説明

多層構造布帛および繊維製品

【課題】2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、布帛の形状安定性を損うことなく、対象物に対して優れた密着性を呈する多層構造布帛、および該多層構造布帛を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含み、かつ厚さが0.4mm以下であり、かつ50ウエールあたりの糸長が90mm以下である丸編地を最外層に含むことを特徴とする多層構造布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、布帛の形状安定性を損うことなく、対象物に対して優れた密着性を呈する多層構造布帛、および該多層構造布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料用途、インナー衣料、特にスポーツ衣料などの用途では、機能性の要求に加えて軽量性、コンパクト性、肌触りや着用時の快適性などが求められており、ナノファイバーと称せられる超極細繊維が提案されている。例えば、ポリエステルなどの合成繊維を超極細繊維化することにより、これまでの繊維では得ることのできなかった質感や機能を付与することが可能となり、さかんに開発が行われている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0003】
近年では、さらにレベルの高い質感、機能を得るために、単繊維の繊維径が数百nm以下のナノファイバーが開発されている。これらの繊維ではナノオーダーの繊維径である単繊維が、数百〜数万本単位で糸状を構成することにより繊維表面積は、通常の繊維と比較して飛躍的に大きくなる。その結果、これまでの繊維では得られなかったような独特のピーチタッチや対象物との密着性(高摩擦係数)を発現することが可能である。
【0004】
しかしながら、これらのナノファイバー集合体から構成される織編物は、折りたたんだ場合や洗濯後にシワがつきやすい、風合いが変化しやすいという問題や、手で触った時に生地表面に跡が付くいわゆるチョークマークなど形状安定性が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−207319号公報
【特許文献2】実用新案登録第2567438号公報
【特許文献3】特開2000−8252号公報
【特許文献4】特開2007−2364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、布帛の形状安定性を損うことなく、対象物に対して優れた密着性を呈する多層構造布帛、および該多層構造布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛において、超極細繊維を含みかつ編組織密度を大きくした丸編地を多層構造布帛の最外層に配することにより、布帛の形状安定性を損うことなく、対象物に対して優れた密着性を呈する多層構造布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、 単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含み、かつ厚さが0.4mm以下であり、かつ50ウエールあたりの糸長が90mm以下である丸編地を最外層に含むことを特徴とする多層構造布帛」が提供される。
【0009】
その際、前記フィラメント糸Aがポリエステルからなることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、多層構造布帛に、他の布帛として単繊維径が1000nmより大きいフィラメント糸Bを含む織編物が含まれることが好ましい。また、前記丸編地にバッフィング加工またはブラシ処理加工が施されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の多層構造布帛を用いてなる、スポーツ用グローブ、スポーツウエアー、アウターウエアー、インナーウエアー、水着、紳士衣料、婦人衣料、医療用衣料、経皮吸収剤、浴衣、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、帽子、手袋、靴下、寝具、支持帯、基布、カーテン、カーシート、サポーター、拭取り用具、美容用具からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、布帛の形状安定性を損うことなく、対象物に対して優れた密着性を呈する多層構造布帛、および該多層構造布帛を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、フィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜900nm、特に好ましくは550〜900nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、丸編地表面の摩擦係数が大きくならず、十分な密着性が得られないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、単繊維繊度のばらつきが−20%〜+20%の範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、優れた密着性を得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0015】
前記フィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としては特に限定されないが、ポリエステル系ポリマーが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0016】
