説明

多成分フィルムの製造方法

【課題】メモリデバイスなどに用いられる多成分フィルムの製造方法として、PVD、CVD等に代わる代替方法を提供する。
【解決手段】フィルム成分を含む液体前駆体組成物を順次コーティングすることによって多成分フィルムを堆積させる。一実施態様において、組成物は、相変化メモリ及び光起電デバイス向けの、ゲルマニウムテルル(GeTe)、アンチモンテルル(SbTe)、アンチモンゲルマニウム(SbGe)、ゲルマニウムアンチモンテルル(GST)、インジウムアンチモンテルル(IST)、銀インジウムアンチモンテルル(AIST)、テルル化カドミウム(CdTe)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)又は他のテルル及びセレン系の金属化合物を堆積させるために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示するものは、それぞれが化学量論的又は非化学量論的となる場合がある多成分フィルムの堆積方法、例えば、限定されないが、ゲルマニウムテルル(GeTe)、アンチモンテルル(SbTe)、アンチモンゲルマニウム(SbGe)、ゲルマニウムアンチモンテルル(GST)、インジウムアンチモンテルル(IST)、銀インジウムアンチモンテルル(AIST)、テルル化カドミウム(CdTe)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)の堆積方法である。本明細書に記載した方法は、ある種の実施態様において、従来の気相堆積法、例えば、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)又は原子層堆積(ALD)の代替手段として、多成分フィルムを堆積させるために用いることができる。また、本明細書に記載した方法を用いて多成分フィルムを堆積させるための液体系前駆体組成物又はその混合物も考慮される。
【背景技術】
【0002】
ある種の合金、例えばテルル化カドミウム、セレン化カドミウム、セレン化銅インジウムガリウムは、光起電性材料として用いることができるため、産業的な関心がある。さらに、他の合金、例えば、限定されないが、GST(ゲルマニウムアンチモンテルル)、IST(インジウムアンチモンテルル)及びAIST(銀インジウムアンチモンテルル)を用いて、電子デバイス、例えば、相変化ランダムアクセスメモリ(PCRAM:Phase Change Random Access Memory)を作製することができる。相変化材料は、温度に依存して結晶状態又は非晶状態で存在する。相変化材料は、非晶状態よりも結晶状態において、より規則的な原子配置及びより低い電気抵抗を有する。相変化材料は、作動温度に基づいて結晶状態から非晶状態へと可逆的に転移することができる。このような特性、すなわち可逆的な相変化、及び異なる状態での異なる抵抗は、新たに提案されている電子デバイス、新型の不揮発性メモリデバイス、相変化ランダムアクセスメモリ(PCRAM)デバイスに適用される。PCRAMの電気抵抗は、それに含まれる相変化材料の状態(例えば、結晶状態、非晶状態等)に基づいて、変化させることができる。
【0003】
メモリデバイスに用いられる様々なタイプの相変化材料の間で、最も一般的に用いられているものは、第14族元素及び第15族元素の三元カルコゲン化物、例えばGSTと通常省略されるゲルマニウムアンチモンテルル化合物の様々な組成物(限定されないが、例えばGeSbTe)である。GSTの固相は、加熱と冷却のサイクルで、結晶状態から非晶状態に、又はその逆も同様に、すばやく変化することができる。非晶状態のGSTは比較的高い電気抵抗を有する一方で、結晶状態のGSTは比較的低い電気抵抗を有する。
【0004】
PCRAMセルを設計する際の技術的ハードルの一つは、GST材料の結晶状態から非晶状態へのスイッチングの間の熱散逸を克服するために、高水準のリセット電流(reset current)を適用する必要があることである。しかし、この熱散逸は、GST材料をコンタクトプラグ(contact plug)に制限することによって大幅に低下させることができ、それによりこの動作に必要なリセット電流を低下させることができる。GSTのコンタクトプラグは、高アスペクト比構造であり、GSTフィルムを堆積させるための通常のスパッタリングプロセスは、必要な高度なコンフォーマル性(conformality)を達成できない。このことは、高度のコンフォーマル性及び化学組成の均一性を有するフィルムを製造することができるGSTフィルムを形成するための前駆体及び関連する製造方法又は製造プロセスの必要性をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書に記載した方法は、多成分フィルムを堆積するための従来のPVD、CVD又はALD堆積への代替手段を与える。本明細書に記載した方法を用いて多成分フィルムを堆積するための、一以上の前駆体を含む液体系前駆体組成物又はその溶液も、考慮される。従来の技術と比較すると、本明細書に記載した方法は、次の目的の少なくとも一つを達成することができる:環境に優しいこと、前駆体材料の消費が少ないこと、高アスペクト比構造への被覆を与えること、及び/又はフィルムの製造のために必要なエネルギーが少ないこと。上述の利点は、結果としてフィルムを堆積する際のコストの低下をもたらすことができる。本明細書に記載した方法によって堆積させたフィルムは、例えば次の用途で用いることができると考えられる:半導体メモリ、太陽電池技術、赤外線センサー及び/又は赤外線デバイス。
【課題を解決するための手段】
【0006】
基材の少なくとも一部上に多成分フィルムを堆積させる方法の一実施態様は、次のステップを含む:
(a)Ge前駆体又はGe前駆体を含有する前駆体溶液を、基材と接触させて、基材と反応させ、Geを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)溶媒を含むリンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるGe前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Geを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Te前駆体の少なくとも一部を、第一のコーティング層に含有されているGeの少なくとも一部と反応させて、Ge及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)溶媒を含むリンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、Ge及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、Sb前駆体の少なくとも一部を、第二のコーティング層に含有されているGe及びTeの少なくとも一部と反応させて、Ge、Te及びSbを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)溶媒を含むリンス溶液で、第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Ge、Te及びSbを有する第三のコーティング層と接触させるステップであって、Te前駆体の少なくとも一部を、第三のコーティング層に含有されているGe及びSbの少なくとも一部と反応させて、Ge、Te及びSbを有する第四のコーティング層を与えるステップ;及び
(h)溶媒を含むリンス溶液で、第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【0007】
ある種の実施態様では、コーティング層の所望の厚みが達成されるまで、ステップ(a)から(h)を複数回繰り返して、多成分フィルムを与える。この実施態様又は他の実施態様において、ステップを次の順番で実行することができる:
e→f→g→h→a→b→c→d
【0008】
さらなる実施態様において、次のステップを含む、基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法が与えられる:
(a)In前駆体又はIn前駆体を含有する前駆体溶液を、基材と接触させて、基材と反応させ、Inを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるIn前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Inを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Te前駆体の少なくとも一部を、第一のコーティング層に含有されているInの少なくとも一部と反応させて、In及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、In及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、Sb前駆体の少なくとも一部を、第二のコーティング層に含有されているIn及びTeの少なくとも一部と反応させて、In、Te及びSbを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、In、Te及びSbを有する第三のコーティング層と接触させて、In、Te及びSbを有する第四のコーティング層を与えるステップ;
