説明

多段分繊法

【課題】略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を断糸せずに連続して製造する方法の提供。
【解決手段】繊度1〜10デニールの単繊維フィラメント数64〜1000本から構成される総繊度90〜1000デニールの合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して4〜9又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を連続して製造する方法であって、下記工程:(1)親糸である該合成繊維マルチフィラメント糸を略同一繊維構成の2又は3本の第一分繊糸に分繊し、(2)該2又は3本の第一分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第二分繊糸に分繊して合計4〜9本の略同一構造の第二分繊糸を得、必要によりさらに(3)該4〜9本の第二分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第三分繊糸に分繊して合計8〜27本の分繊糸を得るを含み、親糸の分繊時張力が0.5〜1.5g/デニールである方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数本の単繊維フィラメントから構成される合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して、4〜9又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を断糸せずに連続して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊度の大きいマルチフィラメント糸を分割して細い繊度の糸を得る、いわゆる「分繊」方法は知られている。分繊が行われる理由は、細い繊度の糸を紡糸することが経済的に不利益をもたらすからである。例えば、合成繊維の太デニール銘柄(例えば、繊度100デニール以上)の生産を目的とした一定規模の商業的な大型生産設備において、細デニール銘柄(凡そ繊度50デニール以下)を生産した場合、生産量が大幅に低下するため、著しく生産効率を低下させることになる。その結果、細デニール銘柄の単価は、対応の太デニール銘柄に比較して著しく高くなる。例えば、アラミド繊維の場合、1000デニールのものの価格を指数で表わし1とすると、50デニールのものは指数20〜30に相当する。細デニール銘柄の生産効率を上げるために、単位設備あたりの錘数を増やす、いわゆる多錘化方式、高速化により生産量を増加させる方法等が一般に採られているが、設備費用の増加、歩留まりの低下等を招き、十分な効果は得られていない。
【0003】
そこで、10〜50デニール/フィラメント等のモノフィラメント糸の生産においては、太デニールのマルチフィラメント銘柄をまず大量に生産し、しかる後「分繊」により所望のモノフィラメント糸を得ることが広く行われている。例えば、20デニールのモノフィラメント糸を紡糸工程において錘単位で直接製造する代わりに、例えば、予め160デニール/8フィラメントの原糸(親糸)を紡糸工程において一旦生産して錘単位の生産量を高く維持し、その後、分繊により8本の20デニールのモノフィラメント糸を得る分繊は、一般的に広く採用されている。
【0004】
以下、図1を参照して、かかるモノフィラメント糸への分繊を説明する。
1は、分繊に供する(紡糸)製糸工程で得られたマルチフィラメント原糸(親糸)、例えば、チーズ状に捲き取られた160デニール/8フィラメントの無撚ポリエチレンテレフタレート糸である。このマルチフィラメント原糸(親糸)は、2に示す分繊ガイドを経て8本の20デニールのモノフィラメント糸に分離・分繊され、それぞれ、3に示す8本のスピンドルワインダーに捲き取られる。
【0005】
このように、モノフィラメント糸に分繊をする場合には、マルチフィラメント原糸(親糸)を構成する単繊維フィラメント(以下、単糸又は単繊維ともいう。)の数は、スピンドルワインダーに対応して少なく、例えば、8本であり、フィラメント間の絡み(以下、交絡ともいう。)は起こり難く、また仮に絡みが存在していたとしてもその数は少ないため、単一の分繊ガイド上で同時に8本のモノフィラメントに分離・分繊しても、比較的容易にモノフィラメント分繊糸を得ることができる。このように、モノフィラメントへの分繊は、工業的生産に適用しうるものである。
【0006】
しかしながら、このようなモノフィラメントへの分繊は、多数本の単繊維フィラメントから構成される細デニールの合成繊維マルチフィラメント糸を、略同一繊維構成の分繊マルチフィラメント糸に分繊する場合には、一般に、適用が困難である。実際、今日でも、細デニールのマルチフィラメント原糸(親糸)、例えば、150デニール/72フィラメントのポリエチレンテレフタレート糸を、18デニール/9フィラメントの細デニールのマルチフィラメント分繊糸8本に同時に連続して分繊することは、実施されていない。
