説明

多成分セラミックスの組成分析方法

【課題】電解質等の多成分セラミックスの組成を、迅速性をもって高精度で分析可能な分析方法を提供する。
【解決手段】多成分のセラミックスの成分分析による評価方法において、第一の工程と第二の工程からなり、第一の工程は微量の電解質のアルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素と電極の白金属を含む材料の試料を採取し、酸分解して溶液化することであり、第二の工程は電解質の多成分をICPプラズマ発光分析法により逐次一斉分析し定量分析して組成を評価するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分セラミックスの安定化ジルコニアや電極材など、複数成分を含む酸化物、例えば、アルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素,白金属の材料,BaTiO3の誘電材料,YBa2Cu3O7-δの超電導体材料の各無機成分の酸化物を一斉分析して組成を求めることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池,各種の二次電池,酸素ガスセンサなど固体電解質を利用した多くの電気化学変換デバイスが提案され、新しい材料が次々に見いだされてきている。それらの中には希土類元素を含むものも多く見られ、希土類元素を含む材料の重要性も高まりつつある。
【0003】
燃料電池など、エネルギー変換材料として用いられている酸化物イオン伝導体などでは、希土類元素が重要な役割を果たしており、種々の電解質が開発されている。
例として一般に、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)には、電解質として酸化物イオンの透過性が高い安定化ジルコニアやペロブスカイト酸化物などのイオン伝導性セラミックスを用いられている。空気極では、生成した酸化物イオン(O2-)が電解質を透過し、燃料極で水素と反応することにより電気エネルギーを発生させている。これは内部改質方式であり、改質器は不要で触媒も特に必要ないと言われている。安定化
ジルコニアや電極材には、複数成分を含む酸化物である導電性セラミックスが用いられている。
【0004】
ここで、電池部材の各無機成分の組成割合を求めて所定の含有量を運転管理と連動させた多成分を一斉分析し定量分析して判定する汎用可能な評価方法が望まれている。
本発明の目的とする電解質のアルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素(レアアース)および電極の白金属を含む各無機成分を、一斉分析して組成を求めることに関して述べる。
【0005】
従来の材料の分析方法については、それぞれの前処理(固体を溶液にする方法)が個々に行はれ,溶液化後の試料についての1)重量法,2)原子吸光法,3)吸光光度法などが一般的な無機元素における分析の方法である。その前処理には個々に時間を要し、迅速性に欠けることおよび検出感度の点で問題である。
【0006】
1)重量法は、分析対象元素が比較的多量(10-2g以上)の場合に適用され、反応試薬で沈殿物を作り、各塩や酸化物にして秤量する。対象元素は例えばCo, Fe, Sr, Laであり、如何なる反応試薬を用いるかの再検討の必要もあり、特にこの中で希土類元素は化学的性質が似ており分離ができず、また共沈殿して妨害するので希土類元素ごとの分析ができない。
【0007】
2)原子吸光法は、単元素の測定で各共鳴線(光)を用いるためホローカソードランプが必要である。対象元素の希土類元素は、元素によってホローカソードランプがないか又は、分析感度の点で一斉分析は不可能である。
【0008】
3)吸光光度法は、単元素の液の反応色の測定(Feの例;533nm)である。対象元素は例えばCo,Feで反応試薬の上記再検討が必要である。また希土類元素の溶液化は、希土類元素の化学的性質が似ており共沈殿するか又は妨害する問題点もあり、分離ができない。
非特許文献1に示される、「マイクロセラミック燃料電池の開発」は、SOFC(動作温度は800〜1,000℃)の高いエネルギー効率を動作温度の低温化の研究に対し、さらに動作温度約650℃の溶融炭酸塩形(MCFC)以下の500〜600℃の低温領域でも動作するチューブ型のセリア(CeO2)系セラミック材料でSOFCを開発したもので、より低温化している。
