説明

多成分ワクチン

【課題】ブドウ球菌群細菌感染症の予防および治療のための多成分ワクチンの提供。
【解決手段】黄色ブドウ球菌由来のクランピング因子Aタンパク質の単離されたフィブリノーゲン結合ドメインの免疫学的有効量と単離された黄色ブドウ球菌の莢膜多糖5型の免疫学的有効量とを含有する多成分ワクチン、または該フィブリノーゲン結合ドメインの免疫学的有効量と単離された黄色ブドウ球菌の莢膜多糖8型の免疫学的有効量とを含有する多成分ワクチン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国農務省から許可第97-35204-5046号により支持された業務の一部においてなされたものである。米国政府が本発明の権利を有する。
本発明は細菌感染症の治療及び診断用の生物学的製品の分野におけるものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ブドウ球菌は、一般にブドウ様の不規則な房状に配列したグラム陽性球状細胞である。ブドウ球菌のあるものはヒトの皮膚及び粘膜の正常菌叢(flora)の一部であり、その他のものは化膿、膿瘍形成、種々の発熱性感染症及び致死性敗血症を引き起こす。病原性ブドウ球菌は、溶血を起こし、血漿を凝集し、そして様々な細胞外酵素や毒素を産生する場合が多い。最も一般的な型の食中毒は、耐熱性ブドウ球菌エンテロトキシンによって引き起こされる。
【0003】
ブドウ球菌属には、少なくとも30種が属している。その臨床上重要な主な3種類の種は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)及びスタフィロコッカス・サプロフィチカス(Staphylococcus saprophyticus)である。黄色ブドウ球菌はコアグラーゼ陽性であり、それにより他の種と区別される。黄色ブドウ球菌は、ヒトにとって危険な病原体である。どんな人でも大概は、生涯の間に重篤さにおいて食中毒又は危険の少ない皮膚感染症から生命を脅かす重い感染症にまで及ぶ幾つかの種類の黄色ブドウ球菌感染症を経験している。コアグラーゼ陰性のブドウ球菌群は、ヒトの正常菌叢であり、時には、しばしば体内に埋め込まれた器具に関連して、特に極めて幼い患者、極めて年老いた患者及び免疫無防備状態の患者において、感染症を引き起こす。コアグラーゼ陰性のブドウ球菌群によって引き起こされる感染症の約75%は表皮ブドウ球菌によるものである。スタフィロコッカス・ワルネリ(Staphylococcus warneri)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis) 及びその他の種による感染症は少ない。スタフィロコッカス・サプロフィチカスは、若い女性の尿道感染症の比較的ありふれた病因である。ブドウ球菌は、カタラーゼを産生し、それによって連鎖球菌と区別される。
【0004】
関節間隙内の関節軟骨(その中でコラーゲンが主な成分である)の黄色ブドウ球菌の定着(colonization)が、敗血性関節炎の発現に寄与する重要な因子であるように思われる。血行性の後天的に得られた(hematogeneously acquired)細菌性関節炎は深刻な医学的問題未だに残っている。この進行が極めて早く、破壊性が高い関節疾患は、根絶することが困難である。典型的には、感染患者の50%未満は重い関節損傷なしには回復することができない。黄色ブドウ球菌は、血行性で二次骨髄炎をもつ成人患者から単離された主な病原体である。
【0005】
入院患者においては、黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌が感染症の主な病因である。創傷又は体内内在医療器具の初期の局在感染症は、いっそう重篤な侵入性の感染症、例えば敗血症、骨髄炎、乳腺炎及び心内膜炎を招き得る。医療器具に関連した感染症において、プラスチックや金属の表面は、体内に埋め込まれた後まもなく、宿主の血漿やマトリックスタンパク質例えばフィブリノーゲン及びフィブロネクチンで被覆されてしまう。これらのタンパク質に黄色ブドウ球菌や他のブドウ球菌群細菌が付着することができることが、感染の開始には欠くことができない。血管移植片、静脈内カテーテル、人工心臓弁及び心臓補助装置は血栓形成性であり、しかも細菌を定着させる傾向をもつ。一般に、ブドウ球菌群細菌の中で黄色ブドウ球菌が、かかる感染症の最も有害な病原体である。
【0006】
感染症の治療に現在利用できる抗生物質の大部分に対して耐性を示す黄色ブドウ球菌分離株の著しい増加が、世界中の病院で認められている。黄色ブドウ球菌を防除するためのペニシリンの開発は、感染症の防御と治療において大きな進歩であった。あいにく、ペニシリン耐性菌が急速に出現し、新規な抗生物質に対する要求が最も大きくなった。あらゆる新規な抗生物質の導入と共に、黄色ブドウ球菌は、それが生き残ることを可能にするβ-ラクタマーゼ類、ペニシリン結合タンパク質の変性及び細胞膜タンパク質の突然変異によって対抗することができている。その結果、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSAと略記する)や多剤耐性菌が出現しており、世界中の病院や療養院で大きな足場を固めている(非特許文献1)。現在、院内感染を引き起こすブドウ球菌のほぼ半分がバンコマイシン以外の全ての抗生物質に対して耐性であり、バンコマイシンもまた効かなくなるであろう前のほんの時間の問題であるように思われる。
【0007】
黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌による感染症を治療するための治療法であって、該細菌の抗生物質耐性株に有効である治療法に対する要求が強くなり、急速に大きくなっている。最近、米国予防衛生研究所(National Institute of Health)は、この目標は今日、国家的最優先事項であることを示した。
【0008】
MSCRAMM
宿主組織に対する細菌の付着すなわち接着は、MSCRAMM〔微生物表面成分認識接着性マトリックス分子(Microbial Surface Components Recognizing Adhesive Matrix Molecules)〕と呼ばれる微生物表面の特異的付着因子が、細胞外マトリックス(ECMと略記する)成分、例えばフィブロネクチン、フィブリノーゲン、コラーゲン及びエラスチンを特異的に認識し、これらに結合する場合に生じる。多くの病原性細菌は、宿主組織への定着メカニズムを表すと思われる相互作用においてECMの種々の成分を特異的に認識し、これに結合することが明らかにされている。この接着はMSCRAMMと呼ばれる一群の細菌タンパク質を必要とする(非特許文献2)。
【0009】
細菌細胞の表面のMSCRAMMと、宿主組織内のリガンドとは、鍵と鍵穴のように相互に作用して宿主に対する細菌の付着をもたらす。付着は、細菌の生存に必要である場合が多く、細菌が宿主の防御機構と抗生物質の挑戦を回避するのを手助けする。細菌が首尾よく宿主組織に付着し、定着すると、その細菌の生理学が劇的に変化し、毒素や酵素のような有害成分を分泌する。また、接着した細菌はバイオフィルムを形成し、急速に大部分の抗生物質の殺菌効果に対して耐性になる場合が多い。
【0010】
細菌は、種々のマトリックスタンパク質を認識する種々のMSCRAMMを発現することができる。MSCRAMM中のリガンド結合部位は、比較的短い連続したアミノ酸配列(モチーフ)によって定義されるように思われる。同様のモチーフが数種類の細菌において認めることができることから、これらの機能性モチーフが種相互の伝達(transfer)に暴露されるように思われる(非特許文献3)。また、1個のMSCRAMMは、場合によっては数種類のECMリガンドを結合することができる。
【0011】
ワクチン接種の研究
歴史的に、細菌接着に関する研究は、主として、細菌細胞の表面に種々様々な采状(fimbrialの)接着性タンパク質(付着因子と呼ばれる)を発現するグラム陰性菌に集中している(非特許文献4)。これらの付着因子は、宿主細胞(特に上皮層)の表面の暴露された特異的複合糖質を認識する。付着においてレクチン様構造を採ると、細菌が上皮表面に効率的に定着することを可能にする。このことが細菌に複製のための優れた配置(location)を提供し、しかも隣り合った宿主組織に広がる機会も提供する。刺毛(pilus)付着因子を用いる免疫処置により、チンチラモデルで中耳炎を誘発させたヘモフィルス・インフルエンザ(Hemophilus influenza)(非特許文献5)、実験的に誘発させた伝染性のウシの角結膜炎における牛結膜炎菌(Moraxella bovis)(非特許文献6)及びウサギにおいて下痢を誘発させた大腸菌(非特許文献7)におけるように、微生物の感染から保護することを引き出すことができることが例証されている。ほとんどの場合、付着因子を用いた免疫処置は、細菌の付着や定着を阻止することによって及び細菌のオプソニン食作用や抗体依存性補体仲介殺菌力を高めることによって感染を防ぐ免疫抗体の産生をもたらす。
【0012】
未来のワクチンの開発における重要な手段として、宿主組織成分に対する病原性微生物の付着を仲介する分子をワクチン成分として使用することが出現しつつある。細菌の付着は、大部分の感染症の発生における臨界的な最初の段階であることから、新規ワクチンの開発に興味をそそる目標である。組換えDNA技術における新しい技法と結びつけた分子レベルで、MSCRAMMと宿主組織の成分との間の相互作用について深められた理解が、新しい型のサブユニットワクチンについて基礎を敷いている。MSCRAMMのドメイン全体又は特定のドメインは、現在、その固有の形で又は位置特異的に変性された形でいずれかで製造することできる。また、種々の微生物由来のMSCRAMMを混合し、適合させる(match)ことができることが、多数の細菌から保護するであろう単一のワクチンを設計する可能性を作り出している。
【0013】
百日咳に対する新規なサブユニットワクチンであって、不活性化した百日咳毒素の他に、精製した百日咳菌(Bordatella pertussis)のMSCRAMMである繊維状ヘマグルチニン及びパータクチン(pertactin)からなるサブユニットワクチンを用いた最近の臨床試験は、この型のアプローチの最初の成功例である。前記の新規な細胞性ワクチンの数種の異型(version)は、安全であり、しかも細菌細胞全部を含んだ旧式ワクチンよりも有効であることが明らかにされた(非特許文献8)。
【0014】
黄色ブドウ球菌に対する自然免疫は未だ十分に理解されないままである。典型的には、健康な人間及び動物は、黄色ブドウ球菌感染症に対して高度の先天的な抵抗耐性を示す。感染防御は無傷の上皮及び粘膜障壁並びに正常な細胞性応答及び体液性応答に起因すると考えられる。黄色ブドウ球菌に対する抗体の力価は重篤な感染症の後に高められる(非特許文献9)。しかしながら、現在まで抗体力価とヒトの免疫性との間の相関関係について血清学的証拠はない。
【0015】
過去数十年間にわたって、黄色ブドウ球菌細胞の生菌製剤、加熱不活性化(killed)製剤及びホルマリン固定化製剤がブドウ球菌感染症を防ぐためのワクチンとして試験されてきた。多数の医療センターの臨床試験は、絶え間ない腹膜透析患者の間の腹膜炎、出口部位の感染及び黄色ブドウ球菌の鼻の運搬(nasal carriage)の発生について、ブドウ球菌トキソイド及び完全不活性化ブドウ球菌からなる市販のワクチンの効果を研究するために設計された(非特許文献10)。前記のワクチンを用いた免疫処置は黄色ブドウ球菌に対する特異抗体の量の増加を誘発したが、腹膜炎の発生に変化がなかった。同様に、黄色ブドウ球菌の全細胞を用いたウサギの免疫処置は、実験心内膜炎の進展におけるいずれの段階も阻止又は変更することができないし、腎臓の膿瘍の発生を減らすこともできないし、感染した腎臓の細菌量(load)を減らすこともできなかった(非特許文献11)。
【0016】
現在は、FDAが承認した黄色ブドウ球菌感染症の予防用ワクチンはない。しかしながら、莢膜多糖を基材とした黄色ブドウ球菌ワクチン(Staph VAX)が、現在NABI社(North American Biologicals Inc.)で開発中である。このワクチンは、緑膿菌外毒素A(rEPA)に複合された5型又は8型の莢膜多糖からなる。このワクチンは、型特異的オプソニン抗体を誘発し、オプソニン食作用を高めることを意図する(非特許文献12)。純化された(refined)致死感染マウスモデルを使用する(非特許文献13)と、5型莢膜多糖特異的IgGの腹腔内注入液(infusion)が黄色ブドウ球菌を腹腔内に接種されたマウスの死亡率を低下させることが明らかにされている。また、前記の5型莢膜多糖−rEPAワクチンは、末期腎臓疾患をもつ17歳の患者をワクチン接種するのに使用されている(非特許文献14)。
【0017】
前記の5型複合体に対する幾何平均(GM)と略記するIgG抗体濃度は最初の免疫処置後に13〜17倍に増加したが、追加の注射後にはさらなる増加は検出できなかった。興味深いことには、ワクチン接種した患者のGM IgG濃度は、対照群よりも著しく低かった。動物による研究によって支持された前記のワクチンは、絶え間ない外来通院の腹膜透析患者における第II相試験を最近終えている。この臨床試験により、前記ワクチンは安全であるがブドウ球菌感染症には効果がないことが明らかにされた(非特許文献15)。Staph VAXが、ワクチン接種した患者の腹膜透析に関連した感染症を予防することができないことに関する二つの可能な説明は、このワクチンの免疫原性が最適量以下のワクチン用量によるためにあまりにも低かったということ、又は血流中の抗体が腹膜のようなある一定の解剖学的領域における感染病に影響を及ぼすことができないということである。
【0018】
グラム陽陰性菌関与の敗血症が増加しつつある。実際に、敗血症の全ての場合の1/3〜1/2がグラム陽陰性菌、特に黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌によって引き起こされる。米国では、今年は200,000人以上の患者がグラム陽陰性菌関与の敗血症になるであろうと推定することができる。
【0019】
マウスモデルを使用して(非特許文献16)、Col結合MSCRAMMのM55ドメインを用いた能力免疫処置によって、敗血症によって誘発される死からマウスを守ることができることが明確に例証されている。マウスをM55又は対照抗原(ウシ血清アルブミン)を用いて皮下に免疫処置し、次いで黄色ブドウ球菌を静脈内投与した。M55を用いて免疫処置されたマウスの83%(35匹/42匹)が生き残り、これに対してBSA免疫処置されたマウスでは27%(12匹/45匹)だけが生き残った。これは、別々の3回の試験の結果である。
【0020】
Schenningsらは黄色ブドウ球菌由来のフィブロネクチン結合タンパク質を用いた免疫処置によりラットが実験心内膜炎から守られることを例証した(非特許文献17)。ラットは、β-ガラクトシダーゼと、フィブロネクチンに対する結合を招く黄色ブドウ球菌由来のフィブロネクチン結合タンパク質のドメインとを含む融合タンパク質(gal-FnBP)を用いて免疫処置された。融合タンパク質gal-FnBPに対する抗体が生体外で(in vitro)固定化フィブロネクチンに対する黄色ブドウ球菌の結合を妨げることが明らかにされた。免疫処置ラットと非免疫処置対照ラットの心内膜炎は、右頚動脈を経由してカテーテルを挿入することにより誘発させ、フィブリノーゲンとフィブロネクチンで被覆されてしまった損傷大動脈心臓弁において生じた。次いで、上記のカテーテル挿入ラットに黄色ブドウ球菌細胞1×105個を用いて静脈内感染させた。感染後11/2日目に、大動脈弁に会合した細菌の個数が測定され、次いで免疫処置群と非免疫処置群の間に細菌数の有意な差が観察された。
【0021】
マウスの乳腺炎モデルがMamoら(非特許文献18)によって使用され、黄色ブドウ球菌由来のフィブロネクチン結合タンパク質(特にFnBP-A)とコラーゲン結合タンパク質とを用いたワクチン接種黄色ブドウ球菌投与感染に対する効果が研究された。フィブロネクチン結合タンパク質を用いてワクチン接種されたマウスは、対照群と比較して乳腺炎の程度が低下していることが明らかにされた。マウスの感染した乳腺の肉眼的調査により、フィブロネクチン結合タンパク質を用いてワクチン接種したマウスの乳腺が軽い乳房内感染症になったか又は対照群マウス由来の乳腺と比較して病理学的変化がなかったことが明らかにされた。対照群と比較して、フィブロネクチン結合タンパク質を用いてワクチン接種したマウスの乳腺において著しく減少した細菌数を得ることができた。次いで、Mamoは、ブドウ球菌α-トキソイドと組合わせたFnBP-Aを用いたワクチン接種が前記の保護を向上させなかったことを認めた(非特許文献19)。次に、Mamoらは、コラーゲン結合タンパク質のみを用いてマウスを免疫処置したが、黄色ブドウ球菌を用いた投与感染保護を誘導しなかった。
【0022】
完全不活性化ブドウ球菌は腹膜透析を受けている人のワクチン研究に含まれていた(非特許文献20)。この臨床試験において、完全不活性化細菌の縣濁物と組合わせたα-溶血素トキソイドの市販のワクチンが12ヶ月にわたって10回筋肉内投与された。対照群は食塩水注射を受けた患者であった。ワクチン接種は、腹膜液中の黄色ブドウ球菌細胞と、血清中のα-溶血素とに対する抗体の濃度の顕著な上昇を生じた。しかしながら、免疫処置は、ワクチン受容者の間で腹膜炎、カテーテル関連感染症又は鼻への定着の発生を減少させなかった。この臨床試験における防御効果の不足は、最適量以下のワクチン製剤に原因があった。
【0023】
分泌されたタンパク質が細胞下ワクチンの成分として調査された。α毒素は最も強いブドウ球菌外毒素の中のものである;α毒素は細胞溶解活性をもち、組織の壊死を誘発し、実験動物を殺す。ホルムアルデヒドで解毒したα毒素による免疫処置は、動物を全身又は局所感染症から保護しないが、感染症の臨床的重篤さを軽減し得る(非特許文献21)。
【0024】
一つの研究により、ブドウ球菌感染の実験モデルにおいて黄色ブドウ球菌マイクロカプセルに対する抗体の保護効果を評価されている(非特許文献22)。ラットが、不活性化され、マイクロカプセル化された細菌を用いて能動免疫処置するか又は莢膜多糖特異性の高力価ウサギ抗血清を用いて受動免疫処置した。対照動物は食塩水を注射するか又は正常ウサギ血清を用いて受動免疫処置した。次いで、上記と同じ菌株を用いた静脈内感染により生ずるカテーテル誘発心内膜炎に対する防御について評価した。高められた量の抗莢膜抗体をもつにもかかわらず、免疫処置動物はブドウ球菌性心内膜炎に感受性であり、しかも免疫処置動物及びまた対照動物は血液中に同様の個数の細菌を有していた。
【0025】
以下の発明の詳細な説明において記載するように、多数の特許明細書及び特許出願明細書にはフィブロネクチンタンパク質、フィブリノーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質、エラスチンタンパク質及びMHC II構造類似型結合タンパク質の遺伝子配列が記載されている。これらの特許明細書及び特許出願明細書はその全部が参考文献として参照される。これらの文献には、前記のタンパク質、断片、あるいは該タンパク質又は断片と抗体が、黄色ブドウ球菌感染症治療用のワクチン接種に使用できることが記載されている。PCT/US97/087210号明細書には、コラーゲン結合タンパク質(M55断片)、フィブロネクチン結合ペプチド〔ホルマリン処理FnBP-A(D1-D3)〕及びフィブリノーゲン結合ペプチド(ClfA)の組み合わせを用いたマウスのワクチン接種が記載されている。
【0026】
前記のワクチンから現在までに認められているブドウ球菌感染症から適切に保護する効果の不足は、恐らくは不適切な免疫処置スケジュール又は不適切な免疫処置経路に従って、適切な免疫応答を生じさせることができなかった結果であるように思われる。黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌が調節遺伝子座agr及びsarによってビルエンス(病毒性)因子の大部分の発現を一時的に調節していることが認められているという事実において、過去のワクチンの性能の悪さにも寄与する別の因子を考えることができる。例えば、黄色ブドウ球菌は、細胞表面のフィブリノーゲン結合タンパク質、ClfA及びClfBをコードする2種類の遺伝子を含有している。興味深いことには、ClfAは主として初期の指数増殖期において発現され、これに対してClfBはその後の増殖期において発現される。従って、内在微生物が生体内で宿主に示す抗原は、前記のワクチンで使用される抗原と同じものではないかもしれない。また、黄色ブドウ球菌抗原がどんな分離株でも発現されるとは限らない。例えば、黄色ブドウ球菌の臨床分離株の約50%が、コラーゲン結合性MSCRAMMをコードする遺伝子cnaを発現するのみである。黄色ブドウ球菌に対する効果的な免疫療法剤を創製するためには、ワクチンは多成分でなければならず、増殖サイクル全体に及び抗原を含むものでなければならず且つ大部分の黄色ブドウ球菌分離株によって発現される抗原を含むものでなければならない。
【0027】
黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群の細菌による感染症の治療用の組成物の技術の進歩にもかかわらず、もっと有効な製品、好ましくは種々の菌株のブドウ球菌群の細菌に対して広い範囲の免疫を示す製品を提供することに対する要求が未だにあり、また細菌増殖相の種々の段階で発現させ得る特定のタンパク質に対する要求が未だにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Chambers, H.F., Clin. Microbiol. Rev., 1:173, 1988;及びMulligan, M.E., et al., Am. J. Med., 94:313, 1993
【非特許文献2】Patti, J., et al., Ann. Rev. Microbial., 48:585-617, 1994; Patti, J. and Hook, M., Cur. Opin. Cell Biol., 6:752-758, 1994
【非特許文献3】Patti, J. and Hook, M., Cur. Opin. Cell Biol., 6:752-758, 1994
【非特許文献4】Falkow, S., Cell, 65:1099-1102, 1991
【非特許文献5】Sirakove et al., Infect. immun., 62(5):2002-2020,1994
【非特許文献6】Lepper et al., Vet. Microbiol., 45(23):129-138, 1995
【非特許文献7】McQueen et al., Vaccine, 11:201-206, 1993
【非特許文献8】Greco et al., N Eng. J. Med.,334:341-348, 1996;Gustaffson et al., N Eng. J. Med.,334:349-355, 1996
【非特許文献9】Ryding et al., J. Med. Microbiol., 43(5):328-334, 1995
【非特許文献10】Poole-Warren et al., Clin. Nephrol., 35:198-206, 1991
【非特許文献11】Greenberg, D.P., et al., Infect. Immun., 55:3030-3034, 1987
【非特許文献12】Karakawa et al., Infect. Immun., 56:1090-1095, 1988
【非特許文献13】Fattom et al., Infect. Immun., 61:1023-1032, 1993
【非特許文献14】Welch et al., J. Amer. Soc. Nephrol., 7(2):247-253, 1996
【非特許文献15】NABI SEC FORM 10K405, 12/31/95
【非特許文献16】Bremell et al., Infect. Immun., 59(8):2615-2633, 1991
【非特許文献17】Micro Pathog., 15:227-236, 1993
【非特許文献18】Vaccine, 12:988-992, 1994
【非特許文献19】Mamo et al., Vaccine, 12:988-992, 1994
【非特許文献20】Poole-Warren et al., Clin. Nephrol., 35:198-206, 1991
【非特許文献21】Ekstedt, R.D., in The Staphylococci, 358-418, 1972
【非特許文献22】Nemeth, J. and Lee, J.C., Infect. Immun., 63:375-380, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
従って、本発明の目的は、黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌のようなブドウ球菌群の細菌による感染症に対する免疫処置用の新規な治療組成物を提供することにある。
【0030】
本発明の別の目的は、乳腺炎、関節炎、心内膜炎、敗血症及び骨髄炎、せつ症、蜂巣炎、膿血症、肺炎、膿皮症、創傷の化膿、食中毒、膀胱感染症、並びにその他の感染症疾患から保護するワクチンを提供することにある。
【0031】
