説明

多数の凝固プロテアーゼを同時に決定するための方法

【課題】単一の試験反応物中の、トロンビン、第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子、第XIIa因子、プロテインCa及びプラスミンを含む群から選択される、第一のタンパク質分解性凝固因子及び第二のタンパク質分解性凝固因子の活性を同時に決定するための方法を提供する。
【解決手段】単一の試験反応物中の第一のタンパク質分解性凝固因子の活性及び第二のタンパク質分解性凝固因子の活性を同時に決定するための方法において、前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質とサンプルとを混合し、前記試験反応物中の吸収変化を測光的に決定する方法であって、前記第一の発色性基質が、第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固診断の分野の発明であって、多数の凝固プロテアーゼ類の活性を同時に決定し又は多数の凝固プロテアーゼ類の阻害を同時に決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
確立されている抗凝固療法は、主に、凝固促進性(procoagulatory)凝固因子であるトロンビン(第IIa因子)及び第Xa因子を阻害することを目的とする。凝固因子合成の阻害をもたらす、例えば、クマディン等のビタミンKアンタゴニスト類による経口抗凝固と血流中の活性な凝固因子の阻害による抗凝固とは、区別される。血流中の活性な凝固因子を阻害又は不活性化する抗凝固因子の場合、直接的効果を有する抗凝固剤と間接的効果を有する抗凝固剤とは、区別される。例えば、リバロキサバン、ダビガトラン又はメラガトランのような直接的効果を有する抗凝固剤は、トロンビン又は第Xa因子に結合し、従って高度に特異的である。例えば、ヘパリンのような間接的効果を有する抗凝固剤は、例えば抗トロンビン等の内因性の凝固因子阻害剤に結合し、その抗凝固性効果を何度も繰り返し強化する。
【0003】
血流中で活性な凝固因子を阻害する全ての抗凝固剤は、特定の不活性化パターンによって特徴付けられる。例えば未分画の高分子量ヘパリン等の、特定の分類の物質は、トロンビン及び第Xa因子の両方を阻害する。他の物質は、高度に特異的な効果を有し、即ち、トロンビン(例えば、ヒルジン、ダビガトラン、メラガトラン)又は第Xa因子(例えば、フォンダパリヌクス、リバロキサバン等の五糖類)のいずれかを阻害する。
【0004】
血栓塞栓症疾患の治療の過程において、抗凝固剤を変えることがある。古典的な事例は、足の深部静脈血栓を治療する場合におけるヘパリン(血流中のトロンビン及び第Xa因子の阻害)からクマディン(肝臓での凝固因子合成の阻害)への移行である。治療におけるこのような変化により、血流中のトロンビン及び第Xa因子の相対的な不活性化の程度は、変化し得る。治療及び薬剤投与の管理のためには、トロンビン及び第Xa因子の、活性又は阻害を知ることが重要である。従って、患者の血液中の活性な抗凝固因子トロンビン及び第Xa因子の、活性又は阻害を確実に決定することができるということが必要である。
【0005】
凝固診断では、血液凝固カスケードの機能性を検査するための「包括的試験」と、個別の血液凝固因子の活性を決定するための「個別試験」とが区別される。包括的試験及び個別試験の両方について、異なる試験形式が知られている。試験形式に関して、凝固試験と発色試験とは本質的に区別される。
【0006】
発色試験においては、通常は血漿からなる、試験対象の患者のサンプルを、凝固活性化剤及び凝固因子の基質と混合する。ほとんどの血液凝固因子は、セリンエンドペプチダーゼ、即ち、ペプチド結合を切断し得る加水分解酵素であるので、決定すべき血液凝固因子によって高度に特異的に切断され且つ検出可能なシグナル基を有するペプチド基質が、主に用いられる。好ましくは、測光的に決定される、切断可能な発色性又は蛍光発生的なシグナル基が用いられる。特許文献1及び特許文献2は、例えば、タンパク質分解性凝固因子である第IIa因子(トロンビン)及び第Xa因子を決定するための、多数の発色性ペプチド基質及び凝固診断試験におけるそれらの使用を記載している。特許文献3は、タンパク質分解性凝固因子XIIaを決定するための発色方法を記載している。
【0007】
発色試験は詳細には、特に、患者のサンプルにおける、血液凝固因子の活性を阻害する、抗凝固剤を決定するためにも用いることができる。この目的のために、検査対象の患者のサンプルは、通常、活性化された凝固因子及びこの凝固因子の基質と混合される。サンプル中に存在する抗凝固剤が多いほど、活性化凝固因子は大きく阻害され、切断される基質は少なくなる。
