説明

多層積層構造体、その製造方法および製造装置

【課題】炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの片面または片面ずつ逐次両面に制御された厚みでフッ化処理された層を形成すること。
【解決手段】炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの片面を回転するロールの表面に密着させて保護しつつフィルムまたはシートを搬送し、その間に保護されていない方の片面をフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスに暴露してフッ化処理することにより、保護されていない方の片面にフッ化重合体層を形成させる。未処理面に同様なプロセスを行うことで炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの両面にそれぞれ独立に層厚制御されたフッ化重合体層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系重合体またはその組成物のフィルムまたはシートの表面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体に関し、特に、炭化水素系重合体またはその組成物のフィルムまたはシートの片面または両面に層厚制御されたフッ化重合体層を有する多層積層構造体、その製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成高分子材料や天然高分子材料にフッ素含有ガスで表面処理を施すことで撥水性や親水性を付与したりする表面改質方法は、材料に特殊な機能や性能を付与する手段として極めて有用であると考えられている。その処理方法に関しては既に数多くの提案がなされているが、産業上の利用に関しては未だ限られた範囲に留まっているのが現状である。
【0003】
例えば、特許文献1では、合成もしくは天然高分子材料をフッ素含有ガスで処理を施して撥水性または親水性を付与する方法を提案しているが、産業上で安価に利用するための具体的な提案が必ずしもなされているとはいえない。
【0004】
また、特許文献2では、ウェブ表面をフッ素含有ガスで改質処理する連続処理装置が開示されている。この提案は、ウェブの両表面を連続的に均等に処理する方法としては興味あるものであるが、残念ながら該方法ではウェブ片面だけを選択的に処理したり、ウェブの両面にそれぞれ独立に処理皮膜を形成させることはできない。
【0005】
一方、特許文献3では、脂環構造含有重合体を特定の条件下でフッ素含有ガス処理することで、成形体表層部のフッ素原子含有量が内層部より高い成形体が提案されている。該方法は、小さな部品の表面処理方法としては利用可能であるが、大面積あるいは長尺のフィルムの処理には適しているとはいえず、産業的に有効な低コストの連続的な処理方法を提供するものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−194125号公報
【特許文献2】特開平9−227705号公報
【特許文献3】特開2005−290118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、フィルムやシートの片面だけに選択的に特殊な機能性付与を狙った処理を施す場合、異質材料をラミネートしたりコーティングすることが一般的に行われている。しかし、それらの場合、異種材料を接着する為に特殊な接着剤を用いたりすることも多く、ともすると接着剥がれが起こることもあり異種層の界面の欠陥に伴う欠点が実用上問題となることも多かった。
【0008】
界面の欠陥が少ないと思われる直接フッ化による表面の機能化処理では、フッ素含有ガスの取り扱い難さからその表面処理は小型の部品や成形体を均一に処理するに留まり、大面積を効率よく処理する方法の提案は少ない。また、フッ素含有ガスの毒性および危険性のために一つの製品の部位毎にその処理の仕方や程度を変えて性能や機能を制御するということも実施し難く、フッ素含有ガス処理技術の産業上の積極的な実用化に限界があるのが現状である。
【0009】
本発明者らは、フッ素含有ガスで成形体表面をフッ化処理して得られる材料が持っている産業上の有益性に鑑みて、炭化水素系重合体またはその組成物(以下、炭化水素系重合体等と略称することがある)からなるフィルムまたはシートの片面に制御された厚みでフッ化処理された層を形成させるプロセスを鋭意検討した。
【0010】
フッ化処理される前の炭化水素重合体等が有する長所を失うことなく片面に選択的にフッ化重合体層を形成して機能付与をすることが第一の課題である。フッ化処理されたフィルムやシートの産業上の利用価値を高めるためには大面積あるいは長尺のフィルムやシートを連続的に効率よくフッ化処理することが求められる。これが第二の課題である。フィルムやシートの両面にそれぞれ独立に層厚制御されたフッ化重合体層を形成させて、両表面を独立に性能・機能コントロールした多層積層構造体を連続的に製造することは、産業上の要請があるにも拘わらず実現されていなかった。これに挑戦することが第三の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を念頭に置き、特定の面を選択的に且つ連続的にフッ素含有ガスでフッ化処理するプロセスの発明に向けて鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、(1)フッ素ガスと不活性ガスとからなるガス(以下、フッ素含有ガスと略称することがある)で処理すべきフィルムまたはシート(以下、未処理原反と略称することがある)の供給を行うゾーン(以下、準備ゾーンと略称することがある)と未処理原反をフッ素含有ガスと接触させるゾーン(以下、処理ゾーンと略称することがある)とを相互にある程度の気密性が保たれるように区分し、(2)処理ゾーン内に送り込まれた未処理原反のフッ素含有ガスと接触させたくない面を搬送を兼ねた搬送ロール表面に密着させることでガスとの非接触を保ち、(3)処理ゾーン内では制御されたフッ素ガス濃度、温度、滞留時間等の処理条件下に未処理原反を暴露しフッ素ガスと接触させることで未処理原反の片面のフッ化処理を行い、(4)処理の終了したフィルムまたはシート(以下、処理済原反と略称することがある)は、保護された片面が搬送ロールから離れる前もしくは離れると同時に準備ゾーン内に収容されることで片面を選択的に且つ連続的にフッ素含有ガスで処理し厚みの制御されたフッ化重合体層を形成せしめる二層積層構造体の連続フッ化プロセスを発明するに至った。
