説明

多層膜の形成方法

【課題】粘度が異なる複数の塗工液を塗布して樹脂層を形成する際に、微細な塗工ムラを生じさせることのない多層膜の形成方法を提供。
【解決手段】樹脂層形成装置として、フィルムを所定速度で搬送するバックアップローラ13,23と、バックアップローラ表面にてフィルムに対し樹脂塗工液を吐出する塗工手段と、バックアップローラにフィルムを所定速度で供給する供給ローラ11,21とを備えた樹脂層形成装置を用い、最も高粘度の樹脂塗工液により樹脂層を形成する樹脂層形成装置100において、塗工手段に最も近い供給ローラ11のフィルム搬送速度を一定値に固定し、バックアップローラ13のフィルム搬送速度をその供給ローラ11に追従するように制御し、他の樹脂層形成装置200の供給ローラ21のフィルム搬送速度をフィルムの伸縮に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層膜の形成方法に関し、より詳しくは、逐次塗工方法によってフィルム上に多層膜を形成することにより画像表示装置等に有用な光学機能フィルムを製造するための多層膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置として、液晶、プラズマ、又は有機EL等の薄型の画像表示装置が主流となっているが、これらの画像表示装置においては、画像表示特性の更なる高性能化と、低価格化という相反する二つの要望を同時に満たすことが求められ続けている。従って、これらの画像表示装置を構成する各部材、例えば、液晶表示装置では、液晶層や偏光板のみならず、光学補償層、ハードコート層、反射防止層、位相差層などの種々の光学機能層についても、それぞれ目的に適った機能を発揮することのみならず、画像表示装置の表示画像に悪影響を及ぼすことのない優れた品質を有し、しかも低コストで製造されることが求められる。
【0003】
樹脂で構成された光学機能層を複数積層する方法としては、下記特許文献1記載のように、長尺フィルムをロールからロールへと搬送する途中に複数の塗工ステーションを配し、該塗工ステーションによって各種樹脂溶液を塗工液としてフィルム上に塗布することにより、複数の樹脂層(即ち、光学機能層)を形成するような逐次塗工方法が知られており、斯かる方法によって複数の光学機能層を効率的に積層することが可能となっている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−123247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の逐次塗工方法では、塗工液の粘度が同程度である複数の塗工液を塗工する場合には比較的良好な光学機能層の積層体を形成することも可能であるが、塗工液の粘度が大きく異なる複数の塗工液を塗布して光学機能層の積層体を形成する場合には、形成された樹脂層に微細な塗工ムラが生じやすく、このような樹脂層の積層体を光学機能層として画像表示装置に採用すると、表示画像に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、粘度が大きく異なる複数の塗工液を塗布して樹脂層を形成するような場合であっても、微細な塗工ムラを生じさせることのない多層膜の形成方法を提供することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意研究したところ、フィルムの搬送方向に複数の樹脂層形成装置を配して複数の樹脂層を連続して形成する逐次塗工方式において、最も粘度の高い塗工液による樹脂層を形成する樹脂層形成装置におけるフィルムの搬送速度を安定化させることにより、スジ状の塗工ムラを防止しうることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0008】
本発明は、長尺のフィルムを長手方向に連続的に搬送しつつ、該フィルムの搬送方向に複数の樹脂層形成装置を配し、該樹脂層形成装置によって粘度が異なる複数の樹脂塗工液を塗工することにより、前記フィルム上に複数の樹脂層を形成する多層膜の形成方法であって、前記樹脂層形成装置として、前記フィルムを所定速度で搬送するように駆動されるバックアップローラと、該バックアップローラ表面にて前記フィルムに対し樹脂塗工液を吐出する塗工手段と、該バックアップローラに前記フィルムを所定速度で供給しうるように駆動される供給ローラとを備えた樹脂層形成装置を用い、前記複数の樹脂層形成装置のうち、最も高粘度の樹脂塗工液により樹脂層を形成する樹脂層形成装置において、前記塗工手段に最も近い側の供給ローラのフィルム搬送速度を一定値に固定し、前記バックアップローラのフィルム搬送速度を該塗工手段に最も近い側の供給ローラに追従するように制御し、他の樹脂層形成装置に備えた供給ローラのフィルム搬送速度を、搬送される前記フィルムの伸縮に応じて制御することを特徴とするものである。
【0009】
斯かる構成の多層膜の形成方法によれば、長尺フィルムの搬送方向に設置された複数の樹脂層形成装置を用いて複数の樹脂塗工液を逐次塗工方式で塗工することにより、効率的に、複数の樹脂層を形成することが可能となる。
そして、本発明の多層膜の形成方法では、最も高粘度の塗工液を塗工する樹脂層形成装置において、塗工手段に最も近い側の供給ローラによるフィルム搬送速度を一定値に固定し、バックアップローラによるフィルム搬送速度を該塗工手段に最も近い側の供給ローラに追従するように制御することにより、最も高粘度の塗工液を吐出する塗工手段の先端を通過するフィルムの搬送速度を最も安定化させることができ、高粘度の塗工液がムラ無く均一に塗工されることとなる。
