説明

多極コイル構造の非接触給電装置

【課題】第1に、外部放射される電磁波がトータル的に大幅削減されて、電磁波障害が防止され、第2に、もってエアギャップ拡大も可能となる、多極コイル構造の非接触給電装置を提案する。
【解決手段】この非接触給電装置7は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、送電側回路4の送電コイル8から受電側回路5の受電コイル9に、エアギャップGを存して近接対応位置しつつ、電力を供給する。そして、送電コイル8や受電コイル9は、それぞれ、複数個の単位コイル8’や単位コイル9’の平面的集合体よりなる。各単位コイル8’,9’は、渦巻状に巻回された扁平フラット構造をなし、隣接配置されると共に、直に並んで隣接配置された相互間で、電流の向きIが逆となる設定よりなり、磁極のN極とS極が逆となっている。そこで、形成される磁界Hの重なり部分が、打ち消し合って相殺される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触給電装置に関する。例えば、地面側,送電側から車輌側,受電側に非接触で電力を供給する、多極コイル構造の非接触給電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
ケーブル等の機械的接触なしで、例えば電気自動車等の車輌に、外部から電力を供給する非接触給電装置が、需要に基づき開発,実用化されている。
この非接触給電装置では、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、地上側に定置された送電側回路の送電コイルから、車輌等の移動体側に搭載された受電側回路の受電コイルに、例えば数10mm〜数100mm程度のエアギャップを存し、非接触で近接対応位置しつつ、電力を供給する(後述する図4,図5等も参照)。
【0003】
《従来技術》
図3は、この種従来例の非接触給電装置1の説明に供し、(1)図は、その受電コイル3(送電コイル2)の平面図、(2)図は、電磁界放射等の状態を示す正面図、(3)図は、同平面図である。
この種の非接触給電装置1にあっては、送電側回路4の送電コイル2や、受電側回路5の受電コイル3として、従来より、渦巻状に巻回された扁平フラット構造のものが使用されている。これと共に、この種従来例では、送電コイル2と受電コイル3は、それぞれ、N極およびS極から構成される極数2の2極コイルよりなっていた。
図中6は、送電コイル2の外側や受電コイル3の外側にそれぞれ配設された、フェライトコア等の磁心コアである。Gはエアギャップ、Hは形成される交番磁界、hは磁界Hの向きの1例、NはそのN極、SはそのS極、Iは電流の向きを示す。Dは電磁界放射を、rは電磁界強度を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
上述したこの種従来例の非接触給電装置としては、例えば、次の特許文献1,2に示されたものが挙げられる。
【特許文献1】特開2008−087733号公報
【特許文献2】特開2010−035300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
《問題点》
ところで、このような従来の非接触給電装置1については、次のような課題が指摘されていた。
図3の(2)図に示したように、給電に際しては、誘起された磁界Hを利用して、送電コイル2と受電コイル3が電磁結合され、磁束の磁路が形成されて、非接触給電が実施される(代表例では図示のように、受電コイル3と送電コイル2とが上下に位置するので、以下その位置関係を基に説明する)。
その際、エアギャップGには、大きな密度の強い高周波磁界H(交番磁界H)が誘起されるが、上下方向(Z方向)には、外側に磁心コア6が配設されているので、電磁界放射Dは殆どない。
これに対し、左右方向(X方向)や前後方向(Y方向)は、遮るものがないので、電磁界放射Dが拡散して行く。このように外部拡散され、略平面的に伝搬して広がる電磁界放射D,電磁界強度rは、図3の(3)に示したように無指向性,等方向性を示す。
【0006】
