説明

多彩模様塗料及びその製造方法並びに顔料分散液

【課題】十分なゲル強度を有する着色ゲルを形成することにより、ゲルの破壊、色の溶出を抑制することができ、かつ塗膜の耐水性にも優れた鮮明な多彩模様を得ることができる多彩模様塗料及び多彩模様塗料用分散体並びにこれらの製法を提供する。
【解決手段】着色ゲル粒子を含有する多彩模様塗料であって、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物を含有する多彩模様塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内壁、外壁、天井、扉等の建築物内・外装面、あるいは家具、家電、車両、船舶、橋梁等に美観を与えるために使用される多彩模様塗料並びにその製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内壁、外壁、天井、扉等の建築物の内装や外装、その他の各種構造物に対して、石目様をはじめ意匠性に優れた多彩模様の仕上げ面を得る方法が工夫されている。例えば、着色骨材(砂利、雲母等)を混ぜ込んだ塗料を塗工したり(例えば特許文献1)、間欠的なスプレー塗布等により複数色の塗料を色むらが残るように塗工する方法(例えば特許文献2、特許文献3)が挙げられる。その他、感熱ゲル性のエマルジョン塗料を用いて塗装した後、不均一な加熱を行う塗装法が知られている(例えば特許文献4)。
【0003】
しかしこれらの方法は塗料配合後の塗料物性の安定性が悪く沈降を起こしやすいものであったり、施工に技術を要するか専用の塗工設備を必要とする等の課題が残されている。
一方で近年、液状又はゲル状の二色以上の色の粒が懸濁した塗料を用いて塗工する方法が、多彩模様塗料として提案されている(例えばJIS K 5667)。この多彩模様塗料によれば、一回の塗布により比較的簡便に多彩模様を付与することができ、前記の各方法に比べ使用しやすいというメリットを有している。このような多彩模様塗料の種類としては、油性分散媒の中に油性の色の粒を分散した油中油型(O/O型)、油性分散媒の中に水性の色の粒を分散した油中水型(W/O型)、水性分散媒の中に油性の色の粒を分散した水中油型(O/W型)、水性分散媒の中に水性の色の粒を分散した水中水型(W/W型)の4種に区分される。
【0004】
中でも、塗料中の有機溶剤濃度が少ないか有機溶剤を含有しない環境対応型の塗料として、W/W型が注目されている。W/W型では構造物の内装施工後に有機溶剤が残留しないため、好ましいと考えられている。
多彩模様塗料において、模様を形成する色の粒の形態としては、液状又はゲル状の二種が知られている(JIS K 5667)。このうちゲル状のものである着色ゲルのほうが、粒の大きさが経時で変化せず安定しており、貯蔵による特性の安定性が良好である。また、スプレー塗装にさいしては勿論のこと、ローラー塗布や刷毛塗りの際に加わる高いシェアー下でも色の粒が破壊されにくく品質の維持が図りやすいという点でも、着色ゲルを使用したものが注目されている。例えば非特許文献1には、多彩模様塗料における従来のスプレー塗装による塗料の飛散の問題への対処のため、ローラー塗装が可能な多彩模様塗料として、水中に分散した粒子に内部架橋を導入することによりカラー粒子に塗装シェア耐性を与え、つなぎとしてのクリヤーバインダーとして高耐候性・高耐久性を備えた水性樹脂を用いることにより造膜安定性と耐候性・耐久性を両立させた多彩模様塗料が提案されている。
【0005】
ゲルの着色には染料あるいは顔料の使用があり得るが、耐久性の点で一般に顔料が用いられている。顔料を含む成分をゲル化することにより、水性分散媒に着色ゲルを分散した多彩模様塗料が得られる。
【0006】
W/W型の多彩模様塗料における着色ゲルを形成するには、ゲル化反応が利用される。
【0007】
例えば特許文献5には、水溶性樹脂をビヒクル成分とする着色水性塗料をポリアミノカルボン酸誘導体で分散相粒子表面をゲル化せしめて水分散体として水性多彩模様塗料を得ることが記載されている。すなわち水溶性樹脂を用いた着色水性塗料を分散相とし、これをポリアミノカルボン酸誘導体の分散媒の中に配合して撹拌混合して水性多彩模様塗料を得ることが記載されている。
また特許文献6には、粒子経10〜500μmの液状着色粒子を含有する着色塗料組成物が記載され、この液状着色粒子が塗膜形成成分を含有しかつカプセル化された粒子であることが記載されている。着色粒子をゲル化膜でカプセル化する方法としてはポリビニルアルコールのような親水性コロイド形成物質と、該コロイド物質を不溶化することのできるホウ酸のような不溶化剤(ゲル化剤)とが作用しあって一種の三次元網状組織の形成されるゲル化反応を利用することが記載されており、より具体的には塗料バインダーを合成樹脂エマルジョンとし、かつ親水性コロイド形成物質を含有せしめた液状物を、ゲル化剤を含む水性分散媒中に加えて分散機で分散することが記載されている。
