説明

多点セル型計量装置

【目的】 計量台を複数の計量セルにより支持する多点セル型計量装置において、高精度かつ高速な計量を実現する。
【構成】 被計量物20を計量台10に載置させたとき、複数の計量セル1,2と同一の床Fに床振動検出セル161 ,162 を設置しておき、床振動に起因する誤差を補償するとともに、計量セル1,2間の出力感度比に基づいて補正を行ったうえで各計量信号を加算するようにしている。従って、床振動が低減され、計量セル1,2間の出力感度比に応じて補正された加算計量信号AWを出力するので、例えば移動平均法のような安定化演算によって、高精度かつ高速な計量を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、被計量物が載置される1つの計量台を複数の計量セルで支持して、各計量セルからの計量信号を加算することにより被計量物の重量を測定する多点セル型計量装置に関し、特に、その高速計量に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、自動車等のようにサイズや重量が大きな被計量物の重量測定では、計量台を複数の計量セルで支持して、各計量セルからの荷重信号を加算するようにした多点セル型計量装置が使用されている(特願昭63-285941 号公報)。この多点セル型計量装置によれば1つの計量セルに荷重を集中させるものに比較して、同程度の大きさの計量セルを用いながらも、これを複数使用することで計量台のサイズを大きくすることができる利点がある。これら計量セルは、例えば、起歪体に歪ゲージを貼り付けたものである。
【0003】この多点セル型計量装置において、被計量物を移動させながら、その重量を計量する場合には、移動用コンベヤから計量コンベヤへの乗り移り時の衝撃などを受けて、計量コンベヤを支持する複数の計量セルに機械振動(計量系振動)が発生する。このため、図13に示すように、各計量セル1,2から出力される計量信号を増幅器22,フィルタ27(遮断周波数5Hz〜10Hz),およびA/D変換器24により信号処理し、CPU25により加算処理した後に、高周波の計量系振動が低減された加算計量信号のフィルタ済信号が取り出される。この状態を図14に示す。
【0004】しかし、このフィルタ済信号が安定する安定時間S(例えば約200msec)の終了まで待っていたのでは高速計量が図れないことになる。このため、移動平均法などによるデータ変動の安定化演算を行って高速計量を図るようにしている。
【0005】この移動平均法とは、例えば、a1 ,a2 ,a3 ,a4 ,a5 ,a6 ,…というような時系列データがあると、まず、a1 ,a2 ,a3 の平均、次にa2 ,a3 ,a4 の平均、次にa3 ,a4 ,a5 の平均というように時系列データのいくつかの時点のデータを平均して、データの最終平衡値を求めるものである。これにより、安定時間Sまで待つことなく、ある程度安定した段階(例えば約150msec)での加算計量信号の平均値を被計量物の重量と判断して高速計量が図られる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来装置には次のような問題点があった。計量装置の設置場所において生じる地盤,建屋,床,架台などの環境振動(床振動)を計量セルが拾う場合がある。一般的に、この床振動は上記計量系振動よりも周波数が低い。従って、フィルタ27を通過してしまい、加算計量信号に、計量系振動に加えて低周波の床振動が重畳された合成信号として出力されることになる。この状態を図15に示す。
【0007】この場合、上記のような移動平均法を用いても、床振動の周期の長い傾向変動に引きずられて加算計量信号の収束に時間がかかり、時系列データをb1 ,b2,b3 ,b4 ,b5 ,b6 ,…というように取ってもデータの最終平衡値を求めるのに時間がかかり、被計量物20の重量を高速計量することが困難であるという問題があった。また、フィルタ27の遮断周波数を低くして床振動の影響を低減すると、安定時間Sがさらに延び装置能力が落ちるという問題もあった。
