説明

多層複屈折バターン作製材料、及び多層複屈折パターンを有する物品の製造方法

【課題】効率良く層ごとに異なる複屈折パターンを形成することができる、光学異方性層を複数層有する多層複屈折パターン作製材料を提供する。さらに本発明は、偽造防止性と意匠性に優れた、層ごとに異なる複屈折パターンを有する光学異方性層を複数有する多層複屈折パターンを有する物品を、より少ない工程数で製造する方法を提供する。
【解決手段】反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層(12F)(12S)を有する多層複屈折パターン作製材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層複屈折パターン作製材料と多層複屈折パターンを有する物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異方性を用いて、画像の視認状態や画像そのものの状態に影響を与える技術としては、延伸フィルムの配向緩和による視認性の変更(例えば、特許文献1)、光学異方性を示す分子の配向方向を制御するもの(例えば、特許文献2)、コレステリック液晶の選択反射を用いたもの(例えば、特許文献3)などが知られている。
特許文献1もしくは特許文献2の技術を使って得られた画像は通常の状態では知覚不能もしくは知覚困難であり、そこに所定の偏光子を重ねることで知覚可能となる(この様に通常の状態で知覚不能もしくは知覚困難とした画像を以降、潜像という)。特許文献3の技術を使って得られた画像は通常状態で知覚される画像が所定の操作(フィルタを重ねる、傾けるなど)で所定の変化を示す。こうした光学異方性を用いた特殊画像は真贋識別等のための媒体として、例えば有価証券、クレジットカード類、書類等に用いられている。これらの用途においてはさらなる偽造防止性や意匠性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-68927号公報
【特許文献2】特表2001-525080号公報
【特許文献3】特開平11-42875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対し、多層複屈折パターンを有する物品において、層ごとに異なる複屈折パターンを有する複数の光学異方性層を設けることが考えられる。しかし、このような光学異方性層を一層ずつ積層することは、工程が増え、製造が煩雑になるという問題を生ずる。例えば光学異方性層の塗布、露光、焼成という手順を複数回行う場合、特に焼成工程に時間とエネルギーを要し、効率的ではない。
本発明は、効率良く層ごとに異なる複屈折パターンを形成することができる、光学異方性層を複数層有する多層複屈折パターン作製材料を提供することを課題とする。さらに本発明は、偽造防止性と意匠性に優れた、層ごとに異なる複屈折パターンを有する光学異方性層を複数有する多層複屈折パターンを有する物品を、より少ない工程数で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は以下の発明により達成された。
(1)反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層有することを特徴とする多層複屈折パターン作製材料。
(2)前記光学異方性層のうちの少なくとも2層において、その複屈折パターン形成反応条件が異なることを特徴とする(1)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(3)前記複屈折パターン形成反応条件が、分光吸収ピーク波長において異なることを特徴とする(2)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(4)前記複屈折パターン形成反応条件が、光重合開始剤の吸収スペクトルにおいて異なることを特徴とする(3)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(5)前記複屈折パターン形成反応条件が、偏光吸収特性において異なることを特徴とする(2)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(6)前記偏光吸収特性が、二色性光重合開始剤の配向方向が異なることによることを特徴とする(5)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【0006】
(7)前記光学異方性層が少なくとも2つの反応性基を有する液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、熱または電離放射線照射して重合固定化されたものである(1)〜(6)のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(8)前記液晶性化合物が重合条件の異なる2種類以上の反応性基を有する(7)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(9)前記液晶性化合物が少なくともラジカル性の反応性基とカチオン性の反応性基とを有する(8)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(10)前記光学異方性層が重合固定化された後に改質されたものである(7)〜(9)のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(11)前記改質が、光学異方性層の上に別の機能性層を成層する工程に際して機能性層中の添加剤が光学異方性層に拡散する形で行われる(10)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(12)前記光学異方性層が延伸フィルムからなる(1)〜(6)のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(13)光学異方性層を含む転写材料を、被転写材料上に転写することを含む製造方法により作製される(1)〜(12)のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
(14)前記転写材料が、仮支持体の上に少なくとも[A]光学異方性層と[B]転写接着層を、この順で積層したものであることを特徴とする(13)に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【0007】
(15)少なくとも次の[1]〜[3]の工程をこの順に含む、多層複屈折パターンを有する物品の製造方法:
[1]反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層有する多層複屈折パターン作製材料を製造する工程;
[2]該多層複屈折パターン作製材料の前記光学異方性層の少なくとも1層に対して、他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの潜像を与えるような露光を行う工程;
[3]前記工程[2]の後に得られる積層体を50℃以上400℃以下でベークする工程。
(16)少なくとも次の[11]〜[13]の工程をこの順に含む、多層複屈折パターンを有する物品の製造方法:
[11]反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層有する多層複屈折パターン作製材料を製造する工程;
[12]該多層複屈折パターン作製材料の前記光学異方性層の少なくとも1層に対して、他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの部分加熱を行う工程;
[13]該多層複屈折パターン作製材料に対して、前記光学異方性層中の未反応の反応性基を反応させて光学異方性層の耐久性を高める処理を行う工程。
(17)前記工程[13]が全面露光によって行われることを特徴とする(16)に記載の製造方法。
(18)前記工程[13]が前記工程[12]において被加熱部の光学異方性層が到達する温度よりも低い温度での熱処理によって行われることを特徴とする(16)に記載の製造方法。
(19)前記工程[2]もしくは前記工程[12]が各光学異方性層の分光吸収ピーク波長の違いを利用して行われることを特徴とする(15)〜(18)のいずれか1項に記載の製造方法。
(20)前記光学異方性層のうちの少なくとも2つ以上が互いに吸収スペクトルの異なる光重合開始剤を有することを特徴とする(19)に記載の製造方法。
(21)前記工程[2]もしくは前記工程[12]が各光学異方性層の偏光吸収特性の違いを利用して行われることを特徴とする(15)〜(18)のいずれか1項に記載の製造方法。
(22)前記光学異方性層のうちの少なくとも2層が二色性光重合開始剤を有することを特徴とする(21)に記載の製造方法。
(23)前記工程[2]もしくは前記工程[12]が各光学異方性層の垂直位置の違いを利用して行われることを特徴とする(15)〜(18)のいずれか1項に記載の製造方法。
(24)前記工程[2]が焦点距離可変の集光光学系を用いて行われることを特徴とする(23)に記載の製造方法。
【0008】
(25)(15)〜(24)のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、偽造防止手段として用いられる物品。
(26)(15)〜(24)のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、光学素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層複屈折パターン作製材料は、層ごとに異なる複屈折パターンを形成できる複数の光学異方性層を有し、効率よく製造できる。
本発明の製造方法によれば、偽造防止効果や視覚的効果付与などが高い、多層複屈折パターンを有する物品を少ない工程数で製造できる。本発明の製造方法により製造される物品は、偽造防止手段や光学素子として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の多層複屈折パターン作製材料の例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の製造方法により得られる多層複屈折パターンを有する物品の例の概略断面図である。
【図3】実施例1で用いた3枚のフォトマスクMB1、MG1、及びMR1のそれぞれの形状を示す図である。
【図4】実施例1でフォトマスクを用いて作製されたサンプルにおける、異なるレターデーションを有する領域を示す図である。
【図5】実施例2で用いた3枚のフォトマスクMB2、MG2、及びMR2のそれぞれの形状を示す図である。
【図6】実施例2でフォトマスクを用いて作製されたサンプルにおける、異なるレターデーションを有する領域を示す図である。
【図7】実施例3で用いた2枚のフォトマスクMG3、及びMR3のそれぞれの形状を示す図である。
【図8】実施例4でフォトマスクを用いて作製されたサンプルに偏光板を重ねた際に観察されるパターンを示す図であり、(a)は偏光板の吸収軸がおよそ45°方向になるように配置した場合、(b)は偏光板の吸収軸が概ね90°方向となるように配置した場合である。
【図9】実施例4で用いた3枚のフォトマスクMD1、及びMD2のそれぞれの形状を示す図である。
【図10】実施例4でフォトマスクを用いて作製されたサンプルにおける、異なるレターデーションを有する領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値と
して含む意味で使用される。
【0012】
本明細書において、レターデーション又はReは面内のレターデーションを表す。面内のレターデーション(Re(λ))はKOBRA 21ADHまたはWR(商品名、王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。本明細書におけるレターデーション又はReは、R、G、Bに対してそれぞれ611±5nm、545±5nm、435±5nmの波長で測定されたものを意味し、特に色に関する記載がなければ545±5nmまたは590±5nmの波長で測定されたものを意味する。
【0013】
本明細書において、角度について「実質的に」とは、厳密な角度との誤差が±5°未満の範囲内であることを意味する。さらに、厳密な角度との誤差は、4°未満であることが好ましく、3°未満であることがより好ましい。レターデーションについて「実質的に」とは、レターデーションが±5%以内の差であることを意味する。さらに、Reが実質的に0でないとは、Reが5nm以上であることを意味する。また、屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、可視光域の任意の波長を指す。なお、本明細書において、「可視光」とは、波長が400〜700nmの光のことをいう。
【0014】
[多層複屈折パターン作製材料]
図1は本発明の多層複屈折パターン作製材料のいくつかの例の概略断面図である。多層複屈折パターン作製材料は多層複屈折パターンを作製する為の材料であり、所定の工程を経ることで多層複屈折パターンを有する物品を作成することができる材料である。図1(a)に示す多層複屈折パターン作製材料は支持体(基板)11上に第一光学異方性層12Fと第二光学異方性層12Sを有する例である。図1(b)に示す多層複屈折パターン作製材料は配向層13A、13Bを有する例である。配向層13A、13Bは、光学異方性層12F、12Sとして液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、熱または電離放射線照射して重合固定化したものを用いる場合に、液晶性化合物の配向を助けるための層として機能する。
【0015】
図1(c)に示す多層複屈折パターン作製材料は転写材料を用いて作られたために転写接着層14A、14Bを有する例である。図1(d)に示す多層複屈折パターン作製材料はさらに支持体11の上に反射層35を有する例である。図1(e)に示す多層複屈折パターン作製材料は支持体11の下に反射層35を有する例である。図1(f)に示す多層複屈折パターン作製材料はさらに多層複屈折パターン作製後に別の物品の上に貼り付けるために支持体11の下に後粘着層16と剥離層17を有する例である。
【0016】
[転写材料として用いられる多層複屈折パターン作製材料]
多層複屈折パターン作製材料は転写材料として用いることができる。多層複屈折パターン作製材料を転写材料として用いることによって、所望の支持体上に複数の光学異方性層を有する多層複屈折パターン作製材料、または複屈折パターンを有する層を複数有する物品の作製を容易に行うことができる。
【0017】
[多層複屈折パターンを有する物品]
本明細書において、「多層複屈折パターンを有する物品」とは、光学異方性層を2層以上有し、かつ該光学異方性層の少なくとも1層が複屈折性の異なる領域を2つ以上有する物品を意味する。多層複屈折パターンを有する物品の光学異方性層の少なくとも1層は複屈折性の異なる領域を3つ以上有することがさらに好ましい。複屈折性が同一である個々の領域は連続的形状であっても非連続的形状であってもよい。
図2は多層複屈折パターン作製材料を用いた製造方法により得られる多層複屈折パターンを有する物品のいくつかの例の概略断面図である。本発明の方法により得られる多層複屈折パターンを有する物品は2層以上の光学異方性層を有し、かつ該光学異方性層の少なくとも1層はパターン化光学異方性層である。本明細書において「パターン化光学異方性層」とは「複屈折性が異なる領域をパターン状に有する光学異方性層」を意味する。
図2に示す多層複屈折パターンを有する物品は本発明の多層複屈折パターン作製材料に所定の処理(例えば、後述するようなパターン露光や部分加熱)を加えることによって製造可能である。
【0018】
図2(a)に示す多層複屈折パターンを有する物品は2層のパターン化光学異方性層112F、112Sから成る例である。本発明の製造方法により作製される多層複屈折パターンを有する物品は少なくとも2層以上の光学異方性層を有し、それらのうちの少なくとも1層(図2(a)においては2層)は異なる複屈折性を有する領域を2つ以上有する(第一パターン化光学異方性層においては第一層第一領域112F−Aと第一層第二領域112F−B、第二パターン化光学異方性層においては第二層第一領域112S−Aと第二層第二領域112S−B)。図2(b)に示す多層複屈折パターンを有する物品は異なる複屈折性を有する複数の領域(第一層第一領域112F−Aと第二領域112F−B、第二層第一領域112S−Aと第二領域112S−B)の他に、各パターン化光学異方性層にそれぞれ等方性領域112F−N、112S−Nを有する例である。図2(c)に示す多層複屈折パターンを有する物品は支持体11上にパターン化光学異方性層112F(112F−A及び112F−B)、112S(112S−A及び112S−B)をそれぞれ配向層13A、13Bとともに有する例である。
【0019】
図2(d)に示す多層複屈折パターンを有する物品は転写材料を用いて作られたために転写接着層14A、14Bを有する例である。この場合のように、光学異方性層は少なくとも1層がパターン化光学異方性層(112S)であれば良く、他にパターンを有さない均一な(ベタの)光学異方性層(113F)が含まれていてもよい。図2(e)に示す多層複屈折パターンを有する物品は支持体11上に支持体側から順に反射層35、転写接着層14A、パターン化光学異方性層112F、転写接着層14B、パターン化光学異方性層112Sを有する例であり、2層の光学異方性層に互いに独立したパターンを与えた例である。
【0020】
以下、多層複屈折パターン作製材料、それを用いた多層複屈折パターンを有する物品の作製方法および多層複屈折パターンを有する物品の材料、作製方法等について、詳細に説明する。ただし、本発明はこの態様に限定されるものではなく、他の態様についても、以下の記載および従来公知の方法を参考にして実施可能であって、本発明は以下に説明する態様に限定されるものではない。
【0021】
[光学異方性層]
多層複屈折パターン作製材料における光学異方性層は、位相差を測定したときにReが実質的に0でない入射方向が一つでもある、即ち等方性でない光学特性を有する層である。
【0022】
多層複屈折パターン作製材料における光学異方性層は高分子化合物を含む。高分子化合物を含むことにより、複屈折性、透明性、耐溶媒性、強靭性および柔軟性といった異なった種類の要求を満たすことができる。該光学異方性層中の高分子化合物は未反応の反応性基を有する。光学異方性層は加熱によりそのレターデーションが変化する(特にレターデーション消失温度を有する場合には顕著なレターでーションの低下を示す)が、あらかじめ露光を行い未反応の反応性基を反応させることで加熱時のレターデーションの変化の程度を制御することが可能になり、さらにこの際にパターン状の露光を行うことでレターデーションの変化をパターン状に制御することができる。
一方で、先に一部の領域を加熱する事で加熱部と非加熱部とで一時的なレターデーションの差異を持たせ、その後に露光等の処理により未反応の反応性基を反応させてレターデーションの差異を固定化するような手法も可能である。
このように適宜に露光や加熱の処理を組み合わせることにより、本発明の多層複屈折パターン作製材料における光学異方性層は効率良く光学異方性のパターンを描くことが可能である。
本発明の多層複屈折パターン作製材料の光学異方性層における高分子化合物とは、多数の原子が結合してできる巨大分子のことを指し、例えば分子量が3000以上である化合物をいう。具体的にはアクリル系ポリマーやシリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、あるいはこれらの共重合体などがあげられる。またこれらの高分子中には様々なモノマーが共重合されていても良い。こうしたモノマーの例としては、カルボン酸末端アクリルモノマー、液晶性アクリルモノマーなどがあげられる。(未反応の)反応性基としてはビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、オキセタニル基などがあげられる。この高分子化合物の光学異方性層における含有量は、好ましくは5〜99質量%、さらに好ましくは10〜95質量%である。
【0023】
光学異方性層は好ましくは20℃において、より好ましくは30℃において、さらに好ましくは40℃において固体であればよい。20℃において固体であると、他の機能性層の塗布や、支持体上への転写や貼合が容易であるからである。
他の機能性層の塗布を行う為、本発明における光学異方性層は耐溶媒性を有することが好ましい。本明細書において、「耐溶媒性を有する」とは対象の溶媒に2分間浸漬した後のレターデーションが浸漬前のレターデーションの30%から170%の範囲内に、より好ましくは50%から150%の範囲内に、最も好ましくは80%から120%の範囲内にあることを意味する。対象の溶媒としては水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチルピロリドン、ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチルの中から、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N−メチルピロリドンの中から、最も好ましくはメチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、またはこれらの混合溶媒等があげられる。
【0024】
光学異方性層は20℃においてレターデーションが5nm以上であればよく、10nm以上10000nm以下であることが好ましく、20nm以上2000nm以下であることが最も好ましい。レターデーションが5nm以下では複屈折パターンの形成が困難である場合がある。レターデーションが10000nmを越えると、誤差が大きくなり実用できる精度を達成することが困難である場合がある。
【0025】
光学異方性層の製法としては特に限定されないが、少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含んでなる溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、熱または電離放射線照射して重合固定化して作製する方法;少なくとも2つ以上の反応性基を有するモノマーを重合固定化した層を延伸する方法;高分子からなる層にカップリング剤を用いて反応性基を導入した後に延伸する方法;または高分子からなる層を延伸した後にカップリング剤を用いて反応性基を導入する方法などが挙げられる。
また、後述するように、本発明の光学異方性層は転写により形成されたものであってもよい。
前記光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。
【0026】
[液晶性化合物を含有する組成物を重合固定化してなる光学異方性層]
光学異方性層の製法として少なくとも1つの反応性基を有する液晶性化合物を含んでなる溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、熱または電離放射線照射して重合固定化して作製する場合について以下に説明する。本製法は、後述する高分子を延伸して光学異方性層を得る製法と比較して、薄い膜厚で同等のレターデーションを有する光学異方性層を得ることが容易である。
【0027】
[液晶性化合物]
一般的に、液晶性化合物はその形状から、棒状タイプと円盤状タイプに分類できる。さらにそれぞれ低分子と高分子タイプがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。本発明では、いずれの液晶性化合物を用いることもできるが、棒状液晶性化合物または円盤状液晶性化合物を用いるのが好ましい。2種以上の棒状液晶性化合物、2種以上の円盤状液晶性化合物、又は棒状液晶性化合物と円盤状液晶性化合物との混合物を用いてもよい。温度変化や湿度変化を小さくできることから、反応性基を有する棒状液晶性化合物または円盤状液晶性化合物を用いて形成することがより好ましく、少なくとも1つは1液晶分子中の反応性基が2以上あることがさらに好ましい。液晶性化合物は二種類以上の混合物でもよく、その場合少なくとも1つが2以上の反応性基を有していることが好ましい。
【0028】
液晶性化合物が重合条件の異なる2種類以上の反応性基を有することもまた好ましい。この場合、条件を選択して複数種類の反応性基の一部種類のみを重合させることにより、未反応の反応性基を有する高分子を含む光学異方性層を作製することが可能となる。用いる重合条件としては重合固定化に用いる電離放射線の波長域でもよいし、用いる重合機構の違いでもよいが、好ましくは用いる開始剤の種類によって制御可能な、ラジカル性の反応基とカチオン性の反応基の組み合わせがよい。前記ラジカル性の反応性基がアクリル基および/またはメタクリル基であり、かつ前記カチオン性基がビニルエーテル基、オキセタン基および/またはエポキシ基である組み合わせが反応性を制御しやすく特に好ましい。
【0029】
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。上記高分子液晶性化合物は、低分子の反応性基を有する棒状液晶性化合物が重合した高分子化合物である。特に好ましく用いられる上記低分子の反応性基を有する棒状液晶性化合物としては、下記一般式(I)で表される棒状液晶性化合物である。
一般式(I):Q1−L1−A1−L3−M−L4−A2−L2−Q2
式中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に、反応性基であり、L1、L2、L3およびL4はそれぞれ独立に、単結合または二価の連結基を表す。A1およびA2はそれぞれ独立に、炭素原子数2〜20のスペーサ基を表す。Mはメソゲン基を表す。
以下に、上記一般式(I)で表される反応性基を有する棒状液晶性化合物についてさらに詳細に説明する。式中、Q1およびQ2は、それぞれ独立に、反応性基である。反応性基の重合反応は、付加重合(開環重合を含む)または縮合重合であることが好ましい。換言すれば、反応性基は付加重合反応または縮合重合反応が可能な反応性基であることが好ましい。以下に反応性基の例を示す。本明細書においてEtはエチル基、Prはプロピル基を表す。
【0030】
【化1】