(h)リンス溶液で、第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(i)Ag前駆体又はAg前駆体を含有する前駆体溶液を、In、Te及びSbを有する第四のコーティング層と接触させるステップであって、Ag前駆体の少なくとも一部を、第四のコーティング層に含有されているIn、Te及びSbの少なくとも一部と反応させて、In、Te、Sb及びAgを有する第五のコーティング層を与えるステップ;
(j)リンス溶液で、第五のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるAg前駆体を除去するステップ;
(k)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、In、Te、Sb及びAgを有する第五のコーティング層と接触させて、第五のコーティング層と反応させて、In、Te、Sb及びAgを有する第六のコーティング層を与えるステップ;及び
(l)リンス溶液で、第六のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
ここでは、ステップ(a)から(l)を繰り返して、複数のコーティング層を形成して、フィルムを与える。
【0009】
さらなる他の一実施態様において、次のステップを含む、基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法が与えられる:
(a)In前駆体又はIn前駆体を含有する前駆体溶液を、基材と接触させて、基材と反応させて、Inを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるIn前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Inを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Te前駆体の少なくとも一部を、第一のコーティング層に含有されているInの少なくとも一部と反応させて、In及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、In及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、Sb前駆体の少なくとも一部を、第二のコーティング層に含有されているIn及びTeの少なくとも一部と反応させて、In、Sb及びTeを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、In、Te及びSbを有する第三のコーティング層と接触させて、第三の層と反応させて、In、Te及びSbを有する第四のコーティング層を与えるステップ;
(h)リンス溶液で、第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
ここでは、ステップ(a)から(h)を繰り返して、複数のコーティング層を形成して、フィルムを与える。
【0010】
さらなる実施態様において、次のステップを含む、基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積する方法が与えられる:
(a)Cd前駆体又はCd前駆体を含有する前駆体溶液を、基材と接触させて、基材と反応させ、Cdを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)溶媒又は混合溶媒を含むリンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるCd前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Cdを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Te前駆体の少なくとも一部を、第一のコーティング層に含有されているCdの少なくとも一部と反応させて、Cd及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)溶媒を含むリンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
ここでは、ステップ(a)から(d)を繰り返して、複数のコーティング層を形成して、フィルムを与える。
【0011】
さらなる実施態様において、次のステップを含む、基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法が与えられる:
(a)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、基材と接触させて、基材と反応させて、Sbを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Sbを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Te前駆体の少なくとも一部を、第一のコーティング層に含有されているSbの少なくとも一部と反応させて、Sb及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Ge前駆体又はGe前駆体を含有する前駆体溶液を、Sb及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、Ge前駆体の少なくとも一部を、第二のコーティング層に含有されているSb及びTeの少なくとも一部と反応させて、Ge、Te及びSbを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるGe前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Sb、Te及びGeを有する第三のコーティング層と接触させて、第三のコーティング層と反応させて、Sb、Te及びGeを有する第四のコーティング層を与えるステップ;
(h)リンス溶液で、第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
ここでは、ステップ(a)から(h)を繰り返して、複数のコーティング層を形成して、フィルムを与える。
【0012】
さらなる実施態様において、次のステップを含む、基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法が与えられる:
(a)Ge前駆体又はGe前駆体を含有する前駆体溶液を、基材と接触させて、基材と反応させ、Geを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるGe前駆体を除去するためのステップ;
(c)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、Geを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Sb前駆体の少なくとも一部を、第一のコーティング層に含有されているSbの少なくとも一部と反応させて、Ge及びSbを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するためのステップ。
ここでは、ステップ(a)から(d)を繰り返して、複数のコーティング層を形成して、フィルムを与える。
【0013】
さらなる実施態様において、次のステップを含む、基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法が与えられる:
(a)MXを、基材と接触させるステップ、ここで、Mは、Ge、Sb、In、Sn、Ga、Bi、Ag、Cu、Zr、Hf、Hg、Cd、Zn、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt及びAuからなる群より選択される金属又は半金属であり、且つXは、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基からなる群より選択される求核基である;
(b)リンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆる前駆体を除去するためのステップ;
(c)オルガノシリル前駆体又は前駆体溶液を有する第一のコーティング層を接触させるステップ;
(d)未反応のあらゆる前駆体を除去するためのリンス溶液で、第二のコーティング層の少なくとも一部を、リンスするステップ。
ここでは、ステップ(a)から(d)を繰り返して、複数のコーティング層を形成して、フィルムを与え、且つ金属又は半金属をステップからステップへと独立に選択することができる。
【0014】
上記のあらゆる実施態様において、ここに記載した方法のステップは、様々な順番で、順次的に又は同時に(例えば、他の一つのステップの少なくとも一部の間に)、且つこれらのあらゆる組み合わせで、実行することができると理解される。ある種の実施態様では、ここで記載したステップを順次的に実行して、沈殿物の形成を避ける。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本明細書に記載された液体系堆積方法を用いて、Si(100)基材に堆積させたGSTフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた断面図を与える。
