説明

多気筒エンジンの排気装置

【課題】中速域における体積効率の落ち込みを抑制することが可能な多気筒エンジンの排気装置を提供する。
【解決手段】排気装置は、1つの気筒12又は排気順序が連続しない複数の気筒12の排気ポート18に接続された複数の独立排気通路52と、前記各独立排気通路52を通過した排気が流入する混合管50とを有する。各独立排気通路52の下流端が束ねられた状態で混合管50の上流端に接続される。混合管50より下流の排気通路に空洞拡大室8が配設される。空洞拡大室8は、中速域において、排気弁20の開弁により生じる排気の圧力波が空洞拡大室8で反射することにより生じる負圧波が自気筒12の排気弁20と吸気弁とのオーバーラップ期間中に排気ポート18に到達する位置(距離L2)に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される多気筒エンジンの排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に搭載される多気筒エンジンにおいて、トルクの向上を目的とした排気装置の開発が行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、排気順序が連続しない気筒の排気通路を束ねて、先細の排気管として集合させ、この絞り部分にエゼクタ効果を持たせて、気筒間の排気干渉を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−036023号公報(第4頁、第5頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多気筒エンジンにおいて、広い回転域に亘ってトルクの向上を図り、トルクのワイドレンジ化を達成するためには、例えば3000〜3500rpm等の中回転域(中速域)における体積効率(ηV)の落ち込みを抑制することが重要な要素の1つである。
【0006】
そこで、本発明は、中速域における体積効率の落ち込みを抑制することが可能な多気筒エンジンの排気装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、吸気ポートを開閉可能な吸気弁及び排気ポートを開閉可能な排気弁が備えられた複数の気筒を有する多気筒エンジンの排気装置であって、1つの気筒又は排気順序が連続しない複数の気筒の排気ポートに接続された複数の独立排気通路と、前記各独立排気通路を通過した排気が流入する混合管とを有し、前記各独立排気通路の下流端が束ねられた状態で前記混合管の上流端に接続され、前記混合管より下流の排気通路に、流路面積が拡大した空間部を有する空洞拡大室が配設され、この空洞拡大室は、エンジンの回転数が予め設定された第1の基準回転数以上でかつこれよりも高い第2の基準回転数以下の中速域を少なくとも含む第1運転領域において、排気弁の開弁により生じる排気の圧力波が前記空洞拡大室で反射することにより生じる負圧波が自気筒の前記オーバーラップ期間中に排気ポートに到達する位置に配設されており、エンジンの回転数が前記第2の基準回転数以下の低・中速域を少なくとも含む所定の運転領域において、前記各気筒の排気弁の開弁期間と吸気弁の開弁期間とが所定期間オーバーラップすると共に、排気順序が連続する気筒間において先行の気筒の前記オーバーラップ期間中に後続の気筒の排気弁が開弁するように、各気筒の吸気弁及び排気弁を駆動する弁駆動手段が設けられていることを特徴とする多気筒エンジンの排気装置である(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、各独立排気通路を通過した排気が混合管に流入することにより混合管内に負圧が発生し、この負圧により、他の独立排気通路ないしこれと連通する他の気筒の排気ポート内の排気が下流側に吸い出されるエゼクタ効果が得られる。その際、所定の運転領域では、各気筒の排気弁と吸気弁とが共に開いた状態となるオーバーラップ期間が設けられ、排気順序が連続する気筒間において先行の気筒のオーバーラップ期間中に後続の気筒の排気弁が開弁するので、前記エゼクタ効果がオーバーラップ期間中の先行気筒の吸気ポートにまで及び、これにより、先行気筒の掃気がより一層促進され、体積効率(ηV)のより一層の向上、ひいてはトルクのより一層の向上が図られる。
【0009】
その上で、本発明によれば、前記混合管より下流の排気通路に空洞拡大室が配設され、少なくともエンジン回転数が第1基準回転数〜第2基準回転数である中速域において、排気弁の開弁により生じる排気の圧力波が前記空洞拡大室で反射することにより生じる負圧波が自気筒の前記オーバーラップ期間中に排気ポートに到達するので、この負圧波による吸い出し効果によって、中速域において体積効率が向上し、中速域における体積効率の落ち込みを抑制することが可能となる。
【0010】
本発明では、前記混合管より下流の排気通路の相対的に上流側にプリサイレンサが配設され、相対的に下流側にメインサイレンサが配設され、前記空洞拡大室は、前記プリサイレンサであり、前記メインサイレンサは、エンジンの回転数が前記第1の基準回転数未満の低速域を少なくとも含む第2運転領域において、排気弁の開弁により生じる排気の圧力波が前記メインサイレンサで反射することにより生じる負圧波が自気筒の前記オーバーラップ期間中に排気ポートに到達する位置に配設されていることが好ましい(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、プリサイレンサによって、前記中速域における体積効率の落ち込みが抑制され、メインサイレンサによって、少なくともエンジン回転数が前記第1基準回転数未満である低速域における体積効率の落ち込みが抑制される。そのため、トルクのワイドレンジ化が達成され、広い回転域に亘って走り易いトルクが確保される。
【0012】
