説明

多成分系複合分離膜及びその製造方法

【課題】本発明は多成分系複合分離膜及びその製造方法に関する。
【解決手段】本発明は活性層と支持層を含む複合分離膜において、両側の外郭に活性層が存在し、その内部には支持層が存在する形態で構成される多成分系複合分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多成分系(multi-component)複合分離膜(composite membrane)及びその製造方法に係り、より詳しくは、支持層の他に活性層に既存の緻密な構造形態はもちろん加工条件によって気孔が形成されることができ、また、その気孔の大きさを調節することができて、既存の複合分離膜に比べて顕著に改善された透過特性を有し、複合分離膜の外郭層に存在する活性層の特性発現も可能な多成分系複合分離膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜は多様な分野で広く利用されているものであって、微細ろ過膜(microfiltration membrane)、限外ろ過膜(ultrafiltration membrane)、気体分離膜(gas separation membrane)、透過蒸発膜(pervaporation membrane)、逆滲透膜(reverse osmosis membrane)など多様な用途に使用できる。
【0003】
以下では前記微細ろ過膜のうち、電池、特にリチウムイオン電池における隔離膜(separator)、特にポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィンを主材料として用いるリチウムイオン電池用隔離膜を中心に説明する。
【0004】
リチウムイオン電池用隔離膜の材質としてポリオレフィンの中でも結晶化度の高い高結晶性ポリプロピレン(high crystalline polypropylene:HCPP)を使用する場合、透過度の大きな向上を期待することができる。殆どの一般汎用ポリプロピレンの結晶化度が50%未満であることに比べて、本発明で使用した高結晶性ポリプロピレンは、結晶化度が約50%以上であるものであり、一般汎用ポリプロピレンに比べて、立体規則性が高く(high isotactic)、従って、密度、溶融温度、溶融熱及び結晶化温度が高い特性を有し、高剛性、高耐熱性、高衝撃性、耐スクラッチ性、高い寸法安定性などいろいろな機械的物性が優れている。
【0005】
一般的な複合分離膜の製造方法には表面重合(interfacial polymerization)、表面改質(modification of membranes)、塗布法(dip coating)などの方法があり、この中でも塗布法が最も広く用いられ、主に微細ろ過膜または限外ろ過膜のような微細気孔膜を支持層として使用し、活性層として作用する物質を溶液状態で塗布し乾燥させて複合分離膜を製造する。このような方法で製造された複合分離膜は一定の大きさの気孔を有する支持層の他に気孔が殆ど観察できない緻密な構造の活性層を有する。この場合、活性層は微細ろ過膜及び限外ろ過膜と類似した大きさの気孔を有し得なくなって、その応用において制約を受け、支持層と活性層との間の界面接着力が弱くて容易に分離(delamination)される短所をもつようになる。
【0006】
前記気孔が存在する微細気孔膜上に異なる成分の高分子物質を塗布して複合分離膜を製造する方法は米国特許第3,249,109号、第4,388,189号、及び第5,102,552号明細書等によく開示されている。また、分離膜の表面改質、特に親水性付与のための方法としては米国特許第4,346,142号、第5,085,775号及び第5,294,346号明細書にアクリル酸(acrylic acid)のような親水性モノマー及びポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)のような高分子をコロナ(corona)処理などの方法を併用してグラフト重合(graft polymerization)させる方法が開示されている。しかし、この場合、工程の複雑性及び実際製造された分離膜の透過特性をはじめとした多様な物性が満足らしくなくて実際的には殆ど応用されていない実情である。
【0007】
電池分野における応用は、一定の気孔サイズをもつ一般電池用隔離膜上に高分子電解質を溶液状態でコーティングしてリチウムイオン2次電池用隔離膜として使用した例が米国特許第5,716,421号及びヨーロッパ特許第0933824A2号明細書に開示されている。しかし、このような方法で分離膜を製造するようになると既述したとおりに分離膜の外郭には気孔が生成されない緻密な構造となって通気度のような透過特性が全く現れず、支持層と活性層との間の界面接着力が弱い短所をもつようになる。