このマイクロチューブ型のSOFCでは、燃料電池システムの小型化の改善と熱歪みによる破損対策が施されている。電極表面積の増加で総出力がアップされ、材料はセリア系セラミックで長さ1cm程度(電極長さ7mm)、直径が1.6mmのマイクロチューブで、450〜570℃で水素を流した時は0.06〜0.35W(単位電極表面積当たり0.17〜1W/cm2)の電力が得られるものである。
【0009】
しかし、動作温度が500〜600℃以下,小型化のサイズと材料および電解質に用いる材料が述べられているものであり、この開発では、電池部材の希土類元素などは示されているが、所定の含有量の組成を判定する分析評価方法は言及されていない。
特許文献1に示す「固体酸化物形燃料電池」は、酸化クロムを含む耐熱合金からなるインターコネクタ(セパレータ)と空気極との間の問題を抑制した上で、さらなる出力電圧の向上が得られるようにしている。
【0010】
特許文献1では、電解質の他方に形成された、La,遷移金属,コバルト,および鉄(Fe)を備えるペロブスカイト構造の金属型酸化物から構成された空気極(燃料極の反対側の)を備える。上記遷移金属は、銅またはニッケルである。ここで、このペロブスカイト型酸化物は、LaExCoyFe(1-y-x)O3(Eは銅またはニッケル)で示され、0.22<x<1,0<y<1,かつx+y<1の範囲とされたものであることが報告されている。
このペロブスカイト構造とは、結晶構造の一種である。ペロブスカイトと同じ結晶構造をペロブスカイト構造と呼ぶ。例えば BaTiO3(チタン酸バリウム)のように、RMO3 という3元系から成る遷移金属酸化物などがこの結晶構造をとる。
【0011】
なお結晶構造は、無機成分の組成割合を求めた後、結晶構造のペロブスカイト酸化物
の同定は、粉末X線回折法によって行なうことが一般的である。
しかし、特許文献1では、電池の多成分の組成分析方法の言及はなく、多成分セラミックスの組成分析方法において、予め多成分の組成を一斉分析し定量分析して判定する方法は重要である。
【0012】
かくして、動作温度がより低温であり電解質に関して、分析検査などの方法と電池部材の各組成割合を持て求めて所定の含有量を運転管理と連動させた多成分の組成を一斉分析し定量分析して判定する汎用可能な評価方法の文献は見当たらなかった。
また、電解質を例に用いたアルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素および電極の白金属を含む各無機成分の酸化物を一斉分析して組成を求めるものも見当たらなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】: 「マイクロセラミック燃料電池の開発」,産総研,TODAY.2006-05
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009-272291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、固体酸化物形燃料電池の電解質の組成成分分析では、一般に入手できる電解質等は微量の試料である。そこで、アルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素,白金属からなるレアアースを含む多成分セラミックスの組成を分析検査するために、一斉分析し定量する評価方法が必要である。
非特許文献1の「マイクロセラミック燃料電池の開発」は、SOFCの高いエネルギー効率を動作温度の低温化の研究に対し、溶融炭酸塩形(MCFC:動作温度約650℃)以下の低温領域でも動作するチューブ型のセリア系セラミック材料でSOFCを開発したもので、より低温化している。また電極表面積は増加で総出力アップされ、材料はセリア酸化セリウム(CeO2)系セラミックの希土類元素である。従来に比べて動作温度が500〜600℃以下なっている。
【0016】
一方、小型化のサイズと材料および電解質は希土類元素を用いるが、電池部材の各組成割合を求めて運転前後の組成を評価は言及されていないので、多成分セラミックスの組成分析には適用できない。
