説明

多層絶縁電線

【課題】耐熱性、難燃性、耐加水分解性、耐摩耗性を兼ね備えると共に低発煙化が達成できるハロゲン化合物を含有しないポリエステル系樹脂組成物を用いた多層絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体の外周に、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる内層と、
ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーおよび水酸化マグネシウムを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる外層とを備えた多層絶縁電線であって、前記ポリエステルブロック共重合体は、ポリブチレンテレフタレートを主たる成分とするハードセグメント20〜70質量%と、ジオール成分が炭素数6〜12の直鎖ジオールであるポリエステルからなるソフトセグメント80〜30質量%とのポリエステルブロック共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材として用いられるポリエステル樹脂とポリエステルブロック共重合体を主成分とするポリエステル系樹脂組成物に係り、特に、耐熱性、低発煙性、難燃性、摩耗性、耐加水分解性に優れたポリエステル系樹脂組成物を用いた多層絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気絶縁材料としては、通常ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)からなる絶縁材料を使用してきた。このPVC製の絶縁材料は高い実用特性を有し、かつ安価であるという面で優れているが、発煙により有害なガスが発生することから、近年PVC以外の材料が要望されるようになってきた。
【0003】
また自動車や電車などの輸送分野において、省エネに対する車体の軽量化及び配線の省スペース化に伴い、電線の軽量・薄肉化が求められている。
【0004】
このような電線の軽量・薄肉化に対して、従来のPVC材料を適用した場合は、難燃性や耐摩耗特性の要求特性が達成できない等の問題があった。更に近年では、多発する高層ビル火災や地下鉄や地下街などに張り巡らされたケーブルの火災の大きな社会的混乱を防止するために、難燃性とともに燃焼時に煙の発生を抑制することが望まれている。この点においてもPVC材料では要求を満足できない。
【0005】
一方、エンジニアリングプラスチックポリマーであるポリエステル樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート(PBT)は、結晶性のポリマーであり、耐熱性、機械的強度、ガスバリア性、耐薬品性、耐摩耗性、低溶出性、成形性に優れる等の特徴を生かし、自動車用燃料チューブや液晶硝子研磨装置部材、半導体関連部材などで使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
これらのエンジニアリングプラスチックポリマーは、上記特徴を有していることから、電線の軽量・薄肉化が達成できる見通しがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−281465号公報
【特許文献2】特開2006−152122号公報
【特許文献3】特開2007−45952号公報
【特許文献4】特開2006−111655号公報
【特許文献5】特開2006−111873号公報
【特許文献6】特開2005−213441号公報
【特許文献7】特開2004−193117号公報
【特許文献8】特開2001−316533号公報
【特許文献9】特開平11−1581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリエステル樹脂は、結晶性ポリマーであり、製造工程や特定の環境下では結晶化度に変化が生じたり、またポリエステル樹脂のみでは燃焼時の煙の発生を抑制することが困難であるという問題があった。特に熱処理により結晶化が進行してしまい、電線の絶縁材として重要な特性である引張伸び特性の低下が懸念される。
【0009】
特許文献4、5では、機械的強度、高速成形性および生産性を向上させるために熱処理や結晶化促進剤添加により結晶化度を向上させることが報告されている。しかしながら、結晶化を促進させると伸び特性の低下が考えられる。
【0010】
また特許文献6では、ポリエステル樹脂の原料として屈曲性モノマーを導入することで結晶化の進行を抑制することができると述べられているが、伸び特性に関しては何ら記述されていない。更に特許文献7では、ポリエステル樹脂にポリエステル系樹脂と反応性を有する官能基を含む樹脂を添加させることで、クレージングの発生を抑制し絶縁破壊電圧の低下の抑制と高温絶縁特性に優れることを見出しているが、熱処理による電線絶縁材の伸び特性について何ら言及されていない。
【0011】
また発煙性に関しては、特許文献8、9において水酸化マグネシウムを添加することにより難燃性向上及び低発煙性を達成することが報告されているが、何れもベースポリマにポリオレフィン系樹脂を適用しているため、電線絶縁体の薄肉化が困難と考えられる。
【0012】