本発明の別の目的は、ブドウ球菌感染症に対して免疫し、ブドウ球菌群細菌の細胞内不活性化の量を高め且つブドウ球菌群細菌の食作用の割合を増大させる治療用組成物を提供することにある。
【0032】
本発明のさらに別の目的は、外毒素を中和することによって宿主をさらに保護する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
発明の要約
ブドウ球菌感染症の治療は、細菌性結合タンパク質又はその断片、あるいはタンパク質又はその断片に対する抗体のある種の選択された組み合わせを用いて免疫処置することによって著しく高めることができることが知見されている。前記のタンパク質又は断片は、能動ワクチンにおいて使用することができ、また前記の抗体は受動ワクチンおいて使用することができる。また、前記の組み合わせは、受動免疫用の精製血液製品を調製するための提供者血液プールを選択するのに使用することができる。前記のタンパク質、断片又は抗体を注意深く選択することによって、広い範囲のブドウ球菌群細菌からの保護及び対数増殖曲線の種々の段階で発現されるタンパク質からの保護を付与するワクチンが提供される。
【0034】
本明細書に記載のワクチン及び製品は、急速に有効性を失いつつある小分子抗生物質の代替品に対する医学界の緊急な要求に応じるものである。前記ワクチンは従来の技術よりも著しく改良されたものであり、従来の技術は、免疫を付与するためにMSCRAMMを使用することを一般的に教示しているが、多数の公知のMSCRAMMの組み合わせを使用して優れた保護を付与することは教示していなかった。
【0035】
本発明の一つの態様においては、少なくとも、コラーゲン結合タンパク質又はペプチド〔あるいはその適当な位置特異的突然変異配列〕例えばCNA、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片と、フィブリノーゲン結合タンパク質、好ましくはクランピング因子A(“ClfA”と略記する)又はクランピング因子B(“ClfB”と略記する)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。
【0036】
本発明の別の態様においては、少なくとも、フィブロネクチン結合タンパク質又はペプチド(あるいはその適当な位置特異的突然変異配列)、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片と、フィブリノーゲン結合タンパク質、好ましくはA又はB(すなわち、ClfA又はClfB)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。
【0037】
第三の態様においては、少なくとも、フィブリノーゲン結合タンパク質A(すなわち、ClfA)及びフィブリノーゲン結合タンパク質B(すなわち、ClfB)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片を含有する組成物が提供される。
【0038】
第四の態様においては、少なくとも、フィブロネクチン結合タンパク質又はペプチド(あるいはその適当な位置特異的突然変異配列)、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片と、(i)フィブリノーゲン結合タンパク質A及びB(すなわち、ClfA及びClfB)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片;と(ii)コラーゲン結合タンパク質又はその有用断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。
【0039】
別の態様においては、前記の諸態様の成分と、エラスチン結合タンパク質又はペプチドあるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。
【0040】
別の態様においては、前記の諸態様の成分を、MHC II構造類似のタンパク質又はペプチドあるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。
【0041】
別の態様においては、前記の種々の諸組み合わせのいずれかの組み合わせの成分と、ブドウ球菌群細菌の食作用の割合を増大するための細菌成分とを組み合わせて含有する組成物が提供される。かかる一つの態様において、細菌成分は莢膜多糖、例えば莢膜多糖5型又は8型を含有する。
【0042】
さらに別の態様においては、前記の種々の組み合わせのいずれかの組み合わせと、細胞外マトリックス結合タンパク質SdrC、SdrD又はSdrE、あるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはこれらの有用断片あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。
【0043】
さらに別の態様においては、前記の種々の組み合わせのいずれかの組み合わせと、細胞外マトリックス結合タンパク質SdrF、SdrG又はSdrH、あるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはこれらの有用断片あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片とを組み合わせて含有する組成物が提供される。この態様は、コアグラーゼ陽性のブドウ球菌又はコアグラーゼ陰性のブドウ球菌の両方に有用であり得るワクチンの開発に特に有効である。
【0044】
別の態様においては、少なくとも、細胞外マトリックス結合タンパク質SdrC、SdrD及び SdrE又はその有用断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片を含有する組成物が提供される。
【0045】
また、前記の諸成分の選択された組み合わせに対して免疫反応性であるモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体を含有する組成物が提供される。この組成物はブドウ球菌感染症に感染した患者を治療するワクチン接種に使用することができる。
【0046】
本発明の別の態様においては、前記のタンパク質、断片又は抗体の組み合わせが診断用キットに使用される。
【0047】
以下に記載するように、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、コラーゲン及びエラスチンに結合する前記の組成物に使用すべきタンパク質及びペプチドは公知である。また、前記組成物に使用するための新規なフィブロネクチンタンパク質、フィブリノーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質及びエラスチン結合タンパク質又はそのエピトープは同定することができる。選り抜きのリガンドに結合する結合タンパク質の結合ドメインのペプチドを同定する方法は公知である。例えば、リガンドが結合タンパク質の結合ドメインに結合することを可能にするのに有効な条件下で候補のタンパク質又はペプチドをリガントと接触させ、該リガンドに結合する陽性の候補ペプチドを同定することができる。
【0048】
前記の組成物のタンパク質又はペプチドの結合ドメインに結合する抗体は、前記ペプチドが前記のECMに特異的に結合しない場合であっても、タンパク質又はペプチドの組み合わせの免疫学的有効量を含有する医薬組成物を動物に投与することによって産生させることができる。
【0049】
また、前記の単離されたMSCRAMMタンパク質、組換え又は合成MSCRAMMタンパク質あるいはこれらの活性断片又は融合タンパク質の組み合わせは、宿主ECM分子上のブドウ球菌結合部位を同定し、それによって細菌病理のメカニズムについての理解と抗菌療法の開発を促進するための科学研究ツールとしても有用である。さらにまた、上記の単離されたタンパク質、組換え又は合成のタンパク質あるいはその抗原部分(例えば含エピトープ断片)、又はその融合タンパク質は、MSCRAMMタンパク質と反応性の抗血清を産生させるための免疫原又は抗原として、単独で又はアジュバントと組合わせて動物に投与し得る。また、前記のタンパク質は、該タンパク質に極めて高い親和性をもつ抗体を誘導することができる高度免疫患者用の抗血清を選別するのに使用することができる。該抗血清から単離された抗体は、研究ツールとして又はブドウ球菌感染症の治療処理剤として、ブドウ球菌群細菌又は結合タンパク質の特異的検出に有用である。
【0050】
前記のタンパク質又はその活性断片、及び該タンパク質に対する抗体は、前記の黄色ブドウ球菌のような細菌由来のブドウ球菌感染による感染症の治療に;能動又は受動免疫処理用の抗ブドウ球菌ワクチンの開発に有用であり、そして創傷に医薬組成物として投与するか、あるいは生体外及び生体内で医療器具又は重合体状生体材料を被覆するのに使用した場合には、前記のタンパク質とペプチドの両方は創傷部位又は生体材料に対するブドウ球菌群細菌の結合を妨害又は阻止するための遮断剤(blocking agent)として有用である。
【0051】
動物由来の抗体は、投与される患者において免疫原性が低いように変性させることが好ましい。例えば、患者が人間である場合には、前記の抗体はハイブリドーマ由来抗体の相補的決定領域を、Jonesら〔Nature, 321:522-525(1986)〕又はTempestら〔Biotechnology, 9:266-273(1991)〕によって報告されているようなヒトモノクロナール抗体に移植することにより“ヒトに適合化”させ得る。
【0052】
また、ブドウ球菌感染症の検出用診断剤として有用なキットも提供される。 さらにまた別の態様によれば、抗MSCRAMM抗体及び本発明のMSCRAMMポリペプチドは、該ポリペプチドが黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌に感染している動物、例えば人間において産生された抗体分子に結合することができ且つ該抗体が特定のブドウ球菌群細菌又はその抗原に結合することができることから、ブドウ球菌群細菌による感染症の検出用診断剤として有用である。
【0053】
診断剤はキットに含有させ得、使用するための指示書及びその他の適当な試薬も含むことができる。また、該キットには、アッセイの製品を評価するための手段、例えばカラーチャート又は数値参照チャートも含めることができる。前記のポリペプチド又は抗体は、MSCRAMMポリペプチドが抗体に結合された際に該MSCRAMMポリペプチドの検出を可能にするか、又は抗MSCRAMMポリペプチド抗体がブドウ球菌群細菌に結合された際に該抗MSCRAMMポリペプチド抗体の検出を可能にする検出手段を用いて標識してもよい。
【0054】
前記の検出手段は、フルオレセインイソシアネート(FICと略記する)、フルオレセインイソチオシアネート(FITCと略記する)などの蛍光標識剤、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRPと略記する)、グルコースオキシダーゼなどの酵素、γ線放射を生ずる125I又は51Crのような放射性元素、あるいは試験溶液中に存在する電子と遭遇した際にγ線を生ずる陽電子(ポジトロン)を放射する放射性元素例えば11C、15O又は13Nであり得る。前記の検出手段の連結は当該技術において周知である。例えば、ハイブリドーマによって産生されるモノクロナール抗MSCRAMMポリペプチド抗体分子は、放射性同位元素含有アミノ酸を培地中に配合することによって代謝標識することができるし、又はポリペプチドは活性化された官能基による検出手段に複合又は連結し得る。
【0055】
本発明の診断キットは、血清、血漿又は尿のような体液試料中のブドウ球菌群細菌又は抗ブドウ球菌抗体の量の存在を検出するのに使用し得る。従って、好ましい態様においては、本発明のMSCRAMMポリペプチド又は抗MSCRAMMポリペプチド抗体組成物は、典型的には固体支持体に水性媒体から吸着させることによって結合される。有用な固体マトリックスは、当該技術において周知であり、架橋デキストラン;アガロース;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;架橋ポリアクリルアミド;ニトロセルロース又はナイロン基材の材料;管、プレート又はマイクロタイタープレートのウエルが挙げられる。本発明のポリペプチド又はポリペプチド抗体は、溶液状で使用してもよいし、又は実質的に乾燥した粉末、例えば凍結乾燥体で診断剤として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、代表的ワクチン、MSCRAMM IVに使用したペプチドの概略図である。この図はコラーゲン結合MSCRAMM CNA、フィブリノーゲン結合MSCRAMM ClfA、フィブリノーゲン結合MSCRAMM ClfB及びフィブリノーゲン結合MSCRAMM FnBPAタンパク質の本質的特徴を例証している。上記のMSCRAMM類は、組換えタンパク質として発現され且つMSCRAMM IVを用いて免疫処置したウサギにおいて抗体を産生させるのに使用されることを示す領域をもつことを示す。全てのタンパク質は金属キーレトクロマトグラフィーによる精製を促進するためにアミノ末端ヒスチジン標識を用いて設計された。
【図2】図2は、前記のMSCRAMM CNA、ClfA、ClfB及びFnBPAそれぞれに対する抗体力価の変化によって示される、MSCRAMMワクチン接種したアカゲザル(赤毛猿)における免疫応答の経時グラフである。力価はELISA法で分析し、前記抗原を用いた最初の免疫処置の後の治療の6ヶ月間の推移にわたってそれぞれの週の間の吸光度(405 nmで定量した)の変化として測定した。
【図3】図3は、表皮ブドウ球菌由来のsdrF遺伝子をコードする核酸配列及びそれによってコードされるアミノ酸配列を表す。
【図4】図4は、表皮ブドウ球菌由来のsdrG遺伝子をコードする核酸配列及びそれによってコードされるアミノ酸配列を表す。
【図5】図5は、表皮ブドウ球菌由来のsdrH遺伝子をコードする核酸配列及びそれによってコードされるアミノ酸配列を表す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
発明の詳細な説明
ワクチンとして使用するのに適した組成物として、少なくとも下記の成分を含有する組成物が提供される:すなわち、
(i) コラーゲン結合タンパク質、ペプチド又はドメイン(又はその適当な位置特異的突然変異配列)例えばCNA、あるいはこれらと十分に高い相同性をもつタンパク質、断片又はドメインと、フィブリノーゲン結合タンパク質、好ましくはクランピング因子A(“ClfA”)又はクランピング因子B(“ClfB”)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片との組み合わせ;
(ii) フィブロネクチン結合タンパク質又はペプチド(あるいはその適当な位置特異的突然変異配列)、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片と、フィブリノーゲン結合タンパク質A及びB(すなわち、ClfA及びClfB)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片との組み合わせ;あるいは
(iii) フィブリノーゲン結合タンパク質A(すなわち、ClfA)及びフィブリノーゲン結合タンパク質B(すなわち、ClfB)、あるいはこれらの有用断片又はこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片;あるいは
(iv) フィブロネクチン結合タンパク質又はペプチド(あるいはその適当な位置特異的突然変異配列)、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片と、フィブリノーゲン結合タンパク質A及びB(すなわち、ClfA及びClfB)、あるいはその有用断片又はこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質もしくは断片;及びコラーゲン結合タンパク質又はその有用断片、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片との組み合わせ; (v) 前記の種々の態様のいずれかの態様の成分と、エラスチン結合タンパク質又はペプチドあるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片との組み合わせ;あるいは
(vi) 前記の種々の態様のいずれかの態様の成分と、MHC II類縁型結合タンパク質又はペプチドあるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片との組み合わせ;あるいは
(vi) 前記の種々の態様のいずれかの態様の成分と、黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌の食作用の割合を増大するための細菌成分との組み合わせ;あるいは
(vii) 前記の種々の態様のいずれかの態様の成分と、細胞外マトリックス結合タンパク質SdrC、SdrD又はSdrE、あるいはその有用断片 例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片との組み合わせ;あるいは
(viii) 前記の種々の態様のいずれかの態様の成分と、細胞外マトリックス結合タンパク質SdrF、SdrG又はSdrH、あるいはその有用断片 例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはこれに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片、前記諸成分から作製したワクチンが、表皮ブドウ球菌のようなコアグラーゼ陰性のブドウ球菌群細菌及び黄色ブドウ球菌のようなコアグラーゼ陽性のブドウ球菌群細菌による感染症に対して患者を免疫処置するのにも有用であるようなものとの組み合わせ;あるいは
(x) 細胞外マトリックス結合タンパク質SdrC、SdrD及びSdrE又はその有用断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはこれらに対して十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片;
を含有する組成物が提供される。
【0058】
結合タンパク質の天然産結合ドメインに対応しない野生型、天然産変異体又は誘導突然変異に対応する野生型又は天然産の変異体あるいは合成又は組換えペプチドから単離したタンパク質断片が前記の態様において使用できる。
【0059】
前記の単離ペプチドは、該単離ペプチド及び前記結合ドメインの両方に結合し且つそのリガンドに対する前記結合タンパク質の結合を妨害する抗体の産生を可能にするのに十分な長さであるべきである。幾つかの具体的態様においては、少なくとも連続したアミノ酸約5個、約6個、約7個、約8個、約9個、約10個、約11個、約12個、約13個、約14個、約15個、約16個、約17個、約18個、約19個、約20個、約21個、約22個、約24個、約25個、約30個、約35個、約40個、約45個又は約50個を含有するペプチドが好ましい。別の好ましい具体的態様においては、前記の単離ペプチドは前記結合ドメインの野生型配列由来の少なくとも約6個の連続したアミノ酸を含有する。
【0060】
本発明の一つの態様においては、前記の単離ペプチド又は抗体組成物は、動物において免疫応答を生じさせるのに使用される。この態様において、前記組成物はさらにアジュバントを含有することが好ましい。ワクチン接種に使用される多数のアジュバントが知られており、この組成物に容易に適合する。前記の単離ペプチド又は抗体組成物は、製薬学的に許容し得る賦形剤に分散させることが好ましい。
【0061】
単離ペプチドは、選択されたアミノ酸配列に連結させて融合タンパク質を調製することができる。限定されない具体例として、選択されたアミノ酸配列に操作して連結させた結合タンパク質の結合ドメインの第一のペプチドを少なくとも含有する融合タンパク質を調製することができる。一つの態様において、前記ペプチドがフィブロネクチン結合ドメインである場合には、第一のペプチドはフィブロネクチンに特異的に結合しない。好ましい態様において、第一のペプチドは、選択された担体分子又はアミノ酸配列、例えばカサガイ(keyhole limpet)のヘモシアニン(KLHと略記)及びウシ血清アルブミン(BSAと略記)(これらに限定されないが)に連結される。
【0062】
前記の選択されたMSCRAMMタンパク質を含有するか、又はかかるMSCRAMMタンパク質をコードするDNAを含有する免疫学的組成物、例えばワクチン及びその他の医薬組成物は、本発明の範囲内に包含される。結合タンパク質、あるいはその活性又は抗原性断片、あるいはその融合タンパク質の組み合わせは、単独で又は他の抗原と組合わせて、ワクチンについて当業者に知られている方法及び材料を使用して製剤し、包装することができる。免疫応答は治療に又は予防に使用し得、しかも例えばTリンパ球細胞障害性Tリンパ球、又はCD4のTリンパ球によって産生されるような抗体免疫又は細胞性免疫を提供し得る。
【0063】
ワクチンは能動免疫及び受動免疫の両方に使用するために調製することができる。抗原材料は、望ましくない低分子量分子を除去するために広範に透析され及び/又は所定のビヒクル中により容易に配合するために凍結乾燥される。
【0064】
I.定義
FnBP-Aタンパク質、FnBP-Bタンパク質、ClfAタンパク質、ClfBタンパク質、SdrCタンパク質、SdrDタンパク質、SdrEタンパク質、SdrFタンパク質、SdrGタンパク質、SdrHタンパク質、CNAタンパク質、EbpSタンパク質及びMHC IIタンパク質という用語は、本明細書においては、FnBP-A、FnBP-B、ClfA、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE、SdrF、SdrG、SdrH、CNAA、EbpS及びMHC IIサブドメインそれぞれ、FnBP-A、FnBP-B、ClfA、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE、SdrF、SdrG、SdrH、CNA、EbpS及びMHC IIタンパク質の活性又は抗原性断片、並びにこれらと十分に高い相同性をもつタンパク質又は断片を含むものとして定義される。FnBP-A、FnBP-B、ClfA、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE、SdrF、SdrG、SdrH、CNA、EbpS及びMHC IIタンパク質の活性断片は、本明細書では、ブドウ球菌群細菌が宿主ECMに結合するのを阻止することできるペプチド又はタンパク質として定義される。FnBP-A、FnBP-B、ClfA、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE、SdrF、SdrG、SdrH、CNA、EbpS及びMHC IIタンパク質の抗原性断片は、本明細書では、免疫応答を生じることができるペプチド又はタンパク質として定義される。
【0065】
本明細書で使用する“付着因子”という用語は、細胞外マトリックスタンパク質に結合することができる及び/又は宿主細胞に対する接着を仲介することができる天然産及び合成又は組換えタンパク質及びペプチドを包含する。
【0066】
本明細書で使用する“アミノ酸”という用語は、天然産及び合成アミノ酸を包含し、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタメート、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン及びヒスチジンを包含するが、これらに限定されない。
【0067】
“抗体”は、特異的エピトープを結合する免疫グロブリン、例えばその抗体及び断片である。本明細書で使用するこの用語は、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、サル適合化抗体及びヒト適合化抗体並びにFab断片例えばFab免疫グロブリン発現ライブラリーの生成物を包含する。
【0068】
本明細書で使用する、種々の正しい文法に従った形(grammatical form)の“抗体分子”という語句は、完全な免疫グロブリン分子と、免疫グロブリン分子の活性部分との両方を意味するものである。
【0069】
本明細書で使用する“抗原機能上均等な”タンパク質又はペプチドとは、前記の個々のMSCRAMMタンパク質(例えば、FnB-B、FnB-A、FnBP-B及びFnBP-A)いずれかのタンパク質から誘導されるか又は前記の個々の細菌細分(例えば、テイコ酸、α毒素及び莢膜多糖5型のいずれかの成分)から誘導されるエピトープの1種又はそれ以上と免疫学的に架橋反応性のエピトープを組み込んだ分子である。抗原機能上均等物、又はエピトープ配列は、最初に設計されるか又は予測し、次いで試験してもよいし、あるいは簡単に架橋反応性について直接に試験してもよい。
【0070】
本明細書で使用する“pg”はピコグラムを意味し、“ng”はナノグラムを意味し、“ug”又は“μg”はマイクログラムを意味し、“mg”はミリグラムを意味し、“ul”又は“μl”はマイクロリットルを意味し、“ml”はミリリットルを意味し、“l”はリットルを意味する。
【0071】
“細胞系”とは、多数の世代について生体外で安定生育できる初期細胞のクローンである。
