多帯電イオンのための一次質量選択を行わないタンデム質量分光測定の方法および装置
本発明は、分析すべきイオンの質量-対-電荷比の公知の特徴的な関数を有する質量分析計で使用するためのタンデム質量分光測定方法であって、(a)分析すべき一次イオン供給源を用意する工程、(b)該一次イオンの、該一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに発生させる工程、(c)該一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値から、および該ピークに関連する電荷値から、該一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、特徴的な関数値の可能な全ての多重組が適合する必要がある相関法則を決定する工程、(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを同時に解離させ、該親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得る工程、(e)該解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、(f)該特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、(g)該潜在的な多重組の中から、該相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、(h)それぞれ問題とする親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程を含んでなる、方法を提案する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には質量分光測定の分野に関する。
【0002】
質量分光測定(MS)は、その種類に関係なく、一般的には試料中に存在する分子を、これらの分子をイオン化して加速し、質量分析計の中に注入した後、これらの分子の質量を測定することにより同定する工程を包含するものであることが知られている。
【0003】
質量分析計は、分析する試料中に含まれる様々な分子の質量スペクトルを、発生するイオンの質量-対-電荷比(M/Q、Mは質量であり、Qは電荷である)の値の関数として発生するが、このスペクトルは、イオンの質量-対-電荷比F(M/Q)の関数に対して、イオン検出器により検出されたイオンの電流強度の形態にあり、この関数は、使用する質量スペクトルに特徴的であり、一般的に下記式:
【数1】
を有する(式中、Gは使用する質量分析計のタイプによって異なる関数であり、イオンの質量と電荷の比とは無関係である)。
【0004】
使用される主な質量分析計は、飛行時間型質量分析計、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、3Dイオントラップ、2Dイオントラップ、およびFT−ICR質量分析計(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴分光計用)である。
【0005】
質量分析計のそれぞれに対応する具体的な操作形態、実施態様および特徴的な関数は、当業者には公知である。
【0006】
直線的飛行時間型質量分析計に関して、特徴的な関数は、イオンの飛行時間の二乗、TOF2である。
【数2】
(式中、
Lは、イオンセットのパルス化とそれらの検出との間の直線的飛行時間の距離であり、
V0はイオン加速電圧(tension)である。
【0007】
磁場偏向型質量分析計では、特徴的な関数は、磁気セクター内で印加される、可変磁場の二乗、B2であり、これが、イオンをそれらの質量-対-電荷比(M/Q)に対してフィルターをかけ、イオン検出器に送る。
【数3】
(式中、Rは磁場セクター半径であり、V0はイオン加速電圧である。)
【0008】
四重極型質量分析計では、特徴的な関数は、四重極に印加される可変電圧VQであり、これが、イオンをそれらの質量-対-電荷比(M/Q)に対してフィルターをかけ、イオン検出器に送る。
【数4】
【0009】
イオントラップ分光計では、特徴的な関数は、イオントラップに印加される可変電圧VITであり、イオンをそれらの質量-対-電荷比(M/Q)に対して放出し、イオン検出器に送る。
【数5】
【0010】
FT−ICR分光計では、特徴的な関数は、イオンの各質量-対-電荷M/Q値に対応するサイクロトロン角度周波数ωFTICRであり、そのフーリエ変換解析および測定により、質量スペクトルを発生することができる。
【数6】
(式中、GFTICRは、磁場強度である。)
【0011】
特に、タンデム質量分光測定(MS−MS)は良く知られており、一次質量スペクトルが分析しているイオンを同定できない場合に使用される。この測定は、第一質量分析計により、分析する試料中に存在するイオン化された分子の一次質量スペクトル(MS)を発生させ、一次質量を選択する工程を行い、次いで該選択された一次質量の一次イオンを解裂させ、即ち解離装置により解離させ、第二質量分析計により、該一次イオンの解離から来る帯電フラグメントの解離質量スペクトルとして説明される質量スペクトルを発生させる。
【0012】
一般的に各解離質量スペクトルを実現するために行われる一次質量選択は、質量スペクトルが次々に発生するために、タンデム質量分析計の取得デビット(acquisition debit)を制限する。
【0013】
これは、タンデム質量分析計の感度も制限し、この感度は、各質量解離スペクトルを発生するために消費される試料の量として定義され、残りの、イオン供給源から与えられた、選択されなかったイオンは、実際には、選択された一次イオンの質量スペクトルを発生させるために排除される。
【0014】
一次イオン解離は、高い運動エネルギー(約0.8〜20KeV)または低い運動エネルギー(約10〜200eV)で行われる。
【0015】
低運動エネルギー解離は、既存のすべての質量分析計で使用できるのに対し、高運動エネルギー解離は、一般的にタンデム磁場セクター質量分析計またはタンデム飛行時間型質量分析計で使用される。
【0016】
低運動エネルギー解離の場合、解離した帯電フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比m/qにのみ依存し、親の一次イオンの質量-対-電荷比M/Qには依存しない。
【0017】
高運動エネルギー解離の場合、解離した帯電フラグメントの特徴的な関数F'(M/Q)は、一般的に帯電フラグメントの質量-対-電荷比M/Qおよび親の一次イオンの質量-対-電荷比M/Qに依存する。その結果、同等の質量分析計に対して、解離していない一次イオンの特徴的な関数は、帯電フラグメントの特徴的な関数とは異なる。
【0018】
さらに、帯電フラグメントの特徴的な関数は、一般的に下記式では表せない。
【数7】
【0019】
飛行時間型質量分光測定の特別な場合、上に記載した一次質量選択を行うタンデム飛行時間型質量分析計に加えて、一次質量選択を行わないタンデム飛行時間型質量分析計も良く知られている。
【0020】
これらの質量分析計は、幾つかの解離質量スペクトルを同時に発生させるのに使用できる。
【0021】
一次質量選択を行わない飛行時間型質量分光測定の方法(外国特許文献1、外国特許文献2、外国特許文献3、外国特許文献4)も良く知られており、これらの方法は、異なった解離スペクトルを発生するのに幾つかの取得を必要とするが、一次質量選択を使用する装置と比較して、連続的な取得の数は低い。
【0022】
特に、一回の取得で、一次質量選択を行わずに、幾つかの解離質量スペクトルを発生するのに使用されるタンデム飛行時間型質量分光測定方法が公知である(外国特許文献5)。これは、飛行時間を測定位置に変換することに基づく、一次質量選択を行わない飛行時間型質量分光測定の方法である。この方法は、同時に到達できる一次質量の範囲を制限する。
【0023】
外国特許文献1〜5に記載の方法は、高運動エネルギーにおける一次イオン解離とのみ相容性がある。
【0024】
単一帯電一次イオンの解離は簡単であり、一般的に中性フラグメントおよび単一帯電フラグメントを含んでなる対の形成に限られるのに対し、多帯電一次イオンの解離は、複雑な場合があり、幾つかの潜在的解離チャネルにつながる(外国特許文献6)。解離チャネルの二つの主要な群は、帯電フラグメントの多重組(multiplet)(例えば帯電フラグメントの対および三重組)への、および帯電フラグメントおよび中性フラグメントを含んでなるフラグメントの多重組への解裂(fragmentation)である。
【0025】
MおよびQが、それぞれ親の一次イオンの質量および電荷を表し、miおよびqiが、それぞれの解離フラグメントi(ここでi=1,2または3)の質量および電荷を表す場合、フラグメント対への主要解離チャネルは、
(a)M(Q)→m1(q1)+m2(q2)、
(式中、m1+m2=Mおよびq1+q2=Qである)
(b)M(Q)→m1(q1=Q)+m2(q2=0)、
(式中、m1+m2=Mである)
であるのに対し、フラグメント三重組への主要解離チャネルは、
(c)M(Q)→m1(q1)+m2(q2)+m3(q3)、
(式中、m1+m2+m3=Mおよびq1+q2+q3=Qである)
(d)M(Q)→m1(q1)+m2(q2)+m3(q3=0)、
(式中、m1+m2+m3=Mおよびq1+q2=Qである)
(e)M(Q)→m1(q1=Q)+m2(q2=0)+m3(q3=0)、
(式中、m1+m2+m3=Mである)
である(外国特許文献6)。
【0026】
その上、親一次イオンは、解離の際に(例えばガスの一次イオンと分子との間の「誘発された衝突解離(CID)の際に」)失うか、または電子を捕獲する(例えば「電子捕獲解離(ECD)」の際に)ことがある。従って、フラグメント電荷の総計は、最早Qと等しくはなく、Q'=Q±e(ここでeは電荷単位である)となる。
【0027】
同時に、および単一取得で、一次質量選択を行わずに、および一次質量の範囲を制限せずに、複数の解離質量スペクトルを発生するために使用でき、その際、多帯電一次イオンの解離を、高および低運動エネルギー解離の両方で行うことができる、タンデム質量分光測定は、現在知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許第4,472,631号(J.D. Pinston et al., Rev. Sci. Instrum. 57(4), (1983).C.G. Enke et al.)
【特許文献2】米国特許第4,894,536号(S. Della-Negra And Y. Leybec, Anal. Chem., 7(11), (1985), p.2035、K.G. Standing et al., Anal. Instrumen., 16, (1987), p.173、R.J. Conzemius)
【特許文献3】米国特許第5,206,508号(Alderdice et al.)
【特許文献4】米国特許第2005/0098721A1号(R.H. Bateman, J.M. Brown, D.J. Kenny)
【特許文献5】特許PCT/US2004/008424号(C.G. Enke)
【特許文献6】米国特許第5,073,713号(R.D. Smith et al.)
【発明の概要】
【0029】
従って、本発明の目的の一つは、多帯電一次イオンの場合に、現状技術水準の上記の欠点を解決することである。
【0030】
特に、本発明の目的の一つは、一次質量選択を行わない、公知の質量分析計と相容性があり、多帯電一次イオンに対して、単一取得で、分析する試料中に存在する複数の異なった一次質量に対して解離スペクトルを同時に発生させることができ、親の一次イオンが低または高運動エネルギーで解離する、質量分光測定方法を提案することである。
【0031】
このために、本発明は、第一態様により、分析すべきイオンの質量-対-電荷比の公知の特徴的な関数を有する質量分析計で使用するためのタンデム質量分光測定方法であって、
(a)分析すべき一次イオン供給源を用意する工程、
(b)前記一次イオンの、一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに発生させる工程、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値、およびそのピークに関連する電荷値から、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、特徴的な関数値の可能な全ての多重組が適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを同時に解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得る工程、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(g)前記潜在的な多重組の中から、該相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、
(h)それぞれ問題とする親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程
を含んでなる、方法を提供する。
【0032】
本方法の、好ましいが、本発明を制限しない幾つかの態様は、下記の通りである。
問題とする一次イオンの解離は、既知の質量を有する中性フラグメントを発生することができ、該相関法則を決定する工程が、そのような質量の潜在的損失を考慮する。
前記相関法則を決定する工程が、解離フラグメントに特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる。
前記相関法則を決定する工程が、解離フラグメントに特徴的な関数値を発生する工程に続いて行われる。
帯電した解離フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に依存し、親一次イオンの質量-対-電荷比には依存しない。
帯電した解離フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に比例する。
相関法則が、計算により決定される。
帯電した解離フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に、および親一次イオンの質量-対-電荷比に依存する。
相関法則が、質量および電荷が既知であるイオンで得た校正データの使用により決定される。
前記相関法則を決定する工程が、下記の準工程、即ち
(d1)質量および電荷が既知であるイオンに対して一次質量スペクトルを発生すること、
(d2)前記スペクトルで一次質量ピークを選択すること、
(d3)選択された一次イオンを解離させ、特定の質量-対-電荷比(M/Q)を求めること、
(d4)選択された一次イオンから来る解離フラグメントの解離質量スペクトルを発生すること、
(d5)解離質量スペクトル中で、帯電フラグメントの多重組への解離が起こることに対応するピークの多重組を確認すること、
(d6)確認された各多重組に属する各ピークの出現の極大に対応する特徴的な関数値(Fmax(M/Q))を決定すること、
(d7)それぞれの可能な電荷多重組に対して、この電荷多重組を満足し、質量-対-電荷比(M/Q)に、一次電荷Qに、および選択された一次質量ピークに対する出現極大における特徴的な関数値(Fmax(M/Q))に対応する特徴的な関数値の確認された多重組との相関法則のそれぞれを決定すること、
(d8)工程(d1)〜(d7)を、既知分子の一次質量スペクトルの各選択された一次質量ピークに対して繰り返すことを包含する。
本方法は、既知分子で得た相関法則に基づき、未知分子の一次質量ピークの相関法則を決定する工程をさらに含んでなる。
決定された相関法則は、座標のセットにより規定される。
決定された相関法則は、分析により規定される。
本方法は、一次質量選択により、問題とする異なった一次イオンの群を選択する工程をさらに含んでなる。
問題とする一次イオンを選択する工程は、解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる。
近接基準は調節可能である。
工程(e)〜(g)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、工程(e)で決定した特徴的な関数値は、該累積出現により形成されるピークの極大における関数値である。
工程(e)〜(g)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、工程(h)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う。
前記特徴的な関数の値は、関連する飛行時間である。
解離したイオンは、連続する周期的なイオンパルス中に含まれ、パルス発生期間は、測定すべき解離した帯電フラグメントの最長飛行時間より短く、工程(d)および(e)は、連続するパルス間のオーバーラップで行われ、工程(c)は、先行するイオンパルス中に含まれる問題とする親一次イオンの解離により生じた帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に対する相関法則を決定することを包含する。
【0033】
第二の態様により、本発明は、下記の組み合わせ、
(a)分析すべき多帯電一次イオンの供給源(1)、
(b)前記一次イオンの、一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに、発生する装置(3)、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値および前記ピークに関連する電荷値、から決定された一組の相関法則であって、この相関法則は、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得るように設計された解離装置(2)、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生し、保存する装置、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成し、前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定し、それぞれ問題とする該親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生するための処理装置、
を含んでなる、タンデム質量分析計を提供する。
【0034】
このタンデム質量分析計の、好ましいが、本発明を限定しないいくつかの態様は、下記の通りである。
分光計が、問題とする異なった一次イオンの群を選択するための一次質量選択装置をさらに含んでなる。
前記一次質量選択装置が、イオントラップを含んでなる。
前記一次質量選択装置が、四重極を含んでなる。
前記一次質量選択装置が、一時的ゲートを含んでなる。
前記解離装置が、多極導波管である。
前記分光計が、飛行時間型質量分析計を含んでなる。
前記解離装置が、イオン束を飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の前に配置される。
解離装置が、イオン束を飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の後に配置される。
前記イオン加速器が、直角注入装置を含んでなる。
前記分光計が、レフレクトロンをさらに含んでなる。
前記多帯電イオン供給源(1)が、エレクトロスプレーイオン化イオン供給源である。
【0035】
第三の態様により、本発明は、イオンの質量-対-電荷比の既知の特徴的な関数を有する質量分析計を含んでなる質量分光測定装置で実行するように設計されたコンピュータプログラムであって、
(a)前記装置を、分析すべき多帯電一次イオンの供給源から、解離を行わずに、前記一次イオンの一次質量スペクトルを発生させ、その際、該スペクトルが、一次イオン出現のピークを含むように制御する工程、
(b)このスペクトルの、一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値を含むデータを、前記ピークに関連する電荷値から取得する工程、
(c)前記データから、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンの同時解離が起きるように前記装置を制御し、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を入手し、該解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(e)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(f)前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、および
(g)それぞれ問題とする前記親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程
を行うように設計された、一連の指示を包含する、プログラムを提供する。
【0036】
このコンピュータプログラムの、本発明を限定しない好ましいいくつかの態様は、下記の通りである。
工程(e)〜(f)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、工程(d)で決定された特徴的な関数値が、前記累積出現により形成されたピークの極大にある特徴的な関数値である。
工程(e)〜(f)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、工程(g)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う。
【0037】
本発明の他の態様、目的および利点は、本発明を限定しない例として、以下に添付の図面を参照しながら記載する本発明の説明を参照することにより、明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の分光測定の好ましい実施方法に関するフローチャートである。
【図2】本発明の一例による質量分光測定方法を実施するために設計された装置の構成部品を例示する。
【図3】確認すべき分子の、3個の一次質量ピークを含んでなる一次質量スペクトルを例示する。
【図4】一次質量選択を行わずに得た、図3の3個の一次質量ピークに対応する3個の解離スペクトルの解離質量ピークを含んでなる質量解離スペクトルを例示するが、その際、帯電フラグメントの、各解離質量ピーク出現の極大における特徴的な関数値の幾つかが示されている。
【図5】図4の質量解離スペクトルの3個の解離スペクトルを例示する。
【図6】二次元的スペクトルの平面内で、図3の3個の一次質量ピークの相関法則に対応する、帯電フラグメントの対に解離する多帯電一次イオンの特徴的な線の3例を例示する。
【図7】二次元的スペクトルの平面を例示するが、そこでは、図3の一次質量ピークの、一次質量選択を行わずに帯電フラグメントの対に解離する二重帯電イオンに対応する3本の特徴的な線を、図4の解離ピーク出現の極大における特徴的な関数値の潜在的な真の対の位置と共に示す。
【図8】本発明の一実施態様によるタンデム質量分析計を例示する。
【図9】図9AおよびBは、本発明の校正方法を、高運動エネルギー解離を実施するタンデム飛行時間型質量分析計に適用する際の、既知の分子に対する一次質量スペクトル、およびこれらの一次質量ピークの一つによりイオンを選択した後に発生した解離スペクトルの一例を示す。
【図10】本発明の校正方法を、高運動エネルギー解離を使用するタンデム飛行時間型質量分析計に適用する際の、選択された質量-対-電荷比を有する二重に帯電した既知の一次イオンの相関線を、二次元的スペクトルの平面内で、例示する。
【図11】本発明の方法をタンデム飛行時間型質量分析計に適用する際の、通常周波数fより高い周波数f'におけるイオン束をパルス化する場合の、低運動エネルギーで同様の質量-対-電荷比で解離する二重に帯電した一次イオンから来る解離フラグメントの対を確認する、4つの異なった例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
第一に、「多帯電したイオン」とは、正または負の電荷を有し、電荷の絶対値が2以上であり、解離した時、絶対値が1以上である正または負の電荷を有する帯電フラグメントの多重組を発生することができるイオンを意味する。
【0040】
特に図1に関して、本発明の方法は、好ましくは多帯電した一次イオンを、帯電フラグメントの対を含んでなるフラグメントの多重組、帯電フラグメントの三重組、または帯電フラグメントの対と質量が既知である中性フラグメントから構成されたフラグメントの三重組に解離させることを目的とする。しかし、より一般的には、本発明を、帯電フラグメントの対および帯電フラグメントの対と質量が既知である中性フラグメントを含んでなるフラグメントの三重組に加えて、少なくとも3個のフラグメントを含んでなる帯電フラグメントの多重組および少なくとも3個の帯電フラグメントと質量が既知である中性フラグメントを有する帯電フラグメントの多重組を含んでなるフラグメントの多重組を発生する、あらゆる解離チャネルで実行することが可能である。
【0041】
この実施方法では、分析すべきイオンに対する質量-対-電荷比の既知の特徴的な関数を有するどのような質量分析計で行っても、第一工程は、確認または研究すべき分子から得られる多帯電イオンに対する一次質量スペクトルを供給することを含んでなる。
【0042】
この一次質量スペクトルは、データベース、例えばその一次質量スペクトルが予め中に保存されている第三者のデータベース、から読み取ることにより、得ることができる。
【0043】
この一次質量スペクトルは、図1に例示する工程(a)および(b)を実行することによっても得ることができる。
【0044】
工程(a)で、確認すべき分子を、多帯電イオンの供給源1中でイオン化し、実質的に一定の電場で加速し、一次イオン供給源を与える。
【0045】
次いで、工程(b)で、一次イオンを質量分析計3の中に注入し、解離を行わずに、該一次イオンの一次質量スペクトルを発生させ、該スペクトルは、特徴的な関数値の測定に続いて得た一次イオンピーク出現を含む。
【0046】
質量分光測定の当業者(限定するものではないが)により従来から使用されている提示グラフでは、一次質量スペクトルは、一般的に、特徴的な関数値が横軸に、対応する出現が縦軸にある2つの直交する軸で示される。
【0047】
ついで、工程(c)で、この一次質量スペクトルを使用し、各一次質量ピークに対して、一次質量ピークの出現の極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)、一次質量-対-電荷比M/Qおよびイオンの一次電荷Qを決定する。
【0048】
当業者は、使用する質量分析計の通常の一次校正を、既知の分子で、予め行うことにより、各一次質量ピークに対応する一次イオンの各一次質量-対-電荷比M/Qの値を決定することができる。
【0049】
当業者は、質量分光測定で通常使用されている確認技術で、各一次質量ピークに対応する多帯電一次イオンの電荷Qを決定することもできる。
【0050】
図3は、一次イオンの、質量-対-電荷比M1/Q1、M2/Q2およびM3/Q3および一次質量ピークのそれぞれに対する出現の極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)をそれぞれ有する3個の一次質量ピークを含む一次質量スペクトルの例を示す。
【0051】
ピークに関連する特徴的な関数値および電荷値から、一次質量ピークに関連する一次イオンの解離から来そうな帯電フラグメントの多重組に対応する特徴的な関数値の全ての可能な多重組を与える相関法則が決定される。
【0052】
フラグメントの対に解離する多帯電一次イオンに対して、本発明の方法を実行することにより、ただ一つの解離チャネルを検出することができ、それは、一次イオンの、帯電フラグメント対への解離である。
【0053】
一次質量Mと、帯電フラグメントの可能な質量対mi、mjとの間の関係は、
M=mi+mj
である。
【0054】
一次電荷Qと、帯電フラグメントの可能な電荷対qi’、qj’との間の関係は
Q=qi’+qj’
である。
【0055】
一次質量ピークあたりの相関法則の数は、解離した帯電フラグメント対の間に、一次イオンの一次電荷Qが分布する可能性の数に等しい。
【0056】
例えば、Q1=2eに対して、帯電フラグメントの対、即ち
qi’=e、qj’=e
の間に電荷が分布する可能性はただ一つである。
【0057】
Q2=3eでは、帯電フラグメントの対間に電荷が分布する二つの可能性、即ち
qi’=e、qj’=2e、および
qi’=2e、qj’=e
があり、従って、二つの対応する相関法則がある。
