説明

多方向性粘膜送達装置および使用法

2つ以上の粘膜表面へ活性剤を経粘膜送達するための薬学的剤形に関する。剤形は経粘膜送達装置として提示される。本発明の装置は、少なくとも2つの粘膜付着表面を含み得る。装置はさらに、粘膜付着層の間に配置された中間層を含み得る。医薬は、粘膜付着層または中間層の任意の1つまたはすべてに組み入れることができる。適用の際、装置は少なくとも2つの表面に付着し、少なくとも2つの表面への薬物の経粘膜送達を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年6月23日に出願された米国仮出願第61/074,918号の恩典および優先権を主張する。本出願の内容は本参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【発明の概要】
【0002】
本明細書において開示されるのは、対象への活性剤の経粘膜送達のための方法および薬学的送達装置、ならびにそのような装置を作製する方法である。いかなる特定の理論によっても縛られることは望まれないが、本発明の薬学的送達装置は、活性剤の負荷を増加させ、かついくつかの態様においては、各装置について少なくとも2つの部位における付着および薬物送達を同時に可能にすることにより対象における活性剤の取り込みを増強すると考えられる。例えば、本発明の例示的な薬学的送達装置は、活性剤が両方の粘膜表面を横切って同時に吸収されるように、少なくとも2つの粘膜付着表面を含み得る。
【0003】
本明細書において提供されるのは、薄くかつ柔軟な薬学的送達装置を活性剤を必要とする対象へ投与することにより、活性剤をそれを必要とする対象へ経粘膜的に送達する方法である。装置は、活性剤の経粘膜送達のための第1の粘膜付着表面、および活性剤の経粘膜送達のための、第1の粘膜付着表面と向かい合う第2の粘膜付着表面から構成される。装置はまた、その中に組み入れられた活性剤も含む。第1および第2の粘膜付着表面は、少なくとも1つの薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜層により規定される。投与の際、有効量の活性剤が対象に送達される。両方の粘膜付着表面は活性剤の経粘膜送達のために作製される。ある特定の他の態様において、装置は生体侵食性である。例えば、装置は口腔において侵食され得る。
【0004】
いくつかの態様において、装置は、単一の粘膜付着層の向かい合う面である第1および第2の粘膜付着表面を含む。すなわち、第1および第2の粘膜付着表面は、単一の粘膜付着層により規定される。他の態様において、装置は、第1および第2の粘膜付着表面が少なくとも第1および第2の薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜層により規定される、少なくとも2つの粘膜付着層を含む多層状装置である。第1および第2の粘膜付着表面が2つの最も外側の層の向かい合う面である、ある特定の態様も存在する。
【0005】
いくつかの態様において、装置は少なくとも1つの中間層を含有する。例えば、2つの薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜層を有する装置は、粘膜付着薄膜層の2つの粘膜付着表面が互いに向かい合うように2つの粘膜付着薄膜層の間に配置された中間層を有し得る。
【0006】
いくつかの態様において、装置は、活性剤の乱用が予防されるように乱用防止マトリックスおよび乱用防止マトリックスに付随しているアンタゴニストをさらに含有する。いくつかの態様において、中間層は、アンタゴニストが経粘膜的には実質的に利用不可能であるように、乱用防止マトリックスおよび乱用防止マトリックスに付随しているアンタゴニストを含む。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、第1の粘膜付着層および第2の粘膜付着層の間に配置される。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスのアンタゴニストは装置の中にカプセル化される。ある特定の態様において、アンタゴニストは少なくとも1つの粘膜付着層の中にカプセル化される。いくつかの態様は、装置、たとえば中間層または粘膜付着層のいずれか1つなどにおける、アンタゴニストのマイクロカプセル化を提供する。
【0007】
いくつかの態様において、装置はまた、活性剤に対して閉塞性である、2つの粘膜付着層または粘膜付着表面の間に配置された中間層も含む。中間層は、いくつかの態様において、第1および/または第2の粘膜付着層中に組み入れられた活性剤がその層から他の層中へ拡散しないように閉塞性である。閉塞性の層は、第1の粘膜付着層から第2の粘膜付着層へ、または第2の粘膜付着層から第1の粘膜付着層への活性剤の拡散を妨げる。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは中間層中に組み入れられる。他の態様において、乱用防止マトリックスはカプセル化により中間層中に組み入れられる。
【0008】
活性剤が、第1の粘膜付着層もしくは粘膜付着表面、第2の粘膜付着層もしくは粘膜付着表面、または該層もしくは該表面の任意の組み合わせ中に組み入れられる他の態様もまた提供される。いくつかの態様において、活性剤が乱用性薬物であり得ることが企図され、およびそれが提供される。例えば、活性剤はオピオイドであり得る。適切なオピオイドは、ブプレノルフィン、フェンタニルなどを含む。
【0009】
他の態様において、上記の方法において使用される装置は、活性剤の乱用が予防されるように、乱用防止マトリックスおよび乱用防止マトリックスに付随しているアンタゴニストを含む。アンタゴニストはナロキソンを含み得る。いくつかの態様において、対象は中程度の禁断状態を経験する。
【0010】
方法はまた、活性剤が2つ以上の粘膜表面へ経粘膜的に送達される態様も包含する。他の態様は、粘膜表面への同時または経時的な伝達を提供する。
【0011】
いくつかの態様は、送達装置が粘膜腔(mucosal cavity)の少なくとも2つの表面に付着し、かつ活性剤が粘膜腔の少なくとも2つの表面を横切って拡散するように、対象の粘膜腔へ装置を適用することによる、対象への装置の投与を提供する。
【0012】
いくつかの態様において、有効量の活性剤は約1時間未満で対象に送達される。他の態様において、送達時間は約45分未満、または約30分未満、または約20分未満、または約15分未満である。いくつかの態様において、有効な滞留時間は約20分または約30分である。
【0013】
方法は、装置の投与時に対象が有意な悪心を経験しないある特定の態様を含む。
【0014】
いくつかの態様において、疼痛緩和の開始は約1.0時間未満、または約0.5時間未満、約0.25時間未満、または約0.1時間未満で達成される。
【0015】
いくつかの態様において、装置は、約1.5時間未満のTmaxを達成するようにフェンタニルを直接的に粘膜表面へ送達する。他の態様において、Tmaxは約1時間未満、約0.5時間未満、または約0.25時間未満である。
【0016】
いくつかの態様は、約800μgのフェンタニルが負荷された装置を提供する。ある特定の態様において、Cmaxは、約1.84 ng/mL、2 ng/mL、2.2 ng/mL、または3 ng/mL、または4 ng/mL、または5.95 ng/mL、または5.47 ng/mLである。AUC0-24が約10 時間-ng/mL、12.50 時間-ng/mL、20.22 時間-ng/mL、34.89 時間-ng/mL、または32.63 時間-ng/mL、またはそれ以上である態様もまた提供される。
【0017】
活性剤がフェンタニルであり、かつ装置における負荷されたフェンタニルの約30%、40%、50%、60%、70%、または75%超が粘膜投与時に生物学的に利用可能になる態様もまた提供される。
【0018】
他の態様において、装置における活性剤はブプレノルフィンであり、その量は約0.1 mg〜約60 mgの範囲に渡る。Tmaxはいくつかの態様において約100分未満であり、一方他の態様においては、Tmaxは約80分未満、約60分未満、約30分未満、または約20分未満である。いくつかの態様は、約30%、40%、50%、60%、または70%のブプレノルフィンの生物学的利用可能性を提供する。
【0019】
ある特定の態様において、上記の方法において使用される装置は、約16 mgのブプレノルフィンを含有し、約5.95 ng/mLまたは8.0 ng/mLのCmaxを提供する。いくつかの他の態様において、装置が8 mgのブプレノルフィンを含有する際、Cmaxは約3.0 ng/mLまたは約4.5 ng/mLである。装置が約4 mgのブプレノルフィンを含有する際、ある特定の態様は、約1.84 ng/mLまたは約2.5 ng/mLのCmaxを提供する。
【0020】
本明細書において開示されるいずれかの装置の投与により、ある特定の活性剤、例えばオピオイドへの嗜癖を処置するためのある特定の他の方法もまた、本明細書において提供される。
【0021】
ある特定の他の態様において、疼痛の処置のための方法が提供される。いくつかの態様において、疼痛は癌性突出痛である。
【0022】
ある特定の態様において、上記の方法は、有効量の活性剤を1つの単位用量において対象へ送達する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】単一の薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜層(10)を有し、上部表面(30)および下部表面(40)の両方が粘膜付着できる、例示的な両面性粘膜付着薬学的送達装置の描写である。