【0031】
1、L2、L3およびL4で表される二価の連結基としては、−O−、−S−、−CO−、−NR2−、−CO−O−、−O−CO−O−、−CO−NR2−、−NR2−CO−、−O−CO−、−O−CO−NR2−、−NR2−CO−O−、およびNR2−CO−NR2−からなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。上記R2は炭素原子数が1〜7のアルキル基または水素原子である。前記式(I)中、Q1−L1およびQ2−L2−は、CH2=CH−CO−O−、CH2=C(CH3)−CO−O−およびCH2=C(Cl)−CO−O−CO−O−が好ましく、CH2=CH−CO−O−が最も好ましい。
【0032】
1およびA2は、炭素原子数2〜20を有するスペーサ基を表す。炭素原子数2〜12のアルキレン基、アルケニレン基、およびアルキニレン基が好ましく、特にアルキレン基が好ましい。スペーサ基は鎖状であることが好ましく、隣接していない酸素原子または硫黄原子を含んでいてもよい。また、前記スペーサ基は、置換基を有していてもよく、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素)、シアノ基、メチル基、エチル基が置換していてもよい。
Mで表されるメソゲン基としては、すべての公知のメソゲン基が挙げられる。特に下記
一般式(II)で表される基が好ましい。
一般式(II):−(−W1−L5n−W2
式中、W1およびW2は各々独立して、二価の環状アルキレン基もしくは環状アルケニレン基、二価のアリール基または二価のヘテロ環基を表し、L5は単結合または連結基を表し、連結基の具体例としては、前記式(I)中、L1〜L4で表される基の具体例、−CH2−O−、および−O−CH2−が挙げられる。nは1、2または3を表す。
【0033】
1およびW2としては、1,4−シクロヘキサンジイル、1,4−フェニレン、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5ジイル、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル、1,3,4−オキサジアゾール−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイルが挙げられる。1,4−シクロヘキサンジイルの場合、トランス体およびシス体の構造異性体があるが、どちらの異性体であってもよく、任意の割合の混合物でもよい。トランス体であることがより好ましい。W1およびW2は、それぞれ置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、シアノ基、炭素原子数1〜10のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、炭素原子数1〜10のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、炭素原子数1〜10のアシル基(ホルミル基、アセチル基など)、炭素原子数1〜10のアルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基など)、炭素原子数1〜10のアシルオキシ基(アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基など)、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基などが挙げられる。
前記一般式(II)で表されるメソゲン基の基本骨格で好ましいものを、以下に例示する。これらに上記置換基が置換していてもよい。
【0034】
【化2】

【0035】
以下に、前記一般式(I)で表される化合物の例を示すが、本発明はこれらに限定され
るものではない。なお、一般式(I)で表される化合物は、特表平11−513019号
公報(WO97/00600)に記載の方法で合成することができる。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
本発明の他の態様として、前記光学異方性層にディスコティック液晶を使用した態様がある。前記光学異方性層は、モノマー等の低分子量の液晶性ディスコティック化合物の層または重合性の液晶性ディスコティック化合物の重合(硬化)により得られるポリマーの層であるのが好ましい。前記ディスコティック(円盤状)化合物の例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physicslett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルなどを挙げることができる。上記ディスコティック(円盤状)化合物は、一般的にこれらを分子中心の円盤状の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等の基(L)が放射線状に置換された構造であり、液晶性を示し、一般的にディスコティック液晶とよばれるものが含まれる。ただし、このような分子の集合体が一様に配向した場合は負の一軸性を示すが、この記載に限定されるものではない。また、本発明において、円盤状化合物から形成したとは、最終的にできた物が前記化合物である必要はなく、例えば、前記低分子ディスコティック液晶が熱、光等で反応する基を有しており、結果的に熱、光等で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失ったものも含まれる。
【0043】
本発明では、下記一般式(III)で表わされるディスコティック液晶性化合物を用いるのが好ましい。
一般式(III): D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり、Lは二価の連結基であり、Pは重合性基であり、nは4〜12の整数である。
前記式(III)中、円盤状コア(D)、二価の連結基(L)および重合性基(P)の好ましい具体例は、それぞれ、特開2001−4837号公報に記載の(D1)〜(D15)、(L1)〜(L25)、(P1)〜(P18)が挙げられ、同公報に記載される円盤状コア(D)、二価の連結基(L)および重合性基(P)に関する内容をここに好ましく適用することができる。
上記ディスコティック化合物の好ましい例を下記に示す。
【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
光学異方性層は、液晶性化合物を含有する組成物(例えば塗布液)を、後述する配向層の表面に塗布し、所望の液晶相を示す配向状態とした後、該配向状態を熱又は電離放射線の照射により固定することで作製された層であるのが好ましい。このとき、液晶化合物は少なくとも2つの反応性基を有するのが好ましく、重合条件の異なる2種以上の反応性基を有するのがより好ましく、ラジカル性反応性基とカチオン性反応性基を有するのがさらに好ましい。
液晶性化合物として、反応性基を有する円盤状液晶性化合物を用いる場合、水平配向、垂直配向、傾斜配向、およびねじれ配向のいずれの配向状態で固定されていてもよい。尚、本明細書において「水平配向」とは、棒状液晶の場合、分子長軸と透明支持体の水平面が平行であることをいい、円盤状液晶の場合、円盤状液晶性化合物のコアの円盤面と透明支持体の水平面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が10度未満の配向を意味するものとする。傾斜角は0〜5度が好ましく、0〜3度がより好ましく、0〜2度がさらに好ましく、0〜1度が最も好ましい。
【0051】
液晶性化合物を含む組成物からなる光学異方性層を2層以上積層する場合、液晶性化合物の組み合わせについては特に限定されず、全て円盤状液晶性化合物からなる層の積層体、全て棒状性液晶性化合物からなる層の積層体、円盤状液晶性化合物を含む組成物からなる層と棒状性液晶性化合物を含む組成物からなる層の積層体であってもよい。また、各層の配向状態の組み合わせも特に限定されず、同じ配向状態の光学異方性層を積層してもよいし、異なる配向状態の光学異方性層を積層してもよい。
【0052】
光学異方性層は、液晶性化合物および下記の重合開始剤や他の添加剤を含む塗布液を、後述する所定の配向層の上に塗布することで形成することが好ましい。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0053】
[液晶性化合物の配向状態の固定化]
配向させた液晶性化合物は、配向状態を維持して固定することが好ましい。固定化は、液晶性化合物に導入した反応性基の重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれるが、光重合反応がより好ましい。光重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合のいずれでも構わない。ラジカル光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。カチオン光重合開始剤の例には、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系等を例示することができ、有機スルフォニウム塩系、が好ましく、トリフェニルスルフォニウム塩が特に好ましい。これら化合物の対イオンとしては、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロフォスフェートなどが好ましく用いられる。
【0054】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。液晶性化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、10mJ/cm2〜10J/cm2であることが好ましく、25〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。照度は10〜1000mW/cm2であることが好ましく、20〜500mW/cm2であることがより好ましく、40〜350mW/cm2であることがさらに好ましい。照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0055】
[偏光照射による光配向]
前記光学異方性層は、偏光照射による光配向で面内のレターデーションが発現あるいは増加した層であってもよい。この偏光照射は上記配向固定化における光重合プロセスを兼ねてもよいし、先に偏光照射を行ってから非偏光照射でさらに固定化を行ってもよいし、非偏光照射で先に固定化してから偏光照射によって光配向を行ってもよいが、偏光照射のみを行うか先に偏光照射を行ってから非偏光照射でさらに固定化を行うことが望ましい。偏光照射が上記配向固定化における光重合プロセスを兼ねる場合であってかつ重合開始剤としてラジカル重合開始剤を用いる場合、偏光照射は酸素濃度0.5%以下の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜10J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。照度は20〜1000mW/cm2であることが好ましく、50〜500mW/cm2であることがより好ましく、100〜350mW/cm2であることがさらに好ましい。偏光照射によって硬化する液晶性化合物の種類については特に制限はないが、反応性基としてエチレン不飽和基を有する液晶性化合物が好ましい。照射波長としては300〜450nmにピークを有することが好ましく、350〜400nmにピークを有することがさらに好ましい。
【0056】
[偏光照射後の紫外線照射による後硬化]
前記光学異方性層は、最初の偏光照射(光配向のための照射)の後に、偏光もしくは非偏光紫外線をさらに照射してもよい。最初の偏光照射の後に偏光もしくは非偏光紫外線をさらに照射することで反応性基の反応率を高め(後硬化)、密着性等を改良し、大きな搬送速度で生産できるようになる。後硬化は偏光でも非偏光でも構わないが、偏光であることが好ましい。また、2回以上の後硬化をすることが好ましく、偏光のみでも、非偏光のみでも、偏光と非偏光を組み合わせてもよいが、組み合わせる場合は非偏光より先に偏光を照射することが好ましい。紫外線照射は不活性ガス置換してもしなくてもよいが、特に重合開始剤としてラジカル重合開始剤を用いる場合は酸素濃度0.5%以下の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜10J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。照度は20〜1000mW/cm2であることが好ましく、50〜500mW/cm2であることがより好ましく、100〜350mW/cm2であることがさらに好ましい。照射波長としては偏光照射の場合は300〜450nmにピークを有することが好ましく、350〜400nmにピークを有することがさらに好ましい。非偏光照射の場合は200〜450nmにピークを有することが好ましく、250〜400nmにピークを有することがさらに好ましい。
【0057】
[ラジカル性の反応性基とカチオン性の反応性基を有する液晶化合物の配向状態の固定化]
前述したように、液晶性化合物が重合条件の異なる2種類以上の反応性基を有することもまた好ましい。この場合、条件を選択して複数種類の反応性基の一部種類のみを重合させることにより、未反応の反応性基を有する高分子を含む光学異方性層を作製することが可能である。このような液晶性化合物として、ラジカル性の反応基とカチオン性の反応基を有する液晶性化合物(具体例としては例えば、前述のI−22〜I−25)を用いた場合に特に適した重合固定化の条件について以下に説明する。
【0058】
まず、重合開始剤としては重合させようと意図する反応性基に対して作用する光重合開始剤のみを用いることが好ましい。すなわち、ラジカル性の反応基を選択的に重合させる場合にはラジカル光重合開始剤のみを、カチオン性の反応基を選択的に重合させる場合にはカチオン光重合開始剤のみを用いることが好ましい。光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.5〜4質量%であることが特に好ましい。
【0059】
次に、重合のための光照射は紫外線を用いることが好ましい。この際、照射エネルギーおよび/または照度が強すぎるとラジカル性反応性基とカチオン性反応性基の両方が非選択的に反応してしまう恐れがある。したがって、照射エネルギーは、5mJ/cm2〜500mJ/cm2であることが好ましく、10〜400mJ/cm2であることがより好ましく、20mJ/cm2〜200mJ/cm2であることが特に好ましい。また照度は5〜500mW/cm2であることが好ましく、10〜300mW/cm2であることがより好ましく、20〜100mW/cm2であることが特に好ましい。照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。
【0060】
また光重合反応のうち、ラジカル光重合開始剤を用いた反応は酸素によって阻害され、カチオン光重合開始剤を用いた反応は酸素によって阻害されない。従って、液晶性化合物としてラジカル性の反応基とカチオン性の反応基を有する液晶化合物を用いてその反応性基の片方種類を選択的に重合させる場合、ラジカル性の反応基を選択的に重合させる場合には窒素などの不活性ガス雰囲気下で光照射を行うことが好ましく、カチオン性の反応基を選択的に重合させる場合には敢えて酸素を有する雰囲気下(例えば大気下)で光照射を行うことが好ましい。
【0061】
[水平配向剤]
前記光学異方性層の形成用組成物中に、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物および一般式(4)のモノマーを用いた含フッ素ホモポリマーまたはコポリマーの少なくとも一種を含有させることで、液晶性化合物の分子を実質的に水平配向させることができる。
以下、下記一般式(1)〜(4)について、順に説明する。
【0062】
【化15】