このような電磁界放射D,電磁界強度rは、近隣周辺に電磁波障害を引き起こす虞が指摘されていた。すなわち強い高周波磁界H(交番磁界H)が誘起され、高周波の電磁波が強力に放射されるので、近隣周辺の離れたエリアまで届き易く、環境への悪影響が懸念されていた。例えば、数10m〜数100m程度離れたエリアにおいて、電波妨害を発生させたり、人体に機能障害を与える虞が指摘されていた。
他方、非接触給電装置1にあっては、給電の利便性に鑑み、エアギャップG拡大のニーズが大である。
しかしながら、エアギャップGを拡大すると、比例して送電コイル2の励磁無効電力が増加し、励磁皮相電力を増大させることが必要となり、結局、外部への電磁界放射Dの拡大、電磁界強度rの増大を招き、上述した近隣周辺への電磁波障害の危険が増すことになる。
【0007】
《本発明について》
本発明の多極コイル構造の非接触給電装置は、このような実情に鑑み、上記従来技術の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、電磁波障害が防止され、第2に、エアギャップ拡大も可能となる、多極コイル構造の非接触給電装置を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、特許請求の範囲に記載したように、次のとおりである。請求項1については、次のとおり。
請求項1の多極コイル構造の非接触給電装置は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、送電側回路の送電コイルから受電側回路の受電コイルに、エアギャップを存し非接触で近接対応位置しつつ電力を供給する。
そして、該送電コイルおよび受電コイルは、それぞれ、複数個の単位コイルの平面的集合体よりなり、各該単位コイルは、渦巻状に巻回された扁平フラット構造をなし、隣接配置されると共に、直に並んで隣接配置された相互間で、電流の向きが逆となる設定よりなること、を特徴とする。
【0009】
請求項2については、次のとおり。
請求項2の多極コイル構造の非接触給電装置では、請求項1において、給電に際し該受電コイルが、定置された該送電コイルに対し近接対応位置して停止する、停止給電方式にて電力供給可能となっている。そして、該送電コイルと受電コイルとは、上下等で対をなし得る対称構造よりなること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。
請求項3の多極コイル構造の非接触給電装置では、請求項2において、該送電コイルと受電コイルは、それぞれ、1個の該単位コイルが対をなすN極とS極を構成し、極数2の2極コイル構造として把握される。もってそれぞれ、偶数個の該単位コイルの集合により、4極コイル構造や、8極コイル構造等の多極コイル構造として把握される。
そして、直に並んで隣接配置された各該単位コイル間で、磁極のN極とS極が逆となっていること、を特徴とする。
【0010】
請求項4については、次のとおり。
請求項4の多極コイル構造の非接触給電装置では、請求項3において、直に並んで隣接配設された各該単位コイル間について、それぞれ形成される磁界の重なり部分のみが部分的に、NS逆磁極に基づき打ち消し合って相殺される。もって、外部放射される電磁波が、トータル的に低減されること、を特徴とする。
請求項5については、次のとおり。
請求項5の多極コイル構造の非接触給電装置では、請求項4において、該送電コイルおよび受電コイルは、それぞれ外側に、扁平なフラット構造のフェライトコア等の磁心コアを備えていること、を特徴とする。
請求項6については、次のとおり。
請求項6の多極コイル構造の非接触給電装置では、請求項5において、該送電コイル等の送電側回路は、地面,路面,床面等の地上側に、定置され、該受電コイル等の受電側回路は、車輌,その他の移動体側に、搭載されていること、を特徴とする。
【0011】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)非接触給電装置では、受電コイルが送電コイルにエアギャップを存し近接対応位置して、電力が供給される。代表的には、停止給電方式にて給電が実施される。
