説明

多機能医療物品

【課題】1を超える生体適合性増進機能を含む医療製品の提供。
【解決手段】(a)本体部材と、(b)第1の表面部分における第1の生体適合性コーティング、ここで該第1の生体適合性コーティングは重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、及び(c)第2の表面部分における第2の生体適合性コーティング、ここで該第2の生体適合性コーティングは重合開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、を含み、該第1の生体適合性剤と第2の生体適合性剤が個々の表面部分に固定され、該表面部分が患者の体液と接触した際に異なる生体適合性機能を与えるように選択される、医療物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は「多機能医療製品」と題された2004年12月6日に出願された出願番号60/633,841を有する、同一所有者の利益を主張する。
【0002】
本発明の分野
本発明は、1以上の生体適合性増進機能を含む医療物(製)品に関する。本発明の製品および方法は、医療装置などの医療製品が使用中に複数の生理環境および/または条件(体液または組織など)に遭遇する適用に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
医学の発達は、疾病および障害の治療において、従来のものでない多くの外科的に技術の使用を可能としてきた。例えば、移植可能医療装置における著しい進展は、患者にとっての多くの新たな治療選択肢を可能としてきた。初期の移植可能医療装置は外科用金属に限られ、主として、骨の確保または置換などの大まかな機構的修復に用いられてきた。しかし、ここ20年で一時的または永久的構造要素および機能要素の移植が一般的なものとなり、このような装置はその構造および機能においてより入り組んだ複雑なものとなってきた。
【0004】
金属装置またはポリマー装置の体内留置は、様々な医学的症状の治療に有用ではあるが、多くの合併症を招くことがある。これら合併症のいくつかのものとして、感染リスクの上昇、異物応答の誘発(炎症および/または繊維性被包を生じ得る)、および創傷治癒応答の誘発(過形成を生じ得る)が挙げられる。
【0005】
潜在的合併症を軽減するための1つのアプローチが、移植可能医療装置を作製するために用いられる材料種を探すことであった。例えば、移植可能医療装置は、体内で有害作用を誘発する可能性が小さいと考えられるポリマー材料(ポリウレタンなど)から作製することができる。
【0006】
医療装置移植から生じる潜在的有害作用を軽減するもう1つのアプローチは、移植される装置の組織または血液接触面に生体適合性剤を提供することである。例えば、血栓形成性を軽減するために装置の表面にヘパリンを提供することができる。装置の表面に生体適合性剤を提供する1つの利益は、全身投与される場合に、必要とされる部位において治療的濃度を達成するために必要な場合がある薬剤の有毒濃度が避けられることである。
【0007】
「移植部位」とは、移植可能装置が本発明に従って配置される患者の体内の部位を指す。この用語は移植部位、ならびに装置部品から直接または間接的に治療を受容する身体の領域を含み得る「治療部位」という用語と対照的であり得る。例えば、いくつかの例では、薬剤は移植部位からその装置自体の周辺の領域へ移動し、それにより単に移植部位よりも広い領域を治療することができる。この区別を示す一例が薬剤溶出ステント(DES)の使用に見られる。これら比較的最近の装置は、経時的にステントから溶出される生物活性剤を含み得る。このような溶出される生物活性剤は、移植部位および薬剤が移植部位から装置自体の周辺領域へ移動するにつれそれを超える領域(処置部位)の身体領域に治療を提供することができる。
【0008】
治療によっては、医療装置は、移植した場合に体内の種々の生理環境(physiological mileux)中に留まる必要がある場合がある。言い換えれば、該装置は移植した場合に1を超える異なる生理環境に接触するようになることがある。例えば、装置の一部は血液接触環境中にあり、装置の別の部分が、組織環境などの血管外環境中にある場合がある。これらの異なる部分の生体適合性要件は幅広く異なるものであり得る。
【0009】
別の課題に対して、移植可能装置に関連した細胞の固定化、組織接着、および薬剤の制御送達のために使用可能なマトリックスが記載されている。米国特許第6,007,833号(Chudzikら, "Crosslinkable Macromers Bearing Initiator Groups")、同第6,156,345号(Chudzik ら, " Crosslinkable Macromers Bearing Initiator Groups開始基")、同題6,410,044号(Chudzik ら, "Crosslinkable Macromers")、および米国公開第2003/0031697号(Chudzik ら, "Crosslinkable")参照。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
一般に、本発明は1を超える生体適合性増進機能を含む医療製品を提供する。本発明の製品および方法は、医療製品(例えば、移植可能装置)が使用中に複数の生理環境および/または条件(身体組織、体液など)に遭遇する適用に特に有用である。本発明のいくつかの態様によれば、装置は移植の際に留置される生理環境に適合する生体適合性部分とともに提供される。該生体適合性部分は、装置の異なる選択部分に異なる生体適合性剤を結合させることによって提供される。好ましい実施形態では、該生体適合性剤は、装置が体内に留置されている間、生体適合性剤が装置の選択された表面に留まるように、遊離しないように装置と結合される。医療装置の所与の部分の生体適合性剤は、その部分に求められる機能を提供し、それにより装置全体の総合的な生体適合性の向上を達成するよう選択される。よって、本発明の医療製品は、単一の移植可能医療装置に関して1を超える生体適合性機能をもたらす多機能製品であると考えることができる。
【0011】
いくつかの製品態様において、本発明は、(a)本体部材と、(b)第1の表面部分における第1の生体適合性コーティング(該第1の生体適合性コーティングは重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)と、(c)第2の表面部分における第2の生体適合性コーティング(該第2の生体適合性コーティングは重合開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)とを含み、該第1の生体適合性剤と第2の生体適合性剤が個々の表面部分に固定され、該表面部分が患者の体液と接触した際に異なる生体適合性機能を与えるように選択される、医療製品を提供する。
【0012】
よって、いくつかの態様において、本発明はポリマーマトリックスと1種類以上の生体適合性剤を含み、各生体適合性剤が製品表面の異なる部分に提供される、医療製品を提供する。該ポリマーマトリックスは医療製品の表面にコーティングを提供し、該生体適合性剤は、ポリマーマトリックスが医療製品の表面に提供される前、提供されている間、および/または提供された後にポリマーマトリックスと結合され、ポリマーマトリックス中に組み込まれ得る。よって、該医療製品は支持体、ポリマーマトリックス、および該ポリマーマトリックスと結合された1を超える生体適合性剤からなる。好ましい態様では、該生体適合性剤は装置が体内に留置されている間、および/または製品が体液もしくは組織と接触している間、遊離しないようにポリマーマトリックスと結合されている。
【0013】
いくつかの態様では、該ポリマーマトリックスは、装置の表面に含まれる各生体適合性剤に対して同じであってもよい。他の態様では、各生体適合性剤に対して異なるポリマーマトリックスを選択することもできる。さらなる態様では、ポリマーマトリックス材料は、例えば、医療製品が異なる材料(相対的疎水性の異なる材料など)から作製されている場合、医療製品の特定の部分を作製するために使用される材料の種類、および/または製品部分(血液接触表面または組織接触表面など)の生理学的要件などのような要因に基づいて選択することができる。
【0014】
その方法の態様において、本発明は多機能医療製品を提供するために使用される場合に特定の利点をもたらし得る。いくつかの態様において、本発明は、異なる表面領域において異なる生体適合性機能を含む医療製品を形成する方法を提供する。このような方法は、単一の製品の異なる部分に対する生体適合性機能を特定する工程、移植した際に該特定された生体適合性機能をもたらし得る生体適合性剤を選択する工程、および該製品の異なる各部分に生体適合性剤を結合させ、それにより、多機能医療製品を形成する工程を含む。生体適合性機能は、例えば、内皮細胞の移動または増殖などの所望の細胞応答であり得る。いくつかの態様では、本発明の方法は、複数の部分を有する表面を備えた製品を準備する工程、該表面にポリマーマトリックス材料を結合させる工程、および該ポリマーマトリックスに1を超える生体適合性剤を結合させる工程を含む。該ポリマーマトリックスは所望により、全装置表面と結合させてもよいし、または全装置表面より小さい表面と結合させてもよい。所望により、1を超えるポリマーマトリックスが製品表面に含まれてもよい。これらの実施形態では、各ポリマーマトリックス材料は医療製品の異なる表面部分と結合させてもよい。
【0015】
いくつかの方法の態様では、本発明は、医療製品に2以上の機能的表面部分を提供する方法を提供し、該方法は、(a)医療製品の第1の表面部分に第1の組成物を配置する工程(該第1の組成物は重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)、(b)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第1の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程、(c)医療製品の第2の表面部分に第2の組成物を配置する工程(該第2の組成物は重合開始剤および第2の生体適合性剤を含む、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)、および(d)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第2の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程を含み、該第1の生体適合性剤と第2の生体適合性剤は個々の表面部分に固定され、該表面部分が患者の体液と接触した際に異なる生体適合性機能を与えるように選択される。
【0016】
いくつかの方法の態様では、本発明の方法は有利にも、最小限の処理工程で達成することができる。本発明によれば、該ポリマーマトリックスおよび生体適合性剤は、所望により、医療製品表面に同時または逐次適用することができる。いくつかの実施形態では、第1工程においてポリマーマトリックス材料が製品表面に適用され、次いで該ポリマーマトリックスに生体適合性剤が適用される。他の実施形態では、ポリマーマトリックスと生体適合性剤の双方を含むコーティング溶液が調製され、該コーティング溶液が一段階コーティング法で装置表面に適用される。本発明の方法および系によれば、コーティング法に多大な柔軟性が見込めるとともに、好ましくは製品へコーティングを施すのに必要な時間が最小となる。さらに、好ましい方法では、コーティング試薬(ポリマーマトリックスおよび生体適合性剤を含む)が精密かつ正確に装置に適用することができるので、処理パラメーターに多大な柔軟性を与えることができる。よって、好ましくは、マスキング、多段階コーティング、コーティング器具(噴霧コーティング器具など)のパージなどといった付加的な処理工程が最適に省略することができる。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、医療製品に2以上の機能的表面部分を提供する方法を提供し、該方法は、(a)医療製品の第1の表面部分にプライミングした第1の組成物を提供する工程(該プライミングした第1の表面部分は重合開始剤を含む)、(b)該製品のプライミングした第1の表面部分に第1の組成物を配置する工程(該第1の組成物は、1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む第1の生体適合性剤を含む)、(c)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第1の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程、(d)該医療製品にプライミングした第2の表面部分を提供する工程(該プライミングした第2の表面部分は重合開始剤を含む)、(e)医療製品のプライミングした第2の表面部分に第2の組成物を配置する工程(該第2の組成物は、1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む重合開始剤を含む)、および(f)重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第2の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程を含み、該第1の生体適合性剤は該第2の生体適合性剤とは異なる。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、(a)第1の装置材料から作製される第1の部分と(b)第2の装置材料から作製される第2の部分とを含み、該第2の装置材料は第1の装置材料よりも疎水性が高く、第1の生体適合性剤が第1の生体適合性コーティングを介して第1の部分の表面に固定され、該第1の生体適合性コーティングが重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤が1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含み、該第2の生体適合性剤が第2の生体適合性コーティングを介して第2の部分の表面に固定され、該第2の生体適合性コーティングが非イオン性開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤が1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含み、該第1の生体適合性剤が該第2の生体適合性剤とは異なる、医療製品を提供する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、(a)第1の装置材料から作製される第1の部分と第2の装置材料から作製される第2の部分を含む医療製品を準備する工程(該第2の装置材料は該第1の装置材料よりも疎水性が高い)、(b)該第1の部分の表面に第1の生体適合性コーティングを配置する工程(該第1の生体適合性コーティングは重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)、(c)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、該第1の部分の表面に生体適合性コーティング層を形成する工程、(d)該第2の部分の表面に第2の生体適合性コーティングを配置する工程(該第2の生体適合性コーティングは非イオン性開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)、および(e)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、該第2の部分の表面に生体適合性コーティング層を形成する工程(該第1の生体適合性剤は、該第2の生体適合性剤とは異なる)を含む、医療製品の製造方法を提供する。
【0020】
他の態様において、本発明は、(a)本体部材と、(b)本体部材の長手方向に沿った第1のコーティング層(該第1のコーティング層は親水性ポリマーを含む)と、(c)該第1のコーティング層の一部と接触した生体適合性コーティング(該生体適合性コーティングは生体適合性剤を含み、該生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む)とを含み、該生体適合性コーティングが該第1のコーティング層の異なる部分と接触し、該異なる部分が100%未満の第1のコーティング層を含み、該親水性ポリマーがポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリアクリルアミド、ポリ(ビニルアルコール)、およびこれらのいずれかのコポリマーまたは組合せから選択される、医療製品を提供する。いくつかの態様では、該第1のコーティング層は本体部材の表面と接触し、該第2のコーティング層は第1のコーティング層上のトップ・コートである。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態は、移植可能装置の留置が意図される患者の体内の生理学的領域、医療製品自体の材料部分、該医療製品部分の機能、および/または使用の際にそれらの部分が接触するようになる体液に対応するように選択された1を超える生体適合性部分を含む医療製品を提供することによる、患者の治療方法に関する。いくつかの態様において、本発明は、患者内に移植された際に留置される生理環境を決定する工程、特定された各生理環境に対して生体適合性機能を決定する工程、各生体適合性機能に対応する生体適合性剤を選択する工程、および患者に移植する前に対応する装置部分に対して選択された生体適合性剤を提供する工程を含む、患者の治療方法を提供する。好ましい実施形態では、該生体適合性剤は使用(体内留置など)中、遊離しないように装置に結合されている。
【0022】
本明細書に記載のように、薬剤がポリマーマトリックス材料に中に安定して組み込まれている、または固定されている場合に、その薬剤は医療製品と遊離しないように結合されている。このような固定の結果、製品の使用中、ポリマーマトリックス材料から有意な量の薬剤は溶出されない。ポリマーマトリックス材料から溶出される薬剤の量は、使用(例えば移植)前にポリマーマトリックス材料中に提供されている生体適合性剤の量を、使用が完了した後(例えば、患者から装置を除去した後)にポリマーマトリックス材料中に残留している薬剤の量と比較することにより決定することができる。ポリマーマトリックス材料からの生体適合性剤の溶出を測定する別法は、ポリマーマトリックス材料および生体適合性剤でコーティングされた支持体をin vitroで洗浄した後、もし存在すれば、該洗浄液中に遊離した生体適合性剤の量を測定することを含む。例えば、ポリマーマトリックス材料および生体適合性剤でコーティングされた支持体を洗剤(例えばSDSなど)中で適当な時間(例えば、30分)洗浄すればよい。好適な洗浄条件は、適当な接触時間と振盪速度を選択することにより決定することができる。このようなインキュベーションの後、ポリマーマトリックスから解離した(従って洗液中に存在する)生体適合性剤の量を測定することができる。特定の理論に拘束されるものではないが、該生体適合性剤はポリマーマトリックス材料を結合(例えば共有結合)されることで、装置表面のポリマーマトリックス内に生体適合性剤を固定すると考えられる。場合によっては、該生体適合性剤はポリマーマトリックス自体に組み込まれることで、ポリマーマトリックスの一部となっていると考えられる。
【0023】
よって、本発明の方法、系および製品は、製品表面の修飾によって機能的装置表面を提供する新規な医療製品を提供する。この表面の機能は患者で使用する有意な期間(全期間でなくとも)保持される。よって、これらの態様では、本発明の方法、系および製品は、装置表面から薬剤が放出されて裸の装置表面、すなわち、使用期間後に有意な薬剤を含まない表面における薬剤送達コーティングが残るように調剤および作製された薬物溶出装置とは区別することができる。本発明によれば、生体適合性コーティングはそれ自体、体液または組織と接触した際に機能をもたらす。
【0024】
いくつかの態様では、本発明の方法、系および製品は、使用時に長期間生体適合性剤活性を保持する生体適合性コーティングを提供する。このような活性の保持は、例えば、本発明のコーティングの耐久性、ポリマーマトリックスコーティング表面への生体適合性剤の組み込み(表面からの溶出とは対照的)、コーティング方法(例えば、溶媒選択、コーティング条件など)、ならびに表面固定それ自体によるものであり得る。例えば、ヘパリンまたはコラーゲンが生体適合性剤として使用される場合、製品表面にコーティングを施した後に十分なヘパリン/コラーゲン活性が保持され得ることが分かっている。これら(および他の類似の生体適合性剤)のポリマーコーティングへの組み込みは悪影響を及ぼすおそれがあり、あるいはさらに生体適合性剤の活性を破壊することもある。本明細書で述べるように、本発明の方法および系によれば、水性系によって生体適合性剤を表面に適用することができる。有機溶媒の使用は生体適合性剤に悪影響を及ぼすおそれがあることから(例えば、生体適合性剤の変性による)、これは明らかな利点をもたらし得る。
【0025】
いくつかの態様では、該生体適合性剤はポリマーマトリックス材料に包含される前に修飾される。言い換えれば、このような生体適合性剤は非天然型である。生体適合性剤の修飾は、例えば、生体適合性剤に反応性基(光反応性基など)および/または重合性基(ビニル基など)を包含させることにより達成することができる。いくつかの実施形態では、生体適合性剤の光反応性基は、水素原子を(例えば、支持体表面から)引き抜くのとは対照的に、フリーラジカルの付加によりポリマーマトリックス材料と優先的に反応することができると考えられる。いくつかの態様では、生体適合性剤(本明細書に記載のコラーゲンまたはヘパリンマクロマーなど)の重合性基は、結果として生体適合性剤がポリマーマトリックス自体に組み込まれ、その一部となるように、ポリマーマトリックスの他の成分と反応することができると考えられる。これらの態様では、生体適合性剤は、その製品自体の表面においてコーティングの一部となり、製品表面から溶出されないと考えることができる。
【0026】
いくつかの態様では、該生体適合性コーティングは耐久性が増強されたコーティングを提供するだけでなく、所望によりポリマー材料の望ましい特徴(潤滑性コーティング特性)を保持させることができる。これは、ポリマーマトリックス材料が一定の潤滑性を有するコーティングを提供するよう選択される場合には特に有益であり得る。実施例で示す実施形態に例示するように、そうでなければ親水性のポリマーマトリックスに生体適合性剤を包含させても摩擦力に有意な増大は生じなかった。
【0027】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部となっている添付図面は、好ましい実施形態の説明とともに、本発明のいくつかの態様を例示するものであり、本発明の原理を説明するのに役立つ。図面の簡単な説明は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のいくつかの実施形態に従うコーティングの摩擦試験をまとめた表である。
【図2】非コート医療製品と本発明の一実施形態に従って製造された医療製品との平均摩擦力(g,Y軸)とサイクル数(X軸)の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態に従って製造されたコート医療製品の平均摩擦力(g,Y軸)とサイクル数(X軸)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、これらの、またその他の態様および利点を詳しく説明する。
発明の詳細な説明
下記の本発明の実施形態は網羅的なものではなく、下記の詳細な説明に開示される厳密な形態に限定されるものではない。むしろこれらの実施形態は、他の当業者が本発明の原理および実施を認識および理解することができるように選択および記載される。
本発明は、1を超える生体適合性部分を含む多機能医療製品を作製する方法を対象とする。該生体適合性部分は、生物体に対して正味有益な作用を伴って生物体の体液および/または組織と接触した状態で機能または存在する医療製品の能力を高めることができる。好ましい実施形態では、該生体適合性部分は、患者の安全性の上昇、装置性能の向上、装置の使用寿命の延長、ならびに/または装置の選択された部分の望ましくない事象(望ましくない血液成分の付着、血液凝固、および/もしくは細胞残渣の付着など)の発生の軽減といった1以上の利点を提供し得る。
【0030】
