説明

多機能性光触媒コーティング剤及び蒸着加工方法

【課題】親水性並びに汚染防止、抗菌、消臭作用等の多機能性を増加させた光触媒機能材料を主体とする光触媒コーティング剤及び蒸着加工方法を提供する。
【解決手段】光触媒機能材料に、助触媒として酸化トリウムゲル体又は希有元素類を含む鉱物、或いは酸化トリウムゲル体及び希有元素類を含む鉱物を含有させてなる光触媒作用を増幅させた光触媒コーティング剤を、ガラス、金属、樹脂、セラミック等の基材に蒸着加工した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多機能性光触媒コーティング剤及び蒸着加工方法に関し、光触媒機能材料に、助触媒として酸化トリウムゲル体及び/又は希有元素類を含む鉱物を含有させた光触媒コーティング剤、及び基材に蒸着加工してなる蒸着加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気環境や水環境に対する関心が非常に高まり、特に人間の生活空間における悪臭や悪細菌類の除去が必要不可欠の時代になってきた。悪臭の除去或いは水質の浄化方法として、一般に吸着性を利用した良く知られている物として、活性炭、ゼオライト、セピオライト、麦飯石等の孔質のセラミックがあり、その中でも、吸着力の大きい活性炭が、悪臭除去や水質浄化の主流になり、また特殊なものとして、多孔質炭素繊維の織布或いは不織布があり、空気清浄材や水質浄化材として殆どのものが利用されている。また、マイナスイオン効果を図った悪臭の除去や抗菌効果を図った製品が多く市場に見られるようになってきた。そのなかでも、放射性物質から放出する微弱放射線が空気をイオン化する作用を利用して抗菌及び消臭効果を図った製品が多く見られるようになってきた。
【0003】
一方、悪臭の除去又は抗菌効果或いは親水効果の方法として、注目されるようになってきた光触媒機能二酸化チタンがある。光触媒といわれる数〜数百nmの酸化チタンが、太陽光の紫外線が当たると、光電効果で電子が励起、電子と正孔が発生し、電子は、空気中の酸素を還元しスーパーオキサイドイオンに、正孔は、表面の水分を酸化して水酸化ラジカルに変える。このスーパーオキサイドイオンと水酸化ラジカルは、強い酸化力を示し、この状態でチタニア表面に有機物が付着すると、スーパーオキサイドイオンが有機物の炭素を、水酸化ラジカルが水素を奪って分解する。こうした自浄作用が、抗菌作用及び消臭作用となるメカニズムとなっている。一方、親水機能については、紫外線でブリッジサイトにある酸素が表面から脱落し、格子欠陥が生成し、同時にチタンイオンが還元されて4価から3価に変わる。ここに空気中の水分水分子が解離吸着し親水性が発揮されるメカニズムとなっている。
【0004】
しかしながら、上記の光触媒機能二酸化チタンは、太陽光の紫外線が当たらなければ光電効果が生じず、チタン表面の作用効果である為、樹脂等に含有させて表面処理をすると光触媒作用がなくなり樹脂等が分解してしまい、また、太陽光が当たらないところでの光触媒作用は全く得られない欠点があった。さらに、親水作用についての用途として自動車のバックミラーや塗料があるが、例えばガラスに光触媒機能二酸化チタンを、一般的な方法でコーティング或いは付着させたとき、白濁しガラスの透明度が失われるので、窓ガラス等に必須条件の透明性がないため、実用化できないのが現状である。
【特許文献1】特許第3035279号 静電気に帯電しにくい高分子化合物、並びに希有元素類を含む鉱物、及び少なくともトルマリン若しくは遠赤外線セラミックのいずれか一方を含むマイナスイオンを放出すると同時に、遠赤外線を放出する樹脂組成物。
【特許文献2】特許第3075195号 防曇性洗面用鏡、それを備えた洗面化粧台、洗面鏡用防曇性フィルム及び洗面用鏡の防曇方法が開示されている。洗面用鏡基材表面に、実質的に透明な光触媒性酸化チタン粒子を含有する表面層を備えることにより、光触媒の光励起に応じて表面層の表面は親水性を呈する。従って、湯気が鏡表面へ付着したり、シャワーによる水滴が付着しても付着した湿分の凝縮水/又は水滴が表面層の表面に一様に広がるようになるので、湿分凝縮水/又は水滴によって曇るのが防止されるようになり、反対像の可視性が確保されるようになるものである。しかしながら、浴室や洗面場の光源の殆どは白色蛍光灯であり、蛍光灯は可視光線が大部分であり、僅かに紫外線が含まれており光触媒作用を呈する紫外線がないので、光触媒作用が殆ど働かない為、鏡の防曇性は発揮できないものである。
【非特許文献1】蒸着加工及び溶射加工は、一般に金属或いはガラス等に、単一のセラミックを直接コーティングする方法で、金属等の表面を改質して、高耐磨耗性、高耐熱性、高強度、防錆性等を得られるセラミックコーティング方法である。その蒸着加工方法および溶射加工として、PVD物理的蒸着法、CVD蒸着法、レーザー蒸着法、溶射法が良く知られている。これらのうちより接着強度が得られるプラズマを利用したプラズマ蒸着及びプラズマ溶射がよく多用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明で解決しようとする問題点は、高濃度の悪臭成分の除去できる消臭材及び殺菌作用の高い殺菌材及び防汚染作用のある防汚染材及び親水性のある透明親水材が必要になってきた点であり、また、光触媒作用の欠点である太陽光が当たらないところでも光触媒機能作用が起こるようなものが必要になってきた点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点にかんがみ検討を重ねた結果、本発明者等は放射性物質から活性化された励起電子であることに着目して、光触媒機能の励起電子の触媒作用の増加すべき理論に基づいて、光触媒機能材料に、助触媒として、酸化トリウムゲル体を含有させたもの、又は希有元素類を含む鉱物を含有させたもの、或いは酸化トリウムゲル体及び希有元素類を含む鉱物を含有させたものを基材に蒸着加工することにより、光触媒作用を増幅するものとなり、その作用効果として、抗菌効果、消臭効果、防汚染効果を、さらに増加するものとなり、また、コーティング層が透明な親水性を有するものとなり、さらに太陽光が当たらないところでも、抗菌作用、消臭作用、防汚染作用が発揮されるものとなるとの知見を得るに至り、本発明に到達した。
