説明

多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法

【課題】多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法の提供。
【解決手段】本多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法テムでエタノールを連続生産する方法は、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムが沈降器を具えた複数の発酵槽で構成され、該方法は、凝集酵母特性を利用して発酵槽内の沈降器内に酵母菌を戻し、上澄液を多槽システム中の、次の発酵槽に流す。本方法は高希釈率で操作可能で、バクテリアの成長を妨げ、システムをより安定させる。さらに、本発明は原料に制限されず、サトウキビの絞り汁から直接エタノールを生産できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一種のエタノール生産の方法に係り、特に、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産によりエタノールの生産効率をアップする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスアルコールは、バイオエタノールとも称され、微生物を利用してバイオマス中の糖質を変換して得られるエタノールである。バイオマスは生物由来で、石化有機物ではなく、一般には植物の光合成作用により発生する炭素含有化合物である。
【0003】
近年、世界的な石油需要の激増に加え、国際政治が不安定な状態にあることから、オイル価格が下がらない。台湾のエネルギー源需要状況は、大量の石油輸入に依存しており、経済上、工業の製造コストと消費物価が大幅に押し上げられ、民生の不安定を形成し、このような現象は間接的に国家の安全に影響を与える。また、世界各国が経済の繁栄を追求する過程で、大量に各種資源を使用すると同時に環境を汚染し、グローバルな気候の温暖化問題が日増しに厳重となっている。各国は温室ガス排出を減少するため、積極的に各種のクリーンエネルギー技術の開発に取り組んでおり、たとえば、バイオマスエネルギー、風力エネルギー、太陽エネルギー、水素エネルギー、及び燃料電池、IGCC(石炭ガス化複合発電)等が挙げられる。この状況下で、バイオマスエネルギー源開発はエネルギー源自主、農業発展、環境保護及び経済成長の総合的な効果を有する。台湾のエネルギー源の98%以上は輸入に頼っており、国際石油、ガス市場は日増しに厳しくなる状況で、輸入に頼らないエネルギー源の開発は意義があり、農業発展の新契機も提供する。エネルギー源作物は成長過程中に二酸化炭素などの温室ガスを吸収し、環境の改善に役立つ。且つバイオマスエネルギー源産業は、一端ある規模に到達すると、雇用、所得、生産等の効果に巨大な貢献を果たす。このため、エネルギー源、環境及び経済等のいずれの層面から考慮しても、バイオマスエネルギーは非常に推進に値する項目である。
【0004】
1970年代の石油危機の時、ブラジル、米国は積極的にバイオマスアルコール工業の発展に力を注ぎ、近年、二酸化炭素の排出量過多、地球温暖化、国際原油供給の不安定と価格の持続的高騰などの因子の影響の下、ますます多くの国家が力を入れるようになった。2006年に世界のバイオマスアルコール生産量4千万キロリットルの90%はブラジルと米国で生産されていた。ブラジルはサトウキビを原料とし、米国はトウモロコシを主としてバイオマスアルコールを生産し、サトウキビとトウモロコシはそれぞれ糖質とでんぷん質の作物である。台湾の経済部はすでに国営事業としてバイオマスアルコール工場を設置し、サトウキビ、サトウモロコシを原料としてバイオマスアルコールの生産を行うことを指示している。
【0005】
バイオマスアルコールは一種の大宗化学物質であり、大量生産してコストを下げることが必要であり、発酵プロセスの改善は極めて重要な研究課題である。バイオマスアルコールの発酵方法は、常にバッチ発酵、フィードバッチ式及び連続式発酵を使用する。バッチ発酵は発酵時間が長く、生産量が小さいか、或いは固体発酵プロセスに比較的常用される。ただし、高い糖濃度の下での発酵は基質抑制作用を発生し、発酵時間が過長となり大幅にエタノール生産速度を下げる。基質(たとえばブドウ糖)抑制を改善するため、フィードバッチ式発酵を採用できるが、なおもエタノール抑制問題を有し、連続発酵の利用は、このような抑制作用を低減し、並びに生産率を高めることができる。連続発酵は生産率を高めることができるが、発酵時の希釈率(dilution rate)は菌体の成長率より大きくなってはならず、そうでなければ菌体のオーバーフロー現象が形成され得る。
