説明

多層構造編地

【課題】、耐摩耗性と耐加水分解性に優れたポリ乳酸を含有する繊維を含む編地を提供する。
【解決手段】 繋ぎ糸と表裏層組織で構成された多層構造編地であって、前記編地が芯部にカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸と鞘部にポリトリメチレンテレフタレートからなる芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維で構成され、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維が90/10〜50/50質量比であり、前記繋ぎ糸の少なくとも一部に該芳香族ポリエステル繊維が使用されており、該編地のJASO M403/88(B法)における平面摩耗試験において、70℃90%Rhの湿熱条件下で500時間処理した後の限界摩耗が10万回以上であることを特徴とする多層構造編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯部に耐加水分解性が向上したポリ乳酸、鞘部にポリトリメチレンテレフタレートで構成された芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維からなる多層構造編地およびその製造方法に関する。カーシート、シートカバー、天井表皮、カーペット、トランク内装、ファスナー用布帛、いす張り地、カーテンなどの車両内装材用やインテリア資材として好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年は環境意識の高まりから、プラスチック廃棄物が問題となり、微生物による分解が期待される生分解性プラスチックが注目されている。また、地球温暖化の観点から、二酸化炭素の大気中への排気を抑制することが重要になっており、カーボンニュートラルという概念で表されるように、天然資源から作られる材料の使用が推奨されるようになってきている。近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0003】
ポリ乳酸は耐熱性や耐摩耗性が低いことが課題となっており、これらの欠点を補うため、ポリ乳酸成分とポリエステル成分との芯鞘複合繊維が提案されている(特許文献1)。ポリエステル成分として、特にポリトリメチレンテレフタレートは、その原料の1,3−プロパンジオールが天然資源から作られ、環境負荷低減の観点から有利である(特許文献2)。
これにより、耐熱性は改善されるが、耐摩耗性については芯鞘複合繊維の界面の芯鞘剥離が生じるため、高い摩耗性が要求される産業資材用途、特に車両内装材用途には十分ではないのが現状である。
そこで、芳香族ポリエステル繊維からなる編地の表層と裏層の間にポリ乳酸のモノフィラメントを繋ぎ糸として用いることにより直接的な摩耗を抑制することが提案されている(特許文献3)。しかし、表面の摩耗により編地表層と裏層の間で摩擦が生じ、耐摩耗性の劣るポリ乳酸繊維を繋ぎ糸として使用すると擦り切れる懸念があり、またモノフィラメントを使用すれば風合が硬化し、車両内装用途の編地として使用するのには課題が残っていた。
また、ポリ乳酸は室温や高温の水中や高温、高湿度条件下での加水分解性が非常に高い。その結果、強度や耐摩耗性の低下も著しく、実使用における用途開発が制限されてきた。
これを解決する方法として、紡糸前にカルボキシル基末端封鎖剤を添加することよりカルボキシル基末端濃度を低下させる方法がある。しかしながら、これらの方法は紡糸前にポリマーチップに混練・添加するため、紡糸時の高温により、カルボキシル基末端封鎖剤が分解し、ガスが発生しやすい問題があった。
そこで、染色時にカルボキシル基末端封鎖剤を添加することによりポリ乳酸の耐加水分解性が向上できることが提案されている(特許文献4)。ここでは、120℃以上の高温染色ではポリ乳酸繊維は加水分解が促進され、染色後の強度低下を招くという理由から染色温度は110℃以下が好ましいとされている。しかしながら、110℃以下の染色温度条件下では、混繊染色の場合には染着差の違いにより布帛にイラツキ感が生じることが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−214832号公報
【特許文献2】特開2007−247060号公報
【特許文献3】特開2008−240197号公報
【特許文献4】特開2009−263840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来の課題に鑑み、耐加水分解性と耐摩耗性に優れた車両内装材やインテリア資材に好適な編地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、繋ぎ糸と表裏層組織で構成された編地とからなる多層構造編地であって、前記編地が芯部にカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸、鞘部にポリトリメチレンテレフタレートを用いた芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維とで構成され、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維とが90/10〜50/50質量比であり、前記繋ぎ糸の少なくとも一部に芳香族ポリエステル繊維が使用されており、該編地のJASO M403/88(B法)における平面摩耗試験において、70℃90%Rhの湿熱条件下で500時間処理した後の限界摩耗が10万回以上であることを特徴とする多層構造編地によって達成できる。
【0007】
さらに上記多層構造編地は、芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成される芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維とから編地を構成し、カルボキシル基末端封鎖剤を含有する浴中で、温度110℃〜135℃で処理することによって得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物由来の材料を使用し環境負荷が小さく、かつ優れた耐摩耗性と耐加水分解性を有する編地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】

