説明

多核錯体、及びその重合体

【課題】ユニークな触媒活性を有するのみならず、熱安定性に優れる触媒、特に過酸化水素分解触媒において、フリーラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解できる触媒能を有し、より熱安定性に優れる触媒として好適な多核錯体及びその重合体を提供する。
【解決手段】[1]分子内に、下記(i)、(ii)及び(iii)の要件を備える配位子Lを1つ以上と、複数の金属原子とを含む、多核錯体。
(i)重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有すること。
(ii)金属原子と配位する配位原子を5個以上有すること。
(iii)配位子Lが溶媒に可溶であること。
[2]上記[1]の多核錯体を(共)重合して得られる(共)重合体。
[3]上記[1]又は[2]を含むレドックス触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する多核錯体、該多核錯体を重合してなる重合体に関する。さらにはレドックス触媒として好適な多核錯体又は該多核錯体の重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
多核錯体とは、非特許文献1に記載されるように、一つの錯体中に2つ以上の金属原子が中心原子として含まれるものを示し、複数ある金属サイト間の相互作用に基づいた特異で多様な反応性をもつため、ユニークな反応触媒となり得る錯体であり、とりわけ、レドックス触媒等の電子移動を伴う化学反応に係る触媒として使用される(例えば、非特許文献2参照)。その一つの例として、過酸化水素をフリーラジカル(ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、等)の発生を抑制しつつ、過酸化水素を水と酸素とに分解する触媒(過酸化水素分解触媒)としてマンガン二核錯体を用いる例が知られている(非特許文献3)。また、多核錯体として金属酵素を焼成した触媒も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【非特許文献1】大木道則他編,「化学大辞典」,1338頁,東京化学同人,第1版(第7刷)2005年7月1日発行
【非特許文献2】小柳津研一、湯浅 真、表面 2003、41(3)、22.
【非特許文献3】A. E. Boelrijk and G. C. Dismukes Inorg. Chem. 2000、39、3020.
【特許文献1】特開2004−217507号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これまで開示されているマンガン二核錯体を過酸化水素分解触媒として用いた場合、安定性、特に熱安定性が不十分であり、加熱反応等で使用するには問題があり、より熱安定性に優れる触媒が切望されていた。
また、金属酵素自体は高価であるばかりか、生体物質であることから保存安定性が困難であり、これを原料として用いた触媒は、製造再現性に乏しかった。
本発明の目的は、ユニークな触媒活性を有するのみならず、熱安定性に優れる多核錯体、特に過酸化水素分解触媒において、フリーラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解できる触媒能を有し、より熱安定性に優れる触媒を提供し、さらに該触媒の前駆体である新規な多核錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため、多核錯体触媒における、複数の金属原子間の距離、配座の熱安定性を向上できる技術を見出すべく、鋭意努力した結果、特定の配位子を有する多核錯体を重合して得られる重合体又は共重合体が、レドックス触媒としての反応活性を落とすことなく、高い安定性を持つことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記[1]〜[8]の多核錯体を提供する。
[1]下記の(i)、(ii)及び(iii)の要件を備える配位子Lを1つ以上と、複数の金属原子とを含む、多核錯体
(i)重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有すること。
(ii)金属原子と配位する配位原子を5個以上有すること。
(iii)配位子L自身が溶媒に可溶であること。
[2]配位子Lの配位原子が、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる配位原子である前記[1]の多核錯体
[3]配位子Lの配位原子が、炭素−窒素二重結合上の窒素原子を含む前記[1]又は[2]の多核錯体
[4]分子内に含まれる金属原子の総和が8以下である、前記[1]〜[3]の何れかの多核錯体
[5]分子内に含まれる金属原子が、第一遷移元素系列の遷移金属原子である、前記[1]〜[4]の何れかの多核錯体
[6]前記複数の金属原子から選ばれる2つの金属原子の組合わせにおいて、同一の配位原子と配位結合する2つの配位原子の組合わせを有するか、又は前記複数の金属原子から選ばれる2つの金属原子をM1、M2とし、M1、M2に配位する配位原子をそれぞれAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上4以下となるAM1及びAM2の組合せを有する、前記[1]〜[5]の何れかに記載の多核錯体
[7]配位子Lが1つであり、且つ金属原子が2つである、前記[1]〜[6]の何れかの多核錯体
[8]分子量が6000以下である前記[1]〜[7]の何れかの多核錯体
【0005】
また、本発明は上記配位子Lとして、好適な化合物である下記[9]〜[12]の化合物と、これらの化合物を配位子Lとして有する下記[13]を提供する。
[9]下記式(1)で示される化合物

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4(以下、Ar1〜Ar4のように表わすこともある)は、それぞれ独立に、芳香族複素環基を表し、R1、R2、R3、R4及びR5(以下、R1〜R5のように表すこともある)は2価の基を表し、Z1、Z2は、それぞれ独立に、窒素原子又は3価の基を表す。Ar1〜Ar4、R1〜R5の中で少なくも1つに重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する。)
[10]下記式(2)で示される、前記[9]の化合物

(式中、Ar1〜Ar4、R1〜R5は前記式(1)と同義であり、これらの中で少なくも1つに重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する。)
[11]下記式(3a)又は(4a)で示される、前記[10]の化合物。


(式(3a)、(4a)中、R1〜R5は前記式(1)と同義である。X1、X2、X3及びX4(以下、X1〜X4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、窒素原子又はCHを表し、Y1、Y2、Y3及びY4(以下、Y1〜Y4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基を表し、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基である。)
[12]下記式(3b)又は(4b)で示される、前記[11]の化合物

(式(3b)、(4b)中、X1〜X4、ならびにY1〜Y4は、前記の式(3a)又は(4a)と同義である。Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性の環を有する基である。Zは1又は2を表す。N10、N20はR50と結合する窒素原子を表し、N30、N40、N50及びN60(以下、N30〜N60のように表すこともある)は、芳香族複素環基中の窒素原子を表す。R50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である2価の基を表す。)
[13]下記式(3c)又は(4c)で示される、前記[12]の化合物