【0007】
これは、モノフィラメント糸への分繊においては、原糸(親糸)が比較的太い単糸から構成されているため、単糸間の絡みが極めて少なく容易に分繊できるのに対し、細デニールのマルチフィラメント糸への分繊の場合には、原糸(親糸)を構成する単繊維フィラメントの数が著しく多く、かかる多数のフィラメントは随所で相互に絡み、それに応じて交絡の数も膨大になるため、容易に分繊できないからである。
【0008】
以下の特許文献1には、無撚の状態で巻き取られたをマルチフィラメントでは、単糸が絡み合うため、分繊時に糸切れや張力変動が起こり易いことが記載されている(第1頁右欄参照)。そこで、特許文献1においては、紡糸口金より紡出されたマルチフィラメントを巻き取る前に予め複数の糸条群に分割し、該糸条群を個々にインターレースノズルで集束して各糸条群が集束状態を維持するようにし、その後に合糸して巻取ることを特徴とする分繊容易なマルチフィラメントの製造方法が提案されている(特許請求の範囲参照)。特許文献1には、インターレースノズルを使用せずに分繊したとき、分繊中に糸切れや張力変動が発生したことが記載されている(第3頁左欄参照)。
【0009】
また、以下の特許文献2にも、パッケージに巻かれた延伸糸を無撚の状態で引き出して、適当な個数に分割して巻く際の分割は容易かつ安定に起こらず、毛羽立ち、糸切れ等の問題が多発しており、分繊巻取速度には限界があること、そしてその最大の原因は、分繊前のマルチフィラメント糸の物理的履歴が各単繊維について同等であるため集合体としてまとまった挙動となり、分割という別挙動に対して抵抗する、すなわち、単繊維が相互に絡み合って、分繊の際に蜘蛛の巣のようになり易いことであること記載されている(第1頁右欄参照)。そこで、特許文献2においては、合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸後、完全に延伸する前に予め、該マルチフィラメント糸を2束以上に分割し、該分割糸束をそれぞれインターレース処理をして施し、その後に合糸して巻き取るか又は合糸後に延伸して巻き取る、分繊性マルチフィラメント糸の製造方法が提案されている(請求項1参照)。
【0010】
以下の特許文献3にも、細繊度のマルチフィラメント糸への分繊を容易かつ安定させるために、全芳香族ポリアミドマルチフィラメントからなる複数の糸条が合糸された多条マルチフィラメント糸において、各糸条への分繊時の毛羽や断糸を抑制するために各糸条に油剤を付与し、かつ、所定数の交絡を付与することが提案されている。
【0011】
このように、特許文献1〜3に開示された発明は、細繊度のマルチフィラメント糸への分繊を容易かつ安定させるために、分繊に先立って、分繊に供給する原糸(親糸)を、最終的に得ようとする分繊糸の数に応じてグルーピングするという技術的思想に基づくものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭48−96804号公報
【特許文献2】特開昭52−27846号公報
【特許文献3】特許第3929356号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した従来技術の状況に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、細繊度のマルチフィラメント糸への分繊を容易かつ安定に連続して製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討し実験を重ねた結果、分繊に先立って、分繊に供給する原糸(親糸)を、最終的に得ようとする分繊糸の数に応じてグルーピングしなくても、分繊において、多数の単繊維フィラメントから構成される細繊度のマルチフィラメント糸を略同一繊維構成をもつ2又は3本のマルチフィラメント分繊糸に略均等に2分割又は3分割(以下、2又は3分割を「最小分割単位」ともいう。)し、これを第一段階とし、第一段階で得られたマルチフィラメント分繊糸に、第一段階と同様の第二段階を適用し、さらに必要により該同様の第三段階を適用することにより、4〜9本又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント糸を容易にかつ安定して連続して製造することができることを予想外に発見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]繊度1〜10デニールの単繊維フィラメント数64〜1000本から構成される総繊度90〜1000デニールの合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して、4〜9又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を連続して製造する方法であって、以下の工程:
(1)親糸である該合成繊維マルチフィラメント糸を、2又は3本の略同一繊維構成の第一マルチフィラメント分繊糸に分繊し、
(2)該2又は3本の第一マルチフィラメント分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第二マルチフィラメント分繊糸に分繊して、合計4〜9本の第二マルチフィラメント分繊糸を得、必要によりさらに
(3)該4〜9本の第二マルチフィラメント分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第三マルチフィラメント分繊糸に分繊して、合計8〜27本の第三マルチフィラメント分繊糸を得る、
を含み、ここで、前記親糸の分繊時張力が0.5〜1.5g/デニールである前記方法。
【0016】
[2]前記親糸の分繊時張力が1.0〜1.5g/デニールである、前記[1]に記載の方法。
【0017】
[3]前記合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単繊維フィラメント数が64〜384であり、かつ、前記合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度が90〜600デニールである、前記[1]又は[2]に記載の方法。
【0018】
[4]前記合成繊維マルチフィラメント糸は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維又はポリ(パラフェニレンベンゾビス)オキサゾール繊維である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、多数本の単繊維フィラメントから構成される合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して4〜9又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を断糸せずに連続して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術の8本のモノフィラメント糸への1段連続分繊装置の概要図である。
【図2】本発明に係る8本の同一繊維構成のマルチフィラメント糸への多段連続分繊装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1に、従来技術の8本のモノフィラメント糸への1段連続分繊装置の概要図を示す。
前記したように、1に示す分繊に供する(紡糸)製糸工程で得られたマルチフィラメント原糸(親糸)、例えば、チーズ状に捲き取られた160デニール/8フィラメントの無撚ポリエチレンテレフタレート糸は、2に示す分繊ガイドを経て8本の20デニールのモノフィラメント糸に分離・分繊され、それぞれ、3に示す8本のスピンドルワインダーに捲き取られることができる。このように、モノフィラメントへの分繊は実施可能である。
【0022】
しかしながら、これを同じ装置を使用して、細デニールのマルチフィラメント原糸(親糸)、例えば、150デニール/72フィラメントのポリエチレンテレフタレート糸を、18デニール/9フィラメントの細デニールのマルチフィラメント分繊糸8本に連続して1段階で分繊しようとすると、2に示す分繊ガイドで、分繊糸同士が相互に絡まり、8本の分繊糸で複合交絡が誘発され、分繊開始直後に分繊ができない状態となり断糸するに至る。すなわち、細デニールのマルチフィラメント分繊糸8本への1段階での連続分繊は事実上不可能であるため、今日、かかるモノフィラメント糸への1段階連続分繊方法は、細デニールのマルチフィラメント糸への分繊には使用されていない。このように、細デニールのマルチフィラメント糸への分繊は実施不能であるとされてきた。
また、以下の実施例に示すように、前記細デニールのマルチフィラメント分繊糸4本に連続して1段階で分繊しようとした場合でも、2に示す分繊ガイドで、分繊糸同士が相互に絡まり、4本の分繊糸で複合交絡が誘発され、分繊開始直後に分繊ができない状態となり断糸するに至った。
【0023】
1段階で4本以上の細デニールのマルチフィラメント糸への分繊が実施不能である原因又は作用メカニズムは以下のようなものであろう。
