説明

多機能性対立遺伝子

ゲノムに修飾を提供するための核酸構築物と方法が提供される。ここでは、修飾には、ヌル対立遺伝子、条件的対立遺伝子、およびCOINを含有しているヌル対立遺伝子が含まれる。多機能性対立遺伝子(MFA)、ならびにそれらを作製するための方法が提供される。多機能性対立遺伝子を作製するための方法は、1回の標的化において、ヌル対立遺伝子、条件的対立遺伝子、またはヌル対立遺伝子でありさらにCOINを含む対立遺伝子を作製するために使用することができる1つの対立遺伝子を導入する能力を提供する。MFAには、類似するリコンビナーゼ認識部位の複数の対、動作配列および/または薬剤選択カセット、ならびに目的のヌクレオチド配列、ならびにCOINが含まれる。ここでは、リコンビナーゼの作用を受けると、COINを持つ条件的対立遺伝子が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノックアウト構築物およびゲノム中にCOINを配置するための構築物を含む、ゲノムを修飾するための核酸構築物に関する。遺伝的操作されたヒト以外の動物には、例えば、ヒト以外の動物において(例えば、マウスおよびラットにおいて)ヌル対立遺伝子、選択可能な対立遺伝子、レポーティング対立遺伝子(reporting allele)、および/または条件的対立遺伝子が形成するように、遺伝子または核酸エレメントの欠失あるいは反転を可能にする、選択されたリコンビナーゼ認識部位とともに並べられた遺伝子あるいは核酸エレメントを有している遺伝子操作されたマウスが含まれる。
【背景技術】
【0002】
典型的には、ノックアウトは、選択された別の配列(通常は、レポーターおよび選択カセット)で標的遺伝子を相同性によって置き換えることにより作製される。この場合、選択カセットには、類似する部位特異的リコンビナーゼの作用による上記選択カセットの除去ができるようにするための部位特異的リコンビナーゼ部位が隣接していることが好ましい。上記選択カセットは、続いて、対応する類似するリコンビナーゼで細胞を処理することによるか、またはマウスの子孫を「除去因子(deletor)」株と交雑することによるかのいずれかで除去することができる。例えば、LoxP配列が導入された対立遺伝子(ここでは、目的の配列にloxP部位が隣接している)の場合には、類似するリコンビナーゼはCreであり、ゲノム中に残るのは1つのloxP部位とレポーターである。
【0003】
関連するストラテジーが、条件的ヌル対立遺伝子を作製するために従来利用されてきた。これには、類似するリコンビナーゼが作用すると、部位特異的リコンビナーゼ認識部位が隣接する領域が欠失させられ、得られる対立遺伝子がヌル対立遺伝子である様式で、部位特異的リコンビナーゼ認識部位(例えば、Creについてはlox、そしてFlpについてはFRT)を含む、目的の遺伝子の隣接部分が含まれる。
【0004】
1つの標的化ベクターの中にヌルと条件的機能性の両方を取り込ませるため、および1回の標的化工程で対応する修飾された対立遺伝子の組み立てを達成するための多数の試みが行われてきたが、そのような試みにより得られた方法にはいくつかの欠点があり、成功と失敗が繰り返されてきた。これらの欠点としては、例えば、真の機能性の欠如(すなわち、ヌルバージョンがレポーター機能の真のヌルではない、条件的対立遺伝子がレポーター機能の真の条件的欠失ではないなど)、または所望される特性を持つ実際に作動する対立遺伝子が実現できないことが挙げられる。
【0005】
したがって、操作された遺伝子座が多機能性遺伝子座(例えば、真のKO−first対立遺伝子、次いで、条件的ヌルまたは他の条件的突然変異対立遺伝子)である、標的化により遺伝的操作された生物を作製することが当該分野で必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
ヌル対立遺伝子および条件的対立遺伝子、ならびにヌルとCOINの特徴を併せ持つ対立遺伝子を作製するための方法と組成物が提供される。様々な実施形態において、1回の標的化工程においてゲノム中に多機能性対立遺伝子を操作するための方法と組成物が提供される。遺伝的操作されたヒト以外の動物におけるノックアウトの相補性解析のための方法と組成物が提供される。これには、1回の標的化工程を含む方法が含まれる。
【0007】
1つの態様では、3’スプライシング領域とスプライシングアクセプター、スプライシングアクセプターに関して3’にある動作配列、および動作配列に関して3’にある目的のヌクレオチド配列(NSI)を含有している修飾された対立遺伝子が提供される。ここでは、NSIは、標的遺伝子に関して(または修飾しようとする遺伝子座に関して、もしくは動作配列に関して)アンチセンス方向で存在している。
【0008】
1つの実施形態においては、動作配列は、microRNA、転写終結シグナル(例えば、ポリアデニル化領域)、cDNAをコードするヌクレオチド配列、またはそれらの任意の組み合わせより選択され、そして動作配列には、オペレーター、エンハンサー、およびインスレーターのような調節エレメントが含まれ得る。特異的な実施形態においては、cDNAがレポーターをコードする(例えば、LacZをコードする)。1つの実施形態においては、動作配列にエキソンが含まれる。特異的な実施形態においては、エキソンは1つの遺伝子座の最も5’にあるエキソンである。
【0009】
1つの実施形態においては、NSIに1つのエキソンが含まれる。1つの実施形態においては、NSIには、1つのエキソンと隣接するイントロン配列が含まれる。特異的な実施形態においては、隣接するエキソンには、5’および3’にイントロン配列が隣接している。1つの実施形態においては、ヌクレオチド配列には、2つ以上のエキソンが含まれ、特異的な実施形態においては、イントロン配列(単数または複数)が含まれる。別の実施形態においては、NSIは1つのエキソンが欠失しているか、またはエキソンの1つの断片が欠失している。
【0010】
1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子にCOINが含まれる。1つの実施形態においては、COINは、NSIに関して3’に存在する。別の実施形態においては、COINは、NSIに関して5’に存在する。
【0011】
1つの実施形態においては、COINは、レポーター、遺伝子トラップ様エレメント(GT様エレメント)、および遺伝子トラップ様レポーター(GT様レポーター)より選択される。特異的な実施形態においては、GT様エレメントは、SA−薬剤耐性cDNA−polyAより選択される。特異的な実施形態においては、GT様レポーターは、SA−レポーター−polyAより選択される。
【0012】
1つの実施形態においては、COINに3’スプライシング領域が含まれる。特異的な実施形態においては、3’スプライシング領域の後ろに、cDNA、エキソン−イントロン配列、microRNA、microRNAクラスター、低分子RNA、コドンスキップエレメント、IRES、ポリアデニル化配列、またはそれらの任意の組み合わせより選択される配列が続く。特異的な実施形態においては、低分子RNAはミュートロンである。特異的な実施形態においては、コドンスキップエレメントは、T2A、E2A、またはF2Aである。
【0013】
1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子に薬剤選択カセット(DSC)が含まれる。
【0014】
1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子は、上流と下流のホモロジーアームを含む標的化構築物上に存在する。1つの実施形態においては、少なくとも一方のホモロジーアームがマウスのホモロジーアームである。特異的な実施形態においては、両方のホモロジーアームがマウスのホモロジーアームである。
【0015】
1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子には、5’から3’方向に、スプライシングアクセプター、動作配列、DSC、NSI、およびCOINが含まれる。ここでは、目的のヌクレオチド配列とCOINはいずれも、動作配列および5対の部位特異的リコンビナーゼ認識部位に関してアンチセンス方向で存在する。1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子は、部位特異的リコンビナーゼ認識部位の第1の対の間にある配列を別々に認識し、反転させ、部位特異的リコンビナーゼ認識部位の第2の対の間にある配列を欠失させる第1の部位特異的リコンビナーゼに対して暴露されると、転写のセンス方向のNSIを含み、DSNを欠失しており、そしてCOINをアンチセンス方向で含む対立遺伝子を生じる。1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子には、第3および第4の部位特異的リコンビナーゼ認識部位を別々に認識する第2のリコンビナーゼに対してその対立遺伝子がさらに暴露されると、NSIの欠失と転写のセンス方向でのCOINの配置を生じるように並べられた、第3および第4の部位特異的リコンビナーゼ認識部位が含まれる。
【0016】
1つの態様では、(a)センス方向のレポーターと選択された適切な方向のDSC、およびアンチセンス方向のNSIとCOIN;(b)5対の部位特異的リコンビナーゼ認識部位を含む核酸構築物が提供される。ここでは、5対のリコンビナーゼ認識部位は、3種類を超えないリコンビナーゼにより認識される。この場合、第1のリコンビナーゼで核酸構築物が処理されると、(i)NSIがセンス方向で配置されており、(ii)COINはアンチセンス方向のままであり、(iii)レポーターとDSCが欠失しており、そして(iv)第2のリコンビナーゼで処理されると、修飾された対立遺伝子が、NSIを反転および/または欠失させ、COINをセンス方向で配置する、修飾された対立遺伝子が形成される。
【0017】
1つの実施形態においては、5対の部位特異的リコンビナーゼ認識部位は、FRT3、Rox、FRT、loxP、およびlox2372対である。
【0018】
1つの実施形態においては、第1のリコンビナーゼはFlpリコンビナーゼであり、第2のリコンビナーゼはCreリコンビナーゼである。
【0019】
1つの実施形態においては、修飾された対立遺伝子は、第2のリコンビナーゼで処理されると、第1または第2のリコンビナーゼによっては欠失または反転させることができない対立遺伝子を生じる。
【0020】
1つの実施形態においては、目的のヌクレオチド配列は1つの遺伝子の1つの野生型エキソンである。別の実施形態においては、NSIは、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を有している、遺伝子の1つのエキソンである。
【0021】
1つの実施形態においては、NSIは、1つの遺伝子の1つの野生型エキソンと隣接するイントロンである。別の実施形態においては、NSIは、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を有している、遺伝子のエキソンと隣接するイントロン配列である。
【0022】
1つの実施形態においては、NSIは1つの遺伝子の1つの野生型イントロンである。別の実施形態においては、NSIは、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を有している、1つの遺伝子の1つのイントロンである。
【0023】
1つの実施形態においては、COINに、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を含む、1つの遺伝子の1つのエキソンまたは複数のエキソンが含まれる。特異的な実施形態においては、COINには、哺乳動物の1つのエキソンが含まれる。特異的な実施形態においては、哺乳動物は、ヒト、マウス、サル、またはラットである。
【0024】
1つの実施形態においては、COINに、3’スプライシング領域が含まれる。特異的な実施形態においては、3’スプライシング領域の後ろに、cDNA、エキソン−イントロン配列、microRNA、microRNAクラスター、低分子RNA、コドンスキップエレメント、IRES、ポリアデニル化配列、およびそれらの組み合わせより選択される配列が続く。特異的な実施形態においては、低分子RNAはミュートロンである。特異的な実施形態においては、コドンスキップエレメントはT2Aである。
【0025】
1つの実施形態においては、COINは、レポーター、遺伝子トラップ様エレメント(GT様エレメント)、および遺伝子トラップ様レポーター(GT様レポーター)より選択される。特異的な実施形態においては、GT様エレメントは、SA−薬剤耐性cDNA−polyAより選択される。特異的な実施形態においては、GT様レポーターは、SA−レポーター−polyAより選択される。
【0026】
1つの実施形態においては、上記構築物にはさらに、上流および下流のホモロジーアームが含まれる。1つの実施形態においては、上流および下流のホモロジーアームは、マウスまたはラットのホモロジーアームである。特異的な実施形態においては、ホモロジーアームはマウスのホモロジーアームであり、NSIにヒトの配列が含まれる。特異的な実施形態においては、ヒトの配列に、マウスのエキソンのヒトホモログであるヒトのエキソンが含まれる。
【0027】
1つの実施形態においては、レポーターは、蛍光タンパク質、発光タンパク質、または酵素より選択される。特異的な実施形態においては、レポーターは、GFP、eGFP、CFP、YFP、eYFP、BFP、eBFP、DsRed、MmGFP、ルシフェラーゼ、LacZ、およびアルカリホスファターゼより選択される。
【0028】
1つの実施形態においては、DSCに、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(puro)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、ノーセオトリシンアセチルトランスフェラーゼ(nat1)、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−tk)より選択される活性をコードする配列が含まれる。
【0029】
1つの態様では、3’スプライシングアクセプターを含む動作配列、その後ろにセンス方向のレポーター、選択された適切な方向のDSC、アンチセンス方向のNSI、そしてアンチセンス方向のCOINが続く核酸構築物が提供される。ここでは、動作配列とレポーターの上流にはリコンビナーゼ認識部位R1が隣接しており、リコンビナーゼ認識部位R2はレポーターとDSCの間に配置されており、リコンビナーゼ部位R3はDSCと目的のヌクレオチド配列の間に配置されており、リコンビナーゼ部位R4は部位R3とNSIの間に配置されており、リコンビナーゼ部位R5はNSIとCOINの間に配置されており、リコンビナーゼ部位R1’は部位R5とCOINの間に配置されており、リコンビナーゼ部位R3’はR1’とCOINの間に配置されており、組み換え部位R5’はCOINの下流に配置されており、組み換え部位R4’は部位R5’の下流に配置されており、そして組み換え部位R2’は部位R4’の下流に配置されている。ここでは、R1とR1’は反対方向で存在し、R2とR2’は同じ方向で存在し、R3とR3’は反対方向で存在し、R4とR4’は同じ方向で存在し、そしてR5とR5’は同じ方向で存在する。
【0030】
1つの実施形態においては、レポーターの後ろにポリアデニル化領域が続く。
【0031】
1つの実施形態においては、R1とR1’は、R3とR3’を認識するリコンビナーゼにより認識される。1つの実施形態においては、R4とR4’は、R5とR5’を認識するリコンビナーゼにより認識される。1つの実施形態においては、R2とR2’は、R1/R1’、R3/R3’、R4/R4’、またはR5/R5’を認識するいずれのリコンビナーゼによっても認識されない。1つの実施形態においては、R1とR1’、R3とR3’、およびR2とR2’は、R4とR4’、およびR5とR5’を認識するいずれのリコンビナーゼによっても認識されない。1つの実施形態においては、R4とR4’、R5とR5’、およびR2とR2’は、R1とR1’、およびR3とR3’を認識するいずれのリコンビナーゼによっても認識されない。
【0032】
1つの実施形態においては、1種類のリコンビナーゼでの処理により、DSC、NSI、およびCOINが欠失している核酸構築物が生じる。特異的な実施形態においては、得られる核酸構築物は、基本的に、動作配列、R1、およびR2またはR2’からなる。特異的な実施形態においては、R1はFRT3部位であり、R2(またはR2’)はRox部位である。
【0033】
1つの実施形態においては、1種類のリコンビナーゼでの処理により、センス方向の動作配列を含むが、DSCが欠失しており、NSIが欠失しており、そしてCOINが欠失している核酸構築物が生じる。特異的な実施形態においては、R2とR2’はRox部位であり、上記1種類のリコンビナーゼはDreリコンビナーゼである。
【0034】
1つの実施形態においては、1種類のリコンビナーゼでの処理により、アンチセンス方向のNSIとアンチセンス方向のCOINを含む核酸構築物が生じる。1つの実施形態においては、上記1種類のリコンビナーゼはFlpリコンビナーゼであり、R1とR1’は、R3およびR3’とは交差反応しないFRT変異体配列であり(R3およびR3’もまたFRTまたはFRT変異体でもある)、R2とR2’はRox配列であり、そしてR4とR4’は、R5およびR5’とは交差反応しないloxPまたはlox変異体配列である。ここでは、R5とR5’はlox変異体配列である。
【0035】
1つの実施形態においては、1種類のリコンビナーゼでの処理により、センス方向のNSIとアンチセンス方向のCOINを含む核酸構築物が生じる。1つの実施形態においては、上記1種類のリコンビナーゼはFlpリコンビナーゼであり、R1とR1’はFRT3配列であり、R2とR2’はRox配列であり、R3とR3’はFRT配列であり、R4とR4’はloxP配列であり、R5とR5’はlox2372配列である。
【0036】
1つの実施形態においては、NSIは1つの遺伝子の1つの野生型エキソンである。別の実施形態においては、NSIは、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を有している、1つの遺伝子の1つのエキソンである。
【0037】
1つの実施形態においては、COINに、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を含む、1つの遺伝子の1つのエキソンまたは複数のエキソンが含まれる。特異的な実施形態においては、COINには、哺乳動物の1つのエキソンが含まれる。1つの実施形態においては、哺乳動物は、ヒト、マウス、サル、またはラットである。
【0038】
1つの実施形態においては、上記構築物にはさらに、上記構築物の上流にあるホモロジーアーム(上流のホモロジーアーム)と上記構築物の下流にあるホモロジーアーム(下流のホモロジーアーム)が含まれる。1つの実施形態においては、上流および下流のホモロジーアームは、マウスまたはラットのホモロジーアームである。特異的な実施形態においては、上記ホモロジーアームはマウスのホモロジーアームであり、NSIにヒトの配列が含まれる。特異的な実施形態においては、ヒトの配列に、マウスのエキソンに相同であるヒトのエキソンが含まれる。