特許文献1は、酸化クロムを含む耐熱合金からなるセパレータと空気極との間の問題を抑制した上で、さらなる出力電圧の向上が得られるようにしている。電解質はランタン(La),遷移金属,コバルト(Co)および鉄(Fe)を備えるペロブスカイト構造の金属型酸化物から構成され、これに接して空気極を備えるとされている。上記遷移金属は、銅またはニッケルである。
【0017】
このペロブスカイト型酸化物は、AMO3の構造を基本とし、Aサイトが希土類元素(ランタノイド系の金属元素)、Mサイトが3価の金属元素で構成される。
例えば、低温動作においても高い電極活性(電気化学反応の性能)を有するペロブスカイト型の金属酸化物を用いる技術があるが、特許文献1における実験では、燃料電池セルの製造方法が述べられており、低温で動作するものとは異なり、動作温度が800℃で行なわれている。
【0018】
また、電池の各多成分の組成分析方法の言及はなく、組成分析には適用はできない
そこで、多成分セラミックスの組成分析方法は、組成を定量分析して判定する方法が重要である。
そこで本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は低温で動作する電解質を用いた燃料電池の成分分析および多成分セラミックスの組成分析方法による評価方法において、プラズマ発光分析法で分析することにある。
より詳しくは、微量の電解質等のアルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素,電極の白金属の試料を採取し酸分解して溶液化して、多成分をプラズマ発光分析法(ICP法)により逐次同時一斉分析し定量する方法を確立する。その結果、電解質等の多成分セラミックスの組成,性状管理,迅速性や高精度分析の分析検査である方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した目的を達成するため発明者は、微量の電解質等の組成分析評価を予め試料を採取し酸分解して溶液化し、液の多成分をプラズマ発光分析法により確立して、逐次同時分析し定量する方法を見出した。この方法は、電解質等の性状管理と高精度分析でも有効である。
【0020】
詳しくは、請求項1に記載の発明は、多成分セラミックスの組成分析方法において、第一の工程と第二の工程からなり、第一の工程は、微量の電解質が含む、アルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素と、電極の白金属を含む材料の試料を採取し、酸分解して溶液化することであり、第二の工程は、この溶液化した試料を、ICPプラズマ発光分析法により逐次一斉分析し定量分析して、組成を評価するものである。
ここで、「逐次一斉分析」とは、分光器を走査して、波長毎に検出するものであり、検出器は1個のみを用いる分析方法である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、第一の工程は、電解質の微量の固体試料を微粉砕し、各成分からなる微量の固体試料を試料によって、硝酸と塩酸,硝酸と硫酸,硝酸とフッ化水素酸のいずれかで酸分解して、沈殿物のない均質な溶液とするものである。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、電解質の組成の評価は、電解質の微量の固体試料を微粉砕し、この微粉砕した微量の多成分のセラミックスの0.1グラムレベルの試料の含有量を求め、各成分の絶対量は、試料溶液の分析値の変動係数2%以下を管理値として、試料重量から、組成割合を求めて電解質の運転前後の量を判定するものである。
なお、変動係数を2%以下とした理由は、元素分析のJISでの分析精度が、一般に変動係数で2〜10%とされているためである。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記の電解質は、その組成割合を求めた後の結晶構造におけるベロブスカイ酸化物の同定を、粉末X線回折法によって行なうものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明のICP発光分析法を適用する場合、分光分析であり、希土類元素を含む溶液化でも、溶液化後のままで逐次多元素同時分析でき、迅速分析ができる。また多成分のCo, La, Fe, Srなどの元素の組成分析は、試料の前処理で溶液化ができれば同時に行なうことができる。測定は希土類元素の分離の必要がなくこれを含む逐次一斉に分析され、有効な方法である。