【0006】
比較的早期の特許文献1によると、薄膜濾過の方式で、Zymomonas mobilis発酵液中の菌体と製品を分離し、菌体を発酵槽に戻して連続発酵させ、これは発酵槽内の菌体濃度を高めることができるが、薄膜濾過方式で菌体をリサイクルするコストは比較的高く、並びに不経済である。
【0007】
特許文献2は、単一発酵槽に沈降式の菌体リサイクル装置を配備することでブドウ糖を発酵させてエタノールを得ており、使用する凝集酵母は呼吸代謝欠陥のSaccharomyces uvarum 変異株(Saccharomyces uvarum 26602 由来)とされ、実施例はブドウ糖フィード濃度135 g/L、希釈率 0.129 h-1で連続発酵させ、得られたエタノール生産率(ethanol productivity)は、6.7 gL-1h-1 であり、もしエタノール生産率を高めるなら、希釈率はさらに高める必要がある。
【0008】
最近提出された特許文献3によると、単一発酵槽に沈降式の菌体リサイクル装置を配備し高濃度のブドウ糖を発酵させてエタノールを得ており、使用する凝集酵母はSaccharomyces cerevisae AM12 とし、ブドウ糖フィード濃度は200 g/L、希釈率(D) は 0.2 ≦ D≦0.3 で操作し、エタノール生産率は15 gL-1h-1以上に達する。
【0009】
エタノール発酵は原料の違いにより、発酵可能な糖はブドウ糖とは限らず、且つ糖類濃度は常に高濃度に制御可能であるとはいえず、もしサトウキビの絞り汁を原料としてバイオマスエタノールを製造するなら、サトウキビの絞り汁中の糖類は主に蔗糖であり、濃度は約80 g/L で、高濃度に濃縮して更に発酵させるとすれば、コストパフォーマンスが悪くなる。近年、凝集酵母を発酵菌株となす論文があり、単一の発酵槽を使用しての連続式菌体リサイクル発酵プロセスの研究がなされているが、この論文によると、初絞りのサトウキビの汁を栄養基質材料とし、希釈率 0.24 h-1 で、エタノール生産率は 9.14 gL-1h-1である。このことから、材料をサトウキビの絞り汁に変えると、ブドウ糖を材料とする発酵方法に較べ、発酵エタノール生産率は大幅に下がる。
【0010】
ゆえに、もし、発酵原料の制限を受けず、すなわち、サトウキビの絞り汁をエタノールに変換でき且つ変換効率、生産率をアップできる発酵方法があれば、エネルギー源、環境、及び経済のいずれの層面から見ても、大きなメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4443544号明細書
【特許文献2】米国特許第4567145号明細書
【特許文献3】国際特許第WO2008120644号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述の問題を解決するため、本発明の目的は一種のエタノールを生産する方法を提供することにあり、特に、多槽式菌体リサイクル発酵方式でエタノールを連続生産する効率を高める方法である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的は、本発明の提供する多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法は、
(a)原料を提供するステップ、該原料は、糖類、窒素源、鉱物質、及びビタミンで組成された混合液であり、該糖類は蔗糖、ブドウ糖、果糖或いはそれらの任意の組合せとされ、且つサトウキビの絞り汁を糖類ソースとして用いることができ、サトウキビの絞り汁濃度は60g −100g/L とされる。
(b)該原料を高希釈率で第1発酵エリアにフィードするステップ、そのうち該第1発酵エリアは事前に凝集酵母菌を接種しておく。
(c)該原料を発酵させて発酵液を生成し、該発酵液と該凝集酵母菌を該第1発酵エリアより第1細胞沈降エリアにオーバーフローさせ、並びに該凝集酵母菌を、該第1細胞沈降エリアより該第1発酵エリアに戻すステップ。
(d)ステップ(c)の該発酵液を該原料とし、少なくとも一つの第2発酵エリアと少なくとも一つの第2細胞沈降エリアを利用し、該第2発酵エリアに該凝集酵母菌を接種し、重複してステップ(b)とステップ(c)を少なくとも一回以上、該発酵液中のエタノール生産率が毎時間13g/Lを超過するまで繰り返すステップ。
