説明

多層樹脂成形体

【課題】水又は水性組成物中に銀イオンを安定に溶出することで、優れた抗菌効果を持続することができる多層樹脂成形体を提供する。
【解決手段】水と接触することによって銀イオンを溶出し得る溶解性ガラス及び合成樹脂を含有する抗菌性樹脂層を水と接触する部位に有することを特徴とする多層樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は水性組成物と接触することによって、銀イオンを溶出し、これによって水又は水性組成物に抗菌性を付与することができる多層樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、菌の繁殖による種々の問題を防止するための抗菌性素材や殺菌剤における有効成分として銀系の抗菌剤が知られている。特許文献1には、銀イオンを溶出し得る溶解性硝子の粉末を含有させた樹脂からなることを特徴とするコンタクトレンズ溶液用容器が開示されている(特許文献1)。しかしながら、このような樹脂容器は、銀イオンが溶出することによって抗菌性能が得られることから、水との接触面以外に存在している銀系の抗菌剤は、効果を発揮するうえで役に立たず、銀イオンの効果が効率的に得られるとは言い難いものであった。
【0003】
特許文献2には、アルミノケイ酸塩を主成分とする無機化合物粉末又は有機無機複合粉末の内部に銀を分散してなる樹脂フィルム及び/又はシートを成形してなる液状食品用容器が知られている。しかしながら、このような液体用容器は食品の風味保持を目的としたものであり、抗菌性に関して詳細な検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−22361号公報
【特許文献2】特開2008−195442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、水又は水性組成物中に銀イオンを安定に溶出することで、優れた抗菌効果を持続することができる多層樹脂成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水と接触することによって銀イオンを溶出し得る溶解性ガラス及び合成樹脂を含有する抗菌性樹脂層を水と接触する部位に有することを特徴とする多層樹脂成形体である。
【0007】
上記多層樹脂容器は、多層樹脂成形体を構成する層のうち、少なくとも1層が隠蔽性を有する層であることが好ましい。
本発明の多層樹脂容器は、成形体を構成する層のうち、少なくとも1層が高いバリア性を有する層であることが好ましい。
本発明の多層樹脂成形体は、多層ブロー成形により得られたものであることが好ましい。
本発明の多層樹脂成形体は、水系化粧料用容器であることが好ましい。
本発明は、イオン性銀化合物を含有し、上述した多層樹脂成形体中に充填されたものであることを特徴とする多層樹脂成形体入り水性組成物でもある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、従来よりも効率的に、水又は水性組成物に対して銀イオンによる抗菌性を付与し得る多層樹脂成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明の多層樹脂成形体の層構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の多層樹脂成形体は、接触する水又は水性組成物に安定に抗菌性を付与することができるものである。このような抗菌性は、最内層の抗菌性樹脂層に含まれる銀化合物が、水又は水性組成物と接触し、銀イオンを溶出することによって得られるものである。また、本発明の多層樹脂形成体は、最内層に銀化合物を含むものであるため、銀化合物の使用量を抑えることができ、効率的に高い抗菌性を得ることができるものである。更に、多層化することによって、その他の機能層を設けることができる。よって、抗菌性以外の機能(例えば、バリア性等)が要求される分野においても使用することができる。
【0011】
更に、銀化合物として水と接触することによって銀イオンを溶出し得る溶解性ガラスを使用することによって、容器に使用する樹脂組成物中で比較的低濃度の銀化合物の含有量であっても、効率よく抗菌性能を得ることができる。このため、多量に銀化合物を配合する必要があった従来の方法に比べると、銀化合物の変色による外観の悪化という問題を生じにくいという利点も有する。
【0012】
本発明の多層樹脂成形体は、水又は水性組成物と接触する用途に使用されるものであり、当該水又は水性組成物と接触した際に銀イオンを溶出するものである。より具体的には、水又は水性組成物に対して20〜150ppbの銀イオンを溶出することができる。当該用途としては、水又は水性組成物に抗菌性を付与することが必要とされる分野であれば特に限定されず、化粧品容器、食品容器、家庭用洗剤容器、エアコン部品、自動車用部品、電気用品用部品(特に、洗濯機、加湿器、除湿機等の水とともに使用される製品用部品)、台所用品等を挙げることができる。
【0013】
本発明の多層樹脂成形体は、複層からなるものであり、かつ、水又は水性組成物と接触する層が銀イオンを溶出する機能を有する樹脂組成物からなるものである。