本発明のポリマーマトリックスは、多様な製品にコーティングを提供するために使用することができる。本明細書において「製品」とは、その最も広い意味で使用され、医療装置などの物品を含む。このような製品としては、カテーテル(患者の異なる生理環境中に接触または留置することが意図されるセンサーカテーテル、経心筋センサーまたはセンサーカテーテルなど)、塞栓装置(コイルなど)、骨軟骨固定材、経皮アクセス装置またはシャント、トンネルアクセスカテーテルまたはシャント、センサー部品(心臓ペーシングリード、血液成分検知装置など)を備えた移植可能装置などといった移植可能装置が挙げられる。他の例示的製品としては、経皮的心臓装置(心臓弁など)、人工弁、ステント付きグラフト、ステント付き弁、弁付きグラフトなどといった移植可能装置が挙げられる。また、採血および/または成分分離器具(血小板採取および/または細胞分離、濃縮、または計数システムなど)、血液透析または他の血液濾過システムおよび部品、血液酸素投与または他の血液処理システムおよび部品、他の血液診断システムなどといった外用医療製品も含まれる。
本明細書において「生体適合性」とは、一般に、有害な異物身体応答(例えば、免疫、炎症、血栓形成などの応答)を誘発することなくレシピエントに受容され、レシピエントと接触した状態で機能する物品の能力を指す。例えば、本発明の1以上のポリマーマトリックス材料に関して使用する場合、生体適合性とは、レシピエントに許容され、意図した様式で機能する単一のポリマーマトリックス材料(または複数のポリマーマトリックス材料)の能力を指す。
【0031】
よって、ある医療製品の表面が、生物体に対して正味有益な作用を伴って生物体の体液および/または組織と接触した状態で機能または存在することができるならば、その表面は「生体適合性」であると特定することができる。これは、組織治癒の向上を誘発する望ましい異物身体応答を含み得る。医療製品の意図される治療期間(装置の体内留置時間および/または製品が体液と接触している留置時間)にわたる生体適合性は、宿主生物体の障害を軽減する目的で望ましい。例えば、抗血栓薬、抗再狭窄薬、細胞接着タンパク質、増殖因子などの様々な生体適合性剤を、医療製品の表面に提供することができる。例えば、抗血栓薬は凝固カスケードの一部としての物質の精製を軽減することができ、抗再狭窄薬は医療製品周囲の旺盛な瘢痕組織の形成を軽減することができ、一方、細胞接着タンパク質は医療製品周囲の内皮細胞層の増殖に寄与することができる。
【0032】
生体適合性医療製品表面によりいくつかの利益がもたらされ得る。例えば、このような表面は、患者の安全性を上昇させること、装置性能を向上させること、血液成分の付着を軽減すること、血液凝固を阻害すること、装置表面を細胞残渣の付着のない状態に維持すること、および/または装置の使用寿命を延長することができる。
【0033】
医療装置表面の生体適合性を向上させるために使用されてきた生体適合性剤の1つがヘパリンである。ヘパリンは、遺伝性の凝固障害を治療するため、また、手術または介入的手法の際に血餅形成を防ぐために静脈内抗凝固薬として何十年も臨床使用されている医薬である。ヘパリン分子は、特異的な生物活性を与える独特な化学構造を備えた多糖類である。医療装置材料の表面にヘパリンを固定化すると、いくつかの方法で、血液と接触した場合の材料の性能を高めることができる。すなわち、1)繊維素(ともに血栓を保持する)の形成に重要な数種の酵素を阻害する局部的触媒活性をもたらすことができ、2)血液タンパク質(その多くが装置表面で望ましくない反応を招く)の吸着を軽減することができ、また3)血栓の主成分である血小板の接着および活性化を軽減することができる。
【0034】
ヘパリンに加え、生体適合性を向上させるために医療製品に適用することができる他の生体適合性剤としては、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質またはこれらのタンパク質に由来するECMペプチドが挙げられる。適当なタンパク質またはペプチドで修飾された表面は、元の製品表面よりも異物として認識される可能性が低くなり、特定の細胞種の付着および過剰増殖を促進する。
【0035】
いくつかの態様では、本明細書に記載の方法および製品は、異なる機能を有する異なる生体適合性部分を含む医療製品上に多機能表面を作製するのに特に適している。単一の製品上に1を超える生体適合性部分が存在することで、その製品全体が、その特定の使用に、特にその製品が1を超える生理環境および/または条件に遭遇する場合に、より好適なものとなり得る。
【0036】
医療製品は多くの表面を含み得る。このような表面は、例えば、その製品上の位置(例えば、内面か外面か、または単一面にある面か多次元面か)、その医療製品内での構造的役割(例えば、単一の製品を形成するために組み立てられる部品か、または遠位チップを含む製品かなど)、またはその医療製品内の機能的役割(可動型か据え付け型か)などの多くの因子によって区別されてもよい。本発明は、多様な生体適合性機能を有する選択された医療製品の、いずれの数の表面でも、また、いずれの組合せの表面でも提供する能力を提供する。該生体適合性機能は、患者内で使用の際にその医療製品の表面が曝される生理環境に基づいて選択される。該表面に生体適合性剤を提供する本発明の方法は、このような生理環境に基づいて医療製品の表面を適合させるに、事実上無限の能力をもたせる。本発明の系および方法の柔軟性を考えれば、本明細書における単数形の「表面」とは、医療製品の単一表面に限定されず、医療製品のいずれの数およびいずれの組合せの表面も含み得ることが容易に分かるであろう。よって、本明細書を通じ、医療製品の「表面」とは製品の任意の1以上の表面を含むものと理解される。
【0037】
いくつかの態様では、本発明は、患者の体内の移植部位、特に1を超える生理環境を含む患者の体内の部位を効果的に治療するための方法および装置を対象とする。異なる生理環境は、例えば、血流内と血流外(血管内と血管外)、または組織内と組織外(上皮組織、結合組織、骨格組織、筋肉組織、腺組織、神経組織などの組織を含む)、または器官内と器官外に存在し得る。組織種間での区別が可能な例は限定されないことを考えれば、これらの例は単に例に過ぎないと理解される。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明の医療製品および方法は所望により、遊離可能な成分もまた含み得る。例えば、いくつかの適用では、体内留置の中に医療製品表面から溶出されることを意図した治療薬を付加的に含むことが有益である場合がある。本発明とともに適用が可能な治療薬例としては、繊維形成を増進する、または医療製品の抗血栓作用を増進する薬剤が挙げられる。このような治療薬は使用中に医療製品から溶出されるように、それにより、体内での医療製品の作用を高めるようにすることができる。
【0039】
適切に導入および使用されるように、移植可能装置は全種とも、装置の遠位チップに対する前進性、操作性および交差性に関する必要性を満たすように設計するのが好ましく、それ自体は装置の近位端に適用される。本願においては、次の用語は以下の意味を示す。前進性は、装置の近位端から遠位チップへ力を伝達する能力である。装置の本体部材は前進性に関して十分な強度と曲がりまたはよじれに対して耐性を有していなければならない。操作性は、治療部位に蛇行性の血管または他の体内管を操縦する能力である。柔軟性の高い遠位部分ほど操作性が高いことが知られている。よって、いくつかの適用では、柔軟性を向上させるためにある程度のエラストマー特性を備えた本体部材を有する装置を提供することが望ましい場合がある。交差性は、体内の組織障壁や狭い限定部を横切って装置を操縦する能力である。
【0040】
全身性、操作性および交差性の至適化は、装置材料および本体部材を形成する材料の厚さなどのその物理的特徴を慎重に選択することにより達成することができる。さらに、装置自体の異なる部分において所望の特性の組合せを達成するためには、複数の成分を組み合わせて装置本体の部材を規定するよう装置を作製することができる。すなわち、この装置の本体部材の全長の一部は別の部分と異なる成分を含むことができる。これら1以上の部分は異なる物理的特徴および/または異なる材料の成分を含むことができる。例えば、よりよい交差性のため、また、身体の内部の膜と接触するために装置のより軟性のリーディング端を提供するなどのためには、装置本体部材の残りの部分より弾性の高い遠位チップ部分を提供することができる。異なる材料としては、例えば互いに異なる金属材料またはポリマー材料、または密度、増量剤、架橋、分解率もしくは他の特徴が異なる同じポリマーが挙げられる。特に、装置本体部材の一部は、体内留置(例えば、その領域の組織が動く可能性がある、関節などの領域)中に装置の屈曲を可能とするよう柔軟性に関して選択された材料を含み得るが、別の部分は軸および/またはトルク伝達に関して選択された材料(装置の配置を補助するため)を含み得る。
【0041】
複数の材料から作製された複数の部分を含む装置の例としては、生理学的センサーがある。最近の関心はワイヤレス式の移植可能モニタリング装置の領域へと進展している。このような装置は、意識があり自由に動く哺乳類からの生理学的データをモニタリングおよび採取するために使用することができる。装置の例としては、左心室圧(LVP)をモニタリングすることなどによって心機能をモニタリングすることができる。このような装置は、心筋中、または心筋を経て挿入することができ、使用中、遠位チップ部分が心室内に留まる。よって、これらの装置は、組織障壁(例えば心筋)を通過し、ひと度適切な位置にくるとセンターおよび/またはモニター機能を提供するように作製された遠位チップ、移植時、および患者内に留置する際に組織を横断するように作製された中間部分、および皮下層または腹膜腔などの血管外環境中に留置することを意図される、柔軟かつ耐久性のあるさらなる近位部分を含み得る。他のセンサーは、患者の血圧、温度、生体電位(ECG、EMG、EEGなど)、および生理活性などの生理学的パラメーターをモニタリングすることができる。
【0042】
多成分医療製品では、その製品の個々の部分は異なる材料(例えば、金属またはポリマー)から作製することができる。さらに、医療製品の個々の部分は異なる機能を提供することができる(例えば、モニタリングと伝達)。その上、個々の部分は著しく異なる生理環境(例えば、血液接触と組織横断)中に留置することができる。いくつかの態様では、同じ装置であっても、医療製品の表面の材料特性が異なり得る。例えば、医療製品は2以上の異なる材料であって、ある材料の疎水性が他の材料よりも高い材料から作製することができる。製品表面の疎水性は、例えば、表面における水の接触角または分散性を測定することより、および/または様々な溶媒の接触角とその材料に対する既知の表面張力を測定して外挿することによってその材料の臨界表面エネルギーを求めることにより特定することができる。医療装置を作製するのに一般に使用される他の材料よりも疎水傾向の高い材料としては、例えばクロロポリマーまたはフルオロポリマーが挙げられる。相対的に疎水性の他の例示的ポリマーとしては、とりわけ、ポリジメチルシロキサンおよび他のシロキサン修飾ポリマー、ポリエチレンおよびある種の他のポリオレフィン、ならびにある種のポリウレタンが挙げられる。例示的ポリマー材料としては、クロロおよびフルオロ飽和ポリマー、例えばPTFEが挙げられる。本明細書の他所に述べられているように、このような相対的疎水性材料は、いくつかの実施形態では、膨潤性または親水性ポリマーを用いてコーティングすることができる。
【0043】
医療製品の部分を作製するのに使用することができるポリマーの一種として、ハロゲン化ポリマー、例えば、塩素化および/またはフッ素化ポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態において、支持体材料として、過ハロゲン化ポリマーが挙げられる。「過ハロゲン化」とは、いずれかの炭素結合水素が塩素またはフッ素などのハロゲン原子により置換されたポリマーを指す。いくつかの実施形態において、支持体材料として、「過フッ素化」ポリマーが挙げられ、これは全ての炭素結合水素がフッ素で置換されたポリマーを指す。いくつかの実施形態においては「部分的フッ素化」ポリマーが用いられ、これは全てではないが炭素結合水素がフッ素原子により置換された、例えば、炭素原子に結合している水素原子の少なくとも4分の1がフッ素原子で置換されている支持体ポリマーを指す。「フッ素化熱可塑性」とは、通常そのような融点を持たない、フルオロエラストマーなどの非晶質材料と区別されるような明瞭に異なる融点を有するフルオロポリマーを指す。「熱可塑性エラストマー」とは、熱可塑性材料のように加工可能なゴム様材料を指す。
フルオロプラスチックは、化学薬品耐性など、それらが付与する特性のために支持体材料として有用であり得る。しかし、フルオロポリマーに基づく支持体は、反応性に乏しいかまたは全く反応性のない表面を有するので、フルオロポリマーから構成された支持体の表面に材料を共有結合させるのは難しい場合が多い。これらのフルオロポリマーは、テフロン(登録商標)として一般に知られているものを含め、極めて潤滑性かつ疎水性の表面特性を有する。
【0044】
支持体材料として使用可能な過ハロゲン化ポリマーの例としては、テフロン(登録商標)およびネオフロン(商標)などのペルフルオロアルコキシ(PFA)ポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンのポリマーなどのフッ素化エチレンポリマー(FEP)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、および発泡ポリ(テトラフルオロエチレン)(ePTFE)が挙げられる。これらのポリマーは一般に、約100℃〜約330℃の範囲の融点を有する。
【0045】
部分的フッ素化ポリマーの例としては、TFE(テトラフルオロエチレン)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VDF)、ペルフルオロアルキルまたはアルコキシビニルエーテル、非フッ素化オレフィンの分子内重合単位の様々な組合せが挙げられる。この種の材料としては、TFE/HFP/VDFコポリマー、例えば、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンのポリマー)、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンのポリマー)、HTE(ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレンおよびエチレンのポリマー)、フッ化ポリビニリデン(PVDF、Kynar(商標)、Foraflon(商標)、Solef(商標)、Trovidur(商標))、TFE/P(テトラフルオロエチレン/プロピレン)、ならびにエチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)コポリマー(Halar(商標))が挙げられる。
【0046】
他のフルオロポリマーも当技術分野で公知であり、W. Woebcken, Saechtling International Plastics Handbook for the Technologist, Engineer and User, 第3版, (Hanser Publishers, 1995) pp. 234-240などの様々な参照文献に記載されている。
【0047】
本発明の医療製品の部分を作製するための支持体材料としてのフルオロポリマーの使用を例示するため、また、本発明のコーティングがこれらの種の支持体に提供可能であるという利点を証明するため、ePTFE支持体の表面上での、生体適合性剤を含む親水性コーティングの調製が記載される。本発明の教示を再考すれば、当業者には、様々な支持体材料への適用が容易に分かるであろう。
【0048】
このような医療製品の多成分態様にもかかわらず、特に1を超える生体適合性剤が医療製品の表面と会合した状態で提供することが望まれる場合には、このような製品を最小数のコーティング工程でコーティングできることが特に有益である。さらに、異なる生体適合性剤を医療製品の異なる部分と、このような異なる部分により提供される様々な生体適合性機能に悪影響(例えば、医療製品の異なる部分の生体適合性剤のクロスコンタミネーションによる影響など)を及ぼすことなく会合させる精密なコーティング技術を提供することが有益である。また、製品の機能に影響を及ぼすことなく、医療製品表面にこのような生体適合性を提供し得ることが有益である。このことは例えば装置のセンサー部分をコーティングする場合に重要である場合がある。コーティングが厚すぎる、またはそうでなえれば嵩張る、または調和しなければ、そのコーティングは装置の検知能力を妨害しかねない。
【0049】
さらには、製品の様々な部品が単一の医療製品に組み立てられた後の多成分医療製品にこのような生体適合性を提供し得ることが有益である。言い換えれば、次に組み立てられて完全な医療製品が形成される個々のコーティング済み部品とは対照的に、それが組み立てられる際に最終の医療製品をコーティングすることができるという大きな利点を提供する。移植用に組み立てられた後に医療製品をコーティングすることにより、それらの部品の組立の際に起こり得るコーティングの損傷を最小化または回避することができる。
【0050】
好ましい本発明の医療製品および方法は、多くの態様においてこれらの複雑な適用に対して優れた生体適合性を提供し得る。いくつかの態様では、本発明のコーティングは、単一の医療製品を形成するために組み合わせることができる多様な医療製品材料に適用することができる。これらのコーティングは、製品の使用中、選択された製品材料表面に維持され得る付着性、耐久性のコーティングを提供することができる。
【0051】
いくつかの態様では、本発明のコーティングは、医療製品の様々な部品の意図される機能を妨害しないように適用することができる。本発明の方法は、医療製品表面上に薄い等角コーティングの提供を可能とする。薄いコーティングは小型の移植可能装置に特に有用であり得る。さらに、多くの移植可能装置では、コーティングが厚すぎると装置の機能を妨害するおそれがあることが容易に明らかであろう。多くの通例のコーティングが装置の径を増大させ、移植部位に送達されるにつれ、マイクロカテーテル管腔内を詰まらせるおそれがある。これに対し、本発明は、コーティングされる装置の寸法を有意に増大させることのないコーティングを含む多機能装置を提供する。そして、これにより、装置の機能性が損なわれることがないということを補償することができる。本発明の方法は、装置の横断面を有意に増大させることのない、表面上の薄い、等角性の生体適合性コーティングの提供を可能とする。好ましいコーティングは、対象パラメーターを検知する装置の能力に干渉しない。
【0052】
いくつかの態様では、本発明のコーティングは、単一の医療製品の異なる部分に対して異なる生体適合性機能を提供するため、使用中に医療製品が遭遇すると予想される生理環境に対して生体適合性機能を適合させるために使用することができる。
【0053】
さらに、本発明の方法は、入り組んだ医療製品基質に多機能コーティングを提供するために使用することができる。例えば、本発明は、多孔質支持体(グラフトなど)、組合せ医療製品(複数の構成物を含む医療製品)などに対して1を超える生体適合性機能を提供するために使用することができる。さらに、医療製品上にこのような多機能コーティングを提供するのに必要な工程数を有意に減らすことができる。いくつかの態様では、本発明の方法は、最小数のコーティング工程で単一の医療製品に、複数の生体適合性剤を有するコーティングを提供するために使用することができる。
【0054】
本発明のいくつかの態様により、1を超える生理環境を含む任意の移植部位に使用することができる医療製品が開発された。本発明の考察を助けるため、血管内チップを備えた経心筋カテーテルと本発明の併用を取り上げる。経心筋カテーテルは、これらの装置で心臓を処置する場合に遭遇する、例えば、極めて異なる生理環境内に留置される装置の異なる部分からくる特定の問題の結果として選択される。例えば、この特定の適用では、本発明は、治癒を促進する近位部分と、モニタリング機能に影響を及ぼさずに血液適合性(例えば、細胞の接着、活性化および/または血栓の形成が少ない表面を提供することによる)を高める遠位部分を備えた装置を提供することができる。また、優れた装置を提供しつつ身体組織の損傷の危険性を小さくするという点で、この移植可能装置の利点は明示することができる。しかしながら、開示されている製品および方法は、例えば、血液および組織環境との遭遇を意図したカテーテル、皮膚へ挿入されるおよび経皮留置を意図した装置(皮膚表面における治癒機能が望まれ得る)、様々なセンサーカテーテル、人工心臓弁、骨軟骨固定材(骨の成長と軟骨の治癒の双方が望まれ得る)など、および使用中に1を超える生理環境に遭遇し、かつ/または留置される装置、ならびに体液と接触した場内になる外部医療製品(血液分離装置など)といった、1を超える異なる生理環境を含む身体領域の治療など、いずれの治療要求にも適用されると理解される。
【0055】
別の例示的実施形態では、本発明の原理に従って生体適合性心臓弁を提供することができる。この弁の異なる部分に異なる生体適合性機能を提供することが望ましい場合がある。例えば、組織内に装置を固定するように設計されたソーイングカフ、ステント、または他の部材中への組織の組み込みを促進するとともに、ある部分(弁尖など)において高いカルシウム沈着耐性および/または高い血栓形成耐性を提供することが望ましい場合がある。
【0056】
他の態様では、本発明は、単一の医療製品の表面に生体適合性機能の勾配を含む医療製品を提供するために使用することができる。これらの態様の1つの例示的実施形態として、遠位保護装置においてバスケットを含む移植可能装置がある。このような移植可能装置の1つは、装置の遠位部分にバスケットを含み得る。これらの種の装置は、典型的には、体内の病巣を横断するよう作製された鋭利なチップ、装置の遠位領域における遠位保護装置、および遠位領域から近位領域にわたる部分を含む。装置の遠位部分、特に遠位保護装置にリシンまたはヘパリンなどの生体適合性剤を提供することが望ましい場合がある。このような生体適合性剤は、装置の選択された部分に抗血栓作用を提供し、それにより装置の生体適合性を向上させることができる。同じ装置に関して、また、遠位領域から近位領域にわたる装置の領域に潤滑性の勾配を提供することが望まれる場合もある。このような一実施形態では、例えば、最遠位領域に、装置のこの部分の体内での操作容易性を高めるためにより潤滑性の高い表面機能を提供することができる。しかしながら、この装置の最近位領域においては、装置を用いる外科医が装置の選択された近位部分に装置表面の手掛かりを得ることができるように、より触感のあるものとすることが望ましい場合がある。この装置において、選択された近位領域と選択された遠位領域の間の領域に、潤滑性の勾配を提供することが望ましい場合があり、その場合、潤滑性は、より潤滑性のある領域からより触覚のある表面(遠位から近位)まで徐々に変化する。
【0057】
選択された生体適合性機能の勾配は、本発明の方法および系に従う単一の医療製品に容易に提供することができる。本明細書に記載のコーティングの成分、ならびにこれらの成分を処方し、医療製品表面に適用する柔軟性は、単一の医療製品に対して広範な生体適合性の特徴を作り出す精緻な系を提供する。よって、特定の生体適合性機能の勾配を提供することが望ましい場合、そのコーティング組成物中の生体適合性剤(または場合によっては複数の薬剤)の量はその医療製品の表面に沿って操作することができる。同様に、コーティング組成物内に含まれる特定の生体適合性剤は、その医療製品の表面に沿って操作することができ、それにより長手方向に沿って生体適合性機能の勾配を提供することができる。
【0058】
一般的にいうと、本発明は、使用時に製品の異なる部分が、異なる生理環境および/または体液に遭遇する異なる生体適合性剤を含む医療製品を提供する。
【0059】
本発明によれば、単一の医療製品に関して、1を超える生体適合性部分が提供される。これらの生体適合性部分は医療製品の1以上の表面に提供される。この表面は、生物体の組織および/または体液と接触した状態で機能するよう意図された医療製品の1以上の表面であり得る。典型的には、医療製品の選択された表面はその医療製品の移植時および使用時に異なる生理環境に遭遇する。
【0060】
その製品態様において、本発明は、各生体適合性部分が、生体適合性剤を含むポリマーマトリックスを含む、1を超える生体適合性部分を含む医療製品を提供する。この生体適合性剤はポリマーマトリックスに組み込まれ、ポリマーマトリックスの一部となっている。以下、これらの態様をより詳しく記載する。
【0061】
本発明は、異なる生理環境を有する身体の領域を治療するのに有用であり、かつ/または使用時に異なる体液と接触した状態となり得る医療製品を提供する。この医療製品の少なくとも一部はマトリックス材料を含む。好適なマトリックス材料は例えば、米国特許第6,007,833号(Chudzik ら, Crosslinkable Mactomers Bearing Initiator Groups)、同第6,156,345号(Chudzik ら, Crosslinkable Mactomers Bearing Initiator Groups)、および同第6,410,044号(Chudzik ら, Crosslinkable Mactomers)、ならびに米国公開第2003/0031697号(Chudzik ら, Crosslinkable Mactomers)に記載されている。