以上のステップを包含し、そのうち、ステップ(b)の該高希釈率は0.25〜0.48g/Lh の間とする。
【0014】
本発明はまた、一種の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムを提供し、それは、
原料槽であって、原料を保存し、該原料は、糖類、窒素源、ミネラル及びビタミンで組成された混合液であり、該糖類は蔗糖、ブドウ糖、果糖或いはそれらの任意の組合せとされ、且つサトウキビの絞り汁を糖類ソースとして用いることができ、サトウキビの絞り汁濃度は60g −100g/L とされる、上記原料槽と、
第1発酵槽であって、該原料槽に連通し、且つ該原料が高希釈率で該第2発酵槽にフィードされ、並びに発酵液を生成し、該第1発酵槽に凝集酵母菌が接種され、且つ酸素含有ガスが通入される、上記第1発酵槽と、
第1細胞沈降器であって、該第1発酵槽に連通し、該第1発酵槽よりオーバーフローした該発酵液と該凝集酵母菌が流入し、且つ該凝集酵母菌が該第1細胞沈降器より該第1発酵槽に流し戻される、上記第1細胞沈降器と、
少なくとも一つの第2発酵槽であって、該第1細胞沈降器に連通し、該第1細胞沈降器より該発酵液が該第2発酵槽に送られ、該第2発酵槽に該凝集酵母菌が接種され且つ酸素含有ガスが通入される、上記少なくとも一つの第2発酵槽と、
少なくとも一つの第2細胞沈降器であって、該第2発酵槽に連通し、該第1細胞沈降器と該第2細胞沈降器がいずれも直立式容器とされ、該第2発酵槽よりオーバーフローした該発酵液と該凝集酵母菌が該第2細胞沈降器に流入し、該凝集酵母菌が該第2細胞沈降器より該第2発酵槽に流し戻される、上記少なくとも一つの第2細胞沈降器と、
を包含し、そのうち、該該高希釈率は0.25〜0.48g/Lh の間とされ、該発酵液中のエタノール生産率が毎時間13g/Lを超過する時、該発酵液はエタノール収集ユニットに流入させられる。
【0015】
本発明の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムの好ましい実施例において、該システムは更に第1発酵槽と第2発酵槽を連接する連通管を包含し、該連通管はスイッチを具えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の使用する技術特徴は、十分に菌体リサイクルと多槽直列連続操作の相乗効果の長所を有し、ゆえに、本発明を利用してエタノールを生産する方法は、高希釈率で発酵を進めることができ、雑菌の生長を防止し、システムの安定を維持する等の長所を有する。且つ本発明のエタノール生産の方法は原料の制限を受けず、直接サトウキビの絞り汁を糖類原料として発酵を行うことができ、特許文献3(国際特許第WO2008120644号)と比較して、本発明は比較的高い希釈率の下で操作可能で、蔗糖濃度が80g/Lの時に、18.0gL-1h-1の エタノール生産率を有する。反対に、特許文献3は、200g/Lという非常に高いブドウ糖濃度を使用しなければ、エタノール生産率を15gL-1h-1以上とすることができない。このほか、本発明は凝集酵母菌の特性を利用し、菌体を発酵槽に留め、発酵槽内の菌体密度を維持し、エタノール生産コストを下げ、生産効率をアップする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例の発酵システム構造図である。
【図2】本発明の第2発酵槽出口の細胞濃度、エタノール濃度、蔗糖濃度、ブドウ糖濃度、及び果糖濃度の時間に伴う変化図である。図中、「生物量」とは、Saccharomyces diastaticus LORRE-316 酵母菌の重量を指す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の技術内容、構造特徴、達成する目的を詳細に説明するため、以下に実施例を挙げ並びに図面を組み合わせて説明する。
【0019】
本発明は多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法を提供し、それに使用される多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムは、二組以上の生物反応器(発酵槽)と細胞沈降循環リサイクル装置を包含する。一定濃度の糖類(蔗糖、ブドウ糖、果糖或いはそれらの任意の組合せ)をフィードし、0.8〜0.9の菌体リサイクル比率(r)及び0.25〜0.48gL-1h-1の希釈率(D)に設定して連続発酵させると、開始期(start−up)の後、発酵槽の菌体濃度は安定値に達し、この時、発酵槽内の糖類及び製品(エタノール)の濃度はいずれも維持されて不変である。
