説明

多段蒸着フィルムの製造方法及び多段蒸着フィルム

【課題】高い生産性で多段蒸着フィルムを製造する方法を提供する。さらに、多段蒸着フィルムの厚みの増加を小さい範囲に抑えつつ、水蒸気バリア性を大幅に高める技術を提供する。
【解決手段】アノード電極を有するプラズマガンを備えた真空成膜装置を用いて、該真空成膜装置内の蒸着材料収納容器に保持された蒸着材料を蒸発させ、基材の被成膜面に薄膜を形成する第一薄膜形成工程と、第一薄膜形成工程と同様にして、上記薄膜上にさらに薄膜を形成する第二薄膜形成工程と、を備える多段蒸着フィルムの製造方法を採用し、薄膜の形成を、蒸着材料収納容器を上記蒸着材料が蒸発する温度以上に加熱するとともに、蒸着材料収納容器に正電位を印加してプラズマガンから放出される電子を蒸着材料に照射しながら行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多段蒸着フィルムの製造方法及び多段蒸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
基材の被成膜面に無機酸化物等を蒸着させて薄膜を形成し多段蒸着フィルムとすることにより、水蒸気バリア性を高めることができる。基材に薄膜を形成する方法として、様々な方法が知られており、例えば、イオンプレーティング法を用いて、基材に薄膜を形成する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1、2に記載の方法を用いて基材上に薄膜を形成してなる多段蒸着フィルムは、他の蒸着方式を用いて基材上に薄膜を形成してなる多段蒸着フィルムと比較して、薄膜の緻密性に優れる。この結果、上記イオンプレーティング法を用いて得られる上記多段蒸着フィルムは、高い水蒸気バリア性を有する。
【0004】
特許文献1、2に記載の方法では、蒸着材料を保持する蒸着材料収納容器の電位を調整し、プラズマガンが発する電子を蒸着材料の周辺に集めて、集めた電子を蒸着材料の蒸気と衝突させて、蒸着材料をイオン化する。この際、蒸発した蒸着材料の付着によって蒸着材料収納容器が汚れてしまうと、プラズマガンからの電子を蒸着材料収納容器に還流することができなくなる。このように蒸着材料収納容器へ電子が流れ込みにくくなると、イオンプレ−ティング効果を継続できなくなる。
【0005】
したがって、特許文献1、2に記載の方法では、水蒸気バリア性の高い多段蒸着フィルムを製造することができるものの、長時間連続して多段蒸着フィルムを製造することができない。
【0006】
特許文献1、2に記載の方法で問題となる蒸着材料による汚れの問題を抑える手段として、凹凸形状を有するアノ−ド電極を用いる方法や、汚れの掻き取りワイパ−を設置する方法が知られている(特許文献3参照)。しかし、これらの解決方法では、蒸着材料の付着による蒸着材料収納容器の汚れを充分に抑えることができないことに加え、装置の製造コストも高くなる。
【0007】
また、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性を高める手法として、より厚い薄膜を形成する方法、より厚い基材を使用する方法等が知られている。しかし、このように多段蒸着フィルムを厚くすると、多段蒸着フィルムの柔軟性が低下して、薄膜等が割れてしまい水蒸気バリア性が低下する傾向にある。このため、多段蒸着フィルムの厚みの増加を小さい範囲に抑えつつ、水蒸気バリア性を大幅に高める方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−34831号公報
【特許文献2】特開2009−62597号公報
【特許文献3】特許第4074370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高い生産性で多段蒸着フィルムを製造する方法を提供すること、及び多段蒸着フィルムの厚みの増加を小さい範囲に抑えつつ、水蒸気バリア性を大幅に高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、アノード電極を有するプラズマガンを備えた真空成膜装置を用いて、該真空成膜装置内の蒸着材料収納容器に保持された蒸着材料を蒸発させ、基材の被成膜面に薄膜を形成する第一薄膜形成工程と、第一薄膜形成工程で形成した薄膜上に、アンカーコート剤層を形成するアンカーコート剤層形成工程と、アンカーコート剤層上に、第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する第二薄膜形成工程と、を備え、基材上にはアンカーコート剤層が形成されており、被成膜面はアンカーコート剤層が形成された側の面であり、上記薄膜の形成は、蒸着材料収納容器を蒸着材料が蒸発する温度以