【0072】
“クローン”とは、単一細胞又は共通の祖先から有糸分裂によって誘導される細胞の集団である。
【0073】
DNA“コード配列”とは、適当な調節配列の制御下に置いた際に生体内でポリペプチドに転写及び翻訳される二本鎖DNA配列である。該配列の境界は、5´(アミノ酸)末端の開始コドンと3´(カルボキシル)末端の翻訳停止コドンによって決定される。コード配列としては、原核生物配列、真核生物mRNA由来のcDNA、真核生物(例えば哺乳類)DNA由来の遺伝子DNA配列及び合成DNA配列が挙げられるが、これらに限定されない。ポリアデニル化シグナル及び転写末端配列は、通常はコード配列に対して3´の位置に配置される。“DNA分子”とは、デオキシヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン又はシトシン)の一本鎖又は二本鎖らせんの形の重合形を言う。この用語は、前記分子の一次及び二次構造のみをいい、特定の三次構造に限定するものではない。従って、この用語は、特に線状DNA分子(例えば、制限断片)、ウイルス、プラスミド及び染色体に認められる二本鎖DNAを包含する。個々の二本鎖DNAの構造を論ずる際には、本明細書では、配列は、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAに対して相同性の配列をもつ鎖)に沿って5´から3´の方向の配列のみを示す標準的取り決めに従って記載し得る。転写及び翻訳制御配列は、宿主細胞中でコード配列の発現について提供する“DNA制御配列”例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなどである。
【0074】
“発現制御配列”とは、別のDNA配列の転写及び翻訳を制御し、調節するDNA配列である。コード配列は、RNAポリメラーゼが該コード配列をmRNAに転写する際には細胞中で転写及び翻訳制御配列の“制御下”にあり、次いで該コード配列によってコードされるタンパク質に翻訳される。
【0075】
本明細書で使用する“細胞外マトリックスタンパク質”すなわちECMという用語は、細胞挙動を支持し且つ調節する巨大分子の4種類の一般的なファミリー、すなわち、コラーゲン、構造糖タンパク質、プロテオグリカン及びエラスチン、例えばフィブロネクチン、及びフィブリノーゲンをいう。
【0076】
“免疫有効量”とは、B細胞及び/又はT細胞の応答を刺激することができる量である。
本明細書で使用する“生体内(in vivo)ワクチン”とは、病原体に対する後の暴露から保護する体液性免疫応答及び細胞性免疫応答を誘発するようにタンパク質を用いた動物の免疫処置をいう。
【0077】
“リガンド”という用語は、病原性細菌が結合する分子、例えば宿主組織中の分子を包含するものとして使用する。
【0078】
本明細書で使用する“MHC II抗原”という用語は、急速な移植拒絶を招き且つT細胞に対して抗原授与(presentation)を必要とする細胞表面分子をいう。 種々の正しい文法に従った形の“モノクロナール抗体”という語句は、特定の抗原と免疫反応を行うことができる抗体結合部位のただ1種のみを有する抗体をいう。
【0079】
本明細書で使用する“オリゴヌクレオチド”という用語は、2個以上、好ましくは3個以上のヌクレオチドからなる分子として定義される。その正確な大きさは、多数の因子に左右される、すなわちオリゴヌクレオチドの究極の機能と用途に左右される。
【0080】
本明細書で使用する“製薬学的に許容し得る”という語句は、ヒトに投与した際に生理学的に我慢ができ且つ典型的には許容し得ないアレルギー又は同様の都合の悪い反応を生じない分子全体及び組成物をいう。
【0081】
本明細書で使用する“プライマー”という用語は、精製された制限消化物におけるように天然に産するか又は合成的に生成されるかいずれにしろ、核酸の鎖に相補的な初期伸長生成物の合成が誘導される条件下においた場合に、すなわちヌクレオチドとDNAポリメラーゼのような誘導剤との存在下で且つ適当な温度及び pHで、合成の開始点として作用することができるオリゴヌクレオチドをいう。プライマーは一本鎖であってもよいし又は二本鎖であってもよく、しかも誘導剤の存在下で所望の伸長生成物の合成を誘導するのに十分に長いものでなければならない。プライマーの正確な長さは、多数の因子、例えば温度、プライマー供給源及び使用する方法に左右される。例えば、診断用途には、標的配列の複雑さに応じて、オリゴヌクレオチドプライマーは、典型的には15〜25個又はそれ以上のヌクレオチドを含有するが、それよりも少ない個数のヌクレオチドを含有していてもよい。
【0082】
本明細書においてプライマーは、個々の標的DNA配列の種々の鎖に実質的に相補的であるように選択される。これは、プライマーが標的DNA配列の鎖とハイブリダイズするのに十分に相補性でなければならないことを意味する。例えば、非相補的ヌクレオチド断片はプライマーの5´末端に結合し得るが、プライマー配列の残部は前記の鎖に相補性である。また、プライマー配列が該配列とハイブリダイズする鎖の配列と十分な相補性を有し、それによって伸長生成物の合成用の鋳型を形成することを条件として、非相補的塩基又はより長い配列をプライマー中に点在させ得る。
【0083】
“プロモーター配列”とは、細胞中でRNAポリメラーゼを結合することができ且つ下流側(すなわち3´方向)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を定義するために、プロモーター配列は転写開始部位によりその3´末端で結合され、そして上流側(すなわち5´方向に)伸長してバックグランドを超えて検出可能な水準で転写を開始するのに必要な最小限の数の塩基又は要素を含む。プロモーター配列内には、転写開始部位(ヌクレアーゼS1を用いてマッピングすることにより都合よく定義される)と、RANポリメラーゼの結合をもたらすタンパク質結合ドメイン(共通配列)とが認められる。真核生物プロモーターは必ずではないが、“TATA”ボックスと“CAT”ボックスとを含んでいる場合が多い。真核生物プロモーターは前記の−10及び−35共通配列の他にシャイン・ダルガノ配列を含んでいる。
【0084】
“レプリコン”とは、生体内のDNA複製の自律性単位として機能する;すなわち自己の制御下で複製できる遺伝子要素(例えば、プラスミド、染色体、ウイルス)である。
【0085】
本明細書で使用する“制限エンドヌクレアーゼ”及び“制限酵素”とは、細菌酵素をいい、そのそれぞれは二本鎖DNAを特異的なパアリンドロームヌクレオチド配列で又はその近くで切断する。
【0086】
“シグナル配列”は、コード配列の前に含まれ得る。この配列は、細胞表面にポリペプチドを指向させるか又はポリペプチドを培養液中に分泌することを宿主細胞に対して、伝達するシグナルペプチドをポリペプチドに対してN-末端にコードし、このシグナルペプチドは前記タンパク質が宿主細胞から離れる前に宿主細胞によって切り取られる。シグナル配列は、原核生物及び真核生物に固有の種々のタンパク質に関連していると認めることができる。
【0087】
本明細書で使用する“位置特異的突然変異誘発物質”とは、突然変異がDNA分子内のある一定の位置で生ずる割合を増大することができる化合物をいう。
【0088】
細胞は、外因性DNA又は異種DNAが細胞内に導入されている場合に、かかるDNAによって“形質転換”されている。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成する染色体DNA中に組み込まれて(共有結合されて)いてもよいし、組み込まれていなくてもよい。例えば、原核生物、酵母及び哺乳動物細胞では、形質転換DNAは、プラスミドのようなエピソーム要素上に保持され得る。真核生物細胞に関しては、安定に形質転換された細胞が一つであり、その中に形質転換DNAが染色体中に組み込まれてしまっているので、形質転換DNAは染色体の複製を介して娘細胞によって受け継がれる。この安定性は、真核生物細胞が形質転換DNAを有する娘細胞の集団からなる細胞系又はクローンを確立することができる能力によって例証される。
【0089】
“ベクター”とはプラスミド、ファージ又はコスミドのようなレプリコンであり、これらに対して別のDNAセグメントが付着して、付着したセグメントの複製を生じ得る。
【0090】
“創傷”とは、本明細書では機械的影響、化学的影響又は他の影響によって損傷した上皮細胞層、及び組織全体にわたる表面構造を意味するものとして使用する。
【0091】
“免疫有効量”とは、受容動物において免疫応答を生じさせることができるペプチド組成物の量を意味する。これは、抗体応答(B細胞応答)の誘発及び/又は細胞障害性免疫応答(T細胞応答)の刺激の両方を包含する。かかる免疫応答の誘発は、診断用途に使用される有用な生化学試薬、例えばCTL、特に反応性抗体の製造に用途を有し、また種々の予防又は治療用途にも用途を有する。
【0092】
使用する組成物中の細菌結合タンパク質又はその断片の選択された組み合わせとしては、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、コラーゲン及びエラスチンに結合する組み合わせが挙げられる。かかるタンパク質、ペプチド、その断片又はこれらに実質的に相同性の配列が本発明において使用することができる。代表的な例を以下に示す。また、細菌結合タンパク質又はMHC II構造類似体に対する断片を以下に示す。
【0093】
II.フィブロネクチン結合MSCRAMM
フィブロネクチン(Fnと略記する)は、動物のECM及び体液中に認められる440 kDaの糖タンパク質である。フィブロネクチンの主な生物学的機能は、適当なインテグリンを発現する細胞の接着用の基質として機能することができることに関連していると思われる。数種の細菌種がフィブロネクチンを特異的に結合すること及びフィブロネクチン含有培養基板に接着することが明らかにされている。大部分の黄色ブドウ球菌分離株は、Fnを結合するが、種々の程度でそのように結合し、細菌細胞表面上で発現されたMSCRAMM分子の数の変化を反映する。Fnと黄色ブドウ球菌との間の相互作用は極めて特異的である(Kuusela, P., Nature,276:718-720, 1978)。Fn結合は、FnBP-A及びFnBP-Bと命名された110 kDaの分子量をもつ2種類の表面露出タンパク質によって仲介される。主要なFn結合部位は3〜5回反復されたアミノ酸35〜40個のモチーフからなる。これらに関する遺伝子はクローン化され、配列決定されている(Jonsson, K., et al., Eur. J. Biochem., 202:1041-1048, 1991)。
【0094】
国際出願公開第WO-A-85/05553号公報には、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、コラーゲン及び/又はラミニン結合能をもつ細菌細胞表面タンパク質が記載されている。
【0095】
Hookらの米国特許第5,320,951号及び第5,571,514号明細書には、フィブロネクチン結合タンパク質A(fnbA)遺伝子配列、並びにこの配列に基づく生成物及び方法が記載されている。
【0096】
Hookらの米国特許第5,175,096号明細書には、fnbBの遺伝子配列、ハイブリッドDNA分子(fnbB)並びにこの配列に基づく生成学的生成物及び方法が記載されている。
【0097】
米国特許第5,652,217号明細書には、定義された配列の黄色ブドウ球菌由来のハイブリッドDNA分子によりコードされる結合活性をもつ単離され且つ精製されたタンパク質が記載されている。
【0098】
米国特許第5,440,014号明細書には、ブドウ球菌感染症によって引き起こされる乳腺炎に対して反芻動物にワクチン接種するために使用し得る黄色ブドウ球菌のフィブロネクチン結合タンパク質のD3相同性単位内のフィブロネクチン結合タンパク質であって、創傷を治療するため、タンパク質受容体をブロックするため、他の動物の免疫処置のため、又は診断検定に使用するためのフィブロネクチン結合タンパク質が記載されている。
【0099】
米国特許第5,189,015号明細書には、哺乳動物においてフィブロネクチンに結合する能力をもつ黄色ブドウ球菌細菌株の定着の予防処理方法であって、フィブロネクチンを結合する能力をもつ黄色ブドウ球菌細菌株によって引き起こされる感染症の発生を防止するために、フィブロネクチン結合特性をもつタンパク質の予防治療活性量を治療の必要のある哺乳動物に投与することを含み、前記タンパク質が87 kDa〜165 kDaの分子量をもつものである、哺乳動物においてフィブロネクチンに結合する能力をもつ黄色ブドウ球菌細菌株の定着の予防処理方法が記載されている。
【0100】
米国特許第5,189,015号明細書には、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)由来のDNAをコードするフィブロネクチン結合タンパク質が記載され、また大腸菌に含まれるストレプトコッカス・ディスガラクティエ由来のフィブロネクチン結合タンパク質をコードするDNAと、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ由来のフィブロネクチン結合タンパク質をコードするDNAと、ストレプトコッカス・ディスガラクティエ由来のフィブロネクチン結合タンパク質をコードするDNAによって形質転換された大腸菌とを含有するプラスミドが記載されている。
【0101】
野生型のフィブロネクチン結合タンパク質に対する抗体は、黄色ブドウ球菌のフィブロネクチン結合能を実質的に阻害せず、従って生体内で有意な治療効果を示さないことが認められている。国際出願第PCT/US98/01222号明細書には、フィブロネクチン結合タンパク質に対するフィブロネクチンの結合を妨害する抗体が記載されている。前記抗体は、フィブロネクチンに結合しないフィブロネクチン結合タンパク質の位置特異的突然変異配列に対して生じた。生体内でフィブロネクチンと、フィブロネクチン結合タンパク質及び断片との迅速な複合体形成があることが確認された。フィブロネクチン結合に結合しないペプチドエピトープは、フィブロネクチン結合タンパク質のフィブロネクチン結合ドメインに基づく場合でも、生体内でフィブロネクチンとの複合体を形成しない。これは、フィブロネクチン結合タンパク質に対するフィブロネクチンの結合を阻害又は妨害する抗体が、複合化されていないペプチドエピトープ対して調製されることを可能にする。
【0102】
III.コラーゲン結合MSCRAMM
コラーゲンは軟骨の主要な成分である。コラーゲン(Cnと略記する)結合タンパク質は、一般にブドウ球菌群細菌によって発現される。黄色ブドウ球菌のCn結合MSCRAMMは、ブドウ球菌感染件の発病メカニズムの重要な一部分を構成するプロセスで軟骨に接着する〔Switalski, et al., Mol. Micro., 7(1), 99-107, 1993〕。黄色ブドウ球菌によるCn結合は少なくとも関節炎及び敗血症(これだけではないが)において役割を果たすことが認められる。分子量133、110及び87kDaの分子量をもつCNA(Patti, J., et a., J. Biol. Chem., 267: 4766-4772, 1992)が確認されている。種々の分子量をもつCNAを発現する菌株同士は、これらのCn結合能において違いが(Switalski, et al., Mol. Micro., 7, 99-107, 1993)。
【0103】
敗血症性の関節炎又は骨髄炎を有すると診断された患者の関節から回収されたブドウ球菌の菌株は、ほとんど変わることなくCBPを発現するが、これに対して創傷感染症から得られた極めて少ない数種の菌株は、この付着因子を発現する(Switalski, et al., Mol. Microbiol., 7, 99-107, 1993)。同様に、骨髄炎を有する患者の骨から単離された黄色ブドウ球菌株は、骨特異的タンパク質、すなわち骨シアロタンパク質(BSPと略記する)を認識するMSCRAMMを有する場合が多い(Ryden et al., Lancet, 11:515-518, 1987)。関節間隙内の関節軟骨の黄色ブドウ球菌の定着は、敗血症性の関節炎の発生に寄与する重要な因子であるように思われる。
【0104】
国際出願公開PCT WO92/07002号明細書には、コラーゲン結合活性をもつタンパク質又はポリペプチドをコードする黄色ブドウ球菌由来のヌクレオチド配列を有するハイブリッドDNA分子及び該配列を含有するプラスミド又はファージが記載されている。また、前記の明細書には、コラーゲン結合タンパク質を発現する大腸菌株、前記組換えDNAによって形質転換された微生物、コラーゲン結合タンパク質又はポリペプチドの製造方法、及びコラーゲン結合タンパク質又はポリペプチドのタンパク質配列も記載されている。
【0105】
黄色ブドウ球菌 CBPをコードする遺伝子cnaのクローニング、配列決定及び発現が報告されている(Patti, J., et a., J. Biol. Chem., 267: 4766-4772, 1992)。cna遺伝子は、グラム陽性菌から単離された表面タンパク質に特有の構造的特徴を有する133-kDaの付着因子をコードする。
【0106】
最近、リガンド結合部位がCBPのN-末端の半分(half)の内に配置されていることが報告されている(Patti, J., et a., Biochemistry, 32:11428-11435, 1993)。MSCRAMMの種々のセグメントに対応する組換えタンパク質のコラーゲン結合活性を分析することによって、明らかなコラーゲン結合活性を有していたアミノ酸168個の長さのタンパク質断片(アミノ酸残基151-318に対応する)が同定された。N又はC末端におけるこのタンパク質の短い先端切断断片は、リガンド結合活性の失活をもたらすが、円二色性分光分析法によって示されるようにタンパク質の立体配座の変化ももたらす。
【0107】
Pattiら(J. of Biol. Chem., 270, 12005-12011, 1995)は、cna遺伝子によってコードされる黄色ブドウ球菌付着因子中のコラーゲン結合エピトープを報告している。彼らの研究において、著者らは前記のタンパク質の配列から誘導されるペプチドを合成し、該ペプチドを抗体の産生に使用している。これらの抗体の幾つかはコラーゲンに対するタンパク質の結合を阻害する。
【0108】
国際出願第PCT/US97/08210号明細書には、コラーゲン結合タンパク質のある一定の同定されたエピトープ(M55、M33及びM17)が保護性の抗体を産生させるのに使用できることが記載されている。また、この出願明細書には、CBPSに対するコラーゲンの結合を妨害するか又は完全に阻止する組成物を同定するのに必要な重要な情報を提供するCBPの結晶構造が記載されている。黄色ブドウ球菌CBP及びアミノ酸25個のペプチドのリガンド結合部位が、125I標識II型コラーゲンに対する黄色ブドウ球菌の結合を直接に阻害することが特定された。
【0109】
IV.フィブリノーゲン結合MSCRAMM
フィブリンは血餅すなわち血液凝塊の主要な成分であり、フィブリノーゲン/フィブリンは、体内に埋め込まれた生体材料上に付着する主要な血漿タンパク質の一つである。フィブリノーゲン/フィブリンに対する細菌接着が器具関連感染の開始において重要であることを示唆する相当な数の証拠が存在する。例えば、Vaudauxらによって明らかにされているように、黄色ブドウ球菌は、用量に依存して、既にフィブリノーゲンで被覆されている生体外のプラスチックに付着する〔J. Infect. Dis., 160:865-875(1989)〕。さらに、Herrmannらは、血餅又は心臓弁に対する損傷に似せたモデルにおいて、表面に付着している血小板に、黄色ブドウ球菌がフィブリノーゲン架橋を介して貪欲に結合することを例証した〔J. Infect. Dis., 167:317-322(1993)〕。黄色ブドウ球菌は、生体外で形成された血餅中のフィブリノーゲンに直接に付着することができ、しかも架橋として作用する血漿から沈着したフィブリノーゲンを介して培養内皮細胞に接着することができる〔Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995); Cheung et al., J. Clin. Invest., 87:2236-2245(1991)〕。Vaudauxら及びMoreillonらによって明らかにされているように、フィブリノーゲン結合タンパク質クランピング因子(すなわち、ClfA)を欠く変異株は、生体外フィブリノーゲン、体外移植カテーテル、血餅及び心内膜症用ラットモデルの損傷心臓弁に対して低下した接着性を示す〔Vaudaux et al., Infect. Immun., 63:585-590(1995); Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995)〕。
【0110】
フィブリノーゲンの付着因子(“クランピング因子”と呼ばれる場合が多い)は、黄色ブドウ球菌の細胞表面にある。細菌と、溶解しているフィブリノーゲンとの間の相互作用は、細菌細胞の瞬間的な凝集をもたらす。フィブリノーゲン上の結合部位は、二量体フィブリノーゲン糖タンパク質のγ鎖のC末端にある。 その親和性は極めて高く、そして凝集は低濃度のフィブリノーゲンにおいて生じる。科学者らは最近、クランピング因子が固相フィブリノーゲン、血餅及び損傷心臓弁に対する接着も促進することを明らかにしている〔McDevitt et al., Mol. Microbiol., 11:237-248 (1994); Vaudaux et al., Infect. Immun., 63:585-590 (1995); Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995)〕。
【0111】
黄色ブドウ球菌の2つの遺伝子が2種類のフィブリノーゲン結合タンパク質、ClfA及びClfBをコードすることが認められている。遺伝子clfAは、クローン化され、配列決定され、そして92 kDaのポリペプチドをコードすることが認められている。ClfAはフィブリノーゲンのγ鎖に結合し、ClfBはα鎖及びβ鎖に結合する(Eidhin, et al., Mol. Micro., 出版待ちの段階, 1998)。ClfBは、可溶性フィブリノーゲンと固定化フィブリノーゲンの両方を結合し且つクランピング因子として作用する88 kDaの予想分子量と124 kDaの見かけ分子量をもつ細胞壁会合タンパク質である。
【0112】
ClfAと呼ばれるクランピング因子タンパク質のための遺伝子は、クローン化され、配列決定され、分子レベルで詳細に分析されている〔McDevitt et al., Mol. Microbiol., 11:237-248 (1994); McDevitt et al., Mol. Microbiol., 16:895-907 (1995)〕。この予測されたタンパク質はアミノ酸933個からなる。該タンパク質のN末端には残基39個からなるシグナル配列があり、その後に残基520個からなる領域(領域A)があり、この領域はフィブリノーゲン結合ドメインを含んでいる。その後に、ジペプチドすなわちセリン−アスパラギン酸の154反復からなる残基308個の領域(領域R)が続く。R領域の配列は、18個塩基対の反復GAY TCN GAY TCN GAY AGY(但し、Yはピリミジン類を表し且つNは任意の塩基を表す)によっててコードされる。ClfAのC末端は、グラム陽性菌の多数の表面タンパク質に存在する特徴、例えばLPDTGモチーフを有し、該モチーフは前記ClfAタンパク質を、細胞壁、膜アンカー及び一番端のC末端の正荷電残基に係留(anchoring)させる。
【0113】
血小板インテグリンαIIbβ3はフィブリノーゲンのγ鎖のC末端を認識する。これは凝集中の血液凝固の開始における極めて重要な出来事である。ClfAが血小板の凝集を阻止することができること及びフィブリノーゲンのγ鎖(198−411)のC末端に相当するペプチドがインテグリン及びClfAの両者がフィブリノーゲンと相互作用するのを阻止することができる〔McDevittら、Eur. J. Biochem., 247:416-424(1997)〕ということから、ClfAとαIIbβ3はフィブリノーゲンのγ鎖の同じ部位を正確に認識するものと思われる。αIIbβ3のフィブリノーゲン結合部位は、“EFハンド”と呼ばれるCa2+結合決定基のすぐ側にあるか又は該決定基と重なり合っている。ClfAの領域Aは、数個のEFハンド様モチーフを有する。3〜5mMの範囲の濃度Ca2+は、これらのClfA−フィブリノーゲンの相互作用を妨害し、そしてClfAタンパク質の二次構造を変化させる。ClfAのEFハンドに影響を及ぼす突然変異は、フィブリノーゲンとの相互作用を低下させるか又は妨げる。Ca2+とフィブリノーゲンのγ鎖とは、ClfAの領域Aの同じ部位に結合するか又は重なり合っている部位に結合すると思われる。
【0114】
白血球インテグリンαMβ2のα鎖は、リガンド結合活性をもたらすアミノ酸 200個(A又はIドメイン)の挿入片を有する。前記のIドメイン中の新規な金属イオン依存性接着部位(metal ion-dependent adhesion site)(MIDASと略記する)モチーフが、リガンドの結合に必要とされる。種々のリガンドの中から認識されるのがフィブリノーゲンである。フィブリノーゲン上の結合部位はγ鎖(残基190−202個)に存在する。最近、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)が真核生物のインテグリンを思い起こさせる種々の性質をもつ表面タンパク質αInt1Pを有することが報告された。この表面タンパク質は、MIDASモチーフを含んでいるαMβ2のIドメインとアミノ酸配列相同性を有する。さらにαInt1pはフィブリノーゲンに結合する。
