説明

多層繊維構造体およびそれからなるフィルターろ材

【課題】圧力損失が低くかつ捕集効率に優れ、層間剥離や超極細繊維の破損が抑制され、取扱性にも優れた多層繊維構造体およびそれからなるフィルターろ材を提供する。
【解決手段】下層、中間層、上層の少なくとも3層からなる多層繊維構造体であって、中間層が直径10〜500nmの超極細繊維からなる繊維構造体、上層と下層が直径1〜100μmの繊維からなる不織布であり、エンボス加工により上層と下層とが部分的に熱圧着しており、熱圧着により形成された凹部の断面において、底部より上開口部が大きく、凹部の側面に接する接線と底部とのなす角度θが140〜170°であることを特徴とする多層繊維構造体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超極細繊維層を含む3層以上の繊維構造体をエンボス加工により熱圧着させた多層繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
超極細繊維を成形する手段として、メルトブロー法、海島型混合紡糸繊維法、エレクトロスピニング法などがあり、なかでもエレクトロスピニング法は1930年代頃から知られた技術であり、室温でも紡糸が可能である上、簡素な装置構成にて超極細繊維を直接成形できることから、生体高分子などの熱に弱い高分子も含め、非常に幅広いポリマーの超極細繊維化が現在でも盛んに応用研究されている。超極細繊維の微小な直径や広い表面積が発現する効果、例えば優れた透湿効果やスリップ効果、細胞認識効果などは、自動車、建築、医療などの幅広い産業分野で期待されている。
【0003】
しかし、エレクトロスピニング法により製造した超極細繊維は、その単糸強度が非常に低く、表面を軽く擦っただけでも容易に破損する。また、超極細繊維からなる繊維構造体は、超極細繊維の低強度による低加工性のため、それ自体で使用されることはほとんどなく、他の基材上に積層した多層繊維構造体にて使用される。したがって、基材からの毛羽立ちや剥離も問題となっている。このように、超極細繊維層を含む多層繊維構造体の加工性は低く、超極細繊維を含む多層繊維構造体の加工性向上が望まれている。
【0004】
そのため、超極細繊維層を保護するため、超極細繊維層の両側に保護層を接着させた多層繊維構造体として使用されている(特許文献1)。この接着加工をエンボス加工により実施した場合、フィルターとして使用する際に捕集性能が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−099836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、圧力損失が低くかつ捕集効率に優れ、層間剥離や超極細繊維の破損が抑制され、取扱性にも優れた多層繊維構造体およびそれからなるフィルターろ材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、中間層に極細繊維からなる繊維構造体を用いた多層繊維構造体について検討したところ、エンボスの形状によって該極細繊維の特性を十分に引き出せる構造があることを見出し、上記課題を達成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、下層、中間層、上層の少なくとも3層からなる多層繊維構造体であって、中間層が直径10〜500nmの超極細繊維からなる繊維構造体、上層と下層が直径1〜100μmの繊維からなる不織布であり、エンボス加工により上層と下層とが部分的に熱圧着しており、熱圧着により形成された凹部の断面において、底部より上開口部が大きく、凹部の側面に接する接線と底部とのなす角度が140〜170°であることを特徴とする多層繊維構造体、および、該多層繊維構造体からなるフィルターろ材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層繊維構造体は、エンボス加工の熱圧着により形成された特定の凹部形状を有していることで、圧力損失が低くかつ捕集効率にも優れている。しかも、エンボス加工による超極細繊維の破損が抑制される。さらに超極細繊維の繊維構造体からなる超極細繊維層が不織布層にて挟まれているため、超極細繊維の毛羽立ちや層間剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の多層繊維構造体に形成された1つの凹部の断面を示す概略図である。
【図2】本発明の多層繊維構造体の製造に用いるエンボスロールに設けられた凸部の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の多層繊維構造体は、下層、中間層、上層の少なくとも3層からなる多層繊維構造体であって、中間層が直径10〜500nmの超極細繊維からなる繊維構造体、上層と下層が直径1〜100μmの繊維からなる不織布で構成される。超極細繊維は、その微小な直径による広い表面積の発現を効率良く発現するために、上記直径の範囲とする必要があり、さらに10〜300nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。
