説明

多層金属めっき基材の製造方法および金属めっき基材

【課題】従来に比較して、第2の無電解金属めっき層を安定して成膜することができ、製造コストの増加を抑制可能な多層金属めっき基材の製造方法を提供する。
【解決手段】基材の少なくとも一方表面に、第1の無電解金属めっき層、第2の無電解金属めっき層がこの順に積層されている多層金属めっき基材を製造するにあたり、基材表面に触媒を有するリード基材を、第2の無電解金属めっき浴に先に浸漬させた後、引き続き、基材表面に第1の無電解金属めっき層が積層された本体基材を、第2の無電解金属めっき浴に浸漬させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層金属めっき基材の製造方法および金属めっき基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属めっき層が多数積層された多層金属めっき基材が、各種用途に適用されている。例えば、電気・電子機器の分野では、樹脂フィルムの表面に無電解金属めっき層、電解金属めっき層を順に積層した多層金属めっき基材が、フレキシブルプリント回路基板の回路形成用基材として使用されている。
【0003】
従来、多層金属めっき基材の製造方法としては、無電解金属めっき層を2回に分けて製造する以下の方法が公知である。
【0004】
すなわち、例えば、特許文献1には、ポリイミド樹脂フィルムの両面に、第1の無電解ニッケルめっき層を薄い状態で形成した後、これを乾燥させ、その後、第1の無電解ニッケルめっき層の表面に、第2の無電解ニッケルめっき層を形成する方法が開示されている。
【0005】
また例えば、特許文献2には、ポリイミド樹脂フィルムの両面に、第1の無電解ニッケルめっき層を薄い状態で形成し、その状態で、第1の無電解ニッケルめっき層の表面に触媒を付与するとともにフィルムを乾燥させて水分を除去し、その後、第1の無電解ニッケルめっき層の表面に第2の無電解ニッケルめっき層を形成する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−154895号公報
【特許文献2】特開2006−165476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の多層金属めっき基材の製造方法は、以下の点で改良の余地があった。
【0008】
すなわち、特許文献1の技術では、第1の無電解金属めっき層の表面に金属酸化物や金属水酸化物等が生成することによって、めっき層の表面活性が低下することがある。
【0009】
そのため、第1の無電解金属めっき層が形成されたフィルムを第2の無電解金属めっき浴中に浸漬しても、通常よりめっき析出反応が遅延したり、場合によっては、めっき析出反応が始まらなかったりすることがある。
【0010】
それ故、膜厚がばらつくなど、第2の無電解金属めっき層を安定して成膜することが難しかった。
【0011】
加えて、析出速度に問題がない場合であっても、初期反応性を上げるため、第2の無電解金属めっき浴を更新せざるを得ず、これが製造コストの増加を招いていた。
【0012】
また、連続生産の場合には、還元剤が酸化されて生成した酸化体が蓄積することにより、第2の無電解金属めっき浴が老化し、初期反応性が低下しやすくなる。他にも、第2の無電解金属めっき浴を長期間放置した後の使い初めでも、同様に初期反応性が低下しやすくなる。そのため、これらの場合には、上記問題が顕著に発生しやすくなっていた。
【0013】
この特許文献1の技術に対して、特許文献2の技術では、第2の無電解金属めっき層を形成する前に、第1の無電解金属めっき層の表面に触媒を付与している。
【0014】
そのため、第1の無電解金属めっき層の表面活性が高まり、高い初期反応性を確保することができると考えられる。
【0015】
しかしながら、無電解金属めっき層の表面と触媒との結合力はそれほど高くない。それ故、第2の無電解金属めっき浴中へ浸漬する際に触媒が脱落しやすく、酸化体の蓄積が促進され、第2の無電解金属めっき層を比較的安定して成膜することができない場合があった。
【0016】
さらに、第1の無電解金属めっき層の全面に高価な触媒を付与する必要があるため、製造コストも上昇しやすいといった問題があった。
【0017】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、従来に比較して、第2の無電解金属めっき層を安定して成膜することができ、製造コストの増加を抑制可能な多層金属めっき基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明に係る多層金属めっき基材の製造方法は、基材の少なくとも一方表面に、第1の無電解金属めっき層、第2の無電解金属めっき層がこの順に積層されている多層金属めっき基材の製造方法であって、基材表面に触媒を有するリード基材を、第2の無電解金属めっき浴に先に浸漬させた後、基材表面に第1の無電解金属めっき層が積層された本体基材を、第2の無電解金属めっき浴に浸漬させることにより、第1の無電解金属めっき層の表面に第2の無電解金属めっき層を積層させる工程を有することを要旨とする。
【0019】
ここで、上記リード基材と上記本体基材とは連続していることが好ましい。より好ましくは、上記リード基材の基材と上記本体基材の基材とが連続した同一基材であると良い。
【0020】
また、本発明に係る多層金属めっき基材の製造方法では、長尺基材と、上記長尺基材の一端縁から長手方向に一定距離にわたって、上記長尺基材の表面に触媒が付与されたリード基材部と、上記リード基材部の端縁から上記長尺基材の他端縁にわたって、上記長尺基材の表面に第1の無電解金属めっき層が形成された本体基材部とを有する金属めっき基材を用い、この金属めっき基材を、そのリード基材部側から順に第2の無電解金属めっき浴に浸漬させることによって、上述した工程を行うことが好ましい。
【0021】