【図2】2つの粘膜付着層(10および20)を有し、上部表面(30)および下部表面(40)の両方が粘膜付着できる、例示的な二層状両面性粘膜付着装置の描写である。
【図3】2つの最も外側の粘膜付着層(10および20)を有し、2つの最も外側の層が、向かい合う粘膜付着表面(30および40)を有する、例示的な三層状両面性粘膜付着装置の描写である。上部表面および下部表面が粘膜付着できる。中間層(50)はナロキソンを含み得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
添付の特許請求の範囲の対象をより明らかにかつ簡潔に説明するため、以下の定義は本明細書において使用される用語の意味について手引きを提供するよう意図される。
【0025】
本明細書において使用される際、冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、他に特記されない限り「1つもしくは複数」または「少なくとも1つ」を意味する。すなわち、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」による本発明の任意の要素についての言及は、2つ以上の要素が存在する可能性を排除しない。
【0026】
本明細書において互換的に使用される「乱用性薬物」または「薬物」という用語は、乱用を助長する能力、長期使用での高い耐性、および/または化学的もしくは物理的依存性を有する、任意の薬学的に活性な物質または剤を指す。乱用性薬物は、オピオイド鎮痛剤、例えばオピオイドまたはオピエートなどの疼痛の処置のための薬物を含むが、それらに限定されない。
【0027】
本明細書において使用される際、「アンタゴニスト」という用語は、活性剤が薬理学的効果を生じるのを不可能にし、アゴニスト(例えば乱用性薬物)の機能を特異的なレセプターにおいて阻害し、または反対の薬理学的効果を生じる部分を指す。いかなる特定の理論によっても縛られることは望まれないが、アンタゴニストは一般に、乱用性薬物自体の化学構造を変化させず、むしろ、少なくとも部分的に、対象において、例えばレセプターに結合することおよびアゴニストの効果を妨げる効果により働くと考えられる。アンタゴニストは、特異的な結合部位についてアゴニストと競合することができ(競合的アンタゴニスト)、および/またはアゴニストとは異なる結合部位に結合し、他の結合部位を介してアゴニストの効果を妨げることができる(非競合的アンタゴニスト)。アンタゴニストの非限定的な例は、オピオイド中和抗体;ナロキソン、ナルトレキソン、およびナルメフェンなどの麻薬性アンタゴニスト;スコポラミン、ケタミン、アトロピン、もしくはカラシ油などの不快性もしくは刺激性薬;またはそれらの任意の組み合わせを含む。1つの態様において、アンタゴニストはナロキソンまたはナルトレキソンである。
【0028】
「乱用防止マトリックス」という用語は、乱用性薬物に対するアンタゴニストが付随しているマトリックスを一般に指す。乱用防止マトリックスは、装置を乱用的様式で使用する(例えば、薬物を抽出する試みにおいて水に溶解する、可溶化する、開く、噛む、および/または切り離す)際に、例えば、アンタゴニストが一緒に抽出されて、薬物の効果を変化させるかまたは遮断するように、アンタゴニストを有効に放出するマトリックスである。しかしながら、意図されたように、例えば非乱用的様式で使用する際には、乱用防止マトリックスはアンタゴニストを有効に放出しない。例えば、代わりにアンタゴニストはマトリックス内に保持されて、胃腸管に送達されるが、粘膜および/または胃腸管を通して全身に送達されたいかなる量のアンタゴニストも容易には吸収されず、薬物の効果を有意に遮断または変化させない。
【0029】
本明細書において使用される際、「乱用的様式」という用語は、意図されていない様式での、例えば、非経粘膜的様式、またはさもなければ医師により処方されていない様式での送達装置の使用を指す。いくつかの態様において、乱用的様式は、経口または非経口投与のための送達装置からの薬物の抽出を含む。本明細書において使用される際、「非乱用的様式」とは、意図された目的のための送達装置の使用、例えば、薬物の経粘膜投与を指す。いくつかの場合において、薬物の一部は、意図せずに非経粘膜的に、例えば、装置の一部の溶解を通して経口的に、送達されると考えられる。そのような偶然のまたは意図的でない送達は、乱用的様式での使用を示さない。
【0030】
本明細書において使用される際、対象の「処置」は、疾患もしくは障害、または疾患もしくは障害の症状を予防する、治療する、治癒させる、緩和する、軽減する、変化させる、矯正する、回復させる、改善する、安定させる、または影響を及ぼす目的で(例えば、疼痛を緩和するため)の、対象への薬物の投与を含む。
【0031】
「対象」という用語は、ヒト、イヌ、ネコ、および他の哺乳動物などの生物を指す。本明細書において提供される装置に含まれている活性剤の投与は、対象の処置のために有効な投与量および時間で実行され得る。
【0032】
治療効果を達成するのに必要な活性剤の「有効量」は、対象の年齢、性別、および体重などの要因に従って変動し得る。投与計画は、最適な治療応答を提供するために調整することができる。例えば、いくつかの分割された用量が毎日投与されてもよいし、または、用量は、治療状況の緊急性により示されるように、比例的に削減されてもよい。同様に、乱用性薬物に対するアンタゴニストの有効量は、装置に含まれる乱用性薬物の量などのさらなる要因に従って変動すると考えられる。
【0033】
本明細書において使用される際、本明細書において開示される装置、または装置の任意の層中への活性剤の組み入れに関して使用される際の「組み入れられる」という用語は、経粘膜装置の中に配置された、それに付随した、それと混合された、またはさもなければその一部である活性剤、例えば、多層状装置の1つもしくは複数の層の中の、または装置の層もしくはコーティングとして存在する活性剤を指す。混合、付随、または組み合わせは一定または均質である必要がないことが理解されるべきである。
【0034】
ある特定の局面において、薬学的送達装置は、活性剤をそれを必要とする対象へ経粘膜的に送達するために提供される。装置は、粘膜表面への付着に適するようにさせる粘膜付着特性を有する薄くかつ柔軟な薄膜を含む。例えば、薄膜の特性により、装置を対象の頬側口腔の2つ以上の粘膜表面に付着させることによる対象への活性剤の投与が可能になる。いくつかの態様において、装置は、第1の粘膜表面を横切る活性剤の指向性拡散のための第1の粘膜付着表面;第2の粘膜表面を横切る活性剤の指向性拡散のための、第1の粘膜付着表面と向かい合う第2の粘膜付着表面;および、少なくとも2つの粘膜表面を横切って多方向性拡散するように装置中に組み入れられた少なくとも1つの活性剤を有する、薄い柔軟な薄膜を含む。本明細書において粘膜付着層として互換的に記載される薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜は、少なくとも2つの粘膜付着表面を含む。第1の粘膜付着表面は、第2の粘膜付着表面と向かい合って位置し、それが付着される第1の粘膜表面を横切る、活性剤の指向性拡散を可能にする。第2の粘膜表面に付着される第2の粘膜付着表面は、第2の粘膜表面を横切る活性剤の指向性拡散を可能にする。
【0035】
いくつかの態様において、装置は単一の粘膜付着層を含むが、他の態様において、装置は、2つの粘膜付着層を有する装置などといった多層状装置である。2つの粘膜付着層は、装置が2つの向かい合う粘膜付着表面を保持するように配置される。例えば、二層状装置の2つの層は、2つの最も外側の表面が粘膜付着性であるように、1つを他の上に重ねてコーティングされ得る。多層状装置の調製のために、当業者に公知である任意の他の方法が使用され得ることもまた企図される。例えば、ある特定の積層過程が、多層状装置の調製において使用され得る。
【0036】
他の態様において、装置は、2つの最も外側の粘膜付着表面の間に配置された1つまたは複数の中間層を含む。中間層は、ある特定の態様において装置に安定性を提供するように作製される。他の態様において、中間層は、装置の1つの層からもう1つの層への活性剤の拡散を防止する閉塞性障壁であるように形成される。例えば、装置が2つの粘膜付着層を有する場合、第1および/または第2の粘膜付着層中に組み入れられた活性剤の拡散が他の層中へ広がるのを防止するために、中間層を2つの粘膜付着層の間に置くことができる。閉塞性中間層は、装置の第1の粘膜付着層から装置の第2の粘膜付着層への活性剤の拡散を防止する。中間層はまた、乱用防止マトリックスまたは追加的な活性剤を組み入れるためにも使用され得る。3つ以上の粘膜付着層を有する多層状装置もまた企図される。例えば、装置は2〜10個の層を含有し得る。2つの最も外側の粘膜付着層の間に位置するすべての層が、本明細書において中間層と考えられる。従って、中間層はまた、最も外側の粘膜付着層と全く同一の、または異なる特性を保持する粘膜付着層であってもよい。
【0037】
いくつかの態様において、装置は2つの粘膜付着層および2つの活性剤を含み、第1の活性剤が第1の粘膜付着層中に組み入れられ、かつ第2の活性剤が第2の粘膜付着層中に組み入れられる。いくつかの態様において、装置は2つの粘膜付着層および2つの活性剤を含み、第1の活性剤および第2の活性剤が両方とも第1の粘膜付着層中に組み入れられ、かつ第2の活性剤はまた第2の粘膜付着層中にも組み入れられる。少なくとも1つの層が少なくとも1つの活性剤を有するとすれば、0、1、または2以上の活性剤が、本明細書において開示される装置の各粘膜付着層に含まれ得ることが理解されるべきである。
【0038】