【0063】
式中、R1、R2およびR3は各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X1、X2およびX3は単結合又は二価の連結基を表す。R1〜R3で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基またはフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2およびX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、−NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基または水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−およびSO2−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0064】
【化16】

【0065】
式中、R10は置換基を表し、m1は0〜5の整数を表す。m1が2以上の整数を表す場合、複数個のR10は同一でも異なっていてもよい。R10として好ましい置換基は、R1、R2、およびR3で表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同じである。m1は、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0066】
【化17】

【0067】
式中、R4、R5、R6、R7、R8およびR9は各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R4、R5、R6、R7、R8およびR9でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(1)におけるR1、R2およびR3で表される置換基の好ましいものとして挙げたものである。本発明に用いられる水平配向剤については、特開2005−99248号公報の段落番号[0092]〜[0096]に記載の化合物を用いることができ、それら化合物の合成法も該明細書に記載されている。
【0068】
【化18】

【0069】
式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子を表し、Zは水素原子またはフッ素原子を表し、m2は1以上6以下の整数、n2は1以上12以下の整数を表す。一般式(4)を含む含フッ素ポリマー以外にも、塗布におけるムラ改良ポリマーとして特開2005−206638および特開2006−91205に記載の化合物を水平配向剤として用いることができ、それら化合物の合成法も該明細書に記載されている。
水平配向剤の添加量としては、液晶性化合物の質量の0.01〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。なお、前記一般式(1)〜(4)にて表される化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0070】
[延伸によって作製される光学異方性層]
光学異方性層は高分子の延伸によって作製されたものでもよい。光学異方性層は少なくとも1つの未反応の反応性基を持つ事が好ましいが、このような高分子を作製する際にはあらかじめ反応性基を有する高分子を延伸してもよいし、延伸後の光学異方性層にカップリング剤などを用いて反応性基を導入してもよい。延伸法によって得られる光学異方性層の特長としては、コストが安いこと、及び自己支持性を持つ(光学異方性層の形成及び維持に支持体を要しない)ことなどが挙げられる。
【0071】
[光学異方性の後処理]
作製された光学異方性層を改質するために、様々な後処理を行ってもよい。後処理としては例えば、密着性向上の為のコロナ処理や、柔軟性向上の為の可塑剤添加、保存性向上の為の熱重合禁止剤添加、反応性向上の為のカップリング処理などが挙げられる。また、光学異方性層中の高分子が未反応の反応性基を有する場合、該反応性基に対応する重合開始剤を添加することも有効な改質手段である。例えば、カチオン性の反応性基とラジカル性の反応性基を有する液晶性化合物をカチオン光重合開始剤を用いて重合固定化した光学異方性層に対してラジカル光重合開始剤を添加することで、後にパターン露光を行う際の未反応のラジカル性の反応性基の反応を促進することができる。可塑剤や光重合開始剤の添加手段としては、例えば、光学異方性層を該当する添加剤の溶液に浸漬する手段や、光学異方性層の上に該当する添加剤の溶液を塗布して浸透させる手段などが挙げられる。また、光学異方性層の上に他の層を塗布する際にその層の塗布液に添加剤を添加しておき、光学異方性層に浸漬(拡散)させる方法もあげられる。本発明においては、この際に浸漬させる添加剤、特には光重合開始剤の種類や量により、後に述べる複屈折パターン材料へのパターン露光時の各領域への露光量と最終的に得られる各領域のレターデーションとの関係を調整し、所望する材料特性に近づけることが可能である。
【0072】
[多層複屈折パターン作製材料]
多層複屈折パターン作製材料は多層複屈折パターンを作製する為の材料であり、所定の工程を経る事で多層複屈折パターンを得ることができる材料である。多層複屈折パターン作製材料は通常、フィルム、またはシート形状であればよい。多層複屈折パターン作製材料は前述の光学異方性層のほかに、様々な副次的機能を付与することが可能である機能性層を有していてもよい。機能性層としては、支持体、配向層、反射層、後粘着層などが挙げられる。また、転写材料として用いられる多層複屈折パターン作製用材料、又は転写材料を用いて作製された多層複屈折パターン作製材料などにおいて、仮支持体、転写接着層、または力学特性制御層を有していてもよい。
【0073】
[支持体]
多層複屈折パターン作製材料は力学的な安定性を保つ目的で支持体を有してもよい。多層複屈折パターン作製材料に用いられる支持体には特に限定はなく、剛直なものでもフレキシブルなものでもよい。剛直な支持体としては特に限定はないが表面に酸化ケイ素皮膜を有するソーダガラス板、低膨張ガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス板等の公知のガラス板、アルミ板、鉄板、SUS板などの金属板、樹脂板、セラミック板、石板などが挙げられる。フレキシブルな支持体としては特に限定はないがセルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエステルおよびポリスルホン、ノルボルネン系ポリマーなどのプラスチックフィルムや紙、アルミホイル、布などが挙げられる。取扱いの容易さから、剛直な支持体の膜厚としては、100〜3000μmが好ましく、300〜1500μmがより好ましい。フレキシブルな支持体の膜厚としては、3〜500μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。支持体は後に述べるベークで着色したり変形したりしないだけの耐熱性を有することが好ましい。後述する反射層の代わりに、支持体自体が反射機能を有することもまた好ましい。
【0074】
[配向層]
上記した様に、光学異方性層の形成には、配向層を利用してもよい。配向層は、一般に支持体もしくは仮支持体上又は支持体もしくは仮支持体上に塗設された下塗層上に設けられる。配向層は、その上に設けられる液晶性化合物の配向方向を規定するように機能する。配向層は、光学異方性層に配向性を付与できるものであれば、どのような層でもよい。配向層の好ましい例としては、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理された層、無機化合物の斜方蒸着層、およびマイクログルーブを有する層、さらにω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチル等のラングミュア・ブロジェット法(LB膜)により形成される累積膜、あるいは電場あるいは磁場の付与により誘電体を配向させた層を挙げることができる。
【0075】
配向層用の有機化合物の例としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリビニルピロリドン、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリカーボネート等のポリマーおよびシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリイミド、ポリスチレン、スチレン誘導体のポリマー、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよびアルキル基(炭素原子数6以上が好ましい)を有するアルキル変性ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0076】
配向層の形成には、ポリマーを使用するのが好ましい。利用可能なポリマーの種類は、液晶性化合物の配向(特に平均傾斜角)に応じて決定することができる。例えば、液晶性化合物を水平に配向させるためには配向層の表面エネルギーを低下させないポリマー(通常の配向用ポリマー)を用いる。具体的なポリマーの種類については液晶セルまたは光学補償シートについて種々の文献に記載がある。例えば、ポリビニルアルコールもしくは変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸もしくはポリアクリル酸エステルとの共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロースもしくは変性セルロース等が好ましく用いられる。配向層用素材には液晶性化合物の反応性基と反応できる官能基を有してもよい。反応性基は、側鎖に反応性基を有する繰り返し単位を導入するか、あるいは、環状基の置換基として導入することができる。界面で液晶性化合物と化学結合を形成する配向層を用いることがより好ましく、かかる配向層としては特開平9−152509号公報に記載されており、酸クロライドやカレンズMOI(商品名、昭和電工(株)製)を用いて側鎖にアクリル基を導入した変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。配向層の厚さは0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがさらに好ましい。配向層は酸素遮断膜としての機能を有していてもよい。
【0077】
また、LCDの配向層として広く用いられているポリイミド膜(好ましくはフッ素原子含有ポリイミド)も有機配向層として好ましい。これはポリアミック酸(例えば、日立化成工業(株)製のLQ/LXシリーズ、日産化学(株)製のSEシリーズ等、いずれも商品名)を支持体面に塗布し、100〜300℃で0.5〜1時間焼成した後、ラビングすることにより得られる。
【0078】
また、前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を利用することができる。即ち、配向層の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0079】
また、無機斜方蒸着膜の蒸着物質としては、SiO2を代表とし、TiO2、ZnO2等の金属酸化物、あるいやMgF2等のフッ化物、さらにAu、Al等の金属が挙げられる。尚、金属酸化物は、高誘電率のものであれば斜方蒸着物質として用いることができ、上記に限定されるものではない。無機斜方蒸着膜は、蒸着装置を用いて形成することができる。フィルム(支持体)を固定して蒸着するか、あるいは長尺フィルムを移動させて連続的に蒸着することにより無機斜方蒸着膜を形成することができる。
【0080】
[配向層を兼ねる支持体]
液晶層を配向させるためには、支持体上に配向層を形成し、その表面をラビング処理する方法が一般的である。しかし、塗布液と支持体の組み合わせによっては、支持体を直接ラビングして液晶層を配向させることも可能である。このような支持体としては、後述の配向層に好ましく用いられる有機化合物、特にポリマーを主成分とする支持体が上げられる。このような支持体としては、PETフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0081】
[凸凹配向層]
液晶の配向層としては、ラビングや電離線配向を行った膜だけでなく、小さな凸凹をつけた膜を用いることもできる。
凹部形成領域には、様々な構造を採用することができる。例えば、凹部形成領域には、複数の溝を幅方向に等間隔で平行に並べた構造を採用することができる。
【0082】
これら溝は、互いに平行でなくてもよいが、これらの溝が平行に近いほど、液晶分子又はそれらのメソゲン基の長軸が揃い易くなる。これらの溝が為す角度は、例えば5°以下とし、典型的には3°以下とする。
【0083】
これら溝は、縦横に並べてもよい。また、溝の長さは、互いに等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。また、長さ方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。さらに、幅方向に隣り合う溝間の距離は均一であってもよく、不均一であってもよい。また、凹部形成領域の各々には、互いに長さが等しい溝を縦横に並べてもよい。或いは、様々な長さの溝をランダムに並べてもよい。
【0084】
溝を略平行とし且つピッチを適宜設定することなどにより、これら溝で回折格子を構成することができる。
【0085】
凹部形成層(凸凹配向層)は、例えば、感光性樹脂材料に、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法や、電子ビームによってパターンを描画する方法により形成することができる。或いは、表面レリーフ型ホログラムの製造で行われているように、微細な線状の凸部を設けた金型を樹脂に押し付けることにより形成することができる。例えば、凹部形成層は、基材上に形成された熱可塑性樹脂層に、線状の凸部が設けられた原版を、熱を印加しながら押し当てる方法、すなわち、熱エンボス加工法により得られる。
或いは、凹部形成層は、基材上に紫外線硬化樹脂を塗布し、これに原版を押し当てながら基材側から紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させ、その後、原版を取り除く方法により形成することも可能である。
【0086】
これらの方法によれば、1つの面内に溝の長さ方向が異なる複数の凹部形成領域を形成することができる。また、これらの方法によると、1つの面内に溝の深さ、幅、及び/又は溝などが異なる複数の凹部形成領域を形成することもできる。
【0087】
先の原版は、例えば、二光束干渉法を用いてホログラムパターンを記録する方法、電子ビームによってパターンを描画する方法、又はバイトによって切削する方法により得られた母型の電鋳を行うことにより得られる。凹部形成層に上記のような多様性をもたせない場合は、ラビング加工により溝を形成してもよい。
【0088】
これら溝の深さは、例えば、0.05μm乃至1μmの範囲とする。また、溝の長さは、例えば、0.5μm以上とする。溝のピッチは、例えば0.1μm以上であり、典型的には0.75μm以上である。又、溝のピッチは、例えば10μm以下であり、典型的には2μm以下である。液晶分子又はそのメソゲン基を高い秩序度で配向させるには、溝のピッチは小さいことが有利である。
【0089】
[反射層]