【図2(a)】図2(a)は、GSTのX線光電子分光(XPS)(図1のGSTフィルムのGeピーク)である。
【図2(b)】図2(b)は、GSTのXPS(図1のGSTフィルムのSbピーク)である。
【図2(c)】図2(c)は、GSTのXPS(図1のGSTフィルムのTeピーク)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
高集積電子デバイス、例えば相変化メモリ(PCRAM)、又は光起電材料を作製するために、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)は、フィルム、例えば金属カルコゲニドフィルムを、基材表面上の小さな寸法の構造に均一に堆積させるのに好ましい技術である。ある種の実施態様において、フィルムは、金属カルコゲニドフィルムを含む。本明細書で用いられる用語「金属カルコゲニド」とは、一以上の第16族イオン(カルコゲニド)及び少なくとも一つの陽性元素を含むフィルムをいう。カルコゲニド材料の例としては、限定されないが、硫化物、セレン化物及びテルル化物が挙げられる。通常のALD技術は、典型的には減圧下で且つ高温で動作させるALD反応器を用いる。この技術は、気相状態で反応器チャンバーに供給させるために、前駆体が揮発性であり、且つ熱的に安定な化合物であることも必要とする。ALDは、高度に制御された薄膜の堆積に用いられる化学気相成長の一種である。これは、自己制限的であり(各反応サイクルで堆積されるフィルム材料の総量が一定である)、順次的プロセスである(前駆体の気相は、交互に、一種ずつ、不活性ガスによるパージ時間で隔てられて、基材に提供される)。ALDは、フィルムの厚み及び組成を原子レベルで制御した、非常に薄く、コンフォーマルなフィルムを作製できる可能性を大いに有する一つの堆積方法として考えられている。ALDを用いることで、フィルムの厚みは、反応サイクルの回数だけに依存し、これは厚みを正確且つ単純に制御することを可能とする。
【0017】
一方、本明細書に記載した方法は、液相の層堆積であり、ここでは液体前駆体組成物への基材の一回の露出が、おおよそ一層の原子層の形成をもたらす。コーティング層を形成するのに用いられる前駆体は、液体系であるか、その液相状態であるか、又は液体系である一種以上の溶媒を用いた溶液であるかである。また、この前駆体は、液体の一以上の属性、例えば、限定されないが、粘性、流動性、濡れ性、圧縮性等を有する。本明細書に記載した方法は、液相でのALD様式で多成分フィルムを堆積させることによって、通常のALD技術への代替手段を与える。この方法は、低温で、例えば室温で高純度のフィルムを生成する。本明細書に記載した方法では、フィルムの成長は、前駆体の液体の化学的性質によって、自己制限的な表面反応に制限される。液体系前駆体又は前駆体の溶液の表面への一回の堆積が、本明細書でコーティング層と記載する場合がある、おおよそ一層の原子層を生じさせることができる。
【0018】
ある種の実施態様において、本明細書に記載した方法は、求核試薬を有する一以上の前駆体を用いる。この実施態様又は他の実施態様において、Sb、Te及びSeのオルガノシリル化合物が、求核試薬と反応する。これは、オルガノシリル基と求核基との脱離反応、及びそうして形成されたそれに続くSb、Te、又はSeのヒドリド化合物の分解によって、それぞれ元素のSb、Te、又はSeを形成する場合がある。求核試薬は、限定されないが、水、アルコール、ハロゲン化水素、又はこれらの混合物を含むことができる。この実施態様の例を、次の式(1)及び(2)で示す。
【化1】

上記、式(1)及び(2)では、Rは、限定されないが、メチル(Me)基、エチル(Et)基、ビニル(Vi)基、フェニル(Ph)基又はH原子とすることができる。
【0019】
他の実施態様において、求核試薬は、求核基に結合した金属原子を含むことができる。Sb、Te及びSeのオルガノシリル前駆体と、求核置換基を有する一連の金属前駆体との配位子交換反応を用いて、金属合金を形成することができる。一つの特定の実施態様において、シリル−カルコゲン、例えばオルガノシリルテルル又はシリルテルル、オルガノシリルセレン又はシリルセレンと、求核置換基を有する一連の金属化合物との配位子交換反応は、金属カルコゲニドを生成する。このため、二元、三元及び多元のテルル化金属並びにセレン化金属を含有するフィルムを、これらの方法を用いて調製することができる。この実施態様の例を、次の式(3)及び(4)で示す:
3RSi−Te−SiR+2SbX → SbTe+3RSi−X 式(3)
2RSi−Te−SiR+GeX → GeTe+4RSi−X 式(4)
上記の式(3)及び(4)で、Rは、限定されないが、メチル(Me)基、エチル(Et)基、ビニル(Vi)基、フェニル(Ph)基又はH原子とすることができ;Xは、求核基であり、限定されないが、アルコキシド、アミド、ハライドとすることができる。
【0020】
理論に拘束されないが、本明細書に記載した方法は、基材、例えばシリコンウェハーを、一種以上の前駆体の液体、溶液又は懸濁液(本明細書で「液体前駆体」又は「前駆体溶液」と言及される)で、順次的な処理にさらすことが、製造で使用するのに適切な高品質なフィルムの堆積をもたらすという発見に基づいている。液体前駆体による順次的な処理は、原子層堆積として知られる気相技術の新規な拡張であると考えることができる。ALDは、気相状態で実行されるが、本明細書に記載した方法は、液相状態で実行される。
【0021】
一実施態様において、本明細書に記載した方法は、次の順で基材表面に独立的に堆積させる第一又は第二の液体前駆体として指定される、複数の液体前駆体を含む:
→ 第一の液体前駆体 → 第二の液体前駆体 → (繰り返し)
この上記の順又はサイクルを、複数のコーティング層からなる所望の厚みのフィルムを構築するために、複数回繰り返すことができる。それぞれのサイクルは、進展できない飽和の水準まで表面上に前駆体を吸収させる、液体前駆体への自己制限的な曝露、及び吸着した層を完全に変化させる第二の液体への曝露である。それゆえ、この順は、自己制限的な表面反応であり、且つ完全なコンフォーマル性及び正確な厚み制御の利益を与える。
【0022】
この実施態様又は他の実施態様において、本明細書に記載した方法は、基材表面から余剰の前駆体を除去し、それにより自己制限的な表面反応の発生を確保するために、一種以上の前駆体液体への露出の間に、リンスステップを加えることによって変更することができる。この実施態様の例は、次に示すとおりである:
→ 第一の液体前駆体 → リンス → 第二の液体前駆体 → リンス →(繰り返し)
この実施態様又はさらなる実施態様において、上記の順又はサイクルを、三元フィルム又はより高次のフィルムを堆積させるために、追加の前駆体液体の露出ステップ、又は第三の液体前駆体に露出するステップを加えることによって、さらに変更することができる。この実施態様の例は、次に示すとおりである:
→ 第一の液体前駆体 → リンス → 第二の液体前駆体 → リンス → 第三の液体前駆体 → リンス →(繰り返し)
【0023】
GSTフィルムを堆積させる一つの特定の実施態様において、GSTフィルムを次の順で堆積させることができる:
→ Ge液体前駆体 → リンス → Te液体前駆体 → リンス → Sb液体前駆体 → リンス → Te液体前駆体 → リンス →(繰り返し)
この順では、基材表面を、まず基材表面と反応するGe前駆体で飽和させて第一のコーティング層を与え、そして余剰のあらゆるGe前駆体をリンスで除去する。次に、Te前駆体を、表面上のGeと反応させて第二のコーティング層を与え、そして余剰のあらゆるTe前駆体を洗い流し、飽和した表面濃度のTeを残す。その後、Sb前駆体を導入し、表面のTeと反応させて、飽和したSbの被覆又は第三のコーティング層を形成し、これを次にリンスして余剰のあらゆるSb前駆体を除去する。その後、基材を、Te前駆体による追加の処理にさらし、これをSb飽和表面と反応させてTeの被覆又は追加のコーティング層を与え、これをリンスして余剰のあらゆるTe前駆体を除去する。前述の実施態様と同様に、全ての順又はサイクルを、複数回繰り返し、それにより複数のコーティング層を形成して、所望の膜厚を達成することができる。本明細書に記載した方法は、あらゆる順番のTe、Sb及びGeの前駆体の導入を含み、これに限定されない。
【0024】
ある種の実施態様において、元素Sb、Te及びSeの一種以上の組み合わせを包含する合金を、本明細書に記載した方法に基づく一以上の順を用いて形成することができる。例えば、SbとTeとの両方を含有する合金を、Sbのオルガノシリル化合物とTeのオルガノシリル化合物の両方を、上述の求核試薬と共に用いて形成することができる。しかし、他の実施態様においては、オルガノシリル置換基を有するSb前駆体及びTe前駆体のどちらか一方、又はその両方が不必要である。特定の一実施態様においては、Te前駆体は、オルガノシリルテルル化合物を含有し、Sb前駆体は、Sb原子がすでに求核置換基と結合している化合物を含有する。
【0025】
