説明

多層絶縁電線

【課題】機械的特性を備えた上で、難燃性、耐摩耗性及び表面平滑性を兼ね備え、外観も良好な多層絶縁電線を提供すること。
【解決手段】本発明の多層絶縁電線は、最外層としてメルトフローレイトが0.5g/10分以上の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物で、最外層以外の絶縁層のうち少なくとも1層が直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とした合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成される。かかる構成により、絶縁電線として必要な機械的特性を備え、かつ、最外層が主として表面の平滑性及び耐摩耗性を、最外層以外の絶縁層が主として難燃性を向上させ、難燃性、耐摩耗性、表面平滑性及び機械的特性を兼ね備え、外観も良好で、環境への適応性にも優れた絶縁電線となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層絶縁電線に関する。さらに詳しくは、難燃性、表面平滑性及び耐摩耗性を兼ね備え、自動車、鉄道車両、電気・電子機器等に使用される多層絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、電気・電子機器等の構成部材やこれらの中に配設される絶縁電線の絶縁被覆材料としては、耐熱性、耐寒性、耐湿性に加えて難燃性、耐摩耗性等の種々の特性が要求される。また、それらを構成する樹脂材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂や分子中に臭素(Br)原子や塩素(Cl)原子を含有するハロゲン系難燃剤を含有するポリオレフィン系樹脂が広く使用されていた。このような材料を用いた製品を適切な処理をせずに廃棄した場合にあっては、様々な問題が発生しており、例えば、これらの製品を埋め立て廃棄した場合には、材料中に含まれるリン系化合物や、可塑剤・重金属安定剤として鉛系化合物等が溶出してしまうという問題があり、焼却廃棄した場合には、腐食性のハロゲン系ガスやダイオキシン等が発生するという問題があった。
【0003】
このため、近年、有害な重金属や腐食性のハロゲン系ガス等の発生がないノンハロゲン難燃性樹脂組成物が検討され、一部においては実用化されている。検討ないし実用化されているノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベースポリマーとしてポリオレフィン系樹脂を使用し、難燃性を向上させるために水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物を混合したものが広く知られており、また、当該樹脂組成物のベースポリマーとしては、多量の金属水和物を分散させやすいエチレン系共重合体が用いられていた。
【0004】
このようなポリオレフィン系樹脂ないしはエチレン系共重合体をペースポリマーした樹脂組成物は、水酸化マグネシウム等の金属水和物を多量に混合することにより難燃性は向上する一方、摩耗性や引張特性等の機械的特性が低下するという問題があった。これに対して、摩耗性の低下を抑制するため、ベースポリマーに対して、比較的硬度の高く摩耗性も良好なポリプロピレンや高密度ポリエチレンの添加量を増すことも考えられるが、被覆電線の柔軟性が損なわれ、また樹脂組成物の加工性も悪くなるため好ましくなかった。また、絶縁電線の耐摩耗性を向上させるため、電線被覆を外層と内層の多層構造とし、内層としてポリオレフィン系樹脂に金属水和物を添加し、ASTM D2240のショアD硬度が40〜55である樹脂組成物、外層としてASTM D2240のショアD硬度が60以上である高密度ポリエチレンを採用した多層絶縁電線が提供されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−219626号公報([請求項1]、[0013])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外層及び内層のショアD硬度を特定範囲とする前記した従来の多層絶縁電線は、機械的特性が悪く、十分な耐摩耗性を維持できないといった問題があった。一方、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の無機性難燃剤を添加した高強度の絶縁電線も知られているが、直鎖状低密度ポリエチレンに無機性難燃剤を添加すると表面が荒れてしまって外観が悪くなるばかりか、絶縁電線としての表面平滑性も低下し、さらに耐摩耗性も悪くなってしまうという問題があり、改善が求められていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、機械的特性を備えた上で、難燃性、耐摩耗性及び表面平滑性を兼ね備え、外観も良好な多層絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る多層絶縁電線は、金属導体に少なくとも2層以上の絶縁層が形成された多層絶縁電線であって、前記絶縁層のうち最外層がJIS