑み、ポリエチレンテレフタレート系樹脂層とポリビニルアルコール系樹脂層との層間接着性を向上させるため、一連の研究を行った。その過程で、両者の収縮率を近づけ、その収縮率の差を減少させることを想起し、この着想に基づきさらに研究を重ねた。そして、この研究から、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を、またジオール成分としてエチレングリコールを主成分とするポリエチレンテレフタレート系樹脂として、上記ジカルボン酸成分としてテレフタル酸以外のジカルボン酸成分を用い、一方で、前記一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることによって、ポリエチレンテレフタレート系樹脂およびポリビニルアルコール系樹脂ともその結晶性を乱し低下させることにより、収縮が生じ難くなり両層の収縮率の差を縮めることが可能となって、結果、層間接着性の向上を図ることが可能となることを突き止めた。しかしながら、一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いるとともに上記テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を単に用いるだけでは不充分であることから、このテレフタル酸以外のジカルボン酸成分の共重合割合、さらに上記ポリビニルアルコール系樹脂を用いて形成される層の形成材料についてさらに鋭意検討を行った。その結果、テレフタル酸以外のジカルボン酸を、全ジカルボン酸成分中2モル%以上15モル%未満の範囲で用いるとともに、上記ポリビニルアルコール系樹脂にアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を0.03〜1モル%の範囲で配合し用いることにより、上記金属塩がポリエチレンテレフタレート樹脂中のカルボキシル基とポリビニルアルコール系樹脂中の水酸基のエステル化反応において触媒作用を奏することから両者の反応性が向上し、結果、両層の接着性が向上することとなり、耐剥離性に優れる多層構造体が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明は、ジテレフタル酸を有するジカルボン酸成分単位と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分単位からなり、上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が全ジカルボン酸成分の2モル%以上15モル%未満である共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分として含有する層(A)と、上記層(A)に隣接して、上記の一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、さらにアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を、上記ポリビニルアルコール系樹脂の全構造単位に対して、0.03〜1モル%含有する層(B)とが積層されてなる層構造を有する多層構造体である。このため、これを用いてなる層(A)および層(B)の接着性が向上し、結果、層間剥離が生起しにくく、この層構造を有する多層構造体の耐剥離性に優れるようになる。
【0012】
そして、上記テレフタル酸以外のジカルボン酸がイソフタル酸であると、より一層の層間接着性の向上効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0014】
本発明の多層構造体は、特定のポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略す場合がある)系樹脂を主成分として含有する層(A)と、この層(A)に隣接して、特定の構造単位を有するポリビニルアルコール(以下「PVA」と略す場合がある)系樹脂を主成分とし、これにアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を含有する層(B)が積層されてなる多層構造体である。なお、本発明において、主成分とは全体の過半を占める成分のことをいう。また、本発明の多層構造体は、少なくとも上記2層構造を隣接して有する構造であればよく、他の層を設ける等、他の構造・形状とすることができる。
【0015】
まず、特定のPET系樹脂を主成分として含有する層(A)について説明する。
<特定のPET系樹脂を主成分として含有する層(A)>
本発明に係る層(A)は、特定のPET系樹脂を主成分として含有する形成材料を用い、これを、例えば、溶融成形することにより得られる。
【0016】
上記特定のPET系樹脂は、テレフタル酸を有するジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分との重縮合物であり、上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が全ジカルボン酸成分の2モル%以上15モル%未満の範囲に設定されていることを特徴の一つとする。好ましくは、上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が全ジカルボン酸成分の2〜12モル%の範囲であり、特に好ましくは5〜12モル%の範囲である。上記範囲を外れ、テレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が少な過ぎると、PET系樹脂の結晶性に乱れが生じることによる層間接着性の向上効果が得られず、テレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が多過ぎると、特定のPET系樹脂を主成分とする層(A)の形成が困難となる。
【0017】
上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ジフェニル−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸およびこれらのエステル形成性誘導体の他、トリメリット酸、ピロメリット酸等があげられる。これらは単独、もしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、加工性,強度,コスト等を考慮した場合、イソフタル酸が好ましく用いられる。