また、上記リード基材の浸漬時間は、第2の無電解金属めっきが初期析出するまでの誘導期間以上であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る多層金属めっき基材の製造方法では、上記工程を複数回繰り返し行うことが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る多層金属めっき基材の製造方法は、上記第2の無電解金属めっき層の表面に、電解金属めっき層を積層する工程を有していても良い。
【0024】
一方、本発明に係る金属めっき基材は、長尺基材と、上記長尺基材の一端縁から長手方向に一定距離にわたって、上記長尺基材の表面に触媒が付与されたリード基材部と、上記リード基材部の端縁から上記長尺基材の他端縁にわたって、上記長尺基材の表面に無電解金属めっき層が形成された本体基材部とを有することを要旨とする。
【0025】
ここで、本発明に係る金属めっき基材は、ロール状に巻回されており、巻き出し部側に上記リード基材部が存在していることが好ましい。
【0026】
また、上記触媒は、貴金属触媒であることが好ましい。
【0027】
また、上記無電解金属めっき層は、無電解ニッケルめっき層であることが好ましい。
【0028】
また、上記無電解金属めっき層の厚みは、0.01〜0.1μmの範囲内にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る多層金属めっき基材の製造方法では、基材表面に触媒を有するリード基材を、第2の無電解金属めっき浴に先に浸漬させた後、基材表面に第1の無電解金属めっき層が積層された本体基材を、第2の無電解金属めっき浴に浸漬させる。
【0030】
そのため、本体基材の浸漬当初から安定して第2の無電解金属めっき層を成膜することができる。
【0031】
これは、先に浸漬させたリード基材の触媒活性により、第2の無電解金属めっき浴の初期反応性が確保され、この活性化されためっき浴(電子が浴中に存在する状態)中に引き続き本体基材を浸漬させることで、第1の無電解金属めっき層の表面状態やめっき浴の老化度合い等に関わらず、第1の無電解金属めっき表面に、本体基材の浸漬当初から第2の無電解金属めっきを安定して析出させることが可能になったためであると考えられる。
【0032】
また、第2の金属めっき浴の更新頻度を低下させることができることから、多層金属めっき基材の製造コストの上昇を抑制することが可能になる。さらに、初期反応性を確保するのに、高価な触媒の量が従来より少なくて済むことから、この点からも多層金属めっき基材の製造コストの上昇を抑制することが可能になる。
【0033】
ここで、上記リード基材と上記本体基材とが連続している場合には、リード基材の浸漬と本体基材の浸漬とを連続的に行うことが可能になる。そのため、リード基材の浸漬により確保された初期反応性を維持したまま、本体基材を浸漬しやすくなる。また、連続生産性にも優れる。
【0034】
この際、上記リード基材の基材と上記本体基材の基材とが、連続した同一基材である場合には、リード基材と本体基材とをわざわざ繋げる必要がない。そのため、上記作用効果を発揮しやすくなる。
【0035】
また、上述した構成を有する金属めっき基材のリード基材部側から順に第2の金属めっき浴に浸漬させて上記工程を行った場合には、製造コストの増加を抑制しつつ、第2の無電解金属めっきを安定して連続的に成膜することができる。
【0036】
また、上記リード基材の浸漬時間が、第2の無電解金属めっきが初期析出するまでの誘導期間以上である場合には、初期反応性が確実に確保された状態の第2の無電解金属めっき浴中に本体基材が浸漬される。そのため、第2の無電解金属めっきを一層安定して成膜することが可能になる。
【0037】
また、上記工程を複数回繰り返し行った場合には、めっき浴更新頻度の低下効果が累積していくため、製造コストの低減効果をより大きくすることができる。
【0038】
また、さらに、第2の無電解金属めっき層の表面に電解金属めっき層を積層する工程を有している場合には、回路形成用基材として好適な、金属めっき層の膜厚が比較的均一で信頼性の高い多層金属めっき基材を安価に製造することができる。
【0039】
本発明に係る金属めっき基材は、上述した構成を有しているため、第2の無電解金属めっき浴に先にリード基材部側から浸漬させた後、引き続き本体基材部側を浸漬させやすい。そのため、上記多層金属めっき基材の製造方法に好適に用いることができる。
【0040】
この際、上記金属めっき基材がロール状に巻回されており、巻き出し部側にリード基材部が存在する場合には、基材の巻き出しによりリード基材部側がすぐに表れる。そのため、第2の金属めっき浴中にリード基材部をすぐに浸漬しやすく、ロールtoロールなどによる、多層金属めっき基材の連続生産を行いやすくなる。
【0041】
また、上記触媒が、触媒活性の高い貴金属触媒である場合には、第2の無電解金属めっき浴の初期反応性を確保しやすい金属めっき基材にすることができる。
【0042】
また、無電解金属めっき層が無電解ニッケルめっき層である場合には、ポリイミド樹脂などの樹脂基材に対する密着性が比較的高く、また、回路形成用のめっき層材料として多用される銅の拡散抑制効果が大きくなる。
【0043】
また、上記金属めっき層の厚みが0.01〜0.1μmの範囲内にある場合には、乾燥工程を挟んで2段階で無電解金属めっきを行うときに、1段階目のめっき時に基材が吸収した水分の蒸発効率と、2段階目のめっき時における基材の水分吸収の防止効率とのバランスに優れた金属めっき基材にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本実施形態に係る多層金属めっき基材の製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)、本実施形態に係る金属めっき基材について詳細に説明する。
【0045】
本製造方法は、基材表面に金属めっき層が多層に積層された多層金属めっき基材を製造する方法である。