K7210で規定するメルトフローレイトが0.5g/10分以上(190℃、2.16kgf荷重)の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物で構成され、前記最外層以外の絶縁層の少なくとも1層が直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成されたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る多層絶縁電線は、前記した請求項1において、前記最外層を構成する樹脂組成物が、当該樹脂組成物100質量部に対して5.0質量部以下の滑剤を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る多層絶縁電線は、前記した請求項1または請求項2において、前記最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンのJIS K7210で規定するメルトフローレイトが5.0g/10分以下(190℃、2.16kgf荷重)であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る多層絶縁電線は、前記した請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、前記最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンがメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係る多層絶縁電線は、絶縁層の構成を多層として、最外層としてメルトフローレイトが0.5g/10分以上の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物で、最外層以外の絶縁層の少なくとも1層が直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成するようにしたので、絶縁電線として必要な機械的特性を備えるとともに、最外層が主として表面の平滑性及び耐摩耗性を、最外層以外の絶縁層が主として難燃性を向上させ、最外層以外の絶縁層として直鎖状低密度ポリエチレンを適用しているにもかかわらず難燃性、耐摩耗性、表面平滑性及び機械的特性を兼ね備え、外観も良好で、環境への適応性にも優れた多層絶縁電線となる。
【0013】
本発明の請求項2に係る多層絶縁電線は、多層絶縁電線の最外層を構成する樹脂組成物が、特定量の滑剤を添加することにより摩擦を低減することができ、最外層ないしは多層絶縁電線の耐摩耗性をさらに向上させることができる。また、当該滑剤の含有量を5.0質量部以下とすることにより、滑剤添加による強度低下を防ぐことができる。
【0014】
本発明の請求項3に係る多層絶縁電線は、最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンのJIS K7210で規定するメルトフローレイトを特定の範囲としているので、難燃剤を含有させた絶縁層の強度を高い状態で維持することができる。
【0015】
本発明の請求項4に係る多層絶縁電線は、最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンとしてメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンを選択しているので、金属水和物の充填による絶縁層の機械的特性の低下を抑制し、摩耗性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の多層絶縁電線について説明する。本発明の多層絶縁電線は、金属導体に少なくとも2層以上の絶縁層が形成された多層絶縁電線であって、絶縁層のうち最外層がJIS K7210で規定するメルトフローレイトが0.5g/10分以上(190℃、2.16kgf荷重)(約21.2N荷重。本願明細書について同。)の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物で構成され、最外層以外の絶縁層の少なくとも1層が直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部からなる樹脂組成物で構成される。
【0017】
(I)最外層:
本発明の多層絶縁電線を構成する最外層は、JIS K7210で規定するメルトフローレイトが0.5g/10分以上(190℃、2.16kgf荷重)の高密度ポリエチレン(以下、「特定の高密度ポリエチレン」とする場合もある。)を主成分とする樹脂組成物で形成される。最外層を構成する樹脂としてMFRをかかる範囲とする特定の高密度ポリエチレンを採用することにより、成形性も良好で、絶縁電線としての表面の平滑性及び耐摩耗性を向上させることができる。多層絶縁電線の最外層を構成する高密度ポリエチレンとしては、密度が概ね940kg/m以上のものを使用することができる。高密度ポリエチレンのMFRは、0.5g/10g以上(190℃、2.16kgf荷重)とすることが好ましい。
【0018】
かかる特定の高密度ポリエチレンは、最外層を構成する樹脂組成物の主成分となり、当該樹脂組成物全体に対して50質量以上含有されることが好ましく、80〜100質量%とすることがさらに好ましく、高密度ポリエチレンを100質量%とすることが特に好ましい。なお、高密度ポリエチレン以外の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン,変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン,超高密度ポリエチレン、ETFE(エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体)などの汎用のポリオレフィン系樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。
【0019】