多数本、例えば、4〜8本の細デニールのマルチフィラメント糸を、単一の分繊ガイド(2)で同時・一段で分繊しようとする場合、原糸(親糸)内に存在する多数の単糸間の(分離すべき)絡みが、分繊箇所で4〜8本の分繊糸間の界面に同時・不規則に出現し、各々の分繊糸が不安定な分繊状態を呈し、更には分繊を一箇所で行うが故に、分繊糸相互間での単糸混入を繰り返し、終には4〜8本の分繊が複合交絡し、分繊ガイド(2)の直下で4〜8本の分繊糸同士が激しく絡み合い、互いに分離することができなくなり、最終的に分繊糸の断糸に至る。また、1箇所で4〜8本の分繊糸に分繊しようとすると、分繊張力が、分繊糸の数に応じて分散するため、分繊点で、隣接する分繊糸間の境界に存在する単糸の交絡を解きほぐすために充分に強い力とは成り得なず、分繊が困難になる。換言すれば、多数本のモノフィラメントから構成される細デニールのマルチフィラメント原糸(親糸)を、4〜8本の細デニールの分繊糸に、1箇所の分繊点で1段階で分繊しようとする場合、親糸内に存在する単糸数が多数であり、それに応じてかかる多数の単糸間に存在する交絡も膨大な数となるため、これを1箇所の分繊点で同時に解きほぐすことは困難であり、過度の分繊張力を加えた場合には、分繊糸の断糸に至るのである。
【0024】
かかる原因を解明し、解決手段を鋭意検討した結果、本発明者は、本発明に係る細デニールのマルチフィラメント糸への連続分繊方法を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、繊度1〜10デニールの単繊維フィラメント数64〜1000本から構成される総繊度90〜1000デニールの合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して、4〜9又は8〜27本の同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を連続して製造する方法であって、以下の工程:
(1)親糸である該合成繊維マルチフィラメント糸を、2又は3本の略同一繊維構成の第一マルチフィラメント分繊糸に分繊し、
(2)該2又は3本の第一マルチフィラメント分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第二マルチフィラメント分繊糸に分繊して、合計4〜9本の第二マルチフィラメント分繊糸を得、必要によりさらに
(3)該4〜9本の第二マルチフィラメント分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第三マルチフィラメント分繊糸に分繊して、合計8〜27本の第三マルチフィラメント分繊糸を得る、
を含み、ここで、前記親糸の分繊時張力が0.5〜1.5g/デニールである前記方法である。
【0025】
図2に、本発明に係る8本の同一繊維構成のマルチフィラメント糸への多段連続分繊装置の概要を示す。
原糸(親糸)(9)は、分繊を阻害しないように、撚りの掛からない無撚解舒を行う必要がある。そこで、合成繊維マルチフィラメント原糸(親糸)の無撚解舒装置(回転ホルダー)(4)から供給される原糸(親糸)(9)は、第一分繊ガイド(5)を通り、2本の第一マルチフィラメント分繊糸(10)に同一繊維構成で分繊される。2本の第一マルチフィラメント分繊糸(10)は、それぞれ、第二分繊ガイド(6)を通って、2本の第二マルチフィラメント分繊糸(11)に同一繊維構成で分繊される。4本の第二マルチフィラメント分繊糸(11)は、それぞれ、第三分繊ガイド(7)を通って、8本の第三マルチフィラメント分繊糸(12)に同一繊維構成で分繊される。8本の第三マルチフィラメント分繊糸(12)は、それぞれ、対応のスピンドルワインダー(8)に巻き取られる。
【0026】
本発明に係る細デニールのマルチフィラメント糸への連続分繊方法は、親糸内に存在する単糸数が多数であり、それに応じてかかる多数の単糸間に存在する膨大な数の交絡を有効に解きほぐすために、最小分割単位である2又は3分割の分繊により、略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を2又は3本得ることを特徴とする。ここで、「同一繊維構成」とは、2又は3本に分繊されたマルチフィラメント分繊糸同士が、同一の総繊度及び構成フィラメント数を有することを意味する。したがって、例えば、2本に分繊されたマルチフィラメント分繊糸の一方に単繊維フィラメントの断糸があるが、他方にない場合にも、総じて総繊度及び構成フィラメント数が同じである限り、かかる2本の分繊糸は同一繊維構成を有する。また、「略同一繊維構成」とは、2又は3本に分繊されたマルチフィラメント分繊糸同士が、ほぼ同一の総繊度及び構成フィラメント数を有することを意味し、最小分割単位の分繊後の1の分繊糸の総繊度及び構成フィラメント数が、それぞれ、他の分繊糸の総繊度及び構成フィラメント数に対して60〜150%の範囲内にあることを意味する。
【0027】
本発明に係る方法において、最小分割単位である2又は3分割の分繊により、以下の作用効果が発揮される。