【0008】また、複数の計量セル間には歪ゲージの歪感度のバラツキ等から感度差が必然的に存在するため、各計量セル間の感度の補正を必要とする。そこで、例えば特開昭63-282616 号公報に記載の技術では、個々の計量セルの感度特性を予め測定して記憶回路に格納しておき、記憶された感度特性に基づいて、計量セルから得られた荷重データを補正する方法が用いられている。しかし、この技術では、計量セルに等しい荷重を負荷することを前提としている。従って、計量台を計量セルに組み付けてしまうと、被計量物の搭載箇所がずれた場合に、各計量セルに対して等しい荷重を負荷することが実質的に不可能であるという問題もあった。
【0009】この発明は上記の問題点を解決して、計量台を複数の計量セルにより支持する多点セル型計量装置において、高精度かつ高速な計量を実現することができる多点セル型計量装置を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明の請求項1の多点セル型計量装置は、計量台を複数の計量セルにより支持して各計量セルからの計量信号を加算した加算信号により上記計量台の負荷荷重を求める多点セル型計量装置であって、上記各計量セルと同一の床に設置されて床振動を検出する床振動検出セルと、上記床振動検出セルから出力される床振動検出信号の振動成分によって上記計量信号または加算信号を補正することにより、床振動に起因する計量信号の誤差を補償した床振動補正済信号を出力する床振動補償手段と、上記計量台における上記計量セルの数以上の異なる箇所に順次分銅を載置したときの各計量セルの出力値から計量セル間の出力感度比を求める感度演算手段と、求めたそれぞれの出力感度比に基づいて、上記計量信号を補正する感度補正手段とを備えている。
【0011】請求項2の多点セル型計量装置は、上記請求項1において、床振動検出セルが各計量セルの近傍に1つずつ配置されている。
【0012】また、請求項3の多点セル型計量装置は、上記請求項1において、床振動検出セルが複数配置され、さらに、床振動補償手段が、上記複数の床振動検出セルから出力される床振動検出信号の振動成分に基づいて床の振動モードを検出し、計量セルが設置された位置の床の上下方向の変位を算出する床振動算出手段と、算出された変位により上記計量信号から床振動の成分を除去した振動補正済信号を生成する床振動補正手段とを備えている。
【0013】請求項4の多点セル型計量装置は、上記請求項1において、床振動検出セルは単一であり、かつ、各計量セルの間に配置されている。
【0014】
【作用および効果】請求項1の多点セル型計量装置によれば、複数の計量セルと同一の床に床振動検出セルを設置しておき、被計量物を計量台に載置させたときの計量セルからの計量信号について、床振動に起因する誤差を補償するとともに、計量セル間の出力感度比に基づく補正を行ったうえで計量信号を加算するようにしている。従って、床振動分が低減され、かつ、計量セル間の出力感度比に応じて補正された加算計量信号を出力するので、例えば移動平均法のような安定化演算によって、高精度かつ高速な計量を行なうことができる。
【0015】請求項2の多点セル型計量装置によれば、各計量セルとその近傍に配置された振動検出セルの振動は同一とみなせるので、各計量信号から対応する床振動検出信号を減算することにより、ただちに床振動分が除去される。
【0016】また、請求項3の多点セル型計量装置によれば、複数配置された床振動検出セルから出力される床振動検出信号の振動成分に基づいて床の振動モードを検出して、上記計量セルが設置された位置の床部分における上下方向の変位を算出する。そして、その算出された上下方向の変位により、上記計量信号を補正して、床振動による影響を除去した振動補正済信号を生成する。すなわち、床振動モードを検出した上で、計量信号中から、各計量セルが設置されている床部分における上下方向の変位を減算した後加算する。したがって、各計量セルと床振動検出セルとが設置された位置の床部分の振動状態が異なる場合であっても、計量信号を正確に補正することが可能になり、精度の高い計量を実現することができる。しかも、床振動検出セルの設置場所の制約が緩和されるから、計量装置の構造の自由度が増す。