また、最外層を構成する特定の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物には、滑剤を添加することが好ましい。滑剤を添加することにより、最外層ないしは多層絶縁電線の耐摩耗性をさらに向上させることができる。滑剤としては、例えば、シリコン系滑剤、フッ素系滑剤、ワックス、脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)等を使用することができ、この中で、フッ素系滑剤を使用することにより、多層絶縁電線の耐摩耗性を効率よく向上させることができる。これらの滑剤は、1種類を単独で使用してもよく、また、2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0020】
シリコン系滑剤としては、例えば、主鎖が疎水基のジメチルシロキサン、側鎖が親水基のポリアルキレンオキサイドのペンダント型、分子片末端は疎水基のジメチルシロキサン、もう一方が親水基のポリアルキレンオキサイドの末端変性型、疎水基のジメチルシロキサン単位と親水基のポリアルキレンオキサイド単位が交互に繰り返されたブロックコポリマー型等の界面活性剤、或いはシラノール変性シリコンオイル、アルコキシ変性シリコンオイル、エポキシ変性シリコンオイル、アミノ変性シリコンオイル、アルコール変性シリコンオイル等の反応性シリコンオイルのエマルジョン等を挙げることができる。
【0021】
フッ素系滑剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸のカリウム塩、或いはパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤、パーフルオロアルキルアクリル変性樹脂等を挙げることができる。
【0022】
ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバワックス、密ロウ、ライスワックス、キャンデリラワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ラノリン、モンタンワックス、セレシンワックス等を水に分散したタイプ、あるいは分子内に塩の基或いは水溶性セグメントを導入して自己乳化したタイプ、乳化剤によって乳化したエマルジョンタイプのワックスを挙げることができる。
【0023】
脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)系の滑剤としては、例えば、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、パルミチン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等の(アルキル)ビス脂肪酸アミド等を挙げることができる。
【0024】
最外層を構成する特定の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物に対する滑剤の含有量としては、樹脂組成物100質量部に対して5.0質量部以下とすることが好ましく、0.05〜5.0質量部であることがさらに好ましい。滑剤を特定の高密度ポリエチレン100質量部に対してかかる範囲で含有することにより、多層絶縁電線の摩耗性を効率よく向上させることができる。その一方、含有量が0.05質量部より少ないと、滑剤を添加させることによる耐摩耗性の向上効果を発揮することができない場合があり、含有量が5.0質量部を超えると、樹脂自体の強度の低下と滑剤が表面に凝集するブリード現象が生じる場合がある。特定の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物に対する滑剤の含有量は、樹脂組成物100重量部に対して0.1〜1.0質量部であることが特に好ましい。
【0025】
(II)最外層以外の絶縁層:
本発明の多層絶縁電線の絶縁層を構成する最外層以外の絶縁層の少なくとも1層が、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を主成分とする合成樹脂類100質量部に対して特定量の金属水和物を添加する樹脂組成物で構成される。最外層以外の絶縁層のベースポリマーの主成分を直鎖状低密度ポリエチレンとすることにより、難燃性及び機械的強度に優れた絶縁電線を提供することができる。一方、直鎖状低密度ポリエチレンに金属酸化物を添加すると表面が荒れて外観が悪くなるばかりか、表面平滑性も低下し、耐摩耗性も悪くなってしまうという問題があるが、最外層として表面の平滑性及び耐摩耗性に優れた前記した特定の高密度ポリエチレンで被覆することにより、表面が荒れる等の問題は解消し、耐摩耗性、表面平滑性、難燃性及び機械的特性を兼ね備えた多層絶縁電線となる。なお、本発明の多層絶縁電線を構成する最外層以外の絶縁層は、単層としてもよく、また、樹脂組成物の構成が異なる2層以上を組み合わせて形成するようにしてもよい。
【0026】
最外層以外の絶縁層を構成するこれらの直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が概ね900〜940kg/mのものを使用することができる。また、最外層以外の絶縁層を構成する樹脂組成物の難燃性及び成形時の混練性を向上させるという観点から、JISK