【0023】
また、本発明では、電解質などの微量の試料を採取し、固体試料を60メッシュ(320μm)の目安で微粉砕する。これは液体窒素で冷却する凍結粉砕機を用いるか又はメノウ乳鉢による工程を経る。粉砕品は1グラム以下の微量を用い、この粉砕物の試料を酸分解して沈殿物のない均質な溶液化ができるようになる。さらに粉砕した微量の電解質試料量の0.1グラムレベルを用いることができる効果が得られる。
【0024】
また各成分からなる試料によって、硝酸と塩酸,硝酸と硫酸,硝酸とフッ化水素酸のいずれかで酸分解する効果が得られるようになる。
多成分のセラミックスを用いた試料の組成分析は、アルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素,白金属を含む試料液から定量分析した後、試料重量から、運転前後の含有量を判定することの効果が得られるようになる。
また、各成分の絶対量は試料溶液の分析値の変動係数2%以下を管理値として評価するようにしたて精度の良好な効果が得られる。
【0025】
多成分のセラミックスを用いた試料の電解質の結晶構造は、元素の組成割合を求めた後、関連する結晶構造解析は別法の粉末X線回折法によってベロブスカイト酸化物の同定を行なうことができるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】電解質の分析評価の流れ図である。
【図2】分析試料量の分析評価の流れ図である。(アルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素,白金属からなる試料の例)
【図3】試料分解・溶液化時の酸濃度の影響を示す図である。(Coの場合)
【図4】ICP発光分析装置の構成略図である。
【図5】ICP法によるLa、Fe、Sr、Coの検量線の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る多成分のセラミックスを用いた試料の分析評価方法によって処理される電解質の例を述べる。次いでICP発光分析法の試料分解・溶液化時の酸濃度の影響と、La、Fe、Sr、Co例の濃度と発光強度の検量線で求めるための方法について説明する。
【0028】
先ず、図1と図2の、多成分のセラミックスを用いた試料の分析評価と流れを説明する。
図1は、本発明における電解質の分析評価の流れ図である。
第一の工程は、電解質等の採取4と試料の酸による分解5を含む。第二の工程は、プラズマ発光分析法の検量線の検討6と実試料の分析工程7を含む。その後、電解質の運転前後の実試料の分析評価8を行う。
図2 は、分析試料量の分析評価の流れを示す図である。電解質の試料が、アルカリ、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類元素、および電極の白金属からなる材料の例を示す。
3.1は試料の秤量(0.1gレベル)、3.2は酸分解の例(硝酸+塩酸)、HNO3:HCl=1:3、3.3は試料溶液酸濃度の調整、3.4は発光強度の測定;検量線の検討(Co,La,Fe,Sr),3.5は実試料の分析評価で調合組成値の試料重量から、所定の含有量を運転前後の組成を判定する流れを示す。
次に、多成分のセラミックスと電極成分分析について述べる。
電解質の成分は、アルカリ金属,アルカリ土類金属(Sr),遷移金属(Co,Fe),希土類元素(La),白金属を含む材料の分解液で、逐次一斉分析をICP発光分析法で定量分析する。
ICPで分析する理由は、実際の試料サイズが小さいこと、共存元素の影響があることなどである。
【0029】
例えば蛍光X線による直接分析法など、他の方法では困難である。
本発明のICP発光分析法は、元素の発光線と分光による方法は良好であると考えられるが、分析条件に決まった方法がない。また試料は、材料の違いによって溶液化の前処理方法が異なる。粉末状形態、固体の化合物形態等の分析は、粉砕や分解液の溶液試料で個々に適した分解酸等の方法が用いられる。そこでICP法の分析条件を決定する。
