説明

多成分ガラス

本発明は、SiO−NaO−CaO−KO−SrO−MgO−ZnO−P−B−MF(式中、Mは1価または2価の陽イオンであり、xは1または2である)系の少なくとも6つの成分を含む多成分ガラス、およびコーティングとしてのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO−NaO−CaO−KO−SrO−MgO−ZnO−P−B−MF(式中、Mは1価または2価の陽イオンであり、xは1または2である)系の少なくとも6つの成分を含む多成分ガラス、およびコーティングとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体的に活性な(または生体活性のある)材料は、生きている組織に移植されると、該材料および周囲の組織との間に界面結合の形成を誘発する材料である。生体活性ガラスは、生体活性ガラスと骨などの生きている組織との間に強固な結合形成をもたらす生体的活性を誘発するように設計された表面反応性ガラスおよびガラス−セラミックのグループである。生体活性ガラスの生体活性とは、生理的条件下におけるガラス表面上での一連の複雑な生理化学的反応の結果であり、炭酸ヒドロキシアパタイト(HCA)相の沈殿および結晶化をもたらす。
【0003】
生きている組織と相互作用する生体活性ガラスの能力のために、これらは多くの医療的用途で利用されており、これらの1つは、整形外科用インプラントを含む医療用補綴物向けのコーティングを提供することである。
【0004】
金属製の補綴物は通常、チタン(Ti)、Ti合金(Ti6Al4V)、Cr−Co合金およびステンレス鋼(316L)などの金属または金属合金から作製される。これらは優れた機械的特性を有しており、また非毒性であるが、生体的に不活性である。インプラントは生体的に不活性な性質のために、移植後、体は密集した線維性組織層にインプラントを被包する。これは貧弱な応力分布をもたらす恐れがあり、かつ最後には骨−インプラント界面に追加的な外科的手段を必要とするという失敗に至る恐れがある。
【0005】
インプラントを生体活性層で被覆すると、線維性組織の形成をなくすことによって骨−インプラント界面が改善されて、骨への直接的な結合に至る可能性がある。これはまた、インプラントの固定を改善するために使用されてきたが、PMMAセメントで固定したインプラントに起因する多くの死亡のために日本においてある議論を引き起こした、PMMA系セメントの必要性を排除する。
【0006】
ヒドロキシアパタイト(HA)は、無機の石灰化した骨と類似の生体活性のあるセラミックである。HA系のコーティングは、金属製インプラント上にプラズマ溶射されるが、プラズマ溶射工程はアモルファス性および結晶性の相の混合物をもたらし、また複雑な形状を被覆するのは困難である。この組成面における不確実性は、体内における不安定な分解状態をもたらす恐れがある。さらに、HAと金属製基材の間に、界面に失敗をもたらす恐れがある熱膨張の大きな不釣合いがある。
【0007】
1970年代にHenchらによって開発され、FDA承認された45S5 Bioglass(登録商標)は、多段階溶出工程によってインビトロおよびインビボでのHCA形成を誘発する。しかし、45S5は、ガラス転移温度(T)より高く加熱すると、容易に結晶化する傾向を有する。この材料の熱膨張係数(TEC)はまた、生体医療用インプラントを作製するために一般に使用される金属のTECよりも大きい。この大きな熱膨張の不釣合いおよび脱ガラス化に向かう傾向は、ガラス粉末を金属製基材に施用してTより高い温度で焼結して均質な固体コーティングを形成する、エナメル加工によって製造するコーティングとして、Bioglass(登録商標)の使用を排除する。
【0008】
熱安定性の向上およびより一層低いTECとするために、45S5のガラス組成物の改変に関する研究が、Tomsiaらによって実施された(US2002/0076528)。通常、ガラスの二酸化ケイ素含量が増加され、アルカリ金属(例えば、NaおよびK)含量が減量されて、かつ酸化マグネシウムおよび三酸化ホウ素などの他の成分が添加される。ガラス構造がメタケイ酸塩構造(50mol%のSiO、直線性ケイ酸塩の鎖)から遠ざかるので、二酸化ケイ素含量の増加が支配的となり、また生体活性応答を低下させるにつれて、これらの改変は45S5に比べて、コーティングの生体活性を低下させる傾向を有する。チタンをうまく被膜する2つの組成物、それぞれ57重量%および61重量%のSiOを含有する6P57および6P61が特定されている。しかし、前者のガラスは人工体液(simulated body fluid)(SBF)において、HCAの形成に1カ月かかり、また後者のガラスは、SBFにおいて2カ月間でも、HCAを全く形成しない。その結果、被覆基材の表面は、生体活性応答を向上させるためのヒドロキシアパタイト(HA)または45S5の粒子によって充填される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガラス組成物を調節する(tailoring)、特に3mol%を超える含量のリン酸塩を配合し、かつ多成分ガラス系内の他の酸化物の含量を調節することによって、ガラス組成物は、脱ガラスについて安定化することにより該ガラスをコーティングとして首尾よく使用するのに適したものとし、また熱膨張係数(TEC)を制御し、さらに優れた生体活性を示す熱特性を有することを示す。ある種の多成分ガラス組成物は、練り歯磨きなどの個人ケア製品中の活性成分としての使用に有益なものとする抗微生物特性、生体適合特性および生体活性特性を示すこともまた、明らかにされた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は
SiO 35〜55.9mol%、
NaOおよびKOの合わせた含量が4〜34mol%、
MgO 0.5〜9mol%、
ZnO 0.5〜4mol%、
3.1〜10mol%、
0〜5mol%、
金属フッ化物 0〜5mol%、ならびに
CaOおよびSrOの合わせたmol%が8〜37mol%の組成を有し、
NaOおよびKOの各々が、少なくとも2mol%存在する、
アルミニウムフリー(alminium-free)のガラスを提供する。
【0011】
