説明

多段階カスケード増強ワクチンの効果を高めるための免疫接合体

【課題】 腫瘍細胞や感染性物質に対する啼乳動物の体液性および細胞性免疫応答を誘導する。
【解決手段】 抗体と、腫瘍または感染性物質に関連する抗原のエピトープによく似る抗イディオタイプ抗体とを含む、免疫接合体を含んでなるワクチンを用いて、腫瘍細胞や感染性物質に対する啼乳動物の体液性および細胞性免疫応答を誘導する。この免疫接合体はさらに、腫瘍関連抗原や感染性物質のエピトープを含むペプチド、抗イディオタイプ抗体の最小認識単位を含有するペプチド、あるいは強い主要組織適合遺伝子複合体拘束性免疫応答を誘導するペプチドを包含させてもよい。また、抗体とサイトカインを用いて、免疫応答を増幅することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.技術分野
本発明は悪性細胞と感染性物質に対する体液性および細胞性免疫応答反応を誘導する方法に関する。特に本発明は、腫瘍または感染性物質に関連する抗原のエピトープによく似る抗イディオタイプ抗体と、抗体とを含む免疫接合体(immunoconjugate)を使用して腫瘍細胞および感染性物質に対する総合的な免疫応答を生じさせる方法に関する。本発明はさらに、免疫接合体、抗体、抗イディオタイプ抗体およびサイトカインを用いて上記の一体となった反応を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
免疫療法の主要目的の一つは、腫瘍細胞または感染性生物に対抗して患者の免疫系を活用することにある。癌療法は、腫瘍細胞に関連している抗原を標的として、患者の免疫系を腫瘍細胞に指向させるが、正常細胞には働きかけないようにすることを目的としている。これらの腫瘍関連抗原(tumor associated antigens: TAA)は同定することは難しいが、ある腫瘍細胞においては、通常、成人期では発現されないか、あるいは発現してもそのレベルが低いけれども、胎児の成長期には存在している抗原が発現される。このような腫瘍胎児TAAの一例としては、肝臓癌細胞によって発現されるαフェトプロテインが挙げられる。この他の腫瘍胎児TAAとしては、内胚葉によって誘導されるほとんどの消化系上皮腺癌、ならびに非小細胞肺癌細胞(non-small-cell lung cancer cells)で発現される癌胎児抗原(carcinoembryonic antigen)(CEA)がある。Thomas et al.,Biochim. Biophys.Acta 1032:177(1990).
【0003】
TAAによく似る抗イディオタイプ抗体(Ab2)の投与は、癌免疫療法の最も有望なアプローチの一つである。Goldenberg,Amer.J.Med.94: 297(1993).Ab2抗体は、従来からある抗体(Ab1)の可変部に対する抗体である。Ab2と抗原とはAb1結合部位の同一領域に結合することができるので、特定のAb2(「Ab2β」または「内部像(internal image)」抗体と称する)は、名目上の抗原(nominal antigen)の三次元構造を模倣することができる。Jerne et al.,EMBO J.1:243(1982); Losman et al.,Int.J.Cancer 46:310(1990); Losman et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 88: 3421(1991); Losmanet al.,Int.J.Cancer 56:580(1994).Ab2βで免疫されている個体は、抗−抗−抗体(Ab3)を発生させることができ、その一部は(Ab1)は名目上の抗原に結合することができる。
【0004】
抗イディオタイプ抗体は抗原模倣特性を持っているので、名目上の抗原が容易に利用できない場合、あるいは宿主が名目上の抗原に対して耐性を有する場合に、Ab2βを代替抗原(またはイディオタイプワクチン)として使用する。実験系において、特定のTAAによく似るAb2βで免疫させると、TAAに対して特異的な免疫性が創出されて、その後の腫瘍の増殖から保護されるようになる。例えば、Nepom et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:2864(1984); Raychauhuri et al.,J.Immunol.139:271(1987)を参照されたい。同様にして、Streptococcus pneumoniae(ストレプトコッカス・ニューモニアエ)〔McNamara et al.,Science 226: 1325(1984)〕、B型肝炎ウイルス〔Kennedy et al.,Science 223: 930(1984)〕、Escherichia coli(大腸菌) K13〔Stein et al.,J.Exp.Med.160: 1001(1984)〕、Schistosomiasis mansoni(シストソミアシス・マンソーニ)〔Kresina et al.,J.Clin.Invest.83: 912(1989)〕、およびMolonyネズミ肉腫ウイルス〔Powell et al.,J.Immunol.142: 1318(1989)〕などの感染性生物にたいする抗イディオタイプ・ワクチン類も開発されるようになった。
【0005】
動物由来の抗TAAを投与されている癌患者は、通常、Ab1に対する抗体類を産生するが、これらの抗免疫グロブリン抗体類にはAb2が含まれる。Herlyn et al.,J.Immunol.Methods 85: 27(1985); Traub et al.,Cancer Res.48: 4002(1988). 抗イディオタイプ反応の際には、T細胞(T2)が発生する場合がある。Fagerberg et al.,Cancer Immunol.Immunother.37: 264(1993).さらに、Ab2はその後体液性および細胞性の抗−抗−イディオタイプ反応、即ち各々Ab3およびT3、を誘導し、これらによってAb1と同じエピトープが認識される場合がある。同上。
【0006】
このように、体液性と細胞性免疫系の両方を利用した免疫療法へのアプローチの可能性が存在する。本出願人は腫瘍細胞ならびに感染性物質に対する統合された反応を刺激し生じさせる方法を開発した。さらに、免疫カスケードの増幅方法も開発した。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
従って、本発明の目的は、HLA-DR-複合体に結合する抗体およびTAAまたは感染性物質に関連する抗原のエピトープの少なくとも一種を含む抗原性ペプチドを含むワクチンを用いて、腫瘍細胞と感染性物質に対する体液性および細胞性免疫応答を誘導する方法を提供することにある。本発明はさらに、抗体類およびサイトカイン類を用いて、上記の統合された反応を増強する方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、HLA-DR複合体に結合する抗体成分および主要組織適合性(major histocompatibility: MHC)拘束性免疫応答を誘導する抗原性ペプチドを含有するワクチンを投与することを含む、腫瘍関連抗原を発現する哺乳動物の腫瘍に対して、体液性および細胞性の免疫応答を誘導する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、
(a)(i)HLA-DR複合体に結合する抗体成分と、
(ii)TAAまたは感染性物質に関連する抗原のエピトープの少なくとも一種を含む抗原性ペプチドと
を含む免疫接合体を含有する第一ワクチンを哺乳動物に皮内投与することと、
(b)哺乳動物にこのワクチンを静脈内投与すること
とを含んでなる、哺乳動物の腫瘍関連抗原を発現する腫瘍に対する、あるいは感染性物質に起因する疾患に対する体液性および細胞性の免疫応答反応を誘導する方法を提供することにより、上記その他の目的を達成することができる。
【0010】
第一ワクチンの抗体成分は、(a)ネズミモノクローナル抗体と、(b)ネズミモノクローナル抗体から誘導されたヒト化(humanized)抗体と、(c)ヒトモノクローナル抗体と、(d)(a)、(b)または(c)から誘導され、且つ、F(ab)2、F(ab)2、Fab、Fab、Fv、sFVおよび最小認識単位とからなる群から選ばれる抗体フラグメントからなる群から選ばれる。
【0011】
本発明はさらに、哺乳動物に対するワクチンを静脈内投与前および投与中に、インターフェロンγ、インターロイキン2またはインターロイキン12のうち少なくとも一種を投与することを含む方法に関する。
【0012】
本発明はさらに、
(a)(i)HLA-DR複合体に結合する抗体成分と、
(ii)主要組識適合性(MHC)拘束性免疫応答を誘導する抗原性ペプチドと
を含む免疫接合体を含んでなる第一ワクチンを哺乳動物に皮内投与することと、
(b)このワクチンを哺乳動物に静脈内投与することと
を含んでなる、哺乳動物の腫瘍関連抗原(TAA)を発現する腫瘍に対する体液性および細胞性免疫応答を誘導する方法に関する。
【0013】
第一ワクチンの抗体成分は、(a)ネズミモノクローナル抗体と、(b)ネズミモノクローナル抗体から誘導されたヒト化抗体と、(c)ヒトモノクローナル抗体と、(d)(a)または(b)または(c)から誘導され、且つ、F(ab)2、F(ab)2、Fab、Fv、sFvおよび最小認識単位からなる群から選ばれる抗体フラグメントとからなる群から選ばれる。好適な抗原性ペプチドとしては、たとえば、テタナス毒素P2ペプチドが挙げられる。
【0014】
本発明はさらに、哺乳動物に対するワクチンを静脈内投与前および投与中に、インターフェロンγとインターロイキン2とインターロイキン12とから選ばれた少なくとも一種を投与することを含む方法に関する。
【0015】
本発明はさらに、
(i)TAAに結合する抗体成分と、
(ii)MHC拘束性免疫応答を誘導する抗原性ペプチドと
を含有する免疫接合体を含んでなる第二ワクチンを哺乳動物に静脈内投与することを含む方法に関する。
【0016】