【0012】
また、炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの片面に選択的かつ連続的にフッ化重合体層を形成させる技術を開発することに成功したことにより、片面処理済原反を新たな未処理原反として用いて未処理面に同様なプロセスを応用して処理を行うことで炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの両面にそれぞれ独立に層厚制御されたフッ化重合体層を形成することが可能となり、両面それぞれ独立に機能設計することが可能となった。
【0013】
要約すると、本発明は、炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの片面または片面ずつ逐次両面をそれぞれ独立の条件下でフッ素含有ガスで処理することで、制御された厚みおよび屈折率のフッ化重合体層を有する二層または三層積層構造体、総称して多層積層構造体を提供するものであり、該多層積層構造体の連続製造プロセスを提供するものである。
【0014】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔11〕の事項を含む。
〔1〕炭化水素系重合体またはその組成物からなるフィルムまたはシートの片面または両面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体であって、該フッ化重合体層の分光エリプソメトリーによって求められた層厚みが0.01〜4μmであり、且つ屈折率が1.30〜1.50であることを特徴とする多層積層構造体。
【0015】
〔2〕フッ化重合体層が、フィルムまたはシートをフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスでフッ化処理することにより形成されることを特徴とする上記〔1〕に記載の多層積層構造体。
【0016】
〔3〕フッ化重合体層の分光エリプソメトリーによって求められた層厚みが0.04〜2μmであり、屈折率が1.35〜1.45であることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の多層積層構造体。
【0017】
〔4〕フィルムまたはシートが、炭化水素系重合体またはその組成物からなる単層構造または二種以上の層からなる多層構造であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の多層積層構造体。
【0018】
〔5〕フィルムまたはシートが、延伸フィルムまたは延伸シートであること特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の多層積層構造体。
【0019】
〔6〕フィルムまたはシート中に含まれるゲルおよびフィッシュアイが10個/m2下であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の多層積層構造体。
【0020】
〔7〕炭化水素系重合体が、ポリオレフィン、ポリスチレン、水添スチレンージエンブロック共重合体および脂環構造含有炭化水素系重合体からなる群から選択されることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の多層積層構造体。
【0021】
〔8〕多層積層構造体の厚みが、8μm〜3mmであることを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の多層積層構造体。
【0022】
〔9〕炭化水素系重合体またはその組成物からなるフィルムまたはシートの片面を回転するロールの表面に密着させて保護しつつフィルムまたはシートを搬送し、その間に保護されていない方の片面をフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスに接触させてフッ化処理することにより、保護されていない方の片面にフッ化重合体層を形成させることを特徴とする多層積層構造体の製造方法。
【0023】
〔10〕前記フッ化重合体層が形成された方の片面を回転するロールの表面に密着させて保護しつつフィルムまたはシートを搬送し、その間に保護されていない方の片面をフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスに接触させてフッ化処理することにより、保護されていない方の片面にフッ化重合体層を形成させることを特徴とする上記〔9〕に記載の多層積層構造体の製造方法。
【0024】
〔11〕炭化水素系重合体またはその組成物からなるフィルムまたはシートの片面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体の製造装置であって、
気密可能な処理槽の内部を仕切ってなる処理ゾーンおよび準備ゾーンと、処理ゾーンにフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスを供給するためのガス供給源とを備え、
準備ゾーン内には、未処理フィルムまたは未処理シートを供給するための供給ロールと、処理済フィルムまたは処理済シートを巻取るための巻取ロールとが設けられ、
