説明

多波長干渉計、計測装置および計測方法

【課題】 被検面が傾いていても測定精度を悪化させることのない多波長干渉計を提供する。
【解決手段】 波長が互いに異なる少なくとも2つの光束を参照光と被検光とに分割し、分割された参照光の周波数と被検光の周波数とを異ならせ、被検光と参照光とを干渉させる干渉計において、干渉光を複数の光束に分割する分割部を有し、分割された複数の光束を各波長について検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多波長干渉計、計測装置および計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検面の形状等を高精度に測定する装置として一般的にヘテロダイン干渉方式が知られている。単波長干渉計(特許文献1参照)においては、被検面が粗い場合、表面粗さ起因のスペックルパターンは2πより大きい標準偏差のランダム位相を有する為、計測不確さが大きくなってしまい正確な計測が困難となる。
上記問題を解決する方法として、レーザ光を物体面に投射して反射光を撮像する装置において、結像レンズの絞り位置を変化させることによりスペックルパターンのランダムな位相のインコヒーレント平均化を行うことが記載されている(特許文献2参照)。
また、別の解決手段として、複数の異なる波長の干渉計測結果から各波長の位相を合成する多波長干渉計が知られている(非特許文献1参照)。非特許文献1によると、2つの波長のスペックルに相関があるならば、その2つの波長の位相差に基づいて巨視的表面プロファイルと微視的表面粗さに関する情報が得られるとしている。
また、2つの波長間のスペックルパターンの相関(度)は2つの波長の合成波長に依存することが知られている(非特許文献2参照)。なお、2つのスペックルパターンが一致するほど相関度が高いとする。非特許文献2によると合成波長Λが小さい程、2波長間のスペックルパターンの相関は減少し、逆に合成波長Λが大きい程、2波長間のスペックルパターンの相関は増加する。ここで、合成波長Λとは2つ波長をλ1、λ2(λ1>λ2)としたとき、Λ=λ1×λ2/(λ1−λ2)で表わされる量である。このように, 単波長干渉計では困難である粗い被検面に対しても多波長干渉計では精度良く計測することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−185529号公報
【特許文献2】特開平5−71918号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A.F.Fercher等「Rough−surface interferometry with a two−wavelength heterodyne speckle interferometer」、Applied Optics、1985、vol.24、issue14、pp2181−2188
【非特許文献2】U.Vry、F.Fercher著、「High−order statistical properties of speckle fields and their application to rough−surface interferometry」、J.Opt.Soc.Am.A、1986、vol.3、issue7、pp988−1000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2によると、2つの波長間のスペックルパターンの相関は合成波長の大きさと同時に、被検面の粗さ及び被検面の傾きに依存する(数式1参照)。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、μは2つの波長間の複素相関関数を表わし、h0は被検面の高さ、Λは2波長の合成波長を表わす。σは被検面の粗さを表し、sは被検面の傾き、aは被検面をガウスビームで照射したときの直径を表わす。式1によると被検面の粗さが粗くなると2波長間のスペックルの相関性は減少する。また、被検面の傾きが大きくなると2波長間のスペックル相関は減少する。特に被検面の傾きによる2つの波長間のスペックルの相関性の減少への影響が大きい。図1に被検面の傾き角度と測長誤差の関係の例を示す。図1はRa0.4umの粗さをもつ被検面を65μmのスポットサイズで照明し、かつNA0.02の範囲を受光する合成波長300μmの2波長干渉計で計測したときの測長誤差シミュレーションを行った結果である。ここで測長誤差とは100サンプル被検面の測長誤差の2σをとった値である。