【0008】
市販もされている確立された発色試験においては、特に、発色団であるパラ−ニトロアニリン(pNA)及び5−アミノ−2−ニトロ安息香酸(ANBA)が用いられ、これらは405nmに吸収極大を有する。生じた黄色は、一般的には、測光的に決定される。抗凝固剤を決定する場合、試験反応物中の色濃度はサンプル中の抗凝固剤濃度に反比例する。
【0009】
トロンビン及び第Xa因子の阻害を決定するためには、2つの凝固因子のうちの1つの阻害がそれぞれにおいて決定される2つの個別の試験を行なうことが必要である。単一の試験反応物中の2つの凝固因子の活性又は阻害が同時に決定されることが望ましい。これは、材料の消費及び時間の浪費を減らし且つ同一条件下で両方の決定を行なうという利点を有し、これによって、2つの結果の間の関連を決定するに際して誤差となり得る、試験を行なう際の変動、例えば、ピペッティングの誤差、を回避する。
【0010】
従って、本発明の目的は、単一の試験反応物中のトロンビン及び第Xa因子を同時に決定することを可能にする方法を提供することである。特許文献4は、トロンビン及び線維素溶解系酵素であるプラスミンを同時に決定するための方法であって、蛍光基質が用いられる方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0034122A1号明細書
【特許文献2】米国特許第4,508,644号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0078764A1号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/072602号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の根底にある目的は、第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質及び第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質とをサンプルと混合することによって達成され、ここで前記第一の発色性基質は、第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有する。結果として生じる発色シグナルは、スペクトル的に分離することが可能で、互いに独立して、異なる波長で測光的に決定することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、単一の試験反応物中の第一のタンパク質分解性凝固因子の活性及び第二のタンパク質分解性凝固因子の活性を同時に決定するための方法であって、第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質及び第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質とサンプルとを混合し、前記試験反応物中の吸収変化(色シグナル生成)を測光的に決定し、且つ前記第一の発色性基質が、第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有することを特徴とする方法を提供する。
【0014】
「タンパク質分解性凝固因子」という用語は、凝固促進性(凝固を促進する)、抗凝固性(凝固を阻害する)又は線維素溶解性(血栓分解性)の機能を、哺乳動物、好ましくはヒト、の血液凝固系で有する任意の血漿セリンプロテアーゼを意味する。凝固促進性タンパク質分解性凝固因子は、例えば、第IIa因子(トロンビン)、第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子及び第XIIa因子である。抗凝固タンパク質分解性凝固因子は、例えば、プロテインCa(活性化プロテインC)である。線維素溶解性タンパク質分解性凝固因子は、例えば、プラスミンである。
【0015】
「同時決定」という用語は、単一の試験反応物中において、2つのタンパク質分解性凝固因子を決定することを意味する。
【0016】
本発明の文脈において、「サンプル」は、検出対象のタンパク質分解性凝固因子又は決定対象の凝固因子(単数又は複数)を含むことが疑われる物質を意味する。「サンプル」という用語は、詳細にはヒト又は動物の体液、特に血液又は血漿、を含む。
【0017】