さらに、他の樹脂層形成装置に設けた供給ローラによるフィルム搬送速度を、フィルムの伸縮に応じて制御するようにしたため、フィルムのバタつきや搬送速度の変動を最小限に抑え、粘度の低い他の樹脂塗工液についてもムラなく塗工することが可能となる。しかも、フィルムのバタつきや搬送速度の変動を最小限に抑えることにより、前記高粘度の塗工液を吐出する塗工手段の先端を通過するフィルムの搬送速度に与える影響をも少なくすることができ、該フィルムの搬送速度がより一層安定化されることとなる。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明に係る多層膜の形成方法によれば、粘度が異なる複数の樹脂塗工液を、逐次塗工方式により効率的に塗布して多層膜を形成する場合であっても、微細な塗工ムラを生じさせることなく複数の樹脂層を形成することが可能となり、得られた多層膜は、例えば、画像表示装置用の光学機能層として極めて好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る多層膜の形成方法について説明する。
図1は、本発明に係る多層膜の形成方法の一実施形態を示した概略フロー図であり、図2は図1の部分拡大図、図3は得られた多層膜の一実施形態を示した断面図である。
【0012】
図1及び2に示したように、本実施形態の多層膜の形成方法1は、逐次塗工方法によって基材フィルム2上に二層の樹脂層を形成するものである。具体的には、ロール状に巻かれた長尺状の基材フィルム2を、送り出しローラ30から巻き取りローラ31へと長手方向に連続的に搬送しつつ、該基材フィルム2の搬送方向に二つの樹脂層形成装置100、200を直列的に配置し、各樹脂層形成装置100、200により粘度差が50mPa・s以上あるような二種類の樹脂塗工液を塗工し、前記基材フィルム2上に二種類の樹脂層3、及び樹脂層4を形成するものである。
【0013】
前段の樹脂層形成装置100には、塗工手段としてのダイコーター12が備えられており、該ダイコーター12は、図2に示すように、ポンプ10を介して低粘度の塗工液が所定の供給速度でダイコーター12のダイヘッド部へと供給され、さらに、該塗工液がダイコーター12のスリット部を介してダイ先端部に送られ、ダイ先端部より吐出され、バックアップローラ13によって搬送される基材フィルム2上に塗布され、これによって塗工液による所定の厚みの塗布層3を形成しうるように構成される。
【0014】
また、後段の樹脂層形成装置200に備えられた塗工手段としてのダイコーター22も同様であり、ポンプを介して高粘度の塗工液が所定の供給速度でダイヘッド部へと供給され、スリット部を介してダイ先端部に送られた塗工液がダイコーター22の先端部から吐出され、バックアップローラ23によって搬送される基材フィルム2上、より具体的には、前段で形成された低粘度の塗工液により形成された塗布層3の上に塗布され、これによって所定の厚みの塗工膜4を形成しうるように構成されている。
【0015】
また、各樹脂層形成装置100、200には、ダイコーター12、22の下流側に、それぞれ加熱装置14、24が設置されており、ダイコーター12、22によって塗工された樹脂塗工液を所定の温度に加熱して乾燥及び固定化し、樹脂層を形成するように構成されている。
【0016】
さらに、各樹脂層形成装置100、200には、ダイコーター12、22の上流側に、基材フィルム2を所望の速度で搬送しうるよう駆動される供給ローラ11、21がそれぞれ設けられている。該供給ローラ11、21は、その周面と前記基材フィルム2とが一体となって回転しうるような状態で前記基材フィルム2と接しており、該供給ローラ11、21の外周面の速度が前記基材フィルム2の搬送速度となるものである。また、該供給ローラ11、21は、モータ等の駆動装置(図示せず)と、該駆動装置を所定の速度で駆動させうる制御装置(図示せず)とを備えており、所定の回転数で回転されうるように構成されている。
【0017】
このような供給ローラの具体的な構成については特に限定されるものではないが、供給ローラ周面と基材フィルムとが一体となって回転しうるという観点から、ニップローラを好適に採用することができる。ニップローラとは、例えば、駆動ローラと、従動ローラと、これらのローラの軸に取付けられる歯車等とを有して構成され、駆動ローラの回転を従動ローラに伝えつつ該従動ローラを駆動ローラ側へと付勢することにより、搬送対象であるフィルムを駆動ローラと従動ローラで挟持しながら搬送するものである。
【0018】
また、各樹脂層形成装置100、200に備えられたバックアップローラ13、23は、それぞれ、上流側に備えられた供給ローラ11、21に追従して回転するように構成されている。
例えば、本実施形態では、バックアップローラを駆動するバックアップローラ駆動手段と、前記供給ローラの搬送速度を検出して供給ローラの搬送速度情報を出力する搬送速度検出手段と、該搬送速度検出手段から出力される供給ローラの搬送速度情報を得て、供給ローラの搬送速度と同一となるようなバックアップローラの搬送速度を前記バックアップローラ駆動手段に対して出力するバックアップローラ制御手段と、を備えて構成されている。
【0019】
供給ローラ11、21のうち、高粘度の塗工液を塗工するダイコーター22の上流側に設けた供給ローラ21は、塗工手段に最も近い側の供給ローラとなっており、(以下、基準供給ローラともいう)によるフィルム搬送速度は一定値に固定される。例えば、上述のような搬送速度検出手段から出力される供給ローラの搬送速度情報が所定の値からずれている場合には、駆動手段に対して出力される信号が修正され、供給ローラ21によるフィルム搬送速度が一定値を保つように制御される。