図1によると被検面傾きが0°のときは0.6μmと測長誤差は小さいが、被検面傾きが10°の場合、8.1μmと大幅に測長誤差が悪化することがわかる。通常、粗面被検面が傾いている場合の被検面の瞳共役面(フーリエ変換の関係となる面)におけるスペックルパターンは、被検面が傾いていないスペックルパターンを瞳面内でシフト(横ずれ)させたようなパターンとして形成される。また、粗面被検面が傾いた場合、被検面の瞳共役面に形成されるλとλの異なる波長間の瞳面内のスペックルパターンのシフト量に差が生じる為、2波長間のスペックルパターンの相関が減少し測長精度が悪化してしまう。更に、被検面の傾き角度が大きくなると、波長間の瞳面内スペックルパターンのシフト量の差が大きくなる為、2波長間のスペックルパターンの相関も更に減少し、大幅な測長精度悪化を招く。このように、粗面計測に多波長干渉計を適用したとしても被検面が傾いている場合、波長間の相関性の減少により精度良い測定が困難であることがわかる。
そこで、本発明は、被検面が傾いていても測定精度を悪化させることのない多波長干渉計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としての多波長干渉計は、波長が互いに異なる少なくとも2つの光束を用いる多波長干渉計において、前記光束を参照光と被検光とに分割するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタにより分割された前記参照光の周波数と前記被検光の周波数とを異ならせる周波数シフタと、前記周波数シフタからの前記被検光を被検面に入射させて前記被検面で反射された被検光と、前記周波数シフタからの前記参照光とを干渉させる光学系と、前記光学系によって干渉した前記被検光と前記参照光との干渉光を複数の光束に分割する分割部と、前記光束分割部により分割された前記複数の光束を各波長について検出する検出部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検面が傾いていても測定精度を悪化させることのない多波長干渉計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】被検面の傾き角度と測長誤差の関係の例を示す図である。
【図2】実施形態1および2における計測装置の概略図である。
【図3】偏光ビームスプリッタによる光束分離の様子を示す図である。
【図4】実施形態1における測長値の算出フローを示す図である。
【図5】検出器(ピクセル)、複素振幅、光束瞳中心座標との関係を示す図である。
【図6】ピクセルシフト量と複素相関との関係を示す図である。
【図7】ピクセルシフトされた複素振幅データから元の検出位置での複素振幅データの算出を説明するための図である。
【図8】実施形態2における測長値の算出フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
図2は本実施形態の計測装置の概略図である。本実施形態の計測装置は、図2に示すように、複数の固定波長レーザ、被検光と参照光を干渉させる干渉計(光学系)、算出装置(処理部)を有する。
【0012】
固定波長レーザ1を射出した光はビームスプリッタ4で分割される(振幅分割)。また、固定波長レーザ2は固定波長レーザ1が射出する光の波長とは異なる波長の光を射出する。固定波長レーザ2から射出された光はビームスプリッタ4に入射し、光線軸が固定波長レーザ1から射出された光と同軸になり、ビームスプリッタ4で分割される(振幅分割)。ここで、固定波長レーザ1と固定波長レーザ2は同様のDFB半導体レーザを用いる。また、本実施形態では固定波長レーザ1と固定波長レーザ2は別素子のレーザとしているが、光通信に用いられる多波長光源と同様に複数の半導体レーザを1つの素子に集積した構造としても構わない。この場合にはコストおよび寸法の観点で有利である。また、必ずしもDFBレーザに制約するもでは無く、HeNeレーザ等でも構わない。
【0013】
ビームスプリッタ4で分割された光は、波長の基準素子であるガスセル3を透過後、分光素子5で固定波長レーザ1から射出された光と固定波長レーザ2から射出された光のそれぞれに分離される。ガスセル3を透過後の光量は、固定波長レーザ1からの光については検出器6a、固定波長レーザ2からの光については検出器6bでそれぞれ検出される。レーザ制御ユニット7では、検出器6aの信号を用いて固定波長レーザ1の波長をガスセルの吸収線である波長λに安定化するように制御を行う。波長の安定化は例えば検出器6aの透過強度が一定となるように、レーザ制御ユニット7により固定波長レーザ1の波長を調整することにより行う。波長を調整する手段としては、例えば注入電流を変調する方法や温調による方法を用いる。同様に、レーザ制御ユニット7で検出器6bの信号を用いて固定波長レーザ2の波長をガスセルの吸収線である波長λに安定化するように制御を行う。ここで、本実施形態ではガスセルのみを用いて波長精度を保障しているが、ガスセルの代わりにエタロンを用いても構わない。また、ガスセルとエタロンの両方を用いても構わない。