(式(3c)、(4c)中、X1〜X4、Y1〜Y4は、前記の式(3a)又は(4a)と同義であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性の環を有する基である。)
[14]前記[9]〜[13]の何れかに記載の化合物を、配位子Lとして有する、前記[1]〜[8]の何れかの多核錯体
【0006】
また、本発明は上記の多核錯体から得られる触媒として好適な(共)重合体を提供し、及び触媒としても用途を提供する。すなわち、
[15]前記[1]〜[8]又は前記[14]の何れかの多核錯体を重合して得られる重合体
[16]前記[1]〜[8]又は前記[14]の何れかの多核錯体を1種以上と、該多核錯体と共重合しうる重合性モノマーとを、共重合して得られる共重合体
[17]前記[1]〜[8]又は前記[14]の何れかの多核錯体、前記[15]記載の重合体若しくは前記[16]記載の共重合体の何れかを用いたレドックス触媒
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多核錯体、及び該多核錯体を重合して得られる(共)重合体は、レドックス触媒として有用であり、特に該(共)重合体は過酸化水素分解触媒として用いた場合、フリーラジカルの発生を抑制しつつ水と酸素に分解することが可能であり、これまで開示されている多核錯体触媒と比較して、著しく高い安定性を示す。このような触媒は高分子電解質型燃料電池や水電解装置の劣化防止剤や、医農薬や食品の抗酸化剤などの用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施形態を以下に示す。
【0009】
本発明の多核錯体は、複数の金属原子を含むものである。該金属原子は無電荷であっても、荷電しているイオンであってもよい。該金属原子の個数は、2以上8以下が好ましく、2以上4以下がさらに好ましく、2つ又は3つであると特に好ましい。
【0010】
該金属原子は、遷移金属原子から選ばれ、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。該遷移金属原子の具体例としては、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる第一遷移元素系列の遷移金属原子;イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウランなどを例示することができる。
好ましくは、前記の第一遷移元素系列の遷移金属原子;ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金から選ばれる遷移金属原子であり、
より好ましくは、第一遷移元素系列の遷移金属原子;ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金から選ばれる遷移金属原子であり、
さらに好ましくは、前記の第一遷移元素系列の遷移金属原子であり、
とりわけ好ましくはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅から選ばれる遷移金属原子であり、中でもマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅から選ばれる遷移金属原子が好ましい。
【0011】
次に、配位子Lについて説明する。
本発明の多核錯体は、前記の(i)、(ii)及び(iii)の要件を満足する配位子Lを少なくとも1つ有する。該多核錯体中の配位子Lの個数は、1以上6以下が好ましく、1以上3以下がさらに好ましく、1つ又は2つがとりわけ好ましく、1つが特に好ましい。なお、多核錯体中に配位子Lが複数ある場合は、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0012】
配位子Lは、前記要件(i)として、重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を少なくとも1つ有するものである。これらの基又は環は、複数存在していてもよく、複数存在する場合、これらの基又は環は同じであっても異なっていてもよい。
【0013】
ここで、重合反応性の多重結合を有する基とは、ラジカル重合(熱重合、光開始剤を用いた光重合を含む)又はイオン重合といった付加重合を生じうる、炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合、炭素−窒素三重結合を有する基であり、これらの多重結合が、2価の連結基を併せ持つ基でもよく、該2価の連結基としてはカルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、チオキシ基、オキシ基、炭素数1〜16のアルキレン基、炭素数2〜60の2価の芳香族基(複素芳香族基を含む)等が挙げられ、これらの2価の基が連結されてなる2価の基でもよい。
具体的に、重合反応性を有する多重結合を有する基を例示すると、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ブタジニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、マレイミド基、アクロイル基、スチリル基、ビニルベンジル基、エチニル基、プロピニル基、エチニルフェニル基、シアノ基、イソニトリル基が挙げられる。
好ましくは、ビニル基、スチリル基、ビニルベンジル基、アリル基、エチニル基、シアノ基であり、より好ましくは、ビニル基、スチリル基、ビニルベンジル基、アリル基、シアノ基であり、さらに好ましくは、炭素−炭素二重結合を有する基であるビニル基、スチリル基、ビニルベンジル基、アリル基である。
【0014】
また、前記2価の連結基に係る、アルキレン基又は芳香族基は、1価の置換基を有していてもよく、その例として、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、ニトロ基、ハロゲノ基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基)、カルバモイル基、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基(芳香族複素環基を含む)、前記アルキル基とオキシ基あるいはチオキシ基からなる、アルコキシ基又はアルキルチオ基、前記芳香族基と、オキシ基あるいはチオキシ基からなる、アリールオキシ基又はアリールチオキシ基、前記アルキル基又は前記芳香族基と。スルホニル基とからなるアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基、前記アルキル基又は前記芳香族基とカルボニル基とからなる、アシル基又はアリールカルボニル基、前記アルキル基又は前記芳香族基と、オキシカルボニル基とからなるアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基、前記アルキル基又は前記芳香族基を有していてもよいアミノ基、前記アルキル基又は前記芳香族基を有していてもよい酸アミド基、前記アルキル基及び/又は前記芳香族基を有していてもよいホスホリル基、前記アルキル基及び/又は前記芳香族基を有していてもよいチオホスホリル基、前記アルキル基及び/又は前記芳香族基を有するシリル基等が挙げられる。
【0015】
ここで、炭素数1〜50のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2,2−ジメチルブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、イコシル基、トリアコンチル基、ペンタコンチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、アダマンチル基等の、直鎖アルキル基、分岐アルキル基又はシクロアルキル基などの、飽和炭化水素化合物から水素原子を一つ取り去って得られるアルキル基が挙げられる。
該アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜16のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。
【0016】
また、前記芳香族基(芳香族複素環基を含む)の例としては、フェニル基、トルイル基、4−t−ブチルフェニル基、ナフチル基、フリル基、チオフェンイル基、ピロイル基、ピリジル基、フラザンイル基、オキサゾイル基、イミダゾイル基、ピラゾリル基、ピラジイル基、ピリミジイル基、ピリダジイル基、ベンゾイミダゾイル基、トリアジンイル基等、含有炭素数2〜60程度の芳香族化合物から水素原子を一つ取り去って得られる芳香族基が挙げられる。
該芳香族基としては、含有炭素数2〜30の芳香族基が好ましく、より好ましくは含有炭素数2〜16の芳香族基であり、さらに好ましくは含有炭素数2〜10の芳香族基である。
【0017】
さらに、前記のアルキル基又は芳香族基は、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、ハロゲノ基等の置換基を有していてもよい。
【0018】
また、開環重合性の環としては、一般にカチオン開始剤又はアニオン開始剤により、α開環、β開環又はγ開環のいずれかで活性種を生じうる環である。
これらは、シクロプロパン環、シクロプロペン環、シクロプロパノン環、シクロプロぺノン環、シクロブテン環、エチレンオキシド環(1,2−エポキシド環)、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、エチレンスルフィド環、チエタン環、エチレンイミン環、トリメチレンイミン環、ピロリジン環、ピペリジン環、ラクトン環又はラクタム環等の「高分子合成」(古川淳二著、99〜103頁、1987年2月20日発行、化学同人)に記載された環が挙げられる。
さらに、これらの環は置換基を有していてもよく、該置換基としては、前述の重合反応性の多重結合を有する基の連結基において、置換基として例示したものと同等のものを挙げることができる。
【0019】
好ましい開環重合性を有する環としてはエポキシド環、オキセタン環又はチエタン環であり、これらがアルキレン基を連結基として有していることがさらに好ましく、具体的にはエポキシアルキレン基、オキサシクロブチルアルキレン基、チイラニルアルキレン基が挙げられる。特にグリシジル基、オキサシクロブチルメチレン基が好ましい。
【0020】
配位子Lは、前記のとおり、重合反応性の多重結合を有する基もしくは開環重合性の環を有する基を1つ以上有するものであるが、これらが複数ある場合は、同じであっても異なっていてもよく、もちろん、重合反応性の多重結合を有する基と開環重合性の環を有する基を併せ持っていてもよい。
中でも、本発明の配位子Lは、重合反応性の多重結合を有する基を有すると好ましい。
【0021】
本発明の配位子Lは要件(ii)に記載のとおり、分子内に5個以上の配位原子を有する。ここで配位原子とは、「岩波 理化学辞典 第4版」(久保亮五他編、1991年1月10日発行、966頁、岩波書店)に記載のとおり、該金属原子の空軌道に電子を供与する非共有電子対を有し、金属原子と配位結合を生じ得る原子を示す。
前記配位子Lに存在する配位原子の好ましい個数は、5以上20以下であり、より好ましくは5以上12以下であり、さらに好ましくは、7以上10以下である。
また、本発明の多核錯体中の金属原子は、そのいずれもが配位子Lとの配位結合数が3以上であると好ましく、3以上20以下がより好ましく、3以上7以下がさらに好ましく、4以上6以下がよりさらに好ましく、4又は5が特に好ましい。
【0022】
該配位原子は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる原子が好ましく、窒素原子、酸素原子、リン原子又は硫黄原子がより好ましく、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子がとりわけ好ましく、窒素原子又は酸素原子が特に好ましい。なお、複数の配位原子は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0023】
また、前記要件(iii)に示すように、配位子L自身、すなわち配位子Lとなりうる化合物は溶媒に可溶である。このようにすると、本発明の多核錯体自体の製造が容易になるため好ましい。また溶媒は特に限定されるものではないが、錯形成反応を円滑に生じさせ、多核錯体が容易に得られる溶媒が好ましい。
【0024】
さらに本発明の配位子L中の配位原子において、その一部又は全部が、炭素−窒素二重結合上にある窒素原子であると好ましい。このような窒素原子を配位原子として含むと、レドックス触媒活性、特に過酸化物分解反応における触媒活性に優れるため、好ましい。
ここで、炭素−窒素二重結合上の窒素原子とは、ケトン化合物又はアルデヒド化合物のカルボニル基と、アミン化合物との縮合にて得られるイミノ基の窒素原子や、炭素−窒素二重結合を有する芳香族複素環の窒素原子が挙げられる。
【0025】
該炭素−窒素二重結合を有する芳香族複素環を配位子Lに有するとは、芳香族複素環分子、これらの芳香族複素環分子を含む縮合環分子から、水素原子を一つまたはそれ以上取り去って得られる1価以上の芳香族複素環基が配位子L中に存在することを意味する。
また、前記の芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
前記芳香族複素環分子とは、イミダゾ−ル、ピラゾ−ル、2H−1,2,3−トリアゾ−ル、1H−1,2,4−トリアゾ−ル、4H−1,2,4−トリアゾ−ル、1H−テトラゾ−ル、オキサゾ−ル、イソオキサゾ−ル、チアゾ−ル、イソチアゾ−ル、フラザン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1,3,5−トリアジン、1,3,4,5−テトラジン等の芳香族複素環分子が例示される。
また、前記芳香族複素環分子を含む縮合環分子としては、ベンゾイミダゾ−ル、1H−インダゾ−ル、ベンゾオキサゾ−ル、ベンゾチアゾ−ル、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キナゾリン、キノキサリン、フタラジン、1,8−ナフチリジン、プテリジン、フェナントリジン、1,10−フェナントロリン、プリン、プテリジン、ペリミジン等が例示される。
ここで、縮合環とは、「化学辞典」(第1版、1994年、東京化学同人)に記載の通り、2つまたはそれ以上の環をもつ環式化合物において、各々の環が2個またはそれ以上の原子を共有する環式構造のことを示すものである。
【0026】
前記に例示した芳香族複素環基の中でも、イミダゾ−ル、ピラゾ−ル、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾイミダゾ−ル、1H−インダゾ−ル、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、1,8−ナフチリジン、プリン等の芳香族複素環分子又は前記縮合環分子から、水素原子を一つまたはそれ以上取り去って得られる1価以上の芳香族複素環基が好ましい。
【0027】
ここで、前記芳香族複素環基に、置換基を有する場合は、前記の重合反応性の多重結合を有する基の置換基として例示した基と同様なものを挙げることができる。置換基の位置は、任意の位置であり、置換基の数及びその組合せは任意である。
【0028】
中でも、前記炭素−窒素二重結合を含む基として、芳香族複素環基であると好ましい。
【0029】
本発明の多核錯体としては、前記配位子Lに加え、他の配位子を有していてもよい。他の配位子としてはイオン性でも電気的に中性の化合物でもよく、このような他の配位子を複数有する場合、これらは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
前記他の配位子における電気的に中性の化合物としては、アンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、チアゾール、イソチアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o―アミノフェノール等の窒素原子含有化合物;水、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトール等の酸素含有化合物;ジメチルスルホキシド、尿素等の硫黄含有化合物;1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−フェニレンビス(ジメチルホスフィン)等のリン含有化合物が例示される。
【0031】
好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N’−ジオキシド、オキサミド、ジメチルグリオキシム、o―アミノフェノール、水、フェノール、シュウ酸、カテコール、サリチル酸、フタル酸、2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、ヘキサフルオロペンタンジオン、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトールであり、
より好ましくはアンモニア、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2,4―トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、1,2,3―トリアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、1,3,4−オキサジアゾール、インドール、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フェナントリジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、1,8−ナフチリジン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2´−ビピリジンN,N’−ジオキシド、o―アミノフェノール、フェノール、カテコール、サリチル酸、フタル酸、1,3−ジフェニルー1,3―プロパンジオン、2,2’−ビナフトールである。
【0032】
これらの中でも、ピリジン、ピロール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、インドール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、フェニレンジアミン、ピリジンN−オキシド、2,2’−ビピリジンN,N´−ジオキシド、o―アミノフェノール、フェノールがさらに好ましい。
【0033】
また、アニオン性を有する配位子としては、水酸化物イオン、ペルオキシド、スーパーオキシド、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオンなどのテトラアリールボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、フェニルホスホン酸イオン、ジフェニルホスホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸イオン、金属酸化物イオン、メトキサイドイオン、エトキサイドイオン、ビニル安息香酸イオン、アクリル酸イオン、メタクリル酸イオン等が挙げられる。
好ましくは、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、テトラフェニルボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、フェニルホスホン酸、ジフェニルホスホン酸リン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ビニル安息香酸イオン、アクリル酸イオン、メタクリル酸イオンが例示され、
これらの中でも、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸、ビニル安息香酸イオン、アクリル酸イオン、メタクリル酸イオンがより好ましい。
【0034】
さらに、前記アニオン性を有する配位子として例示したイオンは、本発明の多核金属錯体自体を電気的に中和する対イオンであってもよい。
【0035】
また、本発明の多核錯体は、電気的中性を保たせるようなカチオン性を有する対イオンとして持つ場合がある。カチオン性を有する対イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンなどのテトラアルキルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンなどのテトラアリールホスホニウムイオン等が例示され、具体的には、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、より好ましくはテトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンが挙げられる。
これらの中でも、カチオン性を有する対イオンとして、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンが好ましい。
【0036】
さらになお、種々の対イオンを適宜使い分けることで、多核錯体の溶媒への溶解性や分散性などを調整することもできる。
【0037】
本発明の多核錯体は、複数の金属原子と、前記に示す配位子Lを1つ以上有するものであるが、とりわけ複数の金属原子の中で少なくも2つの金属原子が分子内に近接して位置すると好ましい。
このように、金属原子が近接して位置する指標として、前記2つの金属原子をM1、M2とし、これらM1、M2に配位する配位原子をそれぞれAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が4以下となる、AM1及びAM2の組合せを有すると好ましい。該最小値は3以下であると、より好ましく、2以下であると、さらに好ましく、1であると、とりわけ好ましい。
特に好ましくは、前記複数の金属原子から選ばれる2つの金属原子の組合わせ(M1、M2)が、同一の配位原子と配位結合している金属原子の組合わせを有する多核錯体である。これは、M1とM2が同一の配位原子で架橋配位されていることを意味する。このようにすると、M1−M2間距離が近づき、2つの金属原子間の相互作用が発現され易くなることから、多核錯体の触媒活性がより高くなる。
また、前記のAM1とAM2は、配位子Lの中にある配位原子同士でもよく、配位子L以外の配位子にある配位原子同士でもよい。
また、多核錯体中において、2つの金属原子を架橋配位している配位原子も、配位子Lの配位原子でもよく、配位子L以外の配位子における配位原子でもよい。
【0038】
また、本発明の多核錯体は、分子量が6000以下であることが好ましい。このような分子量の範囲内であれば、多核錯体自体の合成が容易であるため好ましい。より好ましい分子量は5000以下であり、さらに好ましくは4000以下であり、特に好ましくは2000以下である。
さらに、多核錯体の分子量は、より低いほうが、後述する該多核錯体を重合又は共重合する際に、操作が簡便になるため好ましい。
【0039】
次に、本発明の多核錯体に係る配位子Lとして、好適な化合物について説明する。配位子Lは、前記のとおり、配位原子として炭素−窒素二重結合上の窒素原子を含むと、好ましく、特に該炭素−窒素二重結合上の窒素原子を、芳香族複素環基に有するものであると、さらに好ましい。
【0040】
このように、配位原子として炭素−窒素二重結合上の窒素原子を有する配位子Lは、文献(Anna L.Gavrilova and Brice Bosnich Chem.Rev.2004、104、349.)に記載された、(Anna L.Gavrilova and Brice Bosnich Chem.Rev.2004、104、349.)に記載された、Table 5(p.357)Ligand Number 52〜55、56a、56b、56c、57a、57b、57c、57d、58a、58b、58c、60;Table 7(p.360)中のLigand Number 73、74 ;Table 8(p.362)中のLigand Number 79、80、83、85 ;Table 9(p.364)中のLigand Number 90、91、92 ;Table 10(p.366)中のLigand Number 100〜103、105〜108、110、111、113〜118;Table 11(p.370〜371)中のLigand Number 123〜126、129、131、132、134〜138、141〜147;Table 12(p.373)中のLigand Number 151、152、154〜157;Table 13(p.376)中のLigand Number 166、167;Table 14(p.377)中のLigand Number 174;Table 15(p.378)中のLigand Number 177、179の化合物中の水素原子を前述の重合反応性を有する多重結合基及び/又は開環重合性の環を含む基で置換した配位子を例示することができる。
【0041】
上記の例示の中でも、とりわけ好ましい配位子Lとしては、炭素−窒素二重結合を含む芳香族複素環基をもつものが好ましく、上記文献中の、Table 5(p.357)Ligand Number 52〜55、56a、56b、56c、57a、57b、57c、57d、58a、58b、58c、60;Table 7(p.360)中のLigand Number 73、74 ;Table 8(p.362)中のLigand Number 79、80、83、85 ;Table 9(p.364)中のLigand Number 90、91、92 ;Table 10(p.366)中のLigand Number 100、101、106〜108、110、111、 113〜118;Table 11(p.370〜371)中のLigand Number 123、124、126、129、131、132、134〜138、141〜147;Table 12(p.373)中のLigand Number155〜157;Table 14(p.377)中のLigand Number 174;Table 15(p.378)中のLigand Number 177、179で表される化合物中の水素原子を前述の重合反応性を有する多重結合基及び/又は開環重合性の環を含む基で置換した配位子を例示することができる。
【0042】
本発明の多核錯体に係る、配位子Lとしては、前記のような芳香族複素環基を有し、分子量が6000以下であると好ましく、このような観点を併せ、とりわけ、下記式(1)で示される化合物であると好ましい。