本発明の芯鞘複合繊維の芯部を形成するポリ乳酸とは、-(O-CHCH3-CO)-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。
【0010】
ポリ乳酸としては、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、DL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体等が用いられる。中でも、汎用性の面からは、L−乳酸を主成分とするポリ乳酸が好ましく使用される。L−乳酸を主成分とするとは、脂肪族ポリエステル中、50質量%以上がL−乳酸であることを意味する。
【0011】
ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。より好ましい光学純度は93%以上、さらに好ましい光学純度は97%以上である。なお、光学純度は前記した様に融点と強い相関が認められ、光学純度90%程度で融点が約150℃、光学純度93%で融点が約160℃、光学純度97%で融点が約170℃となる。
【0012】
また、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成型した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができ、より好ましい。
【0013】
かかるポリ乳酸の製造方法としては、乳酸を原料としていったん環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行なう二段階のラクチド法と、乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行なう一段階の直接重合法が知られている。本発明で用いられるポリ乳酸は、いずれの製法によって得られたものであってもよい。
更には、本発明の芯鞘複合繊維に用いるポリ乳酸には艶消し剤、難燃剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
本発明の芯鞘複合繊維の鞘部には、耐熱性、耐摩耗性向上、および化石燃料使用低減、風合向上の観点でポリトリメチレンテレフタレートが使用される。また、鞘成分の融点は芯成分との複合紡糸を容易にするため205〜260℃であることが好ましい。より好ましくは210〜240℃である。さらに、鞘成分はホモポリマーや発明の効果を損しない範囲でトリメチレンテレフタレート構造単位を主な成分とした上で、ホモポリマーと異種ポリマーのブレンド物、トリメチレンテレフタレート構造単位を主な成分とする共重合ポリマーであってもよい。さらには粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
また、芯部と鞘部との複合界面の接着性を高め、界面剥離を抑制するために、芯成分及び/又は鞘成分に相溶化剤が含有されていても良い。相溶化剤としては、芯成分と鞘成分のいずれの成分とも相溶性のある化合物や、芯・鞘両成分の末端と反応して架橋構造をとる化合物等が好ましく用いられるが、これらに限られるものではない。例えば、前者の相溶化剤としては、芯・鞘各成分と基本構造が類似した部分を併せ持つ界面活性剤コポリマーや、ブロックコポリマー等が挙げられる。また、架橋構造を形成するものとして、両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物やそれらのコポリマー、カルボジイミド化合物やそれらのコポリマー等が挙げられる。架橋剤を用いる場合は、架橋剤を芯・鞘各成分のいずれか、又は両成分に添加し、架橋剤が複合界面近傍に存在するそれぞれの成分の末端基と反応することで、界面接着性が向上する。また、相溶化剤は1種または2種以上の化合物を任意に選択して使用することができる。
本発明に用いる芯鞘複合繊維の製造方法としては、別々のホッパーで供給した各ポリマーを、溶融・押し出して紡糸ブロックに溶融ポリマーを移送する。さらに紡糸ブロックに内蔵された紡糸パックに送り、パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金で芯鞘構造にした後、吐出して糸条を得る。紡糸ブロックの温度は芯鞘各成分の高融点側の融点で決まるが、高融点側にポリトリメチレンテレフタレートを用いるため240〜255℃で溶融紡糸すればよい。
本発明の芯鞘複合繊維には紡糸と延伸を連続的に行うスピンドロー方式が好ましく用いられる。その際、芯鞘複合界面の接着性を向上させるためには、紡糸速度の最適化が望まれる。好ましい紡糸速度は2000m/以上、より好ましくは2500m/分以上、さらに好ましくは3000m/分以上である。一方、紡糸での工程安定性を考慮すると、紡糸速度は7000m/分以下であることが好ましい。
本発明における芯鞘型複合繊維の芯鞘比率(質量比率)は、芯部ポリ乳酸の比率が高くなると、化石資源低減効果が高くなり、鞘部のポリトリメチレンテレフタレートの比率が高くなると、耐摩耗性や風合いが向上する。これらを考慮すると、芯鞘比率(質量比率)は、芯/鞘=20/80〜70/30であることが好ましい。より好ましくは芯/鞘=25/75〜65/35であり、さらに好ましくは芯/鞘=30/70〜60/40である。
【0014】
芯鞘複合繊維の断面形状としては、丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面(三角
断面、Y断面、T断面など)や四葉断面(X断面)等の多葉断面、扁平断面、W断面等を
採用することが可能である。
【0015】
また、かかる芯鞘複合繊維の単糸繊度は0.1〜20dtex(より好ましくは0.5〜7dtex)、総繊度が30〜500dtex、フィラメント数が20〜300本の範囲内であることが好ましい。