第二ワクチンの好適抗原性ペプチドの例としては、テタナス毒素P2ペプチドが挙げられる。本発明はさらに、哺乳動物に対するワクチンを静脈内投与前および投与中に、インターロイキン2とインターロイキン12とインターフェロンγとからなる群から選ばれるサイトカインの少なくとも一種を投与することを含む方法に関する。
【0017】
本発明はさらに、
(a)CEAに結合し、且つ可溶の免疫原性担体タンパクと接合する抗体成分を含む第一ワクチンを哺乳動物に投与し、
(b)CEAのエピトープによく似ており、且つ可溶の免疫原性担体タンパクと 接合する抗体成分を含む第二ワクチンを哺乳動物に投与し、
(c)CEAのエピトープによく似ており、且つHLA-DR-複合体に結合する抗原性ペプチドを含有する免疫接合体を含む第三ワクチンを哺乳 動物に投与する
ことを含む、癌胎児性抗原(CEA)を発現する哺乳動物の腫瘍に対して体液性および細胞性の免疫応答を誘導する方法に関する。
【0018】
第三ワクチンの好適抗原性ペプチドは、CEAのA3B3領域を含む。さらに、第三ワクチンの抗原性ペプチドは、CEAのエピトープによく似る抗イディオタイプ抗体の最小認識単位から構成することもできる。これらの方法においては、第一ワクチンの抗体成分は、
(a)クラスIII抗CEAネズミモノクローナル抗体と、
(b)クラスIII抗CEAネズミモノクローナル抗体から 誘導されたヒト化抗体と、
(c)抗CEAヒトモノクローナル抗体と、
(d)(a)、(b)または(c)から誘導され、且つ、F(ab)2、F(ab)2 、Fab、Fv、sFvおよび最小認識単位からなる群から選ばれる抗体フラグメンントと
からなる群から選ばれる。
【0019】
さらに、抗イディオタイプ抗体成分は、
(a)クラスIII抗CEA抗体の可変部に結合するポリクローナル抗体と、
(b)クラスIII抗CEA抗体の可変部に結合するネズミモノクローナル抗体と、
(c)(b)から誘導されたヒト化抗体と、
(d)クラスIII抗CEA抗体の可変部に結合するヒトモノクローナル抗体と、
(e)クラスIII抗CEA抗体の可変部に結合する類人霊長類抗体と (f)(a)、(b)、(c)、(d)または(e)から誘導され、且つ、 F(ab)2、F(ab)2、Fab、Fv、sFvおよび最小認識単位からなる群から選ばれる抗体フラグメントと
からなる群から選ばれる。
【0020】
本発明はさらに、第二ワクチンの静脈内投与前および投与中に、インターフェロンγ、インターロイキン2またはインターロイキン12のうち少なくとも一種を投与することを含む方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
発明の詳細な説明
1.定義
以下の説明において数多くの術語が広範に使用されている。発明の理解を容易にするため、次のように定義する。
【0022】
構造遺伝子とは、メッセンジャーRNA(mRNA)中に転写された後、特定のポリペプチドを特徴づけるアミノ酸配列に翻訳されるDNA配列を指す。
【0023】
プロモーターとは、構造遺伝子の転写を指示するDNA配列である。典型的には、プロモーターは、構造遺伝子転写開始点の基部である遺伝子の5’領域に位置している。プロモーターが誘導性プロモーターである場合には、転写速度は誘導物質に反応して上昇する。これとは対照的に、プロモーターが構成プロモーターである場合には、転写速度は誘導物質によって制御されない。
【0024】
単離DNA分子とは、生物のゲノムDNA中に組み込まれていないDNAフラグメントである。例えば、T細胞レセプター遺伝子のクローンは、哺乳動物の細胞のゲノムDNAから単離されたDNAフラグメントである。単離DNA分子の他の例としては、生物のゲノムDNAに組み込まれていない、化学合成のDNA分子が挙げられる。
【0025】
エンハンサーとは、転写開始点からのエンハンサーの距離あるいは方位如何に拘わらず、転写効率を上昇させることができるDNA調節要素である。
【0026】
相補DNA(cDNA)は、酵素の逆転写によってmRNAの鋳型から形成される一重鎖DNA分子である。典型的には、mRNAの部分を相補するプライマーは、逆転写の開始に用いられる。当業者は「cDNA」なる語を、上記の一重鎖DNAとこれを相補するDNA鎖とからなる二重鎖DNAを指すのに用いている。
【0027】
発現なる語は、遺伝子産物の生合成を指す。例えば、構造遺伝子の場合、発現は構造遺伝子をmRNA中に転写し、このmRNAを一以上のポリペプチドに翻訳することを意味している。
【0028】
クローニングベクターは、宿主細胞中で自律的に複製することができる、プラスミド、コスミドまたはバクテリオファージなどのDNA分子である。クローニングベクターは、典型的に一個または少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位を持ち、この部位から外因性(foreign)のDNA配列、並びにクローニングベクターによって形質転換された細胞の同定と選択に使用するのに好適な標識遺伝子を、ベクターの必須生物機能を失わせることなく、決定可能なやり方で挿入することができる。標識遺伝子には、典型的に、テトラサイクリン耐性またはアンピシリン耐性を付与する遺伝子が含まれる。
【0029】
発現ベクターは、宿主細胞中で発現される遺伝子を含むDNA分子である。典型的には、遺伝子の発現は構成または誘導プロモーターを含むある種の調節要素によって制御されている。このような遺伝子は、調節要素と「操作可能なように連結(operatively linked)」されていると言われる。
【0030】
組換え宿主は、クローニングベクターまたは発現ベクターのどちらかを含有する原核細胞または真核細胞の何れかである。この語には、さらに、遺伝子工学によって宿主細胞のクロモソームまたはゲノム中にクローニングされた遺伝子を含有させている原核または真核細胞も含めるものとする。
【0031】
腫瘍関連抗原は、正常細胞よっては発現されないか、あるいは発現されてもその発現のレベルが低いタンパクを指す。腫瘍関連抗原の例としては、αフェトプロテインおよび癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen: CEA)が挙げられる。
【0032】
本明細書に言う、感染性物質(infectious agent)とは微生物および寄生動物の両方を指す。「微生物」にはウイルス、細菌、リケッチア、マイコプラズマ、原虫、真菌およびその他の微生物が含まれている。「寄生動物」は、抗生物質が誘導するクリアランス、もしくは溶解または食細胞による破壊を受け易い、マラリヤ性寄生動物、スピロヘータなど、顕微鏡サイズあるいは極微少の多細胞無脊椎動物または卵子またはこれらの幼生を指す。
【0033】
本書の文脈において、抗CEA・MabとはPrimus et al.,Cancer Research 43: 686(1983)および Primus et al.,U.S.patent No.4,818,709が説明しているクラスIII(class III)Mabを指す。これら二つの文献は引用する事により本明細書の一部とする。
【0034】
本明細書に言う、Ab1とは腫瘍関連抗原または抗原関連感染性物質に結合する抗体である。
【0035】
本明細書に言う、抗イディオタイプ抗体(Ab2)とは、Ab1に結合する抗体を指す。Ab2はAb1に結合するため、したがってAb2は腫瘍関連抗原のエピトープや感染性物質関連抗原のエピトープによく似る
【0036】
本明細書に言う、抗体フラグメントとは、F(ab)2、F(ab)2、Fab、Fabなどの抗体の一部分を指す。構造如何に関わらず、抗体フラグメントは無傷の抗体が認識するのと同じ抗原に結合する。例えば、抗CEA Mab(Ab1)フラグメントはCEAに結合する反面、Ab2フラグメントはAb1の可変部に結合し、CEAのエピトープによく似る
【0037】
抗体フラグメントなる語には、何らかの合成または遺伝子工学によるタンパクであって、抗体の如く作用して特定の抗原に結合して複合体を形成するものも含めるものとする。例えば、抗体フラグメントには、L鎖可変部からなる分離フラグメント、HおよびL鎖の可変部からなる「Fv」フラグメント、LとHの可変部がペプチドリンカーによって結ばれている組換え一重鎖ポリペプチド分子や、超可変部によく似るアミノ酸残基からなる最小認識単位が含まれる。
【0038】
ヒト化抗体は、ネズミ免疫グロブリンのHおよびL可変鎖からMAbのネズミ相補性決定域をヒト可変部に移動させた組換えタンパクである。
【0039】
本明細書に言う、抗体成分とは、抗体全体と抗体フラグメントの両方を指す。
【0040】
2.モノクローナル抗体、ヒト化抗体、霊長類抗体およびヒト抗体の産生
特定の抗原に対する齧歯類のモノクローナル抗体は、当業者に公知の方法により得ることができる。例えば、Kohler and Milstein; Nature 256: 495(1975),and Coligan et al.,(eds.)CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,VOL.1,pages 2.5.1-2.6.7(John Wi1ey & Sons 1991)〔以下「Coligan」称す〕簡単に述べると、マウスに抗原を含む組成物を注射し、血清サンプルを採取して抗体産生が行われていることを確認し、牌臓を摘出してBリンパ球を得、Bリンパ球と骨髄種細胞とを融合させてハイブリドーマを産生、ハイブリドーマのクローニングを行い、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択し、抗原に対する抗体を産生するクローンを培養した後、ハイブリドーマ培養物から抗体を単離することによりモノクローナル抗体を得ることができる。
【0041】
腫瘍関連抗原あるいは感染性物質に対するモノクローナル抗体は、非常に多くの種類が開発されるようになった。例えば、Goldenberg et al.,InternationalApplication Publication No.WO 91/11465(1991)and Goldenberg,International Application Publication No.WO 94/04702(1994)を参照されたい。これらの特許各々を引用する事により本明細書の一部とする。
【0042】