【0017】また、請求項4の多点セル型計量装置によれば、単一の床振動検出セルを各計量セル間に配置しているので、装置の構造が簡単になる。
【0018】
【実施例】以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、この発明の一実施例による多点セル型計量装置の概略を示す側面図であり、計量台を構成する計量コンベヤ10は、図示しない駆動機によって回転駆動される駆動ローラ10aと、従動ローラ10bとの間に、コンベヤベルト10cを架け渡している。上記両ローラ10a,10bの各軸受10d,10eは支持部材10f,10gを介して受け台15に支持されている。この受け台15の前後両端部が、複数(この例では、対応する前後一対)の計量セル1,2に支持されている。これら計量セル1,2は例えば、起歪体に歪ゲージを貼り付けたものである。
【0019】被計量物20は、上流側の取込用コンベヤ40から計量コンベヤ10へ搬送され、計量コンベヤ10上をX方向に移動しながら1対の計量セル1,2によって計量される。すなわち、両計量セル1,2からは、図2に示すように、被計量物20の移動とともに変化する計量信号W1,W2が出力され、これら両計量信号W1,W2の加算値W1+W2から、被計量物20の重量が求められる。このとき、主として取込用コンベヤ40から計量コンベヤ10への乗り移り時の衝撃を受けて、計量コンベヤ10を支持する計量セル1,2に機械振動(計量系振動)が発生する(図示101)。
【0020】図3に示すように、上記各計量セル1,2は、その固定端1a,2aと自由端1b,2bとを結ぶ軸線1c,2cが被計量物の移送方向Xと直交するように配置されており、固定端1a,2aが固定具3,4を介して片持ち梁状に床Fとなる基台5に固定され、また自由端1b,2bには、固定具6,7を介してアーム8,9が水平に固定されている。
【0021】11,12,13,14は、計量台支持具で、上記各アーム8,9の複数個所、この実施例では両端2カ所に固定するボルト11a,12a,13a,14aに、円錐形の先細金具11b,12b,13b,14bを固定して構成され、これら先細金具11b〜14bにより、上記受け台15の四隅を点支持している。
【0022】上記移送方向Xにおける計量セル1の近傍には床振動検出セル161 が配置され、計量セル2の近傍にも床振動検出セル162 が配置されている。この床振動検出セル161 ,162 は、上記各計量セル1,2と同様に、その一端が固定具171 ,172 を介して計量セル1,2と同一の基台5(床F)に固定されているとともに、他端に重り181 ,182 が固定されている。
【0023】図4(A)は上記構成の多点セル型計量装置におけるCPU(マイクロプロセッサ)25を含む信号処理部の構成図を、図4(B)はCPU25の構成図を示す。図4(A)において、計量セル1,2により計測された計量信号は増幅器22で増幅され、床振動検出セル161 ,162 により計測された床振動検出信号は増幅器23で増幅された後、それぞれマルチプレクサ24に入力される。マルチプレクサ24は、CPU25からの制御信号cを受けて切り換え作動し、各信号を選択的にA/D変換器26に出力する。このA/D変換器26で各信号をディジタル変換して、計量セル1,2からは計量信号W1,W2が、床振動検出セル161 ,162 からは床振動検出信号Y1,Y2が出力し、例えば、DSP(Digital Signal Processor)のようなCPU25に入力される。以下、CPU25の処理を説明する。
【0024】まず、図4(B)において、CPU25は、各信号W1,W2,Y1,Y2に遮断周波数10Hz〜20Hz以上のローパスフィルタ特性を有するディジタルフィルタリング手段28によりフィルタリング処理を行う。このフィルタリング処理には、例えば、周知のたたみ込み演算が用いられる。この結果、各信号W1,W2,Y1,Y2から上記の計量系振動を低減して、フィルタ済信号FW1,FW2,FY1,FY2を出力する。