7210に規定されるメルトフローレイト(MFR)が、5.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明にあっては、直鎖状低密度ポリエチレンとして、C4系直鎖状低密度ポリエチレン、C5系直鎖状低密度ポリエチレン、C6系直鎖状低密度ポリエチレン(以下、「C4系直鎖状低密度ポリエチレン等」とする場合もある。)を使用することが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンとしてかかるC4系直鎖状低密度ポリエチレン等を使用することにより、表面平滑性や耐摩耗性を向上させることができる。直鎖状低密度ポリエチレンとしてのC4系直鎖状低密度ポリエチレン、C5系直鎖状低密度ポリエチレン、C6系直鎖状低密度ポリエチレンは、1種類を単独で使用してもよく、2種類を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
また、直鎖状低密度ポリエチレンとしては、メタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンを使用することが好ましい。メタロセン触媒は、シングルサイト触媒やカミンスキー触媒とも呼ばれ、重合活性点が単一であり、高い重合活性を有するものである。かかるメタロセン触媒を用いて重合した直鎖状低密度ポリエチレンは、分子量分布と組成分布が狭くなる特徴がある。このようなメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンは、高い引張強度、引裂強度、衝撃強度などを有することから、金属水和物を高充填する必要がある絶縁材料に使用した場合、高充填された金属水和物による機械的特性を抑制することができる。
【0029】
なお、本発明の最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンとしては、C4系直鎖状低密度ポリエチレン等であって、メタロセン触媒で重合されたものを適用することが特に好ましい。かかる直鎖状低密度ポリエチレンを最外層以外の絶縁層に適用することにより、両者の効果を兼ね備えた絶縁電線となる。
【0030】
本発明の多層絶縁電線の最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンについて、不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性されたもの(酸変性物)を使用することもできる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル等がある。これらの酸変性物は、1種類を単独で使用してもよく、また、これらの2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
なお、本発明にあっては、最外層以外の絶縁層における少なくとも1層は、前記した直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類で構成されるが、当該直鎖状低密度ポリエチレン以外に使用可能な合成樹脂としては、ハロゲン成分を実質的に有しない合成樹脂、不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体等が挙げられ、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン以外のポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂エラストマーや、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。また、前記した熱可塑性樹脂等を不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性した酸変性物等の樹脂材料を用いることができる。また、これらの合成樹脂は、その1種類を単独で使用してもよく、また、これらの2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。合成樹脂類全体に対する直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、当該合成樹脂類全体に対して70質量以上含有されることが好ましく、70〜100質量%とすることがさらに好ましく、70〜80質量%とすることが特に好ましい。
【0032】
最外層以外の絶縁層において、ベース樹脂となる直鎖状低密度ポリエチレンに対して添加される金属水和物は、多層絶縁電線の難燃性を向上させる目的で添加される。本発明において使用可能な金属水和物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム等が挙げられ、これらの1種類を単独で使用してもよく、また、これらの2種類以上を組み合わせて使用することができる。本発明にあっては、難燃性を効率よく向上させるという観点から、これらの金属水和物のうち水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを使用するか、あるいはこれらを組み合わせた混合物を使用することが好ましい。金属水和物としては、具体的には、例えば、水酸化マグネシウムとしてキスマ(協和化学(株)製)、マグニフィン(アルベマール社製)等が挙げられる。
【0033】
金属水和物の平均粒径は、直鎖状低密度ポリエチレンに対する分散性を良好にするため、例えば、0.3〜5.0μm程度とすることが好ましく、0.5〜1.0μm程度とすることが特に好ましい。
【0034】