【特許文献1】米国特許第3,249,109号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は前記従来技術の問題点を考慮して、支持層以外に活性層に既存の緻密な構造形態はもちろん、加工条件によって気孔が形成されることができ、その気孔の大きさが調節できて既存の分離膜に比べて顕著に改善した透過特性以外に複合分離膜の外郭層に存在する活性層の特性発現もやはり可能になり、またイオンビーム照射工程を追加させる場合、支持層と活性層との間の界面接着力をさらに向上させることができる複合分離膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、活性層と支持層を含む複合分離膜において、両側外郭に活性層(active layer)が存在しており、その内部には支持層(support layer)が存在する形態で構成された多成分系複合分離膜を提供する。
【0010】
また、本発明は多成分系複合分離膜の製造工程において、前記多成分系複合分離膜の製造工程がa)支持層として用いられる高分子を押出機に投入して原板フィルムを製造する段階;b)前記製造された原板フィルムを高分子溶融点以下の温度でアニーリングさせる段階;c)前記アニーリングさせた原板フィルムの片面または両面に反応性ガスで補強したイオンビームを照射する段階;d)前記イオンビームが照射された原板フィルムの両面に活性層として用いられる高分子溶液を塗布させる段階;e)前記原板フィルムの両面に塗布された高分子溶液を乾燥させる段階;f)前記高分子溶液が乾燥された原板フィルムを常温以下の温度で低温延伸させる段階;g)前記低温延伸されたフィルムを高分子溶融点以下の温度で高温延伸させる段階;及びh)前記高温延伸されたフィルムを高分子融点以下の温度で張力が与えられた状態で熱固定させる段階を含む多成分系複合分離膜の製造方法を提供する。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明ではこのような一定の大きさの気孔を有する微細気孔膜上に活性物質を塗布して製造する一般的な複合分離膜及びその製造方法とは異なって、気孔を全く有しない一般フィルム上に活性物質を塗布した後、複合分離膜を製造する新たな概念の複合分離膜及びその製造方法を提示しようとする。
【0013】
本発明では延伸を利用して気孔を形成する一般的な乾式法(dry process)と溶媒を使用する相転移法(phase inversion)を適切に併用して複合分離膜を製造する。また、イオンビーム照射工程を追加する場合、支持層と界面層との間の界面接着力をさらに向上させることができる。
【0014】
一般的な乾式法は高分子結晶部分を一定の方向に配向(orientation)させた後、冷延伸によって相対的に弱い無定形部分を破裂させて気孔を形成する方法であって、結晶部分の均一な配向及び程度によって製造された分離膜の特性が決められる。
【0015】
一方、相転移法は高分子溶液を作った後、温度または非溶媒(nonsolvent)等を適切に使用して高分子と溶媒との相分離を起こさせて気孔を形成する方法であって、相分離条件によって製造された分離膜の特性が決められる。
【0016】
イオンビーム照射工程は一種の表面改質方法で真空中でアルゴン、水素、酸素、窒素、二酸化炭素のような気体をイオン化して高分子表面に衝突させて表面を活性化させた後、他の反応性気体をその表面上に流して高分子表面と反応を起こさせて表面を改質する方法である。
【0017】
本発明では支持層として作用する物質を乾式法工程中の一段階である原板フィルム(precursor film)製造工程で製造した後、活性層として作用する高分子溶液をその原板フィルム上に塗布して、適切な条件下で相分離させた後、再び乾式法工程である延伸法を利用して気孔を形成する。この時、支持層と活性層との間の界面接着力を一層高めるために活性層として作用する高分子溶液を塗布する前に原板フィルムにイオンビーム照射をして表面改質を先に行うことができる。本発明で製造された複合分離膜の場合、支持層として作用する物質及び活性層として作用する物質の全てに気孔を形成する。この時、支持層及び活性層のそれぞれの気孔サイズ及び分布は互いに相異しているが、これは支持層は先に行われた原板フィルム工程によって結晶構造が一定の方向に配向された後、延伸法によって気孔が形成された反面、活性層は相分離によって高分子薄膜が形成された後、延伸法によって気孔が形成される製造工程上の差異に起因するためである。この時、相分離によって形成された高分子薄膜は相分離条件によって緻密な構造、微細亀裂あるいは微細気孔が延伸の前に既に形成されていることが可能であり、またその気孔形成の程度が調節できる。
【0018】