【0014】
本発明の多層樹脂成形体は、水と接触する部位を構成する樹脂組成物として、銀イオンを溶出し得る溶解性ガラス及び合成樹脂を含有する抗菌性樹脂を使用することが必要である。このような樹脂組成物を使用することによって、銀イオンの溶出による抗菌性を高い水準で得ることができる。
【0015】
上記溶解性ガラス粉末としてより具体的には、例えば、SiOを5〜45モル%、Bを40〜85モル%、NaOを5〜20モル%含有するガラス中に銀を含有させたもの等を挙げることができる。このような溶解性ガラス粉末は、例えば、特開2008−114138号に記載された方法等によって得ることができる。
【0016】
上記溶解性ガラス100質量%に対して、銀はAg元素換算で0.2〜1.0質量%とすることができ、0.3〜0.8質量%、特に0.4〜0.6質量%であることが好ましい。
【0017】
上記溶解性ガラスは、合成樹脂に配合し易くするために粉末であることが好ましい。上記ガラスの粉末の粒径は特に限定されないが、平均粒子径が5〜60μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。粒径が5〜60μmであれば、銀イオンが抗菌性樹脂層から放出され易く、所要量の銀イオンの放出に長時間を必要とせず、例えば、水と抗菌性樹脂層とを18〜30時間、特に20〜28時間、更に22〜26時間接触させれば、所要量の銀イオンが水又は水性組成物に供給される。また、ガラスの配合量も多くを必要とせず、樹脂成形体の成形性が低下することもなく好ましい。
【0018】
上記溶解性ガラスは、抗菌性樹脂層を構成する樹脂組成物に対して、0.5〜3質量%の割合で含まれることが好ましい。
【0019】
上記抗菌性樹脂層に用いられる合成樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種の合成樹脂を用いることができる。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0020】
上記抗菌性樹脂層は、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。上記その他の成分としては、着色顔料、色素、その他の抗菌剤等を挙げることができる。特に隠蔽性が高い着色顔料を添加すると、より外観変化が生じにくくなる点で好ましい。上記その他の抗菌剤としては、イオン性銀化合物等を挙げることができる。
【0021】
上記抗菌性樹脂層の膜厚は、100〜1000μmであることが好ましく、200〜300μmであることがより好ましい。膜厚が100μm未満であると充分な抗菌性を得られないおそれがあり、1000μmを超えると、成形性が低下する場合がある。
【0022】
本発明の多層樹脂成形体は、上記抗菌性樹脂層以外の層を少なくとも1層有するものである。当該抗菌性樹脂層以外の層は、単層であっても2層以上の複層であってもよく、構成する樹脂もポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種の合成樹脂を用いることができる。また、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体層等のガスバリア層、接着層等の機能層を有するものであってもよい。
【0023】
本発明の多層樹脂成形体は、多層を形成する少なくとも1層が高隠蔽樹脂層であることが好ましい。本発明の多層樹脂成形体は、銀化合物を含有するものであるが銀化合物は水と接触した際に変色し、外観が低下してしまうという問題を生じる場合がある。この問題の解消として、高隠蔽性樹脂層を少なくとも1層設けることにより、内部の変化で外観に影響を与えることがないという利点を有する。上記高隠蔽樹脂層は、抗菌性樹脂層であっても、その他の層であってもよい。
【0024】
上記高隠蔽樹脂層は、各種着色剤、顔料等を添加することによって、より可視光の透過を防ぐ利点を有する。このような高隠蔽層を設けることによって、内部の変化が外観上の問題につながることがない点で好ましい。
【0025】
上記高隠蔽性樹脂層を上記抗菌性樹脂層とは別途設けた隠蔽層とする場合、当該隠蔽層は内部層として設けられることが好ましい。上記隠蔽層を構成する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種の合成樹脂を用いることができる。上記隠蔽層を構成する樹脂は、上記抗菌性樹脂層を構成する樹脂と同一であってもよいし、異なる種類の樹脂であってもよい。
【0026】
上記隠蔽層を設ける場合、隠蔽層の厚みは、100〜1000μmであることが好ましい。厚みが大きすぎると、樹脂の使用量が多くなりすぎるため、コストの面で好ましくない。厚みが小さすぎると、十分な隠蔽性を得ることが困難になる場合があるため好ましくない。上記隠蔽層は、上述した成分以外に必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
【0027】