【0039】
1つの実施形態においては、レポーターは、蛍光タンパク質、発光タンパク質、または酵素より選択される。特異的な実施形態においては、レポーターは、GFP、eGFP、CFP、YFP、eYFP、BFP、eBFP、DsRed、MmGFP、ルシフェラーゼ、LacZ、およびアルカリホスファターゼより選択される。1つの実施形態においては、DSCに、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(puro)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、ノーセオトリシンアセチルトランスフェラーゼ(nat1)、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−tk)より選択される活性をコードする配列が含まれる。
【0040】
1つの態様では、第1、第2、第3、第4、および第5の重複している組み換え可能なユニットを含有している、遺伝子座を修飾するための核酸構築物が提供される。ここでは、組み換え可能なユニットには、1対の類似する部位特異的リコンビナーゼ認識部位が含まれ、ここでは、(a)第1の組み換え可能なユニットは、反対方向のリコンビナーゼ部位R1およびR1’により枠で囲まれている(これによりR1/R1’による反転が可能となる)。この場合、R1とR1’の間には、標的遺伝子の転写方向に関してセンス方向の動作配列、その後ろに続くリコンビナーゼ部位R2、その後ろに続く選択された適切な方向のDSC、その後ろに続くリコンビナーゼ部位R3、その後ろに続くリコンビナーゼ部位R4、その後ろに続くアンチセンス方向のNSI、その後ろに続くリコンビナーゼ部位R5が配置されている;(b)第2の組み換え可能なユニットは、同じ方向のリコンビナーゼ部位R2およびR2’により枠で囲まれている(これによりR2/R2’による欠失が可能となる)。この場合、R2とR2’の間には、選択された適切な方向のDSC、その後ろに続くR3、その後ろに続くR4、その後ろに続くアンチセンス方向のNSI、その後ろに続くR5、その後ろに続くR1’、その後ろに続くリコンビナーゼ部位R3’(ここでは、R3’はR3に関して反対方向である(これによりR3/R3’による反転が可能となる))、その後ろに続くアンチセンス方向のCOIN、その後ろに続くR5’(ここでは、R5’はR5に関して同じ方向である)、その後ろに続くR4’(ここでは、R4’はR4に関して同じ方向である)、その後ろに続くR2’(ここでは、R2’はR2に関して同じ方向である(これによりR2/R2’による欠失が可能となる))が配置されている;(c)第3の組み換え可能なユニットは、反対方向のリコンビナーゼ部位R3とR3’により枠で囲まれている(これによりR3/R3’による反転が可能となる)。この場合、R3とR3’の間には、R4、アンチセンス方向のNSI、その後ろに続くR5、その後ろに続くR1’が配置されている;(d)第4の組み換え可能なユニットは、同じ方向のリコンビナーゼ部位R4およびR4’により枠で囲まれている。この場合、R4とR4’の間には、アンチセンス方向のNSI、その後ろに続くR5、その後ろに続くR1’、その後ろに続くR3’、その後ろに続くアンチセンス方向のCOIN、その後ろに続くR5’、その後ろに続くR4’が配置されている;そして、(e)第5の組み換え可能なユニットは、同じ方向のR5およびR5’により枠で囲まれている。この場合、R5とR5’の間には、R1’、その後ろに続くR3’、その後ろに続くアンチセンス方向のCOINが配置されている。
【0041】
1つの実施形態においては、R1/R1’およびR3/R3’は同じ部位特異的リコンビナーゼに関して機能的であり、ここでは、上記同じ部位特異的リコンビナーゼは、R4/R4’、およびR5/R5’、およびR2/R2’に関しては機能的ではない。
【0042】
1つの実施形態においては、R4/R4’およびR5/R5’は同じ部位特異的リコンビナーゼに関して機能的であり、ここでは、上記同じ部位特異的リコンビナーゼは、R1/R1’、およびR3/R3’、およびR2/R2’に関しては機能的ではない。
【0043】
1つの実施形態においては、R2/R2’は1種類のリコンビナーゼに関して機能的であり、ここでは、上記リコンビナーゼは、R1/R1’、R3/R3’、R4/R4’、およびR5/R5’のいずれに関しても機能的ではない。
【0044】
1つの実施形態においては、R1/R1’は、FRT、FRT3、loxP、またはlox2372部位である。1つの実施形態においては、R3/R3’は、FRT、FRT3、loxP、またはlox2372部位である。1つの実施形態においては、R4/R4’は、FRT、FRT3、loxP、またはlox2372部位である。1つの実施形態においては、R5/R5’は、FRT、FRT3、loxP、またはlox2372部位である。1つの実施形態においては、R2/R2’はRox部位である。1つの実施形態においては、R2/R2’はattP/attB部位である。
【0045】
特異的な実施形態においては、R1/R1’およびR3/R3’は、Flpリコンビナーゼに関して機能的である。別の特異的な実施形態においては、R1/R1’およびR3/R3’は、Creリコンビナーゼに関して機能的である。
【0046】
特異的な実施形態においては、R4/R4’およびR5/R5’は、Creリコンビナーゼに関して機能的である。別の特異的な実施形態においては、R4/R4’およびR5/R5’は、Flpリコンビナーゼに関して機能的である。
【0047】
1つの実施形態においては、R2/R2’は、Dreリコンビナーゼに関して機能的であるRox部位である。別の実施形態においては、R2/R2’は、PhiC31インテグラーゼ
【0048】
【化1】

に関して機能的なattP/attB部位である。
【0049】
1つの実施形態においては、レポーターは、蛍光タンパク質、発光タンパク質、または酵素より選択される。特異的な実施形態においては、レポーターは、GFP、eGFP、CFP、YFP、eYFP、BFP、eBFP、DsRed、MmGFP、ルシフェラーゼ、LacZ、およびアルカリホスファターゼより選択される。
【0050】
1つの実施形態においては、DSCに、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(hyg)、ピューロマイシン−N−アセチルトランスフェラーゼ(puro)、ブラストサイジンSデアミナーゼ(bsr)、キサンチン/グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)、ノーセオトリシンアセチルトランスフェラーゼ(nat1)、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−tk)より選択される活性をコードする配列が含まれる。
【0051】
1つの実施形態においては、NSIは、1つの遺伝子の1つの野生型エキソンである。別の実施形態においては、NSIは、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を有している1つの遺伝子の1つのエキソンである。
【0052】
1つの実施形態においては、COINに、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を含む、1つの遺伝子の1つのエキソンが含まれる。特異的な実施形態においては、COINには、ヒト、マウス、サル、またはラットの1つのエキソンが含まれる。
【0053】
1つの実施形態においては、COINに3’スプライシング領域が含まれる。特異的な実施形態においては、3’スプライシング領域の後ろに、cDNA、エキソン−イントロン配列、microRNA、microRNAクラスター、低分子RNA、コドンスキップエレメント、IRES、ポリアデニル化配列、およびそれらの組み合わせより選択される配列が続く。特異的な実施形態においては、低分子RNAはミュートロンである。特異的な実施形態においては、コドンスキップエレメントは、T2A、E2A、またはF2Aである。
【0054】
1つの実施形態においては、COINは、レポーター、遺伝子トラップ様エレメント(GT様エレメント)、および遺伝子トラップ様レポーター(GT様レポーター)より選択される。特異的な実施形態においては、GT様エレメントは、SA−薬剤耐性cDNA−polyAより選択される。特異的な実施形態においては、GT様レポーターは、SA−レポーター−polyAより選択される。
【0055】
1つの実施形態においては、上記構築物にはさらに、上記構築物の上流にあるホモロジーアーム(上流のホモロジーアーム)と上記構築物の下流にあるホモロジーアーム(下流のホモロジーアーム)が含まれる。1つの実施形態においては、上記上流および下流のホモロジーアームは、マウスまたはラットのホモロジーアームである。特異的な実施形態においては、上記ホモロジーアームはマウスのホモロジーアームであり、NSIにヒトの配列が含まれる。特異的な実施形態においては、ヒトの配列には、マウスのエキソンに相同であるヒトのエキソンが含まれる。
【0056】
1つの態様では、2種類以上の異なるリコンビナーゼにより認識される2つ以上の組み換え可能なユニットを含有している多機能性対立遺伝子が提供される。それぞれの組み換え可能なユニットは、それらの組み換え可能なユニットの境界を定義する1対の適合するリコンビナーゼ認識部位により定義される。それぞれの組み換え可能なユニットには、1つ以上の内部リコンビナーゼ認識部位が含まれる。1つ以上の内部リコンビナーゼ認識部位は、多機能性対立遺伝子の組み換え可能なユニットが第1のリコンビナーゼにより組み換えられると、1つの組み換え可能なユニット内の1つ以上の内部リコンビナーゼ認識部位が、別の組み換え可能なユニットの内部にある1つ以上の内部リコンビナーゼユニットと対合して、多機能性対立遺伝子の2つ以上の組み換え可能なユニットにまたがる配列の第1のリコンビナーゼにより反転および/または欠失が可能となるように選択される。ここでは、反転および/または欠失は、1つ以上の内部リコンビナーゼ認識部位が反転している場合にのみ可能である。
【0057】
1つの実施形態においては、反転および/または欠失は、上記多機能性対立遺伝子のさらなるリコンビナーゼ認識部位の反転を伴う。ここでは、さらなるリコンビナーゼ認識部位の反転により、第2のリコンビナーゼによる多機能性対立遺伝子の1つのエレメントの反転または欠失が可能となる。
【0058】
1つの態様では、以下を含む多機能性対立遺伝子が提供される:(a)第1、第2、第3、第4、および第5の組み換え可能なユニット(ここでは、それぞれの組み換え可能なユニットは適合するリコンビナーゼ認識部位により囲まれており、第1の組み換え可能なユニットは第2の組み換え可能なユニットと重複しており、第3、第4、および第5の組み換え可能なユニットは第2の組み換え可能なユニットの中に含まれている);(b)動作配列、DSC、およびNSIに作動可能であるように連結させられた3’スプライシングアクセプターとスプライシング領域を含有している、第1の組み換え可能なユニット;(c)DSC、NSI、およびCOINを含有している第2の組み換え可能なユニット;(d)NSIを含有している第3の組み換え可能なユニット;(e)NSIおよびCOINを含有している第4の組み換え可能なユニット;(f)COINを含有している第5の組み換え可能なユニット。ここでは、多機能性対立遺伝子には、第1の組み換え可能なユニットの第1の反転を可能にする、上流および下流にある第1の組み換え可能なユニットに隣接しているリコンビナーゼ認識部位の第1の対が含まれる。この場合、第1の反転により、第2の組み換え可能なユニットの中のリコンビナーゼ部位の第2の反転が生じる。ここでは、第2の反転は、動作配列を欠失させ、DSCを欠失させるように、第2の組み換え可能なユニット内でのリコンビナーゼ部位の方向を合わせる。
【0059】
1つの実施形態においては、1種類のリコンビナーゼがリコンビナーゼ認識部位の第1の対を認識し、これはまた、動作配列と薬剤選択カセットを欠失させる。
【0060】
1つの実施形態においては、第2の反転が、反転後に、NSIの欠失および/またはCOINの反転を可能にするリコンビナーゼ認識部位の第2のセットが形成されるように、組み換え部位の方向を合わせる。
【0061】
1つの態様では、転写方向に関して5’から3’の方向に、アンチセンス方向のCOIN、アンチセンス方向のNSI、DSC、およびセンス方向のレポーターを含有しているMFAを含む核酸構築物が提供される。この場合、MFAが選択されたリコンビナーゼで処理されると、COIN、NSI、およびDSCが切り出され、レポーターがセンス方向で残る。この場合、異なる選択されたリコンビナーゼでの別の処理が行われると、レポーターとDSCが切り出され、COINがアンチセンス方向で残り、NSIがセンス方向で配置される。その結果、なお別の異なる選択されたリコンビナーゼでさらに処理されると、NSIが切り出され、COINがセンス方向で配置される。
【0062】
1つの実施形態においては、MFAに、第1の組み換え可能なユニット、第2の組み換え可能なユニット、および第3の組み換え可能なユニットが含まれる。ここでは、第1の組み換え可能なユニットは、第2および第3の組み換え可能なユニットと重複しており、第2の組み換え可能なユニットは第1および第3の組み換え可能なユニットと重複している。
【0063】
1つの実施形態においては、第1の組み換え可能なユニットに、逆(アンチセンス)方向のCOINと、逆方向のNSIが含まれる。ここでは、組み換え可能なユニットがCOINの上流に隣接しており、欠失させられるように方向を合わせられた適合するリコンビナーゼ部位R2とR2’がNSIの下流に隣接している。第2の組み換え可能なユニットは第1の組み換え可能なユニットと重複しており、第2の組み換え可能なユニットは、DSCの上流にある組み換え部位とレポーターの下流にある組み換え部位に対する1種類のリコンビナーゼの作用により組み換え可能である。ここでは、上記組み換え部位は、反転させられるように方向を合わせられており、DSCの上流にある組み換え部位の後ろには、NSIを含有している配列が続く。特異的な実施形態においては、MFAには、センス鎖上の方向に関して5’から3’の方向に、以下が含まれる:第1のリコンビナーゼ部位R1、第2のリコンビナーゼ部位R2、第3のリコンビナーゼ部位R3、アンチセンス方向のCOIN、第4のリコンビナーゼ部位R4、第5のリコンビナーゼ部位R5、第6のリコンビナーゼ部位R3’(これは、R3と適合性であり、R3とR3’の間にある配列の欠失を指示するように方向を合わせられている)、アンチセンス方向のNSI、第7のリコンビナーゼ部位R2’(これは、R2と適合性であり、R2とR2’の間にある配列を欠失を指示するように方向を合わせられている)、第8のリコンビナーゼ部位R4’、DSC、第9のリコンビナーゼ部位R1’(これは、R1と適合性であり、R1とR1’の間にある配列の欠失を指示するように方向を合わせられている)、センス方向のレポーター、および第10のリコンビナーゼ部位R5’(これは、R5と適合性であり、R5とR5’の間にある配列の反転を指示するように方向を合わせられている)。
【0064】
特異的な実施形態においては、R1/R1’はRox部位であり、R2/R2’はloxP部位であり、R3/R3’は、lox2372部位であり、R4/R4’はFRT部位であり、そしてR5/R5’はFRT3部位である。特異的な実施形態においては、MFAには、図11、パネルAに示すような、リコンビナーゼ部位およびCOIN、NSI、DSCと、レポーターの配置が含まれる。特異的な実施形態においては、R1/R1’を認識する1種類のリコンビナーゼに対して暴露されると、図11、パネルBに示すような対立遺伝子が形成される。特異的な実施形態においては、R4/R4’およびR5/R5’を認識する1種類のリコンビナーゼに対して暴露されると、図11、パネルCに示すような対立遺伝子が形成される。特異的な実施形態においては、R2/R2’およびR3/R3’を認識するさらなるリコンビナーゼに対して図11、パネルCの対立遺伝子が暴露されると、図11、パネルDに示すような対立遺伝子が形成される。
【0065】
1つの態様では、転写方向に関して5’から3’の方向に、アンチセンス方向のNSI、DSC、センス方向のレポーター、およびアンチセンス方向のCOINを含有しているMFAを含む核酸構築物が提供される。この場合、MFAが選択されたリコンビナーゼで処理されると、NSIとDSCが切り出され、レポーターはセンス方向で残り、COINはアンチセンス方向で残る。ここでは、異なる選択されたリコンビナーゼで別の処理が行われると、DSCとレポーターが切り出され、NSIはセンス方向で配置され、COINはアンチセンス方向で存在する。この場合、異なる選択されたリコンビナーゼでの別の処理の後、対立遺伝子は、なお別の異なる選択されたリコンビナーゼで処理され、それにより、NSIの切り出しとセンス方向でのCOINの配置が生じる。
【0066】
1つの実施形態においては、MFAには、第1の組み換え可能なユニット、第2の組み換え可能なユニット、および第3の組み換え可能なユニットが含まれる。ここでは、第1の組み換え可能なユニットは第2および第3の組み換え可能なユニットと重複しており、第2の組み換え可能なユニットは第1および第3の組み換え可能なユニットと重複している。1つの実施形態においては、第1の組み換え可能なユニットにDSCとセンス方向のレポーターが含まれる。この場合、組み換え可能なユニットには組み換え部位R2、続いてR3がDSCの上流に隣接しており、レポーターの下流にはリコンビナーゼ部位R3’が隣接している。ここでは、R2/R3’は反転を指示するように方向を合わせられており、DSCの前には、反転を指示するようにR2に関して方向を合わせられたR2’が存在する。第2の組み換え可能なユニットには、アンチセンスNSIの上流にR4が隣接しており、アンチセンスCOINの下流にはR4’が隣接している。ここでは、R4/R4’は切り出しを指示するように方向を合わせられており、第2の組み換え可能なユニットにはDSCとレポーターが含まれる。そして、第3の組み換え可能なユニットには、上流にR1が隣接しており、下流にはR1’が隣接している。この場合、R1/R1’は切り出しを指示するように方向を合わせられている。この場合、R1’の上流の隣接はDSCであり、R1の下流の隣接はR2である。特異的な実施形態においては、MFAには、転写方向に関して5’から3’の方向に、R1、R2、R3、R4、アンチセンス方向のNSI、R5、R2’(ここでは、R2/R2’は反転を指示するように方向を合わせられている)、DSC、R1’(ここでは、R1/R1’は反転を指示するように方向を合わせられている)、レポーター遺伝子、R3’(ここでは、R3/R3’は反転を指示するように方向を合わせられている)、アンチセンス方向のCOIN、R5’(ここでは、R5/R5’は切り出しを指示するように方向を合わせられている)、およびR4’(ここでは、R4/R4’は切り出しを指示するように方向を合わせられている)が含まれる。
【0067】
