多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法
【課題】表面層として耐久性(高硬度、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性等)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有するガラス製品、該多機能性皮膜の表面に、炭素が好ましくはTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立しているガラス製品及びそれらの製造方法。
【解決手段】表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有するガラス製品、該多機能性皮膜の表面に、炭素が好ましくはTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立しているガラス製品及びそれらの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法に関し、より詳しくは、可視光応答型光触媒として機能し、超親水性を発現することができ、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れている多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス製品の表面に防汚性、親水性、防曇性、脱臭性、抗菌性等の特性を付与する目的で光触媒機能を呈する物質を塗布することが行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、光触媒機能を呈する物質として二酸化チタンTiO2(本明細書、特許請求の範囲、要約書においては、単に、酸化チタンという)が知られている。
【0003】
このような光触媒機能により消臭、抗菌、防曇や防汚の効果が得られる光触媒皮膜を形成する場合には、一般的には、酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティング、ディッピング等により基体上に付与して成膜している(例えば、特許文献4〜6参照)。しかし、そのように成膜された皮膜は剥離や摩耗が生じやすいので、長期に亘っての使用が困難であった。また、スパッタリング法によって光触媒皮膜を成膜する方法も知られている(例えば、特許文献7〜8参照)。
【0004】
更に、CVD法またはPVD法などの各種製法により作製した結晶核を無機金属化合物又は有機金属化合物から成るゾル溶液中に入れるか、又は該結晶核にゾル溶液を塗布し、固化させ、熱処理して酸化チタン結晶を該結晶核より成長させることにより、その結晶核より成長させた酸化チタン結晶の結晶形状が柱状結晶を成すことで高活性な光触媒機能が得られることが報告されている(例えば、特許文献9〜11参照)。しかしながら、その場合には単に基体上に置かれた種結晶から柱状結晶が成長するだけであるので、形成された柱状結晶は基体への付着強度が充分ではなく、それでそのようにして作製された光触媒は耐摩耗性等の耐久性の点については必ずしも満足できるものではない。
【0005】
また、酸化チタンを光触媒として機能させるためには波長が400nm以下の紫外線が必要であるが、種々の元素をドープして可視光により機能する酸化チタン光触媒の研究が数多く実施されている。例えば、F、N、C、S、P、Ni等をそれぞれドープした酸化チタンを比較して、窒素ドープ酸化チタンが可視光応答型光触媒として優れているという報告がある(非特許文献1参照)。
【0006】
また、このように他元素をドープした酸化チタン光触媒としては、酸化チタンの酸素サイトを窒素等の原子で置換してなるチタン化合物、酸化チタンの結晶の格子間に窒素等の原子をドーピングしてなるチタン化合物、或いは酸化チタン結晶の多結晶集合体の粒界に窒素等の原子を配してなるチタン化合物からなる光触媒が提案されている(例えば、特許文献12〜15等参照)。しかしながら、そのような光触媒からなる皮膜は耐摩耗性等の耐久性の点については必ずしも満足できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平09−071437号公報
【特許文献2】特開2001−150586号公報
【特許文献3】特開2001−246265号公報
【特許文献4】特開平09−241038号公報
【特許文献5】特開平09−262481号公報
【特許文献6】特開平10−053437号公報
【特許文献7】特開平11−012720号公報
【特許文献8】特開2001−205105号公報
【特許文献9】特開2002−253975号公報
【特許文献10】特開2002−370027号公報
【特許文献11】特開2002−370034号公報
【特許文献12】特開2001−205103号公報
【特許文献13】特開2001−205094号公報
【特許文献14】特開2002−95976号公報
【特許文献15】国際公開第01/10553号パンフレット
【非特許文献1】R. Asahi et al.、SCIENCE Vol. 293、2001年7月13日、p. 269-271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の酸化チタン系光触媒皮膜は、紫外線応答型のもの及び可視光応答型のものの何れも耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に問題があり、実用化の面でのネックとなっていたり、或いは超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜として必ずしも満足できるものではなかった。
【0009】
本発明の第一の目的は、表面層として耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の第二の目的は、表面積が大きく且つ炭素がTi−C結合の状態でドープされていて、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、VOCも容易に吸着でき、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供することである。
【0011】
本発明のその他の目的は、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、また硬度も比較的高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面を、不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより、炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明のガラス製品は、表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有することを特徴とする(以下、第一の態様とする)。
【0014】
また、本発明のガラス製品の製造方法は、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面温度が900〜1500℃となるように加熱処理するか、又は該皮膜の表面をその表面温度が900〜1500℃となるように不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で加熱処理して、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする(以下、第一の製造態様とする)。
【0015】
また、本発明者らは上記の目的を達成するために別途検討した結果、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎を直接当てて特定の条件下で加熱処理するか、又は該皮膜の表面を特定の条件下で炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼排ガス雰囲気中で加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が形成されること、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させて微細柱を露出させることにより、表面積が大きく且つ炭素がドープされていて、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされていて、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、VOCも容易に吸着でき、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた多機能性皮膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明のガラス製品は、表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有し、該多機能性皮膜の表面に、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立していることを特徴とする(以下、第二の態様とする)。
【0017】
また、本発明のガラス製品の製造方法は、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がドープされている、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする(以下、第二の製造態様とする)。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス製品の多機能性皮膜は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能するか、または、表面積が大きく且つ炭素がドープされていて、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされていて、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、VOCも容易に吸着でき、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の形状については特には制限はなく、例えば、窓ガラス等の板ガラス、耐熱性ガラス製ナベ等のガラス製調理器具、ガラス製保存容器、ガラス製食器、ガラス製調味料容器、ガラス製コップ、ビーカー等のガラス製実験器具、花ビン、鏡等であり得る。
【0020】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品は、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成するか、あるいは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより付与して皮膜を形成した後、不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより製造することができる。
【0021】
上記のチタン合金として公知の種々のチタン合金を用いることができ、特に制限されることはない。例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr、Ti−13V−11Cr−3Al等を用いることができる。
【0022】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、不飽和炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用いることができ、特に還元炎を利用することが望ましい。本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、この不飽和炭化水素を主成分とするガスとは不飽和炭化水素を少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、不飽和炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、不飽和炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。
【0023】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造において、加熱処理する皮膜がチタン又はチタン合金である場合には、該チタン又はチタン合金を酸化する酸素が必要であり、その分だけ空気又は酸素を含んでいる必要がある。