本発明の芳香族ポリエステル繊維とは、例えばジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル繊維であって、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分を用いることができ、これらの酸成分は1種類でもよく、2種以上併用してもよい。また、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらのグリコール成分は1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。耐摩耗性、耐熱性、および紡糸操業性を向上させるためには、芳香族ポリエステルの中でもポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。
芳香族ポリエステル繊維は粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。芳香族ポリエステル繊維の断面形状としては、丸断面、三葉断面(三角断面、Y断面、T断面など)や四葉断面(X断面)等の多葉断面、扁平断面、W断面等を採用することが可能である。
【0016】
本発明に用いる芳香族ポリエステル繊維は、仮撚加工糸、強撚糸、タスラン加工糸など各種形態の繊維であってもよい。
また、かかる芳香族ポリエステル繊維の単糸繊度は0.5〜10dtex、また耐摩耗性の観点から総繊度は30〜250dtexの範囲内であることが好ましい。
次いで、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維を用いて製編する。
編地の種類は、丸編地であってもよいし経編地であってもよい。丸編地の組織としては両面編み、経編組織としては、トリコット編、ラッセル編、ジャガード編等が例示されるが、それらに限られるものではない。経編組織の場合、層数は耐摩耗性向上の観点で3層以上の多層が好ましい。また、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
また、本発明の編地は、表層の糸条と裏層の糸条が繋ぎ糸によって接結されており、その繋ぎ糸が芳香族ポリエステル繊維である。
繋ぎ糸に芳香族ポリエステル繊維を使用することにより表層の糸条と繋ぎ糸、および裏層の糸条との拘束力が増し耐摩耗性の向上させることができる。そのため、本発明には繋ぎ糸に芳香族ポリエステル繊維を使用することが必須であり、さらにコストの観点でもポリアミドなどの耐摩耗性の高い素材に比べて有利である。
経編での繋ぎ糸は、3枚筬で構成される編地の場合、それぞれの筬は編機後方よりL1筬(裏糸)、L2筬(繋ぎ糸)、L3筬(表糸)で表され、1枚の筬で1種類の編組織が形成でき、ここではL2筬で編み込まれる糸条が繋ぎ糸である。4枚筬の経編の場合、L2筬、またはL3筬で編み込まれる糸条が繋ぎ糸である。
丸編の場合は、ダイヤル針とシリンダー針の編針を備えた丸編機から製造される表層と裏層を相互に連結する糸条が繋ぎ糸である。
経編において、繋ぎ糸を使用しない、即ち2枚筬で構成される場合、編地表層の摩耗により編地表層と裏層の固定力が弱まり、編地裏層が流動的になり編地の耐摩耗性が低下する。また、繋ぎ糸に芳香族ポリエステル繊維以外、例えば、本発明における芯鞘複合繊維を繋ぎ糸に使用した3枚筬の経編の場合、編地表層の摩耗により繋ぎ糸が摩耗切れし、表層と裏層の固定力が低下し編地の耐摩耗性が低下する。
丸編において、繋ぎ糸を使用しない場合、例えば裏層の糸条を表層の糸条へニットループで接結させた場合など、表層の糸条と裏層の糸条の固定力が十分でなく耐摩耗性は低下する。また繋ぎ糸に芯鞘複合繊維を使用した場合、表層の摩耗により繋ぎ糸が摩耗切れを起こし、編地の耐摩耗性は低下する。
繋ぎ糸である該芳香族ポリエステル繊維の質量比率が低いと、繋ぎ糸が摩耗切れし表層の糸条と裏層の糸条の固定が緩和し編地全体の耐摩耗性が低下する。一方、質量比率が高すぎると、石油由来原料使用による環境負荷の増大、および風合が悪化する傾向がある。そのため、繋ぎ糸である芳香族ポリエステル繊維の質量比率は編地の糸に対し5〜30%の範囲であることが好ましく、下の方の量としては、8%以上、さらに10%以上が好ましく、上のほうの量としては25%以下、さらに20%以下である。
また、該芳香族ポリエステルは芯鞘複合繊維とインターレースや撚糸などの手法で組み合わせることで繋ぎ糸とすることもできる。
該編地の構成比率は、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維の質量比率=90/10〜50/50であることが必要である。芯鞘複合繊維の混率が低いと石化資源の低減効果が低く、かつ、やわらかな風合が損なわれ車両内装用途やインテリア資材として好ましくない。一方、芯鞘複合繊維の混率が高すぎると、芯鞘複合繊維が摩耗減りし編み目間に隙間が生じやすくなり、耐摩耗性が著しく悪化する。そのため、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維の質量比率=90/10〜50/50(芯鞘複合繊維/芳香族ポリエステル繊維)であることが必要である。大きい方の値としては好ましくは、86/14以下、より好ましくは80/20以下、小さい方の値としては好ましくは55/45以上、さらに好ましくは60/40以上である。


編地を構成する芯鞘複合繊維の芯部ポリ乳酸の耐加水分解性を向上させるためにはカルボキシル基末端の少なくとも一部を封鎖する必要がある。その方法として、紡糸前にポリマーチップに混練・添加する方法があるが、紡糸時の高温により、カルボキシル基末端封鎖剤が分解、発煙を起こし、悪臭や有毒なガスが発生する可能性もあるため、後加工、特に、編地を浴中処理することによりカルボキシル基末端封鎖をすることが好ましい。その中でも、染料とカルボキシル基末端封鎖剤を含有する処理液に該編地を投入し、加圧の下、該処理液を循環させながら染色とカルボキシル基末端封鎖が同時にできる染色同浴加工することが好ましいが、その限りではない。該手法は、従来の紡糸前にポリマーチップに混練・添加する方法に比べ、安全にかつ、簡便にカルボキシル基末端封鎖剤の濃度を変更でき、耐加水分解性をコントロールできる。