多層複屈折パターン作製材料は、より容易に識別できる多層複屈折パターンの作製のために反射層を有していてもよい。反射層としては特に限定されないが、例えばアルミや銀などの金属層が挙げられる。
【0090】
[後粘着層]
多層複屈折パターン作製材料は、後述のパターン露光及びベーク後に作製される多層複屈折パターンを有する物品をさらに他の物品に貼付するための後粘着層を有していてもよい。後粘着層の材料は特に限定されないが、多層複屈折パターン作製の為のベークの工程を経てた後でも粘着性を有する材料であることが好ましい。
【0091】
[2層以上の光学異方性層]
本発明の多層複屈折パターン作製材料は、光学異方性層を2層以上有することを特徴とする。2層以上の光学異方性層は法線方向に互いに隣接していてもよいし、間に別の機能性層を挟んでいてもよい。2層以上の光学異方性層は互いにほぼ同等のレターデーションを有していてもよく、異なるレターデーションを有していてもよい。また遅相軸の方向が互いにほぼ同じ方向を向いていてもよく、異なる向きを向いていてもよい。
【0092】
[多層複屈折パターン作製材料の作製方法]
多層複屈折パターン作製材料を作製する方法としては特に限定されないが、例えば、支持体上に光学異方性層を直接あるいは他の層を成層した上に塗布して形成する、あらかじめ転写材料中に作成しておいた光学異方性層を転写する、自己支持性の光学異方性層として形成する、自己支持性の光学異方性層上に他の機能性層を形成する、自己支持性の光学異方性層を支持体に貼合する、などの方法が挙げられる。このうち光学異方性層の物性に制約を加えないという点からは支持体上に光学異方性層を直接形成する方法と転写材料を用いて支持体上に光学異方性層を転写する方法が好ましく、さらに支持体に対する制約が少ない点から転写材料を用いて支持体上に光学異方性層を転写する方法がより好ましい。
【0093】
本発明のような光学異方性層を2層以上含む多層複屈折パターン作製材料を作製する方法としては、上記に示したような方法を複数回繰り返しても良いし(例えば配向層→光学異方性層→配向層→光学異方性層と繰り返し塗布、基材上に転写を必要回数行う、など)上記の方法を組み合わせても良い(配向層→光学異方性層と塗布した上に転写、など)。層構成の自由度が高いことから、基材上に、転写材料として作成しておいた光学異方性層の転写を複数回行う方法がより好ましい。
以下に、光学異方性層を転写させるための転写材料について説明する。なお、そのような転写材料は、後述の実施例などにおいて「複屈折パターン作製用転写材料」という。
【0094】
[仮支持体]
転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料は仮支持体を有することが好ましい。仮支持体は、透明でも不透明でもよく特に限定はない。仮支持体を構成するポリマーの例には、セルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリスルホン、ノルボルネン系ポリマーが含まれる。製造工程において光学特性を検査する目的には、透明支持体は透明で低複屈折の材料が好ましく、低複屈折性の観点からはセルロースエステルおよびノルボルネン系が好ましい。市販のノルボルネン系ポリマーとしては、アートン(商品名、JSR(株)製)、ゼオネックス、ゼオノア(以上、いずれも商品名、日本ゼオン(株)製)などを用いることができる。また安価なポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等も好ましく用いられる。
【0095】
[転写用接着層]
転写材料は転写接着層を有することが好ましい。転写接着層としては、透明で着色がなく、十分な転写性を有していれば特に制限はなく、粘着剤による粘着層、感圧性樹脂層、感熱性樹脂層、感光性樹脂層などが挙げられるが、液晶表示装置用基板等に用いられる場合に必要な耐ベーク性から感光性もしくは感熱性樹脂層が望ましい。
【0096】
粘着剤としては、例えば、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性や接着性の粘着特性を示すものが好ましい。具体的な例としては、アクリル系ポリマーやシリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、合成ゴム等のポリマーを適宜ベースポリマーとして調製された粘着剤等が挙げられる。粘着剤層の粘着特性の制御は、例えば、粘着剤層を形成するベースポリマーの組成や分子量、架橋方式、架橋性官能基の含有割合、架橋剤の配合割合等によって、その架橋度や分子量を調節するというような、従来公知の方法によって適宜行うことができる。
【0097】
感圧性樹脂層としては、圧力をかけることによって接着性を発現すれば特に限定はなく、感圧性接着剤には、ゴム系,アクリル系,ビニルエーテル系,シリコーン系の各粘着剤が使用できる。粘着剤の製造段階,塗工段階の形態では、溶剤型粘着剤,非水系エマルジョン型粘着剤,水系エマルジョン型粘着剤,水溶性型粘着剤,ホットメルト型粘着剤,液状硬化型粘着剤,ディレードタック型粘着剤等が使用できる。ゴム系粘着剤は、新高分子文庫13「粘着技術」(株)高分子刊行会P.41(1987)に記述されている。ビニルエーテル系粘着剤は、炭素数2〜4のアルキルビニルエーテル重合物を主剤としたもの,塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体,酢酸ビニル重合体,ポリビニルブチラール等に可塑剤を混合したものがある。シリコーン系粘着剤は、フィルム形成と膜の凝縮力を与えるためゴム状シロキサンを使い、粘着性や接着性を与えるために樹脂状シロキサンを使ったものが使用できる。
【0098】
感熱性樹脂層としては、熱をかけることによって接着性を発現すれば特に限定はなく、感熱性接着剤としては、熱溶融性化合物、熱可塑性樹脂などを挙げることができる。前記熱溶融性化合物としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂の低分子量物、カルナバワックス、モクロウ、キャンデリラワックス、ライスワックス、及び、オウリキュリーワックス等の植物系ワックス類、蜜ロウ、昆虫ロウ、セラック、及び、鯨ワックスなどの動物系ワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、エステルワックス、及び、酸化ワックスなどの石油系ワックス類、モンタンロウ、オゾケライト、及びセレシンワックスなどの鉱物系ワックス類等の各種ワックス類を挙げることができる。さらに、ロジン、水添ロジン、重合ロジン、ロジン変性グリセリン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性ポリエステル樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、及びエステルガム等のロジン誘導体、フェノール樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、シクロペンタジエン樹脂、芳香族炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、及び脂環族系炭化水素樹脂などを挙げることができる。
【0099】
なお、これらの熱溶融性化合物は、分子量が通常10,000以下、特に5,000以下で融点もしくは軟化点が50〜150℃の範囲にあるものが好ましい。これらの熱溶融性化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン系共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、及びセルロース系樹脂などを挙げることができる。これらのなかでも、特に、エチレン系共重合体等が好適に使用される。
【0100】
感光性樹脂層は、感光性樹脂組成物よりなり、ポジ型でもネガ型でもよく特に限定はなく、市販のレジスト材料を用いることもできる。転写接着層として用いられる場合、光照射によって接着性を発現することが好ましい。また、液晶表示装置用基板等の物品の製造工程における環境上や防爆上の問題から、有機溶剤が5%以下の水系現像であることが好ましく、アルカリ現像であることが特に好ましい。また、感光性樹脂層は少なくとも(1)ポリマーと、(2)モノマー又はオリゴマーと、(3)光重合開始剤又は光重合開始剤系とを含む樹脂組成物から形成するのが好ましい。
【0101】
以下、これら(1)〜(3)の成分について説明する。
(1)ポリマー
ポリマー(以下、単に「バインダ」ということがある。)としては、側鎖にカルボン酸基やカルボン酸塩基などの極性基を有するポリマーからなるアルカリ可溶性樹脂が好ましい。その例としては、特開昭59−44615号公報、特公昭54−34327号公報、特公昭58−12577号公報、特公昭54−25957号公報、特開昭59−53836号公報および特開昭59−71048号公報に記載されているようなメタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等を挙げることができる。また側鎖にカルボン酸基を有するセルロース誘導体も挙げることができ、またこの他にも、水酸基を有するポリマーに環状酸無水物を付加したものも好ましく使用することができる。また、特に好ましい例として、米国特許第4139391号明細書に記載のベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体や、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの多元共重合体を挙げることができる。これらの極性基を有するバインダポリマーは、単独で用いてもよく、或いは通常の膜形成性のポリマーと併用する組成物の状態で使用してもよい。全固形分に対するポリマーの含有量は20〜70質量%が一般的であり、25〜65質量%が好ましく、25〜45質量%がより好ましい。
【0102】
(2)モノマー又はオリゴマー
前記感光性樹脂層に使用されるモノマー又はオリゴマーとしては、エチレン性不飽和二重結合を2個以上有し、光の照射によって付加重合するモノマー又はオリゴマーであることが好ましい。そのようなモノマーおよびオリゴマーとしては、分子中に少なくとも1個の付加重合可能なエチレン性不飽和基を有し、沸点が常圧で100℃以上の化合物を挙げることができる。その例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよびフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどの単官能アクリレートや単官能メタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)シアヌレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンやグリセリン等の多官能アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加した後(メタ)アクリレート化したもの等の多官能アクリレートや多官能メタクリレートを挙げることができる。
更に特公昭48−41708号公報、特公昭50−6034号公報および特開昭51−37193号公報に記載されているウレタンアクリレート類;特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報および特公昭52−30490号公報に記載されているポリエステルアクリレート類;エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の反応生成物であるエポキシアクリレート類等の多官能アクリレー卜やメタクリレートを挙げることができる。
これらの中で、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが好ましい。
また、この他、特開平11−133600号公報に記載の「重合性化合物B」も好適なものとして挙げることができる。
これらのモノマー又はオリゴマーは、単独でも、2種類以上を混合して用いてもよく、着色樹脂組成物の全固形分に対する含有量は5〜50質量%が一般的であり、10〜40質量%が好ましい。
【0103】
(3)光重合開始剤又は光重合開始剤系
前記感光性樹脂層に使用される光重合開始剤又は光重合開始剤系としては、米国特許第2367660号明細書に開示されているビシナルポリケタルドニル化合物、米国特許第2448828号明細書に記載されているアシロインエーテル化合物、米国特許第2722512号明細書に記載のα−炭化水素で置換された芳香族アシロイン化合物、米国特許第3046127号明細書および同第2951758号明細書に記載の多核キノン化合物、米国特許第3549367号明細書に記載のトリアリールイミダゾール2量体とp−アミノケトンの組み合わせ、特公昭51−48516号公報に記載のベンゾチアゾール化合物とトリハロメチル−s−トリアジン化合物、米国特許第4239850号明細書に記載されているトリハロメチル−トリアジン化合物、米国特許第4212976号明細書に記載されているトリハロメチルオキサジアゾール化合物等を挙げることができる。特に、トリハロメチル−s−トリアジン、トリハロメチルオキサジアゾールおよびトリアリールイミダゾール2量体が好ましい。
また、この他、特開平11−133600号公報に記載の「重合開始剤C」も好適なものとしてあげることができる。
【0104】
これらの光重合開始剤又は光重合開始剤系は、単独でも、2種類以上を混合して用いてもよいが、特に2種類以上を用いることが好ましい。少なくとも2種の光重合開始剤を用いると、表示特性、特に表示のムラが少なくできる。
着色樹脂組成物の全固形分に対する光重合開始剤又は光重合開始剤系の含有量は、0.5〜20質量%が一般的であり、1〜15質量%が好ましい。
【0105】
感光性樹脂層は、ムラを効果的に防止するという観点から、適切な界面活性剤を含有させることが好ましい。前記界面活性剤は、感光性樹脂組成物と混ざり合うものであれば使用可能である。本発明に用いる好ましい界面活性剤としては、特開2003−337424号公報[0090]〜[0091]、特開2003−177522号公報[0092]〜[0093]、特開2003−177523号公報[0094]〜[0095]、特開2003−177521号公報[0096]〜[0097]、特開2003−177519号公報[0098]〜[0099]、特開2003−177520号公報[0100]〜[0101]、特開平11−133600号公報の[0102]〜[0103]、特開平6−16684号公報の発明として開示されている界面活性剤が好適なものとして挙げられる。より高い効果を得る為にはフッ素系界面活性剤、および/又はシリコン系界面活性剤(フッ素系界面活性剤、又は、シリコン系界面活性剤、フッソ原子と珪素原子の両方を含有する界面活性剤)のいずれか、あるいは2種以上を含有することが好ましく、フッ素系界面活性剤が最も好ましい。フッ素系界面活性剤を用いる場合、該界面活性剤分子中のフッ素含有置換基のフッ素原子数は1〜38が好ましく、5〜25がより好ましく、7〜20が最も好ましい。フッ素原子数が多すぎるとフッ素を含まない通常の溶媒に対する溶解性が落ちる点で好ましくない。フッ素原子数が少なすぎると、ムラの改善効果が得られない点で好ましくない。
特に好ましい界面活性剤として、下記一般式(a)および、一般式(b)で表されるモノマーを含み、且つ一般式(a)/一般式(b)の質量比が20/80〜60/40の共重合体を含有するものが挙げられる。
【0106】
【化19】

