説明

多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器

【課題】
表示体あるいはその背景を多方向に移動し、しかもその移動速度を自在に変化させる。
【解決手段】
本発明は、キー2と、キー2の裏側に、その開口面をキー2と反対側に向けて配置されるドーム状の弾性部材10と、弾性部材10の裏側に配置され、複数の接点電極22a,22bを弾性部材10側に備える基板20と、をその順に配置して成るキーユニット8を複数備え、弾性部材10には、キー2のそれぞれの押圧方向に、複数の接点電極22a,22bと対向して導電性弾性体15を備える多方向スイッチ部材5に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体あるいはその背景を多方向に操作可能な多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータに接続されるキーボードは、通常、文字入力用のキー以外に、カーソル位置の移動あるいは次画面の表示を変更可能な複数の方向キーを備える。方向キーを含めたキーの裏側の例示的な構造としては、例えば、メンブレンスイッチと、スタビライザーと、クリックラバーを備える構造が知られている(例えば、特許文献1を参照)。かかる構造を持つスイッチ部材において、キーの上から押圧すると、キーは、その裏側のクリックラバーを圧縮変形させながら、スタビライザーのX字状部材をその交差角が180度になる方向に折りたたむ状態とする。その結果、クリックラバー付属の押圧部材は、メンブレンスイッチを押圧して電気接点を閉じる。こうして、キーの押圧による入力が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−297177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記構造のスイッチ部材では実現できないキー操作がある。それは、カーソル表示若しくは画面上の表示体を多方向に移動し、しかもその移動速度を自在に変化させる操作である。例えば、ゲームにおいて、キャラクタを移動する場合、表の作成においてカーソルを上下若しくは左右方向に高速移動したい場合には、4つの方向キーを駆使して、上下左右の各方向に一定速度でキャラクタあるいはカーソル等の表示を移動させるか、あるいはアプリケーションにて設定された特定のキー若しくは画面上の特定の箇所を指示して多方向に高速移動するしかない。前者の場合には、操作性に劣り、後者の場合にはアプリケーションによっては高い操作性を確保できないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような要求に鑑みてなされたものであって、表示体あるいはその背景を多方向に移動し、しかもその移動速度を自在に変化させることのできる多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一形態は、キーと、キーの裏側に、その開口面をキーと反対側に向けて配置されるドーム状の弾性部材と、弾性部材の裏側に配置され、複数の接点電極を弾性部材側に備える基板とをその順に配置して成るキーユニットを複数備え、弾性部材におけるキーのそれぞれの押圧方向に、複数の接点電極と対向して導電性弾性体を備える多方向スイッチ部材である。
【0007】
本発明の別の形態は、さらに、上下左右4方向に表示体若しくはその背景を移動する少なくとも4つのキーユニットを備える多方向スイッチ部材である。
【0008】
本発明の形態は、キーと、キーの裏側に、その開口面をキーと反対側に向けて配置されるドーム状の弾性部材と、弾性部材の裏側に配置され、複数の接点電極を弾性部材側に備える基板と、をその順に配置して成るキーユニットを複数備え、弾性部材におけるキーのそれぞれの押圧方向に、複数の接点電極と対向して導電性弾性体を備える多方向スイッチ部材と、多方向スイッチ部材からの入力信号を受けて表示を変化させるように制御する制御部とを備える電子機器であって、制御部に、キーユニットごとに、キーユニットに対して予め設定された方向、およびキーユニットを構成する導電性弾性体が複数の接点電極に接触する面積の大きさに対応したベクトルを生成するベクトル生成手段と、ベクトル生成手段によって生成された複数のベクトルを合成するベクトル合成手段と、ベクトル生成手段によって生成された1つのみのベクトルの方向およびその大きさ、あるいはベクトル合成手段によって生成された合成ベクトルの方向およびその大きさを、ディスプレイに表示される表示体若しくはその背景を移動する方向および速度に変換する移動方向・速度変換手段と、移動方向・速度変換手段により変換した方向および速度に基づき、表示体若しくは背景を移動する移動手段と、を備える電子機器である。