また、金属水和物は、直鎖状低密度ポリエチレンへの分散性を考慮して、表面処理剤で処理されているものを使用することが好ましい。このような表面処理剤としては、高級脂肪酸のアルカリ金属塩では、例えば、カプリン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノール酸ナトリウム等が、高級脂肪酸では、例えば、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール等が、チタンカップリング剤では、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルバイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等が、シランカップリング剤では、例えば、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノカップリング剤、シリコンオイル、各種リン酸エステル等を挙げることができる。
【0035】
直鎖状低密度ポリエチレンに対する金属水和物の含有量としては、直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に対して30〜300質量部である。金属水和物を直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に対してかかる範囲で含有することにより、多層絶縁電線の難燃性を効率よく向上させることができる。その一方、含有量が30質量部より少ないと実用に耐えられる難燃性を得ることができず、含有量が300質量部を超えると引張特性が低下し、多層絶縁電線が本来の柔軟性を失ってしまうほか、成形する際の成形加工性が低下するという問題が生じる場合がある。直鎖状低密度ポリエチレンに対する金属水和物の含有量は、50〜150質量部であることが好ましい。
【0036】
なお、本発明の多層絶縁電線にあっては、前記した、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成された絶縁層が最外層以外の1層であればよいが、本発明の効果を発揮するためには、最外層以外の絶縁層にあっては、当該樹脂組成物で構成された絶縁層の厚さが最外層以外の絶縁層全体の50〜100%であることが好ましく、80〜100%であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0037】
最外層以外の絶縁層において、前記した、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成された絶縁層以外を構成可能な合成樹脂としては、ハロゲン成分を実質的に有しない合成樹脂、不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体等が挙げられ、例えば、ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂エラストマーや、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。また、前記した熱可塑性樹脂等を不飽和カルボン酸及び/またはその誘導体で変性した酸変性物等の樹脂材料を用いることができる。また、これらの合成樹脂は、その1種類を単独で使用してもよく、また、これらの2種類以上を組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0038】
なお、本発明の多層絶縁電線を構成する最外層及び最外層以外の絶縁層には、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、前記した以外の各種の樹脂成分やゴム成分、及び各種の添加剤を必要に応じて適宜添加することができる。添加剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、滑剤(最外層以外の絶縁層に対して)、酸化防止剤、光安定剤、プロセスオイル、シリコンオイル、紫外線吸収剤、カーボンブラック、分散剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤、架橋剤、架橋助剤等が挙げられ、また、用途によっては、従来から慣用されている赤燐、ポリリン酸化合物、ヒドロキシ錫酸亜鉛、錫酸亜鉛、ほう酸亜鉛、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、酸化アンチモン等の難燃助剤を添加してもよい。
【0039】
本発明の多層絶縁電線は、最外層及び最外層以外の絶縁層を構成する樹脂ないし樹脂組成物を、従来公知のタンデム押出法やコモン押出法を用いて、銅線、錫メッキ銅線、アルミ線等の金属導体上に押出被覆することにより簡便に製造することができる。導体の太さは、特に制限はないが、断面積を0.05mm以上とすればよく、断面積を0.05〜5.0mmとすることが好ましい。
【0040】
また、絶縁層の厚さとしては、特に制限はないが、例えば、最外層の厚さは、0.05mm以上であることが好ましく、最外層以外の絶縁層の厚さは、合計で0.1mm以上とすることが好ましい。最外層の厚さは、0.05〜0.4mmとすることが特に好ましく、最外層以外の絶縁層の厚さは、0.05〜1.0mmとすることが特に好ましい。
【0041】
また、本発明の多層絶縁電線を製造するにあたり、最外層及び最外層以外の絶縁層を構成する樹脂等を予め溶融混練してペレット化するようにしてもよい。ペレット化するには、前記した各成分及び必要により添加した添加剤を、例えば、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の従来公知の混練装置で溶融混練することにより簡便に製造することができる。また、二軸混練押出機を使用した場合、工程を連続的に実施することができる。なお、最外層以外の樹脂組成物の混練温度としては、金属水和物の分解温度以下(例えば、水酸化マグネシウムであれば340℃以下。)に設定することが好ましい。ペレット化する場合の押出量等、その他の製造条件については、使用する樹脂成分等の種類により適宜決定することができる。