供給ロールから供給されて巻取ロールで巻取られるフィルムまたはシートは、処理ゾーンと準備ゾーンとの気密性を保持できる状態で、処理ゾーンと準備ゾーンとの間の少なくとも一部を仕切りながら、処理ゾーン内に供給されたガスと接触してフッ化処理されることを特徴とする多層積層構造体の製造装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フッ化処理される前の炭化水素重合体等が有する長所を失うことなく片面に選択的にフッ化重合体層を形成して機能付与をすることができる。また、本発明によれば、大面積あるいは長尺のフィルムやシートを連続的に効率よくフッ化処理することができる。更に、本発明によれば、フィルムやシートの両面にそれぞれ独立に層厚制御されたフッ化重合体層を形成させて、両表面を独立に性能・機能コントロールした多層積層構造体を連続的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。
(フッ化処理プロセス)
図1は、本発明の実施の形態に係る多層積層構造体の製造装置の模式断面図である。
図1に示すように、多層積層構造体の製造装置は、外部との気密性が保たれるように作製された円筒状の処理槽(1)の内部を仕切ってなる準備ゾーン(2)および処理ゾーン(3)と、処理ゾーン(3)にフッ素ガスを供給するF2ガス供給ライン(35)と、処理ゾーン(3)に窒素ガスを供給するN2ガス供給ライン(34)とを備えている。処理槽(1)の形状は、円筒状に限られるものではなく、準備ゾーン(2)と処理ゾーン(3)とが確保できるものであれば如何なる形状であってもよい。準備ゾーン(2)内には未処理原反を供給する供給ロール(12)と処理済原反が巻き取られる巻取ロール(13)とが収納される。処理ゾーン(3)内には搬送ロール(14)が設置されている。搬送ロール(14)は未処理原反の片面をフッ素含有ガスとの接触から保護する役割を担うと共に、処理中の原反(単に原反と略称することがある)を搬送する役割を担う。準備ゾーン(2)と処理ゾーン(3)との間は、隔壁(11)によって部分的に仕切られると共に、供給ロール(12)から供給されて巻取ロール(13)で巻取られる原反によって準備ゾーン(2)と、処理ゾーン(3)との気密性を保持できる状態で少なくとも一部が仕切られている。未処理原反が準備ゾーン(2)から処理ゾーン(3)へと搬送される入口部に入口側ニップロール(21)が設置され、処理済原反が処理ゾーン(3)から準備ゾーン(2)へと搬送される出口部に出口側ニップロール(22)が設置される。準備ゾーン(2)から処理ゾーン(3)へと搬送される未処理原反は、入口側ニップロール(21)によってその裏面を搬送ロール(14)に密着させられる。原反は密着状態を保ったままで搬送ロール(14)の回転に伴って回転方向に移動する。原反の表面は処理ゾーン内のフッ素含有ガス雰囲気中に暴露されフッ素ガスとの接触でフッ化処理が行われる。処理済原反は、出口側ニップロール(22)および搬送ロール(14)から離れる前もしくは離れると同時に準備ゾーン内に搬送され、巻取ロール(13)で巻き取られる。
【0027】
(炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシート)
本発明に用いられる炭化水素系重合体は、その構成原子が炭素原子および水素原子のみからなる重合体であればよいが、具体的にはポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン−ジエン共重合体およびその水添品、脂環構造含有炭化水素系重合体が代表的には挙げられる。
【0028】
ポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体およびエチレンブテン共重合体等のエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレンプロピレンランダム共重合体およびエチレンプロピレンブロック共重合体等のプロピレン系重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテン等が代表例として挙げられる。中でもエチレン系(共)重合体、プロピレン系(共)重合体が取り扱い易く好ましく、市販品を容易に入手することができる。
【0029】
スチレン−ジエン共重合体としては、スチレン−ジエンランダム共重合体、スチレン−ジエンブロック共重合体およびそれらの水添品が挙げられる。例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、水添スチレンーブタジエンランダム共重合体、水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン−イソプレンブロック共重合体等が代表例として挙げられる。スチレン−ジエンブロック共重合体の水添品は、その水添構造から、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・イソブチレン−スチレンブロック共重合体と呼ばれることも多く、市販品を容易に入手することができる。中でも水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水添スチレン−イソプレン共重合体がポリマーの耐候安定性の点で好ましい。
【0030】
脂環構造含有炭化水素系重合体としては、脂環構造を有する炭化水素モノマーをメタセシス重合して得られる重合体、それらの水素添加物、脂環構造を有する炭化水素モノマーとオレフィンとをメタロセン触媒により共重合することによって得られる重合体が代表例として挙げられる。代表的にはノルボルネンのメタセシス重合体およびその水添物、ジメタノナフタレンのメタセシス重合体およびその水添物、エチレンとノルボルネンおよび/またはジメタノナフタレンのメタロセン触媒による共重合体に代表されるエチレンとノルボルネン誘導体のメタロセン触媒による共重合体等が挙げられる。中でも重合体の安定性の観点からエチレンとノルボルネン誘導体のメタロセン触媒による共重合体がその安定性や光学特性の点から好ましい。
【0031】
ポリスチレン、水添スチレンージエンブロック共重合体、脂環構造含有炭化水素系重合体等の非晶性炭化水素系重合体のフィルムまたはシートから得られる多層積層構造体は透明性が高く、光学用途にも利用が期待される。
【0032】
