説明

多段膜濾過装置及びその運転方法

【課題】 透過液の回収率及び濃縮液の濃縮度を高めることができる多段膜濾過装置の提供。
【解決手段】 循環濾過により濃縮液と透過液に連続的に分離するための内圧型中空糸膜モジュールが多段に配設され、前段の濃縮液を後段でさらに濃縮する多段膜濾過装置において、後段に配するモジュールの中空糸膜の内径を前段に配するモジュールの中空糸膜の内径よりも太くすることを特徴とする多段膜濾過装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は醗酵液や糖液等の高粘性液を循環濾過により濃縮液と透過液に連続的に分離するための多段膜濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高粘性液である糖液を例にとると、ブドウ糖あるいはその異性化糖は、コーンスターチ等の澱粉を原料に、酵素液化、酵素糖化工程を経ることによって得られる糖液を濾過等により精製することによって得られる。濾過には従来より珪藻土濾過法が用いられているが、珪藻土濾過は大量の珪藻土を必要とし、同時に分離捕捉された糖液中の不純物を含むスラッジが大量に排出される問題がある。スラッジは焼却処理ができないため産業廃棄物として埋め立て処分する必要があり、環境保全の観点からも珪藻土濾過法に代わる濾過技術が待ち望まれてきた。
【0003】
近年、代替技術として膜濾過法が提案され、一部では実用化されるまでに至っている。特開平10−304899号公報(特許文献1)、特開2002−112800号公報(特許文献2)、特開2003−259900号公報(特許文献3)には膜モジュールを多段に配設した糖液処理用膜濾過装置が開示されている。これらの装置は膜モジュールを多段に構成し、糖液の回収率を順次高めることによって、特に前段における膜モジュールの透過能力を高め、全体として必要な膜モジュールの本数を抑え装置の小型化を可能にするものである。
【0004】
ところが、これらは前段及び後段ともに同じ膜モジュールが配設されてなる膜濾過装置であり、中空糸膜モジュールを用いる場合は後段における単位モジュール当たりの透過能力が著しく低下するので効率が悪く、回収率にも限界がある。糖液の回収率は一般的に98%以上が求められるが、通常、未精製の糖液は0.2から0.3wt%の不溶物を含むため、最終的に濃縮度が50倍程度、すなわち回収率が98%程度になると不純物の乾燥重量は15wt%近くに達し、濃縮液(循環液)の粘性が著しく上昇する。循環濾過において、膜モジュールの透過能力の低下(ファウリング)を抑制し、透過能力を上げるためには可能な限りモジュール内線速を大きくすることが肝要である。
【0005】
しかしながら、中空糸膜モジュールにあっては、循環液の粘性が高くなるとモジュール内線速を大きくとることが難しくなる。中空糸膜モジュールは単位容積当たりの膜面積を大きくとることができるので透過能力が高い利点がある一方、粘性が高い液に対してはモジュール内線速を大きくすると圧力損失(循環差圧)が大きくなり、モジュールの最高使用圧力を越えてしまうので取り得るモジュール内線速の範囲が狭いという弱点がある。そのため、高粘性液に対しては効率が悪く、回収率にも影響する。また、モジュール内線速が小さくなると中空糸膜が閉塞し易くなり、一旦中空糸内が閉塞すると薬液洗浄等による透過能力の回復が困難となる。
【特許文献1】特開平10−304899号公報
【特許文献2】特開2002−112800号公報
【特許文献3】特開2003−259900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は透過液の回収率及び濃縮液の濃縮度を高めることができる多段膜濾過装置及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
1.循環濾過により濃縮液と透過液に連続的に分離するための内圧型中空糸膜モジュールが多段に配設され、前段の濃縮液を後段でさらに濃縮する多段膜濾過装置において、後段に配するモジュールの中空糸膜の内径を前段に配するモジュールの中空糸膜の内径よりも太くすることを特徴とする多段膜濾過装置。
2.前段に配する中空糸膜モジュールと後段に配する中空糸膜モジュールの膜孔径が同じであることを特徴とする1.に記載の多段膜濾過装置。
3.前段に配する中空糸膜モジュールと後段に配する中空糸膜モジュールの膜材質が同じであることを特徴とする1.または2.に記載の多段膜濾過装置。