【0042】
また、本発明の多層絶縁電線を構成する最外層及び最外層以外の絶縁層については、必要に応じて架橋するようにしてもよい。樹脂組成物に架橋処理を施すことにより樹脂組成物の耐熱性をさらに向上させることができる。架橋方法としては、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法を採用することができる。電子線の照射線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、各層を構成する樹脂ないしは樹脂組成物にメタクリレート系化合物、アリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物等の多官能性化合物を架橋助剤として添加してもよい。
【0043】
電子線照射架橋法の場合は、本発明の樹脂組成物を成形した後に常法により電子線を照射することによって架橋を行うことができる。一方、化学架橋法による場合は、樹脂組成物に有機パーオキサイド等を従来公知の架橋剤として添加し、成形した後に常法により加熱処理して架橋を行うようにすればよい。
【0044】
以上説明した本発明の多層絶縁電線は、絶縁層の構成を多層として、最外層としてメルトフローレイトが0.5g/10分以上の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物で、最外層以外の絶縁層のうち少なくとも1層がが直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成するようにしたので、絶縁電線として必要な機械的特性を備えるとともに、最外層が主として表面の平滑性及び耐摩耗性を、最外層以外の絶縁層が主として難燃性を向上させ、最外層以外の絶縁層として直鎖状低密度ポリエチレンを適用しているにもかかわらず、難燃性、耐摩耗性、表面平滑性及び機械的特性を兼ね備え、外観も良好な多層絶縁電線を提供することができる。
【0045】
また、本発明の多層絶縁電線は、絶縁層の構成材料がハロゲン成分を含まないため、燃焼時にハロゲンガスやダイオキシン等の有毒なガスが発生せず、火災時における有毒ガスの発生や二次災害等を防止することができ、焼却や埋め立て等の廃棄の際にも問題なく処分を行うことができる、環境にも優しい多層絶縁電線となる。
【0046】
よって、本発明の多層絶縁電線は、耐摩耗性、難燃性、機械的特性等が必要とされる自動車、鉄道車両、電気・電子機器等に配設される電線として使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0048】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
実施例1〜6及び比較例1〜5の多層絶縁電線を形成する材料の構成を表1に示した。また、使用した材料の詳細は下記のとおりである。なお、樹脂成分についてのメルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210の規定に従って、下記の温度条件及び荷重条件により測定した。
【0049】
(最外層)
(1)高密度ポリエチレン1(HDPE−1)
MFR : 0.5g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0050】
(2)高密度ポリエチレン2(HDPE−2)
MFR : 0.1g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0051】
(3)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)
MFR : 0.5g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0052】
(4)低密度ポリエチレン(LDPE)
MFR : 0.5g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0053】
(5)滑剤(シリコン系滑剤)
種類 : シリコン系滑剤(実施例2のみ、最外層100質量部に対して1.0
質量部添加した。)
【0054】
(内層)
(6)C4系直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE(C−4))
MFR : 5.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0055】
(7)C6系直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE(C−6))
MFR : 5.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0056】
(8)C8系直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE(C−8))
MFR : 5.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0057】
(9)メタロセン触媒により重合されたC6系直鎖状低密度ポリエチレン(Me−LLDPE(C−6))
MFR : 5.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0058】