(2)給電に際しては、送電コイルが通電されて磁束が形成され、もって受電コイルとの間のエアギャップに、磁束の磁路が形成される。
(3)このように誘起された磁界を利用し、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、送電コイルから受電コイルへと給電が実施される。
(4)ところで、このような非接触給電に際しては、電磁波が外部へと強力に放射される危険がある。
(5)これに対し、まず、送電コイルや受電コイルの外側には、磁心コアが配設されているので、同方向への電磁波放射は殆ど見られない。
(6)しかしながらエアギャップ側面は、外部解放されているので、そのままでは、電磁波が強力に外部放射される虞が大である。
(7)そこで本発明では、送電コイルおよび受電コイルについて、多極構造を採用すると共に、直に並んで隣接配置された単位コイル相互間では、電流の向きそして磁極のN極とS極を、逆としてなる。
(8)従って、この単位コイル間について、向きが逆となって形成される磁界の重なり部分のみが部分的に、打ち消し合い相殺されて弱められる。
(9)このようにして、外部放射される電磁波が、放射電磁波の逆位相に基づき、トータル的に大幅に低減される。
(10)これにより電磁波障害発生の虞が防止されるので、エアギャップ拡大が可能となる。
(11)さてそこで、本発明の多極コイル構造の非接触給電装置は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0012】
《第1の効果》
第1に、電磁波障害が防止される。本発明の多極コイル構造の非接触給電装置では、送電コイルおよび受電コイルについて、多極構造を採用すると共に、それぞれ、直に並んで隣接配置された各単位コイル相互間で、電流の向きそしてN極とS極が逆となっている。
もって、形成される磁界の重なり部分のみが部分的に、打ち消し合って弱められるので、外部放射される電磁波が、トータル的に大幅に低減される。このように、外部拡散されて広がる電磁界放射が削減され、電磁界強度が低下するので、近隣周辺に電磁波障害を引き起こす危険は防止される。
前述したこの種従来例のように、例えば数10m〜数100m程度離れたエリアにおいて、電波妨害を発生させたり、人体に機能障害を与える危険は防止される。
【0013】
《第2の効果》
第2に、エアギャップ拡大が可能となる。本発明の多極コイル構造の非接触給電装置では、このように、外部放射される電磁波がトータル的に大幅低減されて、電磁波障害が防止される。
そこで、前述したこの種従来例に比し、エアギャップをより大きくとることが可能となる。エアギャップを拡大すると、励磁無効電力そして励磁皮相電力の増大を招くことになるが、その悪影響は上述によりカバーされる。非接触給電装置にあっては、給電の利便性に鑑み、エアギャップ拡大,大エアギャップ化のニーズが大であるが、上述により、そのニーズに十分応えることができる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る多極コイル構造の非接触給電装置について、発明を実施するための形態の説明に供し、(1)図は、受電コイル(送電コイル)の第1例の平面図、(2)図は、受電コイル(送電コイル)の第2例の平面図、(3)図は、第1例の電磁界放射等の状態を示す正面図である。
【図2】同発明を実施するための形態の説明に供し、(1)図は、第1例の電磁界放射等の状態を示す平面図、(2)図は、第2例の電磁界放射等の状態を示す平面図である。
【図3】この種従来例の説明に供し、(1)図は、受電コイル(送電コイル)の平面図、(2)図は、電磁界放射等の状態を示す正面図、(3)図は、同平面図である。
【図4】非接触給電装置の説明に供し、回路図である。
【図5】非接触給電装置の説明に供し、(1)図は、全体側面図、(2)図は、構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
《非接触給電装置7について》
まず、本発明の前提となる非接触給電装置7について、図4,図5,図1の(3)図等を参照して、一般的に説明する