特異的な実施形態においては、R1/R1’はRox部位であり、R2/R2’はFRTまたはFRT3部位であり、R3/R3’はFRTまたはFRT3部位であり(これらは、R2/R2’と同じではない)、R4/R4’はlox2372部位またはloxP部位であり、そしてR5/R5’はlox2372部位またはloxP部位である(これらはR4/R4’と同じではない)。
【0068】
特異的な実施形態においては、MFAには、図12、パネルAに示すような、リコンビナーゼ部位およびCOIN、NSI、DSC、ならびにレポーターの配置が含まれる。選択されたリコンビナーゼでの処理により、図12、パネルBに示す対立遺伝子が生じる。異なる選択されたリコンビナーゼでの別の処理により、図12、パネルCに示す対立遺伝子が生じる。図12、パネルCの対立遺伝子の、なお別の異なるリコンビナーゼでの処理により、図12、パネルDに示す対立遺伝子が生じる。
【0069】
1つの態様では、転写方向に関して5’から3’の方向に、センス方向のレポーター、DSC、アンチセンス方向のNSI、およびアンチセンス方向のCOINを含有しているMFAを含む核酸構築物が提供される。第1の選択されたリコンビナーゼでMFAが処理されると、レポーターが切り出され、NSIはセンス方向に配置され、COINはアンチセンス方向で残る。この場合、対立遺伝子には、第2の選択されたリコンビナーゼで処理されると、センス方向にCOINを配置し、NSIをアンチセンス方向に配置する配列の反転を可能にするリコンビナーゼ部位が含まれる。1つの実施形態においては、第1の選択されたリコンビナーゼに続き、対立遺伝子は、第2の選択されたリコンビナーゼで処理される。1つの実施形態においては、COINは、NSIが第2のリコンビナーゼでの処理後にアンチセンス方向で配置されるきっかけとなる。
【0070】
1つの実施形態においては、MFAには、転写方向に関して5’から3’の方向に、リコンビナーゼ部位R1、レポーター、第2のリコンビナーゼ部位R2、DSC、第3のリコンビナーゼ部位R3、アンチセンス方向のNSI、第4のリコンビナーゼ部位R4、第5のリコンビナーゼ部位R5、第6のリコンビナーゼ部位R1’(これはR1と適合性であり、反転を指示するようにR1に関して方向を合わせられている)、第7のリコンビナーゼ部位R3’(これはR3と適合性であり、反転を指示するようにR3に関して方向を合わせられている)、アンチセンス方向のCOIN、第8のリコンビナーゼ部位R5’(これはR5と適合性であり、切り出しを指示するようにR5に関して方向を合わせられている)、第9のリコンビナーゼ部位R4’(これはR4と適合性であり、切り出しを指示するようにR4に関して方向を合わせられている)、および第10のリコンビナーゼ部位R2’(これはR2と適合性であり、切り出しを指示するようにR2に関して方向を合わせられている)が含まれる。特異的な実施形態においては、R1/R1’は、FRT3またはFRT部位であり、R2/R2’は、Rox部位であり、R3/R3’は、FRT3またはFRT部位であり(これらはR1/R1’とは異なる)、R4/R4’は、loxPまたはlox2372部位であり、そしてR5/R5’は、loxPまたはlox2372部位である(これらはR4/R4’部位とは異なる)。
【0071】
特異的な実施形態においては、MFAに、図13、パネルAに示すような、リコンビナーゼ部位およびCOIN、NSI、DSC、ならびにレポーターの配置が含まれる。選択されたリコンビナーゼでの処理により、図13、パネルBに示す対立遺伝子が生じる。図13、パネルBの対立遺伝子の異なるリコンビナーゼでの処理により、図13、パネルCに示す対立遺伝子が生じる。
【0072】
1つの態様では、転写方向に関して5’から3’の方向に、アンチセンス方向のCOIN、アンチセンス方向のNSI、DSC、およびセンス方向のレポーターを含有しているMFAを含む核酸構築物が提供される。この場合、第1の選択されたリコンビナーゼでMFAが処理されると、レポーターが切り出され、NSIがセンス方向で配置され、そしてCOINはセンス方向で残る。ここでは、対立遺伝子には、第2の選択されたリコンビナーゼで処理されると、COINをセンス方向で、そしてNSIをアンチセンス方向で配置する配列の反転を可能にするリコンビナーゼ部位が含まれる。1つの実施形態においては、第1の選択されたリコンビナーゼの後、対立遺伝子は第2の選択されたリコンビナーゼで処理される。1つの実施形態においては、COINは、NSIが第2のリコンビナーゼでの処理後にアンチセンス方向で配置されるきっかけとなる。
【0073】
1つの実施形態においては、MFAには、転写方向に関して5’から3’の方向に、リコンビナーゼ部位R1、第2のリコンビナーゼ部位R2、第3のリコンビナーゼ部位R3、アンチセンス方向のCOIN、第4のリコンビナーゼ部位R4、第5のリコンビナーゼ部位R5、第6のリコンビナーゼ部位R3’(これはR3と適合性であり、切り出しを指示するようにR3に関して方向を合わせられている)、第7のリコンビナーゼ部位R2’(これはR2と適合性であり、切り出しを指示するようにR2に関して方向を合わせられている)、アンチセンス方向のNSI、第8のリコンビナーゼ部位R4’(これはR4と適合性であり、反転を指示するようにR4に関して方向を合わせられている)、DSC、第9のリコンビナーゼ部位R1’(これはR1と適合性であり、切り出しを指示するようにR1に関して方向を合わせられている)、センス方向のレポーター、および第10のリコンビナーゼ部位R5’(これはR5と適合性であり、反転を指示するようにR5に関して方向を合わせられている)が含まれる。特異的な実施形態においては、R1/R1’はRox部位であり、R2/R2’はloxPまたはlox2372部位であり、R3/R3’はloxPまたはlox2372部位であり(これらはR2/R2’とは異なる)、R4/R4’はFRTまたはFRT3部位であり、そしてR5/R5’はFRTまたはFRT3部位である(これらはR4/R4’とは異なる)。
【0074】
特異的な実施形態においては、MFAには、図14、パネルAに示すような、リコンビナーゼ部位およびCOIN、NSI、DSC、ならびにレポーターの配置が含まれる。選択されたリコンビナーゼでの処理により、図14、パネルBに示す対立遺伝子が生じる。図14、パネルBの対立遺伝子の異なるリコンビナーゼでの処理により、図14、パネルCに示す対立遺伝子が生じる。
【0075】
1つの態様では、転写方向に関して5’から3’の方向に、アンチセンス方向のNSI、DSC、センス方向のレポーター、およびアンチセンス方向のCOINを含むMFAを含有している核酸構築物が提供される。この場合、第1の選択されたリコンビナーゼでのMFAの処理により、レポーターが切り出され、DSCが切り出され、NSIがセンス方向で配置され、そしてCOINはアンチセンス方向で残る。ここでは、第1の選択されたリコンビナーゼでの処理の後、対立遺伝子には、第2の選択されたリコンビナーゼで処理されると、COINをセンス方向で、そしてNSIをアンチセンス方向で配置する配列の反転を可能にするリコンビナーゼ部位が含まれる。1つの実施形態においては、第1の選択されたリコンビナーゼの後、対立遺伝子は第2の選択されたリコンビナーゼで処理される。1つの実施形態においては、COINは、NSIが第2のリコンビナーゼでの処理後にアンチセンス方向で配置されるきっかけとなる。
【0076】
1つの実施形態においては、MFAには、転写方向に関して5’から3’の方向に、リコンビナーゼ部位R1、第2のリコンビナーゼ部位R2、第3のリコンビナーゼ部位R3、アンチセンス方向のNSI、第4のリコンビナーゼ部位R4、第5のリコンビナーゼ部位R5、第6のリコンビナーゼ部位R2’(これはR2と適合性であり、反転を指示するようにR2に関して方向を合わせられている)、DSC、第7のリコンビナーゼ部位R1’(これはR1と適合性であり、切り出しを指示するようにR1に関して方向を合わせられている)、センス方向のレポーター、第8のリコンビナーゼ部位R3’(これはR3と適合性であり、反転を指示するようにR3に関して方向を合わせられている)、逆方向のCOIN、第9のリコンビナーゼ部位R5’(これはR5と適合性であり、切り出しを指示するようにR5に関して方向を合わせられている)、および第10のリコンビナーゼ部位R4’(これはR4と適合性であり、切り出しを指示するようにR4に関して方向を合わせられている)が含まれる。特異的な実施形態においては、R1/R1’は、Rox部位であり、R2/R2’は、FRTまたはFRT3部位であり、R3/R3’はFRTまたはFRT3部位であり(これらはR2/R2’とは異なる)、R4/R4’は、loxPまたはlox2372部位であり、そしてR5/R5’はloxPまたはlox2372部位である(これらはR4/R4’とは異なる)。
【0077】
特異的な実施形態においては、MFAには、図15、パネルAに示すような、リコンビナーゼ部位およびCOIN、NSI、DSC、ならびにレポーターの配置が含まれる。選択されたリコンビナーゼでの処理により、図15、パネルBに示す対立遺伝子が生じる。図15、パネルBの対立遺伝子の異なるリコンビナーゼでの処理により、図15、パネルCに示す対立遺伝子が生じる。
【0078】
1つの態様では、DSC、レポーター、COIN、NSI、およびレポーター、DSC、COIN、およびNSIの間に並べられた5対のリコンビナーゼ部位を含有している多機能性対立遺伝子が提供される。この場合、リコンビナーゼ部位のどの対も、いずれの他の対とも同じではない。ここでは、リコンビナーゼ部位の第1の2つの対は同じ第1のリコンビナーゼにより認識され、リコンビナーゼ部位の第2の2つの対は同じ第2のリコンビナーゼにより認識され、リコンビナーゼ部位の第5の対は第3のリコンビナーゼにより認識される。ここでは、上記第1、第2、および第3のリコンビナーゼは同じではない。ここでは、MFAには、転写方向に関して(5’から3’の方向に)以下が含まれる:(a)(例えば、レポーターとともに)センス方向の動作配列、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、アンチセンス方向のNSI、アンチセンス方向のCOIN;(b)アンチセンス方向のCOIN、アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、センス方向のレポーター;(c)アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、センス方向のレポーター、アンチセンス方向のCOIN;(d)センス方向のレポーター、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、アンチセンス方向のNSI、アンチセンス方向のCOIN;(e)アンチセンス方向のCOIN、アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、センス方向のレポーター;あるいは、(f)アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、センス方向のレポーター、アンチセンス方向のCOIN。
【0079】
1つの実施形態においては、並びは(a)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第3のリコンビナーゼに対して暴露されると、リコンビナーゼ部位の第5の対がDSC、NSI、およびCOINの切り出しを指示するように並べられている。この場合、レポーターはセンス方向で維持される。
【0080】
1つの実施形態においては、並びは(a)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、ここでは、リコンビナーゼ部位の第1の2つの対がレポーターの切り出し、DSCの切り出し、およびNSIのセンス方向への反転を指示し、COINはアンチセンス方向で維持されている修飾されたMFAが形成されるように並べられている。さらなる実施形態においては、修飾されたMFAには、これらは、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIが切り出されており、COINがセンス方向で配置されている対立遺伝子を生じるリコンビナーゼ部位の第2の2つの対が含まれる。
【0081】
1つの実施形態においては、並びは(b)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第3のリコンビナーゼに対して暴露されると、リコンビナーゼ部位の第5の対が、COIN、NSI、およびDSCの切り出しを指示するように並べられている。この場合、レポーターはセンス方向で維持される。
【0082】
1つの実施形態においては、並びは(b)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、リコンビナーゼ部位の第1の2つの対がDSCとレポーターの切り出しを指示し、そしてNSIのセンス方向への反転を指示する修飾されたMFAが形成されるように並べられている。ここでは、COINはアンチセンス方向で維持される。さらなる実施形態においては、修飾されたMFAにはリコンビナーゼ部位の第2の2つの対が含まれ、これらは、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIが切り出されており、COINがセンス方向で配置されている対立遺伝子を生じる。
【0083】
1つの実施形態においては、並びは(c)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第5のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIとDSCが切り出され、レポーターとCOINはアンチセンス方向で維持されるように並べられている。
【0084】
1つの実施形態においては、並びは(c)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、DSCとレポーターが切り出されており、NSIがセンス方向で配置されており、COINはアンチセンス方向で維持されている修飾されたMFAが形成されるように並べられている。さらなる実施形態においては、修飾されたMFAには、リコンビナーゼ部位の第2の2つの対が含まれ、これらは、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIが切り出され、COINがセンス方向で配置される対立遺伝子を生じる。
【0085】
1つの実施形態においては、並びは(d)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第5のリコンビナーゼに対して暴露されると、DSC、NSI、およびCOINが切り出され、レポーターがセンス方向で維持されるように並べられている。
【0086】
1つの実施形態においては、並びは(d)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、レポーターとDSCが切り出され、NSIがセンス方向で配置され、COINがアンチセンス方向で維持される修飾されたMFAが形成されるように並べられている。さらなる実施形態においては、修飾されたMFAにはリコンビナーゼ部位の第2の2つの対が含まれ、これらは、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、COINがセンス方向で配置され、NSIがアンチセンス方向で配置される対立遺伝子を生じる。
【0087】
1つの実施形態においては、並びは(e)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第5のリコンビナーゼに対して暴露されると、COIN、NSI、およびDSCが切り出され、レポーターがセンス方向で維持されるように並べられている。
【0088】
1つの実施形態においては、並びは(e)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、DSCとレポーターが切り出され、NSIがセンス方向で配置され、COINがアンチセンス方向で維持されている修飾されたMFAが形成されるように並べられている。さらなる実施形態においては、修飾されたMFAには、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIがアンチセンス方向で配置され、COINがセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位の第2の2つの対が含まれる。
【0089】
1つの実施形態においては、並びは(f)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第5のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIとDSCが切り出され、レポーターがセンス方向で維持され、COINがアンチセンス方向で維持されるように並べられている。
【0090】
1つの実施形態においては、並びは(f)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第5のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIとDSCが切り出され、レポーターがセンス方向で維持され、COINがアンチセンス方向で維持されるように並べられている。
【0091】
1つの実施形態においては、並びは(f)のとおりであり、リコンビナーゼ部位の対は、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、DSCとレポーターが切り出され、NSIがセンス方向で配置され、COINがアンチセンス方向で維持される修飾されたMFAが形成されるように並べられている。さらなる実施形態においては、修飾されたMFAには、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIがアンチセンス方向で配置され、COINがセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位の第2の2つの対が含まれる。
【0092】
1つの態様では、アンチセンス方向の目的のヌクレオチド配列とアンチセンス方向のCOINを有している構築物を含有する細胞を作製するための方法が提供される。この方法には、本明細書中に記載されるMFAを細胞のゲノムに導入する工程、MFAを含有している細胞を同定する工程、続いて、上記ゲノムを第1のリコンビナーゼに対して暴露する工程が含まれる。ここでは、ゲノム中の構築物に対する第1のリコンビナーゼの作用により、センス方向で配置された目的のヌクレオチド配列が生じる。
【0093】
1つの実施形態においては、細胞は、多能性細胞、人工多能性細胞、全能細胞、またはES細胞である。特異的な実施形態においては、ES細胞は、マウスまたはラットのES細胞である。
【0094】
1つの実施形態においては、構築物は、相同組み換えにより細胞に導入される。別の実施形態においては、構築物は細胞の核酸に無作為に組み込まれる。1つの実施形態においては、細胞の核酸は細胞のゲノムである。
【0095】