【0046】
多層金属めっき基材は、基材と、基材表面に沿って積層された第1の無電解金属めっき層と、第1の無電解金属めっき層の表面に沿って積層された第2の無電解金属めっき層とを有している。
【0047】
図1は、本製造方法を用いて製造される多層金属めっき基材の断面構造の一例を示した図である。
【0048】
図1に示すように、多層金属めっき基材10は、基材12の両側表面に、それぞれ、第1の無電解金属めっき層14、第2の無電解金属めっき層16がこの順に積層されていても良いし、基材12の何れか一方の片側表面に、第1の無電解金属めっき層14、第2の無電解金属めっき層16がこの順に積層されていても良い。多層金属めっき基材10のめっき形成面は、その用途などを考慮して適宜設定することができる。
【0049】
図2は、本製造方法を用いて製造される多層金属めっき基材の断面構造の他の一例を示した図である。
【0050】
図2に示すように、多層金属めっき基材10は、第2の無電解金属めっき層16の表面に沿って金属めっき層18が形成されていても良い。この金属めっき層18は、単層から形成されていても良いし、複数層から形成されていても良い。金属めっき層18の種類は、電解金属めっき層、無電解金属めっき層の何れであっても良い。好ましくは、下層である第2の無電解金属めっき層16により導電化されており、金属めっき層18を比較的短時間で所望の膜厚まで形成しやすいなどの観点から、電解金属めっき層であると良い。
【0051】
多層金属めっき基材を構成する基材は、金属めっき層を形成するベースとなるものである。上記基材の形状としては、具体的には、例えば、フィルム、シート、板などの平面形状を好適な形状として例示することができる。
【0052】
上記基材の材質は、各種の有機材料であっても良いし、ガラス、セラミックなどの無機材料であっても良い。また、これらを複合した複合材料であっても良い。
【0053】
上記基材の材質としては、可撓性を付与できるなどの観点から、有機材料を好適に用いることができる。
【0054】
上記有機材料としては、具体的には、例えば、ポリイミド樹脂、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、フッ素樹脂、アラミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂などの高分子を例示することができる。これら高分子は、単独で用いても良いし、2種以上混合されていても良い。また、上記基材は、これら高分子を1種または2種以上積層することにより構成されていても良い。
【0055】
これら高分子としては、耐熱性に優れるなどの観点から、ポリイミド樹脂、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、フッ素樹脂、アラミド樹脂などが好ましい。
【0056】
上記基材の厚みは、基材の材質などによっても異なるが、基本的には、可撓性、強度などを考慮して選択すれば良い。
【0057】
上記基材の材質が有機材料である場合、基材厚みは、可撓性、強度などの観点から、好ましくは、5〜100μm、より好ましくは、10〜50μmの範囲内にあると良い。
【0058】
また、第1および第2の無電解金属めっき層を構成する金属としては、具体的には、例えば、ニッケル(リン含有ニッケルなども含む、以下省略)、銅、コバルトなどの金属、これらの合金などを例示することができる。好ましくは、比較的安価である、導通性が良い、浴安定性に優れる、エッチング液によりエッチングされやすいなどの観点から、ニッケル、銅、これらの合金などを好適に用いることができる。
【0059】
より好ましくは、ポリイミド樹脂などの樹脂基材に対する密着性が比較的高く、また、回路形成用のめっき層材料としてよく使用される銅の拡散抑制効果が大きいなどの観点から、ニッケル、ニッケル合金を好適に用いることができる。
【0060】
具体的には、第1の無電解金属めっき層の膜厚は、乾燥時に水分が効率的に除去できるなどの観点から、好ましくは、0.01〜0.1μm、より好ましくは、0.03〜0.06μmの範囲内にあると良い。
【0061】
一方、第2の無電解金属めっき層の膜厚は、電解めっき層形成時の導通性などの観点から、好ましくは、0.05〜1μm、より好ましくは、0.1〜0.5μmの範囲内にあると良い。
【0062】
電解金属めっき層を構成する金属としては、具体的には、例えば、銅、ニッケルなどの金属、これらの合金などを例示することができる。好ましくは、比較的安価である、導通性が良い、浴安定性に優れる、エッチング液によりエッチングされやすいなどの観点から、銅、ニッケル、これらの合金などを好適に用いることができる。
【0063】
電解金属めっき層の膜厚は、好ましくは、0.1〜100μm、より好ましくは、1〜20μmの範囲内にあると良い。なお、電解金属めっき層を複数層とする場合、各層の膜厚は、それぞれ異なっていても良いし、同じであっても良い。多層金属めっき基材を回路形成用基材として用いる場合、例えば、回路形状、回路形成時のエッチング性などを考慮して適宜決定することができる。
【0064】
ここで、本製造方法は、上述した積層構造を有する多層金属めっき基材を製造するにあたり、第1の無電解金属めっき層の表面に、第2の無電解金属めっき層を積層させる工程を伴うことになる。
【0065】
本製造方法は、この工程に最大の特徴を有している。すなわち、本工程では、基材表面に触媒を有するリード基材を第2の無電解金属めっき浴に先に浸漬させた後、引き続き、基材表面に第1の無電解金属めっき層が積層された本体基材を、第2の無電解金属めっき浴に浸漬させる。これにより、第1の無電解金属めっき層の表面に第2の無電解金属めっき層を積層させる。
【0066】
本工程によれば、触媒活性なリード基材が先に第2の無電解金属めっき浴に浸漬されることで、めっき析出反応が開始され、引き続き第1の無電解金属めっき層が浴中に浸漬されることで、連続して活性が維持され、第2の無電解金属めっき層を安定して成膜することができる。