上に加熱するとともに、蒸着材料収納容器に正電位を印加してプラズマガンから放出される電子を蒸着材料に照射しながら行なうことで、以上の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) アノード電極を有するプラズマガンを備えた真空成膜装置を用いて、該真空成膜装置内の蒸着材料収納容器に保持された蒸着材料を蒸発させ、基材の被成膜面に薄膜を形成する第一薄膜形成工程と、前記第一薄膜形成工程で形成した薄膜上に、アンカーコート剤層を形成するアンカーコート剤層形成工程と、前記アンカーコート剤層上に、前記第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する第二薄膜形成工程と、を備え、前記基材上にはアンカーコート剤層が形成されており、前記被成膜面はアンカーコート剤層が形成された側の面であり、前記薄膜の形成は、前記蒸着材料収納容器を前記蒸着材料が蒸発する温度以上に加熱するとともに、前記蒸着材料収納容器に正電位を印加して前記プラズマガンから放出される電子を前記蒸着材料に照射しながら行なう多段蒸着フィルムの製造方法。
【0012】
(2) 前記第二薄膜形成工程後、第二薄膜の最表層上に、前記アンカーコート剤層形成工程と同様にして、アンカーコート剤層を形成し、該アンカーコート剤層上に、前記第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する工程を少なくとも一回行なう多層化工程を備える(1)に記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【0013】
(3) 前記薄膜の形成は、Roll to Roll方式で行なう(1)又は(2)に記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【0014】
(4) 前記蒸着材料収納容器は、上面に前記蒸着材料を収容するための凹部が形成された黒鉛ルツボを有し、前記蒸着材料収納容器の加熱は、前記蒸着材料収納容器の外周を覆うように設けられた高周波誘導加熱コイルに対して高周波電流を供給することにより行なう(1)から(3)のいずれかに記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【0015】
(5) 前記蒸着材料への前記電子の照射は、前記蒸着材料収納容器と前記アノード電極との間に設けられた可変抵抗を調整することにより行なう(1)から(4)のいずれかに記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【0016】
(6) 前記蒸着材料は、絶縁材料である(1)から(5)のいずれかに記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【0017】
(7) 第一の酸化ケイ素薄膜と第二の酸化ケイ素膜との間にアンカーコート剤層を有する積層構造を、基材上に備え、JIS K7129に準拠して40℃、90%RHの条件下で測定した水蒸気透過度が0.1[g/(m・day)]以下である多段蒸着フィルム。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多段蒸着フィルムの製造方法によれば、長時間連続して薄膜の形成を行なっても、安定した品質の薄膜を形成することができる。
【0019】
本発明の多段蒸着フィルムは、薄膜の形成による厚みの増加に対して、水蒸気バリア性の向上が非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】真空成膜装置を模式的に示す図である。
【図2】図2は、外周に高周波誘導加熱コイル41を有する蒸着材料収納容器18を模式的に示す図であり(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0022】
<真空成膜装置>
先ず、本発明の多段蒸着フィルムの製造方法を実施するための真空成膜装置の一例について説明する。
【0023】
図1は真空成膜装置1の断面を模式的に示す図である。図1に示すように、真空成膜装置1は、真空容器10、基材11、基材巻き出し部12、成膜用ドラム13、基材巻き取り部14、搬送ロール15、16、防着箱17、蒸着材料収納容器18、蒸着材料2、プラズマガン3、加熱部4、電位印加部5を備える。
【0024】
図1に示すように、真空容器10内の上部に、成膜用ドラム13に巻き掛けられた基材11がその被成膜面110を下向きにして配設される。成膜用ドラム13は、基材巻き出し部12と基材巻き取り部14との間に配置される。また、基材巻き出し部12と成膜用ドラム13との間には搬送ロール15が配置され、成膜用ドラム13と基材巻き取り部14との間には搬送ロール16が配置される。