これまで例示してきた炭化水素系重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定することができ、キシレンまたはo−ジクロルベンゼン中で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)で20,000〜1、000,000であり、好ましくは30,000〜300,000である。
【0033】
本発明に用いられる炭化水素系重合体またはその組成物は、顔料や染料の如き着色剤、熱安定剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0034】
本発明では、炭化水素系重合体は単独で用いることができるが、上記した炭化水素系重合体同士の組成物として用いることもできる。また必要に応じてフィルムやシートの成形性を損なわない程度に充填剤を配合した組成物とすることも可能である。
【0035】
本発明における炭化水素系重合体等のフィルムまたはシートとは、炭化水素系重合体等を公知の手段により、例えば、押出し成形またはインフレーション成形等の手段で容易に製造されるが、既に包装資材用や物流資材用として市場から入手できる場合もあり、これらを用いることも可能である。フィルムやシートは未延伸のもの延伸されているもののいずれでも使用することができる。本発明に使用するフィルムやシートに延伸されたものを使用することにより、延伸フィルムや延伸シートのシュリンク耐熱性を付加することが可能となる。また、本発明に使用するフィルムやシートにゲルおよびフィッシュアイが少ないものを使用することによりゲルおよびフィッシュアイの少ないフッ化重合体層を有する多層積層構造体とすることが可能となる。特に、該ゲルおよびフィッシュアイの存在が多くとも10個/m2のフィルムやシートを使用することにより、光学、電子情報関係用途に好適な材料とすることが可能となる。更に、好ましくは該ゲルおよびフィッシュアイの存在が多くとも1個/m2である。
【0036】
本発明における炭化水素系重合体等のフィルムまたはシートは、炭化水素系重合体等からなる単層品でもよいが、フィルムまたはシートに求められる要求性能に応じて、異なる炭化水素系重合体等からなる二層以上の層を有する多層フィルムまたは多層シートであっても構わない。これらの多層フィルムまたは多層シートは、共押出し法、共インフレーション法、押出しラミネート法等の成形手段で製造することができる。層間を接着するために接着剤を用いたものを使用しても構わないが、層間に特別の接着剤を使用しない共押出し法または共インフレーション法で作製されるフィルムやシートのように層間に異種の接着剤を使用しないものの方が実用時の耐久性の点から好ましい。
【0037】
本発明に用いられる炭化水素系重合体等のフィルムまたはシートの厚みは、8μm〜3mmであり、好ましくは20μm〜2mmである。8μm未満ではフッ化処理に際しての取り扱いが極めて難しく現実的でない。3mmを超える厚みのシートは、材料が硬くなると取り扱いが困難である。なお、フィルムまたはシートをフッ化処理しても厚みは変化しない。
【0038】
本発明ではフィルムまたはシートは準備ゾーン(2)において供給ロール(12)に巻かれた状態で供給される。従って、硬質の炭化水素系重合体等ではその厚さ次第では供給ロール(12)に巻き取りが出来ないものもあり、未処理原反が確保できないケースもある。本発明では厚い未処理原反を単一の材料で準備する必要は必ずしも無く、一つの実施の形態としては、例えば硬質の材料の薄膜と軟質の材料の厚膜とを複層化して、未処理原反を調製することが可能である。かかる方法により、所望する材料を表面層にした未処理原反を準備することが可能である。
【0039】
本発明に用いられる炭化水素系重合体等には、常温で粘着性を有する炭化水素重合体も包含される。それらのフィルムやシートをロールに巻き取ったり、表面処理を行うに際しては、層間に粘着を防止するための剥離フィルムを介在させることで未処理原反のブロッキングを防止することもできるし、添加剤を用いることでブロッキングを防止することも可能である。
【0040】
(フッ素含有ガスによるフッ化処理)
本発明においては炭化水素系重合体等をフッ素含有ガスに接触させることでフッ化重合体層が形成されるが、フッ素含有ガスとはフッ素ガスと不活性ガスとが混合されたガスである。不活性ガスとは窒素、ヘリウム、アルゴン等であるが、経済性の観点から窒素が好ましい。
【0041】
フィルムまたはシートの未処理原反は処理ゾーン(3)内でフッ素含有ガス雰囲気に暴露されることで表面層がフッ化処理されフッ化重合体層が形成される。本発明の多層積層構造体を構成するフッ化重合体層の層厚みは求められる性能との兼ね合いで決められる。製造段階で形成される層厚みを律するのは、使用される炭化水素系重合体等の種類、フィルムやシートの表面状態にも依存するが、それらが特定されれば反応条件が重要である。反応条件とは、フッ素ガス濃度、温度および接触時間である。
【0042】
本発明に用いられるフッ素ガスは、通常、フッ化ナトリウムを添加したフッ化水素を電気分解することにより得られる。電気分解により得られたフッ素ガスを使用することも可能であるが、市販のフッ素ガス発生装置(例えば、昭和電工株式会社製エフジェネ等)から発生されるフッ素ガスを使用してもよい。また、ボンベに充填されたフッ素ガスを使用することも可能である。
【0043】
本発明におけるフッ化処理時の処理ゾーン(3)内のフッ素ガス濃度は、通常、0.05〜25体積%であり、好ましくは0.1〜20体積%である。0.05体積%未満ではフッ化処理に時間が掛かり過ぎて現実的でなく、25体積%を越える高濃度ではフッ化反応が激しすぎて望ましいフッ化重合体層の厚みの制御が困難である。処理ゾーン(3)内のフッ素含有ガスには、予め別の容器を用いて所定の濃度のフッ素含有ガスを作製したものを用いてもよいし、処理ゾーン(3)内に不活性ガスとフッ素ガスとを別個に導入して混合してもよい。
【0044】
フッ化処理に際しては、系内の水分量を極力低下させることが重要で、1ppm以下、好ましくは100ppb以下、更に好ましくは20ppbにすべきである。1ppmを超える水分はフッ素ガスと反応してフッ素ガスを分解させるだけでなく、装置の腐食の原因となり好ましくない。
【0045】
