説明

多層膜構造体の製造方法、多層膜構造体及びめっき装置

【課題】良好な多層膜構造体と、この多層膜構造体の効率的な製造方法及びめっき装置を提供する。
【解決手段】CO2、分散促進剤及びNiめっき液を混合分散部60に供給してめっき分散体を生成する。このめっき分散体は、一対の電極が設けられためっき槽61に供給される。めっき槽61では、CO2を超臨界状態として、電極に電圧を印加して、電解めっきを行う。その後、CO2は供給したままで、分散促進剤とNiめっき液の供給が停止され、その代わりに洗浄液が供給されて、混合分散部60及びめっき槽61が洗浄される。次に、CO2は供給したままで、洗浄液の供給が停止され、この代わりに分散促進剤とAuめっき液が供給される。これにより混合分散部60で生成されるめっき分散体を用いて、めっき槽61においてめっきが行われて、Ni膜の上にAu膜が積層した多層膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱電半導体、磁気ヘッド及びセンサなどに用いられる多層膜構造体の製造方法、多層膜構造体及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、熱電半導体、磁気ヘッド及びセンサなどには、複数の薄膜を積層したいわゆる多層膜が用いられることがある。これら多層膜は、それぞれの機能を実現するために各層の厚さが設定されており、その用途に応じた膜厚で形成する必要がある。
【0003】
従来、これらの薄膜を形成する場合には、PVD(Physical Vapor Deposition;物理気相成長)法やCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法が一般的に用いられていた。なお、薄膜を形成するPVD法として、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの技術が知られている。
【0004】
また、めっき処理で薄膜を形成することもある。しかし、めっき処理で薄膜を形成する場合、ピンホールやクラックなどが生じたり、又は表面が粗くなったりするといった問題があった。そこで、めっきで形成される膜は、ピンホールやクラックなどをなくすために、μm単位の膜厚で形成されるのが一般的であった。
【0005】
一方、良好なめっきを行うために、超臨界状態とした物質と、電解質溶液(めっき液)とを用いてめっき処理を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1においては、浴中に超臨界状態とした物質を含むことによりイオンが拡散されて電極等の反応性が高まるため、良好なめっきを行えるとしている。また、反応終了後には、超臨界状態の物質を気化させることにより電極等を洗浄するため、従来の洗浄液による洗浄工程が不要になるとしている。
【特許文献1】特許第3571627号公報(第1頁、第11頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PVD法やCVD法では、めっき処理に比べて成膜速度が低速であり、生産性が劣るという欠点があった。また、通常、PVD法やCVD法は減圧が必要であり、真空引きなどの処理が必要である。このため、真空装置等の大きな設備が必要であった。特に、PVD法では、蒸発、昇華、スパッタリングといった物理的作用を利用して成膜原料を蒸気化し、それを基板上に堆積させて薄膜を形成するため、基板と密着性が悪いことも多い。一方、めっき処理の場合においても、多層膜を形成するためには、めっき液の交換などが必要である。従来、多層膜をめっきで形成する場合には、めっき液を封入して第1の単層膜を形成し、この使用しためっき液を排出した後、別のめっき液を封入して、第2の単層膜を形成していた。すなわち、バッチ処理により、多層膜を形成していたため、めっき液交換に時間がかかっていた。特に、上述の超臨界状態とした物質を用いためっき処理においては、超臨界状態にするため高圧の雰囲気を実現する必要がある。このため、めっき雰囲気の設定に時間がかかり、めっき液交換に時間がかかっていた。従って、全体として効率的に膜形成を行なうことができず、めっきを用いて多層膜を形成するという発想はなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされ、その目的は、良好な多層膜構造体と、この多層膜構造体の効率的な製造方法及びめっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、めっき液と、このめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いて第1のめっき膜を形成する第1のめっき処理と、前記第1のめっき膜に積層される第2のめっき膜を形成する第2のめっき処理とを含むことを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の多層膜構造体の製造方法において、前記第2のめっき処理は、前記第1のめっき処理とは異なる条件で、めっき液とこのめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いて行い、前記第1のめっき膜に積層される第2のめっき膜を形成することを要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の多層膜構造体の製造方法において、前記第1のめっき処理及び前記第2のめっき処理は、前記拡散流体を連続的に供給しながら行い、前記第2のめっき処理は、前記第1のめっき処理で用いためっき液を排出した後に、前記第1のめっき処理で用いためっき液とは異なるめっき液を導入して前記第2のめっき膜を形成することを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の多層膜構造体の製造方法において、前記第1及び第2のめっき処理は、電解めっき処理であって