【0012】
また、中間層の目付は、特に限定されることはないが、超極細繊維の特性を発現させるため、0.1〜20g/mであることが好ましい。
本発明において、上記超極細繊維は、エレクトロスピニング法により成形された繊維であることが、かかる直径を容易に達成できる点から好ましい。
【0013】
上記超極細繊維を構成する重合体は、公知の方法により繊維に成形可能なものであればよく、特にエレクトロスピニング法により紡糸可能はものが好ましい。具体例としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレ−ト(PMMA)、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド−3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド共重合体、ポリメタフェニレンイソフタラミド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセテート、セルロース、ポリエチレンサルファイド、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン(FVDF)、ポリウレタン、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリビニルメチルケトン、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ナイロン6、ナイロン66などナイロン系、ポリ臭化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリクロロプレン、ノルボルネン系モノマーの開環重合体およびその水添物、フィブロイン、天然ゴム、キチン、キトサン、コラーゲン、ゼインなどの有機材料が挙げられ、これらは共重合したものであっても、混合物で挙げられる。また、シリカ、アルミナ、Y、ZrO、チタニアなどのゾルゲル法を利用できる無機材料であってもよい。
【0014】
一方、上層および下層の不織布を構成する繊維の直径は、中間層の保護層となるため1〜100μmとする必要があり、1〜20μmがより好ましい。
また、上層および下層の目付は5〜100g/mが好ましい。該目付が5g/m未満の場合、不織布層の斑が大きくなるため、中間層に含まれる超極細繊維が破損し易くなる。一方、該目付が100g/mを超える場合は、多層構造体に含まれる超極細繊維の割合が低くなり、超極細繊維の特有の性能が発現し難くなる。
【0015】
本発明においては、上層と下層をエンボス加工により、部分的に熱圧着させることから、上層および/または下層の不織布の少なくとも一部に熱可塑性繊維を含むか、上層および/または下層の不織布に熱可塑性樹脂が付着していることが好ましい。なお、ここで「不織布の少なくとも一部に熱可塑性繊維を含む」とは、不織布が全て熱可塑性繊維からなるものも含まれることを意味する。
【0016】
上記の熱可塑性繊維を構成するポリマーおよび熱可塑性樹脂を構成するポリマーとしては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂(PMMA)などが挙げられる。
【0017】
上層および下層の不織布を構成する繊維は、合成繊維であっても天然繊維又は無機繊維であっても良く、その一部に熱可塑性繊維あるいは熱可塑性樹脂が含まれていれば良い。天然繊維としては、セルロース繊維、タンパク質繊維など、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維などが挙げられる。合成繊維のポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ナイロン6、ナイロン66などのナイロン系、芳香族ポリアミドなどが挙げられる。
【0018】
上層または下層の繊維構造体が、熱可塑性繊維のみ、または、熱可塑性繊維とそれ以外の繊維で構成されている場合、熱可塑性繊維の繊維構造体全重量に対する重量比率は5〜100重量%が好ましく、40〜100重量%がより好ましい。
【0019】
一方、上層または下層の繊維構造体に、熱可塑性樹脂が付着している場合は、熱可塑性樹脂の繊維構造体全重量に対する重量比率は5〜50重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。
【0020】