本発明のガラス組成物において、SiO含量は40〜50mol%、好ましくは43.5〜47mol%、より好ましくは44〜46mol%、44〜45.5mol%、さらにより好ましくは44.5〜45mol%とすることができる。
【0012】
NaOおよびKOの合わせたmol%含量は5〜31mol%とすることができる。
【0013】
本発明のガラスのNaOおよびKO含量は、各々独立に、2〜17mol%、好ましくは2.5〜15.5mol%とすることができる。ある実施形態では、必ずしもそうではないが、NaOおよびKOのmol%含量は等量である。ガラス組成物内の成分数を増加すると、熱安定性に有利となる。したがって、一般的な原理として、アルカリ金属含量を増加すると熱安定性は低下しても、NaOおよびKOの両方を含むことが有利である。
【0014】
本発明のガラスにおけるCaO+SrOの合わせたmol%含量は10〜35.5mol%とすることができる。本発明のガラスでは、CaO+SrO含量は、全量がCaO、全量がSrO、またはCaOおよびSrOを組み合わせて占められてよい。好ましくは、CaOおよびSrOの両方が、少なくとも0.5mol%、好ましくは少なくとも1mol%の含量で存在する。一部の実施形態では、mol基準において、総CaO+SrO含量の最大半分がSrOである。
【0015】
本発明のガラスにおいて、MgOは2mol%から9mol%、好ましくは3mol%から8.5mol%、好ましくは3mmol%から8.25mmol%で存在することができる。
【0016】
本発明のガラスにおいて、ZnOは0.5mol%から4mol%、好ましくは2mol%から4mol%で存在することができる。
【0017】
本発明のガラスにおけるPの含量は、3.1mol%から7mol%、または3.1mol%から6mol%とすることができる。ある実施形態では、Pは少なくとも3.5mol%である。したがって、P含量は3.5mol%から10mol%、3.5mol%から7mol%、または3.5mol%から6mol%とすることができる。
【0018】
本発明のガラスはまた、Bを0mol%から3mol%、好ましくは0mol%から2mol%含んでよく、および/または金属フッ化物、例えばCaF、SrF、ZnF、NgF、KFまたはNaF、好ましくはCaFを0mol%から3mol%、好ましくは0mol%から2mol%含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガラスHP1、HP2、HP3、HP5、HP7、BPS1、FPS1、6P57、6P61および45S5の示差走査熱量測定(DSC)トレースを示す図である。
【図2a】本発明のガラス粉末およびこれらのガラスを含む焼結コーティングのラマンスペクトルを示す図である。粉末形態、およびTi合金に被覆して700℃、725℃および750℃で焼結したガラスHP3のスペクトルを示す図である。
【図2b】本発明のガラス粉末およびこれらのガラスを含む焼結コーティングのラマンスペクトルを示す図である。粉末形態、およびTi合金に被覆して700℃、725℃および750℃で焼結したガラスBPS1のスペクトルを示す図である。
【図2c】本発明のガラス粉末およびこれらのガラスを含む焼結コーティングのラマンスペクトルを示す図である。粉末形態、および600℃、700℃、750℃および800℃で熱処理した焼結ガラスFPS1のスペクトルを示す図である。
【図3a】SBF中における1日後、1週間後および2週間後のガラスHP2、比較のための結晶性Ca−ヒドロキシアパタイトのラマンスペクトルを示す図である。
【図3b】SBF中における1日後、1週間後および2週間後のガラス6P57のラマンスペクトルを示す図である。
【図4】45S5、HP1、HP2およびHP5のガラスを用いて実施したALPアッセイの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一実施形態では、本発明のガラスは、SiOが40〜50mol%、NaOおよびKOを合わせた含量が4〜16mol%、MgOが2〜9mol%、ZnOが0.5〜4mol%、Pが3.1〜10mol%、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせた含量が26〜37mol%の組成を有することができる。本組成のガラスは2〜8mol%のNaO、および2〜8mol%のKOを含むことができる。本組成のガラスは、TiまたはTi合金のコーティングとしての使用に特に適する。
【0021】
ガラス組成はSiOを40〜50mol%、NaOおよびKOを合わせた含量を4〜16mol%、MgOを2〜9mol%、ZnOを2〜3.5mol%、Pを3.5〜6mol%、Bを0〜2mol%、金属フッ化物を0〜2mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせたmol%を29〜36mol%とすることができる。ある実施形態では、SiOの含量は44〜46mol%、好ましくは44〜45.5mol%、より好ましくは44.5〜45mol%である。KOおよびNaOの含量は、独立に、2〜8mol%、好ましくは2.5〜6.85mol%とすることができる。MgO含量は3〜9mol%、好ましくは3.25〜8.25mol%とすることができる。ZnO含量は2.5〜3mol%とすることができる。ある実施形態では、CaOおよびSrOの合わせたmol%は、29.25〜35.5mol%である。
【0022】
別の実施形態では、本発明のガラスは、SiOが40〜50mol%、NaOおよびKOを合わせた含量が16〜34mol%、MgOが2〜9mol%、ZnOが0.5〜4mol%、Pが3.1〜10mol%、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせた含量が8〜26mol%の組成を有することができる。本組成のガラスは、8〜17mol%のNaO、および8〜17mol%のKOを含むことができる。本組成のガラスは、クロム−コバルト合金またはステンレス鋼(例えば、316L)のコーティングとしての使用に特に適する。
【0023】