【0025】
また、真空容器10内の成膜用ドラム13より下部に、電気的に接地された防着箱17が配設される。防着箱17の底面には蒸着材料収納容器18が配置される。蒸着材料収納容器18の上面と一定の間隔を空けて対向する位置に、被成膜面110が位置するように、蒸着材料収納容器18は上記底面に配置される。また、防着箱17の内部にプラズマを照射するプラズマガン3が真空容器10内に配置される。
【0026】
蒸着材料収納容器18には、蒸着材料収納容器18を加熱する加熱部4、蒸着材料収納容器18に正電位を印加する電位印加部5が接続されている。以下、真空成膜装置1の各構成について説明する。
【0027】
真空容器10は、真空雰囲気中で薄膜を形成するための部位である。真空容器10は、真空成膜装置1の外部にある真空ポンプ(図示せず)と連結している。この真空ポンプにより真空容器10内の真空度を調整することができる。
【0028】
基材11は、薄膜を形成する対象となる部位であり、例えば、長尺のフィルム状である。基材11は被成膜面110を有する。
【0029】
被成膜面110は、基材11において薄膜が形成される部位である。図1に示すように、被成膜面110を下向きにして、成膜用ドラム13の周面の一部に巻き掛けられるように、基材11は配設される。
【0030】
真空成膜装置1において、基材11は透明なポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムであり、一方の面にはアンカーコート剤層が形成されている。アンカーコート剤層が形成された側の面が被成膜面110にあたる。なお、使用可能な樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、ポリアリレート樹脂等から構成されるフィルムが挙げられる。
【0031】
また、基材11上に形成されるアンカーコート剤層は、後述するアンカーコート剤層形成工程で形成されるアンカーコート剤層と同様である。なお、市販の樹脂フィルムにアンカーコート剤層を形成して使用してもよいし、アンカーコート剤層が形成された市販の樹脂フィルムを使用してもよい。
【0032】
また、アンカーコート剤層が形成された基材11の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上500μm以下の範囲で適宜好適なものを使用可能である。
【0033】
基材巻き出し部12、成膜用ドラム13、基材巻き取り部14、搬送ロール15、16は、Roll To Roll方式で基材11上に薄膜を成膜するために必要となる。これらは、Y方向に延びる円柱状の形状を有し、中心軸(Y方向に延びる)を中心に回転するように、真空容器10の側面(図示せず)に軸受け支持される。各構成について簡単に説明すると、基材巻き出し部12は、周面にロール状に巻かれた基材11を巻き出し、基材11を搬送ロール15に送るための部位であり、成膜用ドラム13は、成膜時に基材11の被成膜面110が蒸着材料収納容器18の上面と対向するように基材11を保持する部位であり、基材巻き取り部14は、成膜後の基材11を巻き取るための部位であり、搬送ロール15は、基材巻き出し部12から巻き出された基材11を成膜用ドラム13に送るための部位であり、搬送ロール16は、成膜用ドラム13で成膜された基材11を、基材巻き取り部14に送るための部位である。特に成膜用ドラム13は、蒸着材料収納容器18から受ける熱により基材11の物性が影響を受けないよう−20℃程度に冷却されている。
【0034】
防着箱17は、真空容器1内に配置される。防着箱17は、開閉可能な開口部172を備えた防着板171を有する。真空成膜装置1において、防着板171は、防着箱17の上板にあたる。開口部172は、開口1721とシャッター1722から構成される。開口1721は、成膜用ドラム13に巻きかけられた基材11の被成膜面110と対向する位置に設けられる。シャッター1722は、水平方向(±X方向)に移動して、開口1721の開閉を行なうための部位である。また、防着箱17は電気的にアース(接地)されている。
【0035】
蒸着材料収納容器18は、蒸着材料2を保持するための部位である。蒸着材料収納容器18は、防着箱17の底面に配置される。蒸着材料収納容器18の詳細については後述する。
【0036】
蒸着材料2は、上記反応ガスと反応して、基材11の被成膜面110に形成される薄膜の原料である。本実施形態において、蒸着材料2はSiOである。なお、本発明において、蒸着材料2の種類は特に限定されないが、使用可能な蒸着材料2として、例えば、SiO、Al、Al、SiN、SiOZn等を挙げることができる。
【0037】