1つの実施形態においては、NSIに1つのエキソンが含まれる。1つの実施形態においては、NSIに、1つのエキソンと隣接するイントロン配列が含まれる。特異的な実施形態においては、隣接するエキソンには、5’と3’にイントロン配列が隣接している。1つの実施形態においては、ヌクレオチド配列に2つ以上のエキソンが含まれ、特異的な実施形態においては、イントロン配列(単数または複数)が含まれる。別の実施形態においては、NSIは1つのエキソンが欠失しているか、または1つのエキソンの1つの断片が欠失している。
【0096】
1つの実施形態においては、NSIは、1つの遺伝子の1つの野生型エキソンまたは複数のエキソンである。別の実施形態においては、NSIは、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を有している、1つの遺伝子の1つのエキソンまたは複数のエキソンである。
【0097】
1つの実施形態においては、COINには、1つ以上の核酸置換、欠失、または付加を含む、1つの遺伝子の1つのエキソンが含まれる。特異的な実施形態においては、COINに、ヒト、マウス、サル、またはラットの遺伝子の1つのエキソンが含まれる。
【0098】
1つの実施形態においては、COINに3’スプライシング領域が含まれる。特異的な実施形態においては、3’スプライシング領域の後ろに、cDNA、エキソン−イントロン配列、microRNA、microRNAクラスター、低分子RNA、コドンスキップエレメント、IRES、ポリアデニル化配列、およびそれらの組み合わせより選択される配列が続く。特異的な実施形態においては、低分子RNAはミュートロンである。特異的な実施形態においては、コドンスキップエレメントは、T2A、E2A、またはF2Aである。
【0099】
1つの実施形態においては、COINは、レポーター、遺伝子トラップ様エレメント(GT様エレメント)、および遺伝子トラップ様レポーター(GT様レポーター)より選択される。特異的な実施形態においては、GT様エレメントは、SA−薬剤耐性cDNA−polyAより選択される。特異的な実施形態においては、GT様レポーターは、SA−レポーター−polyAより選択される。
【0100】
1つの態様では、マウスの細胞ゲノム中に多機能性対立遺伝子を配置するための方法が提供される。この方法には、マウスの細胞中の1つの遺伝子座に、以下を含む第1の組み換え可能なユニットを含有している標的化構築物を導入する工程が含まれる:(a)動作配列(例えば、ヌクレオチド配列および/またはレポーター);(b)DSC;(c)上記遺伝子座に関してアンチセンス方向のNSI;(d)上記遺伝子座に関してアンチセンス方向のCOIN;ならびに、(e)レポーターとDSCを欠失させるため、NSIをセンス方向に反転させて戻すため、およびCOINを反転させてNSIを欠失させるかまたは再度反転させるために組み換え可能なユニットの中に並べられた部位特異的リコンビナーゼ認識部位。
【0101】
1つの実施形態においては、部位特異的リコンビナーゼ認識部位は、NSIがアンチセンス鎖になるように再度反転させられ、COINがセンス鎖になるように反転させられるように組み換え可能なユニットの中に並べられる。別の実施形態においては、部位特異的リコンビナーゼ認識部位は、NSIが欠失させられ、COINがセンス鎖になるように反転させられるように組み換え可能なユニットの中に並べられる。
【0102】
1つの実施形態においては、組み換え可能なユニットは、第1のリコンビナーゼに対してMFAが修飾された標的遺伝子座が暴露されると、レポーターとDSCとを含有している第1の組み換え可能なユニットが欠失させられ、NSIが、上記遺伝子座に関してセンス方向で配置され、COINがアンチセンス方向で維持されて、第2の組み換え可能なユニットが形成するように並べられる。
【0103】
1つの実施形態においては、アンチセンス方向の目的のヌクレオチド配列は、アンチセンス方向のエキソンまたはイントロン配列が隣接しているエキソン(ここでは、エキソンとイントロン配列は互いにアンチセンス方向で存在する)である。特異的な実施形態においては、アンチセンス方向で配置されているエキソンは、標的化構築物により置き換えられたエキソンと同一である。特異的な実施形態においては、アンチセンス方向のNSIは、1つのエキソンとそのエキソンの周囲の配列である。特異的な実施形態においては、NSIは2つ以上のエキソンである。特異的な実施形態においては、NSIはエキソンではない配列である。
【0104】
1つの実施形態においては、第1のリコンビナーゼの作用により生じた第2の組み換え可能なユニットが第2のリコンビナーゼに対して暴露される。ここでは、第2のリコンビナーゼがNSIを欠失させ、COINをセンス方向で配置する。
【0105】
1つの実施形態においては、第1のリコンビナーゼの作用により生じた第2の組み換え可能なユニットが第2のリコンビナーゼに対して暴露される。ここでは、第2のリコンビナーゼがNSIをアンチセンス方向で配置し、COINをセンス方向で配置する。
【0106】
1つの態様では、ノックアウトの相補のための方法が提供される。この方法には、ヒト以外の動物に本明細書中に記載されるMFAを導入する工程が含まれる。ここでは、上記核酸構築物には、アンチセンス方向の野生型核酸配列とアンチセンス方向のCOINが含まれ、上記核酸構築物が第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、野生型核酸配列が反転してセンス方向となり、転写されるが、COINはアンチセンス方向で残る。第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、上記野生型核酸配列が切り出されるか、または反転してアンチセンス鎖に戻され、COINは反転してセンス方向になる。
【0107】
1つの実施形態においては、ヒト以外の動物はマウスである。
【0108】
1つの実施形態においては、COINがレポーターエレメントである。1つの実施形態においては、レポーターエレメントは、蛍光タンパク質、発光タンパク質、または酵素より選択される。特異的な実施形態においては、レポーターは、GFP、eGFP、CFP、YFP、eYFP、BFP、eBFP、DsRed、MmGFP、ルシフェラーゼ、LacZ、およびアルカリホスファターゼより選択される。
【0109】
1つの態様では、本発明の多機能性対立遺伝子を含有している哺乳動物細胞が提供される。
【0110】
1つの実施形態においては、哺乳動物細胞は、マウス細胞およびラット細胞より選択される。1つの実施形態においては、細胞は、幹細胞、胚性幹(ES)細胞、人工多能性細胞、多能性細胞、および全能細胞より選択される。
【0111】
1つの態様では、本発明の多機能性対立遺伝子を含有しているヒト以外の胚またはヒト以外の動物が提供される。
【0112】
1つの実施形態においては、ヒト以外の胚またはヒト以外の動物に、1種類以上の部位特異的リコンビナーゼに対して暴露された多機能性対立遺伝子が含まれる。特異的な実施形態においては、上記多機能性対立遺伝子は、交雑工程の結果として1種類以上の部位特異的リコンビナーゼに暴露されている。ここでは、多機能性対立遺伝子を含有しているヒト以外の動物が、1種類以上の部位特異的リコンビナーゼを含有しているヒト以外の動物と交配させられ、ヒト以外の胚またはヒト以外の動物は交雑工程の子孫である。
【0113】
1つの態様では、本明細書中に記載されるMFAを含有している細胞が提供される。ここでは、細胞は哺乳動物細胞(例えば、ES細胞または多能性細胞または人工多能性細胞)である。特異的な実施形態においては、細胞はマウスまたはラットの細胞である。
【0114】
1つの態様では、本明細書中に記載されるMFA、または本明細書中に記載されるように1種類以上のリコンビナーゼに暴露されたMFAを含有している、ヒト以外の動物が提供される。
【0115】
1つの態様では、本明細書中に記載されるMFA、または本明細書中に記載されるように1種類以上のリコンビナーゼに暴露されたMFAを含有している、ヒト以外の胚が提供される。
【0116】
1つの態様では、本明細書中に記載されるMFAを使用して作製された細胞、ヒト以外の胚、またはヒト以外の動物が提供される。
【0117】
1つの態様では、本明細書中に記載されるMFAを使用して作製された細胞、ヒト以外の胚、またはヒト以外の動物が提供される。
【0118】
任意の態様または実施形態は、必要に応じて任意の他の態様または実施形態と組み合わせて使用することができる。例えば、任意の特定のMFAの実施形態と組み合わせて記載される任意のレポーターまたはDSCが、本明細書中に記載される任意のMFAの実施形態とともに使用され得、そして、任意の特定のMFAの実施形態と組み合わせて記載される任意の特定のリコンビナーゼまたはリコンビナーゼ部位が、本明細書中に記載される任意のMFAの実施形態とともに使用され得る。
【0119】
他の実施形態が、以下の詳細な説明を検討することにより記載され、これらは当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、同時に、1つのエレメント(U)を欠失させ、別のエレメント(D)を反転させるためのリコンビナーゼ認識部位の使用を説明する。
【図2】図2は、スプライシング領域と動作配列、その後ろに続くポリアデニル化(pA)シグナルを持つスプライシングアクセプター、薬剤選択カセット(DSC;選択した適切な方向で)、COIN、および5対のリコンビナーゼ認識部位を利用する、目的のヌクレオチド配列(NSI)について示す、多機能性対立遺伝子(MFA)対立遺伝子の1つの実施形態を説明する。R1/R1’、R2/R2’、R3/R3’、R4/R4’、およびR5/R5’は、リコンビナーゼ認識部位の類似する対を示す。
【図3】図3は、動作配列(簡単にするために、その配列の前にあるスプライシングアクセプターとスプライシング領域、およびその配列の後ろに続くpolyAシグナルは示していない)、DSC(選択した適切な方向で)、NSI、およびCOINを利用する、MFA対立遺伝子の1つの実施形態の組み換え可能なユニット(R1/R1’、R2/R2’、R3/R3’、R4/R4’、およびR5/R5’により定義される)の概念図を説明する。
【図4】図4は、説明の目的のための特異的リコンビナーゼ認識部位を持ち、これにより、LacZ配列を含有している動作配列を含む、1回のリコンビナーゼ工程を使用して最初のMFAの実施形態からDSCならびにNSIおよびCOINエレメントが除去されている「クリーンアップ」ヌル対立遺伝子(cleaned−up null allele)を生じる、MFAの特定の実施形態を説明する(上部)。簡単にするために、LacZ配列の前にあるスプライシングアクセプターとスプライシング領域、およびLacZ配列の後ろに続くpolyAシグナルは示さない。
【図5】図5は、1種類のリコンビナーゼ(ここでは、この対立遺伝子の実施形態のFRT3部位に最初に作用するFlpリコンビナーゼ)を使用してMFAからCOINを含む/取り込む条件的対立遺伝子を作製する、MFAの1つの特定の実施形態を説明する。簡単にするために、LacZ配列の前にあるスプライシングアクセプターとスプライシング領域、およびLacZ配列の後ろに続くpolyAシグナルは示さない。
【図6】図6は、1種類のリコンビナーゼ(ここでは、この対立遺伝子の実施形態のFRT部位に最初に作用するFlpリコンビナーゼ)を使用してMFAからCOINを含む/取り込む条件的ヌル対立遺伝子を作製する、MFAの1つの実施形態を説明する。簡単にするために、LacZ配列の前にあるスプライシングアクセプターとスプライシング領域、およびLacZ配列の後ろに続くpolyAシグナルは示さない。
【図7】図7は、リコンビナーゼ処理(図5または図6に示すようなFlp暴露)後に、対立遺伝子が第2のリコンビナーゼ(Cre)に対して暴露され、NSIの欠失と、転写のセンス方向でのCOINの配置が生じる1つの実施形態を説明する。
【図8】図8は、リコンビナーゼ処理(Flp暴露)後に、対立遺伝子が第2のリコンビナーゼに対して暴露され、NSIの5’位置での第2のリコンビナーゼについてのリコンビナーゼ認識部位の(別の)配置が原因でCOINとNSIの反転が生じる1つの実施形態を説明する。
【図9】図9は、Ensemblマウスゲノムサーバー(トップページ − www.ensembl.org)から編集したエキソン2〜4の領域内にあるマウスHprt1遺伝子のエキソン−イントロン構造を説明する。エキソン2〜エキソン4の領域を、保存領域を強調するためにECRブラウザ(http://ecrbrowser.dcode.org)において拡大する。エキソン3を、点々をつけた楕円形により強調する。黒色の垂直方向の矢印は動作配列とDSCの挿入点を示し、一方、灰色の矢印はCOINエレメントの挿入点を示す。これらは全て、Hprt1MFA対立遺伝子を操作するために使用した。エキソン3に隣接している進化の過程で保存されてきたイントロン配列はいずれも、得られる対立遺伝子の中で分断されることはないことに留意すること。点々をつけた平行四辺形は、Hprt1MFA対立遺伝子においてNSIとなる領域を示す。
【図10】図10は、MFAの一例、具体的には、Hprt1遺伝子についてのMFAを説明する。Hprt1のエキソン3と、エキソン3に隣接している進化の過程で保存されてきたイントロン配列(図9で説明したとおり)が、NSIになる。標的化されると、NSIは、Hprt1遺伝子の転写方向に関してアンチセンス鎖に配置される。動作配列(−SA−lacZ−polyA−)とDSCは、NSIの上流に配置される。動作配列は、Hprt1遺伝子の転写方向に関してセンス方向で配置され、遺伝子トラップエレメントとして効率よく作用し、動作配列の下流の転写を抑制する。COINエレメントは、Hprt1遺伝子の転写方向に関してアンチセンス方向でNSIの下流に配置される。COINエレメントとNSIはいずれも、生産性があるHprt1 mRNAには取り込まれ得ず、したがって、得られる対立遺伝子Hprt1MFAは、レポーター(LacZ)を持つヌル対立遺伝子である。Hprt1MFA対立遺伝子を含有しているエレメントには、以下のように並べられた部位特異的リコンビナーゼ認識部位が隣接する:FRT−動作配列−Rox−DSC−FRT3−(LoxP)−(NSI)−(Lox2372)−(FRT)−(FRT3)−(COIN)−(Lox2372)−(LoxP)−Rox。この場合、括弧は、Hprt1遺伝子の転写方向に関してアンチセンス方向での配置を、または部位特異的リコンビナーゼ部位の場合には、相互に認識される対に関して反対方向での配置を示す。
【図11】図11は、MFAの1つの実施形態を説明し、特定の重複している組み換え可能なユニット(A)と、第1のリコンビナーゼ(B)または第2のリコンビナーゼ(C)および第3のリコンビナーゼ(D)の作用により生じる、得られる対立遺伝子を示している。
【図12】図12は、MFAの1つの実施形態を説明し、特定の重複している組み換え可能なユニット(A)と、第1のリコンビナーゼ(B)または第2のリコンビナーゼ(C)および第3のリコンビナーゼ(D)の作用により生じる、得られる対立遺伝子を示している。
【図13】図13は、MFAの1つの実施形態(A)を説明し、NSIをセンス方向で配置する第1のリコンビナーゼ(B)、およびNSIをアンチセンス方向で配置し、一方、COINをセンス方向で配置する第2のリコンビナーゼ(C)の作用により生じる、得られる対立遺伝子を示している。
【図14】図14は、MFAの1つの実施形態(A)を説明し、NSIをセンス方向で配置する第1のリコンビナーゼ(B)、およびNSIをアンチセンス方向で配置し、一方、COINをセンス方向で配置する第2のリコンビナーゼ(C)の作用により生じる、得られる対立遺伝子を示している。
【図15】図15は、MFAの別の実施形態(A)を説明し、NSIをセンス方向で配置する第1のリコンビナーゼ(B)、およびNSIをアンチセンス方向で配置し、一方、COINをセンス方向で配置する第2のリコンビナーゼ(C)の作用により生じる、得られる対立遺伝子を示している。
【図16】図16は、MFAの実施形態の一例を説明する。ここでは、レポーターは、SA(adml)−gtx−LacZ−pAであり、DSCはNeoであり、NSIは重要なエキソン(e)であり、そしてCOINはGtx−SA−HA−myc3−TM−T2A−GFP−pAであり(A)、アンチセンス方向のCOINを維持したままの、リコンビナーゼの作用によるセンス方向でのNSIの配置(B)、およびさらなる、センス方向でのCOINの配置と同時に起こるNSIの切り出し(C);矢印は、MFA中での(A)、およびリコンビナーゼ処理した際の(BおよびC)リコンビナーゼ部位の実体と方向を確認するために使用したプライマーを示す。
【図17】図17は、Hprt1/Y、Hprt1MFA/Y、Hprt1COIN/Y、およびHprt1COIN−INV/Y ES細胞のぞれぞれについて、細胞生存性および増殖アッセイの結果を示す。全てを、6−TGを含まない標準的なES細胞培養培地(6−TGなし;上のパネル)または10μMの6−TGを補充した標準的なES細胞培養培地(6−TG;下のパネル)のいずれかの中で培養した。
【図18】図18は、Hprt1/Y細胞(WT)、Hprt1MFA/Y(MFA)(すなわち、図16AのMFAで標的化した細胞)、Hprt1COIN/Y細胞(MFA+FLPo)(すなわち、図16AのMFAで標的化し、その後、FLPoで処理した細胞)、およびHprt1COIN−INV/Y細胞(MFA+FLPo+Cre)(すなわち、Creで処理したHprt1COIN/Y細胞)由来の全タンパク質調製物のウェスタンブロットを示す。上のパネルは、Hprt1タンパク質の検出を示し、中央のパネルはLacZ(レポーター)タンパク質の検出を示し、そして下のパネルはローディング対照としてのGAPDHタンパク質の検出を示す。
【発明を実施するための形態】
【0121】
(詳細な説明)
本発明は、記載される特定の方法および実験条件に限定されない。なぜなら、そのような方法および条件を変えることができるからである。本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためだけのものであり、限定とは意図されない。そのため、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0122】
他の場所で明白に定義されない限りは、本明細書中で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似するかまたは等価である任意の方法および材料を、本発明の実施または試験において使用することができるが、特定の方法および材料がここに記載される。本明細書中で言及される全ての刊行物は、言及されることによりそれらの全体が本明細書中に組み込まれたこととなる。
【0123】
表現「センス方向」または「センス」は、ゲノムの局所の状況における転写可能な核酸配列のコード方向またはセンス鎖をいい(例えば、配列が、ゲノム中の転写可能な配列中またはその付近に「センス方向」で配置されている場合は、その配列の方向は転写と適合する)、そしてタンパク質をコードする遺伝子については、その配列が配置されている領域または遺伝子座または遺伝子の中での配列の翻訳のコード方向またはセンス鎖をいう。表現「アンチセンス方向」または「アンチセンス」は、その配列が、転写と適合する鎖とは反対の鎖(すなわち、アンチセンス)中に存在する、1つの領域または遺伝子座または遺伝子にある配列の配置をいう。したがって、特異的な例では、配列が遺伝子中で「センス」方向で配置されている場合は、これは一般的には転写され得る。配列が「アンチセンス」方向で配置されている場合は、これは一般的には転写されない。センス鎖とアンチセンス鎖との間での移動によりいずれかの鎖からの転写が生じ得る遺伝子座については、配列は、センスからアンチセンスまたはアンチセンスからセンスへの移動により、両方ではない一方からの転写が生じるように選択または操作され得る。