【0067】
なお、第2の無電解金属めっき浴とは、触媒上での酸化還元反応により第2の無電解金属めっきを生成させるために調製されためっき浴のことであり、積層される第2の無電解金属めっき層を構成する金属の種類等に応じて、適宜最適な組成に調製される。
【0068】
例えば、第2の無電解金属めっき層として、無電解ニッケルめっき層を積層させる場合には、硫酸ニッケル等のニッケル塩、次亜リン酸ナトリウム等の還元剤、酢酸等の錯化剤などを主成分とするめっき浴などを適用すれば良い。
【0069】
リード基材は、基材の両表面に触媒を有していても良いし、基材の何れか一方面に触媒を有していても良い。
【0070】
リード基材の基材の材質は、触媒を担持できれば、何れの材質のものでも適用することができる。具体的には、例えば、上述した各種有機材料、無機材料、これらの組み合わせなどを用いることができる。
【0071】
リード基材の基材厚みは、基材材質によっても異なるが、基材材質が有機材料である場合には、リード基材の基材厚みは、可撓性、強度などの観点から、好ましくは、5〜100μm、より好ましくは、10〜50μmの範囲内にあると良い。
【0072】
このようなリード基材は、基本的には、基材表面に無電解金属めっき層を積層するための各種処理のうち、無電解金属めっき処理の手前の処理まで行えば、準備することができる。
【0073】
具体的に説明すると、先ず、ポリイミド樹脂フィルム等の基材表面を表面処理する。この表面処理は、通常、アルカリ溶液を用いて行うことができる。アルカリ溶液としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、エチルアミンなどの塩基性物質などを1種または2種以上、水、アルコールなどの適当な溶媒に溶解した溶液等を例示することができる。
【0074】
また、上記表面処理の前に、基材表面を紫外線処理、プラズマ処理、コロナ処理などにより表面改質しても良い。このような表面改質を施すと、上記表面処理を効率的かつ均一に行うことができ、また、上記表面処理を軽度(低アルカリ濃度、低処理温度、短処理時間)にすることができる利点があるからである。
【0075】
次いで、上記表面処理後の基材表面に触媒材料を付与した後、還元剤を用いて還元処理する。これにより、上記リード基材を製造することができる。
【0076】
この際、触媒としては、特に限定されるものではなく、パラジウム触媒、白金触媒等の貴金属触媒などを好適に用いることができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。好ましくは、触媒活性が高い、浴安定性などの観点から、パラジウム触媒が好ましい。
【0077】
また、上記還元剤としては、具体的には、例えば、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボランなどを用いることができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
【0078】
上記リード基材は、実際に製品として必要な部分ではなく、第2の無電解金属めっき層の形成前に、主に、第2の無電解金属めっき浴の初期反応性を向上させるためのものである。
【0079】
通常、無電解金属めっきでは、いったん初期析出が始まれば、析出金属の自己触媒作用により析出反応が連続的に進行する。そのため、リード基材は、用いる触媒の種類、リード基材の浸漬時間等にもよるが、初期反応性を確保できるだけの長さがあれば良い。
【0080】
リード基材の長さの上限は、製品歩留まりの向上、生産時間の短縮、製造コストの抑制等の観点から、好ましくは、10m以下、より好ましくは、5m以下、さらに好ましくは、2m以下であると良い。一方、リード基材の長さの下限は、十分な初期反応性を確保する等の観点から、好ましくは、0.5m以上、より好ましくは、0.7m以上、さらに好ましくは、1m以上であると良い。
【0081】
上記リード基材を第2の無電解金属めっき浴中に浸漬する浸漬時間は、第2の無電解金属めっきが初期析出するまでの誘導期間以上であることが好ましい。初期反応性が確実に確保された状態の第2の無電解金属めっき浴中に本体基材が浸漬されるため、第2の無電解金属めっきを一層安定して成膜することができるからである。
【0082】
なお、上記誘導期間は、第2の無電解金属めっき反応の副反応によって生じる水素などの反応生成物が確認されるまでの時間を測定したり、触媒を付与したリード基材サンプルを、第2の無電解金属めっき浴中に浸漬し、一定時間毎に取り出して金属析出の有無を確認し、第2の無電解金属めっき層が形成されるまでの時間を測定するなどして予め求めることができる。
【0083】
上記リード基材を第2の無電解金属めっき浴中に浸漬する浸漬時間は、具体的には、好ましくは、0.5〜10分、より好ましくは、1〜7分、さらに好ましくは、3〜5分であると良い。
【0084】
また、上記リード基材を第2の無電解金属めっき浴中に浸漬する際の温度は、十分な初期反応性、析出速度を確保するなどの観点から、好ましくは、30〜70℃、より好ましくは、35〜60℃、さらに好ましくは、40〜50℃であると良い。
【0085】
一方、上記リード基材の浸漬後に浸漬される本体基材は、基材の両表面に第1の無電解金属めっき層を有していても良いし、基材の何れか一方面に第1の金属めっき層を有していても良い。なお、本体基材は、上述した多層金属めっき基材を構成する部分であるので、本体基材の基材材質、第1の金属めっき層の材質、膜厚などについては、上述した通りである。
【0086】
このような本体基材は、基本的には、基材表面に第1の無電解金属めっき層を積層すれば、準備することができる。
【0087】
具体的に説明すると、上述したリード基材の準備と同様の手順により、ポリイミド樹脂フィルム等の基材表面を表面処理(必要に応じて表面処理の前に表面改質)した後、基材表面に触媒材料を付与し、還元剤を用いて還元処理する。