【0058】
Q3=4eでは、帯電フラグメントの対間に電荷が分布する三つの可能性、即ち
qi’=e、qj’=3e、
qi’=3e、qj’=e、および
qi’=2e、qj’=2e
があり、従って、三つの対応する相関法則がある。以下、同様である。
【0059】
低運動エネルギー解離(上記参照)の場合、解離帯電フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に依存するが、親一次イオンの質量-対-電荷比には依存せず、解離フラグメントの質量-対-電荷比に比例する。
【0060】
従って、同じ質量-対-電荷比M/Qを有し、帯電フラグメントの対に解離する一次イオンに関連する一次質量ピークのそれぞれの電荷qi’、qj’の各対に対応するそれぞれの相関法則は、常に、解析的に、下記式:
【数8】
ここで、下記式
【数9】
により表される。
【0061】
従って、一次質量スペクトルの一次質量ピークに対応する各相関法則は、本発明の方法により、一次電荷値および一次質量ピーク出現の極大における特徴的な関数値に基づいて決定することができる、即ち
一次電荷Qの決定により、可能な電荷qi’、qj’の各多重組を決定することができ、
出現の極大における特徴的な関数値の決定により、式(2)を使用し、各相関法則の各F(M/Qi’)値を決定することができる。
【0062】
フラグメントの三重組に解離する多帯電一次イオンでは、本発明の方法を実行することにより、二つの解離チャネルを検出することができ、これは、一次イオンの、帯電フラグメントの三重組への解離、または帯電フラグメントの対および既知質量を有する中性フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの三重組への解離である。
【0063】
中性フラグメントをさらに含んでなるフラグメントの三重組から来る帯電フラグメントの解離対を形成する解離チャネルに関して、対応する相関法則は、中性フラグメントの質量が既知である場合にのみ決定することができる。
【0064】
一次質量Mと、帯電フラグメント(mi、mj)の可能な質量三重組(mi、mj、ΔM)と、中性フラグメント(ΔM)の間の関係は、
M=mi+mj+ΔM
である。
【0065】
一次電荷Qと、帯電フラグメントの可能な電荷対(qi’、qj’)との間の関係は、
Q=qi’+qj’
である。
【0066】
その場合、中性フラグメントの各可能な質量に対する一次質量ピークあたりの相関法則数は、同じ一次電荷Qに対して、帯電フラグメント対への可能な解離チャネルの数と等しい。
【0067】
この解離チャネルを通して発生する中性フラグメントの様々な可能な質量のほとんどは、実際には当業者に公知である。例えば、確認すべき分子がペプチドである場合、中性フラグメントは、通常、H2O、COまたはNH3分子である。他の可能な分子は、特にデータベースから決定することができるか、または当業者には公知である。
【0068】
従って、ΔMが、中性フラグメントの可能な既知の質量として示される場合、帯電フラグメントと、各可能な値ΔMに対応する既知の質量を有する中性フラグメントとの対を含んでなるフラグメントの三重組への解離チャネルの相関法則は、質量Mおよび電荷Qを有する一次イオンに対する帯電フラグメント対への解離チャネルに関して、(M-ΔM)をMに置き換えることにより得た、前の相関法則(1)および(2)により、決定される。
【数10】
ここで、
【数11】
【0069】
質量Mおよび一次電荷Qを有し、それぞれの質量-対-電荷比{(mi/qi')、(mj/qj')、(mk/qk')}の帯電フラグメントの三重組に解離する多帯電イオンの場合、一次質量Mと帯電フラグメントの可能な質量三重組、mi、mj、mkの間の関係は、
mi+mj+mk=M
である。
【0070】
一次電荷Qと帯電フラグメントの可能な電荷三重組(qi'、qj'、qk')の間の関係は、
qi'+qj'+qk'=Q
である。
【0071】
帯電フラグメント対への解離の場合と同様に、中性フラグメントの各可能な質量に対する一次質量ピークあたりの相関法則数は、同じ一次電荷Qに対して、帯電フラグメント三重組への可能な解離チャネルの数と等しい。
【0072】
電荷Q=3eを有する多帯電親一次イオンの例では、三重組の解離帯電フラグメント間にただ一つの可能な電荷配分、即ち
qi'=qj'=qk'=e
その結果、ただ一つの相関法則があることが分かっている。
【0073】
無論、この推論は、4e以上の一次電荷を有する、帯電フラグメントの全ての多重組に適用できる。
【0074】
低運動エネルギー解離の場合、3個の解離帯電フラグメントqi'、qj'、qk'のそれぞれの可能な電荷配分に対応する各相関法則は、帯電フラグメントの対の場合と同様に、一次式:
【数12】
ここで
【数13】
により、決定することができる。
【0075】
無論、この推論は、少なくとも3個の帯電フラグメント、または少なくとも3個の帯電フラグメントおよび既知の質量を有する中性フラグメントを含んでなるフラグメントの全ての三重組に適用できる。しかし、これは、当業者が前の例を使用してそのような一般化を行うことができるので、詳細には説明しない。
【0076】
ここで、本発明の方法の実行に戻り、工程(d)で、多帯電一次イオンを、解離装置2により解離させ、多帯電一次イオンのそれぞれに対して帯電フラグメントの多重組を得る。
【0077】
工程(e)では、解離帯電フラグメントを質量分析計3の中に注入し、出現(またはイオン電流強度)に対する特徴的な関数値を、イオン検出器4により検出した解離帯電フラグメントに対して測定する。
【0078】
次いで、この値に基づいて、一次質量選択を行わずに、一次質量スペクトルの親一次イオンの各解離スペクトルの全ての質量解離ピークを含んでなる解離質量スペクトル(MS−MS)を発生させる。
【0079】
従って、一次質量スペクトルの一次質量ピークに対応する幾つかの質量解離スペクトルの質量解離ピークは、一次質量選択を行わずに発生させた質量解離スペクトル中に混合されている。
【0080】
この分野における専門家に対する従来のグラフ表示では、限定はしないが、各解離質量スペクトルを、確認された特徴的な関数値が横軸に、対応する出現が縦軸にある2つの直交する軸で示される。
【0081】
図4は、図3に示す3個の一次質量ピークの帯電フラグメント対への解離チャネルにのみ対応する、解離ピークを含む解離質量スペクトル(MS−MS)を例示する。
【0082】
実際、一次イオンの解離は、
問題とする他の可能な解離チャネルにより発生した、本発明の方法(例えば帯電フラグメントの三重組への解離、および帯電フラグメントの対および既知質量を有する中性フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの三重組への解離)により確認できる帯電フラグメント、および
本発明の方法により確認できない解離ピーク(例えば中性および帯電フラグメントの対への解離に対応する解離ピーク)
をさらに発生することが分かる。
【0083】
従って、解離質量スペクトルは、確認できる解離質量ピークに加えて、他の可能な解離チャネルに対応する確認できない質量解離ピークを、解離していない一次イオンピークの一次質量ピークと共に含む。しかし、確認し得る解離ピーク以外の、問題とする解離ピーク、および解離していない一次質量ピークは、本発明の方法により発生する最終的な解離スペクトルから排除することができる。
【0084】
その場合、質量解離ピークの解離ピークのそれぞれの極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)は、出現に対して発生した特徴的な関数値に基づいて決定される。
【0085】
図4の例に関して、解離スペクトルは、7対の解離ピークに対応する14個の質量解離ピークを含んでなり、各解離ピーク対は、同じ質量-対-電荷比M/Qを有する同等の一次イオンの解離から来る帯電フラグメントの対に関連する。解離帯電フラグメントに対する極大Fmax(M/Q)における14個の特徴的な関数値の中の4個を示す。
【0086】
工程(f)で、測定された、解離帯電フラグメントに対する極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)から、該特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組が形成される。
【0087】
工程(g)で、該値の潜在的な多重組の中から、解離帯電フラグメント(一次質量ピークのそれぞれに対して同じ質量-対-電荷比M/Qを有する同等の一次イオンの解離から来る)の多重組に関連する解離ピークの真の多重組に対応する、特徴的な関数値の真の多重組は、値の潜在的な多重組を、各一次質量ピークの相関法則により決定される値の可能な多重組と比較することにより、確認される。
【0088】
本発明により、この確認工程(g)では、出現の極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)の潜在的な多重組の中から、可能な値の多重組に対する近接基準に適合する多重組を選択し、該多重組は、一次質量スペクトルの各一次質量ピークの相関法則により与えられる。
【0089】
近接基準精度は、一次イオンに対する極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)の精度、この精度は対応する特徴的な法則の精度を決定する、と少なくとも実質的に等しく、潜在的な真の多重組値の精度を決定する解離帯電フラグメントに対する極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)測定の精度に近い精度を決定する。
【0090】
一次イオンの極大Fmax(M/Q)および帯電フラグメントの極大Fmax(M/Q)における特徴的な関数値の精度は、対応する質量ピークの分解能によって異なる。
【0091】
最後に、工程(h)で、親一次イオンのそれぞれに対応し、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる各質量解離スペクトルを発生する。
【0092】
上記のように、本発明の好ましい実行方法により、工程(d)から、分析すべき一次イオンの全てに対して、一次質量選択を行わずに、本方法を実行する。
【0093】
従来から当業者により使用されているグラフによる表示では、各質量解離ピークを、測定された特徴的な関数値が横軸に、対応する出現が縦軸にある、2つの直交する軸で示される。
【0094】
図5は、本発明を制限しない例として、図4の一次質量選択を行わない質量解離スペクトルにより得た、図3の3個の一次質量ピークの3種類の質量解離スペクトルを例示する。
【0095】
上記の工程(g)を説明するために、好ましい実行方法を、低運動エネルギーにおける帯電フラグメント対への解離チャネルの場合で、グラフ表示を通した推論により、説明する。
【0096】
しかし、当業者には明らかなように、これは、他の多くの様式の中で、とりわけ、この工程の原理を例示し、本発明のデジタル処理を行う様式を理解することを目的とする、代表的な一例に過ぎない。
【0097】
本方法の工程(g)は、下記の小工程を含んでなる。
【0098】
先ず、二次元的スペクトルの発生から始めて、帯電フラグメントの対に解離する各一次イオンから得られる特徴的な関数値の各真の対を、全ての測定される特徴的な関数値の潜在的な対の中から確認する。
【0099】
このスペクトルは、検出されたフラグメントの質量解離ピーク出現の極大における特徴的な関数の測定をそれぞれ示す、2つの同等の第一次元を有する。
【0100】
グラフ表示で、2つの次元は、好ましくは互いに直交する2本の軸に対応する。
【0101】
二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}では、各相関法則は、相関線によって表され、平面内におけるその位置および形態は、先行する工程(c)で決定された該相関法則により決定される。
【数14】
ここで
【数15】
帯電フラグメントの対に解離する2eの電荷を有する多帯電イオンに関して、相関法則は、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}における直線により表される。
【0102】
次いで、各飛行時間対{Fmax(M/Qi’)、Fmax(M/Qj’)}の値を有する各相関直線を平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}中に引くことができる。
【0103】
各対{Fmax(M/Qi’)、Fmax(M/Qj’)}は、平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}の2軸のそれぞれの上の2個の位置、即ち下記式:
【数16】
の相関直線の、軸Fmax(mr/qr’)上のFmax(M/Qi’)および軸Fmax(ms/qs’)上のFmax(M/Qj’)により規定される。
【0104】
従って、二次元的スペクトルの、平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある、各相関法則に対応する各相関直線は、それぞれの軸上に位置する2点Fmax(M/Qi’)およびFmax(M/Qj’)を直線で結ぶことにより、容易に決定される。
【0105】
従って、電荷qi’、qj’の各対に対応する各相関直線の特徴的な関数値{Fmax(M/Qi’)、Fmax(M/Qj’)}は、出現極大Fmax(M/Q)における特徴的な関数値により、対応する質量ピークの一次電荷Qにより、
【数17】
から決定することができる。
【0106】
図6は、本発明を制限しない例として、低運動エネルギーで解離する多帯電イオンに関して、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある、一次電荷Q'1=2e、Q'2=3e、およびQ'3=4e、の一次質量ピークに対応する相関法則により決定される相関直線を示す。
【0107】
図3の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある相関直線の、一次電荷Q'1=2eの一次質量ピークの相関法則に対応する式は、
【数18】
である。
【0108】
図6の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある2本の相関直線の、一次電荷Q'2=3eの一次質量ピークの二つの相関法則に対応する式は、
【数19】
である。
【0109】
図6の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある3本の相関直線の、一次電荷Q'3=4eの一次質量ピークの三つの相関法則に対応する式は、
【数20】
である。
【0110】
それぞれの潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}は、二次元的スペクトル中の出現位置Prsに関連する。
【0111】
その場合、それぞれの潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}に、対称的な潜在的対{Fmax(ms/qs’)、Fmax(mr/qr’)}が対応する。二つの対称的な潜在的対には、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある出現位置(Prs、Psr)の対が対応する。
【0112】
その場合、それぞれの真の対{Fmax(mt/qt’)、Fmax(mu/qu’)}は、二次元的スペクトル中の対応する出現位置(Ptu、Put)の対が、特定の閾より小さい距離で、相関直線の近くに通過する正当性を有する対を維持することにより、潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}の中から確認される。
【0113】
ここで、距離閾基準は調節できるのが有利であることが分かる。
【0114】
該距離閾の精度は、一次イオンに対して測定された極大Fmax(M/Q)における特徴的な関数値の、対応する相関直線の精度を決定する精度に少なくとも近く、解離帯電フラグメントに対する極大Fmax(M/Q)で測定された特徴的な関数値の、二次元的スペクトルにおける潜在的な真の出現の精度を決定する精度に近い。
【0115】
図7は、本発明を制限しない例として、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}を示し、そこでは、図3に示す一次質量スペクトルの3本の相関直線が位置しており、これらの相関直線は、二重帯電一次イオンの3個の一次質量ピークの相関法則に対応し、これらの二重帯電一次イオンは、それぞれM1/Q1、M2/Q2およびM3/Q3に等しい質量-対-電荷比を有する単一帯電フラグメントの対に直接解離する。
【0116】
この例示では、説明を簡単にするために、図4の14個の解離ピークの中から、2個の真の対に対応する4個の値{Fmax(M1/Q1’)、Fmaxm4/q4’)}{Fmax(M2/Q2’)、Fmax(M3/Q3’)}だけを示す。
【0117】
これらの4個の値Fmax(M/Q)は、図7の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}における潜在的な対に対応する、交差点で表す16個の異なった出現位置Prsを決定する。
【0118】
図4の14個の解離ピークに対応する14個の値Fmax(M/Q)を図7上に示す場合、196個の出現位置が決定されるであろう。
【0119】
質量-対-電荷比M1/Q1を有する一次イオンに対応する相関直線に最も近い潜在的な出現位置の対は対(P14、P41)であることが分かる。
【0120】
これらの位置P14、P41は、事実、該相関線の上またはすぐ近くにある。
【0121】
従って、位置の対(P14、P41)に対応する対{Fmax(M1/Q1’)、Fmaxm4/q4’)}は、図3の例における質量-対-電荷比M1/Q1を有する一次質量ピークの解離ピークに属する解離ピークの対の一つであると確認される。
【0122】
対照的に、潜在的な位置の他の対と、この相関線との間の距離は、決定された距離閾より大きいので、潜在的な位置の他の対は、質量-対-電荷比M1/Q1を有する一次質量ピークの解離スペクトルの解離ピークの対からは来ないと考えられる。
【0123】
ところで、質量-対-電荷比M2/Q2を有する一次イオンに対応する相関直線に最も近い潜在的な出現位置の対は対(P23、P32)である。
【0124】
従って、位置の対(P23、P32)に対応する対{Fmax(M2/Q2’)、Fmax(M3/Q3’)}は、図3の例における質量-対-電荷比M2/Q2を有する一次質量ピークの解離スペクトルに属する解離ピークの対の一つであると確認される。
【0125】
潜在的な位置の他の対と、相関線との間の距離は、決定された距離閾に対して重要過ぎるので、潜在的な位置の他の対は、質量-対-電荷比M1/Q1、M2/Q2またはM3/Q3を有する一次イオンのどの解離からも来ないと考えられる。
【0126】
確認される2個の真の出現対(P14、P41)および(P23、P32)を、図7で丸で囲んだ交差点により示す。
【0127】
この説明を簡単にするために、図4および7に例示する上記の例は、帯電フラグメントの対に解離する親一次イオンの解離ピークだけを含んでなる。
【0128】
無論、実際には、質量選択を行わずに得られる解離スペクトルは、多帯電一次イオンの他の可能な解離チャネルから得られる確認できる、および確認できない解離ピークを与える質量ピーク、ならびに解離しなかった多帯電イオンの一次質量ピークも含む。これらの解離ピークは、説明を簡単にしない。
【0129】
それにも関わらず、質量解離スペクトルの一次質量ピークは、一次質量スペクトルを使用することにより、実際に排除することができる。
【0130】
さらに、解離ピークのセットは、事実上の潜在的な多重組をさらに発生する。これらのほとんどは、真の多重組の確認基準により排除されるが、それらの幾つかは、受け容れられ、誤認される多重組、従って、本発明の方法により発生した解離スペクトルにおける質量解離ピークの誤った多重組を発生ることがある。
【0131】
しかし、当業者は、既知のデータベースにより、誤った多重組の質量を、親イオンの測定した質量に対応する、理論的または実験的に可能な解離チャネルのフラグメントの多重組の質量と比較することにより、該誤った質量解離ピークを排除することができる。
【0132】
上記のグラフを用いた方法は、帯電フラグメントの対を発生する解離チャネルに関して説明したが、明らかに、3個以上のフラグメントを含んでなる帯電フラグメント多重組、例えば三重組、を発生する解離チャネルにも実行できる。
【0133】
三重組の場合、本発明を制限しない例により、上記の二次元的スペクトルの代わりに三次元的スペクトルを使用する。該三次元的スペクトルは、3本の同等の軸を含んでなり、それらの軸のそれぞれが、一次質量選択を行わずに得た解離スペクトルの解離ピークの出現極大における解離帯電フラグメントの特徴的な関数の測定値を表す。
【0134】
好ましくは、これらの3軸は、互いに直角である。
【0135】
前に説明した二次元的スペクトル中で確認される各潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}に対応する各出現位置Prsの等価物は、三次元的空間における、確認される各潜在的な{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)、Fmax(mv/qv’)}三重組に対応する、出現位置Prsvである。
【0136】
その場合、帯電フラグメントの三重組への解離チャネルに対応する各相関法則には、式
【数21】
ここで
【数22】
を有する三次元的スペクトルの空間における相関平面が対応する。
【0137】
従って、三次元的スペクトルにおける各位置Putwに対応する各真の三重組は、前に説明した二次元的な場合と同様に、該相関空間に対する距離閾基準により、位置の潜在的な三重組の中で、確認される。
【0138】
本発明の方法は、帯電フラグメントの対、帯電フラグメントの三重組、既知の質量を有する中性フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの三重組、ならびに少なくとも3個の帯電フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの多重組、および少なくとも3個の帯電フラグメントおよび既知の質量を有する中性フラグメントを含んでなるフラグメントの多重組に実行できる。その場合、可能な多重組の最大数としてNを指定すると、そのような多重組に対する相関法則は、N-1に等しい次元を有する空間である。
【0139】
前に説明したように、本発明の方法により、単一の取得で、質量選択を行わずに、一次質量スペクトルの全ての一次質量ピークに対応する全ての質量解離スペクトルを同時に発生させることができる。
【0140】
解離質量スペクトルを得ようとする問題とする質量ピークが、工程(b)で得られる一次質量ピークセットの一部に過ぎない場合もある。さらに、一次質量ピークの数が多い程、解離ピークの数も多くなり、従って、確認される解離ピークの誤った多重組の数も多くなる。
【0141】
図8に示すように、イオン供給源1と解離装置2との間に配置された装置5を使用し、一次イオンを解離装置2に注入する前に、問題とする一次ピークを同時に選択し、他を排除することができる。その場合、本発明の方法により、解離スペクトルのセットを同時に発生させ、確認される解離ピークの誤った多重組の数を少なくすることが可能である。
【0142】
上記の装置5は、全ての選択した一次質量ピークの確認すべき解離ピークを含む、幾つかの問題とする一次質量ピークを同時に含んでなる大きな質量帯域を選択する、四重極型質量分析計でよい。この種の装置5により、誤って確認される解離ピークの数を少なくすることができるが、各取得で、問題とする一次質量ピークの一部しか選択できず、問題とする解離ピークの全てを発生させるには、幾つかの解離スペクトルを発生させる必要がある。
【0143】
対照的に、装置5としてイオントラップを使用することにより、問題とする一次質量ピークのセットを選択すると共に、確認される解離ピークの誤った多重組の数を少なくすることができる。この実施態様では、当業者には公知のように、イオン供給源1により発生したイオンは、イオントラップ5の中に保存され、次いで、イオントラップ5の内側に可変電圧を印加することにより、トラップの外に放出され、質量-対-電荷比との関係で解離装置2に向かう。例えば可変電圧にかけられ、イオントラップ5の出口に配置された一対の反らせ板から製造された装置は、放出された、重要ではない一次イオンを偏向させ、問題とする一次質量ピークに対応する一次イオンだけを通過させる。
【0144】
上記のように、本発明を、相関線を含む二つの次元(特徴的な関数値の対)による二次元的空間を使用することにより、図式的な手法により説明した。
【0145】
しかし、無論、本発明の具体的な実行は、典型的には、適切なプログラムを実行するデジタルコンピュータ、例えばDSP(「デジタル信号プロセッサー」を意味する)、により達成される。
特に、相関法則は、典型的には数値データ(例えば低運動エネルギー解離の場合、等式(1)、(3)、(5)、または座標のセット)であり、それらのデータを、分光計により発生し、コンピュータに供給される数値的な特徴的な関数データと比較する。
【0146】
より実際的には、本発明は、既存の質量分光測定装置に追加し、この装置の他のソフトウエアとインターフェースさせ、大部分、相関法則データを確立し、特徴的な関数データを集め、そのデータをこれらの相関法則データと比較する、ソフトウエアモジュールの形態で実施することができる。
【0147】
いずれにせよ、当業者には明らかなように、一次質量スペクトルの形成、および帯電フラグメントの多重組に解離する多帯電一次イオンから得られる解離スペクトルの形成により、研究する分子を確認する可能性が得られる。
【0148】
本発明の方法の、タンデム飛行時間型質量分析計への応用
ここで、本発明の、一次質量選択を行わない、飛行時間型分光計による、多帯電イオン用タンデム質量分光測定の方法および装置を説明する。
【0149】
飛行時間型質量分光測定では、イオンの解離工程を、上記の説明のように低運動エネルギーで、または高運動エネルギーで行う。その違いの一つは、低運動エネルギーでは、帯電フラグメントに関する特徴的な関数、ここでは飛行時間型の2乗、が、分析すべきイオンの質量-対-電荷比に比例する(この関数は、帯電フラグメントの質量-対-電荷比に依存するが、一次イオンの質量-対-電荷比には依存しない)のに対し、高運動エネルギーでは、その関数が、帯電フラグメントの質量-対-電荷比に、および親一次イオンの質量-対-電荷比に依存することである。
【0150】
従って、質量-対-電荷比M/Qの高運動エネルギーで解離する帯電フラグメントの飛行時間は、一般的に式
【数23】
を有し、ここで
【数24】
は、解離前の質量-対-電荷比M/Qの親一次イオンの速度であり、
【数25】
は、帯電フラグメントの質量-対-電荷比M/Qに、親一次イオンの質量比M/Qに、および使用する飛行時間型質量分析計に依存する関数である。
【0151】
それにも関わらず、
【数26】
は、一般的に
【数27】
の、G'が帯電フラグメントの質量-対-電荷比M/Qには依存しない関数であろう式で表すことはできない。
【0152】
その結果、本発明の方法を、飛行時間型質量分析計で、高運動エネルギーでも実行するためには、別の手段が必要である。
【0153】
従って、本発明の方法による高運動エネルギーでの解離の場合、未知の分子に関する相関法則を決定するには、この場合、一般的に、使用する飛行時間型質量分析計に対して、既知の一次質量および解離スペクトルを有する分子で、特殊な予備校正をさらに行う必要がある。
【0154】
無論、校正は、上に詳細に説明した解析式を使用する代わりに、低運動エネルギーにおける解離で実行することもできる。
【0155】
この校正は、一次質量選択装置(しかし、これは、前に説明したように、問題とする一次ピークの同時選択を除いて、適切な分光法を実行するのに必要ではない)を使用し、下記の準工程で行うのが好ましい。
【0156】
工程(d1)で、既知分子の一次質量スペクトルを発生させる。
【0157】
次いで、工程(d2)で、この一次質量スペクトルにおける一次質量ピークを選択し、選択された質量-対-電荷比M/Qの一次イオンを解離させる。
【0158】
工程(d3)で、類似の質量-対-電荷比M/Qを有する選択された一次イオンを解離させる。
【0159】
工程(d4)で、選択された一次イオンの解裂から来る解離フラグメントの解離質量スペクトルを発生させる。
【0160】
工程(d5)では、得られた既知の解離質量スペクトルで、帯電フラグメントの多重組への解離に対応するピークの多重組を確認する。
【0161】