【0115】
また、ClfAの領域Aも、αInt1pとある程度の配列相同性を示す。ClfAの領域Aの配列を調べることにより、MIDASモチーフになる可能性のあるモチーフが明らかにされている。ClfA中のMIDASモチーフのDXSXS部分におけるカチオン配位残基と想定される残基の突然変異は、フィブリノーゲンの結合の著しい減少をもたらす。αMβ2のγ鎖結合部位(190−202)に対応するペプチドがClfA−フィブリノーゲンの相互作用を阻害することが、O'Connellらによって明らかにされている(O'Connell et al., J. Biol. Chem., 印刷中, 1998)。従って、ClfAは2つの別々の部位でフィブリノーゲンのγ鎖に結合することができるように思われる。ClfA上のリガンド結合部位は、真核細胞インテグリンによって用いられるリガンド結合部位に類似しており、しかも2価のカチオン結合EFハンド及びMIDASモチーフを含んでいる。
【0116】
また、フィブリノーゲン結合タンパク質 ClfBも知られている。本発明では、前記タンパク質及び該タンパク質に対する抗体、並びに該タンパク質又はその抗体を含む診断キットが使用される。ClfBは約88 kDaの予測分子量と約124 kDaの見かけ分子量を有する。ClfBは細胞壁会合タンパク質であり、可溶性フィブリノーゲン及び固定化フィブリノーゲンの両方を結合する。さらにまた、ClfBはフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖の両方を結合し、クランピング因子として機能する。
【0117】
細胞外マトリックスに結合し、フィブリノーゲン結合ClfA及びClfBと関係があるタンパク質が知見されている。前記のSdrC、SdrD 及び SdrEタンパク質は、主要配列及び構造組織においてClfA及びClfBタンパク質と関係があり、これもまた細胞表面にある。これらのタンパク質は、細胞表面にあるこれらのタンパク質の領域Aにより、血漿中のタンパク質、細胞外マトリックス又は宿主細胞の表面上の分子と相互作用することができる。SdrCは細胞外マトリックス、例えばビトロネクチンに結合することができる。SdrEもまた細胞外マトリックスに結合し、例えばSdrEは骨シアロタンパク質(BSP)を結合する。
【0118】
SdrC、SdrD、SdrE、ClfA及びClfBの領域Aには、共通TYTFTDYVDモチーフを駆動するのに使用できる高保存アミノ酸配列が存在することが知見されている。前記モチーフは、多成分ワクチンにおいて、細菌感染症に対する広い範囲のの免疫性を付与するのに使用し得、しかも広い範囲の受動免疫を付与するモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体の産生させるのに使用し得る。別の態様において、Sdrタンパク質群及びClfタンパク質から誘導される可変配列モチーフ(T/I)(Y/F)(T/V)(F)(T)(D/N)(Y)(V)(D/N)の任意の組み合わせが、免疫を付与するのに又は保護抗体を誘導するのに使用することができる。
【0119】
V.エラスチン結合タンパク質
エラスチンの主な役割は、組織や器官に可逆的な弾性の性質を付与することにある(Rosenbloom, J., et al., FASEB J., 7:1208-1218, 1993)。エラスチンの発現は、肺、皮膚及び血管において最も高いが、このタンパク質は黄色ブドウ球菌のための哺乳動物宿主において広範に発現される。エラスチンに対する黄色ブドウ球菌の結合は、迅速であり、可逆性であり、高親和性であり、しかもリガンド特異的であることが認められた。また、25 kDaの細胞表面エラスチン結合タンパク質(EbpSと略記する)が単離され、エラスチン高含有ECMに対する黄色ブドウ球菌の結合を仲介するために提案された。EbpSはエラスチンのN末端の30 kDa断片の領域に結合する。
【0120】
国際出願第PCT/US97/03106号明細書には、エラスチン結合タンパク質用の遺伝子配列が記載されている。記載されているDNA配列データは、ebps読み取り枠が606 bpからなり、アミノ酸202個からなる新規なペプチドをコードすることを示している。EbpSタンパク質は、23,345ダルトンの予測された分子量と4.9のpIとをもつ。EbpSは大腸菌中で、N末端に結合したポリヒスチジン残基との融合タンパク質として発現された。組換えEbpSに対して生じたポリクロナール抗体は、25 kDaの細胞表面EbpSと特異的に相互作用し、ブドウ球菌エラスチン結合を阻害した。さらにまた、組換えEbpSは固定化エラスチンに特異的に結合し、エラスチンに対する黄色ブドウ球菌の結合を阻害した。しかしながら、分子の最初の59個のアミノ酸を欠いている組換えEbpSの分解生成物や、CNBr開裂させた組換えEbpSのC末端は、エラスチンと相互作用しなかった。これらの結果から、エラスチンはエラスチンに対する黄色ブドウ球菌の結合を仲介する細胞表面分子であることが強く示唆される。組換えEbpSの幾つかの組立て体がエラスチンと相互作用しないという知見により、EbpSのエラスチン結合部位がその分子の最初の59個のアミノ酸中に含まれることが示唆される。
【0121】
幾つかの独立した規準は、EbpSが細胞内エラスチンの結合を仲介する表面タンパク質であることを示している。第一に、rEbpSは固定化エラスチンに特異的に結合し且つ用量に依存してエラスチンに対する黄色ブドウ球菌の結合を阻止する。これらの結果は、EbpSが可溶性の形態で機能的に作用するエラスチン結合タンパク質であることを立証している。第二に、rEbpSに対して生じた抗体は、黄色ブドウ球菌細胞の表面で発現された25kDaのタンパク質を認識する。大きさの類似及び抗体反応性の他に、この25kDaのタンパク質が細胞表面EbpSであるという別の証拠が、固定化抗rEbpS IgGに対する上記の25kDaのタンパク質の結合が過剰量の未標識rEbpSの存在下で阻害されることを証明する実験によって提供されている。最後に、前記の抗rEbpS抗体の免疫前対照からではなく、該抗rEbpS抗体から調製されたFab断片は、エラスチンに対する黄色ブドウ球菌の結合を阻止する。この結果は、表面EbpSのトポロジーは、エラスチン結合部位がリガンド(すなわち、エラスチン及び抗rEbpS Fab断片)と相互作用し易く且つ細胞壁又は細胞膜のドメインに入り込まない(not embedded)ようなものであることを示唆している。前記の複合データは、EbpSがエラスチンに対する黄色ブドウ球菌の結合を招く細胞表面タンパク質であることを例証している。
【0122】
本知見及び先の知見は、表面で発現する前にC末端でプロセッシングを必要とするEbpSの機能的に活性な40kDa細胞内先駆体の存在を示唆している。この見解は、下記の所見:すなわち i)細胞表面標識実験の間に決して検出されない40kDa細胞内エラスチン結合タンパク質が存在しているという所見、ii) 25 kDaのEbpSと、40 kDaのエラスチン結合タンパク質とが、同じN末端配列を有するという所見、及び iii) EbpSに関して単一の遺伝子が存在するという所見に基づく。ebps読み取り枠の大きさは40 kDaのタンパク質をコードするのには十分でないことから、最初、本発明者らはこの仮説を無視した。しかしながら、rEbpSを用いた本発明者らの研究により、組換えタンパク質の実際の大きさは26 kDaであるが、それはSDS-30 PAGEにおいては45 kDaタンパク質として異常に移動することが例証された。この知見は、23 kDaの予測した大きさをもつ完全な長さの未変性EbpSがSDS-PAGEにおいて40 kDaの細胞内先駆体として移動し得ること、及びEbpSの25 kDa表面型は実際にはC末端でプロセッシングを受けた分子のさらに小さい型であることを示唆している。EbpSはN末端シグナルペプチド並びに他の公知の選別及びアンカー(anchoring)シグナルペプチドを欠いているが、この提案された細胞内プロセッシングは、どのようにEbpSが細胞表面を指向するかに関する幾つかの疑問を説明し得る。実際に、C末端シグナルペプチドは数種の細菌タンパク質において確認されており(Fath, M.J. and Koller, R., Microbiol. Rev., 57:995-1017, 1993)、また細胞表面に対するタンパク質を係留する(anchoring)別の手段がグラム陽性菌において報告されている(Yother, J. and White, J.M., J. Bacteriol., 176:2976-2985, 1994)。
【0123】
オーバーラップEbpS断片及び組換え組立て体を使用して、EbpSのエラスチン結合部位が分子のアミノ末端ドメインに対して位置決めされた(国際出願 第PCT/US97/03106号明細書)。次いで、アミノ酸14-34個に及ぶオーバーラップ合成タンパク質を使用して結合ドメインをさらによく明らかにした。これらのタンパク質の中で、残基14-23個及び18-34個に相当するペプチドがエラスチンの結合を95%以上まで特異的に阻止した。EbpSの全ての活性合成ペプチド並びにタンパク質分解及び組換え断片に共通するのは、6量体配列 18Thr-Asn-Ser-His-Gln-Asp23である。この配列がエラスチンの結合にとって重要であるという別の証拠は、Asp23を残基18-34個に相当する合成ペプチドにおいてAsnで置換した際の活性の失活であった。しかしながら、合成6量体TNSHQDそれ自体は、エラスチンに対するブドウ球菌の結合を阻止しなかった。これらの知見は、前記のTNSHQD配列の存在がEbpS活性に必須であるが、N末端又はC末端方向のフランキングアミノ酸と、Asp23のカルボキシル側鎖とがエラスチンを認識するために必要であることを示している。
【0124】
VI.MHC II構造類似タンパク質(MAPと略記する)
黄色ブドウ球菌株はフィブリノーゲン、フィブロネクチン、コラーゲン及びエラスチンの他に、他の接着性の真核生物タンパク質と会合し、該タンパク質の多数がビトロネクチンのよな接着性マトリックスタンパク質の群に属する(Chatwal et al., Infect. Immun., 55:1878-1883, 1987)。米国特許第5,648,240号明細書には、約70kDaの分子量をもつ黄色ブドウ球菌の広い範囲の付着因子をコードする遺伝子を含有するDNAセグメントが記載されている。上記の付着因子はフィブロネクチン又はビトロネクチンを結合することができ、しかもアミノ酸約30個からなるMHC II模擬単位(mimicking unit)を含んでいる。このタンパク質の結合特異性をさらに分析することにより、該タンパク質は合成ペプチドを結合するという点でMHC II抗原に機能的に似ていることが明らかにされる。従って、該タンパク質は、ECMタンパク質に対する細菌接着を仲介する他に、宿主の免疫系を抑制することによってブドウ球菌感染症において役割を果たし得る。上記の特許には、さらに明記されたDNA配列を含む組換えベクター、該ベクターを用いて形質転換された組換え宿主細胞、及び明記された配列のDNAとハイブリダイズするDNAが特許請求されている。また、前記の特許明細書には、明記されたDNA配列によってコードされたタンパク質又はポリペプチド、及び該コードされたタンパク質又はポリペプチドを含有する免疫原性組成物を投与することからなる動物における免疫応答の誘導方法が記載されている。さらにまた、上記特許明細書には、前記の明記されたDNA配列を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを用いて形質転換させた宿主細胞をMHC II抗原タンパク質類似体を産生させる条件下で培養する工程からなるMHC II抗原タンパク質類似体の調製方法もまた特許請求されている。
【0125】
VII.表皮ブドウ球菌由来のSDRタンパク質
コアグラーゼ陰性菌である表皮ブドウ球菌は、ヒトの皮膚のありふれた棲息物であり、異物感染症の常習的原因である。発病は、前記の細菌が最初に体内内在医療器具、例えば心臓弁、整形外科器具並びに静脈内及び腹膜透析用カテーテルの表面に付着し、その後にバイオフィルムを形成する能力によって促進される。器具関連の感染症は、治療の成功を危うくし得、しかも患者の死亡率を著しく増加し得る。従って、コアグラーゼ陽性菌及びコアグラーゼ陰性菌の両方を含め広い範囲の細菌由来の感染症を同時に予防又は治療できる多成分ワクチンの開発のように、表皮ブドウ球菌感染症の発生を抑制又は予防できるワクチンを開発できることが、極めて重要である。
【0126】
表皮ブドウ球菌によって発現される3種類のSdr〔セリン−アスパラギン酸(SDと略記する)反復領域〕タンパク質は、SdrF、SdrG及びSdrHと命名されており、これらのタンパク質のアミノ酸配列は図3〜5それぞれに示される。さらにまた、これらのタンパク質のさらに詳しい説明は、米国特許分割出願第60/098,443号及び60/117,119号に基づくFosterらの出願継続中の米国特許出願明細書に記載されている。これらの特許出願明細書の記載は本明細書において参照される。
【0127】
本発明に従って、前記の諸態様のいずれかの態様の成分をSdrF、SdrG又はSdrHタンパク質と組み合わせて含有する組成物であって、ワクチンとして有用な組成物が提供される。また、これらの抗体は慣用の手段を使用して生じさせることができ、SdrF、SdrG又はSdrHタンパク質に対する抗体は、本明細書に記載の他の付着因子に対する抗体を用いる前記の組み合わせのいずれかの組み合わせに使用することができる。従って、SDRタンパク質、例えばSdrF、SdrG又は SdrHを含有する組成物及びワクチンは、広い範囲の細菌感染症、例えばコアグラーゼ陽性菌及びコアグラーゼ陰性菌由来の感染症の治療に使用することができる。
【0128】
VIII.細菌成分
本発明の態様においては、前記の諸態様のいずれかの態様の成分を、細菌成分、好ましくは5型又は8型の莢膜多糖と組合わせて含有する組成物であって、黄色ブドウ球菌のオプソニン作用及び食作用の割合を増大させる組成物が提供される。
【0129】
ブドウ球菌群細菌は、5型及び8型の莢膜多糖のような抗原性多糖、及び タンパク質並びに細胞壁構造において重要な他の物質を含有する。ペプチドグリカン、すなわち連結されたサブユニットを含有する多糖ポリマーは、細胞壁の硬質の外骨格を提供する。ペプチドグリカンは、強酸によって又はリソソームに暴露されることによって分解する。ペプチドグリカンは感染症の発病において重要である。ペプチドグリカンはインターロイキン-1(内因性発熱物質)の産生と、単核細胞によるオプソニン抗体とを誘発する。ペプチドグリカンは、多形核白血球の化学誘引物質であり得、外毒素様活性をもち、局在シュワルツマン現象を生じ且つ補体を活性化する。
【0130】
グリセロール又はリビトールリン酸のポリマーであるテイコ酸、例えばリポテイコ酸は、ペプチドグリカンに結合し、しかも抗原性であり得る。ゲル拡散法によって検出できる抗テイコ酸抗体は、黄色ブドウ球菌に起因する活性な心内膜炎をもつ患者において認め得る。
プロテインAは、多数の黄色ブドウ球菌株の細胞壁成分であり、IgG3以外のIgG分子のFc部分に結合する。プロテインAに結合されたIgGのFab部分は、特異抗原と自由に結合することができる。プロテインAは、免疫学及び診断実験技術において重要な反応剤になっており;例えば、特異細菌抗原を指向する結合されたIgG分子をもつプロテインAはその抗原をもつ細菌を凝集するであろう(“共同凝集”)。
【0131】
幾つかの黄色ブドウ球菌株は莢膜を有し、特異抗原が存在しない限りは多形核白血球による食作用を阻止する。黄色ブドウ球菌の大部分の菌株は、その細胞壁表面にコアグラーゼ、すなわちクランピング因子をもつ;コアグラーゼはフィブリノーゲンに非酵素的に結合して、細菌の凝集を生じる。
【0132】
ブドウ球菌群は、組織において繁殖し、広く拡散する能力によって及び多数の細胞外物質を産生することによって病気を生じさせることができる。これらの細胞外物質の幾つかは酵素であり;その他の物質は酵素として機能し得るが毒素であると考えられる。前記毒素の多数はプラスミドの遺伝子制御の下にあり;あるものは染色体制御及び染色体外制御の下にあり得;そしてその他のものについては遺伝子制御のメカニズムは十分に明らかにされていない。
【0133】
A.カタラーゼ: ブドウ球菌群細菌は、過酸化水素を水と酸素に転化させるカタラーゼを産生する。カタラーゼ試験により、陽性であるブドウ球菌が、陰性である連鎖球菌と区別される。
【0134】
B.コアグラーゼ: 黄色ブドウ球菌は、多数の血清中に含まれている因子の存在下でシュウ酸化又はクエン酸化された血漿を凝固させる酵素様タンパク質であるコアグラーゼを産生する。上記の血清因子は、プロトロンビンのトロンビンへの活性化に似た方法で、コアグラーゼと反応してエラステラーゼ活性と凝集活性とを生じる。コアグラーゼの作用は、正常血漿の凝集カスケードを回る。コアグラーゼは、ブドウ球菌群細菌の表面にフィブリンを沈着し得、恐らくは食細胞により細菌の消化又はかかる細胞内での細菌の破壊を変えるものと思われる。コアグラーゼの産生は、侵入性発病可能性と同義であるとみなされる。 しかしながら、表皮ブドウ球菌のようなコアグラーゼ陰性細菌もまた重篤な感染症の危険をもつ。
【0135】
C.その他の酵素: ブドウ球菌群細菌によって生成されるその他の酵素としては、ヒアルロニダーゼすなわち拡散因子;繊維素溶解を招くがストレプトキナーゼよりも極めてゆっくり作用するスタフィロキナーゼ;プロテイナーゼ類;リパーゼ類;及びβ-ラクタマーゼが挙げられる。
【0136】
D.外毒素: 外毒素としては、注入により動物の致死を招き、皮膚において壊死を生じ、しかも電気泳動によって分離することができる可溶性溶血素を含有する数種類の毒素が挙げられる。α毒素(溶血素)は、赤血球を溶解でき且つ血小板に損傷を与えることができる異種タンパク質であり、しかも外毒素の致死因子及び皮膚壊死因子と同じである思われる。また、α毒素は血管平滑筋に対する強い作用ももつ。β毒素は、スフィンゴミエリンを分解し且つヒトの赤血球細胞を含め多数の種類の細胞にとって有毒である。これらの毒素及びその他の2種の毒素すなわちγ毒素及びδ毒素は、抗原上異なり且つ連鎖球菌溶解素に対して関係をもたない。ホルマリン処理した外毒素は、無毒性で抗原性のトキソイドを生じるが、これは臨床上有用ではない。
【0137】
E.ロイコシジン: この黄色ブドウ球菌の毒素は、多数の動物の暴露された白血球細胞を殺すことができる。病原性ブドウ球菌におけるこの毒素の役割は、白血球細胞を殺し得ず、非病原性種と同じくらい有効に食細胞によって食され得ることである。しかしながら、これら病原性細菌は極めて活性な細胞内増殖性であり得るが、これに対して非病原性細菌は細胞内で死ぬ傾向をもつ。ロイコシジンに対する抗体は、例えば再発ブドウ球菌感染症に対する耐性において役割を果たし得る。
【0138】
F.表皮剥離性毒素: この黄色ブドウ球菌の毒素としては、ブドウ球菌によるうろこで覆われた(staphylococcal scaled)皮膚症候群の全身にわたる剥離を生ずる少なくとも2種類のタンパク質が挙げられる。特異抗体は、毒素の表皮剥離作用から保護する。
G.毒性ショック症候群毒素: 毒性ショック症候群をもつ患者から単離された黄色ブドウ球菌株の大部分は毒性ショック症候群毒素-1(TSST-1と略記する)と呼ばれる毒素を産生する。該毒素はエンテロトキシンF及び発熱性外毒素Cと同じである。TSST-1は毒性ショック症候群の多様な発現を促進する始原型の超抗原である。人間において、この毒素は、発熱、ショック及び多系統併発、例えば脱皮性の皮膚発疹に関連する。ウサギにおいて、TSST-1は、発熱、細菌性リポ多糖の効果に対して高められた感受性及び毒性ショック症候群に類似した他の生物効果を生じるが、皮膚の発疹及び剥離は生じない。
【0139】
H.エンテロトキシン類: 黄色ブドウ球菌株うちの約50%の菌株によって産生される少なくとも6種類(A〜F)の可溶性毒素が存在する。TSST-1のように、エンテロトキシン類は、MHCクラスII分子に結合してT細胞の刺激を生ずる超抗原である。エンテロトキシン類は耐熱性であり(30分間の煮沸に耐える)、腸内酵素の作用に対して耐性である。食中毒の重要な原因であるエンテロトキシン類は、黄色ブドウ球菌が炭水化物及びタンパク質食品中で生育する際に産生される。エンテロトキシン産生遺伝子は染色体上にあり得るが、プラスミドは活性な毒素産生を調節するタンパク質を有し得る。ヒト又はサルによる25μgのエンテロトキシンBの消化は、嘔吐と下痢を招く。エンテロトキシンの催吐効果は、この毒素が腸内の中性受容体に作用した後の中枢神経刺激(嘔吐中心)の結果であるように思われる。エンテロトキシン類は沈酵素試験(ゲル拡散)により検定できる。
【0140】
また、ブドウ球菌群細菌によって産生されるその他の抗原タンパク質が多数存在する。これらの抗原タンパク質としては、前記のSMCRAMM、並びに骨シアロプロテイン結合タンパク質、クラステリン(clusterin)結合タンパク質、ヘパリン硫酸結合タンパク質、トロンボスポンジン結合タンパク質、トランスフェリン結合タンパク質及びビトロネクチン結合タンパク質が挙げられる。黄色ブドウ球菌はさらにホスファチジルホスホリパーゼのような病原性因子(virulence factor)や、Rapタンパク質のような毒素発現調節因子を発現する。
【0141】
IX.前記のタンパク質及びペプチドと実質的に相同性又は均等の機能をもつタンパク質及びペプチド
本明細書に記載の組成物は、所望ならば完全な配列のタンパク質、ペプチド、タンパク質断片又はペプチド断片、単離されたエピトープ、融合タンパク質、又は野生型の形であろうとなかろう、標的ECMに結合するいずれか一つ、位置特異的突然変異体、あるいはこれらに実質的に相同性である配列を含有することができる。
【0142】
2つのDNA配列は、そのヌクレオチドの少なくとも約70%(好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90%又は95%)がそのDNA配列の所定の長さにわたって同じである場合に“実質的に相同性”であるという。実質的に相同性である配列は、配列データバンクにおいて利用し得る標準ソフトを使用して又は例えばその個々の系について定義される緊縮条件下でのサザンハイブリダイゼーションにおいて、複数の配列を比較することによって確認することができる。適当なハイブリダイゼーション条件を定めることは当業者の範囲内にある。例えば、Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratoy Manual, 1982;DNA Cloning, Vol. I & II, supra Nucleic Acid Hybridization,〔B.D. Hames & S.J. Higgins eds. (1985)〕参照。
【0143】
“実質的に類似の”という用語は、アミノ酸配列同士の複合において使用する場合には、公表されている配列と同じではないが、同じ機能性及び活性をもつタンパク質を生成するアミノ酸配列を意味する。それは、アミノ酸1個が別の類似のアミノ酸で置き換えられるという理由から又はその変化(それが置換、欠失又は挿入であろうとなかろうと)がタンパク質の活性部位に実質的に影響を及ぼさないという理由からである。2つのアミノ酸配列は、そのアミノ酸の少なくとも約70%(好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90%又は95%)がその配列の所定の長さにわたって同じである場合に“実質的に相同性”であるという。
【0144】
また、本発明のMSCRAMMポリペプチドのそれぞれがさらに大きいタンパク質の一部分であってもよいということが理解されるべきである。例えば、本発明のClfAポリペプチドはそのN末端又はC末端でClfBポリペプチドに、又は非フィブリノーゲン結合ポリペプチド又はその組み合わせに融合していてもよい。この目的に有用であり得るポリペプチドとしては、前記のMSCRAMMタンパク質のいずれかを誘導したポリペプチド及び前記のいずれかの抗原型部分改変体が挙げられる。この目的に有用であり得る非MSCRAMMポリペプチドとしては、前記の細菌成分のいずれが挙げられる。
【0145】
本発明のペプチド及びそれをコードするDNA断片であって且つさらに所望の特性をもつタンパク質及びペプチドをコードする機能性分子を得るDNA断片の構造において、修飾及び変化をなし得る。均等物又は場合によっては改良された第二世代分子を作製するための、タンパク質のアミノ酸の交換に基づく検討を以下に記載する。アミノ酸の交換は、表Iに従ってDNA配列のコドンを代えることによって達成し得る。表Iに明記したコドンはRNA配列に関するものであることが、当業者には理解されるべきである。DNAについて対応するコドンはUの代えてTを有する。さらに、標準の命名法(J. Biol. Chem., 243:3552-3559, 1969)に一致させて、アミノ酸残基の略号を表Iに示す。
【0146】