【0020】
該基準供給ローラ21と、前記最も高粘度の樹脂塗工液を塗工する樹脂層形成装置におけるバックアップローラとのフィルム搬送距離は、好ましくは、8m以内とし、より好ましくは、5m以内とする。
【0021】
一方、低粘度の塗工液を塗工するダイコーター12の上流側に設けた供給ローラ(変動制御供給ローラともいう)11は、搬送される前記フィルムが加熱装置14等によって伸縮することを加味し、フィルムが伸縮した場合でもフィルムの張力を保ちつつ、基準供給ローラ21に対して該基準供給ローラ21の搬送速度と同速でフィルムが到達するよう搬送速度が制御されるものである。
より具体的には、フィルムの伸縮を検出する伸縮検出手段が備えられ、フィルムの伸縮量が一定値を維持している場合には該変動制御供給ローラ11のフィルム搬送速度も一定に保たれるよう制御され、フィルムの伸縮量が変化した場合には、その変化に合わせて該変動制御供給ローラ11のフィルム搬送速度も変動するよう制御される。
【0022】
フィルムの伸縮を検出する伸縮検出手段としては、テンションピックアップ方式の伸縮検出装置や、ダンサローラ方式の伸縮検出装置などを使用することができる。
【0023】
本実施形態の多層膜の形成方法においては、テンションピックアップ方式の伸縮検出装置が使用されている。該テンションピックアップ方式の伸縮検出装置は、前段のフィルム加熱装置14と後段の基準供給ローラ21との間に配されたガイドローラ35bに設置されている。具体的には、該ガイドローラ35bのプーリ両端を支持するように該伸縮検出装置が備えられており、該ガイドローラ35bのプーリに作用するフィルム2の張力を、該装置に内臓されたひずみゲージ等により測定し、出力しうるよう構成されている。
【0024】
該伸縮検出装置から出力されたフィルム2の張力測定値は、制御装置(図示せず)へと送られ、変動制御供給ローラ11の速度制御に使用される。即ち、フィルムの張力が上昇した場合にはフィルムの伸縮量が小さくなっていることを意味するため、変動制御供給ローラ11は、その搬送速度を増加させるように制御される。また、フィルムの張力が低下した場合にはフィルムの伸縮量が大きくなっていることを意味するため、変動制御供給ローラ11は、その搬送速度を減少させるように制御される。
【0025】
また、駆動装置を備えた、供給ローラ以外のローラについても同様であり、これらのローラの搬送速度は、基準供給ローラ21によるフィルム搬送速度が一定値となるよう制御された場合に、搬送されるフィルムの伸縮に対応し、フィルムの伸縮量に応じた搬送速度となるよう変動制御される。
【0026】
本発明において、高粘度の樹脂塗工液を構成する樹脂としては特に限定されるものではなく、多層膜の用途に応じて適宜選択することができる。光学用途としては、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミド−イミド、ポリエステル-イミド、又はポリアリレート等のポリマーを挙げることができる。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用してもよいし、例えば、ポリエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用してもよい。このような樹脂の中でも、高透明性、高配向性及び高延伸性を有するポリイミドを高粘度の樹脂塗工液として選択した場合、本発明の効果が得られやすい。
【0027】
前記ポリマーの分子量は、特に制限されないが、例えば重量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは2,000〜500,000の範囲である。
また、前記ポリイミドとしては、例えば、面内配向性が高く、有機溶剤に可溶なポリイミドが好ましい。
【0028】
また、前記樹脂を溶解させる溶剤としては、前記樹脂材料を溶解でき、且つ前記フィルムを浸食しにくいものであればよく、使用する樹脂材料及びフィルムに応じ適宜選択することができる。具体的には、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2-ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、酢酸エチル、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ブチロニトリル、メチルイソブチルケトン、メチルエーテルケトン、シクロペンタノン、二硫化炭素等を用いることができる。
上記溶剤の中では、メチルイソブチルケトンが樹脂組成物の溶解製に優れ、且つ基材フィルムを浸食することがないので特に好ましい。
これら溶剤は、1種又は2種以上を適宜に組み合わせて使用することができる。
【0029】
また、本発明の多層膜の形成方法においては、最も高粘度の樹脂塗工液の粘度が70mPa・s以上であり且つ他の樹脂塗工液の粘度が20mPa・s以下であることが好ましく、中でも、最も高粘度の樹脂塗工液の粘度が100〜1000mPa・sであることがより好ましく、特に、最も高粘度の樹脂塗工液の粘度が100〜550mPa・sであることがさらに好ましい。上記のような場合には、本発明による効果がより一層発揮されやすくなる。
【0030】