【0014】
ビームスプリッタ4で分割されたもう一方の光は、偏光ビームスプリッタ8によって、更に参照光(第1光束)と被検光(第2光束)に分割される。第1光束は周波数(波長)シフタ9に入射する。周波数シフタ9では固定波長レーザ1と固定波長レーザ2のそれぞれから出力される光について、音響光学素子により入射光の周波数に対して一定量の周波数シフトを印加する。周波数シフタ9から射出した光はコリメートレンズ10aに入射する。偏光ビームスプリッタ8によって分割された第2の光束はコリメートレンズ10bに入射する。なお、周波数シフタを第2光束の光路内に配置してもよいし、シフト量が互いに異なる周波数シフタを両光束に配置してもよい。
【0015】
コリメートレンズ10aに入射した第1光束は、コリメートレンズ10aで平行光束とされ、λ/2板11aを通過後、図3に示すように偏光ビームスプリッタ12で反射光束31及び透過光束32に分割される。偏光ビームスプリッタ12で分割された反射光束31は、λ/2板24を透過することで偏光方向が90度回転させられる。更に、反射光束31は偏光ビームスプリッタ13及び偏光子14を透過し、更に集光レンズ15で集光された後、分光素子21aに入射する。
【0016】
また、コリメートレンズ10bに入射した第2光束はコリメートレンズ10bで平行光束とされλ/2板11bを通過後、図3に示すように偏光ビームスプリッタ13で反射光束41及び透過光束42に分割される。偏光ビームスプリッタ13で分割された反射光束41は偏光子14を通過し、更に集光レンズ15で集光された後、分光素子21aに入射する。ここで、λ/2板11aの光軸に対する回転方向は反射光束31と透過光束32の光量比が所望となるように設定する。同様に、λ/2板11bの光軸に対する回転方向は反射光束41と透過光束42の光量比が所望となるように設定する。このとき、反射光束31と反射光束41の干渉信号のコントラストが最大となるようにする為、反射光束31と反射光束41の光量が同程度になることが好ましい。
【0017】
分光素子21aでは同軸で入射した固定波長レーザ1と固定波長レーザ2からの光を分離する。波長λの光に周波数シフトが印加された反射光束31と波長λの反射光束41との干渉光を検出器211aで検出し、両光束の周波数差に相当するビート信号(干渉信号)が検出器211aから出力(取得)される。また、波長λの光に周波数シフトが印加された反射光束31と波長λの反射光束41の干渉光を検出器211bで検出し、両光束の周波数差に相当するビート信号(干渉信号)が検出器211bから出力(取得)される。なお、反射光束31と反射光束41の共通偏光成分が抽出され、検出器で干渉光が検出されるように偏光子14が設定される。以下、分光素子21aを介して検出器211a、211b(検出部)で取得される干渉信号を基準信号と称す。
【0018】
一方、偏光ビームスプリッタ12で分割された透過光束32(参照光)は、ミラーで偏向され、偏光ビームスプリッタ16に入射する。また、偏光ビームスプリッタ13で分割された透過光束42(被検光)は偏光ビームスプリッタ16を透過後、λ/4板19により円偏光とされ、集光レンズ20で収束光となって被検面に集光される。被検面で反射されて逆周りの円偏光とされた後、再度λ/4板19を再度透過することにより、前に偏光ビームスプリッタ16に入射した時とは偏波面が90度回転した直線偏光となって偏光ビームスプリッタ16に再度入射する。その後、偏光ビームスプリッタ16で反射される。偏光ビームスプリッタ16は、偏光ビームスプリッタ16に入射した透過光束32(参照光)と、偏光ビームスプリッタ16で反射した透過光束42(被検光)とを合成して干渉させる。そして、参照光と被検光の干渉光は偏光子17を通過後、被検面と瞳共役の位置(フーリエ変換の関係となる面)にあるマイクロレンズアレイ18(分割部)に入射する。
【0019】