非接触給電装置7は、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、送電側回路4の送電コイル8から受電側回路5の受電コイル9に、エアギャップGを存し非接触で近接対応位置して、電力を供給する。送電側回路4は、地上A側に定置配設されており、受電側回路5は車輌B等の移動体側に搭載されている。
【0016】
このような非接触給電装置7について、更に詳述する。まず、給電側,トラック側,1次側の送電側回路4は、給電スタンドC等の給電エリアにおいて、地面,路面,床面,その他の地上A側に、定置配置されている。
これに対し、受電側,ピックアップ側,2次側の受電側回路5は、電気自動車(EV車)や電車等の車輌B,その他の移動体に搭載されている。受電側回路5は、駆動用の他、非駆動用としても利用可能であり、図5中に示したように、車載のバッテリー10に接続されるのが代表的であるが、図4中に示したように、各種負荷11に直接接続される場合もある。
そして、送電側回路4の送電コイル8と受電側回路5の受電コイル9とは、給電に際し数10mm〜数100mm、例えば50mm〜150mm程度の僅かな間隙空間であるエアギャップGを存しつつ、非接触で近接して対応位置される。
給電に際しては、受電コイル9が定置された送電コイル8に対し、上側等から対応位置して停止される停止給電方式が代表的であり、停止給電方式の場合は、送電コイル8と受電コイル9とは、上下等で対をなしうる対象構造よりなる。これに対し、受電コイル9が送電コイル8上等を低速走行しつつ給電を行う移動給電方式も、可能である。
【0017】
送電側回路4の送電コイル8は、電源12に接続されている。電源12は、周波数等交換用のインバーターよりなり、例えば数kHz〜数10kHz、更には数10kHz〜数100kHz程度の高周波交流を、給電交流,励磁電流として送電コイル8に向けて通電する。図4の送電側回路4中、13は、チョークコイル、14は、送電コイル8との直列共振用のコンデンサ、15は、送電コイル8との並列共振用のコンデンサである。
受電側回路5の受電コイル9は、図5の例ではバッテリー10に接続可能となっており、給電により充電されたバッテリー10にて走行用のモータ16が駆動され、図4の例では、その他の負荷11に電力供給される。図5中17は、交流を直流に変換するコンバータ(整流部や平滑部)、18は、直流を交流に変換するインバータであり、図4の受電側回路5中、19は受電コイル9との並列共振用のコンデンサである。
送電コイル8および受電コイル9は、渦巻状に巻回された扁平フラット構造をなしている。すなわち、絶縁被覆されたコイル導線が、同一平面において並列化された平行位置関係を維持しつつ、円形や方形の渦巻状に複数回巻回ターンされ、もって全体的に凹凸のない平坦で肉厚の薄い扁平フラット構造をなすと共に、環状,略フランジ状をなしている。
又、送電コイル8および受電コイル9は、図1の(3)図中に示したように、それぞれ外側に、扁平なフラット構造のフェライトコア等の磁心コア6を備えている。磁心コア6は強磁性体よりなり、フラットな平状,環状,略フランジ状をなし、送電コイル8や受電コイル9に対し、若干大きな表面積よりなると共に同心に配置されている。そして、コイルインダクタンスを増し電磁結合を強化すると共に、形成磁束を誘導,収集,方向付けする。
【0018】
電磁誘導の相互誘導作用については、次のとおり。給電に際し、近接対応位置する送電コイル8と受電コイル9間において、送電コイル8での磁束形成により受電コイル9に誘導起電力を生成させ、もって送電コイル8から受電コイル9に電力を供給することは、公知公用である。
すなわち、図1の(3)図に示したように、送電側回路4の送電コイル8に、電源12から給電交流,励磁電流を印加,通電することにより、自己誘導起電力が発生して、磁界Hが送電コイル8の周囲に生じ、磁束がコイル面に対して直角方向に形成される。
そして、このように形成された磁束が、受電側回路5の受電コイル9を貫き鎖交することにより、誘導起電力が生成されて磁場が形成される。このように、誘起された磁界Hを利用して、電力が送受される。1kW程度〜数kW以上、更には数10kW〜数100kW程度の電力供給が可能である。