【0009】
本発明の別の形態は、さらに、上下左右4方向に表示体若しくはその背景を移動する少なくとも4つのキーユニットを備える電子機器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表示体あるいはその背景を多方向に移動し、しかもその移動速度を自在に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る多方向スイッチ部材を組み込んだキーボードの正面図および当該多方向スイッチ部材を抜き出した正面図を示す。
【図2】図2は、図1に示す多方向スイッチ部材のA−A線断面図を示す。
【図3】図3は、図2に示すフレキシブル基板およびその直下の基板の平面図である。
【図4】図4は、図1に示す多方向スイッチ部材を構成するキーユニットの側面図を示す。
【図5】図5は、図1に示す多方向スイッチ部材の変形例の図2と同視の断面図を示す。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る電子機器の一例であるパーソナルコンピュータの正面図を示す。
【図7】図7は、図6に示すPCの機器本体に備えられる制御部の例示的なハードウェアの構成を示す。
【図8】図8は、各接点電極群における電圧を変換した信号を正規化するための回路を例示的に示すと共に、その正規化処理を説明するための図である。
【図9】図9は、PCの制御部において表示体を所定の方向および速度に移動するまでの概略的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】図10は、図6に示すパーソナルコンピュータに組み込まれる多方向スイッチ部材内の2つのキーを押圧したときに合成されるベクトルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る多方向スイッチ部材および電子機器の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。また、以下の実施の形態では、多方向スイッチ部材としてキーボードに組み込まれるものを、電子機器としてパーソナルコンピュータを例に説明するが、多方向スイッチ部材は、キーボードに組み込まれるものに限定されず、リモートコントローラー、携帯電話あるいはオーディオ機器を操作するためのスイッチパネルに組み込まれるものなどでも良く、また、電子機器は、パーソナルコンピュータに限定されず、携帯電話、携帯型音楽再生装置、オーディオ機器、カーナビゲーション装置などでも良い。
【0013】
<1.多方向スイッチ部材の実施の形態>
図1は、本発明の実施の形態に係る多方向スイッチ部材を組み込んだキーボードの正面図および当該多方向スイッチ部材を抜き出した正面図を示す。
【0014】
図1に示すキーボード1は、その正面側に、裏面側に向かって押圧して入力可能な多数のキー2を配置する。キー2は、好適には、いくつかのグループに分かれ、グループごとに、キーボード1の表カバー3に貫通して形成される貫通領域4から突出する。この実施の形態では、多方向スイッチ部材5は、表カバー3の裏側にあって図1に示すキーボード1の右下に配置されている。多方向スイッチ部材5は、カバー6の貫通孔7から4個のキー2の上部を突出させた構成を有する。ただし、カバー6は必須の構成ではなく、多方向スイッチ部材5から除外しても良い。多方向スイッチ部材5を構成するキー2は、それぞれ独立に押圧可能であって、キーボード1と電気的に接続されるディスプレイ上の上下左右4方向に表示体若しくはその背景を移動するために押圧操作を行う部分である。この実施の形態では、多方向スイッチ部材5は、上段に3個のキー2と、その下段に1個のキー2とを配置する、いわゆるT字型にキー2を配置している。しかし、キー2の配置および数は、上述の例に限定されることなく、いかなる配置および数でも良い。例えば、4個のキー2を、ある中心から互いに90度の中心角の間隔にて配置しても良い。また、上下左右4方向に加え4つの斜め方向も含めた合計8方向を押圧できるように、8個のキー2を配置しても良い。
【0015】
図2は、図1に示す多方向スイッチ部材のA−A線断面図を示す。