そこで本発明の目的は、耐熱性、難燃性、耐加水分解性、耐摩耗性を兼ね備えると共に低発煙化が達成できるハロゲン化合物を含有しないポリエステル系樹脂組成物を用いた多層絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、導体の外周に、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる内層と、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーおよび水酸化マグネシウムを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる外層とを備えた多層絶縁電線であって、前記ポリエステルブロック共重合体は、テレフタル酸がジカルボン酸成分当たり60モル%以上のポリブチレンテレフタレートを主たる成分とするハードセグメント(ア)20〜70質量%と、ポリエステルを構成する酸成分が芳香族ジカルボン酸99〜90モル%、炭素数6〜12の直鎖脂肪族ジカルボン酸1〜10モル%であり、ジオール成分が炭素数6〜12の直鎖ジオールであるポリエステルからなるソフトセグメント(イ)80〜30質量%とのポリエステルブロック共重合体で、融点(T)が下記式(1)
TO−5>T>TO−60 ・・・(1)
(TO:ハードセグメントを構成する成分からなるポリマーの融点)
の範囲にあるポリエステルブロック共重合体である。
【0014】
前記内層は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150重量部、加水分解抑制剤2〜7重量部、焼成クレー0.5〜5重量部含有するポリエステル系樹脂組成物であることが好ましい。
【0015】
前記外層は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150重量部、加水分解抑制剤2〜7重量部、焼成クレー0.5〜5重量部、水酸化マグネシウム10〜30重量部含有するポリエステル系樹脂組成物であることが好ましい。
【0016】
前記ポリエステル樹脂は、ポリブチレンナフタレート又はポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0017】
前記加水分解抑制剤は、カルボジイミド骨格を有する添加剤であることが好ましい。
【0018】
前記内層及び前記外層の厚みは0.1〜0.5mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多層絶縁電線は、耐熱性、低発煙性、耐摩耗性、難燃性、耐加水分解性の点で非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明において、電線のIEC燃焼試験方法を説明する図である。
【図2】(a)は、本発明において電線の摩耗試験機を示す側面図であり、(b)は、電線の摩耗試験機を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0022】
本発明は、導体の外周に、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる内層と、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーおよび水酸化マグネシウムを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる外層とを備えるものである。
【0023】
ここで各成分を説明する。
【0024】
本発明に用いるポリエステル樹脂は、例えば、PBT樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂などがある。
【0025】
本発明におけるポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)とは、ナフタレンジカルボン酸、好ましくはナフタレン−2,6−ジカルボン酸を主たる酸成分とし、1,4−ブタンジオールを主たるグリコール成分とするポリエステル、即ち、繰返し単位の全部または大部分(通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上)がブチレンナフタレンジカルボキシレートであるポリエステルである。
【0026】
また、このポリエステルには物性を損なわない範囲で、次の成分の共重合が可能である。例えば、酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸以外の芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフィドジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、脂環族ジカルボン酸、例えばシクロヘキサンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸等が例示される。
【0027】
グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、カテコール、レゾルシンノール、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニルケトン、ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジヒドロキシジフェニルスルフォン等が例示される。