【0062】
一実施形態では、マトリックス材料はポリマー主鎖、重合性基、および開始基を含む架橋性マクロマー系により提供される。本明細書において、マクロマーは、さらなる重合を受け得るポリマーである。一般的にいうと、架橋性マクロマー系は2以上のポリマー側鎖重合性基と1以上の開始基を含む。開始基はポリマー側基であっても遊離型(ポリマーに不随しない)であってもよい。記述としては、開始基を表す場合、単数形で示す。しかし、本発明の概念によれば1以上の開始基が使用可能であり、この用語を単数形で用いたとしても1つの開始基を含むことに限定されないと理解される。開始剤が重合開始剤の形態である場合、いくつかの実施形態では、重合性基および開始基は同じポリマー主鎖の側基であってもよい。他の実施形態では、重合性基および開始基は異なるポリマー主鎖の側基である。なおさらなる実施形態では、開始基は遊離型(非ポリマー結合型)の開始剤分子として提供される。
【0063】
ポリマー主鎖は合成品であっても天然物であってもよく、ポリマーマトリックスの製造に有用であるとして従前に記載したいくつかのマクロマーを含む。一般に、ポリマー主鎖は、水、または有機溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)を添加した水などの水性溶液中で可溶またはほぼ可溶であるか、あるいは適当な溶媒または溶媒の組合せを用いて可溶とすることができる。いくつかの実施形態では、ポリマー主鎖は、周囲の生理条件下で液体である材料である。生分解性ゲルの作製において用いられる主鎖は好ましくは、in vivo条件で加水分解可能である。
【0064】
一般に、本明細書に従って使用するのに好適なポリマー主鎖は、生分解性(または生体吸収性)試薬と生体安定性試薬の2つのカテゴリーのうちの1つに属するといえる。これらはさらに、親水性のヒドロゲルマトリックスを形成する試薬と非ヒドロゲルマトリックスを形成する試薬に分類することができる。以下、各種を説明する。
【0065】
生分解性ヒドロゲル形成主鎖は一般に多糖類(その例としては、限定されるものではないが、ヒアルロン酸(HA)、デンプン、デキストラン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、およびキトサンが挙げられる)、ならびにタンパク質(および他のポリアミノ酸)(その例としては、限定されるものではないが、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、アルブミン、エラスチン、およびこれらの活性ペプチドドメインが挙げられる)などの天然ポリマーである。これらの材料から形成されるマトリックスは生理条件下で、一般に酵素を媒介とする加水分解により分解する。
【0066】
ヒアルロン酸は、本明細書に記載の方法で重合性基で誘導体化された場合、様々な利点を提供することができる。本発明によれば、ヒアルロン酸、ならびに他の多糖類およびポリアミノ酸(コラーゲンなど)は、有機、極性、無水溶媒および溶媒の組合せ中で効果的に誘導体化することができる。溶媒の一例として、ホルムアミド、およびホルムアミドと溶媒の組合せがある。機能上、この溶媒または溶媒系は、ポリマーが十分可溶であり、かつ、望ましい細胞結合に悪影響を及ぼすコラーゲンの変性などのポリマーの生物活性(存在すれば)に悪影響を及ぼす現象を最小限としつつ、所望の程度までポリマーの誘導体化を可能とするものである。
【0067】
例えば、ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸分子をアクリレート基で誘導体化するため、ホルムアミド(およびpH調整のためのTEA)中、アクリル酸グリシジルの形態の反応部分と反応させることができる。アクリレート基の数および/または密度は本発明の方法を用い、例えば、糖類基含量に対する反応部分の相対的濃度を制御することによって制御することができる。
【0068】
生分解性マトリックス形成主鎖は、一般に、1以上のモノマーの縮合重合によって製造された合成ポリマーである。この種のマトリックス形成ポリマーとしては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ならびにこれらの材料とポリ無水物とポリオルトエステルのコポリマーが挙げられる。
【0069】
生体安定性ヒドロゲルマトリックス形成主鎖は、一般に、水に可溶であり、そのマトリックスがヒドロゲルまたは水含有ゲルである、合成または天然ポリマーである。この種の主鎖の例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリルアミド(PAA)、およびポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。本明細書で述べるように、これらのポリマーも同様に親水性特性を示すことができる。
【0070】
生体安定性マトリックス形成主鎖は一般に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、およびジメチルシロキサンなどの疎水性モノマーから形成される合成ポリマーである。これらの主鎖材料は一般に、有意な水溶性は持たないが、活性化の際に強力なマトリックスを形成する無希釈の液体として調合することができる。また、親水性および疎水性モノマーの双方を含む主鎖ポリマーを合成することもできる。本発明のポリマー主鎖は、所望によりいくつかの望ましい機能または特性を提供することができる。例えば、ポリマー主鎖は水溶性領域、生分解性領域、疎水性領域、ならびに重合性領域とともに提供することができる。
【0071】
本発明のマクロマー系は、2以上の重合性基を含む。本明細書において「重合性基」とは一般に、炭素−炭素二重結合などのフリーラジカル重合を増幅することができる基を指す。好ましい重合性基としては、ビニルまたはアクリレート基が挙げられる。重合性基の例としては、アクリレート基、メタクリレート基、エタクリレート基、2−フェニルアクリレート基、イタコネート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、およびスチレン基が挙げられる。例えば、米国特許公開第2004−0202774−A1号(2004年10月14日に公開されたChudzik ら, “Charged Initiator Polymers And Methods Of Use,” published October 14, 2004)参照。
【0072】
一般に、重合性基は、標準的な熱化学反応を用い、開始マクロマー形成に続いてマクロマーに組み込まれる。例えば、重合性基はアミン含有リシン残基と塩化アクリロイルまたはアクリル酸グリシジルとの反応によってコラーゲンに付加することができる。これらの反応により、側鎖重合性部分を含有するコラーゲンを生じる。コラーゲン・マクロマー作製の他の方法もまた本発明に記載される。同様に、本明細書に記載されるように用いられるマクロマーを合成する場合、反応性基を含有するモノマーを合成スキームに組み込むこともできる。例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)またはアミノプロピルメタクリルアミド(APMA)をN−ビニルピロリドンまたはアクリルアミドと共重合させて、側鎖ヒドロキシル基またはアミン基を有する水溶性ポリマーを生じさせることもできる。次に、これらの側基を塩化アクリロイルまたはアクリル酸グリシジルと反応させて、側鎖重合性基と水溶性ポリマーを形成させることができる。
【0073】
重合性基を含む1つの好ましいマクロマーは、重合性アクリレート基を有するPEG主鎖、特に2つを超える重合性基を有するPEG主鎖を含み、特に好ましいのはPEG−トリアクリレートである。複数のアクリレート基を有するPEG主鎖を作製する方法の一例は、実施例に詳細に記載されている。
【0074】
該マクロマー系はさらに、1以上の開始基を含む。この実施形態のいくつかの態様では、マクロマー系は、重合性基と、重合性基と共有結合したポリマー主鎖を含み得る。側鎖開始基は、任意の好適な時間、例えば、マクロマーの形成前に主鎖に(例えば、マクロマーを作製するのに用いられるモノマー)と、または形成が完了したマクロマー自体と開始基を結合させることによって提供することができる。マクロマー系はそれ自体典型的には、開始基と重合性基の双方を有する小パーセンテージのマクロマーを含む。開始基は典型的にはマクロマー分子と1:1の化学量論比よりずっと少ない割合で存在すれば十分であるので、大多数のマクロマーは側鎖重合性基のみを提供する。
【0075】
他の態様では、該マクロマー系は、重合性マクロマーと重合開始剤を独立した成分として含み得る。言い換えれば、重合性マクロマーは側鎖開始基を含まないが、開始基は、開始基が結合したポリマー主鎖を含む系に別個の成分として提供される。
【0076】
前記の態様(ポリマー主鎖に結合された開始剤、または独立した成分としての開始剤)のいずれかにおいて、本明細書において、開始剤は、本発明の概念の実施においてこのような開始基はポリマー主鎖と結合していることから、「重合型開始剤」と呼ばれる。重合型開始剤を含むマクロマー系は、開始剤の溶解度が問題となる場合に望ましい場合がある。例えば、溶解度は、主鎖を制御することにより、重合型開始剤の水性または有機性溶解度を制御する能力により向上させることができる。いくつかの例では、本発明の重合型開始剤は典型的に固定化の過程で細胞中に拡散することができないので、この重合型開始剤はまた低毒性も提供し得る。
【0077】
本発明の系において有用な開始基としては、フリーラジカルの発生により、所望の程度かつ所望の時間枠でマクロマーの重合を開始させるのに使用可能なものが挙げられる。いくつかの実施形態では、該重合型開始剤は、光エネルギーを捕捉してマクロマーの重合を開始させる光感受性分子である。架橋および重合は一般に、光活性化フリーラジカル重合型開始剤によりマクロマーの間で開始される。好適な長波長紫外(LWUV)光活性化分子としては、例えば、4−ベンゾイル安息香酸、[9−オキソ−2−チオキサントラニル)−オキシ]酢酸、2−ヒドロキシチオキサントン、およびビニルオキシメチルベンゾインメチルエーテルが挙げられる。好適な可視光光活性化分子としては、エチルエオジン、アセトフェノン誘導体(2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなど)、チオキサントン、ベンゾフェノン、およびカンファーキノンが挙げられる。
【0078】
他の好適な重合型開始剤としては、熱エネルギーを捕捉してマクロマーの重合を開始させる熱感受性分子がある。好適な熱活性化分子としては、4,4’アゾビス(4−シアノペンタン)酸、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、および過酸化ベンゾイルが挙げられる。
【0079】
本発明のマクロマーのフリーラジカル重合の光誘導は一般に、3つの機能のうちの1つによって起こる。第1の機構は、カルボニル基と隣接する炭素原子の間のホモリシスα切断反応を含む。この種の反応は一般に、Norrish I型反応と呼ばれる。Norrish I型反応を示し、重合開始系に有用な分子の例としては、ベンゾインエーテル、アセトフェノンなどの誘導体が挙げられる。
【0080】
第2の機構は、分子内または分子間いずれかの水素引き抜き反応を含む。この開始系は付加的なエネルギー移動受容体分子を用いずに、非特異的な水素の抜き取りを利用して使用することができるが、より一般的には、エネルギー移動受容体、典型的には第三級アミンとともに用いられ、その結果、アミノアルキル基とケチル基の双方が形成される。水素引き抜き反応性を示し、ポリマー開始系に有用な分子の例としては、ベンゾフェノン、チオキサントン、カンファーキノンの類似体が挙げられる。
【0081】
水素引き抜き種の重合型開始剤を用いる場合、側鎖第三級アミン基はマクロマーのポリマー主鎖に組み込むことができ、これにより、ポリマー結合型のフリーラジカルの形成が促進される。
【0082】
第3の機構は、光還元性または光酸化性色素を利用する光増感反応を含む。ほとんどの例では、光還元性色素は還元剤、典型的には第三級アミンとともに使用される。この還元剤は、色素のラジカルアニオンおよび還元剤のラジカルカチオンを生成する誘導型のトリプレットを妨害する。光増感反応性を示し、重合型開始系に有用な分子の例としては、エオジンY、ローズベンガル、エリトロシンなどが挙げられる。還元剤はポリマー主鎖に組み込むことができ、これにより、ポリマー結合型のフリーラジカルの形成が促進される。
【0083】
マクロマーを重合させるために重合型開始剤を使用する1つの有益な効果は、これらの重合型開始剤が示す重合効率がそれらの低分子量対応物に比べて高いことである。この高い効率はマクロマーの重合に有用な3つ全ての光誘導機構において見られる。一般的にいうと、生体材料または生活性材料の存在下でポリマーマトリックスを形成させる場合には、重合の開始に用いるエネルギー源に対するその材料の暴露時間を最小限にするのが望ましい。従って、高い開始効率が好ましい。
【0084】
さらに、特定の適用に関してマトリックスの強度と耐久性が重要な場合にも、高い開始効率が望ましい。マトリックス形成系が開始されると、その系の固化およびガラス化がマトリックス形成系の要素の拡散を困難にするまでフリーラジカル重合が増幅される。よって、開始系の効率が高いほど重合は完全なものとなり、その結果、より強固で耐久性のあるマトリックスが形成される。本発明の重合型開始系は、いくつかの実施形態において、促進剤を用いることなく、非ポリマー結合型の低分子量開始剤を用いて得られるものよりも高い程度の効率を提供することができる。
【0085】
別の有用な効果は、重合型開始剤上の開始基が水素引き抜き反応性(分子間で水素を引き抜く能力)を示す群からなる場合に実現可能である。この有益な効果は、これらの開始剤を含むマクロマー系が、マトリックスの、1以上の表面への「接着」を含む適用に使用される。この種の反応性を示す開始剤は隣接する分子から水素原子を引き抜くことができるので、この種の重合開始剤を含むマクロマー系が支持体に適用される場合、本系の光活性化は、開始剤のよる支持体からの水素原子の引き抜きを生じさせ、これにより支持体におけるフリーラジカルおよび開始剤におけるフリーラジカルを生じさせることができる。次に、このジラジカルは、このマクロマー系と支持体の間の共有結合の形成を妨げることができる。
【0086】
同じマクロマー上の他の開始基は、他のマクロマーとのフリーラジカル反応を開始させることができ、その結果、表面に共有結合された架橋マトリックスが形成される。この種の反応性を示す開始基としては、ベンゾフェノン、チオキサントンなどの類似体が挙げられる。
【0087】
所望により、ラジカル鎖重合を開始させるための開始剤の使用は、重合混合物への1以上のモノマー重合促進剤(これらの促進剤は重合効率の増大に役立つ)の添加を含み得る。本発明において有用な重合促進剤は典型的には、マクロマー系の反応性を向上させるモノマーである。この適用に特定の有用性が見出されている重合促進剤としては、N−ビニル化合物、特にN−ビニルピロリドンおよびN−ビニルカプロラクタムが挙げられる。このような促進剤は、例えば、マクロマー系の容量に対して約0.01%〜約5%、または約0.05%〜約0.5重量%の濃度で使用することができる。
【0088】
他の実施形態では、重合型開始剤は側鎖開始基と側鎖親和性基を有するポリマー主鎖を含み得る。これらの親和性基は、重合型開始剤を対象表面上の標的基に結合させ、それにより、重合型開始剤を対象表面へ結合させることができる。このようにして、マクロマーの界面重合が達成され得る。側鎖親和性基を含む重合型開始剤の溶液を、標的部位を有する表面に適用する。この重合型開始剤の親和性基は表面上の部位と反応し、重合型開始剤を表面に結合させる。次に、必要であれば、余分な重合型開始剤を洗い流す。その後、重合性マクロマーの溶液を表面に適用する。この系に光エネルギーを当てると、フリーラジカル重合反応が対象表面にのみ開始される。重合性マクロマーの濃度と照射時間を変えることにより、表面上に生じるマトリックスの厚さおよび架橋密度を操作することができる。
【0089】
好適な親和性基としては、対象表面に存在する標的基に対して親和性を有する化学部分が挙げられる。このような親和性基は対象表面上の標的基と会合(例えば結合)させることができる。親和性基の例としては、正電荷基などの電荷基が挙げられる。親和性基と標的基の間の相互作用は典型的には、比較的非特異的なものであり、例えば、静電気的相互作用または疎水的相互作用に基づくものである。好適な荷電基としては、第三級および第四級陽イオン基、例えば、第四級アンモニウム、第四級ホスホニウム、第三級スルホニウムなどを含み得る。これらの基は例えば、例えば各鎖に1〜6個の範囲の炭素を有するアルキル化形態およびアルコキシル化形態で提供することができる。例としては、限定されるものではないが、テトラアルキルアンモニウム陽イオン、テトラアルコキシアンモニウム陽イオン、トリアルキルスルホニウム陽イオン、トリアルコキシスルホニウム陽イオン、テトラアルキルホスホニウム陽イオン、およびテトラアルコキシホスホニウム陽イオンが挙げられる。特定の例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、およびテトラベンジルアンモニウムが挙げられる。
【0090】
親和性基は、ポリマー主鎖の長手方向に沿ってランダムまたは規則的なパターンで配置することもできるし、あるいは所望により主としてポリマー主鎖の一方の末端に存在させることもできる。また、重合型開始剤は所望により親和性基の種々の組合せを含むこともできる。
【0091】
他の実施形態では、所望により、医療製品の表面は、ポリマーマトリックス材料の適用前に修飾し、重合型開始剤により提供される親和性基と会合することができる標的基を製品表面に提供することができる。例えば、表面は正味電荷を提供するよう修飾することができ、静電気的引力を用いて、反対の正味電荷を有する重合型開始剤を、重合開始が起こり得る製品表面近位に持ってくることができる。他の標的基も公知であり、本発明の一般技術に従って利用することができる。また、本明細書に記載の多くの方法が表面の前処理を必要としないと理解される。
【0092】
一般に、開始基をポリマー主鎖に組み込み得る少なくとも2つの方法がある。第1の方法は、開始剤を含むモノマーの形成を含む。これは標準的な化学反応を用いて容易に達成することができる。例えば、開始剤の酸塩化物類似体をアミン含有モノマーと反応させて、開始剤を含むモノマーを形成することができる。他の方法も知られており、ここではこれ以上記載しない。
【0093】
開始基をポリマー主鎖中に組み込む第2の一般法は、開始剤の反応類似体と好ましいポリマーを結合させることを含む。例えば、開始剤の酸塩化物類似体は、側鎖開始基を有するポリマーを形成する側鎖アミン基を含むポリマーと反応させることができる。他の既知の方法も本発明に従い利用可能であり、ここではこれ以上記載しない。
【0094】
重合型開始剤は本明細書に記載のように好適であるが、いくつかの実施形態では、非重合型開始剤(ポリマー主鎖と会合しておらず、ポリマーから「遊離」しているもの)を利用することが望ましい場合がある。非重合型開始剤の例は、例えば、米国特許第5,414,075号および同第5,637,460号(Swan ら, "Restrained Multifunctional Reagent for Surface Modification")に記載されている。これらの特許は、主鎖に結合されている、表面と結合させることができる1以上の第1の光反応性基と、フリーラジカル重合を開始させることができる1以上の第2の光反応性基とを有する化学主鎖を含むコーティング試薬を記載している。所望により、コーティング試薬は潜伏性反応性基と化学主鎖を結合するスペーサーをさらに含む。化学的に、第1および第2の光反応性基、ならびに個々のスペーサーは同じであっても異なっていてもよい。
【0095】
好ましくは、これらの実施形態のコーティング試薬の光反応性基は、可逆的な光分解性ホモリシスを受け、それにより、支持体表面への結合に使われていない光反応性基を不活性な、または「潜伏」状態に戻すことができるようにされている。次に、これらの光反応性基は、フリーラジカル重合を開始させるための光開始基として働くよう、活性化することができる。このように、光開始剤の励起は可逆的であり、この基はエネルギー源が除去されると基底状態のエネルギーレベルに戻ることができる。いくつかの実施形態では、好ましい光開始剤は、何回も活性化を受けることができ、従って、高いコーティング効率を提供し得る基である。
【0096】
全ての光反応性基およびスペーサーが化学的に、または少なくとも機能的に同じである場合、第1の光反応性基と第2の光反応性基の間の区別は実際には、第1の活性化工程時に行うことができ、すなわち、活性化され、表面に結合された基が「第1の」光反応性基とみなされ、未反応状態に留まっているもの(活性化されたか、されていないかは問わない)が「第2の」ていてもされていなくても)が光反応性基とみなされる。
【0097】
いくつかの実施形態では、第1および第2の光反応性基は、支持体表面の存在下で光反応性基が活性化された際に第1の光反応性基がその表面に共有結合することができるように、スペーサー鎖によって化学主鎖に結合される。第2の光反応性基はそれによりコンフォメーション的に制限され、従って、それらのスペーサー、同じ種の他の制限試薬、および/または支持体表面との反応が妨げられる。さらに、第1の活性化工程と活性化刺激(例えば、照射源)の除去の後、該第2の光反応性基はそれらの不活性状態に戻ることができ、その後、活性化されて(場合によっては再活性化されて)フリーラジカル重合を開始させることができる。
【0098】
スペーサー種の一例にジメチレンオキシがある。従って、いくつかの態様では、コーティング試薬は、中心の四面体炭素原子にスペーサーとして結合された4つのジメチレンオキシ基(−CH2−O−CH2)を有する化学主鎖を含み得る。これらの主鎖、スペーサーおよび光反応性基は、本明細書では便宜上、試薬の異なる部分であるように記載されている。しかし、コーティング試薬の化学合成においては、これらの部分は典型的には3つの独立した前駆体として提供されるわけではない。その代わりに、スペーサーと呼ばれる部分は、1つは化学主鎖を含むもの、もう1つは光反応性基を含むものの、2つの分子間の反応の結果として形成される場合が最も多い。
【0099】
これらの実施形態のコーティング試薬において有用なスペーサーは、化学主鎖と結合することができ、いずれの好適な長さと構造を持っていてもよい。本明細書において「スペーサー」とは、光反応性基と化学主鎖との間のコーティング試薬の領域を指す。機能上、スペーサーは、活性化された光反応性基(同じ試薬分子に由来するものであっても別の試薬分子に由来するものであっても)に物理的に接近可能であり、かつ/または化学的に反応可能であるいずれかの基または原子を、その意図される目的に対してそのコーティング試薬が役に立たなくなるほどには含まないことが好ましい。少なくとも、スペーサーは、それらの意図される標的(表面または生体適合性剤である)との光反応性基の結合と動力学的に競合する原子または基を含んではならない。例えば、好ましいスペーサーは典型的には接近可能で引き抜き可能な表水素原子、すなわち、選択された、活性化光反応性基に接近可能であり、かつ、反応可能である水素原子を含んではならない。
【0100】
光反応性基のコンフォメーション的反応制限を維持するのに必要なスペーサーの最適な長さおよび構造を決定するには、当業者に利用可能であり、当業者の技術の範囲内であり分子モデリング技術を使用することができる。典型的には、スペーサーは約5原子(6結合)、好ましくは4原子(5結合)の長さよりも長い直鎖領域を持たない。特定の試薬内のスペーサーは化学的に同一である必要は必ずしもないが、単一のコーティング試薬分子内で異なるスペーサーを用いるのは一般に好ましくなく、これはこのような実施形態が典型的にはより合成的な工程を必要とし、それらの調製にはより複雑な化学分離が必要となる場合があるためである。
【0101】
スペーサーの構成原子は直線的に並んでいる必要はない。例えば、光反応性基が水素原子の引き抜きによる共有結合形成の誘導によって機能する試薬では、スペーサーデザインの一部として引き抜き可能な水素原子を欠く芳香環を含めることができる。その前駆体の形態において(光反応性基の結合前)、スペーサーは、通常のカップリング化学などの好適な化学反応によって光反応性基を結合させる際に用いるのに好適な、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、および/またはスルフヒドリル基などのいずれかの好適な官能基を末端に有することができる。