本明細書に記載した方法は、ある種の実施態様では、シリル−カルコゲン、例えばシリルテルル化合物及びシリルセレン化合物も、テルル及びセレンの原料の前駆体として用いることができ、これらは求核置換基を有する金属化合物と反応して、テルル化金属及びセレン化金属を形成することができる。三元及び四元のテルル化物フィルム及びセレン化物フィルムを、一種以上の追加の前駆体又はそれらを含有する前駆体溶液を追加することによって、順次的様式又は混合的様式で、ALD法に類似したプロセスで、作成することができる。本明細書で開示した材料及び技術を、相変化メモリ用途、及び光起電デバイスでの様々な薄膜のための、GSTフィルム又は他の金属カルコゲニドフィルムの堆積のために用いることができる。
【0026】
テルル前駆体又はTe前駆体の例としては、ジシリルテルル、シリルアルキルテルル又は(RSi)Te及び(RSi)RTeの一般構造を有する化合物を挙げることができる。セレン前駆体又はSe前駆体の例としては、ジシリルセレン、シリルアルキルセレン、又は(RSi)Se若しくは(RSi)RSeの一般構造を有する化合物を挙げることができる。上記の式において、置換基R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素;直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;及びC4〜10の環状アルキル基又はC4〜12の芳香族基である。本明細書で用いる場合、用語「アルキル」は、直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;及びC4〜10の環状アルキル基からなる群より選択され、好ましくは1〜6の炭素原子、より好ましくは1〜3の炭素原子、あるいは3〜5の炭素原子、さらにあるいは4〜6の炭素原子、又はこれらを変形した範囲の炭素原子からなる群より選択される。典型的なアルキル基としては、限定されないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、tert−アミル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが挙げられる。用語「アルキル」は、他の基、例えば、ハロアルキル、アルキルアリール又はアリールアルキルに含まれるアルキル部分にも適用する。ある種の実施態様では、本明細書で論じた基のいくつかを、他の元素、例えば、ハロゲン原子又は他のヘテロ原子(例えばO、N、Si又はS)で置換することができる。
【0027】
シリルテルル前駆体の例としては、限定されないが、ビス(トリメチルシリル)テルル、ビス(ジメチルシリル)テルル、ビス(トリエチルシリル)テルル、ビス(ジエチルシリル)テルル、ビス(フェニルジメチルシリル)テルル、ビス(t−ブチルジメチルシリル)テルル、ジメチルシリルメチルテルル、ジメチルシリルフェニルテルル、ジメチルシリル−n−ブチルテルル、ジメチルシリル−t−ブチルテルル、トリメチルシリルメチルテルル、トリメチルシリルフェニルテルル、トリメチルシリル−n−ブチルテルル、及びトリメチルシリル−t−ブチルテルルが挙げられる。
【0028】
堆積させるフィルムは、ゲルマニウムテルル(GeTe)、アンチモンテルル(SbTe)、アンチモンゲルマニウム(SbGe)、ゲルマニウムアンチモンテルル(GST)、インジウムアンチモンテルル(IST)、銀インジウムアンチモンテルル(AIST)、テルル化カドミウム(CdTe)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)からなる群より選択される。
【0029】
ある種の実施態様において、本明細書に記載した方法又は液体前駆体は、次の一般式を有する一種以上の金属化合物を含む:
MX
ここで、Mは、周期律表の元素、例えば、限定されないが、Ge、Sb、In、Sn、Ga、Bi、Ag、Cu、Zr、Hf、Hg、Cd、Zn及び貴金属から選択される金属であり:Xは、求核基、例えば、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート又はカルボキシル基である。ある種の実施態様では、Mは、Inを含み、AISTフィルムを堆積させるために用いられる。この実施態様又は他の実施態様では、Mは、Agを含み、これもAISTフィルムを堆積させるために用いられる。
【0030】
液体前駆体がGe前駆体を含む、ある種の実施態様では、Ge化合物の例として、限定されないが、次のものが挙げられる:
・(RO)Ge又は(RO)GeX4〜n
(ここで、Rは、1〜10の炭素を直鎖、分岐鎖、環状又は芳香族基に有するアルキル基であり;及びn=1〜3;Xは、H、又は求核基、例えば、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート又はカルボキシル基又はこれらの組み合わせである);
・(RN)Ge又は(RN)4〜nGeX
(ここで、R及びRは、それぞれ独立に、1〜10の炭素を直鎖、分岐鎖、環状又は芳香族基に有するアルキル基であり;及びn=1〜3;Xは、H、又は求核基、例えば、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート又はカルボキシル基又はこれらの組み合わせである);及び
・GeX、GeX又はRGeX4〜n
(ここで、Xは、求核基、例えばOR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート又はカルボキシル基又はこれらの組み合わせであり、Rは、水素;直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;及びC4〜10の環状アルキル基又はC4〜12の芳香族基であり;並びにn=0〜3)。
【0031】
液体前駆体がSb前駆体を含むある種の実施態様では、Sb化合物の例として、限定されないが、次のものを挙げられる:
・(RO)Sb
(ここで、Rは、直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;又はC4〜10の環状アルキル基である);
・(RN)Sb
(ここで、R及びRは、個々に、直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;又はC4〜10の環状アルキル基である);及び
・次の一般式を有するハロゲン化アンチモン;SbX及びSbX
(ここで、Xは、F、Cl又はBrである)。
【0032】
理論に拘束されないが、ケイ素−テルルの結合及びケイ素−セレンの結合は、それらの高いイオン性及び低い結合エネルギーに起因して、求核攻撃に対して反応性が非常に高い。これらの化合物が、例えば金属化合物MXと反応する場合、シリル基は、電気陰性の配位子Xと結合して、より強い結合を形成することができ、これは金属−テルル結合及び金属−セレン結合の形成をもたらす。研究では、シリコン原子との化学結合の反応性が次の順番であることを示している。高い反応性を有する結合は、容易に低い反応性を有する結合へと変化することができる。高い活性から低い活性への化学結合の反応性を、下記に示す。
Si−Te>Si−I>Si−Se>Si−S>Si−Br>Si−Cl>Si−CN>Si−NCS>Si−O>Si−F
【0033】
本明細書に記載した方法を用いたテルル化金属フィルムの形成を、前駆体化合物間の次の典型的な反応によって示すことができる。
MeSi−Te−SiMe + M(OR)−−> MTe + MeSiOR
MeSi−Te−SiMe + M(F)−−> MTe + MeSiF
MeSi−Te−SiMe + M(NR−−> MTe + MeSiNR
【0034】
本明細書に記載した方法を用いたセレン化金属フィルムの形成を、前駆体化合物間の次の典型的な反応によって示すことができる。
MeSi−Se−SiMe + M(OR)−−> MSe + MeSiOR
MeSi−Se−SiMe + M(F)−−> MSe + MeSiF
MeSi−Se−SiMe + M(NR−−> MSe + MeSiNR
【0035】
本明細書に記載した方法を用いたGSTの形成を、前駆体化合物間の次の典型的な反応によって示すことができる。
MeSi−Te−SiMe + Ge(OMe) + Sb(OEt)
−−> GeSbTe + MeSiOEt + MeSiOMe
MeSi−Te−SiMe + GeF + SbF
−−> GeSbTe + MeSiF
MeSi−Te−SiMe + Ge(NMe + Sb(NMe
−−> GeSbTe + MeSiNMe
上記の反応では、GeSbTeは、テルル化ゲルマニウムアンチモン化合物の一般式を示し、この3つの元素の比は、最終用途に依存して変えることができる。
【0036】
シリルテルル化合物、アルコキシゲルマン(alkoxygermane)及びアルコキシアンチモンからGeSbTeフィルムを基材に堆積するための、順次的な液体系の堆積方法を、以下に示す反応機構によって示すことができる。
【0037】
【化2】

【0038】
上記に示す反応機構において、リンスステップは、コーティング層から余剰の前駆体溶液を除去するために用いられるステップなので、示していない。リンスステップは、過剰な反応、例えば、コーティング層の表面に粒子又は沈殿物を生成する場合がある、前の前駆体溶液と新たに導入された前駆体溶液とによる反応を、避けることができると考えられる。液体前駆体、例えばシリルセレン化合物、アルコキシゲルマン、及びアルコキシアンチモンを用いてGeSbSe(ゲルマニウムアンチモンセレン)フィルムを堆積する実施態様に対して、上記に与えたものと同様の反応順を、適用することができる。