【0025】次に、CPU25は、これらフィルタ済信号FW1,FW2,FY1,FY2に感度補償手段52により感度補償処理を行う。この感度補償手段52は、感度算出手段54と感度補正手段56とを備えている。感度算出手段54は、計量セル1(2)と床振動検出セル161 (162 )とのばね定数および負荷重量(風袋を含む)の相違に基づいて、計量セル1と床振動検出セル161 との出力感度比、および計量セル2と床振動検出セル162 との出力感度比を算出する。感度補正手段56は、算出された出力感度比に基づいて、床振動検出セル161 (162 )からのフィルタ済信号FY1,FY2を補正して感度補正信号SY1,SY2を出力する。
【0026】なお、計量セル1(2)と床振動検出セル161 (162 )間の出力感度比が予めわかっている場合には、その出力感度比に基づいてフィルタ済信号FY1,FY2を補正すればよい。また、この実施例では算出された出力感度比に基づいて、床振動検出セルのフィルタ済信号FY1,FY2を補正しているが、計量セルのフィルタ済信号FW1,FW2を補正してもよい。
【0027】次に、CPU25は、計量セル1のフィルタ済信号FW1と床振動検出セル161 の感度補正計量信号SY1とについて床振動補償手段42により減算処理を行い、FW1−SY1=V1の演算により、計量セル1が設置された位置の上下方向の変位である床振動を補正した床振動補正済信号V1を出力する。また、計量セル2のフィルタ済信号FW2と床振動検出セル162 の感度補正計量信号SY2とについて床振動補償手段44により減算処理を行い、FW2−SY2=V2の演算により、計量セル2が設置された位置の上下方向の変位である床振動を補正した床振動補正済信号V2を出力する。これにより、床振動に起因する計量信号の誤差が補償された床振動補正済信号V1,V2が得られる。
【0028】ここで、上記のように、複数の計量セルを用いる場合、計量セル1,2間でその出力感度や増幅器22,23のゲインが異なるため、各計量セル1,2の出力感度を一定に合わせる(スパン調整)必要がある。このため、この装置の工場出荷時または据え付けの際に、スパン調整手段60により計量セル1,2間の出力感度比を補正する処理を行う。スパン調整手段60は、感度算出手段62,感度補正手段64,およびモード切換手段68を備えている。モード切換手段68は、外部指令に基づいて通常の計量モードと出力感度比算出モードとに切り換える。この図において、ソフトウエア上の切換スイッチ63が実線のとき通常の計量モードであり、点線のとき出力感度比算出モードである。一般に、装置の工場出荷時または据え付けの際に出力感度比算出モードに切り換えて出力感度比を算出した後は、通常の計量モードに切り換えられたままになる。以下、出力感度比算出モードにおける感度算出手段62の動作を説明する。
【0029】まず、図3の計量台15の任意の箇所に重量Wの分銅50が載置されたとき、床振動補正済信号V1,V2からの出力変化分ΔVA1, ΔVB1と、未知数である各計量セル1,2の出力感度SA,SB とにより、 SA ×ΔVA1+SB ×ΔVB1= W (1)
なる関係式を作成する。
【0030】また、他の位置に同一重量Wの分銅が載置されたときの床振動補正済信号V1,V2からの出力変化分ΔVA2, ΔVB2により、同様に、 SA ×ΔVA2+SB ×ΔVB2= W (2)
なる関係を得る。こうして、分銅の載置箇所の数だけの方程式、つまり、2つの方程式(1),(2)が作成される。つづいて、上記2つの方程式(1)(2)から、計量セル1,2間の出力感度比SABを、 SAB=SB /SA =−(ΔVA1−ΔVA2)/(ΔVB1−ΔVB2) (3)
として演算する。
【0031】これより、各計量セル1,2の出力感度SA,SB はそれぞれ SA =W/(ΔVA1+SAB×ΔVB1) (4)
SB =SAB×SA (5)