「タンパク質分解性凝固因子に特異的な発色性基質」は、タンパク質分解性凝固因子によって十分な特異性をもって変換され、発色団が特定の基質変換の結果として放出される基質を意味する。特に、活性化された凝固因子のための少なくとも1つの切断部位を有する切断可能な基質は、当業者に十分に公知である。切断可能な基質は、活性化されたタンパク質分解性凝固因子の作用によって分解されて2つの切断生成物を生じる分子であってもよく、この分子は、合成的に、組み換え的に若しくはバイオテクノロジーの方法を用いて調製されたものであるか又は天然の分子である。切断可能な基質は、全体として又は部分的に、ペプチドから構成されていてよい。切断可能な基質は、少なくとも切断部位の領域にペプチド部分を含むのが好ましい。好ましくは、切断可能な基質のペプチド部分は、3〜約150のアミノ酸残基からなる。特許文献1及び特許文献2は、例えば、凝固因子である第IIa因子(トロンビン)及び第Xa因子を決定するための多数の発色性ペプチド基質、それらの調製及び凝固診断試験におけるそれらの使用を記載している。特許文献3は、凝固因子XIIaを決定するための発色方法を記載している。
【0018】
「発色団」は、特定のタンパク質分解性凝固因子の作用によって基質から切断(解離)することができ、基質の切断後に、未切断状態における吸収特性とは異なる吸収特性を有する、シグナル基(「標識」)を意味する。本発明によれば、第一の発色性基質は、切断後に、切断後の第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有する。表1は、公知の発色団の選択、それらの切断後の吸収極大、及び、互いに少なくとも100nm異なる吸収極大を有する発色団の、好ましい組み合わせを示している。好ましい発色団とは、基質からの切断後に、380nm〜780nmの可視波長範囲に吸収極大を有する発色団である。
【0019】
凝固因子の活性は、試験反応物中の吸収変化(色シグナル生成)の測光的な決定によって決定され、この変化は、凝固因子の活性に比例する。「吸収変化の測光的な決定」という用語は、吸収測定を意味し、吸収測定では試験反応物を透過した光線の強度の減少が測定される(透過測定)。色シグナル生成を測定するためには、決定対象の解離された発色団によって吸収される波長領域を選択する。
【0020】
本発明によれば、吸収変化の測光的決定は、用いられる発色団の吸収極大の領域に存在することが好ましい、少なくとも2つの異なる波長での試験反応物の吸収を測定することからなる。或いは、試験反応物は、試験反応物を通過した後にスペクトル的に分解される、白色光で照射してもよい。試験反応物の吸収変化の経時的な測定は、用いられる2つの発色団の吸収極大に対応する波長の光の、短い間隔で交代する、交互パルスによって達成することができる。
【0021】
【表1】

【0022】
特に好ましい発色団は、例えば、カラーインデックスベーシックブルー49(C.I.ベーシックブルー49、CAS登録番号11075−19−7)又はカラーインデックスベーシックブルー124(C.I.ベーシックブルー124、CAS登録番号89106−91−2)等の、フェノキサジン誘導体であり、これらは、約600nmの吸収極大を有し、青色の呈色をもたらす。欧州特許出願公開0258784A2号明細書は、特に好ましいフェノキサジン誘導体及び対応する標識化ペプチド基質を開示している。
【0023】
本発明による方法は、患者の凝固状態を検査する目的で、患者のサンプルに存在する2つのタンパク質分解性凝固因子の活性を同時に決定するために、用いることができる。この目的のために、サンプルは、通常、2つの発色性基質を添加する前に、決定対象のタンパク質分解性凝固因子を直接的又は間接的に活性化する1つ以上の薬剤と混合される。直接の活性化とは、他の凝固因子の存在とは無関係に、決定対象のタンパク質凝固因子を直接活性化する薬剤が用いられるということを意味する。間接的な活性化とは、血液凝固カスケードの1つ以上の血液凝固因子を活性化する薬剤が用いられ、続いて、この血液凝固因子が検査対象のタンパク質分解性凝固因子を活性化するということを意味する。薬剤の種類は、どの凝固因子を決定するか、凝固因子の活性をそれ自体で決定するか否か、又は血液凝固カスケードの機能若しくは血液凝固カスケードの一部分(外部経路又は内在経路)の機能を凝固因子に基づいて決定するか否かに依存する。タンパク質分解性凝固因子の直接的又は間接的活性化を可能にする物質及び種々の物質の特定の混合物は、当業者によく知られており、例えば、例えば負に荷電されたリン脂質等のリン脂質;例えばトロンボプラスチン等のリポタンパク質;例えば組織因子等のタンパク質、例えば第IIa因子(トロンビン)、第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子、第XIIa因子又は活性化プロテインC等の活性化セリンプロテアーゼ;例えば、PROTAC(登録商標)酵素、エカリン、テキスタリン、ノスカリン、バトロキソビン、トロンボサイチン又はラッセルのマムシ毒(RVV)等のヘビ毒;例えば、シリカ、カオリン、エラグ酸又はセライト等の接触活性化因子;を含む。活性化因子を含み得る物質としては、更に、例えば、緩衝物質、塩、洗浄剤、イオン、特にカルシウムイオン、及びキレート剤がある。