本発明では、エンジンの回転数が前記第2の基準回転数を超える高速域を少なくとも含む第3運転領域において、吸気弁の開弁により生じる吸気の負圧波の反射により生じる正圧波が前記吸気弁の閉弁直前に吸気ポートに到達するように吸気系が設定されていることが好ましい(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、吸気の慣性過給効果によって、少なくともエンジン回転数が前記第2基準回転数を超える高速域における体積効率の落ち込みが抑制される。そのため、トルクのより一層のワイドレンジ化が達成され、より一層広い回転域に亘って走り易いトルクが確保される。
【0014】
本発明では、各気筒の排気ポートにおける排気弁の着座位置から各独立排気通路の下流端までの距離が500mm以下に設定されていることが好ましい(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、各気筒から排出され、各独立排気通路を通過した排気が混合管に流入することにより混合管内に十分な負圧が発生し、前記エゼクタ効果が十分良好に発揮される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多気筒エンジンにおいて、中速域における体積効率の落ち込みを抑制することが可能となる。その結果、広い回転域に亘ってトルクが向上し、フラットなトルク特性が得られ、トルクがワイドレンジ化した多気筒エンジンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る多気筒エンジンの排気装置の概略構成図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の要部側面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】前記エンジンの各気筒の排気弁の開弁期間と吸気弁の開弁期間とが所定期間オーバーラップする説明図である。
【図7】前記吸気弁及び排気弁の開弁期間の説明図である。
【図8】前記エンジンの排気系の全体構成図である。
【図9】前記エンジンの運転領域の説明図である。
【図10】実施形態の作用(エンジン回転数と体積効率の向上との関係)の説明図である。
【図11】気筒とプリサイレンサ又はメインサイレンサとの間での圧力波が往復する状態を示す説明図である。
【図12】気筒の排気ポートに生じる圧力の変化を示すタイムチャートである。
【図13】実施形態の作用(プリサイレンサ又はメインサイレンサからの反射波の影響)の説明図である。
【図14】実施形態の作用(体積効率の向上)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)全体構成
図1は、本発明の実施形態に係る多気筒エンジンの排気装置100の概略構成図、図2は、図1の要部拡大図、図3は、図2の要部側面図である(ただし独立排気通路52bの図示が省略されている)。この装置100は、シリンダヘッド9及びシリンダブロック(図示せず)を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2と、エンジン本体1に接続される排気マニホールド5と、排気マニホールド5に接続される触媒装置6とを備えている。
【0019】
前記シリンダヘッド9及びシリンダブロックの内部にはピストンがそれぞれ嵌挿された複数(図例では4つ)の気筒12が形成されている。本実施形態では、エンジン本体1は、直列4気筒のエンジンであって、シリンダヘッド9及びシリンダブロックの内部には、4つの気筒12が直列に並んだ状態で形成されている。具体的には、図1及び図2の右から順に、第1気筒12a、第2気筒12b、第3気筒12c、第4気筒12dが形成されている。シリンダヘッド9には、ピストンの上方に区画された燃焼室内に臨むようにそれぞれ点火プラグ15が設置されている。
【0020】
エンジン本体1は4サイクルエンジンであって、図6に示すように、各気筒12a〜12dにおいて、180°CAずつずれたタイミングで点火プラグ15による点火が行われて、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の各行程がそれぞれ180°CAずつずれたタイミングで行われる。本実施形態では、第1気筒12a→第3気筒12c→第4気筒12d→第2気筒12bの順に点火が行われ、この順に各行程が実施される。
【0021】
シリンダヘッド9には、それぞれ燃焼室に向かって開口する2つの吸気ポート17及び2つの排気ポート18が設けられている。吸気ポート17は、各気筒12内に吸気を導入するためのものである。排気ポート18は、各気筒12内から排気を排出するためのものである。各吸気ポート17には、これら吸気ポート17を開閉して吸気ポート17と気筒12内部とを連通又は遮断するための吸気弁19が設けられている。各排気ポート18には、これら排気ポート18を開閉して排気ポート18と気筒12内部とを連通又は遮断するための排気弁20が設けられている。吸気弁19は、吸気弁駆動機構(弁駆動手段)30で駆動されることにより、所定のタイミングで吸気ポート17を開閉する。排気弁20は、排気弁駆動機構(弁駆動手段)40で駆動されることにより、所定のタイミングで排気ポート18を開閉する。
【0022】
吸気弁駆動機構30は、吸気弁19に連結された吸気カムシャフト31と吸気VVT32とを有している。吸気カムシャフト31は、周知のチェーン及びスプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトの回転に伴い回転して、吸気弁19を開閉駆動する。吸気VVT32は、吸気弁19のバルブタイミングを変更するためのものである。
【0023】