非接触給電装置7では、このような電磁誘導の相互誘導作用に基づき、送電コイル8と受電コイル9間に磁束の磁路が形成され、送電コイル8と受電コイル9間が電磁結合されて、非接触給電が行われる。
非接触給電装置7について、一般的説明は以上のとおり。
【0019】
《本発明の概要》
以下、本発明の多極コイル構造の非接触給電装置7について、図1,図2を参照して説明する。まず、本発明の概要については、次のとおり。
本発明の多極コイル構造の非接触給電装置7において、送電コイル8は、複数個の単位コイル8’の平面的な集合体よりなる。受電コイル9も、複数個の単位コイル9’の平面的集合体よりなる。
そして、送電コイル8の各単位コイル8’は、隣接配置されると共に、直に並んで隣接配置された相互間で、電流の向きIが逆に設定されており、磁極のN極とS極が逆となっている。対応して、受電コイル9の単位コイル9’も、隣接配置されると共に、直に並んで隣接配置された相互間で、電流の向きIが逆に設定されており、磁極のN極とS極が逆となる。
そこで、直に並んで隣接配設された各単位コイル8’(単位コイル9’)間において、それぞれについて形成される磁界Hの重なり部分のみが部分的に、NS逆磁極に基づき打ち消し合って相殺され、もって、外部放射される電磁波がトータル的に低減される。
本発明の概要については、以上のとおり。以下、このような本発明について、更に詳述する。
【0020】
《コイル配置について》
まず、送電コイル8(受電コイル9)は、複数個の単位コイル8’(単位コイル9’)の平面的集合体よりなり、複数個の各単位コイル8’(9’)が、隣接配置されている。
図1の(1)図の第1例では、2個の単位コイル8’(9’)が用いられており、図1の(2)図の第2例では、4個の単位コイル8’(9’)が用いられている。このように、2個,4個,8個等、偶数個用いる例が代表的であるが、奇数個用いる例も可能ではある。
このように複数個よりなる単位コイル8’(9’)は、次の相互位置関係のもとで、隣接配置される。まず、図1の(1)図の第1例,(2)図の第2例のように、相互に密接して配置されるケース、このような図示例によらず、相互間に隙間間隔が存して配置されるケース、両者ケースが混在するケース、等々が考えられる。
又、各単位コイル8’(9’)が、第1例のように、左右1列に横並び(X方向並び)したケース、これによらず前後1列に縦並び(Y方向並び)したケース、第2例のように、左右前後の縦横並び(X,Y方向並び)のケース、等々が考えられる。
コイルの配置については、以上のとおり。
【0021】
《電流の向きIについて》
そして、このように隣接配置された各単位コイル8’(9’)は、更に、直に並んで隣接配置された相互間で、電流の向きIが逆に設定されている。
すなわち、図1の(1)図の第1例では、左右横(X方向)に直に並んで隣接配置された2個の単位コイル8’(9’)間、図1の(2)図の第2例では、左右横(X方向)および前後縦(Y方向)に、直に並んで隣接配置された各単位コイル8’(9’)間について、電流の向きIが、逆となるような設定よりなる。例えば斜交い,斜向かいの隣接配置関係を除き、直に並んで隣接配置された単位コイル8’(9’)間について、電流の向きIが逆となるように設定されている。
これに対し、例えば斜交い,斜向かいの隣接配置関係となった単位コイル8’(9’)については、同じ電流の向きIとなる。
このように所定の単位コイル8’(9’)間について、電流の向きIを逆に設定する方式としては、各単位コイル8’(9’)間を直列接続すると共に、その間の接続配線を途中で交叉させ、相互間でコイル巻き方向を逆方向巻きとした例が、代表的である。なお、このように相互間を同位相とせず逆位相とすると共に、コイル巻き方向を同一方向巻きとする例も、可能である。
電流の向きIについては、以上のとおり。
【0022】
《磁極等について》
そして、直に並んで隣接配置された各単位コイル8’(9’)は、このように電流の向きIが逆に設定されているので、相互間で磁極つまりN極とS極とが逆となる(アンペールの右ねじの法則)。