として求まる。この計量セル1,2間の出力感度比SABは、CPU25に内蔵する不揮発性のメモリ66に記憶される。
【0032】次に、出力感度比算出モードから通常の計量モードに切り換えた後に、このメモリ66に記憶された出力感度比SABを用いて感度補正手段64により感度補正処理を行う。すなわち、通常の計量モードにおいて、床振動補正済信号V1,V2にこの出力感度比SABを感度比補正係数として乗算することにより、感度補正処理を行い感度補正信号DV1,DV2を出力する。これにより、床振動補正済信号V1,V2は、複数の計量セル間の出力感度に応じて補正される。
【0033】なお、この実施例では2つの計量セル1,2を使用したが、一般にN個(N≧2)の計量セルで計量台を支持した場合においては、上記方程式(1),(2)は、(6)式のようにマトリクス表現することができる。
【0034】
【数1】


【0035】ここで、ΔVjkは荷重位置がk 回目のときの計量セルjの出力変化分、Sj は計量セルjの出力感度、Wは分銅重量(負荷荷重)である。したがって、(6)式は、 VS = W (6A)
と表されるから、この(6A)式より、 V-1VS = V-1W S = V-1W (7)
となり、各計量セルの出力感度が求まることになる。このとき、N個の独立した連立方程式を得るため、計量台上の異なる位置に分銅をN回載荷しなければならない。
【0036】なお、通常の計量モードにおいては、図1の計量台15の任意の位置に被計量物20を載置すると、計量台15は、重心位置に対応して按分された荷重を各計量セル1,2に負荷すると共に、傾きや歪みを生じる。しかしながら、計量台15は、支持具11ないし14の先細金具11bないし14bにより点支持されているので、垂直方向の荷重はそのまま計量セル1,2に伝達するが、水平方向の成分は先細金具11bないし14bとの間で滑りにより変位して逃され、また回転方向は点支持であるため拘束を受けないから、結局垂直成分だけを受けることになる。このため、計量セル1,2からは、被計量物20の重量を被計量物20の重心位置と各計量セル1,2までの距離で按分した重量信号が出力する。
【0037】図5は、計量台支持具69の実施例を示すもので、ゴムのような弾性部材70の両端に、計量セル側のアーム8,9と計量台15のそれぞれに固定されるボルトのような固定具71,72を取り付けて構成されている。この支持具69を用いれば、計量台15自身の変形による傾きや、荷重負荷の位置の違いによるロードセルや弾性部材70自身の変形量の違いから生じる計量台15の傾きは、弾性部材70の変形により吸収されるため、計量セルには垂直方向成分だけが伝達されることになり、計量台15の傾きによる誤差が生じない。したがって、被計量物の載置位置に関わりなく、極めて正確な計量値を得ることができる。また、支持具69を防振ゴムや制振合金により構成することにより、外部からの振動を支持具により吸収して、振動による誤差の発生を防止することができる。
【0038】次に、CPU25は、図1において、感度補正手段64により感度補正処理された感度補正信号DV1,DV2を、各計量セル1,2に負荷された分担荷重データとして加算手段46により加算処理を行う。そして、この加算処理した原加算計量信号BWを安定化演算手段36により安定化演算して加算計量信号AWを出力する。こうして、低周波数の床振動成分が低減され、かつ、計量セル1、2間の出力感度に応じて補正されて、安定した出力データが高速に得られることになる。いうまでもなく各計量セル1,2に負荷される分担荷重は、被計量物20の荷重を按分したものであるから、各計量セル1,2の上記分担荷重データの和は、被計量物20の重量を表すことになる。これにより、被計量物20の載置位置に関わりなく、正確な計量値を得ることができる。
【0039】こうして得られた計量値に基づいて、表示部(図示せず)により重量表示が行なわれ、また、プリンタ(図示せず)により重量データなどの印刷が行なわれる。このようにして、移動する被計量物20について、複数の計量セル1,2による高精度かつ高速の計量を実現することができる。