【0028】
オキシカルボン酸成分としては、オキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシジフェニルカルボン酸、ω−ヒドロキシカプロン酸等が例示される。
【0029】
なお、ポリエステルが実質的に成形性能を失わない範囲で3官能基以上の化合物、例えばグリセリン、トリメチルプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、ピロメリット酸等を共重合してよい。
【0030】
このようなポリエステルは、ナフタレンジカルボン酸および/またはその機能的誘導体とブチレングリコールおよび/またはその機能的誘導体とを、従来公知の芳香族ポリエステル製造法を用いて重縮合させて得られる。
【0031】
また本発明において用いるPBNの末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、少ない方が望ましい。
【0032】
本発明で使用するポリエステル樹脂としてのポリブチレンテレフタレート樹脂とは、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を主成分とするポリエステルであって、多価アルコール成分として1,4−ブタンジオール、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を用いて得られるブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。主たる繰り返し単位とは、ブチレンテレフタレート単位が、全多価カルボン酸−多価アルコール単位中の70モル%以上であることを意味する。更にブチレンテレフタレート単位は、好ましくは80モル%以上、更には90モル%、特には95モル%以上である。
【0033】
ポリブチレンテレフタレート樹脂に用いられるテレフタル酸以外の多価カルボン酸成分の一例としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、或いは上記多価カルボン酸のエステル形成性誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル等の多価カルボン酸の低級アルキルエステル類)等が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は単独でも良いし複数を混合して用いても良い。
【0034】
一方、1,4−ブタンジオール以外の多価アルコール成分の一例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族多価アルコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ等の芳香族多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。これら多価アルコール成分は単独で用いても良いし、複数で用いても良い。
【0035】
本発明で使用するポリブチレンテレフタレート樹脂は、耐加水分解性の観点から末端カルボキシル基当量が50(eq/T)以下であり、好ましくは40(eq/T)以下であり、より好ましくは30(eq/T)以下である。末端カルボキシル基当量が50(eq/T)を超えると加水分解性の観点で好ましくない。
【0036】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂は、本発明の要件を満たせば、単独であってもよいし、或いは末端カルボキシル基濃度、融点、触媒量等の異なる複数の混合物であってもよい。
【0037】
本発明に用いるポリエステルブロック共重合体は、そのハードセグメント(ア)は60モル%以上がポリブチレンテレフタレートを主たる構成成分とするが、他にテレフタル酸以外のベンゼン又はナフタレン環を含む芳香族ジカルボン酸、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸、テトラメチレングリコール以外の炭素数2〜12の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール等のジオールが共重合されていてもよく、この共重合割合は、全ジカルボン酸当たり30モル%未満好ましくは10モル%未満である。この共重合割合は、少ないほど融点も高く好ましいが、柔軟性を増すために共重合することも行われる。しかし共重合割合が多くなるとポリエステルブロック共重合体とポリブチレンナフタレート樹脂との相溶性が低下し本発明の課題である耐摩耗性が損なわれる恐れがある。
【0038】
一方、ソフトセグメント(イ)としては、芳香族ジカルボン酸99〜90モル%、炭素数6〜12の直鎖脂肪族ジカルボン酸1〜10モル%であり、ジオール成分が炭素数6〜12の直鎖ジオールであるポリエステルである。
【0039】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が挙げられる。
【0040】
炭素数6〜12の直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。直鎖脂肪族ジカルボン酸の量としては、ソフトセグメント(イ)を構成するポリエステルの全酸成分あたり1〜10モル%さらに好ましくは2〜5モル%である。10モル%以上ではポリブチレンナフタレート樹脂との相溶性及び耐摩耗性が低下してしまう。一方1モル%以下では、ソフトセグメント(イ)の柔軟性が損なわれる為、結果として該ポリエステル樹脂組成物の軟質性が損なわれる。