【0020】
酵母菌の生長には糖類、窒素源、ビタミン及びミネラル等の供給が必要であり、そのうち、各種のビタミン中、ビタミンB群が最も重要であり、この部分は、酵母抽出物及びペプトン(peptone)より提供される。
【0021】
上記細胞沈降循環リサイクル装置の構造は簡単であり、任意の直立する容器が細胞沈降の場所とされ得て、発酵槽出口に接続され、凝集酵母菌は迅速に凝集し並びに重力により沈降し、底部の細胞がポンプで発酵槽に送られ、上層の上澄液は次の発酵槽に送られるかエタノール収集ユニットに送られる。
【0022】
本発明の実施例は、Saccharomyces diastaticus LORRE-316 酵母菌(それはすでに2012年1月19日に中華人民共和国典型培養物保藏中心(CHINA CENTER FOR TYPE CULTURE COLLECTION (CCTCC))に寄託され、その寄託コードはCCTCC M 2012010である。)を使用しているが、本発明の実施上はこのような凝集酵母菌に局限されるわけではなく、凝集性を有するエタノール生産酵母菌であれば、いずれも応用可能である。
【0023】
本発明の実施例で使用する発酵方法は、図1に示されるように、二組の発酵槽を例として使用している。図1の発酵システム1中、原料は、原料槽14より第1スイッチ181を通り第1発酵槽121に進入し、さらに第2スイッチ182より第1細胞沈降器131に進入し、第1細胞沈降器131中で、菌体は凝集し並びに重力により沈降し、第1細胞沈降器131の底部に酵母菌細胞をため、さらに、第4スイッチ184より該第1発酵槽121に流し戻す。このほか、第1細胞沈降器131中、上澄液である発酵液は、第5スイッチ185より第2発酵槽122に流入し、さらに第6スイッチ186より第2細胞沈降器132に進入し、第2細胞沈降器132中で、菌体は凝集し並びに重力により沈降し、第2細胞沈降器132の底部に酵母菌細胞をため、さらに第7スイッチ187より第2発酵槽122に戻す。このほか、第2細胞沈降器132中の上澄液である発酵液は、第8スイッチ188よりエタノール収集ユニット15に流入する。
【0024】
そのうち、第1発酵槽121と第2発酵槽122の容量は5Lとされ、第1細胞沈降器131と第2細胞沈降器132は、直径4cmで高さ42.5cmの円柱型ガラス管とされる。このほか、第1発酵槽121と第2発酵槽122はそれぞれ通気装置に接続され、該通気装置は、ガス制御装置111とガス濾過装置112を包含し、第1発酵槽121と第2発酵槽122内にガスを通入する。該ガスは酸素含有ガスであり、空気或いは酸素ガスとされ得る。且つ第1発酵槽121と第2発酵槽122にコンピュータ17が接続され、該コンピュータ17により第1発酵槽121と第2発酵槽122内のpH値、温度及び酸素溶解量が制御され、そのうち、pH値は5〜6、常用発酵温度は摂氏30〜40度、通気量は1vvmとされる。
【0025】
第1発酵槽121の後の発酵槽が開始期に比較的高い基質濃度を有するようにして、発酵槽内の菌体濃度が比較的急速に高まるように、本発明では発酵初期に発酵槽と発酵槽の間の管線(図1中の第3スイッチ183で制御される管線)を開放するが、安定した連続操作期に入ると、この連通は原則的に閉じられる。これにより、発酵槽濃度を急速に安定させて連続操作期動作に入れるようにする。低濃度の糖類、たとえば80g/Lの蔗糖溶液をフィードする時、効果は比較的明かではないが、発明者は別の実施例(文中未表示)において、高濃度、たとえば150g/Lより高い濃度でフィードしたところ、あきらかに発酵槽の菌体濃度が連続操作期の濃度に達するまでの時間を短縮できた。
【0026】
[実施例1−1]
・二つの発酵槽を分離した発酵試験
本発明の実施例の二槽連続式菌体リサイクルモジュールの発酵システムは図1に示されるようである。80g/Lの蔗糖溶液を基質としてフィードし、発酵液組成は以下の表のようである。温度は摂氏35度、pH値は5、ガス制御装置111と気体濾過装置112で通入する空気流量は1vvm、攪拌器16の回転速度は100rpmに設定して連続式菌体リサイクルの発酵を行う。
【表1】