いくつかの態様において、装置は、2つ以上の粘膜付着層、本明細書において記載される1つまたは複数の中間層、ならびに、1つまたは複数の粘膜付着層および/または中間層中に組み入れられた単一の活性剤を含む。いくつかの態様において、装置は、2つ以上の粘膜付着層、本明細書において記載される1つまたは複数の中間層、ならびに、1つもしくは複数の粘膜付着層および/または1つもしくは複数の中間層中に組み入れられた2つ以上の活性剤を含む。
【0039】
いくつかの態様において、装置は、装置が頬粘膜および歯肉組織、または口腔の任意の他の粘膜表面に付着するように、本明細書において記載される2つ以上の粘膜付着層を含む。いくつかの態様において、装置は舌下粘膜に付着する。ある特定の態様において、装置は、例えば、頬の内側(inner cheek)および歯肉、または、頬の内側、頬粘膜、および臼後三角に付着される。さらなる態様において、装置は、例えば、対象の舌の下に投与され、かつ舌および/または小帯の下側ならびに口腔底に付着する。
【0040】
1つの態様において、装置は活性剤としてオピオイドを含む。いくつかの態様はまた、本明細書において考察される層の任意の組み合わせ中に組み入れられたオピオイドおよび対応するアンタゴニストを有する装置も提供する。1つの態様において、アンタゴニストおよびオピオイドは、同一の粘膜付着層に組み入れられ得る。別の態様において、アンタゴニストは第1の粘膜付着層中に組み入れられ、オピオイドは第2の粘膜付着層中に組み入れられる。またさらなる態様において、アンタゴニストは2つ以上の粘膜付着層に組み入れられ、オピオイドは粘膜付着層の1つの中に組み入れられる。さらなる態様において、オピオイドは2つ以上の粘膜付着層に組み入れられ、アンタゴニストは粘膜付着層の1つの中に組み入れられる。1つの態様において、オピオイドは1つまたは複数の粘膜付着層に組み入れられ、アンタゴニストは1つまたは複数の中間層中に組み入れられる。別の態様において、アンタゴニストは1つまたは複数の粘膜付着層に組み入れられ、オピオイドは1つまたは複数の中間層中に組み入れられる。さらなる態様において、オピオイドは1つまたは複数の粘膜付着層および1つまたは複数の中間層中に組み入れられ、アンタゴニストは粘膜付着もしくは中間層の任意の1つの中に組み入れられるか、または粘膜付着層および中間層の任意の組み合わせ中に組み入れられる。さらなる態様において、アンタゴニストは1つまたは複数の粘膜付着層および1つまたは複数の中間層中に組み入れられ、オピオイドは粘膜付着層もしくは中間層の任意の1つの中に組み入れられるか、または粘膜付着層および中間層の任意の組み合わせ中に組み入れられる。そのような態様におけるアンタゴニストは、本明細書においてさらに詳細に記載される乱用防止マトリックスに付随され得る。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは中間層である。他の態様において、乱用防止マトリックスは、装置の中間または最も外側の層のいずれかの中に分配されたアンタゴニストのカプセル化された形態である。ある特定の態様において、オピオイドとアンタゴニストは、剥離または任意の他の機械的手段により分離できないように組み入れられる。
【0041】
本明細書において開示される装置および方法は、一般に活性剤を含む。「活性剤」という用語は、装置中に組み入れられる剤を指し、かつ一般に粘膜付着性を合成するために使用されるポリマーを指さない。活性剤は、生物学的関心対象の特性を有する任意の化合物、例えば、生物の生命過程において役割を有する化合物を含む。活性剤は、有機であっても無機であってもよく、モノマーであってもポリマーであってもよく、宿主生物にとって内因性であってもそうでなくてもよく、天然に存在してもインビトロなどで合成されてもよい。
【0042】
活性剤は、経粘膜および/または舌下送達に適している単一の医薬または複数の医薬の組み合わせを含み得る。医薬は、乱用性薬物、アンタゴニスト、抗炎症鎮痛剤、ステロイド性抗炎症剤、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬、殺菌薬、消毒薬、血管収縮薬、止血薬、化学療法薬、抗生物質、角質溶解薬、焼灼剤、および抗ウイルス薬、抗リウマチ薬、抗高血圧薬、気管支拡張薬、抗コリン薬、アンチメニミック(antimenimic)化合物、ホルモン、および高分子、ペプチド、タンパク質、ワクチン、5-HT3アンタゴニストなどのセロトニンアンタゴニスト、抗不安剤、睡眠薬、5-HTアゴニストなどのセロトニンアゴニスト、または抗片頭痛製品を含むが、それらに限定されない。使用される活性剤の量は、所望の処置の強度および層の組成に依存するが、好ましくは薬学的成分は、装置の重量の約0.001〜約99%、より好ましくは約0.003〜約30%、および最も好ましくは約0.005〜約20%を含む。
【0043】
医薬の例は、アセトアミノフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸モノグリコール、アスピリン、メフェナム酸、フルフェナム酸、インドメタシン、ジクロフェナク、アイクロフェナク(aiclofenac)、ジクロフェナクナトリウム、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、スリンダク、フェンクロフェナク、クリダナク、フルルビプロフェン、フェンチアザク、ブフェキサマク、ピロキシカム、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、クロフェゾン、ペンタゾシン、メピリゾール、塩酸チアラミド、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、フルメタゾン、フルオロメトロン、ベクロメタゾンジプロプリオネート(diproprionate)、塩酸ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸クロルフェニラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸イソチペンジル、塩酸トリペレナミン、塩酸プロメタジン、塩酸メトジラジン、塩酸ジブカイン、ジブカイン、塩酸リドカイン、リドカイン、ベンゾカイン、pブチルアミノ安息香酸2-(ジエチルアミノ)エチルエステルヒドロクロライド、塩酸プロカイン、テトラカイン、塩酸テトラカイン、塩酸クロロプロカイン、塩酸オキシプロカイン、メピバカイン、塩酸コカイン、塩酸ピペロカイン、ジクロニン、塩酸ジクロニン、チメロサール、フェノール、チモール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、ポビドンヨード、塩化セチルピリジニウム、オイゲノール、トリメチルアンモニウムブロミド、硝酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸トラマゾリン、トロンビン、フィトナジオン、硫酸プロタミン、アミノカプロン酸、トラネキサム酸、カルバゾクロム、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、ルチン、ヘスペリジン、スルファミン、スルファチアゾール、スルファジアジン、ホモスルファミン、スルフィソキサゾール、スルフィソミジン、スルファメチゾール、ニトロフラゾン、ペニシリン、メチシリン、オキサシリン、セファロチン、セファロリジン、エリスロマイシン、リンコマイシン、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、メタサイクリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、バシトラシン、サイクロセリン、サリチル酸、ポドフィルム樹脂、ポドリフォックス(podolifox)、カンタリジン、クロロ酢酸、硝酸銀、プロテアーゼ阻害剤、チミジンキナーゼ阻害剤、糖または糖タンパク質合成阻害剤、構造タンパク質合成阻害剤、接着および吸着阻害剤、ならびにアシクロビル、ペンシクロビル、バラシクロビル、およびガンシクロビルなどのヌクレオシド類似体、オンダンセトロン、グラニセトロンおよびパロノセトロン、ベンゾジアゼピン誘導体、ミダゾラム、クロナゼパム、アルプラゾラム、ゾルピデム、エスゾピクロン、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、ナラトリプタン、フロバトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、ならびにプロクロルペラジンを含むが、それらに限定されない。
【0044】
いくつかの態様において、活性剤は乱用性薬物である。いくつかの態様において、乱用性薬物は、オピエートおよびオピオイド、例えば、アルフェンタニル、アリルプロジン、アイファプロジン(aiphaprodine)、アポルノルフィン(apornorphine)、アニレリジン、アポコデイン、ベンジルモルフィン、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、シクロルファン(cyclorphan)、シプレノルフィン、デソモルヒネ、デキストロモルアミド、デキストロプロポキシフェン、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルヒネ、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルヒネ、ジメノキサドール、エプタゾシン、エチルモルヒネ、エトニタゼン、エトルフィン、フェンタニル、フェンカンファミン、フェネチリン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、ヒドロキシメチルモルフィナン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、レボメタドン、レボフェナシルモルファン、レボルファノール、ロフェンタニル、マジンドール、メペリジン、メタゾシン、メタドン、メチルモルヒネ、モダフィニル、モルヒネ、ナルブフィン、ネコモルフィン(necomorphine)、ノルメタドン、ノルモルヒネ、アヘン、オキシコドン、オキシモルフォン、フォルコジン、プロファドール、レミフェンタニル、スフェンタニル、トラマドール、対応する誘導体、生理学的に許容される化合物、塩、および塩基であり得るが、それらに限定されない。いくつかの態様において、活性剤はフェンタニルである。いくつかの態様において、活性剤はブプレノルフィンである。