【0041】
ジオール成分としては、炭素数6〜12の直鎖ジオールである。
【0042】
ソフトセグメント(イ)を構成するポリエステルは、非晶性もしくは低結晶性である必要が有る。その事から好ましくは、ソフトセグメント(イ)を構成する全酸成分の20モル%以上はイソフタル酸を用いる必要がある。またソフトセグメント(イ)もハードセグメント(ア)と同様に若干の他の成分を共重合することも可能である。しかし、ポリブチレンナフタレート樹脂(A)との相溶性が低下し本発明の課題である耐摩耗性を損なう為、共重合成分量は10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0043】
本発明のポリエステルブロック共重合体に於いて、ハードセグメント(ア)とソフトセグメント(イ)の混合割合は、ハードセグメント(ア)20〜70質量%、ソフトセグメント(イ)80〜30質量%がよい。またその量比は、20〜50対80〜50好ましくは25〜40対75〜60である。これらの量比は、得られるポリエステルブロック共重合体が、ハードセグメント(ア)がこれより多い場合、硬くなって使用しにくいなどの問題が出るので好ましくなく、ソフトセグメント(イ)が多い場合は、結晶性が少なくなり、取り扱いが困難になるためである。
【0044】
また、かかるポリエステルブロック共重合体のソフトセグメント、ハードセグメントのセグメント長は、分子量として表現して、およそ500〜7000、好ましくは、800〜5000であるが、これは特に限定されるものではない。このセグメント長は直接測定するのは困難であるが、例えば、ソフト、ハードそれぞれを構成するポリエステルの組成と、ハードセグメントを構成する成分からなるポリエステルの融点及び得られたポリエステルブロック共重合体の融点とから、フローリーの式を用いて推定することが出来る。
【0045】
この様な点より、本発明のポリエステルブロック共重合体の融点は重要な項目であり、
融点(T)は、下記式(1)
TO−5>T>TO−60 …(1)
(TO:ハードセグメントを構成する成分からなるポリマーの融点)
の範囲にあるのがよい。
【0046】
すなわち、融点(T)は、TO−5からTO−60の間、好ましくは、TO−10からTO−50の間、更に好ましくはTO−15からTO−40であるようにするのがよい。又、この融点は、ランダム共重合体の融点(T‘)より10℃、好ましくは20℃以上高いことがよく、ランダム共重合体の融点が定められないときは150℃以上、好ましくは160℃以上の融点にするのがよい。
【0047】
本発明のポリマーがブロック共重合体ではなくランダム共重合体の場合、このポリマーは一般的に非晶性であり、且つガラス転移温度も低いので、水飴状であり、成形性が著しく低下したり、表面がべたべたするなど現実問題として使用できる物ではない。
【0048】
かかるポリエステルブロック共重合体の製造法は、ソフトセグメント及びハードセグメントを構成するポリマーをそれぞれ製造し、溶融混合して融点がハードセグメントを構成するポリエステルよりも低くなるようにする方法があげられる。この融点は、混合温度と時間によって変化するので、目的の融点を示す状態になった時点で、リンオキシ酸等の触媒失活剤を添加して触媒を失活させたものが好ましい。
【0049】
本発明のポリエステルブロック共重合体は、35℃オルトクロルフエノール中で測定した固有粘度が0.6以上、好ましくは0.8〜1.5のものが適用できる。これより固有粘度が低い場合は、強度が低くなるため好ましくないからである。
【0050】
本発明のポリエステルブロック共重合体の添加量は、ポリブチレンナフタレート樹脂100重量部に対して50〜150重量部である。添加量が40重量部未満では耐熱性に劣り、150重量部を超えると耐摩耗性が低下してしまう。より好ましくは、50〜150重量部であり、50重量部以上とすることにより、より優れた耐熱性効果を得ることができる。
【0051】
本発明において使用される加水分解抑制剤はジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩などのカルボジイミド骨格を有する化合物で、特に限定されるものではない。
【0052】
添加量はポリエステル樹脂に対して、0.5〜5重量部で、より好ましくは1〜3重量部である。0.5重量部よりも少ない場合、本発明の耐久性を十分に発揮できず、添加量が5重量部よりも多い場合は電線に加工した際に可とう性がなくなり、また電線表面へ移行してしまい外観不良の原因にもつながる。
【0053】
本発明において使用される無機多孔質充填剤は、その比表面積は5m2/g以上であることが好ましい。
【0054】
添加量は、ポリエステル樹脂に対して好ましくは0.5〜5重量部で、より好ましくは1〜3重量部である。含有量が少なすぎるとイオンを十分にトラップできず、絶縁抵抗が小さくなってしまう。一方、多すぎると分散性や引張特性が低下し好ましくない。
【0055】
また無機多孔質充填剤は、焼成クレーのみならず、ゼオライト、メサライト、アンスラサイト、パーライト発泡体、活性炭であっても良い。
【0056】