【0018】
上記ジオール成分としてはエチレングリコールが主成分として用いられ、このエチレングリコールのみでジオール成分が構成されていてもよく、また、エチレングリコールとともに、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ボリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール、さらにグリセリン、1,3−プロパンジオール、ペンタエリスリトール等があげられる。これらは単独、もしくは2種以上併せて用いられる。なお、ジエチレングリコールはエチレングリコールの製造時に副生反応によって生成するため、通常、エチレングリコール中に少量含有されている。かかるジオール成分としては、耐熱性の観点から、少量の副生ジエチレングリコール以外は、エチレングリコールのみでジオール成分を構成されていることが好ましい。
【0019】
上記特定のPET系樹脂は、基本的には、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とによるポリエステル樹脂の慣用の製造方法により製造される。
【0020】
すなわち、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とをエステル化反応槽でエステル化し、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に移送し重縮合させる直接重合法、テレフタル酸のエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とをエステル交換反応槽でエステル交換反応し、得られたエステル交換反応生成物を重縮合反応槽に移送し重縮合させるエステル交換法がある。これらの反応は回分式でも連続式でも行える。また、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分はエステル化反応、またはエステル交換反応終了までの任意の時点で添加することができるが、エチレングリコールとのスラリーとして添加するのが操作上好ましい。
【0021】
また、通常、重縮合反応により得られた樹脂は、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。更に、この重縮合後のペレットを加熱処理して固相重合させることにより、更に高重合度化させ得ると共に、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
【0022】
なお、前記製造方法において、エステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化二アンチモンや、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の有機酸塩、アルコラート等のエステル化触媒を使用して、200〜270℃程度の温度、1×105〜4×105Pa程度の圧力下でなされ、エステル交換反応は、必要に応じて、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の有機酸塩等のエステル交換触媒を使用して、200〜270℃程度の温度、1×105〜4×105Pa程度の圧力下でなされる。
【0023】
また、重縮合反応は、例えば、安定剤として正燐酸、亜燐酸、及びこれらのエステルなどの燐化合物を使用し、例えば、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、或いは、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン、コバルト、アルカリ土類金属等の有機酸塩、アルコラート等の重縮合触媒を使用して、240〜290℃程度の温度、1×102〜2×103Pa程度の減圧下でなされる。
【0024】
また、上記特定のPET系樹脂は、前記の重縮合反応に続いて固相重合を行うこともでき、120〜200℃程度の温度で1分間以上加熱する等して予備結晶化がなされた後、180〜融点マイナス5℃程度の温度、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下、または/及び、1×102〜2×103Pa程度の減圧下でなされる。
【0025】
上記特定のPET系樹脂を主成分として含有する層(A)形成材料には、上記特定のPET系樹脂以外に、必要に応じて、例えば、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、浸透剤、染料、顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤等の添加剤を適宜配合することができる。
各成分の配合方法としては、例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー等を使用する方法、フィーダーにより定量的に押出し機ホッパーに供給して混合する方法などがあげられる。混練方法としては、一軸押出し機、二軸押出し機などを使用する方法があげられる。
【0026】
つぎに、上記特定のPET系樹脂を主成分として含有する層(A)の特性について、説明する。
<特定のPET系樹脂を主成分として含有する層(A)の特性>
上記層(A)の厚みは、特に制限されるものではないが、通常、0.1〜800μm、特には0.1〜500μm、さらには0.1〜300μmであることが好ましい。層(A)の厚みが厚すぎると多層構造体の柔軟性が低下する傾向がみられ、逆に、厚みが薄すぎると、強度に劣り、各種成形体としての形状を保持することが困難となる傾向がみられるからである。
【0027】
つぎに、PVA系樹脂を主成分として含有する層(B)について説明する。
<PVA系樹脂を主成分として含有する層(B)>
本発明に係るPVA系樹脂を主成分として含有する層(B)は、下記の一般式(1)で表される構造単位を有する特定のPVA系樹脂を主成分とし、これにアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を特定の割合で含有する形成材料を用い、例えば、溶融成形することにより得られる。