吸気VVT32は、吸気カムシャフト31と、この吸気カムシャフト31と同軸に配置されてクランクシャフトにより直接駆動される所定の被駆動軸との間の位相差を変更し、これによりクランクシャフトと前記吸気カムシャフト31との間の位相差を変更することで、吸気弁19のバルブタイミングを変更する。吸気VVT32の具体的構成としては、例えば、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に周方向に並ぶ複数の液室を有し、これら液室間に圧力差を設けることで前記位相差を変更する液圧式機構や、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に電磁石を配設し、前記電磁石に電力を付与することで前記位相差を変更する電磁式機構等が挙げられる。この吸気VVT32は、ECU2で算出された吸気弁19の目標バルブタイミングに基づいて前記位相差を変更する。
【0024】
各気筒12の吸気ポート17には、それぞれ吸気通路3が接続されている。各吸気通路3の上流端部は、それぞれサージタンク3aに接続されている。
【0025】
排気弁駆動機構40は、吸気弁駆動機構30と同様の構造を有している。すなわち、排気弁駆動機構40は、排気弁20及びクランクシャフトに連結された排気カムシャフト41と、この排気カムシャフト41とクランクシャフトとの位相差を変更することで、排気弁20のバルブタイミングを変更する排気VVT42とを有している。排気VVT42は、ECU2で算出された排気弁20の目標バルブタイミングに基づいて前記位相差を変更する。そして、排気カムシャフト41は、この位相差の下でクランクシャフトの回転に伴って回転して排気弁20を前記目標バルブタイミングで開閉駆動する。
【0026】
本実施形態では、前記吸気VVT32及び排気VVT42は、吸気弁19及び排気弁20の開弁期間及びリフト量つまりバルブプロファイルをそれぞれ一定に保ったまま、吸気弁19及び排気弁20の開弁時期(図7に示す開弁開始時期)及び閉弁時期をそれぞれ変更する。
【0027】
また、本実施形態では、前記吸気弁19及び排気弁20の開弁時期(開弁開始時期)及び閉弁時期とは、それぞれ、図7に示すように、各バルブのリフトカーブにおいてバルブのリフトが急峻に立ち上がる又は立ち下がる時期であり、例えば0.4mmリフトの時期をいう。
【0028】
(2)排気系の構成
排気マニホールド5は、上流側から順に、3つの独立排気通路52と、各独立排気通路52の下流端に接続されて各独立排気通路52を通過した排気が流入する混合管50とを有する。前記混合管50は、その軸芯上に、上流側から順に、下流側ほど流路面積が小さくなる集合部56と、前記集合部56の下流端の流路面積(混合管50の最小流路面積)を維持して下流側に延びるストレート部57と、下流側ほど流路面積が大きくなるディフューザー部58とを備えている。
【0029】
前記各独立排気通路52は、前記各気筒12の排気ポート18に接続されている。具体的には、前記気筒12のうち第1気筒12aの排気ポート18及び第4気筒12dの排気ポート18は、それぞれ個別に1つの独立排気通路52a、52dに接続されている。一方、排気行程が隣り合わず排気順序が連続しない第2気筒12bの排気ポート18と第3気筒12cの排気ポート18とは、構造を簡素化する観点から、共通の1つの独立排気通路52bに接続されている。より詳細には、この第2気筒12bの排気ポート18と第3気筒12cの排気ポート18とに接続されている独立排気通路52bは、その上流側において2つの通路に分離しており、その一方に前記第2気筒12bの排気ポート18が接続され、他方に前記第3気筒12cの排気ポート18が接続されている。
【0030】
本実施形態では、前記第2気筒12bと前記第3気筒12cとに対応する独立排気通路52bは、これら気筒12b,12cの間すなわちエンジン本体1の略中央部分と対向する位置において前記混合管50の集合部56に向かって延びている。一方、前記第1気筒12a及び前記第4気筒12dにそれぞれ対応する独立排気通路52a、52dは、各気筒12a、12dと対向する位置から湾曲しつつ前記混合管50の集合部56に向かって延びている。
【0031】
これら独立排気通路52a、52b、52dは、互いに独立しており、第1気筒12aから排出された排気と、第2気筒12b又は第3気筒12cから排出された排気と、第4気筒12dから排出された排気とは、互いに独立して各独立排気通路52a、52b、52d内を通って下流側に排出される。各独立排気通路52a、52b、52dを通過した排気は前記混合管50の集合部56に流入する。
【0032】
前記各独立排気通路52及び前記集合部56は、各独立排気通路52から高速で排気が噴出されてこの排気が高速で前記集合部56内に流入するのに伴い、この高速の排気の周囲に発生した混合管50内の負圧作用すなわちエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路52及びこの独立排気通路52と連通する排気ポート18内に負圧が生成され、この排気ポート18内の排気が下流側に吸い出されるような形状を有している。
【0033】
具体的には、前記集合部56は、前記各独立排気通路52から排出された排気が高い速度を維持したまま下流側に流れるよう、下流側に向かうほどその流路面積が小さくなる形状を有している。本実施形態では、排気の速度をより高めるべく前記集合部56の下流端の流路面積は、前記各独立排気通路52の下流端の流路面積の合計よりも小さく設定されている。本実施形態では、この集合部56は、下流側に向かうに従って縮径する逆円錐台形状(漏斗形状)を有している。
【0034】