好適Mabの例として、クラスIII抗CEA Mabが挙げられる。CEAに対する従来からの抗血清には、通常、CEAと密接な関連を有する一群の物質と反応する抗体が含有されている。このファミリーのCEA関連抗原のうち、主要な抗原としては、(1)組識分布がCEAに近似している通常の、交差反応性抗原(NCA)と、(2)物理化学特性がCEAとほとんど同一である胎便(meconium)抗原(MA)とがある。CEA分子に対する、NCA交差反応性、MA交差反応性およびCEA特異性エピトープを初めて分類することができた一団のモノクローナル抗体(MAb)が、Primus et al.,Cancer Research,43: 686(1983)によって説明された。特に、三つのクラスの抗CEA抗体が同定された。(1)CEA,NCAおよびMAと反応するクラスI(class I)抗体、(2)CEAとNCAには反応するが、MAとは反応しないクラスII(class II)抗体、および(3)CEAに特異的で、NCAやMAとは結合しないクラスIII抗体がそれである。クラスIII抗CEA Mabを得る方法は、Primus et al.,US Patent No.4,818,709によって開示されている。
【0043】
さらに、第二世代クラスIII抗CEA Mabsの産生が、Hansen et al.,Cancer 71:3478(1993)によって開示されている。Hansenの文献を引用することにより本明細書の一部とする。
【0044】
良好に確立されている各種の方法により、Mabsをハイブリドーマから単離精製することができる。この単離方法としては、プロテインAセファロースによるアフィニティクロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィや、イオン交換クロマトグラフィが挙げられる。例えば、Coligan at pages 2.7.1-2.7.12およびpages 2.9.1-2.9.3を参照されたい。さらにまた、Baines et al.,Purification of Immunoglobulin G(IgG),in METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,VOL.10,pages 79-104(The Humana Press,Inc.1992)も参照されたい。
【0045】
他の態様において、本発明の抗体は類人霊長類の抗体である。ヒヒを用いて治療に有用な抗体を作る一般方法は、例えば、Goldenberg et al.,international patent publication No.WO 91/121465(1991)およびLosman et al.,Int.J.Cancer,46: 310(1990)中で見出すことができる。このLosman et al.,の文献を引用することにより本明細書の一部とする。
【0046】
さらに他の態様において、本発明の抗体は「ヒト化」モノクローナル抗体である。即ち、マウス免疫グロブリンのHおよびL可変鎖からマウスの相補性決定域をヒト可変部に移した後、ネズミ可変部のフレームワーク領域で一部のヒト残基を置換する。本発明によるヒト化モノクローナル抗体は、療法中で使用するのに好適である。ネズミ免疫グロブリン可変部をクローニングする一般方法は、例えば、publication of Orlandi et al.,Proc.NatI Acad.Sci USA 86: 3833(1989)で説明されている。この文献は引用することにより本明細書の一部とする。ヒト化Mabsを産生する方法は、例えば、Jones et al.,Nature 321: 522(1986),Riechmann et al.,Nature 332: 323(1988),Verhoeyen et al.,Science 239: 1534(1988),Carter at al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 89: 4285(1992),Sandhu,Crit.Rev.Biotech.12: 437(1992)およびSinger et al.,J.Immun.150: 2844(1993)で説明されている。これらの文献各々は引用することにより本明細書の一部とする。
【0047】
さらに他の態様において、本発明の抗体はヒトモノクローナル抗体である。この抗体は、抗原性攻撃に反応して特定のヒト抗体を産生するように、「操作」されたトランスジェニックマウスから得ることができる。この方法においては、ヒト重鎖と軽鎖座のエレメントが、内因性重鎖座及び軽鎖座における標的化された破壊を有する胚性幹細胞に由来するマウスの系列に導入されている。トランスジェニックマウスはヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成できるので、マウスを使ってヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、Green et al.,Nature Genet.7: 13(1994),Lonberg et al.,Nature 368: 856(1994)およびTaylor et al.,Int.Immun.6: 576(1994)によって説明されている。これらの文献は、引用することにより本明細書の一部とする。
【0048】
3.抗体フラグメントの産生
本発明は、Ab1およびAb2のフラグメントを使用することを考慮している。抗体フラグメントは、抗体を加水分解的にタンパク質分解したり、あるいはフラグメントをコードするDNAをE.coli中で発現することにより調製することができる。
また、抗体フラグメントは、従来法により全抗体をペプシンやパパインで消化することにより得ることができる。例えば、抗体をペプシンにより酵素的切断を行ってF(ab')2と言う名称の5Sフラグメント得ることにより抗体フラフメントを産生する。チオール還元剤、さらに任意で、スルフィド結合の分割によるスルフィヒドリル基に対する阻止基(blocking group)を用いて、このフラグメントをさらに分割して、一価の3.5S Fab'フラグメントを産生する。この他でも、ペプシンを用いる酵素分割によって、一価のFabフラグメント二個とFcフラグメント一個を直接産生することができる。これらの方法は、例えば、Goldenberg,US patent Nos.4,036,945 and 4,331,647およびこれらの特許に含まれている引用文献により説明されている。これら二つの特許は、引用することにより本明細書の一部とする。さらに、Nisonoff et al.,Arch.Biochem.Biophys.89: 230(1960); Porter,Biochem.J.73:119(1959),Edelman et al.,in METHODS IN ENZYMOLOGY VOL.1,page 422(Academic Press 1967),and Coligan at pages 2.8.1-2.8.10 and 2.10.-2.10.4を参照されたい。
【0049】
この他にも、フラグメントが無傷の抗体により認識される抗原に結合することができる限り、H鎖を分離して一価のL−H鎖フラグメントを形成したり、フラグメントをさらに分割する酵素的、化学的あるいは遺伝学的な方法を用いることができる。
【0050】
例えば、FvフラグメントはVHおよびVL鎖の連結を含む。この連結は、Inbar et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 69:2659(1972)が述べているように、非共有結合であっても良い。さらに、可変鎖が分子間ジスフィド結合によって結合されていても良いし、グルタルアルデヒドなどの化学薬品によって架橋されていても良い。例えば、Sandhu、前掲、を参照されたい。
【0051】
Fvフラグメントはペプチドリンカーによって連結されたVHおよびVL 鎖を含むことが好ましい。これらの一重鎖抗原結合タンパク(sFV)は、オリゴヌクレオチドによって連結されているVHおよびVL領域をコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構成することにより調製される。構造遺伝子を発現ベクター中に挿入した後、E.coliなどの宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、二つのV領域を架橋するリンカーペプチドにより一重鎖ポリペプチドを合成する。sFVの産生方法は、例えば、Whitlow et al.,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2: 97(1991)によって説明されている。さらにまた、Bird et al.,Science 242: 423-426(1998),Lander at al.,US Patent No.4,946,778,Pack et al.,Bio/Technology 11: 1271-1277(1993)およびSandhu,前掲も参照されたい。
【0052】
抗体フラグメントのこの他の形態として、単相補性決定域(CDR)をコードするペプチドがある。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、興味をそそる抗体のCDRをコードする遺伝子を構成することにより得ることができる。この遺伝子は、例えば、PCRを用いて抗体産生細胞のRNAから可変部を合成して調製する。例えば、Larrick et al.,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2: 106(1991); Courtenay-Luck,Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,in MONOCLONAL ANTIBODIES: PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,Ritteret al.(eds.),pages 166-179(Cambridge University Press 1995); そして Ward et al.,Genetic Manipulation and Expression of Antibodies.in MONOCLONAL ANTIBODIES: PRINCIPLES AND APPLICATIONS,Birch et al.,(eds.),pages 137-185(Wiley-Liss,Inc.1995)を参照されたい。