【0039】
一つの特定の実施態様において、この方法及び前駆体溶液を用いて、光起電材料に適切なCdTe材料を堆積させることができる。CdTe材料を堆積させる一つの方法の例を、次の反応に示す:
MeSi−Te−SiMe + Cd(OMe)
−−> CdTe + MeSiOMe
【0040】
本明細書で用いられる前駆体が、室温条件下で液体ならば、それらを純粋な液体化合物として用いることができる。この実施態様、又は他の実施態様では、前駆体を、適切な溶媒に溶解して、前駆体を含む溶液を与えることができる。これらの実施態様、又は他の実施態様では、前駆体溶液に用いる溶媒を、前駆体を溶解又は懸濁でき、且つ例えば、不要な副反応を引き起こすことで堆積を阻害しない、あらゆる適切な溶媒とすることができる。ある種の実施態様では、酸素がシリルテルル化合物と反応する場合があるため、前駆体溶液の一種以上の溶媒から、酸素を除去することができる。ここで用いる溶媒に関するさらなる属性として、次の一以上を挙げられる:適切な沸点、表面張力、及び300mmウェハーにわたって均一なフィルムを調製する粘度、ギャップ充填特性(gap−fill feature)、及びその混合物をあらゆる不動態化層、例えばCVDの窒化ケイ素又は酸化ケイ素に適切に濡らすことができる特性。前駆体溶媒及び/又はリンス溶媒として用いることができる適切な溶媒の例は、限定されないが、脂肪族炭化水素(例えば、C〜C12の脂肪族炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン及び/又はペンタン)、芳香族炭化水素(例えば、C〜C18の芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン及び/又はメシチレン)、ニトリル、エーテル(例えば、C〜Cのアルキル部を含むジアルキルエーテル又はC〜C環状エーテル)及びこれらの混合物が挙げられる。ここで、有利に用いることができる特定の溶媒としては、限定されないが、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、トルエン、及びこれらの混合物が挙げられる。さらなる溶媒の例としては、塩素化炭化水素、エーテル、グリコールエーテル及びこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
ある種の実施態様では、金属フィルムを堆積するために用いる前駆体は、前駆体溶液であり、これは一種以上の特定の前駆体化合物、及びその溶液に含まれる前駆体化合物と反応しないという条件で一種以上の溶媒を含有する。これらの実施態様又は他の実施態様では、リンス溶媒を、前駆体溶液の溶媒と同じ溶媒にすることができる。他の実施態様では、一種以上の溶媒は、前駆体溶液で用いられる一種以上の溶媒とは異なる。一つの特定の実施態様では、炭化水素溶媒、例えば、ヘキサン若しくはオクタン、及び/又は芳香族炭化水素を、液体前駆体溶液内の溶媒、及び/又はリンス溶媒として用いることができる。
【0042】
前駆体が、前駆体組成物又は前駆体溶液として与えられる実施態様では、存在する溶媒の量を約0.01〜約99.9wt%、又は約1〜約50wt%、好ましくは1〜10wt%の範囲とすることができる。
【0043】
前駆体溶液及び/又はリンス溶液で用いられる溶媒は、残渣溶媒が存在する場合に容易に除去するために、比較的低い沸点を有する。本明細書で開示された溶媒に関する典型的な沸点温度としては、次のいずれか一つ以上の端点を有する範囲が挙げられる:200、195、190、185、180、175、170、165、160、155、150、145、140、135、130、125、120、115、110、105、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25及び/又は20℃。特定の融点の範囲の例としては、限定されないが、約20〜約200℃、又は約50〜約100℃が挙げられる。
【0044】
前駆体、前駆体組成物、前駆体溶液及び/又はリンス溶液は、高アスペクト比構造の基材に行きわたるように、比較的低い粘度を有する。一つの特定の実施態様では、前駆体組成物又は前駆体溶液は、25℃で測定したときに、50センチポアズ(Cp)以下、又は45Cp以下、又は40Cp以下、又は35Cp以下、又は30Cp以下、又は25Cp以下、又は20Cp以下、又は15Cp以下、又は10Cp以下の粘度を有する。
【0045】
限定されないが、液体前駆体の槽での浸液、ディップコーティング、スピンオンコーティング(spin−on coating)、及び液体前駆体の基材表面へのスプレーを含む様々な方法によって、基材を、前駆体又は前駆体溶液と接触させることができる。接触ステップの実際の条件(すなわち温度、時間等)は、幅広い範囲にわたって変化させることができ、且つ様々な因子、例えば、限定されないが、基材の表面上の特性及び残渣の量、並びに基材表面の疎水性又は親水性等に通常は依存する。接触ステップを、動的な方法、例えば、基材の表面上に液体前駆体を適用するためのストリームライン法(streamline process)又はスピンコーティング;静的な方法、例えばパドルリンス(puddle rinse)又は液体前駆体を有する槽内への基材の浸液;又は静的な方法及び動的な方法の組み合わせ(攪拌されている液槽への浸液)で実行することができる。液体前駆体を、動的方法、例えば、連続的プロセスで基材の表面にスプレーすることもでき、又は表面にスプレーし、そして静的方法で表面に残すこともできる。接触ステップの継続時間、又は基材表面へのプロセス溶液の接触の時間は、ほんの一瞬から数百秒まで変えることができる。好ましくは、その継続時間は、1〜200秒、好ましくは1〜150秒、より好ましくは1〜40秒の範囲とすることができる。接触ステップに関する温度範囲は、10〜100℃、より好ましくは10〜40℃で変えることができる。
【0046】
ある種の実施態様では、液体前駆体又は前駆体溶液を、スピンオン堆積法を用いて基材と接触させる。一つの特定の実施態様では、おおよそ2ミリリットルの前駆体又は前駆体溶液を、0.5ミクロンのテフロン(登録商標)フィルターを通じて、不活性雰囲気下で、例えば限定されないが窒素下又はアルゴン下で、500rpmで回転しているウェハー上に10秒間、直接的に提供する。提供が完了した後、ウェハーを、溶媒で、例えば存在するならば前駆体溶液に含まれる溶媒でリンスし、そしてスピンさせて余剰の溶媒を除去する。このプロセスを、一種以上の追加の前駆体又は前駆体溶液を用いて続けて、金属フィルムを与える。
【0047】
この方法及び/又はここに含まれる前駆体溶液において、液体前駆体又は前駆体溶液を、堆積の間に、同時に、順次的に、又はこれらのあらゆる組合せで、与えることができる。あるいは、前駆体を与え、そして未吸着の前駆体をパージした後、次の前駆体をコーティング層の表面に与えることによって、前駆体を順次的に与えることもできる。そうして、供給されたが吸着されなかった前駆体を、パージすることができる。
【0048】
上述のとおり、本明細書に記載した方法を用いて、金属含有フィルムを基材の少なくとも一部に堆積させることができる。適切な基材の例としては、限定されないが、ケイ素、SiO、Si、OSG、FSG、炭化ケイ素、水素化炭化ケイ素、窒化ケイ素、水素化窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、水素化炭窒化ケイ素、ホウ窒化物(boronitride)、反射防止コーティング、フォトレジスト、有機ポリマー、多孔質有機無機材料、金属、例えば、銅及びアルミ、並びに導電性金属層、例えば限定されないが、TiN、Ti(C)N、TaN、Ta(C)N、Ta、W、又はWNが挙げられる。このフィルムは、様々な続くステップ、例えば、化学的機械的平坦化(CMP)及び異方性エッチングプロセスと適合する。本明細書に記載した堆積の化学的性質を用いると、高度にコンフォーマルなフィルム、例えば、限定されないが、GeSbTe又はGeSbSeを、基材材料、例えばケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、酸化チタンの表面に堆積させることができる。
【0049】
この方法及び前駆体組成物を、詳細に且つ特定の例及びその実施態様に関連して述べてきたが、当業者は、本発明の精神及び範囲から離れることなく、様々な変更及び修正をなすことができることは明らかであろう。
【実施例】
【0050】
GeTe、SbTe、GeSbTe(GST)フィルムを、本明細書に記載した方法によって堆積させた。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、サンプルの断面画像及び表面形態(surface morphology)を得た。サンプル及びフィルムの相転移特性を、エネルギー分散型X線解析により特徴付けた。
【0051】
例1:GSTフィルムの堆積
GSTを、100nmのTiNで事前にコーティングしたSi(100)基板に堆積させた。これは、TiNが、PCRAMデバイスのための電極材料又は加熱材料として考慮されるからである。それぞれ次のものを含む8つの槽を用意した:
(1)Ge(OMe)及びヘキサンを含有する5wt%の前駆体溶液
(2)ヘキサン