例えば、ある種のアミノ酸は、例えば抗体の抗原結合部位又は基質分子上の結合部位のような構造との相互作用結合能を認め得るほど失うことなく、タンパク質の構造において別のアミノ酸に代え得る。それがそのタンパク質の生物学的機能活性を定義するタンパク質の相互作用性及び性質であることから、ある種のアミノ酸配列の置換は、タンパク質配列及び勿論そのDNAコード配列においてなし得、それにもかかわらず同様の特性をもつタンパク質を得ることができる。従って、開示した組成物のペプチド配列、又は該ペプチドをコードする対応するDNA配列において、該ペプチドの生物学的有用性又は活性を認められるほど失うことなく、種々の交換をなし得ることが、本発明者らによって意図される。
表I

【0147】
かかる交換を行う際に、アミノ酸のハイドロパシー・インデックスを考慮に入れることができる。タンパク質に対して相互作用性の生物学的機能を付与する際のアミノ酸ハイドロパシー・インデックスは、一般に当該技術において理解されている〔Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol., 157(1):105-132, 1982、本明細書において参考文献として参照される〕。アミノ酸の相対ハイドロパシー指標は得られるタンパク質の二次構造に寄与する、すなわち、他の分子、例えば酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などと該タンパク質の相互作用を規定することが認められる。それぞれのアミノ酸は、その疎水性及び帯電特性に基づいてハイドロパシー・インデックスが割り当てられている(Kyte and Doolittle, 上記文献, 1982)、これらは次の通りである:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リシン(−3.9)及びアルギニン(−4.5)。
【0148】
当該技術において、ある種のアミノ酸を同様のハイドロパシー・インデックス又はスコアーをもつ別のアミノ酸で置換することができ、それにもかかわらず同様の生物学的活性をもつタンパク質が得られること、すなわち生物機能的に均等のタンパク質が得られることは知られている。かかる交換を行う際には、そのハイドロパシー・インデックスが±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、ハイドロパシー・インデックスが±1以内であるアミノ酸が特に好ましく、ハイドロパシー・インデックスが±0.5以内であるアミノ酸がさらに特に好ましい。さらに、当該技術においては、同様のアミノ酸の置換は疎水性を基準として効果的になし得ることが理解される。本明細書において参照される米国特許第4,554,101号明細書には、隣り合ったアミノ酸同士の疎水性によって左右されるタンパク質の最も狭い平均疎水性はそのタンパク質の生物学的性質と相互に関連することが記載されている。
【0149】
米国特許第4,554,101号明細書に詳細に記載されているように、下記の疎水性がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+1.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−0.3);バリン(−0.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。当該技術において、アミノ酸を同様の疎水性値をもつ別のアミノ酸で置換することができ、それにもかかわらず生物学的に均等なタンパク質、特に免疫学的に均等なタンパク質が得られることが知られている。かかる変換において、その疎水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、疎水性値が±1以内であるアミノ酸が特に好ましく、疎水性値が±0.5以内であるアミノ酸がさらに特に好ましい。
【0150】
従って、前記のように、アミノ酸の置換は一般的にアミノ酸側鎖の置換基の相対類似性、例えばその疎水性、親水性、帯電、大きさなどに基づく。前記の種々の特性を考慮に入れた代表的な置換が当業者には周知であり、アルギニンとリシン;グルタミン酸とアスパラギン酸;セリンとスレオニン;グルタミンとアスパラギン;及びバリン、ロイシンとイソロイシンが挙げられる。
【0151】
本発明のポリペプチドは化学的に合成することができる。合成ポリペプチドは、固相法、液相法又はペプチド縮合法、あるいはこれらの組み合わせなどの周知の方法を使用して調製され、未変性又は変性アミノ酸を含有することができる。ペプチド合成に使用されるアミノ酸は、Merrifieldの初期固相法〔J. Am. Chem. Soc., 85:2149-2154(1963)〕の標準的な脱保護、中和、連結及び洗浄を用いた標準的なBoc(すなわち、Na-アミノ保護-Na-t-ブチルオキシカルボニル)アミノ酸樹脂であり得るか、又はCarpinoとHanによって最初に報告された塩基に不安定なNa-アミノ保護-9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmocと略記する)アミノ酸〔J. Org. Chem., 37:3403-3409(1972)〕であり得る。Fmoc Na-アミノ保護アミノ酸及びBoc Na-アミノ保護アミノ酸は、当業者に周知のFluka社、Bachem社、Advanced Chemtech社、Sigma社、Cambridge Research Biochemical社、Bachem社又はPeninsula Labsあるいはその他の化学会社から入手することができる。また、本発明の方法は、当業者に周知の別のNa-保護基を用いて使用することができる。固相ペプチド合成法は当業者に周知の方法であり、例えばStewart and Young, 1984, Solid Phase Synthesis, Second Edition, Pierce Chemical Co., Rockford, IL; Fields et al., J. Pept. Proeten es. 35:161-214 (1990) に示されている方法によって達成し得るし、又はABS社から販売されているような自動合成装置を使用して達成し得る。従って、本発明のポリペプチドはD-アミノ酸、D-アミノ酸とL-アミノ酸の組み合わせ、及び種々の特殊な性質を伝達するための種々の“デザイナー(designer)”アミノ酸(例えば、β-アミノ酸、Ca-メチルアミノ酸、及びNa-メチルアミノ酸など)を含有し得る。合成アミノ酸としては、リシンについてはオルニチン、フェニルアラニンについてはフルオロフェニルアラニン、及びロイシン又はイソロイシンについてはノルロイシンが挙げられる。さらにまた、特定の連結工程で特殊なアミノ酸を選定することによって、へリックス、βターン、βシート、β-ターン及び環状ペプチドを生成させることができる。
【0152】
別の態様においては、有用な化学的及び構造的特性を付与するペプチドのサブユニットが選択される。例えば、D-アミノ酸を含有するペプチドは、生体内でL-アミノ酸特異的プロテアーゼに耐性である。さらにまた、本発明は、よりよく規定された構造的特性をもつペプチドを調製すること、並びに模擬ペプチド(peptidomimetics)及び模擬ペプチド結合、例えばエステル結合を使用して新規な性質をもつペプチドを調製することを意図する。別の態様においては、ペプチドは、還元ペプチド結合、すなわちR1-CH2-NH-R2(式中、R1及びR2はアミノ酸残基又は配列である)を組み込んであるペプチドを製造し得る。かかる分子は、独特な機能及び活性、例えば代謝分解又プロテアーゼ活性に耐性であることによる長くなった生体内半減期をもつリガンドを提供する。さらにまた、ある系において不自然な(constrained)ペプチドは高められた機能活性を示すことが周知である〔Hruby, Life Science, 31:189-199(1982); Hruby et. al.,Biochem. J., 268:249-262 (1990)〕。
【0153】
下記の非古典的アミノ酸を前記ペプチドに組み込んで特定の配座モチーフを誘導し得る:1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキシレート(Kazmierski et al., J. Am. Chem. Soc., 113:2275-2283, 1991);(2S,3S)-メチル-フェニルアラニン、(2S,3R)-メチル-フェニルアラニン及び (2R,3R)-メチル-フェニルアラニン(Kazmierski and Hruby, Tetrahedron Lett, 1991);2-アミノテトラヒドロ-ナフタレン-2-カルボン酸(Landis, Ph.D. Thesis, University of Arizona, 1989);ヒドロキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキシレート(Miyake et al., J. Takeda Res. Labs., 43:53-76, 1989);β-カルボリン(D及びL)(Kazmierski, Ph.D. Thesis, University of Arizona, 1988);HIC(すなわち、ヒスチジン イソキノリンカルボン酸)(Zechel et al., Int. J. Pep. Protein Res., 43, 1991);及び HIC(すなわち、ヒスチジン環状尿素)(Dharanipragada製)。
【0154】
下記のアミノ酸構造類似体及び模擬ペプチドをペプチドに組み込んで特異的二次構造を誘導又は促進し得る:LL-Acp(すなわち、LL-3-アミノ-2-プロペニドン-6-カルボン酸)、βターン誘導ジペプチド構造類似体〔Kemp et al., J. Org. Chem., 50:5834-5838 (1985)〕;βシート誘導構造類似体〔Kemp et al., Tetrahedron Lett, 29:5081-5082 (1988)〕;β-ターン誘導構造類似体〔Kemp et al., Tetrahedron Lett, 29:5057-5060 (1988)〕;α-へリックス誘導構造類似体〔Kemp et al., Tetrahedron Lett, 29:4935-4938 (1988)〕;β-ターン誘導構造類似体〔Kemp et al., J. Org. Chem., 54:109-115 (1989)〕;並びに下記の文献:すなわち、Nagai and Sato, Tetrahedron Lett, 26:647-650(1985);DiMaito et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans., p.1687 (1989)によって提供される構造類似体;またGly-Alaターン構造類似体(Kahn et al., Tetrahedron Lett, 30:2317,1989);アミド結合アイソスター(Jones et al., Tetrahedron Lett, 29:3853-3856, 1989);テトラゾール(Zabrocki et al., J. Am. Chem. Soc., 110:5875-5880, 1988);DTC(Samanen et al., Int. J. Protein Pep. Res., 35:501-509, 1990);並びにOlsonら(J. Am. Chem. Soc., 112:323-333, 1990)及びGarveyら(J. Org. Chem., 56:436, 1990)に記載の構造類似体。
【0155】
Kahnに対して1995年8月8日に特許付与された米国特許第5,440,013号明細書には、βターン及びβバルジの配座限定ミミック、並びにこれらを含有するペプチドが記載されている。
【0156】
X.MSCRAMM及び抗体組成物の用途
本明細書に記載のタンパク質は、創傷の治療、タンパク質受容体の遮断又は免疫処置(ワクチン接種)に使用することができる。免疫処置においては、細菌細胞表面タンパク質を含有する細菌株による侵入から保護できる特異抗体を体が産生し、それによって該抗体が損傷した組織に細菌株の付着を阻止する。
【0157】
本発明のタンパク質組成物は、場合によっては製薬学的に許容し得る分散剤を添加した滅菌等張塩類水溶液に分散させることができる。また、種々のアジュバンドを使用して組織中における放出を持続させることができ、従って体の免疫防御系に長時間ペプチドを暴露させることができる。
【0158】
前記のタンパク質、核酸分子又は抗体は、病原体と哺乳動物宿主との間の感染症を招く初期物理的相互作用、例えば体内内在器具の表面の哺乳動物細胞外マトリックスタンパク質又は創傷中の細胞外マトリックスタンパク質に対する細菌、特にグラム陽性菌の付着を妨害し、タンパク質を仲介した哺乳動物中への侵入を阻止するために;組織損傷を仲介する哺乳動物細胞外マトリックスタンパク質と細菌タンパク質との間の細菌接着を阻止するために;及び内在器具の体内埋め込み又は外科手術法によるもの以外のものにより開始された感染症における発病の正常な進展を阻止するために有用である。本明細書に記載の抗体、タンパク質及び活性断片を用いて被覆すべき医療器具又は重合体状生体材料としては、糸、縫合物、代替心臓弁、心臓補助装置、ハード及びソフトコンタクトレンズ、眼内レンズ用挿入物(前室、後室又は水晶体)、その他の挿入物、例えば角膜インレー、角膜補綴材、血管内ステント、epikeratophalia device、緑内障シャント(shunt)、網膜用糸、強膜バックル(scleral buckles)、歯科用補綴材、甲状腺形成器具、喉頭形成器具、血管移植片;ソフト及びハード組織補綴材、例えばポンプ、刺激装置及び記録装置を含む電気装置、聴覚補綴材、ペースメーカー、人工喉頭、歯科インプラント、乳房充填物、ペニス充填物、頭蓋/顔面の腱、人工関節、腱、靭帯、半月(軟骨)及び円盤、人工骨;人工器官例えば人工膵臓、人工心臓、人工肢及び心臓弁; ステント、ワイヤー、ガイドワイヤー、静脈内及び中枢静脈カテーテル、レーザー及びバルーン血管形成装置、血管及び心臓用器具(チューブ、カテーテル及びバルーン)、心室補助装置、血液透析装置、血液酸素発生装置、尿道/尿管/尿路用器具(Foleyカテーテル、ステント、チューブ及びバルーン)、気道カテーテル(気管内及び気管瘻孔形成用チューブ及びカフス)、腸内供給用チューブ(例えば、経鼻胃チューブ、胃内及び空腸チューブ)、創傷ドレン用チューブ、体腔例えば胸膜腔、腹腔、頭蓋腔及び心膜腔の排出用チューブ、血液バッグ、試験管、血液採取管、バキュテーナー、注射器、針、ピペット、ピペットチップ並びに血液チューブが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0159】
本明細書で使用する“被覆された”又は“被覆する”という用語は、前記の器具、装置の表面、好ましくは黄色ブドウ球菌感染に暴露されるであろう外面に、前記のタンパク質、抗体又は活性断片を塗布することを意味する。前記の器具、装置の表面は、前記のタンパク質、抗体又は活性断片で完全に被覆される必要はない。
【0160】
XI.タンパク質、DNA及び抗体の調製
当業者は、慣用の分子生物学、微生物学及び組換えDNA法を使用して本明細書に記載のタンパク質、ペプチド、及び抗体組成物を調製することができる。かかる技法は文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual (1989); Current Protocols in Molecular Biology. Vol.I-III(Ausubel, R. @-Ied., 1994); Cell Biology: A Laboratory Handbook, Volumes I-III (J.E. Celis, ed., 1994); Protocols in Immunology, Volumes I-III (Coligan, J.E., ed., 1994); Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait ed., 1984); Nucleic Acid Hybridization (B.D. Hames & S.J. Higgins, eds., 1985); Transcription And Translation (B.D. Hames & S.J. Higgins, eds., 1984); Animal Cell Culture〔R.I. Freshney, ed.1, (1986)〕; Immobilized Cells And Enzyme 〔IRL Press, (1986)〕; B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984)参照。
【0161】
本明細書全体を通じて抗体については、完全なモノクロナール抗体及びポリクロナール抗体並びにこれらの一部分を単独で又は他の部分と複合したものが挙げられる。抗体部分としては、Fab断片及びF(ab)2断片並びに一本鎖抗体が挙げられる。抗体は、適当な実験動物において生体内で又は組換えDNA法を使用して生体外で調製し得る。抗体は、ポリゴーナル(polygonal)又はモノクロナール抗体であり得る。好ましい態様において抗体はポリクロナール抗体である。抗体を調製し、特定する手段は当該技術において周知である(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NY, 1988参照)。
【0162】
要するに、ポリクロナール抗体は、本発明のポリペプチドを含有する免疫原を用いて動物を免疫処置し、免疫処置した動物から抗血清を採取することによって調製される。抗血清の産生には広範な動物種を使用することができる。典型的には、抗-抗血清の産生に使用する動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター又はモルモットである。ウサギの血液量は比較的多いという理由から、ポリクロナール抗体の産生にはウサギを選択することが好ましい。MSCRAMMエピトープに特異的なポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の両方は、当業者に広く知られている慣用の免疫処置法を使用して調製し得る。個々の結合MSCRAMM(合成ペプチド、部位特異的突然変異の又は先端を切り取ったペプチド)の抗原エピトープを含有する組成物は、1種又はそれ以上の実験動物、例えばウサギ又はマウスを免疫処置するのに使用することができる。次いで、実験動物は、エピトープ含有MSCRAMMエピトープに対する特異抗原を産生し始める。
【0163】
ポリクロナール抗血清は、簡単に抗体産生時間を見込んだ後に、前記実験動物を飼育し、その全血から血清試料を調製することによって取得し得る。
【0164】
ポリクロナール抗体の産生に使用する免疫原組成物の量は、免疫原の性質及び免疫処置に使用する動物によって変化する。種々の経路が免疫原を投与するのに使用することができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内及び腹腔内投与)。ポリクロナール抗体の産生は、免疫処置後の種々の時点で免疫処置動物の血液を採取することによって監視し得る。二次免疫注射も行い得る。免疫を上昇させ、力価を上げる方法が適当な力価が達成されるまで反復される。所望の水準の免疫原性が得られた際に、免疫処置した動物から出血させ、その血清を単離し、保存する。
【0165】
本発明が提供する重要な特徴の一つは、ポリゴーナル血清中の抗体の特異性と比較的相同性であるポリゴーナル血清である。典型的には、ポリゴーナル血清は種々の“クローン類”、すなわち種々の系統のB細胞から誘導される。これに対して、モノクロナール抗体は、共通のB細胞の原型(anestor)を用いて抗体産生細胞から生じるものと定義され、従って“モノ”クローン率と定義される。
【0166】
ペプチドを、ポリクロナール血清を生じさせるための抗原として使用する場合には、完全な抗原を用いた場合よりも血清のクローン率において変化が相当に少ないことが予想される。あいにく、エピトープの不完全断片が提供された場合には、ペプチドは多(及び恐らくは未変性)配座であると非常によく考え得る。その結果として、短いペプチドは、比較的複数の特異性をもつポリクロナール抗血清及び、あいにく未変性分子と反応しないか又は僅かしか反応しない抗血清を生成し得る。
【0167】
本発明のポリクロナール抗血清は、完全な無傷のエピトープを含有すると予測されるペプチドに対して産生される。従って、これらのエピトープは、免疫学的な意味でより安定であり、従って免疫系のより調和した(consistent)免疫学的標的を発現すると思われる。このモデルの下では、このペプチドに応答する可能なB細胞クローンの個数は相当に少なく、従って得られる血清の相同性はより高いであろう。種々の態様において、本発明は、クローン率(clonality)、すなわち同一の分子決定基と反応するクローンのパーセントが、少なくとも80%であるポリクロナール抗血清を提供する。さらに高いクローン率 − 90%、95%又はそれ以上 − も考慮される。
【0168】
モノクロナール抗体を得るためには、MSCRAMM由来のエピトープ含有組成物を用いて実験動物、多くの場合好ましくはマウスを最初に免疫処置する。次いで、抗体を産生させるのに十分な時間おいた後に、実験動物から脾臓細胞又はリンパ細胞の集団を得る。次いで、脾臓細胞又はリンパ細胞を、細胞系、例えばヒト又はマウスの骨髄腫株と融合させて抗体分泌ハイブリドーマを産生させる。これらのハイブリドーマは個々のクローンを得るために単離し得、次いで該クローンは所望のペプチドに対する抗体の産生させるために選別することができる。免疫処置の後に、脾臓細胞を取り出し、標準の融合方法を使用して形質細胞腫細胞と融合させてMSCRAMM由来のエピトープに対するモノクロナール抗体を分泌するハイブリドーマを生成させる。選択された抗原に対するモノクロナール抗体を産生するハイブリドーマは、ELISA法及びウェスタンブロット法のような標準的方法を使用して同定する。次いで、ハイブリドーマクローンを、液体培地中で培養し、培養物上清を一つにしてMSCRAMM由来のエピトープ特異的モノクロナール抗体を提供する。
【0169】
また、永続する抗体産生細胞系は、融合以外の方法、例えば発癌性DNAを用いたBリンパ細胞の直接形質転換 又はエプスタイン・バールウイルスを用いたトランスフェクションによって作成することができる。例えば、M. Schreier et al., Hybridoma Techniques (1980); Hammerling et al., Monoconal Antibodies And T-cell Hybridoma (1981);Kennett et al., Monoconal Antibodies (1980)参照;また、米国特許第4,341,761号;同第4,399,121号;同第4,427,783号;同第4,444,887号;同第4,451,570号;同第4,466,917号;同第4,472,500号;同第4,491,632号;同第4,493,890号各明細書参照。
【0170】
本発明のモノクロナール抗体は、ELISA法及びウェスタンブロット法のような標準的な免疫化学的方法、並びにMSCRAMMエピトープに特異的な抗体を利用できるその他の方法に有用な用途が見出されることが提案される。また、個々のMSCRAMM由来のペプチドに特異的なモノクロナール抗体が別の用途に利用し得ることが提案される。例えば、免疫吸着法における使用は、未変性又は組換えペプチド種あるいはその合成又は天然変異体を精製するのに有用であり得る。
【0171】
一般に、これらのポリペプチドに対するポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の両方が種々の態様において使用し得る。例えば、これらの抗体は、抗体クローニング法においてcDNA又は本明細書に記載のペプチドをコードする遺伝子又は関連タンパク質を得るために使用し得る。また前記抗体は、阻害研究において、細胞又は動物におけるMSCRAMM由来のペプチドの影響を分析するために使用し得る。また、抗MSCRAMMエピトープは、免疫局在(immunolocalization)研究において、種々の細胞内現象(event)中のMSCRAMMの分布を分析するために、例えば種々の生理学的条件下でのMSCRAMMペプチドの組織特異的分布を分析するのに有用である。かかる抗体の特に有用な用途は、抗体親和性カラムを使用して未変性又は組換えMSCRAMMを精製することにある。かかる免疫学的方法全ての操作は、本明細書の記載に照らして当業者は熟知しているであろう。
【0172】
一本鎖抗体を産生させる方法は当業者には公知であり、米国特許第4,946,778明細書に記載されており、本明細書に記載のタンパク質に対する一本鎖抗体を産生するのに使用できる。MSCRAMM又は在来の(native)ライブラリーに対する抗体を有することについて選別されるヒト由来のリンパ球PCR増幅v遺伝子から、MSCARMM又はその抗原部分に対する結合活性をもつ抗体遺伝子を選択するのに、ファージ・ディスプレイ法が使用し得る。二重特異性抗体は、2つの抗原結合ドメインを有し、それぞれのドメインは異なるエピトープに対して向けられる。
【0173】
前記抗体は、黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌の同定又は定量用の検出可能な標識を用いて直接標識してもよい。免疫検定に使用される標識は、一般的に当業者に知られており、酵素、放射性同位元素、並びに蛍光性、発光性又は発色性の物質、例えばコロイド状の金及びラテックスビーズのような着色粒子が挙げられる。適当な免疫検定法としては酵素結合抗体免疫吸着検定法(ELISA)が挙げられる。