このように、前記集合部56及びストレート部57においては、下流側の流路面積の方が上流側の流路面積よりも小さい。そのため、排気は前記集合部56及びストレート部57を高速で通過する。この通過時に、排気の圧力及び温度は低下する。そのため、前記集合部56及びストレート部57において、排気の外部への放熱量は小さく抑えられる。そして、このストレート部57を通過した排気は、下流に向かうに従って流路面積が拡大するディフューザー部58に流入することにより、排気の圧力及び温度が回復し、高い温度を維持したまま下流側の触媒装置6に排出される。
【0035】
触媒装置6は、エンジン本体1から排出された排気を浄化するための装置である。この触媒装置6は、触媒本体64と、この触媒本体64を収容するケーシング62とを備えている。ケーシング62は、排気の流通方向と平行に延びる略円筒状を有している。触媒本体64は、排気中の有害成分を浄化するためのものであり、理論空燃比の雰囲気下で三元触媒機能を有する。この触媒本体64は、例えば、三元触媒を含有する。
【0036】
前記触媒本体64は、前記ケーシング62の排気流通方向の中央の拡径部分に収容されている。ケーシング62の上流端には所定の空間が形成されている。前記混合管50のディフューザー部58の下流端は前記ケーシング62の上流端に接続されている。ディフューザー部58から排出された排気は前記ケーシング62の上流端に流入した後、触媒本体64側へ進行する。
【0037】
前述のように、混合管50のディフューザー部58からは、高い温度の排気が下流側に排出される。そのため、混合管50に直接に触媒装置6が接続されていることで、触媒装置6内には相対的に高温の排気が流入し、これにより、触媒本体64は早期に活性化され、また、触媒本体64の活性状態が確実に維持される。この触媒装置6は、「直キャタ」と称される。
【0038】
一方、前記各独立排気通路52の下流部は、排気が各独立排気通路52から高速で前記集合部56内に噴出されるよう、下流に向かうほどその流路面積が小さくなる形状を有している。本実施形態では、図4に示すように、各独立排気通路52は、略楕円形断面を有する上流側部分(仮想線)から下流に向かうに従ってその断面積が縮小されており、その下流端では上流側部分の楕円形断面積の略1/3の断面積(流路面積)となる扇形となっている。そして、図5に示すように、これら独立排気通路52は、扇形をなす各下流端が、互いに隣接して全体として略円形断面を形成するように集合して前記集合部56の上流端に接続されている(図1、図2参照)。
【0039】
すなわち、前記混合管50の軸芯と直交する方向における各独立排気通路52の下流端の断面形状が互いに同じ略扇形に形成され(図4、図5参照)、前記扇形が集合して略円が形成されるように各独立排気通路52の下流端が束ねられた状態で各独立排気通路52の下流端が前記混合管50の集合部56の上流端に接続されている。
【0040】
図8に示すように、直キャタ6の下流には、第2の触媒装置7が配設されている。この第2の触媒装置7は、直キャタ6と同様、エンジン本体1から排出された排気を浄化するための装置である。詳しくは図示しないが、この触媒装置7もまた、三元触媒を含有する触媒本体と、この触媒本体を収容するケーシングとを備えている。ケーシング62は、排気の流通方向と平行に延びる略円筒状を有している。この触媒装置7は、「アンダーフットキャタ」と称される。
【0041】
(3)本実施形態の特徴
図8に示すように、アンダーフットキャタ7の下流に、プリサイレンサ8が配設されている。プリサイレンサ8は、内部に、流路面積が拡大した空間部を有する構造である(すなわち空洞拡大室である)。本実施形態では、プリサイレンサ8の内部空間部の容積は、直キャタ6のケーシング62の中央拡径部分の内部空間部の容積や、アンダーフットキャタ7のケーシングの中央拡径部分の内部空間部の容積よりも大きい容積に設定されている。
【0042】
図8に示すように、プリサイレンサ8の下流に、メインサイレンサ10が配設されている。メインサイレンサ10は、排気系の最後部に配設されている。メインサイレンサ10は、内部に、流路面積が拡大した空間部を有する構造である。本実施形態では、メインサイレンサ10の内部空間部の容積は、プリサイレンサ8の内部空間部の容積や、直キャタ6のケーシング62の中央拡径部分の内部空間部の容積や、アンダーフットキャタ7のケーシングの中央拡径部分の内部空間部の容積よりも大きい容積に設定されている。
【0043】
本実施形態では、各気筒12の排気ポート18における排気弁20の着座位置(排気ポート18が気筒12を臨む開口)から各独立排気通路12の下流端(混合管50の集合部56の上流端)までの距離L1が500mm以下、好ましくは400mm以下、より好ましくは300mm以下に設定されている。
【0044】
また、本実施形態では、各気筒12の排気ポート18における排気弁20の着座位置から前記プリサイレンサ8までの距離L2が1600mm〜2000mm、好ましくは1800mm程度に設定されている。
【0045】
また、本実施形態では、各気筒12の排気ポート18における排気弁20の着座位置から前記メインサイレンサ10までの距離L3が3800mm〜4200mm、好ましくは4000mm程度に設定されている。
【0046】
本実施形態において、前記混合管50より下流の排気通路に、流路面積が拡大した空間部を有するプリサイレンサ8を配設し、前記プリサイレンサ8より下流の排気通路に、流路面積が拡大した空間部を有するメインサイレンサ10を配設した理由は、およそ次のようである。
【0047】
まず、本実施形態においては、図9に示すように、エンジン回転数が予め設定された第1の基準回転数Ne1以上でかつこれよりも高い予め設定された第2の基準回転数Ne2以下の領域が第1運転領域(i)、エンジン回転数が前記第1の基準回転数Ne1未満の領域が第2運転領域(ii)、エンジン回転数が前記第2の基準回転数Ne2を超える領域が第3運転領域(iii)と設定されている。
【0048】