工程(d6)で、確認された質量解離ピークの各多重組に属する各質量解離ピークの出現極大における飛行時間TOFmax(M/Q)測定を決定する。
【0162】
工程(d7)で、それぞれの可能な電荷多重組に対して、この電荷多重組を満足させ、質量-対-電荷比M/Qに、一次電荷Qに、および選択された一次質量ピークの出現極大における飛行時間TOFmax(M/Q)に対応する相関法則のそれぞれを、確認された飛行時間多重組TOFmax(M/Q)で決定する。
【0163】
工程(d8)で、先行する工程を、既知分子の一次質量スペクトルの選択された一次質量ピークのそれぞれに対して繰り返す。
【0164】
次いで、未知分子の一次質量ピークに関する相関法則を、既知分子の一次質量ピークの相関法則に基づいて決定することができる。
【0165】
無論、この校正は、どのような一次質量分析計ででも、その質量分析計の特徴的な関数を、上記準工程における飛行時間に置き換えることにより、実行することができる。
【0166】
既知分子の一次質量スペクトルの各一次質量ピークに対応する解離ピークの多重組を、全ての一次質量ピークの全ての解離ピークが混合されている場合に得られる解離スペクトル中で確認できるという条件で、先行する校正を一次質量選択を行わずに実行することができる。
【0167】
ここで本発明の方法の実行に戻り、工程(d)で、多帯電一次イオンを解離装置2で解離させ、それぞれに対して、帯電フラグメントの多重組を得る。
【0168】
低運動エネルギーにおける解離の場合、一次イオンは、イオン束をパルス化し、使用する質量分析計の飛行時間空間3に向けて加速する前に、解離されている。
【0169】
ここで、高運動エネルギーにおける解離の場合、一次イオンは、一次イオンの加速およびパルス化の後で、飛行時間空間3の中で解離される。
【0170】
本発明の一実施態様では、該相関法則を決定する工程は、解離フラグメント、ここでは解離フラグメントの飛行時間、に対する特徴的な関数値を発生する工程の前または後に行うことができる。
【0171】
工程(e)で、各イオン束パルスで帯電フラグメントの飛行時間TOF(M/Q)を、少なくとも一個のイオン検出器4で測定する。
【0172】
ここで、好ましい態様により、検出器は、飛行時間だけを測定できる種類の検出器である。
【0173】
つまり、位置を測定する必要は無い。
【0174】
事実、本発明の好ましい方法による分光法は、有利なことに、フラグメントの飛行時間に関する情報だけを必要とし、位置測定を省略できることが分かる。
【0175】
しかし、別の実施方法では、飛行時間および位置の両方を測定する検出器を使用することもできる。
【0176】
工程(f)〜(h)は、前に説明した飛行時間型質量分析計で行うことができるので、さらに説明はしない。
【0177】
それにも関わらず、飛行時間型質量分析計の場合、本発明の方法を変えずに、本発明の方法の工程(f)〜(h)を、取得の後ではなく、各イオン束パルスで実行し、一次質量選択を行わずに、特定系列のイオン束パルスを累積することにより、解離スペクトルを発生させることもできる。
【0178】
本発明のこの実施では、工程(f)は、各イオン束パルスの後、一次イオンの測定された飛行時間の各潜在的な多重組を形成する。
【0179】
次いで、工程(g)で、特に該潜在的な多重組から、該相関法則に対する近接基準に適合する多重組を各イオン束パルスの後で確認し、親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する。
【0180】
最後に、各イオン束パルスの後で、各一次質量ピークに対応する各解離スペクトルの真の確認された飛行時間多重組を累積することにより、確認された帯電フラグメントの真の飛行時間多重組を含む各一次質量ピークに対応する各解離質量スペクトルを発生する。
【0181】
上記の工程(f)〜(h)を説明するために、その好ましい実施方法をここで、帯電フラグメント対への解離チャネルの場合で、グラフ表示による推論により、説明する。
【0182】
しかし、当業者には明らかなように、これもやはり、特にこの工程の原理を例示し、本発明のデジタル処理を行う方法を理解することを目的とする、他の多くの方法の中の一例に過ぎない。
【0183】
工程(f)で検出したイオンに対する飛行時間測定の、全ての潜在的な多重組の形成に続いて、各イオン束パルスの後で、特に測定した全ての潜在的な飛行時間対から、帯電フラグメントの対に解離した各一次イオンから得られる各真の飛行時間対を、工程(g)で、前に説明した種類の二次元的スペクトルの発生から始まり、確認する。
【0184】
二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で、各相関法則を相関線により表すが、該相関線の、平面中の位置および形態は、先行する工程(c)で決定された対応する相関法則により決定される。
【0185】
無論、二次元的スペクトルの平面における2本の同等の軸は、飛行時間測定を直接代表する代わりに、飛行時間測定のバイユニボーカル関数(biunivocal function)、例えば二乗した飛行時間測定{TOF2r(M/Q)、TOF2s(M/Q)}、を代表することもでき、本発明の方法を変化させるものではない。
【0186】
低運動エネルギーにおける一次イオン解離の場合、各相関法則
【数28】
は、二次元的スペクトルの平面{TOF2r(M/Q)、TOF2s(M/Q)}中にある直線の等式を有する。
【0187】
高運動エネルギーにおける一次イオン解離の場合、校正の工程(d8)を、図式的に示す下記の準工程で、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における各相関法則に対応する各相関線を形成することにより、実行することができる。
【0188】
二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の各軸上に、既知分子の確認された解離ピークの各対に対する出現極大における各飛行時間TOFmax(M/Q)を配置する。
【0189】
次いで、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で、確認された解離ピークの各対に対する出現極大における飛行時間{TOFmax(M1/Q1)、TOFmax(M2/Q2)}の各対に対応する各出現位置を決定する。
【0190】
最後に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で、確認された飛行時間対の位置の一般的な近傍で通過する特性を有する可能な電荷の対(q1、q2)のそれぞれに対応する、この電荷対を満足する各相関線を決定する。
【0191】
図9Bは、本発明を制限しない例として、帯電フラグメントの対に解離させるチャネルに対応する解離ピークだけを含む解離スペクトル(MS−MS)を示すが、このスペクトルは、図9Aで、質量-対-電荷比がM3/Q3である既知の一次質量ピークを選択した後に得ることができる。
【0192】
無論、実際には、解離スペクトルは他の可能な解離チャネルから得られる帯電フラグメントに対応する質量のピークも含む(例えば中性フラグメントおよび帯電フラグメントの対への、さらには3個以上のフラグメントへの解離から来る)。これらの解離ピークは、説明を簡単にしない。
【0193】
この例では、解離スペクトルが、質量-対-電荷比M1/Q1、M2/Q2、M3/Q3、m4/q4、m5/q5、およびm6/q6にそれぞれ対応する6個の解離質量ピークを包含することが分かる。
【0194】
これらの異なった解離ピークの出現極大における飛行時間も分かる。
【0195】
本発明を制限しない例として、図10は、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における、これらの異なった解離ピークの出現極大で確認された飛行時間の位置A、B、C、D、E、およびFを結ぶことにより、図式的に得られる相関線Lを示す。
【0196】
測定された全ての潜在的な飛行時間対の中で、帯電フラグメントの対に解離する各一次イオンから生じる各真の飛行時間対が、工程(g)で、発生するイオン束の各パルス化における飛行時間測定の各潜在的な対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における対応する位置Prsを関連させることにより、決定される。
【0197】
各潜在的な対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に、潜在的な対称的対{TOFs(M/Q)、TOFr(M/Q)}が対応する。
【0198】
従って、該2個の潜在的な対称的対に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の異なった対称的出現位置(Prs、Psr)が対応する。
【0199】
同様に、親一次イオンの解離から得られる解離帯電フラグメントの各対が、2個の真の測定された飛行時間対、即ち{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}およびその対称的な対{TOF(mu/qu)、TOF(mt/qt)}、を発生する。
【0200】
従って、該2個の真の対称的対に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の異なった対称的出現位置(Ptu、Put)が対応する。
【0201】
潜在的な飛行時間対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の中から帯電フラグメントの対に解離する一次イオンから生じる各真の飛行時間対{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}は、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の対応する出現位置(Ptu、Put)が、それぞれ工程(c)で決定された特徴的な線の一つから、特定の閾より小さな距離にある対を保持することにより、決定される。
【0202】
ここで、上記の距離閾基準は調節できるのが有利である。
【0203】
距離閾は、各相関線の両側で、解離ピークの分解能以下になるように選択することができ、これによって、感度を犠牲にして分解能を(機器の分解能を越えて)改良することができる。
【0204】
他方、この距離閾が解離ピークの分解能以上である場合、解離した、検出された帯電フラグメントの全ての対を確認することができ、これは、分解能、従って機器の分解能、の低下に対する感度を最大限にする。
【0205】
工程(h)で、二次元的質量スペクトルにおける第三の直角軸N上で、測定されたフラグメントの飛行時間の2軸を包含する、平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で確認された帯電フラグメントの真の飛行時間対{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}の出現位置(Ptu)を累積することにより、三次元的解離質量スペクトルの形態にある解離質量スペクトルの全てが同時に発生する。
【0206】
この場合、本発明の方法は、有利なことに、三次元的スペクトルの形態における帯電フラグメント対への解離チャネルを含んでなる解離スペクトルの全てを同時に発生することが分かる。
【0207】
無論、他の同等の三次元的質量スペクトルを本発明の方法により発生させることもできる。
【0208】
例えば、別の三次元的スペクトルは、平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の2本の同等の軸に対する飛行時間測定を、これらの値の関数(例えば飛行時間の2乗{TOF2r(M/Q)、TOF2s(M/Q)})により置き換えることに対応することができる。
【0209】
各イオン束パルス化に対して、イオン検出器4は、多帯電一次イオンの全ての可能な解離チャネルから来る帯電フラグメントを検出し、確認できる、および確認できない解離事象、ならびに解離しなかった一次イオンを与える。
【0210】
これらの寄与の全てが、イオン束の各パルス化でイオン検出器4により検出されるバックグラウンドノイズを発生し、一次質量選択を行わずに一次イオンを解離する場合、このノイズが、確認すべき真の多重組を形成する帯電フラグメントの多重組から来る問題とする信号と重複する。
【0211】
従って、このバックグラウンドノイズは、追加の潜在的な飛行時間多重組も発生し、そのほとんどは、解離帯電フラグメントの多重組の確認基準により排除される。
【0212】
しかし、これらの重要ではない潜在的な多重組の小部分は、各イオン束パルスの後、帯電フラグメントの確認基準により受け容れられ、誤った真の多重組を発生する。
【0213】
グラフを使用する例では、これらの誤った真の多重組は、図式的に、二次元的スペクトルにおける相関線に対する、距離閾の値に関する基準の正の区域に配置された対応する位置の存在に対応する。
【0214】
これらの誤った、確認された多重組は、飛行時間型質量分析計で本発明の方法により、各イオン束パルスで実行される工程(f)〜(h)で発生した解離スペクトルの実際のバックグラウンドノイズである。
【0215】
この実際のバックグラウンドノイズは、検出されるバックグラウンドノイズのほんの一部が誤った、確認された多重組を発生するので、イオン検出器4により検出されるバックグラウンドノイズよりはるかに小さい。
【0216】
ここで、イオン束パルスに関して、飛行時間型質量分析計に関する本発明の好ましい実施方法により、該パルス化の期間は、測定すべき帯電フラグメントまたは一次イオンの最も長い飛行時間TOF{M/Q)max}よりも長い。
【0217】
この期間は、イオンの通常パルス化周波数f=[1/TOF{M/Q)max}と呼ばれる周波数を決定し、これは、典型的には、本発明の方法の工程(a)〜(h)の全てに対して等しい。
【0218】
本発明のもう一つの好ましい実施方法では、イオン束のパルス化の期間は、測定すべき帯電フラグメントまたは一次イオンの最も長い飛行時間TOF{M/Q)max}よりも短くなるように選択することができる。
【0219】
従って、このパルス化期間は、通常パルス化周波数fより高いパルス化周波数f'を決定し、ここでf'=Zxf(またはZは1を超える数である)である。
【0220】
この場合、本発明の方法の工程(a)〜(c)は、先ず通常パルス化周波数fで実行する。
【0221】
次いで、最高パルス化周波数f'に対応する相関法則を、先行する工程(c)における通常周波数fで決定された相関法則から決定する。
【0222】
次いで、工程(d)〜(g)を、最高パルス化周波数f'で実行し、その結果、一連のパルス間で検出される帯電フラグメントのオーバーラップが起こり得る。
【0223】
ここで再び、帯電フラグメント対への解離チャネルの場合における本発明のデジタル処理の説明に使用したグラフにより推論し、全ての対応する相関線を、二次元的スペクトルの可能な飛行時間対の平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における各一次質量ピークの全ての相関法則に配置することにより、本発明の方法の工程(a)〜(c)を実行する。この平面の各軸の長さは、TOF{M/Q)1}に等しい。
【0224】
従って、各相関法則に対応する各相関線は、二次元的スペクトルの平面中に一度表示される。
【0225】
通常パルス化周波数fで取得を行い、イオン束のPパルス化を考える場合、取得の合計長さは、
【数29】
になる。
【0226】
TtotをPの連続する時間スライス、長さでTOF{M/Q)max}のそれぞれ、に分割する場合、Pの同等の二次元的スペクトルを構築することが可能であり、それぞれが周波数fにおける取得に対応し、2つの軸上で、同様に長さTOF{M/Q)max}の、対応する連続する時間スライスがある。
【0227】
その場合、全て同等のP二次元的スペクトルのそれぞれに、本発明の方法の工程(a)〜(c)で決定される相関線の全てを配置することができる。
【0228】
従って、各相関法則に対応する各相関線は、P二次元的スペクトルのそれぞれの上に、各二次元的スペクトルにおける同じ位置で、一度表示される。
【0229】
次いで、パルス化周波数f'に対応する相関法則の相関線は、各相関法則に対応するZの同等の相関線を、P二次元的スペクトルのそれぞれに、P二次元的スペクトルのそれぞれで、通常パルス化周波数fに対応する各相関線の位置に対して配置することにより、決定される。
【0230】
Pスペクトルの中から、いずれかの2個の連続する二次元的スペクトルを考えると、パルス化周波数fに対応する2個の二次元的スペクトルのそれぞれにおける同じ位置を有する、同じ相関法則の2本の相関線のそれぞれが、TOF{M/Q)max}に等しい長さにより、間隔を置いて一時的に配置される。
【0231】
次いで、パルス化周波数f'に対応する同じ相関法則の、Z-2に等しい数の追加相関線は、問題とする全ての2個の連続する二次元的スペクトルにおけるパルス化周波数にそれぞれ対応する、これらの2本の相関線の間に配置される。
【0232】
従って、Zの相関線(パルス化周波数fに対応する2本の線を加えることにより)は、互いに(1/f')により、間隔を置いて一時的に配置される。
【0233】
従って、各相関法則に対して、Pの二次元的スペクトルのそれぞれが、通常周波数fにおけるパルス化に対応する相関線の位置に対して、Pの二次元的スペクトルのそれぞれにおいて同等の様式で配置されたZの対応する相関線を含む。
【0234】
次いで、本発明の方法の相関法則を決定する工程を、パルス化周波数f'で行う。
【0235】
無論、これは、最高パルス化周波数f'では、どのイオン束に検出された各帯電フラグメントが属するかを決定することは不可能である。
【0236】
従って、本発明の方法の工程(e)は、対応する検出された帯電フラグメントに対する飛行時間測定を、パルス化されたイオンのZxP束に起因すると考えることにより、実行する。
【0237】
ZxPイオン束の検出された帯電フラグメントのそれぞれに対して、取得開始から決定された飛行時間を先ず確認する。
【0238】
次いで、上記P一時的部分0〜Tの間に、確認された、取得開始から決定された飛行時間のそれぞれを配置する。
【0239】
最後に、測定された飛行時間値を、取得開始に対して決定された、各一時的部分の起源と、確認された飛行時間位置との間で、P一時的部分のそれぞれで検出された各帯電フラグメントに起因すると考える。
【0240】
次いで、P二次元的スペクトルの飛行時間測定の2軸上に、対応する検出された帯電フラグメントの飛行時間測定の原因と考えられる値を配置する。
【0241】
次いで、工程(f)で、対応するP二次元的スペクトルのそれぞれに起因すると考えられる飛行時間測定による、P二次元的スペクトルのそれぞれの潜在的な飛行時間対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}を、パルス化周波数f'で発生させる。
【0242】
P二次元的スペクトルのそれぞれの各潜在的な対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に、対応する二次元的スペクトルの平面における出現位置Prsが対応する。
【0243】
最後に、本発明の方法の工程(g)を、パルス化周波数f'で行い、各P二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の対応する出現位置(Ptu、Put)がそれぞれ、パルス化周波数f'により決定された相関線の一つから、各二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における特定の閾より小さい距離にある対を保持することにより、各P二次元的スペクトルの潜在的対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の中から、実際に起因すると考えられる飛行時間対{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}を確認する。
【0244】
同じイオン束の中に注入された帯電フラグメントの対から来る帯電フラグメントは、2つの連続する二次元的スペクトル中で検出することができる。
【0245】
該対を確認するには、新しい潜在的な対を、前の工程(f)の潜在的な対のセットに加える必要がある。
【0246】
これらの対は、2つの連続する二次元的スペクトル{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)}の起因すると考えられる飛行時間測定により追加の潜在的な対を発生させることにより、確認することができ、そこでは、2個の二次元的スペクトルの一方の飛行時間測定がTOFr(M/Q)であり、他方のスペクトルの飛行時間測定がTOFs'(M/Q)である。
【0247】
従って、P二次元的スペクトルのそれぞれで、類似した質量-対-電荷比を有するが、幾つかの異なったイオン束から来る一次イオンの解離から得られる真の対は、各相関法則に対応するZ相関線に対する距離閾基準により確認することができる。
【0248】
同様に、多帯電一次イオンの解離から来る帯電フラグメントの三重組の確認は、同様に、高周波数のパルス化周波数f'で、本発明の工程(d)〜(g)を操作することにより、行うことができる。
【0249】
本発明のデジタル処理を説明するのに使用する図式的な類似方法の続きで、前のP二次元的スペクトルを、前に説明したように起因すると考えられる飛行時間測定を含んでなる3本の同等の軸を包含するP三次元的スペクトルで置き換える。
【0250】
帯電フラグメントの三重組への解離に対応するP三次元的スペクトルのそれぞれの各空間におけるZ相関空間の位置が、前に説明した二次元的な場合と同様の様式で得られていると仮定し、各三次元的スペクトルのZ相関空間に対する対応する位置の距離閾基準により、飛行時間の真の三重組を、P三次元的スペクトルのそれぞれの飛行時間の潜在的な三重組の中から確認する。
【0251】
低運動エネルギーにおける解離の場合、幾つかの解離フラグメント対を質量分析計の飛行時間空間中に注入して2つの異なった連続イオン束にする、および/または2つの連続した二次元的スペクトルで検出することができる。
【0252】
これらの解離した帯電フラグメントの対は、本発明の方法により、P二次元的スペクトルの起因すると考えられる飛行時間測定{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}および{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)}の潜在的な対の中からは確認することができず、この方法では、同じイオン束に注入された、同じ二次元的スペクトルで、2つの連続した二次元的スペクトルで検出される、対だけを確認することができる。
【0253】
これらの対を確認するには、先行する工程(f)における先行する潜在的な対の全てに、新しい潜在的な対を加える必要がある。
【0254】
これらの、2つの連続するイオン束によりパルス化される帯電フラグメントの対の2つのフラグメントが、同じ二次元的スペクトル中で検出される場合、これらを、各飛行時間測定に対して、他の飛行時間測定のそれぞれに対して、値ΔTOF=(1/f)=(1/Zxf)を加えること、および差し引くことにより、確認することができる。
【0255】
その場合、追加の潜在的な対応する対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)+ΔTOF}および{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)-ΔTOF}を発生させる。
【0256】
帯電フラグメントの対の2個のフラグメントが、2つの連続するイオン束によりパルス化され、2つの連続する二次元的スペクトルで検出される場合、これらを、他の潜在的な対を形成し、前の追加対に加えることにより、確認することができる。
【0257】
2つの二次元的スペクトルの一方の飛行時間測定がTOFr(M/Q)であり、他方の二次元的スペクトルの飛行時間測定がTOFs'(M/Q)である場合、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)+ΔTOF}および{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)-ΔTOF}の新しい潜在的な対が発生する。
【0258】
従って、全ての可能な検出された真の対を確認するのに使用される、各P二次元的スペクトルの潜在的な全ての対は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)}、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)+ΔTOF}、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)-ΔTOF}、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)+ΔTOF}および{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)-ΔTOF}である。
【0259】
同様に、この計算を使用し、帯電フラグメントの対の2つのフラグメントが2つの異なった非連続的なイオン束でパルス化され、2つの非連続的な二次元的スペクトルで検出される場合を処理できることが分かる。
【0260】
低運動エネルギーで解離する一次イオンに対する同じ解離チャネルから、前の4つの可能な場合に対応する、類似の質量-対-電荷比を有する親一次イオン解離から来る、帯電フラグメントの対を確認する4つの例も図11に示す。
【0261】
10と表示する位置は、同じイオン束でパルス化し、同じ二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に対応する。
【0262】
20と表示する位置は、同じイオン束でパルス化し、2つの連続的な二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に対応する。
【0263】
30と表示する位置は、2つの連続的なイオン束でパルス化し、同じ二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)-ΔTOF}に対応する。
【0264】
40と表示する位置は、2つの連続的なイオン束でパルス化し、2つの連続的な二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)+ΔTOF}に対応する。
【0265】
高運動エネルギーにおける一次イオン解離の場合、これらの対は、同じパルス化されたイオン束から常に得られるが、2つの連続した二次元的スペクトルで検出することができる。
【0266】
2つの二次元的スペクトルのそれぞれのZ-1相関線の、起因すると考えられる確認された飛行時間測定の対の通常パルス化周波数fに対応する、飛行時間測定の真の値を決定するために、通常パルス化周波数fに対応する相関線に対するそれらの相関線位置に対応する値を、該起因すると考えられる確認された飛行時間から差し引く(またはそれに加える)。
【0267】
例えば、通常パルス化周波数fに対応する相関空間に隣接する相関空間上に位置する、起因すると考えられる確認された飛行時間の多重組に対して、値ΔTOF=(1/f‘)を該起因すると考えられる飛行時間から差し引いて(またはそれに加えて)修正し、それらの真の測定値を決定する。
【0268】
図11の例では、同じ解離チャネルに対応する、起因すると考えられる、確認された飛行時間の4つの対の位置が、それらの、破線で示す相関線に対して直角の直線上に位置する。通常パルス化周波数fに対応する2本の相関線上にある位置10および20は、真の飛行時間測定の対である(該2対の起因すると考えられる値は、それらの真の測定された値に等しい)。位置30および40に位置する対の真の測定された値は、グラフにより、図11の直角破線に沿って位置30および40を位置10および20上にそれぞれ投影することにより、決定される(これは、それらの特徴的な線の位置による値を差し引く(または加える)ことによる、起因すると考えられる飛行時間修正に対応する)。
【0269】
最後に、工程(h)で、通常パルス化周波数に対応するパルス化周波数f'における各相関法則の各解離スペクトルを、P二次元的スペクトルのそれぞれのZ相関線の、修正された起因すると考えられる確認された飛行時間のセットで得た、真の確認された飛行時間測定の対を累積することにより、発生させる。
【0270】
一次質量の各ピークに対応する各解離スペクトルを、最後に、パルス化周波数f'で得た対応する相関法則の質量解離スペクトルで発生させる。
【0271】
従って、P二次元的スペクトルの追加に対応する周波数f'=Zxfで得た各解離質量スペクトルは、通常周波数で得た、ZxPイオン束パルス化を含んでなる質量スペクトルと等しい。