本発明によって製造された複合分離膜の支持層は一般的な乾式法工程を利用して製造された分離膜と同一な物性をもち、活性層はその工程条件によって多様に変化した大きさの気孔を有する。また、延伸法工程のうち高温を使用する高温延伸及び熱固定段階を経るが、このような高温での工程によって支持層と活性層との間の高分子鎖の相互結合(inter-diffusion)が増大して支持層と活性層の間の界面接着力が増加する。このような界面接着力はイオンビーム照射工程を経る場合さらに向上できる。
【0019】
本発明の支持層として用いられる物質は大きい制約がないが、一般的に高密度ポリエチレン(high density polyethylene)、低密度ポリエチレン(low density polyethylene)、線状低密度ポリエチレン(linear low density polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)、高結晶性ポリプロピレン(high crystalline polypropylene)、ポリエチレン−プロピレン共重合体(polyethylene-propylene copolymer)、ポリエチレン−ブチレン共重合体(polyethylene-butylene copolymer)、ポリエチレン−ヘキセン共重合体(polyethylene-hexene copolymer)、ポリエチレン−オクテン共重合体(polyethylene-octene copolymer)、ポリスチレン−ブチレン−スチレン共重合体(polystyrene-butylene-styrene copolymer)、ポリスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(polystyrene-ethylene-butylene-styrene copolymer)、ポリスチレン(polystyrene)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenylene oxide)、ポリスルホン(polysulfone)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリウレタン(polyurethane)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリ塩化ビニリデン(polyvinylidene chloride)、フッ化ポリビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリシロキサン(polysiloxane)、ポリオレフィン(polyolefin)イオノマー(ionomer)、ポリメチルペンテン(polymethyl pentene)、ヒドロゼナテッドオリゴシクロペンタジエン(hydrogenated oligocyclopentadiene:HOCP)、及びこれらの混合物からなる群より選択される1種以上の物質が単独、ブレンド、または積層(lamination)形態で用いられることが好ましい。
【0020】
一方、活性層として用いられる高分子溶液のうちの高分子物質は複合分離膜の最終目的に応じて選択されるが、その例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重合体(polyvinyliden fluoride-hexafluoropropylene copolymer)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)、ポリプロピレンオキサイド(polypropylene oxide)、ポリブチレンオキサイド(polybutylene oxide)、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリアクリレート、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリアミド、ポリアクリールアミド(polyacrylamide)、ポリビニルアセテート(polyvinylacetate)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート(polytetraethylene glycol diacrylate)、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリオレフィンスペースイオノマー及びこれらの誘導体からなる群より選択される1種以上の物質が好ましい。
【0021】