好ましくは、ガラス組成は、SiOを40〜50mol%、NaOおよびKOを合わせた含量を16〜34mol%、MgOを2〜9mol%、ZnOを2〜3.5mol%、Pを3.5〜6mol%、Bを0〜2mol%、金属フッ化物を0〜2mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせた含量を9〜24mol%とすることができる。ある実施形態では、SiOの含量は44〜46mol%、好ましくは44〜45.5mol%、より好ましくは44.5〜45mol%である。KOおよびNaOの含量は、独立に、9.75〜15.5mol%とすることができる。MgO含量は、3〜8mol%、好ましくは3〜7.5mol%とすることができる。ZnO含量は2.5〜3.5mol%、好ましくは3mol%とすることができる。CaOおよびSrOの合わせたmol%は、10〜23mol%とすることができる。
【0024】
ある実施形態では、ガラスは、SiOが44〜46mol%(好ましくは44.5〜45.5、より好ましくは45mol%)、NaOおよびKOを合わせた含量が18〜22mol%、Pが1〜6mol%(好ましくは4〜5mol%、より好ましくは4.5mol%)、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせたmol%が19〜26mol%(好ましくは、20〜23mol%)の組成を有する。本組成のガラスは、独立に、NaOおよびKOの各々を9〜11mol%(好ましくは9.5〜10.5mol%、より好ましくは9.75〜10mol%)含むことができる。本組成のガラスは、クロム−コバルト合金のコーティングとしての使用に特に適する。
【0025】
ある実施形態では、ガラスは、SiOが44〜46mol%(好ましくは44.5〜45.5、より好ましくは45mol%)、NaOおよびKOを合わせた含量が28〜34mol%、MgOが2〜8mol%(好ましくは3〜7mol%)、ZnOが2〜4mol%(好ましくは3mol%)、Pが3.1〜6mol%(好ましくは4〜5mol%、より好ましくは4.5)、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせたmol%が8〜15mol%(好ましくは10〜14.5mol%)の組成を有する。本組成のガラスは、独立に、NaOおよびKOの各々を14〜17mol%(好ましくは15〜16mol%、より好ましくは15.25〜15.5mol%)含むことができる。本組成のガラスは、ステンレス鋼(例えば、316L)のコーティングとしての使用に特に適する。
【0026】
本発明の第1の態様のガラスは、MgO含量が8.25mol%以下、好ましくは7.5mol%以下、ならびにNaOおよびKOの合わせた含量が少なくとも8を有するのが好ましい。Cr−Co合金または316Lの被覆に特に適したものとして記載される本実施形態のガラスでは、NaOおよびKOを合わせた含量は少なくとも18mol%であり、316Lの被覆に特に適したものとして記載されるガラスでは、好ましくは少なくとも28mol%である。
【0027】
ガラスは、微粒子の形態、すなわちガラス粉末として提供され得る。
【0028】
本発明の第1の態様のガラスは、金属製基材または金属合金製基材を被覆するために使用され得る。したがって、第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様のガラスを含む被覆用組成物を提供する。被覆用組成物は、好ましくは医療用または歯科用インプラントであって、かつ例えばTi、Ti合金、Cr−Co合金またはステンレス鋼から形成され得る金属製基材または金属合金製基材の被覆用途とすることができる。
【0029】
好ましくは、本発明のガラスは基材上に被覆して、さらに焼結することができる熱特性を有する。ガラス粉末を基材に施用して、かつTgより高い温度で焼結して固体のコーティングを形成することによって、コーティングが形成され得る。焼結温度は、例えば600〜900℃、好ましくは700〜800℃とすることができる。焼結工程時の結晶化を防止するように、ガラス組成物は配合され得る。
【0030】
コーティングに加えて、本発明のガラスは、繊維(均質構造、またはコア−クラッド構造を有する)、多孔質足場(scaffold)、バルクモノリス(bulk monolith)、生分解性ポリマー製のコンポジット構造物を形成するために、粉末形態(例えば、骨移植片の代替物として)で使用され得る、または凝結反応の間にポリマー中の酸性官能基(例えば、PMMA中のカルボキシレート基)に配位する無機イオンと一緒に、セメントの成分として利用され得る。本発明のガラスは、溶媒中において溶融誘導(melt-derived)ガラス粒子、重合可能なモノマー、架橋剤および開始剤のスラリーを形成するステップ、該スラリーに界面活性剤および触媒を添加するステップ、ガスの存在下でスラリーを震盪して発泡体を製造するステップ、発泡体を乾燥するステップ、および該乾燥発泡体を焼結して多孔質足場を製造するステップを含む工程において、多孔質材料を形成するために使用され得る。本製造工程は、WO 2009/144455に記載されている。
【0031】
第3の態様では、本発明は金属製基材または金属合金製基材を含む被覆基材、および本発明の第1の態様のガラスから形成されたコーティングを含む。コーティングは、基材表面に施用して、次に焼結して焼結ガラスコーティングを与える本発明の第1の態様のガラスから形成されることになる。コーティングは、単一層コーティングであってもよく、2層コーティングであってもよく、または多層コーティングであってもよいが、少なくとも1つの層が本発明の第1の態様のガラスを含む組成物から形成される。
【0032】
コーティングは、通常全体で10〜500μmの厚みを有し、約100μmが好ましい(すなわち、50〜150μm、好ましくは80〜120μm)。
【0033】
基材はチタン金属、チタン合金(例えば、Ti6Al4V)、クロム−コバルト合金またはステンレス鋼(例えば、316L)を含むことができる。
【0034】
被覆基材は医療用インプラント、例えば、整形外科用インプラントまたは歯科用インプラントとすることができる。基材はコーティングによって完全に被覆された外表面を有してよく、あるいは基材は部分的に被覆されていてもよい。例えば基材がねじの場合、コーティングはねじ溝に存在しているが、ねじ山(thread)には存在しない場合がある。
【0035】