【0102】
これらの実施形態のコーティング試薬の化学主鎖は、潜伏性反応性基またはスペーサーのいずれかが結合され、かつ、同じ化学主鎖に結合されている基またはスペーサーの間に、少なくとも一部に、所望の立体的かつコンフォメーション的制限を課す原子または他の分子構造を指す。「コア分子」とは、化学主鎖と任意の結合したスペーサーの組合せを指す(すなわち、光反応性基は含まない)。
【0103】
よって、化学主鎖は、炭素、シリコン、窒素、リン、または互いに対して直線的でない4以上の結合を有する他の原子などの単一の原子に提供され得る。あるいは、いずれの好適な化学主鎖は化学(有機および/または無機)主鎖構造を含んでもよい。いくつかの実施形態では、化学主鎖は、本明細書において、アクシアル位およびエカトリアル位の双方において潜伏性反応性基を提供するためにペンタエリトリトールに記載したものと類似体時の方法で潜伏性反応性基で誘導体化することができるコンフォメーション的に制限された環構造(イノシトール、またはヘキサヒドロキシシクロヘキサンなど)を有する分子を含み得る。単糖類および二糖類、ならびにシクロデキストリン類などの他のポリヒドロキシル化化合物も、種々の配置および密度の潜伏性反応性基を有する他の多置換試薬を作出する別の機会を与えるという点で、同様に好適である。
【0104】
これらの実施形態のコーティング試薬は、通常の合成方法に従って調製することができる。1つの例示的試薬が次のプロトコールに従って調製することができる:化学主鎖分子(ペンタエリトリトールなど)と過剰量の光反応性基誘導体(4−ブロモメチルベンゾフェノン)の混合物を好適な溶媒に溶かし、アルコキシドアニオンの生成が可能な塩基の存在下で還流させる。次に、この生成物ペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)は分取クロマトグラフィーにより精製することができる。
【0105】
光反応性基をコア分子に結合させるには、いずれの好適なカップリング化学を用いてもよい。例えば、エステルカップリング基は、好適な溶媒と酸スカベンジャーを用い、塩化4−ベンゾイルベンゾイルをペンタエリトリトールと反応させることにより作製することができる。同様に、ウレタンカップリング基は、イソシアン酸4−ベンゾフェノンをペンタエリトリトールと反応させることにより作製することができる。また、コア分子が、例えばヒドロキシル基とは対照的にアミン官能基を末端に有するスペーサーを含む場合には、反応性基は、酸塩化物またはN−オキシスクシンイミドエステルを用い、アミド官能基を介して導入することができる。
【0106】
同様に、コア分子スペーサーが末端にスルフヒドリル基を有する場合には、マレイミド置換光反応性基をカップリング反応に使用することができる。このコア分子(ペンタエリトリトールなど)と光反応性基のカップリング反応は、ペンタエリトリトール前駆体を含むだけでなく、光反応性基との反応に関して非反応性または立体障害のある分子に基づくスペーサー延長部も含むコア分子を合成することにより行うことができる。本発明のこれらの態様の、いくつかの非重合型開始剤の調製については、実施例で詳細に記載される。
【0107】
他の例示的非重合型開始剤は、例えば、米国特許第6,669,994号、同第6,278,018号、同第6,603,040号、および米国出願第2004/0137164 A1号(Swan ら, “Water-Soluble Coating Agents Bearing Initiator Groups”)に記載されている。これらの特許は、1以上の荷電基(スルホン酸、カルボン酸、およびリン酸の塩)と2以上の光反応性基を含むコーティング剤を記載しており、ここでは、光反応性基は別個の光反応性基として提供されている。一般的にいうと、これらの同一所有者の特許および公開出願(ならびに他の関連出願および/または特許)に記載されているコーティング剤は、本記載の特許においても、非重合型開始剤としての使用に好適である。これらの実施形態によれば、光反応性基は、コーティング剤が表面に結合されるようにされた1以上の第1の光反応性基と、光重合を開始させるようにされた1以上の第2の光反応性基を含む。コーティング剤は、重合を開始させるために光開始剤として働き得る光反応性基を利用する。該光開始基は重合過程で再生関与するようにされている。好ましくは、該光反応性基は、可逆的な光分解性ホモリシスを受け、それにより、支持体表面への結合に使われていない光反応性基を不活性な、または「潜伏」状態に戻すことができるようにされている。次に、これらの光反応性基は、フリーラジカル重合を開始させるための光開始基として働くよう、活性化することができる。このように、光開始剤の励起は可逆的であり、この基はエネルギー源が除去されると基底状態のエネルギーレベルに戻ることができる。いくつかの実施形態では、好ましい光開始剤は、何回も活性化を受けることができ、従って、高いコーティング効率を提供し得る基である。
【0108】
一態様では、コーティング剤は、直接的または間接的にコーティング剤に結合された非重合型コア分子、負電荷を有する基を含む1以上の置換基、および2以上の光反応性基を含むことができ、ここでは、光反応性基は別個の光反応性基として提供されている。
【0109】
好適なコア分子は、低分子量を有する非重合型基(平均分子量が約100〜約1000MWの範囲である分子など)を含む。所望により、コア分子は水溶性領域、生分解性領域、疎水性領域、ならびに重合性領域とともに提供することができる。好適なコア分子の例としては、ベンゼンおよびその誘導体などの環式炭化水素が挙げられる。
【0110】
本明細書に記載の光反応性基はいずれも、非重合型開始剤の実施形態に従って光反応性基として利用することができる。これらの実施形態に従って有用な光開始基としては、フリーラジカルの生成プロセスによって重合性基の光重合を、所望の程度および所望の時間枠で開始させるために使用することができるものが挙げられる。光開始剤は、光エネルギーに作用により開始種の生成を担う。フリーラジカルは分子内光開裂または水素の引き抜き(分子間または分子内)によって生成され得る。光開始剤の例としては、本明細書に記載の光反応性基が挙げられる。光開始基(第2の光反応性基)は、コーティング剤を支持体表面に結合させるのに使用された第1の光反応性基と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、第1および第2の光反応性基は、波長の異なる光(例えば、紫外光と可視光)によって独立に活性化されるようにされている。
【0111】
非重合型開始剤の荷電基は一般に、溶液中にイオン形態で存在する(すなわち、使用条件(pHなど)下で電荷を有する)基を指す。荷電基の例としては、 有機酸の塩(スルホン酸基、ホスホン酸基およびカルボン酸基)、ならびにそれらの組合せが挙げられる。コーティング剤を作製するのに使用するための好ましい1つの荷電基がスルホン酸塩、例えばSO3-の誘導体であり、対イオンはカリウムまたはナトリウムなどの好適な正電荷を有する種により提供される。
【0112】
所望により、コーティング剤は、非重合型コア分子と1以上の光反応性基との間にスペーサーを含み得る。スペーサーは、光反応性基とコア分子の間がより離れていることが望まれる場合に提供される。例えば、コア分子と光反応性種との間に生じ得る立体障害を避け、従って、光反応性種が医療製品表面と共有結合を形成しないようにする、または、場合によっては重合の光開始剤として働かないようにすることが望ましい場合もある。
【0113】
一実施形態では、コーティング剤は、直接的または間接的にコーティング剤に結合された共役環式ジケトン、負電荷を有する基を含む1以上の置換基を含み、この場合、このジケトンの各ケトン基は、フリーラジカルを提供するために活性化され得る光反応性部分として働くようにされている。好ましくは、この共役環式ジケトンは、置換型および非置換型のベンゾキノン、カンファーキノン、ナフトキノン、およびアントラキノンから選択されるキノンである。
【0114】
例示的コーティング剤としては、アントラキノンスルホン酸塩、カンファーキノンスルホン酸、ヒドロキノンモノスルホン酸誘導体、2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−二スルホン酸二カリウム塩(DBHQ)、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二カリウム塩(DBDS)、および2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1−スルホン酸モノ(またはジ−)ナトリウム塩が挙げられる。好適なコーティング剤を合成する方法は、例えば、米国特許第6,669,994号および米国出願第2004/0137164 A1号に記載されている。
【0115】
他の例の非重合型開始剤は、例えば、米国特許第5,714,360号および同第6,077,698号(Swan ら, “Photoactivatable Soluble Cross-Linking Agents Containing an Onium Group”および”Photoactivatable Cross-Linking Agents Containing Charged Groups for Water Solubility”)に記載されている。これらの特許は、水溶解度を向上させるために、使用条件下で電荷を有する少なくとも1つの基を有する二官能性またはより高次の官能性の光活性可能な化合物からなる化学架橋剤を記載している。これらの薬剤は、薬剤を水性系で架橋剤として使用可能とするために、2以上の光反応性基を含む。これらの架橋剤は一般式:X−Y−X(式中、各Xは独立に、光反応性基を含む基であり、Yはとりわけ1以上の荷電基を含む基である。このような実施形態では、荷電基の数および/または種類は、主成分として水を含む溶媒系での使用を可能とするために十分な水溶解度を有する分子を提供するに十分なものである。
【0116】
これらの実施形態によれば、荷電基(Y)はイオン形態で存在する、すなわち、使用条件(pHなど)下で電荷を有する基である。これらの荷電基は非重合型であり得る。荷電基の種類および数は、少なくとも約0.1mg/ml、または少なくとも約0.5mg/ml、または少なくとも約1mg/mlの水溶解度(室温、至適pH下)を有する薬剤を提供するのに十分なものである。例示的荷電基としては、限定されるものではないが、有機酸の塩(スルホン酸基、ホスホン酸基、およびカルボン酸基など)、オニウム化合物( 第四級アンモニウム基、スルホニウム基、およびホスホニウム基など)、およびプロトン化アミン、ならびにこれらいずれかの組合せが挙げられる。
【0117】
光反応性基(X)は、本明細書に記載の光反応性基のいずれであってもよい。
【0118】
これらのマクロマー系は、マクロマー系の医療製品への噴霧、浸漬、インジェクションおよび/またはハケ塗りを含む、いずれの好適な様式で医療製品に適用してもよい。
【0119】
いくつかの態様では、好ましい非重合型開始剤化合物は、ペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)[「テトラ−BBE−PET」]、ペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイル安息香酸エステル)(「テトラ−BBA−PET」)、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二ナトリウム塩(「DBDS」)、およびエチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロミドである。
【0120】
本発明によれば、多機能医療製品は1を超える生体適合性部分を含み、各生体適合性部分は、選択された生体適合性剤を含むポリマーマトリックスを含む。これらの生体適合性剤は、反応性基、重合性基、または反応性基と重合性基の組合せを含むように改変される。いくつかの態様では、生体適合性剤は、生体適合性剤をポリマーマトリックスと会合させるための1以上の反応性基を含む。いくつかの実施形態では、生体適合性剤は1以上の重合性基を含む。所望により上記の成分に加えて重合開始剤を提供することができる。
【0121】
いくつかの態様では、本発明は、1を超える生体適合性部分を有する多機能医療製品を作製する方法を提供し、ここで、各生体適合性部分は異なる生体適合性剤を含む。いくつかの態様では、生体適合性剤は、医療製品表面と周囲環境(例えば、血液および/または周囲組織を伴う)との間の相互作用を軽減することにより生体適合性を向上させるよう選択することができる。例えば、生体適合性剤は、医療製品表面の一部と会合される場合、下層の医療製品材料から血液を隔てる働きをすることができる。このような使用のために好適な生体適合性剤は好ましくは、血液成分が医療製品に付着して活性化する可能性を軽減し、従って、血栓または塞栓(遊離して下流に送られる血餅)の形成を軽減する。いくつかの態様では、生体適合性剤は、移植部位に装置の配置を維持することを補助することにより生体適合性を向上させるよう選択し、医療製品表面の異なる部分に適用することができる。例えば、選択された生体適合性剤は、医療製品表面の一部と会合される場合、装置を適正な位置に固定するよう、局部的繊維性応答を誘導する働きをすることができる。1つの例示的装置は、組織治癒を促進することが望まれる第1の部分(例えば、装置ポートまたは装置固定部分における)と、非血栓形成性が望まれる第2の部分(例えば、カテーテルの内面もしくは外面、または装置のセンサー部分)を含み得る。本発明の概念によれば、単一の装置に異なる生体適合性領域がいくつ含まれてもよいことが容易に分かるであろう。さらに、各生体適合性領域は、このような装置の各領域において所望の生体適合性を提供するよう選択された1以上の生体適合性剤を含むことができる。
【0122】
生体適合性剤は本質的に、医療製品の医療製品の生体適合性を向上させるために固相表面と遊離しないように会合されるいずれの試薬であってもよい。好ましい態様では、生体適合性剤は、医療製品の表面においてポリマーマトリックスと会合してその一部となる。よって、該生体適合性剤はその表面に固定される(表面から溶出される場合とは区別される)。よって、本発明に従って選択される生体適合性剤は、ポリマーマトリックス内に固定することができ、ひと度そのように固定されれば活性を保持する薬剤を含む。生体適合性剤は、好ましくは、アミノ酸または糖類モノマー単位を含むポリマーなどの比較的大きな分子である。非重合型であるより小さな分子、例えば、合成により生成されるか、または天然源由来の小分子は遊離しないようにポリマーマトリックスと会合させることが比較的難しい場合があり、従って、本発明の生体適合性剤としては選択されないのが典型である。
【0123】
いくつかの態様では、生体適合性剤はポリマー、例えば多糖類を含む。本発明によれば、特に有用な多糖類は、ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、およびデルマタン硫酸などのムコ多糖類から選択され得る。
【0124】
いくつかの態様では、生体適合性剤は機能により概念化することができる。いくつかの実施形態では、生体適合性剤は、抗増殖作用、抗血小板作用、および/または抗血作用などの抗再狭窄作用を提供する。いくつかの実施形態では、生体適合性剤は、細胞接着因子、受容体、リガンド、増殖因子、酵素および核酸などから選択することができる。
【0125】
抗増殖作用を有する生体適合性剤としては、例えば、アンギオペプチン、c−mycアンチセンスなどが挙げられる。
【0126】
抗血小板作用を有する生体適合性剤の代表例としては、血小板凝集を媒介するGPIIb−IIIa血小板受容体複合体の阻害剤が挙げられる。GPIIb−IIIa阻害剤としては、モノクローナル抗体Fabフラグメントc7E3(アブシキマブ(ReoPro(商標)としても知られる)、およびエプチフィバチド(Integrilin(商標))またはチロフィバン(Agrastat(商標))などの合成ペプチドまたはペプチドミメティクスが挙げられる。
【0127】
抗血栓作用を有する生体適合性剤(トロンビン阻害剤)の代表例としては、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ナトリウムヘパリン、低分子量ヘパリン、高親和性ヘパリン、低親和性ヘパリン、ヒルディン、リシン、プロスタグランジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、PPACK−トロンビン(D−フェニルアラニル−L−プロピル−L−アルギニンクロロメチルケトン−トロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体抗体、補タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体抗体、組換えヒルディン、ビバリルジントロンビン阻害剤(Biogen, Cambridge, MAから市販)、コンドロイチン硫酸、修飾デキストラン、アルブミン、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、および一酸化窒素阻害剤などが挙げられる。
【0128】
増殖因子の例としては、繊維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、血管内皮増殖因子、骨形態形成タンパク質および他の骨増殖因子、ならびに神経増殖因子が挙げられる。
【0129】
本発明のここ以外では論じられないが、リガンドまたは受容体の例としては、抗体、抗原、タンパク質A、およびタンパク質Gが挙げられる。
【0130】
抗生物質の例としては、抗生物質ペプチドが挙げられる。
【0131】
いくつかの実施形態では、生体適合性剤は、ひと度移植されると装置の位置を維持する助けとするために含めることができる。これらの機能を提供し得る例示的生体適合性剤としては、表面接着分子または細胞−細胞接着分子が挙げられる。細胞接着分子の例としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン(例えば、(合成)組換えヒトコラーゲン(FibroGen, South San Francisco, CA))、エラスチン、ビトロネクチン、テネイシン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、骨シアロタンパク質(およびその活性ドメイン)を含む細胞外マトリックスタンパク質などの接着タンパク質、またはヒアルロン酸、キトサンもしくはメチルセルロースなどの親水性ポリマー、ならびに炭水化物および脂肪酸などの他のタンパク質が挙げられる。細胞−細胞接着分子に例としては、N−カドヘリンおよびP−カドヘリン、ならびにそれらの活性ドメインが挙げられる。
【0132】
いくつかの実施形態では、生体適合性剤は、ひと度移植されると装置の位置を維持する助けとする前繊維化剤を含み得る。本発明によれば、前繊維化剤は重合型化合物であっても非重合型化合物であってもよい。上記の接着型薬剤のいくつかは、「前繊維化」剤であると考えることができる。さらなる前繊維化ポリマーの例としては、前繊維化陽イオン性ポリマー、および前繊維化ペプチドまたはタンパク質、例えば、トロンビン、アデニンジヌクレオチド二亜リン酸(ADP)、またはコンブルキシン(convulxin)が挙げられる。他の前繊維化剤としては、血小板因子1−4、血小板活性化因子(アセチルグリセリルエーテルホスホリルコリン)、P−セレクチン、組織因子、プラスミノーゲンアクチベーター誘導剤−1、トロンボキサン、セラストチン(cerastotin)およびアファシチン(afaacytin)をはじめとする凝血性トロンビン様酵素、ホスホリパーゼA2、Ca2+−依存性レクチン(C型レクチン)、アグレチン(aggretin)、ロドサイチン(rhodocytin)、アグレゴセルペンチン(aggregoserpentin)、トリワグレリン(triwaglerin)、およびエキナトキシン(equinatoxin)をはじめとする、糖タンパク質受容体と結合し、凝集を誘導する因子、マムシジン(mamushigin)およびアルボアグレジン(alboaggregin)をはじめとする糖タンパク質Ibアゴニスト、ボトロセチン(botrocetin)、ビチスセチン(bitiscetin)、セラストチン(cerastotin)およびエカリン(ecarin)をはじめとするvWF相互作用因子が挙げられる。
【0133】
血液凝固カスケードに含まれる、タンパク質因子を含む他の因子としては、血液凝固因子I−XIII(例えば、フィブリノーゲン、プロトロンビン、組織トロンボプラスチン、カルシウム、プロアセレリン(proaccelerin)(促進剤グロブリン)、プロコンベルチン(proconvertin)(血清プロトロンビン変換促進剤)、抗血友病因子、血漿トロンボプラスチン成分、Stuart因子(オートプロトロンビンC)、血漿トロンボプラスチン前駆物質(PTA)、Hageman因子、および繊維素安定化因子(FSF、フィブリナーゼ、プロトランスグルタミナーゼ))が挙げられる。
【0134】
本発明によれば、生体適合性剤は、1以上の反応性基、1以上の重合性基、または反応性基と重合性基の組合せを含むように改変される。該反応性基および/または重合性基により、生体適合性剤は、医療製品の表面においてポリマーマトリックスと会合してその一部となることができる。
【0135】
いくつかの実施形態では、反応性基は、潜伏性反応性基を含む。本明細書において「潜伏性反応性基」とは、活性種の生成を受けるよう適用された外部エネルギー源に応答し、その結果、隣接する化学構造と共有結合を生じさせる(引き抜き可能な水素を介する)化学基を指す。好ましい基は、このような特性を保持する条件下で保存するのに十分安定である。例えば、米国特許第5,002,582号(Guireら)参照。潜伏性反応性基は電磁スペクトルの様々な部分に応答性のあるものを選択することができ、スペクトルの紫外部および可視部に応答性(本明細書では「光反応性」と呼ばれる)のあるものが特に好ましい。
【0136】
光反応性基は、活性種の生成を受けるよう特定適用外部紫外線源または可視光源に応答し、その結果、例えば同じまたは異なる分子によって提供される隣接する化学構造と共有結合する。光反応性種は、貯蔵条件下ではそれらの共有結合を電荷のない状態に保持し、特定適用外部紫外線源または可視光源により活性化された際に、他の分子との共有結合を形成する分子の原子群である。
【0137】
潜伏性反応性(例えば、光反応性)種は、 電磁エネルギーを吸収した際に、フリーラジカル、特にニトレン、カルボレン、および励起状態のケトンなどの活性種を生じる。潜伏性反応種は、電磁スペクトルの様々な部分、例えば、スペクトルの紫外部および可視部に応答性があるように選択することができる。
【0138】
光反応性アリールケトンが好ましく、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントレン、およびアントレン様複素環(例えば、10位に窒素、酸素または硫黄を有するものなどのアントレンの複素環式類似体)、またはそれらの置換(例えば、環置換)誘導体がある。好ましいアリールケトンの例としては、アクリドン、キサントンおよびチオキサントン、ならびにそれらの環置換誘導体をはじめとする、アントロンの複素環式誘導体が挙げられる。約360nmを上回る励起エネルギーを有するチオキサントンおよびその誘導体が特に好ましい。光反応性基の例としては、米国特許第5,002,582号(Guire ら)に記載されている。
【0139】
生体適合性剤と会合することができる光反応性基の別の例示的な種として、アジ化物がある。好適なアジ化物としては、アジ化フェニル、特に、アジ化4−フルオロ−3−ニトロフェニルなどのアジ化アリール(C6RsN3)、アジドギ酸エチル、アジドギ酸フェニルなどのアジ化アシル(−CO−N3)、アジ化ベンゼンスルホニルなどのアジ化スルホニル(−SO2−N3)、アジ化ジフェニルホスホリルおよびアジ化ジエチルホスホリルなどのアジ化ホスホリル(RO)2PON3が挙げられる。
【0140】
ジアゾ化合物は、生体適合性剤と会合することができる別の好適な光反応性基種からなり、ジアゾメタンおよびジフェニルジアゾメタンなどのジアゾアルカン(−CHN2)、ジアゾアセトフェノンおよび1−トリフルオロメチル−1−ジアゾ−2−ペンタノンなどのジアゾケトン(−CO−CHN2)、t−ブチルジアゾアセテートおよびフェニルジアゾアセテートなどのジアゾアセテート(−O−CO−CHN2)、3−トリフルオロメチル−3−フェニルジアジリンなどのβ−ケト−α−ジアゾアセテート(−CO−CN2−CO−O−)、ならびにケテンおよびジフェニルケテンなどのケテン(−CH=C=O)が挙げられる。
【0141】
光反応性基およびこれらの基の活性化の後に形成され得る結合の例を表Iに示す。
【表1】