前記第1の基準回転数Ne1は、例えば2500rpm〜3000rpmとされ、前記第2の基準回転数Ne2は、例えば3500rpm〜4000rpmとされる。そして、第1運転領域(i)は中速域、第2運転領域(ii)は低速域、第3運転領域(iii)は高速域とされる。さらに、エンジン回転数が例えば1200rpm未満の第4運転領域(iv)は極低速域とされる。
【0049】
前記低速域(ii)及び中速域(i)において、図6に示すように、前記各気筒12の排気弁20の開弁期間と吸気弁19の開弁期間とが吸気上死点(TDC)を挟んでオーバーラップし、かつ、排気順序が連続する気筒12,12間において、一方の気筒(先行する気筒)12のオーバーラップ期間T_O/L中に、他方の気筒(後続の気筒)12の排気弁20が開弁を開始するように設定されている。具体的には、図6に示すように、第1気筒12aの排気弁20と吸気弁19とがオーバーラップしている期間中に第3気筒12cの排気弁20が開弁し、第3気筒12cの排気弁20と吸気弁19とがオーバーラップしている期間中に第4気筒12dの排気弁20が開弁し、第4気筒12dの排気弁20と吸気弁19とがオーバーラップしている期間中に第2気筒12bの排気弁20が開弁し、第2気筒12bの排気弁20と吸気弁19とがオーバーラップしている期間中に第1気筒12aの排気弁20が開弁するように設定されている。
【0050】
つまり、ECU2は、前記低・中速域(ii)(i)において、各気筒12の排気弁20の開弁期間と吸気弁19の開弁期間とが所定期間オーバーラップすると共に、排気順序が連続する気筒12,12間において先行の気筒12の前記オーバーラップ期間T_O/L中に後続の気筒12の排気弁20が開弁するように、吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40を制御する。
【0051】
これにより、排気行程気筒12の排気弁20が開弁してブローダウンガスがこの排気行程気筒12から独立排気通路52を通って集合部56に高速で噴出されるのに伴い、エゼクタ効果によりオーバーラップ期間T_O/L中の吸気行程気筒12の排気ポート18内に負圧が生成される。そのため、前記エゼクタ効果がオーバーラップ期間T_O/L中の吸気行程気筒12の排気ポート18だけでなく、吸気行程気筒12から吸気行程気筒12の吸気ポート17にまで及び、このオーバーラップ期間T_O/L中の吸気行程気筒12内の掃気がより一層促進される。
【0052】
その結果、図10に実線で示すように、少なくとも、エンジン回転数が相対的に低い(例えば1200rpm以上、2500rpm〜3000rpm未満)低速域(ii)及びエンジン回転数が例えば2500rpm〜3000rpm以上、3500rpm〜4000rpm以下の中速域(i)においては、本実施形態に係る多気筒エンジンは、エゼクタ効果によって、体積効率(ηV)の向上が図られる。
【0053】
このような低・中速域(ii)(i)におけるエゼクタ効果が十分良好に発揮されるように、前記図8に示した距離L1が500mm以下、好ましくは400mm以下、より好ましくは300mm以下に設定されているのである。
【0054】
本実施形態においては、吸気系は、前述したように(図1参照)、各気筒12の吸気ポート17に吸気通路3が接続され、各吸気通路3の上流端部にサージタンク3aが接続されている。そして、前記高速域(iii)において、吸気弁19の開弁により生じる吸気の負圧波の反射により生じる正圧波が前記吸気弁19の閉弁直前に吸気ポート17に到達するように、前記吸気系が設定されている。例えば、吸気弁19の開弁により生じる吸気の負圧波が吸気ポート17から吸気通路3を通ってサージタンク3aに到達し、到達した負圧波の一部がサージタンク3aを通過し、一部がサージタンク3aで正圧波に反転し、反転した正圧波が反射して、自気筒12の吸気弁19の閉弁直前に吸気ポート17に到達するように、吸気通路3の長さ、吸気通路3の径、サージタンク3aの容積等が設定されているのである。
【0055】
その結果、図10に一点鎖線で示すように、エンジン回転数が相対的に高い(例えば3500rpm〜4000rpm超え)高速域(iii)においては、本実施形態に係る多気筒エンジンは、吸気の慣性過給効果によって、体積効率の向上が図られる。
【0056】
ところで、各気筒12において、排気弁20の開弁直後には、ブローダウンによる高い正圧波が生じ、それによって排気マニホールド5及び排気マニホールド5より下流の排気通路内に排気脈動が生じる。この排気脈動は、図11に示すように、気筒12と、空洞拡大室であるプリサイレンサ8又はメインサイレンサ10との間で、圧力波の一部が反射し合い、往復する現象である。圧力波がプリサイレンサ8又はメインサイレンサ10で反射する際には、正圧と負圧との反転が起こり、排気ポート18には負圧波と正圧波が交互に到達する。具体的には、1往復目の1次反射波、3往復目の3次反射波、5往復目の5次反射波、…は負圧波となり、2往復目の2次反射波、4往復目の4次反射波、6往復目の6次反射波、…は正圧波となる。そのため、排気ポート18に作用する圧力は、図12に示すように、交互に負圧と正圧とに変化しつつ、圧力波の往復が繰り返されるに伴い減衰する。そして、このような排気脈動における負圧波が、前記図6に示したようなオーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達すれば、気筒12内から排気を吸い出して掃気性を高める作用が得られる。
【0057】