【0272】
やはり、本発明の好ましいグラフによる実施方法における相関線の位置に対する距離閾に対応する、相関法則に対する近接基準の値は、本発明の方法により得られる解離ピークの分解能を決定する。
【0273】
帯電フラグメント三重組への低運動エネルギー解離の場合、前の、解離帯電フラグメントの対の場合と同様に、解離した三重組の幾つかのフラグメントを、質量分析計の飛行時間空間中の2つの異なった連続するイオン束中に、ただし、3つの異なった連続するイオン束中にも、注入することができる。
【0274】
異なった可能な場合に対応する異なった潜在的な三重組は、
3つのフラグメントが同じイオン束中に注入され、同じ三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)、TOFy(M/Q)}であり、
3つのフラグメントが同じイオン束中に注入され、2つの連続する三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)、TOPy'(M/Q)}であり、
3つのフラグメントが2つの連続するイオン束中に注入され、同じ三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)、TOPy(M/Q)±ΔTOF}であり、
3つのフラグメントが2つの連続するイオン束中に注入され、2つの連続する三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr'(M/Q)、TOFs'(M/Q)、TOPy(M/Q)±ΔTOF}であり、
3つのフラグメントが3つの連続するイオン束中に注入され、同じ三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)±ΔTOF、TOPy(M/Q)±2ΔTOF}であり、
3つのフラグメントが3つの連続するイオン束中に注入され、2つの連続する三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr'(M/Q)、TOFs'(M/Q)±ΔTOF、TOPy(M/Q)±2ΔTOF}である。
【0275】
同様に、この計算により、2つ(または3つ)の異なった、非連続的なイオン束にパルス化され、2つ(または3つ)の非連続的な三次元的スペクトルで検出される帯電フラグメントの三重組の3つのフラグメントの場合を実行できることも、容易に理解できる。
【0276】
無論、同様に、帯電フラグメントの多重組の確認は、高周波数で、パルス化周波数f'で、操作することにより、少なくとも3つの帯電フラグメント、および少なくとも3つの帯電フラグメントと既知質量を有する中性フラグメントを含んでなるフラグメントの、全ての三重組に対して、実行することができる。しかし、これは、当業者には、上記の例を使用してそのような一般化が可能なので、詳細には説明しない。
【0277】
飛行時間型質量分析計に関して上に説明した本発明を、相関線を含む二次元(特徴的な関数値の対)による二次元的スペクトルを使用することにより、図式的な手法を使用して説明した。
【0278】
しかし、無論、その具体的な実施は、典型的には適切なプログラムを実行するデジタルコンピュータ、例えばDSP(「デジタル信号プロセッサーを意味する」)、により達成される。
【0279】
特に、相関法則は、数値的なデータ(等式、例えば低運動エネルギー解離の場合、等式(1)、(3)、(5)、または座標のセット)であり、このデータと、分光計により発生し、コンピュータに供給される数値的な特徴的な関数が比較される。
【0280】
より実際的には、本発明は、ソフトウエアモジュールの形態で具体化することができ、このソフトウエアモジュールを、既存の飛行時間型質量分光測定装置に加え、この装置の他のソフトウエアとインターフェースし、大部分、相関法則データを確立し、特徴的な関数データを集め、これらの特徴的な関数データをこれらの相関法則データと比較する。
【0281】
高運動エネルギーにおける解離の場合、相関空間の校正に関して、一次質量選択用の装置、例えば各イオン束のパルス化と解離装置2との間で作用する時間ゲートにより一次質量選択を行うための装置5、がそれを行うことができる場合、この装置を使用し、それでも一次質量ピークの選択を行わずに、前に説明したように、重要ではない他の一次質量ピークを排除することにより、イオン光線の各パルス化で問題とする一次質量ピークの全てを選択し、本発明の方法を実行することもできる。
【0282】
低運動エネルギーにおける解離の場合、解離スペクトルの中で重要ではない一次質量ピークの排除は、上記のように、イオントラップ5をイオン供給源1と解離装置2との間に配置することにより、または四重極型質量分析計5を使用することにより、行うことができる。
【0283】
これによって、検出されたバックグラウンドノイズを制限し、その結果、本発明の方法により発生した解離スペクトル中に確認される帯電フラグメントの誤った対の実際のバックグラウンドノイズも制限することができる。
【0284】
上記の装置5は、必要であれば、一次質量スペクトルにより予め確認されている分子に対応する一次質量ピークを排除し、スペクトルMS−MSの取得を一般的に不要にすることもできる。
【0285】
本発明の方法は、解離工程に続いて得られる帯電フラグメントに対して行い、帯電フラグメントを同時に解離させることにより、該親帯電フラグメントのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を入手し、多重質量分光測定(MS)nの方法を実行することができる。
【0286】
必要であれば、問題とする一次質量ピークを一次質量スペクトルから選択する予備工程を実行することができる。
【0287】
本発明の分光計の構成部品および操作
ここで、本発明の分光測定法を実行するタンデム質量分析計おける幾つかの好ましい分光計構成部品および分光計操作を、より詳細に、本発明を制限しない例として説明する。
【0288】
イオン供給源1は、連続式またはパルス化された、例えばESI(エレクトロスプレーイオン化)イオン供給源、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)パルス化されたレーザーイオン供給源、APCI(大気圧化学イオン化)イオン供給源、APPI(大気圧光イオン化)イオン供給源、LDI(レーザー脱離イオン化)イオン供給源、ICP(誘電カップリングプラズマ)イオン供給源、EI(電子衝撃)イオン供給源、CI(化学イオン化)イオン供給源、FI(電場イオン化)イオン供給源、FAB(高速原子衝突)イオン供給源、LSIMS(液体二次イオン質量分光測定)イオン供給源、API(大気圧イオン化)イオン供給源、FD(電界脱離)イオン供給源、DIOS(シリシウム上脱離イオン化)イオン供給源、または他の種類の多帯電イオン供給源、でよい。
【0289】
低運動エネルギーにおける解離装置2は、多重極導波管、イオントラップ、フーリエ変換質量分析計、または帯電フラグメントの多重組を発生させることができる他のいずれかの装置でよい。
【0290】
その上、高運動エネルギーにおける解離は、CID/CAD(衝突誘発解離/衝突活性化解離)により解離し得るガスを含む衝突チャンバー、イオン供給源でイオン化された一次分子の内部エネルギーを増加させた後、または飛行時間経路上で光イオン化により、自然解離させる飛行時間空間(PSDまたは供給源後減衰)、またはSID(表面誘発された解離)技術、ECD(電子捕獲解離)技術、IRMPD(赤外多光子解離)技術、PD(光解離)技術、BIRD(バックボディ赤外解離)技術、または一次イオンを解離させるいずれかの装置で行うことができる。
【0291】
一次イオンの解離を電子捕獲で行う場合、解離を生じる該電子捕獲は、解離工程(d)の前に一次イオン電荷Qを変性させる。その際、一次電荷Qと帯電フラグメントの可能な電荷対(qi’、qj’)との間の関係は、例えば
【数30】
である。
【0292】
問題とする一次質量ピークに対応する一次イオンを解離装置2の中に注入するのに使用する装置5は、四重極型質量分析計、双曲線幾何学的構造を有する3Dイオントラップ、円筒形幾何学的構造を有する直線状2Dイオントラップ、または他のいずれかのイオントラップでよい。
【0293】
一次質量選択を行わずに一次質量スペクトルおよび解離質量スペクトルを発生させるのに使用される質量分析計3は、下記の群、即ち飛行時間型質量分析計、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ、FTICR質量分析計、または他の型の質量分析計、の一つでよい。
【0294】
イオン束パルス化とイオン検出器4との間の飛行時間空間3は、直線的であるか、またはレフレクトロンを備えていることができる。
【0295】
この場合、レフレクトロンは、一段階または二段階型、湾曲場レフレクトロン(CFR)型、または方形もしくは他のいずれかの型のレフレクトロンでよい。
【0296】
各イオン束のパルスは、イオン供給源1で、イオン供給源と解離装置との間で、あるいは解離装置2とイオン検出器4との間で実現することができる。
【0297】
イオン供給源が連続式である場合に飛行時間型質量分析計に必要なイオン束のパルスは、下記の技術、即ち切欠き部(notch)を通したイオンの連続線の走査、2個の反らせ板の間における可変電場の印加、連続的イオン線に対して直角の2個の電極間に可変電場を印加することによる直角注入、の一つにより、実行することができる。
【0298】
イオントラップ3は、双曲線幾何学的構造の3Dイオントラップ、円筒形幾何学的構造の直線的2Dイオントラップ、または他のいずれかの型のイオントラップでよい。
【0299】
フーリエ変換質量分析計は、静止磁場または放射状対数電場(radial logarithmic electical field)を使用してイオンを保存するFTICR質量分析計でよい。
【0300】
飛行時間型質量分析計で使用できるイオン検出器4は、少なくとも一個のアノードを備え、各アノードが、増幅器、弁別器および時間デジタル変換器(TDC)から構成される電子計数器を備えた少なくとも一個のマイクロチャネルプレート(MCP)から構成されるか、または検出された各一次イオンおよび各帯電フラグメントの特徴的な関数値を測定するのに使用される他のいずれかの型のイオン検出器でよい。
【0301】
ここで、図2および8に例示する構成部品を使用する質量分析計の、本発明を制限しない4通りの実施方法を説明する。
【0302】
分光計の第一実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第一実施方法を図2に例示する。
【0303】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、低運動エネルギーにおけるCIDにより一次イオンの解離を行うガスを含む多極導波管qを含んでなる解離装置2、直角注入によりイオン線をパルス化するための装置およびレフレクトロンを備えた飛行時間空間を含む飛行時間型質量分析計3、およびイオン検出器4を包含する。
【0304】
タンデム質量分析計に関するこの実施態様は、一次質量選択Q-q-TOFを行い、四重極型質量分析計をさらに装備し、一次質量選択をMS−MSで行う、タンデム質量分析計を使用する当業者には公知である。
【0305】
従って、第一実施態様は、四重極型質量分析計Qを含まない以外は、該装置と同等である。
【0306】
先ず、一次質量スペクトルを、多極導波管qへの質量解離を行わずに、直角注入による飛行時間型質量分析計で発生させる。
【0307】
次いで、一次質量選択を行わずに、それでも飛行時間型質量分析計中で、低運動エネルギーで、CIDにより多極導波管qの内側で、帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、質量解離スペクトルを発生させる。
【0308】
本発明の方法により、解離ピークの多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、対応する一次イオンの質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0309】
MS−MSモードにおけるデューティサイクルを、典型的には5〜30%から約100%に増加させるために、本発明を、工程(d)〜(g)で、より高い周波数f'=Zxfで、各イオン束パルス化の後に帯電した多重組の個別確認により、行うことができる。通常周波数パルス化f=10 kHzに対して、f'は、Z=20でf'=200kHzとして選択することができる。
【0310】
本発明の第一実施の一実施態様では、図8に例示するように、本装置に、イオン供給源1と解離装置2の間に配置された四重極型質量分析計またはイオントラップを装備し、大きな質量寛容度で、本発明の方法で確認される、問題とする幾つかの一次質量ピークを同時に選択し、解離質量ピークの誤った多重組の数を少なくする。
【0311】
本発明の第一実施の別の実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置を供給源1の上流に配置することができる。
【0312】
分光計の第二実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第一実施方法を図2に例示する。
【0313】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、円筒形幾何学的構造を有する直線的2Dイオントラップ2、3、およびイオン検出器4を包含する。
【0314】
この実施態様では、イオントラップを、解離装置2および質量分析計3の両方として使用する。
【0315】
タンデム質量分析計のこの実施態様は、同等の質量分析計を使用し、質量選択により質量解離スペクトルを発生させる当業者には公知である。
【0316】
先ず、イオン供給源1により放射された一次イオンを保存した後、解離を行わずに、イオントラップ2、3により一次質量スペクトルを発生させる。
【0317】
次いで、イオントラップで一次質量選択を行わずに、イオントラップの内側に含まれるガス分子によるCIDにより帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、低運動エネルギーで、質量解離スペクトルを発生させる。
【0318】
本発明の方法により、解離ピークの多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、対応する一次イオンの質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0319】
本発明の第二実施の一実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置をイオン供給源1の上流に配置することができる。
【0320】
本発明の第一実施の別の実施態様では、双曲線幾何学的構造を有する3Dイオントラップを、2Dイオントラップに置き換える。
【0321】
本発明の第二実施のさらなる実施態様では、図8に例示するように、本装置に、イオン供給源1と解離装置2の間に配置された四重極型質量分析計5またはイオントラップ5を装備し、本発明の方法で確認される、解離質量ピークの誤った多重組の数を少なくする。四重極型は、大きな質量寛容度で、問題とする幾つかの一次質量ピークを同時に選択することができ、イオントラップはさらに、問題とする全ての一次質量ピークを同時に選択することができる。
【0322】
この実施態様に加えて、図8に例示するように、本装置は、四重極型質量分析計(それぞれイオントラップ5)とイオントラップ3の間に配置された、多極イオンガイド2をさらに備え、帯電フラグメントをイオントラップ3の中に注入する前に、CIDにより一次イオンを解離させることができる。
【0323】
分光計の第三実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第三実施方法を図2に例示する。
【0324】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、双曲線幾何学的構造を有する直線的2Dイオントラップ2、レフレクトロンを備えた飛行時間型質量分析計3、およびイオン検出器4を包含する。
【0325】
この実施態様では、イオントラップ2を使用して各イオン束をパルス化し、飛行時間測定を行う。
【0326】
タンデム質量分析計のこの実施態様は、同等の質量分析計を使用し、質量選択により質量解離スペクトルを発生させる当業者には公知である。
【0327】
先ず、イオン供給源1により放射された一次イオンを保存した後、解離を行わずに、および飛行時間の空間を通してイオン束のパルス化の後、一次質量スペクトルを発生させる。
【0328】
次いで、イオントラップで一次質量選択を行わずに、イオントラップの内側に含まれるガス分子によるCIDにより帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、低運動エネルギーで、質量解離スペクトルを発生させる。
【0329】
本発明の方法により、解離ピークの多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、対応する一次イオンの質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0330】
本発明の第三実施の一実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置をイオン供給源1の上流に配置することができる。
【0331】
分光計の第四実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第一実施方法を図2に例示する。
【0332】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、FT−ICRフーリエ変換質量分析計2、3、およびサイクロトロン周波数を測定する検出器4を包含する。
【0333】
この実施態様では、FT−ICRフーリエ変換質量分析計を、解離装置2および質量分析計3の両方として使用する。
【0334】
タンデム質量分析計のこの実施態様は、同等の質量分析計を使用し、質量選択により質量解離スペクトルを発生させる当業者にはそれ自体公知である。
【0335】
先ず、イオン供給源1により放射された一次イオンを保存した後、解離を行わずに、FT−ICRフーリエ変換質量分析計により一次質量スペクトルを発生させる。
【0336】
次いで、フーリエ変換分光計で一次質量選択を行わずに、中性ガスの分子による衝突誘発された解離(CID)により、または該分光計の空間における電子捕獲解離(ECD)により帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、低運動エネルギーで、質量解離スペクトルを発生させる。
【0337】
本発明の方法により、解離質量の多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0338】
本発明の第二実施の一実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置をイオン供給源1の上流に配置することができる。
【0339】
本発明の第四実施の別の実施態様では、図8に例示するように、本装置に、イオン供給源1と解離装置2の間に配置された四重極型質量分析計5またはイオントラップ5を装備し、本発明の方法で確認される、解離質量ピークの誤った多重組の数を少なくする。四重極型Qは、大きな質量寛容度で、問題とする幾つかの一次質量ピークを同時に選択することができ、イオントラップはさらに、問題とする全ての一次質量ピークを同時に選択することができる。
【0340】
この実施態様に加えて、図8に例示するように、本装置は、四重極型質量分析計(それぞれイオントラップ5)とFT−ICRフーリエ変換質量分析計3の間に配置された、多極イオンガイド2をさらに備え、帯電フラグメントをFT−ICRフーリエ変換質量分析計3の中に注入する前に、CIDにより一次イオンを解離させることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には質量分光測定の分野に関する。
【0002】
質量分光測定(MS)は、その種類に関係なく、一般的には試料中に存在する分子を、これらの分子をイオン化して加速し、質量分析計の中に注入した後、これらの分子の質量を測定することにより同定する工程を包含するものであることが知られている。
【0003】
質量分析計は、分析する試料中に含まれる様々な分子の質量スペクトルを、発生するイオンの質量-対-電荷比(M/Q、Mは質量であり、Qは電荷である)の値の関数として発生するが、このスペクトルは、イオンの質量-対-電荷比F(M/Q)の関数に対して、イオン検出器により検出されたイオンの電流強度の形態にあり、この関数は、使用する質量スペクトルに特徴的であり、一般的に下記式:
【数1】
を有する(式中、Gは使用する質量分析計のタイプによって異なる関数であり、イオンの質量と電荷の比とは無関係である)。
【0004】
使用される主な質量分析計は、飛行時間型質量分析計、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、3Dイオントラップ、2Dイオントラップ、およびFT−ICR質量分析計(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴分光計用)である。
【0005】
質量分析計のそれぞれに対応する具体的な操作形態、実施態様および特徴的な関数は、当業者には公知である。
【0006】
直線的飛行時間型質量分析計に関して、特徴的な関数は、イオンの飛行時間の二乗、TOF2である。
【数2】
(式中、
Lは、イオンセットのパルス化とそれらの検出との間の直線的飛行時間の距離であり、
V0はイオン加速電圧(tension)である。
【0007】
磁場偏向型質量分析計では、特徴的な関数は、磁気セクター内で印加される、可変磁場の二乗、B2であり、これが、イオンをそれらの質量-対-電荷比(M/Q)に対してフィルターをかけ、イオン検出器に送る。
【数3】
(式中、Rは磁場セクター半径であり、V0はイオン加速電圧である。)
【0008】
四重極型質量分析計では、特徴的な関数は、四重極に印加される可変電圧VQであり、これが、イオンをそれらの質量-対-電荷比(M/Q)に対してフィルターをかけ、イオン検出器に送る。
【数4】
【0009】
イオントラップ分光計では、特徴的な関数は、イオントラップに印加される可変電圧VITであり、イオンをそれらの質量-対-電荷比(M/Q)に対して放出し、イオン検出器に送る。
【数5】
【0010】
FT−ICR分光計では、特徴的な関数は、イオンの各質量-対-電荷M/Q値に対応するサイクロトロン角度周波数ωFTICRであり、そのフーリエ変換解析および測定により、質量スペクトルを発生することができる。
【数6】
(式中、GFTICRは、磁場強度である。)
【0011】
特に、タンデム質量分光測定(MS−MS)は良く知られており、一次質量スペクトルが分析しているイオンを同定できない場合に使用される。この測定は、第一質量分析計により、分析する試料中に存在するイオン化された分子の一次質量スペクトル(MS)を発生させ、一次質量を選択する工程を行い、次いで該選択された一次質量の一次イオンを解裂させ、即ち解離装置により解離させ、第二質量分析計により、該一次イオンの解離から来る帯電フラグメントの解離質量スペクトルとして説明される質量スペクトルを発生させる。
【0012】
一般的に各解離質量スペクトルを実現するために行われる一次質量選択は、質量スペクトルが次々に発生するために、タンデム質量分析計の取得デビット(acquisition debit)を制限する。
【0013】
これは、タンデム質量分析計の感度も制限し、この感度は、各質量解離スペクトルを発生するために消費される試料の量として定義され、残りの、イオン供給源から与えられた、選択されなかったイオンは、実際には、選択された一次イオンの質量スペクトルを発生させるために排除される。
【0014】
一次イオン解離は、高い運動エネルギー(約0.8〜20KeV)または低い運動エネルギー(約10〜200eV)で行われる。
【0015】
低運動エネルギー解離は、既存のすべての質量分析計で使用できるのに対し、高運動エネルギー解離は、一般的にタンデム磁場セクター質量分析計またはタンデム飛行時間型質量分析計で使用される。
【0016】
低運動エネルギー解離の場合、解離した帯電フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比m/qにのみ依存し、親の一次イオンの質量-対-電荷比M/Qには依存しない。
【0017】
高運動エネルギー解離の場合、解離した帯電フラグメントの特徴的な関数F'(M/Q)は、一般的に帯電フラグメントの質量-対-電荷比M/Qおよび親の一次イオンの質量-対-電荷比M/Qに依存する。その結果、同等の質量分析計に対して、解離していない一次イオンの特徴的な関数は、帯電フラグメントの特徴的な関数とは異なる。
【0018】
さらに、帯電フラグメントの特徴的な関数は、一般的に下記式では表せない。
【数7】
【0019】
飛行時間型質量分光測定の特別な場合、上に記載した一次質量選択を行うタンデム飛行時間型質量分析計に加えて、一次質量選択を行わないタンデム飛行時間型質量分析計も良く知られている。
【0020】
これらの質量分析計は、幾つかの解離質量スペクトルを同時に発生させるのに使用できる。
【0021】
一次質量選択を行わない飛行時間型質量分光測定の方法(外国特許文献1、外国特許文献2、外国特許文献3、外国特許文献4)も良く知られており、これらの方法は、異なった解離スペクトルを発生するのに幾つかの取得を必要とするが、一次質量選択を使用する装置と比較して、連続的な取得の数は低い。
【0022】
特に、一回の取得で、一次質量選択を行わずに、幾つかの解離質量スペクトルを発生するのに使用されるタンデム飛行時間型質量分光測定方法が公知である(外国特許文献5)。これは、飛行時間を測定位置に変換することに基づく、一次質量選択を行わない飛行時間型質量分光測定の方法である。この方法は、同時に到達できる一次質量の範囲を制限する。
【0023】
外国特許文献1〜5に記載の方法は、高運動エネルギーにおける一次イオン解離とのみ相容性がある。
【0024】
単一帯電一次イオンの解離は簡単であり、一般的に中性フラグメントおよび単一帯電フラグメントを含んでなる対の形成に限られるのに対し、多帯電一次イオンの解離は、複雑な場合があり、幾つかの潜在的解離チャネルにつながる(外国特許文献6)。解離チャネルの二つの主要な群は、帯電フラグメントの多重組(multiplet)(例えば帯電フラグメントの対および三重組)への、および帯電フラグメントおよび中性フラグメントを含んでなるフラグメントの多重組への解裂(fragmentation)である。
【0025】
MおよびQが、それぞれ親の一次イオンの質量および電荷を表し、miおよびqiが、それぞれの解離フラグメントi(ここでi=1,2または3)の質量および電荷を表す場合、フラグメント対への主要解離チャネルは、
(a)M(Q)→m1(q1)+m2(q2)、
(式中、m1+m2=Mおよびq1+q2=Qである)
(b)M(Q)→m1(q1=Q)+m2(q2=0)、
(式中、m1+m2=Mである)
であるのに対し、フラグメント三重組への主要解離チャネルは、
(c)M(Q)→m1(q1)+m2(q2)+m3(q3)、
(式中、m1+m2+m3=Mおよびq1+q2+q3=Qである)
(d)M(Q)→m1(q1)+m2(q2)+m3(q3=0)、
(式中、m1+m2+m3=Mおよびq1+q2=Qである)
(e)M(Q)→m1(q1=Q)+m2(q2=0)+m3(q3=0)、
(式中、m1+m2+m3=Mである)
である(外国特許文献6)。
【0026】
その上、親一次イオンは、解離の際に(例えばガスの一次イオンと分子との間の「誘発された衝突解離(CID)の際に」)失うか、または電子を捕獲する(例えば「電子捕獲解離(ECD)」の際に)ことがある。従って、フラグメント電荷の総計は、最早Qと等しくはなく、Q'=Q±e(ここでeは電荷単位である)となる。
【0027】
同時に、および単一取得で、一次質量選択を行わずに、および一次質量の範囲を制限せずに、複数の解離質量スペクトルを発生するために使用でき、その際、多帯電一次イオンの解離を、高および低運動エネルギー解離の両方で行うことができる、タンデム質量分光測定は、現在知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許第4,472,631号(J.D. Pinston et al., Rev. Sci. Instrum. 57(4), (1983).C.G. Enke et al.)