【0124】
用語「COIN」には、条件的エレメントの言及が含まれる。条件的エレメントには、その発現(または発現できないこと)が独立した事象の発生に左右されるヌクレオチド配列が含まれる。例えば、センス方向で1つのタンパク質もしくはその断片のいずれかをコードする1つのコード領域、または非コードRNA(ncRNA)が、反対方向の部位特異的組み換え部位が両側に隣接させられて、アンチセンス方向で配置される。隣接部位を認識する部位特異的リコンビナーゼの非存在下では、コード領域は転写されない。なぜなら、これは標的遺伝子に関してアンチセンス鎖の中に配置されているからである。類似する部位特異的リコンビナーゼで処理されると、COIN配列は反転させられ、結果として、これは、転写されたメッセージの中に取り込まれることになり、これにより、タンパク質もしくはその断片の発現が生じるか、またはncRNAの中に生じる。
【0125】
用語「不適合」は、2つ以上のリコンビナーゼ認識部位を記載するために使用される場合は、2つ以上のリコンビナーゼ認識部位が互いに組み換わることができない(しかし、これらの2つ以上のリコンビナーゼ認識部位は他の類似する(例えば、同一の)リコンビナーゼ認識部位と組み換わることができる)性質をいう。
【0126】
(ノックアウトおよび条件的対立遺伝子)
遺伝的方法による遺伝子機能の研究により、自然界に存在している変異体または突然変異体対立遺伝子の発見、あるいはそのような変異体および突然変異体対立遺伝子の意図的な作製が実現した。後者は、無作為な突然変異誘発と、それに続いて行われる表現型に基づくスクリーニング、その後の原因となる突然変異の解明(「順遺伝学」と呼ばれているプロセス)によるか、または突然変異を特異的「標的」遺伝子または遺伝子座の中に提供する遺伝子操作方法論(「逆遺伝学」と呼ばれているアプローチ)のいずれかにより進められる。
【0127】
マウス(最も広く使用されている哺乳動物のモデル生物)においては、遺伝子の標的化により特異的な、分子的に極めて十分に定義された突然変異を操作する能力が、逆遺伝学の分野の中心となる。しかし、今日までに作製された変異体の大部分は、「ノックアウト対立遺伝子」または簡単に「ノックアウト」と一般的に呼ばれている、比較的単純なヌル対立遺伝子であり、通常は、1つの遺伝子のエキソン−イントロン領域またはその一部の欠失を含み、さらに近年になると、同時に起こる、その領域のLacZのようなレポーターcDNAでの置き換えが伴う。バクテリオファージまたは酵母由来の、哺乳動物細胞中での使用のために修飾された、部位特異的リコンビナーゼとそれらの類似する認識部位
【0128】
【化2】

の採用は、DSCの標的化後の切り出し(これに部位特異的リコンビナーゼ認識部位が隣接している限りにおいて)を可能にしただけではなく、条件的ヌル対立遺伝子の操作もまた可能にした、より最近の発展である。標的遺伝子のエキソン−イントロン領域(またはより頻繁には、その一部)にリコンビナーゼ認識部位が隣接している条件的ヌル対立遺伝子が開発されており、これにより、修飾された対立遺伝子は類似するリコンビナーゼの作用によるヌル状態への転換に適しているものとなる。通常のノックアウトを上回るこの方法の利点は、修飾された遺伝子のノックアウトへの転換を、場所(臓器、組織、または細胞のタイプ)、時間、そして多くの場合には、類似するリコンビナーゼが活性である期間をもまた制御することにより、時空的に制御することができることである。
【0129】
従来、条件的ヌル対立遺伝子は、対応する単純なノックアウト対立遺伝子の追跡として操作されており、したがって、後者が胚性致死および/または複数の表現型を示すかのいずれかであるほとんどの場合には、標的遺伝子の機能の研究は、成人の設定では不可能となる(胚性致死の場合)か、あるいは特定の細胞のタイプまたは生物学的プロセスにおいては解明が困難となる(遺伝子が複数の表現型を示す場合)。遺伝子標的化により遺伝子操作されたマウスを作製するために費やされた多くの努力、時間、および費用を考えると、ノックアウトの最初の作製、その後のその表現型の解析、その後の条件的ヌルの操作のこの段階的様式は、研究者の数が増えることにより負担がかかると考えられている。加えて、少数の遺伝子については、通常のノックアウト対立遺伝子は、ヘテロ接合型のヌル状態でもこれらが胚性致死を生じるので、生殖細胞系列を通じて行うができない。したがって、1回の遺伝子標的化工程において二重(ヌルと条件的)対立遺伝子に、またはさらには多様式対立遺伝子に操作できるようにしたいということが、当該分野に関与している者とエンドユーザーの共同体の根強い目的である。この必要性に取り組むために2つの方法:FlExおよびノックアウト−first(KO−first)を実際に試みた。
【0130】
FlEx法は、標的化のため、および遺伝子トラップ(GT)としての両方で使用されているが、基本的な設計原理は、最終的な用途とには関係なく同じである。FlExの基本的設計を図1に示す。Uは、例えば、DSCを示しており、Dはレポーターを示している。FlEx構築物に対するリコンビナーゼの作用の結果は、Uエレメント(例えば、DSC)の永久的な欠失とDエレメント(例えば、レポーター)の反転(および発現)である。
【0131】
そのもともとの実施形態と用途においては、FlExは条件的対立遺伝子を操作するための方法として開発された。FlExは、Rargについての「条件的ヌル」対立遺伝子を作製するために、この遺伝子にFlExカセットを挿入することにより最初に使用され、その結果、loxP/lox511カプレットがRargのエキソン8の上流に挿入され、そして、FlExカセットの残り(Rargに関してアンチセンスの方向のSA−lacZ−SV40polyA(GT様エレメント)の5’から3’、次いで、第1のloxP/lox511カプレットに関してアンチセンス方向の別のloxP/lox511カプレットからなり、そしてセンス方向のネオマイシンホスホトランスフェラーゼミニ遺伝子(neo)を含有している)が、Rargのイントロン8の中に挿入された。この設計は、GT様エレメントSA−lacZ−SV40polyAのCreに媒介される反転ができるようにし、その結果、これはセンス鎖の中に入り、遺伝子トラップとして作用し;同時に、Rargのエキソン8はアンチセンス方向になる(転写がGT様エレメントSA−lacZ−SV40polyAの末端で終結しない場合でもなお、エキソン8が読み取られるメッセージに取り込まれないことが実質的に確実になる)が、neoが同時に欠失させられ、それにより、Rargの発現がlacZの発現に置き換えられた、Rargのヌル対立遺伝子が生じる。
【0132】
しかし、ヌル対立遺伝子を作製する(Creへの暴露による)この方法が成功したにも関わらず、Rargの再度並べられていない(pre−Cre)FlEx対立遺伝子は、もともと設計されたような真の条件的ヌルではなく、RargFLExの発現がRargとの比較において有意に減少した極めて低形質の対立遺伝子であった。結果として、RargFLEx/FLExマウスは、Rargノックアウトマウスのあまり低形質ではない形態と似た表現型を示し、この最初のFlExの実施形態が、真の条件的ヌル対立遺伝子を作製することができないことが明らかになった。
【0133】
FlEx法はまた、遺伝子トラップでの使用のために適応させることもできる。この方法のそのバリエーションにおいては、GTエレメント(SA−βgeo−polyA、ここでは、βgeoはneoオープンリーディングフレームとのlacZのインフレーム融合体であり、したがって、LacZにより報告する能力とNeoにより選択する能力を併せ持つ)には、2つのFlEx様アレイ(FRT/FRT3カプレットからなる外側のアレイとloxP/lox511カプレットからなる内側のアレイであり、いずれも、互いに鏡像の立体配置である)が隣接している。この様式においては、得られるGTベクターの活発に転写される遺伝子への取り込みの成功により、βgeoの発現が生じ、したがって、G418について選択することによりこれらの事象を選択することが可能となり、理論的には、GTエレメントの取り込み部位に応じて、対応する遺伝子についての機能的なヌル対立遺伝子の作製も生じる。一旦、遺伝子が捕捉されて対応するFlEx対立遺伝子が作製されると、得られる対立遺伝子は、ノックアウト対立遺伝子または低形質の対立遺伝子(すなわち、捕捉された遺伝子の発現がダウンレギュレートされる対立遺伝子)であり得る。これらのFlEx対立遺伝子のFlpリコンビナーゼでの処理は、原理上はGTエレメントをアンチセンス鎖に反転させるはずであり、それにより、捕捉エレメントの中での転写終結が減少し、これにより、修飾された遺伝子が条件的GTに転換する。この条件的GTは、ここではアンチセンス鎖の中に「隠れており」、FlExアレイのloxP/lox511カプレットに対して作用することによりこれを再度反転させるCreへの暴露により再度活性化させることができる。
【0134】
FlEx技術のこの用途は、ヌル対立遺伝子を作製するためにGTエレメントに頼る。したがって、これが遺伝子トラップ技術の限界となる。これは、真のノックアウトが作製され、不活化調節エレメントのさらなるリスク(無作為な挿入による不活化による)を引き受けることを保証するものではない。GTエレメントの配置と、転写の終結においてそれが有効である程度の両方が、任意の所定の対立遺伝子がヌル対立遺伝子であるかどうかに影響を及ぼし得る。さらなる問題は、すでに確立された機能を有していない遺伝子の大部分について、そしてさらには、その遺伝子を決定的なヌル対立遺伝子の研究を通じて決定された表現型と関連づけることについて、GT対立遺伝子が真にヌル対立遺伝子であることを確定的に証明することが極めて困難であることである。実際、これらならびに他の大半の技術的理由について、大規模なマウス突然変異コンソーシアム(mouse mutagenesis consortium)であるEUCOMMによる採用および使用の4年後に、KO−first法を使用する遺伝子標的化に賛成して、FlEXに基づく遺伝子トラップ法は放棄された。
【0135】
FlEx法と同様に、典型的な現在のKO−first対立遺伝子は、ノックアウト様対立遺伝子を作製するためには、少なくとも部分的に、GT様エレメント(SA−LacZ−polyAまたはSA−βgeo−polyAのいずれか)に頼る。しかし、そのアプローチに伴う限界の認識(GTを用いて得られた経験からの効率的な学習、ならびに理論的検討)において、KO−firstにもまた、真のヌル対立遺伝子を作製するためには、GT様エレメントの下流にあるLoxP配列が導入された重要なエキソンが(Creを使用して)欠失させられなければならないことが必要である。したがって、実際には、この方法には、最初に、FRTが隣接するレポーター/GT様カセットと薬剤ミニ遺伝子の、欠失させようとするエキソンのいくらか上流にある標的遺伝子のイントロンの中へ配置、同時に、欠失させようと計画されたエキソンにLoxP配列を導入することが必要である。このエキソンは「重要なエキソン」と呼ばれており、「重要なエキソン」を定義するために使用される基準とは無関係に、KO−first法には、得られる対立遺伝子を真のヌルにするためにはその除去が明らかに必要である。したがって、標的化後、得られる対立遺伝子は真のヌルでも、条件的ヌル対立遺伝子でもない。得られる対立遺伝子が真のヌルではない理由は、Creによる重要なエキソン(これにはLoxP配列が導入されている)が除去されない場合は、GT様カセットの周りの読み通し転写(read−through transcription)およびスプライシング、ならびに薬剤ミニ遺伝子の存在が原因であるGT様カセットの下流の遺伝子のメッセージの転写の可能性が残るという事実に起因している。得られる対立遺伝子が条件的ヌル対立遺伝子ではない理由は、レポーター/GT様カセットおよび薬剤ミニ遺伝子の両方が除去されない場合には、正常なメッセージ(正常な組成、ならびに発現レベルおよび部位)の生成が起こり得ないという事実にある。
【0136】
したがって、所望される用途(ヌルまたは条件的ヌル)に応じて、KO−first対立遺伝子について、第2の標的化後工程を行わなければならない。真のヌルが所望される場合は、KO−first対立遺伝子は、重要なエキソン(これにはLoxP配列が導入されている)を欠失させるためにCreリコンビナーゼで処理されなければならない。
【0137】
逆に、条件的対立遺伝子は、レポーター/GT様カセットと薬剤ミニ遺伝子(これらには、統合したものとして、FRT部位が隣接している)のFlpに媒介される除去の後で作製され得る。この様式においては、残る修飾は、FRT部位と、LoxP配列が導入された「重要な」エキソンだけである。次いで、この対立遺伝子は、LoxP配列が導入されたエキソンのCreに媒介される除去により、ヌルに転換させられ得る。
【0138】
KO−first法は、FlExの限界のうちのいくつかに取り組むが、これはなおも、その有用性を限定する3つの主要な欠点により阻まれている:第1に、これは、真のKO−firstを作製することについてのGT様エレメントの信頼性がないことを修正するが、さらなる標的化後工程を行わなければ真のKO−firstを提供することはできない。第2に、「重要なエキソン」を定義するために使用される基準が原因で、KO−firstは、全ての非タンパク質コード遺伝子(すなわち、非常に重要な生体分子の1つのクラスである「非コード」RNAをコードするもの)が及ばない位置に効率よく位置されている、タンパク質をコードする遺伝子に限定されない。さらに、それについての「重要なエキソン」を定義することができるタンパク質をコードする遺伝子だけが、KO−firstの設計に適している。重要なエキソンを定義するための基準は、その欠失が、それの前にあるオープンリーディングフレーム(ORF)の一部分とその後ろにあるORFの部分との間にフレームシフトを生じることである。これは、決定的なノックアウトを提供するためには、このフレームシフトの誘導がKO−first法に必須であることがその理由である。したがって、タンパク質をコードする遺伝子のなお特定のクラスは、KO−firstの設計に適していない。これらには、ORFが1つのエキソンの中に含まれている遺伝子、およびタンデムな複数のエキソン全てまたはその大部分が同じフレームの中に残る遺伝子が含まれる。第3に、一旦、KO−first対立遺伝子が(Flpの作用により)条件的ヌル対立遺伝子に転換させられると、得られる対立遺伝子は、条件的対立遺伝子がヌル状態に転換すると、ヌルであることを積極的に報告するための機構を全く提供しない。典型的には、ノックアウト−first対立遺伝子は、DSCの使用(KO−firstにおいて使用されるSA−lacZ−polyAとDSCがFRT化されている場合に、Flpリコンビナーゼ(Flp recombinased)を使用して達成される工程)とともに、レポーター(例えば、lacZ)が除去されており、これにより、LoxP配列が導入されたエキソン(と、その上流にあるFRT部位)だけが残る。このように、ヌル対立遺伝子の達成を報告するレポーター機能のための選択肢は、従来のノックアウト−firstアプローチには存在していない。
【0139】
(多機能性対立遺伝子)
動作配列を含む1セットの機能的エレメント(これにより除去または不活化を確認する)の導入によりゲノム中のヌクレオチド配列の除去または不活化を可能にし、それにより真のノックアウトを生じ、対立遺伝子中でのその発現が条件的であり(すなわち、特定の分子事象または合図に依存する)、報告可能である1つ以上の条件的エレメントもまた含む、多機能性対立遺伝子(MFA)アプローチが提供される。
【0140】
MFAアプローチは、標的化された対立遺伝子をヌル状態に転換させるために第2の標的化後工程を必要としない、真のノックアウト−first対立遺伝子を作製するための標的化の選択肢を提供する。これにより、典型的な現在のノックアウト−first対立遺伝子(標的化された対立遺伝子をヌル対立遺伝子に転換させるために標的化後の工程が必要である)を上回る利点と発想の転換がもたらされる。MFAアプローチはまた、「重要なエキソン」を伴う用途にも限定されず、フレームシフトによるノックアウトにも限定されず、一般的には、目的のあらゆるヌクレオチド配列の修飾に適用することができる。MFAは、1回の標的化工程後に、高い多用途性を持つ数え切れないほどの対立遺伝子の選択肢を提供する。
【0141】
MFAアプローチは、動作配列と関連がある任意の選択された配列が反転するとレシピエントゲノム中で第2の状態を作製する機会を提供する真のKO−first対立遺伝子)を提供する。ここでは、反転すると、選択された配列の転写が報告され得る。選択された配列は、例えば、COINであり得るがこれに限定されない。選択された配列は、それ自体が動作配列を含み、この動作配列には、例えば、別の遺伝子または調節配列の転写を制御するためのリプレッサーが含まれる。1つの例においては、1つの遺伝子座にMFAを配置する1回の標的化工程により、野生型遺伝子座を特定の状態(State A)(例えば、内因性の遺伝子のノックアウト)になるように修飾することができる。MFAは、第1のリコンビナーゼの作用により、別の特定の状態であるState B(例えば、野生型表現型の回復)への状態の変化が可能であるように設計される。State Bは、第2のリコンビナーゼによりState C(例えば、ノックアウトの再度の確立とCOINの発現)に転換させることができるなどである。このように、選択された遺伝子座の様々な状態を、MFAを利用して1つの最初の対立遺伝子から得ることができる。
【0142】
MFAアプローチは、MFAを含有しているトランスジーンが、内因性の転写活性があるプロモーターを利用するMFAエレメントの発現を獲得するように、遺伝子トラップとしてMFAを配置するために使用することができる。
【0143】
MFAアプローチは、従来の遺伝子組み換えの用途において使用することができる。ここでは、動作配列には、プロモーター、エキソン、または複数のエキソンとイントロン、そして状況に応じた転写制御エレメント、ならびにその後ろに続くDSC(これには従来の前核注入に基づく遺伝子組み換えの必要がないので随意的)、第1の動作配列に関してアンチセンス方向のNSI(これは第2の動作配列であり得る)、および、これもまた第1の動作配列に関してアンチセンス方向で配置されたCOIN(これは第3の動作配列であり得る)が含まれる。
【0144】