活性層として用いられる高分子溶液のうちの物質に対する溶媒としては、用いられる高分子によって各々異なるが、一般的に1−メチル−2−ピロリドン(1-methyl-2pyrrolidone:NMP)、アセトン(acetone)、エタノール(ethanol)、n−プロパノール(n-propanol)、n−ブタノール(n-butanol)、n−ヘキサン(n-hexane)、シクロヘキサノール(cyclohexanol)、酢酸(acetic acid)、エチルアセテート(ethyl acetate)、ジエチルエーテル(diethyl ether)、ジメチルホルムアミド(dimethyl formamide:DMF)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide:DMAc)、ジオキサン(dioxane)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran:THF)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)、シクロヘキサン(cyclohexane)、ベンゼン(benzene)、トルエン(toluene)、キシレン(xylene)、水(water)及びこれらの混合物からなる群より1種以上選択される物が好ましい。
【0022】
活性層として存在する高分子溶液の塗布及び乾燥条件は次の通りである。つまり、高分子溶液の塗布を従来の分離膜でない気孔が観察されない一般フィルム表面上にディップコーティング方式で塗布し、この時、高分子溶液は濃度が0.01重量%以上であるのが好ましい。また、フィルムに塗布された高分子溶液の乾燥が相対湿度1乃至100%で行われることが好ましく、溶媒等の飽和蒸気圧以下で窒素、酸素、二酸化炭素、空気などを含むガスのうちから選択されたガスで囲まれた雰囲気下で乾燥することが好ましい。この時、高分子溶液の塗布及び乾燥後の厚さが0.1乃至20μmである活性層を形成するのが好ましい。
【0023】
イオンビーム照射条件は10-1乃至10-6torr程度の真空を使用し、電子、水素、ヘリウム、酸素、窒素、二酸化炭素、空気、フッ素、ネオン、アルゴン、クリプトン、N2O及びこれらの混合物を励起させて0.01乃至106keV程度のエネルギーを有するようにした後、原板フィルム表面に照射する。この時、イオン粒子の照射量は105乃至1020ions/cm2が好ましい。また、反応性気体としてはヘリウム、水素、酸素、窒素、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、四弗化炭素、メタン、N2O及びこれらの混合物を含む物が好ましく、注入量は約0.5乃至20ml/分程度が好ましい。
【0024】
本発明の多成分系複合分離膜の製造方法は次の段階を含む。
【0025】
a)支持層原板フィルムの製造:支持層として用いられる高分子をT−ダイ(T-die)または円形管ダイ(tubular die)が取付けられた押出機(extruder)で押出して原板フィルムを製造する。
【0026】
b)アニーリング(annealing):前記製造された原板フィルムの結晶化度及び弾性復元率を高めるために、乾燥オーブンにて高分子融点以下の温度でアニーリングさせる。
【0027】
c)反応性ガスの助けによるイオンビームの照射:高真空に維持された真空槽内に原板フィルムを投入した後、イオン銃(gun)にイオン生成ガスを注入してエネルギーを有する粒子を生成させた後、イオンビーム電流を変化させながらエネルギーを有する粒子を原板フィルム表面の片面または両面全てに照射する。この時、イオン銃に連結された電源装置を調節してエネルギーを有する粒子のエネルギーが0.01乃至106keVとなるようにする。イオンビーム照射と同時に原板フィルムの周囲に反応性ガス注入量を0.5乃至20ml/分で変化させながら、反応性ガス注入機によって反応性ガスを注入して表面を改質させる。このような表面改質段階はアニーリングの前あるいは後いずれにも適用でき、最終複合分離膜物性に応じて施行するか否かを判断する。
【0028】
d)活性層高分子溶液の塗布:活性層として用いられる高分子を適当な溶媒を使用して溶液状態に製造した後、先に製造した原板フィルムの上に塗布する。塗布される原板フィルムはアニーリングの前あるいは後に全て適用できる。また、最終複合分離膜物性により塗布工程に先立って反応性ガスで補強されたイオンビーム照射工程を先行することができる。高分子溶液の濃度及び塗布条件は使用物質及び最終用途に応じて多様に変化できる。
【0029】
e)相転移法による活性層高分子薄膜の形成:原板フィルムの上に塗布が終わった後、適切な乾燥条件で溶媒を蒸発させる。この時、乾燥条件によって活性層高分子薄膜の構造が決定される。
【0030】
f)低温延伸:アニーリングしたフィルムをロール(roll)またはその他の他の延伸機を利用し、常温以下の温度で1軸で延伸させて微細亀裂を生成させる。
【0031】
g)高温延伸:ロールまたはその他の他の延伸機を利用し、支持層及び活性層高分子の溶融点以下の温度で、先にイオンビーム照射及び低温延伸などにより製造された微細亀裂を1軸または2軸延伸させて所望の大きさを有する微細気孔を形成し、またこのような高温延伸を通じて膜の機械的物性を付与する。
【0032】