図13は、エンジン回転数が前記極低速域(iv)に属する1100rpm、エンジン回転数が前記低速域(ii)に属する2200rpm、エンジン回転数が前記中速域(i)に属する3300rpmにおいて、排気弁20の開弁によるブローダウンにより生じる正圧波(ウ)がプリサイレンサ8で反射することにより生じる1次負圧波(ア)、プリサイレンサ8で反射することにより生じる2次正圧波(イ)、メインサイレンサ10で反射することにより生じる1次負圧波(カ)、メインサイレンサ10で反射することにより生じる2次正圧波(キ)が、どのようなタイミングで自気筒12の排気ポート18に到達するかを示す説明図(横軸はクランク角CA)である。なお、メインサイレンサ10の1次負圧波(カ)及び2次正圧波(キ)については、気筒12とメインサイレンサ10との間にプリサイレンサ8がない場合を実線で示し、プリサイレンサ8がある場合を鎖線で示した。図示したように、プリサイレンサ8がある場合(鎖線)は、ない場合(実線)に比べて、メインサイレンサ10の反射波(カ)(キ)の振幅が小さくなっているが、この理由は後述する。
【0058】
低速域(ii)では、メインサイレンサ10での反射による1次負圧波(カ)が自気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達するが、プリサイレンサ8での反射による2次正圧波(イ)もまた自気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達するので、自気筒12内から排気を吸い出して掃気性を高める作用は大きくは得られない。
【0059】
その結果、図10に点線Xで示すように、エンジン回転数が相対的に低い(例えば1200rpm以上、2500rpm〜3000rpm未満)低速域(ii)においては、本実施形態に係る多気筒エンジンは、メインサイレンサ10の反射波の影響による体積効率(ηV)の向上は大きくは図られない。なお、図10において、破線は、プリサイレンサ8がない場合のメインサイレンサ10の反射波の影響を示し、点線Xは、プリサイレンサ8がある場合のメインサイレンサ10の反射波の影響を示す。
【0060】
中速域(i)では、プリサイレンサ8での反射による1次負圧波(ア)のみが自気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達するので、自気筒12内から排気を吸い出して掃気性を高める作用が大きく得られる。
【0061】
その結果、図10に二点鎖線で示すように、エンジン回転数が相対的に中程度の(例えば2500rpm〜3000rpm以上、3500rpm〜4000rpm以下)中速域(i)においては、本実施形態に係る多気筒エンジンは、プリサイレンサ8の1次負圧波(反射波)によって、体積効率(ηV)の向上が図られる。
【0062】
極低速域(iv)では、メインサイレンサ10での反射による2次正圧波(キ)のみが自気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達する。しかし、後述するように、プリサイレンサ8を設けたことにより、メインサイレンサ10のみを配設した場合に比べて、上記2次正圧波(キ)の振幅が小さくなり、結果として、自気筒12内から排気を吸い出して掃気性を高める作用が増える。
【0063】
その結果、図10に点線Xで示すように、エンジン回転数が相対的に非常に低い(例えば1200rpm未満)極低速域(iv)においては、本実施形態に係る多気筒エンジンは、プリサイレンサ8を設けたことでメインサイレンサ10の圧力波が小さくなったことにより、メインサイレンサ10のみを配設した場合に比べて、体積効率(ηV)の向上が図られる。この理由は後述する。
【0064】
このような極低速域(iv)、低速域(ii)及び中速域(i)におけるプリサイレンサ8やメインサイレンサ10の負圧波(反射波)の効果が十分良好に発揮されるように、前記図8に示した距離L2が1600mm〜2000mm、好ましくは1800mm程度に設定され、前記図8に示した距離L3が3800mm〜4200mm、好ましくは4000mm程度に設定されているのである。
【0065】
実機試験として、図8に示す排気系において、前記距離L3を4000mmとしてメインサイレンサ10のみを配設した場合(図14の□マーク)と、このメインサイレンサ10に加えて、前記距離L2を1800mmとしてプリサイレンサ8も併せて配設した場合(図14の◆マーク)とで、1000rpm〜6000rpmの範囲で、体積効率がどのように変化するかを調べた。結果を図14に示す。
【0066】
図14から明らかなように、メインサイレンサ10のみの場合に比べて、プリサイレンサ8を併設した場合は、3000rpm〜4000rpmの中速域において体積効率が向上し、1000rpmの極低速域において体積効率が向上した。これは、中速域においては、プリサイレンサ8の1次負圧波(ア)の反射効果が発揮されたから、極低速域においては、プリサイレンサ8を設けたことでメインサイレンサ10の圧力波が小さくなったから、と考察される。
【0067】
すなわち、図10に符号Xで示したように、プリサイレンサ8を設けた場合(点線)は、プリサイレンサ8を設けない場合(破線)に比べて、メインサイレンサ10の反射波の影響が平坦になる。その結果、メインサイレンサ10の反射波の影響が1000rpm付近では改善し、2000rpm付近では低下する(3000rpm付近ではあまり変化がない)。メインサイレンサ10の反射波の影響が1000rpm付近で改善する理由は、およそ次のようなものであると考えられる。気筒12とメインサイレンサ10との間にプリサイレンサ8がないときは、ブローダウンにより生じる正圧波の全てがメインサイレンサ10で反射する。しかし、気筒12とメインサイレンサ10との間にプリサイレンサ8があるときは、ブローダウンにより生じる正圧波の一部がプリサイレンサ8で反射し、残りがプリサイレンサ8を透過してメインサイレンサ10で反射する。プリサイレンサ8を透過した圧力波(透過波)は振幅が小さくなる。そのため、メインサイレンサ10に到達した圧力波(透過波)は振幅が小さくなっており、メインサイレンサ10での反射波も振幅が小さくなる。その結果、プリサイレンサ8があるときは、ないときに比べて、メインサイレンサ10の反射波の影響が小さくなる。その結果、図13の極低速域(iv)に示したように、プリサイレンサ8があるときは、ないときに比べて、メインサイレンサ10の2次正圧波(キ)の振幅が小さくなって、結果として、メインサイレンサ10の反射波の影響が1000rpm付近の極低速域(iv)で改善するのである。