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4(以下、Ar1〜Ar4のように表わすこともある)は、それぞれ独立に、芳香族複素環基を表し、R1、R2、R3、R4及びR5(以下、R1〜R5のように表すこともある)は2価の基を表し、Z1、Z2は、それぞれ独立に、窒素原子又は3価の基を表す。Ar1〜Ar4、R1〜R5の中で少なくも1つに重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する。)
【0043】
ここで、Ar1〜Ar4は前記に例示した芳香族複素環基が好ましく、例えば、イミダゾリル基、ピラゾリル基、2H−1,2,3−トリアゾリル基、1H−1,2,4−トリアゾリル基、4H−1,2,4−トリアゾリル基、1H−テトラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラジル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、1,3,5−トリアジリル基、1,3,4,5−テトラジリル基を例示することができる。
また、芳香族複素環として、その縮合環基であってもよく、例えば、ベンゾイミダゾイル基、1H−インダゾイル基、ベンゾオキサゾイル基、ベンゾチアゾイル基、キノリル基、イソキノリル基、シンノリル基、キナゾイル基、キノキサリル基、フタラジル基、1,8−ナフチリジル基、プテリジル基、カルバゾリル基、フェナントリジル基、1,10−フェナントロリル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基を例示することができる。
また、これらの芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、前述の重合反応性の多重結合を有する基の置換基として例示で示した基と同様である。また、該置換基の置換位置や、個数およびその組合せは任意である。また、該芳香族複素環基に、前記の重合反応性を有する多重結合を有する基か、開環重合性を有する環を有する基が結合されていてもよい。
【0044】
式(1)における芳香族複素環基Ar1〜Ar4として、好ましくは、ベンゾイミダゾイル基、ピリジル基、イミダゾイル基、ピラゾイル基、オキサゾイル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、前記に例示したアルキル基を窒素上にもつN−アルキルベンゾイミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基であり、
より好ましくは、ベンゾイミダゾイル基、ピリジル基、イミダゾイル基、ピラゾイル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、N−アルキルベンゾイミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基であり、
さらにより好ましくは、ベンゾイミダゾイル基、N−アルキルベンゾイミダゾイル基、ピリジル基、イミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基、ピラゾイル基であり、
特に好ましくは、ピリジル基、N−アルキルベンゾイミダゾイル基、N−アルキルイミダゾイル基である。
【0045】
また、R5は、配位原子又は配位原子を含む基を有していもよい2価の基であり、以下に示すアルキレン基、2価の芳香族基、及び2価のヘテロ原子を含む有機基から選ばれ、これらを任意につなぎ組み合わせた基でもよい。
【0046】
前記アルキレン基の例としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、オクタン、デカン、イコサン、トリアコンタン、ペンタコンタン、シクロヘプタン、シクロへキサンなどの全炭素数1〜50程度の飽和炭化水素分子から水素原子を二つ取り去って得られるアルキレン基が挙げられる。
また、これらのアルキレン基は、任意の位置に置換基を有していてもよく、該置換基の数およびその組合せは任意であり、該置換基としては、前記の重合反応性を有する多重結合を有する基の例示と同様なものを挙げることができる。
ここで、該アルキレン基としては、含有炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは含有炭素数1〜16であり、さらに好ましくは含有炭素数1〜8であり、特に好ましくは含有炭素数1〜4のアルキレン基である。
【0047】
2価の芳香族基の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ビフェニル、アセナフチレン、フェナレン、ピレン、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾ−ル、キサンテン、キノリン、イソキノリン、4H−キノリジン、フェナントリジン、アクリジン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、プリン、プテリジン、ペリミジン、1,10−フェナントロリン、チアントレン、フェノキサチイン、フェノキサジン、フェノチアジン、フェナジン、フェナルサジン等の芳香族化合物、複素環化合物又はこれらの化合物に置換基を有している化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基が挙げられる。
【0048】
これらの中でも、好ましくは、ベンゼン、フェノール、p−クレゾール、ナフタレン、ビフェニル、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、1−ベンゾチオフェン、2−ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾ−ル、キサンテン、キノリン、イソキノリン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、プリン、プテリジン、ペリミジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基であり、
より好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基であり、
さらに好ましくは、ベンゼン、フェノール、p−クレゾール、ナフタレン、ビフェニル、ピロール、ピリジン、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリダジン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、1,8−ナフチリジン、ベンゾイミダゾール、1H−インダゾール、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基であり、
特に好ましくは、フェノール、p−クレゾール、ピリジン、ピラゾール、ピリダジン、1,8−ナフチリジン、1H−インダゾール、フタラジンから選ばれる化合物から水素原子を二つ取り去って得られる基である。
これらの2価の芳香族基における置換基は、任意の位置に有していてもよく、その数及びその組合せは任意である。該置換基としては、前記の重合反応性の多重結合を有する基で例示した置換基を挙げることができる。さらに、該置換基として、本発明の、重合反応性の多重結合を有する基、及び/又は前記の開環重合性の環を有する基を有していてもよい。
【0049】
前記ヘテロ原子を含む2価の有機基として、例えば以下の(E−1)〜(E−10)で示される基が挙げられる。