【0142】
本明細書に記載のようなこのようなケトンの官能基は、本明細書に記載の活性化/不活性化/再活性化サイクルを容易に受け得るので好ましい。ベンゾフェノンは、光化学励起が可能であり、トリプレット状態に対する系間交差を受ける励起シングレット状態が最初に形成されるので、特に好ましい潜伏性反応性基である。この励起トリプレット状態は、水素原子の引き抜き(例えば、支持体表面から)により炭素−水素結合中に挿入され、これによりラジカル対を形成することができる。その後、このラジカル対の崩壊により、新たな炭素−炭素結合が形成される。反応性結合(例えば、炭素−水素)が結合に利用できない場合、ベンゾフェノン基の紫外光により誘導される励起は可逆的であり、この分子はエネルギー源を除去すると、基底状態のエネルギーレベルに戻る。ベンゾフェノンおよびアセトフェノンなどの光活性化性アリールケトンは、水中で何度も活性化を受け、従って、高いコーティング効率をもたらすことから特に重要である。
【0143】
いくつかの実施形態では、反応性基はまた重合開始剤として働き得る。このような使用は本明細書に記載されている。
【0144】
1以上の反応性基は、いくつかの方法で生体適合性剤と会合させることができる。好ましくは、各生体適合性剤と会合される反応性基の数は、ポリマーマトリックス材料内に生体適合性剤を固定し、同時に生体適合性剤の活性を維持する(すなわち、生体適合性剤の活性を妨げない)のに十分なものである。典型的には、光反応性基が生体適合性剤と会合される場合、結果として得られる分子は「光誘導体化」生体適合性剤と呼ばれる。例えば、多糖類が光反応性基と会合される場合、結果として得られる分子は、光誘導体化多糖類と呼ばれる。
【0145】
例えば、ヘパリン(「光ヘパリン」)などの光誘導体化多糖類は、当業者ならば、米国特許第5,563,056号(Swan ら, Preparation of Crosslinked Matrices Containing Covalently Immobilized Chemical Species and Unbound Releasable Chemical Species)(これには、ジメチルスルホキシド/炭酸塩バッファー中でヘパリンをベンゾイル−ベンゾイル−ε−アミノカプロイル−N−オキシスクシンイミドと反応させることによる光ヘパリンの製造が記載されている)。溶媒を蒸発させ、光ヘパリンを水に対して透析し、凍結乾燥させた後、水に溶解される。
【0146】
コラーゲン、フィブロネクチン、およびラミニンなどの他の光誘導体化生体適合性剤も記載のようにして製造することができる。例えば、米国特許第5,744,515号(Clapper, Method and Implatable Article for Promoting Endothelialization)参照。この特許に記載されているように、生体適合性剤などのタンパク質を光誘導体化するためにヘテロ二官能性架橋剤を使用することができる。この架橋剤は、一方の末端にベンゾフェノン光活性化性基(ベンゾイル安息香酸、BBA)、中央部にスペーサー(εアミノカプロン酸、EAC)、およびもう一方の末端にアミン反応性熱化学カップリング基(N−オキシスクシンイミド、NOS)を含む。BBA−EACは塩化4−ベンゾイルベンゾイルおよび6−アミノカプロン酸から合成される。次に、BBA−EACのNOSエステルは、N−ヒドロキシスクシミドによるカルボジイミドの活性化によりBBA−EACのカルボキシ基をエステル化してBBA−EAC−NOSを得ることにより合成される。コラーゲン、フィブロネクチン、およびラミニンなどのタンパク質は商業的供給先から入手することができる。このタンパク質は、BBA−EAC−NOS架橋剤をタンパク質1モル当たりBBA−EAC−NOS 10〜15モルの割合で加えることにより光誘導体化される。光誘導体化生体適合性剤を製造するためのいくつかの例示的方法は、本明細書の実施例に記載されている。
【0147】
上記の光活性化性生体適合性剤の例では、次に、ベンゾフェノン基を活性化され、生体適合性剤とポリマーマトリックスを会合させるための反応性基として働くことができる。反応性基と生体適合性剤を、さらにそのようにして形成された反応性生体適合性剤とポリマーマトリックスを会合させる他の反応性基および方法は、本開示の教示が得られれば明らかになる。
【0148】
いくつかの態様では、生体適合性剤は重合性基を含み得る。そして、いくつかの実施形態では、生体適合性剤はマクロマーを含み得る。例えば、重合性基を含むヒアルロン酸が記載されており(米国特許第6,410,044号, Chudzik ら参照)、この場合、ヒアルロン酸を乾燥ホルムアミドに溶解させ、この溶液にTEAおよびアクリル酸グリシジルが添加された。この反応混合物は37℃で82時間攪拌されている。MCWO透析チューブを用い、脱イオン水に対して徹底的に透析した後、生成物は凍結乾燥により単離された。
【0149】
同様に、重合性基を含むコラーゲンも様々な方法で得ることができる。重合性基を含むコラーゲンを製造する1つの例示的方法が、米国特許第6,410,044号, Chudzik らに記載されている。コラーゲンは乾燥ホルムアミドに溶解され、その後、TEAが添加され、氷水浴中で平衡化された。塩化アクリロイルが−/25グラムずつ添加された。最後の添加の後、溶液が氷水浴中で2時間攪拌され、取り出され、室温で18時間攪拌された。生成物は、MWCO透析チューブを用い、脱イオン水に対して透析することで精製され、凍結乾燥により単離された。
【0150】
重合性基を含むコラーゲンを製造する別の例示的方法は次の通りである。ウシ1型コラーゲンを0.012N塩酸に溶解し、4℃で4時間攪拌した。この溶液に炭酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムを加え、4℃に60分間混合する。次に、アクリル酸N−ヒドロキシスクシンイミドを加え、反応混合物を4℃で24時間攪拌する。最終生成物を、MWCO透析チューブを用い、脱イオン水に対して透析することにより精製し、凍結乾燥により単離する。
【0151】
コラーゲン・マクロマーを製造するさらなる例示的方法は、本明細書の実施例に記載されている。
【0152】
限定されるものではないが、ヒアルロン酸およびヘパリンなどの他の生体適合性剤に重合性基を提供するためにも同様の反応が利用可能である。
【0153】
いくつかの実施形態では、生体適合性剤は、本発明のコーティングの架橋性マクロマー系として働き得る。本発明のこれらの態様によれば、生体適合性剤は重合性基を含むことができ、よって、本明細書の他所に記載されている架橋性マクロマー系の機能を提供することができる。生体適合性剤は本発明に記載の重合性基のいずれかとともに提供することができる。結果として得られる重合性生体適合性剤は、単独または本明細書の他所に記載されている他のマトリックス材料と組み合わせて、マトリックス材料として使用可能である。
【0154】
いくつかの態様では、親水性または膨潤性ポリマーを、生体適合性剤を含有するコーティングに包含させることができる。これらのポリマー種は、コーティングされた製品において空隙充填特性を提供することができるので、生体適合性コーティングにおいて有用であり得る。また、このような材料は、例えば、封止剤機能の改良により製品の全体的な機能に寄与することで、製品性能を改良することもできる。
【0155】
親水性または膨潤性ポリマーは側鎖重合性基を含むことができ、生体適合性剤を含み得るコーティング層を形成するための方法で使用することができるし、あるいは、1以上の生体適合性剤から分離することもできる。
【0156】
例えば、側鎖重合性基を有する親水性または膨潤性ポリマーと重合開始剤を含む組成物を、医療製品の表面に定着させることができる。親水性または膨潤性ポリマーを含むコーティング層は、ポリマーの重合を開始させることにより形成させることができる。その後、生体適合性剤を含む組成物を表面に定着させることができる。この生体適合性剤はまた、重合性基を含むこともできる。生体適合性剤を含むコーティング層は、ポリマー生体適合性剤の重合を開始させることにより親水性または膨潤性ポリマーを含む層に上に形成させることができる。
【0157】
特に有用な親水性または膨潤性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリアクリルアミド(PAA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、およびそれらのコポリマーなどが挙げられる。1以上の重合性基は膨潤性ポリマーの側鎖であってもよい。また、膨潤性ポリマーの混合物も使用可能である。
【0158】
いくつかの態様では、親水性または膨潤性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)などの血栓耐性を有し得る。いくつかの実施形態では、ポリマーマトリックスのマクロマーとしても働く生体適合性剤としてPEGが使用可能である。PEGでコーティングされた表面は、非免疫原性、非抗原性およびタンパク質拒絶反応をもたらすPEGの特性のために生体適合性であることが示されている。PEGは例えば、PEGに光反応性基および/または重合性基を提供することにより修飾することができる。PEGを含むコーティング層は、例えばアクリル化PEGを重合開始剤と組み合わせて含むコーティング組成物を定着させることにより形成させることができる。PEGがその受動的親水性のために利用される場合には、生体適合性剤を別に包含させる(PEGに加えて)ことは任意選択であることが容易に分かるであろう。いくつかの態様では、生体適合性剤はPEGコーティング層の一部に適用することができ、それにより、装置表面に2つの生体適合性部分を設け、その両部分とも第1のPEG層を含み、一方の部分だけが異なる生体適合性剤を含む第2の層を含む。
【0159】
側鎖重合性基を含む膨潤性ポリマーを生体適合性コーティングに組み込むのが有用であるが、側鎖重合性基を持たない膨潤性ポリマーをコーティングの形成に使用することもできる。従って、本発明のもう1つの態様では、膨潤性ポリマー、生体適合性剤、および光反応性基を含むコーティング組成物からコーティングを形成することができる。
【0160】
いくつかの実施形態では、付加的な治療薬を医療製品の1以上の部分に包含させることができる。このような治療薬は、患者内に留置した際に医療製品から治療薬が溶出されるように、医療製品の表面でポリマーマトリックスと遊離可能なように会合されるよう選択することができる。典型的には、このような遊離可能なように会合された薬剤は、本発明の生体適合性剤と比較してより低分子量の薬剤を含む。いくつかの例示的治療薬として、抗増殖作用を有する小分子(アクチノマイシンD、パクリタキセル、およびタキサンなど)、抗炎症薬(デキサメタゾン、プレドニゾロン、およびトラニラストなど)、免疫抑制薬(シクロスポリン、CD−34抗体、エベロリウムス(everolimus)、ミコフェノール酸、シロリムス、およびタクロリムスなど)、ならびに小分子抗生物質などが挙げられる。好適な治療薬は記載されており、例えば、生物活性化合物および治療薬の包括的リストがThe Merck Index, 第13版, Merck & Co. (2001)に見出せる。当業者ならば、現記載の指針を用い、本発明のポリマーマトリックスから溶出させるのに好適な治療薬を容易に選択することができる。
【0161】
本発明によれば、医療製品の表面は、1を超える生体適合性剤を含むポリマーマトリックスとともに提供され、ここでは、選択された生体適合性剤は、体内の生理環境に適合するように選択された異なる生体適合性部分を形成するように、医療製品の異なる部分に適用される。該ポリマーマトリックスおよび生体適合性剤は、所望により同時にまたは逐次、医療製品表面に適用することができる。いくつかの実施形態では、ポリマーマトリックス材料を含有するコーティング溶液が調製され、医療製品に提供される。この第1のコーティング工程の後、生体適合性剤を含有するコーティング溶液は医療製品表面のポリマーマトリックスに適用される。他の実施形態では、ポリマーマトリックス材料と生体適合性剤の双方を含有するコーティング溶液が調製され、このコーティング溶液が、同時コーティング法で医療製品表面に適用される。
【0162】
医療製品の従来のコーティング法は、多くの場合、浸漬法により表面へコーティングを施すことを含む。これは、製品表面に適用される材料を溶媒に分散させた溶液を調製することを含む。次に、インプラントを溶液中に浸漬し、コーティングされたインプラントを乾燥させる。インプラントから溶媒を蒸発させた後、浸漬した表面に目的のコーティングが残る。このアプローチの欠点としては、得られるコーティングの厚さを十分制御できないこと(例えば、得られたコーティングは適用によっては厚すぎることがある)、およびコーティングの均一性を十分制御できないこと(例えば、医療製品を浸漬溶液から取り出した際に溶液が流れるためにコーティングが一様でない場合がある)が挙げられる。他の欠点としては、入り組んだ表面構造を十分コーティングすることができない(例えば、医療製品の小さな孔や管腔がコーティング材料でふさがれてしまう場合がある)ということに関連する。さらに、このようなコーティング法は労働集約的といえ、最終生成物のコストに上乗せされる。また、溶媒の浸食性が強すぎれば、例えば、医療製品がポリウレタンから作製される場合には、損傷による歪みが起こることなく薄い材料を処理することは付加のであると思われる。
【0163】
他の従来のコーティング法も、同じ、また他の欠点を有する。
【0164】
好ましい態様では、本発明の方法および製品は、これらの欠点の1以上を克服することができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明は、任意の所望の厚さの均一なコーティングを提供するために利用することができる。例えば、本発明の方法および系は、100nm〜10μまたはそれ以上といったナノメートルからミクロンの範囲の厚さを有する等角コーティングを提供するために利用することができる。本発明の方法は、特に医療製品の表面が、医療製品の形成によるものであり得る入り組んだ表面構造または表面の不規則性を含んでいる場合、表面調製のための従来技術に比べて改良されたコンシステンシーを提供することができる。
【0165】
1つの例示的コーティング技術では、コーティング溶液は浸漬コーティング法を用いて適用することができる。この実施形態によれば、コーティング溶液は、溶媒(脱イオン水など)に所望の濃度で成分(例えば、ポリマーマトリックス材料および生体適合性剤)を溶解させることにより調製される。部品を試薬溶液に浸漬し、所望により、溶液中に留まらせ(行ったところでは、典型的には約5〜10分)、その後、Dymax Blue Wave Spot Cure System (Dymax Corporation, Torrington, CTから市販されている光学系)を用いて60秒照射を行う。この系の紫外線棒は、コーティングされる製品部分に330〜340nmの波長域の光およそ0.5〜0.25mW/cm2を与える距離に置けばよい。この支持体を、その表面に確実に一様な光が当たるように、60秒の照射中、穏やかに振盪させる。その後、コーティング溶液から医療製品を取り出す。コーティング溶液から医療製品を取り出した後、医療製品を脱イオン水ですすぎ、窒素ガスを吹き付けて溶液の大きな液滴を除去した後、溶媒が見えなくなるまで風乾する(典型的には少なくとも2分から一晩の風乾)。
【0166】
選択される試薬、コーティング方法(コーティング溶液の成分の同時添加または逐次添加)、およびコーティング溶液の個々の成分の濃度などの因子に基づき、容易に選択することができる。
【0167】
別の例示的コーティング技術では、噴霧コーティング法を用いてコーティング溶液を適用することができる。このような噴霧コーティング法の一例としては、特許公開第2004/0062875号(Chappaら, Advanced Coating Apparatus and Method)に記載されているものなどのローラーシステムを用いる。医療製品回転装置は、回転可能な製品を保持するのに好適な1対のローラーを含み、この対は、互いに実質的に平行に配置され、かつ、ギャップにより隔てられた第1のローラーと第2のローラーを有する。スプレーノズルは、ギャップにおいて方向付けられるコーティング溶液のスプレーを形成するよう機能し得る形で配置され、製品がローラー対上に位置しない場合には、スプレーの大部分がギャップを通り抜けるようになっている。使用時は、コーティング溶液はスプレーノズルから製品に吹き付けられ、製品上に定着しないスプレーの大部分がギャップを通り抜ける。その後、医療製品は次のコーティング溶液の適用のために製品の異なる部分を配置させるようローラーを回転させることによって回転させる。このコーティング装置は、Sonotekから市販され、米国出願第2004/0062875号(Chappaら, Advanced Spray Coating Apparatus and Method)に記載されているものなどの、超音波スプレーノズルを含み得る。
【0168】
本発明のいくつかの態様によれば、コーティング溶液はポリマーマトリックス材料と生体適合性剤の双方を含み得る。ポリマーマトリックス材料および生体適合性剤(反応性基を含有する)は、医療製品の表面に手帰着させるのに好適な組成で得ることができるか、またはコーティング組成物を調製するために好適な溶媒または分散媒中に合わせることができる。
【0169】
これらの成分の溶解度または分散性は、選択されるポリマーマトリックス材料および生体適合性剤の種類によって異なるが、本発明の有用な溶媒および分散媒としては、限定されるものではないが、水、アルコール(メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびイソプロパノールなど)、アミド(ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなど)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル、およびジオキソランなど)が挙げられる。さらに、いくつかの実施形態では、混合溶媒系が有益である場合があり、その場合には、1を超える重合開始剤を一般的な溶液として提供することが望ましい。例えば、非イオン性開始剤と荷電開始剤の組合せ(実施例の化合物IIIと化合物IVなど)を、75%IPA/25%水などの混合溶媒系とともに使用することができる。溶媒系の選択は生体適合性剤、重合開始剤、および製品表面材料などによって異なり得る。
【0170】
ポリマーマトリックス材料と生体適合性剤の双方を含むコーティング溶液の適用は、本明細書に記載のいずれかのコーティング技術、または一般に知られているコーティング技術を用いて達成される。医療製品表面にコーティング溶液を適用した後、その医療製品に適当な波長の光を照射し、それにより、コーティング溶液を医療製品表面に結合させる。
【0171】
この同時コーティング法を用いる場合、医療製品の異なる生体適合性部分をいくつかの方法で作出することができる。例えば、ポリマーマトリックスと第1の生体適合性剤(例えば、ヘパリン)を含有する第1のコーティング溶液を、医療製品表面の選択された部分に適用することができる。その後、ポリマーマトリックスと第2の生体適合性剤(例えば、コラーゲン)を含有する第2のコーティング溶液を、ヘパリンを施した部分とは異なる医療製品の選択された部分に適用することができる。もう1つの技術例では、第1のコーティング溶液の適用時に医療製品表面のある部分をマスクすることができる。このマスクは、医療製品表面の異なる部分に、異なる生体適合性剤を含有するコーティング溶液を正確に定着させるよう、コーティングプロセス中に配置および再配置させることができる。あるいは、またはそれに加えて、所望により、医療製品表面の照射中にマスキングを行うこともできる。この方法では、光が照射される領域だけがマトリックス材料および生体適合性剤と結合する。これらのマスキングアプローチは、コーティング溶液が噴霧定着技術を用いて適用される場合は特に有用であり得る。
【0172】
所望により、コーティング溶液は開始剤(例えば、非重合型開始剤)をさらに含むことができる。開始剤は単独で含まれてもよく、あるいはコーティング溶液の他の成分と組み合わせて含まれてもよい。いくつかの態様では、開始剤は、ポリマーマトリックスの適用前に支持体に提供することができる。これらの態様では、この表面は開始剤で「プライミング」したと言われる(すなわち、開始剤は、いずれの付加的なコーティング成分の適用よりも前に表面に結合させることができ、その結果、開始剤を担持する「プライミング」表面が得られる)。他の態様では、開始剤は、コーティング溶液の他の成分と組み合わせて提供することができる。これらの態様のいくつかの実施形態が実施例に例示されている。
【0173】
別の実施形態では、医療製品にポリマーマトリックスと生体適合性剤を適用するために逐次コーティング法を使用することができる。これらの実施形態によれば、まず、ポリマーマトリックスが医療製品表面に適用され、次に、生体適合性剤がそのポリマーマトリックス材料に提供される。
【0174】
これらの実施形態によれば、ポリマーマトリックス材料は所望により、医療製品の全表面に提供することもできるし、あるいは医療製品の全表面よりも狭い部分に提供することもできる。医療製品の全表面よりも狭い部分に適用する場合、ポリマーマトリックス材料は例えば、上記のように、制御された適用技術により、製品の選択された部分に適用することができる。
【0175】
ポリマーマトリックス(そして、医療製品)への生体適合性剤の適用は、既知の適用技術を用いて達成することができる。例えば、いくつかの実施形態では、生体適合性剤は、医療製品を生体適合性剤中に浸漬コーティングし、医療製品が生体適合性剤に浸漬されている間に光反応性基を活性化させることによりポリマーマトリックスに適用される。他の例示的実施形態では、生体適合性剤を、溶媒との混合物として適用することもできる。生体適合性剤は、溶媒中の生体適合性剤混合物を噴霧コーティングすることにより適用することができる。溶媒は本明細書に記載のようないずれかの好適な溶媒、例えば、THFであってよい。本明細書に記載のコーティング技術、ならびに他の既知の技術はいずれも、ポリマーマトリックスおよび/または生体適合性剤を適用するために使用可能である。
【0176】
本発明によれば、生体適合性剤と会合された反応性基は、その生体適合性剤を医療製品と会合させるために活性化される。活性化された基はその組成物の成分を互いに結合させる、または活性化された基が接触した医療製品表面と結合させる、またはその双方である。例えば、生体適合性剤と会合された反応性基は、その反応性基が接触したポリマーマトリックス材料および/または医療製品表面と反応して共有結合を形成することができる。いくつかの実施形態では、反応性基は光反応性基であり、活性化工程はそれらの光反応性基が活性化するのに十分な方法で照射を行うことを含む。場合によっては、活性化エネルギーはコーティングプロセス中に2回以上適用することができる。
【0177】
コーティング溶液の照射はいくつかの方法で行うことができる。いくつかの態様では、コーティング溶液は中間乾燥工程なしで照射することができる。これにより、好ましい態様では、必要なコーティング工程数を減らし、従って、コーティング方法および系の効率を高めることができる。他の態様では、コーティング溶液は、表面上のコーティング溶液を照射する前に適用し、乾燥させることができる。
【0178】
医療製品表面の特定の部分は、所望により、1を超える生体適合性剤を含み得ると理解される。例えば、生体適合性剤が適用部位において相乗作用的生体適合性機能を提供する場合など、医療製品の特定の部分に1を超える生体適合性剤が包含されることが望ましい場合がある。例えば、医療製品の特定の部分に1を超える前繊維化薬剤を包含させることができ、この前繊維化薬剤はその部分に繊維化作用の増強をもたらす。
【0179】
いくつかの実施形態では、医療製品の表面に生体適合性剤およびポリマーマトリックスを提供するためにグラフト技術を利用することができる。いくつかの態様では、このようなグラフト技術は本明細書に記載の非重合型開始剤を利用することができる。例えば、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二ナトリウム塩(DBDS)などのコーティング剤を、水中、所望の濃度で提供し、医療製品表面に適用することができる(例えば、噴霧による)。この製品表面は、コーティング剤を製品表面と会合させるよう、選択された時間および選択された強度で光照射される。次に、その製品表面をポリマーマトリックス材料(PEGなど)を含有する溶液中に置き、そのポリマー材料を製品表面と会合させるよう、所望の時間および所望の強度で照射することができる。より具体的な方法は実施例に記載されている。
【0180】
いくつかの態様では、本発明の方法および系は、製品表面の1以上の部分における光反応性ポリマーの適用を含み得る。光反応性ポリマーは、例えば、所望により、本明細書に記載の他のコーティング成分の医療製品表面への適用を増進するために利用することができる。好適な光反応性ポリマーとしては、本明細書の他所に記載されている光反応性基のいずれをも含む、光反応性基を含むポリマー材料を含む。1つの例示的光反応性ポリマーとして、光−ポリビニルピロリドン(「光−PVP」)がある。光−PVP層を作製し、医療製品表面に適用する方法の例が実施例に記載されている。一実施形態では、例えば、光誘導体化PVPは、1−ビニル−2−ピロリドンとN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドの共重合によって調製することができる。これらのコポリマーはSchotten-Baumann条件下、塩化アシル(例えば、塩化4−ベンゾイルベンゾイルなど)で誘導体化され、このポリマーの未反応のアミンは、無水酢酸を用いてアセチル化し、アセチル化光−PVPを得ることができる。すなわち、この塩化アシルは、コポリマーのN−(3−アミノプロピル)部分の一部と反応し、その結果、アリールケトンのポリマーへの結合が起こる。遊離した塩酸が塩基水溶液で中和される。得られるアセチル化光−PVPは、例えば、SurModics, Inc., Eden Prairie, MNから製品名「PV05」として市販されており、あるいは合成することもできる。当業者ならば、本開示を再考すれば、他の光反応性ポリマーも同様に使用可能であることが容易に分かるであろう。
【0181】
必ずしも必要ではないが、コーティング成分の表面への典型的な適用は、ポリマーマトリックス材料および/または他のコーティング成分を適用する前に光反応性ポリマーを表面に適用することを含む。これらの態様では、この表面は光反応性ポリマーで「プライミング」したと言われる(すなわち、光反応性ポリマーは、他のコーティング成分の適用よりも前に表面に結合させることができ、その結果、光反応性ポリマーを担持する「プライミング」表面が得られる)。いくつかの光反応性ポリマーがSurModics, Inc., Eden Prairieから市販されている。
【0182】
本明細書に記載の「コーティング」は、1以上の「コーティング層」を含むことができ、各コーティング層は1以上のコーティング成分を含む。場合によっては、コーティングは、1以上の層に加えて、生体適合性剤を含有するポリマーマトリックス層を含む。医療製品の表面に1を超えるコーティング層が適用される場合、典型的には逐次的に適用される。例えば、コーティングは典型的には、医療製品をコーティング溶液に浸漬する、医療製品にコーティング溶液を噴霧する、またはハケ塗りして層とした後、そのコーティング層を乾燥させることにより形成される。このプロセスを繰り返して、複数のコーティング層を有するコーティングを提供することができ、この場合、少なくとも1つのポリマー材料と生体適合性剤を含む。例えば、ポリマーマトリックス材料および生体適合性剤は、ベース・コートおよび/またはトップ・コートとともにコーティング中に存在してもよい。他の層は、ポリマーマトリックスと生体適合性剤を含有するコーティングと同じであっても異なっていてもよい。特定の医療製品とともに用いるためのコーティング組成物の適合性、ひいては適用技術の適合性は、本明細書が与えられれば、当業者ならば評価することができる。
【0183】
好ましい態様では、本発明は、所望のコーティングの1以上の成分を合わせることができ、選択された医療製品部分に適用可能であることから、コーティング方法および系に関して柔軟性を与える。例えば、所望のコーティング成分(ポリマーマトリックス材料、生体適合性剤、および所望により、開始剤)の全てを含むコーティング組成物を調製することができ、これらのコーティング組成物を制御された様式で医療製品表面に適用することができる。いくつかの態様では、医療製品の選択された表面にプライミング層、次に、所望の成分(ポリマーマトリックス材料、生体適合性剤など)の層が提供されるように、コーティング組成物を調製し、逐次的に適用することができる。コーティング技術のいくつかの例示的組合せが実施例に示されている。
【0184】
本発明のコーティングおよび方法は、所望の医療製品と組み合わせて利用することができる。さらに、本明細書に記載のコーティング組成物は製品表面に適用し、製品表面において多様な材料と結合することができる。いくつかの実施形態では、医療製品は、例えば、ステンレス鋼(例えば、316L)、白金、チタン、および金、ならびにコバルトクロム合金、またはニチノールなどの合金といった医療製品の製造に用いられるいずれの好適な材料から作製してもよい。さらなる実施形態では、例えば、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナ、ガラス、シリカ、およびサファイアなどの好適なセラミックを用い、医療製品を作製することができる。なおさらなる実施形態では、医療製品は、医療製品を作製するために一般に使用される複合材料などの好適な複合材料から作製することができる。このような複合材料は、いくつかの実施形態では、材料強度の増強ならびに柔軟性の増大などの利点をもたらす。好適な複合材料の例としては、ポリマーまたはセラミック(高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリメチルメタクリレート骨セメント(PMMA)、歯科用ポリマーマトリックス(架橋メタクリレートポリマーなど)、および繊維または特定の材料(炭素線維、骨粒子、シリカ粒子、ヒドロキシアパタイト粒子など)で強化されたガラスセラミックが挙げられる。また、ナノ複合材料も意図される。
【0185】
一実施形態では、医療製品は、非生分解性ポリマーから作製される。このような非生分解性ポリマーは周知であり、例えば、付加重合または縮合重合のいずれかから生じるオリゴマー、ホモポリマー、およびコポリマーが挙げられる。好適な付加ポリマーの例としては、限定されるものではないが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸グリセリル、メタクリル酸グリセリル、メタクリルアミド、およびアクリルアミドから重合されたものなどのアクリル系、ならびにエチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、および二フッ化ビニリデンなどのビニルが挙げられる。縮合ポリマーの例としては、限定されるものではないが、ポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、およびポリヘキサメチレンドデカンジアミドなどのナイロン、ならびにポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド(PEBAXなどのポリエーテル系ポリアミド)、ポリスルホン、ポリ(テレフタル酸エチレン)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジメチルシロキサン、およびポリエーテルケトンが挙げられる。他の好適な非生分解性ポリマーとしては、シリコーンエラストマー、シリコーンゴム、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィン、酢酸ビニルのホモポリマーおよびコポリマー(エチレンビニルアセテート2−ピロリドンコポリマーなど)、ポリアクリロニトリルブタジエン、ポリテトラフルオロエチレン(ePTFEを含む)およびフッ化ポリビニルなどのフルオロポリマー、スチレンアクリロニトリルのホモポリマーおよびコポリマー、アクリロニトリルブタジエンスチレンのホモポリマーおよびコポリマー、ポリメチルペンテン、ポリイミド、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリメチルスチレン、ラテックス、および他の同様の非生分解性ポリマーが挙げられる。
【0186】
本明細書の他所に述べられているように、医療製品のポリマーは疎水性ポリマーであり得る。これらの態様では、本発明の方法および系は有意な利点を提供することができる。
【0187】
本明細書に記載のように、本発明のコーティング溶液は、水性コーティング溶液として適用することができる。従って、いくつかの態様では、本発明の方法は、有機溶媒を用いるコーティング溶液に比べて、比較的穏和なコーティング条件を用いることができる。有機溶媒は、例えばタンパク質を変性させることにより、その系に存在するタンパク質に悪影響を及ぼすことがある。よって、水性コーティング系が利用できることは、述べたように、コーティング組成物における生体適合性剤の安定性を保持する上で有益であり得る。これらの同じ概念が、医療製品の表面を作製するのに使用される材料にも当てはまる。いくつかの実施形態では、タンパク質(例えば、酵素)などの添加剤を支持体材料に包含させ、それにより、医療製品表面にタンパク質を提供することができる。このような構成の他の例示的な一実施形態がセンサーであり、センサーを作製するのに使用される材料はタンパク質を含む。これらの態様では、本発明の方法および系は、医療製品自体の支持体材料に含まれるタンパク質に悪影響を及ぼさない(例えば、変性による)。
【0188】
また、センサー成分に関して、これらの成分は脆弱な材料からなる場合が多い。例えば、センサーは、装置の構造部品(カテーテル部品など)を作製するのに典型的に使用されるポリマーよりも本質的に耐久性の小さいポリマーから作製することができる。さらに、センサー材料は、身体の材料がセンサー装置に十分接触するように多孔質であってもよい。当業者ならば、センサー部品を含む医療製品に生体適合性コーティングを施すことが望ましい場合には、本明細書に記載の比較的穏和なコーティング条件が特に有益であることが容易に分かるであろう。
【0189】
いくつかの実施形態では、医療製品は、装置を体内により容易に挿入される形状に変形させる形状記憶特性および/または超弾力性を備えた材料から作製することができる。このような一実施形態では、例えば、医療製品は、体内への挿入のため実質的に線形に変形させることができる。この特定の実施形態によれば、移植可能装置は体内に挿入された後に元の形状に戻ることができる。この実施形態では、医療製品は、ある条件下で採る「記憶形状」を持つ。例えば、移植可能装置はコイル状の記憶形状を持ち得る。介入者が装置を体内に移植しようとする場合、介入者は、その線形装置の断面の大きさの切開部に装置を挿入するために、装置を実質的に線形に変形させることができる。装置を体内に移植すると、その装置はそのコイル状または他の記憶形状に戻ることができる。これらの形状記憶実施形態の移植可能装置の総寸法(最大長と最大幅)は、その形状記憶材料の使用および移植のための移植可能装置本体の変形、および/または体内における装置の外植のために有意に変化しないことが望ましい。
【0190】
形状記憶合金は一般に少なくとも2つの相、すなわち、比較的小さな引っ張り強さを有し、比較的低温で安定であるマルテンサイト相と、比較的大きな引っ張り強さを有し、マルテンサイト相よりも高温で安定であるオーステナイト相、を有する。これらの形状記憶特性は、オーステナイト相が安定である温度より高い温度まで材料を加熱することにより材料に付与される。材料がこの温度まで加熱されると、その装置は、「覚えて」おいてほしい形状である「記憶形状」で保持される。形状記憶および/または超弾性特性を有する材料は周知であり、例えば、ニチノール(ニッケル−チタン合金)などの形状記憶合金(SMA)、ならびにオリゴ(e−カプロラクトン)ジメチルアクリレートおよびn−ブチルアクリレートに基づくAB−ポリマーネットワークなどの形状記憶ポリマー(SMP)が挙げられる。形状記憶特性を付与するこのような材料および方法は公知であり、ここではこれ以上記載しない。
【0191】
本発明の例示のため、経心筋カテーテルを記載する。典型的には、経心筋カテーテルは4つの移植可能部品、すなわち、圧力伝達カテーテル、リモートセンサーアセンブリ、リモートセンサーアセンブリと遠隔測定ユニットを接続する導線、および電源とトランスミットを収容し、遠隔測定を介して圧力データをリモートトランシーバに伝達する遠隔測定ユニットを含む。圧力伝達カテーテルは、開胸術中に左心室壁に直接挿入されるように設計されている。圧力伝達カテーテルは液体で満たされ、その遠位チップは生体適合性シリコーンゲルで封止されている。このゲルは左心室からカテーテル内の液体へ圧力を伝達し、このカテーテル内の液体は次にリモートセンサーアセンブリに圧力を伝達する。このリモートセンサーアセンブリは典型的には、概寸14mm(高さ)、25mm(直径)のチタンハウジング内に提供され、圧力センサーと信号を処理するためのエレクトロニクスモジュールを含む。このリモートセンサーアセンブリは、500Hzで左心室圧をサンプリングする。リモートセンサーアセンブリは、心外膜を経て心臓に取り付ける(例えば、縫合糸を用いる)。典型的には、遠隔測定ユニットは腹壁上部または腹腔に設置する。
【0192】
使用時には、左心室圧情報がリモートセンサーアセンブリから導線へ、次に遠隔測定ユニットへと伝達される。その後、遠隔測定ユニットはこの情報を遠隔測定を経て外部リモートトランシーバーへ伝達する。移植された部品は、出口傷もなく患者内に完全に包含され、それにより、装置の留置中、感染のリスクは最小限となる。
【0193】
このカテーテルの様々な部品は異なる材料から作製することができ、かつ/または異なる材料でコーティングすることができる。例えば、圧力伝達カテーテルは、ePTFE押出外装を伴う、ポリウレタン−ポリカーボネート押出内装からなり得る。このポリウレタン押出品の管腔は、架橋シリコーンゲルを有する遠位チップで終わる圧力伝達液を含み得る。よって、医療製品単体のこの圧力伝達カテーテル部分は1を超える表面材料(ePTFEとシリコーン)を含み得る。遠隔測定ユニットは典型的には、チタンハウジング内に含まれる。
【0194】
所望により、経心筋カテーテルはコーティングの適用前に洗浄することができる。このような洗浄は、所望により、混入物を除去するために行うことができ、このような装置を洗浄するのに一般に用いられる標準的な溶媒を含む。
【0195】
例示的な一実施形態では、PEG/コラーゲンコーティングをePTFE材料と会合させることができるが、PEG/ヘパリンコーティングをポリウレタンおよびシリコーンゲルチップと会合させることもできる。これらのコーティングは硬化され、装置は滅菌のため包装され、好適な方法(EtO滅菌法など)を用いて滅菌される。
【0196】
よって、PEG/コラーゲンコーティングは、左心室壁から直接挿入され、患者内での使用中、左心室中に留置されるよう構成された装置の部分と会合させて提供される。このPEGコラーゲンコーティングは、装置の使用中、細胞間接着を向上させることができ、従って、患者のモニタリング中、心筋内の適正な位置に装置全体を固定する助けとなる。同じ装置に関して、PEG/ヘパリンコーティングは、患者内での装置の使用中、左心室内に留置されるように構成された装置の部分と会合させて提供される。このポリウレタンおよびシリコーンゲルチップは、繊維素(血栓を一緒に保持する)の形成に重要な数種の酵素を阻害するために局部的触媒活性を提供すること、多くのものが医療製品表面で望ましくない反応をもたらす血液タンパク質の吸着を軽減すること、および/または血栓の主成分である血小板の接着および活性化を軽減することをはじめとする、ヘパリンに関連する活性のいずれかを提供することにより装置全体の性能を高めるために、PEG/ヘパリンコーティングとともに提供される。
【0197】
生体適合性機能は様々な方法で評価することができる。次のアッセイは、医療製品表面の各部分の機能を評価するための技術例を提供する。
【0198】
ヘパリン活性アッセイ
ヘパリンの抗血栓活性はそのトロンビン阻害によるものであり、トロンビンは凝固カスケードに関与することが知られているプロテアーゼである。ヘパリンは、まず抗トロンビンIII(ATIII)と結合することによりトロンビン活性を阻害する。次に、このヘパリン/ATIII複合体がトロンビンと結合し、トロンビンを不活性化し、その後、ヘパリンが遊離し、別のATIIIと結合することができる。固定化ヘパリンによるトロンビンの阻害に関するアッセイは、トロンビンによる色素生産ペプチド基質の開裂を測定することにより行うことができる。
【0199】
ヘパリン活性アッセイを実施する前に、各部分は典型的には、結合していない材料を支持体から除去するために一晩(12〜18時間)洗浄する。各部品はオービタル・シェーカー(弱い振盪に設定)にて20〜30℃の範囲の温度でdiH2OまたはPBSで洗浄する。
【0200】
典型的なヘパリンアッセイは次のように行うことができる。各アッセイは、BSA、ヒトトロンビン、ATIII、および色素生産トロンビン基質を含む、適当量のPBS中で行われる。例えば、例示的アッセイ溶液は、0.85mg BSA(Sigma Chemical Co.)、10mUヒトトロンビン(Sigm Cemical Co.)、100mU/ml ATIII(Baxter Biotech, Chicago, I11.)、および0.17μモルの色素生産トロンビン基質S−2238(Kabi Pharmacia, Franklin, Ohio)である。このアッセイ溶液に、未コーティングまたはヘパリンコーティングされた装置(膜上でのヘパリン活性を評価するため)、または標準濃度のヘパリン(ヘパリン含量と吸光度の標準曲線を作製するため)のいずれかを加える。37℃で2時間インキュベートした後、トロンビンにより媒介されるS−2238の開裂により生じ、405nmにおける吸光度として測定された色を、分光光度計を用いて読み取る。この吸光度はトロンビンの活性に正比例し、従って、溶液中の、または支持体の表面に固定されたヘパリンにより誘導されるATIIIの活性化量に反比例する。表面結合ヘパリンの活性は、膜で得られた吸光度値を既知量のヘパリンを添加した場合に得られる吸光度値と比較することによって算出することができる。
【0201】
血栓症アッセイ
血栓形成挙動はいくつかの事象によって特定することができる。血栓形成挙動を特定する1つの方法は、血液凝固の低下を観測することによる。血栓形成挙動を特定するもう1つの方法は、収縮期血圧と拡張期血圧の間の差(以下、脈圧差と呼ぶ)を測定することによる。例えば、血栓症がカテーテルの液体流路を詰まらせ始めると、脈圧差が少なくとも約10mmHg低下し得る。
【実施例】
【0202】
以下の試薬が実施例で用いられる。
Luviskol(商標)K90(ポリビニルピロリドン,MW1,200,000〜2,000,000,BASF, Germany)
Luviskol(商標)K30(ポリビニルピロリドン,MW45,000〜55,000,BASF, Germany)
【0203】
以下の化合物が実施例に記載される。
【化1】