本発明においては、エンボス加工により上層と下層とが部分的に熱圧着しており、熱圧着により形成された凹部の断面において、底部より上開口部が大きく、凹部の側面に接する接線と底部とのなす角度が140〜170°であることが肝要である。かかる多層繊維構造体とすることにより、捕集効率の低下や圧力損失の増加を防ぎ、超極細繊維が毛羽となって発生するのを抑止することができる。なお、図1には、本発明の多層繊維構造体に形成された凹部の断面の概略図を示しているが、上記角度はθで表される角度である。
【0021】
すなわち、該角度が140°未満の場合、熱圧着部分の周辺において超極細繊維層の目付が低下し、フィルターとして使用する際に捕集性能が低下し易い。また、多層繊維構造体を取扱う際に、超極細繊維からなる中間層が多層繊維構造体から剥離したり、超極細繊維が毛羽となって発生したりする。一方、該角度が170°を超える場合、多層繊維構造体の上層および下層がほぼ全体にわたって圧着し、圧力損失が高くなり、好ましくない。
【0022】
多層繊維構造体の厚み(図1のb)に対する熱圧着している凹部の底部の厚み(図1のa)の比率(a/b)は、多層構造体の取扱時における上層および下層の剥離防止の観点から、5〜50%が好ましく、5〜30%がより好ましい。
【0023】
さらに多層繊維構造体の全面積に対する熱圧着している凹部の底部分の面積比率は1〜15%が好ましく、3〜8%がより好ましい。該当部分の面積比率が1%未満の場合には、十分な接着強度が得られず、多層繊維構造体の取扱性に劣る。一方、該当部分の面積比率が15%を超える場合には、圧力損失が高くなるため、好ましくない。上記凹部の底部分の形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、長方形等が上げられる。
【0024】
上層または下層の不織布は、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、トウ開繊法、抄紙法、カーディング法、エアレイド法、フィラメント直交法などにより製造できる。これらの繊維構造体はそのまま用いても良いが、制電加工、撥水加工、親水加工などが目的に応じて施されていてもよい。
【0025】
さらに、上層または下層の繊維構造体の上に超極細繊維の繊維構造体からなる中間層を形成する。本発明においては、超極細繊維を形成する手法としてはエレクトロスピニング法に好ましく例示することができる。
【0026】
エレクトロスピニング法とは、前述した超極細繊維を成形できるポリマーの溶液に、高電圧を印加して繊維構造体上にスプレーして超極細繊維を形成する方法である。また、得られる超極細繊維の直径は印加電圧、溶液濃度、スプレーの飛散距離等に依存し、これらの条件を調整することで任意の直径とすることができる。
【0027】
前述したポリマーを溶解させる溶媒としては、前記材料により異なり、特に限定されるものではないが、例えば、水、アセトン、クロロホルム、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、シクロヘキサン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、塩化メチレン、四塩化炭素フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、蟻酸、ヘキサフルオロイソプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどを挙げることができる。
【0028】
電解紡糸と条件しては、濃度は1〜16%、電圧は5.0〜70kV、紡糸距離は5.0〜50cm、単位距離あたりの電圧に換算すると、0.5〜7.0kv/cmであるのが好ましい。
【0029】
具体的には、全芳香族ポリアミドポリマーと溶媒とを5:95〜16:84の重量比で溶解させたポリマー溶液を調製し、5〜70kVの電圧下で行うことにより前述した直径を有するアラミド超極細繊維を作製することができる。
【0030】
紡糸溶液の供給は、ノズルや口金から押し出す方法や、紡糸溶液中に浸した円盤やドラムに、必要量となるように紡糸溶液を付着させ、連続回転させることにより供給する方法が挙げられる。ノズルや口金から供給する場合、吐出部の内径は超極細繊維の直径と相関がないため、限定はない。
【0031】
上層または下層の繊維構造体の上に超極細繊維の繊維構造体からなる中間層を形成した後、さらにその上に反対の層を積層、すなわち上層の繊維構造体上に中間層を形成した場合はその上に下層を、下層の繊維構造体上に中間層を形成した場合はその上に上層を積層し、これらをエンボス加工により、部分的に熱圧着する。エンボスロール温度は、上層および/または下層に含まれる熱可塑性繊維あるいは樹脂の融点±20℃となる温度領域が好ましく、該融点±10℃の温度領域がより好ましい。