高粘度の樹脂塗工液が塗工されて形成された樹脂層の厚みは、通常0.2〜50μmとされ、好ましくは1〜30μmとされる。
【0031】
また、本発明において多層膜が形成されるフィルムとしては、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択されうる。光学用途においては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムなどを挙げることができる。
【0032】
また、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムも挙げることができる。
【0033】
さらにイミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや前記ポリマーのブレンド物等の透明ポリマーからなるフィルムなども挙げることができる。特に光学的に複屈折の少ないものが好適に用いられる。
尚、該フィルムとしては、偏光特性や耐久性などの観点から、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマーが好適に用いられ、特にトリアセチルセルロースフィルムが好適に用いられる。
【0034】
また、該フィルムの厚みについても特に限定されるものではなく、多層膜の用途に応じて適宜選択されうるが、一般には、10〜1000μmの厚みのフィルムにおいて本発明の効果が発揮されやすい。
【0035】
複数の樹脂層を連続して形成する逐次塗工方式においては、フィルムの搬送方向において複数の塗工手段や加熱装置が設置されるため、フィルムの搬送速度が所々で極めて微少なレベルで変動しやすくなるところ、本実施形態の多層膜の形成方法によれば、逐次塗工方式を採用した場合においても、高粘度の樹脂塗工液を吐出するダイコータ22の先端を通過するフィルム2の搬送速度を微少なレベルでも安定化させることが可能となり、その結果、スジ状の塗工ムラのない極めて均一な多層膜を形成することができる。
【0036】
尚、本発明に係る多層膜の形成方法は、上記のような実施形態に限定されるものではない。例えば、塗工手段としては、前記実施形態ではダイコーターを用いた場合について説明したが、これ以外にも、カーテンコーター、ロールコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター等の公知の塗布手段を使用することができる。
【0037】
また、フィルムの伸縮を検出する伸縮検出手段としては、上記実施形態で説明したテンションピックアップ方式による張力制御装置に限定されず、ダンサローラ方式の伸縮検出装置などを採用することもできる。
【0038】
ダンサローラ方式の伸縮検出装置とは、搬送されるフィルムに対して所定の付勢力で押し付けられるダンサローラを備え、フィルムからの抗力の大きさに応じて該ダンサローラの位置が変動しうるように構成され、フィルムの張力を一定に保つことのできる装置である。
【0039】
このようなダンサローラ方式の伸縮検出手段を設けた場合、ダンサローラが所定の基準位置にある場合には、フィルムの伸縮量が一定値を維持していることを意味するため、変動制御供給ローラは、その搬送速度が維持されるように制御される。また、ダンサローラが接触するフィルム面を押し下げる方向へ移動する傾向にある場合には、フィルムの伸び率が大きくなっていることを意味するため、変動制御供給ローラは、その搬送速度を減少させるように制御される。また、ダンサローラが接触するフィルムと反対方向へ移動する傾向にある場合には、フィルムの伸び率が小さくなっていることを意味するため、変動制御供給ローラは、その搬送速度を増加させるように制御される。
さらに、ダンサローラ方式の伸縮検出手段を設けた場合、フィルムが伸縮しても一定の付勢力を作用させながらダンサローラが移動するため、フィルムの張力が一定に保たれるという利点もある。
【0040】
また、制御対象となるローラと前記基準供給ローラ21との間でフィルムの伸び率が略一定である場合には、フィルムの伸縮量に応じた搬送速度制御方法として、比率(ドロー)制御方式による速度制御装置を採用することも可能である。比率(ドロー)制御方式による速度制御とは、フィルムの伸び率から求められる速度変化率に基づき、制御対象となるローラの速度を決定するものである。従って、例えば、制御対象となるローラが基準供給ローラ21よりも上流側に位置し、該制御対象ローラと基準供給ローラ21との間でのフィルムの伸び率が5%である場合には、該制御対象ローラの搬送速度は、基準供給ローラ21の1/1.05倍とすればよい。
【0041】
また、塗工膜の固定化方法についても特に限定されず、使用される樹脂の種類やその配合部数、またフィルムの材質によって適宜選択されうる。具体的には、条件を変えて二段階で行うような乾燥工程や、紫外線などの光で硬化する光重合性の官能基をもった樹脂を用いた場合には、可視光又は紫外光を照射することによって塗工膜を固定化する方法を採用することもできる。
【0042】
さらに、本発明に係る多層膜の形成方法においては、発明の作用効果を妨げない範囲内において、製造する多層膜の用途に応じ、フィルム幅方向又は長手方向への延伸工程、他のフィルムへの転写工程などを同時に行っても良い。延伸工程によって多層膜を幅方向又は長手方向に延伸することにより、例えば、積層体の面内において屈折率が異なるような、いわゆる面内位相差を有する複屈折層を形成するができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
使用材料