【0024】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面を、不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理するが、この場合に、皮膜の表面に不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような皮膜の表面を不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを燃焼させ、その燃焼炎を該皮膜の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。
【0025】
第一の製造態様における加熱処理については、例えば、皮膜の表面温度が900〜1500℃、好ましくは1000〜1200℃となり、その加熱処理時間は該皮膜を炭素がTi−C結合の状態でドープされた多機能性皮膜とするのに十分な時間である。この加熱処理時間は加熱温度と相関関係にあるが、約400秒以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、加熱温度及び加熱処理時間を調整することにより炭素を0.3〜15at%、好ましくは1〜10at%含有する炭素がTi−C結合の状態でドープされた多機能性皮膜を比較的容易に得ることができる。第一の態様において炭素のドープ量が少ない場合には多機能性皮膜は透明であり、炭素のドープ量が増えるに従って多機能性皮膜は半透明、不透明となる。従って、ガラス成形品の表面上に透明な多機能性皮膜を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する透明板を得ることができ、また、表面に有色模様を有するガラス成形品の表面上に透明な多機能性皮膜を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する化粧ガラス板を得ることができる。なお、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の厚さが500nm以下である場合には、その皮膜の融点近傍まで加熱すると、海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じて半透明となる。
【0027】
第一の態様の本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品においては、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜の厚さは10nm以上であることが好ましく、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性を達成するためには50nm以上であることが一層好ましい。多機能性皮膜の厚さが10nm未満である場合には、耐久性は不十分となる傾向がある。炭素ドープ酸化チタン層の厚さの上限については、コストと達成される効果とを考慮する必要があるが、特に制限されるものではない。
【0028】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品においては、炭素を比較的多量に含有し、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれている。この結果として、耐スクラッチ性、耐磨耗性等の機械的強度が向上し、ビッカース硬度が著しく増大すると考えられる。また、耐熱性も向上する。
【0029】
第一の態様の本発明のガラス製品の多機能性皮膜は、300以上、好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上、最も好ましくは1000以上のビッカース硬度を有している。1000以上のビッカース硬度は硬質クロムめっきの硬度よりも固いものである。
【0030】
本発明のガラス製品の多機能性皮膜は、紫外線は勿論、400nm以上の波長の可視光にも応答し、光触媒として有効に作用するものである。従って、本発明のガラス製品の多機能性皮膜は可視光応答型光触媒として機能するので、室外は勿論、室内でも光触媒機能を発現する。また、本発明のガラス製品の多機能性皮膜は接触角3°以下の超親水性を示す。
【0031】
更に、本発明のガラス製品の多機能性皮膜は耐薬品性にも優れており、1M硫酸及び1M水酸化ナトリウムのそれぞれの水溶液に一週間浸漬した後に、皮膜硬度、耐摩耗性及び光電流密度をそれぞれ測定し、処理前のそれらの測定値と比較したところ、有為な変化はみられなかった。因みに、市販の酸化チタン皮膜については、一般的にはバインダーはその種類によって酸又はアルカリに溶解するので膜が剥離してしまい、耐酸性、耐アルカリ性がほとんどない。
【0032】
本発明の第二の製造態様においては、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成する。
【0033】
本発明の第二の製造態様においては、ガラス成形品の表面上の皮膜の厚さ(量)は形成される酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の量に匹敵する厚さであっても(即ち、その皮膜全体が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となる)、それより厚くてもよい(即ち、皮膜の厚さ方向の一部が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となり、残部が微細柱にならないで残る)。この皮膜の厚さについては好ましくは0.5μm以上、より好ましくは4μm以上である。
【0034】
第二の製造態様における加熱処理については、チタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させて該微細柱を露出させることが可能なように、加熱温度、加熱処理時間を調整する必要がある。この加熱処理は600℃以上の温度で実施することが好ましい。
【0035】
このような条件下で加熱処理することにより、微細柱が林立している層の高さが1〜20μm程度であり、その上の薄膜の厚さが0.1〜10μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜3μm程度である中間体が形成される。その後に、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させることにより、該微細柱を露出させることができる。
【0036】
熱応力を与えて微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる場合には、例えば、ガラス側(裏面)又は皮膜側(表面)を冷却するか、又は加熱することによりそれらの間に温度差を設ける。この冷却方法として例えば上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかを冷却用物体、例えばステンレスブロックと接触させるか、冷気(常温の空気)を上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかに吹き付ける。
【0037】
剪断応力を与えて微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる場合には、例えば、上記の中間体の表面及び裏面に摩擦力により相対的に逆方向の力を与える。また、引張力を与えて微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる場合には、例えば、真空吸着盤等を用いて上記の中間体の表面及び裏面をそれらの面の垂直方向で逆方向に引張る。なお、研磨、スパッタリング等によっても微細柱を露出させることができる。
【0038】
微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる微細柱の高さ位置によって微細柱が林立している層の高さが変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜20μm程度であり、微細柱の平均太さが0.5〜3μm程度である。この多機能性皮膜はVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高く、更には皮膜硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性にも優れた多機能材である。
【0039】
一方、上記のようにして得られた薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材は小片状となり、各小片上の突起部の高さは2〜12μm程度であり、該微細柱の高さは微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させた微細柱の高さ位置によって変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜5μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜0.5μm程度である。しかし、微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる条件によっては微細柱が殆ど存在しないで多数の連続した狭幅突起部が露出している場合もある。これらの部材もVOCを吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高い。この部材の粉砕物もVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高いので、無機バインダーを用いてガラス成形品の表面に固定して用いることができる。ここで、無機系バインダーとしては、例えば、エチルシリケートなどの アルコキシシラン、アルコキシシランの部分縮合物、シリカゾルなどを挙げること ができる。
【0040】
酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の各々の微細柱の形状については、図1、図4及び図6の顕微鏡写真から判断されるように、角柱状、円柱状、角錐状、円錐状、逆角錐状若しくは逆円錐状等で、基板の表面とは直角方向又は傾斜した方向に真っ直ぐ伸びているもの、湾曲又は屈曲しながら伸びているもの、枝状に分岐して伸びているもの、それらの複合体状のもの等がある。また、その全体形状としては、霜柱状、起毛カーペット状、珊瑚状、列柱状、積木で組み立てられた柱状等の種々の表現で示すことができる。また、それらの微細柱の太さ、高さ、その付け根(底面)の大きさ等は加熱条件等により変化する。
【0041】
なお、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタンとするか、炭素がTi−C結合の状態でドープされた多機能性皮膜を有する粉末とすることができ、このような粉末も光触媒としての活性が高いので、無機バインダーを用いてガラス成形品の表面に固定して用いることができる。なお、粉末の粒径については何ら制限されることはない。しかし、加熱処理の容易性、製造の容易性を考慮すると15nm以上であることが好ましい。ここで、無機系バインダーとしては、例えば、エチルシリケートなどの アルコキシシラン、アルコキシシランの部分縮合物、シリカゾルなどを挙げること ができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例、試験例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1〜3(参考例)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。1100℃での加熱処理時間をそれぞれ5秒(実施例1)、3秒(実施例2)、1秒(実施例3)に調整することにより炭素ドープ量及び炭素ドープ酸化チタン層の厚さが異なる炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
【0043】
この実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層について蛍光X線分析装置で炭素含有量を求めた。その炭素含有量に基づいてTiO2-xCxの分子構造を仮定すると、実施例1については炭素含有量8at%、TiO1.76C0.24、実施例2については炭素含有量約3.3at%、TiO1.90C0.10、実施例3については炭素含有量1.7at%、TiO1.95C0.05であった。また、実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
【0044】
比較例1
市販されている酸化チタンゾル(石原産業製STS−01)を厚さ0.3mmのチタン板にスピンコートした後、加熱して密着性を高めた酸化チタン皮膜を有するチタン板を形成した。
【0045】
比較例2