(式中、Ra、Re、Rf、Rgは、それぞれ独立に、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基、炭素数1〜50のアルコキシ基、炭素数2〜60のアリールオキシ基、水酸基又は水素原子を表す。Rbは炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基又は水素原子を表し、Rd、Rcは、それぞれ独立に、炭素数1〜50のアルキル基又は炭素数2〜60の芳香族基を示す。)
【0050】
5の二官能性ヘテロ原子官能基として、好ましくは、(E−1)、(E−2)、(E−3)、(E−4)、(E−5)、(E−7)、(E−8)、(E−10)であり、より好ましくは(E−1)、(E−2)、(E−4)、(E−7)、(E−10)であり、さらに好ましくは、(E−1)、(E−7)である。
【0051】
特に、R5は金属原子に配位可能な官能基を含むと好ましい。該配位可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、アシル基、エステル基、アミノ基、カルバモイル基、酸アミド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、スルフィド基、スルホニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、インドリル基、イソインドリル基、カルバゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、キノキサリル基、キナゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基などが挙げられる。
好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、シアノ基、エーテル基、アシル基、アミノ基、ホスホリル基、チオホスホリル基、スルホニル基、ピロリル基、ピリジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、インドリル基、イソインドリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、キノキサリル基、キナゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プリル基、プテリジル基、ペリミジル基であり、より好ましくは、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、シアノ基、エーテル基、アシル基、アミノ基、ホスホリル基、スルホニル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリミジル基、ピリダジル基、キノリル基、イソキノリル基、1,8−ナフチリジル基、ベンゾイミダゾリル基、1H−インダゾリル基、シンノリル基、フタラジル基、プテリジル基が挙げられる。
とりわけ好ましいR5としては、下記に示す(R5−1)、(R5−2)、(R5−3)あるいは(R5−4)が例示でき、特に好ましくは(R5−1)である。

ここで、(R5−1)、(R5−2)における水酸基、(R5−3)のピラゾール環、(R5−4)のホスフィン酸基は、配位子として金属原子に配位する際に、プロトンを放出してアニオン性となることもある。
【0052】
式(3)中、R1〜R4は置換されてもよい2価の基であり、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。R1〜R4の例として、R5の例示で挙げた前述のアルキレン基、2価の芳香族基、ヘテロ原子を含む2価の有機基、およびこれらの基を任意につなぎ組み合わせた、2価の基と同様なものを挙げることができる。
1〜R4として、好ましくはメチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、1,2−エチレン基、1,2−フェニレン基であり、より好ましくはメチレン基、1,2−エチレン基である。
【0053】
式(1)におけるZ1、Z2は、それぞれ窒素原子又は3価の有機基から選ばれ、3価の有機基としては例えば、下記の基が挙げられる。

(図中、Ra、Rcは、前記と同義である。)
とりわけ、Z1、Z2のどちらか一方が窒素原子であると好ましく、両方が窒素原子であると特に好ましい。具体的には前記式(1)で示される化合物が、下記式(2)で示される化合物であると好ましい。