プラズマガン3は、防着箱17の内部にプラズマを照射する部位である。プラズマガン3はアノード電極31と、プラズマ照射口32とを有する。アノード電極31は、プラズマ照射口32に隣接する位置に設けられる。本実施形態において、プラズマガン3は、Arプラズマを放出するアノード電極を有する圧力勾配型のプラズマ発生装置である。
【0038】
加熱部4は、蒸着材料収納容器18内の黒鉛ルツボ181を加熱し、蒸着材料2を蒸発させる部位である。本実施形態において、加熱部4は、高周波誘導加熱コイル41と、高周波電源42とを有する。高周波誘導加熱コイル41は水冷コイルであり、蒸着材料収納容器18の外周に配置される。高周波電源42は、高周波誘導加熱コイル41と電気的に接続されている。
【0039】
電位印加部5は、電源であり、黒鉛ルツボ181に対して、正電位を印加する部位である。電位印加部5の正電位側は、カーボンウール182、イオン化電極1831を介して黒鉛ルツボ181と電気的に接続されている。本実施形態においては、電位印加部5の正電位側は、プラズマガン3のアノード電極31とも電気的に接続されている。また、蒸着材料収納容器18とアノード電極31との間は可変抵抗を介して電気的に接続されている。なお、電位印加部5の負電位側は、プラズマガン3の有する電極(図示せず)と電気的に接続されている。
【0040】
蒸着材料収納容器18について、図2を用いて説明する。図2は、外周に高周波誘導加熱コイル41を有する蒸着材料収納容器18を模式的に示す図であり(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【0041】
蒸着材料収納容器18は、黒鉛ルツボ181、カーボンウール182、セラミック容器183を備える。
黒鉛ルツボ181は、上面に凹部を有する有底円筒状であり、この凹部が蒸着材料収納容器開口部に該当する。なお、電位を印加できるものであればよいため、本発明は黒鉛ルツボを使用するものに限定されない。
カーボンウール182は、黒鉛ルツボ181の外周面及び底面を被覆する部品である。なお、真空成膜装置1ではカーボンウールを使用しているが、熱伝導性が低く、電気伝導性が高い被覆材料を用いればよい。
セラミック容器183は、凹部を有する有底円筒状の部品であり、凹部内にカーボンウール182に被覆された黒鉛ルツボ181が収容される。セラミック容器183は、導電部の一例であるイオン化電極1831と、絶縁板1832とを有する。イオン化電極1831は凹部の底に配置される。絶縁板1832は、凹部の開口縁に形成され、カーボンウール182に被覆された黒鉛ルツボ181の開口縁の上部を覆う。なお、セラミック容器183の外周に高周波誘導加熱コイル41が配置される。また、イオン化電極1831と電位印加部5の正電位側とがカーボンウール182を介して電気的に接続されている。
【0042】
<多段蒸着フィルムの製造方法>
本発明の多段蒸着フィルムの製造方法は、第一薄膜形成工程と、アンカーコート剤層形成工程、第二薄膜形成工程とを有する。
【0043】
[第一薄膜形成工程]
第一薄膜形成工程とは、真空成膜装置1内の蒸着材料収納容器18に保持された蒸着材料2を蒸発させ、基材11の被成膜面110に薄膜を形成する工程である。薄膜の形成は、蒸着材料収納容器18を蒸着材料2が蒸発する温度以上に加熱するとともに、蒸着材料収納容器18に正電位を印加してプラズマガン3から放出される電子を蒸着材料2に照射しながら行なう。
【0044】
上記の通り、薄膜の形成の際に蒸着材料収納容器18は、蒸着材料2が蒸発する温度以上になるように加熱されている。特に、本実施形態において、加熱部4は蒸着材料収納容器18の黒鉛ルツボ181を加熱する。このため、仮に蒸発した蒸着材料2が、黒鉛ルツボ181に付着したとしても瞬時に蒸発してしまう。その結果、黒鉛ルツボ181が汚れてしまいイオンプレーティング効果が消失することを抑制することができる。
【0045】
また、上記の通り、本実施形態では、蒸着材料収納容器18の黒鉛ルツボ181に正電位を印加して、黒鉛ルツボ181に電子が流れ込みやすくする。黒鉛ルツボ181に電子が流れ込むと、黒鉛ルツボ181の有する抵抗により、黒鉛ルツボ181はさらに加熱される。この加熱によっても、黒鉛ルツボ181の温度を高めることができる。
【0046】
また、蒸着材料収納容器18に電子が流れ込みやすくなるため、蒸着材料収納容器18に流れ込む電子が蒸発した蒸着材料2と衝突しやすくなる。その結果、蒸発した蒸着材料2のイオン化が促進される。ところで、プラズマガンからのプラズマは、蒸着材料収納容器18に電子が流れ込みやすくなるように、蒸着材料収納容器18に向かう方向に照射される。このため、プラズマは上記のイオン化が促進される部分に向けて照射されることになる。このように、イオン化が促進される部分にプラズマが照射されることで、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性は著しく高まる。