菌体リサイクル比r=0.8及び希釈率D=0.42h-1で操作すると、8〜9時間で安定した連続発酵状態となり、且つ二槽の間の直接連通(すなわち図1中の第3スイッチ183)は遮断される。この時、第2発酵槽122内の細胞濃度は25.8g/Lで、出口エタノール濃度は37g/Lであり、残留蔗糖濃度は0.8g/Lであり、ブドウ糖及び果糖の残留はなく、エタノール生産率は15.5gL-1h-1であった。エタノール生産率の定義は、エタノール生産率=希釈率(D)×出口エタノール濃度である。開始期より安定した連続発酵にいたるまでの、第2発酵槽122出口の細胞濃度、エタノール濃度、蔗糖濃度、ブドウ糖濃度、及び果糖濃度は時間の変化と共に、図2のようである。
【0027】
[実施例1−2]
・二つの発酵槽を分離し且つ希釈率を高めた発酵試験
二組の5L発酵槽と二組の細胞沈降器を直列接続して細胞リサイクル発酵させ、発酵液組成及び発酵条件は実施例1−1と同じとする。
菌体リサイクル比r=0.8及び希釈率D=0.48h-1で操作すると、10時間で安定した連続発酵状態となり、且つ二槽の間の直接連通(すなわち図1中の第3スイッチ183)は遮断される。この時、第2発酵槽122内の細胞濃度は25−26g/を維持し、出口エタノール濃度は37.5g/Lであり、残留蔗糖濃度は2.6g/Lであり、ブドウ糖及び果糖の残留はなく、エタノール生産率は18.0gL-1h-1であった。
【0028】
[実施例1−3]
・実施例1−2の二つの発酵槽を連通させた対照試験
二組の5L発酵槽と二組の細胞沈降器を直列接続して細胞リサイクル発酵させ、発酵液組成及び発酵条件は実施例1−1と同じとする。
菌体リサイクル比r=0.8及び希釈率D=0.48h-1で操作すると、10時間で安定した連続発酵状態となり、且つ二槽の間の直接連通(すなわち図1中の第3スイッチ183)は開放される。この時、第2発酵槽122内の細胞濃度は30g/であり、出口エタノール濃度は37g/Lであり、残留蔗糖濃度は6.7g/Lであり、ブドウ糖及び果糖の残留はなく、エタノール生産率は17.8gL-1h-1であった。
【0029】
[実施例2−1]
・二つの発酵槽を連通させた発酵試験
二組の5L発酵槽と二組の細胞沈降器を直列接続して細胞リサイクル発酵させ、発酵液組成及び発酵条件は実施例1−1と同じとする。
第1発酵槽の後の発酵槽が、開始期に比較的高い基質濃度を有して、発酵槽内の菌体濃度が比較的急速に高まるように、第1発酵槽121と第2発酵槽122の間を直通させる第3スイッチ183は開くが、安定した連続操作期に入ると、この連通は原則的に閉じる。
菌体リサイクル比r=0.8及び希釈率D=0.36h-1で操作すると、10時間で安定した連続発酵状態となる。この時、第2発酵槽122内の細胞濃度は30g/であり、出口エタノール濃度は36g/Lであり、残留蔗糖濃度は1.3g/Lであり、ブドウ糖及び果糖の残留はなく、エタノール生産率は13.3gL-1h-1であった。
【0030】
[実施例2−2]
・二つの発酵槽を連通させ並びに菌体リサイクル比を高めた発酵試験
二組の5L発酵槽と二組の細胞沈降器を直列接続して細胞リサイクル発酵させ、発酵液組成及び発酵条件は実施例1−1と同じとする。
菌体リサイクル比r=0.9及び希釈率D=0.36h-1で操作すると、10時間で安定した連続発酵状態となるが、二つの発酵槽の間の直接連通(第3スイッチ183)は開放されている。このとき、第2発酵槽122内の細胞濃度は32.3g/Lであり、出口エタノール濃度は38.3g/Lであり、残留蔗糖濃度は0.62g/Lであり、ブドウ糖及び果糖の残留はなく、エタノール生産率は13.8gL-1h-1であった。
【0031】
[実施例3]
・蔗糖濃度を高めた発酵試験
二組の5L発酵槽と二組の細胞沈降器を直列接続して細胞リサイクル発酵させ、発酵液組成及び発酵条件は実施例1−1と同じとするが、ただし発酵液組成中の蔗糖濃度は160g/Lとする。
菌体リサイクル比r=0.9及び希釈率D=0.2h-1で操作すると、15時間で安定した連続発酵状態となるが、二つの発酵槽の間の直接連通(第3スイッチ183)は開放されている。このとき、第2発酵槽122内の細胞濃度は40g/であり、出口エタノール濃度は72g/Lであり、残留蔗糖濃度は0.92g/Lであり、ブドウ糖及び果糖の残留はなく、エタノール生産率は14.4gL-1h-1であった。
【0032】
上述の実施例から分かるように、本発明の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムは、基質及び製品の抑制作用を低減することができ、前の発酵槽製品(エタノール)濃度が低くこのため製品抑制作用は小さく、後の発酵槽基質(糖類)濃度は低く、基質抑制作用が小さい。且つ本発明の方法は糖類原料の制限を受けず、直接サトウキビの絞り汁(濃度約80g/L)を発酵させてエタノールを得られ、並びにエタノール生産率を高め、比較的高いエタノール生産率を得るために予め糖類原料を濃縮しておく必要がない。