SUS板上に酸化チタンがスプレーコートされている市販品を比較例2の酸化チタン皮膜を有する基体とした。
【0046】
試験例1(ビッカース硬度)
実施例1で得られた炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、ナノハードネステスター(NHT)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ベルコビッチタイプ、試験荷重:2mN、負荷除荷速度:4mN/minの条件下で皮膜硬度を測定したところ、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層はビッカース硬度が1340と高い値であった。一方、比較例1の酸化チタン皮膜のビッカース硬度は160であった。
【0047】
これらの結果を図1に示す。なお、参考のため、硬質クロムメッキ層及びニッケルメッキ層のビッカース硬度の文献値(友野、「実用めっきマニュアル」、6章、オーム社(1971)から引用)を併せて示す。実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、ニッケルメッキ層や硬質クロムメッキ層よりも高硬度であることは明らかである。
【0048】
試験例2(耐スクラッチ性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、マイクロスクラッチテスター(MST)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ロックウェル(ダイヤモンド)、先端半径200μm、初期荷重:0N、最終荷重:30N、負荷速度:50N/min、スクラッチ長:6mm、ステージ速度:10.5mm/minの条件下で耐スクラッチ性試験を実施した。スクラッチ痕内に小さな膜の剥離が起こる「剥離開始」荷重及びスクラッチ痕全体に膜の剥離が起こる「全面剥離」荷重を求めた。その結果は第1表に示す通りであった。
【0049】
【表1】
【0050】
試験例3(耐摩耗性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、高温トライボメーター(HT−TRM)(スイスのCSM Instruments製)により、試験温度:室温及び470℃、ボール:直径12.4mmのSiC球、荷重:1N、摺動速度:20mm/sec、回転半径:1mm、試験回転数:1000回転の条件下で摩耗試験を実施した。
【0051】
この結果、比較例1の酸化チタン皮膜については、室温及び470℃の両方について剥離が発生したが、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層については、室温及び470℃の両方の条件下で有意なトレース摩耗は検出されなかった。
【0052】
試験例4(耐薬品性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬した後、上記の皮膜硬度、耐摩耗性、及び後記する光電流密度を測定したところ、浸漬の前後で、結果に有意な差は認められなかった。即ち、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は高い耐薬品性を有することが認められた。
【0053】
試験例5(炭素がTi−C結合の状態でドープされた酸化チタン層の構造)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた酸化チタン層について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果を図2に示す。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.7eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、炭素ドープ酸化チタン層の深さ方向の異なる位置の11点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
【0054】
また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でもTi−C結合が確認された。従って、炭素ドープ酸化チタン層中のTi−C結合により硬度が高くなっており、また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でのTi−C結合により皮膜剥離強度が著しく大きくなっていることが予想される。
【0055】
試験例6(波長応答性)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜の波長応答性をOriel社のモノクロメーターを用いて測定した。具体的には、それぞれの層、皮膜に対し、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、光電流密度を測定した。
【0056】
その結果を図3に示す。図3には、得られた光電流密度jpを照射波長に対して示してある。実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の波長吸収端は、490nmに及んでおり、炭素ドープ量の増大に伴って光電流密度が増大することが認められた。なお、ここには示していないが、炭素ドープ量が10at%を越えると電流密度が減少する傾向になり、さらに15at%を越えるとその傾向は顕著になることがわかった。よって、炭素ドープ量が1〜10at%程度に最適値があることが認められた。一方、比較例1、2の酸化チタン皮膜では、光電流密度が著しく小さく、且つ波長吸収端も410nm程度であることが認められた。
【0057】
試験例7(光エネルギー変換効率)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜について、式
η=jp(Ews−Eapp)/I
で定義される光エネルギー変換効率ηを求めた。ここで、Ewsは水の理論分解電圧(=1.23V)、Eappは印加電圧(=0.3V)、Iは照射光強度である。この結果を図4に示す。図4は光エネルギー変換効率ηを照射光波長に対して示してある。
【0058】
図4から明らかなように、実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の光エネルギー変換効率は著しく高く、波長450nm付近での変換効率が比較例1、2の酸化チタン皮膜の紫外線領域(200〜380nm)での変換効率より優れていることが認められた。また、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の水分解効率は、波長370nmで約8%であり、350nm以下では10%を越える効率が得られることがわかった。
【0059】
試験例8(消臭試験)
実施例1及び2の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、消臭試験を実施した。具体的には、消臭試験に一般的に用いられるアセトアルデヒドを炭素ドープ酸化チタン層を有する基体と共に1000mlのガラス容器に封入し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、UVカットフィルタ付き蛍光灯にて可視光を照射し、所定の照射時間毎にアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。なお、各皮膜の表面積は8.0cm2とした。
【0060】
この結果を図5に示す。図5には、アセトアルデヒド濃度を可視光照射後の経過時間に対して示してある。実施例1及び2の炭素ドープ酸化チタン層のアセトアルデヒド分解速度は、比較例1の酸化チタン皮膜のアセトアルデヒド分解速度の約2倍以上の高い値となっており、また、炭素ドープ量が多く、光エネルギー変換効率の高い実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の方が、実施例2の炭素ドープ酸化チタン層と比較して分解速度が高いことがわかった。
【0061】
試験例9(防汚試験)
実施例1の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、防汚試験を実施した。各皮膜を(財)電力中央研究所内の喫煙室内に設置し、145日後の表面の汚れを観察した。なお、この喫煙室内には太陽光の直接の入射はない。
【0062】
この結果を示す写真を図6に示す。比較例1の酸化チタン皮膜の表面には脂が付着し、薄い黄色を呈していたが、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の表面は特に変化がみられず、清浄に保たれており、防汚効果が十分に発揮されたことが認められた。
【0063】
実施例4〜7(参考例)
実施例1〜3と同様にアセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
【0064】
比較例3
天然ガスの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理した。
【0065】
試験例10
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例3の皮膜について、上記の試験例1と同様にしてビッカース硬度(HV)を測定した。それらの結果を第2表に示す。また、実施例4〜7で形成された炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
【0066】
【表2】
【0067】
第2表に示すデータから明らかなように、天然ガスの燃焼ガスで表面温度が850℃になるように加熱処理した場合にはビッカース硬度160の皮膜しか得られなかったが、表面温度が1000℃以上になるようにアセチレンの燃焼ガスを用いて加熱処理した実施例4〜7の場合にはビッカース硬度1200の炭素ドープ酸化チタン層が得られた。
【0068】
試験例11
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1及び3の酸化チタン皮膜について、試験例6と同様に、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、300nm〜520nmの光を照射して光電流密度を測定した。その結果を図7に示す。図7には、得られた光電流密度jpを電位ECP(Vvs. SSE)に対して示してある。
【0069】
アセチレンの燃焼ガスを用いて表面温度が1000〜1200℃になるように加熱処理して得た実施例4〜6の炭素ドープ酸化チタン層は、相対的に光電流密度が大きく優れていることがわかった。一方、表面温度が850℃になるように加熱処理して得た比較例3の酸化チタン及び表面温度が1500℃になるように加熱処理して得た実施例7の炭素ドープ酸化チタン層は光電流密度が相対的に小さいことがわかった。
【0070】
実施例8(参考例)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層が炭素ドープ酸化チタンを含有するチタン合金からなる合金板を形成した。1100℃での加熱処理時間を60秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタンを含有する層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0071】
実施例9(参考例)
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面にスパッタリングによって膜厚が約500nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が約900℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するステンレス鋼板を形成した。900℃での加熱処理時間を15秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0072】
実施例10
粒径20μmの酸化チタン粉末をアセチレンの燃焼炎中に供給し、燃焼炎中に所定時間滞留させてその表面温度が約1000℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末を形成した。1000℃での加熱処理時間を4秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0073】
実施例11〜12