2又は3本の分繊糸に分繊しようとする場合には、解きほぐすべき交絡は、2又は3本の分繊糸の境界に存在するものに限定することができる。換言すれば、2又は3本の各分繊糸において、かかる境界に存在しない交絡は、この段階における分繊においては解きほぐす必要はない。また、4〜8本の分繊糸を同時に一箇所で分繊しようとする場合に加えるべき分繊張力に比較して、2又は3本の分繊糸に分繊しようとする場合に加えるべき分繊張力は、大きいものとなる。したがって、最小分割単位である2又は3分割の分繊においては、かかる大きな分繊張力で2又は3本の分繊糸の境界に存在する交絡のみを分繊すればよいので、交絡を効果的に解きほぐすことが可能となるのである。その結果、分繊は安定し、マルチフィラメント分繊糸を構成する単繊維モノフィラメントの数本の断糸が仮にあったとしても、かかるマルチフィラメント分繊糸自体の断糸は起こらない。
【0028】
本発明に係る方法は、前記最小分割単位の2又は3分割により略同一繊維組成の2又は3本のマルチフィラメント分繊糸に分割・分繊されることを特徴とする。略同一繊維組成の2又は3本に分割されることにより、2又は3本の分繊糸の張力はほぼ等しくなるため、分繊点の分繊が安定する。
【0029】
本発明に係る方法においては、最小分割単位の2又は3分割を、2段又は3段に連続して適用することを特徴とする。これにより、以下の作用効果が発揮される。
第一段階での2又は3分割分繊により2又は3本の各分繊糸は、分繊の結果として物理的な刺激を受けることになる。その結果、2又は3本の各分繊糸の内部に存在する交絡はいくぶん解きほぐされるであろう。かかる内部に存在する交絡がいくぶん解くほぐされた2又は3本の各分繊糸は、第二段階での2又は3分割分繊により、第一段階での2又は3分割分繊と同様の分繊、すなわち、比較的大きな分繊張力による2又は3本の分繊糸の境界に存在する交絡のみの分繊、が行われる。この第二段階での2又は3分割分繊においても物理的な刺激を受けることによって2又は3本の各分繊糸の内部に存在する交絡はいくぶん解きほぐされるであろう。そして必要により、第二段階での2又は3分割分繊と同様の第三段階の2又は3分割分繊が、さらに行われる。このように、最小分割単位の2又は3分割を、2段又は3段に連続して適用することによって、各分繊段階で分繊糸内部の交絡が段階的に解きほぐされることになる。
【0030】
以上のように、本発明に係る方法においては、1段階で解きほぐすべき単繊維モノフィラメントの交絡数を最小限に限定し、かつ、かかる段階を2〜3段階連続して適用することにより分繊糸内部の交絡を段階的に解きほぐすことができる。その副次的効果として、分繊張力をより低下させることができるため、分繊糸を構成する単繊維モノフィラメントの断糸頻度もより低下させることができ、より高い品質の細デニールのマルチフィラメント分繊糸を連続して製造することができることになる。すなわち、前記した図1に示す8本のモノフィラメント糸への分繊時における親糸の分繊張力に比較して、以下の図2に示すように8本のマルチフィラメント分繊糸に分繊する場合の親糸の分繊張力は、単位デニール当りに換算して低下させることができる。ここで、図2から明らかなように、第三マルチフィラメント分繊糸(12)にかかる分繊張力は、第二マルチフィラメント分繊糸(11)にかかる分繊張力の2分の1であり、第二マルチフィラメント分繊糸(11)にかかる分繊張力は、第一マルチフィラメント分繊糸(10)にかかる分繊張力の2分の1であり、そして第一マルチフィラメント分繊糸(10)にかかる分繊張力は、親糸(9)にかかる分繊張力の2分の1である。本発明においては、分繊を安定して連続製造する観点から、親糸の分繊時張力は0.5〜1.5g/デニールであり、好ましくは、親糸の分繊時張力は1.0〜1.5g/デニールである。
【0031】
本発明に係る方法に使用する原糸(親糸)は、繊度1〜10デニールの単繊維フィラメント数64〜1000本から構成される総繊度90〜1000デニールの合成繊維マルチフィラメント糸である。例えば、72本の多数の単糸から構成された総繊度150デニールのマルチフィラメント原糸(親糸)の場合、製糸工程では各単糸は口金から均一に吐出され、平列に固化・細化工程を経て無撚のまま捲き取られているので、本来、分繊は可能であると、理論上は考えられるであろう。しかしながら、実際には、製糸工程の糸条形成時に、冷却風・凝固液の微細な変動、油剤付与、熱セット工程等の張力変動等で部分的に不連続な単糸間の緩みが生じ、単糸が相互に微妙に絡み、随所に分繊し難い交絡を生じているのである。
【0032】
本発明に係る方法に使用する原糸(親糸)は、無撚のマルチフィラメント糸である必要があり、仮撚法等により、積極的にかさ高巻縮加工した糸、インターレース加工等により積極的に交絡を施した糸、オイリング等により積極的に集束性を高めた糸等は包含しない。これらの糸は、単糸の交絡が強固であり、本発明に係る2分割の段階的連続分繊によっても安定した分繊が達成されないからである。但し、製糸段階で特殊な加工されたものであっても、難燃糸、原着糸、複合糸等の強固な交絡が存在しない糸は、本発明に係る方法において原糸(親糸)として使用可能である。
【0033】