第4の態様では、本発明は基材を被覆する方法であって、基材が本発明の第3の態様において定義した通りであり、コーティングが本発明の第1の態様のガラスを含む方法を提供する。被覆工程は、粉末ガラス(またはガラスを含む組成物)を基材に施用するステップ、および次に該ガラスを焼結するステップを含む。被覆方法は、スプレーガン、静電式ドライスプレー器、電気泳動堆積、またはそれらの任意の組合せを使用する、浸漬被覆、堆積またはプラズマ溶射とすることができる。被覆基材は熱処理されて、ガラスに焼結される。加熱工程において、界面反応により形成するいかなる気泡もコーティング表面に浮上することを確実とするために、熱処理は真空下で実施されるのが好ましい。
【0036】
アルミニウムは神経毒であり、かつ非常に低レベルでさえインビボにおいて骨の石灰化の阻害剤となり、したがって、本発明のいかなる態様のガラスもアルミニウムフリーである。
【0037】
本発明の各態様の好ましい特徴は、組み合わせて存在してもよく、また変更すべきところは変更して、その他のすべての態様に適用してもよい。
【0038】
本発明は様々な方法で実施することができ、本発明を例示するために、添付の実施例および図面を参照しながら、特定の実施形態のいくつかを実施例によって説明する。
【0039】
本発明のすべての態様のガラスは、生体活性ガラスとすることができる。生体活性ガラスとは、生きている組織に移植されると、材料と周囲の生きている組織との間に界面結合の形成を誘発することができるガラスのことである。本発明のガラスの生体活性は、ガラス組成物からのイオン放出の結果であり、したがって、本発明のガラスは生理的状態において、イオン放出をもたらすべきである。したがって、本発明のガラスは生理的状態において、少なくとも部分的に吸収性である。
【0040】
本発明の文脈において、SrF、CaF、ZnFまたはMgFなどのフッ化金属(II)、あるいはKFまたはNaFなどのフッ化金属(I)。
【0041】
本明細書で使用される「チタン」とは医療用グレードのチタン、例えば純チタンCPグレード1〜4(ASTM−F67)に関する。「Ti合金」または「Ti6Al4V」とは、ASTM F136において詳述されるような6重量%のアルミニウムおよび4重量%のバナジウム(残りが90重量%のチタン)と合金されたチタンについて言及する。
【0042】
本明細書で使用される「クロム−コバルト合金」または「Cr−Co合金」とは、クロムおよびコバルト、また場合によりモリブデンなどの追加の元素を含む合金(例えば、ASTM−F75、F799、F90またはF562において規定されている合金)について言及する。
【0043】
本明細書で使用される「316L」とは、組成がすべて重量%で、Cが<0.03、Mnが<2、Siが<0.75、Pが<0.045、Sが<0.03、Crが16〜18、Moが2〜3、Niが10〜14、Nが<0.1、および残りがFe(例えば、ASTM A240/A240M)の低炭素ステンレス鋼合金について言及する。
【0044】
用語「45S5」および「Bioglass(登録商標)」は、相互交換が可能であり、またmol%で46.1SiO−24.4NaO−26.9CaO−2.6P(重量%で45SiO−24.5NaO−24.5CaO−6P)のソーダ石灰リンケイ酸塩組成物について言及する。
【0045】
本発明および結晶性構造の文脈において、「ガラス」とはアモルファス性の固体であり、また「ガラス−セラミック」とは、焼結後に部分的に結晶化しており、それゆえにアモルファス性構造および結晶性構造が混在しているガラスである。
【0046】
本出願を通じて、本発明のガラスはある酸化物/フッ化物の組成物を有する、またはこれらの組成物から形成されるものとして記載されるが、ガラス組成物とは、列挙された比の酸化物/フッ化物を含むが、他の成分も含んでよいことを理解されよう。しかし、ガラス組成物が列挙される各例において、本発明は同様に、列挙された酸化物およびフッ化物から本質的に構成される組成物、すなわち他の成分を含むこと無く形成されるガラスをも包含する。成分はバッチ(batch)の組成基準に基づいて、すなわち溶融してガラスを形成する混合物において提供される比で与えられる。
【実施例】
【0047】
ガラスの製造
本発明のガラスは、従来のメルト−キャスト技法によって製造され得る。ガラスを作製するために使用される試薬は、ガラス組成物の酸化物および/または熱で分解して酸化物を形成する他の化合物、例えば炭酸塩とすることができる。溶融誘導ガラスを、適切な炭酸塩または酸化物を混合するステップ、約1250℃から1500℃の温度で該混合物を溶融して均質化するステップ、該混合物を冷却するステップ、例えば溶融混合物を水に注ぐステップによって調製して、乾燥、粉砕およびふるいにかけてガラス粉末を形成し得るガラスフリットを製造することができる。
【0048】
以下の実施例において記載されるガラスは、ガラス組成物を構成する種々の酸化物の所望のmol%を与える計算量で、試薬SiO、NaCO、CaCO、KCO、MgO、ZnO、B、P、Ca(PO、NaPO、NaPOおよびMgFの一部またはすべてを混合することによって調製した。リン酸ナトリウムおよびトリリン酸カルシウムがリン酸塩の原料として好ましかった。MgFの代わりに、SrF、CaF、ZnF、NaFまたはKFを使用できることにも留意すべきである。試薬混合物を白金るつぼ中、1350〜1400℃で溶融し、フリットキャストを水に入れてふるいで集め、次に150℃で1時間乾燥した。ガラスフリットを回転式ボールミルにおいて30分間粉砕してガラス粉末を製造し、次に、ふるいにかけて最大粒子サイズが<38ミクロンを有するガラス粉末を製造した。平均粒子サイズは、約20ミクロンであった。
【0049】
当技術分野においてよく認識されているように、ガラス組成物は、ガラスを形成する溶融混合物中の酸化物(またはフッ化物)成分の比率(mol%)を単位として定義される。
【0050】
ガラス組成物−コーティング
本発明の好ましいガラス組成物を、表1A、表1B、表2Aおよび表2Bに示す。表1Aおよび表1Bに示されたガラス組成物は、TiおよびTi合金の被覆に特に有用である。表2Aおよび表2Bに示されたガラス組成物は、クロム−コバルト合金(HP14〜19)および316Lステンレス鋼(HP20〜25)の被覆に特に有用である。溶融混合物において使用される試薬の、表に示されたmol%の酸化物組成物を与える各計算量で、上記のメルト−キャスト技法に準拠してガラスを調製した。例えば、75.54gのSiO、11.98gのNaCO、45.95gのCaCO、67.78gのSrCO、15.62gのKCO、8.54gのMgO、6.90gのZnOおよび18.05gのPから、200gのガラスHP1を調製した。