、前記第2のめっき処理は、前記第1のめっき処理において印加された電圧とは異なる電圧を印加して行うことを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の多層膜構造体の製造方法において、前記拡散流体として、超臨界状態又は亜臨界状態の流体を用いることを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の多層膜構造体の製造方法において、前記拡散流体は、二酸化炭素であることを要旨とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の多層膜構造体の製造方法において、前記第1めっき処理及び前記第2めっき処理の少なくとも一方のめっき処理では、前記めっき液の分散を促進する分散促進剤としてフッ素系化合物を用いることを要旨とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、めっき液と、このめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いる第1のめっき処理により形成した第1のめっき膜と、この第1のめっき膜に積層され、第2のめっき処理により形成した第2のめっき膜とを有することを要旨とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の多層膜構造体において、前記第1のめっき膜の厚さが10nm以上4μm以下であることを要旨とする。
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の多層膜構造体において、前記第1のめっき膜及び第2めっき膜の少なくとも1つの膜が、前記めっき液の分散を促進する分散促進剤としてフッ素系化合物を用いた前記めっき処理により形成したことを要旨とする。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項8〜10のいずれか1つに記載の多層膜構造体を製造するために、前記第1のめっき処理及び前記第2のめっき処理を制御する制御手段を有したことを特徴とすることを要旨とする。
【0017】
(作用)
請求項1、8又は11に記載の発明によれば、めっき液と、このめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いる第1のめっき処理により形成した第1のめっき膜と、この第1のめっき膜に積層され第2のめっき処理により形成した第2のめっき膜とを含む多層膜構造体とする。このため、第1のめっき膜は、拡散流体の拡散力により、めっき液が拡散されて皮膜の付き回りがよくなり、ピンホールが抑制された良好なめっきを行うことができる。従って、めっき処理を用いて、第1のめっき膜を薄膜においてもピンホールがなく、良好な多層膜構造体を形成することができる。また、CVD法やPVD法よりも成膜速度が速いめっき処理により薄膜を形成するため、多層膜構造体の生産性を向上することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、第1のめっき膜に積層される第2のめっき膜も、めっき液と、このめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いて行う。このため、第1のめっき膜だけでなく第2のめっき膜を薄膜にしてもピンホールがなく、良好な多層膜構造体を形成することができる。また、CVD法やPVD法よりも成膜速度が速いめっき処理により薄膜を形成するため、多層膜構造体の生産性を向上させることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、第1のめっき処理及び第2のめっき処理は、拡散流体を連続的に供給しながら行い、第2のめっき膜は、第1のめっき処理で用いためっき液を排出した後に、前記第1のめっき処理で用いためっき液とは異なるめっき液を用いて形成される。このため、拡散流体によって形成される雰囲気を維持しながら、第1のめっき膜と、これに積層する第2のめっき膜とを連続的に形成することができる。また、第1のめっき膜の形成が完了してから第2のめっき膜を形成することができるので、第1のめっき膜と第2のめっき膜との間で急峻な界面を形成した多層膜を形成することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、第1及び第2のめっき膜は、電解めっき処理により形成される。第2のめっき膜は、前記第1のめっき処理における印加された電圧とは異なる電圧を印加して行う第2のめっき処理で形成される。このため、印加する電圧を変更するだけで、物性値などが異なる膜を形成することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、拡散流体として、超臨界状態又は亜臨界状態の流体を用いる。これらの拡散流体は拡散力が非常に高く、良好なめっき皮膜を得ることができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、拡散流体は、二酸化炭素である。従って、拡散流体として用いるCOは、めっきの副反応によって発生した水素を溶解するので、ピンホールの発生を更に抑制することができる。
【0023】