【0107】
式中、R11、R12およびR13はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、R14は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。nは1〜18の整数、mは2〜14の整数を示す。p、qは0〜18の整数を示すが、p、qがいずれも同時に0になる場合は含まない。
【0108】
特に好ましい界面活性剤の一般式(a)で表されるモノマーをモノマー(a)、一般式(b)で表されるモノマーをモノマー(b)と記す。一般式(a)に示すCm2m+1は、直鎖でも分岐鎖でもよい。mは2〜14の整数を示し、好ましくは4〜12の整数である。Cm2m+1の含有量は、モノマー(a)に対して20〜70質量%が好ましく、特に好ましくは40〜60質量%である。R1は水素原子またはメチル基を示す。またnは1〜18を示し、中でも2〜10が好ましい。一般式(b)に示すR2およびR3は、各々独立に水素原子またはメチル基を示し、R4は水素原子または炭素数が1〜5のアルキル基を示す。pおよびqは0〜18の整数を示すが、p、qがいずれも0は含まない。pおよびqは好ましくは2〜8である。
【0109】
また、特に好ましい界面活性剤1分子中に含まれるモノマー(a)としては、互いに同じ構造のものでも、上記定義範囲で異なる構造のものを用いてもよい。このことは、モノマー(b)についても同様である。
特に好ましい界面活性剤の質量平均分子量Mwは、1000〜40000が好ましく、更には5000〜20000がより好ましい。界面活性剤は前記一般式(a)および一般式(b)で表されるモノマーを含み、且つ一般式(a)/一般式(b)の質量比が20/80〜60/40の共重合体を含有することを特徴とする。特に好ましい界面活性剤100質量部は、モノマー(a)が20〜60質量部、モノマー(b)が80〜40質量部、およびその他の任意モノマーがその残りの質量部からなることが好ましく、更には、モノマー(a)が25〜60質量部、モノマー(b)が60〜40質量部、およびその他の任意モノマーがその残りの質量部からなることが好ましい。
【0110】
モノマー(a)および(b)以外の共重合可能なモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、クロルスチレン、ビニル安息香酸、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、アミノスチレン等のスチレンおよびその誘導体、置換体、ブタジエン、イソプレン等のジエン類、アクリロニトリル、ビニルエーテル類、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、部分エステル化マレイン酸、スチレンスルホン酸無水マレイン酸、ケイ皮酸、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系単量体等が挙げられる。
特に好ましい界面活性剤は、モノマー(a)、モノマー(b)等の共重合体であるが、そのモノマー配列は特に制限はなくランダムでも規則的、例えば、ブロックでもグラフトでもよい。更に、特に好ましい界面活性剤は、分子構造および/又はモノマー組成の異なるものを2以上混合して用いることができる。
前記界面活性剤の含有量としては、感光性樹脂層の層全固形分に対して0.01〜10質量%が好ましく、特に0.1〜7質量%が好ましい。界面活性剤は、特定構造の界面活性剤とエチレンオキサイド基、およびポリプロピレンオキサイド基とを所定量含有するもので、感光性樹脂層に特定範囲で含有することにより該感光性樹脂層を備えた液晶表示装置の表示ムラが改善される。全固形分に対して0.01質量%未満であると、表示ムラが改善されず、10質量%を超えると、表示ムラ改善の効果があまり現れない。上記の特に好ましい界面活性剤を前記感光性樹脂層中に含有させカラーフィルタを作製すると、表示ムラが改良される点で好ましい。
【0111】
好ましいフッ素系界面活性剤の具体例としては、特開2004−163610号公報の段落番号[0054]〜[0063]に記載の化合物が挙げられる。また、下記市販の界面活性剤をそのまま用いることもできる。使用できる市販の界面活性剤として、例えばエフトップEF301、EF303、(商品名、新秋田化成(株)製)、フロラードFC430、431(商品名、住友スリーエム(株)製)、メガファックF171、F173、F176、F189、R08(商品名、大日本インキ(株)製)、サーフロンS−382、SC101、102、103、104、105、106(商品名、旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤、又は、シリコン系界面活性剤を挙げることができる。またポリシロキサンポリマーKP−341(商品名、信越化学工業(株)製)、トロイゾルS−366(商品名、トロイケミカル(株)製)もシリコン系界面活性剤として用いることができる。本発明においては、一般式(a)で表されるモノマーを含まないフッ素系界面活性剤である、特開2004−331812号公報の段落番号[0046]〜[0052]に記載の化合物を用いることも好ましい。
【0112】
[力学特性制御層]
転写材料の、仮支持体と光学異方性層の間には、力学特性や凹凸追従性をコントロールするために力学特性制御層を形成することが好ましい。力学特性制御層としては、柔軟な弾性を示すもの、熱により軟化するもの、熱により流動性を呈するものなどが好ましく、熱可塑性樹脂層が特に好ましい。熱可塑性樹脂層に用いる成分としては、特開平5−72724号公報に記載されている有機高分子物質が好ましく、ヴイカーVicat法(具体的にはアメリカ材料試験法エーエステーエムデーASTMD1235によるポリマー軟化点測定法)による軟化点が約80℃以下の有機高分子物質より選ばれることが特に好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレンと酢酸ビニル或いはそのケン化物の様なエチレン共重合体、エチレンとアクリル酸エステル或いはそのケン化物、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルと酢酸ビニルおよびそのケン化物の様な塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン共重合体、ポリスチレン、スチレンと(メタ)アクリル酸エステル或いはそのケン化物の様なスチレン共重合体、ポリビニルトルエン、ビニルトルエンと(メタ)アクリル酸エステル或いはそのケン化物の様なビニルトルエン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ブチルと酢酸ビニル等の(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル共重合体ナイロン、共重合ナイロン、N−アルコキシメチル化ナイロン、N−ジメチルアミノ化ナイロンの様なポリアミド樹脂等の有機高分子が挙げられる。
【0113】
[剥離層]
転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料は仮支持体の上に剥離層を有してもよい。剥離層は仮支持体と剥離層間の、あるいは剥離層とその直上層の間の密着力を制御し、光学異方性層を転写した後の仮支持体の剥離を助ける役目を負う。また前述の他の機能層、例えば配向層や力学特性制御層などが剥離層としての機能を有してもよい。
転写材料においては、複数の塗布層の塗布時、および塗布後の保存時における成分の混合を防止する目的から、中間層を設けることが好ましい。該中間層としては、特開平5−72724号公報に「分離層」として記載されている、酸素遮断機能のある酸素遮断膜や、前記光学異方性形成用の配向層を用いることが好ましい。これらの内、特に好ましいのは、ポリビニルアルコールもしくはポリビニルピロリドンとそれらの変性物の一つもしくは複数を混合してなる層である。前記熱可塑性樹脂層や前記酸素遮断膜、前記配向層を兼用することもできる。
【0114】
[表面保護層]
樹脂層の上には、貯蔵の際の汚染や損傷から保護する為に薄い表面保護層を設けることが好ましい。表面保護層の性質は特に限定されず、仮支持体と同じか又は類似の材料からなってもよいが、隣接する層(例えば転写接着層)から容易に分離されねばならない。表面保護層の材料としては例えばシリコン紙、ポリオレフィンもしくはポリテトラフルオロエチレンシートが適当である。
【0115】
光学異方性層、感光性樹脂層、転写接着層および所望により形成される配向層、熱可塑性樹脂層、力学特性制御層および中間層等の各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。二以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2761791号、同2941898号、同3508947号、同3526528号の各明細書および原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。
また、光学異方性層上に塗布する層(例えば転写接着層)の塗布の際には、その塗布液に可塑剤や光重合開始剤を添加することにより、それらの添加剤の浸漬による光学異方性層の改質を同時に行ってもよい。
【0116】
[転写材料を被転写材料上に転写する方法]
転写材料を支持体(基板)等の被転写材料上に転写する方法については特に制限されず、基板上に上記光学異方性層を転写できれば特に方法は限定されない。例えば、フィルム状に形成した転写材料を、転写接着層面を被転写材料表面側にして、ラミネータを用いて加熱および/又は加圧したローラー又は平板で圧着又は加熱圧着して、貼り付けることができる。具体的には、特開平7−110575号公報、特開平11−77942号公報、特開2000−334836号公報、特開2002−148794号公報に記載のラミネータおよびラミネート方法が挙げられるが、低異物の観点で、特開平7−110575号公報に記載の方法を用いるのが好ましい。
被転写材料としては、支持体、支持体及び他の機能性層を含む積層体、又は(多層)複屈折パターン作製材料が挙げられる。
【0117】
[転写に伴う工程]
複屈折パターン作製用転写材料を被転写材料上に転写した後、仮支持体は剥離してもよく、しなくともよい。ただし剥離しない場合には仮支持体がその後のパターン露光に適した透明性やベークに耐え得る耐熱性などを有していることが好ましい。また、光学異方性層と一緒に転写される不要の層を除去する工程があってもよい。例えば配向層としてポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンの共重合体を用いた場合には、弱アルカリ性の水系現像液での現像により配向層より上の層の除去が可能である。現像の方式としては、パドル現像、シャワー現像、シャワー&スピン現像、ディップ現像等、公知の方法を用いることができる。現像液の液温度は20℃〜40℃が好ましく、また、現像液のpHは8〜13が好ましい。
【0118】
また転写後、必要に応じて仮支持体の剥離や不要層の除去を行った後の表面に他の層を形成してもよい。あるいは必要に応じて仮支持体の剥離や不要層の除去を行った後の表面に転写材料を転写してもよい。この際に用いる転写材料は先に転写した転写材料と同じでもよく、異なってもよい。また、先に転写した転写材料の光学異方性層の遅相軸と新たに転写する転写材料の光学異方性層と遅相軸は互いに同じ向きでもよく、異なる向きでもよい。前述のように、複数層の光学異方性層を転写する事は遅相軸の向きを揃えた複数層の光学異方性層を積層した大きなレターデーションを持つ複屈折パターンや遅相軸の向きの異なる複数層を積層した特殊な複屈折パターンの作製などに有用である。
【0119】
[多層複屈折パターンを有する物品の作製]
上記のようにして多層複屈折パターン作製材料を製造(工程[1])した後、少なくとも、以下の工程[2]、[3]をこの順に行うことにより、多層複屈折パターンを有する物品を作製することができる。
[2]該多層複屈折パターン作製材料の前記光学異方性層の少なくとも1層に対して、他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの潜像を与えるような露光(パターン露光)を行う工程;
[3]前記工程[2]の後に得られる積層体を50℃以上400℃以下でベークする工程。
あるいは多層複屈折パターン作製材料を製造(工程[11])した後、少なくとも以下の工程[12]、[13]をこの順に行うことによっても、多層複屈折パターンを有する物品を作製することができる。
[12]該多層複屈折パターン作製材料の前記光学異方性層の少なくとも1層に対して、他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの部分加熱を行う工程;
[13]該多層複屈折パターン作製材料に対して、前記光学異方性層中の未反応の反応性基を反応させて光学異方性層の耐久性を高める処理を行う工程。
それぞれの方法について、以下に詳細を説明する。
【0120】
[パターン露光を用いた多層複屈折パターン製造法]
この方法は、多層複屈折パターン作製材料の一部あるいは全部領域にパターン露光を行って該当領域を硬化させて耐熱性を高め、その後に加熱(ベーク)を行うことで各領域の露光量の有無もしくは大小に応じて光学異方性を低下させ(露光量が少なかった領域ほど低下巾が大きい)、光学異方性のディスクリを生じさせてパターンを有する物品を作製する方法である。
【0121】
[パターン露光]
本明細書において、パターン露光とは、多層複屈折パターン作製材料の一部の領域のみが露光されるように行う露光を意味する。パターン露光の手法としてはマスクを用いたコンタクト露光、プロキシ露光、投影露光などでもよいし、レーザーや電子線などを用いてマスクなしに決められた位置にフォーカスして直接描画してもよい。
前記露光の光源の照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。具体的には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、青色レーザー等が挙げられる。好ましい露光量としては通常3〜2000mJ/cm2程度であり、より好ましくは5〜1000mJ/cm2程度、最も好ましくは10〜500mJ/cm2程度である。
【0122】
[パターン露光時の露光条件]
本発明の製造方法において、多層複屈折パターン作製に用いる多層複屈折パターン作製材料の構成によっては、パターン露光時の露光条件によってベーク後に生成される多層複屈折パターン作製材料の複屈折性(例えばレターデーション)が異なる場合がある。このような場合、敢えてその性質を利用し、ベーク後に得たい複屈折性に応じて露光条件を制御しても良い。また異なる複屈折性を有する複数の領域を得るため、露光条件を領域によって異なるものにしても良い。
【0123】
露光条件としては、特に限定はされないが、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、露光量、露光時の温度、露光時の雰囲気等が挙げられる。この中で、条件調整の容易性の観点から、露光ピーク波長、露光照度、露光時間、および露光量が好ましく、露光照度、露光時間および露光量がさらに好ましい。パターン露光時に相異なる露光条件で露光された領域はその後、焼成を経て相異なる、かつ露光条件によって制御された複屈折性を示す。特に異なるレターデーション値を与える。すなわち、パターン露光の際に領域ごとに露光条件を調整することにより、焼成を経た後に領域ごとに異なる、かつ所望のレターデーションを有する複屈折パターンを作製することが可能である。なお、異なる露光条件で露光された2つ以上の露光領域間の露光条件は不連続に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
【0124】
[マスク露光]
露光条件の異なる露光領域を生じる手段として、露光マスクを用いた露光は有用である。例えば1つの領域のみを露光するような露光マスクを用いて露光を行った後に、温度、雰囲気、露光照度、露光時間、露光波長を変えて別のマスクを用いた露光や全面露光を行うことで、先に露光された領域と後に露光された領域の露光条件は容易に変更することができる。また、露光照度、あるいは露光波長を変えるためのマスクとして領域によって異なる透過スペクトルを示す2つ以上の領域を有するマスクは特に有用である。この場合、ただ一度の露光を行うだけで複数の領域に対して異なる露光照度、あるいは露光波長での露光を行うことができる。異なる露光照度の元で同一時間の露光を行う事で異なる露光量を与えることができることは言うまでもない。
またレーザーなどを用いた走査露光を用いる場合には、露光領域によって光源強度を変える、走査速度を変えるなどの手法で領域ごとに露光条件を変えることが可能である。
【0125】
[少なくとも1層の光学異方性層に対して他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの潜像を与えるような露光]
本発明の製造方法においては、多層複屈折パターン作製材料の少なくとも1層の光学異方性層に対して他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの潜像を与えるような露光を行う工程を有する。すなわち、本発明の多層複屈折パターン作製材料は、その光学異方性層のうちの少なくとも2層において、その複屈折パターン形成反応条件が異なる。異なる複屈折パターン形成反応条件のひとつとしては、例えば分光ピーク波長があげられ、吸収スペクトルの異なる光重合開始剤を用いることなどにより、実現できる。また、例えば偏光吸収特性があげられ、異なる方向に配向した二色性光重合開始剤を用いることなどにより、実現できる。なお、「分光ピーク波長が異なる」とは2層間の分光ピーク波長が好ましくは15nm以上、さらに好ましくは30nm以上異なることをいう。また、「偏光吸収特性が異なる」とは2層間の吸収極大方向が好ましくは30°以上、さらに好ましくは60°以上異なることをいう。
上記のような工程の具体的手法としては、例えば、光学異方性層の感光波長を層ごとに異なるものにして所望の層に対応した波長の光で露光する、光学異方性層の感光特性に吸収異方性を持たせた上で層ごとの吸収極大方向を異なる方向にして所望の層に対応した方向の直線偏光で露光する、などの方法があげられる。
【0126】
[光学異方性層の感光波長を層ごとに異なるものにする方法]
光学異方性層の感光波長を層ごとに異なるものにすることにより、層ごとに分光ピーク波長が異なる複屈折パターン形成条件を与えることができる。この方法としては、例えば、光学異方性層に含まれる(あるいは後処理で浸漬される)光重合開始剤を層ごとに異なるものにする方法をあげることができる。この際に用いる光重合開始剤として、前述の主に紫外光に反応する光重合開始剤に加えて、可視光あるいは赤外光に反応する光重合開始剤を用いることで、用いる感光波長の自由度を高めることができる。可視光あるいは赤外光に反応する光重合開始剤としては、例えば、下記A−1〜A−10示す有機ホウ素化合物と1−1〜1−18に示す有機色素の組合せをあげることができる。またこの他にも、特開2000−171974号公報、特開2002−82431号公報などに示されたような化合物も用いることが可能である。
【0127】
【化20】