【0053】
4.抗イディオタイプ抗体(Ab2)の産生
ポリクローナルAb2は、常法により動物をAb1またはフラグメントで免疫して調製する。例えば、Green et al.,Production of Polyclonal Antisera,in METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY: IMMUNOCHEMICAL PROTOCOLS,Manson(ed.),pages1-12(Humana Press 1992)を参照されたい。さらに、Coligan at pages 2.4.1-2.4.7も参照されたい。
【0054】
この他に、モノクローナルAb2を、上記の方法によりAb1またはフラグメントを免疫原として用いて調製することができる。ラットモノクローナルAb2の調製を実施例3で行っている。
【0055】
また、ヒト化Ab2または霊長類Ab2を、上記の方法を用いて調製することができる。
【0056】
5.二重特異性抗体の産生
二重特異性抗体を使って、T細胞の標的を腫瘍細胞に設定するように誘導することができる。二重特異性抗体は、同一ではないLおよびH鎖の対からなり、二つの異なる抗体特性を提供する。例えば、二重特異性抗体は、T細胞上に存在するCD3情報変換タンパク質を認識する1つの結合部位と、腫瘍関連抗原に結合する第二の部位とを持って産生される。例えば、Canevari et al.,Int.J.Cancer 42: 18(1988); Lanzaveccia et al.,Eur.J.Immunol.17:105(1988); Van Dijk et al.,Int.J.Cancer 43: 344(1989) and Renner et al.,Science 264: 833(1994)を参照されたい。
【0057】
二重特異性抗体は各種の従来法、例えば、全抗体または好ましくはF(ab)2フラグメントの混合物のジスルフィドを切断し、リフォームする方法、一以上の特異性を持つ抗体を産生するポリオーマ形成を目的とする一以上のハイブリドーマを融合する方法や遺伝子工学による方法などによって製造することができる。これまで、異なる抗体を還元的に分割してFab’フラグメントを得、これを酸化的に分割して二重特異性抗体を調製してきた。例えば、Winter et al.,Nature 349: 293(1991)を参照されたい。二つの異なる抗体をペプシン消化して産生した二つの異なるF(ab')2フラグメントを混合し、還元的に分割してFabフラグメントの混合物を形成した後、ジスルフィド結合を酸化的にリフォームして、元のエピトープに特異的なFab部分を含有する二重特異性抗体を含むF(ab')2フラグメントの混合物産生することにより、有利に製造することができる。このような抗体複合材料の調整方法は、例えば、Nisonhoff et al.,Arch.Biochem.Biophys.93: 470(1961),Hammerling et al.,J.Exp.Med.128: 1461(1968) and U.S.Patent No.4,331,647で見出すことができる。
【0058】
マレイミドヒドロキシスクシンイミドなどの異種二官能性リンカーを用いることにより、より選択的な結合を達成することができる。エステルと抗体とを反応させると、抗体上あるいはフラグメント上のアミン基から誘導体が作られ、その後この誘導体は、例えば、遊離スルフィヒドリル基を持つ抗体Fabフラグメント(または、例えば、トラウト(Traut)試薬によって付与されたスルフィヒドリル基を持つより大型のフラグメントまたは無傷の抗体)と反応させることができる。このようなリンカーは同一抗体内の基と交差反応する可能性が少ないので、結合の選択性が向上する。
【0059】
抗体やフラグメントの結合は、抗原結合部位から離れた部位で行うと有利である。これは、例えば、上記のように分割された鎖間スルフィヒドリル基に結合させることによって達成することができる。もう一つの方法では、酸化された炭水化物部分を持つ抗体を、遊離アミン機能を少なくとも一つを持つ別の抗体と反応させる。こうすることによって、まず、シッフ塩基(イミン)結合が形成される。続いて、好ましくは還元によって安定させて第二級アミンとする、例えば、ホウ化水素で還元して、最終複合材料を形成している。このような部位に特異的な結合方法は、小分子の場合は米国特許第4,671,958号、大分子の場合は米国特許第4,699,784号で開示されている。
【0060】
本明細書によれば、二重特異性抗体はT細胞結合部分と、腫瘍細胞や感染性物質と関連している抗原とを含む。例えば、CEA結合部分はクラスIIIのMabから誘導することができ、またT細胞結合部分は抗CD3Mabから誘導することができる。抗CD3抗体の調製方法は当業者に公知である。例えば、Canevari et al.,前掲,Van Dijk et al,,前掲,Hansen et al.,Human T Lymphocyte Cell Surface Molecules Defined by the Workshop Monoclonal Antibodies(T Cell Protocol),in LEUKOCYTE TYPING: HUMAN LEUKOCYTE MARKERS DETECTED BY MONOCLONAL ANTIBODIES,Bernard et al.,(eds) pages 195-212(Springer-Verlag 1984); and U.S.Patent No.4,361,549を参照されたい。さらに、抗CD3抗体をBoehringer Mannheim Corp.(Indianapolis,IN; Cat No.1273 485)やAmericanType Culture Collection(Rockville,MD; ATCC CRL 8001 〔OKT-3〕)などから商業的に入手することも可能である。
【0061】
例えば、二重特異性抗体は、上記のように抗CEAクラスIIIMabからF(ab)2フラグメントを得ることにより調製することができる。L−H鎖結合ができないように注意しながら、抗CEAクラスIIIMabフラグメントの鎖間ジスルフィド架橋をゆっくりと還元して、Fab−SHフラグメントを形成する。SH基を過剰のビス−マレイミドリンカー(1,1−(メチレンジ−4,1−フェニレン)ビス−マレイミド)で活性化する。抗CEAクラスIIIMabをまずFab−SHに転換した後に、活性化した抗CEAクラスIIIFab−SHフラグメントと反応させて、二重特異性抗体を得る。
【0062】
二重特異性抗体は、抗CD3Mabと抗CEAクラスIIIMabを産生する二つのハイブリドーマ細胞系を融合させることによって産生することができる。テトラドーマの産生方法は、例えば、Milstein et al.,Nature 305: 537(1983) and Pohl et al.,Int.J.Cancer 54: 418(1993)で説明されている。
【0063】
最後に、二重特異性抗体は遺伝子工学によっても産生することができる。例えば、抗CEAクラスIIIMabの可変部をコードしているDNAを含有するプラスミドを、抗CD3抗体を分泌するハイブリドーマに導入することができる。これによって形成される「トランスフェクトーマ」は、CEAとCD3を結合する二重特異性抗体を産生する。代わりに、キメラ遺伝子が、抗CD3と抗CEA両方の結合領域をコードするように、設計することもできる。遺伝子工学による二重特異性抗体の一般製造方法は、例えば、Songsivilai et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.164: 271(1989); Traunecker et al.,EMBOJ.10: 3655(1991); and Weineret al.,J.Immunol.147: 4035(1991)で説明されている。
【0064】
6.免疫接合体の調製
本発明は、免疫接合体(immunoconjugate)を用いて、免疫応答を増強することを考慮している。本明細書に言う「免疫接合体」とは、抗体成分と抗原性ペプチドを含む分子を指す。免疫接合体は抗体成分の免疫活性を保持している、つまり抗体部分が同系の抗原と結合する能力は、接合の前後を通じてまったく変わらないか、あるいは僅かに低減するだけである。
【0065】
好適な抗原性ペプチドは、腫瘍関連抗原のエピトープの少なくとも一種、または抗原関連感染性物質のエピトープの少なくとも一種の何れかを含む。有用な腫瘍関連抗原と抗原関連感染性物質について、上記でその全体像を説明した。
【0066】
CEAのA3B3エピトープは、好ましい腫瘍関連抗原性ペプチドの一例である。Jessup et al.,Int.J.Cancer 55: 262(1993); Zhou et al.,Cancer Res.53:3817(1993); Hefta et al.,Cancer Res.52: 5647(1992).CEAエピトープを含有するペプチドは組換えDNA法によって産生することができる。代わりに、下記で説明する一般方法により合成ペプチドを産生することもできる。
【0067】
有用な抗原性ペプチドには、また、E.coli内毒素コアポリサッカライドなどの感染性物質に由来する抗原のエピトープも含まれている。例えば、Greenman et al.,J.Am.Med.Assoc.266: 1097(1991)を参照されたい。
【0068】