【0024】
一実施態様では、フィブリン凝集阻害剤を、試験反応物に更に添加してもよい。フィブリン凝集阻害剤とは、トロンビンの作用によって形成されるフィブリン単量体の会合(重合)を阻害し、それによって、色シグナルの測光的決定を阻害し得る反応混合物中の血餅の形成を防止する物質、特に合成のオリゴペプチド、を意味する(例えば、欧州特許第0456152B1号を参照のこと)。
【0025】
更に、本発明による方法は、患者の抗凝固能力を検査するために患者のサンプルに添加されている2つのタンパク質分解性凝固因子の活性を同時に決定するために用いることができる。この目的のために、患者サンプルと、規定量の少なくとも2つの凝固促進性タンパク質分解性凝固因子及び添加される凝固因子に特異的な2つの発色性基質とを、混合して、凝固因子のタンパク質分解性活性の阻害を決定する。患者の抗凝固能力が大きいほど、即ち、サンプル中に存在する抗凝固剤が多いほど、活性化された凝固促進性の凝固因子の阻害は大きくなり且つ切断される基質は少なくなる。凝固因子のタンパク質分解性活性の阻害は、抗凝固剤を含まない正常なサンプル、例えば正常なヒト血漿、をサンプルとして用いている対照の試験反応物との比較によって定量することができる。
【0026】
どの活性化された凝固因子を添加するかは、どの抗凝固剤を決定するかに依存する。
【0027】
ヘパリン、即ち、高分子量非分画ヘパリン(HMWヘパリン)若しくは低分子量ヘパリン(LMWヘパリン)又はヘパリノイドの決定のためには、第IIa因子(トロンビン)又は第Xa因子を添加することが特に有用である。直接的トロンビン阻害剤、例えば、アルガトロバン、メラガトラン、キメラガトラン、ビバリルジン、ダビガトラン又はヒルジンの決定のためには、第IIa因子(トロンビン)を添加することが特に有用である。直接的第Xa因子阻害剤、例えば、リバロキサバン、の決定のためには、第Xa因子を添加することが特に有用である。
【0028】
本発明は、更に、患者サンプルの抗凝固能力を決定するための試験キットに関する。本発明による試験キットは、規定濃度の第一のタンパク質分解性凝固因子を有する第一の試薬と、規定濃度の第二のタンパク質分解性凝固因子を有する第二の試薬と、
a)前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質を含む第三の試薬;又は
b)前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質を含む第三の試薬及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質を含む第四の試薬とを、備え、ここで、前記第一の発色性基質は、前記第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有する。
【0029】
好ましい試験キットでは、第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質は、パラ−ニトロアニリン及び5−アミノ−2−ニトロ安息香酸を含む群から選ばれる発色団を有し、第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質は、フェノキサジン誘導体を含む群から選ばれる発色団を有するか、又はその逆でもよい。
【0030】
特に好ましい試験キットは、規定のトロンビン濃度を有する第一の試薬と、規定の第Xa因子濃度を有する第二の試薬と、トロンビンに特異的な及び/又は第Xa因子に特異的な発色性基質を含有する少なくとも1つの更なる試薬とを、備え、ここで、トロンビンに特異的な発色性基質は、第Xa因子に特異的な発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有する。この2つの基質は、単一の試薬に存在してもよいし、又は別々の試薬に存在してもよい。好ましくは、このトロンビンに特異的な発色性基質は、パラ−ニトロアニリン及び5−アミノ−2−ニトロ安息香酸を含む群から選ばれる発色団を有し、この第Xa因子に特異的な発色性基質は、フェノキサジン誘導体を含む群から選ばれる発色団を有するか、又はその逆でもよい。
【0031】