本発明において使用される水酸化マグネシウムは特に限定されるものではなく、脂肪酸、脂肪酸金属塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等で表面処理して用いても良く、未処理品を使用しても構わない。
【0057】
添加量はポリエステル樹脂に対して、10〜30重量部で、より好ましくは15〜20重量部である。添加量が10重量部よりも少ない場合、本発明の効果である低発煙性を十分に発揮できず、添加量が30重量部よりも多い場合では電線に加工した際に可とう性や耐摩耗性が低下する。
【0058】
ポリブチレンナフタレート樹脂に上記各種成分を配合する方法としては、被覆製造の直前までの任意の段階で周知の手段によって行うことができる。最も簡便な方法としては、ポリブチレンナフタレート樹脂とポリエステル−ポリエステルエラストマー、加水分解抑制剤、焼成クレーなどを溶融混合押出にてペレットにする方法が採用される。
【0059】
また本発明の樹脂組成物に顔料、染料、充填剤、核剤、離型剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、滑剤、その他の周知の添加剤を配合し、混練することもできる。
【0060】
本発明のポリエステル系樹脂組成物においては、ポリブチレンナフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損なわない範囲において配合することができる。その一例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0061】
本発明を以下の実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ制限されるものではない。
【0062】
本発明で検討したポリエステル系樹脂組成物の配合組成を表1に示し、その配合組成で評価を行った結果を表2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
[電線製造]
得られたポリエステル系樹脂組成物(A)及び(B)を130℃、8時間熱風恒温槽で乾燥し、直径1.2mmの錫めっき軟銅線に直接ポリエステル系樹脂組成物(A)を0.1mmの被覆厚みで押出成形した。更にその電線の外周にポリエステル系樹脂組成物(B)を0.15mmの被覆厚で押出成形した。押出成形には、直径がそれぞれ4.2mm、2.0mmのダイス、ニップルを使用し、押出温度はシリンダ部を250℃〜270℃、ヘッド部を265℃とした。引取速度は10m/分とした。なお、電線製造方法は、2層同時に押出被覆してもよい。
【0066】
表2における評価は以下のように行った。
【0067】
[耐加水分解性試験]
作製した電線の芯線を抜いた試料を、85℃/85%RHの恒温恒湿槽で30日間放置した。その後引張試験を実施し、伸び残率が70%以上のものを○(合格)とし、伸び残率が70%未満を×(不合格)とした。
【0068】
[難燃性]
電線の難燃性は燃焼試験で行った。作製した電線をIEC燃焼試験方法(IEC60332−1)に準拠して試験した。図1に示すように電線10を上部支持部15と下部支持部16で垂直に保持し、バーナ17の炎を電線10に対して、上部支持部15から475±5mmの位置で、かつ45°の角度で炎を規定の燃焼時間当てた後、バーナ17を取り除き炎を消して炭化部10cを調べた。
【0069】
上部支持部から炭化部10cまでの距離が、電線上部(α)で50mm以上かつ電線下部(β)で540mm以下のものを合格(○)、上記範囲以外のものを不合格(×)とし
た。
【0070】
[摩耗試験]
作製した電線を常温の雰囲気において、図2に示す摩耗試験機20で荷重9N(錘20b)を加えながら、摩耗針20aを電線10の絶縁体12に接触させて、往復動作を行い、また電線10の導体11と摩耗針20a間に電源22を印加しておき、摩耗針20aが導体11と接触して短絡するまでの往復動の回数を測定する。
【0071】
往復回数が150回以上を合格(○)とし、150回未満を不合格(×)とした。
【0072】
[発煙濃度試験]
IEC60695−6−30に従い、煙による光の不透過度を測定した。フレーミング法により測定した。試験片の厚みは0.5mmとした。
【0073】
発煙濃度が100未満を合格(○)とし、100以上を不合格(×)とした。
【0074】
[直流安定性試験]
EN50305.6.7に従い、85℃、3%NaCl水溶液中でDC300Vを課電する。10日間課電を継続し、絶縁破壊しないものを合格(○)、絶縁破壊するものを(×)とした。
【0075】
[熱処理後の伸び]
熱処理後の伸びは、熱老化試験を行った後、引張試験を行って熱老化特性を測定した。
【0076】
熱老化試験;
作製した電線の芯線を抜いた試料を、恒温槽中にて条件150℃/96hで熱処理し、室温で12時間程度放置した後、引張試験を実施した。熱処理は、JISC3005に従うものとする。
【0077】
熱老化特性;
上記熱老化試験で作製した試料を、引張速度200mm/minにて測定した。引張試験はJISC3005に従うものとする。伸び残率((初期伸び/熱老化後の伸び)×100)が70%以上のものを○(合格)とし、伸び残率が70%未満を×(不合格)とした。
【0078】
表2より、比較例1では、外層配合の水酸化マグネシウム添加量が本発明の添加量より少ないために、難燃性と発煙性の点で不合格である。
【0079】