本明細書においては、特に有用な免疫接合体は、抗原提示のために細胞に抗原性ペプチドを送達する。例えば、Wyss-Coray et al.,Cell Immunol.139: 268(1992)では、抗体−ペプチド構成物を用いて抗原性ペプチドをT細胞に送達することを説明している。このような抗原性ペプチドの例としては、N末端にシステインCQYIKANSKAFIGITEL(C+tt830-844; C-tt2; SEQ ID NO:1)を持つテタナストキソイドペプチドP2、およびC末端にシステインFNNFTVSFWLRVPKVSASHLEC(tt947-967+C; SEQ ID NO:1)を持つテタナストキソイドペプチドP30が挙げられる。
【0069】
抗イディオタイプ抗体の単相補性決定域(single complementarity-determining regions)(CDRs)から、さらに他の抗原性ペプチドを誘導することができる。
【0070】
このペプチド、即ち、「最小認識単位」は、例えば、PCRを用いて、抗体産生細胞のRNAから可変部を合成することにより、得ることができる。例えば、Larrick et al.,Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2: 106(1991);Courtenay-Luck,Genetic Manipu1ation of Monoclonal Antibodies,in MONOCLONAL ANTIBODIES: PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,Ritter et al.,(eds.),pages 166-179(Cambridge University Press 1995); and Ward et al.,Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,in MONOCLONAL ANTIBODIES: PRINCIPLES AND APPLICATIONS,Birch et al.,(eds.),pages 137-185(Wiley-Liss,Inc.1995)を参照されたい。最小認識単位は、公知の抗体のアミノ酸配列を持つペプチドを合成しても得ることができる。例えば、Kabat et al.,SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,U.S.Department of Health and Services(1983)を参照されたい。一般的なペプチド合成方法は、例えば、Bodansky et al.,THE PRACTICE OF PEPTIDE SYNTHESIS(Springer-Verlag 1984); Bodansky,PRINCIPLES OF PEPTIDE SYNTHESIS(Springer-Verlag 1984); Hancock et al.,Synthesis of Peptides for Use as Immunogens,in METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,VOL.10: IMMUNOCHEMICAL PROTOCOLS,Manson(ed.)pages 23-32(The Humana Press,Inc.1992)で見出すことができる。
【0071】
抗原性ペプチドは、ジスルフィド結合を形成することによって、還元された抗体成分のヒンジ部に結合することができる。例えば、ペプチドを抗体成分に結合する際に用いられる単一のシステイン残基によって、テタナストキソイドペプチドが構成された。この代わりに、N−スクシニル−3−(2−ピリジルジチオ)プロプリオネート(SPDP)などのヘテロ二官能架橋剤を用いてこのペプチドを抗体成分に結合することもできる。Yu et al.,Int.J.Cancer 56: 244(1994). このような接合の一般的な方法は当業者に公知である。例えば、Wong,CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS-LINKING(CRC Press 1991); Upeslacis et al.,Modification of Antibodies by Chemical Methods,in MONOCLONAL ANTIBODIES: PRINCIPLES AND APPLICATIONS,Birch et al.(eds.),pages 187-230(Wiley-Liss,Inc.1995); Price,Production and Characterization of Synthetic Peptide-Derived Antibodies,in MONOCLONAL ANTIBODIES: PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,Ritter et al.(eds.),pages 60-84(Cambridge University Press 1995)を参照されたい。
【0072】
上記で論じた如く、抗原性ペプチドは抗体成分ヒンジ部の還元されたチオール基に結合させることができる。また、抗原性ペプチドを抗体Fc領域の炭水化物部分を介して接合させることもできる。炭水化物基を使ってチオール基に結合させるペプチドの配合量(loading)を増すことができるし、炭水化物基を使って別のペプチドを結合することもできる。
【0073】
抗体の炭水化物部分を介してペプチドと抗体成分とを接合させる方法は、当業者に周知されている。例えば、Shih et al.,Int.J.Cancer 41: 1101(1990); and Shih et al.,U.S.Patent No.5,057,313を参照されたい。一般的な方法では、酸化された炭水化物部分を持つ抗体成分を、遊離アミン機能を少なくとも一種持ち、且つ複数のペプチドが配合されている担体ポリマーと反応させる。この反応により、まず、シッフ塩基(イミン)形成され、還元すると安定して第二級アミンに転換して、最後に接合体が形成される。
【0074】
抗体フラグメントを免疫接合体の抗体成分として使用すると、Fc領域が不存在となる。しかしながら、抗体や抗体フラグメントのL鎖可変部に炭水化物部分を導入することは可能である。例えば、Leung et al.,J.Immunol.154: 5919(1995); Hansen et al.,U.S.Patent No.5,443,953(1995)を参照されたい。炭水化物部分は、操作されたものであっても抗原性ペプチドの結合に用いることができる。
【0075】
7.腫瘍細胞および感染性物質に対する体液性および細胞性の免疫応答を増幅することを目的とする免疫接合体、抗体およびサイトカインの使用
本発明は免疫接合体、Ab1や、Ab1に対して発生するAb2、Ab1またはAb2の何れか一つのフラグメントの使用を考慮している。これらの免疫接合体、抗体や抗体フラグメントをワクチンとして使用することにより、服用哺乳動物の体液性および細胞性免疫応答を誘導することができる。また、免疫接合体、Ab1および/または二重特異性抗体を使って、この総合的な免疫応答を増幅することができる。
【0076】
本発明の一方法によれば、Ab1またはそのフラグメントを含むワクチンで哺乳動物を免疫して、Ab2とT細胞(T2細胞)の産生を誘導することができる。哺乳動物がT2細胞を産生し初めたら、この哺乳動物にAb1またはそのフラグメントを静脈内投与して、T2細胞の産生量(T2 cell mass)を増加させることができる。この第二の投与を行うと、Ab1抗体やそのフラグメントが癌細胞上や感染性生物上の同系の抗原と結びつくので、T2細胞の標的としての役割を果たすと言う利点もある。特定の抗体と反応するT細胞の産生を検出する方法は、当業者に周知されている。例えば、Fagerberg at al.,Cancer Immunol.Immunother. 37: 264(1993)を参照されたい。この文献は引用することにより本明細書の一部とする。
【0077】
好ましい方法として、哺乳動物の第二の免疫の際、Ab2またはそのフラグメントを含むワクチンを投与して、Ab2を認識するAb3とAb2を認識するT細胞(T3細胞)の形成を誘導する。第二の免疫をAb2ワクチンで行うと、腫瘍関連抗原や感染性物質抗原が、抗原に向かうT3細胞や、抗原に結合するAb3に向かうT2細胞によって破壊されると言う利点もある。実施例4でAb1ワクチン、Ab1(または、フラグメント)およびAb2ワクチンを投与することを含む治療方法を説明する。
【0078】
この方法の好ましい態様において、Ab1の接種後、サイトカインまたはリンホカインとMAbとの接合体を静脈内に注射する。これによって、Ab1の皮内接種によって誘導され、標的細胞内で共生している細胞毒性リンパ球のクローンが増幅される。接合体のMAb部分は接種されたAb1と同じ抗原を指向することができるし、また異なる抗原に指向することもできる。MAbが接種されたAb1と同じ抗原のエピトープや抗原決定基に向かったとしても、接種されたAb1のエピトープと接合体のMAbのエピトープとの間で交差反応が起こることはない。例えば、MN-14とNP-4は共にCEAの同じエピトープに反応するクラスIII抗CEA MAbであるが、これら二つのイディオタイプが互いに異なっている。
【0079】
MAbが接合しているサイトカインやリンホカインが免疫細胞毒性リンパ球の誘導を推進する。代表的なMAb−サイトカイン/リンホカイン接合体には、IL−1、IL-2、IL-12、IL−15、CSFおよびGM-CSFが含まれているが、この中でIL−2とIL−15が特に好ましい。
【0080】
さらに、Ab2接種後、Ab1抗体を静脈内投与すると、T2反応がさらに増幅される。
【0081】
静脈内投与されたAb1抗体成分が循環していて、この存在のためAb2ワクチンの効果が低下する可能性がある。このため、Ab2ワクチンの投与前に循環しているAbl成分を取除いておくことが好適である。Ab1除去法の一つにAb1抗体とビオチンの接合体を使う方法がある。この方法では、アビジンを静脈内に投与することによって、Ab2の接種前にビオチン化したAb1を除去することができる。好ましくは、Abl(または、そのフラグメント)の静脈内投与後1ないし2日以内でアビジンによる除去を行う。この抗体除去法は、Goldenbergの国際公開No.WO94/04702(1994)で説明されている。
【0082】