請求項7又は10に記載の発明によれば、めっき処理において、めっき液の分散を促進する分散促進剤としてフッ素系化合物を用いる。このフッ素系化合物により、拡散流体に対するめっき液の分散が促進されることで、皮膜の付き回りが更に良好となり、皮膜におけるピンホールの形成を抑制することが更に容易になる。従って、めっき膜の表面を更に平滑にすることが可能であり、良好なめっき多層膜を得ることができる。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、第1のめっき膜の厚さが10nm以上4μm以下である。金属のグレインの粒径が数nm程度であるため、第1のめっき膜の厚さが10nm以上であれば、孔のない第1のめっき膜を形成することができる。また、水素の気泡が原因となって発生するピンホールの大きさが5μm前後であるので、従来では4μm以下の膜を形成することが困難であったが、このように第1のめっき膜が薄い場合であっても、ピンホールがない良好な多層膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、生産性を向上させて、良好な多層膜構造体を効率的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1及び図2に基づいて説明する。本実施形態では、拡散流体を用いた電解めっきで多層膜を形成する場合を想定して説明する。ここで、本実施形態では、ニッケル(Ni)膜と金(Au)膜を基板Wの上に積層した多層膜を形成する場合を想定する。また、拡散流体としては、超臨界流体の二酸化炭素(以下、「CO2」と記載する)を用いる。なお、CO2の臨界点は、31℃で7.4MPaである。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のめっき装置は、洗浄液タンク11、高純度CO2タンク21、分散促進剤タンク31、第1めっき液タンク41及び第2めっき液タンク51を有している。
【0028】
以下に、上記の構成を詳述する。
洗浄液タンク11は、洗浄液を収容する。本実施形態では、洗浄液として純水を用いる。この洗浄液タンク11は、洗浄液供給管を介して混合分散部60に接続されている。この洗浄液供給管には、液ポンプ12、加熱部13及び供給弁14が設けられている。液ポンプ12は洗浄液を加圧するために用いられる。加熱部13は、洗浄液を加熱するために用いられる。供給弁14は、洗浄液タンク11と混合分散部60との連通及び遮断を行い、開閉により、混合分散部60への洗浄液の供給又は供給停止を制御する。
【0029】
一方、高純度CO2タンク21は、拡散流体としてのCO2を収容する。この高純度CO2タンク21は、後述する混合タンク30に接続されているとともに、混合分散部60にCO2供給管を介して接続されている。このCO2供給管には、液ポンプ22、加熱部23及び供給弁24が設けられている。液ポンプ22はCO2を加圧するために用いられる。加熱部23は、CO2を加熱するために用いられる。供給弁24は、開閉制御されることにより、高純度CO2タンク21と混合分散部60との連通及び遮断を行い、混合分散部60へのCO2の供給又は供給停止を制御する。
【0030】
また、分散促進剤タンク31は、分散促進剤を収容する。本実施形態では、分散促進剤としてフッ素系化合物を用いる。
フッ素系化合物は、フッ素基と親水性基とを有する。本発明で使用されるフッ素系化合物として望ましい化合物には、非イオン性親水性基を有するフッ素系化合物が挙げられる。この非イオン性親水性基を有するフッ素系化合物は高圧CO2中で良好な分散促進機能を発現する。
【0031】
また、フッ素基としては、直鎖或いは枝分かれを有するペルフルオロアルキル基、またはペルフルオロポリエーテル基を始めとした炭素鎖中にヘテロ原子を含むものが挙げられる。これらのうちでも炭素鎖長がペルフルオロアルキル基では3〜15程度、炭素鎖中にヘテロ原子を含むものでは3〜50程度のものが使用可能である。
【0032】
また、親水性基にはエーテル、エステル、アルコール、チオエーテル、チオエステル、アミド等の極性基が挙げられる。これらのうちでも本実施例で挙げたフッ素基がペルフルオロポリエーテル基であり、親水性基が短鎖のポリエチレングリコール基であるものが特に優れている。
【0033】
また、従来の分散促進剤である炭化水素系の界面活性剤は長鎖のポリエチレングリコール基を有しているため化学的な安定性に課題があった。これに比べて、フッ素系化合物はより安定なため、長期間の繰り返し使用に対する耐久性を期待できる。また炭化水素系界面活性剤の分解物に由来する異物混入の可能性も少なくなる。
【0034】
フッ素系化合物は、疎水性のフッ素基を有しているため、CO2とめっき液とが安定した分散状態を維持している時間(分散保持時間)が短く、めっき液とCO2との分離が容易であり、操作性の面でも優れている。このフッ素系化合物を用いた場合、分散操作を停止すると例えば数秒〜数十秒程度で、めっき分散体はCO2とめっき液に分離する。
【0035】
分散促進剤タンク31は、混合タンク30に接続されている。混合タンク30は、高純度CO2タンク21から供給されるCO2と分散促進剤タンク31とから供給される分散促進剤とを混合したCO2混合液を保存するタンクである。この混合タンク30は、供給管を介して混合分散部60に接続されている。この供給管には、液ポンプ32、加熱部33及び供給弁34が設けられている。液ポンプ32は、混合タンク30から供給されるCO2混合液を加圧するために用いられる。加熱部33は、CO2混合液を加熱するために用いられる。供給弁34は、開閉制御されることにより、混合タンク30と混合分散部60との連通及び遮断を行い、CO2と分散促進剤とのCO2混合液の混合分散部60への供給又は供給停止を制御する。
【0036】
更に、第1めっき液タンク41は、Niめっき液を収容する。この第1めっき液タンク41は、加熱・保温手段を備え、Niめっき液を所定の温度(例えば50℃程度)になるように加熱し保温する。更に、この第1めっき液タンク41は、第1めっき液供給管を介して混合分散部60に接続されている。この第1めっき液供給管には、液ポンプ42と供給弁44が設けられている。液ポンプ42は、Niめっき液を昇圧するために用いる。供給弁44は、開閉制御されることにより、第1めっき液タンク41及び混合分散部60との連通及び遮断を行い、混合分散部60への供給又は供給停止を制御する。
【0037】