また比較例2では、外層配合の水酸化マグネシウム添加量が多いために、難燃性と発煙性は良好なものの、耐摩耗性と熱処理後の伸び残率が目標値に到達しない。
【0080】
また比較例3では、外層配合に加水分解抑制剤が添加されていないため、耐加水分解性が不合格である。更に耐摩耗性についても不合格であった。
【0081】
また比較例4では、内層、外層ともに焼成クレーが未添加であるため、直流安定性試験について不合格であった。
【0082】
また比較例5では、外層配合のポリエステルブロック共重合体の添加量が本発明の範囲よりも多いため、材料が柔らかくなり、耐摩耗性が不合格であった。
【0083】
比較例6では、内層配合に加水分解抑制剤が添加されていないため、耐加水分解性が不合格であった。
【0084】
比較例7では、内層配合のポリエステルブロック共重合体の添加量が本発明の範囲よりも少ないために、熱処理後の伸び残率が低く不合格であった。
【0085】
比較例8は、内層配合のポリエステルブロック共重合体の添加量が本発明の範囲よりも多いため耐摩耗性が不合格となった。
【0086】
一方、実施例1〜10では、本発明の範囲内であるため、全ての特性において合格という結果であった。
【0087】
なお、本実施例では、中心導体の上に絶縁層を被覆する絶縁電線の構造で説明したが、この構造に限らず、本発明の樹脂組成物をこれら絶縁電線を寄せ集めたケーブル群をシース(ジャケット)により被覆する、いわゆるケーブルのシース材料として使用することもできる。
【0088】
また、本実施例では、中心導体を単線として説明したが、これに限られるものではなく、複数の単線を撚り合わせた撚り線構造であってもよく、複数の単線を単に寄せ集めた構造であってもよい。
【0089】
また、本実施例では中心導体の材質として軟銅線を使用したがこれに限定されるものではなく、硬銅線または銅合金線(たとえば、Cu−Sn合金線、Cu−Ag合金線、Cu−Sn−In合金線)であってもよい。
【0090】
また、本実施例では、中心導体のめっきの材質を錫としたが、これに限定されるものではなく、Pb−Sn合金、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag−Cu−P合金、Sn−Cu−P合金、Sn−Cu合金、Sn−Bi合金なども使用することができる。
【符号の説明】
【0091】
10 電線
11 導体
12 絶縁体
17 バーナ
20 摩耗試験機
20a 摩耗針
20b 錘
300 架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に、ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる内層と、
ポリエステル樹脂、ポリエステルブロック共重合体、加水分解抑制剤、焼成クレーおよび水酸化マグネシウムを含有したポリエステル系樹脂組成物からなる外層とを備えた多層絶縁電線であって、
前記ポリエステルブロック共重合体は、テレフタル酸がジカルボン酸成分当たり60モル%以上のポリブチレンテレフタレートを主たる成分とするハードセグメント(ア)20〜70質量%と、ポリエステルを構成する酸成分が芳香族ジカルボン酸99〜90モル%、炭素数6〜12の直鎖脂肪族ジカルボン酸1〜10モル%であり、ジオール成分が炭素数6〜12の直鎖ジオールであるポリエステルからなるソフトセグメント(イ)80〜30質量%とのポリエステルブロック共重合体で、融点(T)が下記式(1)
TO−5>T>TO−60 …(1)
(TO:ハードセグメントを構成する成分からなるポリマーの融点)
の範囲にあるポリエステルブロック共重合体であることを特徴とする多層絶縁電線。
【請求項2】
前記内層が、ポリエステル樹脂100重量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150重量部、加水分解抑制剤2〜7重量部、焼成クレー0.5〜5重量部含有するポリエステル系樹脂組成物であることを特徴とする請求項1に記載の多層絶縁電線。
【請求項3】
前記外層が、ポリエステル樹脂100重量部に対して、ポリエステルブロック共重合体50〜150重量部、加水分解抑制剤2〜7重量部、焼成クレー0.5〜5重量部、水酸化マグネシウム10〜30重量部含有するポリエステル系樹脂組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層絶縁電線。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂が、ポリブチレンナフタレート又はポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の多層絶縁電線。
【請求項5】
前記加水分解抑制剤が、カルボジイミド骨格を有する添加剤であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の多層絶縁電線。
【請求項6】
前記内層及び前記外層の厚みが0.1〜0.5mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−228189(P2011−228189A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98396(P2010−98396)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】