【化2】

【化3】

【0204】
実施例1:トリメチロールプロパンエトキシレート(20/3 EO/OH)トリアクリレートマクロマー(化合物I)の製造
PEG系マクロマーは次のようにして合成した(合成スキームは本実施例の末尾に示されている)。
【0205】
トリメチロールプロパンエトキシレート(PEG−トリオール、100.0g、98.6ミリモル、平均Mw およそ1,104、カタログ番号41,617−7、Aldrich Chemical Company, Inc., Milwaukee, WI)を200mlのトルエンに攪拌しながら溶解させ、1時間還流した。このPEG−トリオール溶液をおよそ80℃まで冷却した。この時、この反応溶液に、50mg(0.403ミリモル)の4−メトキシフェノール(MEHQ、 J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)、2.7g(0.592モル)のアクリル酸(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)、および10ml(0.188モル)の硫酸(Aldrich Chemical Company, Inc., Milwaukee, WI)を攪拌しながら加えた。この反応溶液を加熱還流した。約6.0mlの水が生じ、ディーン・スターク・レシーバー(Dean & Stark receiver)によって回収されるまで(およそ1時間)反応を進行させた。この反応混合物を50℃まで冷却し、攪拌しながら、重炭酸ナトリウム溶液(脱イオン水2.5リットル中270g)中に注いだ。有機層を分離し、脱イオン水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ワイプト・フィルム蒸留装置(wiped film still)(Pope Scientific, Inc., Saukville, WI)を用い、PEG−トリアクリレートを単離した。
【0206】
PEG−トリアクリレートマクロマー生成物は、化合物Iで表される。
【化4】

【0207】
実施例2:光ヘパリン(化合物II)の製造
ヘパリンの光反応性誘導体(光ヘパリン)は、ジメチルスルホキシド/カーボネートサッファー(carbonate buffer) 、pH9.0中で、ヘパリンとベンゾイル−ベンゾイル−ε−アミノカプロイル−N−オキシスクシンイミドを反応させることにより製造した。溶媒を蒸発させ、光ヘパリンを水に対して透析し、凍結乾燥した後、水に3mg/mlで溶解させた。この生成物は、BBA−EAC−ヘパリン(ベンゾフェノン光反応性基ベンゾイル安息香酸,BBA、およびスペーサー、εアミノカプロン酸,EACを指す)と呼ばれる。
【0208】
実施例3:光コラーゲンの製造
IV型コラーゲンの光反応性誘導体(光コラーゲン)は次のようにして製造した。ヒト胎盤IV型コラーゲンをSigma Chemical Co., St. Louis, Moから入手した。ヘテロ二官能性架橋剤(BBA−EAC−NOS)を合成し、コラーゲンを光誘導体化するために用いた。
【0209】
BBA−EAC−NOSは、ベンゾフェノン光反応性基(BBA)、スペーサー(EAC)およびアミン反応性熱化学カップリング基(N−オキシスクシンイミド,NOS)を含む。BBA−EACは、塩化4−ベンゾイルベンゾイルおよび6−アミノカプロン酸から合成した。次に、BBA−EACのNOSエステルを、N−ヒドロキシスクシンイミドを用いたカルボジイミドの活性化によりBBA−EACのカルボキシ基をエステル化してBBA−EAC−NOSを得ることにより合成した。
【0210】
IV型コラーゲンを、タンパク質上の第一級アミンを、BBA−EAC−NOSのNOSエステルを介して共有結合させることによって光誘導体化した。BBA−EAC−NOSをコラーゲン1モル当たりBBA−EAC−NOS 10〜15モルの割合で加えた。
【0211】
実施例4:非重合型開始剤4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二ナトリウム塩[DBDS]の製造(化合物IV)
4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二ナトリウム塩(DBDS)は次のようにして製造した。一定量(9.0g,0.027モル)の4,5−ジヒドロキシ1,3−ベンゼン二スルホン酸二ナトリウム塩一水和物を、オーバーヘッドスターラー、ガス流入口および還流冷却器を備えた250ml容の3つ口丸底フラスコに加えた。次に、一定量(15g,0.054モル)の4−ブロモメチルベンゾフェノン(BMBP)、54mlテトラヒドロフラン(THF)、および42ml脱イオン水を加えた。このフラスコをアルゴン雰囲気下で攪拌しながら加熱還流した。このアルゴン雰囲気は全還流時間中維持した。
【0212】
還流に達した後、9.0ml(6N,0.054モル)の水酸化ナトリウム溶液を還流冷却器から加えた。この反応物を還流下で3時間攪拌した。この時間の後、2回目のBMBP 3.76g(0.014モル)と3.6ml(6N,0.022モル)の水酸化ナトリウムを加えた。2回目のBMBPを加えた後、還流下で12時間以上、反応を継続させた。
【0213】
反応混合物をロータリーエバポレーターにて真空下40℃で蒸発させて、46gの黄色ペーストを得た。このペーストを、40℃で30分間、50mlのクロロホルムに懸濁させることにより抽出した。固体からのクロロホルムのデカンテーションを補助するために遠心分離を用いた。最後の抽出の後、固体をブフナー漏斗上に回収し、30分間風乾した。次に、固体を、ロータリーエバポレーターを用い、浴温50℃、圧力約約1mmで30分間、固体を乾燥させた。
【0214】
この乾燥固体26.8gを水67mlおよびメタノール67mlから再結晶させた。乾燥させた精製生成物は10.4gとなり(理論収量は19.0gであった)、濃度0.036mg/mlについて265nmでの吸光度は1.62であった。
【0215】
実施例5:ペンタエリトリトール[「テトラ−BBE−PET」]の非重合型開始剤テトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)の製造(化合物III)
以下のものをアルゴン雰囲気中、34時間還流させた。
・ペンタエリトリトール[Aldrich](2.0g、14.71ミリモル、60℃、<1mm Hgで1時間乾燥)
・4−ブロモメチルベンゾフェノン(20.0g、72.7ミリモル、4−メチルベンゾフェノン[Aldrich]のフリーラジカル臭素化により製造)
・鉱油中80%(w/w)の水素化ナトリウム[Aldrich](NaH,1.23g、41.0ミリモル)、および
・テトラヒドロフラン(THF,120ml)
【0216】
次に、この反応混合物にさらなる量の80%NaH(2.95g、98.3ミリモル)を加え、混合物をアルゴン下でさらに7時間還流させた。8mlの氷酢酸(HOAc)を加えることにより反応物をクエンチした。THF不溶物の取り出しを補助するため、クエンチされた反応物を遠心分離した。
【0217】
液体をデカントし、不溶物を各50mlのクロロホルム(CHCl3)で3回洗浄した。デカントした液体(主にTHF)とCHCl3洗液を合わせ、蒸発させ、18.7gの粗黄色半固体残渣を得た。この粗生成物の一部(2g)を、40mm(1.58インチ)径×200mm(8インチ)長のシリカゲルカラムを用い、下表2(特に断りのない限り、表中の割合は全てv/vである)に従ってCHCl3とジエチルエーテル(Et2O)で溶出するフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。
【0218】
【表2】

【0219】
フラクション81〜105を合わせ、蒸発させることにより、淡黄色油性生成物(0.843g、理論収率59%)を得た(理論上、カラムに載せた粗生成物2.0gから収量1.43gのテトラ−BBE−PETが抽出される)。精製された淡黄色生成物は、Beckman Acculab 2赤外線分光光度計およびVarian FT−80 NMR分光光度計を用いた分析により確認した。3500cm−1にピークが存在しないことは、ヒドロキシル官能基が存在しないことを示した。核磁気共鳴分析(1H NMR(CDCl3))は目的生成物と一致した、テトラメチルシラン内部標準に対して、脂肪族メチレンδ3.6(s,8H)、ベンジルメチレンδ4.5(s,8H)、および芳香族δ7.15−7.65(m,36H)。
【0220】
この生成物は、ペンタエリトリトール(テトラ−BBE−PET)のテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)と呼ばれる。
【0221】
実施例6:非重合型開始剤ペンタエリトリトール[テトラ−BBA−PET]のテトラキス(4−ベンゾイル安息香酸エステル)の製造
ペンタエリトリトール[Aldrich](136mg、1ミリモル)、塩化4−ベンゾイルベンジオル(4-benzoylbenzyol)(1.0g、4.09ミリモル、塩化チオニルと4−ベンゾイル安息香酸[Aldrich]の反応により製造)、トリエチルアミン[Aldrich](696ml、5ミリモル)、およびクロロホルム(10ml)を室温で一晩攪拌した。この反応混合物を氷冷塩酸(0.5M、11ml)中に置き、1時間十分混合した。クロロホルム層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させ、橙色の残渣(1.13g)を得た。この残渣を、40mm(1.57インチ)径×180mm(7インチ)長のシリカゲルカラムを用い、クロロホルム/アセトニトリル96:4(v/v)で溶出するフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。72の13mlフラクションを採取した。フラクション37〜61を合わせ、蒸発させ、白色固体を得た(322mg、理論値の33%)。Varian FT−80 NMR分光光度計での分析は目的生成物と一致した:1H NMR(CDCl3)、テトラメチルシラン内部標準に対して、脂肪族メチレンδ4.7(s,8 H)および芳香族δ7.15−8.10(m,36H)。
【0222】
生成物ペンタエリトリトール(テトラ−BBA−PET)のテトラキス(4−ベンゾイル安息香酸エステル)は結合としてエステル基を含む。
【0223】
実施例7:非重合型開始剤の適用、およびその後のポリマーマトリックスのグラフトによるシリコーン支持体の表面修飾
非重合型開始剤を表面に適用した後、その表面にポリマーマトリックスをグラフトすることにより、ポリマーマトリックスをシリコーン支持体の表面に提供した。化合物IV(実施例4で製造した通り)を、噴霧法を用いて適用した後、次のようにメトキシPEG1000MMA(ポリエチレングリコールモノメタクリレート)を用いてシリコーン支持体にグラフトした。
【0224】
シリコーン支持体を回転装置(100rpm(revolutions per minute)に設定)に取り付けた。次に、この回転装置をスプレーおよび紫外線光源下に置いた。このスプレーを水平からおよそ45°の角度に向け、取り付け部の曲線端から4.5cmとした。
【0225】
水中、濃度0.5mg/mlの化合物IVの溶液を、1分間に4〜5mlの一定速度で支持体に噴霧した。化合物IVの適用中は、窒素流を系に導入することにより窒素環境を維持した。同時に、支持体を、Osram HBO 100W/cm2, mercury short arc doped bulb (Germany)を収容したOriel Series Q Arc Lamp(Oriel Instruments, Stratford, CT)で照射した。支持体を、波長域330〜340nm、強度20mW/cm2で30秒間照射した。紫外線灯は水平から45°の角度に置いた。
【0226】
化合物IVを支持体に噴霧した後、3つのコーティング済み支持体を、20mlFortunaシリンジ中に入った25%メトキシPEG1000(水中v/v)溶液8ml中に入れた。次に、このメトキシPEG1000溶液および基質を、シリンジの底から窒素ガス気泡を15分間通じて脱酸素化した。最後の5分間は、EFOS UV光(Engineered Fiber Optics System, Model No. 100 SS Plus, EFOS U.S.A. Inc., Williamsville, NY)をシリンジの上に置いた。PEG溶液になお窒素ガス気泡を通じながら、溶液にEFOSで照射を行った。溶液を、PEG溶液のレベルで320〜500nmフィルターを用い、強度4〜6mW/cm25分間照射した。
【0227】
生成物は、表面にPEGポリマー鎖が結合したシリコーン支持体であった。
【0228】
アクリレートレベルを引き下げると、液相でのポリマーマトリックス形成率に対するグラフト率が高まり得ることが示された。
【0229】
実施例8:開始剤、ポリマーマトリックス材料、および光誘導体化生体適合性剤の逐次適用によるePTFE支持体の表面修飾
ePTFE支持体をまず、次のように非重合型開始剤でプライミングする。化合物III(実施例5に記載のように製造)のコーティング溶液を、IPA中、濃度0.5%v/vとなるように調製する。支持体を化合物IIIのコーティング溶液中に浸漬し、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で3分間、液相照射を行う。未結合の化合物IIIを除去するためにIPAですすいだ後、支持体を乾燥させる。得られた支持体は、化合物IIIのプライミングコーティングを含む。
【0230】
乾燥後、プラミングおよび乾燥された支持体を、IPA中およそ10〜20%v/v濃度の化合物(実施例1に記載のように製造)の溶液に浸漬する。次に、支持体を化合物I溶液から0.2〜1.0cm/秒の速度で引き上げる。このコーティング部分を再び、3〜5分間、湿式または乾式照射する(上記に記載の通り)。
【0231】
次に、この支持体を浸漬し、その後、IPA中、化合物II(実施例2に記載のように製造)(およそ5〜20%v/v)を含有する溶液から0.2〜1.0cm/秒の速度で引き上げる。この支持体を再び、3〜5分間、湿式または乾式照射する。
【0232】
実施例9:開始剤、ポリマーマトリックス材料、および光誘導体化生体適合性剤の逐次適用による表面修飾
ePTFE支持体をまず、次のように非重合型開始剤でプライミングする。化合物III(実施例5に記載のように製造)のコーティング溶液を、IPA中、濃度0.5%v/vに調製する。このePTFE支持体を化合物IIIのコーティング溶液中に浸漬し、3分間、液相照射を行う。照射は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で3分間行う。未結合の化合物IIIを除去するためにIPAですすいだ後、支持体を乾燥させる。得られた支持体は、化合物IIIのプライミングコーティングを含む。
【0233】
乾燥後、プラミングおよび乾燥された支持体を、水中、化合物Iおよび化合物IIIを含有する溶液(濃度は、化合物Iがおよそ10〜20%v/vであり、化合物IIIがおよそ0.5〜2%v/vである)に浸漬する。支持体を0.2〜1.0cm/秒の速度で引き上げる。このコーティング部分を再び、3〜5分間、湿式または乾式照射する(上記に記載の通り)。
【0234】
次に、この支持体を浸漬し、その後、IPA中、化合物II(実施例2に記載のように製造)または光コラーゲン(実施例3に記載のように製造)を含有する溶液(生体適合性剤濃度はおよそ5〜20%v/v)から0.2〜1.0cm/秒の速度で引き上げる。この支持体を再び、3〜5分間、湿式または乾式照射する。
【0235】
実施例10:支持体へのポリマーマトリックス材料/開始剤の適用によるPEBAX支持体の表面修飾
ポリマーマトリックスと開始剤の双方を含有する溶液を調製し、次のようにPEBAX支持体に同時適用した。
【0236】
化合物Iおよび化合物IVを含有する水性コーティング溶液を、10%v/vの化合物Iおよび10mg/mlの化合物IV(化合物Iは実施例1に記載のように製造、化合物IVは実施例4に記載の用に製造)を含むように調製した。PEBAX(Modified Polymer Components, Inc., Sunnyvale, CA、 ポリエーテル系ポリアミド)支持体をこの化合物I/化合物IVの溶液に、下表3に示される速度で浸漬した。次に、この支持体を、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で、下表3に示される時間照射した。
【0237】
【表3】