【0128】
【化21】

【0129】
【化22】

【0130】
【化23】

【0131】
【化24】

【0132】
【化25】

【0133】
[光学異方性層の吸収異方性を層ごとに異なるものにする方法]
光学異方性層の吸収異方性を層ごとに異なるものにすることにより、層ごとに偏光吸収特性の異なる複屈折パターン形成反応条件を与えることができる。この方法としては、例えば光学異方性層に二色性光重合開始剤を含有/浸漬させる方法があげられる。この方法で用いる二色性光重合開始剤としては、重合性液晶と共に配向する性質を有する液晶性二色性光重合開始剤が好ましい。この場合、秩序よく配向させるには、最初から光学異方性層に二色性光重合開始剤を含有させた方が好ましい。
具体的には、欧州特許1389199A1公報に記載されている方法などを用いることができる。
【0134】
[層ごとの垂直位置の違いを利用する方法]
その他、露光に走査光学系を用いる場合には、焦点深度が極端に浅くなるように光学系を構成し、光学異方性層の層ごとの垂直位置の差異を利用して目的の層のみに集光して反応させる方法も挙げられる。
【0135】
[加熱(ベーク)]
パターン露光された多層複屈折パターン作製材料に対して50℃以上400℃以下、好ましくは80℃以上400℃以下に加熱を行うことにより多層複屈折パターンを作製することができる。
【0136】
[後処理(有機色素の漂白)]
光学異方性層に有機色素を用いた場合、有機色素の色が残ることがあり、必要に応じ、これを後処理で漂白することができる。例えば、あらかじめホウ素化合物を過剰に添加しておき、全面露光によってホウ素化合物からラジカルを発生させ、これによって色素を分解させて漂白することができる。この方法は加温しながら行うと、より効果的である。また、漂白に用いる波長とパターン露光波長に用いる波長が近い場合はこの処理はベーク後に行うことが好ましい。
【0137】
[部分加熱を用いた多層複屈折パターン製造法]
この方法は、多層複屈折パターン作製材料の一部領域を部分加熱して該当領域の光学異方性を低下させ、その後に光学異方性層中の未反応の反応性基を反応させて光学異方性層の耐久性を高める処理を行い、多層複屈折パターンを有する物品を作製する方法である。
【0138】
[部分加熱]
多層複屈折パターン作製材料の一部を加熱する方法は特に限定されないが、加熱体を多層複屈折パターン作製材料に接触させて行う方法、加熱体を多層複屈折パターン作製材料のごく近傍に位置させて行う方法、ヒートモード露光を用いて多層複屈折パターン作製材料を部分加熱する方法などが挙げられる。2つ以上の光学異方性層のそれぞれに対して独立に任意のパターンの部分加熱を行うには、ヒートモード露光を用いて多層複屈折パターン作製材料を部分加熱する方法がより好ましい。
【0139】
[ヒートモード露光を用いた加熱]
一部領域の加熱としてはヒートモード露光を用いることもできる。以下に本発明で行うことができるヒートモード露光について説明する。Hans−Joachim Timpe,IS&Ts NIP 15:1999 International Conference on Digital Printing Technologies,p209に記載されているように、感光体材料において光吸収物質(例えば色素)を光励起させ、化学的或いは物理的変化を経て、画像を形成するその光吸収物質の光励起から化学的或いは物理的変化までのプロセスには大きく分けて二つのモードが存在することが知られている。1つは光励起された光吸収物質が感光材料中の他の反応物質と何らかの光化学的相互作用(例えば、エネルギー移動、電子移動)をすることで失活し、その結果として活性化した反応物質が上述の画像形成に必要な化学的或いは物理変化を引き起こすいわゆるフォトンモードであり、もう1つは光励起された光吸収物質が熱を発生し失活し、その熱を利用して反応物質が上述の画像形成に必要な化学的或いは物理変化を引き起こすいわゆるヒートモードである。
【0140】
上述の各モードを利用した露光プロセスをフォトンモード露光及びヒートモード露光と呼ぶ。フォトンモード露光とヒートモード露光の技術的な違いは目的とする反応のエネルギー量に対し露光する数個の光子のエネルギー量を加算して使用できるかどうかである。例えばn個の光子を用いて、ある反応を起こすことを考える。フォトンモード露光では光化学的相互作用を利用しているため、量子のエネルギー及び運動量保存則の要請により1光子のエネルギーを足し併せて使用することができない。つまり、何らかの反応を起こすためには「1光子のエネルギー量≧反応のエネルギー量」の関係が必要である。一方、ヒートモード露光では光励起後に熱を発生し、光エネルギーを熱に変換し利用するためエネルギー量の足し併せが可能となる。そのため、「n個の光子のエネルギー量≧反応のエネルギー量」の関係があれば十分となる。但し、このエネルギー量加算には熱拡散による制約を受ける。即ち、今注目している露光部分(反応点)から熱拡散により熱が逃げるまでに次の光励起−失活過程が起こり熱が発生すれば、熱は確実に蓄積加算し、その部分の温度上昇につながる。しかし、次の熱の発生が遅い場合には熱が逃げて蓄積されない。つまり、ヒートモード露光では同じ全露光エネルギー量であっても高エネルギー量の光を短い時間照射した場合と低エネルギー量の光を長い時間照射した場合とでは結果が異なり、短時間の方が熱の蓄積に有利になる。従ってヒートモード露光では感光材料の版面での露光パワー密度が5000w/cm2以上が必要であり、好ましくは10000w/cm2以上が必要となる。
【0141】
[ヒートモード露光の光源]
前記ヒートモード露光の光源としてはハロゲンランプ、レーザー等が挙げられるが、前述のように高密度の露光が必要となる為、固体レーザー、ガスレーザー、半導体レーザーを走査して用いるのが好ましい。光源の照射波長のピークは特に限定されないが、後述の光熱変換剤の吸収波長と対応したものが好ましい。露光量としては通常50〜1000mJ/cm程度であり、より好ましくは80〜500mJ/cm程度、最も好ましくは100〜250mJ/cm程度である。
【0142】
[光熱変換剤]
ヒートモード露光を用いた部分加熱においては、所定の波長の光を吸収し、熱に変換する光熱変換剤が光学異方性層中に存在することが望ましい。光熱変換剤としては吸収した光を熱に変換する機能を有する物であればよいが、ヒートモード露光に用いる光源の照射波長の範囲に吸収ピークを有するような物が好ましい。光熱変換剤の例として、以下に示すような染料や顔料が挙げられる。
【0143】
染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
【0144】
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号の各公報等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号の各公報等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号の各公報等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号明細書記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0145】
また、米国特許第5,156,938号明細書記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号明細書記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号公報(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号の各公報に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号公報記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号明細書に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号公報、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。
【0146】
また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0147】
顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0148】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。
【0149】
[少なくとも1層の光学異方性層に対して他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの部分加熱を行う工程]
本発明の製造方法として、多層複屈折パターン作製材料の少なくとも1層の光学異方性層に対して他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの部分加熱を行う工程を有するものがある。そのような工程の具体的手法としては、例えば、光学異方性層が含有する(もしくは浸漬される)光熱変換剤を層ごとに吸収波長の異なるものにした上で所望の層に対応した波長の光でヒートモード露光を行う、などの方法が挙げられる。また、ヒートモード露光の光源として走査光学系を用いる場合には、焦点深度が極端に浅くなるように光学系を構成し、光学異方性層の層ごとの垂直位置の差異を利用して目的の層のみに集光、発熱させて描画を行う方法も挙げられる。
【0150】
[光学異方性層中の未反応の反応性基を反応させて光学異方性層の耐久性を高める処理]
前記パターン状熱処理が行われた光学異方性層において熱処理が行われなかった領域は、レターデーションを有しつつも未反応の反応性基を残しており、未だ不安定な状態である。未処理領域に残存する未反応の反応性基を反応もしくは失活させるために、全面熱処理ないしは全面露光による反応処理を行うことが好ましい。
【0151】
全面熱処理による反応処理は、用いられる多層複屈折パターン作製材料の光学異方性層のレターデーション消失温度より低い温度で、かつ未反応の反応性基の反応もしくは失活が効率よく進む温度であることが好ましい。一般的に120〜180℃程度の加熱を行えばよく、130〜170℃がより好ましく、140〜160℃がさらに好ましいが、必要とされる複屈折性(レターデーション)や用いる光学異方性層の熱硬化反応性によって適した温度は異なる。熱処理の時間は特に限定されないが、1分以上5時間以内が好ましく、3分以上3時間以内がより好ましく、5分以上2時間以内が特に好ましい。
【0152】
全面熱処理の代わりに、全面露光によっても反応処理を行うことができる。この際の光源の照射波長としては250〜450nmにピークを有することが好ましく、300〜410nmにピークを有することがさらに好ましい。感光性樹脂層により同時に段差を形成する場合には樹脂層を硬化しうる波長域の光(例えば、365nm、405nmなど)を照射することも好ましい。具体的には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、青色レーザー等が挙げられる。好ましい露光量としては通常3〜2000mJ/cm程度であり、より好ましくは5〜1000mJ/cm程度、さらに好ましくは10〜500mJ/cm程度、最も好ましくは10〜300mJ/cm程度である。
【0153】
[仕上げ熱処理]
前節までの工程で作製された複屈折パターンの安定性をさらに高めたい場合、固定化された後にまだ残存している未反応の反応性基をさらに反応させて耐久性を増したり、材料中の不要な成分を気化あるいは燃焼させて除いたりする目的の為に仕上げ熱処理を行ってもよい。特にパターン露光と加熱全面露光、あるいはパターン状熱処理と全面露光で複屈折パターンを作製した場合には効果的である。仕上げ熱処理の温度としては180〜300℃程度の加熱を行えばよく、190〜260℃がより好ましく、200〜240℃がさらに好ましい。熱処理の時間は特に限定されないが、1分以上5時間以内が好ましく、3分以上3時間以内がより好ましく、5分以上2時間以内が特に好ましい。
【0154】
[複屈折パターンに積層される機能性層]
複屈折パターン作製材料に、上述のように露光及びベークを行って複屈折性パターンを作製した後に、さらに様々な機能を持った機能性層を積層し、多層複屈折パターンを有する物品としてもよい。機能性層としては、特に限定されるものではないが、例えば表面の傷つきを防止するハードコート層や、複屈折パターンの視認を容易にする反射層などがあげられる。識別を容易とする為、特に複屈折パターンの下に反射層を有することが好ましい。
【0155】
[多層複屈折パターンを有する物品]
多層複屈折パターン作製材料に上述のように露光及びベークを行って得られる物品は通常はほぼ無色透明である一方で、二枚の偏光板で挟まれた場合、あるいは反射層と偏光板とで挟まれた場合においては特徴的な明暗、あるいは色を示し容易に目視で認識できる。この性質を生かして、上記の製造方法により得られる多層複屈折パターンを有する物品は、例えば偽造防止手段として利用することができる。すなわち、本発明の作製方法で作製された多層複屈折パターンを有する物品、特に反射層を含む多層複屈折パターンを有する物品は通常は目視ではほぼ不可視な一方で、偏光板を介することで容易に多色の画像が識別可能となる。複屈折パターンは偏光板を介さずにコピーしても何も映らず、逆に偏光板を介してコピーすると永続的な、つまりは偏光板無しでも目視可能なパターンとして残る。従って複屈折パターンの複製は困難である。このような複屈折パターンの作製法は広まっておらず、材料も特殊であることから、偽造防止手段として用いるに適していると考えられる。特に本発明においては2層以上の光学異方性層において異なる複屈折パターン(あるいはパターンとベタ)を有するため、偽造防止性、意匠性等に優れている。
【0156】
[光学素子]
また、上記の製造方法により得られる多層複屈折パターンを有する物品は光学素子への利用も可能である。例えば上記の製造方法により得られる多層複屈折パターンを有する物品を構造的な光学素子として用いた場合、特定の偏光にのみ効果を与える特殊な光学素子の作製が可能である。一例として、本発明の屈折率のパターンによって作製された回折格子は特定の偏光を強く回折する偏光分離素子として機能し、プロジェクターや光通信分野への応用が可能である。
【実施例】
【0157】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0158】
(実施例1:感光波長違い型多層複屈折パターン作製材料、及びそれを用いた軸違い多層複屈折パターンを有する物品の作製)
【0159】
(力学特性制御層用塗布液CU−1の調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、力学特性制御層用塗布液CU−1として用いた。
【0160】
──────────────────────────────────―
力学特性制御層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体
(共重合組成比(モル比)=55/30/10/5、質量平均分子量=10万、
Tg≒70℃) 5.89
スチレン/アクリル酸共重合体
(共重合組成比(モル比)=65/35、質量平均分子量=1万、Tg≒100℃)
13.74
エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
(BPE−500、商品名、新中村化学(株)製) 9.20
フッ素系界面活性剤
(メガファックF−780−F、商品名、大日本インキ化学工業(株)社製)
0.55
メタノール 11.22
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 6.43
メチルエチルケトン 52.97
──────────────────────────────────―
【0161】
(配向層用塗布液AL−1の調製)
下記の組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、配向層用塗布液AL−1として用いた。
──────────────────────────────────―
配向層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
ポリビニルアルコール(PVA205、商品名、クラレ(株)製) 3.21
ポリビニルピロリドン(Luvitec K30、商品名、BASF社製)
1.48
蒸留水 52.10
メタノール 43.21
──────────────────────────────────―
【0162】
(光学異方性層用塗布液LC−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方性層用塗布液LC−1として用いた。LC−1−1は2つの反応性基を有する液晶化合物であり、2つの反応性基の片方はラジカル性の反応性基であるアクリル基、他方はカチオン性の反応性基であるオキセタン基である。LC−1−2は配向制御の目的で添加する円盤状の化合物である。LC−1−2はTetrahedron Lett.誌、第43巻、6793頁(2002)に記載の方法に準じて合成した。
【0163】
──────────────────────────────────―
光学異方性層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
棒状液晶(LC−1−1) 32.92
水平配向剤(LC−1−2) 0.02
カチオン系光重合開始剤
(CPI100−P、商品名、サンアプロ株式会社製) 0.33
重合制御剤
(IRGANOX1076、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
0.07
メチルエチルケトン 66.66
──────────────────────────────────―
【0164】
【化26】