・基材フィルムA:トリアセチルセルロース製の長尺フィルム(富士写真フィルム社製、TF−80UL、膜厚80μm)を基材フィルムAとした。
・基材フィルムB:ポリエチレンテレフタレート製の長尺フィルム(東レ社製、ルミラー、膜厚75μm、幅1300mm)を基材フィルムBとした。
・低粘度の樹脂塗工液A1:芳香族ポリエステルを基本としたポリエステル系ポリウレタン樹脂(東洋紡社製、「VYRON UR−1400」)を、溶媒としてのメチルイソブチルケトンに溶解し、前記ポリエステル系ポリウレタン樹脂の濃度が5重量%、粘度が4.5mPa・sとなるよう調製したものを低粘度の樹脂塗工液A1とした。
・低粘度の樹脂塗工液A2:ポリウレタン樹脂(三井化学ポリウレタン社製、「タケネート M631N」)を、キシレン/酢酸エチル=1:1で混合してなる溶媒に溶解し、ポリウレタン樹脂の濃度が20重量%、粘度が2.5mPa・sとなるように調製したものを低粘度の樹脂塗工液A2とした。
・低粘度の樹脂塗工液A3:前記A1と同成分からなり、ポリエステル系ポリウレタン樹脂の濃度が8.0重量%、粘度が12mPa・sとなるよう調製されたものを高粘度の樹脂塗工液A3とした。
・高粘度の樹脂塗工液B1:2,2‘−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンおよび2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニルから合成されたポリイミドを、溶媒としてのメチルイソブチルケトンに溶解し、前記ポリイミド樹脂の濃度が10重量%、粘度が180mPa・sとなるよう調製されたものを高粘度の樹脂塗工液B1とした。
・高粘度の樹脂塗工液B2:前記B1と同成分からなり、ポリイミド樹脂の濃度が8.5重量%、粘度が100mPa・sとなるよう調製されたものを高粘度の樹脂塗工液B2とした。
・高粘度の樹脂塗工液B3:前記B1と同成分からなり、ポリイミド樹脂の濃度が13.5重量%、粘度が600mPa・sとなるよう調製されたものを高粘度の樹脂塗工液B3とした。
・高粘度の樹脂塗工液B4:下記構造式のポリアリレートをメチルエチルケトンに溶解し、濃度12重量%、粘度540mPa・sとなるように調整されたものを高粘度の樹脂塗工液B4とした。
【0045】
【化1】

【0046】
(実施例1)
前記実施形態として示した逐次塗工方式の多層膜形成装置(図1)を使用し、基材フィルムAの上に樹脂塗工液A1、及び樹脂塗工液B1による樹脂層を形成した。具体的には、上流側の樹脂層形成装置において低粘度の樹脂塗工液A1を基材フィルムA全面に塗布した後、120℃で2分間の加熱処理を施すことにより、基材フィルム上に平滑な厚み1μmの第一の樹脂層を形成した。続いて、下流側の樹脂層形成装置において、前記第一の樹脂層の上に高粘度の樹脂塗工液B1を塗布した後、120℃で3分間の加熱処理を施すことにより、第二の樹脂層を形成した。さらに、これらの樹脂層が積層されたフィルムをテンター延伸機にてフィルムの幅方向両端を把持し160℃の加熱条件下で幅方向1.15倍に延伸し、複屈折層を含む多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B1によって形成された第二の樹脂層の厚みが2.7μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が250nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
ここで、nx、ny及びnzはそれぞれ、x方向、y方向及びz方向の3方向の主屈折率であり、x方向は複屈折率層の面内において最大の屈折率を示す方向、y方向は面内においてx方向と直交する方向、z方向はフィルムの厚み方向である。
【0047】
尚、多層膜形成装置の設定条件としては、後段に設けた高粘度の樹脂塗工液B1を塗工する樹脂層形成装置200に備えた供給ローラ21によるフィルム搬送速度を20m/分に固定するようにし、該供給ローラ21によりフィルムが供給されるバックアップローラ23によるフィルム搬送速度を、前記供給ローラ21のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、該供給ローラ21とバックアップローラ23との間のフィルム搬送距離を5mとし、さらに、前段に設けた低粘度の樹脂塗工液A1を塗工する樹脂層形成装置100に備えた供給ローラ11によるフィルム搬送速度を、供給ローラ11とバックアップローラ13間に配されたガイドローラ35aに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御し、該供給ローラ11によりフィルムが供給されるバックアップローラ13によるフィルム搬送速度を、前記供給ローラ11のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、該供給ローラ11とバックアップローラ13との間のフィルム搬送距離を5mとした。
【0048】
(実施例2)
後段の供給ローラ21とバックアップローラ23との間のフィルム搬送距離を11mとすることを除き、他は実施例1と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0049】
(実施例3)