【0047】
真空成膜装置1を用いて薄膜を形成する場合を例にして、本工程についてさらに説明する。図1に示す真空成膜装置1において、シャッター1722を閉じた状態で真空容器10に接続された真空ポンプを作動させ、真空容器10内の真空度を1×10−4Pa以上1×10−1Pa以下の範囲に調整する。なお、本発明の多段蒸着フィルムの製造方法において、真空容器10内の真空度は、特に限定されず、真空容器10の大きさ、蒸着材料2の種類等に応じて適宜変更できる。
【0048】
真空度を調整した後、プラズマガン3のスイッチを入れ、防着箱17内にプラズマを数分程度(1分以上10分以下)照射する。この時はプラズマが防着箱17内に広く拡散し電子がアノ−ド電極31に還流するよう可変抵抗を操作する。このプラズマ照射を行なうことは、本発明の多段蒸着フィルムの製造方法において、必須ではないが、このプラズマ照射を行うことで、真空容器10内の残留水分を分解して真空ポンプに排気させ真空度を良好に保つことができる。また、残留水分が薄膜に悪影響を及ぼし難くなり、薄膜が緻密になりやすいため好ましい。
【0049】
プラズマガン3でプラズマを数分照射後、プラズマを照射した状態で、高周波電源42から高周波誘導加熱コイル41に電流を送る。電流値は適宜調整可能であるが、12A以上22A以下に調整することが好ましい。高周波誘導加熱コイル41に電流が流れると黒鉛ルツボ181自体が渦電流によってジュ−ル熱を発する。このジュール熱は、黒鉛ルツボ181の温度を上昇させ、黒鉛ルツボ181内にある蒸着材料2を蒸発させる。蒸着材料2が蒸発していることは、真空容器10内の圧力の低下やプラズマの発光色により確認できる。なお、真空容器10内の圧力の低下とは、真空度が高くなることを意味する。蒸着材料2の蒸発が盛んになると、真空容器10内のガスと蒸発した蒸着材料2とが化合するため、真空容器10内のガスが減り真空度が高まる。この結果、蒸発の程度を、真空容器10内の圧力の低下から確認できる。
【0050】
蒸着材料2が蒸発していることを確認後、可変抵抗を操作し、プラズマガン3から放出された電子が、黒鉛ルツボ181の凹部内に流れ込むように調整する。電子が黒鉛ルツボ181に流れ込むと、黒鉛ルツボ181の有する電気抵抗により黒鉛ルツボ181の温度はさらに上昇する。
【0051】
プラズマガン3から放出された電子が、黒鉛ルツボ181の凹部内に流れ込むように調整した後、基材巻き出し部12を矢印Aの方向に、成膜用ドラム13を矢印B方向に、基材巻き取り部14を矢印C方向に、搬送ロール15を矢印D方向に、搬送ロール16を矢印E方向に、それぞれの中心軸を中心に回転させ、基材巻き出し部12の周面にロール状に巻かれた基材11を、基材巻き取り部14まで連続的に送る。基材11の搬送速度が0.1m/分以上600m/分以下(特に好ましくは1m/分以上300m/分以下)になるように、基材巻き出し部12等の回転速度を調整することが好ましい。この基材11の搬送を始めた状態でシャッター1722を開く。この基材11を搬送する過程で、被成膜面110に薄膜が形成される。具体的には、以下のようにして薄膜が形成される。
【0052】
基材巻き出し部12の周面にロール状に巻かれた基材11が、基材巻き出し部12の矢印A方向への回転により、白抜き矢印F(図1に記載)の方向に巻き出される。
【0053】
基材巻き出し部12から巻き出された基材11は、搬送ロール15の矢印D方向への回転により、白抜き矢印G(図1に記載)の方向に搬送され、成膜用ドラム13まで送られる。
【0054】
成膜用ドラム13まで送られた基材11は、成膜用ドラム13の矢印B方向への回転により、成膜用ドラム13上を白抜き矢印H方向に搬送される。この際、被成膜面110が防着箱17の上面にある開口1721の上を通過する。この通過の際に、被成膜面110に薄膜が形成される。
【0055】
成膜用ドラム13から離れた基材11は、搬送ロール16が矢印E方向に回転することにより、白抜き矢印I(図1に記載)の方向に搬送される。そして、基材11は、搬送ロール16の周面を沿うように送られる。
【0056】
搬送ロール16の周面を沿うように搬送された基材11は、基材巻き取り部14の周面にロール状に巻かれるように巻き取られる。
【0057】
[アンカーコート剤層形成工程]
アンカーコート剤層形成工程とは、上記第一薄膜形成工程で形成された薄膜上にアンカーコート剤層を形成する工程である。アンカーコート剤層は優れた水蒸気バリア性を有さないにもかかわらず、アンカーコート剤層と上記薄膜とが組み合わされることで、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性を高めることができる。