本発明の多層樹脂成形体は、上記抗菌性樹脂層以外に、第2の抗菌性樹脂層を有するものであってもよい。本発明の多層樹脂成形体が中空容器である場合は、上記第1の抗菌性樹脂層を最内層に設け、上記第2の抗菌性樹脂層は、外面の最外層に設けられたものであることが好ましい。
【0028】
中空容器の最外層において第2の抗菌性樹脂層が設けられていると、外層に対しても抗菌性、防黴性を付与できる点で好ましい。すなわち、化粧料容器、台所洗浄剤用容器、浴室洗剤用容器、食品容器、調味料容器等に中空容器を使用することが一般的に行われている。このような容器においては、中空容器外面が、使用者によって繰り返し触られたり、使用局面において汚れが付着し、これに黴が発生したりしやすい。このような黴の発生が生じた場合には、外観が著しく悪化するだけではなく、衛生的にも好ましいものではない。
【0029】
更に、近年、中身のみを購入して詰め替えて使用し、容器を長期間使用することが行われている。このような詰め替え用容器は、長期間にわたって使用されるものであることから、このような黴の発生による問題はより大きなものとなる。
【0030】
上述したような最外層に第2の抗菌性樹脂層が設けられた中空容器は、内填物に対する抗菌性能のみではなく、外部に対しても抗菌性を付与することができるという利点も有する。
【0031】
上記第2の抗菌性樹脂層は、その組成において、上記抗菌性樹脂層と同一のものを使用することができる。すなわち、水と接触することによって銀イオンを溶出し得る溶解性ガラス及び合成樹脂を含有する樹脂組成物からなるものであることが好ましい。
【0032】
上記第2の抗菌性樹脂層は、上記抗菌性樹脂層よりも少ない銀の量を含有する樹脂組成物からなるものであってもよい。内面においては、内填物である水性組成物に溶出して抗菌性を付与することが要求されるため、ある程度の銀イオンの溶出能が必要とされるが、外面の場合は容器外面自体が防黴性能を発揮する程度に銀イオンが存在すればよい。更に、銀イオンによって抗菌効果が発揮されるに際しては、銀による着色・変色が発生する。このような着色・変色は意匠が変化することによって、使用者に不安を与えることがあるため、できるだけ少ないことが好ましい。よって、銀化合物の添加量を上記抗菌性樹脂層よりも同等もしくは少なくすることが好ましい。
【0033】
より具体的には、上記溶解性ガラスは、第2の抗菌性樹脂層を構成する樹脂組成物に対して、Ag換算で0.05〜7質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましい。
【0034】
上記第2の抗菌性樹脂層は、着色顔料等を有するものであってもよい。上記第2の抗菌性樹脂層は、基本的には最外層として使用することが好ましいが、必要に応じて印刷層等を設けてもよい。上記第2の抗菌性樹脂層は、上述した成分以外に必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
【0035】
上記第2の抗菌性樹脂層の膜厚は、100〜1000μmであることが好ましく、200〜300μmであることがより好ましい。膜厚が100μm未満であると充分な抗菌性を得られないおそれがあり、1000μmを超えると、成形性が低下する場合がある。
【0036】
本発明の成形体を構成する層は、1層が高いバリア性を有する層であることが好ましい。高いバリア性を有する層とすることによって、内填物の長期保存安定性が良好なものとなる点で好ましい。上記高いバリア性を有する層としては、エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂層等を挙げることができる。
【0037】
本発明の多層樹脂成形体は、複数の層を有するものであるが、層間の親和性が悪い場合には、接着層を設けてもよい。接着層としては、公知の任意の接着性樹脂を使用することができる。
【0038】
以上、詳述した多層樹脂成形体の層構成の好適な一例を図1に示す。図1に示した多層樹脂成形体は、外層から順に抗菌性樹脂層1、接着層2、高いバリア性を有する層3、接着層3、抗菌性樹脂層5を積層したものである。更に、このような積層体の抗菌性樹脂層は、抗菌性樹脂層1及び/又は抗菌性樹脂層5に高隠蔽性を付与することによって、銀の変色による外観変化を抑制することができる。
【0039】
本発明の多層樹脂成形体は、形状を特に限定するものではなく、中空形状、シート、トレイ、フィルム、パウチ容器等の任意の形状のものとすることができる。なかでも、中空形状の容器であって、中に水又は水性組成物を充填するものに特に好適に使用することができる。
【0040】
本発明の多層樹脂成形体は、その製造方法が特に限定されるものではないが、溶融成形によって行うことが好ましい。より具体的には、多層ブロー成形、多層押出成形、インフレーション成形、射出成形等の任意の成形方法によって成形されたものであってよい。上述した中空形状の容器を製造するためには、多層ブロー成形が好ましい。
【0041】
溶解性ガラス及び合成樹脂の混合は、公知の方法で行うことができ、例えば、混練、ドライブレンド等によって行うことができる。また、上記溶解ガラスを高濃度で含有するマスターバッチを製造して、これを樹脂とブレンドして使用することもできる。