本発明による試験キットの試薬は、液体の形態で提供されても凍結乾燥された形態で提供されてもよい。試験キットのいくつか又は全ての試薬が凍結乾燥物として存在する場合には、試験キットは、更に、例えば、蒸留水又は適切な緩衝液等の、凍結乾燥物を溶解するために必要な溶媒を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】リバロキサバン及び/又はアルガトロバンを種々の濃度で富化した正常な血漿サンプル中の第Xa因子活性の阻害[%]を示す棒グラフ(実施例2を参照のこと)。ANBA発色団を有する第Xa因子に特異的なペプチド基質の切断は、405nmの波長で測定した。アルガトロバン(トロンビン阻害剤)濃度とは関係なく、第Xa因子阻害の増大が、リバロキサバン(第Xa因子阻害剤)濃度が増大しているサンプル中で測定されている。
【図2】リバロキサバン及び/又はアルガトロバンを種々の濃度で富化した正常な血漿サンプル中のトロンビン活性の阻害[%]を示す棒グラフ(実施例2を参照のこと)。ベーシックブルー49発色団を有するトロンビンに特異的なペプチド基質の切断は、575nmの波長で測定した。リバロキサバン(第Xa因子の阻害剤)濃度とは関係なく、トロンビン阻害の増大が、アルガトロバン(トロンビン阻害剤)濃度が増大しているサンプル中で測定されている。
【0033】
以下の例示的な実施態様は、本発明による方法を例示するのに役立つものであって、限定するものとして理解されるべきではない。
<<実施例>>
(実施例1)
【0034】
単一反応物中の血漿中のトロンビン活性及び第Xa因子活性の同時決定。
以下の成分を混合して1つの反応物を生成した。
10μLのサンプル
10μLの正常ヒト血漿のプール
40μLの基質試薬(pH4.0のマンニトール緩衝液中の、4mMのZ−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミド、0.8mMのTos−Gly−Pro−Arg−ベーシックブルー49)
100μLの第Xa因子試薬(0.75U/mLのヒト第Xa因子を含有する4.5g/LのTRIS、9g/LのNaCl、0.56g/LのEDTA、pH8.0)
100μLのトロンビン試薬(5U/mLのウシトロンビンを含有する1.2g/LのTRIS、pH8.2)
【0035】
用いたサンプルは、正常なヒト血漿であった。第Xa因子は、第Xa因子に特異的なペプチド基質Z−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミドからANBAを切断し、反応物中の405nmの波長における光学密度を経時的に増大させる。同時に、トロンビンは、トロンビンに特異的なペプチド基質Tos−Gly−Pro−Arg−ベーシックブルー49からベーシックブルー49を切断し、反応物中の575nmの波長における光学密度を経時的に増大させる。
【0036】
405nm及び575nmにおける反応物の光学密度の測定及び反応速度論の評価は、完全自動化Sysmex(登録商標)CS−2000i凝固分析器中で同時に行なった。光学密度を測定するために、反応物に、前述の波長の光を交互に照射し、反応物の呈色によって引き起こされる吸光度を、波長及び時間の関数として決定した。
【0037】
反応速度論における増大は、それぞれの酵素活性と相関する。正常な血漿サンプルに関しては、第Xa因子に特異的な405nmにおける吸光度の変化は、1分あたり0.236であったが、他方、575nmのトロンビンに特異的な吸光度変化は1分あたり0.111であった。
(実施例2)
【0038】
単一反応物中のトロンビン及び第Xa因子の阻害剤の同時決定
正常な血漿について、リバロキサバン(特定の第Xa因子阻害剤)及び/又はアルガトロバン(特定のトロンビン阻害剤)を種々の濃度で富化して、実施例1による方法でサンプルとして用いた。
【0039】
阻害剤を含まない正常な血漿についての反応速度論における増大を、それぞれの酵素活性の100%として規格化した。種々の阻害剤濃度を有する血漿サンプルについての結果を、この参照に基づいて評価した。結果(阻害(%))を表2にまとめる。
【0040】
【表2】

【0041】