【0058】
アンカーコート剤層の形成に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル系樹脂、イソシアネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ系樹脂、変性スチレン系樹脂、変性シリコン系樹脂、及びアルキルチタネート等を、1又は2種以上併せて使用することができる。これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。
【0059】
アンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により被成膜面110上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりアンカーコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1g/m以上5g/m以下(乾燥状態)程度が好ましい。
【0060】
[第二薄膜形成工程]
第二薄膜形成工程とは、上記アンカーコート剤層形成工程で形成したアンカーコート剤層上に、上記第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する工程である。上記アンカーコート剤層形成工程後の基材11を、基材巻き出し部12にセットし、上記の第一薄膜形成工程と同様の操作を行ない、アンカーコート剤層上にさらに薄膜を形成する。一般的に、多段蒸着フィルムに水蒸気バリア性を有する層を積層することで、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性を相加的に高めることができる。しかし、本発明の多段蒸着フィルムの製造方法によれば、アンカーコート剤層と薄膜との交互の積層により、水蒸気バリア性が相乗的に高まる。
【0061】
[その他の工程]
本発明の多段蒸着フィルム製造方法は、必須の工程である、第一薄膜形成工程、アンカーコート剤層形成工程、第二薄膜形成工程以外の工程を有してもよい。また、本発明においては、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性をさらに高めるために、第二薄膜形成工程後に多層化工程を設けることが好ましい。
【0062】
[多層化工程]
多層化工程とは、第二薄膜形成工程後、第二薄膜の最表層上に、上記アンカーコート剤層形成工程と同様にして、アンカーコート剤層を形成し、該アンカーコート剤層上に、第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する工程を少なくとも一回繰り返す工程である。
【0063】
多層化工程を行うことで、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性を高めることができる。本発明の多段蒸着フィルムの製造方法によれば、アンカーコート剤層と薄膜との交互のさらなる積層により、水蒸気バリア性がより高まる。
【0064】
<多段蒸着フィルム>
本発明の多段蒸着フィルムは、第一の酸化ケイ素薄膜と第二の酸化ケイ素膜との間にアンカーコート剤層を有する積層構造を、基材上に備える。第一の酸化ケイ素膜及び第二の酸化ケイ素膜は、本発明の多段蒸着フィルムの製造方法における薄膜の形成と同様の方法で形成された膜である。薄膜の形成方法が従来の方法と異なるため、第一の酸化ケイ素膜及び第二の酸化ケイ素膜は、従来の方法で形成された酸化ケイ素膜と比較して、緻密な構造を有する。その結果、本発明の多段蒸着フィルムは、非常に高い水蒸気バリア性を有する。水蒸気バリア性の指標として水蒸気透過度を用いると、JIS K7129に準拠して40℃、90%RHの条件下で測定した多段蒸着フィルムの水蒸気透過度は、0.1[g/(m・day)]以下となる。
【0065】
基材、アンカーコート剤層は、上記の多段蒸着フィルムの製造方法の説明における基材、アンカーコート剤層と同様である。したがって、本発明の多段蒸着フィルムは、上記の本発明の多段蒸着フィルムの製造方法で製造することができる。しかし、上記のような緻密な酸化ケイ素膜を形成することができれば、本発明の多段蒸着フィルムを得る方法は特に限定されない。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0067】
<材料・装置>
真空成膜装置1:図1に記載の真空成膜装置
蒸着材料 :SiO
基材1 :ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム12μm