4.内圧型中空糸膜モジュールで循環濾過により濃縮液と透過液に連続的に分離する方法であって、前段の膜モジュールの濃縮液を後段の膜モジュールで濾過する際に、後段の膜モジュールとして、前段の膜モジュールよりも中空糸膜内径の太いものを用いることを特徴とする多段膜濾過装置の運転方法
【発明の効果】
【0008】
本発明により膜モジュ−ル本数をより少なくすることができ、装置が小型化可能であり、かつ、透過液の回収率や濃縮液の濃縮度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
循環濾過を用いた多段膜濾過装置は、例えば図1に示すように膜モジュール、タンク、ポンプ等から構成され、原液タンクに導かれた原液は供給ポンプにより前段の膜濾過装置に供給され、循環ポンプ1により循環濾過され、濃縮液と透過液に分離される。ついで濃縮液は連続的に後段の膜濾過装置に送られ、循環ポンプ2によって循環濾過され、濃縮液と透過液に分離される。そして、後段の膜濾過装置からの濃縮液は連続的に次工程に導かれ、前段の膜濾過装置及び後段の膜濾過装置からの透過液は連続的に透過液タンクに導かれる。図2は前段の濃縮液を一旦タンクで受けた後、供給ポンプ2によって後段の膜濾過装置に送るものであり、構成は異なるが原液を連続的に濃縮液と透過液に分離する点において相違はなく、図1、図2ともバッチ処理とは処理形態を異にするものである。本発明は上記のような多段膜濾過装置において後段の膜濾過装置に配する中空糸膜モジュールの膜の内径を前段に配する中空糸膜モジュールの膜の内径よりも太く構成するものである。
【0010】
本発明における適性な中空糸膜の内径はそれぞれの対象液毎、各々の回収率即ち、所定の濃縮度におけるそれぞれの膜モジュールのモジュール内線速と透過能力の関係を把握して決定すればよく、特に限定されものではない。一般に内径が太くなるとモジュール内線速を大きく取れ、単位膜面積当たりの透過能力を高めることができる。同時に回収率や濃縮度もより高めることができるが、単位容積当たりの膜面積が減少し、実質的な透過能力を減じることにもつながるので上記、濃縮度とモジュール内線速、透過能力の関係を基に適性化するのが好ましい。なお、膜濾過装置の段数が増える程膜モジュール当たりの透過能力が増し、濾過の効率は上がるが、一方で装置が複雑になるので、必要な膜モジュールの推算本数にもよるが、2〜5段に設定することが好ましい。
【0011】
ところで、本発明における後段とは最終段のことであり、例えば段数が2段の時は2段目の中空糸膜の内径を1段目よりも太いものにすれば良い。また、段数が3段であれば2段目、3段目と順番に内径を太くすることでも良く、前段の内径と後段の内径の比(後段の内径/前段の内径)は好ましくは1.2〜3、より好ましくは1.4〜2である。また、膜モジュールの前段と後段の配設本数は同数でも、後段が少本数でもよく、特に限定されない。
【0012】
本発明の装置に用いられる中空糸膜モジュールの種類は、透過液を必要とする場合と濃縮液を必要とする場合、それぞれの目的に応じてUF、MF等を用いることができるが、前段と後段では膜の孔径及び/又は材質を同じにすることが好ましい。孔径や材質が同じであるとリーク率(阻止率)が一定になり、洗浄するための適性な薬剤や薬剤濃度が等しくなるため、取り扱いが簡便となり好ましい。中空糸膜の材質は特に限定されないが、通常、膜濾過装置にかける原液及び循環液の温度は膜濾過前後の工程の温度に合わせることが望まれるので、温度が高い場合は当然ながら耐熱性のものを選定することが好ましい。
【0013】
また、前段と後段の中空糸膜モジュールの長さは後段のモジュールを短くすることでも本発明の目的を達成することもできるが、詳細には上述のように所定の回収率に高めるまでの過程におけるそれぞれの膜モジュールの透過能力、さらには取り得るモジュール内線速によって決定することが好ましい。
本発明の装置は必要に応じて逆洗を行ったり、加水操作、加水工程を付加することもできる。なお、加水による濾過(ダイアフィルトレーション)を付加する場合はさらに段数が1段追設されることになるので、濃縮の最終段に加え、ダイアフィルトレーションを太い中空糸内径の膜モジュールとすることが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