図1の(1)図の第1例では、左右横(X方向)に直に並んで隣接配置された2個の単位コイル8’(9’)間において、図1の(2)図の第2例では、左右横(X方向)や前後縦(Y方向)に直に並んで隣接配置された各単位コイル8’(9’)間において、それぞれ誘導起電力に基づき誘起される磁界Hの磁極は、互いに逆極性となりNS逆磁極となる。
ところで、送電コイル8を形成する各単位コイル8’と、受電コイル9を形成する各単位コイル9’とは、給電に際し、各々対をなして近接対応位置する。そして、送電コイル8の1個の単位コイル8’と受電コイル9の1個の単位コイル9’間で、対をなすN極とS極とを構成する。
又、送電コイル8の単位コイル8’、および受電コイル9の単位コイル9’は、それぞれN極とS極とから構成される極数2の2極コイルとして把握される。
このような単位コイル8’が複数個集合した送電コイル8と、単位コイル9’が複数個集合した受電コイル9とで、この非接触給電装置7の送電コイル8と受電コイル9は、4極以上の多極コイル構造として把握される。例えば、第1例は4極コイル構造、第2例は8極コイル構造と把握される(これに対し、図3に示したこの種従来例は、送電コイル2と受電コイル3は、共に2極コイル構造として、把握される)。
磁極等については、以上のとおり。
【0023】
《磁界について》
さて前述により、送電コイル8および受電コイル9では、図1の(1)図,(2)図に示したように直に並んで隣接配置された各単位コイル8’(9’)について、相互間で磁極つまりN極とS極とが逆になっている。
すなわち、送電コイル8の各単位コイル8’と、受電コイル9の各単位コイル9’間において、それぞれ対をなす単位コイル8’と単位コイル9’毎に形成される複数の磁界Hは、図1の(3)図の第1例について示したように、直に並んで隣接するものの磁界の向きhが逆となる。エアギャップGに誘起される高周波磁界H(交番磁界H)は、それぞれの向きhが逆となる(hと−h)。
そこで、このように磁界の向きhが逆となると共に直に並んで隣接する両磁界Hの重なり部分のみが部分的に、打ち消し合って相殺されるようになる。対をなす各単位コイル8’,9’にて形成される個々の磁界Hは、直に並んで隣接する単位コイル8’や9’のNS逆磁極設定に基づき、磁束の向きそして磁界の向きhが、逆向きとなっており、部分的に形成された磁界H相互の重なり部分のみが、打ち消し合って相殺されて弱められる。
磁界Hについては、以上のとおり。
【0024】
《電磁界放射D等について》
そこで、電磁界放射D等については、次のようになる。
a.まず通常は、送電コイル8や受電コイル9の外側には、磁心コア6が配設されている。そこで、図1の(3)図の例でも示したように、磁心コア6方向つまり図示例では上下方向(Z方向)には、形成される磁界Hに基づく電磁界放射Dは殆ど見られず、電磁界強度rも殆どない。この点は、この種従来例においても同様であった(図3の(2)図を参照)。
b.これと共に本発明では、図2の(1)の第1例について示したように、前後方向(Y方向)の電磁界放射Dが大幅削減され、電磁界強度rも大きく低下する。これらは殆ど0に近くなる。これは、直に並んで隣接配置された単位コイル8’や9’のNS逆磁極設定に基づき、それぞれの磁界Hについて、磁界の向きhが逆となって相互に部分的に重なる部分が、大きく打ち消し合って相殺されて、弱められた結果である。
c.これに対し、図2の(1)の第1例では、左右方向(X方向)の電磁界放射Dは、大きく削減されることなく削減は中程度に止まり、電磁界強度rも、大きく低下することなく中程度の低下に止まる。上述したb.のケースに比し、部分的な重なり部分が比較的小さく、打ち消し合いも小さいことに基づく。
なお、この場合、直に並んで隣接配置された単位コイル8’や単位コイル9’間の間隔Jが小さいほど、重なり部分が大きくなり、削減,低下の割合がより大きくなるのに対し、間隔Jが大きくなるほど、重なり部分が小さくなり、削減,低下の割合がより小さくなる。
ところで、以上述べた所は、図1の(1)図,(3)図,図2の(1)図に示した4極コイル構造の例に基づく。これに対し、図1の(2)図,図2の(2)図に示した8極コイル構造の例では、上述した4極コイル構造が、更に相互に複合するので、前記b,cの両点において、電磁界放射Dは更に大きく削減され、電磁界強度rも更に大きく低下する。これらが殆ど0に近くなる方向,範囲が増加する。