また、第2めっき液タンク51は、Auめっき液を収容する。この第2めっき液タンク51は、加熱・保温手段を備え、Auめっき液を所定の温度(例えば50℃程度)になるように加熱し保温する。更に、この第2めっき液タンク51は、第2めっき液供給管を介して混合分散部60に接続されている。この第2めっき液供給管には、液ポンプ52と供給弁54が設けられている。液ポンプ52は、Auめっき液を昇圧するために用いる。供給弁54は、開閉制御されることにより、第2めっき液タンク51及び混合分散部60との連通及び遮断を行い、混合分散部60への供給又は供給停止を制御する。
【0038】
混合分散部60は、めっき液、CO2及び分散促進剤を混合して、めっき処理に使用するめっき混合液を生成し、これを分散状態に攪拌してめっき分散体を形成する。本実施形態では、この混合分散部60は、上流側の混合器と、これに接続された下流側の分散機とを含んで構成されている。混合器は、供給弁14,24,34,44,54のうち2つが選択されて開かれると、洗浄液を含む洗浄混合液、Niめっき液を含むめっき混合液、Auめっき液を含むめっき混合液のいずれかを生成する。分散機は、励磁されたソレノイドによって回転する攪拌子を備え、この攪拌子を容器内部で回転させることにより、混合器で生成されためっき混合液をその成分が均一になるように分散させて、めっき分散体を形成する。
【0039】
混合分散部60は、めっき槽61に接続されている。めっき槽61は、混合分散部60の分散機から供給されるめっき分散体を用いて、電解めっきを行うための槽である。具体的には、めっき槽61の内部には、一対の電極が配設されている。この電極の一方には、導電体の基板Wが接続される。本実施形態では、電解めっきで基板WをNiにて被覆し、その上をAuにて被覆し、基板Wはマイナス電極に接続される。また、このめっき槽61には、図示しないブロックヒータが設けられている。このブロックヒータを用いて、CO2が超臨界状態かつめっき可能な温度となるように、めっき槽61内のめっき分散体を所定の温度(例えば50℃)に設定する。
【0040】
更に、めっき槽61は、分離槽65に接続されている。このため、めっき槽61から排出されためっき分散体は、分離槽65に排出される。分離槽65は、CO2と分散促進剤と、めっき液とを分離する。この分離槽65は、混合タンク30及びめっき液排出部68に接続されている。分離槽65において分離されたCO2と分散促進剤は、これらに含まれている水素や酸素などのガスが除去された後、圧力が調整されて混合タンク30に供給される。
【0041】
めっき液排出部68は、排出しためっき液から固体の不純物を沈殿除去し、溶解した有機物などの不純物を除去する。このめっき液排出部68は、排出切換弁70を介して、第1めっき液再生装置71、第2めっき液再生装置72及び廃液タンク73に接続されている。排出切換弁70は、めっき液排出部68と、第1及び第2めっき液再生装置71,72又は廃液タンクとを接続させる。具体的には、排出切換弁70は、Niめっき液を再生する場合には、めっき液排出部68と第1めっき液再生装置71とを連通するように切り換えられ、Auめっき液を再生する場合にはめっき液排出部68と液再生装置72とを連通するように切り換えられる。更に、排出切換弁70は、めっき液を排出する場合には、めっき液排出部68と廃液タンク73とを連通するように切り換えられる。
【0042】
第1めっき液再生装置71は、Niめっき液の成分を調整し、Niめっき液を再び使用可能となるように再生する装置である。この第1めっき液再生装置71は、第1めっき液タンク41に接続されており、再生したNiめっき液を第1めっき液タンク41に供給する。また、第2めっき液再生装置72は、Auめっき液の成分を調整し、Auめっき液を再び使用可能となるように再生する装置である。この第2めっき液再生装置72は、第2めっき液タンク51に接続されており、再生したAuめっき液を第2めっき液タンク51に供給する。
【0043】
更に、本実施形態のめっき装置は、制御手段としてのプロセス制御部(図示せず)を備える。このプロセス制御部は、CPU、RAM、ROM等から構成され、格納されたプログラムにより、液ポンプ(12,22,32,42,52)、加熱部(13,23,33)、供給弁(14,24,34,44,54)、電極等についての制御を実行する。
【0044】
次に、上述しためっき装置を用いためっき方法について、図1及び図2を参照して説明する。本実施形態においては、図2に示すように、前処理工程、第1のめっき膜としてのNi膜を形成するための第1めっき処理工程、置換工程、第2のめっき膜としてのAu膜を形成するための第2めっき処理工程及び後処理工程の順に説明する。
【0045】
まず、前処理工程として基板Wの洗浄を行う。具体的には、まず供給弁14,24を開く。このとき、加熱部13,23において洗浄液の加熱を行うとともに、液ポンプ12,22を駆動する。この場合、洗浄液タンク11からの加圧及び加熱された洗浄液と、高純度CO2タンク21からの加圧及び加熱されたCO2とが、混合分散部60に供給されて、混合分散部60の混合器において混合されて洗浄混合液となる。ここで、混合分散部60の分散機のソレノイドを励磁し、攪拌子を回転させ、混合された洗浄混合液が攪拌されて、CO2と洗浄液とが均一に分散された状態の洗浄分散体が形成される。この分散状態の洗浄混合液が、混合分散部60からめっき槽61に供給されて、基板Wの洗浄が行われる。なお、このめっき槽61において洗浄を行った洗浄分散体は分離槽65に排出されて、CO2と洗浄液とに分離される。この分離されたCO2は、これに溶けている有機物が更に分離されて排出される。また、分離された洗浄液は、めっき液排出部68及び排出切換弁70を介して廃液タンク73に排出される。そして、洗浄液を含む洗浄分散体が所定時間、めっき槽61に供給されると、前処理工程としての洗浄が完了する。
【0046】