MFAアプローチは、ヌル対立遺伝子、条件的ヌル対立遺伝子、COIN、動作配列(これにはレポーターが含まれ得る)、およびDSC、ならびに他のエレメントを含む遺伝子座を、1回の標的化工程で作製するための多数の選択肢を提供する。この遺伝子座の標的化後の操作は、1回の標的化工程においてMFA構築物を用いてMFA含有遺伝子座に導入された組み換え可能なユニットの使用による選択肢を提供する。標的化後の遺伝子座に様々な操作可能な選択肢を実行するために必要な異なるリコンビナーゼの数は、様々な対の不適合である類似する部位特異的リコンビナーゼ認識部位(例えば、1対のFRT部位および1対のFRT3部位、1対のloxP部位および1対のlox2372部位など)を利用することにより減少させられる。したがって、MFAを含有している遺伝子座の1種類のリコンビナーゼに対する暴露は、少なくとも2つの異なる組み換え可能なユニットに対して別々に作用することができて、ユニットが目的のエレメント(例えば、レポーター、DSC、エキソン、COINなど)を所望する方向で配置するように、ならびに、部位特異的リコンビナーゼ認識部位の方向を組み換え可能なユニットの中で再度合わせて新しい組み換え可能なユニットが形成するように、1つのユニットを組み換えることができる。
【0145】
MFAアプローチは、任意の所望される配列(レポーター、または標的遺伝子もしくは標的遺伝子の一部の突然変異もしくは変異体形態をコードするcDNA、または標的遺伝子に関連するものおよびホモログ、またはさらには非タンパク質コード配列(例えば、microRNAまたはmicroRNAのクラスター)、あるいはこれらのエレメントの任意の組み合わせ(これらが、内部リボソーム侵入部位もしくは異なるエレメントの間にある「自己切断」ペプチド(選択されるエレメントに依存する)の配置により適応させることができる場合)を含むが、これらに限定されない)を含むことができるCOINについての選択肢を提供する。
【0146】
MFAアプローチは、ノックアウトが標的化により達成され、第1のリコンビナーゼがノックアウトされたエレメントを活性な(野生型の)状態に戻して再建させるために利用され、第2のリコンビナーゼが、ノックアウトを再建するために利用される選択肢を提供する。ここでは、COINは、ノックアウトされたエレメントの再建またはノックインと同時にセンス方向で配置され、これにより、第2のリコンビナーゼが活性化された細胞中でのノックアウトの再建を報告する。
【0147】
現在のノックアウト−firstアプローチには、条件的対立遺伝子がヌルに転換させられた場合に、ヌルであることを報告するための機構が欠けているが、MFAアプローチは、第2のリコンビナーゼが作用すると、目的のヌクレオチド配列(例えば、エキソンと周囲の配列、図5および図6のNSI)を反転させる、または反転させて切り出し、そして、報告エレメントをセンス方向で配置し、NSIの反転および/または切り出しを効率的に報告する報告エレメント(例えば、COIN、図5および図6参照、下部;遺伝子型分類により、および/あるいは視覚化、または他の定量的もしくは定性的決定により、状況に応じて細胞レベルで検出できる)の選択肢を提供する。この実施形態では、ヌル対立遺伝子は、1回の標的化工程の後に、第1のリコンビナーゼによって回復した対立遺伝子となるように転換させられ(この実施形態では、図5および図6のNSIは、エキソンおよび周辺の配列、または標的化ベクターにより置き換えられた遺伝子もしくはその一部である)、そして第2のリコンビナーゼにより、センス方向のCOINの配置によりその存在を報告するヌル対立遺伝子に転換させられる。
【0148】
したがって、MFAアプローチは、ノックアウトの表現型上の効果を評価し(標的化工程後)、その後、ノックアウトされたエキソンまたはその遺伝子もしくは領域を再建させるために第1のリコンビナーゼに対して暴露し、再建(すなわち、野生型に戻る転換)の表現型上の効果を評価し(相補性解析と同等の工程であるが、新しいトランスジェニックマウス株を作製する必要性はなく、従来行われている相補性解析を行う必要もない)、その後、状況に応じて、ノックアウトを再建するために第2のリコンビナーゼに対して暴露し、ヌル対立遺伝子の再建の表現型上の効果を評価するための選択肢を提供する。これにより、MFA対立遺伝子は、さらなる(条件的)エレメントの多用途性を持つ真のノックアウト−firstアプローチと、1回の標的化工程を含む1つのプロトコールにおいて遺伝子操作された動物の中で真の相補型分析を行う能力を併せ持つ。
【0149】
1つのMFAの用途においては、相補性解析のための方法が提供される。この方法には、細胞の内因性の対立遺伝子を本発明のMFAで標的化する工程、その後、標的化後工程において、MFAから条件的ヌル対立遺伝子を作製する工程(第1のリコンビナーゼに対する暴露による)(ここでは、MFA中の目的のヌクレオチド配列には、エキソンもしくはエキソンと周囲の配列、またはセンス方向の(例えば、表現型に関係がある)目的の別の領域が含まれる)、ならびに、条件的ヌル対立遺伝子の表現型上の効果(野生型であるはずである)を評価する工程が含まれる。さらなる実施形態においては、MFAはさらに、ヌルを再建する第2のリコンビナーゼに対して暴露され、状況に応じて、表現型上の効果が再び測定される。特異的な実施形態においては、第2のリコンビナーゼもまた、条件的レポーター(例えば、COIN)をセンス方向で配置する(ここでは、条件的レポーターが条件的ヌル対立遺伝子のヌル対立遺伝子への転換を報告する)か、あるいは、ヌルの再建を報告する場合もある。
【0150】
1つの実施形態においては、NSIには、標的遺伝子のエキソンと隣接するイントロン配列、またはエキソン−イントロン領域が含まれる。別の実施形態においては、NSIには、ncRNA、microRNA、microRNAクラスター、または他の小さいncRNA(単数または複数)をコードする領域が含まれる。
【0151】
MFAは、無作為に配置することができるか、または、ゲノム中の選択された遺伝子座に標的化させることができる対立遺伝子である。MFAは、類似する部位特異的リコンビナーゼ認識部位の対の並びの間の配列の慎重な配置により、ヌル、条件的ヌル、または組み合わせである条件的/ヌル対立遺伝子を生じるように操作される。ゲノム中の構築物の配置により生じる得られる対立遺伝子は、選択されたリコンビナーゼにより操作することができる。これは、一時的にゲノム中に構築物を導入することができるか、またはそのゲノム中に上記構築物を含有している動物の、選択されたリコンビナーゼの遺伝子を含有している動物(例えば、Creを発現する株、Flpを発現する株、もしくは
【0152】
【化3】

を発現する株)との交雑により導入することができる。
【0153】
様々な実施形態において、ヌルが、例えばリコンビナーゼの作用による「重要なエキソン」または「重要な領域」の除去のような第2の工程の実行に依存しない真のノックアウト−first対立遺伝子を作製するための方法と組成物が提供される。したがって、1回の標的化組み換え工程において得られた、レポーターを持つ真のノックアウト−first対立遺伝子であるという点で多機能性である対立遺伝子を、1回の標的化工程において作製するための実施形態が提供される。
【0154】
MFAアプローチによりノックアウト対立遺伝子を作製するための方法と組成物は、いくつかのタイプのノックアウト対立遺伝子(例えば、KO−firstまたはFlExのいくつかの実施形態)に必要であるような、ヌル対立遺伝子を作製するための重要なエキソンの反転の削除によりフレームシフトを生じさせることが必要であることによっては限定されない。代わりに、MFA法は、標的化の時に、標的遺伝子の転写ユニットからNSIを除去し、一方で同時に、NSIの発現を動作配列の発現と置き換えるその能力による。動作配列には、GT様エレメント(例えば、SA−lacZ−polyAのようなレポーター)、cDNA、1つのエキソンまたは複数のエキソン、調節エレメント(例えば、エンハンサー、インスレーター、オペレーター)が含まれ得る。動作配列は実験者により定義されるので、ヌル以外の対立遺伝子は等しく良好なものとすることができる。例えば、動作配列は、1つの遺伝子のドミナントネガティブ形態、または構成的に活性な形態、または活性化された形態をコードし得る。
【0155】
様々な実施形態においては、MFAに、得られる対立遺伝子の中で互いにアンチセンス方向である目的のヌクレオチド配列とCOINが含まれ、さらに、対立遺伝子中でいずれもセンス方向である(またはセンス方向とアンチセンス方向であるか、または互いに独立してセンス方向もしくはアンチセンス方向である)動作配列および/またはDSCが含まれる。第1のリコンビナーゼに対して暴露された後に、動作配列および/またはDSCが欠失させられると、目的のヌクレオチド配列がセンス方向に反転させられ、COINはアンチセンス方向で維持される。対立遺伝子にはさらに、目的のヌクレオチド配列とCOINの第2のリコンビナーゼによるその後の同時の反転が可能となるように配置された組み換え部位が含まれており、その結果、第2のリコンビナーゼが作用すると、目的のヌクレオチド配列はアンチセンス方向で配置され、COINはセンス方向で配置される。さらなる実施形態においては、目的のヌクレオチドは、第2のリコンビナーゼで処理されると欠失させられ、COINがセンス方向で残る。特異的な実施形態においては、COINはレポーターまたはDSCである。別の特異的な実施形態においては、目的のヌクレオチドは、1つの種の1つの遺伝子の目的の1つのエキソンまたは領域(例えば、マウス、ラット、ヒト以外の霊長類、またはヒトのエキソン)であり、COINは、別の種の1つの遺伝子の1つのエキソン(例えば、マウス、ラット、ヒト以外の霊長類、またはヒトのエキソン)である。
【0156】
MFAアプローチはまた、遺伝子トラップアプローチも可能にする。MFAアプローチのこの実施形態においては、MFAは、転写活性がある遺伝子座に挿入される。これは、無作為の組み換えにより、または「標的トラッピング化(targeted trapping)」により行われ得る(例えば、言及することにより本明細書中に組み込まれたこととなる米国特許第7,473,557号を参照のこと)。スプライシングアクセプターとスプライシング領域が前にあり、後ろにpolyAシグナルが続く動作配列は、任意の存在している転写されるゲノム配列のノックアウトまたは「ノックダウン」を提供する。プロモーターを持たない(すなわち、その発現が、転写活性がある遺伝子座のセンス鎖の中への挿入に依存する)DSCを含めることにより、MFAを含有している細胞のポジティブ選択を確実にする。部位特異的リコンビナーゼ認識部位の推奨される並びと組み合わせて、アンチセンス方向のCOINとともに目的のヌクレオチド配列(NSI)をアンチセンス方向で含めることにより、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると(捕捉された遺伝子座のプロモーターから)NSIを条件的に発現する能力が提供される。その後、第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、NSIの発現はオフにされ得、同時に、COINの発現に置き換えられる。プロモーターを持たないDSCは、選択された任意の細胞がプロモーターを持たないNSIおよびプロモーターを持たないCOINを発現する能力を持つこと、ならびに、発現が転写活性がある遺伝子座からの内因性の発現パターンに従うことを確実にする。
【0157】
MFAを使用する特定の有利なアプローチは、便宜上、特定の実施形態と組み合わせて(すなわち、図に示すように、特定の名称のリコンビナーゼ部位とヌクレオチド配列を含有している対立遺伝子を参照して)限定ではなく利便性のために記載される。すなわち、適切なリコンビナーゼとリコンビナーゼ認識部位、動作配列、レポーター、DSC、および目的のヌクレオチド配列を、本明細書中の開示に基づいて日常的に行われているとおりに選択することができる。「目的のヌクレオチド配列」すなわち「NSI」は、任意の目的のヌクレオチド配列、例えば、1つのエキソン、1つのエキソンと隣接配列(単数または複数)、2つ以上のエキソン、コード配列の1つの断片、コード配列全体、調節エレメントまたは配列、非タンパク質コード配列、イントロン、あるいはそれらの任意の組み合わせなどであり得る。COINには、cDNAならびに非タンパク質コード配列が含まれ得、そしてポリアデニル化シグナルおよび部位、microRNA、または他の非タンパク質コードRNA、IRES、コドンスキップペプチド、およびそれらの任意の組み合わせのようなエレメントが組み込まれ得る。特定のCOINとそれらを使用するためのいくつかのシステムは、例えば、米国特許第7,205,148号の中に見ることができる。
【0158】
任意の細胞(ヒト以外の動物の細胞を含む)中およびヒト以外の動物の中でMFAを作製し、使用するための方法と組成物が提供される。上記方法と組成物は、1つの細胞のゲノム中の任意の選択された部位(または無作為な部位)に有用な対立遺伝子を配置するための相同組み換え(または無作為な組み込み)を使用して利用され得る。上記方法と組成物は、多能性細胞、人工多能性細胞、および全能細胞において使用することができる。上記方法および組成物とともに使用するために適している細胞としては、ES細胞、例えば、マウスまたはラットのES細胞が挙げられる。様々な実施形態において、レポーター機能が内蔵されている条件的機能性についての選択肢を提供する真のKO−first対立遺伝子が提供される。
【0159】
エレメントとリコンビナーゼ認識部位の並びを、標的遺伝子の機能を削除するであろう構築物を作製する(すなわち、ヌル対立遺伝子を作製する)か、または標的遺伝子の機能を変化させ(例えば、これをドミナントネガティブ、構成的に活性、または低形質の対立遺伝子に変える)、同時に、下流のエレメントを全て削除する(これにより、(a)条件的対立遺伝子の作製、および(b)レポーターを用いるこれのヌルへの復帰が可能となる)ように設計することができる方法の一例を図2に説明する。
【0160】
図2は、(例えば、示すMFAの左右に対してホモロジーアームを使用することにより)ゲノム中に配置することができるMFAの1つの実施形態を示す。標的化後、得られる対立遺伝子を条件的対立遺伝子に転換させることができる。これは、第1の選択された配列を欠失させ、第2の選択された配列を反転させることにより達成される。上記欠失と反転は、同じリコンビナーゼによって達成することも、また異なるリコンビナーゼによって達成することもできる。例えば、2対の不適合であるFlp認識部位を、一方を欠失を指示し、他方を反転を指示するように使用することができる。2つのそのようなFlp部位の一例は、FRT部位とFRT3部位である。別の例においては、一方が欠失を指示し、他方が反転を指示する2対の不適合であるCre部位(例えば、loxPとlox2372)を使用することができる。さらに、2つの異なるリコンビナーゼ(例えば、Creで1対のloxP部位、およびFlpで1対のFRT部位)を使用することができる。任意の適切な部位を、そのような部位が図2に示すMFAのリコンビナーゼ部位の対の欠失と反転を指示することができる限りにおいて、この実施形態のために選択することができる(その特異的な実施形態を図5および図6に示す)。
【0161】
図2の構築物の設計を目的の任意の配列とともに使用することができる(すなわち、NSIは目的の任意の配列である)が、この構築物の設計は、修飾されたエキソンで目的の1つのエキソンを置き換えるためには特に有用であり得る。
【0162】
1つの実施形態においては、NSIは自然界に存在している1つのエキソン(または複数のエキソン)であり、そしてCOINは修飾されたエキソン(例えば、突然変異を含有しているエキソン)である。MFAは、例えば、相同組み換えにより(適切なマウスのホモロジーアームを使用して)例えば、マウスES細胞のゲノム中に配置され、ES細胞は、マウスの生殖細胞系列の中に上記構築物を含む遺伝的操作されたマウスを作製するために利用される。1つの実施形態においては、自然界に存在しているエキソンから修飾されたエキソンへの状態の変化は、MFAに対するリコンビナーゼの作用により達成される。
【0163】
1つの実施形態においては、上記構築物は、例えば、マウスのゲノム中に配置され、マウスはいずれも、その活性を調節することができるリコンビナーゼ(例えば、Cre)をさらに含む。リコンビナーゼは、エフェクターまたは代謝産物の制御下にリコンビナーゼが配置されている(例えば、CreERT2、その活性はタモキシフェンによりポジティブに制御される)、組織特異的プロモーターの制御下にリコンビナーゼが配置されている、あるいは、特定の発育段階で活性であるプロモーター(または他の調節性エレメント)(例えば、Nanogプロモーター)または誘導性プロモーター(例えば、ドキシサイクリンとTetRもしくはTetR変異体によりその活性が制御されるもの)の制御下にリコンビナーゼが配置されているか、あるいはこれらの技術の組み合わせの融合タンパク質を利用することにより、調節することができる。
【0164】
図2に示すMFAの実施形態は、動作配列、DSC、目的のヌクレオチド配列(NSI)、およびCOINをコードする配列を含有しているエレメントを持つ。ここでは、上記エレメントは、MFAに対して所望される機能性を提供するように選択されたリコンビナーゼ認識部位のアレイの間に並べられる。
【0165】
図2の上部は、選択されたゲノム中の目的のヌクレオチド配列(NSI)(例えば、マウスのゲノム中のNSI)を説明する。示すようなMFAは、例えば、NSIを置き換えるための相同組み換えにより、ゲノムに導入される。NSIが、示すMFAで置き換えられ、この場合、MFAのNSIは示すように反転させられ、これにより、もはや標的遺伝子の転写には組み込まれない。MFAの存在により、動作配列にレポーター(例えば、lacZ)が含まれているかどうかを簡単に確認することができる。DSCはさらに、修飾された細胞(例えば、MFAで修飾されたマウスのES細胞)の選択に役立つように、存在する。
【0166】
図2のMFAの実施形態には、5セットのリコンビナーゼ認識部位により定義される、配列の5つの特徴的なユニットが含まれる。図3には、適合するリコンビナーゼ認識部位が隣接している配列の5つの特徴的なユニットの概念図が含まれる。
【0167】
第1の特徴的な組み換え可能なユニットには、R1/R1’部位(例えば、FRT3部位)が反対方向で含まれる(すなわち、反転を指示する)。ここでは、R1/R1’部位の間に以下が並べられる:動作配列(動作配列に関して5’にある3’スプライシング領域とアクセプター、および動作配列に関して3’にあるpolyAシグナルは、簡単にするために図3には示さない)、R2部位(例えば、Rox部位)、DSC、R1部位と同じ方向のR3部位(例えば、FRT部位)、R4部位(例えば、loxP部位)、および標的遺伝子の転写方向に関してアンチセンス方向の目的のヌクレオチド配列(NSI)(すなわち、アンチセンス鎖によりコードされる)、ならびに、R4部位と同じ方向のR5部位(例えば、lox2372部位)。ここでは、R3’部位(図3Aに示すR3部位と反対方向の)がさらに、3’R1’部位の下流に含まれ、R1/R1’を認識するリコンビナーゼの存在下で、このユニットは、NSIを転写のための位置になるように反転させ、動作配列とDSCを欠失させる。1つの実施形態においては、さらなる配列には、アンチセンス鎖上に配置されたCOIN、その後ろに、上記ユニットのR4部位に関して反対方向のR4’部位(例えば、loxP部位)が続く。その結果、R4/R4’を認識するリコンビナーゼ(例えば、Cre)に対して暴露されると、ここでCOINのコード配列がNSIの下流の転写のための位置に存在するように、COINが反転させられる。
【0168】