【0008】
また特許文献7には、樹脂エマルジョンにジェランガムの繊維状、鱗片状の含水着色ゲル粒子を分散させた多彩模様被覆組成物が記載されている。ここで繊維状ゲル着色粒子は例えばジェランガムの水溶液とアクリルウレタン共重合体樹脂エマルジョン並びに着色顔料の水分散体との混合物に塩化カルシウム等のゲル化剤を添加して繊維状にゲル化させて得ることが記載されている。
また特許文献8には、半透明水系分散媒に着色粒子が分散された塗料組成物が記載されており、このためにまずアクリル樹脂等の樹脂成分、顔料溶剤等を配合して着色塗料を調製し、これを水系分散媒中に分散しここに架橋剤、硬化触媒を添加して混合することが記載されている。
【0009】
また特許文献9には、熱不可逆ゲル粒子を含有する水性塗料組成物が記載されている。ここで熱不可逆ゲル粒子は、ゲル形成物質のゲル化により形成され、粒子全体が均一にゲル化した粒子であり、70℃に加熱しても溶融しない性質を有するものであるとされている。ゲル形成物質として例えばグルカン、グルコマンナン等が挙げられ、さらに必要に応じ樹脂、顔料等を含む液状組成物をゲル化して粉砕して粒子状に分散させる方法が記載されている。
【0010】
特許文献10には、顔料をキトサンで被覆したものを含有する、キトサン含有水性多彩模様塗料組成物が記載されている。より具体的には市販の樹脂分散型着色顔料を水酸化ナトリウム等の水溶液に添加して着色顔料の表層を被覆化しゲル化現象を起こす。このゲル化した着色顔料の液にキトサン/酸イオン錯体を添加してキトサン膜被覆顔料を得、多彩模様塗料に用いることが記載されている。
【0011】
特許文献11には、水性合成樹脂エマルジョン、感熱ゲル化剤及び着色剤を含有する感熱ゲル型エマルジョン組成物を当該組成物のゲル化温度以上の水中に滴下してゲル化することにより着色高分子粒体を得ることと、この着色高分子粒体を二種以上と水性合成樹脂エマルジョン系クリヤー塗料を含有させた水性多彩模様塗料組成物が記載されている。
その他、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、グルコマンナン等の多糖類およびその誘導体がホウ酸塩と結合してゲル化する現象が知られており、これらは水素結合による架橋と言われている。また、アルギン酸、ペクチン酸等の有機高分子がカルシウム等の金属塩と結合してゲル化する現象も知られており、これらは配位結合による架橋(Egg Box Junction)と言われている。
【0012】
【非特許文献1】「塗料の研究」No.130 Apr.1998
【特許文献1】特開平6−220971号公報
【特許文献2】特公平6−64750号公報
【特許文献3】特開平10−34073号公報
【特許文献4】特開平10−34074号公報
【特許文献5】特開昭51−7035号公報
【特許文献6】特開昭64−16879号公報
【特許文献7】特開平9−208862号公報
【特許文献8】特開2003−25528号公報
【特許文献9】特開2003−165954号公報
【特許文献10】特開2003−306646号公報
【特許文献11】特開2003−41196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
W/W型の多彩模様塗料を前述した各方法により作製した場合、得られた塗料は時に着色ゲルのゲル強度が弱くなることがある。ゲル強度の弱い多彩模様塗料は時に着色ゲルから色が溶出して、分散媒が濁ったり色が変わったりすることがあることが本発明者の検討によりわかった。さらに、このような塗料を塗工すると、塗工時に加わる圧力によって着色ゲルが破壊され、色のにじみ、濁りを生じて鮮明な多彩模様が得られない現象が見られることも本発明者の検討によりわかった。本発明は十分なゲル強度を有する着色ゲルを形成することにより、塗工時も含めてゲルの破壊、色の溶出を抑制することができ、かつ塗膜の耐水性にも優れた鮮明な多彩模様を得ることができる多彩模様塗料及び多彩模様塗料用分散体並びにこれらの製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記の目的に鑑みて鋭意検討を重ねた。その結果、ある特定の高分子化合物を含有させることにより上記目的を達成できること、また特定の方法で着色ゲルや多彩模様塗料を作製することにより上記目的を達成できることを見出して本発明に到達した。すなわち、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物を含有させた顔料分散液を用いてゲル粒子を作製することにより上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分散媒が濁ったり分散媒本来の色が変わったりすることのない鮮明な多彩模様塗料が得られる。そして、この塗料を塗布することにより、濁りのない鮮明な塗膜を有する塗布物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