(式中、Ar1〜Ar4、R1〜R5は前記式(1)と同義であり、これらの中で少なくも1つに重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する。)
【0054】
前記式(2)で示される化合物の中でも、下記式(3a)又は(4a)で示される、化合物であると、さらに好ましい。

(式(3a)、(4a)中、R1〜R5は前記式(1)と同義である。X1、X2、X3及びX4(以下、X1〜X4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、窒素原子又はCHを表し、Y1、Y2、Y3及びY4(以下、Y1〜Y4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基を表し、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基である。)
【0055】
前記式(3a)又は式(4a)で示される化合物の中でも、下記式(3b)又は式(4b)で示される化合物は、製造上も容易であり、特に好ましい。

(式(3b)、(4b)中、X1〜X4、ならびにY1〜Y4は、前記の式(3a)又は(4a)と同義である。Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性の環を有する基である。Zは1又は2を表す。N10、N20はR50と結合する窒素原子を表し、N30、N40、N50及びN60(以下、N30〜N60のように表すこともある)は、芳香族複素環基中の窒素原子を表す。R50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である2価の基を表す。)
【0056】
50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である、2価の基を表す。具体例を示すと、前述の(R5−1)では最小値が4、(R5−2)では最小値が6、(R5−3)では最小値が6、(R5−4)では最小値が10となる。
【0057】
前記式(3b)および(4b)で示される化合物の合成法としては、種々の方法を用いることができる。その一例として、下記式(100)又は式(200)で示される反応によれば、X1〜X4が窒素原子である(4b)の化合物の製造を可能とする。このような方法によって前述の(R5−1)、(R5−2)、(R5−3)、(R5−4)等、種々の構造のR50を有する(4b)を合成することができる。

(式中、R100は、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基又は炭素数2〜60の芳香族基を表し、4つのR100は同一でも異なっていてもよい。Z、N10、N20、及びR50は式(4b)と同義である。)
【0058】
前記式(100)の生成物に対して、4当量の反応剤(Y#−A100)を用いて、ベンゾイミダゾリル基上のN−H結合の置換反応により、式(4b)で表される化合物へと誘導する(式(200))。

(式中、A100は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、p−トルエンスルホニルオキシ基、メチルスルホニルオキシ基、又はトリフルオロメチルスルホニルオキシ基の何れかを示し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Z、N10、N20、及びR50は式(100)と同義である。Y#は、式(4b)におけるY1〜Y4の何れかを示し、式(4b)のそれと同義である。)
【0059】
前記の式(3b)又は式(4b)で表される化合物において、Zは1であると好ましく、具体的には、下記の式(3c)又は式(4c)で表される化合物が好ましい。

(式(3c)、(4c)中、X1〜X4、Y1〜Y4は式(3a)、(4a)と同義であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性の環を有する基である。)
【0060】
式(3b)、式(4b)、式(3c)又は式(4c)で示される化合物において、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基または開環重合性の環を有する基であり、好適な基は、前記のとおり、ビニル基、スチリル基、ビニルベンジル基、アリル基、グリシジル基、オキサシクロブチルメチレン基から選ばれる基である。
ここで、Y1〜Y4の中で2つ以上が、重合反応性を有する炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基であると好ましく、Y1〜Y4の中で2つ以上が、重合反応性を有する炭素−炭素二重結合を有する基であると、さらに好ましく、Y1〜Y4が全て、重合反応性を有する炭素−炭素二重結合を有する基であると、特に好ましい。
【0061】
前記の文献(Anna L.Gavrilova and Brice Bosnich Chem.Rev.2004、104、349.Table 10中のLigand Number110(p.366))に基づき、好ましい多核錯体としては、例えば、式(5)で示される錯体が例示できる。

ここで、配位子L中、配位原子を含む芳香族複素環基(Ar1〜Ar4)として、ベンゾイミダゾリル基を4つ有し、このベンゾイミダゾリル基の中で1つの窒素原子が配位原子(N1、N2、N3及びN4と表す)として、M1又はM2に配位し(M1又はM2に結合する点線は配位結合を示す)、このベンゾイミダゾリル基の他方の窒素原子には重合反応性を有するアリル基を有する。R1〜R4で示される基としてメチレン基、R5としては、アルコラート基を架橋配位原子(O1と表す)として有するプロピレン基を有するものである。さらに配位子L以外の配位子として、酢酸イオンを有し(配位原子としてO2、O3を有する)、カウンターイオンとして、トリフルオロメタンスルホン酸イオンを2分子有する。
なお、窒素配位原子、酸素配位原子に表記した数字は、後述の配位原子間の共有結合数を説明するにあたり、区別のために表記したものである。
【0062】
式(5)に示す錯体において、M1とM2にそれぞれ配位する配位原子間に存在する共有結合数を説明する。
式(5)の錯体では、
1−O1−M2間では、M1とM2が同一配位原子O1で(架橋)配位しており、
1−O2−O3−M2間では、配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が2であり、
1−O1−N6−M2間とM2−O1−N5−M1間では、その配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が3であり、
1−N5−N6−M2間では、配位原子間を結ぶ共有結合数の最小値が4となる。
このような配位原子の組合せを有する多核錯体は、M1とM2が近接して存在する配位構造を有する多核錯体であり、このような多核錯体は触媒活性に富むため好ましい。
【0063】
前記の好適な多核錯体に係る製造方法としては、配位子Lを与える化合物と、遷移金属化合物とを、溶媒中で混合する方法等を挙げることができる。配位子Lを与える化合物は、配位子Lの前駆体化合物又は、配位子化合物、すなわち配位子Lそのものの構造で示される化合物が挙げられる。該遷移金属化合物は、該溶媒に可溶性のものが好ましい。好ましい配位子Lとしては、前記に例示されるようなものが挙げられる。
好ましい該遷移金属化合物としては、溶媒に可溶性の遷移金属塩であり、該遷移金属塩中の好ましい遷移金属原子としては、前記に例示したとおりである。
また、該錯体形成反応に、適当な塩を添加することで、錯体触媒中の対イオンを添加した塩に由来のものに変更することも可能である。好ましい添加塩は前述の好ましい対イオンを含むものである。
具体例な製造方法としては、後述の実施例に示すMn−bbpr−allyl−OTf、Mn−OAc−(bbpr−CH2St)−OTf、Mn−vb−(bbpr−CH2St)−vb、Mn−vb−(bbpr−CH2St)−DBS、Mn−vb−(bbpr−CH2St)−HS20、Co−(bbpr−CH2St)−BPh4、Ni−(bbpr−CH2St)−BPh4、Cu−(bbpr−CH2St)−BPh4、およびFe−(bbpr−CH2St)−BPh4の合成法や下記の式(300)、式(400)、又は式(500)で示される合成法を例示することができる。