【0088】
次いで、還元処理した基材を第1の無電解金属めっき浴中に浸漬し、基材表面に第1の無電解金属めっき層を析出させれば良い。この際、第1の無電解金属めっき時のめっき条件は、例えば、第1の無電解金属めっき層の膜厚が上記好適な範囲となるように、めっき金属の種類などを考慮して適宜設定すれば良い。
【0089】
なお、第1の無電解金属めっき浴とは、触媒上での酸化還元反応により第1の無電解金属めっきを生成させるために調製されためっき浴のことであり、積層される第1の無電解金属めっき層を構成する金属の種類に応じて、適宜最適な組成に調製される。
【0090】
例えば、第1の無電解金属めっき層として、無電解ニッケルめっき層を積層させる場合には、硫酸ニッケル等のニッケル塩、次亜リン酸ナトリウム等の還元剤、酢酸等の錯化剤などを主成分とするめっき浴などを適用すれば良い。
【0091】
得られた本体基材は、第1の無電解めっき層を積層した後、必要に応じて、乾燥させても良い。乾燥を行った場合には、めっき時に本体基材の基材に吸収された水分を蒸発させることができる。
【0092】
上記本体基材を第2の無電解金属めっき浴中に浸漬する浸漬時間は、第2の無電解金属めっき層の膜厚が、上記好適な範囲となるように、めっき金属の種類などを考慮して適宜設定すれば良い。
【0093】
また、上記本体基材を第2の無電解金属めっき浴中に浸漬する際の温度は、十分な初期反応性、析出速度を確保するなどの観点から、好ましくは、30〜70℃、より好ましくは、35〜60℃、さらに好ましくは、40〜50℃であると良い。
【0094】
なお、第2の無電解金属めっき浴中に上記リード基材、本体基材を浸漬させる方法は特に限定されるものではなく、これら基材をそのまま沈めて浸漬させても良いし、基材を搬送しながら浴中を通過させても良い。連続生産などの観点から、好ましくは、基材を搬送しながら浴中を通過させる方法が好ましい。
【0095】
また、上記浸漬は、一つの第2の無電解金属めっき浴に対して、複数回繰り返し返し行うことが好ましい。めっき浴更新頻度の低下効果が累積していくため、製造コストの低減効果をより大きくすることができるからである。
【0096】
ここで、上記リード基材と上記本体基材とは、連続していることが好ましい。両基材が連続している場合には、リード基材の浸漬と本体基材の浸漬とを連続的に行うことができるため、リード基材の浸漬により確保された初期反応性を維持したまま、本体基材を浸漬しやすくなり、また、連続生産性にも優れるからである。
【0097】
リード基材と本体基材とを連続させるためには、接着剤などの適当な結合材を用いて両者を繋げたり、リード基材の基材と本体基材の基材とを熱融着させたりすれば良い。もっとも、リード基材と本体基材とをわざわざ繋げる必要がなくなることから、好ましくは、上記リード基材の基材と上記本体基材の基材とは、連続した同一基材からなっていると良い。
【0098】
本製造方法では、上記工程を行うにあたり、特定の構造を有する金属めっき材を好適に用いることができる。図3は、本実施形態に係る金属めっき基材の概略構成を示した図である。
【0099】
図3に示すように、金属めっき基材20は、長尺基材22と、リード基材部24と、本体基材部26とを有している。
【0100】
金属めっき基材の大部分は、上述した本製造方法により製造される多層金属めっき基材の一部を構成している。したがって、金属めっき基材を構成する長尺基材としては、上述した多層金属めっき基材に用いられる基材が適用されることになる。
【0101】
図3に示すように、リード基材部24は、長尺基材22の一端縁から長手方向に一定距離にわたって、長尺基材22の表面に触媒24aが付与された部分である。ここでは、長尺基材22の両面にリード基材部24が形成されている場合を例示しているが、リード基材部24は、長尺基材22の何れか一方面だけに形成されていても良い。なお、リード基材部24の各構成については、上述したリード基材の説明が基本的に当てはまる。
【0102】
リード基材部24の長手方向の長さは、本製造方法におけるリード基材の浸漬時間などを考慮して最適な長さに決定することができる。
【0103】
例えば、金属めっき基材20を搬送しながら第2の無電解金属めっき浴に順に浸漬する場合、搬送速度が0.1〜4m/分程度であれば、リード基材部24の長さは、十分な初期反応性の確保や、製造コスト抑制などの観点から、0.5〜10m、好ましくは、0.7〜5m、より好ましくは、1〜2m程度とすると良い。
【0104】
一方、図3に示すように、本体基材部26は、リード基材部24の端縁から長尺基材22の他端縁にわたって、長尺基材22の表面に無電解金属めっき層26a(多層金属めっき基材10となった際に第1の無電解金属めっき層14となる層)が形成された部分である。ここでは、長尺基材22の両面に本体基材部26が形成されている場合を例示しているが、本体基材部26は、長尺基材22の何れか一方面だけに形成されていても良い。なお、本体基材部26の各構成については、上述した本体基材の説明が基本的に当てはまる。また、本体基材部26の長手方向の長さは、上述した本製造方法において製造される多層金属めっき基材10に必要な長さに合わせて適宜最適な長さに調節することができる。
【0105】
図3に示す構成の金属めっき基材20を、例えば、搬送しながら、そのリード基材部24側から順に第2の無電解金属めっき浴中に浸漬させると、上述した本製造方法の工程、すなわち、基材表面に触媒を有するリード基材を、第2の無電解金属めっき浴に先に浸漬させた後に、基材表面に第1の無電解金属めっき層が積層された本体基材を第2の無電解金属めっき浴に浸漬させるといった工程を、比較的簡便に、かつ、連続的に行うことができる。
【0106】