本発明におけるフッ化処理時の温度は、通常、0〜100℃であり、好ましくは10〜50℃である。炭化水素系重合体等はその種類に応じて結晶性の有無、融点、Tg等に違いがあるため、フィルムやシートは温度によって取り扱い性に大きな差がある。従って、フィルムやシートのフッ化処理時の取り扱い性をも考慮に入れた更に好ましい処理温度範囲の上限が存在する。更に好ましい処理温度の上限は、結晶性重合体ではその融点をTmとするとTmが80℃以下の重合体では〔Tm−5〕℃であり、非晶性重合体ではそのガラス転移温度をTgとするとTgが80℃以下の重合体では〔Tg−5〕℃である。0℃未満でもフッ素ガス濃度次第でフッ化処理は可能であるが、装置の冷却をも考慮すると経済性が低く実用的でない。また100℃を超える温度ではフッ化反応が激しく反応制御が難しい。
【0046】
本発明におけるフッ化処理の時間は、所望するフッ化重合体層の厚み、フッ素ガス濃度および処理温度によって変化するが、一般には2秒〜2時間であり、好ましくは10秒〜1時間である。2秒未満の短時間で処理を行うことは制御された均一な処理が難しく、また2時間を超えた長時間の処理を行うことはプロセスの経済性の点から現実的でない。
【0047】
(フッ化重合体層の確認)
本発明において炭化水素系重合体等の表面のフッ化処理の進行は、ESCA分析、分光エリプソメトリーによる分析、膜断面のSEM観察等の手段によって確認することができる。
【0048】
(分光エリプソメトリー分析法)
本発明によるフッ化重合体層を有する多層積層構造体は、フッ化重合体層の分光エリプソメトリー分析法によって求められる厚さと屈折率とで特徴付けられる。分光エリプソメトリー分析法とは、白色光を試料に斜めに照射して、その反射光の偏光状態の変化を測定し、モデル関数で解析することにより、単層膜や多層膜の膜厚および薄膜の光学定数(屈折率、消衰係数)を測定する方法である。測定可能な膜厚の範囲は、およそ1Å〜10μmである。
【0049】
本発明におけるフッ化重合体層の分光エリプソメトリーによる層厚みは0.01〜4μmであり、好ましくは0.04〜2μmである。分光エリプソメトリー分析および膜断面のSEM観察ではフッ化処理層とその内部の炭化水素系重合体等の層間には明瞭な界面が観察されることが判った。
【0050】
分光エリプソメトリーによるフッ化重合体層の解析では、分光エリプソメトリー解析における二層モデルが良く一致することからその厚みを定義することができる。炭化水素系重合体等のフッ化処理に際しては、表面から深さ方向にいくに従ってフッ化度が低下する可能性があり得た。しかし、本発明のフッ化処理においてはフッ素ガスの存在する場所ではフッ化反応の速度は極めて速く、深さ方向へのフッ化の進行速度はフッ素ガスの拡散が律速となっている可能性が示唆された。そのためにフッ化が起こっている表面層ではほぼ完全にフッ化が進行し、完全にフッ化が起こっている層とフッ化が起こっていない層との界面に部分的にフッ化が起こっている層が存在するとしてもその厚さは極めて薄いものと推定された。
【0051】
本発明の多層積層構造体の断面のSEM解析によると、フッ化重合体層と炭化水素系重合体等の層との界面を明瞭に観察することができた。この事実も部分的にフッ化が起こっている層があるとしても極めて薄い厚みであり、分光エリプソメトリーによる二層モデルでの解析がほぼよく一致することを裏付けていると考えている。
【0052】
FTIR−ATR分析で表面層近傍の観察をすることも可能であるが、この手段の解析では入射角を変えても、より深度の深い部分の情報をも含めて読み取っている可能性が高く、層厚みの限定された本発明におけるフッ化重合体層の解析手段としての活用は必ずしも有効ではない。
【0053】
本発明におけるフッ化重合体層の分光エリプソメトリーによって求められる屈折率は、1.30〜1.50であり、好ましくは1.35〜1.45である。
【0054】
本発明の方法によるフッ化処理では、フッ化反応をより進行させて積層構造体全体のフッ化度を高めた場合、フッ化重合体層の厚みを増す効果はあるが、フッ化が起こっている部分の屈折率はほぼ一定である。このことはフッ化重合体層のフッ化は部分的にフッ化が起こっている可能性のある界面層があったとしてもその層の厚みが極めて薄くそれより表面に近いフッ化重合体層のフッ化がほぼ完結した層であることを示唆している。
【0055】
(多層積層構造体)
本発明による多層積層構造体は、炭化水素系重合体等からなる層の片面または両面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体であり、フッ化重合体層の分光エリプソメトリーによる層厚みと屈折率とで特徴付けられる。
【0056】
炭化水素系重合体等からなるフィルムまたはシートの両面に存在するフッ化重合体層の厚みまたは屈折率は、本発明の方法によれば同一であっても構わないし、異なっていても構わない。単一のフィルムの両面を同時にフッ素含有ガスでフッ化処理する従来の方法と比べて、本発明の多層積層構造体は、片面に選択的にフッ化重合体層が形成されているところに、あるいは両面にそれぞれ独立に厚みおよび屈折率を制御されたフッ化重合体が形成されているところに特徴がある。
【0057】
例えば、炭化水素系重合体等のフィルムとして、屈折率の異なる二種類の炭化水素系重合体からなる共押出しフィルムを未処理原反として使用し、本発明により両面を独立にフッ化処理を行うことで、両面に異なる屈折率を有する多層積層構造体を提供することができる。
【0058】
また、単一の炭化水素系重合体等のフィルムの両面にそれぞれ異なる厚みのフッ化重合体層を形成させることで非対称構造の多層積層構造体を提供することもできる。
【0059】
これらの現実的な応用は当然のことながら本発明の範囲に包含されるものである。
【0060】
フッ化重合体層の表面の特性は、水に対する接触角でその効果を確認することが可能であるが、フッ化重合体層の厚みによってその効果は異なることが判った。
フッ化重合体層の厚みが極めて薄い場合、接触角は炭化水素系重合体等の表面の接触角に比べて低下し、フッ化重合体層の厚みが増すと共に再び接触角は向上する傾向にあることが判明した。
【0061】