この他の免疫療法として、哺乳動物をAb1ワクチンにより免疫し、Ab1(またはフラグメント)により処理して、腫瘍や感染性物質の抗原部位のうち高割合の部位を飽和させ、続いて、Ab1ワクチンにより高度に免疫して、Ab1(または、そのフラグメント)で被覆されている細胞に対する多数の細胞毒性リンパ球を発生さる方法がある。
【0083】
本発明の免疫接合体は、抗体ワクチン投与の効果をさらに増進するために用いられる。一方法によれば、抗体または抗体フラグメントを、強力な主要組織適合性(MHC)拘束性免疫応答を誘導できるペプチドと接合させている。好適な抗原性ペプチドの例としては、上述したテタナス毒素P2ペプチドが挙げられる。この種のペプチドは、例えば、マクロファージ、単球やBリンパ球のプラズマ膜上のHLA−DR−複合体と結合するIMMU−LL1(EPB−1)抗体と接合させることができる。Palak-Byczkowska et al.,Cancer Res.49:4568(1989). まず、IMMU-LL1ワクチンを皮内注射して一次感作を確立した後、ワクチンの静脈内投与により免疫応答を増進する。
【0084】
一旦、IMMU-LL1−P2ワクチンなどの免疫接合体による治療によって哺乳動物が感作されると、免疫応答が腫瘍細胞に指向する免疫接合体で治療することができる。例えば、ヒト化LL2とP2とを含む免疫接合体の標的を、CD22を保持する腫瘍細胞に設定するように使用することができる。LL2はbyGo1denberg et al.,J.Clin.Oncol.9: 548(1991); 及びby Murthy et al.,Eur.J.Nuc1.Med.19:394(1992)が説明している。この方法では、感作ペプチド(例えば、P2)は、内在化(internalization)してクラスIIMHCヘテロダイマーに結合した後、抗体成分から分割して、細胞表面に輸送される。その後LLI−P2ワクチンによって発生した細胞毒性T細胞が、細胞膜上のHLA−DR複合体を認識して腫瘍細胞を破壊する。この一般的な方法は、HLA−DR複合体を発現する他の腫瘍を治療したり、HLA−DR複合体を発現する細胞に起因する自己免疫疾患を治療したりするのに用いることができる。
【0085】
免疫接合体はまた、好適なエピトープを含有するペプチドを用いて、腫瘍細胞や感染性物質に対する免疫応答を誘導したり、増進するように使用することができる。これを補足すると、CEAのA3B3領域を含有するペプチドと、IMMU−LL1抗体(または、フラグメント)との接合体を形成した後、これを皮下注射してCEAに対する一次感作を確立したり、あるいは静脈内投与してCEAに対する免疫応答を増進するのに用いることができる。
【0086】
同様に、抗イディオタイプ抗体のCDRを含む免疫接合体を使って、免疫応答を誘導したり、増進することができる。この方法では、CDRのアミノ酸配列を含有するペプチドを、抗体または抗体フラグメントと接合させる。例えば、IMMU−14 Ab2抗体の最小認識単位は、IMMU−LL1抗体または抗体フラグメントと接合体することができる。IMMU−14抗イディオタイプ抗体の調製は実施例2で説明する。
【0087】
免疫療法の好ましい方法では、サイトカインの投与によって免疫応答をさらに増幅している。サイトカインの例としては、インターフェロン(INF)、インターロイキン類(IL)および腫瘍壊死因子が挙げられる。INF-γは、リンパ球や単球の細胞表面クラスII組識適合抗原、ならびにマクロファージを誘発する。例えば、Klegerman et al.,Lymphokines and Momokines,in BIOTECHNOLOGY AND PHARMACY,Pezzuto et al.(eds.),pages 53-70(Chapman&Hall 1993),and Roitt et al.,IMMUNOLOGY,3rd Edition,pages 7.8-7.14(Mosby 1993)を参照されたい。IL−2はT細胞の成長因子、天然キラ一細胞の刺激因子、さらに腫瘍反応性のT細胞でもある。したがって、INF−γおよびIL−2は、免疫応答を増進するために好ましい。
【0088】
IL−12もまた、本発明の免疫接合体に対する免疫応答を増進する上で、好ましいサイトカインである。このサイトカインは細菌、細菌産物や細胞間寄生動物に反応して、食細胞から産生される。例えば、Trinchieri,Annu.Rev.Immunol.13:251(1995)を参照されたい。IL−12はナチュラルキラー細胞やT細胞によるサイトカイン、主としてINF−γの産生を誘導し、さらにIL−12は活性化されたナチュラルキラー細胞とT細胞に対しては成長因子として行動し、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性活性を増進し、細胞毒性T細胞の発生を刺激する。同上(Id)。実験動物モデル系においてIL−12は、肉腫や肺転移ならびにマンソン住血吸虫症、鳥型結核菌、ヒストプラズマ・カプラスーツムの治療に用いられていた。Wynn et al.,Nature 376: 594(1995); Castro et al.,J.Immunol.155: 2013(1995); Zhou et al.,J.Immunol.,155: 785(1995); Zitvogel et al.,J.Immunol.155: 1393(1995).
【0089】
本発明の抗体およびフラグメントは、抗体またはフラグメントを可溶の免疫原担体タンパクと接合させることにより、ワクチンとして使用できる。好適担体タンパクとしては、スカシガイヘモシアニンが挙げられるが、これは好ましい担体タンパクである。抗体およびフラグメントと担体タンパクとの接合体の形成は、常法によって行う。例えば、Hancock et al.,Synthesis of Peptides for Use as Immunogens,inMETH0DS INM0LECULARBI0L0GY: IIviMUN0CHEMICALPR0T0C0LS,Manson(ed.),pages 23-32(Humana Press 1992)を参照されたい。上記した抗原性ペプチドのうちの一つを含む免疫複合体は追加の免疫原担体タンパク質を必要としない。
【0090】
好ましいワクチン組成は、抗体接合体またはフラグメント接合体とアジュバントとを含む。好適アジュバントとしては、水酸化アルミニウムと脂質が挙げられる。ワクチン組成の製剤方法は、当業者に周知されている。例えば、Rola,Immunizing Agents and Diagnostic Skin Agents,in REMINGTONS PHARMACEUTICAL SCIENCES,18 Edition,Gennaro(ed.),pages 1389-1404(Mack Publishing Company 1990)を参照されたい。
【0091】
治療用途においては、製薬方法を用いることによって、ワクチンの作用時間を制御することができる。ポリマーを使用することにより、免疫接合体、抗体やフラグメントから複合体を形成することによる、あるいはこれらを吸収することによる徐放性製剤(control release preparations)を調製しても良い。例えば、生物相容性のポリマーに、ポリ(エチレン−コビニールアセテート)のマトリックスと、ステアリン酸二量体およびセバシン酸のポリ無水コポリマー(polyanhydride copolymer)マトリックスを含ませておく。Sherwood et al.,Bio/Technology 10: 1446(1992).この種マトリックスから免疫接合体、抗体や抗体フラグメントを放出する速度は、免疫接合体、抗体や抗体フラグメントの分子量、マトリックス内での免疫接合体、抗体や抗体フラグメントの配合量および分散している粒子の粒度に依存している。Saltzman et al.,Biophys.J.55:163(1989); Sherwood et al.,前掲.固体剤形は、Ansel et al.,PHARMACEUTICAL DOSAGE F0RMS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS,5th Edition(Lea&Febiger 1990),and Gennaro(ed.),REMINGTONS PHARMACEUTICAL SCIENCES,18th Edition(Mack Publishing Company 1990)で説明されている。
【0092】
本発明の治療用製剤は公知の方法により処方し、製薬的に許容できる担体を用いて免疫接合体、抗体や抗体フラグメントの混合物を作って、製薬的に有用な組成物を調製する。この組成物を投与して服用哺乳動物が許容すれば、薬学的に許容できる組成物であると言う。無菌リン酸緩衝食塩水は、製薬的に許容できる担体の一例である。他の好適担体は当業者に周知である。例えば、Ansel et al.,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS,5th Edition(Lea & Febiger 1990),and Gennaro(ed.),REMINGTONS PHARMACEUTICAL SCIENCES,18thEdition(Mack Publishing Company 1990)を参照されたい。
【0093】
免疫接合体、抗体やフラグメントは哺乳動物に静脈内投与または皮下投与する。さらに、連続注入による投与、あるいは一回または複数回の大量投与でもよい。好ましくは、抗体ワクチンは皮下投与、ワクチンではない抗体製剤は静脈内投与を行う。一般に、ヒトに対する免疫接合体、抗体またはフラグメントの投与量は、患者の年齢、体重、身長、性別、全般医学条件、およびこれまでの病歴などの要因によって変わる。典型的には、服用者に対して約1pg/kg〜10mg/kg(薬剤の重量/患者の体重)の範囲内の用量で、免疫接合体、抗体またはフラグメントを服用者に投与することが望ましい。勿論、必要に応じてこの範囲より多いあるいは少ない用量を投与しても良い。
【0094】