【0238】
0.2cm/秒〜0.75cm/秒の範囲の浸漬コーティング速度により、支持体上に好適なコーティングが得られることが示された。浸漬コーティング速度が速いほど(0.5〜0.75cm/秒)、厚いコーティングができる(および0.2cm/秒)。さらに、複数回のコーティング(サンプル50〜52の場合のように2〜3回のコーティング適用)を受けた支持体については、得られたコーティングは、コーティング1回の支持体に比べ改良されたコーティングが得られることが判明した。
【0239】
実施例11:ポリマーマトリックス材料と開始剤の同時適用によるePTFE支持体の表面修飾
イソプロピルアルコール(IPA)中、ポリマーマトリックス材料と開始剤の双方を含有するコーティング溶液を調製し、次のようにePTFE支持体に適用した。本実施例に用いたサンプル条件は表4にまとめられている。コーティング溶液組成は、化合物Iについは容量%、化合物IIIについてはmg/mlで示されている。全てのサンプルのコーティング溶液は、IPA中の化合物I/化合物IIIであった。浸漬時間は支持体がコーティング溶液に浸漬される時間であり、UV時間硬化は、コーティングを支持体に結合させるために支持体に光が照射される時間である。
【0240】
【表4】

【0241】
これらのPTFE支持体をコーティング溶液に浸漬した後、UVチャンバー内で、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間に支持体を置くことにより、示された硬化時間の間、湿式照射した。親水性PEG系コーティングを表面に結合させるために材料の疎水性特性を克服する試みにおいてIPAコーティング溶液中で、これらのePTFE支持体を飽和させた。
【0242】
光誘導体化生体適合性剤を次にように支持体に結合させた。実施例3に記載のように製造した光コラーゲンを12mMのHCl中、0.2 mg/mlの濃度で得た。この光コラーゲン溶液中に支持体を浸漬し、4℃で1時間溶液中に置き、その後、Dymax Blue Wave Spot Cure System (Dymax Corporation, Torrington, CTから市販されている光学系)を用い、各側、60秒間、液相照射した。この系の紫外線棒を、被コーティング支持体部分に、波長域330〜340nmでおよそ0.5〜0.25mW/cm2の光が当たる距離に置いた。表面に一様に光が当たるようにするため、60秒の照射中、支持体を穏やかに振盪させた。
【0243】
その後、これらの支持体を光コラーゲン溶液から取り出した。支持体を光コラーゲン溶液から取り出した後、それらの支持体を温度4℃で、各30分間無菌PBSで2回すすいだ。次に、これらの支持体を70%エタノール中に30分間浸漬した後、無菌PBS(各1ml)中で3回すすいだ。これらの支持体を無菌PBS中、4℃で保存した。
【0244】
実施例12:ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤の同時適用によるePTFE支持体の表面修飾
開始剤、ポリマーマトリックス、および生体適合性剤を含有するコーティング溶液を調製し、次のようにePTFE支持体に適用した。
【0245】
化合物I、IIおよびIIIをそれぞれ実施例1、2および5に記載のように製造した。IPA中、10〜20/0.5〜2.0/0.5〜2.0%(v/v)の濃度で化合物I/化合物Ill/化合物IIを含有するコーティング溶液を調製する。次に、このコーティング溶液にePTFE支持体を浸漬し、その後、0.2〜1.0cm/秒の速度で取り出した。次に、この支持体を湿式または乾式いずれかで3〜5分間UV硬化させた。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行う。
【0246】
所望により、上記の浸漬コートの前に化合物IIIの第1のプライミングコートを施す。この方法では、ePTFE支持体をまず化合物IIIの溶液(IPA中0.5%v/v)に浸漬し、3分間液相照射する(上記条件参照)。照射後、支持体を溶液から取り出し、余分な開始剤溶液を除去するためにすすぐ。
【0247】
所望により、このコーティング溶液に非光反応性生体適合性剤を含んでもよい。この場合、化合物IIは、ヘパリンなどの非光誘導体化試薬(またはその他の選択された生体適合性剤)に置き換えられる。
【0248】
実施例13:ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤の同時適用によるPEBAX支持体の表面修飾
6本のPEBAXロッドを、次のように、ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤を含有する水溶液でコーティングした。それぞれ実施例1、4および2に記載のように製造した化合物I、化合物IVおよび化合物IIを含有するコーティング溶液を調製した。各化合物の濃度は表5にまとめられている。
【0249】
これらのPEBAXロッドを0.5cm/秒の速度で浸漬コーティングし、UVチャンバー内で7分間湿式硬化させた。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行う。
【0250】
【表5】

【0251】
サンプル1、3および5をトルイジンブルーで染色した。染色は、サンプル1が最も滑らかなコーティングを有することを示した。全てのサンプルが、平坦かつ外観上妥当な厚さのコーティングを示した。
【0252】
4つの付加的なサンプルを、化合物I、化合物IV、および化合物II(濃度は化合物Iが10%v/v、化合物IVが10mg/ml、および化合物IIが10mg/ml)を含有する水溶液中にPEBAX支持体を浸漬することにより調製した。これらのサンプルでは、浸漬速度およびUV硬化時間を表6にしめしたように改変した。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行った。
【0253】
【表6】

【0254】
全てのサンプルは十分硬化され、支持体に結合されていることが明らかであった。これらの結果は、硬化時間が、本発明のコーティング組成物では、浸漬速度0.75cm/秒以下で引き下げることができることを示唆する。
【0255】
実施例14:ポリマーマトリックス材料、および開始剤、および生体適合性剤の同時適用によるPEBAX支持体の表面修飾
コーティング溶液を次のように調製し、PEBAX支持体に適用した。コーティング溶液は、ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤を含んだ。これらのコーティング溶液は、下表7に記載のように化合物I、化合物IV、および化合物IIまたは天然ヘパリンのいずれかを含んだ。PEBAX支持体をコーティング溶液中に浸漬し、UV硬化を、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行った。
【0256】
【表7】

【0257】
コーティング済みサンプルの目視検査から、サンプルC〜Jの全てが滑らかな等角コーティングであることが明らかになった。このことは、本実施例のコーティング組成物が、本発明の好適なコーティングを生成するために使用可能であることを示す。
【0258】
サンプルIおよびJに関しては、浸漬コーティング速度0.5cm/秒により、浸漬コーティング速度0.75cm/秒に比べてより平坦なコーティングが得られた。
【0259】
実施例15:ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤の同時適用によるポリウレタン支持体の表面修飾
チップエッジでフラッシュした、フレアチップにおいてシリコンゲルプラグを備えた小ポリウレタンロッドのサンプルを、表8に示されるように、ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤を含んだ様々な水性コーティング組成物でコーティングした。
【0260】
【表8】

【0261】
サンプル10および11では、上記で示したコーティング組成の溶液に浸漬する前に、支持体をまず化合物IVの溶液に浸漬した。この開始剤での「プライミング」工程は、濃度5mg/mlの化合物IVの水溶液中に支持体を浸漬し、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間液相照射することにより行った。プラミングした支持体を化合物IV溶液から取り出し、余分なコーティング溶液を除去するために蒸留水ですすいだ後、表8で示されるコーティング組成物中に浸漬した。
【0262】
サンプル7および9をトルイジンブルーで染色した。染色により、両サンプルとも十分染まった薄い平坦なコーティングを有することが示された。
【0263】
サンプル10および11を目視検査したところ、サンプル8と同様の外観であることが明らかになり、すなわち、この浸漬コーティングは化合物I、化合物IV、および化合物IIからなるコーティング溶液の層の上でシートを形成しているのと同様に化合物IVのコーティングの上でシートを形成していることが明らかであった。照射中、このコーティング溶液には固体は生じなかった。サンプル7〜9では、化合物I、化合物IV、および化合物IIからなるコーティング組成物を用いた場合の液相照射は、UV照射時間が1分以内であっても試験管内でほぼ固体のゲルが形成されることを示した。しかし、例えば、サンプル10および11では、化合物IVのプライミング溶液単独は、液相照射工程の間液体のままであり、このことから化合物IVのプライミング層は好適な様式で支持体に適用可能である。
【0264】
実施例16:コーティング済みPEBAX支持体のヘパリン活性
PEBAXロッドを、様々なコーティング溶液でコーティングし、次のようにコーティング済み支持体の生体適合性剤活性を測定するためにアッセイを行った。本実施例では、次のコーティング溶液を調製した:
コーティングA:化合物I(10%v/v)
化合物IV(10mg/ml)
化合物II(10 mg/ml)
コーティングB:化合物l(10%v/v)
化合物IV(10mg/ml)
ヘパリン(10mg/ml)
コーティングC:化合物I(10%v/v)
化合物IV(10mg/ml)
【0265】
第1のPEBAXロッドセットをのコーティングAの水溶液でコーティングし、第2のセットをコーティングBの水溶液でコーティングし、第3のPEBAXロッドセットをコーティングCの水溶液でコーティングした。全てのPEBAXロッドを0.5cm/秒の速度で浸漬コーティングし、UVチャンバー内で7分間湿式硬化させた。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を照射することにより行った。
【0266】
全てのPEBAXロッドに対して、本明細書に記載のヘパリン活性アッセイを行った。結果は表9に示されている。
【0267】
【表9】

【0268】
結果は、非誘導体化生体適合性剤(この場合、ヘパリン)に比べて光誘導体化生体適合性剤(この場合、化合物II)を用いた場合に、より高い活性が見られることを示す。結果はまた、化合物I/化合物IVのコーティング溶液を用いたサンプルは、非コートPEBAX対照のバックグラウンド活性(結果は示されていない)と同等の活性をもたらすことを示した。言い換えれば、光ヘパリンまたは非誘導体化ヘパリンのいずれのヘパリンも含まないサンプルでは、ヘパリン活性は見られない。従って、これらのアッセイで見られるヘパリン活性は、PEBAX支持体に適用されるコーティング組成物に存在するヘパリンによるものであった。
【0269】
実施例17:ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤の同時適用によるPEBAX支持体の表面修飾
支持体表面を開始剤でプライミングする効果を判定するために、様々な成分のコーティング組成物をPEBAX支持体に施した。
【0270】
本実施例で用いたコーティング組成物は表10にまとめられている。
【0271】
【表10】

【0272】
プライミングを行った場合(サンプルWおよびY)、これらの支持体を示された濃度の開始剤の水溶液に浸漬し、3分間液相照射を行った。次に、未結合の開始剤を除去するために支持体を結合した。
【0273】
プライミング(行っている場合)の後、0.2〜1.0cm/秒のコーティング速度で支持体をコーティング組成物(表10)に浸漬し、湿式または乾式で3〜5分UV硬化を行った。
【0274】
本実施例における全てのUV硬化では、硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行う。
【0275】
結果は、開始剤を用いたプライミングが、必ずしも必要ではないものの、ポリマーマトリックス材料、開始剤、および生体適合性剤を含有するコーティング溶液の適用に役立つことを示した。単層および複数層のトップ・コートは双方とも本方法により首尾よく適用され、各コートはほぼ同じ硬化時間を受けた。
【0276】
実施例18:PEBAX支持体へのコラーゲン・マクロマーの適用
コラーゲン・マクロマーは次のようにして製造した。ウシ腱I型コラーゲンはReGen Corpから入手した。コラーゲン(0.5グラム)を20mlの乾燥ホルムアミドに、37℃、オービタル・シェーカー上で20時間インキュベートすることにより、溶解させた。攪拌しながら、1.0グラム(9.8ミリモル)量のTEAを加え、この反応物を氷水浴中で60分間平衡化した。攪拌しながら塩化アクリロイルを各0.25グラムのアリコート(1分当たり1アリコート)を加え、送料1.0グラム(11ミリモル)の塩化アクリロを加えた。最終の添加後、溶液を氷水浴中で2時間攪拌した。反応物を氷水浴から取り出し、室温で18時間攪拌を続けた。生成物である、重合性基を含有するラーゲン(下表11では「コラーゲン・マクロマー」として示される)を、6〜8K MWCO透析チューブを用い、脱イオン水に対して透析することにより生成し、凍結乾燥により単離した。
【0277】
PEBAXロッドを得、これに対して下表11に要約される組成物でコーティングを行った。
【0278】
【表11】

全サンプルについて、プライミングは、PEBAX支持体を、濃度5mg/mlの化合物IVの水溶液中に浸漬することにより行った。全サンプルおよび本実施例のコーティング工程について、UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行った。サンプルを、未結合の化合物IVを除去するためにすすいだ。
【0279】
次に、サンプルを水中、表11に示された濃度のコラーゲン・マクロマーの溶液中に浸漬した。コーティング速度は次のようにサンプル1〜30では75cm/秒、サンプル4では1.0cm/秒とした。コラーゲン・マクロマー・コーティング工程の後、サンプル2〜6を5分間湿式照射した。サンプル1はこのコラーゲン・マクロマー・コーティング工程の後に風乾させ、その後、3分間乾式照射した。
【0280】
次に、サンプル5および6に対して、次のように光コラーゲン(実施例3に記載のように製造)の付加的コーティングを行った。水中、濃度200μg/mlの光コラーゲンの溶液を調製した。支持体を、0.75cm/秒の速度で光コラーゲン溶液中に浸漬した。その後、これらの支持体を5分間湿式照射した。
【0281】
完了したサンプルに対して、コーティング効率を判定するためにFITC染色を行った。FITC染色については、10mgのFITC(異性体I,分子プローブF−1906)を100%エタノール2ml中に可溶化した。このFITCを使用まで−20℃で保存した(濃度=5mg/ml)。使用時、このFITCは0.1Mホウ酸塩バッファー,pH9.0で1:20希釈して250μg/mlとした。サンプルを室温、暗所で1時間、FITC染色液中に浸漬した。染色後、これらのサンプルをこの染色液から取り出し、ホウ酸塩バッファーで4回すすいだ後、水ですすぎ、その後、封緘した。サンプルを蛍光顕微鏡により観察した。
【0282】
結果は、全てのコーティングサンプルが強く染色され、サンプル間で明らかに均一かつ一貫したものであることを示した。次にコントラスト強調を行ったところ、いくつかのコーティングに、軽微な非一貫性が明らかになった。5分間湿式照射した、20mg/mlのコラーゲン・マクロマーを含むコーティング2は、より高濃度の、かつ/または付加的な光コラーゲンのトップ・コートを有する乾式照射したマクロマー・コーティングよりも強度的に弱く染色されることが明らかであった。
【0283】
実施例19:光ポリビニルピロリドン、非重合型開始剤を含むポリマーマトリックス材料の逐次適用によるシリコーン支持体の表面修飾
化合物V、すなわちアセチル化光−PVPを、1−ビニル−2−ピロリドンとN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミドの共重合によって製造する。これらのコポリマーをSchotten-Baumann条件下、塩化アシル(例えば、塩化4−ベンゾイルベンゾイルなど)で誘導体化し、このポリマーの未反応のアミンを、無水酢酸を用いてアセチル化してアセチル化光−PVPを得る。すなわち、塩化アシルがコポリマーのN−(3−アミノプロピル)部分のアミノ基のいくつかと反応し、その結果、このアリールケトンとポリマーが結合する。遊離した塩酸は、塩基水溶液で中和する。この生成物の構造は、本発明では化合物Vとして示される。
【0284】
シリコーン支持体はまず、次の方法により、化合物Vの薄層で調製する。化合物Vの溶液は、脱イオン水中、5mg/mlの濃度で調製する。この支持体をこのコーティング溶液に浸漬し、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射する。照射が完了したところで、その溶液から支持体を取り出し、未反応の化合物Vを除去するために脱イオン水ですすぐ。このプロセスにより支持体表面上に化合物Vの薄い「結合層」が残る。この処理済み材料を、次の工程を進める前に風乾させる。
【0285】
乾燥したら、次に、この支持体を、化合物Iおよび化合物IV(それぞれ脱イオン水中、10および1%v/vの濃度)の双方を含有する溶液に浸漬し、0.2〜1.0cm/秒の速度で引き上げることにより取り出す。次に、このコーティング済み支持体を5〜7分間湿っているままで照射する。
【0286】
実施例20:重合性基[コラーゲン・マクロマー]を含む生体適合性剤(化合物VI)の製造
I型およびIII型コラーゲンの混合物をSemed-S, Kensey-Nash Corpから入手した。コラーゲン(1.0グラム)を50mlの0.01N HClに溶解させた。溶解したところで、この反応混合物に1.25グラムのトリエチルアミン(12.4モル)を加えた。1mlの塩化メチレンに溶解させた1グラムの塩化アクリロイル(11.0ミリモル)を反応容器に加え、この混合物を室温で20時間攪拌した。
【0287】
この反応混合物をdiH2Oに対して徹底的に透析し、生成物(化合物VI)を凍結乾燥により単離した。
【0288】
実施例21:開始剤、ポリマーマトリックス材料、および光プライミング体化生体適合性剤の逐次適用によるPEBAX支持体の表面修飾
本実施形態では、光反応性基と全体として正電荷を含む重合開始剤を用いた。重合開始剤エチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロミド(化合物VII)は次のようにして製造した。
【0289】
N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン6g(51.7mmol)を、攪拌しながら225mlのクロロホルムに溶解させた。4−ブロモメチルベンゾフェノン29.15g(106.0mmol)を固体として加え、この反応混合物を室温で72時間攪拌した。その後、得られた固体を濾過により単離し、白色固体を冷クロロホルムですすいだ。残留する溶媒を真空下で除去し、34.4gの固体を単離した(収率99.7%、融点281〜220℃)。NMR分光光度計での分析は目的生成物と一致した。1H NMR (DMSO−d6)芳香族プロトン7.20−7.80(m.18H),ベンジルメチレン4.80(br.s.4H),アミンメチレン4.15(br.s.4H),およびメチル3.15(br.s.12H)。米国特許第5,714,360号(Swanら)の実施例2参照。
【0290】
本実施例21のサンプルでは、浸漬およびUV硬化工程に次の条件を適用する。サンプルをコーティング溶液に浸漬した後、所望の長さの装置支持体をコーティングするため0.25cm/秒の速度で引き上げた。特に断りのない限り、支持体の全長にコーティングを施した。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行った。
【0291】
PEBAX支持体をまず、次のように、非重合型開始剤およびポリマーマトリックス材料でプライミングした。20本のPEBAXロッドを得た。化合物V(10%v/v、実施例19に記載のように製造)、PVP K90/K30(20/40%v/v)、および化合物IV(1.5mg/ml、実施例4に記載のように製造)を含有するコーティング溶液を、15%IPA/85%水中で調製した。このコーティング溶液中にPEBAX支持体を浸漬した後、0.25cm/秒の速度で引き上げ、およそ10分以上(十分乾燥するまで)風乾した。次に、これらのサンプルを上記のUV硬化条件下で硬化させた。これらのコーティング済み支持体は、表面に親水性のコーティング層を含んだ。その後、この20のコーティング済みサンプルを3群に分け、次ぎようにように処理した。
【0292】
第I群:10のサンプルを、化合物VI(実施例20に記載の用に製造)および化合物VII(水中10/0.8mg/ml)を含有するコーティング溶液中に浸漬した。PEBAX支持体の下半分をコーティング溶液に浸漬した。コーティングはUVチャンバーで3分間硬化させた。これら10のサンプルのうち5つに対して摩擦試験を行い、5つは免疫蛍光アッセイにより評価した。各サンプルの親水性単独コーティング領域を、バックグラウンド蛍光を決定するための対照として用い、蛍光透視鏡上での暴露時間を調節し、コラーゲントップ・コートにより特異的に生じた蛍光を特定した。
【0293】
第II群:5つのサンプルを、化合物VI(実施例20に記載のように製造)および化合物VII(水中10/0.8mg/ml)を含有するコーティング溶液中に浸漬した。この第II群では、PEBAXサンプルの全長をコーティング溶液に浸漬した。これらのコーティングを湿式硬化させた。この第II群の5つのサンプル全てに対して摩擦試験を行った後、免疫蛍光アッセイにより評価した。
【0294】
第III群:5つのサンプルを、親水性ベース・コートの完全性を確認するため、トップ・コート無しで評価した。
【0295】
摩擦試験では、サンプルに、ピンチ力およそ300g、1サンプルにつき計15サイクルで摩擦試験を行った後、コンゴレッドで染色した。摩擦試験は、サンプル上のコーティングの潤滑性と粘着性、ならびに親水性コーティング単独(PVP/開始剤ベース・コート単独)でコーティングしたサンプルと生体適合性剤トップ・コート(非重合型開始剤を含むコラーゲン・マクロマー)でコーティングしたサンプルの間の違い(あれば)を評価するために行った。
【0296】
コーティング済み支持体は、水性スレッド型摩擦試験法(下記のような改変型ASTM D−1894)によって評価した。シリコーンパッド(7mm径)を水和させた後、200グラムのステンレス鋼スレッドを包んだ。このシリコーンパッドをスレッドの反対側に一緒にしっかり留めた。次に、回転アームを備えたこのスレッドをコンピューターインターフェースで300グラムのChatillon Digital Force Gauge(DGGH,300×0.1)につないだ。この試験表面をマイクロステッパー・モーター・コントロール(Compumotor SX6 Indexer/Drive)を備えた22.5インチのポジショナル・レール・テーブルに取り付けた。
【0297】
コーティング済み支持体を脱イオン水で水和させ、1インチ(すなわち、およそ2.5cm)離して試験表面に留めた。この水和シリコーンパッド(あご力は300gに設定)を、5cmの区間で15プッシュ/プルサイクル、0.5cm/秒で動かし、サイクルに関して力の測定を行った。
【0298】
摩擦試験の結果は、図1〜3の表およびグラフにまとめられている。これらのグラフでは、データは1回の試験についての平均の力としてプロットされている。負の摩擦力は、サンプルの上向きの動きと逆の下向きの力を示した。親水性ベース・コートサンプル(TF)および親水性+コラーゲン(CM)サンプルも、試験の際に同等の摩擦力を生じたことから、力のデータは、コラーゲントップ・コート適用の結果としての摩擦力の有意な上昇を明らかに示すものではなかった。さらに、親水性ベース・コート単独(TF)および親水性+コラーゲン(CM)は、力のグラム数が15サイクルの間比較的一定を維持していたことから、優れた耐久性を有するコーティングをもたらし、耐久性コーティングを示す。非コーティングサンプルとコーティングサンプル(親水性ベース・コート単独、TF、および親水性+コラーゲン、CMの双方)の間で潤滑性における有意な差は見られなかった。
【0299】
免疫蛍光アッセイでは、これらのサンプルを蛍光顕微鏡で再検証した。
【0300】
サンプルを、オービタル・シェーカー上、室温で20分間、TBST中1.5%のBSAでブロッキングした。次に、これらのサンプルをダルベッコの陽イオンフリーリン酸緩衝生理食塩水(DCF−PBS)中ですすいだ。サンプルを、室温、オービタル・シェーカー上で1時間、DCF−PBSで1:200希釈したコラーゲンI抗体(Rockland, 600-401-103-0.1)とともにインキュベートした。その後、これらのサンプルをDCF−PBS中で3回洗浄した。次に、洗浄したサンプルを、振盪しながら室温で1時間、DCF−PBSで1:300希釈した抗ウサギテキサスレッド抗体(Rockland, 611-1902)とともにインキュベートした。インキュベーション後、サンプルをDCF−PBSで3回洗浄した。その後、サンプルを蛍光顕微鏡で画像化した。コラーゲン・マクロマートップ・コートからの寄与を特定するため、親水性ベース・コートからのバックグラウンド蛍光を最小化するよう蛍光透過鏡条件を調節した。
【0301】
全体として、摩擦試験を行ったサンプルの蛍光染色の結果は、有意なコーティングの剥離は明らかにならなかった。結果は、コラーゲントップ・コートが、コーティング溶液中に浸漬された全表面に到達していたことを示した。第III群では、結果は、親水性ベース・コートが支持体の表面に持続的に保持されていたことを示した。
【0302】
PEBAX支持体の半分がコラーゲン・マクロマーでコーティングされた第I群のサンプルでは、免疫蛍光染色は、親水性単独領域と、親水性+コラーゲン・マクロマー・コーティングの間の明瞭な境界を形成することができた。明瞭な境界は、全てのサンプルで、より明るい蛍光シグナルを生じるコラーゲンコーティング領域とともに存在した。
【0303】
PEBAX支持体の全長がコラーゲン・マクロマーでコーティングされた第II群のサンプルでは、免疫蛍光染色は、摩擦試験が有意な量のコラーゲンコーティングを剥離させなかったことを示した。摩擦試験の結果として摩耗パターンは見られなかった。
【0304】
実施例22:ePTFEおよびポリウレタン材料部分を含む多機能装置
ePTFEで作製された部分とポリウレタン(シリコーン・チップ含有)から作製された部分を備えた組立医療製品に、次のように本発明のいくつかの実施形態に従うコーティングを施した。表面被覆の定性分析ならびに生体適合性剤活性の定量分析による種々のコーティング種の効果をサンプル間で比較した。
【0305】
本実施例のサンプルは下表12にまとめられている。溶媒は水性(水)、イソプロピルアルコール(IPA)または塩酸(HCl)である。
【0306】
【表12】