【0040】なお、この実施例では、ディジタルフィルタリング手段28を各計量信号を加算手段46により加算処理する前に設けているが、加算処理した後であってもよい。
【0041】なお、この実施例では、単一のA/D変換器26を用いているが、計量セルおよび床振動検出セル数に応じた複数のA/D変換器26を用いてもよい。
【0042】また、この実施例では、床振動補正後の床振動補正済信号V1,V2について感度補正手段64により感度補正処理を行っているが、床振動補正前の計量信号について行ってもよい。
【0043】次に、第2実施例についての説明に移る。この多点セル型計量装置においては、同装置が設置された床の振動モードを算出することにより床振動補正を行う。以下、まず、この床の振動モードについて説明する。
【0044】この多点セル型計量装置において使用する計量セル1(2)および床振動検出セル16(以下「ロードセル」という)のモデルを図6に示す。このタイプのロードセル1(2,16)は、4箇所のノッチ部51のそれぞれに張り付けられた歪ゲージ53によって、ロードセル1の変形状態を歪量として検出するものである。さらに、これら4枚の歪ゲージ53はホイートストンブリッジを構成しており、ロードセル1が破線で示すようにロバーバル(平行四辺形)状態に変形した場合のみ出力が変化し、それ以外の変形状態では、出力は変化しないようになっている。したがって、ロードセル1の固定端1aと自由端1b(荷重側)の相対変位の内、ロバーバル変形の成分のみが検出されるから、各モードの床振動状態に対し、垂直方向成分のみを考慮すればよいことがわかる。
【0045】いま、図7に示すように、XY平面上の点(x,y)の位置にロードセル1が固定されているとする。XY平面の挙動は、X軸回りの回転、Y軸回りの回転、およびXY平面に垂直な軸(Z軸)方向の運動から成る。それ以外の運動は、ここで使用するロードセル1では検出しないので、ここでは論じない。
【0046】ここで、X軸回りの回転運動で生じる垂直(Z軸)方向成分の運動をB(t)、Y軸回りの回転運動で生じる垂直(Z軸)方向成分の運動をA(t)、Z軸方向の運動をC(t)とすると、点Pの位置でのロードセルの出力信号の内、床の振動の成分Vp(t)は、 Vp(t)=x・A(t)+y・B(t)+C(t) (8)
となる。
【0047】ところで、上記の床の振動モードは、式(8)におけるA(t)、B(t)、C(t)を求めればよいので、これを求めるためには、一直線上にない3点で床の運動を検出する、すなわち、3元一次連立方程式を解けばよい。実際には、各計量器の出力には誤差を含んでいるため、3点以上の位置で検出し、最小自乗法等を用いてA(t)、B(t)、C(t)を求めるのがよい。
【0048】このように、床の振動モードを検出し、任意の位置の計量セルの振動成分を低減させる方式を床振動低減方式(多点AFV(Anti- Floor Vibration)方式)という。計量セルが床上に平面的、つまり2次元的に配置されている場合、床上で直線上にない3点以上の位置の床振動を床振動検出セルにより検出し、それら検出された振動から、任意の計量セルが設置されている位置の床振動成分を求めて、その位置に設置された計量セルの出力から床振動成分を差し引く。他方、計量セルが床上に直線的、つまり1次元的に配置されている場合、計量セル同士を結ぶ直線上の2点以上の位置の床振動を床振動検出セルにより検出し、それら検出された振動から、上記の平面配置の場合と同様に、任意の計量セルが設置されている位置の床振動成分を求めて、その位置に設置された計量セルの出力から床振動成分を差し引く。また、全体的に配置されている場合も同様である。