すなわち本発明は、
(1)着色ゲル粒子を含有する多彩模様塗料であって、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物を含有する多彩模様塗料、
(2)分散媒として水性分散媒を含有する請求項1記載の多彩模様塗料、
(3)顔料を、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物を含む分散液としておき、これをゲル化可能な材料を含む液体と混合した液を、さらにゲル化剤を含む液体と混合してゲル化反応を行うことにより、着色されたゲル粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする多彩模様塗料の製造方法、
(4)顔料、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物、及びゲル化可能な材料を含む液体と、ゲル化剤を含む液とを混合してゲル化反応を行うことにより、着色されたゲル粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする多彩模様塗料の製造方法、
(5)顔料、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物、及びゲル化可能な材料を含む顔料分散液、
(6)顔料、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物、及びゲル化剤を含む顔料分散液、
に存する。
【0017】
〔多彩模様塗料〕
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の多彩模様塗料は、着色ゲル粒子すなわち着色成分を含むことにより着色されたゲル粒子を含有するものである。一般には、着色ゲル粒子、塗膜形成材料、及び分散媒を主な成分としている。
【0018】
〔着色ゲル粒子〕
着色ゲル粒子は、代表的には以下の方法により得ることができる。例えば、ゲル化可能な材料(A)、顔料等の着色材(B)、分散媒(C)を予め均一に分散しておく(これを液Iとする)。また塗膜形成材料(D)、ゲル化剤(E)、水を予め均一に分散しておく(これを液IIとする)。これら液Iと液IIを混合することによりゲル化反応を行い、着色ゲル粒子を形成する。液Iと液IIによるゲル化反応の方法は制限されないが、液Iと液IIを混合することにより反応させることができる。例えば、液IIに液Iを滴下すればよい。また、この時に、滴下条件を調整することによりゲル粒子の粒径その他の形状を調整することもできる。
液Iを液II中に滴下すると、液I中のゲル化可能な材料(A)が塗料II中のゲル化剤(E)と反応してゲルを形成する。その際に着色材(B)がゲルの網目構造の中に固定される。その結果、おもに液IIに由来する分散媒中におもに液Iに由来する着色ゲルが分散された多彩模様塗料が得られる。
【0019】
着色ゲル粒子を形成する際のゲル化可能な材料(A)は、ゲル化反応が起こり、所要の塗膜物性を得られるものであれば特に種類を問わない。所要の塗膜物性としては通常、塗膜強度、耐光性、耐水性等の塗膜性能である。これらの複数性能を満たすためには、各々の性能を満たす個別の樹脂をブレンドして用いることもできる。このような材料としては例えば、アクリル系、ウレタン系、アクリル・ウレタン系、アクリル・シリコーン系、シリコーン系、フッ素系、エポキシ系、エステル系、ビニル系の樹脂等、特に水溶性樹脂等であってゲル化可能なものが挙げられる。これらの1種あるいは2種以上を使用することもできるし、水溶性樹脂に限らず水系エマルジョンであっても構わない。特に金属塩、ホウ酸塩等とのゲル化反応が進みやすい有機高分子として、グルカン、アラビアガム、アルギン酸、カラギーナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、キトサン、グルコマンナン、ジェランガム等の多糖類およびその誘導体、ポリビニルアルコール等を使用もしくは添加することができる。さらに個々の物性を満たすためにラテックス系等の樹脂を添加してもよい。また、所要の塗膜物性を得るのは、単独でなく、液II中の塗膜形成材料(D)中に海島構造を形成することによるものでもよい。