【特許文献2】米国特許第4,894,536号(S. Della-Negra And Y. Leybec, Anal. Chem., 7(11), (1985), p.2035、K.G. Standing et al., Anal. Instrumen., 16, (1987), p.173、R.J. Conzemius)
【特許文献3】米国特許第5,206,508号(Alderdice et al.)
【特許文献4】米国特許第2005/0098721A1号(R.H. Bateman, J.M. Brown, D.J. Kenny)
【特許文献5】特許PCT/US2004/008424号(C.G. Enke)
【特許文献6】米国特許第5,073,713号(R.D. Smith et al.)
【発明の概要】
【0029】
従って、本発明の目的の一つは、多帯電一次イオンの場合に、現状技術水準の上記の欠点を解決することである。
【0030】
特に、本発明の目的の一つは、一次質量選択を行わない、公知の質量分析計と相容性があり、多帯電一次イオンに対して、単一取得で、分析する試料中に存在する複数の異なった一次質量に対して解離スペクトルを同時に発生させることができ、親の一次イオンが低または高運動エネルギーで解離する、質量分光測定方法を提案することである。
【0031】
このために、本発明は、第一態様により、分析すべきイオンの質量-対-電荷比の公知の特徴的な関数を有する質量分析計で使用するためのタンデム質量分光測定方法であって、
(a)分析すべき一次イオン供給源を用意する工程、
(b)前記一次イオンの、一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに発生させる工程、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値、およびそのピークに関連する電荷値から、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、特徴的な関数値の可能な全ての多重組が適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを同時に解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得る工程、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(g)前記潜在的な多重組の中から、該相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、
(h)それぞれ問題とする親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程
を含んでなる、方法を提供する。
【0032】
本方法の、好ましいが、本発明を制限しない幾つかの態様は、下記の通りである。
問題とする一次イオンの解離は、既知の質量を有する中性フラグメントを発生することができ、該相関法則を決定する工程が、そのような質量の潜在的損失を考慮する。
前記相関法則を決定する工程が、解離フラグメントに特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる。
前記相関法則を決定する工程が、解離フラグメントに特徴的な関数値を発生する工程に続いて行われる。
帯電した解離フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に依存し、親一次イオンの質量-対-電荷比には依存しない。
帯電した解離フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に比例する。
相関法則が、計算により決定される。
帯電した解離フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に、および親一次イオンの質量-対-電荷比に依存する。
相関法則が、質量および電荷が既知であるイオンで得た校正データの使用により決定される。
前記相関法則を決定する工程が、下記の準工程、即ち
(d1)質量および電荷が既知であるイオンに対して一次質量スペクトルを発生すること、
(d2)前記スペクトルで一次質量ピークを選択すること、
(d3)選択された一次イオンを解離させ、特定の質量-対-電荷比(M/Q)を求めること、
(d4)選択された一次イオンから来る解離フラグメントの解離質量スペクトルを発生すること、
(d5)解離質量スペクトル中で、帯電フラグメントの多重組への解離が起こることに対応するピークの多重組を確認すること、
(d6)確認された各多重組に属する各ピークの出現の極大に対応する特徴的な関数値(Fmax(M/Q))を決定すること、
(d7)それぞれの可能な電荷多重組に対して、この電荷多重組を満足し、質量-対-電荷比(M/Q)に、一次電荷Qに、および選択された一次質量ピークに対する出現極大における特徴的な関数値(Fmax(M/Q))に対応する特徴的な関数値の確認された多重組との相関法則のそれぞれを決定すること、
(d8)工程(d1)〜(d7)を、既知分子の一次質量スペクトルの各選択された一次質量ピークに対して繰り返すことを包含する。
本方法は、既知分子で得た相関法則に基づき、未知分子の一次質量ピークの相関法則を決定する工程をさらに含んでなる。
決定された相関法則は、座標のセットにより規定される。
決定された相関法則は、分析により規定される。
本方法は、一次質量選択により、問題とする異なった一次イオンの群を選択する工程をさらに含んでなる。
問題とする一次イオンを選択する工程は、解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる。
近接基準は調節可能である。
工程(e)〜(g)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、工程(e)で決定した特徴的な関数値は、該累積出現により形成されるピークの極大における関数値である。
工程(e)〜(g)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、工程(h)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う。
前記特徴的な関数の値は、関連する飛行時間である。
解離したイオンは、連続する周期的なイオンパルス中に含まれ、パルス発生期間は、測定すべき解離した帯電フラグメントの最長飛行時間より短く、工程(d)および(e)は、連続するパルス間のオーバーラップで行われ、工程(c)は、先行するイオンパルス中に含まれる問題とする親一次イオンの解離により生じた帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に対する相関法則を決定することを包含する。
【0033】
第二の態様により、本発明は、下記の組み合わせ、
(a)分析すべき多帯電一次イオンの供給源(1)、
(b)前記一次イオンの、一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに、発生する装置(3)、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値および前記ピークに関連する電荷値、から決定された一組の相関法則であって、この相関法則は、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得るように設計された解離装置(2)、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生し、保存する装置、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成し、前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定し、それぞれ問題とする該親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生するための処理装置、
を含んでなる、タンデム質量分析計を提供する。
【0034】
このタンデム質量分析計の、好ましいが、本発明を限定しないいくつかの態様は、下記の通りである。
分光計が、問題とする異なった一次イオンの群を選択するための一次質量選択装置をさらに含んでなる。
前記一次質量選択装置が、イオントラップを含んでなる。
前記一次質量選択装置が、四重極を含んでなる。
前記一次質量選択装置が、一時的ゲートを含んでなる。
前記解離装置が、多極導波管である。
前記分光計が、飛行時間型質量分析計を含んでなる。
前記解離装置が、イオン束を飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の前に配置される。
解離装置が、イオン束を飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の後に配置される。
前記イオン加速器が、直角注入装置を含んでなる。
前記分光計が、レフレクトロンをさらに含んでなる。
前記多帯電イオン供給源(1)が、エレクトロスプレーイオン化イオン供給源である。
【0035】
第三の態様により、本発明は、イオンの質量-対-電荷比の既知の特徴的な関数を有する質量分析計を含んでなる質量分光測定装置で実行するように設計されたコンピュータプログラムであって、
(a)前記装置を、分析すべき多帯電一次イオンの供給源から、解離を行わずに、前記一次イオンの一次質量スペクトルを発生させ、その際、該スペクトルが、一次イオン出現のピークを含むように制御する工程、
(b)このスペクトルの、一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値を含むデータを、前記ピークに関連する電荷値から取得する工程、
(c)前記データから、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンの同時解離が起きるように前記装置を制御し、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を入手し、該解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(e)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(f)前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、および
(g)それぞれ問題とする前記親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程
を行うように設計された、一連の指示を包含する、プログラムを提供する。
【0036】
このコンピュータプログラムの、本発明を限定しない好ましいいくつかの態様は、下記の通りである。
工程(e)〜(f)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、工程(d)で決定された特徴的な関数値が、前記累積出現により形成されたピークの極大にある特徴的な関数値である。
工程(e)〜(f)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、工程(g)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う。
【0037】
本発明の他の態様、目的および利点は、本発明を限定しない例として、以下に添付の図面を参照しながら記載する本発明の説明を参照することにより、明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の分光測定の好ましい実施方法に関するフローチャートである。
【図2】本発明の一例による質量分光測定方法を実施するために設計された装置の構成部品を例示する。
【図3】確認すべき分子の、3個の一次質量ピークを含んでなる一次質量スペクトルを例示する。
【図4】一次質量選択を行わずに得た、図3の3個の一次質量ピークに対応する3個の解離スペクトルの解離質量ピークを含んでなる質量解離スペクトルを例示するが、その際、帯電フラグメントの、各解離質量ピーク出現の極大における特徴的な関数値の幾つかが示されている。
【図5】図4の質量解離スペクトルの3個の解離スペクトルを例示する。
【図6】二次元的スペクトルの平面内で、図3の3個の一次質量ピークの相関法則に対応する、帯電フラグメントの対に解離する多帯電一次イオンの特徴的な線の3例を例示する。
【図7】二次元的スペクトルの平面を例示するが、そこでは、図3の一次質量ピークの、一次質量選択を行わずに帯電フラグメントの対に解離する二重帯電イオンに対応する3本の特徴的な線を、図4の解離ピーク出現の極大における特徴的な関数値の潜在的な真の対の位置と共に示す。
【図8】本発明の一実施態様によるタンデム質量分析計を例示する。
【図9】図9AおよびBは、本発明の校正方法を、高運動エネルギー解離を実施するタンデム飛行時間型質量分析計に適用する際の、既知の分子に対する一次質量スペクトル、およびこれらの一次質量ピークの一つによりイオンを選択した後に発生した解離スペクトルの一例を示す。
【図10】本発明の校正方法を、高運動エネルギー解離を使用するタンデム飛行時間型質量分析計に適用する際の、選択された質量-対-電荷比を有する二重に帯電した既知の一次イオンの相関線を、二次元的スペクトルの平面内で、例示する。
【図11】本発明の方法をタンデム飛行時間型質量分析計に適用する際の、通常周波数fより高い周波数f'におけるイオン束をパルス化する場合の、低運動エネルギーで同様の質量-対-電荷比で解離する二重に帯電した一次イオンから来る解離フラグメントの対を確認する、4つの異なった例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
第一に、「多帯電したイオン」とは、正または負の電荷を有し、電荷の絶対値が2以上であり、解離した時、絶対値が1以上である正または負の電荷を有する帯電フラグメントの多重組を発生することができるイオンを意味する。
【0040】
特に図1に関して、本発明の方法は、好ましくは多帯電した一次イオンを、帯電フラグメントの対を含んでなるフラグメントの多重組、帯電フラグメントの三重組、または帯電フラグメントの対と質量が既知である中性フラグメントから構成されたフラグメントの三重組に解離させることを目的とする。しかし、より一般的には、本発明を、帯電フラグメントの対および帯電フラグメントの対と質量が既知である中性フラグメントを含んでなるフラグメントの三重組に加えて、少なくとも3個のフラグメントを含んでなる帯電フラグメントの多重組および少なくとも3個の帯電フラグメントと質量が既知である中性フラグメントを有する帯電フラグメントの多重組を含んでなるフラグメントの多重組を発生する、あらゆる解離チャネルで実行することが可能である。
【0041】
この実施方法では、分析すべきイオンに対する質量-対-電荷比の既知の特徴的な関数を有するどのような質量分析計で行っても、第一工程は、確認または研究すべき分子から得られる多帯電イオンに対する一次質量スペクトルを供給することを含んでなる。
【0042】
この一次質量スペクトルは、データベース、例えばその一次質量スペクトルが予め中に保存されている第三者のデータベース、から読み取ることにより、得ることができる。
【0043】
この一次質量スペクトルは、図1に例示する工程(a)および(b)を実行することによっても得ることができる。
【0044】
工程(a)で、確認すべき分子を、多帯電イオンの供給源1中でイオン化し、実質的に一定の電場で加速し、一次イオン供給源を与える。
【0045】
次いで、工程(b)で、一次イオンを質量分析計3の中に注入し、解離を行わずに、該一次イオンの一次質量スペクトルを発生させ、該スペクトルは、特徴的な関数値の測定に続いて得た一次イオンピーク出現を含む。
【0046】
質量分光測定の当業者(限定するものではないが)により従来から使用されている提示グラフでは、一次質量スペクトルは、一般的に、特徴的な関数値が横軸に、対応する出現が縦軸にある2つの直交する軸で示される。
【0047】
ついで、工程(c)で、この一次質量スペクトルを使用し、各一次質量ピークに対して、一次質量ピークの出現の極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)、一次質量-対-電荷比M/Qおよびイオンの一次電荷Qを決定する。
【0048】
当業者は、使用する質量分析計の通常の一次校正を、既知の分子で、予め行うことにより、各一次質量ピークに対応する一次イオンの各一次質量-対-電荷比M/Qの値を決定することができる。
【0049】
当業者は、質量分光測定で通常使用されている確認技術で、各一次質量ピークに対応する多帯電一次イオンの電荷Qを決定することもできる。
【0050】
図3は、一次イオンの、質量-対-電荷比M1/Q1、M2/Q2およびM3/Q3および一次質量ピークのそれぞれに対する出現の極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)をそれぞれ有する3個の一次質量ピークを含む一次質量スペクトルの例を示す。
【0051】
ピークに関連する特徴的な関数値および電荷値から、一次質量ピークに関連する一次イオンの解離から来そうな帯電フラグメントの多重組に対応する特徴的な関数値の全ての可能な多重組を与える相関法則が決定される。
【0052】
フラグメントの対に解離する多帯電一次イオンに対して、本発明の方法を実行することにより、ただ一つの解離チャネルを検出することができ、それは、一次イオンの、帯電フラグメント対への解離である。
【0053】
一次質量Mと、帯電フラグメントの可能な質量対mi、mjとの間の関係は、
M=mi+mj
である。
【0054】
一次電荷Qと、帯電フラグメントの可能な電荷対qi’、qj’との間の関係は
Q=qi’+qj’
である。
【0055】
一次質量ピークあたりの相関法則の数は、解離した帯電フラグメント対の間に、一次イオンの一次電荷Qが分布する可能性の数に等しい。
【0056】
例えば、Q1=2eに対して、帯電フラグメントの対、即ち
qi’=e、qj’=e
の間に電荷が分布する可能性はただ一つである。
【0057】
Q2=3eでは、帯電フラグメントの対間に電荷が分布する二つの可能性、即ち
qi’=e、qj’=2e、および
qi’=2e、qj’=e
があり、従って、二つの対応する相関法則がある。
【0058】
Q3=4eでは、帯電フラグメントの対間に電荷が分布する三つの可能性、即ち
qi’=e、qj’=3e、
qi’=3e、qj’=e、および
qi’=2e、qj’=2e
があり、従って、三つの対応する相関法則がある。以下、同様である。
【0059】
低運動エネルギー解離(上記参照)の場合、解離帯電フラグメントの特徴的な関数は、解離フラグメントの質量-対-電荷比に依存するが、親一次イオンの質量-対-電荷比には依存せず、解離フラグメントの質量-対-電荷比に比例する。
【0060】
従って、同じ質量-対-電荷比M/Qを有し、帯電フラグメントの対に解離する一次イオンに関連する一次質量ピークのそれぞれの電荷qi’、qj’の各対に対応するそれぞれの相関法則は、常に、解析的に、下記式:
【数8】
ここで、下記式
【数9】
により表される。
【0061】
従って、一次質量スペクトルの一次質量ピークに対応する各相関法則は、本発明の方法により、一次電荷値および一次質量ピーク出現の極大における特徴的な関数値に基づいて決定することができる、即ち
一次電荷Qの決定により、可能な電荷qi’、qj’の各多重組を決定することができ、
出現の極大における特徴的な関数値の決定により、式(2)を使用し、各相関法則の各F(M/Qi’)値を決定することができる。
【0062】
フラグメントの三重組に解離する多帯電一次イオンでは、本発明の方法を実行することにより、二つの解離チャネルを検出することができ、これは、一次イオンの、帯電フラグメントの三重組への解離、または帯電フラグメントの対および既知質量を有する中性フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの三重組への解離である。
【0063】
中性フラグメントをさらに含んでなるフラグメントの三重組から来る帯電フラグメントの解離対を形成する解離チャネルに関して、対応する相関法則は、中性フラグメントの質量が既知である場合にのみ決定することができる。
【0064】
一次質量Mと、帯電フラグメント(mi、mj)の可能な質量三重組(mi、mj、ΔM)と、中性フラグメント(ΔM)の間の関係は、
M=mi+mj+ΔM
である。
【0065】
一次電荷Qと、帯電フラグメントの可能な電荷対(qi’、qj’)との間の関係は、
Q=qi’+qj’
である。
【0066】
その場合、中性フラグメントの各可能な質量に対する一次質量ピークあたりの相関法則数は、同じ一次電荷Qに対して、帯電フラグメント対への可能な解離チャネルの数と等しい。
【0067】
この解離チャネルを通して発生する中性フラグメントの様々な可能な質量のほとんどは、実際には当業者に公知である。例えば、確認すべき分子がペプチドである場合、中性フラグメントは、通常、H2O、COまたはNH3分子である。他の可能な分子は、特にデータベースから決定することができるか、または当業者には公知である。
【0068】
従って、ΔMが、中性フラグメントの可能な既知の質量として示される場合、帯電フラグメントと、各可能な値ΔMに対応する既知の質量を有する中性フラグメントとの対を含んでなるフラグメントの三重組への解離チャネルの相関法則は、質量Mおよび電荷Qを有する一次イオンに対する帯電フラグメント対への解離チャネルに関して、(M-ΔM)をMに置き換えることにより得た、前の相関法則(1)および(2)により、決定される。
【数10】
ここで、
【数11】
【0069】
質量Mおよび一次電荷Qを有し、それぞれの質量-対-電荷比{(mi/qi')、(mj/qj')、(mk/qk')}の帯電フラグメントの三重組に解離する多帯電イオンの場合、一次質量Mと帯電フラグメントの可能な質量三重組、mi、mj、mkの間の関係は、
mi+mj+mk=M
である。
【0070】
一次電荷Qと帯電フラグメントの可能な電荷三重組(qi'、qj'、qk')の間の関係は、
qi'+qj'+qk'=Q
である。
【0071】
帯電フラグメント対への解離の場合と同様に、中性フラグメントの各可能な質量に対する一次質量ピークあたりの相関法則数は、同じ一次電荷Qに対して、帯電フラグメント三重組への可能な解離チャネルの数と等しい。
【0072】
電荷Q=3eを有する多帯電親一次イオンの例では、三重組の解離帯電フラグメント間にただ一つの可能な電荷配分、即ち
qi'=qj'=qk'=e
その結果、ただ一つの相関法則があることが分かっている。
【0073】
無論、この推論は、4e以上の一次電荷を有する、帯電フラグメントの全ての多重組に適用できる。
【0074】
低運動エネルギー解離の場合、3個の解離帯電フラグメントqi'、qj'、qk'のそれぞれの可能な電荷配分に対応する各相関法則は、帯電フラグメントの対の場合と同様に、一次式:
【数12】
ここで
【数13】
により、決定することができる。
【0075】
無論、この推論は、少なくとも3個の帯電フラグメント、または少なくとも3個の帯電フラグメントおよび既知の質量を有する中性フラグメントを含んでなるフラグメントの全ての三重組に適用できる。しかし、これは、当業者が前の例を使用してそのような一般化を行うことができるので、詳細には説明しない。
【0076】
ここで、本発明の方法の実行に戻り、工程(d)で、多帯電一次イオンを、解離装置2により解離させ、多帯電一次イオンのそれぞれに対して帯電フラグメントの多重組を得る。
【0077】
工程(e)では、解離帯電フラグメントを質量分析計3の中に注入し、出現(またはイオン電流強度)に対する特徴的な関数値を、イオン検出器4により検出した解離帯電フラグメントに対して測定する。
【0078】
次いで、この値に基づいて、一次質量選択を行わずに、一次質量スペクトルの親一次イオンの各解離スペクトルの全ての質量解離ピークを含んでなる解離質量スペクトル(MS−MS)を発生させる。
【0079】
従って、一次質量スペクトルの一次質量ピークに対応する幾つかの質量解離スペクトルの質量解離ピークは、一次質量選択を行わずに発生させた質量解離スペクトル中に混合されている。
【0080】
この分野における専門家に対する従来のグラフ表示では、限定はしないが、各解離質量スペクトルを、確認された特徴的な関数値が横軸に、対応する出現が縦軸にある2つの直交する軸で示される。
【0081】
図4は、図3に示す3個の一次質量ピークの帯電フラグメント対への解離チャネルにのみ対応する、解離ピークを含む解離質量スペクトル(MS−MS)を例示する。
【0082】
実際、一次イオンの解離は、
問題とする他の可能な解離チャネルにより発生した、本発明の方法(例えば帯電フラグメントの三重組への解離、および帯電フラグメントの対および既知質量を有する中性フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの三重組への解離)により確認できる帯電フラグメント、および
本発明の方法により確認できない解離ピーク(例えば中性および帯電フラグメントの対への解離に対応する解離ピーク)
をさらに発生することが分かる。
【0083】
従って、解離質量スペクトルは、確認できる解離質量ピークに加えて、他の可能な解離チャネルに対応する確認できない質量解離ピークを、解離していない一次イオンピークの一次質量ピークと共に含む。しかし、確認し得る解離ピーク以外の、問題とする解離ピーク、および解離していない一次質量ピークは、本発明の方法により発生する最終的な解離スペクトルから排除することができる。
【0084】
その場合、質量解離ピークの解離ピークのそれぞれの極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)は、出現に対して発生した特徴的な関数値に基づいて決定される。
【0085】
図4の例に関して、解離スペクトルは、7対の解離ピークに対応する14個の質量解離ピークを含んでなり、各解離ピーク対は、同じ質量-対-電荷比M/Qを有する同等の一次イオンの解離から来る帯電フラグメントの対に関連する。解離帯電フラグメントに対する極大Fmax(M/Q)における14個の特徴的な関数値の中の4個を示す。
【0086】
工程(f)で、測定された、解離帯電フラグメントに対する極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)から、該特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組が形成される。
【0087】
工程(g)で、該値の潜在的な多重組の中から、解離帯電フラグメント(一次質量ピークのそれぞれに対して同じ質量-対-電荷比M/Qを有する同等の一次イオンの解離から来る)の多重組に関連する解離ピークの真の多重組に対応する、特徴的な関数値の真の多重組は、値の潜在的な多重組を、各一次質量ピークの相関法則により決定される値の可能な多重組と比較することにより、確認される。
【0088】
本発明により、この確認工程(g)では、出現の極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)の潜在的な多重組の中から、可能な値の多重組に対する近接基準に適合する多重組を選択し、該多重組は、一次質量スペクトルの各一次質量ピークの相関法則により与えられる。
【0089】
近接基準精度は、一次イオンに対する極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)の精度、この精度は対応する特徴的な法則の精度を決定する、と少なくとも実質的に等しく、潜在的な真の多重組値の精度を決定する解離帯電フラグメントに対する極大における特徴的な関数値Fmax(M/Q)測定の精度に近い精度を決定する。
【0090】
一次イオンの極大Fmax(M/Q)および帯電フラグメントの極大Fmax(M/Q)における特徴的な関数値の精度は、対応する質量ピークの分解能によって異なる。
【0091】
最後に、工程(h)で、親一次イオンのそれぞれに対応し、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる各質量解離スペクトルを発生する。
【0092】
上記のように、本発明の好ましい実行方法により、工程(d)から、分析すべき一次イオンの全てに対して、一次質量選択を行わずに、本方法を実行する。
【0093】
従来から当業者により使用されているグラフによる表示では、各質量解離ピークを、測定された特徴的な関数値が横軸に、対応する出現が縦軸にある、2つの直交する軸で示される。
【0094】
図5は、本発明を制限しない例として、図4の一次質量選択を行わない質量解離スペクトルにより得た、図3の3個の一次質量ピークの3種類の質量解離スペクトルを例示する。
【0095】
上記の工程(g)を説明するために、好ましい実行方法を、低運動エネルギーにおける帯電フラグメント対への解離チャネルの場合で、グラフ表示を通した推論により、説明する。
【0096】
しかし、当業者には明らかなように、これは、他の多くの様式の中で、とりわけ、この工程の原理を例示し、本発明のデジタル処理を行う様式を理解することを目的とする、代表的な一例に過ぎない。
【0097】
本方法の工程(g)は、下記の小工程を含んでなる。
【0098】
先ず、二次元的スペクトルの発生から始めて、帯電フラグメントの対に解離する各一次イオンから得られる特徴的な関数値の各真の対を、全ての測定される特徴的な関数値の潜在的な対の中から確認する。
【0099】
このスペクトルは、検出されたフラグメントの質量解離ピーク出現の極大における特徴的な関数の測定をそれぞれ示す、2つの同等の第一次元を有する。
【0100】
グラフ表示で、2つの次元は、好ましくは互いに直交する2本の軸に対応する。
【0101】
二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}では、各相関法則は、相関線によって表され、平面内におけるその位置および形態は、先行する工程(c)で決定された該相関法則により決定される。
【数14】
ここで
【数15】
帯電フラグメントの対に解離する2eの電荷を有する多帯電イオンに関して、相関法則は、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}における直線により表される。
【0102】