治療目的のためには、治療有効量の免疫接合体、抗体またはフラグメントを啼乳動物に投与しなくてはならない。抗体製剤では、投与量が生理的に有意である場合に「治療有効量」であると言う。また、薬剤の存在によって服用哺乳動物の生理に検出できる変化が生じた場合、この薬剤は生理的に有意であると言う。特に、本発明の抗体製剤は、存在することによって服用哺乳動物の体液性および/または細胞性の免疫応答が誘導されるとき、生理的に有意であるとする。
【0095】
INF−γ、IL−2,またはIL−12などのサイトカインは、Ab1ワクチンやAb2ワクチンの投与前および投与中に投与してもよい。また、サイトカインは抗体ワクチンと同時に投与しても良いし、抗体ワクチンの投与前および投与中に投与しても良い。哺乳動物に対するサイトカインの投与経路は、静脈内、筋肉内または皮下である。例えば、組換えIL−12の場合は、静脈内に6×105IU/kgを大量投与するか、あるいは18×106IU/m2/dを連続注入する。Weiss et al.,J.Clin.Onco1.10: 275(1992).さらにまた、IL−2は12×106IUを皮下投与する。Vogelzang et al.,J.Clin.Oncol.11: 1809(1993).さらにまた、INF−γは、1.5×106Uの用量を皮下投与する。Lienard et al.,J.Clin.Onco1.10: 52(1992).さらに、Nadeau et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.274: 78(1995)は、リーサス・モンキーに組換えIL−12(42.5μg/キログラム)を一回静脈内に投与したところ、INF−γ濃度が上昇したことを立証している。
【0096】
好適なIL−2処方には、PROLEUKIN(Chiron Corp./Cetus Oncology Corp.; Emeryville,CA)およびTECELEUKIN(Hoffman-La Roche,Inc.; Nutley,NJ)がある。また、ACTIMMUNE(Genetech,Inc.; South San Francisco,CA)は好適INF−γ製剤である。
【0097】
さらに、Ab1による初回治療後二重特異性抗体を投与することができる。二重特異性抗体の機能は、リンパ球とCEAを保持している腫瘍細胞との間を架橋し、リンパ球を介して細胞溶解の引き金を引くことにある。二重特異性抗体の投与方法は、上記で説明したガイドラインに従って行う。しかしながら、二重特異性抗体は、抗体ワクチンと異なり、免疫原とは接合しない。
【0098】
当業者は上記で説明した方法は、感染性物質の予防にも使用できることを理解するであろう。したがって、本発明では哺乳動物が感染性物質に暴露される前に哺乳動物を保護することを目的に、本明細書で説明している方法を使用することを考慮している。
【0099】
これまで本発明を一般的に説明してきたが、つぎの実施例により理解がより容易になるが、これらの実施例は説明のみを目的としてなされたものであって、したがって、本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0100】
ネズミ抗CEA MAb(MN−14)の産生
MN−14、クラスIII抗CEA MAbの産生を、Hansen at al.,Cancer 71: 3478(1993)が説明している。この文献は引用することにより本明細書の一部とする。簡単に述べると、完全フロイントアジュバント中の部分精製CEA7.5μgを、20グラムのBALB/c雌マウスに皮下接種した。第3日、不完全フロイントアジュバント中のCEA7.5μgを皮下接種することにより、このマウスを追加免疫し、さらに第6日と第9日には、生理食塩水中のCEA7.5μgを静脈内投与により追加免疫した。このマウスに、第278日には生理食塩水中のCEA65μgを、第404日には生理食塩水中のCEA90μgを、いずれも静脈内に投与した。第407日にマウスを殺して脾臓細胞の懸濁液を作り、ポリエチレングリコールを用いて脾臓細胞とSP2/0−Ag 14(ATCC CRL 1581)骨髄腫細胞とを融合させ、この細胞を8−アザグアニン含有培地で培養した。1251−CEAラジオイムノアッセイ(Roche,Nutley,NJ)を用いてハイブリドーマ上清をスクリーニングして、CEA反応性抗体を得た。陽性クローンを、再びクローニングした。
【0101】
MN−14と名付けたクローンは、クラスIII抗CEA特異性MAbであるNP−4,に似ている特性を持ち、通常の交差反応性抗原および胎便抗原と反応しなかった。しかしながら、MN−14は、NP−4と比較して、ヒト結腸腫瘍異種移植切片モデルにおいて顕著に優れた腫瘍標的性を持ち、また凍結結腸癌片において常に強い染色性を持っていることが証明された。
【実施例2】
【0102】
CDR移稙 MN−14(hMN−14)
MN−14の相補性決定域(CDR)をヒトIgGのフレームワーク領域に移稙して修飾抗体を調製した。CDR移植(「ヒト化」)MN−14抗体を「MN−14」と名付けた。ヒト化抗体産生の一般方法は、例えば、Riechmann et a1.,Nature 332: 323(1988),Verhoeyen et al.,Science 239: 1534(1988),Carter et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 89: 4285(1992),Sandhu,Crit.Rev.Biotech.12: 437(1992),and Singer et al.,J.Immun.150: 2844(1993)で説明されている。
【0103】
hMN−14ワクチンは、hMN−14を、スカシガイヘモシアニンと接合させて調製する。典型的には、この接合体(2mg/注射)と、Tice Bacillus−Calmette−Guerin(Organon;West Orange,NJ)100μgとを混合した溶液を皮下注射により患者を免疫する。
【実施例3】
【0104】
MN−14(W12)に対するラットモノクローナルAb2 およびAb2ワクチン(W12ワクチン)の調製
Losman et al.,Int. J. Cancer 56:580(1994)が説明した通りにして、MN−14に対するラットAb2を調製した。この文献は引用することにより本明細書の一部とする。簡単に述べると、MN−14F(ab ')2フラグメント200μgを完全フロイントアジュバントに溶解した乳液を、雌の3週齢のコペンハーゲンラットの腹腔内に注射した。第200日、第230日および第235日において、不完全フロイントアジュバント中の同一用量の抗原によりそれぞれ追加免疫した。最終注射の4日後、実験動物を殺し、脾臓細胞懸濁液を作り、常法によりこの細胞とネズミ非分泌性プラズマ細胞腫SP2/0とを融合させた。このハイブリドーマ細胞をラット腹腔フィーダー細胞(10,000細胞/200μl培養ウェル)の存在下で培養した。
【0105】
ELISAにより培養上清からMN−14との反応性およびコントロールネズミMAbとの反応性の不存在をスクリーニングした。陽性ハイブリドーマは、ラット腹腔フィーダー細胞の存在下で限界希釈により、少なくとも二回クローニングを行った。
【0106】
W12はMN−14に特異的なIgG1kAb2であり、したがってアイソタイプが一致しても他の抗CEA MAB類とは反応しない。(コントロールラットIgGではなく)マウスやウサギをW12で免疫すると、Ab1’抗CEA抗体の産生が誘導された。したがって、W12はイディオタイプ抗体としてCEA産生腫瘍を持つ患者に使用することができる。
【0107】
hMN−14ワクチンの製法で説明した通りにすれば、W12からW12ワクチンを調製することができる。
【実施例4】
【0108】
hMN−14ワクチン(hAb1ワクチン)および W12ワクチン(Ab2ワクチン)による治療
Dukes C結腸癌を持つ患者から、治療として腫瘍の一次切除を行った後、フルオロウラシルとレバミソールアジュバントによる療法を行った。手術前のCEAタイターは15.5 ng/mlであった。一次手術から三ヶ月後のCEAタイターは正常範囲、つまり2.5ng/ml以下であった。
【0109】
二年後この患者のCEAタイターは25ng/mlであり、CATスキャンしたところ、肝臓左葉に5cmの腫瘍、右葉に2cmの腫瘍があることが見出された。一ヶ月後CEA滴定濃度が25ng/mlであったので、この患者にhAb1ワクチン2mgを皮下接種した(第0日)。第7日には反復して接種を行った。
【0110】
第30日に患者にAb1と反応するリンパ球(T2細胞)があることが見出された。第40日患者にhAb1を100mg静脈内投与した。二ヶ月後CEAタイターは5ng/mlであり、CATスキャンでは、左葉の腫瘍の大きさが2cmまで小さくなり、右葉の腫瘍は完全に後退していることを示していた。

六ヶ月後左葉腫瘍が大きくなっていて、しかも腹部に大きな腫瘍塊が存在することが生検針で確認された。CEAタイターは50ng/mlまで増加していた。患者に、第0日と第30日において、W12 Ab2ワクチン(2mg)を皮下投与した。第35日において、激しい反応が注射部位に発生したが、次第に消失していった。
【0111】
三ヶ月後CEAタイターは2.5ng/ml以下に減少しており、左葉腫瘍は完全に消散していることが見出された。腹部の塊も小さくなって、生検針ではその存在を確認することができず、繊維組識にリンパ球が浸透しているのを認めたにすぎなかった。
【0112】
二年後CATスキャンニングを行ったところ、腫瘍の再発を認めず、またCEAタイターは2.5ng/ml以下であった。
【実施例5】
【0113】
一次感作を誘導する免疫接合体の調製と使用
IMMU−LL1(EPB−1)は、マクロファージ、単球およびBリンパ球のプラズマ膜上のHLA−DR複合体に結合した後、急速に内在化(internalizes)するネズミモノクローナル抗体である。IMMU−LL1の調製は、Pawak-Byczkowska et al.,Cancer Res.49: 4568(1989)が説明している。F(ab')2フラグメントは、従来からのタンパク分解法により無傷のIMMU−LL1から調製し、上記で説明したように、ヒンジ部でテタナス毒素のP2ペプチド〔SEQ ID NO: 1〕と接合させる。さらに、Leung et al.,J.Immunol.154: 5919(1995)の技術を使って、抗体フラグメントのL鎖上の炭水化物部分を操作し、この操作した炭水化物部分を介してP2ペプチドを接合させても良い。