【0064】
本発明の多核錯体は、配位子Lの重合反応性を有する基あるいは開環重合性を有する環によって重合体を得ることが可能であり、該重合体も熱安定性に優れた触媒となりうる。
また、該多核錯体は、1種類または複数種類の重合性モノマーと共重合することで共重合体へと誘導することもでき、該共重合体も熱安定性に優れた触媒となりうる。
【0065】
重合あるいは共重合の反応条件としては、無溶媒で反応を行うこともできれば、反応溶媒の存在下で反応を行うこともできる。
無溶媒で反応を行う場合、前処理として、反応基質を粉砕しておくことが必要な場合がある。また、無溶媒での共重合を行う場合には、多核錯体と共重合させる重合性モノマーとの混合物を粉砕混合する手法や、多核錯体と重合性モノマーを反応溶媒に一旦溶解混合した後に溶媒を除去する手法等により多核錯体と重合性モノマーを混合することが必要となる。
【0066】
反応溶媒を用いて重合および共重合反応を行なう際は、反応系は均一系でも不均一系でもよい。種々の反応溶媒で実施可能であり、例えば水、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプルパノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0067】
共重合における重合性モノマーとしては、種々の化合物を用いる事ができ、例えば、アセチレン、エチレン、プロピレン、スチレン、1、3−ブタジエン、マレイミド、N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリロアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルホスホン酸、ビニルトリエトキシシラン、p−ビニル安息香酸、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸、N−ビニルピロリドン、ビニルフェノール、ジビニルベンゼン等の炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を有するモノマー、ピロール、フラン、チオフェン、シクロプロパン、シクロプロペン、シクロプロパノン、シクロプロぺノン、シクロブテン、エチレンオキサイド、オキセタン、テトラヒドロフラン、エチレンスルフィドなどの開環重合性を有するモノマー等が例示される。
【0068】
共重合は前述の多核錯体を少なくも1種類以上と、他の重合性モノマーを1種類以上とを共重合することで行われる。なお、該共重合は、種々の重合性モノマーを組み合わせて様々なモノマー比で共重合を行うことができる。
【0069】
先述の重合処理および共重合処理の手法として、重合開始法については、熱、光、電解、放射線、酸化などの様々な手法を用いることができ、ラジカル発生触媒や開始剤などを用いてもよい。また、カチオン発生触媒、アニオン発生触媒を用いたイオン重合でもよい。これらの中でも、熱重合およびラジカル開始剤を用いたラジカル付加重合が好ましい。
【0070】
好適な重合手法である熱重合に係る、反応条件を説明する。
熱重合の温度範囲は、50℃以上350℃未満が好ましく、50℃以上300℃未満が、より好ましく、80℃以上250℃未満がさらに好ましく、80℃以上200℃未満がよりさらに好ましい。熱重合を行う際のガス雰囲気は窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、空気、酸素、一酸化炭素、水蒸気、アンモニアなどの種々のガス雰囲気下で行うことができ、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンである。
【0071】
別の好適な実施形態であるラジカル開始剤を用いた付加重合に係る、反応条件を説明する。
ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、過硫酸カリウムなどの無機過酸化物、もしくは2,2'- アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤を用いることができる。
重合温度は、使用するラジカル開始剤のラジカル発生温度により決められるが、通常10℃以上180℃以下の範囲で選ばれる。重合時間は重合性モノマーの種類や重合温度により適宜最適化できるが、通常0.5〜24時間程度である。
反応形態としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合の何れでもよい。ただし、懸濁重合および乳化重合の場合、必要に応じて、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ポリメタクリルアミドなどの水溶性高分子やタルク、ベントナイト、ケイ酸、珪藻土、粘土、BaSO4 、Al (OH)3、CaSO4 、BaCO3 、MgCO3 、Ca(PO42 、CaCO3、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などの添加剤を併用する場合もあり、それぞれ単独で使用されたり2種以上組み合わせて使用されたりする。
また、添加剤として、必要に応じて、t-ドデシルメルカプタン(TDM)、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等のメルカプタン類、α- メチルスチレンダイマー(αMSD)、ターピノーレン類等の連鎖移動剤も併せて用いることができる。
【0072】
多核錯体を重合して得られた重合体または該多核錯体と他の重合性モノマーから得られた共重合体は必要に応じて、粉砕等の加工を行なうことができる。粉砕手法としては、乳鉢、メノウ鉢、ボールミル、ジェットミル、ファインミル、ディスクミル、ハンマーミルなどによる粉砕を挙げることができる。
【0073】
前記のようにして得られた多核錯体、該多核錯体を重合して得られた重合体又は該多核錯体と他の重合性モノマーを今日重合して得られた共重合体は多核錯体自体のユニークな触媒活性と、安定性、特に熱安定性に優れたものとなり、レドックス触媒等に好適に用いることが可能となる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、実施例を示し、具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の実施例において、配位子となり得る化合物を「配位子」と略記することがある。
【0075】
製造例1[配位子の合成]
下記式(6)に示される化合物(以下、bbpr−allyl配位子と呼ぶ)をJ.Am.Chem. Soc.1984、106、pp4765−4772.に記載のHL-Et配位子の合成に準拠し、下記式(6)で示される配位子を合成した。すなわち、2−ヒドロキシ−1,3−ジアミノプロパン四酢酸と、o−ジアミノベンゼンと反応させ、次いでアリルクロライドを用いることでアリル化し、bbpr−allyl配位子を収率71%で得た。1H−NMR(0.05%(v/v)TMS CDCl3溶液)を測定した結果、4〜6ppmのピークからアリル基が導入されたことを確認した。1H−NMRのチャートを図1に示す。


【0076】
製造例2[配位子の合成]
製造例1と同様に、J.Am.Chem. Soc.1984、106、pp4765−4772.に記載のHL-Et配位子の合成に準拠し、製造例1のアリルクロリドに代えて、エピクロロヒドリンを用いることで、下記式(7)で示される配位子を製造することができる。

【0077】
実施例1[多核錯体の製造]
J.Am.Chem.Soc.1994、116、pp891−897に記載の方法に準拠して、多核錯体(以下、Mn−(bbpr−allyl)−OTfと呼ぶ)を合成した。すなわち、製造例1で得られたbbpr−allyl配位子を、酢酸と酢酸ナトリウムを含むアルコール水溶液中、酢酸マンガン四水和物と混合し、更にナトリウムトリフレートと混合することで、Mn−bbpr−allyl−OTfを得た(収率80%)。
元素分析Calcd for C51526Mn21092:C,49.52;H.4.24;N,11.32.Found:C,49.55;H,4.37;N,11.71.
【0078】
実施例2[共重合体の製造]
実施例1で得られたMn−(bbpr−allyl)−OTf(30.1mg、0.024mmol)とN,N’−1,4−フェニレンジマレイミド(以下PDMと略記)(30.0mg、0.111mmol)をメノウ乳鉢で混合しこの混合物を、下記の条件を用いて熱重合させた。
装置 :Rigaku TG8101D TAS200
ガス雰囲気 :窒素
温度範囲 :40℃〜300℃
昇温速度 :10℃/min
試料容器 :オープン型アルミ製試料容器(φ5.2、H5.0、100μl)
試料量 :該混合物16±2mg / 該試料容器。
【0079】
これにより(Mn−(bbpr−allyl)−OTf/PDM)とPDMの共重合体を得た。該共重合体のマンガン元素分析(硫硝酸分解−塩酸溶解−ICP発光分析法)を行ったところ、マンガン含有量は4.21wt%であった。
【0080】
実施例3 [共重合体の過酸化水素分解試験]
実施例2で得られた共重合体(10.98mg、8.41μmol(1金属原子当り))を25ml二口フラスコに量り取った。ここに溶媒として、ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(アルドリッチ市販品、重量平均分子量:約70,000)を酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)に該ポリマー濃度が21.1mg/mlとなるよう溶解させた溶液(1.00ml)を加え、次いでエチレングリコール(1.00ml)を加え攪拌した。これを触媒混合溶液として用いた。
【0081】
この触媒混合溶液の入った二口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを反応前熱処理として80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.20ml(2.28mmol))をシリンジで加え、80℃下20分間、過酸化水素分解反応を行った。発生する酸素をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素を定量した。発生した酸素をガスビュレットにより測定した実測の体積値(v)を、数式1により大気圧と水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の条件に換算し、気体発生量(V)を求めた。


(数式1中、P:大気圧(mmHg)、p:水の蒸気圧(mmHg)、t:温度(℃)、v:実測の体積値(ml)、V:0℃、101325Pa(760mmHg)下の体積値(ml)を示す。)
発生酸素量の経時変化(経過時間をtとする)を図2に示す。
この後、反応溶液を水/アセトニトリル混合溶液(水:アセトニトリル=7:3(v/v))で溶液量が10.0mlになるよう希釈し、この溶液をシリンジフィルターで濾過した。この濾液をGPC測定(GPC分析条件は下記のとおりである)し、試験後のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量を求めた。この試験後の重量平均分子量と試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量を比較し、過酸化水素由来のフリーラジカルによって該ポリマーがどの程度低分子量化したか調べることで発生フリーラジカル量を見積もった。
重量平均分子量結果を表1に示す。
【0082】
GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)分析条件
カラム :東ソー(株)製TSKgel α−M
(13μm、7.8mmφ×30cm)
カラム温度:40℃
移動相 :50mmol/l酢酸アンモニウム水溶液:CH3CN
=7:3(v/v)
流速 :0.6ml/min
検出器 :RI
注入量 :50μl
分子量算出:重量平均分子量はポリエチレンオキサイド換算値で求めた。
【0083】
試験前のポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量の測定
ポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)(21.1mg,アルドリッチ市販品、)の重量平均分子量を前記記載のGPC分析条件と同様にして求めた。
【0084】
実施例4 [共重合体の過酸化水素分解試験]
実施例3において、反応前熱処理を80℃下60分間攪拌という条件にした以外は、同様の試験を行った。換算した発生酸素量の経時変化を図2に示し、試験後の重量平均分子量を表1に示す。
【0085】
実施例2で得られた、共重合体を触媒にして過酸化水素分解試験を行った結果、1時間の熱水溶液前処理を施しても触媒活性が全く低下していないことから、高い熱安定性を有する触媒であることが判明した。
【0086】
【表1】