浴中加工の処理装置としては、ウインス染色機、ジッガー染色機、パドル染色機、液流染色機、ビーム染色機等の装置が利用できるが、これらに限定されるものではない。
本発明でカルボキシル基末端封鎖剤として用いられる化合物は、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、カルボジイミド化合物が例示される。特にカルボジイミドが好ましく、そのカルボジイミドの種類により本発明はなんら制限されるものではない。例えば、N,N´−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N、N´−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド,N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジイソプロピルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0017】
さらには、これらの末端封鎖剤の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸のカルボキシル基末端を封鎖すればよい。
【0018】
本発明で用いるカルボキシル基末端封鎖剤は、被処理物とカルボキシル基末端封鎖剤の接触機会に相関しており、粒径が小さいほど浴中で分散性が向上し、繊維に吸尽されやすい。
その状態にする方法は特に限定されるものではないが、例えば常温で固体のカルボキシル基末端封鎖剤は、乾式・湿式で微粉砕化したり、溶融させた後に微結晶化したり、適当な非水溶媒に溶解させた後、水に希釈したりすることで微粒子化できるが、これらの方法に限定されるものではない。また、安定化のため乳化剤等の活性剤を併用しても良い。常温で液体のカルボキシル基末端封鎖剤は、機械乳化、転相乳化、液晶乳化、転相温度乳化、D相乳化、可溶化領域を利用した超微細化乳化等の方法で微粒子化させることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
カルボキシル基末端封鎖剤を含む液体に、分散剤、均染剤、柔軟剤、帯電防止剤、抗菌剤、界面活性剤、浸透剤、pH調整剤などカルボキシル基末端封鎖剤の反応を阻害しないものであれば含んでいてもかまわない。
【0019】
カルボキシル基末端封鎖剤の添加量は、布帛質量に対して0.5〜15質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.8〜12質量%で、さらに好ましくは1〜10質量%である。
浴中処理温度として、110〜135℃で加熱処理することが好ましい。染色温度が110℃未満では、芯鞘繊維の芯部のポリ乳酸に対してカルボキシル基末端封鎖剤が十分に吸尽されず、カルボキシル基末端への封鎖効果が低下する。封鎖効果が低下すると、ポリ乳酸の加水分解の触媒作用をするカルボキシル基末端量が多くなり、ポリ乳酸の分子量や強度などの物性低下を招くことになる。その結果、車両内装材として十分な耐加水分解性や耐摩耗性が付与できない。さらに、他素材との混繊染色時は素材の染着差の違いによるイラツキが生じ、品位が低下する。一方、浴中処理温度が135℃を超えると、ポリ乳酸のカルボキシル基末端を封鎖するよりも加水分解の促進がより速く進行し加工後の分子量や物性低下が起こる。結果として車両内装材として十分な耐加水分解性、耐摩耗性が得られない。そのため、浴中処理温度は110〜135℃であることが好ましく、より好ましくは115〜135℃、さらに好ましくは120〜135℃である。
また、その加熱処理時間は10〜60分間が好ましい。10分未満では、カルボキシル基末端封鎖剤や染料などの薬剤の吸尽が小さく、産業資材用途としての十分な耐加水分解性が得られず、また染めムラが発生する。また、60分を超えると芯部ポリ乳酸の加水分解が促進し、芯鞘複合繊維の物性低下を招く。そのため、加熱処理時間は10〜60分間が好ましいく、より好ましくは20〜50分間である。
浴中処理した後、乾燥を行い、ピンテンターなどで80〜150℃の乾熱処理をすることが好ましい。その処理時間は15秒〜8分間でよいが、より好ましくは90℃以上、また140℃以下、時間では30秒以上、5分間以下である。
また、浴中処理後に、シリーコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの樹脂をパデング法などにより編物に付与すると、編物の耐摩耗性が向上し好ましい。その際、樹脂の付着量は布帛質量に対して0.5〜5.0質量%の範囲が好ましい。さらには、染色工程の後に、吸水加工、撥水加工、起毛加工、難燃剤、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
かかる方法において処理した編地において、芯鞘複合繊維の芯部のポリ乳酸のカルボキシル基末端量(当量/10kg)が、10以下、より好ましくは7以下であり、さらに好ましくは4以下である。カルボキシル基末端はポリ乳酸の加水分解の触媒として作用するため、増加するほど加水分解を上昇させ、強力、および耐摩耗性の低下を招く傾向がある。
ポリ乳酸の質量平均分子量(Mw)は10万以上であることが好ましい。後加工後のポリ乳酸の質量平均分子量(Mw)が10万未満であると、加水分解処理によりポリ乳酸の分子量低下が大きくなり、結果十分な耐加水分解性が得られない。その結果、芯鞘複合繊維の耐摩耗性も低下する懸念がある。そのため、ポリ乳酸の質量平均分子量(Mw)は10万以上であることが好ましい。
また、上記方法において処理した編地において、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維の色差(ΔE)が3以下であることが好ましい。色差が3を越えると芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維間での染め差によるイラツキ(濃淡差)が生じ、品位が劣る。そのため、色差は3以下であることが好ましく、より好ましくはΔEが2、5以下、さらに好ましくは2以下である。