原糸(親糸)として使用する合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単繊維フィラメント数は、好ましくは、64〜384であり、かつ、合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度は、好ましくは、90〜600デニールである。
また、使用する合成繊維マルチフィラメント糸は、問わないが、好ましくは、ポリエステル繊維、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET)、ポリアミド繊維、例えば、6ナイロン繊維(N6)、66ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタラミド)繊維、又はポリベンゾザール繊維、例えば、ポリ(パラフェニレンベンゾビス)オキサゾール繊維(PBO)であることができる。
【実施例】
【0034】
<実施例1>
図2に示す装置を使用して、本発明に係る分繊方法を実施した。
150デニール/72フィラメントのPETマルチフィラメント親糸を、第一分繊ガイドを通して第一の2分割分繊により2本の36フィラメントの第一マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。第一段階の分繊は極めて安定していた。次いで、得られた2本の36フィラメントの第一マルチフィラメント分繊糸の各々を、第二分繊ガイドを通して第二の2分割分繊により4本の18フィラメントの第二マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。第二段階の分繊は極めて安定していた。さらに、得られた4本の18フィラメントの第二マルチフィラメント分繊糸の各々を、第三分繊ガイドを通して第三の2分割分繊により8本の9フィラメントの繊度19デニールの第三マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。第二段階の分繊も極めて安定していた。得られた8本の第三のマルチフィラメント分繊糸を、それぞれ、対応のスピンドル式捲き取機で捲き取った。
第一段階〜第三段階の全てにおいて、分繊は極めて安定した状態で維持されており、800gの原糸(親糸)を分離・分繊し、100g捲き*8本のマルチフィラメント分繊糸を一度も断糸せずに、5回の連続運転において、全て完捲きとして製造することができた。
分繊の概要、分繊結果を以下の表1に示す。
【0035】
<実施例2>
実施例1と同様に150デニール/72フィラメントのPETマルチフィラメント親糸を使用したが、第一分繊ガイドを通して第一の2分割分繊により32フィラメントと40フィラメントの異なる繊維構成の第一マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。第一段階の分繊はやや不安定であった。次いで、得られた32フィラメントの第一マルチフィラメント分繊糸を、第二分繊ガイドを通して第二の2分割分繊により、2本の16フィラメントの第二マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊し、他方、得られた40フィラメントの第一マルチフィラメント分繊糸を、第二分繊ガイドを通して第二の2分割分繊により、16フィラメントの第二マルチフィラメント分繊糸と24フィラメントの異なる繊維構成の第二マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。さらに、得られた3本の16フィラメントの第二マルチフィラメント分繊糸の各々を、第三分繊ガイドを通して第三の2分割分繊により6本の8フィラメントの繊度17デニールの第三マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊し、他方、得られた1本の24フィラメントの第二マルチフィラメント分繊糸を、第三分繊ガイドを通して第三の3分割分繊により3本の8フィラメントの繊度17デニールの第三マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。得られた9本の第三のマルチフィラメント分繊糸を、それぞれ、対応のスピンドル式捲き取機で捲き取った。
実施例2においては、150デニール/72フィラメントのPETマルチフィラメント親糸から、略同一繊維構成の分繊糸への2分割分繊、及び同一繊維構成の分繊糸への3分割分繊により、9本の8フィラメントの繊度17デニールの第三マルチフィラメント分繊糸に分離・分繊した。略同一繊維構成の分繊糸への2分割分繊はやや不安定であったが、分繊糸の断糸の生じなかった。一方、同一繊維構成の分繊糸への3分割分繊では、5回の連続運転の内1回で断糸が発生した。
分繊の概要、分繊結果を以下の表1に示す。
【0036】
<実施例3>