厚さ1mmのガラス板(パイレックス(登録商標))の表面にスパッタリングによって膜厚が約100nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が1100℃(実施例11)、又は1500℃(実施例12)となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するガラス板を形成した。1100℃、又は1500℃での加熱処理時間を10秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は表面温度が1100℃の場合には図8(a)に写真で示すように透明であったが、表面温度が1500℃の場合には図9に示すように海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じており、図8(b)に示すように半透明となった。
【0074】
実施例13〜16(参考例)
厚さ0.3mmのチタン板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。即ち、加熱処理で表面層内部に形成された酸化チタンからなる微細柱が林立している層がその後の冷却で該微細柱が林立している層が該表面層に沿う方向で切断された。このようにして実施例13〜16の多機能材を得た。
【0075】
図10は、実施例13で得られた多機能材の顕微鏡写真であり、チタン板表面1上に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2が露出しており、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3がその層2上の一部に残っているの状態を示している。なお、実施例13〜16の製造法ではチタン板表面1は露出しないが、図10の顕微鏡写真は微細柱が林立している層2の一部を除去した状態を示している。図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真であり、図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態示す顕微鏡写真であり、図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
【0076】
実施例17
厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン合金板表面の大部分にチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上にチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
【0077】
実施例18
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面に電子ビーム蒸着によって膜厚が約3μmのチタン薄膜を形成した。その薄膜表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、ステンレス鋼板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
【0078】
試験例12(引っかき硬度試験:鉛筆法)
実施例13〜18得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱側表面について、JIS K 5600−5−4(1999)に基づき、三菱鉛筆株式会社製ユニ1H〜9H鉛筆を用いて鉛筆引っかき硬度試験を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められなかった。
【0079】
試験例13(耐薬品性試験)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬し、水洗し、乾燥させた後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐薬品性を有することが認められた。
【0080】
試験例14(耐熱性試験)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を管状炉内に入れ、大気雰囲気下で室温から1時間かけて500℃まで昇温させ、500℃の恒温で2時間保持し、更に1時間かけて室温まで静置冷却した後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐熱性をを有することが認められた。
【0081】
【表3】
【0082】
試験例15(防汚試験)
試料として、実施例16で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している表面積8cm2の部材及び比較例1で得られた酸化チタン皮膜を有する表面積8cm2のチタン板を用いて消臭試験を実施した。具体的には、それらの試料をそれぞれ、約10μmol/Lの濃度に調整したメチレンブルー水溶液80mL中に浸漬し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、松下電器産業株式会社製のUVカットフィルター付き蛍光灯により可視光を照射し、所定の照射時間毎に波長660nmにおけるメチレンブルー水溶液の吸光度をHACH社製水質検査装置DR/2400で測定した。その結果は図14に示す通りであった。
【0083】
図14から、実施例16で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材は、比較例1で得られた酸化チタン皮膜を有するチタン板に比較して、メチレンブルーの分解速度が速く、防汚効果が高いことが分かる。
【0084】
試験例16(結晶構造と結合状態)
実施例15で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱から得た試料についてX線回折(XRD)を行った結果、ルチル型の結晶構造を有することが判明した。
【0085】
また、実施例15で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱部分について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果は図15に示す通りであった。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.6eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例15の微細柱中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、微細柱の高さ位置の異なる位置の14点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
【0086】
本発明のガラス製品は上記したように耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を有しているので、例えば、窓ガラスに設けることにより防汚性、消臭性、抗菌性、防曇性、環境浄化性等を達成することができ、耐熱性ガラスポット、ガラス製調味料容器に設けることにより耐熱性ガラスの欠点であるキズによる破損にも耐えることができ、ガラス製調味料容器に設けて付着物を分解させることにより衛生的に保つことができ。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は試験例1の皮膜硬度試験の結果を示す図である。
【図2】図2は試験例5のXPS分析の結果を示す図である。
【図3】図3は試験例6の光電流密度の波長応答性を示す図である。
【図4】図4は試験例7の光エネルギー変換効率の試験結果を示す図である。
【図5】図5は試験例8の消臭試験の結果を示す図である。
【図6】図6は試験例9の防汚試験の結果を示す写真である。
【図7】図7は試験例11の結果を示す図である。
【図8】図8は実施例11及び12で得られた炭素ドープ酸化チタン層の光透過状態を示す写真である。
【図9】図9は実施例12で得られた炭素ドープ酸化チタン層の表面状態を示す写真である。
【図10】図10は実施例13で得られた多機能材の状態を示す顕微鏡写真である。
【図11】図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図12】図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態示す顕微鏡写真である。
【図13】図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
【図14】図14は試験例15(防汚試験)の結果を示すグラフである。
【図15】図15は試験例16(結晶構造と結合状態)の結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法に関し、より詳しくは、可視光応答型光触媒として機能し、超親水性を発現することができ、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れている多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス製品の表面に防汚性、親水性、防曇性、脱臭性、抗菌性等の特性を付与する目的で光触媒機能を呈する物質を塗布することが行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、光触媒機能を呈する物質として二酸化チタンTiO2(本明細書、特許請求の範囲、要約書においては、単に、酸化チタンという)が知られている。
【0003】
このような光触媒機能により消臭、抗菌、防曇や防汚の効果が得られる光触媒皮膜を形成する場合には、一般的には、酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティング、ディッピング等により基体上に付与して成膜している(例えば、特許文献4〜6参照)。しかし、そのように成膜された皮膜は剥離や摩耗が生じやすいので、長期に亘っての使用が困難であった。また、スパッタリング法によって光触媒皮膜を成膜する方法も知られている(例えば、特許文献7〜8参照)。
【0004】
更に、CVD法またはPVD法などの各種製法により作製した結晶核を無機金属化合物又は有機金属化合物から成るゾル溶液中に入れるか、又は該結晶核にゾル溶液を塗布し、固化させ、熱処理して酸化チタン結晶を該結晶核より成長させることにより、その結晶核より成長させた酸化チタン結晶の結晶形状が柱状結晶を成すことで高活性な光触媒機能が得られることが報告されている(例えば、特許文献9〜11参照)。しかしながら、その場合には単に基体上に置かれた種結晶から柱状結晶が成長するだけであるので、形成された柱状結晶は基体への付着強度が充分ではなく、それでそのようにして作製された光触媒は耐摩耗性等の耐久性の点については必ずしも満足できるものではない。
【0005】
また、酸化チタンを光触媒として機能させるためには波長が400nm以下の紫外線が必要であるが、種々の元素をドープして可視光により機能する酸化チタン光触媒の研究が数多く実施されている。例えば、F、N、C、S、P、Ni等をそれぞれドープした酸化チタンを比較して、窒素ドープ酸化チタンが可視光応答型光触媒として優れているという報告がある(非特許文献1参照)。
【0006】
また、このように他元素をドープした酸化チタン光触媒としては、酸化チタンの酸素サイトを窒素等の原子で置換してなるチタン化合物、酸化チタンの結晶の格子間に窒素等の原子をドーピングしてなるチタン化合物、或いは酸化チタン結晶の多結晶集合体の粒界に窒素等の原子を配してなるチタン化合物からなる光触媒が提案されている(例えば、特許文献12〜15等参照)。しかしながら、そのような光触媒からなる皮膜は耐摩耗性等の耐久性の点については必ずしも満足できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開平09−071437号公報
【特許文献2】特開2001−150586号公報
【特許文献3】特開2001−246265号公報
【特許文献4】特開平09−241038号公報
【特許文献5】特開平09−262481号公報
【特許文献6】特開平10−053437号公報
【特許文献7】特開平11−012720号公報
【特許文献8】特開2001−205105号公報
【特許文献9】特開2002−253975号公報
【特許文献10】特開2002−370027号公報
【特許文献11】特開2002−370034号公報
【特許文献12】特開2001−205103号公報
【特許文献13】特開2001−205094号公報
【特許文献14】特開2002−95976号公報
【特許文献15】国際公開第01/10553号パンフレット
【非特許文献1】R. Asahi et al.、SCIENCE Vol. 293、2001年7月13日、p. 269-271