【0007】
本発明において、酸化トリウムゲル体として、ゾルーゲル法で反応生成して製造された市販品を使用できる。例えば製造方法として、ゾルーゲル法の出発原料物質として、トリウムアルコキシド、トリウムアセチルアセテート、トリウムカルボキシレート、硝酸トリウム、オキシ塩化トリウム、塩化トリウム等のいずれかを使用できる。また溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコールや、エチレングリコール、エチレンオキシド、トリエタノールアミン、キシレン、フォルムアミド、ジメチルフォルムアミド、ジオキサン、シュウ酸等の単一溶媒や2種以上の溶媒を使用することができる。上記の原料の混合液を攪拌、反応して、酸化トリウムゲル体が得られる。得られたゲル体は、液体状もあり、その乾燥体である酸化ナトリウムゲル粉体もあり、それぞれ使用できる。配合部数として、光触媒機能材料100重量部数に対し、酸化トリウムゲル30重量部数を配合することができる。最も好ましくは、10重量部数以下が触媒作用を高めるうえで有益である。
【0008】
本発明において、希有元素類を含む鉱物としては、フェルグソン石、モナズ石、ゼノタイム石、コルンブ石、ベタホ石、サマルスキー石、タンタル石、ウラン石、方トリウム石、ゴム石、ガドリン石等がある。これらの鉱物のうち、極微弱な放射線を放出し、人体に悪影響を及ぼさないとされる鉱物として、最も好ましい鉱物はモナズ石である。上記天然鉱物の粒径として、1mm以下に粉砕したものを用いることができる。最も好ましくは、30ミクロン以下に粉砕されたものが、光触媒二酸化チタンとの混合がより緻密になり、蒸着加工した際、透明性が得られるうえで有益である。配合部数として、光触媒機能材料100重量部数に対し、100重量部数を使用できる。最も好ましくは30重量部数以下が、蒸着加工した際、透明性が得られるうえで、有益である。
【0009】
本発明において、光触媒機能材料として、アナターゼ型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタン、アパタイト被覆二酸化チタン、無機セラミック含包二酸化チタン等をいずれも使用することができる。アナターゼ型二酸化チタン及びブルッカイト型二酸化チタンの粒径として、5〜200nmに粉砕されたものを使用することかできる。最も好ましくは、6〜30nmの方が電子を励起するうえで有益である。
【0010】
アパタイト被覆二酸化チタンとして、上記二酸化チタンをアパタイト、すなわちリン酸カルシウムで被覆したものを使用することができる。市販品として、例えば、商品名アパタイト被覆二酸化チタンNSPー001ナノウエーブ製を使用することができる。無機セラミック含包二酸化チタンとして、無機セラミックの成分が、シリカ、アルミナ、酸化クロム、酸化ジルコニウム、ジルコニア、酸化イットリウム等の1種の合成セラミック或いは2種以上含む合成セラミックであり、また、上記成分を含む天然鉱物である。上記の粒径として、平均粒径30ミクロン以下のものを使用することができる。市販品として、例えば商品名ライオナイト.ライオン製を使用することができる。
【0011】
本発明において、蒸着加工として、セラミックを直接にコーティング加工できるPVD法(物理蒸着)加工のうち、真空蒸着加工及びイオンプレーディング蒸着加工及びスパッタ蒸着加工、CVD法(化学蒸着)加工、レーザー蒸着加工のいずれの蒸着加工方法を使用することができる。このうち最も好ましくは、プラズマを利用したプラズマ蒸着加工を使用する方が、混合物を強固にコーティングできるうえで有利である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光触媒機能材料に、助触媒として、酸化トリウムゲル体又は希有元素類を含む鉱物を含有させたもの、或いは酸化トリウムゲル体及び希有元素類を含む鉱物を含有させたものを、基材に蒸着加工することによって、光触媒機能を増加させるものとなり、その作用効果として、抗菌効果、消臭効果、防汚染効果を増加させるものとなる。また、コーティング層が透明な親水性を有するものとなり、さらに、太陽光が当たらないところでも光触媒機能を発揮できる優れた効果を奏する。
【実施例】
【0013】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0014】
実施例の試料の作成方法として、蒸着加工方法として、スパッタ法プラズマ蒸着方法のECRスパッタ装置を使用して、基材として、2mm厚、1m2 の硝子板に、表1に示した組成物を、塗布量約10g/m2 で蒸着加工をして、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1の試料を作成した。
【0015】
【表1】