【0068】
なお、1500rpm〜2000rpmの低速域においては、プリサイレンサ8を併設した場合は、メインサイレンサ10のみの場合に比べて、体積効率の低下が見られた。これは、プリサイレンサ8の2次正圧波(イ)が自気筒12のオーバーラップ期間中に排気ポート18に到達したから、と考察される。しかしながら、この領域では、吸気弁19から入った新気が排気弁20から出ていく過剰掃気状態となっているため、体積効率が低下しても、筒内に実際に残る新気の量の低下(トルクの低下)は小さいと考えられる。
【0069】
(4)本実施形態の作用
本実施形態では、吸気ポート17を開閉可能な吸気弁19及び排気ポート18を開閉可能な排気弁20が備えられた複数の気筒12を有する多気筒エンジンの排気装置100が提供される。前記排気装置100は、1つの気筒12又は排気順序が連続しない複数の気筒12の排気ポート18に接続された複数の独立排気通路52と、前記各独立排気通路52を通過した排気が流入する混合管50とを有している。前記各独立排気通路52の下流端が束ねられた状態で前記混合管50の上流端に接続されている。所定の運転領域(低速域(ii)及び中速域(i))において、前記各気筒12の排気弁20の開弁期間と吸気弁19の開弁期間とが所定期間オーバーラップすると共に、排気順序が連続する気筒12,12間において先行の気筒12の前記オーバーラップ期間T_O/L中に後続の気筒12の排気弁20が開弁するように、各気筒12の吸気弁19及び排気弁20を駆動する弁駆動手段30,40が設けられている。前記混合管50より下流の排気通路に、流路面積が拡大した空間部を有する空洞拡大室(プリサイレンサ)8が配設され、この空洞拡大室8は、エンジンの回転数が予め設定された第1の基準回転数Ne1以上でかつこれよりも高い予め設定された第2の基準回転数Ne2以下の中速域(i)において、排気弁20の開弁により生じる排気の圧力波が前記空洞拡大室8で反射することにより生じる負圧波(ア)が自気筒12の前記オーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達する位置(距離L2)に配設されている。
【0070】
本実施形態によれば、各独立排気通路52を通過した排気が混合管50に流入することにより混合管50内に負圧が発生し、この負圧により、他の独立排気通路52ないしこれと連通する他の気筒12の排気ポート18内の排気が下流側に吸い出されるエゼクタ効果が少なくとも低速域(ii)で得られる。その際、この低速域を含む所定の運転領域(低速域(ii)及び中速域(i))では、各気筒12の排気弁20と吸気弁19とが共に開いた状態となるオーバーラップ期間が設けられ、排気順序が連続する気筒12,12間において先行の気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に後続の気筒12の排気弁20が開弁するので、前記エゼクタ効果がオーバーラップ期間T_O/L中の先行気筒12の吸気ポート19にまで及び、これにより、先行気筒12の掃気がより一層促進され、体積効率(ηV)のより一層の向上、ひいてはトルクのより一層の向上が図られる。
【0071】
その上で、本実施形態によれば、前記混合管50より下流の排気通路に空洞拡大室(プリサイレンサ)8が配設され、少なくともエンジン回転数が第1基準回転数Ne1〜第2基準回転数Ne2である第1運転領域(中速域(i))において、排気弁20の開弁により生じる排気の圧力波が前記空洞拡大室8で反射することにより生じる負圧波(ア)が自気筒12の前記オーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達するので、この負圧波(ア)による吸い出し効果によって、中速域(i)において体積効率(ηV)が向上し、中速域(i)における体積効率の落ち込みを抑制することが可能となる。
【0072】
本実施形態では、前記混合管50より下流の排気通路の相対的に上流側にプリサイレンサ8が配設され、相対的に下流側にメインサイレンサ10が配設され、前記メインサイレンサ10は、エンジンの回転数が前記第1の基準回転数Ne1未満の第2運転領域(低速域(ii))において、排気弁20の開弁により生じる排気の圧力波が前記メインサイレンサ10で反射することにより生じる負圧波(カ)が自気筒12の前記オーバーラップ期間T_O/L中に排気ポート18に到達する位置(距離L3)に配設されている。
【0073】
これにより、プリサイレンサ8によって、前記中速域(i)における体積効率の落ち込みが抑制されると共に、メインサイレンサ10によって、少なくともエンジン回転数が前記第1基準回転数Ne1未満である低速域(ii)における体積効率の落ち込みが抑制される。そのため、トルクのワイドレンジ化が達成され、広い回転域に亘って走り易いトルクが確保される。
【0074】
本実施形態では、エンジンの回転数が前記第2の基準回転数Ne2を超える第3運転領域(高速域(iii))において、吸気弁19の開弁により生じる吸気の負圧波の反射により生じる正圧波が前記吸気弁19の閉弁直前に吸気ポート17に到達するように吸気系が設定されている。
【0075】
これにより、吸気の慣性過給効果によって、少なくともエンジン回転数が前記第2基準回転数Ne2を超える高速域(iii)における体積効率の落ち込みが抑制される。そのため、トルクのより一層のワイドレンジ化が達成され、より一層広い回転域に亘って走り易いトルクが確保される。
【0076】