【0033】
このほか、本発明の方法は、高希釈率下で操作でき、高希釈率により雑菌の生長を防止し、システムの安定度を維持できる長所がある。連続発酵製造のエタノールの生産効率に影響を与える因子は、糖類濃度のほか、希釈率が主要な因子となるが、連続発酵が安定状態に達する時、希釈率は発酵槽内の菌体の生長速度に等しくなり、ゆえに比較的低い希釈率が比較的容易に達成され、フィードされた糖類が完全に消化され残留する糖の存在がなくなる。
【0034】
総合すると、本発明は十分に細胞リサイクルと多槽直列の連続操作の長所の相乗作用を十分に利用し、従来とは異なるエタノール発酵プロセスを提供し、本発明の方法は糖類原料の制限を受けず、また、高希釈率下で操作でき、製造コストを節約でき、雑菌生長を防止しシステムが安定する等の長所を有する。
【符号の説明】
【0035】
1 発酵システム
111 ガス制御装置
112 気体濾過装置
121 第1発酵槽
122 第2発酵槽
131 第1細胞沈降器
132 第2細胞沈降器
14 原料槽
15 エタノール収集ユニット
16 攪拌器
17 コンピュータ
181 第1スイッチ
182 第2スイッチ
183 第3スイッチ
184 第4スイッチ
185 第5スイッチ
186 第6スイッチ
187 第7スイッチ
188 第8スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法において、
(a)糖類、窒素源、鉱物質、及びビタミンで組成した混合液である原料を提供するステップ、
(b)事前に凝集酵母菌を接種しておいた第1発酵エリアに該原料を高希釈率でフィードするステップ、
(c)該原料を発酵させて発酵液を生成し、該発酵液と該凝集酵母菌を該第1発酵エリアより第1細胞沈降エリアにオーバーフローさせ、並びに該凝集酵母菌を、該第1細胞沈降エリアより該第1発酵エリアに戻すステップ、
(d)ステップ(c)の該発酵液を該原料とし、少なくとも一つの第2発酵エリアと少なくとも一つの第2細胞沈降エリアを利用し、そのうち該第2発酵エリアに該凝集酵母菌を接種し、重複してステップ(b)とステップ(c)を少なくとも一回以上、該発酵液中のエタノール生産率が毎時間13g/Lを超過するまで繰り返すステップ、
以上を包含し、
そのうち、ステップ(b)の高希釈率は0.25〜0.48g/Lh であることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法。
【請求項2】
請求項1記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法において、該糖類は蔗糖、ブドウ糖、果糖或いはそれらの任意の組合せとすることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法において、サトウキビの絞り汁を糖類ソースとし、該サトウキビの絞り汁の濃度は60g −100g/L とすることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法。
【請求項4】
請求項1記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法において、該凝集酵母菌は、Saccharomyces diastaticus LORRE-316 とし、寄託コードはCCTCC M 2012010であることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法。
【請求項5】
請求項1記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法において、該第1発酵エリアと該第2発酵エリアに酸素含有ガスを通入し、これら発酵エリア内の温度は摂氏30−40度とし、pH値は5−6とすることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法。
【請求項6】
請求項1記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法において、該第1発酵エリアと第2発酵エリアの間は安定発酵状態に至るまでは連通状態とすることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産方法。