表1より、実施例3と実施例4で共存させたポリ(ナトリウム 4−スチレンスルホナート)の重量平均分子量はそれぞれ試験前品に比べほぼ同程度であった。これより実施例3と実施例4の触媒はフリーラジカルの発生を抑制して過酸化水素を分解していることが判明した。
【0087】
実施例5[多核錯体の製造]
製造例2で示した式(7)で示される配位子を用い、実施例1と同様にして、エポキシ環を有する配位子Lのマンガン2核錯体を得ることができる。
【0088】
製造例3[配位子の合成]
製造例1と同様に、J.Am.Chem. Soc.1984、106、pp4765−4772.に記載のHL-Et配位子の合成に準拠し、製造例1のアリルクロリドに代えて、4−クロロメチルスチレンを用いることで、下記式(8)で示されるbbpr−CH2St配位子を収率85%で得た。1H−NMR(0.05%(v/v)TMS CDCl3溶液)を測定した結果、5〜8ppmのピークからビニルベンジル(−CH2St)基が導入されたことを確認した。1H−NMRのチャートを図3に示す。

【0089】
製造例4[多核錯体前駆体の合成]
フラスコにp-ビニル安息香酸 (10.1 g, 67.5 mmol)、水酸化ナトリウム水溶液 (10.2 g, 64.1 mmol)を量りとり、ここに水 140 mlを加え攪拌溶解させ、不溶成分を濾別し、p-ビニル安息香酸ナトリウム水溶液を調整した。別途フラスコに、硫酸マンガン5水和物(7.74 g, 32.1 mmol)と水 50 mlとを量りとり、攪拌溶解させた。ここに前述のp-ビニル安息香酸ナトリウム水溶液を加え、室温下2時間攪拌した。生成した沈殿を濾取し、水洗浄、エーテル洗浄した後、減圧乾燥させることでp−ビニル安息香酸マンガン・4水和物の白色粉末を得た。収量5.87 g(13.9 mmol)43%。元素分析Calcd for C1822MnO8:C,51.32;H.5.26.Found:C,51.63;H,5.16.
【0090】
実施例6[多核錯体の製造]
フラスコに、製造例3で得られたbbpr−CH2St(1.12 g、 1.04 mmol)、酢酸ナトリウム (324 mg、 11.8 mmol)及び酢酸(120 mg、 3.95 mmol)を量りとり、ここにジメチルスルホキシド 120mlを加え攪拌溶解させた。ここに酢酸マンガン四水和物 (637 mg、 2.60 mmol)を加え、室温下1.5時間攪拌した。この後、ナトリウムトリフレート(447 mg、 2.60 mmol)を添加し、更に1時間攪拌した。この反応混合物を700 mlの蒸留水の入ったビーカーに注ぎ、生成した沈殿を濾取した。沈殿を水洗浄した後、減圧乾燥させることで下記式(9)で示されるMn−OAc−(bbpr−CH2St)−OTf白色粉末を得た。収量1.22 g (0.792 mmol、76%) 。ESI MS[M−CF3SO3+=1391.2。

なお、上式において「(CF3SO32」の表記は、2当量のトリフルオロメタンスルホン酸イオンが対イオンとしてあることを示す。
【0091】
実施例7[多核錯体の製造]
フラスコに、製造例3で得られたbbpr−CH2St(400 mg、 0.372 mmol)、ジイソプロピルエチルアミン (43.2 mg、 0.335 mmol)を量りとり、ここにテトラヒドロフラン 54 mlを加え攪拌溶解させた。ここにp−ビニル安息香酸マンガン・4水和物 (313 mg、 0.744 mmol)を加え、室温下2時間攪拌した。この反応混合物を減圧下濃縮し、メタノールを加えて生成した沈殿を濾取し、水洗浄とエーテル洗浄を行なった後、減圧乾燥させることでベージュ色粉末の下記式(10)で示されるMn−vb−(bbpr−CH2St)−vbを得た。収量122 mg。ESI MS[M−(p−ビニル安息香酸アニオン)]+=1477.4。

なお、上式において括弧の表記は、2当量のp−ビニル安息香酸イオンが対イオンとしてあることを示す。
【0092】
実施例8[共重合体の製造]
10mlガラス製サンプル管に、実施例6で得られたMn−OAc−(bbpr−CH2St)−OTf(770mg、0.500mmol)、p−スチレンスルホン酸ナトリウム水和物(35.1mg)、N−ビニルピロリドン(299mg、2.69mmol)、ジメチルホルムアミド(391mg)、および1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル) (39.7mg、0.162mmol)を混合溶解させた。このサンプル管へアルゴンガスをフローした後、ラバーセプタムで栓をし、80℃のオイルバスで24時間加熱し重合させた。生成したゲル状共重合体はサンプル管を破砕して取り出した。取り出したゲル状共重合体をハンマーとメノウ鉢で粉砕し淡黄色粉末の共重合体を得た(1.29 g、収量に出発のマンガンが100%含まれるとするとマンガン含有量は0.775μmol/mgとなる)。
【0093】
実施例9 [共重合体の過酸化水素分解試験]
過酸化水素分解触媒として、実施例8で得られた共重合体(21.6mg、20.0μmol(1マンガン原子当り、上記のマンガン含有量で算出)と酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(2.00ml、0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)を25ml二口フラスコに量り取った。これを触媒混合液として用いた。
【0094】
この触媒混合液を用いて、実施例3と同様に過酸化水素分解反応を20分間行ない、発生する酸素をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素を定量した。発生酸素量の経時変化(経過時間をtとする)を図4に示す。
【0095】
実施例10 [共重合体の過酸化水素分解試験]
実施例9と同様の試験を、反応前熱処理を80℃下6時間攪拌という条件にした以外は、同様に行った。換算した発生酸素量の経時変化を図4に示す。
実施例8で得られた、共重合体を触媒にして過酸化水素分解試験を行った結果、6時間の熱水溶液前処理を施しても触媒活性の低下はわずかであり、高い熱安定性を有する触媒であることが判明した。
【0096】
実施例11[共重合体の製造]
10mlガラス製サンプル管に、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(100mg、0.0615mmol)、N−ビニルイミダゾール(68.4mg、0.723mmol)、アクリル酸(51.6mg、0.716mmol)、テトラヒドロフラン(330mg)、および2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(9.20mg、0.0370mmol)を混合溶解させた。このサンプル管へアルゴンガスをフローした後、ラバーセプタムで栓をし、50℃のオイルバスで16時間加熱し重合させた。生成したゲル状共重合体はサンプル管を破砕して取り出した。取り出したゲル状共重合体をハンマーとメノウ鉢で粉砕し白色粉末の共重合体を得た(187mg)。
【0097】
実施例12[共重合体の製造]
10mlガラス製サンプル管に、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(100mg、0.0615mmol)、メタアクリロニトリル(62.0mg、0.924mmol)、アクリル酸(11.5mg、0.160mmol)、および2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(9.20mg、0.0370mmol)を混合溶解させた。これを実施例11と同様な手法で重合および粉砕処理することで、白色粉末の共重合体を得た(99.0 mg)。
【0098】
実施例13[共重合体の製造]
10mlガラス製サンプル管に、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(100mg、0.0615mmol)、メタアクリロニトリル(82.0mg、1.22mmol)、アクリル酸(23.1mg、0.321mmol)、ジビニルベンゼン(41.0mg、0.315mmol)、および2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(9.20mg、0.0370mmol)を混合溶解させた。これを実施例11と同様な手法で重合および粉砕処理することで、白色粉末の共重合体を得た(143 mg)。
【0099】
実施例14[共重合体の製造]
2mlガラス製サンプル管に、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(100mg、0.0615mmol)、アクリロアミド(20.4mg、0.287mmol)、メタアクリル酸(73.5mg、0.854mmol)、および2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(9.20mg、0.0370mmol)を混合溶解させた。これを実施例11と同様な手法で重合及び粉砕処理することで、白色粉末の共重合体を得た(143 mg)。
【0100】
実施例15[共重合体の製造]
2mlガラス製サンプル管に、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(100mg、0.0615mmol)、メタアクリロアミド(21.0mg、0.247mmol)、メタアクリル酸(73.5mg、0.854mmol)、および2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(9.20mg、0.0370mmol)を混合溶解させた。これを実施例11と同様な手法で重合及び粉砕処理することで、白色粉末の共重合体を得た(130 mg)。
【0101】
実施例16[共重合体の製造]
2mlガラス製サンプル管に、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(200mg、0.123mmol)、メタアクリロアミド(60.0mg、0.705mmol)、アクリル酸(49.3mg、0.684mmol)、メタアクロレイン(135mg、1.93mmol)、および2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(18.4mg、0.0740mmol)を混合溶解させた。これを実施例11と同様な手法で重合及び粉砕処理することで、白色粉末の共重合体を得た(130 mg)。
【0102】
実施例17[多核錯体の製造]
フラスコに、実施例7で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−vb(500mg、 0.308 mmol)、とn−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(215mg、 0.616 mmol)をそれぞれ量り取り、テトラヒドロフラン(30ml)に溶解させた。これを2h攪拌した後、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をへキサンと水で洗浄したのち、真空乾燥することですることで対アニオンにn−ドデシルベンゼンスルホン酸アニオンを有する、下記式(11)で示されるMn−vb−(bbpr−CH2St)−DBSを得た。収量481mg (0.242mmol、62%) 。