【0042】
本発明の多層樹脂成形体は、水系化粧料用容器として、好適に使用することができる。本発明の多層樹脂成形体に充填することにより、内填物に優れた抗菌性を付与することができるため、パラベン等の防腐剤を減量することができ、安全性を高めることもできる。更に、容器の外層にも抗菌性を付与することができるため、詰め替え用中身を購入して、本体容器に詰め替え、本体容器を繰り返し使用される場合においても防カビや抗菌性能等を得ることが出来る。
【0043】
上記水系化粧料としては特に限定されず、ローション、乳液、クリーム、ジェル等の基礎化粧料、シャンプー、ボディーソープ、ハンドソープ等の洗浄用組成物、リンス、トリートメント等の毛髪用化粧料等の任意のものに対して使用することができる。
【0044】
更に、本発明の多層樹脂成形体は、殺菌剤容器として使用することもできる。本発明の多層樹脂成形体を殺菌容器として使用すると、精製水を入れることによって容器から溶出した銀イオンによる殺菌効果を有する殺菌水を提供することができる。更に、アルコール殺菌水等のように手荒れの問題を生じることは少なく、使用感の優れた安全な殺菌水を提供できる、という利点も有する。
【0045】
本発明の多層樹脂成形体は、空調機用部品として使用することもできる。特に、エアコン、カーエアコン等の空調機器において、凝集水と接触する樹脂部品として使用すると、凝集水との接触による細菌の増殖による悪臭を防止することができるため、好ましい。
【0046】
本発明の多層樹脂成形体である中空容器中に、イオン性銀化合物を含有する水性組成物を充填した多層樹脂成形体入り水性組成物も、本発明の一つである。すなわち、中空容器中にイオン性銀化合物を添加した水性組成物を充填することによって、配合した銀イオンが長期間の保存によって減少しても、その後、銀イオンが溶出することによって、抗菌性能が低下しない。更に、当初に銀イオンを配合していることから、容器からの銀イオンの溶出速度が低くなり、容器からの銀イオン溶出による抗菌性能を長期間にわたって維持することができる、という利点も有する。
【0047】
上記水性組成物におけるイオン性銀化合物は、組成SiO、B、Na0、Ag0からなる銀化合物(粉末)が含まれている銀バッチ(PP、PE等)が水性組成物と接触する時に析出してくる水溶液であることが好ましい。このような水溶液は、除菌力、抗菌力、防黴力が強い特性があり、大腸菌、緑膿菌、MRSA、カンジダ、白癬菌、黒皮黴、黄色ブドウ球菌、ウィルス等に効果がある点で特に好ましいものである。
【0048】
上記水性組成物において、イオン性銀化合物は、20〜3000ppbの割合で含まれるものを使用することが好ましい。20ppb未満であると、抗菌性能を充分に得ることができない点で好ましくなく、3000ppbを超えると、容器の変色等を生じやすい点で好ましくない。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、配合量はすべて質量%を表す。
【0050】
(抗菌性樹脂層用樹脂組成物のマスターバッチ)
SiO10モル%、B80モル%及びNaO10モル%の組成のガラスに、AgOを0.5質量%(ガラスとAgOとの合計を100質量%とする。)配合した溶解性ガラスを調製し、これを粉砕して粒径40μm以下の粉末とした。その後、この粉末10質量%(樹脂組成物を100質量%とする。)を高密度ポリエチレンに配合した樹脂組成物を調製した。
【0051】
(銀イオン水の抗菌性テスト1)
上記製造方法によって得られたマスターバッチを精製水と接触させて24時間放置することによって銀イオン水を得た。この銀イオン水を濃縮・希釈することによって、50ppb、150ppb、500ppb、1000ppbの銀イオン水を調製した。これらの銀イオン水それぞれについて、表1に示した量の黄色ブドウ球菌を添加し、30分、4時間、8時間経過後にそれぞれ液中の菌数を確認した。同じ条件で精製水についてもテストを行った(control)。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記表1の結果から、上記銀イオンを溶出し得る溶解性ガラス及び合成樹脂からなる樹脂組成物が水と接触した際に生じる銀イオン水は、高水準の抗菌性能を有するものであることが明らかである。
【0054】
(銀イオン水の抗菌性テスト2)
上記製造方法によって得られたマスターバッチにポリプロピレン樹脂を混合して、溶解性ガラス粉末を0.5質量%含有するポリプロピレン樹脂のプレート状成形体を得た。この成形体について、JIS Z 2801に従い、試験片の表面の1/500の普通ブイヨンで調製した菌液(黒カビ;Cl. cladosporiodes)を滴下し、フィルムで密着させ35℃で保存した。24時間経過後の菌数を測定した。試験は3つのサンプルに対して同じ試験を行い、平均値を示した。同様の試験を上記溶解性ガラス粉末を含まないポリプロピレン成形体に対しても行った(control)。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果から、本発明において用いられる抗菌性樹脂層は、黴に対する抗菌性能を有していることが明らかであり、多層樹脂成形体の最外層として用いた場合にも、防黴性を得ることができることが示された。