(3)Te(SiMe及びヘキサンを含有する5wt%の前駆体溶液
(4)ヘキサン
(5)Sb(OEt)及びヘキサンを含有する5wt%の前駆体溶液
(6)ヘキサン
(7)Te(SiMe及びヘキサンを含有する5wt%の前駆体溶液
(8)ヘキサン
【0052】
この基板を、それぞれの槽に3秒間漬けた後、順に次の槽に移動させて、そしてこのサイクルを100回繰り返した。そして基板を乾燥させた。そして、約100ナノメーター(nm)のGSTフィルムの存在を、SEM(図1)及びXPS(図2(a)〜(c))によって確認した。
【0053】
テルル化カドミウムをSi(100)基板に堆積させた。それぞれ次のものを含む8つの槽を用意した:
(1)Cd(OEt)及びヘキサンを含有する5wt%の前駆体溶液
(2)ヘキサン
(3)Te(SiMe及びヘキサンを含有する5wt%の前駆体溶液
(4)ヘキサン
この基板を、それぞれの槽に3秒間漬けた後、順に次の槽に移動させて、そしてこのサイクルを100回繰り返した。そして基板を乾燥させた。
【0054】
上記の例は、単に例証に過ぎず、決してこの開示に限定するものではない。他の多成分フィルムとしては、限定されないが、インジウムアンチモンテルル(IST)、銀インジウムアンチモンテルル(AIST)、テルル化カドミウム(CdTe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)を、同様の様式で調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(h)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成し、そして前記フィルムを与える方法:
(a)Ge前駆体又はGe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記基材と接触させて、前記基材と反応させ、そしてGeを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、前記第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるGe前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Geを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、前記Te前駆体の少なくとも一部を、前記第一のコーティング層に含まれているGeと反応させて、Ge及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のTe前駆体を除去するステップ;
(e)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Ge及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、前記Sb前駆体の少なくとも一部を、前記第二のコーティング層に含まれているGe及びTeの少なくとも一部と反応させて、Ge、Te及びSbを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、前記第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Ge、Te及びSbを有する第三のコーティング層と接触させ、前記第三のコーティング層と反応させて、Ge、Te及びSbを有する第四のコーティング層を与えるステップ;及び
(h)リンス溶液で、前記第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【請求項2】
前記Ge前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがGeであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=2〜4である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Te前駆体が、一般式(RSi)Teを有するジシリルテルル;一般式(RSi)TeRを有するアルキルシリルテルル;及びこれらの混合物からなる群より選択されるシリルテルルを含み、ここで、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素;直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;C4〜10の環状アルキル基;及びC4〜12の芳香族基からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Sb前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがSbであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=3〜5である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記接触ステップでの前記Te前駆体、前記Ge前駆体、及び前記Sb前駆体の少なくとも一種が、前駆体溶液を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆体溶液が、前記前駆体と、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、及びエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒とを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、炭化水素を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が、ヘキサン、オクタン、トルエン及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記前駆体溶液における溶媒の量が、約0.01〜約90wt%の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(l)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成し、そして前記フィルムを与える方法:
(a)In前駆体又はIn前駆体を含有する前駆体溶液を、前記基材と接触させて、前記基材と反応させて、Inを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、前記第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるIn前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Inを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、前記Te前駆体の少なくとも一部を、前記第一のコーティング層に含有されているInと反応させて、In及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、前記Sb前駆体の少なくとも一部を、前記第二のコーティング層に含有されているIn及びTeの少なくとも一部と反応させて、In、Sb及びTeを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、前記第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In、Te及びSbを有する第三のコーティング層と接触させて、前記第三のコーティング層と反応させて、In、Te及びSbを有する第四のコーティング層を与えるステップ;
(h)リンス溶液で、前記第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(i)Ag前駆体又はAg前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In、Te及びSbを有する第四のコーティング層と接触させるステップであって、前記Ag前駆体の少なくとも一部を、前記第四のコーティング層に含有されているIn、Te及びSbの少なくとも一部と反応させて、In、Te、Sb及びAgを有する第五のコーティング層を与えるステップ;
(j)リンス溶液で、前記第五のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるAg前駆体を除去するステップ;
(k)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In、Te、Sb及びAgを有する第五のコーティング層と接触させて、前記第五のコーティング層と反応させて、In、Te、Sb及びAgを有する第六のコーティング層を与えるステップ;及び
(l)リンス溶液で、前記第六のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【請求項11】