以上のことから、前処理技術について検討した結果が前記した図1〜図2の電解質分析評価、分析試料の流れである。
【0030】
ここで、希土類元素を含む材料の試料は、従来では希土類元素の化学的な分離が困難なために、ICP発光分析法が重要である。以下に、(イ)溶液化し材料の前処理法と(ロ)元素の測定法を述べ、次いで(ハ)データ処理方法を述べる。
[*なお希土類元素(rare earth elements)は、原子番号57番のラタン(La)から71番の
ルテチウム(Lu)までのランタノイドと21番のスカンジウム(Sc)と39番のイットリウム
(Y)を加えた計17種類の元素のことである。]
図3〜図5のプラズマ発光分析法(ICP法)試料処理技術、装置構成、定量に関する検量線について説明する。
図3は、試料分解・溶液化時の酸濃度の影響で、Coの例である。塩酸41、硝酸42、硫酸43の場合の、酸の濃度とCoの発光相対強度の関係の例を示す。
試料の電解質を迅速に分析するには、試料の種類や目的物質によって予め粉砕する。試料の前処理方法は、構成材料から考えて硝酸1:塩酸3(王水)で溶液化し材料のICP発光分析法での一斉分析ができるようにした。
【0031】
ここで溶液化において重要なことは、ICP発光分析法で測定する時のネブライザ−の吸上げで酸の濃度に注意して行なう。これはマトリックスの干渉の現れである。液の組成を考えた場合の特性は例えば、酸の濃度とCo(濃度10ppm)の相対強度の関係は図3のようになる。測定する試料液の濃度は、硝酸と塩酸の量を、合わせて5%以下にするようにした。
使用酸の適用例について述べる。
ところで先の分解に用いた硝酸(HNO3)と塩酸(HCl)の比は、ほぼ1:3の混合物を王水と言う。王水のはたらきは次の通りである。
3HCl+ HNO3= Cl2 + ONCl + 2H2O
また塩酸(HCl)と硝酸(HNO3)は、溶液中で解離して
HCl⇔ H++ Cl- ,HNO3 ⇔ H+ + NO3- となる。塩酸は還元性があり、元素と錯体を形成して溶解を助ける。硝酸は強い酸化力を有しているため、酸化を伴う溶解に適している。そこで、先に記した電解質の溶解に王水が必要であり、加熱処理時の褐色のガスがONCl(塩化ニトロシル)となって現れる。多成分のセラミックスを用いた試料と電極成分の溶解に寄与することは重要であり王水を適用した。
以上が分析方法の図3に係わる例で、分解・溶液化し試料調製が完了する。
次に、ICP発光分析について述べる。
【0032】
ICP発光分析法(ICP法)とはアルゴンプラズマの高温中に試料を導入し、発生する光を測定する装置である。その光の波長は各元素に特有であり、光の強度は試料中の元素の量に比例することから、試料の高感度の定性分析と定量分析が可能である。ICP法は前記の多成分の微量定量分析に効果的な方法である。
多成分のセラミックス組成を分析するため、サンプル状態(粉砕した固体微粉体の状態)を全溶解した抽出液で行う。成分はICP法により、電解質のCo, La, Fe, Srの含有量を測定する。
【0033】
ICP発光分光分析装置:セイコーインスツルメンツ社製 SPS-3100を使用した。
[分析条件] 高周波出力:1.2kW,積分回数:3回,予備噴霧時間:30秒,洗浄時間:20秒など、[分析成分]:Na, Co, La, Fe, Sr, Pd,Ba,Ti,Y,Cuなど
前記の各元素の前処理は、硝酸と塩酸,硝酸と硫酸,硝酸とフッ化水素酸であり、Co, La, Fe, Srの場合は、王水(1:1)酸分解し、全溶解した抽出液は適宜希釈して用いた。
液は、図4の試料溶液51に提供する。
ICP法の主な特徴と装置の構成について述べる。
例えば、Co,La,Sr,Feについての利点があり適用した。主な特徴を述べる。
1. 多くの元素に対してppbレベルの高い検出能力を持つ。希土類元素の定量可能。
2. 主成分元素から微量成分元素までの多元素を迅速に測定・定量可能。
3.プラズマ温度が極めて高く、化学干渉やイオン化干渉などの干渉が極めて少ない。
精度の向上につながる。
4.自己吸収が少ないため、検量線の直線範囲が極めて広い。多元素同時分析可能。
5.安定性、再現性に優れている。繰り返し分析に有効。
【0034】