【0020】
〔顔料分散機能を有する高分子材料〕
顔料等の着色材を含有する液Iには、特定の分子量と酸価等の物性を有する高分子化合物を存在させる。すなわち、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物である。この化合物は、顔料に対する分散能を有することが極めて望ましい。ここで顔料に対する分散能とは、顔料を分散媒中に分散させる機能、いわゆる顔料分散機能である。このような機能を有する高分子化合物としては、いわゆる高分子分散剤と称されているものが該当し、例えばアクリル系、ウレタン系、アクリル・ウレタン系等の樹脂が挙げられる。高分子分散剤は、分子中に疎水性の部位と親水性の部位を有しており、親水性の部位として−COOH基、−OH基、−NH基、−SOH基等が結合していることにより、疎水性の部位が顔料に吸着して、水性媒体中に安定して顔料を分散させると考えられている。このような高分子分散剤を含有する顔料分散液を用いて着色ゲル粒子を作製した場合、ゲル化可能な材料(A)を、ゲル化剤(E)を含む水に滴下すると十分な強度のゲルが得られるのに、高分子分散剤を添加するとゲルが形成されないか形成されても脆く壊れやすくなる現象が認められたのである。分散剤が共存すると好ましいゲルが形成されない原因を、本発明者が鋭意調査した結果、以下の事柄が明らかになった。すなわち、分散剤の種類によりゲル形成状況が異なることが本発明者により見出された。本発明者の推測によれば、−COOH基を有する分散剤は、ゲル化剤である金属イオンと結合して金属イオンを消費するものと考えられた。その結果、金属イオンが不足してゲル化反応が十分に進まなくなるのだと考えられた。また、−OH基、−NH基を有する分散剤についても、ゲル化剤であるホウ酸イオンと結合してホウ酸イオンを消費する結果、ホウ酸イオンが不足してゲル化反応が十分に進まなくなるのだと考えられた。
【0021】
そこで本発明者はさらに、分散剤が共存しても好ましいゲルが形成される方法を鋭意検討した。まず、分散剤との結合に消費される分、ゲル化剤を過剰に仕込んでおくことが考えられた。しかし、金属塩やホウ酸塩を過剰に含む塗膜は耐水性が劣り好ましくない。次に、ゲル化反応に悪影響を及ぼさない分散剤の条件を求めた。その結果、重量平均分子量が2,000以上であり、かつ酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下であることを満たす分散剤が好ましいことが判明した。
塗膜の耐水性を考慮すると、分散剤の重量平均分子量は2,000以上である。特に好ましくは3,000以上である。さらに好ましくは4,000以上である。高分子分散剤との結合による金属イオンの消費を抑えるために、分散剤の酸価は150mgKOH/g以下である。特に好ましくは120mgKOH/g以下である。また、分散剤との結合によるホウ酸イオンの消費を抑えるために、分散剤の水酸基価とアミン価を合わせて100mgKOH/g以下である。特に好ましくは70mgKOH/g以下である。これらの条件を満たせば、分散剤は水溶性樹脂に限らず水系エマルジョンであっても問題ない。
ゲル化可能な材料(A)に要求される性能の内、塗膜強度、耐光性、耐水性等の塗膜性能を付与する樹脂として、アクリル系、ウレタン系、アクリル・シリコーン系、シリコーン系等のバインダー樹脂が挙げられる。これらの樹脂は水溶性樹脂に限らず水系エマルジョンであっても問題ないが、ゲル形成能、塗膜性能を損なわないためには、上述した、高分子分散剤に要求される分子量、酸価、水酸基価、アミン価に関する規定を満たすバインダー樹脂を用いるのが望ましい。また、使用するバインダー樹脂が顔料に対する分散能を有していれば、バインダー樹脂が分散剤を兼ねることもできる。その場合のゲル化可能な材料(A)は、ゲル化可能な材料と分散能とを兼ね備えたバインダー樹脂になる。
【0022】
塗膜形成材料(D)も塗膜を形成しうる材料であれば制限されないが、一般には、水溶性樹脂あるいは水系エマルジョンが望ましい。要求される塗膜物性が満たされ、液II中に共存するゲル化剤(E)との反応が進まなければ構わず、具体的にはアクリル系、ウレタン系、アクリル・シリコーン系、シリコーン系、フッ素系、エポキシ系、エステル系、ビニル系等の樹脂が挙げられ、特に種類を問わない。
【0023】
ゲル化剤(E)は、ゲル化可能な材料の種類に応じてポリアミノカルボン酸誘導体、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩、アルミニウム塩、ホウ酸塩、リン酸塩、タンニン酸等が用いられる。
【0024】