第2の特徴的な組み換え可能なユニット(図3B)には、R2/R2’部位(例えば、Rox部位)が同じ方向で含まれ(すなわち、欠失を指示する)、R2/R2’部位の間に配置された以下の配列が含まれる:DSC、第1の特徴的な組み換え可能なユニットのR1部位と同じ方向の第1のR3部位(例えば、第1のFRT部位)、第1のR4部位(例えば、第1のloxP部位)、標的遺伝子に関して反転させられた(すなわち、アンチセンス)方向のNSI、R4部位に関して同じ方向の第1のR5部位(例えば、第1のlox2372部位)、いずれもR3部位と反対方向のR1’部位(例えば、第2のFRT3部位)とR3’部位(例えば、第2のFRT部位)、COIN(標的遺伝子の転写に関してアンチセンス方向)、R5部位と同じ方向のR5’部位(例えば、第2のlox2372部位)、およびR4と同じ方向のR4’部位(例えば、第2のloxP部位)。この第2の特徴的な組み換え可能なユニットは、R2/R2’を認識するリコンビナーゼにより切り出すことができる。MFA中に含まれる場合は、このユニットを、R1とR2またはR2’部位が隣接している動作配列(例えば、いくつかの実施形態においては、レポーター、例えば、lacZをコードする配列)の後ろを残すように切り出すことができる。
【0169】
第3の特徴的な組み換え可能なユニット(図3C)には、R3/R3’部位(例えば、FRT部位)が反対方向で含まれ(すなわち、反転を指示する)、これには、R3/R3’部位の間に配置された以下の配列が含まれる:R4部位(例えば、loxP部位)、標的遺伝子の転写に関して反転させられた(すなわち、アンチセンス)方向のNSI、ユニットのR4部位と同じ方向の(すなわち、図3Cの)R5部位(例えば、lox2372部位)、およびR3部位と反対方向のR1’部位(例えば、FRT部位)。このユニットは、R3/R3’を認識するリコンビナーゼ(例えば、Flpリコンビナーゼ、ここでは、R3/R3’部位はFRT部位である)の作用により反転させることができ、これにより、転写および翻訳に適切な方向でのNSIの配置が生じる。
【0170】
第4の特徴的な組み換え可能なユニット(図3D)には、R4/R4’部位(例えば、2つのloxP部位)が同じ方向で含まれ(すなわち、欠失を指示する)、これには、R4/R4’部位の間に配置された以下の配列が含まれる:反転させられた(すなわち、アンチセンス)方向のNSI、それぞれがR4部位に関して同じ方向であるR5部位(例えば、第1のlox2372部位)およびR1’部位(例えば、FRT3部位)およびR3’部位(例えば、FRT部位)、COIN(アンチセンス方向)、ならびに、R5部位と同じ方向のR5’部位(例えば、第2のlox2372部位)。R4/R4’を認識するリコンビナーゼ(例えば、R4/R4’がloxP部位である場合には、Cre)の存在下で、このユニットは切り出し可能である。MFAの中に配置され、(R1/R1’、R3/R3’を認識するリコンビナーゼに対して暴露されない条件で)R4/R4’リコンビナーゼに対して暴露されると、このユニットは、欠失させられ、動作配列(例えば、いくつかの実施形態においては、レポーター、例えば、lacZをコードする配列)とDSCが残る。このように、このユニットは、MFAが、ゲノム中の配列を置き換える(例えば、1つのエキソンを置き換える)と、動作配列とDSCを含有しているヌル対立遺伝子として、R4/R4’を認識するリコンビナーゼの存在下で作用できる1つの実施形態を可能にする。MFAのDSCは、所望される場合には、R2/R2’を認識するリコンビナーゼ(例えば、Dreリコンビナーゼ、ここでは、R2/R2’はRox部位である)が作用すると、除去され得る。なぜなら、DSCには、同じ方向のR2/R2’部位が上流と下流に隣接しているからである。
【0171】
第5の特徴的な組み換え可能なユニット(図3E)には、R5/R5’部位(例えば、2つのlox2372部位)が、同じ方向で(すなわち、欠失を指示する)、ならびに第4の特徴的な組み換え可能なユニットのR4/R4’部位と同じ方向で含まれ、これには、R5部位とR5’部位の間に配置された以下の配列が含まれる:互いに同じ方向であるが、第1の特徴的な組み換え可能なユニットのR1部位に対して反対方向のR1’部位(例えば、FRT3部位)とR3’部位(例えば、FRT部位)、および標的遺伝子の転写に関してアンチセンス方向のCOIN。
【0172】
当業者に明らかであるように、重複している組み換え可能なユニットは、MFA中の可能である組み換え可能なエレメントに限定されるのではなく、MFAの構造を伝えるためにそのように記載される。例えば、当業者は、それぞれの組み換え可能なユニットに、組み換え可能なユニットの中にある部位特異的組み換え部位が含まれること、そして、複数の部位に対するリコンビナーゼの作用(複数の組み換え可能なユニットをまたぐ)により、MFAの意図される機能を達成するMFAの所望される、記載される操作が実現されることを理解するであろう。例えば、図3を参照すると、R1/R1’とR3/R3’を認識するリコンビナーゼの作用は、図3に概念的に示すように、5つの組み換え可能なユニットの全ての複数の部分を操作するように機能する。
【0173】
一旦、MFAがゲノム中の所望される位置に配置されれば、これは、これが報告機能を持つヌル対立遺伝子を提供するように操作され得る。ここでは、ヌル対立遺伝子は、同じ方向に方向を合わせられたリコンビナーゼ認識部位が隣接している全ての配列を欠失させるように(標的化後のリコンビナーゼに媒介される工程において)再度修飾され得る。この実施形態の一例を図4に示し、これは、適切なリコンビナーゼ認識部位の例を示している。ここでは、動作配列(ここでは、lacZをコードする)以外の全てのエレメントには、上流および下流にRox部位が隣接している。Dreリコンビナーゼに対して暴露されると、動作配列だけが存在する。Roxが付いた配列の切り出しは、DSC(ここでは、neoを含有している)の喪失、および/またはCOINの喪失、および/またはNSIの喪失により確認することができる。結果は、DSC、NSI、およびCOINが欠失している真のヌル対立遺伝子である。
【0174】
図2に説明し、図3の上部で例示するMFAを、条件的対立遺伝子を作製するために使用することができる。条件的対立遺伝子は、第1の例においてこの対立遺伝子が暴露された適切なリコンビナーゼを選択することにより作製することができる。この実施形態における適切なリコンビナーゼは、NSIをセンス鎖に戻すように反転させ、COINをアンチセンス方向で残すリコンビナーゼである。これは、例えば、R1/R1’を、そしてR3/R3’もまた認識するリコンビナーゼ(例えば、Flpリコンビナーゼ、ここでは、R1/R1’およびR3/R3’は、FRT部位およびFRT3部位より選択される;特定の実施形態については図5を参照のこと)に対してMFAを暴露することにより、達成され得る。簡単に説明すると、MFAがゲノム中の所望される位置に配置されると、これは条件的対立遺伝子を作製するために使用され得る。ここでは、図2および図3の上部の反転させられたNSIは、標的遺伝子の転写のための方向で配置され、一方、COINはアンチセンス方向で残っており、動作配列とDSCは欠失している。この実施形態の一例を図5に示す。ここでは、lacZとneoを含有しているDSCとを含む動作配列が、Flpリコンビナーゼに対する上記対立遺伝子の最初の暴露により除去されて、FRT3部位により指示されるエレメントの反転が生じ、続いて、FRT部位により指示されるFlpに媒介される欠失が生じる。得られる対立遺伝子は、転写のための方向のNSIを示すが、COINをアンチセンス方向で残す。
【0175】
図6に示すように、Flpに媒介される反転がFRT部位(図5に示すとおり)またはFRT3部位(図6に示すとおり)により最初に起こるかにはかかわらず、同じ条件的対立遺伝子を得ることができる。
【0176】
条件的対立遺伝子を作製する実施形態においては、対立遺伝子中に残っているリコンビナーゼ部位は、1種類以上の適切なリコンビナーゼでの処理により、NSIの続く欠失(またはNSIの再度の反転)とCOINの反転が生じるように選択され、その結果、上記対立遺伝子は、NSIに関してヌル対立遺伝子を生じるが、また、COINを転写のための方向で配置する。この一例を、Creに媒介される組み換えをそれぞれが独立して指示するloxPおよびlox2372部位を使用して示す。Cre反応性部位が使用されるが、任意の適切な部位をCre部位の代わりに使用することができる。
【0177】
図7に示すように、センス方向の(すなわち、転写および翻訳のための位置に)NSIが、第1のlox2372部位に関して3’に配置される。続いて、NSIは、第1のlox2372部位と同じ方向の第1のloxP部位であり、反転させられた(すなわち、アンチセンス)COINが、第1のloxP部位の下流に配置され、そして反転させられたCOINが、第1のlox2372部位に関して反対方向の第2のlox2372部位の上流に配置される。第2のlox2372部位の下流には、第1のloxP部位に関して反対方向で配置された第2のloxP部位が配置される。この並びにより、Creで処理されると、いずれかのlox部位による反転、その後のいずれかのlox部位による欠失が可能となる(図7を参照のこと)。得られる対立遺伝子には、センス方向の、すなわち、転写および翻訳のための位置にCOINが含まれる。
【0178】
代替えの並び(図8を参照のこと)においては、loxP部位が、NSIに関して5’に(NSIとCOINの間に配置される代わりに)配置され、その結果、Creに対して暴露されると、NSIのアンチセンス方向への反転とCOINのセンス方向への反転が生じる。
【0179】
MFAアプローチは、多くの実施形態の選択肢を提供する。特異的な実施形態においては、第1のリコンビナーゼに対して暴露された場合の、エレメントとリコンビナーゼ部位の並びは、図5または図6の下の構築物に示すとおりである。ここでは、示すFRT3部位は、得られる対立遺伝子中に類似する部位を有さない部位R1であり、示すFRT部位は、得られる対立遺伝子中に類似する部位を有さないリコンビナーゼ部位R3であり、最も左側のlox2372部位は、示す最も右側のlox2372部位を占有している類似するリコンビナーゼ部位R5’と対合する部位R5であり、示す最も左側のloxP部位は、示すように、最も右側のloxP部位により提供される類似するリコンビナーゼ部位R4’と対合する部位R4であり、そして示すRox部位は、得られる対立遺伝子の中に類似するリコンビナーゼ部位を有さない部位R2である。
【0180】
特異的な実施形態においては、第2のリコンビナーゼに対して暴露された場合の、得られる対立遺伝子のエレメントとリコンビナーゼ部位の並びは、図7の下の構築物に示すとおりである。ここでは、示すFRT3部位は、得られる対立遺伝子中に類似する部位を有していない部位R1であり、lox2372部位は、得られる対立遺伝子の中の類似するリコンビナーゼ部位とは対合しない部位R5であり、示すFRT部位は、得られる対立遺伝子の中の類似するリコンビナーゼ部位とは対合しない部位R3であり、示すloxP部位は、得られる対立遺伝子の中の類似するリコンビナーゼ部位とは対合しない部位R4であり、そして示すRox部位は、得られる対立遺伝子の中の類似するリコンビナーゼ部位とは対合しない部位R2’である。
【0181】
特異的な実施形態においては、得られる対立遺伝子により、第2のリコンビナーゼへの暴露後に、COINの発現が可能となる。特異的な実施形態においては、COINはレポーターまたはDSCである。
【0182】
1つの態様では、1種類のリコンビナーゼの作用により、COIN、NSI、およびDSCが切り出されるが、レポーターは切り出されないように(図11B)、一方で、異なるリコンビナーゼの作用により、DSCを欠くが、NSIをセンス方向に配置し、COINをアンチセンス方向で維持されている(図11C)対立遺伝子が生じるように並べられた、COIN、NSI、DSC、レポーター、およびリコンビナーゼ部位を含むMFAが提供される。この得られる対立遺伝子は、さらなるリコンビナーゼの作用により、NSIが切り出され、COINがセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位を有する(図11D)。したがって、議論した実施形態においては、このMFAにより、レポーター機能での真のノックアウトと、DSCの除去、またはNSIの配置を選択することが可能となる。ここでは、その後のNSIの除去は、同時に起こるCOINのセンス方向での配置により確認される。いくつかの重複しているリコンビナーゼユニットの概要を、類似する点線の形状により示した類似するリコンビナーゼユニットを用いて、そのような対立遺伝子について図11Aに示す。
【0183】
1つの態様では、1種類のリコンビナーゼの作用によりNSIとDSCが切り出されるが、レポーターとCOINの方向は維持されており(図12B)、一方で、異なるリコンビナーゼの作用によっては、DSCとレポーターを欠くが、NSIがセンス方向で配置されており、COINがアンチセンス方向で維持されている(図12C)対立遺伝子を生じるように並べられた、COIN、NSI、DSC、レポーター、およびリコンビナーゼ部位を含むMFAが提供される。この得られる対立遺伝子は、さらなるリコンビナーゼの作用によりNSIが切り出され、COINがセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位を有する(図12D)。したがって、議論した実施形態においては、このMFAにより、レポーター機能の真のノックアウトとDSCの除去;またはNSIの配置(ここでは、続くNSIの除去が、同時に起こるCOINのセンス方向での配置により確認される)の選択が可能となる。いくつかの重複しているリコンビナーゼユニットの概要を、類似する点線の形状により示した類似するリコンビナーゼユニットを用いて、そのような対立遺伝子について図12Aに示す。
【0184】
1つの態様では、COIN、NSI、DSC、レポーター、およびリコンビナーゼ部位(これらは、1種類のリコンビナーゼの作用により、レポーターとDSCが切り出され、NSIがセンス方向で配置されるように並べられている)を含むMFAが提供される(図13B)。この得られる対立遺伝子は、さらなるリコンビナーゼの作用により、NSIがアンチセンス方向で配置され、一方、COINがセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位を有する(図13C)。したがって、議論される実施形態においては、このMFAは、MFAから条件的対立遺伝子を作製することができる。
【0185】
1つの態様では、COIN、NSI、DSC、レポーターと、リコンビナーゼ部位の異なるアレイ(これらは、選択されたリコンビナーゼの作用によりレポーターとDSCが切り出され、NSIがセンス方向で配置されるように並べられている)を含むMFAが提供される(図14B)。この得られる対立遺伝子は、さらなるリコンビナーゼの作用により、NSIがアンチセンス方向で配置され、一方、COINがセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位を有する(図14C)。したがって、このMFAもまた、MFAから条件的対立遺伝子を作製することができる。
【0186】
1つの態様では、NSI、DSC、レポーター、COIN、およびリコンビナーゼ部位(これらは、選択されたリコンビナーゼの作用により、レポーターとDSCが切り出され、NSIがセンス方向で配置され、一方、COINはアンチセンス方向で維持されるように並べられている)を含むMFAが提供される(図15B)。この得られる対立遺伝子は、さらなるリコンビナーゼの作用によりNSIがアンチセンス方向で配置され、一方、COINはセンス方向で配置されるように並べられたリコンビナーゼ部位を有する(図15C)。したがって、このMFAもまた、MFAから条件的対立遺伝子を作製することができる。
【実施例】
【0187】
(実施例1)
Hprt1 MFA
Hprt1は、マウスにおいてX連鎖である遺伝子であり、Hprt1ヌルES細胞は、ヌクレオ塩基アナログである6−チオグアニン(6−TG)に対して耐性がある。この特性が、容易であり、堅調な表現型の試験を提供する。なぜなら、Hprt1について野生型である細胞は6−TGの存在下で死滅し、一方、Hprt1についてヌルである細胞は生き残るからである。さらに、男性の胚盤胞に由来する(典型的な場合にそうであり、標的化のために現在使用されているES細胞株の大部分もまたそのような場合である)ES細胞を標的化する場合は、わずかに1回の標的化が、Hprt1MFA/Y ES細胞を作製するために必要である。Hprt1MFA/Y ES細胞を作製するためには、標的化ベクター中のMFAは、図5(上)に示す対立遺伝子に従い、米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら(2003)のHigh−throughput engineering of the mouse genome coupled with high−resolution expression analysis,Nature Biotech.21(6):652−659(この特許および論文は、言及により本明細書中に組み込まれたこととなる)に記載されているVELOCIGENE(登録商標)法にしたがって、標準的な遺伝子操作方法論および細菌による相同組み換えによって調製される。Hprt1MFA対立遺伝子は、エキソン3を囲むように設計され、エキソン3と、NSIのように、そのすぐ5’および3’にある保存されているイントロン配列を定義する(図9)。これを選択する理由は、エキソン3がフレーム2(f2)の中で始まり、フレーム0(f0)の中で終わることにある。延長線上で考えると、前にあるエキソン(すなわち、エキソン2)はフレーム2(f2)で終わり、次にくるエキソン(すなわち、エキソン4)はフレーム0(f0)で始まる。これは、このNSIがアンチセンス方向に反転させられると、エキソン2がエキソン4に関してフレームアウトすることを意味する。なぜなら、エキソン2はf2の中で終わり、エキソン4はf0の中で始まるからである。この様式では、Hprt1MFA対立遺伝子中に動作配列(SA−lacZ−polyA(図10))の何らかの転写履歴が存在し、最終的なmRNA(このmRNAにはエキソン3は含まれず、ナンセンス配列をコードする)から動作配列を除去するスプライシングも存在する場合には、Hprt1ヌルのmRNAと表現型が効率よく生じる。逆に、Hprt1COIN−INV対立遺伝子(Hprt1COIN対立遺伝子を最初に作製するための、FLPまたはFLPの変異体でのHprt1MFAの処理により、その後、Hprt1COIN−INVを作製するためのCreでの処理により作製された)については、COINエレメントのSA−eGFP−polyAの転写履歴が存在し(図10)、そして最終的なmRNA(このmRNAにはエキソン3は含まれず、したがって、ナンセンス配列をコードする)からSA−eGFP−polyA配列を除去するスプライシングもまた存在する場合には、Hprt1ヌルであるmRNAおよび表現型が効率よく生じる。
【0188】