【0045】
いくつかの態様において、装置は乱用性薬物とアンタゴニストとの組み合わせを含む。乱用性薬物およびアンタゴニストは、当技術分野において公知である任意の乱用性薬物およびアンタゴニスト、例えば本明細書において記載されるものであり得る。ある特定の態様において、装置は、乱用性薬物、例えばオピオイド、およびオピオイドの乱用を妨害するアンタゴニストを含有する。従って、例えば、非経口的注入のための経粘膜装置から乱用性薬物を抽出する違法な使用の試み(例えば、水または他の溶剤において経粘膜装置の一部またはすべてを溶解することによる薬物の抽出による)は、アンタゴニストの共抽出によって阻まれる。アンタゴニストは乱用防止マトリックスに付随される。乱用防止マトリックスは、層またはコーティング、例えば、水で侵食可能なコーティングまたは水で加水分解可能なマトリックス、例えば、イオン交換ポリマー、またはその任意の組み合わせであり得るが、それらに限定されない。従って、1つの態様において、アンタゴニストは、実質的な量が口の中に放出されないような様式でマトリックスに付随される。別の態様において、アンタゴニストは十分に味が隠されている。捕捉および/または味の遮蔽は、マイクロカプセル化などの方法による物理的捕捉、または、例えば、アンタゴニストの粘膜吸収を防止もしくは阻害するポリマー、例えばイオン交換ポリマーの使用による化学的結合法によって達成され得る。いかなる特定の理論によっても縛られることは望まれないが、特定のアンタゴニストについての最適な製剤は、乱用を予防するために必要な割合を理解し、可能な結合機序を評価し、かつアンタゴニストの物理化学的特性を評価することによって決定できると考えられる。いくつかの態様において、アンタゴニストは、腸溶性ポリマー、多糖類、デンプン、またはポリアクリレートにマイクロカプセル化される。マイクロカプセル化はアンタゴニストの経粘膜吸収を実質的に防止することができ、かつ対象がマイクロカプセル化されたアンタゴニストを嚥下することを可能にする。マイクロカプセルのコーティングは、遅延型放出の特徴を提供するよう設計され得るが、剤形を噛むかまたは抽出に供する際などのように、物品または組成物を水性環境に置く際には放出すると考えられる。遅延型放出は、例えば、マイクロカプセル化されたアンタゴニストのためのコーティング材料としてのデンプンまたはpH依存性加水分解ポリマーの使用により達成される。例えば、デンプンは、唾液アミラーゼなどの唾液中に存在する任意の酵素に感受性であると考えられる。いくつかの態様において、アンタゴニストは、マイクロカプセルまたはマイクロスフェアの中にマイクロカプセル化され、その後乱用防止マトリックスに組み入れられる。アンタゴニストを含有するそのようなマイクロカプセルまたはマイクロスフェアは、ポリアクリレートなどのポリマー、多糖類、デンプンビーズ、ポリアセテートビーズ、またはリポソームから構成され得る。さらなる態様において、マイクロスフェアおよびマイクロカプセルは、小腸の特定の部分において放出するように設計される。製品に含有されるアンタゴニストの量は、例えば、薬物単独の非経口投与から予想されるいかなる精神薬理学的効果も遮断するように選択され得る。いくつかの態様において、乱用性薬物はフェンタニルであり、アンタゴニストはナロキソンである。いくつかの態様において、乱用性薬物はブプレノルフィンであり、アンタゴニストはナロキソンである。いくつかの態様において、アンタゴニストは本明細書において記載される乱用防止マトリックスに付随される。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスに付随しているアンタゴニストは、乱用性薬物の経粘膜送達を干渉しない。
【0046】
乱用防止マトリックス中に組み入れらたアンタゴニストは、オピエートまたはオピオイドのアンタゴニスト、例えば、ナロキソン、ナルトレキソン、ナルメフェン、ナリド(nalide)、ナルメキソン、ナロルフィン、ナルフィン(naluphine)、シクラゾシン、レバロルファン、ならびにそれらの生理学的に許容される塩および溶媒化合物を含むが、それらに限定されない。いくつかの態様において、活性剤はナロキソンである。1つの態様において、乱用防止マトリックスは、水溶性ポリマー、例えば、粘膜付着層および/または裏打ち層について記載されたものに類似したポリマーを含むが、アンタゴニストが有意な程度まで粘膜的に吸収されないように装置に付随される。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、層コーティング、例えば、水で侵食可能なコーティングである。すなわち、装置、例えば粘膜付着層におけるアンタゴニストの物理的捕捉は、緩徐に侵食される水溶性ポリマーでコーティングされた障壁層により促進され得る。すなわち、アンタゴニストは、少なくとも部分的にコーティングされ得るか、または水で侵食可能なコーティング内に配置され得る。マイクロカプセル化および粒子コーティングの方法は文献において定義されている。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、物理的捕捉のために使用される材料を含む。そのような材料は、アルギネート、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリラクチド、ポリグリコリド、ラクチド-グリコリドコポリマー、ポリε-カプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物および誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、コラーゲンおよび誘導体、ゼラチン、アルブミン、ポリアミノ酸および誘導体、ポリホスファゼン、多糖類および誘導体、キチン、キトサン生体付着性ポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ならびにそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0047】
いくつかの態様において、装置は、乱用性薬物と、乱用性薬物単独よりも乱用に対して感受性が低いアンタゴニストとを含む。例えば、乱用的様式で使用される際、乱用性薬物は、例えば疼痛緩和剤として、その効力の約50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、または0%しか保持しない可能性がある。従って、乱用的様式で使用される際、乱用性薬物の有効性、例えば常用者において「ハイ」を生じる能力は、対応する量、例えば、約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、または100%削減されると考えられる。
【0048】
乱用防止マトリックスは、装置が非乱用的様式で使用される際にはアンタゴニストを有効に放出しない。いかなる特定の理論によっても縛られることは望まれないが、乱用防止マトリックスに付随しているアンタゴニストは、胃腸管中へ押し流される、例えば嚥下されるであろうため、粘膜を通して有意な量で全身循環に入らないと考えられる。例えば、アンタゴニストは、遊離のアンタゴニスト、または、コーティングされたかもしくは他の方法で捕捉された、例えば、本明細書において記載されるイオン交換ポリマーによりコーティングされた/捕捉された部分のいずれかとして、胃腸管中に押し流され得る。
【0049】
オピオイドとアンタゴニストとを含む従来の剤形、例えば、米国特許第4,582,384号および米国特許第6,227,384号において記載されているものは、典型的に、正しく投与された場合であっても対応するアンタゴニストをオピオイドと共に粘膜中に放出する。これはオピオイドの活性を損ない、患者の十分な処置のために剤形中に求められるオピオイドの量を増加させることがしばしば必要になる。これらの従来の剤形においては、望ましくない併発する症状のリスクもまた、オピオイドアンタゴニストを含有しない剤形と比較して増加する。さらに、そのような剤形が正しく投与された際にオピオイドアンタゴニストの大部分を放出することによる患者へのストレスをさらに増加させないことが望ましい。
【0050】
いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、層またはコーティング、例えば、アンタゴニストの周囲に少なくとも部分的に配置された水で侵食可能なコーティングまたは層である。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、水で加水分解可能、水で侵食可能、または水溶性のマトリックス、例えばイオン交換ポリマーである。コーティングまたは水で加水分解可能なマトリックスは、上述された粘膜付着層よりも緩徐に溶解するように選択され得る。コーティングまたは水で加水分解可能なマトリックスは、アンタゴニストを全く放出しないよう十分緩徐に溶解するように、追加的にまたは代替的に選択され得る。
【0051】