平面摩耗試験は布帛の耐摩耗性を測る試験であり、車両内装用途、特にカーシート用途の場合、その限界摩耗が10万回未満の編地では使用中に編地表面が擦り減り、座り心地が悪化、さらには破れが発生する恐れがある。そのため、編地の限界摩耗は10万回以上である必要がある。
本発明の編地は、70℃90%Rhの湿熱条件下で500時間処理した後、JASO M403/88(B法)に基づく平面摩耗試験の限界摩耗が10万回以上であることが必要である。70℃90%Rh湿熱条件下500時間処理し、限界摩耗が10万回未満である編地を自動車に長期間搭載した場合、編地に破れが生じる恐れがある。
本発明により得られた編地は、耐加水分解性と耐摩耗性に優れ、カーシート、シートカバー、天井表皮、カーペット、トランク内装、ファスナー用布帛、いす張り地、カーテンなどの車両内装材用やインテリア資材として好ましく用いられ、特に長期耐久性を要するカーシートに好ましく用いられる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の物性は次の方法で測定した値である。
(1)カルボキシル基末端量(当量/10kg)
芯鞘複合繊維を断面方向に適宜切断し、クロロホルムに浸漬して芯部のポリ乳酸を抽出した。これを吸引ろ過し、ビューレ上で自然乾燥させ、ポリ乳酸のキャストフィルムを得た。ポリ乳酸のカルボキシル基末端濃度(当量/10kg):精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)調整液に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加の後、0.02規定の水酸化カリウムメタノール溶液にて滴定することにより測定した。
(2)ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)
編地をクロロホルムに浸漬させ、芯鞘複合繊維の芯部ポリ乳酸のみを溶解させたクロロホルム溶液を測定溶液とする。これを島津製作所製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(カラム温度40℃)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。(3)編地の風合評価
編地の風合いを被験者10人の触感により判定した。「柔らかい」を1点、「硬い」を0点として、各被験者からの判定を受け、その総点から下記の基準に従い風合い評価した。
○:7〜10点
△:4〜6点
×:0〜3点
(4)色差
SMカラーコンピューターSM−4(スガ試験機株式会社製)を用い、JIS L 0801 5.1に準じ、以下の方法で試料を測定した。まず編地を分解し、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維をそれぞれ0.5gずつとり、白厚紙上に平行、かつ、密に並べるか、枠(例えば、針金でU時形にしたもの。)に隙間無く平行に巻いて層にする。その後、測色計によりLabを測定し、色差を下記の式に基づき算出した。
【0021】
ΔE=(ΔL+Δa+Δb1/2
ΔE:色差、
Δa、Δb:芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維の彩度差
(5)イラツキ感
後加工後の編地の染色差を目視により官能検査を実施し、以下の3段階で評価した。
【0022】
○:素材による染色差(濃淡)がほとんどない。
【0023】
△:素材による染色差(濃淡)がやや目立つ。
【0024】
×:素材による染色差(濃淡)が明らかである。
(6)限界摩耗
JASO M403/88(B法)における平面摩耗試験において、摩擦子として6 号綿布と取り付け、押し荷重1kgで、1往復/秒往復させ、編地が破れた時点(下地の固定用ウレタンフォームが見えるまで編地が破れた時点)を限界摩耗とした。
(7)加水分解処理
(株)エスペックエンジニアリング社製恒温恒湿器PR−4KTを用い、70℃×90%RH条件下、500時間処理した。
(8)ポリ乳酸の分子量保持率(70℃90%Rh500時間後)(%):分子量保持率は下記の式によって算出した。
ポリ乳酸分子量保持率(%)={(加水分解処理後のポリ乳酸分子量)/(加水分解処理前のポリ乳酸分子量)}×100
(9)湿熱劣化後の限界摩耗
(7)の処理後に、(6)と同様の限界摩耗を測定した。
(10)実車テストによる編地の評価
実際に自動車の運転席用カーシートとして該編地を使用し、10万km走行した後の編地の表面状態により耐久性を評価した。走行場所は日本の本州を選択した。
(参考例1)
質量平均分子量16.5万、融点170℃、残留ラクチド量0.085質量%のポリL乳酸(光学純度97%L乳酸)を芯部とし、平均2次粒子径が0.4μmの酸化チタンを0.3質量%含有したポリトリメチレンテレフタレート(融点228℃)を鞘部として、それぞれ別々に溶融した。紡糸温度250℃で芯鞘複合比(質量%)30:70、紡糸速度3000m/分、延伸温度90℃、熱セット温度130℃で延伸し84dtex24フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸をフリクション方式仮撚加工機を使用し、第1ヒーター温度145℃、第2ヒーター温度130℃、仮撚数3200(T/m)の条件で仮撚加工した。得られた加仮撚加工糸は強度2.9cN/dtex、伸度40%であった。
(参考例2)
参考例1の延伸糸を2本ひき揃えて、参考例1の仮撚加工と同様の方法で仮撚加工を行い、168dtex/48フィラメントの仮撚加工糸を得た。
(実施例1)