前記Ag前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがAgであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=1〜3である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記In前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがInであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=1〜3である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記Te前駆体が、一般式(RSi)Teを有するジシリルテルル;一般式(RSi)TeRを有するアルキルシリルテルル;及びこれらの混合物からなる群より選択されるシリルテルルを含み、ここで、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素;直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;C4〜10の環状アルキル基;及びC4〜12の芳香族基からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記Sb前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがSbであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=3〜5である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記接触ステップでの前記Ag前駆体、前記In前駆体、前記Te前駆体、及び前記Sb前駆体の少なくとも一種が、前駆体溶液を構成する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記前駆体溶液が、前記前駆体と、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、及びエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒とを含有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒が、炭化水素を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒が、ヘキサン、オクタン、トルエン及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記前駆体溶液における溶媒の量が、約0.01〜約90wt%の範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
基材に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(h)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成して、前記フィルムを与える方法:
(a)In前駆体又はIn前駆体を含有する前駆体溶液を、前記基材と接触させて、前記基材と反応させ、Inを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、前記第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるIn前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Inを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、前記Te前駆体の少なくとも一部を、前記第一のコーティング層に含有されているInと反応させて、In及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、前記Sb前駆体の少なくとも一部を、前記第二のコーティング層に含有されているIn及びTeの少なくとも一部と反応させて、In、Te及びSbを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、前記第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In、Te及びSbを有する第三のコーティング層と接触させて、In、Te及びSbを有する第四のコーティング層を与えるステップ;及び
(h)リンス溶液で、前記第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【請求項21】
前記(a)から次の(l)までのステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成して、前記フィルムを与える、請求項20に記載の方法:
(i)Ag前駆体又はAg前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In、Te及びSbを有する第四のコーティング層と接触させるステップであって、前記Ag前駆体の少なくとも一部を、前記第四のコーティング層に含有されているIn、Te及びSbの少なくとも一部と反応させて、In、Te、Sb及びAgを有する第五のコーティング層を与えるステップ;
(j)リンス溶液で、前記第五のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるAg前駆体を除去するステップ;
(k)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記In、Te、Sb及びAgを有する第五のコーティング層と接触させて、前記第五のコーティング層と反応させて、In、Te、Sb及びAgを有する第六のコーティング層を与えるステップ;及び
(l)リンス溶液で、前記第六のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【請求項22】
前記In前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがInであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=1〜3である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記Te前駆体が、一般式(RSi)Teを有するジシリルテルル;一般式(RSi)TeRを有するアルキルシリルテルル;及びこれらの混合物からなる群より選択されるシリルテルルを含み、ここで、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素;直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;C4〜10の環状アルキル基;及びC4〜12の芳香族基からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記Sb前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、MがSbであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=3〜5である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記接触ステップでの前記In前駆体、前記Te前駆体、及び前記Sb前駆体の少なくとも一つが、前駆体溶液を構成する、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記前駆体溶液が、前記前駆体と、炭化水素、ハロゲン化炭化水素及びエーテルからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒とを含有する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記溶媒が、炭化水素を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記溶媒が、ヘキサン、オクタン、トルエン及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記前駆体溶液における溶媒の量が、約0.01〜約90wt%の範囲である、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(d)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成して、前記フィルムを与える方法:
(a)Cd前駆体又はCd前駆体を含有する前駆体溶液を、前記基材と接触させて、前記基材と反応させ、Cdを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、前記第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるCd前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、Cdを有する前記第一のコーティング層と接触させるステップであって、前記Te前駆体の少なくとも一部を、前記第一のコーティング層に含有されているCdの少なくとも一部と反応させて、Cd及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;及び