ここで、図3に例示する金属めっき基材20は、図4に例示するように、巻き出し部側にリード基材部24が存在するように、ロール状に巻回されたロール体20Rとされていると良い。この場合には、金属めっき基材20の巻き出しによりリード基材部24側がすぐに表れる。そのため、図5に例示するように、第2の金属めっき浴28中にリード基材部24をすぐに浸漬しやすく、ロールtoロールなどによる、多層金属めっき基材10の連続生産を行いやすくなる利点がある。
【0107】
上述した構成の金属めっき基材20は、例えば、以下の方法により好適に製造することができる。図6は、長尺基材の表面に無電解金属めっきを連続的に形成する工程を示した図である。
【0108】
図6中、ロール体30は、金属めっき基材20の形成に用いる長尺基材22を供給するためのものである。S1は、上述したアルカリ処理等の表面処理を行うための表面処理槽である。S2は、表面処理後の基材表面に触媒材料を付与するための触媒付与槽である。S3は、還元剤を用いて触媒材料を還元処理し、金属触媒を生成されるための還元処理槽である。S4は、無電解金属めっきを行うための無電解金属めっき浴である。
【0109】
ロール体30から長尺基材22を巻き出し、これを搬送しながら、順に、表面処理槽S1→触媒付与槽S2→還元処理槽S3→無電解金属めっき浴S4を最適な条件で通過させる。そうすると、無電解金属めっき浴S4を通過した後には、長尺基材22の表面に無電解金属めっき層26aが形成され、本体基材部26となる。
【0110】
ここで、供給する長尺基材22の終端から長手方向にわたる所定長さ部分については、最後の無電解金属めっき浴S4を通過させず、上記S1〜S3までの通過に留める。
【0111】
そうすると、供給した長尺基材22の終端から長手方向にわたって所定長さ部分については、無電解金属めっき層26aが形成されず、触媒24aだけが付与され、リード基材部24が形成される。
【0112】
そして、得られた長尺基材22を順に巻き取れば、巻き出し部側にリード基材部24が存在するようにロール状に巻回された金属めっき基材20Rを得ることができる。
【0113】
上述した多層金属めっき基材の製造方法は、上述した工程の後、さらに、第2の無電解金属めっき層の表面に、電解金属めっき層を積層する工程を有していても良い。この場合には、回路形成用基材として好適な、金属めっき層の膜厚が比較的均一で信頼性の高い多層金属めっき基材を安価に製造することができる。
【0114】
電解金属めっき層は、上述した電解金属めっき層を構成する金属のイオンを含んだ電解めっき浴を用いて電解金属めっきを行うことにより形成することができる。この際、電解金属めっきは、分割して行っても良い。
【0115】
電解めっき浴としては、例えば、電解金属めっき層として電解銅めっき層を形成する場合、ピロリン酸銅めっき浴、硫酸銅めっき浴などを例示することができる。
【0116】
なお、電解めっき浴の温度、基材の浸漬時間など、電解めっき条件は、用いるめっき液の組成、形成したい電解金属めっき層の厚さなどを考慮して適宜決定すれば良い。
【実施例】
【0117】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0118】
1.多層金属めっき基材および単層金属めっき基材の作製
(実施例1)
初めに、500m巻きのポリイミド樹脂フィルム(東レ・デュポン社製「カプトン 100EN」、幅250mm、厚み25μm)を、巻き取り式紫外線表面改質装置(センエンジニアリング社製)にセットした。その後、このポリイミド樹脂フィルムを巻き出し、フィルム両面に紫外線を照射することにより、フィルム両面を親水化した。この際、紫外線の照射条件は、紫外線主波長184.9nm、253.7nm、紫外線照度20mW/cm、出力200W、照射時間60秒とした。
【0119】
次いで、親水処理したポリイミド樹脂フィルムを巻き取り式めっき装置にセットし、そのフィルム両面を、50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液にて25℃で30秒間処理することにより、アルカリ処理した。
【0120】
次いで、アルカリ処理したポリイミド樹脂フィルムの両面を、パラジウム触媒液(奥野製薬工業(株)製、「OPC−50インデューサー」)にて40℃で5分間処理することにより、触媒処理した。
【0121】
次いで、触媒処理したポリイミド樹脂フィルムの両面を、還元剤(奥野製薬工業(株)製、「OPC−150クリスター」)にて25℃で5分間処理することにより、還元処理した。
【0122】
次いで、上記還元処理したポリイミドフィルムの両面を、無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業(株)製、「TMP−化学ニッケル」)にて40℃で1分間処理することにより、無電解ニッケルめっき処理した。
【0123】
この際、フィルムの巻き出しから495mの範囲について無電解ニッケルめっき処理を行い、残りの5mの範囲については、無電解ニッケルめっき処理を行わず、還元処理が終了した状態のままロール状に巻き取った。その後、乾燥オーブンにて150℃で3時間乾燥を行うことにより、フィルム中に含まれる水分を除去した。
【0124】
これにより、500mのポリイミド樹脂フィルムの一端縁から長手方向に5mの範囲にわたってフィルム両面に金属パラジウムが析出したリード基材部と、このリード基材部の端縁からポリイミド樹脂フィルムの他端縁までの495mの範囲にわたってフィルム両面に無電解ニッケルめっき層(厚み0.05μm)が形成された本体基材部とを有し、巻き出し部側にリード基材部が存在するロール状の実施例1に係る単層金属めっき基材を作製した。
【0125】
次に、巻き取り式めっき処理装置に、実施例1に係る単層金属めっき基材のリード基材部を巻き出し部としてセットした。その後、この単層金属めっき基材を巻き出し、リード基材部から順に無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業(株)製、「TMP−化学ニッケル」)に浸漬させ、40℃で6分間処理することにより、無電解ニッケルめっき処理した。
【0126】