同じく、前記実施形態として示した逐次塗工方式の多層膜形成装置(図1)を使用し、基材フィルムBの上に樹脂塗工液B1、及び樹脂塗工液A2による樹脂層を形成した。具体的には、上流側の樹脂層形成装置において高粘度の樹脂塗工液B1を基材フィルムB全面に塗布した後、120℃で3分間の加熱処理を施すことにより、基材フィルム上に平滑な厚み3μmの第一の樹脂層を形成した。続いて、下流側の樹脂層形成装置において、前記第一の樹脂層の上に低粘度の樹脂塗工液A2を塗布した後、120℃で3分間の加熱処理を施すことにより、第二の樹脂層を形成した。さらに、これらの樹脂層が積層されたフィルム上に、前記基材フィルムAを張り合わせた後、前記基材フィルムBを剥離し、更に、テンター延伸機にてフィルムの幅方向両端を把持し140℃の加熱条件下で幅方向1.15倍に延伸し、複屈折層を含む多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B1によって形成された第一の樹脂層の厚みが2.7μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が200nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0050】
尚、多層膜形成装置の設定条件としては、前段に設けた高粘度の樹脂塗工液B1を塗工する樹脂層形成装置100に備えた供給ローラ11によるフィルム搬送速度を20m/分に固定するようにし、該供給ローラ11によりフィルムが供給されるバックアップローラ13によるフィルム搬送速度を、前記供給ローラ11のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、これら供給ローラ11とバックアップローラ13との間のフィルム搬送距離を5mとし、さらに、後段に設けた低粘度の樹脂塗工液A2を塗工する樹脂層形成装置200に備えた供給ローラ21によるフィルム搬送速度を、供給ローラ21とバックアップローラ23間のガイドローラ35cに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御し、該供給ローラ21によりフィルムが供給されるバックアップローラ23によるフィルム搬送速度を、前記供給ローラ21のフィルム搬送速度に追従させるように制御した。
【0051】
(実施例4)
樹脂塗工液B1に代えて樹脂塗工液B2を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B2によって形成された第二の樹脂層の厚みが2.7μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が250nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0052】
(実施例5)
樹脂塗工液B1に代えて樹脂塗工液B3を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B3によって形成された第二の樹脂層の厚みが2.7μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が250nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0053】
(実施例6)
樹脂塗工液A1に代えて樹脂塗工液A3を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B1によって形成された第二の樹脂層の厚みが2.7μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が200nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0054】
(実施例7)
供給ローラ21とバックアップローラ23との間のフィルム搬送距離を、2.5mとしたことを除き、他は実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B1によって形成された第一の樹脂層の厚みが2.7μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が200nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0055】
(実施例8)
樹脂塗工液B1に代えて樹脂塗工液B4を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B4によって形成された第二の樹脂層の厚みが5.2μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が53nm、面内位相差Δndの平均値が265nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0056】
(比較例1)
前段の供給ローラ11のフィルム搬送速度を固定するようにし、後段の供給ローラ21のフィルム搬送速度を、バックアップローラ13と駆動ローラ36間に配されたガイドローラ35bに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御することを除き、他は実施例1と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0057】
(比較例2)