【0051】
コーティング用途のガラスを設計する場合に考慮される重要な特性には、熱安定性、基材と釣合いのとれた熱膨張係数、および生体活性が含まれる。ガラス組成を調節することによって、優れた被覆用材料を与えるために必要な熱的特徴が、優れた生体活性を示すガラスに組み合わされ得る。具体的に、特性の改善はリン酸塩含量の増加(これまでに公知のガラスの大部分はリン酸塩を有さない、またはリン酸塩含量が非常に低い)およびSiO含量の減量により達成された。
【0052】
さらに、特性の改善は、低含量であるが、マグネシウムおよび亜鉛を含むことによって達成された。MgおよびZnは非毒性であり、また亜鉛は殺菌性なので、それらは魅力的な成分である。これは、創感染のリスクを低減、治癒を加速、および有痛性の修正手術の必要性を低減するためのコーティングにおいて有益である。さらに、MgおよびZn(同様に二酸化ケイ素)は、ガラスを熱的に安定化して、コーティングへの焼結を可能にする。
【0053】
優れた生体活性を達成するためには、ガラスからのイオンの溶出による、生理的環境の、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンおよびリン酸イオンでの過飽和を有することが望ましい。これは、アパタイトの沈殿方向への化学平衡を推進するが、急速に分解しないガラスでは観察されないものである。MgおよびZnは、アパタイト格子中における溶解度が乏しいために、アパタイトの結晶成長を阻止することが公知である。このように、マグネシウムおよび亜鉛含量が高すぎると、許容できる期間において、インビボで石灰化するガラスを防止することになる。したがって、ガラスの易焼結性(sinterability)および化学的溶解性の間のバランスを見なければならず、また本発明のガラスにおいて規定される量で存在するマグネシウムおよび亜鉛を有することによって、首尾よく被覆するために必要な熱特性と生体活性の間のバランスが達成される。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
ガラスの主要成分は二酸化ケイ素なので、二酸化ケイ素含量が特性を支配する傾向がある。二酸化ケイ素含量が増加すると、非架橋性の酸素含量が低下し、またより多くのネットワーク結合(network linkage)が存在する。これは、より剛直なガラスネットワークと関係し、そうして化学反応性(溶出および生体活性)が低下し、また熱機械的特性が向上する(結晶化抵抗性、軟化点、機械的強度)。
【0059】
リン酸塩含量が増加するにつれて、ケイ酸塩相が核形成して結晶化するための不均質な核形成部位(リン酸塩滴(phosphate droplet))の表面積を増加させるリン酸塩相のサイズが増大するので、ガラスは同様に熱的に一層不安定になる。
【0060】
本発明のガラスの組成面での設計と、Tomsiaら(US2002/0076528)のガラス、および同様に45S5を出発点とするWO2007/144662に開示のガラスとの比較として、Tomsiaは、SiOをかなり増量、Pを同量に維持、NaOおよびCaOを減量して、かつKOおよびMgOを加えている。WO2007/144662では、SiOがわずかに増量し、P、NaOおよびCaOが減量し、かつKO、SrO、ZnOおよびMgOが加えられている。
【0061】
本発明のガラスに到達するために、SiO含量を低下し、かつリン酸塩含量を増加するという、異なる取り組みが取られている。この取り組みによって、良好な熱安定性と相まって優れた生体活性応答が得られた。これは、(a)エネルギー障壁のために、原子レベルの再配列およびサイズが重要な核形成に必要な結晶化に対する障壁となる混合エントロピーを増大する、ガラス中における成分数の多さ、および(b)リン酸塩相が[PO3−錯体を形成するので、これらはバランスを変化させるための変更イオン(modifier ion)を必要とすることに起因し得る。これにより、非架橋性の酸素がケイ酸塩層から流出し、そうしてガラスは組成物から始めに見られるよりも、わずかに重合が進んでいる。これは、ガラスを熱的に安定化することになるが、溶出挙動には大きく影響しない。したがって、リン酸塩含量の増加は、溶解性およびその結果の生体活性を減少させること無く、熱安定性の獲得に主要な役割を果たす。
【0062】
生体活性および結晶化抵抗性により、メタケイ酸塩(50%のSiO)組成物の周囲が急速に変化するので、本発明のガラスは特性において転移の正しい側にちょうど存在する。
【0063】
まとめると、生体活性は構造依存性を有するが、同様に元素依存性でもある(Ca、P、Sr、特につまり鉛−メタケイ酸塩ガラスは、インビボにおいてHAを形成しないことになる)。したがって、ケイ酸塩含量及び構造はHA析出を直接引き起こさない、つまり他のイオンが溶液中に放出されてHAを形成する速度を制御する。
【0064】
熱特性
本発明のガラス組成物は、金属製基材(例えば、チタン、Ti合金、Cr−Co合金または316L)の熱膨張係数と釣り合う、またはそれよりわずかに大きな熱膨張係数を有するように設計された。これにより、最小限の熱応力または圧縮熱応力が、被覆基材に存在するよう確保されることになる。この一実施例として、ガラスHP1をTi6Al4Vの細片上に被覆した。金属細片上に凹曲線が観察され、該ガラスが該金属よりもわずかに大きなTFCを有し、その結果、対象物を圧迫していることを示している。これは、ガラスなどの脆弱な材料に望ましい。
【0065】
上で設定した熱データ、すなわちガラスのガラス転移温度(T)の開始、結晶化(T)の開始および結晶化ピーク(T)を得るために選択したガラス粉末について、異なる短い走査(DSC)を実施した。ガラスサンプルを、200℃から1000℃の間において10℃/分の加熱速度で測定した。
【0066】
本発明のガラスのガラス転移温度(T)は十分低く、また粘性流焼結(viscous flow sintering)が金属製基材のアルファ相からベータ相への転移より低く起こることを確実とするためにT−Tを最大化するが、これには大きな体積変化を伴う。