28ゲージのトリコット経編機にて、L1筬(裏糸)に参考例1の仮撚加工糸を用い、L4筬(表糸)に参考例2の仮撚加工糸、L2筬、L3筬に繋ぎ糸として芳香族ポリエステル繊維として仮撚加工した168dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称する)仮撚加工糸を用い製編した。その後、高圧液流染色試験機を用い、カルボキシル末端封鎖剤としてN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドを1.5%owf、染料としてDianix Yellow N-TAN 0.06%owf、Dianix Red N-TAN 0.028%owf, Dianix Blue N-TAN 0.003%owfを、浴比1:20の液中に該編地を浸し、130℃、30分の条件で染色同浴加工を行った。この後、水洗し、風乾させ、130℃で2分間乾熱処理を行い、目付450g/m2 の実施例1の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.6でポリ乳酸のカルボキシル基末端の封鎖効果が高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.0万で耐加水分解性に優れた編地であった。
編地を構成する芯鞘複合繊維の質量比率が86%で、風合が柔らかく、車両内装用途として風合の優れた編地であった。また、編地の色差(ΔE)が1.6で編地の染め差によるイラツキ感もなかった。その上、表裏地の繋ぎ糸の芳香族ポリエステル繊維の質量比率は14%で、耐摩耗性の劣る表地を耐摩耗性に優れた繋ぎ糸がカバーし、摩耗減りを抑制できる耐摩耗性の優れた編地であった。
この編地を70℃、90%RHの条件下で500時間の加水分解処理を行った。ポリ乳酸の分子量保持率は97%で耐加水分解性が高く、かつ限界摩耗は11.5万回であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したが、編地に破れが生じることはなく、車両内装用途に要求される耐久性を有する編地であった。
(実施例2)
実施例1のL1筬に84dtex/24フィラメントのPET仮撚加工糸を使用して製編した以外は、実施例1と同様の方法で処理し、目付け460g/m2の実施例2の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.6でカルボキシル基末端の封鎖効果が高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.2万で耐加水分解性も優れた編地であった。
編地を構成する芯鞘複合繊維の質量比率が55%で、編地の柔らかさがやや劣るが車両内装用途として十分な風合であった。また、色差(ΔE)が1.6で編地のイラツキ感がない編地であった。その上、編地の芳香族ポリエステル繊維の質量比率は45%、繋ぎ糸の芳香族ポリエステル繊維の質量比率は14%で、耐摩耗性の劣る表地を耐摩耗性に優れた繋ぎ糸がカバーし、摩耗減りを抑制できる耐摩耗性の優れた編地であった。
加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は97%で耐加水分解性が優れ、編物の限界摩耗は14.5万回以上であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したが、編地に破れが生じることはなく、車両内装用途に要求される耐久性を有する編地であった。
(実施例3)
20Gの両面丸編機にて、表糸として参考例2の168dtex/48フィラメントの仮撚加工糸、裏糸として参考例1の84dtex/24フィラメントの仮撚加工糸、表裏の繋ぎ糸として110dtex/24フィラメントのPET仮撚加工糸を用い製編した以外は、実施例1と同様の方法で処理し、目付け435g/m2の実施例3の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.6でカルボキシル基末端の封鎖効果が高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.0万で耐加水分解性も優れていた。
編地を構成する芯鞘複合繊維の質量比率が72%、で、風合が柔らかく車両内装用途として優れた風合の編地であった。また、色差(ΔE)は1.6で編地のイラツキ感がない編地であった。その上、繋ぎ糸の芳香族ポリエステル繊維の質量比率は28%で、耐摩耗性の劣る表地を耐摩耗性に優れた繋ぎ糸がカバーでき、摩耗減りを抑制できる耐摩耗性の優れた編地であった。
加水分解処理後の芯部ポリ乳酸の分子量保持率は97%と耐加水分解性と優れ、限界摩耗は11.0万回であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したが、編地に破れが生じることはなく、車両内装用途に要求される耐久性を有する編地であった。
(実施例4)
染色温度を120℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で処理し、目付け450g/m2の実施例4の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は3.2でカルボキシル基末端の封鎖効果が高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は11.8万で耐加水分解性の優れた編地であった。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が86%、で、風合が柔らかく、車両内装用途として優れた風合の編地であった。また、色差は3.9で芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維の染着差の違いにより編地にややイラツキが生じた編地であった。繋ぎ糸の芳香族ポリエステル繊維の質量比率は14%で、耐摩耗性の劣る表地を耐摩耗性に優れた繋ぎ糸がカバーし、摩耗減りを抑制できる耐摩耗性の優れた編地であった。
加水分解処理後の芯部ポリ乳酸の分子量保持率は95%と耐加水分解性と優れ、限界摩耗は11.2万回であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したが、編地に破れが生じることはなく、車両内装用途に要求される耐久性を有する編地であった。
(比較例1)
カルボキシル末端封鎖剤を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で処理し、目付445g/m2の比較例1の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)が42.8でカルボキシル基末端の封鎖効果が低かったが、ポリ乳酸の分子量(Mw)は10.2万を保持した。