実施例1〜3及び比較例1で作成した試料を使用して、抗菌試験及び消臭試験並びに汚染試験、親水性試験、透明製試験をし、本発明をより明らかにする。
【0016】
消臭試験
消臭試験方法として、検知管法を用いた。試験方法として、5リットルのテトラーバッグに実施例の5cm角及び所定濃度のアンモニア或いは硫化水素を充填して、10分後の脱臭率を求めた。アンモニアガスの初期濃度として、100ppm、硫化水素ガスの初期濃度として、50ppmとした。環境条件として、(1)ブラックライト照射時、(2)照明無しの暗黒の2方法で行その結果を表2及び表3に示した。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

消臭試験の結果、ブラックライト照射時では、実施例1、実施例2及び実施例3共に、短時間で高効率に消臭した。さらに、比較例1と比較して、明らかに光触媒反応による消臭作用が増加した。照明無しにおいては、実施例1、実施例2及び実施例3共に、消臭作用が認められ、比較例1は、全く消臭作用は無かった。照明無しにおいて、実施例1、実施例2及び実施例3共に、消臭作用の増加が認められた解析推定として、助触媒としての酸化トリウムゲル体及びモナズ石に含まれる酸化トリウムの発生する電子が、光触媒の発生しようとする電子を励起し、電子と正孔が発生して、消臭分解作用を生じ、それと同時に酸化トリウムゲル体及びモナズ石に含まれる酸化トリウムの発生する電子が、空気イオン化して、消臭分解作用が生じたと推認される。
【0019】
抗菌試験
抗菌試験としては、試験方法として、JISーL1902定量試験法を準拠した。試験菌株として、MRSA(耐性黄色ぶどう球菌)を使用した。環境条件として、(1)ブラックライト照明時、(2)照明無しの暗黒の2方法で行なった。その結果を、表4及び表5に示した。
【0020】
【表4】