マイクロレンズアレイ18を通過した干渉光は複数の光束(ピクセル)に波面分割される。図2では説明を簡単にする為に、1次元方向(x方向)に並んだ4つのレンズを有するマイクロレンズアレイ18により、1次元方向(x方向)にφ1mmの4ピクセルに光束分割した例を示している。1次元方向のみのピクセルで光束分割を行った場合は被検面がその1次元方向に対応する特定方向に傾いた場合にのみ効果が得られる。この為、被検面の任意方向の傾きに対応する為には実際には2次元マトリックスのピクセルに光束を分ける必要がある。マイクロレンズアレイ18でピクセルに分割された光束はファイバで個別に分光素子21b〜21eに入射する。ここで使用するファイバは複数本のファイバであってもよいし、バンドルファイバでも構わない。
【0020】
尚、検出器で高コントラストの干渉信号を得る為に、偏光ビームスプリッタ16を通過した参照光と、被検面で反射し偏光ビームスプリッタ16で反射した被検光と、の強度を同じにすることが好ましい。この為、回転機構(不図示)によって偏光子17を回転させ強度調整を可能にしても良い。また別手段としてNDフィルタ等(不図示)で参照光束もしくは被検光束の強度調整をしても構わない。
【0021】
波長λの光に周波数シフトが印加された参照光と波長λの被検光との干渉光であって、分光素子21b〜21eに入射した光は検出器222a〜225aでそれぞれ検出される。また、波長λの光に周波数シフトが印加された参照光と波長λの被検光の干渉光であって、分光素子21b〜21eに入射した光は検出器222b〜225bでそれぞれ検出される。
【0022】
以下、分光素子21b〜21eを介して検出器222a〜225a及び222b〜225b(検出部)で検出される干渉光の信号(干渉信号)を計測信号と称す。計測信号は、透過光束32と透過光束42の干渉光として両光束の周波数差に相当するビート信号となる点は基準信号と同じであるが、信号の位相が基準信号と異なる。したがって、計測信号の位相の計測値として基準信号に対する位相を求めてもよい。なお、計測信号の位相は被検光と参照光の光路長差に応じて変化する。
【0023】
本実施形態では分光素子21a〜eを用いて波長毎の計測信号に分離する構成を示したが、波長λと波長λの参照光に異なる周波数シフト量を与え、検出器で検出した干渉信号を周波数分離することで波長毎の干渉信号に分離しても良い。この場合の構成は分光素子が不要となる。また、マイクロレンズアレイ18で分割された光束毎に2つ構成されていた検出器も1つの検出器とすることが可能となり装置構成が単純になる。
【0024】
偏光成分で分割可能な偏光ビームスプリッタを用いることによる効果は、参照光と被検光を偏光により分離する事が可能となる点にある。以上の効果を利用すれば、直交する2つの偏光間で僅かに周波数シフト差を加えることで被検光と参照光間のヘテロダイン検出が構成可能となり、高精度な位相の計測が実現する。
【0025】
図4は算出装置23内での測長値算出フローを示す。S101では、検出器222a〜225a及び検出器222b〜225bで検出したそれぞれの干渉信号から複素振幅(振幅および位相)の情報(データ)を得る。例えば、図5に示すように、被検面位置と瞳共役の位置で分割された光を検出器222a〜225aで検出した干渉信号から得られた複素振幅をそれぞれA,A,A,Aとする。ここで、検出器222a〜225aそれぞれで検出する瞳面ピクセル(レンズ)の番号をp11、p12、p13、p14とする。同様に、被検面位置と瞳共役の位置で光束分割された光を検出器222b〜225bで検出した干渉信号から得られた複素振幅をそれぞれB,B,B,Bとする。ここで、検出器222b〜225bそれぞれで検出する瞳面ピクセル(レンズ)の番号をp21、p22、p23、p24とする。算出装置23内にはマイクロレンズアレイ18で分割された光束の中心(各レンズの中心)の瞳面座標x1、x2、x3、x4の情報が予め記憶されている。
【0026】
S102では、S101で求めた複素振幅データを用いて検出器222a〜225aと検出器222b〜225bで得られた信号の互いの検出ピクセルを1つずつシフトさせながら複素相関(相関度または相関係数)を算出する。具体的には式2で複素相関U(l)を算出する。
【0027】
【数2】

【0028】
ここで、lがピクセルシフト量、pはマイクロレンズアレイで分割した分割数である。μnmは次の式3で表わされる。
【0029】
【数3】

【0030】
図6にピクセルシフト量と複素相関の関係図の例を示す。S103では、S102で求めた図6のような複素相関U(l)を関数フィッティングし、その結果から複素相関U(l)が最大となるピクセルシフト量ΔLを算出する。ここで、フィッティングに使用する関数系は計測条件で適宜設定する。本実施例では一例とし複素相関U(l)を4次関数フィッティングし、そのフィッティング関数から複素相関が最大となるピクセルシフト量ΔLを+0.6mmが算出されたとしてこの先の説明を行う。