【0016】
図2に示すように、多方向スイッチ部材5を構成するキー2は、その裏側に、開口面をキー2と反対側に向けて配置されるドーム状の弾性部材10を備える。また、弾性部材10の裏側には、2個の接点電極からなる接点電極群22を弾性部材10側に向けて備える基板20が配置される。より詳細には、接点電極群22は、基板20上に配置されるフレキシブル基板21上に形成されている。ただし、フレキシブル基板21は、必須の部材ではなく、接点電極群22を、直接、基板20に形成しても良い。
【0017】
弾性部材10は、キー2を載せる台座11と、台座11から基板20の方向に向かって径を徐々に大きく拡げたドーム部12と、ドーム部12からその周囲に略水平に延出するシート部13とを備える。また、弾性部材10は、ドーム部12の内側であって台座11の直下に、基板20方向に長く延出する突出部14を備える。弾性部材10は、台座11、ドーム部12、シート部13および突出部14を一体構成しているのが好ましいが、それらの内の少なくともいずれか1つの部材を別体とし、接着剤等を介在させて他の部材に接続しても良い。
【0018】
弾性部材10は、突出部14の先端に、接点電極群22と対向して導電性弾性体15を備える。導電性弾性体15は、突出部14から接点電極群22の方向に径を小さくする形状を有する。この実施の形態では、導電性弾性体15は、頂部を接点電極群22の方向に向けた略半球形状を有する。しかし、導電性弾性体15を、突出部14から接点電極群22に向かって細くなる円錐形状あるいは多角錐形状としても良い。さらには、突出部14を設けず、台座11の裏面に、接点電極群22に向かって細くなる先尖形状の導電性弾性体15を固定しても良い。ここで、キー2、導電性弾性体15を備える弾性部材10、および接点電極群22を配置する基板20は、キーユニット8を構成する。多方向スイッチ部材5は、キー2の数と同数のキーユニット8を備える。ただし、基板20および弾性部材10は、複数のキーユニット8に共有の部材であっても良い。
【0019】
多方向スイッチ部材5は、弾性部材10のシート部13を、フレキシブル基板21に接するように配置する。なお、フレキシブル基板21を備えていない場合には、シート部13は、直接、基板20に接して配置される。ドーム部12は、キー2を押圧していない状態において導電性弾性体15が接点電極群22に接しておらず、キー2を押圧した状態において導電性弾性体15が接点電極群22に接するのに適した高さに形成される。導電性弾性体15は、ドーム部12の可撓変形を利用して、上下方向に移動可能である。ドーム部12は、好適に、斜面状にその開口側に向かって拡がる形状を有する。ドーム部12を斜面状に形成した場合には、ドーム部12は、キー2を所定位置まで押し下げるまで一定の抵抗を保持するが、所定位置以上押し込むと一挙に屈曲変形して抵抗を失うように変形可能である。この場合、キー2を押圧するユーザーは、容易に、キー2の押圧感(クリック感)を得ることができる。ただし、ドーム部12は、斜面状に径を大きくする形状に限らず、ドーム部12を湾曲状に径を大きくする形状に構成することもできる。その場合には、キー2の押圧に対して一定の抵抗を保持しながら、導電性弾性体15を接点電極群22に接触させることができる。
【0020】
キー2は、樹脂、金属、ガラス、セラミックスといった材料から好適に構成され、特に、成形容易な熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂あるいはそれらのいずれか2種以上から成るポリマーアロイから好適に構成される。弾性部材10は、キー2からの押圧を受けて弾性変形容易な熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、天然ゴム等から好適に構成され、特に、シリコーンゴムからより好適に構成される。基板20は、好適には、ガラス繊維で編んだクロスにエポキシ樹脂を含浸させたガラスエポキシ製の回路基板である。ただし、基板20の材料として、ガラスコンポジット基板、アルミナ等から成るセラミックス基板を採用しても良い。フレキシブル基板21は、基板20と同様の材料であってその厚みを薄くしたものでも、あるいはキー2および弾性材料10のいずれかと同じ材料からなるフィルム状のものでも良い。
【0021】