かかる如く、本発明においてはそのフッ化重合体層の厚さの範囲内で厚さと共に表面の機能は変化し、厚さの変化に応じて一旦は親水化の方向に変化した表面機能が再び撥水化の方向に変化するので、フッ化重合体層の厚さを調節することで発現させる機能を調節することができる。
【0062】
フッ化重合体層の厚みが薄い時には炭化水素系重合体等よりも親水性が向上し、またフッ化重合体層の厚みが増すと共に逆に撥水性が向上するという特徴を生かして、薄いフッ化重合体層を形成することで、濡れ性の改善されたフィルムまたはシートとすることができ、厚いフッ化重合体層を形成することで、防汚性、低摩擦性の付与されたフィルムまたはシートとすることができる。
【0063】
フッ化重合体層の厚みが増すと、処理された面は他材料に接着しにくく改質されているが、フッ化処理されていない炭化水素系重合体等の面の易接着性は保持されているため、成形品表面等へ接着することで成形品表面の改質用フィルムまたはシートとしての利用も容易である。大型成形品の表面をフッ化処理して表面にフッ化重合体層を形成させることは表面の改質には有効であるが、大型成形品のフッ素化を工業的に実施するのは設備面で非常に大変である。しかし、本発明のように連続フッ素化プロセスで得られるフィルムやシートは比較的コンパクトな装置で結果として大面積の処理が可能になり、これらの多層積層構造体を大型成形品の表面に接着することで成形品の表面改質に使用することは現実的であり、経済性の点でも効率的である。
【0064】
両面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体の場合、両面のフッ化重合体層の厚みを制御することでその特徴を最も引き出すことができる。例えば、片方の面のフッ化重合体層の厚みを厚くして撥水性を持たせ、もう片方の面のフッ化重合体層の厚みを薄くしてその接触角が未処理原反の接触角よりも低くなるように制御することで易接着性にすることも可能となる。これは成形体の表面に多層積層構造体を接着して撥水性を付与したい場合に有効である。
【0065】
バッチ反応で製造される小面積のフィルムまたはシートのフッ化処理品に比べて、本発明は、大面積、長尺のフィルムまたはシートを低コストで供給できる可能性が高く、フッ素含有モノマーの(共)重合で得られるフッ素系重合体では期待出来ないコストパフォーマンスへの期待が大きく、産業上極めて有用である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、実施例は単なる例示であり、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(製造装置の概要)
まず実施に当たっての製造装置の具体的な説明をする。製造装置には、図1に示したものと同じ構成のものを用いた。
円筒状の処理槽(1)の後面は気密性を保つべく円板で封じられている。円筒状の処理槽(1)の前面は開閉可能な蓋が設置されており、蓋の閉鎖時には2kg/cm3の陽圧に耐えることができるような気密性が保たれている。
【0068】
各種ロール(12,13,14,21,22)は、後面の円板に軸受けで取り付けられ、スムーズな回転を確保することができる。該軸受けは円筒内の圧力よりも若干高い窒素ガス圧をかけることにより、処理槽(1)内のガスが流入しない工夫が施されている。また、これらの各種ロール(12,13,14,21,22)は、製造装置の外部に取り付けられた変速機構により回転速度調節および回転方向が変化させることができる。搬送ロール(14)の内部には、熱媒または冷媒を循環させる機構が設けられており、搬送ロール(14)を加熱または冷却することが可能である。
【0069】
各種ライン(31,32,33,34,35)は、処理槽(1)に出入りするガス、排気ガスの入出ラインであり、処理槽(1)外部の各種ライン上に開閉バルブが設けられている。
2ガス供給ライン(32,34)は、準備ゾーン(2)および処理ゾーン(3)のそれぞれに接続されており、F2ガス供給ライン(35)は処理ゾーン(3)のみに接続され、処理槽(1)外部で流量計がライン内に組み込まれている。
排気ガスライン(31,33)の一端は、準備ゾーン(2)および処理ゾーン(3)のそれぞれに接続されており、多端は、処理槽(1)内部のガスを減圧脱気できるように処理槽(1)の外部で排気ポンプに接続されている。排気ポンプの排気管は、乾式または湿式のフッ素排ガス処理装置に接続されており、フッ化処理により生成するフッ化水素ガスや余剰のフッ素ガスを安全に処理することができる。
また、準備ゾーン(2)および処理ゾーン(3)のそれぞれには、圧力計(36,37)が接続されている。
【0070】
処理槽(1)の内面、供給ロール(12)、巻取ロール(13)、搬送ロール(14)、F2ガス供給ライン(35)、排気ガスライン(31,33)等フッ素ガスに接触する部材の材質は、ニッケル、または、ハステロイ、モネル、インコネル等のニッケル合金が好ましいが、表面をニッケルコーティングしたステンレスを用いてもよい。
【0071】
フィルムまたはシートの表面に形成されたフッ化重合体層の解析は次の方法で行った。
(フッ素処理層の厚さおよび屈折率の測定)
ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製多入射型分光エリプソメータにより、処理済製品の処理面に形成されたフッ化重合体層の厚さおよび屈折率を測定した。
(水接触角の測定)
協和界面科学製接触角計により、処理済製品処理面の水滴の接触角を測定した。
(透過率およびヘイズの測定)
村上色彩技術研究所製ヘイズ・透過率計により、処理済製品の透過率およびヘイズを測定した。
(反射率測定)
島津製作所製紫外可視分光光度計により、処理済製品処理面の反射率を測定した。
【0072】
(実施例1〜11)
実施例1〜11では、各種フィルムまたはシート(未処理原反)を用いて二層積層構造体を製造した。
【0073】
(未処理原反のセット)
巻取ロール(13)に未処理原反を取り付け、その一端を出口側ニップロール(22)と搬送ロール(14)の間を通して搬送ロール(14)に巻き付け、更に搬送ロール(14)と入口側ニップロール(21)の間を通して供給ロール(12)に固定して未処理原反のセットを完了し、前面部の蓋を閉じた。