分散媒としては水性、油性があるが、本発明では水性媒体でも極めて性能の優れた塗膜を形成する塗料を得ることができる。
水性分散媒の中には、塗料成分の溶解性向上剤、塗布乾燥時の造膜助剤として、有機溶剤を微量添加することがある。有機溶剤として、例えばブチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のエーテルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。しかし、これらを用いることによりゲル化反応が阻害されたり、顔料が溶出しやすくなる等の悪影響が懸念されるため、有機溶剤の含有量は5%以下であることが望ましい。
【0025】
着色材(B)としては主に顔料が好ましい。顔料としては特に制限されず、通常の塗料に用いられるものを適宜選択して用いればよい。例えば、カーボンブラック、鉄黒、黒鉛、弁柄、黄色酸化鉄、群青、酸化チタン等の無機顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンバイオレット、パーマネントカーミン、ファーストエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の有機顔料が使用できる。屋外使用の場合は、耐候性の面で無機顔料が推奨される。
【0026】
顔料(B)を液I中に添加する順序は、まず顔料(B)を分散媒に分散して分散体を得た後に、これを液Iの他の成分と配合しても良いし、顔料(B)をゲル化可能な材料と配合して分散してから液Iの他の成分と配合してもよいが、ゲル粒子の均一で強固な着色、安定な液の調製には、予め分散体を得る方法のほうが容易であり望ましい。この目的には、顔料の平均粒径は6μm以下とすることにより、沈降等の問題を抑えるのが望ましい。
【0027】
以上、基本的な構成成分について記述したが、他に必要に応じて体質顔料、増粘剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を適宜配合することができる。例えば、体質顔料としては炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、珪藻土等が挙げられる。
【0028】
中間色のゲルを得るには、複数の色の顔料(B)を液Iの他の成分中に同時に添加することにより達成される。また、個々の色が異なる複数色のゲル粒子を得るには、1種類ずつ着色ゲル粒子を作製した後にこれらを混合することにより達成できる。
液Iを構成する成分の添加順序は特に問わない。例えば、液Iを構成する全成分を合わせて分散しても良いし、予め着色顔料の分散品を作製しておいてから残りの成分と混合しても良い。ただし後者の場合は、着色顔料に対して分散能を有する成分を共存させて分散する必要がある。
【0029】
水性分散媒を着色するには、液IIに着色材を添加しておくか、ゲル形成後の塗料に着色材を添加すれば良い。こうすることにより、着色された水性分散媒の中に着色ゲル粒子が分散された塗料が得られる。水性分散媒の着色顔料の種類は、着色ゲル粒子の作製に用いられる顔料と同様、特に制約はないが、沈降抑制の点で平均粒径は6μm以下が好ましい。
【0030】
液Iを液IIに添加する方法としては、液IIを撹拌した状態のところに液Iを滴下するのが好ましい。着色ゲル粒子の大きさは、液IIの撹拌速度や液Iの滴下速度により調整できる。
多彩模様塗料の作製方法として、他に、液Iにゲル化剤を混合してまず着色ゲルを形成した後にゲル化剤を含まない液IIに分散する方法も存在する(例えば特開2003−165954号公報)。
【0031】
また、別法として、ゲル化剤だけを含む水に液Iを滴下してまず着色ゲル粒子を作製し、着色ゲル粒子を濾過、水洗、回収した後に液IIに分散する方法がある。この場合はゲル強度が弱くてゲル着色顔料がゲル粒子の網目構造から抜け出すことがあっても水洗により除去されるため、液IIに分散した後の塗料の濁りは比較的抑制される。しかし、本発明による着色ゲル粒子を使用すると、このような製法においてもゲル強度が強いために顔料がゲル粒子の網目構造から抜け出すのを抑制できるので水洗の必要性が低くなるとともに、着色ゲル粒子を液IIに分散した後でも着色顔料が溶出するのを抑制する効果がある。
【実施例】
【0032】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお特に断りのない限り、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」を示す。
【0033】
(実施例1〜8、比較例1〜6)