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【請求項31】
前記Te前駆体が、一般式(RSi)Teを有するジシリルテルル;一般式(RSi)TeRを有するアルキルシリルテルル;及びこれらの混合物からなる群より選択されるシリルテルルを含み、ここで、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素;直鎖、分岐鎖又は不飽和のC1〜10のアルキル基;C4〜10の環状アルキル基;及びC4〜12の芳香族基からなる群より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記シリルテルルが、ビス(トリメチルシリル)テルル、ビス(ジメチルシリル)テルル、ビス(トリエチルシリル)テルル、ビス(ジエチルシリル)テルル、ビス(フェニルジメチルシリル)テルル、ビス(t−ブチルジメチルシリル)テルル、ジメチルシリルメチルテルル、ジメチルシリルフェニルテルル、ジメチルシリル−n−ブチルテルル、ジメチルシリル−t−ブチルテルル、トリメチルシリルメチルテルル、トリメチルシリルフェニルテルル、トリメチルシリル−n−ブチルテルル、及びトリメチルシリル−t−ブチルテルルからなる群より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(h)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成して、前記フィルムを与える方法:
(a)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、前記基材と接触させて、前記基材と反応させ、Sbを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、前記第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ;
(c)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Sbを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、前記Te前駆体の少なくとも一部を、前記第一のコーティング層に含有されているSbと反応させて、Sb及びTeを有する第二のコーティング層を与えるステップ;
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ;
(e)Ge前駆体又はGe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Sb及びTeを有する第二のコーティング層と接触させるステップであって、前記Ge前駆体の少なくとも一部を、前記第二のコーティング層に含有されているSb及びTeの少なくとも一部と反応させて、Ge、Te及びSbを有する第三のコーティング層を与えるステップ;
(f)リンス溶液で、前記第三のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるGe前駆体を除去するステップ;
(g)Te前駆体又はTe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Sb、Te及びGeを有する第三のコーティング層と接触させて、前記第三のコーティング層と反応させて、Sb、Te及びGeを有する第四のコーティング層を与えるステップ;及び
(h)リンス溶液で、前記第四のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるTe前駆体を除去するステップ。
【請求項34】
基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(d)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成して、前記フィルムを与える方法:
(a)Ge前駆体又はGe前駆体を含有する前駆体溶液を、前記基材と接触させて、前記基材と反応させ、Geを有する第一のコーティング層を与えるステップ;
(b)リンス溶液で、前記第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるGe前駆体を除去するステップ;
(c)Sb前駆体又はSb前駆体を含有する前駆体溶液を、前記Geを有する第一のコーティング層と接触させるステップであって、Sb前駆体の少なくとも一部を、前記第一のコーティング層に含有されているSbの少なくとも一部と反応させて、Ge及びSbを有する第二のコーティング層を与えるステップ;及び
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆるSb前駆体を除去するステップ。
【請求項35】
前記Ge前駆体が、式MXを有する化合物を含み、ここで、Mが、Geであり;Xが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される求核基であり;且つn=2〜4である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
Sb前駆体が、シリルアンチモン化合物を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
基材の少なくとも一部に多成分フィルムを堆積させる方法であって、次の(a)から(d)のステップを繰り返して、複数のコーティング層を形成して、前記フィルムを与える方法:
(a)MXを、前記基材と接触させるステップ、ここでMは、Ge、Sb、In、Sn、Ga、Bi、Ag、Cu、Zr、Hf、Hg、Cd、Zn、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt及びAuからなる群より選択される金属又は半金属であり、且つXが、OR(アルコキシ)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、NR(アミノ)、CN(シアノ)、OCN(シアナート)、SCN(チオシアナート)、ジケトナート及びカルボキシル基からなる群より選択される求核基である;
(b)リンス溶液で、第一のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆる前駆体を除去するステップ;
(c)オルガノシリル前駆体又は前駆体溶液を有する前記第一のコーティング層を、接触させるステップ;
(d)リンス溶液で、前記第二のコーティング層の少なくとも一部をリンスして、未反応のあらゆる前駆体を除去するステップ、
ここで、前記金属又は半金属は、ステップ毎に独立に選択することができる。
【請求項38】
前記オルガノシリルが、ビス(トリメチルシリル)テルル、ビス(ジメチルシリル)テルル、ビス(トリエチルシリル)テルル、ビス(ジエチルシリル)テルル、ビス(フェニルジメチルシリル)テルル、ビス(t−ブチルジメチルシリル)テルル、ジメチルシリルメチルテルル、ジメチルシリルフェニルテルル、ジメチルシリル−n−ブチルテルル、ジメチルシリル−t−ブチルテルル、トリメチルシリルメチルテルル、トリメチルシリルフェニルテルル、トリメチルシリル−n−ブチルテルル、及びトリメチルシリル−t−ブチルテルルからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記オルガノシリルが、ビス(トリメチルシリル)セレン、ビス(ジメチルシリル)セレン、ビス(トリエチルシリル)セレン、ビス(ジエチルシリル)セレン、ビス(フェニルジメチルシリル)セレン、ビス(t−ブチルジメチルシリル)セレン、ジメチルシリルメチルセレン、ジメチルシリルフェニルセレン、ジメチルシリル−n−ブチルセレン、ジメチルシリル−t−ブチルセレン、トリメチルシリルメチルセレン、トリメチルシリルフェニルセレン、トリメチルシリル−n−ブチルセレン、及びトリメチルシリル−t−ブチルセレンからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
ゲルマニウムテルル(GeTe)、アンチモンテルル(SbTe)、アンチモンゲルマニウム(SbGe)、ゲルマニウムアンチモンテルル(GST)、インジウムアンチモンテルル(IST)、銀インジウムアンチモンテルル(AIST)、テルル化カドミウム(CdTe)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、セレン化亜鉛(ZnSe)、セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)からなる群より選択される、請求項37の方法で堆積させたフィルム。

【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−82507(P2012−82507A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−35639(P2011−35639)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】