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の酸化チタン系光触媒皮膜は、紫外線応答型のもの及び可視光応答型のものの何れも耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に問題があり、実用化の面でのネックとなっていたり、或いは超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜として必ずしも満足できるものではなかった。
【0009】
本発明の第一の目的は、表面層として耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の第二の目的は、表面積が大きく且つ炭素がTi−C結合の状態でドープされていて、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、VOCも容易に吸着でき、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供することである。
【0011】
本発明のその他の目的は、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、また硬度も比較的高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた多機能性皮膜を有するガラス製品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面を、不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより、炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明のガラス製品は、表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有することを特徴とする(以下、第一の態様とする)。
【0014】
また、本発明のガラス製品の製造方法は、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面温度が900〜1500℃となるように加熱処理するか、又は該皮膜の表面をその表面温度が900〜1500℃となるように不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で加熱処理して、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする(以下、第一の製造態様とする)。
【0015】
また、本発明者らは上記の目的を達成するために別途検討した結果、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎を直接当てて特定の条件下で加熱処理するか、又は該皮膜の表面を特定の条件下で炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼排ガス雰囲気中で加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が形成されること、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させて微細柱を露出させることにより、表面積が大きく且つ炭素がドープされていて、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされていて、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、VOCも容易に吸着でき、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れた多機能性皮膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明のガラス製品は、表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有し、該多機能性皮膜の表面に、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立していることを特徴とする(以下、第二の態様とする)。
【0017】
また、本発明のガラス製品の製造方法は、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がドープされている、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする(以下、第二の製造態様とする)。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス製品の多機能性皮膜は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能するか、または、表面積が大きく且つ炭素がドープされていて、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされていて、光触媒としての活性が高く且つ可視光応答型光触媒として機能し、VOCも容易に吸着でき、また硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の形状については特には制限はなく、例えば、窓ガラス等の板ガラス、耐熱性ガラス製ナベ等のガラス製調理器具、ガラス製保存容器、ガラス製食器、ガラス製調味料容器、ガラス製コップ、ビーカー等のガラス製実験器具、花ビン、鏡等であり得る。
【0020】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品は、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成するか、あるいは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより付与して皮膜を形成した後、不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより製造することができる。
【0021】
上記のチタン合金として公知の種々のチタン合金を用いることができ、特に制限されることはない。例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr、Ti−13V−11Cr−3Al等を用いることができる。
【0022】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、不飽和炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用いることができ、特に還元炎を利用することが望ましい。本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、この不飽和炭化水素を主成分とするガスとは不飽和炭化水素を少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、不飽和炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、不飽和炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。
【0023】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造において、加熱処理する皮膜がチタン又はチタン合金である場合には、該チタン又はチタン合金を酸化する酸素が必要であり、その分だけ空気又は酸素を含んでいる必要がある。
【0024】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面を、不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理するが、この場合に、皮膜の表面に不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような皮膜の表面を不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを燃焼させ、その燃焼炎を該皮膜の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。
【0025】
第一の製造態様における加熱処理については、例えば、皮膜の表面温度が900〜1500℃、好ましくは1000〜1200℃となり、その加熱処理時間は該皮膜を炭素がTi−C結合の状態でドープされた多機能性皮膜とするのに十分な時間である。この加熱処理時間は加熱温度と相関関係にあるが、約400秒以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品の製造においては、加熱温度及び加熱処理時間を調整することにより炭素を0.3〜15at%、好ましくは1〜10at%含有する炭素がTi−C結合の状態でドープされた多機能性皮膜を比較的容易に得ることができる。第一の態様において炭素のドープ量が少ない場合には多機能性皮膜は透明であり、炭素のドープ量が増えるに従って多機能性皮膜は半透明、不透明となる。従って、ガラス成形品の表面上に透明な多機能性皮膜を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する透明板を得ることができ、また、表面に有色模様を有するガラス成形品の表面上に透明な多機能性皮膜を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する化粧ガラス板を得ることができる。なお、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の厚さが500nm以下である場合には、その皮膜の融点近傍まで加熱すると、海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じて半透明となる。
【0027】
第一の態様の本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品においては、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜の厚さは10nm以上であることが好ましく、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性を達成するためには50nm以上であることが一層好ましい。多機能性皮膜の厚さが10nm未満である場合には、耐久性は不十分となる傾向がある。炭素ドープ酸化チタン層の厚さの上限については、コストと達成される効果とを考慮する必要があるが、特に制限されるものではない。
【0028】
本発明の多機能性皮膜を有するガラス製品においては、炭素を比較的多量に含有し、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれている。この結果として、耐スクラッチ性、耐磨耗性等の機械的強度が向上し、ビッカース硬度が著しく増大すると考えられる。また、耐熱性も向上する。
【0029】
第一の態様の本発明のガラス製品の多機能性皮膜は、300以上、好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上、最も好ましくは1000以上のビッカース硬度を有している。1000以上のビッカース硬度は硬質クロムめっきの硬度よりも固いものである。
【0030】
本発明のガラス製品の多機能性皮膜は、紫外線は勿論、400nm以上の波長の可視光にも応答し、光触媒として有効に作用するものである。従って、本発明のガラス製品の多機能性皮膜は可視光応答型光触媒として機能するので、室外は勿論、室内でも光触媒機能を発現する。また、本発明のガラス製品の多機能性皮膜は接触角3°以下の超親水性を示す。
【0031】
更に、本発明のガラス製品の多機能性皮膜は耐薬品性にも優れており、1M硫酸及び1M水酸化ナトリウムのそれぞれの水溶液に一週間浸漬した後に、皮膜硬度、耐摩耗性及び光電流密度をそれぞれ測定し、処理前のそれらの測定値と比較したところ、有為な変化はみられなかった。因みに、市販の酸化チタン皮膜については、一般的にはバインダーはその種類によって酸又はアルカリに溶解するので膜が剥離してしまい、耐酸性、耐アルカリ性がほとんどない。
【0032】
本発明の第二の製造態様においては、ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物、好ましくは炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成する。
【0033】
本発明の第二の製造態様においては、ガラス成形品の表面上の皮膜の厚さ(量)は形成される酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の量に匹敵する厚さであっても(即ち、その皮膜全体が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となる)、それより厚くてもよい(即ち、皮膜の厚さ方向の一部が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となり、残部が微細柱にならないで残る)。この皮膜の厚さについては好ましくは0.5μm以上、より好ましくは4μm以上である。