これにより、1段目の無電解ニッケルめっき層(厚み0.05μm)の両表面に、2段目の無電解ニッケルめっき層(0.25μm)を形成した。
【0127】
次いで、2段目の無電解ニッケルめっき層の両面を、ピロリン酸銅めっき浴(ピロリン酸銅94g/L、ピロリン酸カリウム340g/L)にて、55℃、電流密度0.5A/dmで1分間処理することにより、電解銅めっき処理した。これにより、2段目の無電解ニッケルめっき層の両表面に電解銅めっき層(0.2μm)を形成した。
【0128】
次いで、上記電解銅めっき層の両面を、硫酸銅めっき浴(硫酸200g/L、硫酸銅70g/L、光沢剤<奥野製薬工業(株)製、「トップルチナLS」>10ml/L)にて、25℃、電流密度1A/dmで20分間処理することにより、電解銅めっき処理した。これにより、1段目の電解銅めっき層の両表面に2段目の電解銅めっき層(5μm)を形成した。その後、これをロール状に巻き取った。
【0129】
以上により、ポリイミド樹脂フィルムの両面に、第1の無電解ニッケルめっき層、第2の無電解ニッケルめっき層、第1の電解銅めっき層、第2の電解銅めっき層がそれぞれこの順に積層された、実施例1に係る回路形成用の多層金属めっき基材を作製した。
【0130】
また、各めっき浴の更新を行うことなく、上記工程を連続して5回繰り返し行った。なお、この処理の間は、めっき析出に伴う、各処理液中の不足成分(アルカリ濃度、Pd触媒濃度、還元剤濃度、無電解ニッケルめっき浴中のニッケル濃度、次亜リン酸濃度、ピロリン酸銅および硫酸銅めっき浴中の銅濃度)は随時添加し、一定濃度を保つように管理を行った。
【0131】
(比較例1)
実施例1において、5mの無電解ニッケルめっき未処理部(リード基材部)を作製せず、500m全て無電解ニッケルめっき処理を行った以外は同様にして、比較例1に係る単層金属めっき基材を作製した。また、この単層金属めっき基材を用いた以外は同様にして、比較例1に係る回路形成用の多層金属めっき基材を作製した。
【0132】
(比較例2)
実施例1において、5mの無電解ニッケルめっき未処理部(リード基材部)を作製せず、500m全て無電解ニッケルめっき処理を行った点以外は同様にして、比較例2に係る単層金属めっき基材を作製した。
【0133】
また、この単層金属めっき基材を、塩化パラジウムの塩酸溶液(奥野製薬工業(株)製、「TMPアクチベーター」)に25℃で10秒間浸漬した後、還元剤に浸漬することにより、1段目の無電解ニッケルめっき層の表面に金属パラジウムを置換析出させ、その後に、2段目の無電解ニッケルめっき層を形成した以外は同様にして、比較例2に係る多層金属めっき基材を作製した。
【0134】
2.評価
2.1 初期反応性
1、2、3、4、5回目の各回における各多層金属めっき基材の作製において、2段目の無電解ニッケルめっきが初期析出するまでの誘導期間(秒)を測定した。
【0135】
2.2 無電解ニッケルめっきの成膜性
1、2、3、4、5回目の各回に得られた各多層金属めっき基材について、無電解ニッケルめっき層の総膜厚を測定し、その変動幅を調べた。
【0136】
2.3 熱負荷後の接着力
1、2、3、4、5回目の各回に得られた各多層金属めっき基材から、5cm×5cmの試料を切り出し、各試料の片面の金属めっき層(無電解ニッケルめっき層および電解銅めっき層)を塩化銅エッチングにより除去した。その後、これら各試料を150℃で168時間オーブン加熱して熱負荷を加え、熱負荷後の各試料から、1cm×5cmの各帯状試料を切り出した。
【0137】
次いで、各帯状試料を用い、JIS C5016に準拠して、引張試験機(引張速度50mm/分)にて多層金属めっき層を剥離して、180°ピール強度を測定した。
【0138】
2.4 無電解ニッケルめっき浴の老化度合い
1、2、3、4、5回目の各回における各多層金属めっき基材の作製時に、2段目の無電解ニッケルめっき浴中の亜リン酸蓄積量を測定し、浴の老化度合いを調べた。
【0139】
以上の結果をまとめて表1に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
表1を相対比較すると、次のことが分かる。
【0142】
すなわち、比較例1は、2段目の無電解ニッケルめっき析出反応が比較的遅く、場合によっては、析出反応が始まらないことがあり、初期反応性が悪いことが分かる。そのため、2段目の無電解ニッケル層の膜厚がばらつき、連続的に、2段目の無電解ニッケル層を安定して成膜できないことがことが分かる。
【0143】
また、2段目の無電解ニッケルめっき浴中の亜リン酸蓄積量が60g/Lでも浴が使用不可となり、初期反応性を上げるために浴を更新せざるを得ないことが分かる。そのため、製造コストが上昇しやすいと言える。
【0144】
比較例2では、2段目の無電解ニッケルめっき処理の前に、1段目の無電解ニッケルめっき層の表面に触媒を付与している。そのため、初期反応性が高く、亜リン酸の蓄積により浴が老化しても、比較的安定して、2段目の無電解ニッケルめっき層を成膜できている。
【0145】
しかしながら、亜リン酸の蓄積促進が見られ、1500m作製時点(3回目)で、2段目の無電解ニッケルめっき層の膜厚が低下し、接着性の低下も発生した。これは、1段目の無電解ニッケルめっき層の表面全体に付与した触媒が、浴中に脱落したことが原因であると推察される。
【0146】
また、比較例2は、1段目の無電解ニッケルめっき層の表面全体に高価な触媒を付与しているため、製造コストが上昇しやすいと言える。
【0147】
これらに対し、実施例1では、2500m作製後(5回目)、亜リン酸蓄積量が増加しているにも関わらず、初期反応性が確保されており、2段目の無電解ニッケルめっき層を安定して成膜可能であることが分かる。
【0148】