導電性弾性体15は、その主要材料である弾性材料に導電性を付与するために、好適に、導電性材料を含有する。導電性材料としては、カーボンブラック、金属等を例示できるが、粒子径が小さいもの(ナノレベルの粒子)を容易に製造でき、かつその取り扱いが容易なカーボンブラックがより好ましい。弾性材料への導電性材料の混合量は、導電性を高めかつ弾性を維持する観点から、弾性材料と導電性材料の総重量に対して5〜50重量%であるのが好ましく、さらには、15〜35重量%がより好ましい。
【0022】
図3は、図2に示すフレキシブル基板およびその直下の基板の平面図である。図3では、キーを点線にて透過的に示す。
【0023】
基板20は、フレキシブル基板21上であって各キー2の直下位置に、1個の接点電極群22を備える。この実施の形態では、接点電極群22は、2つの櫛歯形状の接点電極22a,22bを互いに接触しないように噛み合わせて近接した構成を有する。ただし、接点電極群22が複数の接点電極を非接触に配置し、導電性弾性体15の接触によって当該複数の接点電極を導通させることができる構成を有していれば、それを構成する接点電極の数や形状については問わない。接点電極22a,22bは、金属、カーボン、導電性の樹脂等により好適に形成され、例えば、メッキ、印刷によってフレキシブル基板21上あるいは基板20上に形成できる。
【0024】
この実施の形態では、フレキシブル基板21は、各キー2の少なくとも対向する2辺の裏側に、当該2辺に沿って細長く伸びる2本の溝30を、それぞれ備える。この実施の形態では、溝30は、フレキシブル基板21のみならず、その裏側の基板20の内方に到達する深さにて形成されている。ただし、フレキシブル基板21の厚さが大きい場合には、溝30を基板20に到達しない深さにて形成しても良い。また、フレキシブル基板21を各キー2の投影面積より小さく形成する場合には、そのフレキシブル基板21の外側に溝30を形成する場合もあることから、溝30を基板20にのみ形成しても良い。
【0025】
溝30は、後述するサスペンションアームのアーム先端を挿入して当該アーム先端の移動を可能とする部分であり、各キー2の基板20側への押し込みの際に、各キー2を、基板20に対する平行を保持したまま押圧するために必要な部分である。この実施の形態では、2本の溝30は、各接点電極群22の外側であって、各キー2の対向する2辺の直下にそれぞれ形成されているが、各キー2の四辺の直下にそれぞれ形成されても良い。
【0026】
図4は、図1に示す多方向スイッチ部材を構成するキーユニットの側面図を示す。
【0027】
キー2の対向する2辺の直下であってキー2と基板20との間には、キー2の平行を保持したまま押圧可能にするためのサスペンションアーム40を各辺に対応して1個ずつ備える。サスペンションアーム40は、2本のアーム40a,40bをクロスして、その交点にピン41を挿入し、2本のアーム40a,40bを拡げあるいは縮める方向に可動に構成する。2本のアーム40a,40bの両先端には、回転可能なローラーあるいは回転しない球体に代表される摩擦低減部材42を備える。キー2の裏側であってキー2の対向する2辺には、基板20側に形成される溝30に対向するように、キー2の内方に窪む溝31が形成されている。サスペンションアーム40は、2本のアーム40a,40bの先端を溝30および溝31に挿入した状態にて、キー2と基板20の間にセットされている。溝30および溝31は、キー2の基板20側への押圧とその解除によって摩擦低減部材42が十分に移動可能な距離にて、キー2の裏側および基板20の表側の面に、それぞれ形成されている。キー2を基板20側に押圧すると、サスペンションアーム40を構成するアーム40a,40bは互いに拡がり、摩擦低減部材42は溝30および溝31内の両端側に移動する。一方、キー2の押圧を解除すると、弾性部材10の回復によって、キー2は上昇し、それに伴い、アーム40a,40bは互いに狭まり、摩擦低減部材42は溝30および溝31内の中心側に移動する。各キー2の裏側に配置される2本のサスペンションアーム40は、ほぼ同じ形態であるため、各キー2をその平行を保持したまま上下できる。なお、摩擦低減部材42は必須の構成ではなく、設けなくても良い。
【0028】
図5は、図1に示す多方向スイッチ部材の変形例の図2と同視の断面図を示す。
【0029】