本実施形態では、各気筒12の排気ポート18における排気弁20の着座位置から各独立排気通路52の下流端までの距離L1が500mm以下に設定されている。
【0077】
これにより、例えば低速域(ii)において、各気筒12から排出され、各独立排気通路52を通過した排気が混合管50に流入することにより混合管50内に十分な負圧が発生し、前記エゼクタ効果が十分良好に発揮される。
【0078】
本実施形態では、各気筒12の排気ポート18における排気弁20の着座位置から前記プリサイレンサ8までの距離L2が1600mm〜2000mmに設定されている。
【0079】
これにより、極低速域(iv)及び中速域(i)において、プリサイレンサ8の負圧波(反射波)の効果が十分良好に発揮される。
【0080】
本実施形態では、各気筒12の排気ポート18における排気弁20の着座位置から前記メインサイレンサ10までの距離L3が3800mm〜4200mmに設定されている。
【0081】
これにより、低速域(ii)において、メインサイレンサ10の負圧波(反射波)の効果が十分良好に発揮される。
【0082】
(5)本実施形態の変形例
状況に応じて、プリサイレンサ8に代えて又はプリサイレンサ8と共に、直キャタ6やアンダーフットキャタ7等を空洞拡大室として用いても構わない。
【0083】
混合管50は、流路面積が縮小する集合部56だけを含むもの(ストレート部57及びディフューザー部58がないもの)でもよく、集合部56と流路面積が拡大するディフューザー部58とだけを含むもの(ストレート部57がないもの)でもよい。このような構成の混合管を用いてもエゼクタ効果は得られる。例えば、量産設計時にレイアウト上の制約等から混合管50を短くする場合に、集合部56だけを含む混合管や、ストレート部を省略して集合部56とディフューザー部58とを直接滑らかに曲面でつなぐような形状の混合管等としても構わない。
【0084】
また、吸気弁19と排気弁20とのオーバーラップ期間T_O/Lを設けるのは、低・中速域(ii)(i)における高負荷域のみとしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
8 プリサイレンサ(空洞拡大室)
10 メインサイレンサ(空洞拡大室)
12 気筒
17 吸気ポート
18 排気ポート
19 吸気弁
20 排気弁
30 吸気弁駆動機構(弁駆動手段)
40 排気弁駆動機構(弁駆動手段)
50 混合管
52 独立排気通路
100 排気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートを開閉可能な吸気弁及び排気ポートを開閉可能な排気弁が備えられた複数の気筒を有する多気筒エンジンの排気装置であって、
1つの気筒又は排気順序が連続しない複数の気筒の排気ポートに接続された複数の独立排気通路と、前記各独立排気通路を通過した排気が流入する混合管とを有し、
前記各独立排気通路の下流端が束ねられた状態で前記混合管の上流端に接続され、
前記混合管より下流の排気通路に、流路面積が拡大した空間部を有する空洞拡大室が配設され、この空洞拡大室は、エンジンの回転数が予め設定された第1の基準回転数以上でかつこれよりも高い第2の基準回転数以下の中速域を少なくとも含む第1運転領域において、排気弁の開弁により生じる排気の圧力波が前記空洞拡大室で反射することにより生じる負圧波が自気筒の前記オーバーラップ期間中に排気ポートに到達する位置に配設されており、
エンジンの回転数が前記第2の基準回転数以下の低・中速域を少なくとも含む所定の運転領域において、前記各気筒の排気弁の開弁期間と吸気弁の開弁期間とが所定期間オーバーラップすると共に、排気順序が連続する気筒間において先行の気筒の前記オーバーラップ期間中に後続の気筒の排気弁が開弁するように、各気筒の吸気弁及び排気弁を駆動する弁駆動手段が設けられていることを特徴とする多気筒エンジンの排気装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多気筒エンジンの排気装置において、
前記混合管より下流の排気通路の相対的に上流側にプリサイレンサが配設され、相対的に下流側にメインサイレンサが配設され、
前記空洞拡大室は、前記プリサイレンサであり、
前記メインサイレンサは、エンジンの回転数が前記第1の基準回転数未満の低速域を少なくとも含む第2運転領域において、排気弁の開弁により生じる排気の圧力波が前記メインサイレンサで反射することにより生じる負圧波が自気筒の前記オーバーラップ期間中に排気ポートに到達する位置に配設されていることを特徴とする多気筒エンジンの排気装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多気筒エンジンの排気装置において、
エンジンの回転数が前記第2の基準回転数を超える高速域を少なくとも含む第3運転領域において、吸気弁の開弁により生じる吸気の負圧波の反射により生じる正圧波が前記吸気弁の閉弁直前に吸気ポートに到達するように吸気系が設定されていることを特徴とする多気筒エンジンの排気装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の多気筒エンジンの排気装置において、
各気筒の排気ポートにおける排気弁の着座位置から各独立排気通路の下流端までの距離が500mm以下に設定されていることを特徴とする多気筒エンジンの排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−113224(P2013−113224A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260600(P2011−260600)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】