【請求項7】
多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、
原料を保存し、該原料は、糖類、窒素源、ミネラル及びビタミンで組成された混合液である原料を保存する、原料槽と、
該原料槽に連通し、且つ該原料が高希釈率でフィードされ、並びに発酵液を生成し、凝集酵母菌が接種されると共に、酸素含有ガスが通入される、第1発酵槽と、
該第1発酵槽に連通し、該第1発酵槽よりオーバーフローした該発酵液と該凝集酵母菌が流入し、且つ該凝集酵母菌を該第1発酵槽に流し戻す、第1細胞沈降器と、
該第1細胞沈降器に連通し、該第1細胞沈降器より該発酵液が流入し、該凝集酵母菌が接種され且つ酸素含有ガスが通入される、少なくとも一つの第2発酵槽と、
該第2発酵槽に連通し、該第2発酵槽よりオーバーフローした該発酵液と該凝集酵母菌が流入し、該凝集酵母菌を該第2発酵槽に流し戻す、少なくとも一つの第2細胞沈降器と、
を包含し、該高希釈率は0.25〜0.48g/Lh であり、該第2細胞沈降器の該発酵液中のエタノール生産率が毎時13g/Lを超過する時、該第2細胞沈降器内の該発酵液はエタノール収集ユニットに収集されることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項8】
請求項7記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、該糖類は蔗糖、ブドウ糖、果糖或いはそれらの任意の組合せとされることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項9】
請求項7又は請求項8記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、サトウキビの絞り汁が糖類ソースとされ、該サトウキビの絞り汁の濃度は60g −100g/L とされることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項10】
請求項7記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、該凝集酵母菌は、Saccharomyces diastaticus LORRE-316 とされ、寄託コードはCCTCC M 2012010であることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項11】
請求項7記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、該第1細胞沈降器と該第2細胞沈降器はいずれも直立式容器とされることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項12】
請求項1記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、該第1発酵槽と該第2発酵槽を接続する連通管を包含し、該連通管はスイッチを具えたことを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項13】
請求項7記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、該第1発酵槽と該第2発酵槽に接続された通気装置を包含することを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。
【請求項14】
請求項13記載の多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システムにおいて、該通気装置は酸素含有ガスを該第1発酵槽と該第2発酵槽に通入し、且つこれら発酵槽内の温度は摂氏30−40度とされ、pH値は5−6とされることを特徴とする、多槽式菌体リサイクル発酵方式エタノール連続生産システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−85552(P2013−85552A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−73277(P2012−73277)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(503004699)國立中正大學 (2)
【Fターム(参考)】