変形例としての多方向スイッチ部材5を構成するキーユニット8aは、弾性部材10aのシート部13とフレキシブル基板21との間に、スペーサー50を備える。弾性部材10aの一部を構成する突出部14aは、好適には、図2に示す突出部14よりも基板20側に延出して形成される。また、スペーサー50の高さ方向の厚みは、キー2を押圧していない状態において導電性弾性体15が接点電極群22に接しておらず、キー2を押圧した状態において導電性弾性体15が接点電極群22に接するのに適した厚みである。なお、フレキシブル基板21を備えていない場合には、スペーサー50は、弾性部材10aのシート部13と基板20との間に介在する。導電性弾性体15は、シート部13および/またはドーム部12の可撓変形を利用して、上下方向に移動する。ドーム部12は、図5に示すように、開口側に向かって斜面状に径を大きくする形状を有するが、かかる形状に限定されず、開口側に向かって湾曲状に径を大きくする形状でも良い。
【0030】
<2.電子機器の実施の形態>
図6は、本発明の実施の形態に係る電子機器の一例であるパーソナルコンピュータの正面図を示す。
【0031】
パーソナルコンピュータ(以後、PCという)60は、機器本体61と、ディスプレイ62を備える蓋部63とを開閉可能に接続する。ただし、PC60は、機器本体61とディスプレイ62とを開閉不能に備えても良い。機器本体61は、先に説明した多方向スイッチ部材5を含むキーボード1を備え、キーボード1からの入力に応じてディスプレイ62内の表示体あるいは背景の表示を変更あるいは移動することができる。また、PC60は、多方向スイッチ部材5に、ディスプレイ62上の上下左右4方向に表示体若しくはその背景を移動する4つのキーユニット8を備える。
【0032】
図7は、図6に示すPCの機器本体に備えられる制御部の例示的なハードウェアの構成を示す。
【0033】
制御部64は、中央処理装置(CPU)71と、読み出し専用のメモリ(ROM)72と、読み書き可能なメモリ(RAM)73と、ビデオRAM(VRAM)74と、電気若しくは電圧の操作でデータの消去若しくは書き換えを可能としたメモリ(EEPROM)75と、インターフェイス(I/F)76とを備える。
【0034】
ROM72は、CPU71の制御用プログラム等の読み出し専用の情報を格納したメモリである。RAM73は、オペレーションシステム(OS)、各種アプリケーションソフト、この実施の形態において、少なくとも、多方向スイッチ部材5内の各キー2に割り当てられた操作方向および当該各キー2の押し込み程度に応じてディスプレイ62内の表示体や背景の表示の移動速度を決定するために必要なコンピュータプログラム等を格納した読み書き可能なメモリである。
【0035】
コンピュータプログラムは、外部のネットワークを経由してPC60にインストールされ、あるいは情報記録媒体をPC60内のスロット(図示せず)に装填することにより制御部64内のRAM73若しくはEEPROM75に格納されるようにしても良い。
【0036】
VRAM74は、種々のデータをディスプレイ62に表示する際に、そのデータを一時的にストックしておくメモリである。EEPROM75も、一時的にデータを書き込んでおくメモリである。インターフェイス76は、制御部64の外部からの信号を受信あるいはその外部に信号を送信する部分である。ここで、「制御部64の外部」には、機器本体61に備えるキーボード1も含まれる。
【0037】
CPU71は、少なくとも、多方向スイッチ部材5からの入力信号を受けて、ディスプレイ62内の表示を変化させるように制御する部分である。より詳細には、CPU71は、キーユニット8ごとに、キーユニット8に対して予め設定された方向、およびキーユニット8を構成する導電性弾性体15が接点電極22a,22bに接触する面積の大きさに対応したベクトルを生成するベクトル生成手段として機能する。また、CPU71は、当該ベクトル生成手段によって生成された複数のベクトルを合成するベクトル合成手段として機能する。また、CPU71は、全ての方向における電圧値が所定の閾値を超えたかどうかを判別する判別手段、さらには、その判別の結果、閾値を超えていないと判断された際には、一定の速度にて、ベクトル生成手段によって生成された1つのみのベクトルの方向若しくは合成ベクトルの方向に表示体若しくはその背景を移動する一定速度移動手段として機能し得る。さらに、CPU71は、ベクトル生成手段によって生成された1つのみのベクトルの方向およびその大きさ、あるいはベクトル合成手段によって生成された合成ベクトルの方向およびその大きさを、ディスプレイ62に表示される表示体若しくはその背景を移動する方向および速度に変換する移動方向・速度変換手段として機能する。移動方向・速度変換手段は、好適に、上記閾値を超えたと判断された際に実行することができる。このようにすれば、多方向スイッチ部材5中のキー2をある程度押し込むまでは、表示体やその背景を加速せず、所定以上押し込むと、表示体や背景をその押し込み量に応じて加速することができる。ただし、かかる閾値を設けずに、押し込み量の多寡を問わずに押し込み量に応じて加速するようにしても良い。また、CPU71は、移動方向・速度変換手段により変換した方向および速度に基づき、表示体若しくは背景を移動する移動手段として機能する。