h)熱固定:前記高温延伸が終わった後、支持層及び活性層高分子の溶融点以下の温度で、張力を受けた状態でそのまま一定の時間熱固定させる。
【0033】
前記段階は最適の物性を有する複合分離膜の製造工程について説明したものであって、所望の最終物性によって一部の段階を省略したり追加工程を付加することができ、各段階のうちの一部は順序も変更できる。
【0034】
以下の実施例及び比較例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明が下記の実施例によって限られるわけではない。
【0035】
以下の実施例及び比較例を通じて製造される微細気孔膜を下記項目に従って評価した。 a)厚さ; b)通気度(air permeability):JIS P8117; c)気孔の大きさ(pore size):SEM、TEM; d)界面接着力:JIS Z 0237;及び e)電解液含浸速度:使用電解液 (エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=EC:DMC=4:6)
【0036】
[実施例1]:高結晶性ポリプロピレン/カイナー461(Kynar461)複合分離膜 支持層としては高結晶性ポリプロピレンを、活性層としてはフッ化ポリビニリデン(PVDF)を使用して原板フィルムを製造し、この原板フィルムを乾式法で延伸して複合分離膜を製造した。
【0037】
(原板フィルム製造) 支持層成分として溶融指数(melt index)0.50g/10分、密度0.91g/cc、DSCで測定された溶融温度166.5℃、結晶化温度134.5℃、結晶化度57%、C13NMRで測定されたアイソタクチシティ98%、キシレンで溶かした後、測定されたアタックチック分率約2%である高結晶性ポリプロピレンを使用しており、高結晶性ポリプロピレン原板フィルム(precursor film)はT−ダイが取付けられた一軸押出機(single screw extruder)及び巻取り装置(take-up device)を利用して製造した。この時の押出温度は220℃、巻取り装置の冷却ロール温度は80℃、巻取り速度は20m/分であり、巻取り比は60であった。
【0038】
(アニーリング) 前記で製造された原板フィルムを乾燥オーブンで150℃の温度で1時間アニーリングした。
【0039】
(塗布) アニーリングの後、アセトンを溶媒として低い結晶化度を有する米国エルフアトケムノースアメリカ(Elf Atochem North America)社のカイナー461を溶かした溶液を、アニーリングが終わった支持層の原板フィルムの上に一般的なディップコーティング(Dip Coating)方式で両面に塗布させた。この時、塗布は大気中で約60%程度の相対湿度を維持する条件で行い、同一な湿度条件でアセトンを蒸発させた。塗布されたカイナー461の厚さは約3μm程度であった。
【0040】
(低温延伸) 塗布が終わった後、フィルムを常温で初期長さに対して50%の延伸倍率に1軸延伸させた。
【0041】
(高温延伸) 低温延伸の後、フィルムを140℃の温度で100%の延伸倍率に高温1軸延伸させた。
【0042】
(熱固定) 高温延伸の後、140℃の温度で張力を受けた状態で10分間熱固定をさせた後、冷却して複合分離膜を製造した。
【0043】
製造された複合分離膜の各種物性を下記の表1に示した。
【0044】
下記の表1を見てみると、比較例のような一般的な方式の分離膜の上にカイナー461を塗布した場合、活性層であるカイナー461では微細気孔が観察されない反面、実施例1の場合は支持層以外に活性層にも微細気孔が形成されたことが見られ(図1及び図2参照)、これにより通気度が著しく改善されたことが分かる。また、支持層と活性層の間の界面接着力が改善されたことが分かる。このようなモルホロジー(morphology)変化及び界面接着力向上のためであると推定される理由により、電解液含浸速度も非常に速くなったことが分かる。
【0045】
[実施例2]:イオンビーム照射工程を含んだ高結晶性ポリプロピレン/カイナー461の複合分離膜 カイナー461(Kynar461)溶液を塗布する前に原板フィルムにイオンビームを照射したことを除けば、前記実施例1と同様な方法で複合分離膜を製造した。前記実施例1と同様な方法で製造された原板フィルムを10-5乃至10-6torrに維持した真空槽に投入した後、アルゴン粒子(Ar+)をイオン銃を利用して原板フィルムの両面に照射すると同時に、フィルムの周囲に反応性ガス(酸素)の注入量を4ml/分にして反応性ガス注入機により注入して表面処理をした。この時、イオンビームのエネルギーは0.5keV、イオン照射量は1016ions/cm2であって。イオンビーム照射工程が終わった後、前記実施例1と同様な方法で複合分離膜を製造した。製造された複合分離膜の各種物性を下記の表1に示した。
【0046】