基材2 :アクリル系樹脂を主成分とするアンカーコート剤層0.3μmを有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム12μm
【0068】
<実施例、比較例>
下記の表1に示す積層構造を有する実施例、及び比較例の多段蒸着フィルムを後述する方法で製造した。表1中のAC層はアンカーコート剤層を表し、SiOx層は酸化ケイ素膜を表す。
【表1】

【0069】
[第一薄膜形成工程]
表2には、基材の被成膜面に酸化ケイ素膜を形成する際の基材の搬送速度、真空容器内部の真空度、プラズマを照射する場合のプラズマの照射条件(出力、加速電圧、Arガス流量)を示した。また、表3には、成膜時に、イオン化電極である金属板に印加される電位、金属板を流れる電流の電流値、アノード電極を流れる電流の電流値を示した。なお、高周波誘導加熱コイルに供給する電流は、黒鉛ルツボが赤熱する程度に調整した。また、表3に記載の通り、比較例3、4では、電位印加部による蒸着材料収納容器への正電位の印加を行っていない。
【0070】

【表2】

【表3】

【0071】
実施例、比較例のいずれも、500mの基材に薄膜である酸化ケイ素膜を連続して形成した。酸化ケイ素膜の膜厚は30nmであった。比較例1〜4については、基材巻取り部から取り出した蒸着フィルムを、後述する水蒸気透過度の評価に用いた。
【0072】
[アンカーコート剤層形成工程]
実施例1〜3については、基材巻取り部から酸化ケイ素膜が形成された基材を取り出し、アクリル系樹脂を主成分とするアンカーコート剤を使用し、酸化ケイ素膜上に、厚さ0.3μmのアンカーコート剤層をグラビアコート法で形成した。
【0073】
[第二薄膜形成工程]
実施例1〜3については、さらに、アンカーコート剤層形成工程後の基材を、基材巻き出し部に再びセットし、第一薄膜成形工程と同様にして、アンカーコート剤層上に酸化ケイ素膜を形成した。酸化ケイ素膜の膜厚は30nmであった。実施例1については、基材巻き出し部から取り出した多段蒸着フィルムを、後述する水蒸気透過度の評価に用いた。
【0074】
[多層化工程]
実施例2、3については、第二薄膜形成工程後の基材を、基材巻き取り部から取り出し、アクリル系樹脂を主成分とするアンカーコート剤を使用し、酸化ケイ素膜上に、厚さ0.3μmのアンカーコート剤層をグラビアコート法で形成した。実施例2については、このアンカーコート剤層を形成工程後の多段蒸着フィルムを、後述する水蒸気透過度の評価に用いた。
【0075】
実施例3については、さらに、上記のアンカーコート剤層を形成した後の基材を、基材巻き出し部に再びセットし、第一薄膜成形工程と同様にして、アンカーコート剤層上に酸化ケイ素膜を形成した。酸化ケイ素膜の膜厚は30nmであった。実施例3については、基材巻き出し部から取り出した多段蒸着フィルムを、後述する水蒸気透過度の評価に用いた。
【0076】
<水蒸気透過度の評価>
実施例の多段蒸着フィルム及び比較例の多段蒸着フィルムについて、薄膜形成の開始位置から400m付近をサンプルとして切り出し、水蒸気透過度の測定を行なった。水蒸気透過度の測定は、水蒸気透過率測定装置PERMATRAN3/31(MOCON社製)を用いて、40℃、100%RH雰囲気下で行なった。測定結果を表4に示した。
【表4】

【0077】
実施例1の結果と比較例1の結果とを比較すると、実施例1の多段蒸着フィルムの水蒸気透過度は、比較例1の多段蒸着フィルムの水蒸気透過度の5.5分の1程度である。つまり、実施例1の多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性は、比較例1の多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性の5.5倍程度であることになる。この結果から、多段蒸着フィルムとすることで、相乗的に多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性が向上することが確認された。
【0078】
実施例1の結果と実施例3の結果とを比較すると、実施例3の多段蒸着フィルムの水蒸気透過度は、実施例1の多段蒸着フィルムの水蒸気透過度のおよそ3分の1程度である。つまり、実施例3の多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性は、実施例1の多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性の3倍程度である。この結果から、本発明の方法で得られた多段蒸着フィルムの薄膜上に、さらに本発明の方法で薄膜を形成することで、多段蒸着フィルムの水蒸気バリア性はさらに高まることが確認された。