【0038】
加えて、CPU71は、好ましくは、上記の各ベクトルの生成等に先立ち、各接点電極群22における電圧を、メモリ内の式を用いて信号に変換する信号変換部およびその変換した信号をメモリ内の別の式を用いて正規化する正規化処理部として機能する。ここで、正規化処理は、各信号間の大きさのバラツキの影響を低減させるための処理である。好適には、CPU71は、正規化処理部として、接点電極群22ごとに、各接点電極群22の所定期間内における信号の検出幅に対する、各接点電極群22における信号の相対的な割合を用いて正規化処理を行うことができる。正規化処理は、必須の処理ではなく、より好ましい実施の形態における任意の処理であるが、複数の導電性弾性体15間の抵抗値のバラツキあるいは抵抗値の経時変化を考慮すると、正確な操作方向を検出するために好適な処理である。
【0039】
メモリであるROM72、RAM73およびEEPROM75の内の少なくとも1つには、各導電性弾性体15が各接点電極群22と接触した際の接点電極22a,22b間の電圧を信号に変換するための式(信号変換の式)および当該信号を正規化するための式(正規化の式)が格納されている。信号変換の式としては、例えば、y=−ax+b(y:信号(y>0)、x:電圧(x>0)、aおよびb:正数)、あるいはy=a/x(y:信号(y>0)、x:電圧(x>0)、a:正数)のように、導電性弾性体15が接点電極群22に接触する面積が大きくなり接点電極22a,22b間の電圧が小さくなると信号が大きくなるようにする式が好ましい。正規化の式については、後述する。
【0040】
図8は、各接点電極群における電圧を変換した信号を正規化するための回路を例示的に示すと共に、その正規化処理を説明するための図である。
【0041】
導電性弾性体15は、一種の可変抵抗機能を持つ。各接点電極22a,22b間の電気抵抗値は、導電性弾性体15との接触面積により変化する。基板20若しくはフレキシブル基板21は、抵抗R1と抵抗R2とを直列につなぐ回路を有する。抵抗R1は、可変抵抗77であり、実際には、接点電極群22と導電性弾性体15に相当する。抵抗R2は、固定の抵抗値を持つ抵抗78である。接点電極群22における電圧(VOut)は、A/D変換器79にてデジタル値に変換される。CPU71は、メモリの一例であるRAM73内のコンピュータプログラムを読み、信号変換部として、先に説明した信号変換の式を用いて上記デジタル値を信号に変換し、さらに、正規化処理部として、当該コンピュータプログラム中の正規化の式(下記の数式)を用いて当該信号を正規化する。CPU71は、他の接点電極群22についても、上記と同様に信号の正規化処理を行う。
【0042】
【数1】

【0043】
上記数式中、Signal[1−4](Normalized)は、各接点電極群22における正規化処理後の信号を意味する。Signal[1−4](Maximum)およびSignal[1−4](Minimum)は、それぞれ、メモリ内に記憶されている信号の中の最大値および最小値を意味する。当該最大値および最小値は、導電性弾性体15が押圧によりつぶれる過程で変化する抵抗に基づき生成される多くの信号の中で最大および最小の各値であって、RAM73やCPU71内のメモリに記録されている。ただし、信号は、メモリの空き容量が無くなると古い順に消去される。なお、メモリの容量オーバーではなく、所定期間(例えば、72時間)で、メモリ内の信号を古い順に消去するようにしても良い。Signal[1−4](input)は、導電性弾性体15の接触を通じて検出された電圧値を変換した信号を意味する。Scale Magnitudeは係数である。
【0044】
図9は、PCの制御部において表示体を所定の方向および速度に移動するまでの概略的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0045】