下記の表1を見てみると、イオンビーム照射工程が含まれない実施例1と同様に支持層及び活性層の全てに気孔が形成されたことが観察され、特に支持層と活性層の間の界面接着力が大きく改善され、電解液含浸速度また大きく改善されたことが分かる。
【0047】
[実施例3]:高密度ポリエチレン/カイナー461の複合膜 支持層として高結晶性ポリプロピレンの代わりに高密度ポリエチレンを使用したことを除けば、前記実施例1と同様な方法で複合分離膜を製造した。用いられた高密度ポリエチレンは溶融指数0.3g/10分、密度0.964g/ccであった。原板フィルムは前記実施例1と同様な方法で製造した。この時の押出温度は200℃、巻取り装置の冷却ロールの温度は80℃、巻取り速度は30m/分、巻取り比は80であった。製造された原板フィルムを乾燥オーブンで125℃において1時間アニーリングさせた。アニーリングの後、実施例1と同様な方法でカイナー461溶液を原板フィルム上の両面に塗布させた。塗布が終わった後、常温で初期長さに対して50%の延伸倍率で1軸延伸させており、この後、引続き120℃において50%の延伸倍率に高温1軸延伸させた。高温延伸の後、120℃において張力を受けた状態で10分間熱固定をさせた後、冷却して複合分離膜を製造した。製造された複合分離膜の各種物性を下記の表1に示した。
【0048】
下記の表1を見てみると、実施例1と類似して支持層及び活性層の全てに気孔が形成されたことが見られ、支持層と活性層の間の界面接着力及び電解液含浸速度も改善されたことが分かる。
【0049】
[比較例1]:セルガード2400(Celgard2400)/カイナー461で構成された複合分離膜 前記実施例1、2及び3とは異なって、一般的な方法である微細気孔膜の上に活性層を塗布した。
【0050】
支持層である微細気孔膜としてはポリプロピレン単独で製造された製品である米国セラニーズ(Celanese)社のセルガード2400を使用しており、活性層は前記実施例1、2、及び3と同一にカイナー461を使用してカイナー461溶液を製造した後、気孔を有するセルガード2400の上にカイナー461溶液を塗布して複合分離膜を製造した。
【0051】
図1及び図2を参照すれば、比較例1で製造された複合分離膜は活性層に気孔が全くない反面、本発明の方法(実施例1)によって製造された複合分離膜は活性層に気孔が形成されていることが分かる。
【0052】
製造された複合分離膜の各種物性を下記の表1に示した。下記の表1を見てみれば、セルガード2400/カイナー461で構成された複合分離膜の通気度は、前記実施例1、2及び3とは異なって殆ど測定できない程度に非常に不良な透過度を見せており、界面接着力及び電解液含浸速度も全て相対的に劣っていることが分かる。
【0053】
【表1】

【発明の効果】
【0054】
既存の一般的な方法で製造された複合分離膜の場合、通気度が殆ど測定できない程度の不良な透過特性を見せた反面、本発明によって製造された複合分離膜は通気度が560乃至620sec/100ccを示すことにより、支持層以外の活性層に既存の緻密な構造形態はもちろん加工条件によって気孔が形成されることができ、またその気孔の大きさを調節することができるので既存の複合分離膜に比べて著しく改善された透過特性を見せる。また、改善された透過特性以外に複合分離膜の外郭層に存在する活性層の特性発現もまた可能になる。つまり、本発明によって製造された複合分離膜の支持層は一般的な乾式法工程を利用して製造された分離膜と同一な物性を有し、活性層はその工程条件によって多様に変化した大きさの気孔を有するようになる。
【0055】
また、既存の一般的な方法で製造された複合分離膜の場合は85gfの界面接着力を示した反面、本発明によって製造された複合分離膜の場合は180乃至250gfの界面接着力を示す。つまり、延伸工程中に高温を使用する高温延伸及び熱固定段階を経るようになるが、このような高温での工程を通じれば支持層と活性層の間の高分子鎖の相互結合が増大して、支持層と活性層の間の界面接着力が増加するようになる。このような界面接着力はイオンビーム照射工程を経る場合はさらに向上することができる。
【0056】
また、このような複合分離膜のモルホロジー及び界面接着力向上などで推定される原因により、電解液含浸速度もまた大きく改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1により製造された複合分離膜の表面に対するSEM結果である。
【図2】比較例1により製造された一般的な複合分離膜の表面に対するSEM結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔の大きさが0.001乃至10μmである支持層と、前記支持層の上下部に気孔の大きさが最大10μmである活性層とを含み、前記支持層は延伸法により気孔が形成されたものであり、前記活性層は相分離により高分子薄膜に形成された後、延伸法により気孔が形成されたものである多成分系複合分離膜。
【請求項2】