【0174】
別法として、抗体は、免疫グロブリン、例えばプロテインA又はGあるいは二次抗体に対する親和性をもつ標識される物質との反応により間接的に標識してもよい。抗体は、二次物質と複合させてもよいし、該抗体と複合させた二次物質に対して親和性をもつ標識した第三の物質を用いて検出してもよい。例えば、抗体はビオチンに複合させ、得られた抗体−ビオチン複合体を、標識したアビジン又はストレプタビジンを使用して検出してもよい。同様に、抗体は、ハプテンに複合させてもよく、得られた抗体−ハプテン複合体を、標識した抗ハプテン抗体を使用して検出してもよい。抗体及び検定複合体を標識するこれらの方法及びその他の方法は、当業者には周知である。
【0175】
また、開示されたタンパク質に対する抗体を、製造設備又は実験室において、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって追加量のタンパク質を単離するのに使用してもよい。
【0176】
一般に、二重特異性抗体の調製も、Glennie et al., (J. Immunol., 139:2367-2376, 1987) によって例証されているように、当該技術において周知である。二重特異性抗体は、例えば、癌患者の治療に臨床使用されている(Bauer et al., Vox Sang, 61:156-157, 1991)。二重特異性抗体の一つの調製方法は、1種又はそれ以上の結合タンパク質由来のフィブロネクチン結合ドメインの一つ又はそれ以上の種々のエピトープに対して特異性をもつ抗体の別の調製を伴う。
【0177】
二重特異性抗体の調製については多くの方法が知られているが、上記のGlennieら(1987年、上記に同じ)の方法は、2種類の選択された抗体から複数の消化性F(ab´Y)断片を調製し、次いでそのそれぞれを還元して別々のFab´YSH断片を提供することを伴う。次いで、連結すべき2つ抗体のうちの一方の抗体の表面のSH基は、o-フェニレンジマレイミドのような架橋剤を用いてアルキル化され、一方の抗体表面に遊離のマレイミド基を提供する。次いで、この抗体は他方の抗体にチオエーテル結合によって複合化され、F(ab´Y)2ヘテロ複合体を与える。
【0178】
調製の容易さ、高い収率及び再現性により、Glennieら(1987年、上記に同じ)の方法は、二重特異性抗体の調製に好ましい場合が多いが、本発明者らが採用でき且つ意図するその他の多数の方法がある。例えば、SPDP又はプロテインAとの架橋を行うかあるいは特異的組み立て体を調製する別の方法が知られている(Titus et al., J. Immunol., 138:4018-4022, 1987; Titus et al., Eur. J. Immunol., 21:1351-1358, 1991)
二重特異性抗体の別の調製方法は、2種類のハイブリドーマの融合によってカドローマ(quadroma)を形成することによるものである〔Flavell et al., Br. J. Cancer, 64(2):274-280, 1991; Pimm et al.,J. Cancer Res. Clin. Oncol, 118:367-370, 1992; French et al., Cancer Res., 51:2358-2361, 1991;
Embleton et al., Br. J. Cancer, 63(5):670-674, 1991〕。本明細書で使用する“カドローマ(quadroma)”と言う用語は、2個のB細胞ハイブリドーマの生産的融合を説明するのに使用する。標準的方法を使用して、2つの抗体産生ハイブリドーマを融合して娘細胞を得、次いでクローン型免疫グロブリンの二組の発現を保持しているこれらの娘細胞を選別する。
【0179】
好ましいカドローマの産生方法は、親ハイブリドーマの少なくとも一方の酵素不全変異体の選別を伴う。次いで、この第一の変異体ハイブリドーマ細胞系は、例えば継続した生存を不可能にするヨードアセトアミドに致命的に暴露されている第二のハイブリドーマの細胞に融合される。細胞融合は、致命的に処理されたハイブリドーマから酵素不全(defiiciency)の遺伝子を獲得することによって第一のハイブリドーマの救命を可能にし、そして第一のハイブリドーマに融合することによって第二のハイブリドーマの救命を可能にする。必ずしも必要ではないが、好ましいのは同じイソタイプで、異なるサブクラスの免疫グロブリンの融合である。混合されたサブクラスの抗体は、好ましいカドローマの単離について別の検定法の使用を可能にする。
【0180】
さらに詳しくは、カドローマの発現(development)及び選別の一つの方法は、第一の選択されたmAbを分泌するハイブリドーマ系を得、これを必須代謝酵素、すなわちヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTと略記する)不全にすることを含む。ハイブリドーマの不全変異体を得るためには、細胞を、徐々に高めた濃度の8-アザグアニン(1×107M〜1×10-5M)の存在下で増殖させる。変異体は、希釈を制限することによってサブクローン化し、そのヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HATと略記する)感受性について試験する。その培地は、例えば10%FCS、2mM L-グルタミン及び1mMペニシリン−ストレプトマイシンを補足したDMEMからなり得る。
【0181】
第二の所望のMAbを産生する相補的ハイブリドーマ細胞系は、標準的細胞融合法(Galfre et al., Methods Enzymol., 73:1-46, 1981)によって、又はClarkらによって報告された方法(Int. J. Cancer, 2:15-17, 1988)を使用することによってカドローマを生成させるのに使用される。簡単にいえば、HAT感受性の第一の細胞4.5×107個を、その2.8倍のリン酸緩衝塩と氷上で30分間混合し、その後に融合させる。細胞融合は、ポリエチレングリコール(PEGと略記する)を使用して誘導し、得られた細胞を96ウェルの微小培養プレートに入れる。カドローマはHat含有培地を使用して選別する。二重特異性抗体含有培養液は、例えば固相イソタイプ特異的ELISA法及びイソタイプ特異的免疫蛍光染色法を使用して確認する。
【0182】
二重特異性抗体を同定する一つの同定の態様においては、マイクロタイタープレート(Falcon, Becton Dickinson Labware製)のウエルを、親ハイブリドーマ抗体の一つと特異的に相互作用し且つ両方の抗体との架橋反応性を欠いている試薬で被覆する。前記プレートを洗浄し、ブロックし、次いでそれぞれのウエルに試験すべき上清(SNと略記する)を加える。プレートを室温で2時間インキュベートし、上清を廃棄し、次いでプレートを洗浄し、希釈したアルカリホスファターゼ−抗抗原複合体を室温で2時間加えた。プレートを洗浄し、次いでそれぞれのウエルにホスファターゼ基質、例えばp-ニトロフェニルリン酸〔Sigma社(米国セントルイス所在)製〕を加える。プレートをインキュベートし、それぞれのウエルに3N NaOHを加えて反応を停止させ、ELISA読取装置を使用してOD410値を測定する。
【0183】
別の同定の態様においては、ポリ-L-リシンで前処理したマイクロタイタープレートを使用し、それぞれのウエルに標的細胞の一つを結合させ、次いで、該細胞を、例えば1%グルタルアルデヒドを使用して固定し、得られた二重特異性抗体をその非損傷(intact)細胞に対する結合能について試験する。さらに、FACS、免疫蛍光染色法、イディオタイプ特異抗原、抗原結合競合検定、及び抗体特定の技術において普通の他の方法を、本発明と組み合わせて好ましいカドローマの同定に使用し得る。
【0184】
カドローマを単離した後に、二重特異性抗体をその他の細胞生成物から分けて精製する。この精製は、免疫グロブリンの精製の当業者に知られている種々のタンパク質単離法によって達成し得る。抗体の調製手段及び特定手段は当該技術において周知である(例えば、Antibodies:A Laboratoy Manual, 1988参照)。
【0185】
例えば、カドローマから選別した超変異体は、プロテインA又はプロテインGセファロースカラムに通送され、IgG(イソタイプに応じて)を結合する。次いで、結合した抗体を、例えばpH 5.0クエン酸緩衝液で溶出する。BsAbsを含有する溶出画分は、等張緩衝液に対して透析される。別法として、溶出液は抗免疫グロブリン−セファロースカラムに通送される。次いで、得られたBsAbsを、3.5M塩化マグネシウム溶液を用いて溶出する。次いで、このようにして精製されたBsAbsは、例えば、前記のように、標的細胞のイソタイプ特異的ELISA検定法及びイソタイプ特異的免疫蛍光染色検定法により結合活性について試験される。
【0186】
また、精製されたBsAbs及びその親抗体は、SDS PAGE電気泳動法、次いで銀又はクーマシーブルーを用いて染色することによって特定し、単離される。これは親(parent)抗体の一つが、他の抗体よりも大きい分子量をもつ場合に可能であり、BsAbsのバンドはその二つの親抗体のバンドの間の中間に移動する。前記の試料の還元により、2つの見かけ分子量をもつH鎖の存在が確認される。
【0187】
さらにまた、組換え技術が、抗体の調製に利用することができ、所望の二重特異性をもつ抗体をコードする組換え抗体遺伝子の調製を可能にする(Van Duk et al., Int. J. Cancer, 43:344-349,1989)。従って、最も好ましい結合特性をもつモノクロナール抗体を選別した後に、これらの抗体のそれぞれの遺伝子を、例えばファージ発現ライブラリーの免疫学的スクリーニングによって単離することができる(Oi and Morrison, 1986;Winter and Milstein, 1991)。次いで、Fabコードドメインの再配置全体を通じて、適当なキメラ組み立て体を容易に得ることができる。
【0188】
ヒト適合化モノクロナール抗体は、動物起源の抗体であって、不変部及び/又は可変部の骨組み配列をヒトの配列で置き換えるために、遺伝子工学法を使用して、最初の抗原特異性を保持しながら変性されている動物起源の抗体である。
かかる抗体は、一般に、ヒト抗原に対する特異性をもつ齧歯動物から誘導される。かかる抗体は、一般に生体内治療用途に有用である。この方法は、外来抗体に対する宿主の応答を低下させ、ヒトエフェクター機能の選別を可能にする。
【0189】
ヒト適合化免疫グロブリンを生成させる方法は、当業者には周知である。例えば、米国特許第5,693,762号明細書には、1種又はそれ以上の相補性決定領域
(CDRと略記する)をもつヒト適合化免疫グロブリンを産生させる方法及びその組成物が記載されている。ヒト適合化免疫グロブリンは、非損傷(intact)抗体に結合させると、ヒトにおいて実質的に非免疫原性であり、エピトープを含有するタンパク質又は他の化合物のような抗原に対するドナー免疫グロブリンと実質的に同じ親和性を保持する。
【0190】
本発明において有用な抗体の産生を記載するその他の米国特許明細書(そのそれぞれは、本明細書において参照される)としては、組み合わせ法を使用したキメラ抗体の製造を記載している米国特許第5,565,332号明細書;組換え免疫グロブリンの調製を記載している米国特許第4,816,567号明細書;及び抗体−治療剤複合体を記載している米国特許第4,867,973号明細書が挙げられる。
【0191】
米国特許第5,565,332号明細書には、親抗体と同じ結合特異性をもつが、ヒト特性を高めた抗体又は抗体断片の製造方法が記載されている。ヒト適合化抗体は、恐らくは、ファージ・ディスプレー法を使用して鎖をシャッフルする(shuffling)によって取得し得、多くの場合においてかかる方法は本発明に有用であり、米国特許第5,565,332号明細書の記載全体が本明細書において参照される。
【0192】
本明細書に記載のペプチドを使用して、本発明はまた、MSCRAMM由来のペプチド組成物の免疫学的有効量を含有する医薬組成物を、動物に投与することからなる免疫応答を生じさせる方法を提供する。好ましい動物としては、哺乳動物、特にヒトが挙げられる。別の好ましい動物としては、マウス、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ及びネコが挙げられる。前記の組成物は、天然起源又は組換え起源から得られた部分的又は著しく精製されたMSCRAMM由来のペプチドエピトープを含有し得る。タンパク質又はペプチドは、自然から取得し得るし又は化学合成し得るし、あるいはかかるエピトープをコードするDNAセグメントを発現する組換え宿主細胞から生体外で産生させ得る。反応性エピトープを含有するさらに小さいペプチド、例えば長さでアミノ酸約30個〜アミノ酸約100個のペプチドが好ましい場合が多い。抗原性タンパク質又はペプチドはまた、所望ならば別の抗原、例えばブドウ球菌又は連鎖球菌ペプチド又は核酸組成物と組み合わせてもよい。前記の組成物はまた、天然起源又は組換え起源から得られる前記のようなブドウ球菌産生の細菌成分を含有していてもよい。タンパク質又はペプチドは、自然から取得し得るし又は化学合成し得るし、あるいはかかるエピトープをコードするDNAセグメントを発現する組換え宿主細胞から生体外で産生させ得る。
【0193】
本発明のワクチン製剤は、ワクチン接種に、治療に、又はブドウ球菌及び連鎖球菌の検出に有用な抗体の産生を目的とするか、あるいはECM成分例えばフィブロネクチン、コラーゲン、エラスチン、フィブリノーゲン又はビトロネクチンに対する細菌付着の防止を目的とするものであろうとなかろうと、これらのタンパク質から位置特異的突然変異された、先端を断ち切る(truncated)か又は合成的に誘導される抗原ペプチド断片を含有し得る。また、本明細書に記載のタンパク質及びペプチドの抗原機能上の均等物それ自体も本発明の範囲に入る。
【0194】
本発明者らが意図した動物における免疫応答を生じさせるための別の手段は、ペプチドエピトープをコードする核酸組成物の免疫学的有効量又はかかる核酸組成物を含有し且つ発現する弱毒化生菌の免疫学的有効量を、動物又はヒトに投与することを含む。
【0195】
ワクチン受容体に導入すべき発現可能なDNA又は転写されたRNAの量は、極めて幅広い用量範囲を有し、しかも使用する転写プロモーター及び翻訳プロモーターの長さに左右され得る。また、免疫応答の大きさは、タンパク質の発現の程度及び発現された遺伝子産物の免疫原性に左右され得る。一般に、約1ng〜5mg、100ng〜2.5mg、1μg〜750μg、好ましくは約10μg〜300μgの有効用量範囲のDNAが筋肉組織に直接投与される。また、皮下注射、皮内投与、皮膚を通した圧入(impression)及びその他の投与モデル、例えば腹腔内投与、静脈内投与、又は吸入送達も適当である。また、追加免疫ワクチン接種を提供し得ることも意図される。MSCRAMMポリプチド免疫原によるワクチン接種の後に、M55遺伝子産物のようなMSCRAMMタンパク質免疫原による追加免疫も意図される。
【0196】
前記のポリヌクレオチドは“未修飾(naked)”のままであってもよい、すなわち、受容体の免疫系に影響を及ぼすタンパク質、アジュバント又はその他の薬剤と会合されていないものであってもよい。この場合、ポリヌクレオチドが生理学的に許容し得る溶液、例えば滅菌食塩水又は滅菌緩衝塩溶液であることが望ましいが、これらのみに限定されるものではない。あるいは、前記DNAはリポソーム類、例えばレシチンリポソーム又は当該技術において公知のその他のリポソームとDNA-リポソーム混合物として会合されていてもよいし、あるいは前記DNAは、免疫応答を上昇させるための当該技術におい公知のアジュバント、例えばタンパク質又はその他の担体と会合されていてもよい。また、DNAの細胞内取り込みを促進する薬剤、例えばカルシウムイオン(これだけに限定されるものではない)を使用してもよい。これらの薬剤は、本明細書において、トランスフェクション促進剤及び製薬学的に許容し得る担体(carrier)と呼ばれる。ポリヌクレオチドで被覆された微小投射物(microprojectile)を被覆する技法は、当該技術において公知であり、本発明との関連において有用である。ヒトに使用することを目的とするDNAに関しては、最終DNA製品を製薬学的に許容し得る担体又は緩衝塩溶液中に有することが有用であり得る。製薬学的に許容し得る担体又は緩衝塩溶液は、当該技術において公知であり、RemingtonのPharmaceutical Scienceのような種々の文献に記載のものが挙げられる。
【0197】
別の態様において、本発明は、ポリヌクレオチドを生体内で真核細胞組織内に導入した際に発現して遺伝子産物を生成することができる連続した核酸配列を含有するポリヌクレオチドである。前記のコードされた遺伝子産物は、免疫刺激剤として又は免疫応答を生じることができる抗原として機能することが好ましい。すなわち、この態様の前記の核酸配列は、MSCRAMM免疫原性エピトープをコードし、場合によってはサイトカイニン又はT細胞共刺激要素(costimulatory element)、例えばプロテインのB7ファミリーの一つをコードする。
【0198】
遺伝子産物を用いるよりもむしろその遺伝子を用いる免疫処置には幾つかの利点がある。第一の利点は、比較的簡便なことであり、未変性又はほぼ未変性の抗原を免疫系に存在させ得る。細菌、酵母、場合によっては哺乳動物細胞中で組換え的に発現される哺乳動物タンパク質は、適切な抗原性を保証するために広範な治療を必要とする場合が多い。DNA免疫処置の第二の利点は、前記の免疫原がMHCクラスI経路に入り、しかも細胞障害性T細胞の応答を喚起することが可能なことである。インフルエンザAの核タンパク質(NPと略記)をコードするDNAを用いたマウスの免疫処置は、NPに対するCD8応答を誘発し、マウスをfluの異種株による感染から保護した〔Montgomery, D. L., et al., Cell Mol. Biol., 43(3):285-292, 1997; Ulmer, J. et al., Vaccine, 15(8):792-794, 1997〕。
【0199】
細胞性免疫は感染症の抑制に重要である。DNA免疫処置は体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を喚起し得ることから、その最も大きい利点は、DNA免疫処置が大多数の黄色ブドウ球菌遺伝子をそれらのワクチン可能性について調査するための比較的簡単な方法を提供するということであり得る。
【0200】
また、DNA注射による免疫処置は、多成分サブユニットワクチンの容易な組み立て(assembly)を可能にする。最近、多数のインフルエンザ遺伝子を用いた同時免疫処置が報告されている(Donnelly, J. et al., Vaccine, 55-59, 1994)。
【0201】
遺伝子産物が免疫系から種々の且つ多数の応答を促進する遺伝子の黄色ブドウ球菌ワクチン中への封入物(inclusion)もまた、その感染から完全な保護を与える。
【0202】
また、結合タンパク質の結合ドメインのペプチドをコードする単離核酸セグメントを含有する組成物であって、前記ペプチドがそのリガンドに特異的に結合する又は結合しないものである組成物が提供される。弱毒化細菌を操作して組換えMSCRAMM遺伝子産物を発現させ得、しかもそれ自体が本発明の送達(delivery)ビヒクルであり得ることも期待される。特に好ましいものは、弱毒化細菌、例えばマイコバクテリウム(Mycobacterium)菌、特にマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)、又はBCGである。また、ポックスウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス又はその他のウイルス、及び細菌例えばサルモネラ種、赤痢菌種、リステリア種、ブドウ球菌種の細菌も、本明細書に記載の方法及び組成物と共に使用し得る。
【0203】
裸DNAすなわち未修飾DNA技術(遺伝子免疫処置と呼ばれる場合が多い)が、感染性細菌からの保護に適していることが明らかにされている。かかるDNAセグメントは、未修飾DNA及びプラスミドDNAを含む種々の形態で使用することができ、しかも被験者に非経口的接種、粘膜接種、及びいわゆる微小投射物を基材とした“遺伝子銃”接種を含む種々の方法で投与し得る。従って、かかる免疫処置技術における本発明の核酸組成物の使用が、少なくとも連鎖球菌及びブドウ球菌感染症に対するワクチン接種法として有用であることが提案される。
【0204】
当業者には、DNAワクチン接種の最適投与スケジュールは、4〜10年程度の長さで、場合によってはそれよりも長い期間で、2〜4週の短い間隔で、与えられる免疫処置物(entity)の5〜6回、好ましくは3〜5回、さらに好ましくは1〜3回程度の投与を含み得ることが理解される。
【0205】
本発明の具体的態様は、クローンニング用プラスミドベクターの使用及び組換えペプチド、特に未変性エピトープ又は位置特異的突然変異結合部位エピトープを含有するペプチドエピトープの発現に関する。組換えベクターの生成、宿主細胞の形質転換及び組換えタンパク質の発現は、当業者には周知である。本発明のペプチド組成物の発現には原核細胞宿主が好ましい。好ましい原核細胞宿主の例は、大腸菌、特に菌株ATCC 69791、BL21(DE3)、JMIOI、XL1-blue(登録商標)、PRI、LE392、B、X776(ATCC31537)及びW3110(F、λ、原栄養株、ATCC273325)である。また、他の腸内細菌種例えばサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium) 及びセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、又は場合によっては他のグラム陰性菌宿主、例えば種々のシュードモナス(Pseudomonas)種が本明細書に記載の遺伝子組立て体の組換え発現に使用し得る。別の宿主としては、組織培養において周知の真核及び原核細胞宿主、例えばバシラス(Bacillus)種、ストレプトマイセス(Streptomyces)種の菌株、酵母のようなカビ菌、及び動物細胞、例えばCHO、R1.1、B-W及びL-M細胞、アフリカミドリザルの腎細胞(例えば、COS1、COS7、BSC1、BSC40及びBMT10)、昆虫細胞(例えば、Sf9)並びにヒト細胞及び植物細胞が挙げられる。
【0206】
種々様々な宿主/発現ベクターの組み合わせがDNAの発現に使用し得る。例えば、有用な発現ベクターは、染色体DNA配列、非染色体DNA配列及び合成DNA配列のセグメントからなり得る。適当なベクターとしては、SV40の誘導体並びに公知の細菌プラスミド、例えば大腸菌プラスミドcol E1、pCR1、pBR322、pMB9及びこれらの誘導体、PR4のようなプラスミド;ファージDNA、例えばλファージの多数の誘導体、例えばNM989、及びその他のファージDNA、例えばM13及び繊維状一本鎖ファージDNA;酵母プラスミド、例えば2μプラスミド及びその誘導体;真核細胞において有用なベクター、例えば昆虫及び哺乳動物細胞において有用なベクター;プラスミドとファージDNAとの組み合わせから誘導したベクター、例えばファージDNA又は他の発現制御配列を用いるために部分変性されているプラスミド;などが挙げられる。
【0207】
当該技術において周知のように、DNA配列は、それらを適切な発現ベクターの発現制御配列に操作して結合し、次いでその発現ベクターを用いて適当な単細胞宿主を形質転換させることによって発現させ得る。かかる操作による発現制御配列に対する本発明のDNA配列の連結は、勿論、まだ該DNA配列の一部分でない場合には、該DNA配列の正確な読み取り枠において開始コドンATGの提供を含む。
【0208】
本発明のDNA配列を発現させるために、種々様々な発現制御配列 − それに操作して連結されたDNA配列の発現を制御する配列 − を前記のベクター中に使用して得る。かかる有用な発現制御配列としては、例えばSV40、CMV、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス又はアデノウイルスの初期又は後期プロモーター、lac系、rtp系、TAC系、TRC系、LTR系、λファージの主要なオペレーター及びプロモーター領域、fd被覆タンパク質の制御領域、3-ホスホ-グリセートキナーゼ又は他の解糖系酵素用のプロモーター、酸性ホスファターゼ(例えば、Pho5)のプロモーター、酵母接合因子のプロモーター、及び原核もしくは真核細胞又はこれらのウイルスの遺伝子の発現を制御する公知のその他の配列、並びにこれらの種々の組み合わせが挙げられる。ベクター、発現制御配列及び宿主の全てが必ずしも本発明のDNA配列を発現させるために十分に等しく機能するとは限らないことが理解されるであろう。また、宿主の全てが必ずしも同じ発現系を用いて十分に等しく機能するとは限らない。しかしながら、当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、所望の発現を達成するために過度の実験を行うことなく、適切なベクター、発現制御配列及び宿主を選択することができるであろう。例えば、ベクターの選択においては、ベクターを宿主の中で機能させなければならないという理由から、宿主を考慮しなければならない。また、ベクターのコピーの個数、そのコピーを制御することができること、該ベクターによってコードされるその他のタンパク質、例えば抗生物質標識も考慮しなければならない。