【0074】
(脱気処理)
排気ガスライン(31,33)上の排気バルブ(38,39)を開閉して処理槽(1)内部を0.1kPaの減圧にした後、N2ガス供給ライン(32,34)から窒素ガスを処理槽(1)内に大気圧まで満たした。
その後、排気ガスライン(31,33)上の排気バルブ(38,39)を再度開閉して処理槽(1)内部の脱気を行った。到達減圧度0.1kPa。その後、処理槽(1)の排気を続けながら、0.1kPaの減圧下で、一定速度で搬送ロール(14)を逆回転させて、巻取ロール(13)に巻いた未処理原反を供給ロール(12)に巻取り、未処理原反の表面を脱気した。
【0075】
(フッ化処理)
準備ゾーン(2)および処理ゾーン(3)の排気ガスライン(31,33)上の排気バルブ(38,39)を閉じ、F2ガス供給ライン(35)より処理ゾーン(3)に予め窒素ガスで希釈したフッ素ガスを、N2ガス供給ライン(32)より準備ゾーン(2)に窒素ガスを同程度の供給速度で供給し、準備ゾーン(2)、処理ゾーン(3)内の圧力を、処理ゾーン(3)のガスが準備ゾーン(2)に流入することを防止するために、それぞれのゾーンの内圧を100kPaとした。
次いで、準備ゾーン(2)に窒素ガスを、処理ゾーン(3)に予め窒素ガスで希釈したフッ素ガスを、それぞれ、所定の流量で供給し、同時に排気バルブ(39)を調整して、準備ゾーン(2)の圧力を100kPaに保ち、かつ処理ゾーン(3)の圧力が100kPaを上回らないように、処理ゾーン(3)内のガスを排気ガスライン(33)から排気した。
搬送ロール(14)内に所定温度に加熱した熱媒を循環し、搬送ロール(14)を所定温度に過熱した。
搬送ロール(14)を正方向に所定速度で回転させ、未処理原反のフッ化処理を行い、処理済原反を巻取ロール(13)に巻き取った。原反の処理ゾーン(1)内での処理時間は搬送ロール(14)の回転速度で調節し、巻取ロール(13)の回転はテンションコントロールによって調節した。
【0076】
(終了操作)
所定量の処理が終了した後、窒素ガスで希釈したフッ素ガスの供給を停止し、排気ガスライン(33)の排気バルブ(39)を全開にし、処理ゾーン(3)内のガスを排気した。次いで、窒素ガスの供給を停止し、排気ガスライン(31)の排気バルブ(38)を全開にし、準備ゾーン(2)内のガスを排気した。処理ゾーン(3)、準備ゾーン(2)内の圧力が0.1kPaになるまで減圧し、処理槽(1)内のフッ素ガスや反応生成物であるフッ化水素ガスを除去した。
【0077】
(処理済原反の後処理)
処理槽(1)内の排気を続けながら、0.1kPaの減圧下で、一定速度で搬送ロール(14)を逆回転して、巻取ロール(13)の処理済原反を供給ロール(12)に巻取りながら、処理済原反に吸着したフッ素ガスやフッ化水素ガスを除去した。処理済原反の後処理終了後、N2ガス供給ライン(32,34)から窒素ガスを供給した。処理槽(1)内の圧力が大気圧となったところで、窒素ガスの供給を停止し、前面の蓋を開け、処理済製品を取り出した。
【0078】
(実施例1〜11の結果のまとめ)
実施例1〜11で用いたフィルムまたはシート(未処理原反)の種類と物性値を表1に示した。低密度ポリエチレンフィルムは、日本ポリエチレン製の市販品LF521Hである。ポリプロピレンフィルムは、サンアロマー製の市販品PF724Sである。ポリスチレンフィルムは、旭化成ライフ&リビング製の市販品GMNOである。また、シクロオレフィンコポリマーは恵和製の市販品オプコンシートである。これらのフィルムまたはシートを用いて、上記した製造方法に従い表2にまとめた製造条件でフッ化処理を行ない、得られた片面にフッ化重合体層を有する二層積層構造体のフッ化重合体層の解析結果を表2にまとめて示した。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
フッ素ガスには、昭和電工株式会社製の市販品20%フッ素/窒素ガスボンベ(窒素ガスで20体積%に希釈されたフッ素ガス)を使用した。
【0082】
表2において、F2濃度とは、準備ゾーン(2)および処理ゾーン(3)それぞれに供給された窒素ガスで希釈したフッ素ガスと窒素ガスとの流量比から求めた値である。処理温度とは内部に熱媒を循環させることで温度調節された搬送ロール(14)の熱媒の入口温度であり、処理時間とは原反が処理ゾーン(3)内を通過するに要する時間である。実施例1〜11において、搬送ロール(14)に密着させることでフッ素含有ガスとの接触を防止された炭化水素系重合体の面は、屈折率および水接触角はフッ化処理前と殆ど変化がなかった。このことから、本実施例の製造装置を用いて製造される炭化水素系重合体のフッ化処理品は、片面に選択的にフッ化重合体層が形成された二層積層構造体であることが明らかである。
【0083】
本実施例の二層積層構造体のフッ素化重合体層の厚さは、二層積層構造体断面のSEM写真からも測定することができる。図2に実施例7の二層積層構造体断面のSEM写真を示した。フッ化重合体層と炭化水素系重合体等の層との界面が明瞭に観察することができ、フッ素化重合体層の厚さを測定することができる。二層構造体断面のSEM写真から求められたフッ素化重合体層の厚さは、分光エリプソメトリーにより求められた値と一致した。また、フッ素重合体層の厚さを制御することにより、二層積層構造体表面の反射率を低減させることができる。図3および図4に、実施例8および実施例11それぞれの二層積層構造体のフッ素化重合体層表面の反射率を未処理原反表面の反射率と共に示した。フッ素化処理により、反射率が低減したことが明らかである。
【0084】
このように、本発明の片面にフッ化重合体層を有する二層積層構造体は、炭化水素系重合体等の上に屈折率の低いフッ素化重合体層が設けられた構造を有する。フッ化重合体層の厚みを制御することにより、反射率を低下させることが可能であり、反射防止フィルム、反射防止シート等に使用することができる。
【0085】
(実施例12〜14)