【0028】
【化2】

【0029】
上記特定のPVA系樹脂は、上記のように、一般式(1)で表される構造単位、すなわち1,2−ジオール構造単位を有することを特徴とする。それ以外の構造部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と、酢酸ビニル構造単位からなるものであり、その割合はケン化の度合いによって適宜調整される。
【0030】
まず、上記一般式(1)で表される構造単位について説明する。上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位において、式(1)中のR1〜R3およびR4〜R6は、水素原子または一価の有機基であり、これらは互いに同じであっても異なっていてもよい。なかでも、R1〜R3およびR4〜R6が全て水素原子であることが、製造段階におけるモノマーの共重合反応性および工業的な取り扱い性の点から好ましい。ただし、樹脂特性を大幅に損なわない範囲内であれば、R1〜R3およびR4〜R6の少なくとも一部が有機基であっても差し支えない。上記有機基としては、特に限定するものではなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素1〜4のアルキル基が好ましく、さらに必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0031】
また、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位において、式(1)中のXは、熱安定性に優れる点、過度にPVAの結晶性を低下させない点、溶融流動性を阻害しない点等から、好ましくは単結合である。ここでXが単結合とは、X自身が結合手であることをいう。
【0032】
なお、上記Xは、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば各種結合鎖であってもよい。上記結合鎖としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素基(これら炭化水素基はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等があげられる。
【0033】
上記各結合鎖において、Rは任意の置換基であって、例えば、水素原子,アルキル基があげられ、これらは互いに同じであっても異なっていてもよく、また繰り返し数mは自然数である。そして、上記結合鎖のなかでも、製造時あるいは使用時の安定性の点から、炭素数6以下のアルキレン基、−CH2OCH2−が好ましい。
【0034】
したがって、本発明では、上記特定のPVA系樹脂においては、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位として、下記の式(1a)で表される1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0035】
【化3】

【0036】
本発明に用いられる上記特定のPVA系樹脂の製法は、例えば、(α)酢酸ビニルと3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、特に3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(β)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(γ)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール化する方法、(δ)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法等の製造方法により製造することができる。なかでも、重合が良好に進行し、1,2−ジオール構造単位をPVA系樹脂中に均一に導入しやすいという製造時の利点、さらには最終的なPVA系樹脂の特性から、上記製造方法(α)を採用することが好ましい。
【0037】
このようにして得られる特定のPVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常200〜2000、特には250〜1000、さらには300〜600であることが好ましい。すなわち、平均重合度が低すぎるとPVA系樹脂層が脆くなる傾向がみられる。逆に、高すぎると、例えば、溶融成形による層形成において流動性が低く、所望の厚みの層形成が困難となる傾向がみられるからである。
【0038】
また、特定のPVA系樹脂のケン化度は、通常80〜100モル%、特には85〜99.9モル%、さらには88〜99.9モル%であることが好ましい。すなわち、ケン化度が低すぎると、ロングラン性(溶融成形等の長時間安定操縦性)が低下したり、酢酸臭が発生したりする傾向がみられるからである。本発明におけるケン化度とは、ビニルエステル系モノマーのエステル部分等の水酸基への変化率(モル%)で表示される。
【0039】
上記特定のPVA系樹脂のケン化は、例えば、つぎのようにして行うことができる。通常は、PVA系樹脂をアルコール系溶媒に溶解させたのち、アルカリ触媒または酸触媒の存在下でケン化することが行われる。
【0040】
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールや、メタノールと酢酸メチルの混合溶媒等の各種アルコールと酢酸メチルの混合溶媒等を使用することができる。アルコール系溶媒中のPVA系樹脂の濃度は10〜60重量%の範囲から選ばれることが好ましい。
【0041】
上記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートのようなアルカリ触媒を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p−トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができる。アルカリ触媒の使用量は、PVA系樹脂中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して1〜100ミリモル、特には1〜40ミリモル、さらには1〜20ミリモルであることが好ましい。アルカリ触媒の使用量が少なすぎると、目的とするケン化度までケン化度を上げることが困難となる傾向にあり、逆に、アルカリ触媒の使用量が多すぎると、目的とするケン化度よりも高くなり過ぎる傾向となり制御が困難になるため好ましくない。また、ケン化を行うときの温度は、例えば、通常10〜70℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