前段のバックアップローラ13のフィルム搬送速度を固定するようにし、該バックアップローラへフィルムを供給する前段の供給ローラ11のフィルム搬送速度を前記バックアップローラ13のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、後段の供給ローラ21のフィルム搬送速度を、バックアップローラ13と駆動ローラ36間に配されたガイドローラ35bに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御することを除き、他は実施例1と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0058】
(比較例3)
後段のバックアップローラ23のフィルム搬送速度を固定するようにし、該バックアップローラへフィルムを供給する後段の供給ローラ21のフィルム搬送速度を前記バックアップローラ23のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、前段の供給ローラ11のフィルム搬送速度を、供給ローラ11とバックアップローラ13間に配されたガイドローラ35aに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御することを除き、他は実施例1と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0059】
(比較例4)
後段の供給ローラ21のフィルム搬送速度を固定するようにし、該供給ローラ21からフィルムが供給されるバックアップローラ23のフィルム搬送速度を前記供給ローラ21のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、前段の供給ローラ11のフィルム搬送速度を、該供給ローラ11とバックアップローラ13間に配されたガイドローラ35aに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御することを除き、他は実施例4と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0060】
(比較例5)
後段のバックアップローラ23のフィルム搬送速度を固定するようにし、該バックアップローラへフィルムを供給する後段の供給ローラ21のフィルム搬送速度を前記バックアップローラ23のフィルム搬送速度に追従させるように制御し、前段の供給ローラ11のフィルム搬送速度を、該供給ローラ11とバックアップローラ13間に配されたガイドローラ35aに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように制御することを除き、他は実施例4と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0061】
(比較例6)
後段のバックアップローラ23から上流側へ向かって二つ目の駆動ローラ36のフィルム搬送速度を固定するようにし、後段のバックアップローラ23のフィルム搬送速度を該駆動ローラ36のフィルム搬送速度に追従させるように制御したことを除き、他は実施例1と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0062】
(比較例7)
基材フィルムAの上に樹脂塗工液B1による樹脂層を2層形成した。具体的には、上流側の樹脂層形成装置において高粘度の樹脂塗工液B1を基材フィルムA全面に塗布した後、120℃で3分間の加熱処理を施すことにより、基材フィルム上に平滑な厚み2μmの第一の樹脂層を形成した。続いて、下流側の樹脂層形成装置において、前記第一の樹脂層の上に高粘度の樹脂塗工液B1を塗布した後、120℃で3分間の加熱処理を施すことにより、第二の樹脂層を形成した。さらに、これらの樹脂層が積層されたフィルムをテンター延伸機にてフィルムの幅方向両端を把持し140℃の加熱条件下で幅方向1.12倍に延伸し、複屈折層を含む多層膜を備えた光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムは、樹脂塗工液B1によって形成された第二の樹脂層の厚みが4μmであり、厚み方向位相差Rthの平均値が290nm、面内位相差Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。尚、多層膜形成装置の設定条件としては、実施例1と同様とした。
【0063】
(比較例8)
後段のバックアップローラ23を、供給ローラ21とバックアップローラ23間のガイドローラ35cに設置されたテンションピックアップ装置で測定されるフィルム張力が120Nとなるように搬送速度を制御した点を除き、他は実施例1と同様にして多層膜を備えた光学フィルムを作製した。
得られた光学フィルムは、複屈折層の厚みが2.7μmであり、Rthの平均値が250nm、Δndの平均値が50nmであり、nx>ny>nzの光学二軸性を有するものであった。
【0064】
塗工面の干渉ムラの評価
得られた光学フィルムの基材フィルム面側に粘着剤を用いて黒色板を貼り付け、蛍光灯による反射試験により、塗工面の光の干渉ムラを評価した。評価指標は下記の通りである。評価結果を表1に示す。
◎:目視評価では全く干渉ムラが観察されない
○:薄い干渉ムラがところどころに確認される
△:薄い干渉ムラが全面に確認される
×:薄い干渉ムラの中に強い干渉ムラがところどころに確認される(半数以上が薄い干渉ムラ)
××:はっきり見える強い干渉ムラが確認される(半数以上が強い干渉ムラ)
【0065】
上記実施例及び比較例における多層膜の形成条件、及び干渉ムラの評価結果を下記表1乃至表3に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