【0031】
S104では、S103で算出したピクセルシフト量ΔLに基づいて複素振幅データをシフトさせたときの、元のピクセル位置(瞳面座標x1、x2、x3、x4)における複素振幅を算出する。図5の例の場合、複素振幅B,B,B,BのデータをX方向に−0.6mmずらしたときのデータを用いて、元のピクセル位置(x1、x2、x3、x4)の複素振幅B’,B’,B’,B’を算出する。具体的な算出については、まずS101で算出した複素振幅を検出器毎に実部、虚部に分離する。実部、虚部それぞれピクセルシフトさせたときの近傍2点データの直線内挿データから各点のデータを求める。求めたピクセルシフト量に基づいてシフトした実部、虚部の情報を複素振幅に戻しB’,B’,B’,B’とする。ただし、シフトさせた時に近傍に2点無い場合はそのピクセルのデータは無効とする。今回の例では図7に示すように、Bをx方向に−0.6mmずらしたデータ(x−0.6、B)、Bをx方向に−0.6mmずらしたデータ(x−0.6、B)の2データの直線内挿から瞳位置xでの複素振幅B’の実部、虚部それぞれ求める。同様に、(x−0.6、B)、(x−0.6、B)の2データの直線内挿から瞳位置xでの複素振幅B’を、(x−0.6、B)、(x−0.6、B)の2データの直線内挿から瞳位置xでの複素振幅B’の実部、虚部それぞれ求める。瞳位置xの複素振幅B’に関しては(x−0.6、B)ともう一点のデータが無いことから無効なデータとなる。なお、複素振幅データB,B,B,Bを−0.6mmシフトさせたが、複素振幅データA,A,A,Aを逆方向に+0.6mmピクセルシフトさせても良い。また、複素振幅データA,A,A,Aを+0.3mmピクセルシフトさせ、かつ、複素振幅データB,B,B,Bを−0.3mmピクセルシフトさせても良い。つまり、波長毎に干渉信号を検出する瞳位置をシフトさせ、波長間のスペックルシフト差を補正する。
【0032】
S105ではA,A,A,Aの複素振幅データ、シフトされたB’,B’,B’,B’の複素振幅データからそれぞれ位相を算出し、AiとB´i(i=1、2、3、4)の位相差(λλ波長間位相差)をそれぞれ算出する。このときAiもしくはB´iのどちからが無効なデータの場合、位相差データも無効なデータとして扱う。今回の具体例ではp14、p24番号のピクセルのデータが無効なデータとなる。
S106では、無効なデータを除いた有効なデータの波長間位相差の平均値(ピクセル平均)を求める。
S107では、S106で求めた波長間位相差の平均値のデータ及び2波長の値(合成波長)に基づいて、測長値(距離)または参照光と被検光との光路長差または形状を求める。ここで、合成波長Λとは2つ波長をλ1、λ2(λ1>λ2)としたとき、Λ=λ1×λ2/(λ1−λ2)で表わされる量である。
【0033】
さらに、計測信号の位相、あるいは、その位相から参照光と被検光との光路長差または測長値(距離)に基づいて他の物理量を求めても良い。例えば、被検面をXY平面内に移動(駆動)可能なステージに載せることで、被検面の各点における上記測長値から被検面の面形状の情報を得るような形状計測にも適用可能である。また、移動ステージの代わりにガルバノミラーを干渉計と被検面の間に配置しても構わない。なお、位相から光路長差、測長値(距離)または形状を算出する方法には公知の方法を適用できる。
【0034】
このように、固定した瞳位置で分割部により光束分割されたλ、λそれぞれの干渉光の信号から計算処理のみで波長毎に干渉信号を検出する瞳位置をシフト(被検面の瞳共役面内でシフト)させたような効果を得ることができる。このことにより波長間のスペックルシフト差の補正が可能となり、高速かつ精度良い計測が可能となる。
【0035】
なお、特許文献2に記載のインコヒーレント平均化によるスペックル影響の低減方法では、1点を測定する場合であっても多くのデータを取得し、空間的或いは時間的なスペックルパターンの変化を平均化する処理時間が必要であるため計測時間が長くなってしまう。
【0036】
また、同様の効果を得る別の手段として、マイクロレンズアレイ18を移動可能にして、干渉計光軸に対して垂直な面内に移動(駆動)させる移動(駆動)部を追加する。波長λの干渉信号を取得後、波長λの干渉信号を取得しながらマイクロレンズアレイ18を移動させる。波長λの複素振幅と取得済みの波長λの複素振幅との複素相関が最大となるマイクロレンズアレイ18の位置をサーチ(検出)することで被検面傾きによる波長間スペックルシフト差の補正ができる。この構成の場合、光源1と光源2を切り替える機構を追加することで分光素子21aから21eまでは不要となり、検出器も波長毎に用意する必要は無い。