まず、表−1に示す各種の高分子分散剤を準備した。高分子分散剤の重量平均分子量はゲルクロマトグラフィー法により測定した。油性分散剤の測定に際しては、ポリスチレンを分子量較正のスタンダードに用いた。水溶性分散剤の測定に際しては、ポリエチレンオキサイドを分子量較正のスタンダードに用いた。酸価はJIS K 2501、水酸基価はJIS
K 0070、アミン価はJIS K 7237に基づく滴定法により測定した。
【0034】
これらの高分子分散剤を用い、表−2の配合に従って、縦型ビーズミルで分散して顔料分散液を得た。次にこれら顔料分散液を用い、表−3に示す配合の液I、表−4に示す配合の液IIを作製した。そして液II50gをインペラーで攪拌しながらここに液I100gを滴下していった。ここで液I中のキサンタンガムが液II中のホウ酸イオンと、液I中のアルギン酸が液II中のカルシウムイオンと結合してゲル化が促進される。その結果、水性分散媒中に着色ゲル粒子が形成され、着色ゲル粒子を含有する多彩模様塗料を得た。
【0035】
得られた着色ゲル粒子のゲル強度、多彩模様塗料の塗膜耐水性を評価した。ゲル強度の評価は、ゲル分散塗料を作製後1時間静置してから、刷毛で台紙の上に広げて乾燥した。その際に、着色ゲル粒子のつぶれ具合を目視判定することにより行なった。
○:ゲル粒子のつぶれほとんどなし
△:若干つぶれ気味
×:つぶれ大
また、多彩模様塗料の塗膜耐水性は、刷毛で台紙の上に広げて乾燥した塗膜を1日間水道水に浸漬した後に、塗膜表面の白化の程度を目視観察することにより評価した。
○:白化ほとんどなし
△:白化わずか
×:白化大
評価結果を表−5に示す。




【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
重量平均分子量が2,000以上であり、かつ酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子分散剤1〜8を用いて作製した多彩模様塗料はいずれも、ゲル強度、塗膜耐水性とも良好な性能を有していた。
一方、酸価が150mgKOH/gを越える高分子分散剤9、10、あるいは水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/gを越える高分子分散剤11、12、13を用いた多彩模様塗料は、ゲル強度の劣化が認められた。また、重量平均分子量が2,000未満の範囲にある高分子分散剤9、11、12、13、14を用いた多彩模様塗料は、塗膜耐水性に劣ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、ゲル形成に悪影響を及ぼさない高分子分散剤を用いることにより十分なゲル強度の水性多彩模様塗料を作製することができ、かつ耐水性に優れた塗膜を有する塗布物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色ゲル粒子を含有する多彩模様塗料であって、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物を含有する多彩模様塗料。
【請求項2】
分散媒として水性分散媒を含有する請求項1記載の多彩模様塗料。
【請求項3】
顔料を、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物を含む分散液としておき、これをゲル化可能な材料を含む液体と混合した液を、さらにゲル化剤を含む液と混合してゲル化反応を行うことにより、着色されたゲル粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする多彩模様塗料の製造方法。
【請求項4】
顔料、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物、及びゲル化可能な材料を含む液体と、ゲル化剤を含む液とを混合してゲル化反応を行うことにより、着色されたゲル粒子を生成させる工程を含むことを特徴とする多彩模様塗料の製造方法。
【請求項5】
顔料、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物、及びゲル化可能な材料を含む顔料分散液。
【請求項6】
顔料、重量平均分子量が2,000以上、酸価が150mgKOH/g以下、水酸基価とアミン価の計が100mgKOH/g以下の高分子化合物、及びゲル化剤を含む顔料分散液。

【公開番号】特開2006−199726(P2006−199726A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9834(P2005−9834)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【Fターム(参考)】