次いで、各飛行時間対{Fmax(M/Qi’)、Fmax(M/Qj’)}の値を有する各相関直線を平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}中に引くことができる。
【0103】
各対{Fmax(M/Qi’)、Fmax(M/Qj’)}は、平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}の2軸のそれぞれの上の2個の位置、即ち下記式:
【数16】
の相関直線の、軸Fmax(mr/qr’)上のFmax(M/Qi’)および軸Fmax(ms/qs’)上のFmax(M/Qj’)により規定される。
【0104】
従って、二次元的スペクトルの、平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある、各相関法則に対応する各相関直線は、それぞれの軸上に位置する2点Fmax(M/Qi’)およびFmax(M/Qj’)を直線で結ぶことにより、容易に決定される。
【0105】
従って、電荷qi’、qj’の各対に対応する各相関直線の特徴的な関数値{Fmax(M/Qi’)、Fmax(M/Qj’)}は、出現極大Fmax(M/Q)における特徴的な関数値により、対応する質量ピークの一次電荷Qにより、
【数17】
から決定することができる。
【0106】
図6は、本発明を制限しない例として、低運動エネルギーで解離する多帯電イオンに関して、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある、一次電荷Q'1=2e、Q'2=3e、およびQ'3=4e、の一次質量ピークに対応する相関法則により決定される相関直線を示す。
【0107】
図3の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある相関直線の、一次電荷Q'1=2eの一次質量ピークの相関法則に対応する式は、
【数18】
である。
【0108】
図6の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある2本の相関直線の、一次電荷Q'2=3eの一次質量ピークの二つの相関法則に対応する式は、
【数19】
である。
【0109】
図6の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある3本の相関直線の、一次電荷Q'3=4eの一次質量ピークの三つの相関法則に対応する式は、
【数20】
である。
【0110】
それぞれの潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}は、二次元的スペクトル中の出現位置Prsに関連する。
【0111】
その場合、それぞれの潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}に、対称的な潜在的対{Fmax(ms/qs’)、Fmax(mr/qr’)}が対応する。二つの対称的な潜在的対には、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}内にある出現位置(Prs、Psr)の対が対応する。
【0112】
その場合、それぞれの真の対{Fmax(mt/qt’)、Fmax(mu/qu’)}は、二次元的スペクトル中の対応する出現位置(Ptu、Put)の対が、特定の閾より小さい距離で、相関直線の近くに通過する正当性を有する対を維持することにより、潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}の中から確認される。
【0113】
ここで、距離閾基準は調節できるのが有利であることが分かる。
【0114】
該距離閾の精度は、一次イオンに対して測定された極大Fmax(M/Q)における特徴的な関数値の、対応する相関直線の精度を決定する精度に少なくとも近く、解離帯電フラグメントに対する極大Fmax(M/Q)で測定された特徴的な関数値の、二次元的スペクトルにおける潜在的な真の出現の精度を決定する精度に近い。
【0115】
図7は、本発明を制限しない例として、二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}を示し、そこでは、図3に示す一次質量スペクトルの3本の相関直線が位置しており、これらの相関直線は、二重帯電一次イオンの3個の一次質量ピークの相関法則に対応し、これらの二重帯電一次イオンは、それぞれM1/Q1、M2/Q2およびM3/Q3に等しい質量-対-電荷比を有する単一帯電フラグメントの対に直接解離する。
【0116】
この例示では、説明を簡単にするために、図4の14個の解離ピークの中から、2個の真の対に対応する4個の値{Fmax(M1/Q1’)、Fmaxm4/q4’)}{Fmax(M2/Q2’)、Fmax(M3/Q3’)}だけを示す。
【0117】
これらの4個の値Fmax(M/Q)は、図7の二次元的スペクトルの平面{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}における潜在的な対に対応する、交差点で表す16個の異なった出現位置Prsを決定する。
【0118】
図4の14個の解離ピークに対応する14個の値Fmax(M/Q)を図7上に示す場合、196個の出現位置が決定されるであろう。
【0119】
質量-対-電荷比M1/Q1を有する一次イオンに対応する相関直線に最も近い潜在的な出現位置の対は対(P14、P41)であることが分かる。
【0120】
これらの位置P14、P41は、事実、該相関線の上またはすぐ近くにある。
【0121】
従って、位置の対(P14、P41)に対応する対{Fmax(M1/Q1’)、Fmaxm4/q4’)}は、図3の例における質量-対-電荷比M1/Q1を有する一次質量ピークの解離ピークに属する解離ピークの対の一つであると確認される。
【0122】
対照的に、潜在的な位置の他の対と、この相関線との間の距離は、決定された距離閾より大きいので、潜在的な位置の他の対は、質量-対-電荷比M1/Q1を有する一次質量ピークの解離スペクトルの解離ピークの対からは来ないと考えられる。
【0123】
ところで、質量-対-電荷比M2/Q2を有する一次イオンに対応する相関直線に最も近い潜在的な出現位置の対は対(P23、P32)である。
【0124】
従って、位置の対(P23、P32)に対応する対{Fmax(M2/Q2’)、Fmax(M3/Q3’)}は、図3の例における質量-対-電荷比M2/Q2を有する一次質量ピークの解離スペクトルに属する解離ピークの対の一つであると確認される。
【0125】
潜在的な位置の他の対と、相関線との間の距離は、決定された距離閾に対して重要過ぎるので、潜在的な位置の他の対は、質量-対-電荷比M1/Q1、M2/Q2またはM3/Q3を有する一次イオンのどの解離からも来ないと考えられる。
【0126】
確認される2個の真の出現対(P14、P41)および(P23、P32)を、図7で丸で囲んだ交差点により示す。
【0127】
この説明を簡単にするために、図4および7に例示する上記の例は、帯電フラグメントの対に解離する親一次イオンの解離ピークだけを含んでなる。
【0128】
無論、実際には、質量選択を行わずに得られる解離スペクトルは、多帯電一次イオンの他の可能な解離チャネルから得られる確認できる、および確認できない解離ピークを与える質量ピーク、ならびに解離しなかった多帯電イオンの一次質量ピークも含む。これらの解離ピークは、説明を簡単にしない。
【0129】
それにも関わらず、質量解離スペクトルの一次質量ピークは、一次質量スペクトルを使用することにより、実際に排除することができる。
【0130】
さらに、解離ピークのセットは、事実上の潜在的な多重組をさらに発生する。これらのほとんどは、真の多重組の確認基準により排除されるが、それらの幾つかは、受け容れられ、誤認される多重組、従って、本発明の方法により発生した解離スペクトルにおける質量解離ピークの誤った多重組を発生ることがある。
【0131】
しかし、当業者は、既知のデータベースにより、誤った多重組の質量を、親イオンの測定した質量に対応する、理論的または実験的に可能な解離チャネルのフラグメントの多重組の質量と比較することにより、該誤った質量解離ピークを排除することができる。
【0132】
上記のグラフを用いた方法は、帯電フラグメントの対を発生する解離チャネルに関して説明したが、明らかに、3個以上のフラグメントを含んでなる帯電フラグメント多重組、例えば三重組、を発生する解離チャネルにも実行できる。
【0133】
三重組の場合、本発明を制限しない例により、上記の二次元的スペクトルの代わりに三次元的スペクトルを使用する。該三次元的スペクトルは、3本の同等の軸を含んでなり、それらの軸のそれぞれが、一次質量選択を行わずに得た解離スペクトルの解離ピークの出現極大における解離帯電フラグメントの特徴的な関数の測定値を表す。
【0134】
好ましくは、これらの3軸は、互いに直角である。
【0135】
前に説明した二次元的スペクトル中で確認される各潜在的な対{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)}に対応する各出現位置Prsの等価物は、三次元的空間における、確認される各潜在的な{Fmax(mr/qr’)、Fmax(ms/qs’)、Fmax(mv/qv’)}三重組に対応する、出現位置Prsvである。
【0136】
その場合、帯電フラグメントの三重組への解離チャネルに対応する各相関法則には、式
【数21】
ここで
【数22】
を有する三次元的スペクトルの空間における相関平面が対応する。
【0137】
従って、三次元的スペクトルにおける各位置Putwに対応する各真の三重組は、前に説明した二次元的な場合と同様に、該相関空間に対する距離閾基準により、位置の潜在的な三重組の中で、確認される。
【0138】
本発明の方法は、帯電フラグメントの対、帯電フラグメントの三重組、既知の質量を有する中性フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの三重組、ならびに少なくとも3個の帯電フラグメントを含んでなる帯電フラグメントの多重組、および少なくとも3個の帯電フラグメントおよび既知の質量を有する中性フラグメントを含んでなるフラグメントの多重組に実行できる。その場合、可能な多重組の最大数としてNを指定すると、そのような多重組に対する相関法則は、N-1に等しい次元を有する空間である。
【0139】
前に説明したように、本発明の方法により、単一の取得で、質量選択を行わずに、一次質量スペクトルの全ての一次質量ピークに対応する全ての質量解離スペクトルを同時に発生させることができる。
【0140】
解離質量スペクトルを得ようとする問題とする質量ピークが、工程(b)で得られる一次質量ピークセットの一部に過ぎない場合もある。さらに、一次質量ピークの数が多い程、解離ピークの数も多くなり、従って、確認される解離ピークの誤った多重組の数も多くなる。
【0141】
図8に示すように、イオン供給源1と解離装置2との間に配置された装置5を使用し、一次イオンを解離装置2に注入する前に、問題とする一次ピークを同時に選択し、他を排除することができる。その場合、本発明の方法により、解離スペクトルのセットを同時に発生させ、確認される解離ピークの誤った多重組の数を少なくすることが可能である。
【0142】
上記の装置5は、全ての選択した一次質量ピークの確認すべき解離ピークを含む、幾つかの問題とする一次質量ピークを同時に含んでなる大きな質量帯域を選択する、四重極型質量分析計でよい。この種の装置5により、誤って確認される解離ピークの数を少なくすることができるが、各取得で、問題とする一次質量ピークの一部しか選択できず、問題とする解離ピークの全てを発生させるには、幾つかの解離スペクトルを発生させる必要がある。
【0143】
対照的に、装置5としてイオントラップを使用することにより、問題とする一次質量ピークのセットを選択すると共に、確認される解離ピークの誤った多重組の数を少なくすることができる。この実施態様では、当業者には公知のように、イオン供給源1により発生したイオンは、イオントラップ5の中に保存され、次いで、イオントラップ5の内側に可変電圧を印加することにより、トラップの外に放出され、質量-対-電荷比との関係で解離装置2に向かう。例えば可変電圧にかけられ、イオントラップ5の出口に配置された一対の反らせ板から製造された装置は、放出された、重要ではない一次イオンを偏向させ、問題とする一次質量ピークに対応する一次イオンだけを通過させる。
【0144】
上記のように、本発明を、相関線を含む二つの次元(特徴的な関数値の対)による二次元的空間を使用することにより、図式的な手法により説明した。
【0145】
しかし、無論、本発明の具体的な実行は、典型的には、適切なプログラムを実行するデジタルコンピュータ、例えばDSP(「デジタル信号プロセッサー」を意味する)、により達成される。
特に、相関法則は、典型的には数値データ(例えば低運動エネルギー解離の場合、等式(1)、(3)、(5)、または座標のセット)であり、それらのデータを、分光計により発生し、コンピュータに供給される数値的な特徴的な関数データと比較する。
【0146】
より実際的には、本発明は、既存の質量分光測定装置に追加し、この装置の他のソフトウエアとインターフェースさせ、大部分、相関法則データを確立し、特徴的な関数データを集め、そのデータをこれらの相関法則データと比較する、ソフトウエアモジュールの形態で実施することができる。
【0147】
いずれにせよ、当業者には明らかなように、一次質量スペクトルの形成、および帯電フラグメントの多重組に解離する多帯電一次イオンから得られる解離スペクトルの形成により、研究する分子を確認する可能性が得られる。
【0148】
本発明の方法の、タンデム飛行時間型質量分析計への応用
ここで、本発明の、一次質量選択を行わない、飛行時間型分光計による、多帯電イオン用タンデム質量分光測定の方法および装置を説明する。
【0149】
飛行時間型質量分光測定では、イオンの解離工程を、上記の説明のように低運動エネルギーで、または高運動エネルギーで行う。その違いの一つは、低運動エネルギーでは、帯電フラグメントに関する特徴的な関数、ここでは飛行時間型の2乗、が、分析すべきイオンの質量-対-電荷比に比例する(この関数は、帯電フラグメントの質量-対-電荷比に依存するが、一次イオンの質量-対-電荷比には依存しない)のに対し、高運動エネルギーでは、その関数が、帯電フラグメントの質量-対-電荷比に、および親一次イオンの質量-対-電荷比に依存することである。
【0150】
従って、質量-対-電荷比M/Qの高運動エネルギーで解離する帯電フラグメントの飛行時間は、一般的に式
【数23】
を有し、ここで
【数24】
は、解離前の質量-対-電荷比M/Qの親一次イオンの速度であり、
【数25】
は、帯電フラグメントの質量-対-電荷比M/Qに、親一次イオンの質量比M/Qに、および使用する飛行時間型質量分析計に依存する関数である。
【0151】
それにも関わらず、
【数26】
は、一般的に
【数27】
の、G'が帯電フラグメントの質量-対-電荷比M/Qには依存しない関数であろう式で表すことはできない。
【0152】
その結果、本発明の方法を、飛行時間型質量分析計で、高運動エネルギーでも実行するためには、別の手段が必要である。
【0153】
従って、本発明の方法による高運動エネルギーでの解離の場合、未知の分子に関する相関法則を決定するには、この場合、一般的に、使用する飛行時間型質量分析計に対して、既知の一次質量および解離スペクトルを有する分子で、特殊な予備校正をさらに行う必要がある。
【0154】
無論、校正は、上に詳細に説明した解析式を使用する代わりに、低運動エネルギーにおける解離で実行することもできる。
【0155】
この校正は、一次質量選択装置(しかし、これは、前に説明したように、問題とする一次ピークの同時選択を除いて、適切な分光法を実行するのに必要ではない)を使用し、下記の準工程で行うのが好ましい。
【0156】
工程(d1)で、既知分子の一次質量スペクトルを発生させる。
【0157】
次いで、工程(d2)で、この一次質量スペクトルにおける一次質量ピークを選択し、選択された質量-対-電荷比M/Qの一次イオンを解離させる。
【0158】
工程(d3)で、類似の質量-対-電荷比M/Qを有する選択された一次イオンを解離させる。
【0159】
工程(d4)で、選択された一次イオンの解裂から来る解離フラグメントの解離質量スペクトルを発生させる。
【0160】
工程(d5)では、得られた既知の解離質量スペクトルで、帯電フラグメントの多重組への解離に対応するピークの多重組を確認する。
【0161】
工程(d6)で、確認された質量解離ピークの各多重組に属する各質量解離ピークの出現極大における飛行時間TOFmax(M/Q)測定を決定する。
【0162】
工程(d7)で、それぞれの可能な電荷多重組に対して、この電荷多重組を満足させ、質量-対-電荷比M/Qに、一次電荷Qに、および選択された一次質量ピークの出現極大における飛行時間TOFmax(M/Q)に対応する相関法則のそれぞれを、確認された飛行時間多重組TOFmax(M/Q)で決定する。
【0163】
工程(d8)で、先行する工程を、既知分子の一次質量スペクトルの選択された一次質量ピークのそれぞれに対して繰り返す。
【0164】
次いで、未知分子の一次質量ピークに関する相関法則を、既知分子の一次質量ピークの相関法則に基づいて決定することができる。
【0165】
無論、この校正は、どのような一次質量分析計ででも、その質量分析計の特徴的な関数を、上記準工程における飛行時間に置き換えることにより、実行することができる。
【0166】
既知分子の一次質量スペクトルの各一次質量ピークに対応する解離ピークの多重組を、全ての一次質量ピークの全ての解離ピークが混合されている場合に得られる解離スペクトル中で確認できるという条件で、先行する校正を一次質量選択を行わずに実行することができる。
【0167】
ここで本発明の方法の実行に戻り、工程(d)で、多帯電一次イオンを解離装置2で解離させ、それぞれに対して、帯電フラグメントの多重組を得る。
【0168】
低運動エネルギーにおける解離の場合、一次イオンは、イオン束をパルス化し、使用する質量分析計の飛行時間空間3に向けて加速する前に、解離されている。
【0169】
ここで、高運動エネルギーにおける解離の場合、一次イオンは、一次イオンの加速およびパルス化の後で、飛行時間空間3の中で解離される。
【0170】
本発明の一実施態様では、該相関法則を決定する工程は、解離フラグメント、ここでは解離フラグメントの飛行時間、に対する特徴的な関数値を発生する工程の前または後に行うことができる。
【0171】
工程(e)で、各イオン束パルスで帯電フラグメントの飛行時間TOF(M/Q)を、少なくとも一個のイオン検出器4で測定する。
【0172】
ここで、好ましい態様により、検出器は、飛行時間だけを測定できる種類の検出器である。
【0173】
つまり、位置を測定する必要は無い。
【0174】
事実、本発明の好ましい方法による分光法は、有利なことに、フラグメントの飛行時間に関する情報だけを必要とし、位置測定を省略できることが分かる。
【0175】
しかし、別の実施方法では、飛行時間および位置の両方を測定する検出器を使用することもできる。
【0176】
工程(f)〜(h)は、前に説明した飛行時間型質量分析計で行うことができるので、さらに説明はしない。
【0177】
それにも関わらず、飛行時間型質量分析計の場合、本発明の方法を変えずに、本発明の方法の工程(f)〜(h)を、取得の後ではなく、各イオン束パルスで実行し、一次質量選択を行わずに、特定系列のイオン束パルスを累積することにより、解離スペクトルを発生させることもできる。
【0178】
本発明のこの実施では、工程(f)は、各イオン束パルスの後、一次イオンの測定された飛行時間の各潜在的な多重組を形成する。
【0179】
次いで、工程(g)で、特に該潜在的な多重組から、該相関法則に対する近接基準に適合する多重組を各イオン束パルスの後で確認し、親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する。
【0180】
最後に、各イオン束パルスの後で、各一次質量ピークに対応する各解離スペクトルの真の確認された飛行時間多重組を累積することにより、確認された帯電フラグメントの真の飛行時間多重組を含む各一次質量ピークに対応する各解離質量スペクトルを発生する。
【0181】
上記の工程(f)〜(h)を説明するために、その好ましい実施方法をここで、帯電フラグメント対への解離チャネルの場合で、グラフ表示による推論により、説明する。
【0182】
しかし、当業者には明らかなように、これもやはり、特にこの工程の原理を例示し、本発明のデジタル処理を行う方法を理解することを目的とする、他の多くの方法の中の一例に過ぎない。
【0183】
工程(f)で検出したイオンに対する飛行時間測定の、全ての潜在的な多重組の形成に続いて、各イオン束パルスの後で、特に測定した全ての潜在的な飛行時間対から、帯電フラグメントの対に解離した各一次イオンから得られる各真の飛行時間対を、工程(g)で、前に説明した種類の二次元的スペクトルの発生から始まり、確認する。
【0184】
二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で、各相関法則を相関線により表すが、該相関線の、平面中の位置および形態は、先行する工程(c)で決定された対応する相関法則により決定される。
【0185】
無論、二次元的スペクトルの平面における2本の同等の軸は、飛行時間測定を直接代表する代わりに、飛行時間測定のバイユニボーカル関数(biunivocal function)、例えば二乗した飛行時間測定{TOF2r(M/Q)、TOF2s(M/Q)}、を代表することもでき、本発明の方法を変化させるものではない。
【0186】
低運動エネルギーにおける一次イオン解離の場合、各相関法則
【数28】
は、二次元的スペクトルの平面{TOF2r(M/Q)、TOF2s(M/Q)}中にある直線の等式を有する。
【0187】
高運動エネルギーにおける一次イオン解離の場合、校正の工程(d8)を、図式的に示す下記の準工程で、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における各相関法則に対応する各相関線を形成することにより、実行することができる。
【0188】
二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の各軸上に、既知分子の確認された解離ピークの各対に対する出現極大における各飛行時間TOFmax(M/Q)を配置する。
【0189】
次いで、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で、確認された解離ピークの各対に対する出現極大における飛行時間{TOFmax(M1/Q1)、TOFmax(M2/Q2)}の各対に対応する各出現位置を決定する。
【0190】
最後に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で、確認された飛行時間対の位置の一般的な近傍で通過する特性を有する可能な電荷の対(q1、q2)のそれぞれに対応する、この電荷対を満足する各相関線を決定する。
【0191】
図9Bは、本発明を制限しない例として、帯電フラグメントの対に解離させるチャネルに対応する解離ピークだけを含む解離スペクトル(MS−MS)を示すが、このスペクトルは、図9Aで、質量-対-電荷比がM3/Q3である既知の一次質量ピークを選択した後に得ることができる。
【0192】
無論、実際には、解離スペクトルは他の可能な解離チャネルから得られる帯電フラグメントに対応する質量のピークも含む(例えば中性フラグメントおよび帯電フラグメントの対への、さらには3個以上のフラグメントへの解離から来る)。これらの解離ピークは、説明を簡単にしない。
【0193】
この例では、解離スペクトルが、質量-対-電荷比M1/Q1、M2/Q2、M3/Q3、m4/q4、m5/q5、およびm6/q6にそれぞれ対応する6個の解離質量ピークを包含することが分かる。
【0194】
これらの異なった解離ピークの出現極大における飛行時間も分かる。
【0195】
本発明を制限しない例として、図10は、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における、これらの異なった解離ピークの出現極大で確認された飛行時間の位置A、B、C、D、E、およびFを結ぶことにより、図式的に得られる相関線Lを示す。
【0196】
測定された全ての潜在的な飛行時間対の中で、帯電フラグメントの対に解離する各一次イオンから生じる各真の飛行時間対が、工程(g)で、発生するイオン束の各パルス化における飛行時間測定の各潜在的な対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における対応する位置Prsを関連させることにより、決定される。
【0197】
各潜在的な対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に、潜在的な対称的対{TOFs(M/Q)、TOFr(M/Q)}が対応する。
【0198】
従って、該2個の潜在的な対称的対に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の異なった対称的出現位置(Prs、Psr)が対応する。
【0199】
同様に、親一次イオンの解離から得られる解離帯電フラグメントの各対が、2個の真の測定された飛行時間対、即ち{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}およびその対称的な対{TOF(mu/qu)、TOF(mt/qt)}、を発生する。
【0200】
従って、該2個の真の対称的対に、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の異なった対称的出現位置(Ptu、Put)が対応する。
【0201】
潜在的な飛行時間対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の中から帯電フラグメントの対に解離する一次イオンから生じる各真の飛行時間対{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}は、二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の対応する出現位置(Ptu、Put)が、それぞれ工程(c)で決定された特徴的な線の一つから、特定の閾より小さな距離にある対を保持することにより、決定される。
【0202】
ここで、上記の距離閾基準は調節できるのが有利である。
【0203】
距離閾は、各相関線の両側で、解離ピークの分解能以下になるように選択することができ、これによって、感度を犠牲にして分解能を(機器の分解能を越えて)改良することができる。
【0204】
他方、この距離閾が解離ピークの分解能以上である場合、解離した、検出された帯電フラグメントの全ての対を確認することができ、これは、分解能、従って機器の分解能、の低下に対する感度を最大限にする。
【0205】
工程(h)で、二次元的質量スペクトルにおける第三の直角軸N上で、測定されたフラグメントの飛行時間の2軸を包含する、平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}で確認された帯電フラグメントの真の飛行時間対{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}の出現位置(Ptu)を累積することにより、三次元的解離質量スペクトルの形態にある解離質量スペクトルの全てが同時に発生する。
【0206】
この場合、本発明の方法は、有利なことに、三次元的スペクトルの形態における帯電フラグメント対への解離チャネルを含んでなる解離スペクトルの全てを同時に発生することが分かる。
【0207】
無論、他の同等の三次元的質量スペクトルを本発明の方法により発生させることもできる。
【0208】
例えば、別の三次元的スペクトルは、平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の2本の同等の軸に対する飛行時間測定を、これらの値の関数(例えば飛行時間の2乗{TOF2r(M/Q)、TOF2s(M/Q)})により置き換えることに対応することができる。
【0209】
各イオン束パルス化に対して、イオン検出器4は、多帯電一次イオンの全ての可能な解離チャネルから来る帯電フラグメントを検出し、確認できる、および確認できない解離事象、ならびに解離しなかった一次イオンを与える。
【0210】
これらの寄与の全てが、イオン束の各パルス化でイオン検出器4により検出されるバックグラウンドノイズを発生し、一次質量選択を行わずに一次イオンを解離する場合、このノイズが、確認すべき真の多重組を形成する帯電フラグメントの多重組から来る問題とする信号と重複する。
【0211】
従って、このバックグラウンドノイズは、追加の潜在的な飛行時間多重組も発生し、そのほとんどは、解離帯電フラグメントの多重組の確認基準により排除される。
【0212】
しかし、これらの重要ではない潜在的な多重組の小部分は、各イオン束パルスの後、帯電フラグメントの確認基準により受け容れられ、誤った真の多重組を発生する。
【0213】
グラフを使用する例では、これらの誤った真の多重組は、図式的に、二次元的スペクトルにおける相関線に対する、距離閾の値に関する基準の正の区域に配置された対応する位置の存在に対応する。
【0214】
これらの誤った、確認された多重組は、飛行時間型質量分析計で本発明の方法により、各イオン束パルスで実行される工程(f)〜(h)で発生した解離スペクトルの実際のバックグラウンドノイズである。
【0215】
この実際のバックグラウンドノイズは、検出されるバックグラウンドノイズのほんの一部が誤った、確認された多重組を発生するので、イオン検出器4により検出されるバックグラウンドノイズよりはるかに小さい。
【0216】
ここで、イオン束パルスに関して、飛行時間型質量分析計に関する本発明の好ましい実施方法により、該パルス化の期間は、測定すべき帯電フラグメントまたは一次イオンの最も長い飛行時間TOF{M/Q)max}よりも長い。
【0217】
この期間は、イオンの通常パルス化周波数f=[1/TOF{M/Q)max}と呼ばれる周波数を決定し、これは、典型的には、本発明の方法の工程(a)〜(h)の全てに対して等しい。
【0218】
本発明のもう一つの好ましい実施方法では、イオン束のパルス化の期間は、測定すべき帯電フラグメントまたは一次イオンの最も長い飛行時間TOF{M/Q)max}よりも短くなるように選択することができる。
【0219】