多方向スイッチ部材5内の1以上のキー2を押圧して各キー2の直下の導電性弾性体15を接点電極群22に接触させると、CPU71は、電圧検出部として、A/D変換器79を経由して、各接点電極群22における電圧値を検出する。次に、CPU71は、RAM73内の所定のコンピュータプログラムを読み、信号変換部として、信号変換の式を用いて各接点電極群22における各電圧値から各信号への変換を行う。次に、CPU71は、正規化処理部として、正規化の式を用いて、上記各信号の正規化処理を行う。次に、CPU71は、正規化処理後の信号を利用して、電圧値の検出に関わる接点電極群22ごとにベクトルを生成する(ステップS101)。
【0046】
次に、CPU71は、ベクトル生成手段によって生成されたベクトルが複数存在する場合に、複数のベクトルを合成する(ステップS102)。次に、CPU71は、全ての方向の電圧値が所定の閾値を超えたかどうかを判別する(ステップS103)。その結果、所定の閾値を超えていないと判断された場合には、CPU71は、ステップS102にて決定された合成ベクトルの方向に、一定の速度にて、ディスプレイ62に表示される表示体若しくはその背景を移動する(ステップS104)。一方、ステップS103の判別の結果、所定の閾値を超えたと判断された場合には、CPU71は、ベクトル生成手段によって生成された1つのみのベクトルの方向およびその大きさ、あるいはベクトル合成手段によって生成された合成ベクトルの方向およびその大きさを、ディスプレイ62に表示される表示体若しくはその背景を移動する方向および速度に変換する(ステップS105)。かかる変換は、CPU71がメモリとしてのROM72、RAM73およびEEPROM75の内の少なくとも1つに格納されている変換テーブルを参照あるいは変換式を用いた演算により実行される。次に、CPU71は、上記の移動方向と移動速度にて、表示体若しくはその背景を移動する(ステップS106)。なお、ステップS103、ステップS104を実行せずに、キー2の押し込み量の多寡を問わず、当該押し込み量に応じた速度にて表示体若しくはその背景を移動しても良い。
【0047】
図10は、図6に示すパーソナルコンピュータに組み込まれる多方向スイッチ部材内の2つのキーを押圧したときに合成されるベクトルを説明するための図である。
【0048】
ここでは、4種のキー2は、上方向に移動可能とする上方向キー2a、右方向に移動可能とする右方向キー2b、左方向に移動可能とする左方向キー2cおよび下方向に移動可能とする下方向キー2dである。図10では、キー2の押圧の強さを黒丸の大きさで表している。上方向キー2aと右方向キー2bを、Aにそれぞれ示す強さにて押圧すると、CPU71は、ベクトルV(a)とベクトルV(b)を生成し、ベクトルV(a)とベクトルV(b)を合成する。ここで合成したベクトルをV(A)とする。一方、上方向キー2aと右方向キー2bを、Bにそれぞれ示す強さ(Aにそれぞれ示す強さの2倍)にて押圧すると、CPU71は、ベクトル2V(a)とベクトル2V(b)を生成し、ベクトル2V(a)とベクトル2V(b)を合成する。ここで合成したベクトルをV(B)とする。V(A)とV(B)は、同じ方向のベクトルであるが、大きさだけが異なる。したがって、Aの場合と、Bの場合とを比較すると、表示体あるいはその背景は、同じ方向に移動するものの、Bの場合には、Aの場合よりも大きな速度で移動する。
【0049】
<3.その他の実施の形態>
以上、本発明の多方向スイッチ部材およびそれを備える電子機器の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々変形して実施可能である。
【0050】
例えば、多方向スイッチ部材5は、4個のキー2を備えるものに限定されない。また、導電性弾性体15は、キー2を押圧していない状態において接点電極群22と非接触状態であるのが好ましいが、一部接触していても良い。さらには、当該一部接触する部分は、導電性弾性体15に導電性材料を混合していない領域あるいは外から貼付した非導電性のシール部材としても良い。
【0051】
ベクトル生成手段およびベクトル合成手段は、仮想にてベクトルを生成および合成するようにし、実際にベクトルを生成および合成の処理を行わなくても良い。すなわち、各キー2の押圧に基づき、方向と大きさを演算できれば良い。移動手段は、表示体のみ、その背景のみ、あるいは表示体と背景の両方を移動しても良い。また、回路の構成によっては、接点電極22a,22b間の電圧値ではなく、電流値に基づきベクトルを生成するようにしても良い。正規化処理も同様である。サスペンションアーム40は、必ずしも要しない。また、キー2の平行を保持して押圧できれば、例えば、サスペンションアーム40に代えて、キー2の周囲に当該キー2を挿入可能な筒を配置することもできる。