これは、以下の理由によるものと考えられる。無電解ニッケルめっき浴は、硫酸ニッケル等のニッケル塩、次亜リン酸ナトリウム等の還元剤、酢酸等の錯化剤を主成分としている。無電解ニッケルめっきの析出反応は、次亜リン酸がPd等の触媒上で酸化されるときに放出する電子により、ニッケルイオンが還元され金属化される反応である。無電解ニッケルめっき浴に亜リン酸が蓄積し、老化している場合等では、この酸化還元反応が起きにくい状態になっている。特に、ニッケルの次亜リン酸に対する触媒活性は低い。
【0149】
しかし、実施例1では、金属めっき基材を流し始める最初の段階に、リード基材部の触媒活性の高いパラジウムにより浴が活性化され(電子が浴中に存在する状態にされ)、この後に、連続して金属めっき基材の本体基材部が浴に浸漬されることで、本体基材部の浸漬当初から初期のめっき析出反応を開始することができ、所定の膜厚を安定して確保できたものと考えられる。
【0150】
また、実施例1によれば、浴の更新頻度を大幅に低減させることが可能になり、それにより製造コストの上昇を抑制することができることが分かる。また、長期の連続生産後も高い接着力を維持可能であった。
【0151】
以上、本発明について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本実施形態に係る多層金属めっき基材の製造方法を用いて製造される多層金属めっき基材の断面構造の一例を示した図である。
【図2】本実施形態に係る多層金属めっき基材の製造方法を用いて製造される多層金属めっき基材の断面構造の他の一例を示した図である。
【図3】本実施形態に係る金属めっき基材の概略構成を示した図である。
【図4】ロール状に巻回された金属めっき基材を模式的に示した図である。
【図5】巻き出した金属めっき基材をリード基材部側から第2の金属めっき浴中に浸漬させている様子を模式的に示した図である。
【図6】長尺基材の表面に無電解金属めっきを連続的に形成する工程を示した図である。
【符号の説明】
【0153】
10 多層金属めっき基材
12 基材
14 第1の無電解金属めっき層
16 第2の無電解金属めっき層
18 金属めっき層
20 金属めっき基材
20R ロール体(金属めっき基材)
22 長尺基材
24 リード基材部
24a 触媒
26 本体基材部
26a 無電解金属めっき層
28 第2の金属めっき浴
30 ロール体
S1 表面処理槽
S2 触媒付与槽
S3 還元処理槽
S4 無電解金属めっき浴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方表面に、第1の無電解金属めっき層、第2の無電解金属めっき層がこの順に積層されている多層金属めっき基材の製造方法であって、
基材表面に触媒を有するリード基材を、第2の無電解金属めっき浴に先に浸漬させた後、
基材表面に第1の無電解金属めっき層が積層された本体基材を、第2の無電解金属めっき浴に浸漬させることにより、
第1の無電解金属めっき層の表面に第2の無電解金属めっき層を積層させる工程を有することを特徴とする多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項2】
前記リード基材と前記本体基材とは、連続していることを特徴とする請求項1に記載の多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項3】
前記リード基材の基材と前記本体基材の基材とは、連続した同一基材であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項4】
長尺基材と、
前記長尺基材の一端縁から長手方向に一定距離にわたって、前記長尺基材の表面に触媒が付与されたリード基材部と、
前記リード基材部の端縁から前記長尺基材の他端縁にわたって、前記長尺基材の表面に第1の無電解金属めっき層が形成された本体基材部とを有する金属めっき基材を用い、
この金属めっき基材を、そのリード基材部側から順に第2の無電解金属めっき浴に浸漬させることにより、前記工程を行うことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項5】
前記リード基材の浸漬時間は、第2の無電解金属めっきが初期析出するまでの誘導期間以上であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項6】
前記工程を複数回繰り返し行うことを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項7】
前記第2の無電解金属めっき層の表面に、電解金属めっき層を積層する工程を有することを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の多層金属めっき基材の製造方法。
【請求項8】
長尺基材と、
前記長尺基材の一端縁から長手方向に一定距離にわたって、前記長尺基材の表面に触媒が付与されたリード基材部と、
前記リード基材部の端縁から前記長尺基材の他端縁にわたって、前記長尺基材の表面に無電解金属めっき層が形成された本体基材部とを有することを特徴とする金属めっき基材。
【請求項9】
ロール状に巻回されており、巻き出し部側に前記リード基材部が存在することを特徴とする請求項8に記載の金属めっき基材。
【請求項10】
前記触媒は、貴金属触媒であることを特徴とする請求項8または9に記載の金属めっき基材。
【請求項11】
前記無電解金属めっき層は、無電解ニッケルめっき層であることを特徴とする請求項8から10の何れかに記載の金属めっき基材。
【請求項12】
前記無電解金属めっき層の厚みは、0.01〜0.1μmの範囲内にあることを特徴とする請求項8から11の何れかに記載の金属めっき基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−144194(P2009−144194A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322356(P2007−322356)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】