【0067】
ある一般的な生体医療用材料の熱膨張係数は、純チタンおよびTi6Al4Vでは9.2x10−6−1、CrCo(ビタリウム−ASTM F75)では14.0x10−6−1、45S5では15.1x10−6−1、および316Lでは17.5x10−6−1である。
【0068】
チタンおよびTi合金を特定の例として挙げると、上記のように、純チタンおよびTi6Al4Vの熱膨張係数は、9.2x10−6−1である。本発明の様々なガラスの熱特性を表3に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
上に示されたデータからわかるように、表3に示されたガラスは、TiおよびTi合金よりもわずかに大きいTECを有する。本発明の第1の態様のガラスすべての操作範囲(Tx−Tg)は、>100℃である。さらに、これらのガラスの最適焼結温度は、700〜800℃の範囲である。これは、955℃から1010℃(Ti6Al4Vの場合)の範囲で起こるチタンのアルファ相からベータ相への転移より十分低い。750℃では、有意な界面反応が起こることなく、チタンまたはTi合金上にガラス粉末を30分間焼結することができる。金属製基材または金属合金製基材(例えば、Ti、V、Al)からの金属イオンの拡散は、750℃での焼結時には、5ミクロンの界面領域周辺に限られる。
【0071】
TiまたはTi合金を被覆するために特に適したものとして記載される本発明のガラスは、9〜11.5(x10−6℃)の範囲のTECを有するのが好ましく、Cr−Co合金を被覆するために特に適したものとして記載されるガラスは、13.5〜16(x10−6℃)の範囲のTECを有するのが好ましく、またステンレス鋼を被覆するために特に適したものとして記載されるガラスは、17〜19.5(x10−6℃)の範囲のTECを有するのが好ましい。
【0072】
被覆基材の調製
上記のように調製されたガラス粉末を、浸漬被覆(クロロホルム−PMMA溶液中の懸濁液またはエタノール−ガラススラリーを使用)、および堆積(エタノール中の懸濁液)によって、基材を被覆するために使用した。420℃で予備加熱して、その温度で真空にして30分間保持した歯科向けの陶材焼結炉(Jelrus社 V.I.P. Universal)で、コーティングを焼結した。次に、炉を60℃/分で750℃まで加熱して、30分間保持した。次に、真空を解除してサンプルをゆっくり120℃まで冷却し、この温度において、サンプルを炉から取り出した。この焼結計画によって、チタンまたはTi合金の粒成長はなんら生じることはなく、したがって金属の疲労強度の低下は何ら予期されないことになる。一実験では、歯科用ねじはガラスHP5で首尾よく被覆された。ガラス層の厚みを制御することができ、製造したねじは、ねじ溝にコーティング(この場合、骨は一般に骨結合する(osseointegrate)ことはない)、およびねじの切断の先端を保つために非被覆ねじ山を含むことになる。
【0073】
ガラスおよびコーティングのアモルファス性質は、200cm−1から1200cm−1の間における顕微ラマン分光法を利用して評価した。割れおよび他の欠陥がないか、サンプルを目視検査した。エポキシ樹脂中での断面測定(cross-sectioning)、および走査型電子顕微鏡による検査、およびエネルギー分散型X線分析(SEM−EDX)によるさらなる研究のために、良好に結合しているサンプルを選別した。これにより、被覆ガラスと金属製基材間の界面領域の品質および化学的性質の評価が可能となる。
【0074】
加熱処理中に結晶性成分の形成を少量にしながら、ホウ酸塩およびフッ素含有ガラスからガラス−セラミックコーティングを調製した。ガラスコーティングにおける結晶化は、生体活性に悪影響を及ぼす恐れがあるので、一般に、回避すべきである。したがって、本発明の焼結コーティング内に、ガラスのアモルファス構造を維持することが好ましい。しかし、結晶性成分が、良くない細胞応答をなんら誘発しない、ガラスの分解性を妨害しない、およびガラスのオルトリン酸塩相内でのみ起こるのであれば、ホウ酸塩およびフッ素ガラスにおけるオルトリン酸塩相の一部の結晶化は、コーティング特性に悪影響を及ぼさなかった。実際に、ナノスケールのオルトリン酸塩相が低レベルで存在するフッ素含有ガラスで形成され得るアパタイト様フルオロアパタイト結晶は、コーティングを強固にして、HA結晶のためのエピタキシャル成長部位をもたらした。
【0075】
粉末ガラスおよび焼結ガラスコーティングに、ラマンスペクトルを実施した。これらを図2(a)、図2(b)および図2(c)に示す。これらのスペクトルからわかるように、焼結ガラスコーティングは、未焼結ガラス粉末と同一のラマンスペクトルを示し、加工時に構造的変化が起こらなかったことを示している。ホウ酸塩または塩化物を含むコーティングにおいては、小さな変化が観察される。主要なvのオルトリン酸塩(Q)のリン酸塩の960cm−1における振動バンドが鋭くなり、かつ長波長数にわずかにシフトしており、アパタイトに構造が近い、リン酸塩相のナノ結晶性を示している。このバンドは、非縮退のP−O対称伸縮モードの結果である。
【0076】
生体活性の測定
人工体液(SBF)に暴露されるガラス表面上への、炭酸ヒドロキシアパタイト(HCA)層の成長速度は、生体活性のインビトロ指標を提供する。本発明の文脈において、以下の手順に準拠してSBFに暴露したときに、結晶性HCA層の析出が起これば、ガラスは生体活性であると見なされる。ガラスHP2について本手順に続き、HCA形成をインビトロで2週間観察したが、これはBioglass(登録商標)と比較できる。
【0077】
人工体液の調製
KokuboおよびTakadamaの方法(Biomaterials 27 (2006)、2907-2915)に準拠してSBFの調製を行い、SBF1リットルは蒸留水に溶解した以下の試薬を含有した。
【0078】
【表6】

【0079】
生体活性の測定アッセイ
インビトロでのアパタイト形成能、すなわちインビボでの挙動指標を測定するために、規格(ISO23317)の人工体液(SBF)試験を利用して、ガラス粉末を解析した。本解析では、ガラス粉末は固体のディスク形状の試料以外のものを使用した。使用したガラス粉末の量は、規格において所与の比に相当するSBF体積に対する該粉末の表面積比を与えるように算出し、これはSBF60mlに対して225ミクロンの直径のガラス粉末67.5mgであった。