従って、このパルス化期間は、通常パルス化周波数fより高いパルス化周波数f'を決定し、ここでf'=Zxf(またはZは1を超える数である)である。
【0220】
この場合、本発明の方法の工程(a)〜(c)は、先ず通常パルス化周波数fで実行する。
【0221】
次いで、最高パルス化周波数f'に対応する相関法則を、先行する工程(c)における通常周波数fで決定された相関法則から決定する。
【0222】
次いで、工程(d)〜(g)を、最高パルス化周波数f'で実行し、その結果、一連のパルス間で検出される帯電フラグメントのオーバーラップが起こり得る。
【0223】
ここで再び、帯電フラグメント対への解離チャネルの場合における本発明のデジタル処理の説明に使用したグラフにより推論し、全ての対応する相関線を、二次元的スペクトルの可能な飛行時間対の平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における各一次質量ピークの全ての相関法則に配置することにより、本発明の方法の工程(a)〜(c)を実行する。この平面の各軸の長さは、TOF{M/Q)1}に等しい。
【0224】
従って、各相関法則に対応する各相関線は、二次元的スペクトルの平面中に一度表示される。
【0225】
通常パルス化周波数fで取得を行い、イオン束のPパルス化を考える場合、取得の合計長さは、
【数29】
になる。
【0226】
TtotをPの連続する時間スライス、長さでTOF{M/Q)max}のそれぞれ、に分割する場合、Pの同等の二次元的スペクトルを構築することが可能であり、それぞれが周波数fにおける取得に対応し、2つの軸上で、同様に長さTOF{M/Q)max}の、対応する連続する時間スライスがある。
【0227】
その場合、全て同等のP二次元的スペクトルのそれぞれに、本発明の方法の工程(a)〜(c)で決定される相関線の全てを配置することができる。
【0228】
従って、各相関法則に対応する各相関線は、P二次元的スペクトルのそれぞれの上に、各二次元的スペクトルにおける同じ位置で、一度表示される。
【0229】
次いで、パルス化周波数f'に対応する相関法則の相関線は、各相関法則に対応するZの同等の相関線を、P二次元的スペクトルのそれぞれに、P二次元的スペクトルのそれぞれで、通常パルス化周波数fに対応する各相関線の位置に対して配置することにより、決定される。
【0230】
Pスペクトルの中から、いずれかの2個の連続する二次元的スペクトルを考えると、パルス化周波数fに対応する2個の二次元的スペクトルのそれぞれにおける同じ位置を有する、同じ相関法則の2本の相関線のそれぞれが、TOF{M/Q)max}に等しい長さにより、間隔を置いて一時的に配置される。
【0231】
次いで、パルス化周波数f'に対応する同じ相関法則の、Z-2に等しい数の追加相関線は、問題とする全ての2個の連続する二次元的スペクトルにおけるパルス化周波数にそれぞれ対応する、これらの2本の相関線の間に配置される。
【0232】
従って、Zの相関線(パルス化周波数fに対応する2本の線を加えることにより)は、互いに(1/f')により、間隔を置いて一時的に配置される。
【0233】
従って、各相関法則に対して、Pの二次元的スペクトルのそれぞれが、通常周波数fにおけるパルス化に対応する相関線の位置に対して、Pの二次元的スペクトルのそれぞれにおいて同等の様式で配置されたZの対応する相関線を含む。
【0234】
次いで、本発明の方法の相関法則を決定する工程を、パルス化周波数f'で行う。
【0235】
無論、これは、最高パルス化周波数f'では、どのイオン束に検出された各帯電フラグメントが属するかを決定することは不可能である。
【0236】
従って、本発明の方法の工程(e)は、対応する検出された帯電フラグメントに対する飛行時間測定を、パルス化されたイオンのZxP束に起因すると考えることにより、実行する。
【0237】
ZxPイオン束の検出された帯電フラグメントのそれぞれに対して、取得開始から決定された飛行時間を先ず確認する。
【0238】
次いで、上記P一時的部分0〜Tの間に、確認された、取得開始から決定された飛行時間のそれぞれを配置する。
【0239】
最後に、測定された飛行時間値を、取得開始に対して決定された、各一時的部分の起源と、確認された飛行時間位置との間で、P一時的部分のそれぞれで検出された各帯電フラグメントに起因すると考える。
【0240】
次いで、P二次元的スペクトルの飛行時間測定の2軸上に、対応する検出された帯電フラグメントの飛行時間測定の原因と考えられる値を配置する。
【0241】
次いで、工程(f)で、対応するP二次元的スペクトルのそれぞれに起因すると考えられる飛行時間測定による、P二次元的スペクトルのそれぞれの潜在的な飛行時間対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}を、パルス化周波数f'で発生させる。
【0242】
P二次元的スペクトルのそれぞれの各潜在的な対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に、対応する二次元的スペクトルの平面における出現位置Prsが対応する。
【0243】
最後に、本発明の方法の工程(g)を、パルス化周波数f'で行い、各P二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における2個の対応する出現位置(Ptu、Put)がそれぞれ、パルス化周波数f'により決定された相関線の一つから、各二次元的スペクトルの平面{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}における特定の閾より小さい距離にある対を保持することにより、各P二次元的スペクトルの潜在的対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}の中から、実際に起因すると考えられる飛行時間対{TOF(mt/qt)、TOF(mu/qu)}を確認する。
【0244】
同じイオン束の中に注入された帯電フラグメントの対から来る帯電フラグメントは、2つの連続する二次元的スペクトル中で検出することができる。
【0245】
該対を確認するには、新しい潜在的な対を、前の工程(f)の潜在的な対のセットに加える必要がある。
【0246】
これらの対は、2つの連続する二次元的スペクトル{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)}の起因すると考えられる飛行時間測定により追加の潜在的な対を発生させることにより、確認することができ、そこでは、2個の二次元的スペクトルの一方の飛行時間測定がTOFr(M/Q)であり、他方のスペクトルの飛行時間測定がTOFs'(M/Q)である。
【0247】
従って、P二次元的スペクトルのそれぞれで、類似した質量-対-電荷比を有するが、幾つかの異なったイオン束から来る一次イオンの解離から得られる真の対は、各相関法則に対応するZ相関線に対する距離閾基準により確認することができる。
【0248】
同様に、多帯電一次イオンの解離から来る帯電フラグメントの三重組の確認は、同様に、高周波数のパルス化周波数f'で、本発明の工程(d)〜(g)を操作することにより、行うことができる。
【0249】
本発明のデジタル処理を説明するのに使用する図式的な類似方法の続きで、前のP二次元的スペクトルを、前に説明したように起因すると考えられる飛行時間測定を含んでなる3本の同等の軸を包含するP三次元的スペクトルで置き換える。
【0250】
帯電フラグメントの三重組への解離に対応するP三次元的スペクトルのそれぞれの各空間におけるZ相関空間の位置が、前に説明した二次元的な場合と同様の様式で得られていると仮定し、各三次元的スペクトルのZ相関空間に対する対応する位置の距離閾基準により、飛行時間の真の三重組を、P三次元的スペクトルのそれぞれの飛行時間の潜在的な三重組の中から確認する。
【0251】
低運動エネルギーにおける解離の場合、幾つかの解離フラグメント対を質量分析計の飛行時間空間中に注入して2つの異なった連続イオン束にする、および/または2つの連続した二次元的スペクトルで検出することができる。
【0252】
これらの解離した帯電フラグメントの対は、本発明の方法により、P二次元的スペクトルの起因すると考えられる飛行時間測定{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}および{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)}の潜在的な対の中からは確認することができず、この方法では、同じイオン束に注入された、同じ二次元的スペクトルで、2つの連続した二次元的スペクトルで検出される、対だけを確認することができる。
【0253】
これらの対を確認するには、先行する工程(f)における先行する潜在的な対の全てに、新しい潜在的な対を加える必要がある。
【0254】
これらの、2つの連続するイオン束によりパルス化される帯電フラグメントの対の2つのフラグメントが、同じ二次元的スペクトル中で検出される場合、これらを、各飛行時間測定に対して、他の飛行時間測定のそれぞれに対して、値ΔTOF=(1/f)=(1/Zxf)を加えること、および差し引くことにより、確認することができる。
【0255】
その場合、追加の潜在的な対応する対{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)+ΔTOF}および{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)-ΔTOF}を発生させる。
【0256】
帯電フラグメントの対の2個のフラグメントが、2つの連続するイオン束によりパルス化され、2つの連続する二次元的スペクトルで検出される場合、これらを、他の潜在的な対を形成し、前の追加対に加えることにより、確認することができる。
【0257】
2つの二次元的スペクトルの一方の飛行時間測定がTOFr(M/Q)であり、他方の二次元的スペクトルの飛行時間測定がTOFs'(M/Q)である場合、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)+ΔTOF}および{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)-ΔTOF}の新しい潜在的な対が発生する。
【0258】
従って、全ての可能な検出された真の対を確認するのに使用される、各P二次元的スペクトルの潜在的な全ての対は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)}、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)+ΔTOF}、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)-ΔTOF}、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)+ΔTOF}および{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)-ΔTOF}である。
【0259】
同様に、この計算を使用し、帯電フラグメントの対の2つのフラグメントが2つの異なった非連続的なイオン束でパルス化され、2つの非連続的な二次元的スペクトルで検出される場合を処理できることが分かる。
【0260】
低運動エネルギーで解離する一次イオンに対する同じ解離チャネルから、前の4つの可能な場合に対応する、類似の質量-対-電荷比を有する親一次イオン解離から来る、帯電フラグメントの対を確認する4つの例も図11に示す。
【0261】
10と表示する位置は、同じイオン束でパルス化し、同じ二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に対応する。
【0262】
20と表示する位置は、同じイオン束でパルス化し、2つの連続的な二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)}に対応する。
【0263】
30と表示する位置は、2つの連続的なイオン束でパルス化し、同じ二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)-ΔTOF}に対応する。
【0264】
40と表示する位置は、2つの連続的なイオン束でパルス化し、2つの連続的な二次元的スペクトルで検出した帯電フラグメント対の場合{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)+ΔTOF}に対応する。
【0265】
高運動エネルギーにおける一次イオン解離の場合、これらの対は、同じパルス化されたイオン束から常に得られるが、2つの連続した二次元的スペクトルで検出することができる。
【0266】
2つの二次元的スペクトルのそれぞれのZ-1相関線の、起因すると考えられる確認された飛行時間測定の対の通常パルス化周波数fに対応する、飛行時間測定の真の値を決定するために、通常パルス化周波数fに対応する相関線に対するそれらの相関線位置に対応する値を、該起因すると考えられる確認された飛行時間から差し引く(またはそれに加える)。
【0267】
例えば、通常パルス化周波数fに対応する相関空間に隣接する相関空間上に位置する、起因すると考えられる確認された飛行時間の多重組に対して、値ΔTOF=(1/f‘)を該起因すると考えられる飛行時間から差し引いて(またはそれに加えて)修正し、それらの真の測定値を決定する。
【0268】
図11の例では、同じ解離チャネルに対応する、起因すると考えられる、確認された飛行時間の4つの対の位置が、それらの、破線で示す相関線に対して直角の直線上に位置する。通常パルス化周波数fに対応する2本の相関線上にある位置10および20は、真の飛行時間測定の対である(該2対の起因すると考えられる値は、それらの真の測定された値に等しい)。位置30および40に位置する対の真の測定された値は、グラフにより、図11の直角破線に沿って位置30および40を位置10および20上にそれぞれ投影することにより、決定される(これは、それらの特徴的な線の位置による値を差し引く(または加える)ことによる、起因すると考えられる飛行時間修正に対応する)。
【0269】
最後に、工程(h)で、通常パルス化周波数に対応するパルス化周波数f'における各相関法則の各解離スペクトルを、P二次元的スペクトルのそれぞれのZ相関線の、修正された起因すると考えられる確認された飛行時間のセットで得た、真の確認された飛行時間測定の対を累積することにより、発生させる。
【0270】
一次質量の各ピークに対応する各解離スペクトルを、最後に、パルス化周波数f'で得た対応する相関法則の質量解離スペクトルで発生させる。
【0271】
従って、P二次元的スペクトルの追加に対応する周波数f'=Zxfで得た各解離質量スペクトルは、通常周波数で得た、ZxPイオン束パルス化を含んでなる質量スペクトルと等しい。
【0272】
やはり、本発明の好ましいグラフによる実施方法における相関線の位置に対する距離閾に対応する、相関法則に対する近接基準の値は、本発明の方法により得られる解離ピークの分解能を決定する。
【0273】
帯電フラグメント三重組への低運動エネルギー解離の場合、前の、解離帯電フラグメントの対の場合と同様に、解離した三重組の幾つかのフラグメントを、質量分析計の飛行時間空間中の2つの異なった連続するイオン束中に、ただし、3つの異なった連続するイオン束中にも、注入することができる。
【0274】
異なった可能な場合に対応する異なった潜在的な三重組は、
3つのフラグメントが同じイオン束中に注入され、同じ三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)、TOFy(M/Q)}であり、
3つのフラグメントが同じイオン束中に注入され、2つの連続する三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs'(M/Q)、TOPy'(M/Q)}であり、
3つのフラグメントが2つの連続するイオン束中に注入され、同じ三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)、TOPy(M/Q)±ΔTOF}であり、
3つのフラグメントが2つの連続するイオン束中に注入され、2つの連続する三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr'(M/Q)、TOFs'(M/Q)、TOPy(M/Q)±ΔTOF}であり、
3つのフラグメントが3つの連続するイオン束中に注入され、同じ三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr(M/Q)、TOFs(M/Q)±ΔTOF、TOPy(M/Q)±2ΔTOF}であり、
3つのフラグメントが3つの連続するイオン束中に注入され、2つの連続する三次元的スペクトル中で検出される場合は、{TOFr'(M/Q)、TOFs'(M/Q)±ΔTOF、TOPy(M/Q)±2ΔTOF}である。
【0275】
同様に、この計算により、2つ(または3つ)の異なった、非連続的なイオン束にパルス化され、2つ(または3つ)の非連続的な三次元的スペクトルで検出される帯電フラグメントの三重組の3つのフラグメントの場合を実行できることも、容易に理解できる。
【0276】
無論、同様に、帯電フラグメントの多重組の確認は、高周波数で、パルス化周波数f'で、操作することにより、少なくとも3つの帯電フラグメント、および少なくとも3つの帯電フラグメントと既知質量を有する中性フラグメントを含んでなるフラグメントの、全ての三重組に対して、実行することができる。しかし、これは、当業者には、上記の例を使用してそのような一般化が可能なので、詳細には説明しない。
【0277】
飛行時間型質量分析計に関して上に説明した本発明を、相関線を含む二次元(特徴的な関数値の対)による二次元的スペクトルを使用することにより、図式的な手法を使用して説明した。
【0278】
しかし、無論、その具体的な実施は、典型的には適切なプログラムを実行するデジタルコンピュータ、例えばDSP(「デジタル信号プロセッサーを意味する」)、により達成される。
【0279】
特に、相関法則は、数値的なデータ(等式、例えば低運動エネルギー解離の場合、等式(1)、(3)、(5)、または座標のセット)であり、このデータと、分光計により発生し、コンピュータに供給される数値的な特徴的な関数が比較される。
【0280】
より実際的には、本発明は、ソフトウエアモジュールの形態で具体化することができ、このソフトウエアモジュールを、既存の飛行時間型質量分光測定装置に加え、この装置の他のソフトウエアとインターフェースし、大部分、相関法則データを確立し、特徴的な関数データを集め、これらの特徴的な関数データをこれらの相関法則データと比較する。
【0281】
高運動エネルギーにおける解離の場合、相関空間の校正に関して、一次質量選択用の装置、例えば各イオン束のパルス化と解離装置2との間で作用する時間ゲートにより一次質量選択を行うための装置5、がそれを行うことができる場合、この装置を使用し、それでも一次質量ピークの選択を行わずに、前に説明したように、重要ではない他の一次質量ピークを排除することにより、イオン光線の各パルス化で問題とする一次質量ピークの全てを選択し、本発明の方法を実行することもできる。
【0282】
低運動エネルギーにおける解離の場合、解離スペクトルの中で重要ではない一次質量ピークの排除は、上記のように、イオントラップ5をイオン供給源1と解離装置2との間に配置することにより、または四重極型質量分析計5を使用することにより、行うことができる。
【0283】
これによって、検出されたバックグラウンドノイズを制限し、その結果、本発明の方法により発生した解離スペクトル中に確認される帯電フラグメントの誤った対の実際のバックグラウンドノイズも制限することができる。
【0284】
上記の装置5は、必要であれば、一次質量スペクトルにより予め確認されている分子に対応する一次質量ピークを排除し、スペクトルMS−MSの取得を一般的に不要にすることもできる。
【0285】
本発明の方法は、解離工程に続いて得られる帯電フラグメントに対して行い、帯電フラグメントを同時に解離させることにより、該親帯電フラグメントのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を入手し、多重質量分光測定(MS)nの方法を実行することができる。
【0286】
必要であれば、問題とする一次質量ピークを一次質量スペクトルから選択する予備工程を実行することができる。
【0287】
本発明の分光計の構成部品および操作
ここで、本発明の分光測定法を実行するタンデム質量分析計おける幾つかの好ましい分光計構成部品および分光計操作を、より詳細に、本発明を制限しない例として説明する。
【0288】
イオン供給源1は、連続式またはパルス化された、例えばESI(エレクトロスプレーイオン化)イオン供給源、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)パルス化されたレーザーイオン供給源、APCI(大気圧化学イオン化)イオン供給源、APPI(大気圧光イオン化)イオン供給源、LDI(レーザー脱離イオン化)イオン供給源、ICP(誘電カップリングプラズマ)イオン供給源、EI(電子衝撃)イオン供給源、CI(化学イオン化)イオン供給源、FI(電場イオン化)イオン供給源、FAB(高速原子衝突)イオン供給源、LSIMS(液体二次イオン質量分光測定)イオン供給源、API(大気圧イオン化)イオン供給源、FD(電界脱離)イオン供給源、DIOS(シリシウム上脱離イオン化)イオン供給源、または他の種類の多帯電イオン供給源、でよい。
【0289】
低運動エネルギーにおける解離装置2は、多重極導波管、イオントラップ、フーリエ変換質量分析計、または帯電フラグメントの多重組を発生させることができる他のいずれかの装置でよい。
【0290】
その上、高運動エネルギーにおける解離は、CID/CAD(衝突誘発解離/衝突活性化解離)により解離し得るガスを含む衝突チャンバー、イオン供給源でイオン化された一次分子の内部エネルギーを増加させた後、または飛行時間経路上で光イオン化により、自然解離させる飛行時間空間(PSDまたは供給源後減衰)、またはSID(表面誘発された解離)技術、ECD(電子捕獲解離)技術、IRMPD(赤外多光子解離)技術、PD(光解離)技術、BIRD(バックボディ赤外解離)技術、または一次イオンを解離させるいずれかの装置で行うことができる。
【0291】
一次イオンの解離を電子捕獲で行う場合、解離を生じる該電子捕獲は、解離工程(d)の前に一次イオン電荷Qを変性させる。その際、一次電荷Qと帯電フラグメントの可能な電荷対(qi’、qj’)との間の関係は、例えば
【数30】
である。
【0292】
問題とする一次質量ピークに対応する一次イオンを解離装置2の中に注入するのに使用する装置5は、四重極型質量分析計、双曲線幾何学的構造を有する3Dイオントラップ、円筒形幾何学的構造を有する直線状2Dイオントラップ、または他のいずれかのイオントラップでよい。
【0293】
一次質量選択を行わずに一次質量スペクトルおよび解離質量スペクトルを発生させるのに使用される質量分析計3は、下記の群、即ち飛行時間型質量分析計、磁場偏向型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ、FTICR質量分析計、または他の型の質量分析計、の一つでよい。
【0294】
イオン束パルス化とイオン検出器4との間の飛行時間空間3は、直線的であるか、またはレフレクトロンを備えていることができる。
【0295】
この場合、レフレクトロンは、一段階または二段階型、湾曲場レフレクトロン(CFR)型、または方形もしくは他のいずれかの型のレフレクトロンでよい。
【0296】
各イオン束のパルスは、イオン供給源1で、イオン供給源と解離装置との間で、あるいは解離装置2とイオン検出器4との間で実現することができる。
【0297】
イオン供給源が連続式である場合に飛行時間型質量分析計に必要なイオン束のパルスは、下記の技術、即ち切欠き部(notch)を通したイオンの連続線の走査、2個の反らせ板の間における可変電場の印加、連続的イオン線に対して直角の2個の電極間に可変電場を印加することによる直角注入、の一つにより、実行することができる。
【0298】
イオントラップ3は、双曲線幾何学的構造の3Dイオントラップ、円筒形幾何学的構造の直線的2Dイオントラップ、または他のいずれかの型のイオントラップでよい。
【0299】
フーリエ変換質量分析計は、静止磁場または放射状対数電場(radial logarithmic electical field)を使用してイオンを保存するFTICR質量分析計でよい。
【0300】
飛行時間型質量分析計で使用できるイオン検出器4は、少なくとも一個のアノードを備え、各アノードが、増幅器、弁別器および時間デジタル変換器(TDC)から構成される電子計数器を備えた少なくとも一個のマイクロチャネルプレート(MCP)から構成されるか、または検出された各一次イオンおよび各帯電フラグメントの特徴的な関数値を測定するのに使用される他のいずれかの型のイオン検出器でよい。
【0301】
ここで、図2および8に例示する構成部品を使用する質量分析計の、本発明を制限しない4通りの実施方法を説明する。
【0302】
分光計の第一実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第一実施方法を図2に例示する。
【0303】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、低運動エネルギーにおけるCIDにより一次イオンの解離を行うガスを含む多極導波管qを含んでなる解離装置2、直角注入によりイオン線をパルス化するための装置およびレフレクトロンを備えた飛行時間空間を含む飛行時間型質量分析計3、およびイオン検出器4を包含する。
【0304】
タンデム質量分析計に関するこの実施態様は、一次質量選択Q-q-TOFを行い、四重極型質量分析計をさらに装備し、一次質量選択をMS−MSで行う、タンデム質量分析計を使用する当業者には公知である。
【0305】
従って、第一実施態様は、四重極型質量分析計Qを含まない以外は、該装置と同等である。
【0306】
先ず、一次質量スペクトルを、多極導波管qへの質量解離を行わずに、直角注入による飛行時間型質量分析計で発生させる。
【0307】
次いで、一次質量選択を行わずに、それでも飛行時間型質量分析計中で、低運動エネルギーで、CIDにより多極導波管qの内側で、帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、質量解離スペクトルを発生させる。
【0308】
本発明の方法により、解離ピークの多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、対応する一次イオンの質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0309】
MS−MSモードにおけるデューティサイクルを、典型的には5〜30%から約100%に増加させるために、本発明を、工程(d)〜(g)で、より高い周波数f'=Zxfで、各イオン束パルス化の後に帯電した多重組の個別確認により、行うことができる。通常周波数パルス化f=10 kHzに対して、f'は、Z=20でf'=200kHzとして選択することができる。
【0310】
本発明の第一実施の一実施態様では、図8に例示するように、本装置に、イオン供給源1と解離装置2の間に配置された四重極型質量分析計またはイオントラップを装備し、大きな質量寛容度で、本発明の方法で確認される、問題とする幾つかの一次質量ピークを同時に選択し、解離質量ピークの誤った多重組の数を少なくする。
【0311】
本発明の第一実施の別の実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置を供給源1の上流に配置することができる。
【0312】
分光計の第二実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第一実施方法を図2に例示する。
【0313】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、円筒形幾何学的構造を有する直線的2Dイオントラップ2、3、およびイオン検出器4を包含する。
【0314】
この実施態様では、イオントラップを、解離装置2および質量分析計3の両方として使用する。
【0315】
タンデム質量分析計のこの実施態様は、同等の質量分析計を使用し、質量選択により質量解離スペクトルを発生させる当業者には公知である。
【0316】
先ず、イオン供給源1により放射された一次イオンを保存した後、解離を行わずに、イオントラップ2、3により一次質量スペクトルを発生させる。
【0317】
次いで、イオントラップで一次質量選択を行わずに、イオントラップの内側に含まれるガス分子によるCIDにより帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、低運動エネルギーで、質量解離スペクトルを発生させる。
【0318】
本発明の方法により、解離ピークの多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、対応する一次イオンの質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0319】
本発明の第二実施の一実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置をイオン供給源1の上流に配置することができる。
【0320】
本発明の第一実施の別の実施態様では、双曲線幾何学的構造を有する3Dイオントラップを、2Dイオントラップに置き換える。
【0321】
本発明の第二実施のさらなる実施態様では、図8に例示するように、本装置に、イオン供給源1と解離装置2の間に配置された四重極型質量分析計5またはイオントラップ5を装備し、本発明の方法で確認される、解離質量ピークの誤った多重組の数を少なくする。四重極型は、大きな質量寛容度で、問題とする幾つかの一次質量ピークを同時に選択することができ、イオントラップはさらに、問題とする全ての一次質量ピークを同時に選択することができる。
【0322】
この実施態様に加えて、図8に例示するように、本装置は、四重極型質量分析計(それぞれイオントラップ5)とイオントラップ3の間に配置された、多極イオンガイド2をさらに備え、帯電フラグメントをイオントラップ3の中に注入する前に、CIDにより一次イオンを解離させることができる。