(10)メタロセン触媒により重合されたC6系直鎖状低密度ポリエチレン2(Me−LLDPE(C−6)2)
MFR : 10.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0059】
(11)エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)
MFR : 1.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0060】
(12)エチレン・ 酢酸ビニル共重合体(EVA)
MFR : 1.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0061】
(13)酸変性ポリエチレン(酸変性PE)
品名 : ポリボンド(POLYBOND)3009(クロンプロン社製)
MFR : 5.0g/10分(190℃、2.16kgf荷重)
【0062】
(14)金属水和物(水酸化マグネシウム)
品名 : キスマ5A(協和化学工業(株)製)
平均粒径: 1.0μm
【0063】
なお、多層絶縁電線は、混練機としてバンバリーミキサーを用い、外層及び内層を構成する各成分を混練し、タンデム押出機を用いて、導体上に表1に示す所定の厚さで押出被覆して製造した。
【0064】
[試験例1]
実施例1〜6及び比較例1〜5で得られた多層絶縁電線について、下記の基準で「表面平滑性」及び「耐摩耗性」について比較・評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(表面平滑性)
目視と指先で触れた感覚により、表面に凹凸が感じられるかにより表面平滑性を判定した。2段階で評価し、凹凸が無く良好な場合を「◎」、凹凸がある場合を「×」として判定した。
【0066】
(耐摩耗性)
荷重をかけたピアノ線を、電線の絶縁層の長手方向に揺動させて耐摩耗性を判定した。3段階で評価し、絶縁層が全く摩耗しない場合を「◎」、わずかに傷が形成される場合を「○」、著しく傷が形成される場合を「×」として判定した。
【0067】
(樹脂組成物の構成及び評価結果)
【表1】

【0068】
表1に示すように、本発明の実施例に示される多層絶縁電線は、優れた表面平滑性及び耐摩耗性を示すものであった。一方、最外層以外の層(内層)として直鎖状低密度ポリエチレンを採用しない比較例1及び比較例2は耐摩耗性が悪く、最外層に高密度ポリエチレンを採用するものの、当該高密度ポリエチレンのメルトフローレイトが0.5g/10分より小さい(0.1g/10分)比較例3は表面平滑性が悪かった。また、最外層として高密度ポリエチレンでなくエチレン−酢酸ビニル共重合体や低密度ポリエチレンを採用した比較例4及び比較例5も耐摩耗性が悪かった。
【0069】
なお、実施例5は内層としてメルトフローレイトが10.0g/10分のメタロセン触媒により重合されたC6系直鎖状低密度ポリエチレン、実施例6はC8系直鎖状低密度ポリエチレンを用いた構成であるが、内層としてメルトフローレイトが5.0g/10分のメタロセン触媒により重合されたC6系直鎖状低密度ポリエチレンを用いた実施例1に対して耐摩耗性が若干劣るものの、優れた表面平滑性及び耐摩耗性を兼ね備えた多層絶縁電線であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、機械的特性を備えた上で、難燃性、耐摩耗性及び表面平滑性に優れた多層絶縁電線であるので、例えば、自動車や鉄道車両、電気・電子機器等に配設される絶縁電線として有利に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属導体に少なくとも2層以上の絶縁層が形成された多層絶縁電線であって、
前記絶縁層のうち最外層がJIS K7210で規定するメルトフローレイトが0.5g/10分以上(190℃、2.16kgf荷重)の高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物で構成され、
前記最外層以外の絶縁層の少なくとも1層が直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とする合成樹脂類100質量部に対して金属水和物30〜300質量部含有する樹脂組成物で構成されたことを特徴とする多層絶縁電線。
【請求項2】
前記最外層を構成する樹脂組成物が、当該樹脂組成物100質量部に対して5.0質量部以下の滑剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の多層絶縁電線。
【請求項3】
前記最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンのJIS K7210で規定するメルトフローレイトが5.0g/10分以下(190℃、2.16kgf荷重)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層絶縁電線。
【請求項4】
前記最外層以外の絶縁層を構成する直鎖状低密度ポリエチレンがメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の多層絶縁電線。


【公開番号】特開2009−26666(P2009−26666A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190123(P2007−190123)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(591086843)古河電工産業電線株式会社 (40)
【Fターム(参考)】