【0080】
HCAの形成は、顕微ラマン分光法によって測定することができる。SBFに1日、1、2、3および4週間浸漬した後、乾燥粉末を顕微ラマン分光法を用いて解析して、およそ960cm−1におけるHCAリン酸塩の特徴的なv振動バンドの出現を観察した。
【0081】
ALPアッセイ
生体活性はまた、以下に記載したようなインビトロのヒト骨芽細胞ALPアッセイでも測定することができ、この場合、アルカリホスファターゼ(ALP)が骨の石灰化のマーカーとなる。本アッセイでは、ヒト骨芽細胞を、ガラス溶出製品中で培養する。
【0082】
培養培地の調製:ガラス粉末をUV光によって滅菌した(6ウェルプレートに3mg)。1%のA/Aを含むDMEM/F−12 NUT培地100ml中1gのガラス粒子を、378C、5%COで一晩インキュベートすることによって、ガラス状態の培地を調製した。ろ過後に、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法を用いて、元素濃度を測定した。
【0083】
細胞培養:RPMI 1640+10%のFBS+2mMのL−グルタミン中で、SAOS2細胞を培養した。ウェルの組織培養用プラスチック上に、cm当たり30,000個の細胞を、サンプルと共に播種した。細胞を30分間かけて付着させた。ウェルを培地と共に引き上げて、1日おきに変えた。
【0084】
アッセイ:
MTT:5mg/mlのMTT(Sigma社 M2128)50μlを各ウェルに加えて、37Cで1時間インキュベートする。培地をすべて除去して500μlのDMSOを加え、その100μlを新しいウェルに移注して、620nmにおいて読取りを行った(本アッセイは代謝活性を示す)。
【0085】
ALP:培地をすべて除去し、500μlのddHOを添加し、凍結融解して、50μlの細胞溶解物を50μlのALP溶液(0.1M グリシン、0.1M ZnCl、0.1M MgCl、5ml当たり1錠のニトロフェニルリン酸錠剤)と混合する。ウェルあたり50μlの1MのNaOHで反応を停止する。405nmにおいて読取りを行う。
【0086】
全DNA:同一の細胞溶解物由来とし、50μlの細胞溶解物を50μlのHoechst Dye(10mMのTris、1mMのEDTA、2MのNaCl、pH 7.4のTNEバッファー中、20μg/ml)と混合する。exc.360nm、em.460nmにおいて読取りを行う(Rago R, Mitchell J, Wilding G, Analytical Biochemistry 191,31-34,1990)。
【0087】
ALPアッセイの結果(DNAに規格化)を図4に示す。図4において、ガラスは、左から右へ、Sr含量の順、すなわち45S5、HP2、HP5およびHP1の順にプロットする。ALPは、本発明のガラスについて一般により高く、またSr含量とともに増加する。
【0088】
追加の細胞アッセイ結果
ガラスHP5、HP2およびHP1を、メルト−クエンチ法(melt-quench route)によって製造した。1.5g/Lのガラス粉末(<38μm)を、RPMl 1640培養培地に加えて、37℃で4時間、ローラー上でインキュベートして、次に過剰のガラスをろ過した。溶解しているイオン濃度を、誘導結合プラズマ−質量分析法(ICP−MS)によって確認した。富培養培地には、10%(w/v)のFBS、2mMのL−グルタミン、1%(w/v)のペニシリン−ストレプトマイシン、および骨石灰化剤(5mMのβ−グリセロリン酸および50μg/mLのアスコルビン酸)を補給した。代謝活性(MTT)およびアルカリホスファターゼ(ALP)解析用に、Sa Os−2ヒト骨肉腫細胞を30,000/cmでプレートし、一方、テトラサイクリン染色用には34,400/cmの密度を用いた。45S5をすべての実験における対照に使用した。テトラゾリム塩の減少に基づくMTT活性を、プレーティングの1、7、14および21日後に測定した。基質としてp−ニトロフェニルリン酸を用いてALP活性を測定し、テトラゾリウム塩(INT)の赤色ホルマザンへの変換を測定するラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)酵素活性に対する細胞数に規格化(normalize)した。新しく形成した無機物を可視化するために、20日後培養物に10μg/mLのテトラサイクリンHClを加えて、24時間後に蛍光画像を撮影した。画像の半定量的解析を実施した。
【0089】
HP1、HP2およびHP5のすべてが、45S5と同様のレベルの代謝活性を示した。45S5と比較すると、7日後の培養物中におけるALP活性は、すべての被覆用ガラスにおいて増強された。45S5と比較すると、HP1、HP2およびHP5に暴露したSaOs−2は、14日後の培養物では、一層大きなALP活性を示した。21日後に45S5を含むすべての群と比較すると、溶出イオンで処理したSaOs−2は、テトラサイクリン染色について明るい染色を示した。Sr置換とテトラサイクリン染色との間の正の相関は、染色領域の半定量的解析によって裏付けられた。
【0090】
Bioglass(登録商標)45S5と比較すると、細胞あたりのALP活性、すなわち活発に石灰化する細胞のマーカーは、HP1、HP2およびHP5で処理した培養物において一層高かった。Srの添加を増量すると、ALP活性の比例的な増加をもたらした。これは、HP1で処理した培養物において、骨小節形成に対する最も明るい染色を示すテトラサイクリン染色の結果と一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
SiO 35〜55.9mol%、
NaOおよびKOの合わせた含量が4〜34mol%、
MgO 0.5〜9mol%、
ZnO 0.5〜4mol%、
3.1〜10mol%、
0〜5mol%、
金属フッ化物 0〜5mol%、ならびに
CaOおよびSrOの合わせたmol%が8〜37mol%
から形成され、
NaOおよびKOの各々が、少なくとも2mol%存在する、
アルミニウムフリーのガラス。
【請求項2】
SiO含量が、40〜50mol%、好ましくは43.5〜47mol%、より好ましくは44〜46mol%、44〜45.5mol%、さらにより好ましくは44.5〜45mol%である、請求項2に記載のガラス。