【0032】
また、熱圧着により形成された凹部の断面において、底部より上開口部が大きく、凹部の側面に接する接線と底部とのなす角度を140〜170°とするには、図2にエンボスロールに設けられた多数の円錐台形状凸部のうち1つ凸部断面の概略図を示すが、この図に示したエンボス角度θ’を約50〜80°に設計することで上記範囲とすることができる。また、多層繊維構造体の全面積に対する凹部の底部の面積の比率は、エンボスの頂上部の面積を所望の面積となるようエンボス形状を設計することで前述した望ましい範囲とすることができる。さらに、多層繊維構造体の厚みに対する凹部の底部の厚みの比率は、上下ロールのクリアランスを調整することによって前述した望ましい範囲とすることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の例によって、本発明が限定されることはない。なお、実施例中の各特性値は下記の方法で測定した。
【0034】
(1)直径
上層、中間層、下層の繊維構造体から任意にサンプリングした繊維100本について、走査型電子顕微鏡JSM6330F(JEOL社製)にて測定し、直径の平均値を求めた。なお測定は、30,000倍の倍率で行った。
【0035】
(2)圧力損失
エアーを面速度5.3cm/sになるように多層繊維構造体に流し、多層繊維構造体の前後の圧力差を微差圧計にて測定した。
【0036】
(3)捕集効率
0.3μmのNaCl粒子の試験用粉塵含有空気を面速度5.3cm/sとなる流量で通過させ、多層繊維構造体の上流側および下流側におけるNaCl粒子濃度CINおよびCOUTを、それぞれパーティクルカウンタによって測定し、下記式によって捕集効率を求めた。
捕集効率(%)=(1−CIN/COUT)×100
【0037】
(4)凹部分の角度
多層繊維構造体を平面方向と垂直に切断し、熱圧着により形成された凹部の断面において、凹部の側面に接する接線と底部とのなす角度(図1の角度θ)を分度器にて測定した。
【0038】
(5)凹部分の厚み比率
多層繊維構造体を平面方向と垂直に切断し、多層繊維構造体の厚み(図1のb)に対するエンボス加工により熱圧着している凹部の底部の厚み(図1のa)を測定した。
【0039】
(6)層間剥離の評価
多層繊維構造体を二つ折りにした際に、熱圧着部が剥離していないものを○、熱圧着部が剥離しているものを×とした。
【0040】
[実施例1]
多層繊維構造体の上層ならびに下層には、目付け50g/mのポリプロピレンからなるスパンボンド不織布(旭化成せんい製ELTAS P03050)を使用した。また、上記(1)の方法によりスパンボンド不織布の直径の測定を行い表1に示した。
界面重合法により目的ポリマーを製造した。イソフタル酸クロライド14.2gを金属ナトリウムにて脱水したテトラヒドロフラン100mlに溶解し、攪拌しながら、メタフェニレンジアミン7.41gをテトラヒドロヒラン100mlに溶解した溶液を細流として徐々に加えていくと白濁した乳化液を作製した。攪拌を約5分継続した後、炭酸ソーダ14.8gおよび食塩28.0gを300mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、約5分間激しく攪拌した。得られた白色重合体を静置して沈殿させ、透明な水溶液相を除去、ろ過することで芳香族ポリアミドポリマー(ポリメタフェニレンイソフタルアミド)を得た。
【0041】
エレクトロスピニングは特開2006−336173号公報記載の方法に準じ、超極細繊維を製造した。すなわち、得られた芳香族ポリアミドポリマー(ポリメタフェニレンイソフタルアミド)をN,N−ジメチルアセトアミドに、10重量%となるように溶解し、1kV/cmとなるように電界をかけてエレクトロスピニングを20分行い、下層となるスパンボンド不織布上に超極細繊維からなる中間層を形成した。この中間層の目付は、0.1g/mであった。
得られた超極細繊維を走査型電子顕微鏡にて観察し、直径の測長を行い、その平均値を表1に示した。
さらに、この中間層の上を前述したスパンボンド不織布で覆い、上層、中間層、下層の3層からなる積層体とした。
【0042】
次にこの積層体を、多数の凸部分を有し、加熱された彫刻ローラ(上ローラ)と平滑な耐熱性樹脂ローラ(下ローラ)を用いて、上ローラの表面温度を160℃、上下ローラ間の線圧を0.5t/30cm、クリアランス0.7mmの条件で、エンボス加工を行い、上層および下層を熱圧着させた。前記加熱ローラは、多数の凸部分を有する彫刻ロールであり、1つの該凸部は円錐台形状、すなわち、凸部断面が図2に示す台形でかつ凸部の頂上部が円形である形状を有し、1つの凸部頂上部の面積が0.2cm、図2に示す凸部断面のエンボス角度θ’が55°であり、多層繊維構造体の全面積に対する、エンボス凸部の頂上部の合計面積、すなわち、多層繊維構造体に形成された熱圧着している凹部底部の合計面積の比率が8%となるローラを使用した。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