図4 は、本発明に用いるICP発光分析装置の構成概略図で、51は試料溶液(分解液)、52はネフ゛ライサ゛・キャリアーカ゛ス(Ar)である。ここで溶液化で重要なことは、ICP発光分析法で測定する時のネブライザ−の吸上げで酸の濃度に注意して行なう。 53はフ゜ラス゛マカ゛ス(Ar)、54は.石英トーチ、55はArプラズマ、56は検出器(光電子増倍管)である。これによって、逐次同時定量分析ができる。
検量線のデータ処理方法について述べる。
電解質のCo, La, Fe, Srの発光波長(nm)と濃度と各元素の発光相対強と検量線定数・相関係数を示す。図5では、いずれも直線性の良好な検量線ができた。この実験式の定数は次の通りである。
【0035】


(波長) ( 元素 ) ( 検量線定数 ) ( 相関係数 )
333.749 La濃度(ppm)= 1.49E+08χ- 2.28E-05 σ:1.000
238.204 Fe濃度(ppm)= 1.82E+08χ+ 8.80E-04 σ:1.000
216.596 Sr濃度(ppm)= 4.95E+08χ- 9.35E-04 σ:1.000
238.892 Co濃度(ppm)= 2.95E+08χ+ 5.59E-05 σ:1.000
以上が定量値の評価までの検量線のデータ処理で求める分析調査方法である。
試料量に対する換算の例について述べる。
【0036】
電解質は、固体試料を酸分解により溶液化後、ICP発光分析法に供する。この場
合の定量結果が分解液の含有量であるため試料量(g)に換算する必要がある。次にCoのデータ処理の例を述べる。(例;試料量=0.1000g、希釈の係数=ml 例えば10倍に希釈。)
前記の検量線から、
1.ICP発光分析による各元素の平均組成(例:Coおよび各元素濃度ppm)の測定値
を求める。
2.試料量(g)に対する換算は次のように行なう。
例;Coの組成(g)=〔(Co濃度:ppm)×希釈の係数(g)〕で求められる。他の成分についても同様に行なう。
3.電解質の組成(モル比)の例; La+Sr=各濃度〔g〕/ (La+Sr)の原子量で求められる。
分析精度の検討結果について述べる。
【0037】
さらに電解質のCo, La, Fe, Srの組成分析について分析精度の検討を行った。また精
度は、標準液を用いて変動係数で求めた結果を表1に示す。分析精度は、変動係数1%以下で良好である。
【0038】





表1. 分析精度の検討









【0039】
* 変動係数 CV%=(標準偏差/分析値平均値)×100 で求められる。
元素分析のJIS法での分析精度は、一般に変動係数で2%〜10%とされている。これに比べて本法の分析精度は良好であり高精度であることが分かった。また、JIS法での分析精度を十分満足していることが分かる。
このようにして、ICP法による多成分のセラミックスを用いた試料の例である、アルカリ、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類元素、白金属からなる試料液の微量成分の同時分析方法を確立し、変動係数で2%以下を管理基準とした。
これにより、本発明の一実施形態に係る電解質の評価方法により、各元素成分が求められる。
適応例として、多成分のセラミックスを用いた試料の組成分析について述べる。
電解質を用いた次世代型燃料電池の検討が行なわれている。試料は、電解質でICP発光分析による前記の図5の検量線によってCo、 La、 Fe、 Sr 元素の組成分析を行なった。このうち、層状ヘ゜ロフ゛スカイト構造の電解質の組成分析で、例として(LaSr)(FeCo)O3 で、その比が1:1の分析例を示す。
この試料は、0.1g(100mgを目安に秤量した。)試料は粉砕後の物を用い、前処理法は前記の図1に示す方法で行った。分解方法は、図2の、硝酸1:塩酸3(王水)で溶液化する方法とした。
分析結果は、検量線から求めた濃度を表2に電解質組成の絶対量の関係(ppm)を示した。表2の結果から、表3に電解質組成値の関係(g)を示した。また表3の結果から、表4に電解質組成のモル比の関係を示した。
【0040】
表2 電解質組成の絶対量の関係







【0041】
以上の表2は、表1の分析精度の検討より、各成分の絶対量は試料溶液の分析値の変動係数2%以下を管理値として評価した結果である。
表3 電解質組成値の関係





【0042】
表2の結果から、表3に電解質組成値の関係(g)を示した。