【0042】
さらに、特定のPVA系樹脂に導入される1,2−ジオール結合量、すなわち、前記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量(変性度)としては、例えば、通常0.1〜12モル%、特には1〜10モル%、さらには3〜8モル%であることが好ましい。すなわち、含有量(変性度)が少なすぎると、融点が高くなり、成形性が低下したりする傾向がみられる。また、含有量(変性度)が多すぎると、製造時に重合度が上がりにくくなり、生産性が低下する傾向がみられる。
【0043】
層(B)形成材料に用いられるPVA系樹脂としては、上記特定のPVA系樹脂を単独で用いてもよいが、各種特性、特に熱溶融成形性を阻害しない範囲で、他のPVA系樹脂を併用してもよい。
【0044】
上記他のPVA系樹脂としては、例えば、未変性PVA系樹脂(重合度300〜500、ケン化度80モル%以上)、カルボン酸変性PVA系樹脂、アセタール変性PVA系樹脂、アミド変性PVA系樹脂、ビニルエーテル変性PVA系樹脂、エチレン等のα−オレフィン変性PVA系樹脂、ビニルエステル変性PVA系樹脂、アミン変性PVA系樹脂、オキシアルキレン変性PVA系樹脂等があげられる。これらは必要に応じて適宜配合され、例えば、PVA系樹脂全体に対し0〜40重量%であることが好ましい。
【0045】
そして、層(B)形成材料として、上記一般式(1)で表される構造単位を有する特定のPVA系樹脂とともに、アルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩をそれぞれ単独でもしくは併せて用いられる。これら金属塩は、先に述べたように、上記PET樹脂中のジカルボン酸成分におけるカルボキシル基と、上記特定のPVA系樹脂中の水酸基とのエステル化反応に対する触媒作用を奏するものである。
【0046】
上記アルカリ金属塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム等の酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の金属塩があげられる。また、上記アルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等の酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の金属塩があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、配合量に対する効果の大きさという点から、アルカリ金属塩として酢酸ナトリウムを、アルカリ土類金属として酢酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムを単独でもしくは併せて用いることが好ましい。
【0047】
上記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方の配合量としては、PVA系樹脂の全構造単位に対して、通常0.03〜1モル%、特に0.05〜0.8モル%、さらに0.08〜0.5モル%に設定することが好ましい。すなわち、上記金属塩が少な過ぎると、層間接着性のより一層の向上効果が得られ難く、逆に多過ぎると、樹脂が着色したり、熱分解による発泡によって多層構造体の外観を悪化させる傾向がみられるからである。
【0048】
さらに、層(B)形成材料には、上記特定のPVA系樹脂および金属塩以外に、他の成分として、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール類、およびそのエチレンオキサイド付加体、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等の糖アルコール類等の可塑剤、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪族アミド化合物、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪族アミド化合物、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪族金属塩、分子量が500〜10000程度の低分子量エチレン、低分子量プロピレン等の低分子量ポリオレフィン等の滑材、およびホウ酸、リン酸等の無機酸、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0049】
つぎに、上記PVA系樹脂を主成分として含有する層(B)の特性について、説明する。
<PVA系樹脂を主成分として含有する層(B)の特性>
上記PVA系樹脂を主成分として含有する層(B)の厚みは、通常0.1〜500μm、特には0.3〜300μm、さらには0.5〜100μmであることが好ましい。すなわち、層(B)の厚みが厚すぎると、多層構造体の剛性が高くなりすぎて柔軟性を欠き、衝撃に対する耐性が低下する傾向がみられ、逆に、厚みが薄すぎると、充分なバリア性能を発揮することができなくなる傾向がみられるからである。
【0050】
上記層(A)形成材料および層(B)形成材料を用いてなる本発明の多層構造体について説明する。
【0051】
<多層構造体について>
本発明の多層構造体は、特定のPET系樹脂を主成分として含有する層(A)と、この層(A)に隣接して、特定の構造単位を有するPVA系樹脂を主成分として含有する層(B)が積層された構造を備えたものであればよく、例えば、各種成形品形成材料としての用途を考慮した場合、層(A)/層(B)/層(A)の3層構造、さらには、層(A)/層(B)/層(A)/層(B)/層(A)、層(A)/層(B)/層(A)/層(B)/層(A)/層(B)/層(A)等、層(A)と層(B)とを順次積層した層構成が好ましい。なかでも、バリア性等を必要とする用途に供する場合、多層構造体の両端表層部分は層(A)が形成されていることが好ましい。