電磁界放射D等については、以上のとおり。
【0025】
《電磁波について》
この非接触給電装置7では、NS逆磁極の多極構造を採用したことにより、上述したように、電磁界放射Dは削減され電磁界強度rも低下する。
前述したこの種従来例では、無指向性,等方向性を示していたのに対し(図3の(3)を参照)、特定され限定された指向性,方向性を示すようになる(図2の(1)図,(2)図等を参照)。外部拡散される電界と磁界Hは削減され、その強度も低下する。
このようにして、外部放射される電磁波は低減される。略平面的に前後方向(Y方向)や左右方向(X方向)に伝播して広がって行く電磁波は、トータル的に大幅低減される。つまり、引き起こされて周囲へと広がって行く電気力線と磁力線は、量的に削減され質的に強度低下する。
電磁波については、以上のとおり。
【0026】
《作用等》
本発明の多極コイル構造の非接触給電装置7は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)非接触給電装置7では、車輌B等の移動体側に搭載された受電側回路5の受電コイル9が、地上A側に定置された送電側回路4の送電コイル8に対し、エアギャップGを存し非接触で近接対応位置して、電力が供給される。代表的には、停止給電方式にて給電が実施される(図5等を参照)。
【0027】
(2)給電に際しては、まず送電側回路4において、送電コイル8が電源12からの高周波交流を励磁電流として、通電される。そこで、送電コイル8に磁束が形成され、もって、送電コイル8と受電コイル9間のエアギャップGに、磁束の磁路が形成される(図1の(3)図,図4,図5等を参照)。
【0028】
(3)このようにして、エアギャップGを介して送電コイル8と受電コイル9間が電磁結合され、磁束が受電コイル9を貫き鎖交することにより、誘導起電力が生成される。
非接触給電装置7では、このように誘起された磁界Hを利用し、電磁誘導の相互誘導作用に基づき、電力が送電側回路4から受電側回路5へと、供給される(図1の(3)図等を参照)。
【0029】
(4)ところで、この種の非接触給電装置7では、例えば10kHz〜100kHz程度の高周波交流が用いられており、エアギャップGには、大きな密度の強い高周波磁界H(交番磁界H)が、誘起される。
そこで、エアギャップGから外部へと電磁波が強力に放射される危険がある。電磁界放射Dそして電磁界強度rが、無指向性,等方向性を帯びて、強力に外部拡散される虞がある(図3の従来例を参照)。
【0030】
(5)これに対し、まず、エアギャップG形成面、つまり送電コイル8の外側や受電コイル9の外側には、それぞれ磁心コア6が配設されている。そこで、同方向(Z方向)への電磁界放射Dは遮られ、電磁波の外部放射は殆ど見られない(図1の(3)図,図3の(2)図等を参照)。
【0031】
(6)しかしながら、エアギャップG側面は、磁心コア6等は存せず外部解放されている。もって、エアギャップG側方(Z方向に対するX,Y方向)については、そのままでは、略平面的に伝搬して広がっていく電磁界放射Dの拡散の虞が大である。電磁波が強力に外部放射される虞が大である(図3の従来例を参照)。
【0032】
(7)そこで本発明では、送電コイル8および受電コイル9について、多極構造を採用すると共に、直に並んで隣接配置されたその単位コイル8’(単位コイル9’)に関しては、相互間で電流の向きIを逆に設定し、もって、磁極つまりN極とS極を逆とした構成を採用してなる(図1を参照)。
【0033】
(8)このように、直に並んで隣接配設されると共にNS逆磁極となった単位コイル8’(単位コイル9’)間について、それぞれ形成される磁界Hは、磁界の向きhが逆となっており、部分的に形成される相互の重なり部分が打ち消し合い、磁界HのNS方向の作用が相殺されることにより、弱められる。磁界密度が大幅低下せしめられる。
【0034】
(9)従って、外部拡散される電磁界放射Dは大幅に削減され、電磁界強度rも大幅に低下する。これらは、特定され限定された指向性,方向性を示すようになる(本発明の図2の(1)図,(2)図と、この種従来例の図3の(3)図とを、比較対照)。