乱用防止マトリックスは、部分的に架橋されたポリアクリル酸、ポリカルボフィルプロビドン(providone)で架橋されたカルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、キトサン、Amberlite(商標)1RP69、Duolite(商標)AP143、AMBERLITE 1RP64、AMBERLITE 1RP88、およびそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。他の態様において、乱用防止マトリックスは、アルギネート、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリラクチド、ポリグリコリド、ラクチド-グリコリドコポリマー、ポリε-カプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物および誘導体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、コラーゲンおよび誘導体、ゼラチン、アルブミン、ポリアミノ酸および誘導体、ポリホスファゼン、多糖類および誘導体、キチン、またはキトサン生体付着性ポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ならびにそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。ポリマー、層、コーティング、および水で加水分解可能なマトリックスは例示的であり、さらなる乱用防止マトリックスが本開示の教示を用いて構想され得ることが理解されるべきである。
【0052】
いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、1つまたは複数の粘膜付着層および/または中間層中に組み入れられる。いくつかの態様において、装置が多層ディスクまたはフィルムである場合、乱用防止マトリックスは層であるか、または、粘膜付着層の間に配置された中間層中に組み入れられる。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは中間層である。いくつかの態様において、乱用防止マトリックスは、1つまたは複数の粘膜付着層および/または中間層よりも緩徐な速度で侵食される。
【0053】
装置を乱用的に溶解する場合、例えば、アンタゴニストおよび乱用性薬物は実質的に同一の速度で放出される。例えば、アンタゴニストおよび乱用性薬物を水に溶解する際には、両方とも実質的に同一の速度で放出される。他の態様において、放出される薬物に対する放出されるアンタゴニストの比は約1:20以上である。
【0054】
本明細書において考察される態様の任意の装置中に組み入れられたアンタゴニストは、経粘膜的には実質的に利用不可能である。従って、薬物を含有する装置の、処方された経粘膜投与は、活性剤の利用可能性に影響を及ぼさないと考えられる。「経粘膜的には実質的に利用不可能」という句は、組成物および装置におけるアンタゴニストが、非乱用的様式で使用される際に、乱用性薬物の効力に影響を全くまたはほとんど及ぼさない量において経粘膜的に利用可能であるという事実を指す。いかなる特定の理論によっても縛られることは望まれないが、アンタゴニストは、他の投与経路(例えば、嚥下または溶解)では依然として利用可能であるが、経粘膜的に全身に入ることは防止されるかまたは緩徐にされ、そのため、経粘膜組成物において乱用性薬物が効果的に作用することを可能にするが、乱用的様式での組成物の使用は妨げると考えられる。すなわち、本明細書において開示される組成物が乱用される際には、アンタゴニストは乱用性薬物の効力に影響を及ぼすことが理解されるべきである。非乱用的状況において、アンタゴニストは、例えば嚥下した際、影響を全くまたはほとんど及ぼさない。いくつかの態様において、(乱用性薬物に対する重量で)約25%未満のアンタゴニストが非乱用的に、例えば経粘膜的に送達され得る。他の態様において、約15%未満、5%未満、2%未満、または約1%未満のアンタゴニストが経粘膜的に送達される。
【0055】
従って、組み入れられたオピオイドの乱用を禁止、阻止、または予防する、オピオイドの投与のための両面性粘膜付着装置の使用についての方法が提供される。上述されたアンタゴニストは、粘膜投与による以外の手段により摂取される際にはオピオイドの効果を抑制するように作用する。いくつかの態様において、対象によるアンタゴニストの体循環中への吸収の程度は、重量で約15%未満である。いくつかの態様において、薬物の投与量は約50〜約10 mgである。
【0056】
可塑剤、着香剤および着色剤、ならびに保存料もまた、最も外側の粘膜付着層または中間層のいずれかに含まれ得る。各々の量は、薬物または他の成分に依存して変動し得るが、典型的にはこれらの成分は、装置の総重量の50%以下、好ましくは30%以下、最も好ましくは15%以下を構成する。いくつかの態様において、装置は不活性化剤を含む。他の態様において、装置は不活性化剤を実質的に含まない。本明細書において使用される際、「不活性化剤」という用語は、剤形の乱用の可能性を減少させるために乱用性薬物を不活性化させるかまたは架橋する化合物を指す。不活性化剤の例は、重合剤、光開始剤、およびホルマリンを含む。重合剤の例は、ジイソシアネート、ペルオキシド、ジイミド、ジオール、トリオール、エポキシド、シアノアクリレート、およびUV活性化モノマーを含む。
【0057】
本開示の範囲により包含される装置はまた、薬学的に許容される溶解速度改変剤、薬学的に許容される崩壊助剤(例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、ポリカルボフィル、カルボキシメチルセルロース、またはポロキサマー)、薬学的に許容される可塑剤、薬学的に許容される着色剤(例えば、FD&C Blue #1)、薬学的に許容される乳白剤(例えば、二酸化チタン)、薬学的に許容される抗酸化薬(例えば、酢酸トコフェロール)、薬学的に許容されるシステム形成賦活薬(system forming enhancer)(例えば、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドン)、薬学的に許容される保存料、着香料(flavorant)(例えば、サッカリンおよびペパーミント)、中和剤(例えば、水酸化ナトリウム)、緩衝剤(例えば、リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸三ナトリウム)、またはそれらの組み合わせも任意で含み得る。好ましくは、これらの成分は装置の最終的な重量の約1%以下で個々に存在するが、その量は装置の他の成分に依存して変動し得る。
【0058】
装置はまた、軟化するため、靭性を増加させるため、柔軟性を増加させるため、成形特性を改善するため、および/または装置の特性を改変するために、1つまたは複数の可塑剤も任意で含み得る。本態様における使用のための可塑剤は、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジグリセロール、ポリエチレングリコール(例えば、低分子量PEG)、オレイルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ならびに標準の大気圧で約100℃を上回る沸点を有する他の医薬品グレードのアルコールおよびジオールなどの、比較的低い揮発性を有する可塑剤をさらに含み得る。さらなる可塑剤は、例えば、ポリソルベート80、トリエチルタイトレート(triethyl titrate)、アセチルトリエチルタイトレート(acetyl triethyl titrate)、およびトリブチルタイトレート(tributyl titrate)を含む。さらなる適切な可塑剤は、例えば、ジエチルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、グリセリントリアセチン、およびトリブチリンを含む。さらなる適切な可塑剤は、例えば、鉱油(例えば、軽油)およびワセリンなどの医薬品グレードの炭化水素を含む。さらなる適切な可塑剤は、例えば、中鎖トリグリセリド、大豆油、紅花油、落花生油、および他の医薬品グレードのトリグリセリドなどのトリグリセリド、Labrifil(登録商標)、Labrasol(登録商標)、およびPEG-4蜜蝋などのPEG化されたトリグリセリド、ラノリン、ポリエチレンオキシド(PEO)および他のポリエチレングリコール、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、セチルエステルワックス、モノラウリン酸グリセリル、およびモノステアリン酸グリセリルなどの疎水性エステルを含む。
【0059】
1つまたは複数の崩壊助剤は、対象となる装置の崩壊速度を増加させるため、および滞留時間を短縮するために任意で使用され得る。本明細書において有用な崩壊助剤は、例えば、水、メタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールなどの低級アルキルアルコール、アセトン、メチルエチルアセトンなどの親水性化合物を単独または組み合わせで含む。特定の崩壊助剤は、グリセリン、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなどの、より低い揮発性を有するものを含む。
【0060】