【0323】
分光計の第三実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第三実施方法を図2に例示する。
【0324】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、双曲線幾何学的構造を有する直線的2Dイオントラップ2、レフレクトロンを備えた飛行時間型質量分析計3、およびイオン検出器4を包含する。
【0325】
この実施態様では、イオントラップ2を使用して各イオン束をパルス化し、飛行時間測定を行う。
【0326】
タンデム質量分析計のこの実施態様は、同等の質量分析計を使用し、質量選択により質量解離スペクトルを発生させる当業者には公知である。
【0327】
先ず、イオン供給源1により放射された一次イオンを保存した後、解離を行わずに、および飛行時間の空間を通してイオン束のパルス化の後、一次質量スペクトルを発生させる。
【0328】
次いで、イオントラップで一次質量選択を行わずに、イオントラップの内側に含まれるガス分子によるCIDにより帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、低運動エネルギーで、質量解離スペクトルを発生させる。
【0329】
本発明の方法により、解離ピークの多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、対応する一次イオンの質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0330】
本発明の第三実施の一実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置をイオン供給源1の上流に配置することができる。
【0331】
分光計の第四実施方法
本発明によるタンデム質量分析計の第一実施方法を図2に例示する。
【0332】
この質量分析計は、一次イオンの全体的な移動方向で、順に、エレクトロ-スプレーイオン化(ESI)多帯電イオン供給源1、FT−ICRフーリエ変換質量分析計2、3、およびサイクロトロン周波数を測定する検出器4を包含する。
【0333】
この実施態様では、FT−ICRフーリエ変換質量分析計を、解離装置2および質量分析計3の両方として使用する。
【0334】
タンデム質量分析計のこの実施態様は、同等の質量分析計を使用し、質量選択により質量解離スペクトルを発生させる当業者にはそれ自体公知である。
【0335】
先ず、イオン供給源1により放射された一次イオンを保存した後、解離を行わずに、FT−ICRフーリエ変換質量分析計により一次質量スペクトルを発生させる。
【0336】
次いで、フーリエ変換分光計で一次質量選択を行わずに、中性ガスの分子による衝突誘発された解離(CID)により、または該分光計の空間における電子捕獲解離(ECD)により帯電フラグメントの多重組への一次イオン解離の後、低運動エネルギーで、質量解離スペクトルを発生させる。
【0337】
本発明の方法により、解離質量の多重組を、一次質量ピークに対応する解離ピークのそれぞれに対して確認し、最後に、質量解離ピークの多重組を含んでなる各解離スペクトルを発生させる。
【0338】
本発明の第二実施の一実施態様では、LC(液体クロマトグラフィー)分子分離装置をイオン供給源1の上流に配置することができる。
【0339】
本発明の第四実施の別の実施態様では、図8に例示するように、本装置に、イオン供給源1と解離装置2の間に配置された四重極型質量分析計5またはイオントラップ5を装備し、本発明の方法で確認される、解離質量ピークの誤った多重組の数を少なくする。四重極型Qは、大きな質量寛容度で、問題とする幾つかの一次質量ピークを同時に選択することができ、イオントラップはさらに、問題とする全ての一次質量ピークを同時に選択することができる。
【0340】
この実施態様に加えて、図8に例示するように、本装置は、四重極型質量分析計(それぞれイオントラップ5)とFT−ICRフーリエ変換質量分析計3の間に配置された、多極イオンガイド2をさらに備え、帯電フラグメントをFT−ICRフーリエ変換質量分析計3の中に注入する前に、CIDにより一次イオンを解離させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析すべきイオンの質量-対-電荷比の公知の特徴的な関数を有する質量分析計で使用するためのタンデム質量分光測定方法であって、
(a)分析すべき一次イオン供給源を用意する工程、
(b)前記一次イオンの、前記一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに、発生させる工程、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値から、および前記ピークに関連する電荷値から、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、特徴的な関数値の可能な全ての多重組が適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを同時に解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得る工程、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(g)前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、
(h)それぞれ問題とする親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
問題とする一次イオンの前記解離が、既知の質量を有する中性フラグメントを発生することができ、前記相関法則決定工程が、質量の潜在的損失を考慮して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
潜在的な多重組の最大数としてNを指定する場合、その多重組に対する相関法則が、N−1に等しい次元を有する空間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記相関法則決定工程が、前記解離フラグメントに前記特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記相関法則決定工程が、前記解離フラグメントに前記特徴的な関数値を発生する工程に続いて行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記帯電した解離フラグメントの前記特徴的な関数が、前記解離フラグメントの前記質量-対-電荷比に依存し、前記親一次イオンの前記質量-対-電荷比には依存しない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記帯電した解離フラグメントの前記特徴的な関数が、前記解離フラグメントの前記質量-対-電荷比に比例する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記相関法則が計算により決定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記帯電した解離フラグメントの前記特徴的な関数が、前記解離フラグメントの質量-対-電荷比(M/Q)に、および前記親一次イオンの前記質量-対-電荷比(M/Q)に依存する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記相関法則が、質量および電荷が既知であるイオンで得た校正データの使用により決定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記相関法則決定工程が、
(d1)質量および電荷が既知であるイオンに対して一次質量スペクトルを発生すること、
(d2)前記スペクトルで一次質量ピークを選択すること、
(d3)選択された一次イオンを解離させ、特定の質量-対-電荷比(M/Q)を求めること、
(d4)前記選択された一次イオンから来る解離フラグメントの解離質量スペクトルを発生すること、
(d5)前記解離質量スペクトル中で、帯電フラグメントの多重組への解離が起こることに対応するピークの多重組を確認すること、
(d6)確認された各多重組に属する各ピークの出現の極大に対応する特徴的な関数値(Fmax(M/Q))を決定すること、
(d7)それぞれの可能な電荷多重組に対して、この電荷多重組を満足し、前記質量-対-電荷比(M/Q)に、前記一次電荷Qに、および前記選択された一次質量ピークに対する出現極大における特徴的な関数値(Fmax(M/Q))に対応する特徴的な関数値の確認された多重組との相関法則のそれぞれを決定すること、および
(d8)工程(d1)〜(d7)を、既知分子の一次質量スペクトルの各選択された一次質量ピークに対して繰り返すこと、からなる前工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記既知分子で得た相関法則に基づき、未知分子の一次質量ピークの相関法則を決定する工程をさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記決定された相関法則が座標のセットにより規定される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項14】
前記決定された相関法則が分析により規定される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
一次質量選択により、問題とする異なった一次イオンの群を選択する工程をさらに含んでなる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記問題とする一次イオンを選択する工程が、解離フラグメントに対する前記特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記近接基準が調節可能である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(e)〜(g)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、前記工程(e)で決定された特徴的な関数値が、前記累積出現により形成されるピークの極大における関数値である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(e)〜(g)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、前記工程(h)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記特徴的な関数の値が、関連する飛行時間である、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記解離したイオンが、連続する周期的なイオンパルス中に含まれ、パルス発生期間が、測定すべき解離した帯電フラグメントの最長飛行時間より短く、前記工程(d)および(e)が、連続するパルス間のオーバーラップで行われ、前記工程(c)が、先行するイオンパルス中に含まれる問題とする親一次イオンの解離により生じた帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に対する相関法則を決定することを包含する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(a)分析すべき多帯電一次イオンの供給源(1)、
(b)前記一次イオンの、一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに、発生する装置(3)、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値から、および前記ピークに関連する電荷値から決定された一組の相関法則、前記相関法則は、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得るように設計された解離装置(2)、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生し、保存する装置、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成し、前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定し、それぞれ問題とする前記親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生するための処理装置、
の組合せを含んでなる、タンデム質量分光分析計。
【請求項23】
問題とする異なった一次イオンの群を選択するための一次質量選択装置をさらに含んでなる、請求項22に記載の分光分析計。
【請求項24】
前記一次質量選択装置が、イオントラップを含んでなる、請求項23に記載の分光分析計。
【請求項25】
前記一次質量選択装置が四重極を含んでなる、請求項23に記載の分光分析計。
【請求項26】
前記一次質量選択装置が一時的ゲートを含んでなる、請求項23に記載の分光分析計。
【請求項27】
前記解離装置が多極導波管である、請求項22〜26のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項28】
飛行時間型質量分析計を含んでなる、請求項22〜27のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項29】
前記解離装置が、イオン束を前記飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の前に配置される、請求項28に記載の分光分析計。
【請求項30】
前記解離装置が、イオン束を前記飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の後に配置される、請求項28に記載の分光分析計。
【請求項31】
前記イオン加速器が直角注入装置を含んでなる、請求項29または30に記載の分光分析計。
【請求項32】
レフレクトロンをさらに含んでなる、請求項28〜31のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項33】
前記多帯電イオン供給源(1)が、エレクトロスプレーイオン化イオン供給源である、請求項22〜32のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項34】
イオンの質量-対-電荷比の既知の特徴的な関数を有する質量分析計を含んでなる質量分光測定装置で実行するように設計されたコンピュータプログラムであって、
(a)前記装置を、分析すべき多帯電一次イオンの供給源から、解離を行わずに、前記一次イオンの一次質量スペクトルを発生させ、その際、前記スペクトルが、一次イオン出現のピークを含むように制御する工程、
(b)前記スペクトルの、前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値を含むデータを、前記ピークに関連する電荷値から取得する工程、
(c)前記データから、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンの同時解離が起きるように前記装置を制御し、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を入手し、前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(e)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(f)前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、および
(g)それぞれ問題とする前記親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程、
を行うように設計された一連の指示を包含する、コンピュータプログラム。
【請求項35】
前記工程(e)〜(f)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、前記工程(d)で決定された特徴的な関数値が、前記累積出現により形成されたピークの極大にある特徴的な関数値である、請求項34に記載のコンピュータプログラム。
【請求項36】
前記工程(e)〜(f)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、前記工程(g)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う、請求項34に記載のコンピュータプログラム。
【請求項1】
分析すべきイオンの質量-対-電荷比の公知の特徴的な関数を有する質量分析計で使用するためのタンデム質量分光測定方法であって、
(a)分析すべき一次イオン供給源を用意する工程、
(b)前記一次イオンの、前記一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに、発生させる工程、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値から、および前記ピークに関連する電荷値から、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、特徴的な関数値の可能な全ての多重組が適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを同時に解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得る工程、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(g)前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、
(h)それぞれ問題とする親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
問題とする一次イオンの前記解離が、既知の質量を有する中性フラグメントを発生することができ、前記相関法則決定工程が、質量の潜在的損失を考慮して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
潜在的な多重組の最大数としてNを指定する場合、その多重組に対する相関法則が、N−1に等しい次元を有する空間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記相関法則決定工程が、前記解離フラグメントに前記特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記相関法則決定工程が、前記解離フラグメントに前記特徴的な関数値を発生する工程に続いて行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記帯電した解離フラグメントの前記特徴的な関数が、前記解離フラグメントの前記質量-対-電荷比に依存し、前記親一次イオンの前記質量-対-電荷比には依存しない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記帯電した解離フラグメントの前記特徴的な関数が、前記解離フラグメントの前記質量-対-電荷比に比例する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記相関法則が計算により決定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記帯電した解離フラグメントの前記特徴的な関数が、前記解離フラグメントの質量-対-電荷比(M/Q)に、および前記親一次イオンの前記質量-対-電荷比(M/Q)に依存する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記相関法則が、質量および電荷が既知であるイオンで得た校正データの使用により決定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記相関法則決定工程が、
(d1)質量および電荷が既知であるイオンに対して一次質量スペクトルを発生すること、
(d2)前記スペクトルで一次質量ピークを選択すること、
(d3)選択された一次イオンを解離させ、特定の質量-対-電荷比(M/Q)を求めること、
(d4)前記選択された一次イオンから来る解離フラグメントの解離質量スペクトルを発生すること、
(d5)前記解離質量スペクトル中で、帯電フラグメントの多重組への解離が起こることに対応するピークの多重組を確認すること、
(d6)確認された各多重組に属する各ピークの出現の極大に対応する特徴的な関数値(Fmax(M/Q))を決定すること、
(d7)それぞれの可能な電荷多重組に対して、この電荷多重組を満足し、前記質量-対-電荷比(M/Q)に、前記一次電荷Qに、および前記選択された一次質量ピークに対する出現極大における特徴的な関数値(Fmax(M/Q))に対応する特徴的な関数値の確認された多重組との相関法則のそれぞれを決定すること、および
(d8)工程(d1)〜(d7)を、既知分子の一次質量スペクトルの各選択された一次質量ピークに対して繰り返すこと、からなる前工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記既知分子で得た相関法則に基づき、未知分子の一次質量ピークの相関法則を決定する工程をさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記決定された相関法則が座標のセットにより規定される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項14】
前記決定された相関法則が分析により規定される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
一次質量選択により、問題とする異なった一次イオンの群を選択する工程をさらに含んでなる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記問題とする一次イオンを選択する工程が、解離フラグメントに対する前記特徴的な関数値を発生する工程の前に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記近接基準が調節可能である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(e)〜(g)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、前記工程(e)で決定された特徴的な関数値が、前記累積出現により形成されるピークの極大における関数値である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(e)〜(g)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、前記工程(h)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記特徴的な関数の値が、関連する飛行時間である、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記解離したイオンが、連続する周期的なイオンパルス中に含まれ、パルス発生期間が、測定すべき解離した帯電フラグメントの最長飛行時間より短く、前記工程(d)および(e)が、連続するパルス間のオーバーラップで行われ、前記工程(c)が、先行するイオンパルス中に含まれる問題とする親一次イオンの解離により生じた帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に対する相関法則を決定することを包含する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
(a)分析すべき多帯電一次イオンの供給源(1)、
(b)前記一次イオンの、一次イオンピーク出現を含む一次質量スペクトルを、解離を行わずに、発生する装置(3)、
(c)前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値から、および前記ピークに関連する電荷値から決定された一組の相関法則、前記相関法則は、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンを解離させ、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を得るように設計された解離装置(2)、
(e)前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生し、保存する装置、
(f)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成し、前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定し、それぞれ問題とする前記親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生するための処理装置、
の組合せを含んでなる、タンデム質量分光分析計。
【請求項23】
問題とする異なった一次イオンの群を選択するための一次質量選択装置をさらに含んでなる、請求項22に記載の分光分析計。
【請求項24】
前記一次質量選択装置が、イオントラップを含んでなる、請求項23に記載の分光分析計。
【請求項25】
前記一次質量選択装置が四重極を含んでなる、請求項23に記載の分光分析計。
【請求項26】
前記一次質量選択装置が一時的ゲートを含んでなる、請求項23に記載の分光分析計。
【請求項27】
前記解離装置が多極導波管である、請求項22〜26のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項28】
飛行時間型質量分析計を含んでなる、請求項22〜27のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項29】
前記解離装置が、イオン束を前記飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の前に配置される、請求項28に記載の分光分析計。
【請求項30】
前記解離装置が、イオン束を前記飛行時間型質量分析計の飛行時間空間中に注入するためのイオン加速器の後に配置される、請求項28に記載の分光分析計。
【請求項31】
前記イオン加速器が直角注入装置を含んでなる、請求項29または30に記載の分光分析計。
【請求項32】
レフレクトロンをさらに含んでなる、請求項28〜31のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項33】
前記多帯電イオン供給源(1)が、エレクトロスプレーイオン化イオン供給源である、請求項22〜32のいずれか一項に記載の分光分析計。
【請求項34】
イオンの質量-対-電荷比の既知の特徴的な関数を有する質量分析計を含んでなる質量分光測定装置で実行するように設計されたコンピュータプログラムであって、
(a)前記装置を、分析すべき多帯電一次イオンの供給源から、解離を行わずに、前記一次イオンの一次質量スペクトルを発生させ、その際、前記スペクトルが、一次イオン出現のピークを含むように制御する工程、
(b)前記スペクトルの、前記一次質量ピークの少なくとも幾つかの極大における特徴的な関数値を含むデータを、前記ピークに関連する電荷値から取得する工程、
(c)前記データから、前記一次質量ピークに対応する、問題とする親一次イオンの解離から生じる帯電フラグメントの多重組に対応する、全ての可能な特徴的な関数値の多重組に適合する必要がある相関法則を決定する工程、
(d)一次質量ピークに関連する問題とする一次イオンの同時解離が起きるように前記装置を制御し、前記親一次イオンのそれぞれから帯電フラグメントの多重組を入手し、前記解離フラグメントに対する特徴的な関数値を発生させる工程、
(e)前記特徴的な関数値の全ての潜在的な多重組を形成する工程、
(f)前記潜在的な多重組の中から、前記相関法則に対する近接基準に適合する多重組を確認し、前記親一次イオンに対応する帯電フラグメントの真の多重組を決定する工程、および
(g)それぞれ問題とする前記親一次イオンに対応する、確認されたフラグメントの真の多重組に関連するピークを含んでなる、解離質量スペクトルを発生する工程、
を行うように設計された一連の指示を包含する、コンピュータプログラム。
【請求項35】
前記工程(e)〜(f)を、潜在的な値の多重組の累積出現に対して行い、その際、前記工程(d)で決定された特徴的な関数値が、前記累積出現により形成されたピークの極大にある特徴的な関数値である、請求項34に記載のコンピュータプログラム。
【請求項36】
前記工程(e)〜(f)を、個々の解離が起こることから得られる多重組に対して行い、その際、前記工程(g)を、確認された真の多重組の出現を累積することにより行う、請求項34に記載のコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−541764(P2009−541764A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517247(P2009−517247)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056655
【国際公開番号】WO2008/003684
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509005708)
【氏名又は名称原語表記】PHYSIKRON
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056655
【国際公開番号】WO2008/003684
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(509005708)
【氏名又は名称原語表記】PHYSIKRON
【Fターム(参考)】
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