【0165】
(赤色感光層隣接転写接着層用塗布液ADR−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、赤色感光層隣接転写接着層用塗布液ADR−1として用いた。ホウ素化合物B−1はラジカル発生能力を持ち、有機色素と組み合わせて用いる事で光ラジカル発生剤として働く。赤色感光色素D−1は660nm付近を中心とした赤色光を吸収する性質を持った有機色素である。
【0166】
──────────────────────────────────―
転写接着層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────―
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/メタクリル酸メチル
=35.9/22.4/41.7モル比のランダム共重合物
(質量平均分子量3.8万) 7.73
アクリレート系多官能モノマー
(KAYARAD DPHA、商品名、日本化薬(株)製) 4.63
ホウ素化合物(B−1) 0.39
赤色感光色素(D−1) 0.13
ラジカル重合開始剤(2−トリクロロメチル−5−(p−スチリルスチリル)
1,3,4−オキサジアゾール) 0.12
ハイドロキノンモノメチルエーテル 0.002
フッ素系界面活性剤
(メガファックF−176PF、商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
0.05
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 34.80
メチルエチルケトン 50.538
メタノール 1.61
──────────────────────────────────―
【0167】
【化27】

【0168】
(緑色感光層隣接転写接着層用塗布液ADG−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、緑色感光層隣接転写接着層用塗布液ADG−1として用いた。緑色感光色素D−2は530nm付近を中心とした緑色光を吸収する性質を持った有機色素である。
【0169】
──────────────────────────────────―
転写接着層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────―
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/メタクリル酸メチル
=35.9/22.4/41.7モル比のランダム共重合物
(質量平均分子量3.8万) 7.73
アクリレート系多官能モノマー
(KAYARAD DPHA、商品名、日本化薬(株)製) 4.63
ホウ素化合物(B−1) 0.39
緑色感光色素(D−2) 0.13
ラジカル重合開始剤(2−トリクロロメチル−5−(p−スチリルスチリル)
1,3,4−オキサジアゾール) 0.12
ハイドロキノンモノメチルエーテル 0.002
フッ素系界面活性剤
(メガファックF−176PF、商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
0.05
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 34.80
メチルエチルケトン 50.538
メタノール 1.61
──────────────────────────────────―
【0170】
【化28】

【0171】
(青色感光層隣接転写接着層用塗布液ADB−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、青色感光層隣接転写接着層用塗布液ADB−1として用いた。青色感光色素D−3は470nm付近を中心とした青色光を吸収する性質を持った有機色素である。
【0172】
──────────────────────────────────―
転写接着層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────―
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/メタクリル酸メチル
=35.9/22.4/41.7モル比のランダム共重合物
(質量平均分子量3.8万) 8.05
アクリレート系多官能モノマー
(KAYARAD DPHA、商品名、日本化薬(株)製) 4.83
ホウ素化合物(B−1) 0.39
緑色感光色素(D−3) 0.13
ラジカル重合開始剤(2−トリクロロメチル−5−(p−スチリルスチリル)
1,3,4−オキサジアゾール) 0.12
ハイドロキノンモノメチルエーテル 0.002
フッ素系界面活性剤
(メガファックF−176PF、商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
0.05
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 34.80
メチルエチルケトン 50.538
メタノール 1.61
──────────────────────────────────―
【0173】
【化29】

【0174】
(赤色感光複屈折パターン作製用転写材料TRR−1の作製)
厚さ100μmの易接着ポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100、商品名、東洋紡績(株)製)の仮支持体の上に、ワイヤーバーを用いて順に、力学特性制御層用塗布液CU−1、配向層用塗布液AL−1を塗布、乾燥した。乾燥膜厚はそれぞれ14.6μm、1.6μmであった。次いで、ワイヤーバーを用いて光学異方性層用塗布液LC−1を塗布、膜面温度105℃で2分間乾燥して液晶相状態とした後、空気下にて出力160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射してその配向状態を固定化して厚さ1.7μmの光学異方性層を形成した。この際用いた紫外線の照度はUV−A領域(波長320nm〜400nmの積算)において100mW/cm、照射量はUV−A領域において80mJ/cmであった。サンプルの光学異方性層は一軸の正の光学異方性を有する20℃で固体の高分子で、耐MEK(メチルエチルケトン)性を示した。
最後に、光学異方性層の上に赤色感光層隣接転写接着層用塗布液ADR−1を塗布、乾燥して1.2μmの転写接着層を形成した後に保護フィルム(厚さ12μmのポリプロピレンフィルム)を圧着し、赤色感光複屈折パターン作製用転写材料TRR−1を作製した。なお、この工程の際にADR−1に含まれるラジカル重合開始剤により光学異方性層は適宜改質される。以降の別の転写接着層用塗布液の塗布においても光学異方性層はその塗布液に応じて後の工程に適当な形に改質される。
【0175】
(緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−1の作製)
赤色感光層隣接転写接着層用塗布液ADR−1の代わりに緑色感光層隣接転写接着層用塗布液ADG−1を用いた以外はTRR−1と同様の手法で、緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−1を作製した。
【0176】
(青色感光複屈折パターン作製用転写材料TRB−1の作製)
赤色感光層隣接転写接着層用塗布液ADR−1の代わりに青色感光層隣接転写接着層用塗布液ADB−1を用いた以外はTRR−1と同様の手法で、青色感光複屈折パターン作製用転写材料TRB−1を作製した。
【0177】
(多層複屈折パターン作製材料BPM−1の作製)
無アルカリガラスを純水に浸漬した状態で超音波洗浄機にかけ、5分間超音波洗浄した。このガラスを基板予備加熱装置で105℃15秒間予備加熱した。
【0178】
前記青色感光複屈折パターン作製用転写材料TRB−1の保護フィルムを剥離後、ラミネータ((株)日立インダストリイズ製(商品名:LamicII型))を用い、前記105℃で15秒間加熱したガラスに、ゴムローラー温度130℃、線圧100N/cm、搬送速度1.4m/分でラミネートした。この際、TRG−1中の光学異方性層の遅相軸が概ね0°方向となるようにラミネートした。(遅相軸方向はラミネートの際の基板の進行方向を基準としてそこから時計回りに示す。以下同じ)
【0179】
ラミネート後、仮支持体を剥離した後の基板に再度同様の手法で緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−1をラミネートした。この際、TRG−1中の光学異方性層の遅相軸方向はおよそ45°方向になるようにラミネートした。
【0180】
2度目のラミネート後、仮支持体を剥離した後の基板にさらに同様の手法で赤色感光複屈折パターン作製用転写材料TRR−1をラミネートした。この際、TRR−1中の光学異方性層の遅相軸方向はおよそ90°方向になるようにラミネートした。ラミネート後、仮支持体を剥離して多層複屈折パターン作製材料BPM−1を作製した。BPM−1の作製に用いた転写材料と、それぞれの中心感光波長およびそれぞれの有する光学異方性層の遅相軸方向をまとめて表1に示す。
【0181】
表1
────────────―――――――――
用いた転写材料 遅相軸方向
──────────────────―――
TRB−1 0°
TRG−1 45°
TRR−1 90°
──────────────────―――
【0182】
(多層複屈折パターンBP―1の作製)
BPM−1に対して、露光中心波長とフォトマスクを変えつつ3回のマスク露光を行った。用いたマスクの番号と露光中心波長および露光量を表2に、用いたマスクの図を図3に示す。光源としてはキセノンランプを用い、得たい露光中心波長に応じたバンドパスフィルターを併用した。
【0183】
表2
────────────―――――――――――――――――――
マスク番号 露光中心波長/nm 露光量/mJ/cm
──────────────────――――――――――――─
マスクMB1 470 50
マスクMG1 530 50
マスクMR1 660 50
──────────────────――――――――――――─
【0184】
露光後の基板に対して200℃のクリーンオーブンで1時間のベークを行い、最後に白色蛍光灯を用いて38000luxの照度下で30秒間の漂白露光を行い、図4に示す多層複屈折パターンBP―1を作製した。
【0185】
BP−1のうち、工程中一度も露光されなかった領域(領域Nとする)は光学異方性がほぼ無くなっていたのに対し、マスクを介して露光された領域は一軸の光学異方性を有していた。マスクMB1、MG1、MR1のそれぞれに対応する領域を領域B1、領域G1、領域R1とする。それぞれの領域の正面レターデーションおよび遅相軸方向をファイバ型分光計を用いた平行ニコル法により測定した。結果を表3に示す。
【0186】
表3
────────────―――――――――――─―─
領域 レターデーション/nm 遅相軸方向/°
───────────────────―──――――
領域B1 138.3 0.2
領域G1 141.5 44.5
領域R1 137.9 90.8
──────────────────────―――─
【0187】
表1と表3の比較から、以下のことが言える。マスクMB1を介して青色光で露光された領域B1の部分は、BPM−1の作製に用いられたTRB−1、TRG−1、TRR−1のうち青色光に中心感光波長を有するTRB−1の光学異方性層のみが露光に反応して硬化され、その結果としてベーク後もTRB−1の光学異方性層のみが光学異方性を残したため0°方向に遅相軸を有する。同様にして緑色光で露光された領域G1の部分はTRG−1の光学異方性層のみが、赤色光で露光された領域R1の部分はTRR−1の光学異方性層のみがそれぞれ露光に反応して硬化され、その結果として領域G1の部分は45°方向に、領域R1の部分は90°方向に遅相軸を有する。すなわち、青色光露光によりTRB−1由来の光学異方性層に、緑色光露光によりTRG−1由来の光学異方性層に、赤色光露光によりTRR−1由来の光学異方性層に、それぞれ独立のパターンの作製が可能である。本実施例のようにその各々の光学異方性層の遅相軸の向きを変えることにより、互いに異なる遅相軸と異なるパターンを有する光学異方性層を積層した多層複屈折パターンを容易に得ることができる。
【0188】
(実施例2:感光波長違い型多層複屈折パターン作製材料、及びそれを用いた位相差違い多層複屈折パターンを有する物品の作製)
【0189】
(赤色感光複屈折パターン作製用転写材料TRR−2の作製)
光学異方性層の厚みを4.0μmにした以外はTRR−1と同様にして、赤色感光複屈折パターン作製用転写材料TRR−2を作製した。
【0190】
(緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−2の作製)
光学異方性層の厚みを3.2μmにした以外はTRG−1と同様にして、緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−2を作製した。
【0191】
(位相差測定用サンプルの作製)
無アルカリガラスを純水に浸漬した状態で超音波洗浄機にかけ、5分間超音波洗浄した。このガラスを基板予備加熱装置で105℃15秒間予備加熱した。
【0192】
青色感光複屈折パターン作製用転写材料TRB−1の保護フィルムを剥離後、ラミネータ((株)日立インダストリイズ製(商品名:LamicII型))を用い、前記105℃で15秒間加熱したガラスに、ゴムローラー温度130℃、線圧100N/cm、搬送速度1.4m/分でラミネートした。この際、TRB−1中の光学異方性層の遅相軸が概ね0°方向となるようにラミネートした。ラミネート後、仮支持体を剥離して位相差測定用サンプルTRB−1Rとした。同様にして、TRG−2およびTRR−2に対応した位相差測定用サンプルTRG−2R、TRR−2Rを作製した。作製した位相差測定用サンプルの正面レターデーションを表4に示す。
【0193】
表4
────────────――――――――――――――
測定用サンプル 正面レターデーション/nm
──────────────────――――――――
TRB−1R 138.7
TRG−2R 277.6
TRR−2R 362.1
──────────────────――――――――
【0194】
(多層複屈折パターン作製材料BPM−2の作製)
無アルカリガラスを純水に浸漬した状態で超音波洗浄機にかけ、5分間超音波洗浄した。このガラスを基板予備加熱装置で105℃15秒間予備加熱した。
【0195】
前記青色感光複屈折パターン作製用転写材料TRB−1の保護フィルムを剥離後、ラミネータ((株)日立インダストリイズ製(商品名:LamicII型))を用い、前記105℃で15秒間加熱した基板に、ゴムローラー温度130℃、線圧100N/cm、搬送速度1.4m/分でラミネートした。この際、TRB−1中の光学異方性層の遅相軸が概ね0°方向となるようにラミネートした。
ラミネート後、仮支持体を剥離した後の基板に再度同様の手法で緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−2をラミネートした。この際、TRG−2中の光学異方性層の遅相軸が概ね0°方向となるようにラミネートした。
【0196】
2度目のラミネート後、仮支持体を剥離した後の基板にさらに同様の手法で複屈折パターン作製用転写材料TRR−2をラミネートした。この際も、TRR−2中の光学異方性層の遅相軸が概ね0°方向となるようにラミネートした。ラミネート後、仮支持体を剥離して実施例2の複数層の光学異方性層を積層した本発明の多層複屈折パターン作製材料BPM−2を作製した。
【0197】
(逐次露光による三色複屈折パターンBP―2の作製)
BPM−2に対して、露光中心波長とフォトマスクを変えつつ3回のマスク露光を行った。用いたマスクの番号と露光中心波長および露光量を表5に、用いたマスクの図を図5に示す。光源としてはキセノンランプを用い、所望の露光中心波長に応じたバンドパスフィルターを併用した。
【0198】
表5
────────────―――――――――――――――――――
マスク番号 露光中心波長/nm 露光量/mJ/cm
──────────────────――――――――――――─
マスクMB2 470 10
マスクMG2 530 10
マスクMR2 660 10
──────────────────――――――――――――─
【0199】
露光後の基板に対して200℃のクリーンオーブンで1時間のベークを行い、最後に白色蛍光灯を用いて38000luxの照度下で30秒間の漂白露光を行い図6に示す多層複屈折パターンBP―2を作製した。マスクMB2、MG2、MR2のそれぞれに対応するサンプルの領域B2、G2、R2における正面レターデーションを測定した結果を表6に示す。
【0200】
表6
────────────――――――――─
領域 レターデーション/nm
─────────────────────
領域B2 141.5
領域G2 279.6
領域R2 364.9
――――─────────────────
【0201】
表4と表6を比較することにより、以下のことが分かる。すなわち、領域B2、G2、R2のそれぞれは、その領域を露光した際に用いた波長に対応した感光波長を持つ、順にTRB−1、TRG−2、TRR−2由来の光学異方性層に対応したレターデーションを示す。すなわち、本実施例のようにその各々の光学異方性層のレターデーションを変えることにより、互いに異なるレターデーションと異なるパターンを有する光学異方性層を積層した多層複屈折パターンを容易に得ることができる。
【0202】
(実施例3:感光波長切り分け型多層複屈折パターン作製材料、及びそれを用いた二種変化複屈折パターンを有する物品の作製)
【0203】
(本発明の二層複屈折パターン作製材料BPM―3の作製)
アルミ蒸着ガラスを純水に浸漬した状態で超音波洗浄機にかけ、5分間超音波洗浄した。このガラスを基板予備加熱装置で105℃15秒間予備加熱した。
【0204】
前記緑色感光複屈折パターン作製用転写材料TRG−1の保護フィルムを剥離後、ラミネータ((株)日立インダストリイズ製(商品名:LamicII型))を用い、前記105℃で15秒間加熱した基板に、ローラー温度130℃、線圧100N/cm、搬送速度1.4m/分でラミネートした。この際、TRG−1中の光学異方性層の遅相軸が0°方向となるようにラミネートした。
ラミネート後、仮支持体を剥離した後の基板に先程と同様の手法で赤色感光複屈折パターン作製用転写材料TRR−1をラミネートした。この際、TRR−1中の光学異方性層の遅相軸がおよそ45°方向になるようにラミネートした。ラミネート後、仮支持体を剥離して本発明の多層複屈折パターン作製材料BPM−3を作製した。
【0205】
(二種変化複屈折パターンBP―3の作製)
BPM−3に対して、露光中心波長とフォトマスクを変えつつ2回のマスク露光を行った。用いたマスクの番号と露光中心波長および露光量を表7に、用いたマスクの図を図7に示す。光源としてはキセノンランプを用い、所望の露光中心波長に応じたバンドパスフィルターを併用した。
【0206】
表7
────────────―――――――――――――――――――
マスク番号 露光中心波長/nm 露光量/mJ/cm
──────────────────――――――――――――─
マスクMG3 530 10
マスクMR3 660 10
──────────────────――――――――――――─
【0207】
露光後の基板に対して200℃のクリーンオーブンで1時間のベークを行い、最後に白色蛍光灯を用いて38000luxの照度下で30秒間の漂白露光を行い本発明の二種変化複屈折パターンBP―3を作製した。BP−3に偏光板を重ねた際に観察されるパターンを図8(a)に示す。この際、偏光板の吸収軸がおよそ45°方向になるように配置した。図中、灰色で示された部分は銀色に見える部分、黒色で示された部分は青紫色に見える部分であり、両者からなるパターンは偏光板下でのみ容易に読み取ることができる。図からも分かるように、この配置の場合にはマスクMG3のパターンに従ったパターンが観察された。
図8(a)の状態から偏光板(のみ)を回転させることにより、BP−1は異なるパターンを顕在化させる。偏光板の吸収軸が概ね90°方向となるように配置した際に観察されるパターンを図8(b)に示す。図からも分かるように、この配置の場合にはマスクMR3のパターンに従ったパターンが観察された。
図8(a)のパターンと図8(b)のパターンは偏光板を回してBP−3との角度を変えることにより、交互に切り替わって観察される。このような切り替えパターンは、45°異なる方向に遅相軸を有するパターニング光学異方性層の積層構造により実現される。このように、本発明の多層複屈折パターン製造方法を用いることにより、偽造防止性および意匠性に優れた二種変化複屈折パターンを容易に作る事が可能となる。
【0208】
(実施例4:吸収方向違い型多層複屈折パターン作製材料、及びそれを用いた軸違い多層複屈折パターンを有する物品の作製)
【0209】
(光学異方性層用塗布液LC−2の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方性層用塗布液LC−2として用いた。LC−1−3は分子の長軸方向に吸収軸を有する二色性光重合開始剤である。
【0210】
──────────────────────────────────―
光学異方性層用塗布液組成(%)
──────────────────────────────────―
棒状液晶(LC−1−1) 32.24
水平配向剤(LC−1−2) 0.03
カチオン系光重合開始剤
(CPI100−P、商品名、サンアプロ株式会社製) 0.33
ラジカル系二色性光重合開始剤(LC−1−3) 0.67
重合制御剤
(IRGANOX1076、商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
0.07
メチルエチルケトン 66.66
──────────────────────────────────―
【0211】
【化30】