表4 電解質組成のモル比の関係






【0043】
以上のように、表3の結果から、表4に電解質組成のモル比の関係を示した。
その結果、(LaSr)(FeCo)O3のサンプルにおいて、(La+Sr)(Fe+Co)の比が1:1の分析例であることが分かる。
かくして本発明の固体電解質の評価方法は、プラズマ発光分析法により一斉分析し定量分析して組成を評価することを確立した。 なお本発明の試料液は、上記した実施の形態(試料サイズや抽出液量など)に限定されるものではなく、本発明の上記を逸脱しない範囲内おいて種々変更を加えてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、多成分セラミックスの組成分析をプラズマ発光分析法で逐次同時一斉分析し定量して判定する汎用可能な評価方法である。
この方法により、例えば、燃料電池動作温度(常温〜300℃)に関する元素や希土類元素などの成分を第一に求める。次に、元素分析による性状を把握し、実際の運転状態に反映させることができる。
また、組成分析後に結晶構造におけるペロブスカイト酸化物の同定は、粉末X線回折法によって行い評価することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 第一の工程
2 第二の工程
3 実試料の分析評価
4 電解質等の採取
5 試料の酸分解
6 プラズマ発光分析法の検量線の検討
7 実試料の分析測定
8 運転前後の実試料の分析評価
3.1 試料の秤量(0.1gレベル)
3.2 酸分解(硝酸+塩酸)(HNO:HCl=1:3)
3.3 試料溶液濃度の調整
3.4 発光強度の測定:検量線の検討(Co、La、Fe、Sr)
3.5 実試料の分析評価
(調合組成値の試料重量から、所定の含有量を運転前後の組成を判定する)
41 塩酸
42 硝酸
43 硫酸
51 試料溶液
52 ネプライザ・キャリアガス(Ar)
53 プラズマガス(Ar)
54 石英トーチ
55 Arプラズマ
56 検出器(光電子増倍管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多成分セラミックスの組成分析方法において、第一の工程と第二の工程からなり、第一の工程は、微量の電解質が含む、アルカリ,アルカリ土類金属,遷移金属,希土類元素と、電極の白金属を含む材料の試料を採取し、酸分解して溶液化することであり、第二の工程は、この溶液化した試料を、ICPプラズマ発光分析法により逐次一斉分析し定量分析して、組成を評価することを特徴とする多成分セラミックスの組成分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多成分セラミックスの組成分析方法において、第一の工程は、電解質の微量の固体試料を微粉砕し、各成分からなる微量の固体試料を試料によって、硝酸と塩酸,硝酸と硫酸,硝酸とフッ化水素酸のいずれかで酸分解して、沈殿物のない均質な溶液とすることを特徴とする多成分のセラミックスの組成分析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の多成分セラミックスの組成分析方法において、電解質の組成の評価は、電解質の微量の固体試料を微粉砕し、この微粉砕した微量の多成分のセラミックスの0.1グラムレベルの試料の含有量を求め、各成分の絶対量は、試料溶液の分析値の変動係数2%以下を管理値として、試料重量から、組成割合を求めて電解質の運転前後の量を判定することを特徴とする多成分のセラミックスの組成分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の多成分セラミックスの組成分析方法において、電解質は、その組成割合を求めた後で、結晶構造における酸化物の同定を粉末X線回折法によって行なうことを特徴とする多成分のセラミックスの組成分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−145375(P2012−145375A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2357(P2011−2357)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】