編地を構成する芯鞘複合繊維の質量比率が86%、で、風合が柔らかく、車両内装用途として優れた風合で、色差は1.8で編地にイラツキ感がない編地であった。また、繋ぎ糸の芳香族ポリエステル繊維質量比率は14%で、耐摩耗性の劣る表地を耐摩耗性に優れた繋ぎ糸がカバーし、摩耗減りを抑制できる編地であった。
しかし、加水分解処理後の芯部ポリ乳酸の分子量保持率は1%以下で、耐加水分解性に劣り、編地の限界摩耗は3.1万回で耐摩耗性も劣るものであった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減り小さな破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性と耐加水分解性には劣る編地であった。
(比較例2)
実施例1のL2筬、L3筬に84dtex/24フィラメントの仮撚加工糸を使用した以外は実施例1と同様の方法で処理し、目付435g/m2の比較例2の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.7でカルボキシル基末端の封鎖効果が高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.3万で耐加水分解性は優れて編地であった。
編地は芯鞘複合繊維を100%使用しているため風合が柔らかく、車両内装用途として風合の優れた編みであった。しかし、摩耗により芯鞘剥離が発生し、編地の摩耗が著しく、限界摩耗は1.2万回で車両内装用途としての耐摩耗性が劣る編地であった。
加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は97%と耐加水分解性は優れているが、編物の限界摩耗は0.5万回であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減りいくつか破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性と耐加水分解性には劣る編地であった。
(比較例3)
実施例1のL4筬に168dtex/48フィラメントのPET仮撚加工糸を使用した以外は実施例1と同様の方法で処理し、目付463g/m2の比較例3の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.7でカルボキシル基末端の封鎖効果が高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.0万で耐加水分解性が優れた編地であった。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が30%で、編地の風合が硬くなり車両内装用途として風合の劣る編地であった。また、色差は1.6で編地にイラツキ感はなかった。しかし、該編地は芯鞘複合繊維の質量比率が30%と低いため、化石燃料の使用低減効果が低く本主旨に適さない。
(比較例4)
染色温度を100℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で処理し、目付450g/m2の比較例4の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は11.2でカルボキシル基末端の封鎖効果が低かったが、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.0万を保持していた。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が86%で、風合が柔らかく車両内装用途として優れた風合の編地であった。しかし、色差は12.2で染着差による編地のイラツキが顕著であった。
繋ぎ糸の芳香族ポリエステル繊維が14%であり、限界摩耗は12.3万回と高かったが、加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は10%で耐加水分解性が劣り、編物の限界摩耗も5.2万回であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減り、微細な破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性と耐加水分解性には劣る編地であった。
(比較例5)
繋ぎ糸を使用しない2枚筬の経編機を用い、L1(裏糸)に168dtex/48フィラメントのPET仮撚加工糸、L2(表糸)に参考例2の168dtex/48フィラメントの芯鞘複合繊維の仮撚加工糸を使用した以外は、実施例1と同様に方法で処理し、目付335g/m2の比較例5の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.6でカルボキシル基末端の封鎖効果は高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.0万を保持していた。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が55%であり、車両内装用途としての風合はよく、かつ色差は1.6であり染着差による編地のイラツキはなかった。
加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は90%で耐加水分解性が高かった。
繋ぎ糸を使用しない編地であったため、表糸と裏糸との拘束力が弱く編物の限界摩耗も2.6万回と低かった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減り、微細な破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性に劣る編地であった。
(比較例6)