本発明において、丸編地は前記のフィラメント糸Aのみで構成されていてもよいが、丸編地重量に対して70重量%以下であれば、他の糸条が1種類または複数種類含まれていてもよい。その際、かかる他の糸条としては、単繊維径が1000nmより大の、前記のようなポリエステルからなるポリエスエテル糸条や弾性繊維糸が好ましい。特に、他の糸条として弾性繊維糸が含まれていると、丸編地にさらに優れたストレッチ性が付加され好ましい。
【0017】
ここで、かかる弾性繊維糸としては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレンオキシドグリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる非吸水性ポリエーテルエステル弾性繊維糸、ポリウレタン弾性繊維糸、ポリトリメチレンテレフタレート糸、合成ゴム系弾性繊維糸、天然ゴム系弾性繊維糸などが好適に例示される。
【0018】
前記弾性繊維糸の総繊度としては、5〜100dtex(より好ましくは10〜40dtex)の範囲内であることが好ましい。弾性繊維糸の総繊度がこれらの範囲より大きいと、伸縮性が大きすぎて、編地の風合いを阻害したり、編地の外観に現れることで編地品位を悪くするおそれがある。また、これらの範囲より小さいと、糸の摩擦力により伸縮性が損なわれ、伸縮回復力に欠けたり、編地の耐久性が失われたりするおそれがある。なお、前記弾性繊維糸の破断伸度は400%以上のものが好ましく、染色加工時の熱処理によって性能を損なわないものが好ましい。
【0019】
前記丸編地において、前記フィラメント糸Aと弾性繊維糸とが複合糸として含まれていてもよいし、両者が引き揃えられて含まれていてもよいし、両者が交編されていてもよい。なお、丸編地には、さらに他の繊維としてポリエステル繊維などが含まれていてもさしつかえない。
【0020】
前記丸編地は、前記のフィラメント糸Aを含み、かつ厚さが0.4mm以下(好ましくは0.1〜0.3mm)の丸編地であって、該丸編地において50ウエールあたりの糸長が90mm以下(好ましくは50〜87mm)であることが肝要である。
【0021】
ここで、前記糸長が90mmよりも大きいと形状安定性が悪くなり好ましくない。すなわち、丸編地においてしわや目ズレが発生し品位が低下するだけでなく、ハリコシのないルーズな生地となり好ましくない。
なお、該丸編地において50ウエールあたりの糸長が90mm以下とするには、ハイゲージ(例えば46G)の丸編機で製編するとよい。
【0022】
前記丸編地は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、その径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0023】
ここで、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0024】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0025】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0026】
かかる海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維(マルチフィラメント)は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。さらに、仮撚捲縮加工を施してもよい。かかる海島型複合繊維(マルチフィラメント)において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊度30〜170dtex(好ましくは30〜100dtex)の範囲内であることが好ましい。
【0027】
次いで、総繊度30〜170dtexの海島型複合繊維を単独で用いるか、必要に応じて単繊維径が1000nmより大の弾性繊維糸など他の糸とともに用いて、丸編地を製編する。その際、使用する丸編機としては46G以上のハイゲージ丸編機(例えば、福原精機(株)製VXC−3S 46G30インチなど)が好ましい。ゲージが小さいと50ウエールあたりの糸長を90mm以下にすることが困難になるおそれがある。また、海島型複合繊維の総繊度が170dtexよりも大きいと、厚さが0.4mm以下の丸編地が得られないおそれがある。逆に、海島型複合繊維の総繊度が30dtexよりも小さいと丸編地の厚さが薄くなりすぎて布帛強度が低下するおそれがある。
【0028】
また、丸編地の編組織としては、天竺、天竺の編組織で2種の糸条で複合ループを形成したプレーテイング天竺、その際、一方の糸条を弾性繊維糸条としたベア天竺などが好適に例示される。さらには、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示される。なお、本発明の丸編地には横編地も含まれる。
【0029】
次いで、該丸編地にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0030】
また、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。また、丸編地にバッフィング加工またはブラシ処理加工が施すと、ヌメリ感に優れた風合いを呈し好ましい。
【0031】
編地の目付けとしては、300g/m以下(より好ましくは200g/m以下、特に好ましくは50〜150g/m)の範囲内であることが好ましい。
かくして得られた丸編地において、50ウエールあたりの糸長が90mm以下と高密度であるので、厚さが0.4mm以下と薄いにもかかわらず、優れた形状安定性を呈する。その際、編地の密度としては80〜130コース/2.54cm、かつ70〜100ウエール/2.54cmの範囲内であることが好ましい。