【0037】
更に、別手段としては、被検面位置の瞳共役面近傍に絞りを配置し、絞りを移動可能にして、干渉計光軸に対して垂直な面に移動(駆動)させる機構を追加してもよい。波長λの干渉信号を取得後、波長λの干渉信号を取得しながら絞り位置(絞りの開口の位置)を移動させる。波長λの複素振幅と取得した波長λの複素振幅との複素相関に基づいて、例えば複素相関が最大となる絞り位置をサーチ(検出)することで被検面傾きによる波長間スペックルシフト差の補正が達成できる。この構成の場合、瞳面でマイクロレンズアレイ18により光束を分割する機構を取り除き、被検面位置を瞳共役の位置の干渉信号を単一の検出器で検出することも可能である。この構成の場合も、光源1と光源2を切り替える機構を追加することで分光素子が不要となり、検出器も波長毎に用意する必要は無い。なお、特許文献1に記載の発明では、絞りやピンホールを移動させ、被検面からの正反射光に相当する最大光量の位置を検出しているだけであり、波長間のスペックルの相関性は改善しない。
【0038】
以上では説明を簡単にする為に、被検面位置の瞳共役位置近傍での光束分離を一次元とした。実際には、先に述べたように被検面傾きが任意方向の場合は、被検面位置の瞳共役位置近傍でマトリックス的に二次元に光束分離する必要がある。この場合、当然ピクセルシフトも二次元的に処理する必要がある。また、複素振幅を実部、虚部に分離してピクセルシフトの処理を行ったが、複素振幅代わりに位相データを用いても構わない。位相データの場合は、2波長間のスペックル位相の相関が最大となるピクセルシフトの補正をすることとなる。
【0039】
(実施形態2)
図8に本実施形態における測長値算出フローを示す。本実施形態の計測装置は、実施形態1の計測装置と構成は同じである。
【0040】
実施形態1における位相差算出フロー(図4)では各波長の複素振幅から相関が最大となるピクセルシフトを算出するのに対し、本実施形態の位相差算出フローでは事前に得た被検面傾きの情報からピクセルシフト量を求める。被検面の傾きの情報とは、例えば、被検対象物の図面と被検面の設置姿勢等の情報から得ることができる。また、別の計測装置を用いて被検面の傾き情報を得るのでも構わない。被検面の傾きの事前情報は算出装置23内に記憶される。
【0041】
本実施形態における測長値算出フローを説明する。まず、実施形態1と同様にS101で検出器222a〜225a及び検出器222b〜225b(検出部)で検出したそれぞれの干渉信号から複素振幅の情報を得る。次に、S202で、算出装置23に記憶された被検面の傾きの情報からピクセルシフト量ΔLxを算出する。具体的には、次の式4によってピクセルシフト量ΔLxを算出する。
【0042】
【数4】

【0043】
ここで、fは被検面から反射光を受光する受光光学系(被検面から瞳共役の位置までの間の光学系)の焦点距離、θは被検面の傾き情報である。
【0044】
S202でピクセルシフト量ΔLxを算出した後は、実施形態1の位相差算出フローのS104〜S107まで同じ手順で波長間の位相差を算出し測長値を求める。本実施形態でも実施形態1と同様に、被検面の傾きが任意方向の場合は、被検面位置の瞳共役位置近傍でマトリックス的に二次元に光束分離する。この場合、ピクセルシフト量は式5によって、X方向のピクセルシフト量ΔLx、Y方向のピクセルシフト量ΔLyを算出する。
【0045】
【数5】

【0046】
ここで、fは被検面から反射光を受光する受光光学系の焦点距離。θxは被検面のx方向の傾き情報。θyは被検面のy方向の傾き情報である。ピクセルシフトもΔLx、ΔLyに基づいて二次元的に処理する必要がある。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、上記実施形態ではすべてヘテロダイン干渉計について述べたが、多波長ホモダイン干渉計で粗面の計測を行う場合でも適用できる。多波長ホモダイン干渉計の場合も干渉信号を被検面位置の瞳共役面で光束分割して各波長の複素振幅或いは位相を求めることで、上記位相差算出フローを適用できる。この場合、多波長ホモダイン干渉計でも傾いた粗い被検面を高速かつ高精度に計測することが可能となる。
【0048】
例えば、上記実施形態では2波長干渉計に限定して説明したが、異なる3波長以上の多波長干渉計でも構わない。又は、複数波長の一つを波長走査することで絶対測長を可能とする多波長走査干渉計に適用しても構わない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が互いに異なる少なくとも2つの光束を用いる多波長干渉計において、