【0034】
第二の製造態様における加熱処理については、チタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させて該微細柱を露出させることが可能なように、加熱温度、加熱処理時間を調整する必要がある。この加熱処理は600℃以上の温度で実施することが好ましい。
【0035】
このような条件下で加熱処理することにより、微細柱が林立している層の高さが1〜20μm程度であり、その上の薄膜の厚さが0.1〜10μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜3μm程度である中間体が形成される。その後に、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させることにより、該微細柱を露出させることができる。
【0036】
熱応力を与えて微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる場合には、例えば、ガラス側(裏面)又は皮膜側(表面)を冷却するか、又は加熱することによりそれらの間に温度差を設ける。この冷却方法として例えば上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかを冷却用物体、例えばステンレスブロックと接触させるか、冷気(常温の空気)を上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかに吹き付ける。
【0037】
剪断応力を与えて微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる場合には、例えば、上記の中間体の表面及び裏面に摩擦力により相対的に逆方向の力を与える。また、引張力を与えて微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる場合には、例えば、真空吸着盤等を用いて上記の中間体の表面及び裏面をそれらの面の垂直方向で逆方向に引張る。なお、研磨、スパッタリング等によっても微細柱を露出させることができる。
【0038】
微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる微細柱の高さ位置によって微細柱が林立している層の高さが変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜20μm程度であり、微細柱の平均太さが0.5〜3μm程度である。この多機能性皮膜はVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高く、更には皮膜硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性にも優れた多機能材である。
【0039】
一方、上記のようにして得られた薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材は小片状となり、各小片上の突起部の高さは2〜12μm程度であり、該微細柱の高さは微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させた微細柱の高さ位置によって変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜5μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜0.5μm程度である。しかし、微細柱が林立している層を皮膜の表面に沿う方向で切断させる条件によっては微細柱が殆ど存在しないで多数の連続した狭幅突起部が露出している場合もある。これらの部材もVOCを吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高い。この部材の粉砕物もVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高いので、無機バインダーを用いてガラス成形品の表面に固定して用いることができる。ここで、無機系バインダーとしては、例えば、エチルシリケートなどの アルコキシシラン、アルコキシシランの部分縮合物、シリカゾルなどを挙げること ができる。
【0040】
酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の各々の微細柱の形状については、図1、図4及び図6の顕微鏡写真から判断されるように、角柱状、円柱状、角錐状、円錐状、逆角錐状若しくは逆円錐状等で、基板の表面とは直角方向又は傾斜した方向に真っ直ぐ伸びているもの、湾曲又は屈曲しながら伸びているもの、枝状に分岐して伸びているもの、それらの複合体状のもの等がある。また、その全体形状としては、霜柱状、起毛カーペット状、珊瑚状、列柱状、積木で組み立てられた柱状等の種々の表現で示すことができる。また、それらの微細柱の太さ、高さ、その付け根(底面)の大きさ等は加熱条件等により変化する。
【0041】
なお、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタンとするか、炭素がTi−C結合の状態でドープされた多機能性皮膜を有する粉末とすることができ、このような粉末も光触媒としての活性が高いので、無機バインダーを用いてガラス成形品の表面に固定して用いることができる。なお、粉末の粒径については何ら制限されることはない。しかし、加熱処理の容易性、製造の容易性を考慮すると15nm以上であることが好ましい。ここで、無機系バインダーとしては、例えば、エチルシリケートなどの アルコキシシラン、アルコキシシランの部分縮合物、シリカゾルなどを挙げること ができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例、試験例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1〜3(参考例)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。1100℃での加熱処理時間をそれぞれ5秒(実施例1)、3秒(実施例2)、1秒(実施例3)に調整することにより炭素ドープ量及び炭素ドープ酸化チタン層の厚さが異なる炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
【0043】
この実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層について蛍光X線分析装置で炭素含有量を求めた。その炭素含有量に基づいてTiO2-xCxの分子構造を仮定すると、実施例1については炭素含有量8at%、TiO1.76C0.24、実施例2については炭素含有量約3.3at%、TiO1.90C0.10、実施例3については炭素含有量1.7at%、TiO1.95C0.05であった。また、実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
【0044】
比較例1
市販されている酸化チタンゾル(石原産業製STS−01)を厚さ0.3mmのチタン板にスピンコートした後、加熱して密着性を高めた酸化チタン皮膜を有するチタン板を形成した。
【0045】
比較例2
SUS板上に酸化チタンがスプレーコートされている市販品を比較例2の酸化チタン皮膜を有する基体とした。
【0046】
試験例1(ビッカース硬度)
実施例1で得られた炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、ナノハードネステスター(NHT)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ベルコビッチタイプ、試験荷重:2mN、負荷除荷速度:4mN/minの条件下で皮膜硬度を測定したところ、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層はビッカース硬度が1340と高い値であった。一方、比較例1の酸化チタン皮膜のビッカース硬度は160であった。
【0047】
これらの結果を図1に示す。なお、参考のため、硬質クロムメッキ層及びニッケルメッキ層のビッカース硬度の文献値(友野、「実用めっきマニュアル」、6章、オーム社(1971)から引用)を併せて示す。実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、ニッケルメッキ層や硬質クロムメッキ層よりも高硬度であることは明らかである。
【0048】
試験例2(耐スクラッチ性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、マイクロスクラッチテスター(MST)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ロックウェル(ダイヤモンド)、先端半径200μm、初期荷重:0N、最終荷重:30N、負荷速度:50N/min、スクラッチ長:6mm、ステージ速度:10.5mm/minの条件下で耐スクラッチ性試験を実施した。スクラッチ痕内に小さな膜の剥離が起こる「剥離開始」荷重及びスクラッチ痕全体に膜の剥離が起こる「全面剥離」荷重を求めた。その結果は第1表に示す通りであった。
【0049】
【表1】
【0050】
試験例3(耐摩耗性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、高温トライボメーター(HT−TRM)(スイスのCSM Instruments製)により、試験温度:室温及び470℃、ボール:直径12.4mmのSiC球、荷重:1N、摺動速度:20mm/sec、回転半径:1mm、試験回転数:1000回転の条件下で摩耗試験を実施した。
【0051】
この結果、比較例1の酸化チタン皮膜については、室温及び470℃の両方について剥離が発生したが、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層については、室温及び470℃の両方の条件下で有意なトレース摩耗は検出されなかった。
【0052】
試験例4(耐薬品性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬した後、上記の皮膜硬度、耐摩耗性、及び後記する光電流密度を測定したところ、浸漬の前後で、結果に有意な差は認められなかった。即ち、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は高い耐薬品性を有することが認められた。
【0053】
試験例5(炭素がTi−C結合の状態でドープされた酸化チタン層の構造)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた酸化チタン層について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果を図2に示す。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.7eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、炭素ドープ酸化チタン層の深さ方向の異なる位置の11点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
【0054】
また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でもTi−C結合が確認された。従って、炭素ドープ酸化チタン層中のTi−C結合により硬度が高くなっており、また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でのTi−C結合により皮膜剥離強度が著しく大きくなっていることが予想される。
【0055】
試験例6(波長応答性)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜の波長応答性をOriel社のモノクロメーターを用いて測定した。具体的には、それぞれの層、皮膜に対し、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、光電流密度を測定した。
【0056】