次に、Ni膜を形成する第1めっき処理工程を行う。具体的には、供給弁14を閉じ、洗浄液を排出した後、更に供給弁24を閉じ、供給弁34,44を開く。また、液ポンプ12,22の駆動を停止し、液ポンプ32,42を駆動する。更に、加熱部13における加熱を停止する。これにより、高純度CO2タンク21からの加圧及び加熱されて超臨界状態となったCO2と、分散促進剤タンク31からの加熱及び加圧された分散促進剤とが混合された混合液が混合分散部60に供給され、混合分散部60において第1めっき液タンク41からのNiめっき液と混合される。そして、混合分散部60において、混合されためっき混合液が攪拌されて、より均一に分散された状態のめっき分散体となって、めっき槽61に供給される。なお、本実施形態では、CO2、分散促進剤及びNiめっき液の分散状態の分散保持時間が短いため、混合器で生成されるめっき分散体が、分散保持時間内にめっき槽61への流入を完了するように、各液ポンプ32,42の駆動を制御する。同時に、めっき槽61においては、電極に電圧を印加し、めっき槽61に供給されためっき分散体を用いて電解めっきを行う。これにより、基板Wの表面にNi膜101が形成される。
【0047】
本実施形態では、めっき処理を行なっている間、各液ポンプ32,42を駆動し続け、混合分散部60において混合分散されためっき分散体をめっき槽61に継続的に供給しながら、めっき処理を行う。そして、めっき処理に用いためっき分散体を、分散保持時間を経過する前にめっき槽61から分離槽65に排出する。これにより、めっき処理によりめっき分散体中に溶解した水素ガスや基板Wの表面から剥離した不純物等は速やかにめっき槽61から排出される。
【0048】
分離槽65に排出されためっき分散体は、分散促進剤が含まれたCO2とNiめっき液とが分離される。このうち、CO2は、不要なガスを除去された後、混合タンク30に還流される。一方、Niめっき液はめっき液排出部68に排出されて、めっき処理における不純物が除去される。このとき、排出切換弁70を、めっき液排出部68と第1めっき液再生装置71とを連通するように切り換えておく。この結果、めっき液排出部68に排出されたNiめっき液は、第1めっき液再生装置71に排出され、再生されて第1めっき液タンク41に供給される。
【0049】
その後、各液ポンプ32,42及び加熱部33を駆動して、混合分散させためっき分散体の、めっき槽61への供給・排出を継続し、所定の厚さ(例えば1μm程度)のNi膜101を形成するために必要とする時間にわたりめっき処理を継続する。
【0050】
そして、第1めっき処理工程が完了すると、めっき分散体の置換工程を行う。本実施形態では、この置換工程として、Niめっき液の排出工程及び洗浄工程を含む。この場合、この置換工程の間、CO2と分散促進剤とのCO2混合液は、混合タンク30から連続して供給される。
【0051】
具体的には、まず、供給弁44を閉じ、液ポンプ42の駆動を停止する。これにより、Niめっき液の混合分散部60への供給が停止され、CO2混合液のみが、混合分散部60を介してめっき槽61に供給される。このCO2混合液の供給を所定時間、実行し、めっき槽61中のNiめっき液の排出が完了する。
【0052】
次に、洗浄を行うために、供給弁14を開き、液ポンプ12を駆動する。これにより、洗浄液タンク11から洗浄液が混合分散部60に供給され、これにより生成される洗浄分散体が、Niめっき液を含むめっき分散体の流れためっき槽61内を洗浄する。そして、この洗浄液の供給を所定時間、実行すると、供給弁14を閉じ、液ポンプ12の駆動を停止して、洗浄液の供給を停止する。これにより、分散促進剤を含むCO2混合液がめっき槽61内を流れて、めっき槽61から洗浄液が排出される。
【0053】
その後、Au膜を形成する第2めっき処理工程を行う。具体的には、プロセス制御部は、供給弁54を開き、液ポンプ52を駆動する。これにより、混合タンク30からのCO2混合液及び第2めっき液タンク51からのAuめっき液が混合分散部60に供給されて、めっき分散体が生成されて、めっき槽61に供給される。そして、めっき槽61においては、CO2、分散促進剤及びAuめっき液を用いて電解めっきが行われる。これにより、Auめっき液を用いているので、基板Wに形成したNi膜101の表面に、Au膜102が形成される。なお、この場合も、Ni膜101を形成したときと同様に、液ポンプ32,52を駆動し続け、めっき分散体をめっき槽61に供給しながらめっきを行う。
【0054】
そして、めっき処理に使用しためっき分散体を、分散保持時間を経過する前にめっき槽61から分離槽65に排出する。分離槽65においては、CO2及び分散促進剤が、めっき分散体から分離される。CO2及び分散促進剤は、不要なガスを除去された後、混合タンク30に供給される。Auめっき液はめっき液排出部68に排出される。この場合には、排出切換弁70を、めっき液排出部68と第2めっき液再生装置72とを連通するように切り換える。この結果、めっき液排出部68に排出されたAuめっき液は、第2めっき液再生装置72に排出され、再生されて第2めっき液タンク51に供給される。
【0055】
その後、各ポンプを駆動して、混合分散させためっき分散体を、めっき槽61への供給・排出を継続し、所定の厚さのAu膜102を形成するために必要とする時間のめっき処理を継続する。
【0056】
そして、第2めっき処理工程が完了すると、後処理工程を行う。なお、本実施形態では、後処理工程として洗浄及び乾燥を行う。具体的には、供給弁34,54を閉じ、供給弁24を開いて高純度CO2による置換工程を行った後、供給弁14を開く。これにより、CO2混合液及びAuめっき液の供給が停止し、めっき液の排出を行った後、洗浄液と高純度CO2とが混合分散部60に供給される。そして、前処理工程の洗浄と同様に、混合分散部60において、CO2と洗浄液とが混合され、これらがめっき槽61に供給されて、洗浄が行われる。
【0057】
この洗浄液を含む洗浄分散体を所定時間、めっき槽61に供給し洗浄が完了すると、乾燥を行うために供給弁14を閉じる。これにより、洗浄液タンク11からの洗浄液の供給が停止し、高純度CO2タンク21からCO2のみが混合分散部60を介してめっき槽61に供給される。更に、このCO2がめっき槽61を流れて乾燥を行う。具体的には、基板W及びこの表面に形成されたAu膜102に付着した洗浄液(水)を、CO2の流れにより洗い流すとともに、超臨界状態となっているCO2に溶解させて除去する。