前記支持層の成分が高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、高結晶性ポリプロピレン、ポリエチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレン−ブチレン共重合体、ポリエチレン−ヘキセン共重合体、ポリエチレン−オクテン共重合体、ポリスチレン−ブチレン−スチレン共重合体、ポリスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリビニリデンクロライド、フッ化ポリビニリデン、ポリシロキサン、ポリオレフィンイオノマー、ポリメチルペンテン、ヒドロゼネーテッドオリゴシクロペンタジエン(HOCP)、及びこれらの誘導体からなる群から選択された1種以上の高分子である請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項3】
前記高結晶性ポリプロピレンは密度が0.905g/cc以上であり、溶融温度164℃以上、結晶化温度125℃以上、結晶化度50%以上、アイソタクチシティ96%以上、及びアタクチック分率5%未満からなる物性群より選択された1種以上の物性を満足する高結晶性ポリプロピレンである請求項2に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項4】
前記支持層の厚さが1乃至50μmである請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項5】
前記活性層の成分がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリテトラエチレングリコールジアクリラート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニリデンクロライド、ポリシロキサン、ポリオレフィンスペースイオノマー、及びこれらの誘導体からなる群から選択された1種以上の高分子である請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項6】
前記活性層の成分に対する溶媒が1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサン、シクロヘキサノール、酢酸、エチルアセテート、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、水、及びこれらの混合物からなる群から選択された1種以上の溶媒である請求項5に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項7】
前記活性層の厚さが0.01乃至20μmである請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項8】
前記複合分離膜の通気度が7,000秒/100cc以下である請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項9】
前記複合分離膜の電解液(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=4/6)に対する含浸速度が30秒以下である請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項10】
前記支持層が前記請求項2の高分子複数成分のブレンドまたは積層形態で構成される請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項11】
前記多成分系複合分離膜が水処理膜、血液透析膜、酵素精製膜、気体分離膜、透過蒸発膜、逆滲透膜、及び電気分解膜からなる群から選択される用途に使用される請求項1に記載の多成分系複合分離膜。
【請求項12】
前記請求項1記載の多成分系複合分離膜を含む電池隔離膜。
【請求項13】
前記請求項1記載の多成分系複合分離膜を隔離膜として使用するリチウムイオン2次電池またはリチウムイオンポリマー2次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−302359(P2008−302359A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167991(P2008−167991)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【分割の表示】特願2002−503431(P2002−503431)の分割
【原出願日】平成13年6月22日(2001.6.22)
【出願人】(501325004)エルジー・ケミカル・カンパニー・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】