【0114】
IMMU−LL1−P2ワクチンを皮下投与して、P2部分によって誘導される強いMHC拘束性免疫応答による一次感作を安定させる。また、免疫応答の追加免疫としてIMMU−LL1−p2を静脈内投与する。
【0115】
LL2はB細胞リンパ腫のCD22と結合するネズミモノクローナル抗体である。例えば、Goldenberg et al.,J.Clin.Onjcol.9: 548(1991); Murthy et al.,Eur.J.Nucl.Med.19: 394(1992)を参照されたい。ヒト化LL2はLeung et al.,Hybridoma 13: 469(1994)の説明に従って調製し、ヒト化LL2の抗体フラグメントを常法により調製する。上記の説明にしたがってLL2−P2を調製して、これを感作患者に静脈内投与して、CD22抗原を保持する腫瘍細胞に対して免疫応答を指向させる。
【実施例6】
【0116】
腫瘍関連抗原のエピトープを含む免疫接合体の調製と使用
CEA発現腫瘍細胞を標的とするためには、CEAのA3B3エピトープを組換えにより、あるいは公知のアミノ酸配列を用いるペプチド合成により産生する。Jessup et al.,Int.J.Cancer 55: 262(1993); Zhou et al.,Cancer Res.53: 3817(1993); およびHefta et al.,Cancer Res.52: 5647(1992)。上記の常法によりA3B3ペプチドをIMMU−LLI抗体またはフラグメントと接合させる。このIMMU−LL1−A3B3ワクチンを皮下投与して、CEA保持腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導する。また、同じ腫瘍細胞に対する免疫応答の二次免疫として、このワクチンを静脈内投与することもできる。
【実施例7】
【0117】
最小認識単位を含む免疫接合体の調製と使用
実施例2で説明したAb2抗体の最小認識単位のアミノ酸配列を持つペプチドは、上記第6章で説明した技術を用いて調製する。このペプチドをIMMU−LL1抗体またはフラグメントと接合させて、免疫応答の誘導(皮下投与)やこれに対する追加免疫(静脈内投与)に好適な免疫接合体を産生する。
【実施例8】
【0118】
肺腺癌患者の原発性腫瘍(primary tumor)を切除し、免疫組識学的にCEAが癌細胞に存在していることを認める。三ヶ月後血中CEAが5ng/mlから20ng/mlに上昇しているので、骨のスキャンを行ったところ多数の部位に癌が再発しているのが認められる。標準化学療法を施術したが、CEAタイターは上昇を続けるので、再度骨のスキャンを行い腫瘍が進行しているのを認める。このため、実施例4と同様に、患者の皮内にhMN14とhW12を接種する。接種中にIL−2を投与して、免疫応答をT1ヘルパー細胞の経路に向けさせる。その後、クラスIII抗CEA特異性MAb(hNP−4−IL−5)であるIL−5とhNP−4との接合体を静脈内に注入する。続く三ケ月間に、血中CEAタイターは検出不能レベルにまで低下し、骨のスキャンでも治療に対して完全に反応したことがみとめられる。
【実施例9】
【0119】
MUCI(MA5)に特異的なAb1、MA5(Ab2−W5)に対して 産生される抗Id、およびhNP−4−IL−2接合体による治療
原発性乳癌を持つ患者おいて、癌が肺、肝臓および骨に転移しているのが認められる。免疫組識学的には、癌細胞はエストロゲンレセプターに対して陰性ではあるが、CEAとMUC1の両方を産生していることが立証されている。原発性腫瘍を切除し、患者に化学療法を施術するが、反応はほとんどない。そこで、この患者に、MUC1に特異的なAb1とMA5(Ab2−W5)に対して産生される抗Idとを含有するワクチンを皮内投与する。これまでに、ウサギによる実験において、W5はAb3を誘導して、MUC1と強く反応させることが立証されている。IL−2をワクチンと共に併用投与する。 その後、静脈内にhNP−4−IL−2接合体を注人する。三ヶ月後肺と骨に付着していた腫瘍は消失し、肝臓腫瘍の小節は小さくなっている。この患者にさらにAb1/Ab2ワクチンとhNP−4−IL−2で治療する。三ヶ月後、肝臓腫瘍の小節はすべて消散し、他の器官に腫瘍が存在する証拠は認められなかった。
【0120】
上記において、特に好ましい態様を挙げてはいるが、本発明はこれらのみに限定されていないことを理解しなければならない。当業者は、開示した態様に各種の変更を加えることが可能ではあるが、そのような変更は次の請求項で輪郭が定められている本発明の範囲内に入ると考えなければならない。
【0121】
本明細書で言及した刊行物および特許出願は、本発明が関与する分野における当業者の技術水準を示すものである。これらの刊行物および特許出願は、恰もその一々について引用することにより本明細書の一部とすると宣言したように、すべてを引用することにより本明細書の一部とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)HLA−DR複合体に結合する、ネズミ、キメラ、ヒト化もしくはヒト抗体、またはその抗原結合性フラグメントと、
b)腫瘍関連抗原(TAA)または感染性物質により生産される抗原の少なくとも一のエピトープを含んでなる抗原性ペプチドと
を含む組成物であって、前記組成物を動物に投与することにより、前記抗原性ペプチドに対する免疫応答を引き起こす組成物。
【請求項2】
免疫応答が、MHC拘束性免疫応答である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
免疫応答が、体液性免疫応答または細胞性免疫応答である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体又はそのフラグメントが、マウス、キメラ、ヒト化、またはヒトLL1抗体である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
サイトカインをさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記サイトカインが、免疫応答を増幅する請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記サイトカインが、インターフェロンγ、インターロイキン2(IL−2)及びインターロイキン12(IL−12)から選択される請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗体フラグメントが、F(ab’)2、F(ab)2、Fab’、Fab、FvまたはsFvフラグメントである請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記感染性物質抗原が、テタナス毒素P2ペプチドである請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記TAAが、がん胎児性抗原(CEA)である請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗原性ペプチドが、CEAのA3B3ドメインを含む請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗原性ペプチドが、抗TAA抗体の可変領域に結合する抗イディオタイプ抗体である請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗イディオタイプ抗体が、MN−14抗CEA抗体の可変領域に結合する請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗イディオタイプ抗体が、MN−14抗CEA抗体の可変領域に結合するW12抗体である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記抗原性ペプチドが、クラスIII抗CEA抗体の可変領域に結合する非ヒト霊長目抗体である請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記感染性物質が、ウイルス、細菌、リケッチア、マイコプラズマ、原生動物および真菌からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記抗原性ペプチドが、前記抗体又はそのフラグメントのヒンジ領域に付着している請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
HLA−DR複合体に結合する前記抗体またはそのフラグメントが、マウス、キメラ、ヒト化もしくはヒトLL1抗体またはそのフラグメントである請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記抗体もしくはそのフラグメント又は抗原性ペプチドに複合している可溶の免疫原性担体タンパク質をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
a)HLA−DR複合体に結合する、マウス、キメラ、ヒト化もしくはヒト抗体またはその抗原結合性フラグメントと、
b)腫瘍関連抗原(TAA)または感染性物質により生産される抗原の少なくとも一のエピトープを含んでなる抗原性ペプチドと
を含むキット。

【公開番号】特開2008−115196(P2008−115196A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16220(P2008−16220)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【分割の表示】特願平9−523703の分割
【原出願日】平成8年12月20日(1996.12.20)
【出願人】(599176263)イムノメディクス, インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】