【0032】
また、該丸編地には、単繊維径が10〜1000nmと超極細のフィラメント糸Aが含まれるので、丸編地と対象物との摩擦係数が大きくなり、優れた密着性を呈する。その際、丸編地表面の摩擦係数が1.0以上であることが好ましい。さらには、本発明の丸編地は極めて高密度なので、抗スナッギング性にも優れている。その際、かかる抗スナッギング性としては、JIS L 1058−1998 7.4 ICI型ピリング試験機法により測定して3級以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の多層構造布帛は、2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、前記の丸編地が多層構造布帛の最外層に含まれている。例えば、一方の最外層側から、前記丸編地と他の布帛との積層、前記丸編地と他の布帛と前記丸編地との積層、前記丸編地と前記丸編地との積層、などが例示される。1枚物の多層構造織物または多層構造編物でもよい。
【0034】
ここで、他の布帛としては、単繊維径が1000nmより大きいフィラメント糸Bを含む織編物が好ましい。かかるフィラメント糸Bとしては、布帛強度(引裂き強度など)の点で前記のようなポリエステルからなる延伸糸または仮撚捲縮加工糸が好ましい。
【0035】
前記他の布帛において、組織は特に限定されず、織物組織であれば、平織、斜文織、サテン織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。また、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。不織布でもよい。
【0036】
また、前記他の布帛の目付としては、布帛強度(引裂き強度など)および風合いの点で80〜100g/mの範囲内であることが好ましい。該目付がこの範囲よりも小さいと布帛強度が低下するおそれがある。逆に、該目付がこの範囲より大きいと風合いが硬くなるおそれがある。
【0037】
本発明の多層構造布帛において、布帛を貼り合せる方法は限定されず、例えば、公知の接着剤、公知のポリウレタンフィルムや熱接着性不織布を間にはさんで熱接着させる方法、縫製による方法などが例示される。特に公知の接着剤をドット状に付与して貼り合せると、多層構造布帛のソフトな風合いが損われず好ましい。なお、織編工程で多層構造織編物を織編成してもよい。
【0038】
かくして得られた多層構造布帛には、最外層に前記の丸編地が含まれているので対象物に対して優れた密着性を呈する。また、前記の丸編地は高密度であり、かつ他の布帛と貼り合わされているので、布帛の形状安定性が損われることがない。
【0039】
なお、かかる多層構造布帛の目付としては、布帛強度(引裂き強度など)および風合いの点で80〜100g/mの範囲内であることが好ましい。該目付がこの範囲よりも小さいと布帛強度が低下するおそれがある。逆に、該目付がこの範囲より大きいと風合いが硬くなるおそれがある。
【0040】
次に、本発明の繊維製品は、前記の丸編地を用いてなる、スポーツ用グローブ、スポーツウエアー、アウターウエアー、インナーウエアー、水着、紳士衣料、婦人衣料、医療用衣料、経皮吸収剤、浴衣、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、帽子、手袋、靴下、寝具、支持帯、基布、カーテン、カーシート、サポーター、拭取り用具、美容用具からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。その際、最外層に配された前記丸編地が対象物に接触するように構成することが好ましい。
【0041】
かかる繊維製品は前記の丸編地を用いているので、形状安定性に優れ、また、対象物との密着性に優れる。なかでも、スポーツ用グローブは対象物と手との摩擦を向上させることにより滑りにくくし、また、手の傷を防止するためのものであり好ましく例示される。特には、前記の丸編地をゴルフクラブと接触する箇所に用いたゴルフ用グローブが特に好ましい。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)溶解速度
海・島ポリマーの各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1,000〜2,000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
(2)厚さ
JIS L 1018−1998 6.5により編地の厚さを測定した。
(3)糸長
編地50ウエールをルーペにて計測し、ループへマーキングをしたのち編地を解き、解いた糸端に0.49cN(0.5g)のおもりをぶら下げマーク間の長さを計測した。n数5で測定し、その平均値を求めた。
(4)摩擦係数
底面積5×8cm、高さ3cm、重量98cN(100g)の木製ヘッドに試料を取り付けたのち、シリコンゴムを敷いた平滑台にヘッドを乗せ、自記記録装置付定速伸長形引張試験機を用いて移動速度100mm/minにてヘッドを移動させ、移動距離10mm〜150mmの平均値を計測し、100で割った数値を算出した。
(5)抗スナッギング性
JIS L 1058−1998 7.4 ICI形ピリング試験機法により抗スナッギング性を評価した。
(6)形状安定性
試験者3人が、官能評価により、3級:シワやスジがつきにくく形状安定性に優れる、2級:普通、1級:シワやスジがつきやすく形状安定性に劣る、の3段階に評価した。
<単繊維径>
編地を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0043】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸(フィラメント糸A用)は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0044】