この結果から、異なる酵素特異性を有し異なる吸収極大を有する発色団を有する2つの発色性基質の使用によって、単一の反応物中で異なる凝固因子について特異的な阻害剤を、同時に独立して、決定することが可能になることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の試験反応物中の第一のタンパク質分解性凝固因子の活性及び第二のタンパク質分解性凝固因子の活性を同時に決定するための方法において、前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質とサンプルとを混合し、前記試験反応物中の吸収変化を測光的に決定する方法であって、前記第一の発色性基質が、第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一のタンパク質分解性凝固因子及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子が、トロンビン、第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子、第XIIa因子、プロテインCa及びプラスミンを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一又は第二のタンパク質分解性凝固因子がトロンビンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一又は第二のタンパク質分解性凝固因子が第Xa因子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一又は第二の発色性基質が、パラ−ニトロアニリン又は5−アミノ−2−ニトロ安息香酸を発色団として有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一又は第二の発色性基質が、フェノキサジン誘導体を発色団として有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一のタンパク質分解性凝固因子及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子が前記サンプル中に存在し且つ前記凝固因子の活性化のための1つ以上の薬剤の添加によって活性化される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一のタンパク質分解性凝固因子及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子の規定量が前記サンプルと混合され、前記サンプル中の抗凝固剤の濃度が、前記吸収変化の阻害に基づいて決定される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
規定濃度の第一のタンパク質分解性凝固因子を有する第一の試薬と、規定濃度の第二のタンパク質分解性凝固因子を有する第二の試薬と、
a.前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質及び前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質を含む第三の試薬;又は
b.前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第一の発色性基質を含む第三の試薬と、前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な第二の発色性基質を含む第四の試薬とからなる試験キットであり、
前記第一の発色性基質が、前記第二の発色性基質の発色団の吸収極大とは少なくとも100nm異なる吸収極大を有する、発色団を有する、試験キット。
【請求項10】
前記第一のタンパク質分解性凝固因子がトロンビンである、請求項9に記載の試験キット。
【請求項11】
前記第二のタンパク質分解性凝固因子が第Xa因子である、請求項9又は10のいずれか1項に記載の試験キット。
【請求項12】
前記第一のタンパク質分解性凝固因子に特異的な前記第一の発色性基質が、パラ−ニトロアニリン及び5−アミノ−2−ニトロ安息香酸を含む群から選ばれる発色団を有し、前記第二のタンパク質分解性凝固因子に特異的な前記第二の発色性基質が、フェノキサジン誘導体を含む群から選ばれる発色団を有するか、又はその逆である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の試験キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−130338(P2012−130338A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−271313(P2011−271313)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【出願人】(398032751)シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・プロダクツ・ゲーエムベーハー (36)
【Fターム(参考)】