【0052】
上記層(A)と層(B)の厚み比[層(A)/層(B)]は、通常、30/70〜95/5、特には40/60〜90/10、さらには50/50〜80/20であることが好ましい。すなわち、層(B)に比べ、層(A)が薄すぎると、得られる多層構造体に関しての強度が不足する傾向がみられるからである。
【0053】
さらに、本発明の多層構造体の積層構造としては、層(A)および層(B)だけでなく、目的,用途等に応じて層(A)および層(B)以外の他の層が積層されていてもよい。上記他の層としては、例えば、各種熱可塑性樹脂からなる織布、ネット、金網、紙等からなる層があげられる。
【0054】
<多層構造体の製造法>
つぎに、本発明の多層構造体の製造方法について説明する。
本発明の多層構造体の製造方法としては、層(A)および層(B)の各成形材料を準備、溶融成形により共押出する方法、または共射出する方法があげられる。特に、多層フィルム、多層シートの製造法としては共押出法が好適であり、具体的には、マルチマニーホールドダイ法、フィードプロック法、マルチスロットダイ法、ダイ外接着法などの公知の方法を採用することができる。かかる共押出法におけるダイスの形状としては、Tダイス、丸ダイスなどを使用することができる。
【0055】
また、ボトルやカップ、トレイ等の製造方法としては共射出法が好ましく用いられ、特にボトルの製造法としては、共射出二軸延伸ブロー成形法が、生産性の観点から好ましい。
以下、かかる方法について詳細に説明する。
【0056】
共射出二軸延伸ブロー成形法においては、まず、少なくとも層(A)/層(B)/層(A)の3層構造、すなわち、特定のPVA系樹脂を主成分として含有する層(B)を中間層とし、その両側に特定のPET系樹脂を主成分とする層(A)を配設してなる、3層構造体のパリソン(容器前駆体あるいはプリフォームともいう)を共射出成形により作製する。ついで、このパリソンを加熱してブロー金型内で一定温度に保ちながら縦方向に機械的に延伸し、同時あるいは逐次に加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませる。
【0057】
まず、上記多層構造を有するパリソンの作製に関しては、通常は、2台の射出シリンダーと多層マニホールドシステムを有する射出成形機を用い、単一の金型内に、溶融した層(A)形成材料および層(B)形成材料をそれぞれの射出シリンダーより、多層マニホールドシステムを通して同時あるいは時間をずらして射出することにより得られる。
【0058】
例えば、先に両外層用の層(A)形成材料を射出し、ついで中間層となる層(B)形成材料を射出して、所定量の層(B)形成材料を射出後、さらに層(A)形成材料の射出を継続することにより、層(A)/層(B)/層(A)の3層構造からなり、中間の層(B)が両側の層(A)に封入された有底パリソンが得られる。
【0059】
上記パリソンの射出成形条件としては、層(B)形成材料の射出成形温度は、通常、150〜300℃、さらには160〜270℃、特には170〜230℃が好ましい。すなわち、上記射出成形温度が低過ぎると、層(B)形成材料の溶融が不充分となることがあり、逆に高過ぎると、層(B)形成材料の熱分解により得られる二軸延伸ブローボトルの外観性が悪化したり臭気が著しくなったりする傾向がみられるからである。
【0060】
一方、層(A)形成材料の射出成形温度は、通常、230〜350℃、さらには250〜330℃、特には270〜310℃が好ましい。すなわち、上記射出成形温度が低過ぎると、層(A)形成材料の溶融が不充分となることがあり、逆に高過ぎると、層(A)形成材料の熱分解により得られる二軸延伸ブローボトルの外観性が悪化したり臭気が著しくなったりする傾向がみられるからである。
【0061】
さらに、層(A)形成材料および層(B)形成材料が合流する多層マニホールド部の温度は、通常、230〜350℃、さらには250〜330℃、特には270〜310℃が好ましい。すなわち、上記温度が低過ぎると、層(A)形成材料の溶融が不充分となることがあり、逆に高過ぎると、層(A)形成材料および層(B)形成材料の熱分解により得られる二軸延伸ブローボトルの外観性が悪化したり臭気が著しくなったりする傾向がみられるからである。
【0062】
また、層(A)形成材料および層(B)形成材料が流入する金型の温度は、通常、0〜80℃、さらには5〜60℃、特には10〜30℃が好ましい。すなわち、上記温度が低過ぎると、金型が結露することがあり得られるパリソンや二軸延伸ブローボトルの外観性が低下する傾向がみられ、逆に高過ぎると、得られるパリソンのブロー成形性が低下したり得られる二軸延伸ブローボトルの透明性が低下したりする傾向がみられるからである。
【0063】
このようにして、多層構造を有するパリソンが得られるのであるが、つぎに、上記パリソンを直接そのまま、あるいは再加熱してブロー金型内で一定温度に保ちながら縦方向に機械的に延伸し、同時あるいは逐次に加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませることにより、目的とする二軸延伸ブローボトルが得られる。
【0064】
そして、射出成形されたパリソンをすぐに温かい状態のまま再加熱工程に送りブロー成形する方式(ホットパリソン法)、射出成形されたパリソンを室温状態で一定時間保管してから再加熱工程に送りブロー成形する方式(コールドパリソン法)があげられ、目的に応じて両者共に採用されるものであるが、一般的には、生産性に優れるという点から、上記コールドパリソン法が好ましく採用される。
【0065】
上記パリソンを再加熱する方法としては、例えば、赤外線ヒーターやブロックヒーター等の発熱体を用いて加熱する方法があげられる。加熱されたパリソンの温度は、通常、80〜140℃、さらには85〜130℃、特には90〜120℃が好ましい。すなわち、上記温度が低過ぎると、延伸の均一性が不充分となり得られる多層容器の形状や厚みが不均一となる傾向がみられ、逆に温度が高過ぎると、層(A)形成材料の結晶化が促進され、得られる多層容器が白化する傾向がみられるからである。
【0066】