3枚筬の経編機を用い、L1(裏糸)に84dtex/24フィラメントのPET仮撚加工糸、L2(繋ぎ糸)に参考例2の168dtex/48フィラメントの芯鞘複合繊維の仮撚加工糸、L3(表糸)に84dtex/24フィラメントのPET仮撚加工糸を使用した以外は、実施例1と同様に方法で処理し、目付415g/m2の比較例6の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.6でカルボキシル基末端の封鎖効果は高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.0万を保持していた。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が41%であり、風合が硬く車両内装用途としては不良であった。色差は1.6であり染着差による編地のイラツキはなかった。
加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は90%で耐加水分解性が高かった。
表糸に比較的耐摩耗性の優れたPET糸を用いているが、繋ぎ糸に耐摩耗性の劣る芯鞘複合繊維を使用しているため、摩耗により表層と裏層の擦れにより繋ぎ糸の擦り切れが生じた。このため、表糸と裏糸との拘束力が弱くなり編物の耐摩耗性は低下し、限界摩耗も8.2万回と低かった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減り、微細な破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性に劣る編地であった。
(比較例7)
実施例3の繋ぎ糸に参考例1の84dtex/24フィラメントの仮撚加工糸を使用した以外は実施例1と同様の方法で処理し、目付け440g/m2の比較例7の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.7でカルボキシル基末端の封鎖効果は高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は12.1万を保持していた。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が100%であり、編地が柔らかく車両内装用途としては良好な風合であった。
しかし、摩耗により芯鞘剥離が発生し、編地の摩耗が著しく、限界摩耗は1.1万回で車両内装用途としての耐摩耗性が劣る編地であった。
加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は98%と耐加水分解性は優れているが、編物の限界摩耗は0.5万回であった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減りいくつか破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性と耐加水分解性には劣る編地であった。
(比較例8)
実施例3の表糸と裏糸に110dtex/24フィラメントのPET仮撚加工糸、繋ぎ糸に参考例1の84dtex/24フィラメントの仮撚加工糸を使用した以外は実施例1と同様の方法で処理し、目付け470g/m2の比較例7の編地を得た。
カルボキシル基末端量(当量/10kg)は1.6でカルボキシル基末端の封鎖効果は高く、ポリ乳酸の分子量(Mw)は11.8万を保持していた。
編地の芯鞘複合繊維の質量比率が25%であり、編地が硬く車両内装用途として風合は好ましくなかった。また色差は1.7であり染着差による編地のイラツキはなかった。
加水分解処理後のポリ乳酸の分子量保持率は97%で耐加水分解性が高かった。
繋ぎ糸として芳香族ポリエステル繊維を使用しない編地であったため、表糸と裏糸との拘束力が弱く編物の限界摩耗も7.6万回と低かった。該編地を用い、実車テスト(10万km程度走行)を実施したところ、編地表面が摩耗により摩り減り、微細な破れが生じた。車両内装用途に要求される耐摩耗性に劣る編地であった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繋ぎ糸と表裏層組織で構成された編地とからなる多層構造編地であって、前記編地が芯部にカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されているポリ乳酸、鞘部にポリトリメチレンテレフタレートを用いた芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維とで構成され、芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維とが90/10〜50/50質量比であり、前記繋ぎ糸の少なくとも一部に芳香族ポリエステル繊維が使用されており、該編地のJASO M403/88(B法)における平面摩耗試験において、70℃90%Rhの湿熱条件下で500時間処理した後の限界摩耗が10万回以上であることを特徴とする多層構造編地。
【請求項2】
前記繋ぎ糸としての芳香族ポリエステル繊維が編地の糸に対し5〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の多層構造編地。
【請求項3】
芯鞘複合繊維の芯部を構成するポリ乳酸のカルボキシル基末端量が10当量/10kg以下であることを特徴とする請求項1または2記載の多層構造編地。
【請求項4】
芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維の色差ΔEが3以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の多層構造編地。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の編地の製造方法であって、芯部がポリ乳酸、鞘部が芳香族ポリエステルで構成される芯鞘複合繊維と芳香族ポリエステル繊維とから編地を構成し、カルボキシル基末端封鎖剤を含有する浴中で、温度110℃〜135℃で処理することを特徴とする多層構造編地の製造方法。

【公開番号】特開2012−52272(P2012−52272A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197465(P2010−197465)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】