次いで、該海島型複合延伸糸とポリウレタンモノフィラメント弾性糸(オペロンテックス(株)製、総繊度22dtex/1fil)を用いて46G、30インチの丸編機(福原精機(株)製VXC−3S)の丸編機を用いて通常のベア天竺組織の丸編地を編成した。その際、ポリウレタンモノフィラメント弾性糸は1.7倍でドラフトしながら編成した。得られた編地を90℃にて湿熱処理した後、プレセットとして180℃で乾熱セットを行い、その後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、70℃にて30%アルカリ減量した。その後、生地表面にバッフィング処理を施した後、130℃にて高圧染色を行い、最終セットとして170℃の乾熱セット行った。該丸編地に含まれるフィラメント糸Aの単繊維径は700nmであり、ポリウレタンモノフィラメント弾性糸の単繊維径は60μmであった。また、50ウエールあたりの糸長80mm、厚みは0.21mm、目付けは96g/m、生地の摩擦係数は2.1、スナッキングは4−5級で、風合い、外観、形状安定性(3級)に優れていた。
【0045】
一方、ポリエチレンテレフタレート延伸糸(84dtex/72fil)を用いて、目付145g/mの丸編地(他の布帛)を編成し、130℃にて高圧染色を行い、最終セットとして170℃の乾熱セット行った。該丸編地に含まれる延伸糸の単繊維径は10μmであった。
次いで、フィラメント糸Aが含まれる丸編地とポリエチレンテレフタレート延伸糸が含まれる丸編地(他の布帛)とを、公知に接着剤をドット状につけて貼り合せることにより、多層構造布帛を得た。
得られた多層構造布帛において、厚みは0.7mm、目付けは241g/m、風合い、外観、形状安定性(3級)に優れ、超極細繊維特有の風合いを呈するものであった。
前記単繊維径700nmのフィラメント糸Aが含まれる丸編地をゴルフクラブと接触する箇所に用いて、ゴルフ用グローブを得た。かかるゴルフ用グローブは、ゴルフクラブとの密着性に優れ、かつ形状安定性にも優れており(3級)、使い易いものであった。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、28G、30インチの丸編機(福原精機(株)製)を使用すること以外は実施例1と同様にした。
単繊維径700nmのフィラメント糸Aを含む丸編地において、50ウエールあたりの糸長110mm、厚みは0.45mm、目付けは143g/m、生地の摩擦係数は1.7、スナッキングは4−5級であったが、生地が厚く、シワや筋が付きやすく(形状安定性:1級)、風合いにも劣るのであった。
また、最終的に得られた多層構造布帛において、厚みは0.95mm、目付けは288g/m、風合い、外観、形状安定性(1級)であった。
前記単繊維径700nmのフィラメント糸Aが含まれる丸編地をゴルフクラブと接触する箇所に用いて、ゴルフ用グローブを得た。かかるゴルフ用グローブは、ゴルフクラブとの密着性に優れていたが、生地が厚く、シワや筋が付きやすく(形状安定性:1級)、風合いにも劣るのであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、布帛の形状安定性を損うことなく、対象物に対して優れた密着性を呈する多層構造布帛、および該多層構造布帛を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の布帛が積層されてなる多層構造布帛であって、
単繊維径が10〜1000nmのフィラメント糸Aを含み、かつ厚さが0.4mm以下であり、かつ50ウエールあたりの糸長が90mm以下である丸編地を最外層に含むことを特徴とする多層構造布帛。
【請求項2】
前記丸編地表面の摩擦係数が1.0以上である、請求項1に記載の多層構造布帛。
【請求項3】
前記フィラメント糸Aがポリエステルからなる、請求項1または請求項2に記載の多層構造布帛。
【請求項4】
前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の多層構造布帛。
【請求項5】
前記フィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1〜4のいずれかに記載の多層構造布帛。
【請求項6】
多層構造布帛に、他の布帛として単繊維径が1000nmより大きいフィラメント糸Bを含む織編物が含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の多層構造布帛。
【請求項7】
前記丸編地にバッフィング加工またはブラシ処理加工が施されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の多層構造布帛。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の多層構造布帛を用いてなる、スポーツ用グローブ、スポーツウエアー、アウターウエアー、インナーウエアー、水着、紳士衣料、婦人衣料、医療用衣料、経皮吸収剤、浴衣、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、帽子、手袋、靴下、寝具、支持帯、基布、カーテン、カーシート、サポーター、拭取り用具、美容用具からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2010−194927(P2010−194927A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43839(P2009−43839)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】