ついで、再加熱されたパリソンを用いて、二軸延伸することにより目的とする二軸延伸ブローボトルが得られる。一般的には、縦方向に1〜7倍程度、プラグやロッド等により機械的に延伸された後、圧空力により横方向に1〜7倍程度延伸されることにより、目的とする二軸延伸ブローボトルが得られるのである。上記縦方向の延伸と横方向の延伸は、同時に行うこともできるし逐次に行うこともできる。また、縦方向の延伸時に圧空力を併用することも可能である。
【0067】
本発明の多層構造体は、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料、各種容器形成材料の用途に好適である。特に、その特性を生かした容器形成材料に好適に用いられる。さらに、本発明の多層構造体のPVA系樹脂を主成分として含有する層(B)に用いられるPVA系樹脂は水溶性に優れることから、かかる多層構造体を裁断、水洗することでPET系樹脂のみを容易に回収することが可能であり、リサイクル性に優れている。
【実施例】
【0068】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0069】
<材料の調製>
<層(A)形成材料>
上記特定のPET系樹脂の製造方法および各物性の測定方法および評価は、下記の方法に従った。
【0070】
(1)固有粘度(IV)
PET系樹脂試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却、保持し、全自動溶液粘度計(中央理化社製「2CH型DT504」)にて、試料溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、下式(2)により算出した。
IV=((1+4KH・ηsp)0.5−1)/(2KH・C) ・・・(2)
ここで、ηsp=η/η0−1であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。なお試料の溶解条件は、110℃で30分間であった。
【0071】
(2)末端カルボキシル基濃度(AV)
PET系樹脂試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mLを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mLを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、PET系樹脂試料を使用せずに同様の操作を実施し、以下の式により算出した。
AV(当量/トン)=(A−B)×0.1×f/W
〔ここで、Aは、滴定に要した0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Bは、ブランクでの滴定に要した0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Wは、PET系樹脂試料の量(g)、fは、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。〕
なお、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は、試験管にメタノール5mLを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜2滴加え、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mLで変色点まで滴定し、次いで、力価既知の0.1規定の塩酸水溶液を標準液として0.2mL採取して加え、再度、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定した。(以上の操作は、乾燥窒素ガスを吹き込みながら行った。)
以下の式により力価(f)を算出した。
力価(f)=0.1規定の塩酸水溶液の力価×0.1規定の塩酸水溶液の採取量(μL)/0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μL)
【0072】
(1)PET系樹脂(IG226S)の製造
テレフタル酸とイソフタル酸からなり、イソフタル酸の共重合割合がジカルボン酸成分全体の12.0モル%であるジカルボン酸成分と、エチレングリコールからなるジオール成分によるPET樹脂をつぎのようにして製造した。
テレフタル酸ジメチルエステル(以下「DMT」と略記する場合がある)43.8kgとイソフタル酸ジメチルエステル(以下「DMI」と略記する場合がある)6.0kg、酸成分に対しジオール成分のモル比が2.2となるようにエチレングリコール(以下「EG」と略記する場合がある)35.4kgとを撹拌機および留出管を備えたステンレス製オートクレーブに仕込み、得られるポリエステルに対して300重量ppmとなる酢酸カルシウムを加え、250℃、絶対圧力で101kPaの条件下で副生するメタノールを除去しつつ、5時間エステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、得られるポリエステルに対して150重量ppmの二酸化ゲルマニウム触媒と240重量ppmのリン酸トリエチルをそれぞれエチレングリコール溶液として加え、280℃、66Paの減圧下にて8時間溶融重縮合反応を行った後ストランド状に抜きだし水冷しつつカッティングしてペレットとした。得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットを窒素雰囲気下、100℃で8時間予備結晶化させた後、イナートオーブン(TABAI ESPEC社製INERT OVEN IPHH201)中窒素流通下195℃で12時間固相重縮合を行い、AV値24当量/トン、固有粘度0.82のPET系樹脂(IG226S)を得た。
【0073】
(2)PET樹脂(BK−6180)の製造
テレフタル酸とイソフタル酸からなり、イソフタル酸の共重合割合がジカルボン酸成分全体の2.0モル%であるジカルボン酸成分と、エチレングリコールからなるジオール成分によるPET樹脂をつぎのようにして製造した。
【0074】