エレクトロスピニング時間を変更した以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
上ローラを1つの凸部分の面積が0.4cm、エンボス角度が55°であり、多層繊維構造体の全面積に対する、エンボス凸部の頂上部の合計面積、すなわち、多層繊維構造体に形成された熱圧着している凹部底部の合計面積の比率が8%となるローラを使用してエンボス加工を行う以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
上ローラを1つの凸部分の面積が0.2cm、エンボス角度が55°であり、多層繊維構造体の全面積に対する、エンボス凸部の頂上部の合計面積、すなわち、多層繊維構造体に形成された熱圧着している凹部底部の合計面積の比率が4%となるローラを使用してエンボス加工を行う以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
エンボス加工時のクリアランスを1.5mmに変更する以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
上ローラのエンボス角度を70°に変更する以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例1と同様の製造方法に従い、エンボス加工を実施しない以外は、実施例1と同様の操作を行った。この結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
上ローラのエンボス角度を20°に変更する以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
上ローラのエンボス角度を0°(フラットローラ)に変更する以外は実施例1と同様に多層繊維構造体を製造した。これらの結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、超極細繊維が不織布層により保護されているため、超極細繊維の毛羽立ちおよび基材からの剥離、超極細繊維の破損が抑制された繊維構造体を成形することが可能となり、超極細繊維を含む繊維構造体の加工性が向上し、さらに保護層と超極細繊維を一体化させる際のエンボス加工での超極細繊維の破損を抑制可能なため、繊維産業に有用である。
【符号の説明】
【0053】
a 多層繊維構造体の熱圧着している凹部の底部の厚み
b 多層繊維構造体の厚み
θ 熱圧着している凹の底部の側面に接する接線と底部とのなす角度
θ’ エンボスローラの凸部分のエンボス角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層、中間層、上層の少なくとも3層からなる多層繊維構造体であって、中間層が直径10〜500nmの超極細繊維からなる繊維構造体、上層と下層が直径1〜100μmの繊維からなる不織布であり、エンボス加工により上層と下層とが部分的に熱圧着しており、熱圧着により形成された凹部の断面において、底部より上開口部が大きく、凹部の側面に接する接線と底部とのなす角度が140〜170°であることを特徴とする多層繊維構造体。
【請求項2】
中間層が、エレクトロスピニング法により成形された超極細繊維からなる繊維構造体である請求項1記載の多層繊維構造体。
【請求項3】
上層および/または下層の不織布が少なくとも一部に熱可塑性繊維を含むか、上層および/または下層の不織布に熱可塑性樹脂が付着している請求項1記載の多層繊維構造体。
【請求項4】
熱可塑性繊維または熱可塑性樹脂の融点が、超極細繊維の融点もしくは熱分解温度よりも20℃以上低い請求項3記載の多層繊維構造体。
【請求項5】
多層繊維構造体の全面積に対するエンボス加工により熱圧着している凹部の底部の面積の比率が、1〜15%である請求項1記載の多層繊維構造体。
【請求項6】
多層繊維構造体の厚みに対するエンボス加工により熱圧着している凹部の底部の厚みの比率が、5〜50%である請求項1記載の多層繊維構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層繊維構造体からなるフィルターろ材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−88349(P2011−88349A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243451(P2009−243451)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】