【0209】
発現制御配列の選択において、通常は種々の因子が考慮される。これらの因子としては、例えば、発現制御配列系の相対強度、その制御性、及び発現されるべき個々のDNA配列又は遺伝子との適合性、特に可能な二次構造に関する適合性が挙げられる。適当な単細胞宿主は、例えば選択したベクターとの適合性、分泌特性、タンパク質を正確に保持する能力及び培養要件、並びに発現させるべきDNA配列によってコードされる生成物の宿主に対する毒性、及び発現産物の精製し易さを考慮することによって選択されるであろう。これらの因子及びその他の因子を考慮して、当業者は、培養又は大規模な動物培養において本発明の諸成分をコードするDNA配列を発現させる種々のベクター/発現制御配列/宿主の組み合わせを組立てることができるであろう。
【0210】
ある態様では、本明細書に記載の核酸セグメントを適当な宿主細胞を横に切断する(transect)のに使用することも意図する。DNAを細胞に導入する技術は、当業者には周知である。核酸セグメントを細胞内に送達させるため方法として4つの一般的方法:すなわち、(1)化学的方法〔Graham and VanDerEb, Virology, 54(2):536-539, 1973〕;(2)物理的方法、例えば微量注入法〔Capecchi, Cell, 22(2):479-488, 1980〕、電気穿孔法〔Wong and Neuman, Biochim. Biophys. Res. Commun, 107(2):584-587, 1982; Fromm et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82(17):5824-5828, 1985〕及び遺伝子銃法(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:4144-4148, 1990);(3)ウイルスベクター法〔Eglitis and Anderson, Bio/techniques, 6(7):608-614, 1988〕;及び (4)レセプター媒介メカニズム〔Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89(13):6099-6103, 1992〕が報告されている。
【0211】
MSCRAMMをコードするDAN配列は、合成によって調製できるし又はクローン化することができる。前記のDAN配列は、MSCRAMMアミノ酸配列用の適当なコドンを用いて設計することができる。一般に、前記配列を発現用に使用する場合には、意図する宿主に好ましいコドンが選択されるであろう。完全な配列は、標準的方法によって調製したオリゴヌクレオチドを重ね合わせることにより組立てられ、そして完全なコード配列に組立てられる。例えば Edge, Nature, 292:756 (1981); Nambair et al., Science, 223:1299 (1984); Jay et al., J. Biol. Chem., 259:6311 (1984)参照。
【0212】
合成DNA配列は、MSCRAMM構造類似体を発現する遺伝子の都合のよい組立てを可能にする。別法として、DNAコード構造類似体は、未変性MSCRAMM遺伝子又はcDNAの位置特異的突然変異誘発によって調製することができ、そして構造類似体は、慣用のポリペプチド合成法を使用して直接調製することができる。タンパク質中への異常アミノ酸の一般的な位置特異的組み込み法は、Noren et al., Science, 244:182-188 (April 1989)に記載されている。この方法は、異常アミノ酸を用いて構造類似体を作成することができる。
【0213】
XII.アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイム
本発明は、翻訳レベルでMSCRAMMの発現を妨害するのに使用し得るアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムの調製にも及ぶ。 このアプローチは、アンチセンス核酸及びリボザイムを、特定のmRNAをアンチセンス核酸で遮蔽するか又はリボザイムで開裂させることによって該mRNAの翻訳を妨害するために使用する。
【0214】
アンチセンス核酸は、特定のmRNA分子の少なくとも一部分に対して相補的であるDNA分子又はRNA分子である。細胞中で、アンチセンス核酸は、その特定のmRNAにハイブリダイズして、二本鎖の分子を形成する。細胞は、この二本鎖の形においてmRNAを翻訳しない。従って、アンチセンス核酸は、mRNAのタンパク質への発現を妨害する。AUG開始コドンにハイブリダイズする約15個のヌクレオチドからなるオリゴマー及び分子は、合成し易く、しかもMSCRAMM産生細胞に導入された場合には、これらよりも大きい分子よりも問題を生ずることが少ないように思われることから、特に有効である。アンチセンス法は、生体外で多数の遺伝子の発現を阻止するのに使用されている(Marcus-Sekura, 1988; Hambor et al.,
1988)。
【0215】
リボザイムは、DNA制限エンドヌクレアーゼに幾分似た方法で別の一本鎖RNA分子を特異的に切断することができる能力をもつ。リボザイムは、ある種のmRNAがそれ自体のイントロンを切除する能力をもつという観察から発見された。これらのRNAのヌクレオチド配列を部分的に改変することによって、研究者らはRNA中の特定のヌクレオチド配列を認識し、それを切断する分子を操作することができた(Cech, 1988)。これらの分子は配列特異的であることから、特定の配列をもつmRNAのみが不活性化される。
【0216】
研究者らは、2種類のリボザイム、すなわちテトラヒメナ(Tetrahymena)型リボザイムと“ハンマーヘッド”型リボザイムとを確認している〔Hasselhoff and Gerlach, Nature, 334(6183):585-591, 1988〕。テトラヒメナ型リボザイムは塩基4個の配列を認識し、これに対して“ハンマーヘッド”型リボザイムは塩基11〜18個の配列を認識する。認識配列が長ければ長いほど、認識は標的mRNA種において専ら生じると思われる。従って、特定のmRNAを不活性化させるためにはテトラヒメナ型リボザイムよりもハンマーヘッド型リボザイムの方が好ましく、また塩基18個の認識配列がそれよりも短い認識配列よりも好ましい。
【0217】
従って、本明細書に記載のDNA配列は、MSCRAMM用のmRNAに対してアンチセンスの分子、並びにMSCRAMM用のmRNAを切断するリボザイム及びそのリガンドを調製するのに使用し得る。
【0218】
XIII.医薬組成物
製薬学的に許容し得る賦形剤中に前記の結合タンパク質、ペプチド、抗体又は核酸を、場合によっては細菌成分と組合わせて、黄色ブドウ球菌感染症の治療有効量で含有する医薬組成物が提供される。該組成物は典型的には、場合によってはアジュバント及びその他の慣用の添加剤を含有していてもよい免疫製剤の調製に使用される。また、上記組成物は本明細書に記載の診断用キットを含有することもできる。
【0219】
有効成分としてポリペプチド、その構造類似体又は活性断片を含有する医薬組成物を調製する方法は、当該技術において十分に理解されている。典型的には、かかる組成物は、注射剤として、液体溶液又は懸濁液として調製されるが、注射の前に溶解又は懸濁するのに適した固体の形態も調製することができる。また、この調製は乳化させることもできる。治療有効成分は、製薬学的に許容し得且つ該有効成分と適合性の賦形剤と混合される場合が多い。適当な賦形剤としては、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど及びこれらの組み合わせが挙げられる。さらにまた、所望ならば、医薬組成物は、有効成分の有効性を高める少量の補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤を含有することができる。
【0220】
ポリペプチド、構造類似体又は活性断片は、中和された製薬学的に許容し得る塩の形で医薬組成物に配合することができる。製薬学的に許容し得る塩としては、酸付加塩(ポリペプチド又は抗体分子の遊離のアミノ基との反応により形成される)が挙げられ、これは無機酸、例えば塩酸又はリン酸、あるいは有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などを用いて形成される。また、遊離のカルボキシル基から形成される塩は、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム又は水酸化第二鉄、及びイソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインのような有機塩基から誘導することができる。
【0221】
治療用のポリペプチド、構造類似体又は活性断片含有組成物は、例えば単位用量の注射によるように、静脈内に常法により投与される。本発明の医薬組成物について使用する場合の“単位用量”という用語は、ヒトについて単位投薬量として適した物理的に別々の単位をいい、それぞれの単位は、所望の治療効果を生じさせるために算出された所定量の活性物質を必要な希釈剤、すなわち単体又はビヒクルと共に含有する。
【0222】
前記組成物は、該投薬剤に適合した方法で且つ治療有効量で投与される。投与すべき量は治療すべき患者、有効成分を使用する患者の免疫系の能力、及び所望のMSCRAMM結合能の阻害又は中和の程度に左右される。投与するのに必要な有効成分の正確な量は医者の判断によるものであり、それぞれの個人に固有である。しかしながら、適当な投薬量は、1日当たり個体体重kg当たりにつき有効成分が約0.1〜20mg、好ましくは約0.5〜約10mg、さらに好ましくは1〜数mgの範囲であり且つ投与の経路により左右され得る。また、最初の投与及び追加免疫に適した投与方法(regime)は変化させ得るが、初期投与し、次いで1時間又はそれ以上の間隔で注射又は他の投与法により反復投与することにより代表される。別法として、10ナノモル〜10マイクロモルの血中濃度を維持するのに十分な連続静脈内注入が意図される。
【0223】
前記の医薬組成物は、さらに有効量のMSCRAMM/MSCRAMMアンタゴニスト又はその構造類似体と、下記の有効成分:すなわち、抗生物質、ステロイドの1種又はそれ以上を含有していてもよい。
【0224】
有効成分としてペプチド配列を含有するワクチンの調製は、一般に、米国特許第4,608,251号;同第4,601,903号;同第4,599,231号;同第4,599,230号;同第4,596,792号;及び同第4,578,770号明細書に例示されているように、当該技術において十分に理解されている。これら特許明細書の記載は全て本明細書において参照される。典型的には、かかるワクチンは、注射剤として、液体溶液又は懸濁液として調製されるが、注射の前に溶解又は、懸濁に適した固体の形態も調製することができる。また、調製は乳化させてもよい。免疫原有効成分は、製薬学的に許容し得且つ有効成分と適合性の賦形剤と混合される場合が多い。適当な賦形剤としては、例えば、水、塩塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど及びこれらの組み合わせが挙げられる。さらにまた、所望ならば、前記ワクチンは、有効成分の有効性を高める少量の補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤を含有することができる。
【0225】
内毒素を本質的に含有していないかかる組成物の調製は、下記の公表された方法によって達成することができる。例えば、米国特許第4,271,147号明細書(本明細書において参照される)には、ワクチンに使用されるナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides) の膜タンパク質の調製方法が記載されている。
【0226】
ワクチンのような免疫学的組成物及び他の医薬組成物は、単独で使用することができるし、又は黄色ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌によって引き起こされるヒト及び動物の感染症から保護する他の阻止剤と組み合わせて使用することもできる。特に、該組成物は、心内膜炎からヒトを保護するために使用することができるし、あるいは黄色ブドウ球菌連鎖球菌感染症によって引き起こされる乳腺炎からヒト又は反芻動物を保護するために使用することができる。また、前記のワクチンは、同様の連鎖球菌感染症からイヌ及びウマを保護するために使用することができる。
【0227】
免疫原性を高めるために、前記タンパク質は、担体分子に複合させてもよい。適当な免疫原性担体としては、タンパク質、ポリペプチド又はペプチド、例えばアルブミン、ヘモシアニン、チログロブリン及びこれらの誘導体、特にウシ血清アルブミン(BSAと略記する)及びカサガイ(keyhole limpet)のヘモシアニン(KLHと略記)、多糖、炭水化物、ポリマー及び固相が挙げられる。別のタンパク質由来の物質又は非タンパク質由来の物質は、当業者には公知である。免疫原性担体は、典型的には少なくとも1,000ダルトンの分子量、好ましくは10,000ダルトンを超える分子量をもつ。担体分子は、ハプテンに対する共有複合化を促進するために反応性基を含有する場合が多い。アミノ酸のカルボン酸基又はアミノ基、あるいは糖タンパク質の糖基がこのようにして使用される場合が多い。かかる基を有していない担体は、適当な化学剤と反応してかかる基を生成することができる場合が多い。免疫応答は、免疫原が動物 例えばマウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ニワトリ及びその他の動物、最も好ましくはマウス及びウサギに注入された場合に生ずることが好ましい。また、前記のタンパク質又はポリペプチド、あるいは抗原として又は免疫学的に均等なポリペプチドを含有する複合抗原ペプチドは、担体を使用せずに免疫原性を向上させるのに十分に抗原性であり得る。
【0228】
MSCRAMMタンパク質の1個又は複数は、アジュバントと共に、該複合体に対して免疫原応答を高めるのに有効な量で投与し得る。現在、ヒトに幅広く使用されている唯一のアジュバントは、明礬(リン酸アルミニウム又は水酸化アルミニウム)である。サポニン及びその精製成分QuilA、完全フロイントアジュバント並びに研究及家畜用途に使用される他のアジュバントは、ヒト用ワクチンに使用する可能性を制限する毒性をもつ。しかしながら、化学的に定義された製剤、例えばムラミルジペプチド、モノホスホリルリピドA、リン脂質複合体 例えばGoodman-Snitokoffら(J. Immunol., 147:410-415, 1991)によって報告され且つ本明細書において参照される複合体、Millerら(J. Exp. Med., 176:1739-1744, 1992)に記載され且つ本明細書において参照されるようなプロテオリポソーム内の前記複合体のマイクロカプセル、及びNovasome(登録商標)脂質小胞〔Micro Vescular Systems Inc. (米国ニューハンプシャー州Nashua所在)製〕のような脂質小胞内の前記タンパク質のマイクロカプセルもまた有効であり得る。
【0229】
幾つかの態様において、本発明者らは、特定のペプチド又は核酸セグメントを宿主細胞に導入するのにリポソーム及び/又はナノカプセルを使用することを意図する。特に、本発明のマロニルチロシルペプチド及びホスホチロシルペプチドは、DMSOを用いて溶液状で送達させるために製剤化し得るし又はリポソーム中に包接させ得る。
【0230】
かかる製剤は、本明細書に記載の核酸、ペプチド及び/又は抗体の製薬学的に許容し得る製剤の導入に好ましいものであり得る。一般に、リポソームの製剤化及び使用は、当業者には公知である〔例えば、Couvreur et al., FEBS Lett., 84:32-326, 1977;及び Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 5:1-20, 1988が参照され、これらには細胞内細菌感染症及び疾患の標的指向化抗生物質療法におけるリポソーム及びナノカプセルの使用が記載されている〕。最近、改良された血清安定性及び循環半減期をもつリポソームが開発された(Gabizon and Papahadjopoulos, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:6949-6953, 1988、Allen and Choun, FEBS Lett., 223:42-46, 1987)。
【0231】
リポソームは、他の方法によるトランスフェクションに、普通は抵抗性である多数の細胞種、例えばT細胞懸濁物、一次肝細胞培養物及びPC 12細胞と一緒にうまく使用されている〔Muller et al., DNA Cell Biol., 9(3):221-229, 1990〕。また、リポソームには、ウイルスを基材として送達系を代表しているDNA長さの束縛がない。リポソームは、遺伝子、薬物、放射治療剤、酵素、ウイルス、転写因子及びアロステリックエフェクターを種々の培養細胞及び動物に導入するのに効果的に使用されている。また、リポソーム媒介ドラッグデリバリーの有効性を調べる幾つかの成功した臨床試験が完了している〔Lopez-Berestein et al., Cancer Drug Review, 2(3):183-189, 1985; Sculier et al., Eur. J. Cancer Clin. Oncol., 24(3):527-538, 1988〕。さらにまた、幾つかの研究により、リポソームの使用は、全身に行き渡った後に自動免疫応答、毒性又は生殖腺集積に関係しないことが示唆されている〔Mori and Fukatsu, Epilepsia, 33(6):994-1000, 1992〕。
【0232】
リポソームは、水性媒体に分散され、自然に多重中心二重層小胞〔多重ラメラ小胞(MLVと略記する)とも呼ばれる〕を形成するリン脂質から形成される。MLVは一般に25nm〜4μmの直径を持つ。MLVの音波処理は、コア(芯)に水性溶液を含有する200〜500Åの範囲内の直径をもつ小さい単層小胞(SUVSと略記する)の形成をもたらす。
【0233】
リポソームは、細胞膜に対して多数の類似点をもち、ペプチド組成物用の担体として本発明と関連して使用することが期待される。リポソームは、水溶性物質と脂溶性物質の両方を取り込むことができるので、すなわち水性空間に及び二重層それ自体の中に取り込むことができるので、極めて適している。場合によっては、薬物坦持リポソームを、そのリポソーム製剤を選択的に改質させることによって有効成分の位置特異的デリバリーに使用し得ることが可能である。
【0234】
Couvreurらの方法〔FEBS Lett., 84:32-326, 1977;及び Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 5:1-20, 1988〕の記載の他に、下記の情報をリポソーム製剤を製造するのに利用し得る。リン脂質は、水に分散させた場合に、脂質と水のモル比に応じてリポソーム以外の種々の構造を形成することができる。低いモル比では、リポソームは好ましい構造になる。リポソームの物性は、pH、イオン強度及び二価陽イオンの存在に左右される。リポソームはイオン性及び極性の物質に対して低い浸透性を示すが、高められた温度では浸透性を著しく変化させる相転移を受ける。相転移は、ゲル相として知られている密に詰まった規則正しい構造から、液相として知られている緩く詰まった規則性の少ない構造までの変化を伴う。これは、特徴的な相転移温度で生じ、イオン、糖及び薬物に対する浸透性に増大をもたらす。
【0235】
温度の他に、タンパク質に対する暴露によりリポソームの浸透性を変化させ得る。シトクロムCのようなある種の可溶性タンパク質は、リポソームの二重層を結合子、変形し且つ貫通し、それによって浸透性の変化を引き起こす。コレステロールは、リン脂質をより密に詰め込むことによって明らかにタンパク質のこの貫通を阻止する。抗生物質や阻害剤のデリバリーに最も有用なリポソームの生成はコレステロールを含有することが考えられる。
【0236】
溶質を捕捉する能力は、リポソームの種類の間で変化する。例えば、MLVは溶質の捕捉において適度な効果があるが、SUVは全く効果がない。SUVはサイズ分布において等質性及び再現性について利点を提供するが、サイズと捕捉効果の間の妥協は、大きい単層小胞(LUVと略記する)によって提供される。これらの大きい単層小胞は、エーテル蒸発法によって調製され、MLVSよりも3〜4倍効率的である。
【0237】
リポソームの特性の他に、化合物の捕捉における重要な決定要因は、化合物それ自体の物理化学的性質である。極性化合物は水性空間に捕捉され、非極性化合物は小胞の脂質二重層に結合する。極性化合物は、浸透によって又は脂質二重層が破壊された際に放出されるが、非極性化合物は温度又はリポソームへの暴露によって破壊されない限りは脂質二重層に結びついたままである。上記の両方のタイプ共に相転移温度で最大放出を示す。
【0238】
リポソームは4種類のメカニズムによって細胞と相互作用する:すなわち、細網内皮系の食細胞、例えばマクロファージや好中球によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水性又は静電力によるか又は細胞表面成分との特異的相互作用による細胞表面への吸着;細胞質中へのリポソーム内容物の同時放出と共に脂質二重層の形質膜へのリポソームの挿入による形質細胞との融合;及びリポソーム内容物の会合なしに、細胞内又は細胞下の膜へのリポソームの脂質の移動又はその逆の、4種類のメカニズムによって相互作用する。どのメカニズムが働くか及び2種以上のメカニズムが同時に働き得るかを決定することは困難である。
【0239】
静脈内に注射されたリポソームの寿命(fate)及び配置は、その物理的性質、例えば大きさ、流動性及び表面電荷に左右される。リポソームは、その組成及び1分〜数時間の範囲の血中半減期に応じて数時間又は数日間組織中に残り得る。 MLVやLUVSのような大きなリポソームは、細網内皮系の食細胞によって急速に溶解されるが、循環系の生理学は大部分の部位でかかる大きいリポソームの排出を抑制する。上記のリポソームは、大きな開孔又は細孔が毛細血管内皮、例えば肝臓又は脾臓の洞様血管に存在する種々の場所で出ることができる。従って、前記器官が摂取の主な部位である。一方、SUVはより広い分布を示すが、肝臓や脾臓において隔離される。一般に、この生体内挙動は、リポソームの可能な標的指向化をこれらの器官及びリポソームの大きいサイズに近づき易い組織に限定する。
【0240】
標的指向化は、一般に、本発明に関する制限ではない。しかしながら、特定の標的指向が所望される場合には、これを達成すべき方法が利用し得る。種々の抗体が、本発明の抗体及びその薬物内容物をリポソーム表面に結合するのに使用し得、しかも特定の細胞表面上に配置された特異的抗原レセプターに指向させるのに使用し得る。また、炭水化物決定基(すなわち、細胞−細胞の認識、相互作用及び接着において役割を果たす糖タンパク質又は糖脂質細胞表面成分)も、リポソームを特定の細胞種に指向させる可能性をもつように、認識部位として使用し得る。大部分は、リポソーム製剤の静脈内注射が使用されるが、その他の投与経路も考えられることが期待される。
【0241】
また、本発明により、本発明のペプチドの製薬学的に許容し得るナノカプセルが提供される。ナノカプセルは、一般に、安定で再現性のある方法で化合物を取り込むことができる(Henry-Michellandp et al., Int. J. Pharm.,35:121-127, 1987)。細胞内のポリマー過剰負荷による副作用を回避するために、かかる超微細粒子(約0.1ミクロンの大きさ)は、生体内で分解され得るポリマーを使用して設計されるべきである。これらの要件を満たす生分解性ポリアルキルカルボニルアクリレートナノ粒子が本発明で使用することが期待され、かかる粒子は、Couvreurらによって報告されている(1977年及び1988年の前記の文献参照)ようにして、容易に調製し得る。
【0242】
投与に適した方法としては、局所投与、経口投与、肛門内投与、膣内投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、鼻内投与及び皮内投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0243】
局所投与に関しては、医薬組成物は、軟膏、クリーム、ゲル、ローション、点滴剤(例えば、点眼剤及び点耳剤)又は溶液(例えば、うがい剤)の形態で製剤化される。創傷又は外科用包帯、縫合糸及びアエロゾルは、医薬組成物を含浸させ得る。医薬組成物は慣用の添加剤、例えば防腐剤、染み込みを促進する溶剤、及び皮膚軟化剤(emollient)を含有していてもよい。また、局所用製剤は、慣用の担体、例えばクリーム又は軟膏ベース、エタノール又はオレイルアルコールを含有していてもよい。
【0244】
好ましい態様において、ワクチンは、非経口投与(すなわち、筋肉内投与、皮内投与又は皮下投与) 又は鼻咽頭内投与(すなわち鼻内投与)による免疫処置用の単回投与剤として包装される。ワクチンは三角筋中に筋肉内注射するのが最も好ましい。ワクチンは、製薬学的に許容し得る担体と組合わせて投与を促進させること好ましい。前記の担体は、通常は水又は緩衝塩溶液であり、防腐剤を含有させてもよいし又は含有させなくてもよい。ワクチンは、投与時に再縣濁させるために凍結乾燥されていてもよいいし、又は溶解されていてもよい。