その結果を図3に示す。図3には、得られた光電流密度jpを照射波長に対して示してある。実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の波長吸収端は、490nmに及んでおり、炭素ドープ量の増大に伴って光電流密度が増大することが認められた。なお、ここには示していないが、炭素ドープ量が10at%を越えると電流密度が減少する傾向になり、さらに15at%を越えるとその傾向は顕著になることがわかった。よって、炭素ドープ量が1〜10at%程度に最適値があることが認められた。一方、比較例1、2の酸化チタン皮膜では、光電流密度が著しく小さく、且つ波長吸収端も410nm程度であることが認められた。
【0057】
試験例7(光エネルギー変換効率)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜について、式
η=jp(Ews−Eapp)/I
で定義される光エネルギー変換効率ηを求めた。ここで、Ewsは水の理論分解電圧(=1.23V)、Eappは印加電圧(=0.3V)、Iは照射光強度である。この結果を図4に示す。図4は光エネルギー変換効率ηを照射光波長に対して示してある。
【0058】
図4から明らかなように、実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の光エネルギー変換効率は著しく高く、波長450nm付近での変換効率が比較例1、2の酸化チタン皮膜の紫外線領域(200〜380nm)での変換効率より優れていることが認められた。また、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の水分解効率は、波長370nmで約8%であり、350nm以下では10%を越える効率が得られることがわかった。
【0059】
試験例8(消臭試験)
実施例1及び2の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、消臭試験を実施した。具体的には、消臭試験に一般的に用いられるアセトアルデヒドを炭素ドープ酸化チタン層を有する基体と共に1000mlのガラス容器に封入し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、UVカットフィルタ付き蛍光灯にて可視光を照射し、所定の照射時間毎にアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。なお、各皮膜の表面積は8.0cm2とした。
【0060】
この結果を図5に示す。図5には、アセトアルデヒド濃度を可視光照射後の経過時間に対して示してある。実施例1及び2の炭素ドープ酸化チタン層のアセトアルデヒド分解速度は、比較例1の酸化チタン皮膜のアセトアルデヒド分解速度の約2倍以上の高い値となっており、また、炭素ドープ量が多く、光エネルギー変換効率の高い実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の方が、実施例2の炭素ドープ酸化チタン層と比較して分解速度が高いことがわかった。
【0061】
試験例9(防汚試験)
実施例1の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、防汚試験を実施した。各皮膜を(財)電力中央研究所内の喫煙室内に設置し、145日後の表面の汚れを観察した。なお、この喫煙室内には太陽光の直接の入射はない。
【0062】
この結果を示す写真を図6に示す。比較例1の酸化チタン皮膜の表面には脂が付着し、薄い黄色を呈していたが、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の表面は特に変化がみられず、清浄に保たれており、防汚効果が十分に発揮されたことが認められた。
【0063】
実施例4〜7(参考例)
実施例1〜3と同様にアセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
【0064】
比較例3
天然ガスの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理した。
【0065】
試験例10
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例3の皮膜について、上記の試験例1と同様にしてビッカース硬度(HV)を測定した。それらの結果を第2表に示す。また、実施例4〜7で形成された炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
【0066】
【表2】
【0067】
第2表に示すデータから明らかなように、天然ガスの燃焼ガスで表面温度が850℃になるように加熱処理した場合にはビッカース硬度160の皮膜しか得られなかったが、表面温度が1000℃以上になるようにアセチレンの燃焼ガスを用いて加熱処理した実施例4〜7の場合にはビッカース硬度1200の炭素ドープ酸化チタン層が得られた。
【0068】
試験例11
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1及び3の酸化チタン皮膜について、試験例6と同様に、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、300nm〜520nmの光を照射して光電流密度を測定した。その結果を図7に示す。図7には、得られた光電流密度jpを電位ECP(Vvs. SSE)に対して示してある。
【0069】
アセチレンの燃焼ガスを用いて表面温度が1000〜1200℃になるように加熱処理して得た実施例4〜6の炭素ドープ酸化チタン層は、相対的に光電流密度が大きく優れていることがわかった。一方、表面温度が850℃になるように加熱処理して得た比較例3の酸化チタン及び表面温度が1500℃になるように加熱処理して得た実施例7の炭素ドープ酸化チタン層は光電流密度が相対的に小さいことがわかった。
【0070】
実施例8(参考例)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層が炭素ドープ酸化チタンを含有するチタン合金からなる合金板を形成した。1100℃での加熱処理時間を60秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタンを含有する層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0071】
実施例9(参考例)
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面にスパッタリングによって膜厚が約500nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が約900℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するステンレス鋼板を形成した。900℃での加熱処理時間を15秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0072】
実施例10
粒径20μmの酸化チタン粉末をアセチレンの燃焼炎中に供給し、燃焼炎中に所定時間滞留させてその表面温度が約1000℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末を形成した。1000℃での加熱処理時間を4秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0073】
実施例11〜12
厚さ1mmのガラス板(パイレックス(登録商標))の表面にスパッタリングによって膜厚が約100nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が1100℃(実施例11)、又は1500℃(実施例12)となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するガラス板を形成した。1100℃、又は1500℃での加熱処理時間を10秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は表面温度が1100℃の場合には図8(a)に写真で示すように透明であったが、表面温度が1500℃の場合には図9に示すように海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じており、図8(b)に示すように半透明となった。
【0074】
実施例13〜16(参考例)
厚さ0.3mmのチタン板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。即ち、加熱処理で表面層内部に形成された酸化チタンからなる微細柱が林立している層がその後の冷却で該微細柱が林立している層が該表面層に沿う方向で切断された。このようにして実施例13〜16の多機能材を得た。
【0075】
図10は、実施例13で得られた多機能材の顕微鏡写真であり、チタン板表面1上に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2が露出しており、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3がその層2上の一部に残っているの状態を示している。なお、実施例13〜16の製造法ではチタン板表面1は露出しないが、図10の顕微鏡写真は微細柱が林立している層2の一部を除去した状態を示している。図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真であり、図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態示す顕微鏡写真であり、図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
【0076】
実施例17
厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン合金板表面の大部分にチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上にチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
【0077】
実施例18
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面に電子ビーム蒸着によって膜厚が約3μmのチタン薄膜を形成した。その薄膜表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、ステンレス鋼板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
【0078】
試験例12(引っかき硬度試験:鉛筆法)
実施例13〜18得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱側表面について、JIS K 5600−5−4(1999)に基づき、三菱鉛筆株式会社製ユニ1H〜9H鉛筆を用いて鉛筆引っかき硬度試験を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められなかった。
【0079】
試験例13(耐薬品性試験)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬し、水洗し、乾燥させた後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐薬品性を有することが認められた。
【0080】
試験例14(耐熱性試験)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を管状炉内に入れ、大気雰囲気下で室温から1時間かけて500℃まで昇温させ、500℃の恒温で2時間保持し、更に1時間かけて室温まで静置冷却した後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐熱性をを有することが認められた。
【0081】
【表3】
【0082】
試験例15(防汚試験)
試料として、実施例16で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している表面積8cm2の部材及び比較例1で得られた酸化チタン皮膜を有する表面積8cm2のチタン板を用いて消臭試験を実施した。具体的には、それらの試料をそれぞれ、約10μmol/Lの濃度に調整したメチレンブルー水溶液80mL中に浸漬し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、松下電器産業株式会社製のUVカットフィルター付き蛍光灯により可視光を照射し、所定の照射時間毎に波長660nmにおけるメチレンブルー水溶液の吸光度をHACH社製水質検査装置DR/2400で測定した。その結果は図14に示す通りであった。
【0083】
図14から、実施例16で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材は、比較例1で得られた酸化チタン皮膜を有するチタン板に比較して、メチレンブルーの分解速度が速く、防汚効果が高いことが分かる。