【0212】
(転写接着層用塗布液AD−1の調製)
下記の組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、転写接着層用塗布液AD−1として用いた。
【0213】
──────────────────────────────────―
転写接着層用塗布液組成(質量%)
──────────────────────────────────―
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/メタクリル酸メチル
=35.9/22.4/41.7モル比のランダム共重合物
(質量平均分子量3.8万) 8.05
アクリレート系多官能モノマー
(KAYARAD DPHA、商品名、日本化薬(株)製) 4.83
ラジカル光重合開始剤(2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−[4−(N,N−ジエトキシカルボニルメチル)−3−ブロモフェニル]−s−トリアジン)
0.12
ハイドロキノンモノメチルエーテル 0.002
フッ素系界面活性剤
(メガファックF−176PF、商品名、大日本インキ化学工業(株)製)
0.05
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 34.80
メチルエチルケトン 50.538
メタノール 1.61
──────────────────────────────────―
【0214】
(二色性複屈折パターン作製用転写材料TRD−1の作製)
厚さ100μmの易接着ポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100、商品名、東洋紡績(株)製)の仮支持体の上に、ワイヤーバーを用いて順に、力学特性制御層用塗布液CU−1、配向層用塗布液AL−1を塗布、乾燥した。乾燥膜厚はそれぞれ14.6μm、1.6μmであった。次いで、ワイヤーバーを用いて光学異方性層用塗布液LC−2を塗布、膜面温度105℃で2分間乾燥して液晶相状態とした後、空気下にて出力160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射してその配向状態を固定化して厚さ1.2μmの光学異方性層を形成した。この際用いた紫外線の照度はUV−A領域(波長320nm〜400nmの積算)において100mW/cm、照射量はUV−A領域において80mJ/cmであった。サンプルの光学異方性層は一軸の正の光学異方性を有する20℃で固体の高分子で、耐MEK(メチルエチルケトン)性を示した。
最後に、光学異方性層の上に転写接着層用塗布液AD−1を塗布、乾燥して1.2μmの転写接着層を形成した後に保護フィルム(厚さ12μmのポリプロピレンフィルム)を圧着し、二色性複屈折パターン作製用転写材料TRD−1を作製した。
【0215】
(多層複屈折パターン作製材料BPM−4の作製)
無アルカリガラスを純水に浸漬した状態で超音波洗浄機にかけ、5分間超音波洗浄した。このガラスを基板予備加熱装置で105℃15秒間予備加熱した。
【0216】
前記二色性複屈折パターン作製用転写材料TRD−1の保護フィルムを剥離後、ラミネータ((株)日立インダストリイズ製(商品名、LamicII型))を用い、前記105℃で15秒間加熱したガラスに、ゴムローラー温度130℃、線圧100N/cm、搬送速度1.4m/分でラミネートした。この際、TRD−1中の光学異方性層の遅相軸が概ね0°方向となるようにラミネートした。
【0217】
ラミネート後、仮支持体を剥離した後の基板に同様の手法で再度二色性複屈折パターン作製用転写材料TRD−1をラミネートした。この際、二度目にラミネートしたTRD−1についてはその中の光学異方性層の遅相軸方向がおよそ90°方向になるようにラミネートした。ラミネート後、仮支持体を剥離して多層複屈折パターン作製材料BPM−4を作製した。
【0218】
(多層複屈折パターンBP―4の作製)
BPM−4に対して、出力160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)とフォトマスクを用いて2回の露光を行った。露光に際してはワイヤグリッド偏光フィルタ(ProFlux PPL02(高透過率タイプ)、商品名、Moxtek社製)を用いて直線偏光とし、かつ1回目と2回目で異なる方向の偏光を用いて露光を行った。また露光は酸素濃度0.3%以下の窒素雰囲気下において行い、露光照度はUV−B領域で20mW/cmとした。用いたマスクの番号と偏光方向および露光量を表8に、用いたマスクの図を図9に示す。
【0219】
表8
────────────―――――――――――――――――――
マスク番号 偏光方向/° 露光量/mJ/cm
──────────────────――――――――――――─
マスクMD1 0 50
マスクMD2 90 50
──────────────────――――――――――――─
【0220】
露光後の基板に対して200℃のクリーンオーブンで1時間のベークを行い、図10に示す多層複屈折パターンBP―4を作製した。
【0221】
BP−4のうち、工程中一度も露光されなかった領域は光学異方性がほぼ無くなっていたのに対し、マスクを介して露光された領域は一軸の光学異方性を有していた。マスクMD1、MD2のそれぞれに対応する領域を領域D1、領域D2とする。それぞれの領域の正面レターデーションおよび遅相軸方向をファイバ型分光計を用いた平行ニコル法により測定した。結果を表9に示す。
【0222】
表9
────────────―――――――――――─―─
領域 レターデーション/nm 遅相軸方向/°
───────────────────―──――――
領域D1 102.5 0.5
領域D2 99.2 89.2
──────────────────────―――─
【0223】
表8と表9の比較から、以下のことが言える。すなわちマスクMD1を介して0°方向の直線偏光で露光された領域D1の部分においては、0°方向に配向した二色性開始剤を有する光学異方性層のみが露光に反応して硬化され、ベーク後には0°方向に遅相軸を持つ光学異方性のみが残った。一方でマスクMD2を介して90°方向の直線偏光で露光された領域D2の部分においては、90°方向に配向した二色性開始剤を有する光学異方性層のみが露光に反応して硬化され、ベーク後には90°方向に遅相軸を持つ光学異方性のみが残った。すなわち、露光時の偏光方向の違いにより、それぞれに対応した方向に遅相軸を持つ光学異方性パターンを独立に描くことができた。
【符号の説明】
【0224】
11 支持体または基板
12F 第一光学異方性層
12S 第二光学異方性層
13A 第一配向層
13B 第二配向層
14A 第一転写接着層
14B 第二転写接着層
16 後粘着層
17 剥離層
35 反射層
112F 第一パターン化光学異方性層
112F―A パターン化第一光学異方性層(第一層第一領域)
112F―B パターン化第一光学異方性層(第一層第二領域)
112F―N パターン化第一光学異方性層(第一層等方性領域)
112S 第二パターン化光学異方性層
112S―A パターン化第二光学異方性層(第二層第一領域)
112S―B パターン化第二光学異方性層(第二層第二領域)
112S―N パターン化第二光学異方性層(第二層等方性領域)
113F 第一光学異方性層(ベタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層有することを特徴とする多層複屈折パターン作製材料。
【請求項2】
前記光学異方性層のうちの少なくとも2層において、その複屈折パターン形成反応条件が異なることを特徴とする請求項1に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項3】
前記複屈折パターン形成反応条件が、分光吸収ピーク波長において異なることを特徴とする請求項2に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項4】
前記複屈折パターン形成反応条件が、光重合開始剤の吸収スペクトルにおいて異なることを特徴とする請求項3に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項5】
前記複屈折パターン形成反応条件が、偏光吸収特性において異なることを特徴とする請求項2に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項6】
前記偏光吸収特性が、二色性光重合開始剤の配向方向が異なることによることを特徴とする請求項5に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項7】
前記光学異方性層が少なくとも2つの反応性基を有する液晶性化合物を含む溶液を塗布乾燥して液晶相を形成した後、熱または電離放射線照射して重合固定化されたものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項8】
前記液晶性化合物が重合条件の異なる2種類以上の反応性基を有する請求項7に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項9】
前記液晶性化合物が少なくともラジカル性の反応性基とカチオン性の反応性基とを有する請求項8に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項10】
前記光学異方性層が重合固定化された後に改質されたものである請求項7〜9のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項11】
前記改質が、光学異方性層の上に別の機能性層を成層する工程に際して機能性層中の添加剤が光学異方性層に拡散する形で行われる請求項10に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項12】
前記光学異方性層が延伸フィルムからなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項13】
光学異方性層を含む転写材料を、被転写材料上に転写することを含む製造方法により作製される請求項1〜12のいずれか1項に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項14】
前記転写材料が、仮支持体の上に少なくとも[A]光学異方性層と[B]転写接着層を、この順で積層したものであることを特徴とする請求項13に記載の多層複屈折パターン作製材料。
【請求項15】
少なくとも次の[1]〜[3]の工程をこの順に含む、多層複屈折パターンを有する物品の製造方法:
[1]反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層有する多層複屈折パターン作製材料を製造する工程;
[2]該多層複屈折パターン作製材料の前記光学異方性層の少なくとも1層に対して、他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの潜像を与えるような露光を行う工程;
[3]前記工程[2]の後に得られる積層体を50℃以上400℃以下でベークする工程。
【請求項16】
少なくとも次の[11]〜[13]の工程をこの順に含む、多層複屈折パターンを有する物品の製造方法:
[11]反応性基を有する高分子化合物を含んでなる、互いに異なる複屈折パターン形成を可能な光学異方性層を少なくとも2層有する多層複屈折パターン作製材料を製造する工程;
[12]該多層複屈折パターン作製材料の前記光学異方性層の少なくとも1層に対して、他の光学異方性層とは独立に任意のパターンの部分加熱を行う工程;
[13]該多層複屈折パターン作製材料に対して、前記光学異方性層中の未反応の反応性基を反応させて光学異方性層の耐久性を高める処理を行う工程。
【請求項17】
前記工程[13]が全面露光によって行われることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記工程[13]が前記工程[12]において被加熱部の光学異方性層が到達する温度よりも低い温度での熱処理によって行われることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記工程[2]もしくは前記工程[12]が各光学異方性層の分光吸収ピーク波長の違いを利用して行われることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記光学異方性層のうちの少なくとも2つ以上が互いに吸収スペクトルの異なる光重合開始剤を有することを特徴とする請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記工程[2]もしくは前記工程[12]が各光学異方性層の偏光吸収特性の違いを利用して行われることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項22】
前記光学異方性層のうちの少なくとも2層が二色性光重合開始剤を有することを特徴とする請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
前記工程[2]もしくは前記工程[12]が各光学異方性層の垂直位置の違いを利用して行われることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項24】
前記工程[2]が焦点距離可変の集光光学系を用いて行われることを特徴とする請求項23に記載の製造方法。
【請求項25】
請求項15〜24のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、偽造防止手段として用いられる物品。
【請求項26】
請求項15〜24のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−243850(P2010−243850A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93231(P2009−93231)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】