【0058】
そして、CO2のみを所定時間、供給して乾燥を完了すると、供給弁14を閉じ、CO2の供給を停止する。更に、液ポンプ12の駆動及び加熱部13の加熱を停止し,CO2を排気する。以上により、めっき後の洗浄が完了する。
【0059】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
・ 本実施形態では、第1めっき処理工程において、超臨界状態のCO2とNiめっき液とを含むめっき分散体を用いて、基板Wの上にNi膜101を形成する。更に、第2めっき処理工程において、超臨界状態のCO2とAuめっき液とを含むめっき分散体を用いて、Ni膜101の上にAu膜102を形成する。従って、めっき分散体の超臨界状態のCO2の拡散力によって、Niめっき液及びAuめっき液を基板Wの表面で拡散させることができ、Ni及びAuの皮膜の付き回りを向上させることができる。このため、ピンホールを抑制した良好なめっき膜形成を行うことができる。従って、各層が薄い多層膜構造体を、めっき処理を用いて形成することができる。また、めっき液の付き回りが向上することから、下地層となる基板等との密着性を高めることができる。更に、CVD法やPVD法よりも成膜速度が速いため、多層膜の生産性を向上することができる。
【0060】
また、本実施形態では、超臨界状態のCO2を用いて形成したNi膜101又はAu膜102は、通常のめっき膜よりも均一の膜厚になる。従って、本実施形態では、複雑な形状の基板の表面においても、膜厚が均一な多層膜構造体を形成することができる。
【0061】
・ 本実施形態では、拡散流体として超臨界状態のCO2を用いた。超臨界状態のCO2に水素が溶解するため、ピンホールの発生の一因である水素をNi膜101又はAu膜102が形成される表面から除去できる。また、発生するこの水素ガスは、めっき槽61の内部が高圧であるためにその体積が小さくなる。従って、ピンホールが発生したとしても小さいものであるため、めっきの層を薄く堆積させるだけで、発生したピンホールを消失させることができる。このため、ピンホールの発生を抑制し、良質な多層膜構造体を提供することができる。
【0062】
・ 本実施形態では、混合タンク30からのCO2と分散促進剤とのCO2混合液を連続的に供給して、第1めっき処理工程、置換工程及び第2めっき処理工程を行う。このため、混合分散部60において、CO2混合液に混在させるめっき液を変更して供給することにより、超臨界状態にするための高圧の雰囲気を保ったまま、異なる条件のめっきを行うことができる。従って、めっき液交換に時間をかけることなく、多層膜を形成することができるため、多層膜の生産性を更に向上することができる。更に、めっき分散体が継続して排出されるため、めっき処理により発生した水素が溶解したCO2や基板Wの表面から剥離した不純物を、速やかにめっき槽61から排出して、基板Wの表面に再付着することを回避できる。従って、ピンホールの発生の一因である水素を迅速に排出することができるため、ピンホールの発生を更に抑制することができる。
【0063】
・ 本実施形態では、超臨界状態のCO2と、Niめっき液又はAuめっき液とを混合分散させるために、分散促進剤としてフッ素系化合物を用いる。分散促進剤にフッ素系化合物を用いてめっきを行なった場合、実験結果では、分散促進剤を用いない場合や従来の炭化水素系界面活性剤を用いた場合に比べてより平坦な皮膜を形成することができた。従って、Ni膜101やAu膜102の表面がより均一に形成でき、良好なめっきを得ることができる。
【0064】
・ 本実施形態では、めっき分散体は連続的に供給されるので、このめっき分散体を流し続ける処理時間を変更することにより、形成するめっきの厚さを容易に変更することができる。また、めっき槽61に供給されるめっき分散体中のめっき液の濃度を変更することにより、めっき速度を広範囲で変更することが可能である。従って、膜厚の違いが大きい多層膜構造体を効率的に形成することができる。
【0065】
・ 本実施形態では、CO2、分散促進剤及びめっき液のめっき分散体が、分散保持時間内でめっき槽61を流れきるように、めっき分散体の流速が、液ポンプ22,32,42,52の駆動により制御される。従って、めっき混合液が安定して分散された状態を保ったまま、めっき槽61においてめっきが行われるので、基板Wに、より均一なめっきを施すことができる。
【0066】
・ 本実施形態では、Niめっき液を含むめっき分散体を用いた第1めっき処理工程を行った後、Niめっき液の供給を停止した置換工程を行ってから、Auめっき液を含むめっき分散体を用いて第2めっき処理工程を行う。このため、第1めっき処理工程で用いたNiめっき液を完全に排出してから、Auめっき液を用いてAu膜102の形成を行うことができる。従って、急峻な界面が形成されたNi膜101とAu膜102の多層膜を形成することができる。
【0067】
・ 本実施形態では、高純度CO2を用いて前処理工程の洗浄を行い、圧力を下げずに、CO2と分散促進剤の場合に切り換え、第1めっき工程、置換工程、第2めっき工程を、CO2と分散促進剤とのCO2混合液を連続的に供給しながら行う。そして、圧力を下げずに高純度CO2に切り替え、後処理工程の洗浄及び乾燥を行う。従って、超臨界状態のCO2の拡散力により、良好な洗浄及び乾燥ができるとともに、これらの処理を迅速に行うことができる。
【0068】
・ 本実施形態では、超臨界CO2を用いて形成したNi膜101が1μm程度とした。このようにNi膜101を10nm以上4μm以下とする。Ni等の金属のグレインの粒径が数nm程度であるため、Ni膜101の厚さが10nm以上であれば、孔のない第1のめっき膜を形成することができる。また、水素の気泡が原因となって発生するピンホールの大きさが5μm前後であるので、従来では4μm以下の膜を形成することが困難であったが、1μm以下のNi膜であっても、ピンホールがない良好なNi膜101を形成でき、ひいてはAu膜102を形成することができる。