【0052】
上述の各実施の形態に含まれる複数の構成は、互いに任意に組み合わせることもできる。例えば、表示体やその背景を移動させるのに使用するキー2を8個備える多方向スイッチ部材5をPC60に組み込んでも良い。また、上記の実施の形態では、所定の閾値を設定しておき、多方向スイッチ部材5中の各キー2の押し込み量に対応する電圧値が所定の閾値を超えた場合に、スイッチングが生じ、押し込み量に応じて決定された速度で表示体やその背景を移動できる例を説明したが、所定の時間内に電圧値の変化を検出した場合に、スイッチングが生じ、押し込み量に応じて決定された速度で表示体やその背景を移動しても良い。なお、スイッチングが生じない場合には、表示体やその背景は一定速度で移動する。かかる場合、CPU71は、所定の時間内に電圧値の変化があったかどうかを判別する判別手段と、電圧値の変化が無い場合に、一定の速度で表示体やその背景を移動する一定速度移動手段として機能する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、ディスプレイの表示を制御可能電子機器、およびその操作に利用する操作機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 キーボード
2 キー
5 多方向スイッチ部材
8,8a キーユニット
10,10a 弾性部材
15 導電性弾性体
20 基板
22a,22b 接点電極
60 PC(電子機器の一例)
62 ディスプレイ
64 制御部
71 CPU(ベクトル生成手段、ベクトル合成手段、移動方向・速度変換手段、移動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キーと、
当該キーの裏側に、その開口面を当該キーと反対側に向けて配置されるドーム状の弾性部材と、
当該弾性部材の裏側に配置され、複数の接点電極を上記弾性部材側に備える基板と、
をその順に配置して成るキーユニットを複数備え、
上記弾性部材は、上記キーのそれぞれの押圧方向に、上記複数の接点電極と対向して導電性弾性体を備える多方向スイッチ部材。
【請求項2】
上下左右4方向に表示体若しくはその背景を移動する少なくとも4つの前記キーユニットを備えることを特徴とする請求項1に記載の多方向スイッチ部材。
【請求項3】
キーと、当該キーの裏側に、その開口面を当該キーと反対側に向けて配置されるドーム状の弾性部材と、当該弾性部材の裏側に配置され、複数の接点電極を上記弾性部材側に備える基板と、
をその順に配置して成るキーユニットを複数備え、上記弾性部材における上記キーのそれぞれの押圧方向に、上記複数の接点電極と対向して導電性弾性体を備える多方向スイッチ部材と、
上記多方向スイッチ部材からの入力信号を受けて表示を変化させるように制御する制御部と、
を備える電子機器であって、
上記制御部は、
上記キーユニットごとに、上記キーユニットに対して予め設定された方向、および上記キーユニットを構成する上記導電性弾性体が上記複数の接点電極に接触する面積の大きさに対応したベクトルを生成するベクトル生成手段と、
上記ベクトル生成手段によって生成された複数のベクトルを合成するベクトル合成手段と、
上記ベクトル生成手段によって生成された1つのみのベクトルの方向およびその大きさ、あるいは上記ベクトル合成手段によって生成された合成ベクトルの方向およびその大きさを、ディスプレイに表示される表示体若しくはその背景を移動する方向および速度に変換する移動方向・速度変換手段と、
上記移動方向・速度変換手段により変換した方向および速度に基づき、上記表示体若しくは上記背景を移動する移動手段と、
を備える電子機器。
【請求項4】
上下左右4方向に前記表示体若しくはその背景を移動する少なくとも4つの前記キーユニットを備えることを特徴とする請求項3に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−45577(P2013−45577A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181814(P2011−181814)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】