アンチセンス方向のNSIはHprt1のエキソン3と周囲にある進化の過程で保存されてきたイントロン配列であり(図9)、そしてアンチセンス方向のCOINはSA−eGFP−polyAである。標的化ベクターは、第1のFRT3部位の上流であり第2のRox部位の下流にマウスのホモロジーアーム(これは、そのMFAバージョンによりそれが置き換えられるようにHprt1遺伝子座への標的化を指示する)を有しており、これにより、(a)SA−LacZ−polyAエレメントが、Hprt1の転写方向に関してセンス方向に、続いて、DSCがHprt1の転写方向に関してアンチセンス方向に、いずれもHprt1のエキソン3の前にあり、(b)エキソン3はHprt1の転写方向に関してアンチセンス方向で配置され、そして(c)エキソン3の下流にあるCOINエレメントはHprt1の転写方向に関してアンチセンス方向で配置される。ここでは、これらの様々なエレメントには、動作配列であるSA−LacZ−polyA、およびNSIであるHprt1のエキソン3と隣接するイントロン配列とともに、図3および図10に詳細に記載する様な組み換え可能なユニットの中に互いに並べられた部位特異的リコンビナーゼ認識部位が隣接している。
【0189】
標的化ベクターは、米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら(2003)High−throughput engineering of the mouse genome coupled with high−resolution expression analysis, Nature Biotech.21(6):652−659(これらの特許および論文は言及により本明細書中に組み入れられたこととなる)に記載されているVELOCIGENE(登録商標)方法にしたがって調製され、ES細胞にエレクトロポレーションされる。得られるES細胞は、Hprt1の野生型バージョンの代わりに、Hprt1のMFA対立遺伝子を保有する。あらゆるさらなる修飾の前は、Hprt1MFA/Y ES細胞は6−TGでの処理に対して耐性があり(なぜなら、これらは、Hprt1について実質的にヌルであるからである)、これは、真のノックアウト−first対立遺伝子を作製することについてのMFA法の有用性を実証している。Dreでの処理後も、この特性は保たれるが、一方、細胞の遺伝子型はHprt1SA−LacZ−polyA/Yへと転換させられる。Hprt1遺伝子座については、この修飾は、レポーター(LacZ)の発現レベルを変えることはなく、どのような表現型上の結果も有さない(6−TGに対する耐性を変化させる)場合があるが、これは他の遺伝子座についてはその通りではない場合がある。相補性解析と実質的に等価である1つの工程におけるFLPまたはFLP変異体での処理後、Hprt1MFA/Y ES細胞はHprt1COIN/Y ES細胞へと転換させられる。これらは実質的に野生型であり、したがって、6−TGに対して感受性がある。加えて、この操作により、Hprt1メッセージの発現が回復してその野生型のものに戻る。Creでの処理後、Hprt1COIN/Y ES細胞は、Hprt1COIN−INV/Y ES細胞に転換される。これらは、Hprt1について実質的にヌルであり、したがって、6−TGに対して耐性がある。加えて、この操作により、Hprt1メッセージの野生型メッセージの発現の抑制と、それと同時に起こる、Hprt1の第1のエキソンとeGFP(COINエレメントによりコードされる)からなるハイブリッドメッセージでの置き換えが生じ、それにより、Hprt1の代わりにeGFPを発現する対立遺伝子が作製される。この新しい特性であるeGFPの発現は、COINエレメントのセンス鎖への反転をスコアするために随意に使用することができ、この事象が両方のタイプの細胞(Hprt1COIN/Y ES細胞とHprt1COIN−INV/Y ES細胞)が存在する1つの細胞集団から起こる細胞の単離を可能にすることにおいてさらなる有用性を有する。したがって、ヌルになるように転換させられたCOIN対立遺伝子だけではなく、この事象もまた、新しい、容易に測定可能であり、かつ有用な事象を特徴とする。
【0190】
(実施例2)
Hprt1 MFAの結果
センス方向のLacZレポーター(SA(adml)−gtx−LacZ−pA)、ネオマイシンDSC(Neo)、アンチセンス方向のNSI(これには、Hprt1の重要なエキソン(e)(エキソン3)と隣接している進化の過程で保存されてきたイントロン配列が含まれる)、およびCOIN(Gtx−SA−HA−myc3−TM−T2A−GFP−pA)を有しているMFAを、図16Aに示すリコンビナーゼ部位の並びで構築した。MFAをF1H4 ES細胞にエレクトロポレーションし、G418に対する耐性について選択した。続いて、G418耐性コロニーを、標的化を決定するために遺伝子型分類した。スクリーニングした全部で96個のコロニーから5つの標的化されたクローン(Hprt1MFA/Y)を得た。Hprt1ヌルである細胞について予想されたとおり(Doetschman,T.ら(1987)Targeted correction of mutant HPRT gene in mouse embryonic stem cells,Nature 330:576−578)、5個のこれらのクローンの全てが、10μMの6−TGを補充した標準的なES細胞培地中で培養された場合に生き残り、増殖することが明らかになった(これは、利用される標準的な6−TG生存分析である)。対照的に、もとの細胞株F1H4、ならびに試験した標的化されないクローンの全ては、6−TGの存在下で増殖することはできなかった。これらの結果は、以前に報告されたものと一致する(Doetschmanら(1987))。
【0191】
リコンビナーゼFLPo(Raymond,C.S.and Soriano,P.(2007)High−efficiency FLP and PhiC31 site−specific recombination in mammalian cells,PLoS ONE 2:e162)で処理すると、Hprt1MFA対立遺伝子はHprt1COIN対立遺伝子(図16B)に転換されて、Hprt1MFA/Y ES細胞が生じる。この操作は、LacZレポーターであるDSCの除去、ならびに、NSIのセンス鎖への再度の反転を生じる。したがって、得られる対立遺伝子(Hprt1COIN)は、野生型Hprt1 mRNAがコードされ、発現されるので、機能的には野生型である。
【0192】
リコンビナーゼCre(Sauer,B.and Henderson,N.(1988)Site−directed DNA recombination in mammalian cells by the Cre recombinase of bacteriophage P1,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5166−5170)でさらに処理すると、Hprt1COIN対立遺伝子はHprt1COIN−INV対立遺伝子(図16C)に転換されて、Hprt1COIN−INV/Y ES細胞が生じる。この対立遺伝子(Hprt1COIN−INV)は、Hprt1 mRNAがeGFPをコードするものに置き換えられる(そしてこれはさらに、NSI(すなわち、設計段階で定義したように、Hprt1のエキソン3と隣接するイントロン配列)を欠失している)ので、機能的にはヌルである。
【0193】
MFAを持つ細胞(Hprt1MFA/Y)をヌクレオチドアナログ6−TGに対する耐性について試験し、野生型細胞と比較した(図17)。Hprt1MFA/Y ES細胞は生き残ったが、Hprt1/Y ES細胞は死滅した。これは、Hprt1MFA/Yが機能的にHprt1ヌルであることを示している。次いで、Hprt1MFA/Y ES細胞をFLPoで処理して、Hprt1MFA対立遺伝子がHprt1COIN対立遺伝子に転換されるかどうかを試験した。得られるHprt1COIN/Y ES細胞は、Hprt1の発現が回復するので、表現型上は野生型であると予想される。6−TGの存在下で培養された場合には、それらの野生型(Hprt1/Y)対応物と同然に、Hprt1COIN/Y ES細胞が死滅するので、これがまさにそのとおりであることが示された。最後に、Hprt1COIN/Y ES細胞をCreで処理して、Hprt1COIN−INV/Y ES細胞(これは、COINモジュールが活性化されており、一方で同時にHprt1のエキソン3が欠失しているので(図16、パネルC)、Hprt1についてはヌルであると予想される)を作製した。6−TGの存在下で培養すると、Hprt1COIN−INV/Y ES細胞は生き残り、増殖した。これにより、MFAの設計と用途により意図したとおり、これらがHprt1について機能的にヌルであることを確認する。
【0194】
上で得た表現型の結果を、ここで、以下のそれぞれの遺伝子型クラスに属しているES細胞のタンパク質調製物についてウェスタンブロットを行うことにより、タンパク質レベルでさらに確認した:野生型(Hprt1/Y)、Hprt1MFA/Y(MFA)、Hprt1COIN/Y(MFA+FLPo)、およびHprt1COIN−INV/Y(MFA+FLPo+Cre)。これらのタンパク質調製物を、レポーターとNSI(すなわち、Hprt1)の発現について試験した。Hprt1MFA/Y ES細胞はHprt1タンパク質が欠失しており、レポーター(LacZ)を発現する。Hprt1COIN/Y ESにおいては、Hprt1の発現が野生型レベルに回復しており(これは、NSI(Hprt1のエキソン3)の配置がセンス方向に戻っていることを反映している)、レポーター(LacZ)タンパク質の発現を示さなかった。これにより、FLPoによるレポーターの切り出しを確認した。これにより、Hprt1MFA対立遺伝子が実際にヌルであり、レポーターとDSCの除去および同時に起こるNSIのセンス鎖への再度の反転(FLPoにより試験的に行われた操作)後に、機能性の野生型対立遺伝子に転換させることができることが立証された。Hprt1タンパク質の発現レベルでは、Hprt1COIN対立遺伝子が野生型(Hprt1)と同じであるという事実が、真の条件的ヌルを作製し、1工程のリコンビナーゼに媒介される標的化後の工程において同等の相補性解析を行うことについてのこの方法の堅調性をさらに実証している。最後に、Hprt1COIN−INV/Y ES細胞はHprt1タンパク質が欠失しており、これにより6−TG耐性試験を使用して行った表現型の観察が事実上確認される。これにより、COINをベースとする条件的ヌル対立遺伝子(Hprt1COIN)が意図したとおりに機能することをさらに確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)細胞の核酸の標的遺伝子に対して核酸構築物を誘導するための標的化アーム;
(b)前記標的遺伝子の転写に関してセンス方向の動作配列、およびセンス方向またはアンチセンス方向の薬剤選択カセット(DSC);
(b)アンチセンス方向の、目的のヌクレオチド配列(NSI)およびCOIN;ならびに、
(c)(i)前記動作配列と前記DSCとを欠失し、かつ
(ii)センス方向の前記NSIとアンチセンス方向の前記COINとを含む、
条件的対立遺伝子を形成させるための、第1のリコンビナーゼに対して暴露されると組み換わる組み換え可能なユニット;
を含む核酸構築物であって、
ここでは、前記組み換え可能なユニットに、前記第1のリコンビナーゼにより認識される類似するリコンビナーゼ認識部位の2つの第1の対、第2のリコンビナーゼにより認識される類似するリコンビナーゼ認識部位の2つの第2の対、および第3のリコンビナーゼにより認識される類似するリコンビナーゼ認識部位の1つの第3の対が含まれ;ここでは、リコンビナーゼ認識部位の前記第1の対、前記第2の対、および前記第3の対が、異なるリコンビナーゼにより認識される、核酸構築物。
【請求項2】
前記条件的対立遺伝子が、第2の部位特異的リコンビナーゼに対してさらに暴露されると、前記NSIを欠失し、前記COINをセンス方向で有する対立遺伝子を形成するように組み換わる、請求項1に記載の核酸構築物。
【請求項3】
ヒト以外の細胞を修飾するための方法であって、前記方法は:
請求項1に記載の核酸構築物で細胞中の目的のヌクレオチド配列を標的化して、標的化された細胞を形成させる工程、
前記標的化された細胞を第1のリコンビナーゼに対して暴露して、条件的対立遺伝子を形成させる工程、および
前記条件的対立遺伝子を、NSIを切り出し、COINをセンス方向で配置する第2のリコンビナーゼに対して暴露する工程
を包含する、方法。
【請求項4】
前記細胞中の前記NSIが、1つの表現型と関係がある1つのエキソンまたは1つのヌクレオチド配列である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞中の前記目的のヌクレオチド配列が請求項1に記載の核酸構築物により置き換えられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記標的化された細胞が形成させた後であるが、前記第1のリコンビナーゼに対して暴露させる前に、前記表現型が最初に決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のリコンビナーゼに対して暴露した後に、前記表現型が2回目に決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
薬剤選択カセット(DSC)、レポーター、COIN、目的のヌクレオチド配列(NSI)、ならびに前記レポーター、前記DSC、前記COIN、および前記NSIの間に並べられた5対のリコンビナーゼ部位を含む核酸構築物であって;
ここで、どのリコンビナーゼ部位の対も、任意の他の対とは同一ではなく、リコンビナーゼ部位の第1の2つの対は同じ第1のリコンビナーゼにより認識され、リコンビナーゼ部位の第2の2つの対は同じ第2のリコンビナーゼにより認識され、そしてリコンビナーゼ部位の第5の対は第3のリコンビナーゼにより認識され;
ここで、前記第1のリコンビナーゼ、前記第2のリコンビナーゼ、および前記第3のリコンビナーゼは同じではなく、転写方向に関して、前記レポーターはセンス方向であり、前記NSIはアンチセンス方向であり、前記COINはアンチセンス方向であり、そして前記DSCはセンス方向またはアンチセンス方向であり;そして、
ここで、リコンビナーゼ部位の前記第1の2つの対とリコンビナーゼ部位の前記第2の2つの対は、前記第1のリコンビナーゼに対して暴露されると、修飾された対立遺伝子が形成するように並べられており、ここで、リコンビナーゼ部位の前記第1の2つの対が前記レポーターの切り出し、前記DSCの切り出し、前記NSIのセンス方向への反転を誘導し、前記COINがアンチセンス方向で維持され、かつ(a)リコンビナーゼ部位の前記第2の2つの対が、前記第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、前記NSIが切り出され、前記COINがセンス方向で配置されるように並べられているか;または(b)リコンビナーゼ部位の前記第2の2つの対が、前記第2のリコンビナーゼに対して暴露されると、前記NSIがアンチセンス方向で配置され、前記COINがセンス方向で配置されるように並べられているかのいずれかである、核酸構築物。
【請求項9】
リコンビナーゼ部位の前記第5の対が、前記第3のリコンビナーゼに対して暴露され、かつ前記第1のリコンビナーゼまたは前記第2のリコンビナーゼに対して暴露されないときに、前記第5のリコンビナーゼが前記COIN、前記NSI、および前記DSCを切り出し、そして前記レポーターを前記センス方向で維持するように並べられている、請求項8に記載の核酸構築物。
【請求項10】
前記核酸構築物が1つの遺伝子に挿入される、請求項8に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子の転写方向に関して5’から3’へ、前記構築物が、センス方向のレポーター、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、アンチセンス方向のNSI、およびアンチセンス方向のCOINを含む、核酸構築物。
【請求項11】
前記DSCがセンス方向である、請求項10に記載の核酸構築物。
【請求項12】
前記核酸構築物が1つの遺伝子に挿入される、請求項8に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子の転写方向に関して5’から3’へ、前記構築物が、アンチセンス方向のCOIN、アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、およびセンス方向のレポーターを含む、核酸構築物。
【請求項13】
前記DSCがセンス方向である、請求項12に記載の核酸構築物。
【請求項14】
前記核酸構築物が1つの遺伝子に挿入される、請求項8に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子の転写方向に関して5’から3’へ、前記構築物が、アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、センス方向のレポーター、およびアンチセンス方向のCOINを含む、核酸構築物。
【請求項15】
前記DSCがセンス方向である、請求項14に記載の核酸構築物。
【請求項16】
前記核酸構築物が1つの遺伝子に挿入される、請求項8に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子の転写方向に関して5’から3’へ、前記構築物が、センス方向のレポーター、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、アンチセンス方向のNSI、およびアンチセンス方向のCOINを含む、核酸構築物。
【請求項17】
前記DSCがセンス方向である、請求項16に記載の核酸構築物。
【請求項18】
前記核酸構築物が1つの遺伝子に挿入される、請求項8に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子の転写方向に関して5’から3’へ、前記構築物が、アンチセンス方向のCOIN、アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、およびセンス方向のレポーターを含む、核酸構築物。
【請求項19】
前記DSCがセンス方向である、請求項18に記載の核酸構築物。
【請求項20】
前記核酸構築物が1つの遺伝子に挿入される、請求項8に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子の転写方向に関して5’から3’へ、前記構築物が、アンチセンス方向のNSI、センス方向またはアンチセンス方向のDSC、センス方向のレポーター、およびアンチセンス方向のCOINを含む、核酸構築物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図18】
image rotate

【図17】
image rotate


【公表番号】特表2013−509192(P2013−509192A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537099(P2012−537099)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/054654
【国際公開番号】WO2011/059799
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】