【0079】
比較例1及び2の比較から、本発明の製造方法で採用される方法で形成された薄膜とアンカーコート剤層とを組み合わせることで、アンカーコート剤層を有さないものと比較して水蒸気バリア性が2倍になることが確認された。また、比較例3及び4の比較から、本発明の製造方法で採用される方法と異なる方法で形成された薄膜とアンカーコート剤層とを組み合わせることで、アンカーコート剤層を有さないものと比較して水蒸気バリア性が1.15倍程度になることが確認された。以上より、本発明の製造方法で採用される方法で形成された薄膜とアンカーコート剤層とを組み合わせると、水蒸気バリア性が顕著に高まることが確認された。
【0080】
実施例の結果から、12000mの基材に連続して薄膜を形成しても、上記のような高い水蒸気バリア性を実現できることから、多段蒸着フィルムの生産性も高められることが確認された。
【符号の説明】
【0081】
1 真空成膜装置
10 真空容器
11 基材
110 被成膜面
12 基材巻き出し部
13 成膜用ドラム
14 基材巻き取り部
15、16 搬送ロール
17 防着箱
171 防着板
172 開口部
1721 開口
1722 シャッター
18 蒸着材料収納容器
181 黒鉛ルツボ
182 カーボンウール
183 セラミック容器
1831 イオン化電極
1832 絶縁板
2 蒸着材料
3 プラズマガン
31 アノード電極
32 プラズマ照射口
4 加熱部
41 高周波誘導加熱コイル
42 高周波電源
5 電位印加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極を有するプラズマガンを備えた真空成膜装置を用いて、該真空成膜装置内の蒸着材料収納容器に保持された蒸着材料を蒸発させ、基材の被成膜面に薄膜を形成する第一薄膜形成工程と、
前記第一薄膜形成工程で形成した薄膜上に、アンカーコート剤層を形成するアンカーコート剤層形成工程と、
前記アンカーコート剤層上に、前記第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する第二薄膜形成工程と、を備え、
前記基材上にはアンカーコート剤層が形成されており、前記被成膜面は前記アンカーコート剤層が形成された側の面であり、
前記薄膜の形成は、前記蒸着材料収納容器を前記蒸着材料が蒸発する温度以上に加熱するとともに、前記蒸着材料収納容器に正電位を印加して前記プラズマガンから放出される電子を前記蒸着材料に照射しながら行なう多段蒸着フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第二薄膜形成工程後、第二薄膜の最表層上に、前記アンカーコート剤層形成工程と同様にして、アンカーコート剤層を形成し、該アンカーコート剤層上に、前記第一薄膜形成工程と同様にして、薄膜を形成する工程を少なくとも一回行なう多層化工程を備える請求項1に記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記薄膜の形成は、Roll to Roll方式で行なう請求項1又は2に記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記蒸着材料収納容器は、上面に前記蒸着材料を収容するための凹部が形成された黒鉛ルツボを有し、
前記蒸着材料収納容器の加熱は、前記蒸着材料収納容器の外周を覆うように設けられた高周波誘導加熱コイルに対して高周波電流を供給することにより行なう請求項1から3のいずれかに記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記蒸着材料への前記電子の照射は、前記蒸着材料収納容器と前記アノード電極との間に設けられた可変抵抗を調整することにより行なう請求項1から4のいずれかに記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記蒸着材料は、絶縁材料である請求項1から5のいずれかに記載の多段蒸着フィルムの製造方法。
【請求項7】
第一の酸化ケイ素薄膜と第二の酸化ケイ素膜との間にアンカーコート剤層を有する積層構造を、基材上に備え、
JIS K7129に準拠して40℃、90%RHの条件下で測定した水蒸気透過度が0.1[g/(m・day)]以下である多段蒸着フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214847(P2012−214847A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81109(P2011−81109)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】