【0069】
また、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 上記実施形態においては、Ni膜101とAu膜102とから構成される多層膜について説明した。多層膜はNi膜101やAu膜102に限定されるものではなく、3種類以上の膜を積層させて、多層膜を形成してもよい。
【0070】
また、上記実施形態おいては、CO2に混合するめっき液を変更することにより、形成するめっき膜を変更した。これに代えて同じめっき液を用いても、めっき槽61の電極に印加する電圧を変えることにより、その物性値の異なる膜を多層膜として形成することもできる。この場合には、めっき分散体をめっき槽61に供給してから、所定厚さの膜が形成されたと考える時間が経過したときに、電圧を変更して多層膜構造体を形成すればよい。
【0071】
○上記実施形態においては、Ni膜101とAu膜102の2層の多層膜として説明したが、多層であれば3層以上であってもよい。この場合、めっき処理工程を、置換工程を介して繰り返す。また、この場合には、最初に行うめっき処理工程から、最後に行うめっき処理工程まで、CO2と分散促進剤とのCO2混合液を混合分散部60に連続して供給する。
【0072】
○ 上記実施形態においては、拡散力を高める拡散流体を用いてNi膜101とAu膜102とから構成される多層膜について説明したが、少なくとも1層を、拡散力を高める拡散流体を用いて形成しためっき膜を有するめっき処理で形成した多層膜であれば、生産性を向上することが期待できる。
【0073】
○ 上記実施形態においては、多層膜のNi膜101及びAu膜102を電解めっきで形成した。これに代えて、無電解めっきを用いて多層膜を形成してもよい。この場合も、ピンホールの発生を抑制できるため、ピンホールのない薄膜を形成できる。具体的には、第1及び第2めっき液タンク41,51の代わりに無電解めっき液タンクを設けてもよい。また、多層膜の一部を電解めっきで、他の一部を無電解めっきで形成してもよい。
【0074】
○ 上記実施形態においては、分散促進剤として分散保持時間の短いフッ素系化合物、CO2とめっき液を含むめっき分散体を用いた。CO2とめっき液を混合分散させるために用いる分散促進剤は、これに限られるものではない。例えば、他のフッ素系化合物を用いてもよいし、従来の炭化水素系の界面活性剤を用いてもよい。また、分散保持時間がもっと長い分散促進剤を用いてもよい。後者の場合には、めっきを行うめっき槽61を流れるめっき分散体の速度を上記実施形態よりも遅くすることもできる。さらに、分散促進剤を省略してもよい。
【0075】
○ 上記実施形態においては、混合分散部60においては、混合タンク30から供給されるCO2混合液と、第1及び第2めっき液タンク41,51からのめっき液とを混合した。これに代えて、CO2と、分散促進剤と、めっき液とを、混合分散部60で同時に混合してもよい。この場合には、分散促進剤の分離工程の後で、CO2再生工程を行い、高純度CO2タンク21に供給する構成としたり、分散促進剤の分離工程の後で、CO2を排気する構成にしたりすることが必要である。これにより、めっき槽61に供給される液体の供給ラインを分離できるので、メンテナンスを容易にすることができる。
【0076】
○ 上記実施形態においては、第1のめっき処理及び第2のめっき処理を行う場合に、Niめっき液の排出工程及び洗浄工程を含む置換工程を行った。この置換処理は、前の工程で使用しためっき液を十分にめっき槽61から除去できれば、洗浄工程を省略してもよい。
【0077】
○ 上記実施形態においては、拡散流体として超臨界状態のCO2を用いた。これに限らず、拡散流体としては、亜臨界状態のCO2や、超臨界状態又は亜臨界状態の他の流体を用いてもよい。
【実施例】
【0078】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
第1めっき処理工程では、めっき液としてのNiめっき液と、拡散流体としての超臨界状態のCO2とを用いて、洗浄処理が完了した真鍮板の表面にNi膜を形成した。Niめっき液には、硫酸ニッケル280g/L、塩化ニッケル60g/L、ホウ酸50g/L、及び適量の光沢剤を含有するワット浴を使用した。また、第1めっき処理工程では、耐圧性のめっき槽(容量50mL)を使用した。
【0079】
このめっき槽内には、洗浄処理が完了した真鍮板と、ニッケル板とが配置されている。さらに、このめっき槽には超臨界状態のCO2を供給する供給管と、めっき槽内の圧力を調整する圧力調整器を有する排出管とが接続されている。加えて、めっき槽内には攪拌子が配置されるとともに、めっき槽の外部にはスターラーが備えられ、このスターラーによって攪拌子が回転される。
【0080】
まず、Niめっき液と、フッ素系化合物としてのF(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)COOCH2CH2OCH3とを、めっき槽(容量50mL)に投入した後、このめっき槽を50℃に保温された恒温槽を用いて加温した。次に、超臨界状態のCO2をめっき槽に供給するとともに、めっき槽内の圧力を10MPaに調整した。フッ素系界面活性剤の配合量は、CO2に対して0.5重量%であり、超臨界状態のCO2とNiめっき液との配合比は、体積比率で7対3である。次いで、攪拌子を回転させることによって、Niめっき液と、超臨界状態のCO2とを混合及び分散した。続いて、真鍮板を陰極とするとともにニッケル板を陽極として、通電することにより、真鍮板の表面にNi膜を形成した。めっき槽の通電条件は、電流密度5A/dm、及び通電時間80秒である。形成されたNi膜の厚さは約1μmであった。このNi膜の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、ピンホールが確認されなかった。