【0084】
試験例16(結晶構造と結合状態)
実施例15で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱から得た試料についてX線回折(XRD)を行った結果、ルチル型の結晶構造を有することが判明した。
【0085】
また、実施例15で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱部分について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果は図15に示す通りであった。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.6eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例15の微細柱中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、微細柱の高さ位置の異なる位置の14点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
【0086】
本発明のガラス製品は上記したように耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ、超親水性を発現することができ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能性皮膜を有しているので、例えば、窓ガラスに設けることにより防汚性、消臭性、抗菌性、防曇性、環境浄化性等を達成することができ、耐熱性ガラスポット、ガラス製調味料容器に設けることにより耐熱性ガラスの欠点であるキズによる破損にも耐えることができ、ガラス製調味料容器に設けて付着物を分解させることにより衛生的に保つことができ。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は試験例1の皮膜硬度試験の結果を示す図である。
【図2】図2は試験例5のXPS分析の結果を示す図である。
【図3】図3は試験例6の光電流密度の波長応答性を示す図である。
【図4】図4は試験例7の光エネルギー変換効率の試験結果を示す図である。
【図5】図5は試験例8の消臭試験の結果を示す図である。
【図6】図6は試験例9の防汚試験の結果を示す写真である。
【図7】図7は試験例11の結果を示す図である。
【図8】図8は実施例11及び12で得られた炭素ドープ酸化チタン層の光透過状態を示す写真である。
【図9】図9は実施例12で得られた炭素ドープ酸化チタン層の表面状態を示す写真である。
【図10】図10は実施例13で得られた多機能材の状態を示す顕微鏡写真である。
【図11】図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図12】図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態示す顕微鏡写真である。
【図13】図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
【図14】図14は試験例15(防汚試験)の結果を示すグラフである。
【図15】図15は試験例16(結晶構造と結合状態)の結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有することを特徴とするガラス製品。
【請求項2】
多機能性皮膜のビッカース硬度が300以上であることを特徴とする請求項1記載のガラス製品。
【請求項3】
多機能性皮膜のビッカース硬度が1000以上であることを特徴とする請求項2記載のガラス製品。
【請求項4】
表面の少なくとも一部に、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有し、該多機能性皮膜の表面に、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立していることを特徴とする記載のガラス製品。
【請求項5】
炭素がTi−C結合の状態でドープされていることを特徴とする請求項4記載のガラス製品。
【請求項6】
多機能性皮膜が炭素を0.3〜15at%含有していることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス製品。
【請求項7】
多機能性皮膜が可視光応答型光触媒として機能することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス製品。
【請求項8】
多機能性皮膜が超親水性を発現し得ることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のガラス製品。
【請求項9】
多機能性皮膜が耐久性に優れていることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のガラス製品。
【請求項10】
多機能性皮膜が透明又は半透明であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のガラス製品。
【請求項11】
チタン合金がTi−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr、又はTi−13V−11Cr−3Alであることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載のガラス製品。
【請求項12】
ガラス製品が板ガラス、ガラス製調理器具、ガラス製保存容器、ガラス製食器、ガラス製調味料容器、ガラス製コップ、ガラス製実験器具、花ビン又は鏡であることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のガラス製品。
【請求項13】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面に不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面温度が900〜1500℃となるように加熱処理するか、又は該皮膜の表面をその表面温度が900〜1500℃となるように不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で加熱処理して、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項1〜3、6〜12の何れかに記載のガラス製品の製造方法。
【請求項14】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項4記載のガラス製品の製造方法。
【請求項15】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項5記載のガラス製品の製造方法。
【請求項16】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に、無機バインダーを用いて炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる粒子を固定させて、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項1〜3、5〜12の何れかに記載のガラス製品の製造方法。
【請求項1】
表面の少なくとも一部に、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有することを特徴とするガラス製品。
【請求項2】
多機能性皮膜のビッカース硬度が300以上であることを特徴とする請求項1記載のガラス製品。
【請求項3】
多機能性皮膜のビッカース硬度が1000以上であることを特徴とする請求項2記載のガラス製品。
【請求項4】
表面の少なくとも一部に、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を有し、該多機能性皮膜の表面に、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立していることを特徴とする記載のガラス製品。
【請求項5】
炭素がTi−C結合の状態でドープされていることを特徴とする請求項4記載のガラス製品。
【請求項6】
多機能性皮膜が炭素を0.3〜15at%含有していることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のガラス製品。
【請求項7】
多機能性皮膜が可視光応答型光触媒として機能することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のガラス製品。
【請求項8】
多機能性皮膜が超親水性を発現し得ることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のガラス製品。
【請求項9】
多機能性皮膜が耐久性に優れていることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のガラス製品。
【請求項10】
多機能性皮膜が透明又は半透明であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のガラス製品。
【請求項11】
チタン合金がTi−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr、又はTi−13V−11Cr−3Alであることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載のガラス製品。
【請求項12】
ガラス製品が板ガラス、ガラス製調理器具、ガラス製保存容器、ガラス製食器、ガラス製調味料容器、ガラス製コップ、ガラス製実験器具、花ビン又は鏡であることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のガラス製品。
【請求項13】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜の表面に不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面温度が900〜1500℃となるように加熱処理するか、又は該皮膜の表面をその表面温度が900〜1500℃となるように不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で加熱処理して、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項1〜3、6〜12の何れかに記載のガラス製品の製造方法。
【請求項14】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項4記載のガラス製品の製造方法。
【請求項15】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に設けられたチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜の表面に不飽和炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて該皮膜の表面層温度が600℃以上となるように加熱処理することによって、該皮膜の内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで該微細柱が林立している層を該皮膜の表面に沿う方向で切断させ、該微細柱を露出させて、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項5記載のガラス製品の製造方法。
【請求項16】
ガラス成形品の少なくとも一部の表面に、無機バインダーを用いて炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる粒子を固定させて、炭素がTi−C結合の状態でドープされている酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能性皮膜を形成することを特徴とする請求項1〜3、5〜12の何れかに記載のガラス製品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−240892(P2006−240892A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54692(P2005−54692)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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