【0057】
(多層樹脂成形体の製造)
下記表2に含有する組成を有する樹脂組成物を最内層とし、外層に高密度ポリエチレンを外層とし、図1に示す複層構造を有するボトル形状の多層中空容器を多層ブロー成型によって得た。比較例として、高密度ポリエチレンの単層中空容器をブロー成型によって得た。
【0058】
【表3】

【0059】
(化粧水の調製)
以下の組成を有する美容液を通常の化粧料製造方法に基づいて調製した。
【0060】
実施例1 化粧水 wt%
エタノール 7.5
プラセンタエキス 0.05
D−パントテニルアルコール 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
フェノキシエタノール 0.3
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 0.3
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.05
エデト酸二ナトリウム 0.05
濃グリセリン 3.5
1,3−ブチレングリコール 2.5
ポリグリセリン 0.5
キサンタンガム 0.5
ソルビット液 5.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
精製水 to 100
【0061】
実施例2
実施例1において、組成物の全量に対して70質量%の割合で銀イオン水(銀イオン1000ppb含有)を精製水に変えてを使用する以外は、実施例1と同様にして化粧水を調製した。なお、ここで使用した銀イオン水は、上記製造方法によって得られたマスターバッチを精製水と接触させて24時間放置することによって得られたものを濃縮・希釈したものである。
【0062】
上記多層中空容器に実施例1,2の化粧水、精製水、銀イオン水を充填したものを作成した。このような美容液について抗菌性を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0063】
比較例の高密度ポリエチレンの単層中空容器を使用して、同様の試験を行った。更に、ダンディ瓶に実施例1,2の化粧料組成物を充填して40℃にて保存したときの銀イオン濃度及び抗菌性能を測定した。なお、銀イオン濃度及び抗菌性能の測定は、以下に示す測定方法によって行った。
【0064】
(イオン濃度)
室温で1週間経過後に容器中の組成物について、原子吸光装置(島津AA-6300)によって銀イオン濃度を測定した。
【0065】
(抗菌性能)
抗菌性試験は、試料液5gに混合菌液(カビ2種・酵母1種・細菌4種)を10cfu/mL初期菌数になるように接種し、1〜5週間32℃で培養後、菌数測定を行なった。同様の試験を40℃で保存して行った。
【0066】
【表4】

【0067】
表3の結果から、本発明の多層樹脂成形体である多層中空容器は、内填物に対して優れた抗菌性を付与する効果を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の多層樹脂成形体は、飲料水、水系食品、水系化粧料等の保存容器、殺菌剤容器、空調機用部品、自動車用部品、電気用品用部品(特に、洗濯機、加湿器、除湿機等の水とともに使用される製品用部品)、台所用品等に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 第2の抗菌性樹脂層
2 接着層
3 高いバリア性を有する層
4 接着層
5 第1の抗菌性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と接触することによって銀イオンを溶出し得る溶解性ガラス及び合成樹脂を含有する抗菌性樹脂層を水と接触する部位に有することを特徴とする多層樹脂成形体。
【請求項2】
多層樹脂成形体を構成する層のうち、少なくとも1層が隠蔽性を有する層である請求項1記載の多層樹脂成形体。
【請求項3】
成形体を構成する層のうち、少なくとも1層が高いバリア性を有する層である請求項1又は2記載の多層樹脂成形体。
【請求項4】
多層ブロー成形により得られる請求項1、2又は3記載の多層樹脂成形体。
【請求項5】
水系化粧料用容器である請求項1、2、3又は4記載の多層樹脂成形体。
【請求項6】
イオン性銀化合物を含有し、請求項1、2、3、4又は5記載の多層樹脂成形体中に充填されたものであることを特徴とする多層樹脂成形体入り水性組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−161818(P2011−161818A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27861(P2010−27861)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(306018365)クラシエホームプロダクツ株式会社 (188)
【出願人】(505053235)株式会社アリカコーポレーション (5)
【Fターム(参考)】