【0021】
【表5】

上記の抗菌試験結果から明らかなように、実施例1、実施例2及び実施例3共に、高い抗菌性の性能を有することが明らかとなり、比較例1と比較すると抗菌性が増加していることが明らかとなった。照明無しにおいても、実施例1、実施例2及び実施例3が、抗菌性の性能を有することとなった。それに対し比較例1は全く抗菌性が認められなかった。
【0022】
実施例1、実施例2及び実施例3が抗菌性作用の増加と、紫外線照射無しでも抗菌作用が認められた解析推定として、助触媒としての酸化トリウムゲル体及びモナズ石に含まれる酸化トリウムの発生する電子が、光触媒の発生しようとする電子を励起し、電子と正孔を発生して、抗菌作用を生じ、それと同時に酸化トリウムゲル体及びモナズ石に含まれる酸化トリウムの発生する電子が、空気イオン化して消臭作用が生じたものと推認される。
【0023】
汚染試験として、実施例1〜3及び比較例1で作成した横30cm、縦10cmの硝子板を、自動車のリアドアのガラス窓に、各々の試料を並列に張り付けた。汚染試験方法として、1日約40km走行し、2カ月間の間には、1週間に1度、シャワーだけで、洗い落とした。また、雨の日は5日間であった。汚染度の確認日には、シャワーだけで洗ってから汚染度を確認した。その結果を表6に示した。
【0024】
【表6】

上記の試験結果から明らかなように、実施例1、実施例2及び実施例3は、優れた防汚染性の効果を示した。それに対し、比較例1は、僅かに水垢の汚染が認められた。実施例1〜3の防汚染作用を解析推定すると、光触媒作用の親水作用に加えて、助触媒としての酸化トリウムゲル体及びモナズ石に含まれる酸化トリウムの発生する電子が、空気と水をイオン化して、汚染物質である動物性油脂及びシリカ系粉塵等を、洗い落とす洗浄作用が生じたものと推認される。
【0025】
親水性試験と透明性:
親水性試験として、実施例1、実施例2及び実施例3、並びに比較例1の試料板に、水を置き、ブラックライトを照射して、1時間後に、水との接触角を接触角測定器 CAーX150を用いて測定した。透明性は、目視の判定とした。その結果を表7に示した。
【0026】
【表7】

親水性試験の結果、実施例1、実施例2、実施例3共に、水との接触角が0°となり、超親水性を示した。比較例1では、5°となり、やや低下していた。この解析推定では、汚染試験の場合と同じように、光触媒の親水作用を、助触媒としての酸化トリウムゲル体及びモナズ石に含まれる酸化トリウムの発生する電子が、励起して、親水作用を増加して超親水性が生じたものと推認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒機能材料に、助触媒として酸化トリウムゲル体を含有させてなり、光触媒作用を増幅してなることを特徴とする多機能性光触媒コーティング剤。
【請求項2】
光触媒機能材料に、助触媒として希有元素類を含む鉱物を含有させてなり、光触媒作用を増幅してなることを特徴とする多機能性光触媒コーティング剤。
【請求項3】
光触媒機能材料に、助触媒として酸化トリウムゲル体及び希有元素類を含む鉱物を含有させてなり、光触媒作用を増幅してなることを特徴とする多機能性光触媒コーテイング剤。
【請求項4】
前記請求項1、2、3のいずれか記載の多機能性光触媒コーティング剤を、ガラス、金属、樹脂、セラミック、活性炭素繊維、炭素繊維若しくは合成繊維の少なくとも一種からから選ばれた基材に、加工処理してなることを特徴とする蒸着加工方法。
【請求項5】
前記蒸着加工方法が、PVD(物理蒸着法)、CVD(化学気相蒸着法)、レーザー蒸着法のいずれかより選ばれたものである請求項4記載の蒸着加工方法。

【公開番号】特開2007−307452(P2007−307452A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137261(P2006−137261)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(391066401)志村商事株式会社 (3)
【Fターム(参考)】