【請求項3】
含量が、それぞれ独立に、2〜17mol%、好ましくは2.5〜15.5mol%である、請求項1または請求項2に記載のガラス。
【請求項4】
CaOおよびSrOの両方が、少なくとも0.5mol%、好ましくは少なくとも1mol%の含量で存在する、請求項1から3のいずれかに記載のガラス。
【請求項5】
a)MgO含量が2mol%から9mol%、好ましくは3mol%から8.5mol%、好ましくは3mol%から8.25mol%、
b)ZnO含量が2mol%から4mol%、
c)Pの最低含量が3.5mol%、および/またはPの最大含量が10mol%、7mol%または6mol%、
d)B含量が0mol%から3mol%、好ましくは0mol%から2mol%、および
e)金属フッ化物の含量が0mol%から3mol%、好ましくは0mol%から2mol%
の1つ、2つ以上またはすべてを含む、請求項1から4のいずれかに記載のガラス。
【請求項6】
SiOが40〜50mol%、NaOおよびKOを合わせた含量が4〜16mol%、MgOが2〜9mol%、ZnOが0.5〜4mol%、Pが3.1〜10mol%、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせた含量が26〜37mol%の組成を有する、請求項1から5のいずれかに記載のガラス。
【請求項7】
a)NaO 2〜8mol%、
b)KO 2〜8mol%、
c)ZnO 2〜3.5mol%、
d)P 3.5〜6mol%、
e)B 0〜2mol%、
f)金属フッ化物 0〜2mol%、
g)CaOおよびSrOの合わせたmol%が29〜36mol%、ならびに
h)SiO含量 44〜46mol%
の1つ、2つ以上またはすべてを含む、請求項6に記載のガラス。
【請求項8】
SiOが40〜50mol%、NaOおよびKOを合わせた含量が16〜34mol%、MgOが2〜9mol%、ZnOが0.5〜4mol%、Pが3.1〜10mol%、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせた含量が8〜26mol%の組成を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス。
【請求項9】
a)NaO 8〜17mol%、
b)KO 8〜17mol%、
c)ZnO 2〜3.5mol%、
d)P 3.5〜6mol%、
e)B 0〜2mol%、
f)金属フッ化物 0〜2mol%、
g)CaOおよびSrOの合わせたmol%が9〜24mol%、ならびに
h)SiO 44〜46mol%
の1つ、2つ以上またはすべてを含む、請求項8に記載のガラス。
【請求項10】
SiOが44〜46mol%、NaOおよびKOを合わせた含量が18〜22mol%、Pが1〜6mol%、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせたmol%が19〜26mol%の組成を有する、請求項8または9に記載のガラス。
【請求項11】
SiOが44〜46mol%、NaOおよびKOを合わせた含量が28〜34mol%、MgOが2〜8mol%、ZnOが2〜4mol%、Pが3.1〜6mol%、Bが0〜5mol%、金属フッ化物が0〜5mol%、ならびにCaOおよびSrOを合わせたmol%が8〜15mol%の組成を有する、請求項8または9に記載のガラス。
【請求項12】
MgO含量が8.25mol%以下であり、NaOおよびKOの合わせた含量が少なくとも8mol%有する、請求項1から11のいずれかに記載のガラス。
【請求項13】
微粒子形態である、請求項1から12のいずれかに記載のガラス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のガラスを含む被覆用組成物。
【請求項15】
金属製基材または金属合金製基材、および請求項1から13のいずれか一項に記載のガラスから形成される焼結コーティングを含む被覆基材。
【請求項16】
チタン金属、チタン合金、クロム−コバルト合金またはステンレス鋼を含む、請求項15に記載の被覆基材。
【請求項17】
医療用または歯科用インプラント、例えば、外科成形用または歯科用インプラントである、請求項15または16に記載の被覆基材。
【請求項18】
a)基材がTiまたはTi合金を含み、かつコーティングが請求項1から7、12または13のいずれか一項に記載のガラスから形成される、
b)基材がCr−Co合金を含み、かつコーティングが請求項1から5、8から10、12または13のいずれか一項に記載のガラスから形成される、
c)基材がステンレス鋼を含み、かつコーティングが請求項1から5、8、9または11から13のいずれか一項に記載のガラスから形成される、
請求項15から17のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項19】
金属製基材または金属合金製基材を被覆する方法であって、請求項1から13のいずれかに記載のガラスを前記基材に施用して、次にガラスを焼結することを含む方法。
【請求項20】
金属製基材または金属合金製基材の被覆に使用するための、請求項1から13のいずれか一項に記載のガラス、または請求項14に記載の組成物。
【請求項21】
請求項1から13のいずれか一項に記載のガラスを含む多孔質足場。
【請求項22】
1つまたは複数の実施例および/または図を参照して、本明細書中に実質的に記載された、ガラス、コーティング、被覆基材、ガラス粉末または方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−531377(P2012−531377A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518085(P2012−518085)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059277
【国際公開番号】WO2011/000865
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(512002493)リプレゲン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】