1つまたは複数の溶解速度改変剤は、本明細書において提供される装置の崩壊速度を減少させるため、および滞留時間を延長するために任意で使用され得る。有用な溶解速度改変剤は、ヘプタンおよびジクロロエタンなどの疎水性化合物、C6〜C20のアルコールでエステル化されたコハク酸およびクエン酸などのジ-およびトリカルボン酸のポリアルキルエステル、安息香酸ベンジルなどの芳香族エステル、トリアセチン、プロピレンカーボネート、ならびに同様の特性を有する他の疎水性化合物を含む。これらの化合物は装置において単独または組み合わせで使用され得る。対象となる装置の滞留時間は、製剤において使用される、水で侵食可能なポリマーの侵食速度およびそのそれぞれの濃度に依存する。侵食速度は、例えば、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどの、異なる溶解性の特徴を有する成分または化学的に異なるポリマーを混合することにより;低分子量および中程度の分子量のヒドロキシエチルセルロースを混合するなど、同一のポリマーの異なる分子量グレードを使用することにより;種々の親油性値または水溶性の特徴の賦形剤または可塑剤(本質的に不溶性の成分を含む)を使用することにより;水溶性の有機および無機塩を使用することにより;部分的架橋のためにグリオキサールなどの架橋剤をヒドロキシエチルセルロースなどのポリマーと共に使用することにより;または、一旦得られた後、薄膜の物理的状態をその結晶化度または相転移を含めて変化させ得る、処理後の放射線照射または硬化により、調整され得る。これらの戦略は、装置の侵食動態を改変するため、単独または組み合わせで使用され得る。
【0061】
いくつかの態様において、装置は生体侵食性である。侵食性成分を使用することで、医薬を適用部位に留まらせながら、装置を、担体を溶解または侵食して取り去る天然の体液により長期間に渡って侵食させることができる。絆創膏および他の、水で侵食可能でない薄膜システムとは異なり、本装置の使用者は処置後に装置を除去する必要がない。また、適用時に水の吸収により装置が軟化し、かつ時間が経つにつれて装置が緩徐に溶解または侵食されて消えることから、使用者は、粘膜表面または体腔内で異物の存在のいかなる実質的な感覚も経験しない。いくつかの態様において、装置は口腔において侵食される。いくつかの態様において、装置はいかなる実質的な残渣も残さず、したがって、対象が他の装置の投与から経験する可能性がある悪心の有意な低減に貢献する。本明細書において使用される際、「生体侵食性」という用語は、装置の固体または半固体部分を、悪心などの全身性刺激を引き起こすことなく嚥下できる程度に小さくなるように、表面侵食、生体侵食、および/またはバルク分解により十分に分解することを可能にする装置の特性を指す。バルク分解は、材料、例えばポリマーが、マトリックス全体を通して極めて均一な様式で分解する過程である。これは物理的特性の即時変化なしに分子量(Ms)の減少をもたらし、続いて、装置が唾液または水に溶解性の形態へ変換するよりも急速に唾液または水が装置中へ浸透するために、断片化が起きる。生体侵食または表面侵食は一般に、唾液または水が材料へ浸透する速度が、材料が唾液または水に溶解性の物質へ変換する速度より緩徐である際に起きる。生体侵食は一般に、バルク完全性は維持されるが、時間が経つにつれて材料の菲薄化をもたらす。「生体侵食性」は、装置全体を指し、必ずしも個々の成分を指さないことが理解されるべきである。例えば、アンタゴニストがマイクロカプセル化またはコーティングされ、その後、本装置の1つに組み入れられた場合、マイクロカプセルまたはコーティングは生体侵食性であってもまたはなくてもよいが、装置が侵食された際に無傷のマイクロカプセルまたはコーティングされたアンタゴニストが嚥下されるように、装置は全体として生体侵食性であり得る。装置が侵食されて、マイクロカプセルまたはコーティングされたアンタゴニストが無傷で、すなわち粘膜を横切ることなく、胃腸管に送達され得るため、これは有利であり得る。「生体侵食性」という用語は、酵素的および非酵素的加水分解、酸化、酵素的に補助された酸化、摩耗、分解、および/または溶解などの材料除去の多くの方式を包含するように意図される。いかなる特定の理論によっても縛られることは望まれないが、生体侵食性装置は、そのような装置が使用後に除去される必要がないため有利であると考えられる。
【0062】
生体侵食性材料は、一般に、特定の適用のための十分な滞留時間または機能的寿命を提供する分解特徴を基礎として選択される。いくつかの装置において、約1分〜約10時間の機能的寿命が適切であり得る。いくつかの態様において、機能的寿命は約20分である。いくつかの態様において、機能的寿命は、約5分、約10分、約15分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、または約10時間である。本明細書において列挙される範囲および値の間に入るすべての範囲および値は、本明細書において開示される本装置態様により包含されるように意味される。例えば、約5分〜約45分、約6分〜約53分、約13分〜約26分の滞留時間はすべて本明細書に包含される。より短いまたはより長い期間もまた適切であり得る。
【0063】
生体侵食性材料は、ポリマー、コポリマー、およびポリ酸無水物の混合物(例えば、融解縮合、溶液重合を用いて、またはカップリング剤の使用により作製したもの、芳香族系酸、脂肪族系二酸、アミノ酸、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびにそれらのコポリマー);エポキシ末端ポリマーの酸無水物とのコポリマー;ポリオルトエステル;乳酸、グリコール酸を含むa-ヒドロキシ酸、-カプロラクトン、yブチロラクトン、および-バレロラクトンのホモ-およびコポリマー;a-ヒドロキシアルカノエートのホモ-およびコポリマー;ポリホスファゼン;ポリオキシアルキレン、例えば、アイルセン(ailcene)が1〜4の炭素である場合は、ホモポリマーおよびグラフトコポリマーを含むコポリマーとして;偽ポリ(アミノ酸)を含むポリ(アミノ酸);ポリジオキサノン;ならびにポリエチレングリコールと上記のいずれかとのコポリマーを含むが、それらに限定されない。
【0064】
本発明はまた、薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜から部分的に形成された装置も提供する。装置および薄膜は生体侵食性である。薄膜の調製は、ある特定の局面において、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、部分的に架橋されていてもよいしまたはされていなくてもよいポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、およびポリビニルピロリドン(PVP)、またはそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない水溶性ポリマーを使用する。他の粘膜付着生体侵食性ポリマーもまた本発明において使用され得る。粘膜付着層は、少なくとも1つの、薄膜を形成する水で侵食可能なポリマー(「薄膜形成ポリマー」)、およびその生体付着能力について公知である少なくとも1つの薬理学的に許容されるポリマー(「生体付着ポリマー」)を含み得る。薄膜形成ポリマーは、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、コラーゲンおよび誘導体、ゼラチン、アルブミン、ポリアミノ酸および誘導体、ポリホスファゼン、多糖類および誘導体、キチン、ならびにキトサンを、単独または組み合わせで含み得る。好ましくは、薄膜形成ポリマーはヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースを含む。好ましくは、ヒドロキシエチルセルロースの場合、平均分子量(固有粘度測定より推定されたMw)は102〜106の範囲、およびより好ましくは103〜105の範囲であり、一方ヒドロキシプロピルセルロースの場合には、平均分子量(分子ふるいクロマトグラフィー測定より取得されたMw)は50×103〜1.5×106の範囲、およびより好ましくは80×103〜5×105である。付着層における薄膜形成ポリマーに対する生体付着ポリマーの比は、使用される医薬のタイプおよび医薬の量に依存して変動し得る。
【0065】
いくつかの態様において、中間層は一般に、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマー、またはそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない、生体侵食性で薄膜を形成する薬学的に許容されるポリマーから構成される。中間層は、当技術分野において公知である他の水溶性の薄膜形成ポリマーを含み得る。そのような層に適切なポリマーを含む例示的な層はまた、本参照により本明細書に全体が組み入れられる米国特許第5,800,832号および第6,159,498号にも記載されている。
【0066】
本発明の装置は種々の形態を含み得る。例えば、装置はディスクまたは薄膜であり得る。1つの態様において、装置は粘膜付着ディスクを含む。本発明の方法および装置の1つの態様において、装置は柔軟な装置である。本発明の装置の厚さは、固体薄膜またはディスクとしての形態において、層の各々の厚さに依存して変動し得る。典型的には、厚さは約0.005 mm〜約3 mm、およびより詳細には約0.05 mm〜約0.5 mmの範囲に渡る。装置が多層状である際には、各層の厚さは装置の全体の厚さの約10%〜約90%に変動し得、および詳細には装置の全体の厚さの約30%〜約60%に変動し得る。
【0067】
いくつかの態様において、従来の錠剤または口内錠装置と比較すると、装置の薄さおよび柔軟性のために舌触りが相対的に最小であり、不快感がほとんど無い。これは粘膜の炎症を有する患者および/またはそうでなくても従来の装置を快適に使用できない可能性がある患者にとって特に有利である。本発明の装置は、粘膜の非炎症領域に付着することができて、かつなお有効であり得る程度に、すなわち粘膜を本発明の装置で拭き取る必要がない程度に、十分小さくかつ柔軟である。
【0068】