表1〜4に示したように、最も高粘度の樹脂塗工液B1〜B4を塗工する塗工手段に最も近い側の供給ローラのフィルム搬送速度を一定値に固定しない比較例の方法では、何れも干渉ムラが確認されるような光学フィルムが得られており、多層膜を形成する際に干渉ムラを抑制できないことが認められる。
一方、実施例1〜8の多層膜の形成方法によって得られた光学フィルムは、何れも干渉ムラの少ないものとなっており、塗工ムラの発生が抑制されていることが認められる。
【0071】
特に、最も高粘度の樹脂塗工液を塗工する樹脂層形成装置200において、ダイコータ22と該ダイコータ22に最も近い側の供給ローラ21とのフィルム搬送距離を8m以内とし、且つバックアップローラ23を該供給ローラ21に追従するよう速度制御するとともに、最も高粘度の樹脂塗工液として100〜550mPa・sの範囲内の樹脂塗工液B1、B2及びB4を採用した実施例1、3、4、6〜8によれば、干渉ムラが全く観察されない極めて優れた光学フィルムが得られており、極めて優れた効果を発揮することが認められる。
【0072】
このような結果が得られたのは、本発明によって、最も高粘度の樹脂塗工液を塗工する塗工手段を通過するフィルム速度が、真に安定化されたことが要因であると推測される。
また、比較例3のように、塗工手段に併設されたバックアップローラ23を固定速度とした場合でも干渉ムラが観測されたのは、該バックアップローラ23は後段の加熱装置24によるフィルムの伸縮によって影響を受けやすくマイクロスリップが発生しやすいこと、及び、該バックアップローラ23に追従して制御される供給ローラ21の搬送速度のブレ幅が大きくなり、該塗工手段22へのフィルム供給速度のブレ幅が大きくなったことが原因であると推測される。
【0073】
以上のように、本発明に係る多層膜の形成方法によれば、塗工ムラを抑制しつつ高粘度の樹脂塗工液を用いた樹脂多層膜を均一に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る多層膜の形成方法の一実施形態を示した概略フロー図。
【図2】図1に於ける塗工手段の部分拡大図。
【図3】得られた多層膜の一実施形態を示した断面図。
【符号の説明】
【0075】
1 多層膜の形成方法
2 フィルム
11 変動制御供給ローラ
12、22 ダイコーター
13、23 バックアップローラ
14、24 加熱装置
21 基準供給ローラ
35 ガイドローラ
100 前段の樹脂層形成装置
200 後段の樹脂層形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のフィルムを長手方向に連続的に搬送しつつ、該フィルムの搬送方向に複数の樹脂層形成装置を配し、該複数の樹脂層形成装置によって粘度が異なる複数の樹脂塗工液を塗工することにより、前記フィルム上に複数の樹脂層を形成する多層膜の形成方法であって、
前記樹脂層形成装置として、前記フィルムを所定速度で搬送するように駆動されるバックアップローラと、該バックアップローラ表面にて前記フィルムに対し樹脂塗工液を吐出する塗工手段と、該バックアップローラに前記フィルムを所定速度で供給しうるように駆動される供給ローラとを備えた樹脂層形成装置を用い、
前記複数の樹脂層形成装置のうち、最も高粘度の樹脂塗工液により樹脂層を形成する樹脂層形成装置において、前記塗工手段に最も近い側の供給ローラのフィルム搬送速度を一定値に固定し、前記バックアップローラのフィルム搬送速度を該塗工手段に最も近い側の供給ローラに追従するように制御し、他の樹脂層形成装置に備えた供給ローラのフィルム搬送速度を、搬送される前記フィルムの伸縮に応じて制御することを特徴とする多層膜の形成方法。
【請求項2】
前記複数の樹脂塗工液の粘度差が50mPa・s以上あることを特徴とする請求項1記載の多層膜の形成方法
【請求項3】
前記最も高粘度の樹脂塗工液の粘度が70mPa・s以上であり、他の樹脂塗工液の粘度が20mPa・s以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の多層膜の形成方法。
【請求項4】
前記最も高粘度の樹脂塗工液を塗工する樹脂層形成装置において、塗工手段と該塗工手段に最も近い側の供給ローラとのフィルム搬送距離を、8m以内とすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の多層膜の形成方法。
【請求項5】
前記樹脂塗工液が、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミド−イミド、ポリエステル−イミド、及びポリアリレートからなる群より選択される少なくとも何れか1種の樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の多層膜の形成方法。
【請求項6】
前記塗工手段に最も近い側の供給ローラが、ニップローラであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の多層膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−290068(P2008−290068A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106663(P2008−106663)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】