前段の膜モジュールとして旭化成ケミカルズ(株)製、商品名マイクローザMFモジュールUSW−543(中空糸膜内径1.4mm、公称孔径0.1μm、膜面積8.6m、最高使用圧力0.3MPa、モジュール長1172mm)を用いた膜濾過装置の原液タンクに未精製のブドウ糖液(糖度計で測定した糖度30.9%、温度70℃〜80℃、SS0.24wt%)を連続的に供給しながら、入口圧力0.25MPa、出口圧力0.01MPaで循環濾過を行い、透過液を透過液タンクに、濃縮液を前段濃縮液タンクに連続的に抜き出した。透過液と濃縮液の液量比率を19:1に保つことにより回収率を95%(濃縮度20倍)に設定した。この時の透過能力は835L/hr(97L/hr/m)であった。また、循環液量から算出されるモジュール内線速は1.29m/secであった。次いで、後段の膜モジュールとして旭化成ケミカルズ(株)製、商品名マイクローザMFモジュールUMW−553(中空糸膜内径2.6mm、公称孔径0.2μm、膜面積5m、最高使用圧力0.3MPa、モジュール長1172mm)を用いた膜濾過装置に前段の膜濾過装置より得られた濃縮液を供給し、入口圧力0.25MPa、出口圧力0.01MPaの条件で循環濾過を行った。透過液と濃縮液の液量比率を1.5:1に保つことにより、前段を含めた全回収率を98%(濃縮度50倍)に設定し、透過液を透過液タンクに、濃縮液を連続的に装置外に抜き出した。この時の透過能力は335L/hr(67L/hr/m)であった。また、循環液量から算出されるモジュール内線速は0.74m/secであった。濾過後、前段及び後段の膜モジュールを装置から取り外してモジュールの開口端部を観察したが、閉塞している中空糸はなかった。
【0015】
(比較例1)
後段の膜モジュールにも旭化成ケミカルズ(株)製、商品名マイクローザMFモジュールUSW−543を用いた以外は、実施例1と同様の濾過を行った。この時の後段の透過能力は129L/hr(15L/hr/m)であった。また、循環液量から算出されるモジュール内線速は0.1m/sec以下であった。濾過後、後段の膜モジュールを装置から取り外してモジュールの開口端部を観察したところ、循環入口側で数十ケ所中空糸の閉塞があり、前段を含めた全回収率を98%にするには無理があることが示唆された。
実施例及び比較例より、後段すなわち高回収率側に内径の太い中空糸膜モジュールを配設することにより回収率を高くできることは明らかである。また、透過能力が高いので所定量の原液を所定の速度で濾過するのに必要な膜モジュールの本数が少なくて済むことも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の多段膜濾過装置は装置の小型化を可能にするものであり、効率的かつ高度に濃縮液と透過液に分離することができるので醗酵液や糖液等の高粘性液濾過に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の多段膜濾過装置の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の多段膜濾過装置の別例を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環濾過により濃縮液と透過液に連続的に分離するための内圧型中空糸膜モジュールが多段に配設され、前段の濃縮液を後段でさらに濃縮する多段膜濾過装置において、後段に配するモジュールの中空糸膜の内径を前段に配するモジュールの中空糸膜の内径よりも太くすることを特徴とする多段膜濾過装置。
【請求項2】
前段に配する中空糸膜モジュールと後段に配する中空糸膜モジュールの膜孔径が同じであることを特徴とする請求項1に記載の多段膜濾過装置。
【請求項3】
前段に配する中空糸膜モジュールと後段に配する中空糸膜モジュールの膜材質が同じであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多段膜濾過装置。
【請求項4】
内圧型中空糸膜モジュールで循環濾過により濃縮液と透過液に連続的に分離する方法であって、前段の膜モジュールの濃縮液を後段の膜モジュールで濾過する際に、後段の膜モジュールとして、前段の膜モジュールよりも中空糸膜内径の太いものを用いることを特徴とする多段膜濾過装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−102607(P2006−102607A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291292(P2004−291292)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】