種々の態様において、本発明の装置は、対象への活性剤の送達を可能にする形態であるという条件で、シートまたはディスク、側面または横断面において円形または四角形などといった任意の形態または形状であり得る。いくつかの態様において、本発明の装置は、ある特定の投与量を表すために刻み目を入れたり、穴を開けたり、または別の方法で印をつけたりすることができる。
【0069】
本発明の装置は、粘膜投与の任意の方法に適応させることができる。本発明のいくつかの態様において、装置が頬側投与および/または舌下投与に適応される方法が提供される。ある特定の方法において、本明細書において提供される装置は、装置を粘膜表面に付着することによりそれを必要とする対象へ投与される。例として、装置は疼痛を処置する方法において使用され得、ここで、装置を対象の任意の粘膜表面に貼るかまたは付着させ、装置の2つの粘膜付着表面を2つ以上の粘膜表面に貼ってもよい。組み入れられた活性剤は、粘膜付着表面を横切って装置から、粘膜表面を横切って粘膜表面へ拡散により経粘膜的に送達され、全身に循環する。また、本発明の両面性粘膜付着装置を炎症を起こしているかまたは損傷を受けた組織に適用することにより、炎症を起こしているかまたは損傷を受けた粘膜組織を局所的に防護する方法も提供される。活性剤は防護される部位に局所的におよび/または全身的に投与され得る。
【0070】
他の局面において、2つ以上の粘膜表面への活性剤の経粘膜送達のための方法が、本明細書において考察される装置のいずれかを用いて提供される。活性剤は、装置から2つ以上の付着部位へ同時的、実質的に同時的、または経時的のいずれかで拡散し得る。ある特定のさらなる態様において、付着点への拡散は同時的である。いくつかの態様において、方法は、送達装置が粘膜腔の少なくとも2つの表面に付着し、かつ活性剤が粘膜腔の少なくとも2つの表面を横切って拡散するように、本明細書に記載の本願装置を対象の粘膜腔へ適用する段階を含む。
【0071】
いくつかの態様において、本発明は、ある投与量の活性剤を用いて対象、例えばヒトにおける疼痛を処置するための方法を目的とする。方法は、本明細書における望ましい放出プロファイルのいずれかを用いて、本明細書において列挙される装置のいずれかを使用することができる。いくつかの態様において、活性剤は約1時間未満、約30分未満、約20分未満、または約10分未満で対象に送達される。いくつかの態様において、活性剤は全身に送達される。単一の理論により縛られることは望まれないが、本明細書において記載される本発明の両面性粘膜付着装置は、複数の粘膜付着表面において利用可能な複数の付着点により、対象に対する活性剤の生物学的利用可能性の改善を促進すると考えられる。典型的に予想される悪心副作用が減少することもまた見出され得る。本発明はまた、装置中に負荷され得る活性剤の量が従来の装置を用いるよりも実質的に多い装置も提供する。例えば、本発明は、約800μgまで、約1000μgまで、約1200μgまで、約1400μgまで、または約1600μgまでのクエン酸フェンタニルを装置中に負荷し得ることを可能にする。活性剤がブプレノルフィンである態様において、活性剤負荷は0.01 mg〜約60 mg、およびより好ましくは0.1 mg〜30 mgの範囲に渡る。
【0072】
本明細書において提供される装置における使用が企図されるオピオイドを含めて、疼痛の処置において使用されるある特定のオピオイドの嗜癖的性質のため、本明細書に記載の方法および装置の使用により嗜癖が緩和され得ることが見出されている。従って、本明細書において提供される装置のいずれかを使用して対象にオピオイドを投与することにより、本明細書において提供されるオピオイドに対する嗜癖の処置のための方法が本明細書において提供される。例えば、両面性粘膜付着装置に乱用防止マトリックスが含まれる態様が提供される。乱用防止マトリックスは、乱用的使用を予防、阻害、または阻止する。乱用防止マトリックスは、その中に含有された処方量のオピオイドが経粘膜投与により提供されるように調製される。しかしながら、装置を溶解して、溶解したオピオイドを注射するなどの手段により、常用者が、処方された投与量より多くを投与しようと試みる場合は、乱用防止マトリックスがオピオイドを実質的に無効にする。従って、処方された使用は促進されるが、可能性のある乱用は阻止されると考えられる。
【0073】
2つの付着点はまた、疼痛緩和の開始を約0.5時間未満、約0.3時間未満、約0.2時間未満、または約0.1時間未満で達成するように装置が活性剤を粘膜へ送達することも可能にする。本明細書において記載される両面性粘膜付着装置上で利用可能な2つの付着点は、約1.75時間未満、約1.5時間未満、約1.0時間未満、約0.5時間未満、または0.25時間未満のTmaxを達成する、粘膜への活性剤の直接的送達を可能にする。装置が約800μgのフェンタニルを含有するある特定の態様において、Cmaxは約2.2 ng/mL、3.2 ng/mL、または4.2 ng/mLである。いくつかの態様において、AUC0-24は約10 時間-ng/mL、または約 12.5時間-ng/mL、または約15 時間-ng/mLである。いくつかの態様において、本発明の装置の粘膜表面への付着は約5秒以内に起きる。いくつかの態様において、本発明の装置はその場所に装置を保持する必要が無く、約20〜30分で自然に侵食される。本発明の例示的な態様は、Tmaxが約100分未満、約80分未満、約60分未満、約30分未満、または約20分未満であるように、活性剤が約0.1 mg〜約60 mgの量のブプレノルフィンである装置を包含する。装置が約16 mgのブプレノルフィンを含有する場合、Cmaxは約8.0 ng/mLであり得る。装置が8 mgのブプレノルフィンを含有する場合、Cmaxは約4.5 ng/mLであり得る。装置が約4 mgのブプレノルフィンを含有する場合、Cmaxは約2.5 ng/mLであり得る。
【0074】
本発明の薬学的送達装置は、当技術分野において公知である種々の方法により調製され得る。例えば、1つの態様において、溶液を調製するために適切な1つの溶剤または複数の溶剤の組み合わせに、成分を溶解する。本発明における使用のための溶剤は、水、メタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールなどの低級アルキルアルコール、アセトン、エチルアセテート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、またはジクロロメタン、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。乾燥した多層状薄膜における残留性溶剤含量は、可塑剤、侵食もしくは溶解速度改変剤として作用し得、またはいくつかの薬学的利点を提供し得る。望ましい残留性溶剤は、層の中に残留してもよい。
【0075】
その後、適切な基質を用いた薄膜コーティング、薄膜成型、スピンコーティング、または吹きつけなどの当技術分野において公知である技術により、溶液を基質、例えば鋳型上にコーティングし、薄膜へと加工する。続いて、薄膜を乾燥する。乾燥段階は任意のタイプのオーブンで達成することができる;しかしながら、残留性溶剤の量は乾燥手順に依存する。多数の層が望ましい場合には、そのような層を個別に薄膜化し、その後、一緒に積層してもよいし、または一方を他方の上に重ねて薄膜化してもよい。層を一緒に積層した後、または互いの上にコーティングした後に得られた薄膜を、粘膜組織への適用のために任意のタイプの形状に切ってもよい。いくつかの形状は、ディスク、楕円、正方形、長方形、および平行六面体を含む。
【実施例】
【0076】
例証
予想される実施例1:例示的な粘膜付着装置の調製
本発明の例示的な粘膜付着装置は、混合容器に水(重量で製剤全体の約89%)を入れ、続いて、プロピレングリコール(重量で製剤全体の約0.5%)、安息香酸ナトリウム(重量で製剤全体の約0.06%)、メチルパラベン(重量で製剤全体の約0.1%)およびプロピルパラベン(重量で製剤全体の約0.03%)、ビタミンEアセテート(重量で製剤全体の約0.01%)およびクエン酸(重量で製剤全体の約0.06%)、赤色酸化鉄(重量で製剤全体の約0.01%)、ならびにリン酸二水素ナトリウム(重量で製剤全体の約0.04%)を順次的に添加することで調製する。成分を分散および/または溶解させた後、800μgのクエン酸フェンタニル(重量で製剤全体の約0.9%)を添加し、容器を約120〜130°Fに加熱する。溶解後、ポリマー混合物[ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel EF、重量で製剤全体の約0.6%)、ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250L、重量で製剤全体の約1.9%)、ポリカルボフィル(Noveon AA1、重量で製剤全体の約0.6%)、およびカルボキシメチルセルロース(Aqualon 7LF、重量で製剤全体の約5.124%)]を容器に添加し、分散するまで撹拌する。続いて、混合容器から熱を除去する。その後、混合物を望ましいpHに調整するためにリン酸三ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを添加してもよい。混合物を真空下で数時間混合し、コーティング操作における使用まで密閉容器の中で保存する。
【0077】
1つまたは複数の層を、適切な表面、例えば、St. Gobainポリエステルライナー上へ連続して成型する。上記で調製した混合物をライナー上へ成型し、オーブンにおいて約65℃〜95℃で重合させ、乾燥する。追加的な層を同一の手順を用いて最初の層の上に成型することができる。その後、装置を、例えばキスカット法により打ち抜き、成型表面から取り外す。装置は、例えば、ディスク形態、丸い角を有する長方形の形態に形成することができる。粘膜表面への適用中または適用後の離層を避けるために、多数の層を一緒に結合させてもよい。
【0078】