【0245】
前記タンパク質を複合させ得る担体もまた、重合体状徐放系であってもよい。ワクチンの製剤においては、合成重合体が抗原の制御された放出を行わせるために特に有用である。例えば、メタクリル酸メチルを1ミクロンよりも小さい直径をもつ球に重合させることが、Kreuter J., Microcapsules And Nanoparticles In Medicine And Pharmacology, M. Donbrow (Ed.). CRC Press, p.125-148 に報告されている。
【0246】
また、前記タンパク質のマイクロカプセル化も、制御された放出を与えるであろう。マイクロカプセル化用の具体的重合体の選択には多数の因子が寄与する。重合体の合成法及びマイクロカプセル化法の再現性、マイクロカプセル化の材料及び方法のコスト、毒物学的プロフィール、可変放出速度の要件並びに重合体と抗原の物理化学的適合性が、考慮しなければならない因子の全てである。有用な重合体の例は、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリ(d,l-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGAと略記する)及びその他の生分解性重合体である。抗原の制御された放出にPLGAを使用することは、Eldridge, J.H. et al., Current Topics In Microbiology And Immunology, 146:59-66(1989)によって検討されている。
【0247】
ヒトに投与するのに好ましい投与量は、0.01 mg/kg〜10 mg/kg、好ましくは約1 mg/kgである。この範囲を基礎として、さらに重い体重のヒトについては、それに相当する投与量を決定することができる。投与量は、医薬組成物が投与される個人個人に適して調節されるべきであり、個人個人の年齢、体重及び代謝に応じて変化するであろう。ワクチンは、さらに追加成分としてチメロザール(thimerosal)〔エチル(2-メルカプトベンゾエート-S)水銀ナトリウム塩〕〔Sigma Chemical Company(米国ミズリー州セントルイス所在)製〕のような安定剤又は生理学的に許容し得る保存剤を含有していてもよい。
【0248】
本明細書に記載の発明に対して本発明の範囲及び精神から乖離することなく種々の置換及び変更がなし得ることは、当業者には容易にわかるであろう。
【0249】
XIV.キット
本発明はまた、黄色ブドウ球菌又は表皮ブドウ球菌のようなブドウ球菌群細菌によって引き起こされるか又は悪化される感染症を検出し、診断するための抗MSCRAMM抗体又はMSCRAMM抗原を含有するキットに関する。好ましいキットは、試料中の抗原の実質的全部を約10分以内に結合するのに十分な量の抗体を含有するか又はMSCRAMMのための抗体を結合するのに十分な量の抗原を含有する。前記の抗体又は抗原は、前記のように、固体支持体表面に固定化することができ、しかも検出可能な反応剤で標識することができる。前記のキットは、場合によっては、検出可能な反応剤を検出する手段を有する。前記の抗体又は抗原が蛍光色素又は放射性標識で標識されている場合には、使用者が適当な分光光度計、シンチレーションカウンター又は顕微鏡を有していることが期待されることから、前記の検出可能な反応剤を検出する手段は典型的には提供されないであろう。検出可能な反応剤が酵素である場合には、該検出可能な反応剤を検出する手段をキットに備えることができ、典型的には該酵素用の基質を抗原−抗体複合体の全てを検出するのに十分な量で含有するであろう。検出可能な反応剤を検出するのに好ましい一つの手段は酵素によって着色生成物に転化される基質である。通常の例は酵素セイヨウワサビペルオキシダーゼと2,2´-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンゾチアゾリンスルホネート)(ABTSと略記する)である。
【0250】
前記のキットは、場合によっては体液試料中に存在する細胞を溶解する溶解剤(lysing agent)を含有していてもよい。適当な溶解剤としては、界面活性剤例えばTween-80、Nonidet P40 及びTriton X-100が挙げられる。溶解剤は抗体と共に固体支持体上に固定化されることが好ましい。
【0251】
キットはまた、種々の段階の間に基質を洗浄するための緩衝塩溶液も含有することができる。緩衝塩溶液は、典型的には生理学的溶液、例えばリン酸塩緩衝液、生理食塩水、クエン酸緩衝液又はトリス緩衝液である。
【0252】
キットは、場合によっては、検定を較正するための種々の濃度の予備形成抗原を含有していてもよい。キットはさらに、対照を目的として、較正された標準検定において抗原の量の肉眼表示又は数値表示を含有することができる。例えば、着色生成物を生成する検定が使用される場合には、種々の量の抗原に関連して増大する強さの表示を提供するシートを含むことができる。
【0253】
キットは、場合によっては、検出系に2種類の抗体を含有することができる。少量存在させる第一の抗体は、検定される抗原に特異的である。第一の抗体の量よりも多い量で提供される第二の抗体は、第一の抗体を検出するのに使用することができる。例えば、ウサギ抗体がLOOH/アミン抗原を検出するのに使用することができ、この場合には抗ウサギIgG抗体が結合されたウサギ抗体を検出するのに使用することができる。ヤギ抗体と抗-抗体も普通に使用される。
【0254】
限定されない例として、患者の脂質過酸化状態の検出用キットであって、所定の抗体に特異的なウサギ抗体と、結合された第一の抗体を検出するのに十分な量の抗ウサギIgG抗体と、第二の抗体に複合化される酵素と、前記酵素に暴露された際に色を変化させる酵素用基質とを含有するキットが提供される。また、キットは、1種又はそれ以上のMSCRAMM抗原、例えばコラーゲン結合タンパク質及び
ClfAフィブリノーゲン結合タンパク質のM55ドメインを使用して調製し得、しかもこのキットはコラーゲン結合MSCRAMM及びフィブリノーゲン結合MSCRAMMに対する抗体を用いて試料の検出を行うことができる。
【0255】
実施例
以下の実施例は本発明の好ましい具体的態様を例証するために挙げられる。以下の実施例に記載された技法は、本発明の実施において機能することが本発明者らによって知見された技法を表し、従って本発明を実施するための好ましい形式をなしているとみなし得ることは、当業者によって認められるべきである。しかしながら、当業者には、本発明に照らして、記載されている特定の態様において多数の改変を行うことができ、さらに本発明の精神から乖離することなく同様又は類似の結果を得ることができることが認められる。
【0256】
実施例1
始原型の4成分MSCRAMMワクチンの調製
コラーゲン結合MSCRAMM、Fn結合MSCRAMM及びFbg結合MSCRAMM由来のドメインを表す一連の組換えタンパク質(図1参照)を、既に報告されているようにして、大腸菌中で過剰発現させ、金属キレートクロマトグラフィーによりアフィニティー精製した〔例えば、Joh et al., Biochemistry, 33(20):6086-6092,1994; Patti et al., J. Biol. Chem., 270, 12005-12011, 1995; McDevitt et al., Mol. Micro., 11(2):237-248, 1994; Ni Eidhin et al., Infect. Immun., 提出中, 1998参照〕。下記のアミノ酸を使用した:すなわち、canから発現された組換えコラーゲン結合MSCRAMM(M55、例えば出願中の米国特許出願第08/856,253号明細書に記載されているもの、 該明細書の記載は本明細書において参照される)に含有されるアミノ酸類;clfAから発現された組換えフィブリノーゲン結合 MSCRAMM(pCF40、例えば米国特許出願第08/293,728号明細書に記載されているもの、該明細書の記載は本明細書において参照される)に含有されるアミノ酸類;clfBから発現された組換えフィブリノーゲン結合MSCRAMM(領域A、例えば米国特許出願第09/200,650号明細書に記載されているもの、該明細書の記載は本明細書において参照される)に含有されるアミノ酸類;及び組換えフィブロネクチン結合MSCRAMM(DUD4、例えば出願中の米国特許出願第09/010,317号明細書に記載されているなもの、該明細書の記載は本明細書において参照される)に含有されるアミノ酸類を使用した。前記の組換えフィブロネクチン結合MSCRAMMタンパク質 DUD4をホルマリンで処理し(4℃で5%ホルマリンで一夜処理)、その後にM55、ClfA由来の領域A及びClfB由来の領域Aと組み合わせた。
【0257】
実施例2
組換えタンパク質の産生用の大腸菌株の増殖の例
組換えプラスミドを含む(harboring)大腸菌JM101又はTOP3細胞(Stratagene製)の一夜培養物を、アンピシリン50mg/mLを含有するLuria Broth(Gibco BRL製)1L中に1:50に希釈した。大腸菌細胞を、培養物が0.5〜0.8のOD600値に達するまで増殖させた。IPTGを0.2mMの最終濃度になるまで加えることによって、前記の種々の組換えタンパク質の発現を誘導した。発現を3時間誘導した後に、細胞を遠心分離によって採取し、Buffer A(イミダゾール5mM、NaCl 0.5M、Tris-HCl 20mM、pH7.9)15mLに再懸濁し、次いで20,000lb/in2で2回French press装置を通すことによって溶解した。50,000×gで10分間遠心分離することにより細胞の砕片を除去し、上清を0.45μmのフィルターを通した。
【0258】
実施例3
pOE-30〔Qiagen(登録商標);Qiagen Inc.,(米国カリフォルニア州Chatsworth所在)〕又はPV-4基材の組換えプラスミドから発現させたHIS6含有組換えタンパク質の精製
前記の組換えタンパク質を、Ni2+含むイミノジ酢酸/Sepharos(登録商標) 6B Fast Flow〔Sigma社(ミズリー州セントルイス所在)製〕のカラムを使用して固定化金属キレートクロマトグラフィーにより精製した(Porath et al., 1975;Hochuli et aal., 1988)。得られたHIS6付加タンパク質を、固定化金属キレートクロマトグラフィーにより精製した。さらに詳しくは、FPLC(登録商標)装置(Pharmacia製)に接続したイミノジ酢酸/Sepharose(登録商標)6B FF含有カラムを、150mMのNi2+を充填し、緩衝液A(イミダゾール5mM、NaCl 0.5M、
Tris-HCl 20mM、pH7.9)を用いて平衡化させた。平衡化の後に、前記の細菌上清をカラムに注ぎ、カラムを10ベッド容量の緩衝液Aで洗浄した。次いで、このカラムを緩衝液B(イミダゾール200mM、NaCl 0.5M、Tris-HCl 20mM、pH7.9)で溶出した。溶出液は、280 nmの吸光度でタンパク質を監視し、ピーク画分をSDS-PAGEにより分析した。得られた精製組換えタンパク質を1%Triton X-114を用いて洗浄抽出し、次いで金属キレートアフィニティークロマトグラフィー精製し、ポリミキシンB−セファーロースカラムに通すことにより、精製組換えタンパク質から内毒素を除去した。内毒素の量は、chromogenic Limulus Amebocyte Lysate〔BioWhitaker(米国メリーランド州Walkersville所在)製〕assayを使用して定量した。
【0259】
実施例4
4成分MSCRAMMワクチン−MSCRAMM IVによる動物の免疫処置
アカゲザル(赤毛猿)
100μgのM55 (1EU/mg)、ClfA(2.5 EU/mg)、ClfB(<1.0 EU/mg)、及びDUD4(<10 EU/mg)を一緒に混合してMSCRAMM IVワクチンを生成させた。得られた反応混液をTiterMax(登録商標) Gold〔CytRX(米国ジョージア州Norcross所在)製〕と1:1の割合で混合した。2匹の雌性アカゲザルID#495ZとID#664U(体重9.4kg以下)を、上記のワクチン200μlを用いて後足の大腿四頭筋に筋肉内(IMと略記する)注射することによりワクチン接種した。28日後に、この2匹のサルに上記と同じワクチン製剤200μlをIM注射することにより追加免疫処置した。別の2匹の雌性アカゲザルID#215WとID#203U(体重8.0kg以下)を、水酸化アルミニウム〔2%Alヒドロゲル;Superfos(デンマーク国所在)製〕と1:1の割合で混合したMSCRAMM IVを用いて免疫処置した。28日後に、この2匹のサルに上記と同じワクチン製剤200μlをIM注射することにより追加免疫処置した。
【0260】
行った臨床試験計画を以下に記載する。

【0261】
4匹のサル全部を初期免疫処置の後にセロコンバージョンさせた。一次ワクチン接種後106日目のELISAにより、バックグランドの抗体量の3倍を超える抗体量を検出することができた。この研究の21週目に、前記の4匹のサルを別の追加免疫処置を行った。それぞれのサルに、前記ワクチン125μlを4回の皮下注射により追加免疫処置した。前記ワクチンの合計追加免疫処置量は600μlであった。一次ワクチン接種後189日目のELISAにより、バックグランドの抗体量の少なくとも3倍を超える抗体量及びバックグランドの抗体量の15倍を超える抗体量を検出することができた。図2参照。獣医による直接観察により、注射部位の副作用反応は検出されなかった。また、肝臓の酵素プロフィール、CBC及び血液学プロフィールは、アカゲザルについて正常の範囲であった。
【0262】
実施例5
ワクチン接種したアカゲザルから得た血漿試料のELISAによる分析
Imuulon-2マイクロタイタープレート〔Dynex Technology(米国バージニア州Chantilly所在)〕を、10μg/ml(50μl)のコラーゲン結合MSCRAMM(M55)、フィブリノーゲン結合MSCRAM(ClfA;pCF44)、フィブリノーゲン結合MSCRAM(ClfB;領域A)又はフィブロネクチン結合MSCRAM(DUD4)で4℃で一夜被覆した。上記のようにしてMSCRAM被覆されたウエルに、希釈した血漿試料50μlを加え、室温で1時間インキュベートした。洗浄用緩衝液は、0.05%(容量/容量)Tween-20、1%(重量/容量)BSAのブロック用溶液、PBSに溶解した0.05%Tween-20を含有するPBSからなり、且つ抗体希釈用緩衝液は0.1%PBS、0.05%Tween-20を含有するPBSからなる。一次抗体及び二次抗体を用いてインキュベーションを25℃で60分間行った。二次抗体は、アルカリホスファターゼ−複合化ヤギ抗サル免疫グロブリンG〔Rockland(米国ペンシルバニア州Ginertsville所在)製〕であり、抗体希釈用緩衝液中で3500倍希釈した。ELISAプレートを1Mジエタノールアミン、0.5MMgCl2に溶解したp-ニトロフェニルホスフェート(Sigma社製)1mg/mlを用いて37℃で30分間発色させ、Perkin Elmer HTS 7000 Bio-Assay読み取り装置を用いて405 nmで定量した。それぞれの血漿試料を、0.05%Tween-20、0.1%PBSを含有するリン酸塩緩衝液(pH7.4)で100倍希釈した。ELISAデータを図2に示。
【0263】
実施例6
阻害検定
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 菌株601(Smeltzer, M.S., Gene, 196:249-159, 1997)を、BHIブロス中で37℃で15時間、一定の回転条件で培養した。得られた一夜培養物をBHI中に1:100に希釈し、細菌を37℃で温和な指数増殖期まで増殖させた。細菌を遠心分離により収菌し、滅菌PBS(pH7.4)中で3回洗浄し、次いで炭酸塩緩衝液(50mM NaHCO3、pH8.5)に再懸濁した。この細菌を、50mM NaHCO3、pH8.5)に溶解したFITC(Sigma製;F-7250)1mg/mlと混合し、暗室中で回転させながら25℃で1時間インキュベートした。このFITC標識化反応は、細菌細胞を遠心分離し、次いで未反応FITCを含有する上清を取り除くことにより停止させた。得られた標識細菌をPBS中で3回洗浄して、組み込まれなかったFITCを除去し、PBS中に再度懸濁し、1×108 cfu/mlに調整し、PBS(pH7.4)中に−20℃で保存した。
【0264】
実施例7
免疫処置したサル由来のIgGの精製
IgGを前記のサルの血漿から、PROSEP(登録商標)-A 高交換容量樹脂〔Bioprocessing Inc.(米国ニュージャージー州プリンストン所在)製〕を用いてアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。要するに、前記の凍結保存血漿を溶解し、0.45μフィルターを通した。得られた血漿をPROSEP(登録商標)-A 高交換容量樹脂を入れたベンチトップ(benchtop)カラムにかけた。 カラムをPBSで連続的に洗浄することにより未結合物質を除去した。IgGをカラムから0.1Mクエン酸ナトリウム(pH3.0)溶液を用いて溶出した。溶出したIgGのpHを直ちに0.1M Tris(pH9.0)を加えることによりpH6.8〜7.4に中和した。次いで、得られたIgGをPBS(pH7.4)中に透析し、濃縮し、滅菌濾過した。精製IgGの濃度を280nmの吸光度により測定した。
【0265】
実施例8
競合阻害ELISA
Costar 96ウエルブラックプレートを、ウシコラーゲン、ヒトフィブリノーゲン及びウシフィブロネクチンからなるマトリックス成分をPBS(pH7.4)に溶解した溶液10μg/mlを用いて4℃又は室温で2時間被覆した。得られたマトリックスタンパク質被覆プレートを、PBS、0.05%Tween 20で3回洗浄し、次いでPBS、1%BSAで遮蔽保護した。遮蔽保護したプレートを、PBS、0.05%Tween 20で3回洗浄した。FITC標識黄色ブドウ球菌細胞のアリコート500μlを、精製サルIgGと、PBS、0.05%Tween 20、1%BSAに溶解した精製サルIgGの溶液の量を増やしながら混合した。上記の標識細胞とIgGとを、回転振盪器で25℃で1時間混合した。得られた標識細胞/IgG混合物50μlを、前記のマイクロタイタープレートのそれぞれのウエルに加え、ロッカープラトオホーム(rocker platform)上で25℃でインキュベートした。ウエルをPBS、0.05%Tween 20で洗浄した。固定化マトリックスタンパク質に結合された細菌の量を、Perkin Elmer HTS 7000 Bio-Assay読み取る装置を用いて486 nmで設定した励起フィルター及び535 nmで設定した放射フィルターを用いて測定した。
【0266】
実施例9
敗血症の動物モデル
敗血症の動物モデル〔Bremell, T.A., et al., Infect. Immun.,62(7):2976-2985, 1992〕を使用して、本発明者らは、MSCRAMM IVを用いて免疫処置したアカゲザルから精製したIgGを用いた受動免疫により、敗血症により誘導される死からマウスを保護できることを例証した。在来の5〜8週齢の雄性NMRIマウスを、MSCRAMM IVを用いて免疫処置したアカゲザルから精製したIgG(n=12匹)又は免疫処置していないアカゲザルから精製したIgG(n=13匹)の20mgを用いて−1日目にi.p.受動免疫処置した。0日目に、マウスに黄色ブドウ球菌 菌株LS-1を2.4×107 CFU/マウスの量でi.v.投与して感染させた。次の3日間にわたってマウスの死亡率と体重変化を監視した。細菌接種後3日目に、対照群では死亡マウスは3匹/試験マウス13匹(13%)であり、これに対して制御群では死亡マウスは0匹/試験マウス12匹(0%)であった。13日目では、対照群では死亡率は53%(死亡マウス7匹/試験マウス13匹)であり、これに対してMSCRAMM IV受動免疫処置群についてはわずか16.2%(死亡マウス0匹/試験マウス12匹)であった。対照群のマウスは、MSCRAMM IV IgG受動免疫処置マウスに比べて著しい体重減少を示した(28.0±2.5% 対 21.3±3.1%;p<0.01)。
【0267】
実施例10
M55(コラーゲン結合MSCRAMM)とClfA(フィブリノーゲン結合MSCRAMM)とを含有する多成分ワクチン
60匹の雌性Swiss Webstarマウスに、オボアルブミン、M55(コラーゲン結合MSCRAMM)、又はM55とClfA(フィブリノーゲン結合MSCRAMM)との組み合わせそれぞれの50μgを皮下注射により投与した。この最初の注射液は、前記抗原を完全フロイントアジュバントに乳化することにより調製した。最初の注射後14日目に、不完全フロイントアジュバントに乳化したタンパク質25μgの二次注射液をマウスに投与した。最初の注射後28日目に、PBSに溶解したタンパク質25μgの最後の注射液をマウスに投与した。最後の注射の2週間後に、全てのマウスから血液試料を採取し、前記の種々のMSCRAMMに対する抗体力価を測定した。次いで、マウスに黄色ブドウ球菌 601を1.2×108 CFUの量で1回i.v.注射により感染させた(最初の注射後42日目)。感染5日目に、マウスを殺し、その腎臓を取り出した。次いで、この腎臓をホモジナイズし、血液寒天プレートに塗布した。このプレートを37℃で一夜インキュベートし、腎臓中の細菌数(load)をコロニーカウンターにより調べた。得られた実験の結果は、オボアルブミン投与群(7.03±0.93 log CFU/g)とM55/ClfA投与群(4.83±3.04 log CFU/g、p=0.006)の間の細菌数に2つのlog差を示した。また、オボアルブミン投与群と比較すると、M55投与群(5.86±3.42 log CFU/g、p=0.003)には細菌数の差が認められた。
【0268】
前記の詳細な説明及び実施例に示すように、前記MSCRAMMタンパク質を含有する免疫学的組成物、例えばワクチン及びその他の医薬組成物は、本発明の範囲に包含される。1種又はそれ以上の前記の結合タンパク質、その活性又は抗原性断片、あるいはこれらの融合タンパク質は単独で又は別の抗原と組み合わせて、ワクチンの当業者に知られている方法及び材料を使用して製剤化し、包装することができる。免疫応答は、治療又は予防に使用し得、また細胞障害性Tリンパ球又はCD4Tリンパ球のようなTリンパ球によって産生されるような抗体免疫又は細胞性免疫を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色ブドウ球菌由来のクランピング因子Aタンパク質(ClfA)の単離されたフィブリノーゲン結合ドメインの免疫学的有効量及び単離された黄色ブドウ球菌の莢膜多糖5型の免疫学的有効量を含有する多成分ワクチン。
【請求項2】
黄色ブドウ球菌由来の単離されたクランピング因子Aタンパク質(ClfA)のAドメインの免疫学的有効量及び単離された黄色ブドウ球菌の莢膜多糖5型の免疫学的有効量を含有する多成分ワクチン。
【請求項3】
前記黄色ブドウ球菌の莢膜多糖5型は、細菌の食作用を促進させ得る抗体を生じ得る、請求項1に記載の多成分ワクチン。
【請求項4】
黄色ブドウ球菌由来のクランピング因子Aタンパク質(ClfA)の単離されたフィブリノーゲン結合ドメインの免疫学的有効量及び単離された黄色ブドウ球菌の莢膜多糖8型の免疫学的有効量を含有する多成分ワクチン。
【請求項5】
黄色ブドウ球菌由来の単離されたクランピング因子Aタンパク質(ClfA)のAドメインの免疫学的有効量及び単離された黄色ブドウ球菌の莢膜多糖8型を含有する多成分ワクチン。
【請求項6】
前記黄色ブドウ球菌の莢膜多糖8型は、細菌の食作用を促進させ得る抗体を生じ得る、請求項4に記載の多成分ワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図3−8】
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【図3−9】
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【図3−10】
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【図4】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図5】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2011−168607(P2011−168607A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89946(P2011−89946)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2000−567242(P2000−567242)の分割
【原出願日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(500226306)インヒビテツクス,インコーポレイテツド (2)
【出願人】(501082945)
【出願人】(501083001)
【Fターム(参考)】