このようにして、エアギャップG側面から外部放射される電磁波が、トータル的に大幅に低減される。周囲へと伝搬して広がる電気力線や磁力線は、量的に削減され質的に強度低下する。
【0035】
(10)このように、外部放射される電磁波が、トータル的に大幅低減されて、電磁波障害発生の虞が防止されるので、より一層のエアギャップG拡大が可能となる。
すなわち、エアギャップGを拡大すると、比例して、送電コイル8の励磁無効電力が増加し、励磁皮相電力の増加を招くことになるが、その悪影響は上述によりカバーされる。
電力増加を招いても、外部放射される電磁波は大幅低減される。エアギャップG拡大に伴う外部拡散される電磁界放射Dの拡大、電磁界強度rの増大は、確実に阻止される。
作用等については、以上のとおり。
【符号の説明】
【0036】
1 非接触給電装置(従来例)
2 送電コイル(従来例)
3 受電コイル(従来例)
4 送電側回路
5 受電側回路
6 磁心コア
7 非接触給電装置(本発明)
8 送電コイル(本発明)
8’単位コイル
9 受電コイル(本発明)
9’単位コイル
10 バッテリー
11 負荷
12 電源
13 チョークコイル
14 コンデンサ
15 コンデンサ
16 モータ
17 コンバータ
18 インバータ
19 コンデンサ
A 地上
B 車輌
C 給電スタンド
D 電磁界放射
G エアギャップ
H 磁界
I 電流の向き
J 間隔
N N極
S S極
h 磁界の向き
r 電磁界強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁誘導の相互誘導作用に基づき、送電側回路の送電コイルから受電側回路の受電コイルに、エアギャップを存し非接触で近接対応位置しつつ電力を供給する、非接触給電装置において、
該送電コイルおよび受電コイルは、それぞれ、複数個の単位コイルの平面的集合体よりなり、各該単位コイルは、渦巻状に巻回された扁平フラット構造をなし、隣接配置されると共に、直に並んで隣接配置された相互間で、電流の向きが逆となる設定よりなること、を特徴とする多極コイル構造の非接触給電装置。
【請求項2】
請求項1において、給電に際し該受電コイルが、定置された該送電コイルに対し近接対応位置して停止する、停止給電方式にて電力供給可能となっており、
該送電コイルと受電コイルとは、上下等で対をなし得る対称構造よりなること、を特徴とする多極コイル構造の非接触給電装置。
【請求項3】
請求項2において、該送電コイルと受電コイルは、それぞれ、1個の該単位コイルが対をなすN極とS極を構成し極数2の2極コイル構造として把握され、もってそれぞれ偶数個の該単位コイルの集合により、4極コイル構造や8極コイル構造等の多極コイル構造として把握されると共に、
直に並んで隣接配置された各該単位コイル間で、磁極のN極とS極が逆となっていること、を特徴とする多極コイル構造の非接触給電装置。
【請求項4】
請求項3において、直に並んで隣接配設された各該単位コイル間について、それぞれ形成される磁界の重なり部分のみが部分的に、NS逆磁極に基づき打ち消し合って相殺され、もって、外部放射される電磁波がトータル的に低減されること、を特徴とする多極コイル構造の非接触給電装置。
【請求項5】
請求項4において、該送電コイルおよび受電コイルは、それぞれ外側に、扁平なフラット構造のフェライトコア等の磁心コアを備えていること、を特徴とする多極コイル構造の非接触給電装置。
【請求項6】
請求項5において、該送電コイル等の送電側回路は、地面,路面,床面等の地上側に、定置され、該受電コイル等の受電側回路は、車輌,その他の移動体側に、搭載されていること、を特徴とする多極コイル構造の非接触給電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−134217(P2012−134217A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282964(P2010−282964)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000187208)昭和飛行機工業株式会社 (72)
【Fターム(参考)】