なお、上式において括弧の表記は、2当量のドデシルベンゼンスルホン酸イオンが対イオンとしてあることを示す。
【0103】
実施例18[共重合体の製造]
実施例17で得られたMn−vb−(bbpr−CH2St)−DBS(100mg、0.0509mmol)、メタアクリロニトリル(166mg、2.47mmol)、メタアクロレイン(95.1mg、0.730mmol)、トルエン150mg、アクアロンHS−10(169mg、第一工業製薬(株)製)、2,2'-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(18.0mg、0.0720mmol)、及び蒸留水(5ml、窒素ガスを30minバブルしたもの)を1.2mmの回転子を入れた窒素置換した25mlフラスコに量り取り、450rpmで攪拌し、50℃で3時間重合を行なった。
得られた反応混合物にメタノールを加え沈降させ、沈殿物を濾取、メタノール洗浄後、真空乾燥した(収量148mg)。
【0104】
実施例19[多核錯体の製造]
フラスコに、製造例3で得られたbbpr−CH2St(1.46g、 1.36 mmol)、ジ(イソプロピル)エチルアミン(0.160g、 1.24 mmol)、および酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)をそれぞれ量り取り、ジメチルスルホキシド(50ml)に溶解させた。これを1時間攪拌した後、ナトリウムテトラフェニルボレート(0.941mg、 5.50 mmol)を加えて30分間攪拌した。この反応混合物に水を加えて生成した沈殿を濾取し、水洗浄、エーテル洗浄した後、真空乾燥することで下記式(12)で示されるCo−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。収量2.48g (62%) 。ESI MS[M−(BPh4)]+= 1570.6。

なお、上式において「(BPh42」の表記は、2当量のテトラフェニルボレートイオンが対イオンとしてあることを示す。
【0105】
実施例20[多核錯体の製造]
酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)の代わりに酢酸ニッケル・4水和物(0.687mg、 2.75 mmol)を用いて、実施例19と同様に錯形成反応を行なうことで、下記式(13)で示されるNi−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。収量2.55g (62%) 。ESI MS[M−(BPh4)]+= 1568.5。

なお、上式において「(BPh42」の表記は、2当量のテトラフェニルボレートイオンが対イオンとしてあることを示す。
【0106】
実施例21[多核錯体の製造]
酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)の代わりに酢酸銅(II)・1水和物(0.549mg、 2.75 mmol)を用いて、実施例19と同様に錯形成反応を行なうことで、下記式(14)で示されるCu−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。収量2.39g (78%) 。

なお、上式において「(BPh42」の表記は、2当量のテトラフェニルボレートイオンが対イオンとしてあることを示す。
【0107】
実施例22[多核錯体の製造]
酢酸コバルト・4水和物(0.686mg、 2.75 mmol)の代わりに塩化鉄(II)・4水和物(0.545mg、 2.77 mmol)を用いて、実施例19と同様に錯形成反応を行なうことで、下記式(15)で示されるFe−(bbpr−CH2St)−BPh4を得た。収量2.77g (62%) 。

【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】製造例1 bbpr−allyl配位子の1H−NMR分析チャート
【図2】実施例3、4における発生酸素量の経時変化
【図3】製造例3 bbpr−CH2St配位子の1H−NMR分析チャート
【図4】実施例9、10における発生酸素量の経時変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、下記の(i)、(ii)及び(iii)の要件を備える配位子Lを1つ以上と、複数の金属原子とを含む、多核錯体。
(i)重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有すること。
(ii)金属原子と配位する配位原子を5個以上有すること。
(iii)配位子L自身が溶媒に可溶であること。
【請求項2】
配位子Lの配位原子が、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる配位原子である請求項1に記載の多核錯体。
【請求項3】
配位子Lの配位原子の中で少なくとも1つが、炭素−窒素二重結合上の窒素原子である請求項1又は2に記載の多核錯体。
【請求項4】
分子内に含まれる金属原子の総和が8以下である、請求項1〜3の何れかに記載の多核錯体。
【請求項5】
分子内に含まれる金属原子が、第一遷移元素系列の遷移金属原子である、請求項1〜4の何れかに記載の多核錯体。
【請求項6】
前記複数の金属原子から選ばれる2つの金属原子の組合わせにおいて、同一の配位原子と配位結合する2つの配位原子の組合わせを有するか、又は前記複数の金属原子から選ばれる2つの金属原子をM1、M2とし、M1、M2に配位する配位原子をそれぞれAM1、AM2としたとき、AM1−AM2間を結ぶ共有結合の最小値が1以上4以下となるAM1及びAM2の組合せを有する、請求項1〜5の何れかに記載の多核錯体。
【請求項7】
配位子Lが1つであり、且つ金属原子が2つである、請求項1〜6の何れかに記載の多核錯体。
【請求項8】
分子量が6000以下である請求項1〜7の何れかに記載の多核錯体。
【請求項9】
下記式(1)で示される化合物。

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4(以下、Ar1〜Ar4のように表わすこともある)は、それぞれ独立に、芳香族複素環基を表し、R1、R2、R3、R4及びR5(以下、R1〜R5のように表すこともある)は2価の基を表し、Z1、Z2は、それぞれ独立に、窒素原子又は3価の基を表す。Ar1〜Ar4、R1〜R5の中で少なくも1つに重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する。)
【請求項10】
下記式(2)で示される、請求項9記載の化合物。

(式中、Ar1〜Ar4、R1〜R5は前記式(1)と同義であり、これらの中で少なくも1つに重合反応性の多重結合を有する基及び/又は開環重合性の環を有する。)
【請求項11】
下記式(3a)又は(4a)で示される、請求項10記載の化合物。

(式(3a)、(4a)中、R1〜R5は前記式(1)と同義である。X1、X2、X3及びX4(以下、X1〜X4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、窒素原子又はCHを表し、Y1、Y2、Y3及びY4(以下、Y1〜Y4のように表すこともある)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数2〜60の芳香族基、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基を表し、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性を有する環を有する基である。)
【請求項12】
下記式(3b)又は(4b)で示される、請求項11記載の化合物。

(式(3b)、(4b)中、X1〜X4、ならびにY1〜Y4は、前記の式(3a)又は(4a)と同義である。Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性の環を有する基である。Zは1又は2を表す。N10、N20は、R50と結合する窒素原子を表し、N30、N40、N50及びN60(以下、N30〜N60のように表すこともある)は、芳香族複素環基中の窒素原子を表す。R50は、N10とN20を結ぶ共有結合の最小値が2以上14以下である2価の基を表す。)
【請求項13】
下記式(3c)又は(4c)で示される、請求項12記載の化合物。

(式(3c)、(4c)中、X1〜X4、Y1〜Y4は、前記の式(3a)又は(4a)と同義であり、Y1〜Y4の中で少なくとも1つが重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する基又は開環重合性の環を有する基である。)
【請求項14】
請求項9〜13の何れかに記載の化合物を配位子Lとして有する、請求項1〜8の何れかに記載の多核錯体。
【請求項15】
請求項1〜8又は請求項14の何れかに記載の多核錯体を重合して得られる重合体。
【請求項16】
請求項1〜8又は請求項14の何れかに記載の多核錯体を1種以上と、該多核錯体と共重合しうる重合性モノマーとを、共重合して得られる共重合体。
【請求項17】
請求項1〜8又は請求項14の何れかに記載の多核錯体、請求項15記載の重合体又は請求項16記載の共重合体の何れかを用いたレドックス触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−238603(P2007−238603A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26564(P2007−26564)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】