【0081】
第2めっき処理工程では、Auめっき液と、超臨界状態のCO2とを用いて、前記Ni膜上にAu膜を形成し、そのAu膜をNi膜に積層した。第2めっき処理工程では、第1めっき処理工程のNiめっき液を、Auめっき液((株)高純度化学研究所製、Auメッキ液、K−24EA10)に変更した。さらに、第2めっき処理工程では、電流密度を0.5A/dm、めっき時間を60秒、陰極を前記Ni膜めっきを形成した真鍮版、陽極を白金のコーティングされたチタン板に変更した。他の条件は、第1めっき処理工程と同様にして、第2のめっき膜としてのAu膜を形成した。このようにして、めっき処理が施された真鍮板を洗浄及び乾燥することにより、多層膜構造体を得た。
【0082】
(比較例1)
拡散流体を省略するとともにめっき槽内を加圧せずにめっき処理工程を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、真鍮板の表面にNi膜、及びAu膜を順に形成した。
<耐薬品性試験>
各例でめっき処理された真鍮板について、1mol/L硫酸に24時間浸漬することにより、耐薬品性試験を行った。この試験の結果、実施例1の真鍮板では、Ni膜及びAu膜からなる多層膜に変化が見られなかった。この結果から、実施例1の真鍮板では、Au膜及びNi膜におけるピンホールの発生がないことがわかる。これに対して、比較例1の真鍮板では、耐薬品性試験において、腐食が確認された。この結果から、比較例1の真鍮板では、Au膜又はNi膜にピンホールが発生していたことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施形態における電解めっきを行うめっき装置のシステム配管の概略図。
【図2】実施形態における処理を説明する説明図。
【符号の説明】
【0084】
101…第1のめっき膜としてのNi膜、102…第2のめっき膜としてのAu膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液と、このめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いて第1のめっき膜を形成する第1のめっき処理と、
前記第1のめっき膜に積層される第2のめっき膜を形成する第2のめっき処理と
を含むことを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多層膜構造体の製造方法において、
前記第2のめっき処理は、前記第1のめっき処理とは異なる条件で、めっき液とこのめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いて行い、前記第1のめっき膜に積層される第2のめっき膜を形成することを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の多層膜構造体の製造方法において、
前記第1のめっき処理及び前記第2のめっき処理は、前記拡散流体を連続的に供給しながら行い、
前記第2のめっき処理は、前記第1のめっき処理で用いためっき液を排出した後に、前記第1のめっき処理で用いためっき液とは異なるめっき液を導入して前記第2のめっき膜を形成することを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の多層膜構造体の製造方法において、
前記第1及び第2のめっき処理は、電解めっき処理であって、
前記第2のめっき処理は、前記第1のめっき処理において印加された電圧とは異なる電圧を印加して行うことを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の多層膜構造体の製造方法において、
前記拡散流体として、超臨界状態又は亜臨界状態の流体を用いることを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の多層膜構造体の製造方法において、
前記拡散流体は、二酸化炭素であることを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の多層膜構造体の製造方法において、
前記第1めっき処理及び前記第2めっき処理の少なくとも一方のめっき処理では、前記めっき液の分散を促進する分散促進剤としてフッ素系化合物を用いることを特徴とする多層膜構造体の製造方法。
【請求項8】
めっき液と、このめっき液の拡散力を高める拡散流体とを用いる第1のめっき処理により形成した第1のめっき膜と、
この第1のめっき膜に積層され、第2のめっき処理により形成した第2のめっき膜と
を有することを特徴とする多層膜構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の多層膜構造体において、
前記第1のめっき膜の厚さが10nm以上4μm以下であることを特徴とする多層膜構造体。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の多層膜構造体において、
前記第1のめっき膜及び第2めっき膜の少なくとも1つの膜が、前記めっき液の分散を促進する分散促進剤としてフッ素系化合物を用いた前記めっき処理により形成したことを特徴とする多層膜構造体。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1つに記載の多層膜構造体を製造するために、前記第1のめっき処理及び前記第2のめっき処理を制御する制御手段を有したことを特徴とするめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265729(P2006−265729A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47016(P2006−47016)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】