前記光束を参照光と被検光とに分割するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタにより分割された前記参照光の周波数と前記被検光の周波数とを異ならせる周波数シフタと、
前記周波数シフタからの前記被検光を被検面に入射させて前記被検面で反射された被検光と、前記周波数シフタからの前記参照光とを干渉させる光学系と、
前記光学系によって干渉した前記被検光と前記参照光との干渉光を複数の光束に分割する分割部と、
前記分割部により分割された前記複数の光束を各波長について検出する検出部と
を有することを特徴とする多波長干渉計。
【請求項2】
前記検出部によって検出された干渉光の信号から複素振幅を求め、前記複数の光束の各々における波長毎の前記複素振幅の複素相関を求め、前記複素相関に応じて位相を算出するための瞳位置を波長毎に求め、該求められた各波長の瞳位置における位相の情報から、各波長間の位相差を求める処理部を有することを特徴とする請求項1記載の多波長干渉計。
【請求項3】
前記被検面の傾きの情報を予め取得し、前記傾きの情報から位相を算出するための瞳位置を波長毎に求め、該求められた各波長の瞳位置における位相の情報から、各波長間の位相差を求める処理部を有することを特徴とする請求項1記載の多波長干渉計。
【請求項4】
前記分割部が移動可能であることを特徴とする請求項1記載の多波長干渉計。
【請求項5】
被検面の位置または形状を計測する計測装置であって、
波長が互いに異なる複数の光束を用いる多波長干渉計と、
前記多波長干渉計を用いて得られた信号を用いて前記被検面の位置または形状を求める処理部とを有し、
前記多波長干渉計は、
前記光束を参照光と被検光とに分割するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタにより分割された前記参照光の周波数と前記被検光の周波数とを異ならせる周波数シフタと、
前記周波数シフタからの前記被検光を被検面に入射させて前記被検面で反射された被検光と、前記周波数シフタからの前記参照光とを干渉させる光学系と、
前記被検面の瞳共役面に配置された移動可能な絞りと、
前記絞りを瞳共役面において移動させながら、前記絞りを通過した前記被検光と前記参照光との干渉光を各波長について検出する検出部とを有し、
前記処理部は、前記検出部からの前記干渉光の信号を用いて各波長間における複素振幅の情報の相関度を求め、該求められた相関度に基づいて、前記被検面の瞳共役面において前記干渉光の信号の位相を求めるための位置を求め、該求められた位置における前記干渉光の信号の位相の情報を用いて前記被検面の位置または形状を求めることを特徴とする計測装置。
【請求項6】
被検面の位置または形状を計測する計測方法であって、
波長が互いに異なる複数の光束を参照光と被検光とに分割し、該分割された前記参照光の周波数と前記被検光の周波数とを異ならせた後、前記被検光を被検面に入射させて前記被検面で反射された被検光と前記参照光とを干渉させるステップと、
前記被検光と前記参照光との干渉光の信号を前記複数の光束の各波長について取得するステップと、
取得した信号から複素振幅の情報を求め、各波長間において前記複素振幅の情報を前記被検面の瞳共役面内でシフトした場合の複素振幅の情報を用いて、各波長間における前記複素振幅の情報の相関度を求めるステップと、
該求められた相関度に基づいて、前記被検面の瞳共役面において前記干渉光の信号の位相を求めるための位置を求め、該求められた位置における前記干渉光の信号の位相の情報を用いて前記被検面の位置または形状を求めるステップと
を有することを特徴とする計測方法。
【請求項7】
前記相関度が最大となる位置を、前記被検面の瞳共役面において前記干渉光の信号の位相を求めるための位置として、前記相関度が最大となる位置へシフトした前記複素振幅の情報をから前記干渉光の信号の各波長間の位相差を求めることを特徴とする請求項6に記載の計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92402(P2013−92402A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233345(P2011−233345)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】