予想される実施例2:粘膜付着層の調製
粘膜付着層は、混合容器に水を入れ、続いて、プロピレングリコール、安息香酸ナトリウム、メチルパラベンおよびプロピルパラベン、ビタミンEアセテート、クエン酸、黄色酸化鉄、ならびにリン酸二水素ナトリウムを順次的に添加することにより調製する。成分を分散および/または溶解させた後、フェンタニルまたはブプレノルフィンを添加し、容器を120〜130°Fに加熱する。その後、ポリマー混合物−ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel EF)、ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250L)、ポリカルボフィル(Noveon AA1)、およびカルボキシメチルセルロース(Aqualon 7LF)−を容器に添加し、分散するまで撹拌する。続いて、混合容器から熱を除去する。最後の追加段階として、混合物を望ましいpHに調整するためにリン酸三ナトリウム(緩衝剤)および水酸化ナトリウム(pH調整剤)を添加する。その後、混合物を真空下で数時間混合する。調製した混合物をコーティング操作における使用の準備ができるまで密閉容器の中で保存する。各構成成分および任意の追加的な構成成分についての%w/wを下記の表(1、2、および3)に示す。表1はブプレノルフィンを有する装置の製剤1を示し、一方表2はブプレノルフィンを含有する製剤2の詳細を提供する。表3はクエン酸フェンタニルを含有する第3の製剤を含有する。製剤1について、pHは4.5〜5.5の範囲に渡る。製剤2について、pHは5.0〜6.0の範囲に渡る。
【0079】
(表1)BEMAブプレノルフィンHCl、製剤1

【0080】
(表2)BEMAブプレノルフィンHCl、製剤2

【0081】
(表3)表3.2.P.1-1. BEMA(商標)フェンタニル、生体侵食性粘膜付着システムの成分および組成

a=乾燥量基準で表現されている。
b=大部分の水は製造の間に除去されている;薬物製品における残留水は4〜12% w/wに変動する。
c=FCC(Food Chemicals Codex)グレードとして購入し、NFモノグラフについて試験した。
【0082】
コーティング過程は、St. Gobainポリエステルライナー上へ連続して層を成型する段階を含む。第1の粘膜付着層は、ナイフ-オン-ア-ブレード(knife-on-a-blade)コーティング法を用いて成型する。続いて、所望の場合、第2の粘膜付着層を第1の粘膜付着層上へ成型し、オーブンにおいて約65〜95℃で重合させ、乾燥する。その後、製品をキスカット法により打ち抜き、成型表面から取り外す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄くかつ柔軟な薬学的送達装置を、活性剤を必要とする対象へ投与する段階を含む、活性剤をそれを必要とする対象へ経粘膜的に送達する方法であって、
該薬学的送達装置が、
活性剤の経粘膜送達のための第1の粘膜付着表面、
活性剤の経粘膜送達のための、第1の粘膜付着表面と向かい合う第2の粘膜付着表面、および
装置中に組み入れられた活性剤
を含み;
第1および第2の粘膜付着表面が少なくとも1つの薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜層により規定され;かつ
有効量の活性剤が対象へ送達される、
方法。
【請求項2】
装置が生体侵食性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1および第2の粘膜付着表面が単一の粘膜付着層により規定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第1および第2の粘膜付着表面が、少なくとも第1および第2の薄くかつ柔軟な粘膜付着薄膜層により規定される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
装置が、2つの粘膜接着表面の間に配置された中間層をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
中間層が、乱用防止マトリックス、および経粘膜的には実質的に利用不可能であるように乱用防止マトリックスに付随しているアンタゴニストを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
中間層がマイクロカプセル化されたアンタゴニストを含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
粘膜付着層がマイクロカプセル化されたアンタゴニストを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
中間層が活性剤に対して閉塞性である、請求項4記載の方法。
【請求項10】
活性剤が、第1の粘膜付着層および第2の粘膜付着層の中に組み入れられる、請求項4記載の方法。
【請求項11】
活性剤が乱用性薬物である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
活性剤がオピオイドである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
活性剤がブプレノルフィンである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
活性剤がフェンタニルである、請求項12記載の方法。
【請求項15】
アンタゴニストがナロキソンである、請求項6記載の方法。
【請求項16】
活性剤が2つ以上の粘膜表面へ経粘膜的に送達される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
送達装置が粘膜腔(mucosal cavity)の少なくとも2つの表面に付着し、かつ活性剤が第1の粘膜付着表面および第2の粘膜付着表面を横切って拡散するように、対象の粘膜腔へ装置を適用することにより、装置が対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
有効量の活性剤が約1時間未満で対象に送達される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
有効量の活性剤が約30分未満で対象に送達される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
対象が有意な悪心を経験しない、請求項1または6記載の方法。
【請求項21】
疼痛緩和の開始が約15分未満で達成される、請求項14記載の方法。
【請求項22】
Tmaxが約1.5時間未満である、請求項14記載の方法。
【請求項23】
Tmaxが約1時間未満である、請求項14記載の方法。
【請求項24】
Tmaxが約0.5時間未満である、請求項14記載の方法。
【請求項25】
Tmaxが約0.25時間未満である、請求項14記載の方法。
【請求項26】
装置が約800μgのフェンタニルを含む、請求項14記載の方法。
【請求項27】
Cmaxが約2 ng/mLを上回る、請求項26記載の方法。
【請求項28】
Cmaxが約3 ng/mLを上回る、請求項26記載の方法。
【請求項29】
Cmaxが約4 ng/mLを上回る、請求項26記載の方法。
【請求項30】
約30%を超えるフェンタニルが生物学的に利用可能になる、請求項26記載の方法。
【請求項31】
約60%を超えるフェンタニルが生物学的に利用可能になる、請求項26記載の方法。
【請求項32】
約70%を超えるフェンタニルが生物学的に利用可能になる、請求項26記載の方法。
【請求項33】
装置が約0.1 mg〜約60 mgのブプレノルフィンを含有する、請求項13記載の方法。
【請求項34】
Tmaxが約100分未満である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
Tmaxが約80分未満である、請求項33記載の方法。
【請求項36】
Tmaxが約60分未満である、請求項33記載の方法。
【請求項37】
Tmaxが約30分未満である、請求項33記載の方法。
【請求項38】
Tmaxが約20分未満である、請求項33記載の方法。
【請求項39】
30%を超えるブプレノルフィンが生物学的に利用可能になる、請求項33記載の方法。
【請求項40】
50%を超えるブプレノルフィンが生物学的に利用可能になる、請求項33記載の方法。
【請求項41】
60%を超えるブプレノルフィンが生物学的に利用可能になる、請求項33記載の方法。
【請求項42】
前記請求項のいずれか一項記載の方法を含む、嗜癖を処置する方法。
【請求項43】
前記請求項のいずれか一項記載の方法のいずれかにより活性剤を対象に投与する段階を含む、疼痛を処置する方法。
【請求項44】
疼痛が癌性突出痛である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
有効量の活性剤が1つの単位用量において対象に送達される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−525536(P2011−525536A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516543(P2011−516543)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/048325
【国際公開番号】WO2010/008863
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509019783)バイオデリバリー サイエンシーズ インターナショナル インコーポレイティッド (4)
【Fターム(参考)】