【0307】
支持体を、表12に「ベース・コート」として示されているコーティング溶液中に浸漬し、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で、示された照射時間の間、液相照射した。いくつかのサンプルを液相照射前にコーティング溶液中に浸漬した。サンプルの照射条件は表13にまとめられている。
【0308】
【表13】

【0309】
得られた支持体は、コーティング組成物のベース・コートを含んだ。次に、これらの支持体を、表12で「トップ・コート」として示されているコーティング溶液中に浸漬した。サンプル1〜6では、支持体をコーティング溶液中に浸漬し、その後、0.20cm/秒の速度で引き上げた後、3分間照射(湿式)を行った。サンプル9〜12では、支持体をコーティング溶液中に浸漬し、その後、0.25cm/秒の速度で引き上げた後、3分間湿式照射した。この段階で全てのサンプルについて、支持体を、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で示された照射時間の間、照射した。
【0310】
コーティング済みサンプルを次のように評価した。ポリウレタン部分を染色し、顕微鏡下で観察し、ヘパリン活性に関してアッセイし、ePTFE部分に対しては蛍光イメージング(FITC)アッセイを行った。コーティングの厚さとコンシステンシーを判定するため、サンプル1〜3をトルイジンブルーで染色した。全てのサンプルがよく染まり、均一な色とテクスチャーを備えていた。染色後、サンプルを目視検査のために光学顕微鏡(60×)下に置き、シリコーンゲル表面のコーティングの範囲を決定した。この検査により、装置チップの凹部は平坦にコーティングされていることが明らかになり、シリコーンゲル表面自体と接触している薄いコーティング層を有していた。
【0311】
サンプル4〜6は、本明細書に記載のヘパリン活性アッセイに従うUV/VISによるヘパリン活性をアッセイし、表14に結果をまとめる。
【0312】
【表14】

【0313】
ヘパリン活性アッセイの結果は、ヘパリン活性レベルが支持体によって異なることを示し、この分析において、いくつかの支持体は相対的に多少のバックグラウンドノイズ生じた。しかし、これらの実験では、15〜20以上の活性レベルは許容されるとみなされた。
【0314】
結果は、サンプルのポリウレタン部分はよく染まり、かつ、許容されるヘパリン活性を示すことを示した。コーティングが施された装置チップ(先端からおよそ5mmまで)上の染色されたコーティングを、顕微鏡下で観察し、十分に厚く、平坦であるのが明らかであった。コーティングはおよそ20μ以下の厚さであった。ヘパリン活性の見地から、トップ・コートにおいて(比較的)より高い濃度のヘパリンを用いても、最終のコーティングにおいて有意に高いヘパリン活性を生じるとは思われなかった。
【0315】
サンプル7〜12に対してFITCイメージングを行った。サンプル7(非コーティング)、および9〜10(光−PVPのベース・コートとコラーゲンのトップ・コート)では、蛍光は見られなかった。サンプル9および10にシグナルが存在しないことは、ePTFE支持体の疎水性特性の結果であり、従って、サンプル11〜12に関して行ったような、種々の溶媒(非水性)で働く可能性があると考えられている。サンプル8および11〜12に蛍光が見られ、サンプル11〜12は強力かつ一様な蛍光シグナルを生じた。
【0316】
実施例23:ポリカーボネート支持体の表面修飾
次のように、支持体への血小板の付着を軽減するため、ポリカーボネート支持体を生体適合性剤でコーティングした。
【0317】
ポリカーボネート支持体をIPAで洗浄し、風乾した。次に、洗浄した支持体を、化合物V(実施例19に記載のように製造)および化合物III(実施例5に記載のように製造)(IPA中、10/0.5mg/ml)を含有するコーティング溶液中に浸漬した後、次のように引き上げた。
・第I群:0.2cm/秒
・第II群:0.15cm/秒
・第III群:0.25cm/秒
次に、これらのコーティング済みサンプルを垂直につり下げ、3分間照射した。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行った。照射中はサンプルを回転させた。その後、これらの支持体を冷却した。
【0318】
次に、これらのコーティング済みサンプルを、2つの非コーティング対照とともにIPA抽出槽に入れた。その後、両サンプル(各およそ60ml)に対して、コーティング表面からの容脱物質の抽出物を定量するため、分析試験を行った。2つの抽出法を用いた。各群の1つのサンプルと1つの非コーティング対照は室温、IPA浴中で30分間音波処理し、非コーティング対照とともに第I群の1つのサンプルをIPA浴(100%IPA)中に入れ、37℃で24時間浸漬した。浸漬後、サンプルをIPAから取り出した。AUV/Vis分光光度計を用い、コーティング組成物とともにサンプルを予め含んだIPA溶液中の濃度を決定した(検出波長265nm)。分析結果は、サンプルの浸漬により有意に高いレベルのコーティングが容脱されることを示した。
【0319】
実施例24:PEBAXチューブの内面の表面修飾
清浄なPEBAXチューブの内面に、次のように光反応性マクロマー、化合物IVおよび化合物IIIを含有するコーティングを施した。
【0320】
使用した光反応性マクロマーは、非アセチル化光−PVP(米国特許第5,637,460号に記載のように製造、実施例4参照)であった。一般に、この光−PVPは、1−ビニル−2−ピロリドンとN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド(APMA)を共重合させた後、そのポリマーをSchotten−Baumann条件下で塩化アシル(例えば、塩化4−ベンゾイルベンゾイルなど)を用いて 光誘導体化することにより製造した。この塩化アシルは、コポリマーのN−(3−アミノプロピル)部分のアミノ基のいくつかと反応した結果、このポリマーにアリールケトンが結合する。遊離した塩酸は水性塩基溶液で中和される。本明細書では、このポリマーを化合物VIと呼ぶ。
化合物IV(15%v/v、実施例4に記載のように製造)、PVP K90TM/K30TM(20/40%v/v)、化合物IV(2.5mg/ml、実施例4に記載のように製造)、および化合物III(0.075mg/ml、実施例5に記載のように製造)を含有するコーティング溶液を60%IPA/40%水中に調製した。PEBAXチューブを、内径(以下、「ID」とする)をIPAでフラッシュした後に、窒素流で乾燥させることにより洗浄した。
【0321】
このコーティング溶液を、シリンジを用いてチューブのID内へ吸い入れた。この溶液をおよそ60秒間ID内に留まらせた後、シリンジを取り外し、溶液を重力によって排水した。このチューブを窒素供給装置に取り付け、IDを送風乾燥させた。
【0322】
このコーティング済みの管を硬化のためにUVチャンバーにつり下げた。UV硬化は、400ワットのハロゲン灯/水銀蒸気灯を内蔵するELC−4000灯2本を91cm(36インチ)離して向かい合わせに置いた間で支持体を3分間照射することにより行った。
【0323】
UV硬化させたIDコーティングを、0.35%コンゴレッド染色溶液(水溶液)をチューブ内に60〜120秒間注入した後、染色溶液を除去し、IDを水ですすぐことにより均一性を評価した。コンゴレッドは、チューブ材料そのものではなく、コーティングを選択的に染色するので、コーティングの被覆性の質的評価が可能である。この染色によりむらや裂け目もなく、均一であることが認められた。20ml容の水をこのチューブに数回通しても染色(コーティング)の損失はなく、これはコーティングの少なくとも中程度の耐久性を示す。
【0324】
次に、LDPE/酢酸ポリビニルロッド(コーティング済みチューブのIDよりも若干小さな外径しかない)の長軸をこのコーティングおよび水和したIDに通し、何回か押したり引いたりした。これにより、LDPEロッドはチューブの非コーティング部分を突き刺すようになり、中程度の力を要するだけで、チューブのコーティング部分を何度も通過させることができたので、コーティングの耐久性(染色損失のないこと)と潤滑性の双方が確認された。
【0325】
また、種々のプラスチック種の若干小さな外径のチューブを、蛇行性経路を模倣するために内部に3〜4の屈曲(30〜40°の屈曲)を有するコーティングおよび非コーティングPEBAXチューブに通した。より小さいチューブはPEBAXチューブに手で押し引きした。非コーティングIDサンプルに比べ、コーティングIDサンプルは、試験チューブのID内での動きをより容易にすることが認められ、サンプルのIDに対するコーティングの潤滑効果を示した。
【0326】
本発明の他の実施形態は、当業者ならば、本明細書を考察すれば、また、本明細書で開示される本発明の実施から明らかとなろう。当業者ならば、特許請求の範囲で示される本発明の真の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に記載の原理および実施形態に対する様々な省略、改変および変更を行うことができるであろう。本明細書に挙げられている特許、特許文献および刊行物は、それらが個々に組み込まれている場合と同様に、引用することにより本明細書の一部とされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)本体部材と、
(b)第1の表面部分における第1の生体適合性コーティング、ここで該第1の生体適合性コーティングは重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、及び
(c)第2の表面部分における第2の生体適合性コーティング、ここで該第2の生体適合性コーティングは重合開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、
を含み、
該第1の生体適合性剤と第2の生体適合性剤が個々の表面部分に固定され、該表面部分が患者の体液と接触した際に異なる生体適合性機能を与えるように選択される、医療物品。
【請求項2】
前記医療物品が移植可能医療装置である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記移植可能医療装置が移植可能センサーカテーテル、経心筋センサーもしくはセンサーカテーテル、骨軟骨固定材、塞栓コイル、人工弁、ステント付きグラフト、ステント付き弁、弁付きグラフト、経皮アクセス装置もしくはシャント、またはトンネルアクセスカテーテルもしくはシャントである、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記医療物品が、血球分離装置、濃縮装置もしくは計数装置、血液透析もしくは他の血液濾過装置、血液酸素投与もしくは他の血液処理装置、または血液診断システムから選択される、外用医療物品である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記第1の生体適合性コーティング、第2の生体適合性コーティング、または第1の生体適合性コーティングと第2の生体適合性コーティングの双方が、ポリマー主鎖と重合性基を含むマクロマーをさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記ポリマー主鎖がポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールから選択される、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記ポリマー主鎖が、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、ジメチルシロキサン、またはこれらの組合せを含むモノマーから形成される合成ポリマーから選択される、請求項5に記載の物品。
【請求項8】
前記重合性基が各表面部分に対して独立に選択され、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基、および(メタまたはエタ)アクリレート基から選択される、請求項5に記載の物品。
【請求項9】
前記医療物品の第1の表面部分および第2の表面部分が異なる材料から形成される、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記第1の生体適合性剤がトロンビン阻害剤であり、前記第2の生体適合性剤が接着プロモーターである、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記トロンビン阻害剤が、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ナトリウムヘパリン、低分子量ヘパリン、高親和性ヘパリン、低親和性ヘパリン、ヒルディン、リシン、プロスタグランジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、D−フェニルアラニル−L−プロピル−L−アルギニンクロロメチルケトン−トロンビン、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体抗体、補タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体抗体、組換えヒルディン、トロンビン阻害剤、コンドロイチン硫酸、修飾デキストラン、アルブミン、ストレプトキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、ウロキナーゼ、ならびに一酸化窒素阻害剤から選択される、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
接着プロモーターが、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、ビトロネクチン、テネイシン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、フォン・ウィルブランド因子、骨シアロタンパク質、ヒアルロン酸、キトサン、メチルセルロースから選択される、請求項10に記載の物品。
【請求項13】
前記第1の生体適合性コーティング、第2の生体適合性コーティング、または第1の生体適合性コーティングと第2の生体適合性コーティングの双方の重合開始剤が、ポリマー主鎖の側基である、請求項1に記載の物品。
【請求項14】
前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、多糖類、およびポリアクリルアミドの側基である開始剤から選択される、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、4−ベンゾイル安息香酸、[9−オキソ−2−チオキサントラニル)−オキシ]酢酸、2−ヒドロキシチオキサントン、ビニルオキシメチルベンゾインメチルエーテル、エチルエオジン、アセトフェノン誘導体、チオキサントン、ベンゾフェノン、およびカンファーキノンから選択される、請求項13に記載の物品。
【請求項16】
前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、4,4’アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、および過酸化ベンゾイルから選択される、請求項13に記載の物品。
【請求項17】
前記第1の生体適合性コーティング、第2の生体適合性コーティング、または第1の生体適合性コーティングと第2の生体適合性コーティングの双方の重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、ペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)およびペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイル安息香酸エステル)から選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項18】
前記第1の生体適合性コーティング、第2の生体適合性コーティング、または第1の生体適合性コーティングと第2の生体適合性コーティングの双方の重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二カリウム塩、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二ナトリウム塩、2,5−ビス−(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−二スルホン酸二カリウム塩、2,5−ビス−(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−二スルホン酸二ナトリウム塩、2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1−二スルホン酸一カリウム塩、2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1−二スルホン酸一ナトリウム塩、またはこれらの組合せから選択される、請求項1に記載の物品。
【請求項19】
前記第1の生体適合性剤が1以上の光反応性基を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項20】
前記第1の生体適合性コーティング、第2の生体適合性コーティング、または第1の生体適合性コーティングと第2の生体適合性コーティングの双方の生体適合性剤が、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基、および(メタまたはエタ)アクリレート基から選択される1以上の重合性基を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項21】
前記第2の生体適合性剤が1以上の光反応性基を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項22】
医療物品に2以上の機能的表面部分を提供する方法であって、
(a)医療物品の第1の表面部分に第1の組成物を配置する工程、ここで該第1の組成物は重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、
(b)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第1の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程、
(c)医療物品の第2の表面部分に第2の組成物を配置する工程、ここで該第2の組成物は重合開始剤および第2の生体適合性剤を含む、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、および
(d)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第2の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程を含み、
該第1の生体適合性剤と第2の生体適合性剤は個々の表面部分に固定され、該表面部分が患者の体液と接触した際に異なる生体適合性機能を与えるように選択される、方法。
【請求項23】
前記医療物品が移植可能医療装置である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の組成物、第2の組成物、または第1の組成物と第2の組成物の双方が、ポリマー主鎖と重合性基を含むマクロマーをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の生体適合性剤がトロンビン阻害剤であり、前記第2の生体適合性剤が接着プロモーターである、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記配置工程(a)、配置工程(c)、または工程(a)と(c)の双方において、前記重合開始剤がポリマー主鎖の側基である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、多糖類、およびポリアクリルアミドの側基である開始剤から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、4−ベンゾイル安息香酸、[9−オキソ−2−チオキサントラニル)−オキシ]酢酸、2−ヒドロキシチオキサントン、ビニルオキシメチルベンゾインメチルエーテル、エチルエオジン、アセトフェノン誘導体、チオキサントン、ベンゾフェノン、およびカンファーキノンから選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、4,4‘アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、および過酸化ベンゾイルから選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記配置工程(a)、配置工程(c)、または工程(a)と(c)の双方において、前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、ペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)およびペンタエリトリトールのテトラキス(4−ベンゾイル安息香酸エステル)から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
前記配置工程(a)、配置工程(c)、または工程(a)と(c)の双方において、前記重合開始剤が各表面部分に対して独立に選択され、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二カリウム塩、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−二スルホン酸二ナトリウム塩、2,5−ビス−(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−二スルホン酸二カリウム塩、2,5−ビス−(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−二スルホン酸二ナトリウム塩、2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1−二スルホン酸一カリウム塩、2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1−二スルホン酸一ナトリウム塩、またはこれらのいずれかの組合せから選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
前記配置工程(a)が、1以上の光反応性基を含む第1の生体適合性剤を含む第1の組成物を配置することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記配置工程(a)が、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基、および(メタまたはエタ)アクリレート基から選択される1以上の重合性基を含む生体適合性剤を含む第1の組成物を配置することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
前記配置工程(c)が、1以上の光反応性基を含む第2の生体適合性剤を含む第2の組成物を配置することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項35】
前記配置工程(c)が、ビニル基、(メタ)アクリルアミド基、および(メタまたはエタ)アクリレート基から選択される1以上の重合性基を含む第2の生体適合性剤を含む第2の組成物を配置することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項36】
前記方法の各配置工程がそれぞれ浸漬コーティングおよび噴霧コーティングにより達成される、請求項22に記載の方法。
【請求項37】
医療物品に2以上の機能的表面部分を提供する方法であって、
(a)医療物品の第1の表面部分にプライミングした第1の組成物を提供する工程、ここで該プライミングした第1の表面部分は重合開始剤を含む、
(b)該物品のプライミングした第1の表面部分に第1の組成物を配置する工程、ここで該第1の組成物は、1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む第1の生体適合性剤を含む、
(c)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第1の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程、
(d)該医療物品にプライミングした第2の表面部分を提供する工程、ここで該プライミングした第2の表面部分は重合開始剤を含む、
(e)医療物品のプライミングした第2の表面部分に第2の組成物を配置する工程、ここで該第2の組成物は、1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む重合開始剤を含む、および
(f)重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、第2の表面部分に生体適合性コーティング層を形成する工程を含み、
該第1の生体適合性剤は該第2の生体適合性剤とは異なる、方法。
【請求項38】
(a)第1の装置材料から作製される第1の部分と、
(b)第2の装置材料から作製される第2の部分と、
を含み、該第2の装置材料は第1の装置材料よりも疎水性が高く、第1の生体適合性剤が第1の生体適合性コーティングを介して第1の部分の表面に固定され、該第1の生体適合性コーティングが重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤が1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含み、該第2の生体適合性剤が第2の生体適合性コーティングを介して第2の部分の表面に固定され、該第2の生体適合性コーティングが非イオン性開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤が1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含み、該第1の生体適合性剤が該第2の生体適合性剤とは異なる、医療物品。
【請求項39】
(a)第1の装置材料から作製される第1の部分と第2の装置材料から作製される第2の部分を含む医療物品を準備する工程、ここで該第2の装置材料は該第1の装置材料よりも疎水性が高い、
(b)該第1の部分の表面に第1の生体適合性コーティングを配置する工程、ここで該第1の生体適合性コーティングは重合開始剤および第1の生体適合性剤を含み、該第1の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、
(c)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、該第1の部分の表面に生体適合性コーティング層を形成する工程、
(d)該第2の部分の表面に第2の生体適合性コーティングを配置する工程、ここで該第2の生体適合性コーティングは非イオン性開始剤および第2の生体適合性剤を含み、該第2の生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、および
(e)該重合開始剤、反応性基、またはそれらの組合せを活性化させて、該第2の部分の表面に生体適合性コーティング層を形成する工程、ここで該第1の生体適合性剤は、該第2の生体適合性剤とは異なる、
を含む、医療物品の製造方法。
【請求項40】
(a)本体部材と、
(b)本体部材の長手方向に沿った第1のコーティング層、ここで該第1のコーティング層は親水性ポリマーを含む、及び
(c)該第1のコーティング層の一部と接触した生体適合性コーティング、ここで該生体適合性コーティングは生体適合性剤を含み、該生体適合性剤は1以上の反応性基、1以上の重合性基、または1以上の反応性基と1以上の重合性基の組合せを含む、
を含み、
該生体適合性コーティングが該第1のコーティング層の異なる部分と接触し、該異なる部分が100%未満の第1のコーティング層を含み、該親水性ポリマーがポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリアクリルアミド、ポリ(ビニル アルコール)、およびこれらのいずれかのコポリマーまたは組合せから選択される、医療物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−78672(P2013−78672A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19582(P2013−19582)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2007−544640(P2007−544640)の分割
【原出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】