100デニール/96フィラメントのN6マルチフィラメント親糸を使用して、同一繊維構成の分繊糸への2分割分繊を3段実施して、12フィラメントの総繊度13デニールの分繊糸を8本製造した。
第一段階〜第三段階の全てにおいて、分繊は極めて安定した状態で維持されており、800gの原糸(親糸)を分離・分繊し、100g捲き*8本のマルチフィラメント分繊糸を一度も断糸せずに、5回の連続運転において、全て完捲きとして製造することができた。
分繊の概要、分繊結果を以下の表1に示す。
【0037】
<実施例4>
500デニール/332フィラメントのPBOマルチフィラメント親糸を使用して、同一繊維構成の分繊糸への2分割分繊を2段実施し、その後、第3段階の分繊において、同一繊維構成の分繊糸への3分割分繊を実施して、27フィラメントの総繊度42デニールの分繊糸を12本製造した。
第三段階における同一繊維構成の分繊糸への3分割分繊では、5回の連続運転の内2回で断糸が発生した。
分繊の概要、分繊結果を以下の表1に示す。
【0038】
<比較例1>
150デニール/72フィラメントのPETマルチフィラメント親糸を、1段の4〜8分割分繊で同一繊維構成の4〜8本の分繊糸に分繊しようと試みたが、5回の連続運転の内全てで断糸が発生した。
分繊の概要、分繊結果を以下の表1に示す。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、多数本の単繊維フィラメントから構成される合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して4〜9又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を断糸せずに連続して製造することが可能となる。したがって、本発明に係る方法は、繊維産業において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 マルチフィラメント原糸(親糸)の無撚解舒装置(回転ホルダー)
2 分繊ガイド
3 モノフィラメントが巻き取られるスピンドルワインダー
4 発明に係る合成繊維マルチフィラメント原糸(親糸)の無撚解舒装置(回転ホルダー)
5 第一分繊ガイド
6 第二分繊ガイド
7 第三分繊ガイド
8 第三マルチフィラメント分繊糸が巻き取られるスピンドルワインダー
9 発明に係る合成繊維マルチフィラメント原糸(親糸)
10 第一マルチフィラメント分繊糸
11 第二マルチフィラメント分繊糸
12 第三マルチフィラメント分繊糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度1〜10デニールの単繊維フィラメント数64〜1000本から構成される総繊度90〜1000デニールの合成繊維マルチフィラメント糸を分繊して、4〜9又は8〜27本の略同一繊維構成のマルチフィラメント分繊糸を連続して製造する方法であって、以下の工程:
(1)親糸である該合成繊維マルチフィラメント糸を、2又は3本の略同一繊維構成の第一マルチフィラメント分繊糸に分繊し、
(2)該2又は3本の第一マルチフィラメント分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第二マルチフィラメント分繊糸に分繊して、合計4〜9本の第二マルチフィラメント分繊糸を得、必要によりさらに
(3)該4〜9本の第二マルチフィラメント分繊糸の各々を2又は3本の略同一繊維構成の第三マルチフィラメント分繊糸に分繊して、合計8〜27本の第三マルチフィラメント分繊糸を得る、
を含み、ここで、前記親糸の分繊時張力が0.5〜1.5g/デニールである前記方法。
【請求項2】
前記親糸の分繊時張力が1.0〜1.5g/デニールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記合成繊維マルチフィラメント糸を構成する単繊維フィラメント数が64〜384であり、かつ、前記合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度が90〜600デニールである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記合成繊維マルチフィラメント糸は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維又はポリ(パラフェニレンベンゾビス)オキサゾール繊維である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162838(P2012−162838A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26284(P2011−26284)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(511036071)株式会社小田ゴウセン (1)
【Fターム(参考)】