実施例1〜11で用いた炭化水素系重合体の未処理原反の代わりに、実施例1〜11で製造した片面フッ化処理済原反を用いて、フッ化処理されていない炭化水素系重合体面のフッ化処理を行った。二層積層構造体の既にフッ化処理済みの面(裏面と略称する)を処理層(1)内において搬送ロール(14)に抱きつかせるようにしてその反対面(表面と略称する)をフッ素含有ガスに接触させた以外は実施例1〜11と殆ど同様な方法でフッ化処理を行って、両面にフッ化重合体層を有する三層積層構造体を製造した。
【0086】
実施例12〜14の結果を表3にまとめて示した。これらの実施例から明らかなことは、片面ずつ選択的に逐次フッ化処理を行うことで、両面にフッ化重合体層を有し、かつ裏表のフッ化重合体層の厚みだけでなくその表面特性を調節した三層積層構造体を連続的に作製することが可能となった。
【0087】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態に係る多層積層構造体の製造装置の模式断面図である。
【図2】実施例7で得られた二層積層構造体断面のSEM写真である。
【図3】実施例8で得られた二層積層構造体のフッ化重合体層表面の反射率を示した図である。
【図4】実施例11で得られた二層積層構造体のフッ化重合体層表面の反射率を示した図である。
【符号の説明】
【0089】
1 処理槽、2 準備ゾーン、3 処理ゾーン、11 隔壁、12 供給ロール、13 巻取ロール、14 搬送ロール、21 入口側ニップロール、22 出口側ニップロール、31,33 排気ガスライン、32,34 N2ガス供給ライン、35 F2ガス供給ライン、36,37 圧力計、38,39 排気バルブ、41 未処理原反、42 処理済原反。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系重合体またはその組成物からなるフィルムまたはシートの片面または両面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体であって、
フッ化重合体層の分光エリプソメトリーによって求められた層厚みが0.01〜4μmであり、且つ屈折率が1.30〜1.50であることを特徴とする多層積層構造体。
【請求項2】
前記フッ化重合体層が、前記フィルムまたは前記シートをフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスでフッ化処理することにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の多層積層構造体。
【請求項3】
前記フッ化重合体層の分光エリプソメトリーによって求められた層厚みが0.04〜2μmであり、屈折率が1.35〜1.45であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層積層構造体。
【請求項4】
前記フィルムまたは前記シートが、炭化水素系重合体またはその組成物からなる単層構造または二種以上の層からなる多層構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多層積層構造体。
【請求項5】
前記フィルムまたは前記シートが、延伸フィルムまたは延伸シートであること特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多層積層構造体。
【請求項6】
前記フィルムまたは前記シートに含まれるゲルおよびフィッシュアイが10個/m2以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層積層構造体。
【請求項7】
前記炭化水素系重合体が、ポリオレフィン、ポリスチレン、水添スチレンージエンブロック共重合体および脂環構造含有炭化水素系重合体からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層積層構造体。
【請求項8】
前記多層積層構造体の厚みが、8μm〜3mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層積層構造体。
【請求項9】
炭化水素系重合体またはその組成物からなるフィルムまたはシートの片面を回転するロールの表面に密着させて保護しつつフィルムまたはシートを搬送し、その間に保護されていない方の片面をフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスに接触させてフッ化処理することにより、保護されていない方の片面にフッ化重合体層を形成させることを特徴とする多層積層構造体の製造方法。
【請求項10】
前記フッ化重合体層が形成された方の片面を回転するロールの表面に密着させて保護しつつフィルムまたはシートを搬送し、その間に保護されていない方の片面をフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスに接触させてフッ化処理することにより、保護されていない方の片面にフッ化重合体層を形成させることを特徴とする請求項9に記載の多層積層構造体の製造方法。
【請求項11】
炭化水素系重合体またはその組成物からなるフィルムまたはシートの片面にフッ化重合体層を有する多層積層構造体の製造装置であって、
気密可能な処理槽の内部を仕切ってなる処理ゾーンおよび準備ゾーンと、処理ゾーンにフッ素ガスと不活性ガスとからなるガスを供給するためのガス供給源とを備え、
準備ゾーン内には、未処理フィルムまたは未処理シートを供給するための供給ロールと、処理済フィルムまたは処理済シートを巻取るための巻取ロールとが設けられ、
供給ロールから供給されて巻取ロールで巻取られるフィルムまたはシートは、処理ゾーンと準備ゾーンとの気密性を保持できる状態で、処理ゾーンと準備ゾーンとの間の少なくとも一部を仕切りながら、処理ゾーン内に供給されたガスと接触してフッ化処理されることを特徴とする多層積層構造体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−279696(P2008−279696A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127072(P2007−127072)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】