DMT:48.8kgとDMI:1.0kg、酸成分に対しジオール成分のモル比が2.2となるようにEG:33.1kgとを撹拌機および留出管を備えたステンレス製オートクレーブに仕込み、得られるポリエステルに対して300重量ppmとなる酢酸カルシウムを加え、250℃、絶対圧力で101kPaの条件下で副生するメタノールを除去しつつ、5時間エステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、得られるポリエステルに対して150重量ppmの二酸化ゲルマニウム触媒と240重量ppmのリン酸トリエチルをそれぞれエチレングリコール溶液として加え、280℃、66Paの減圧下にて8時間溶融重縮合反応を行った後、ストランド状に抜きだし水冷しつつカッティングしてペレットとした。得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットを窒素雰囲気下、100℃で8時間予備結晶化させた後、イナートオーブン(TABAI ESPEC社製INERT OVEN IPHH201)中窒素流通下215℃で20時間固相重縮合を行い、AV値8当量/トン、固有粘度0.83のPET系樹脂(BK6180)を得た。
【0075】
(3)PET樹脂(GG500)の製造
テレフタル酸のみからなるジカルボン酸成分と、エチレングリコールからなるジオール成分によるPET樹脂をつぎのようにして製造した。
【0076】
DMT:49.8kgと、酸成分に対しジオール成分のモル比が2.2となるようにEG:33.1kgとを撹拌機および留出管を備えたステンレス製オートクレーブに仕込み、得られるポリエステルに対して300重量ppmとなる酢酸カルシウムを加え、250℃、絶対圧力で101kPaの条件下で副生するメタノールを除去しつつ、5時間エステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、得られるポリエステルに対して150重量ppmの二酸化ゲルマニウム触媒と240重量ppmのリン酸トリエチルをそれぞれエチレングリコール溶液として加え、280℃、66Paの減圧下にて6時間溶融重縮合反応を行った後ストランド状に抜きだし水冷しつつカッティングしてペレットとした。得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットを窒素雰囲気下、100℃で8時間予備結晶化させた後、イナートオーブン(TABAI ESPEC社製INERT OVEN IPHH201)中窒素流通下215℃で10時間固相重縮合を行い、AV値10当量/トン、固有粘度0.77のPET系樹脂(GG500)を得た。
【0077】
<層(B)形成材料>
(1)PVA系樹脂(B1)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル321.4g、メタノール241.1g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン38.6を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(半減期102分)の4%メタノール溶液37.8gを610分かけて添加して重合を行った。また、重合開始から35分経過した時点で酢酸ビニル571.4g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン68.6gを480分かけて添加し、さらに105分重合を行った。酢酸ビニルの重合率が89.5%となった時点で、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール38ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合物のメタノール溶液を得た。
【0078】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して共重合物の濃度66%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合物中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が粒子状に析出してスラリーとなった後、添加水酸化ナトリウム量に対して酢酸を1当量となるように加えて、さらにスラリー中の樹脂濃度が9%となるようにメタノールを添加して、15分間ニーダー内で撹拌し、濾別して、再度メタノール中で分散撹拌した後濾別して、熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
【0079】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニル及び残存3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、98.7モル%であり、平均重合度はJIS K6726に準じて分析を行ったところ450であった。また、1,2−ジオール構造を含有する側鎖の導入量は、1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)で測定して算出したところ6モル%であった。また、ケン化反応の副生物であり、メタノールによる洗浄で除去されなかった酢酸ナトリウムの含有量は0.02モル%であった。
【0080】
得られたPVA系樹脂に、その全構造単位に対して酢酸マグネシウム〔Mg(Ac)2〕を0.039モル%、酢酸ナトリウム〔NaAc〕を0.17モル%となるように配合し、二軸押出機(テクノベル社製KZW−15−60MG、スクリュー径15mm、L/D=60)を用い、樹脂温度210℃でこれを溶融混練し、ペレット状のPVA系樹脂(B1)を得た。
【0081】
(2)PVA系樹脂(B2〜B8)の製造
PVA系樹脂(B1)の製造において、酢酸マグネシウム、および酢酸ナトリウムの配合量を後記の表1に示す通りとした以外は同様にしてペレット状のPVA系樹脂(B2〜B8)を得た。
なお、B8については、酢酸マグネシウムに代えてステアリン酸マグネシウムを用いた。
【0082】
(3)PVA系樹脂(B9)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル305.0g、メタノール219.8g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン19.2gを仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(半減期102分)の4%メタノール溶液37.8gを610分かけて添加して重合を行った。また、重合開始から30分経過した時点で酢酸ビニル480g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン28.8gを420分かけて添加し、さらに105分重合を行った。酢酸ビニルの重合率が89.5%となった時点で、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール38ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合物のメタノール溶液を得た。
【0083】
次いで、該溶液をメタノールで希釈して共重合物の濃度66%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合物中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が粒子状に析出してスラリーとなった後、添加水酸化ナトリウム量に対して酢酸を1当量となるように加えて、さらにスラリー中の樹脂濃度が9%となるようにメタノールを添加して、15分間ニーダー内で撹拌し、濾別して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
【0084】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニル及び残存3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、98.8モル%であり、平均重合度はJIS K6726に準じて分析を行ったところ450であった。また、1,2−ジオール構造を含有する側鎖の導入量は、1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)で測定して算出したところ3モル%であった。また、酢酸ナトリウムの含有量は0.02モル%であった。
【0085】
得られたPVA系樹脂に、その全構造単位に対して酢酸マグネシウム〔Mg(Ac)2〕を0.039モル%となるように配合し、二軸押出機(テクノベル社製KZW−15−60MG、スクリュー径15mm、L/D=60)を用い、樹脂温度210℃でこれを溶融混練し、ペレット状のPVA系樹脂(B9)を得た。
【0086】
(4)PVA系樹脂(B10)の製造
PVA系樹脂(B9)の製造において、酢酸マグネシウム、および酢酸ナトリウムの配合量を表1に示す通りとした以外は同様にしてペレット状のPVA系樹脂(B10)を得た。
【0087】
〔実施例1〕
<層(A)および層(B)からなる3層構造体>
下記に示す層(A)形成材料として上記PET系樹脂(IS226S)を用い、層(B)形成材料として上記PVA系樹脂(B1)を用い、2種3層のTダイスを有する溶融押出成形機にて層(A)の厚み40μm、層(B)の厚み20μm、層A(A)の厚み40μmの、層(A)/層(B)/層(A)からなる3層構造の積層体(フィルム状)(総厚み100μm)を作製した。
なお、PET系樹脂は樹脂温度260〜280℃で、PVA系樹脂は樹脂温度240℃とし、ダイス温度260℃で押出し、フィルム状に押出された多層樹脂を40℃のロールで冷却し、多層構造体を得た。
【0088】
<耐剥離性(Tピール)>
得られた3層構造体(フィルム)を用い、層(A)と層(B)の剥離強度を、下記の条件で測定した。結果を表1に示す。
サンプル:15mm幅、200mm長
装置 :島津社製オートグラフAG−100
測定方法:Tピール法(n=5)
剥離速度:100mm/min
【0089】
〔実施例2〜9、比較例1〜3〕
実施例1において、層(A)形成材料であるPET系樹脂、および層(B)形成材料であるPVA系樹脂として、表1に示すものを用いた以外は実施例1と同様にして3層構造体を製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
以上の結果から、実施例はいずれも層間接着性に優れることがわかる。
【0092】
これに対し、比較例1は、金属塩の配合量が0.02モル%と少ないため、触媒作用としての効果が得られず、結果として、層間接着性に劣る結果となった。また、比較例2は、金属塩の配合量が1.2モル%と多すぎるため、PVA系樹脂の熱分解によると思われるガスが多量に発生し、層中に気泡が多数含まれ、評価可能な多層構造体を得ることができなかった。
【0093】
また、比較例3は、PET樹脂層(A)が、テレフタル酸のみからなるものであるため、Tピールの値が低く、耐剥離性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の多層構造体は、例えば、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料、各種容器形成材料の用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を有するジカルボン酸成分単位と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分単位からなり、上記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸以外のジカルボン酸の共重合割合が全ジカルボン酸成分の2モル%以上15モル%未満であるポリエチレンテレフタレート系樹脂を主成分として含有する層(A)と、上記層(A)に隣接して、下記の一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、さらにアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の少なくとも一方を、上記ポリビニルアルコール系樹脂の全構造単位に対して、0.03〜1モル%含有する層(B)とが積層されてなる層構造を有することを特徴とする多層構造体。
【化1】

【請求項2】
上記テレフタル酸以外のジカルボン酸が、イソフタル酸である請求項1記載の多層構造体。

【公開番号】特開2011−51174(P2011−51174A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200937(P2009−200937)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】