【0049】上記のような床の振動モードを用いる第2実施例の多点セル型計量装置を、図8(A)の信号処理部の構成図に示す。この装置は、複数の計量セル1〜m、複数の床振動検出セル161 〜16n 、増幅器22,23、マルチプレクサ24、A/D変換器26、およびCPU25を備えている。この装置のCPU25は、図8(B)の構成図に示すように、床振動補償手段80は、床振動補正手段82および床振動算出手段84を備えている。この床振動算出手段84は、床振動モードを算出する床振動モード算出手段と、この算出された床振動モードに基づいて計量セル座標の床振動を算出する座標床振動算出手段とを備えている。その他の構成は、図4の第1実施例の構成と同様であるので、その説明を省略する。
【0050】上記第1実施例では、床振動検出セル161 ,162 の設置場所が計量セル1,2の近傍に制約されていたが、この実施例においては、床振動検出セル161〜16n の位置は、計量セル1〜mと同一の床F上であれば任意であり、各計量セル1〜mから離れていてもよい。これにより、計量装置の構造の自由度を増すことができる。以下、この計量装置の動作を説明する。
【0051】まず、計量セル1〜mにより計測された計量信号は増幅器22で増幅され、床振動検出セル161 〜16n により計測された床振動検出信号は増幅器23で増幅された後、上記と同様にマルチプレクサ24を介してA/D変換器24でディジタル変換され、計量セル1〜mからは計量信号W1〜Wmが、床振動検出セル161 〜16n からは床振動検出信号Y1〜YnがCPU25に入力される。CPU25は、これらの信号W1〜Wm,Y1〜Ynにディジタルフィルタリング手段28によりフィルタリング処理を行い、フィルタ済信号FW1〜FWm,FY1〜FYnを出力する。
【0052】床振動算出手段84は、床振動モード算出手段がフィルタ済信号FY1〜FYnの振動成分に基づいて式(8)の振動成分Vp(t)を算出し、床の振動モードを算出する床振動モード算出処理を行い、次に、座標床振動算出手段がこの算出された床振動モードに基づいて計量セル1〜mが設置された座標位置での床の上下方向の変位信号M1〜Mmを算出する座標床振動算出処理を行う。この変位信号M1〜Mmに感度補償手段52により感度補償処理を行って、感度補償された床の上下方向の変位信号S1〜Smを出力する。
【0053】床振動補正手段82は、上記床の振動モードに基づいて算出された上下方向の変位信号S1〜Smにより、計量セル1〜Nから出力されるフィルタ済信号FW1〜FWmをそれぞれ各別に補正して、すなわち、各フィルタ済信号FW1〜FWnによる重量値から上下方向の変位信号S1〜Smによる変位量を減算することで、各フィルタ済信号FW1〜FWmのそれぞれについて、床振動分を除去した床振動補正済信号V1〜Vmを生成する。
【0054】以上のように、計量セル1〜mと同一の床に設置された複数の床振動検出セル161 〜16n から出力される床振動検出信号Y1〜Ynの振動成分に基づいて床の振動モードを検出することにより、床における計量セル1〜Nが設置された位置の上下方向の変位を算出し、その算出した変位を各計量信号W1〜Wmから減算(キャンセル)することによって、床振動による影響を低減した床振動補正済信号V1〜Vmを出力する。ここで、この実施例では、低減補正の演算をディジタルで行っているので、個々の部品や素子の特性にばらつきがあるアナログ回路を用いる場合と比較して、精度の高い補正を行うことができる。
【0055】上記の床の振動モードの一例を図9に示す。この例では、床F上の3点の床振動検出セル161 〜163 により振動モードを検出しており、この振動モード(斜線部の面103の傾き)に基づいて、床Fの座標上において各計量セル1〜mが置かれる位置での床振動が算出される。
【0056】なお、床振動が少なかった場合には、計算誤差などにより床振動補正することで却って計量精度が低下することがある。そこで、振動検出用の床振動検出セル出力の振動成分が一定基準以下であれば、自動的に床振動補正を停止して、精度の劣化を防ぐ。
【0057】なお、この実施例では、単一のA/D変換器26を用いているが、計量セルおよび床振動検出セル数に応じた複数のA/D変換器26を用いてもよい。
【0058】また、ディジタルフィルタリング手段28の代わり、またはこれと共に、アナログフィルタを使用してもよく、その場合、図8の仮想線で示す位置にアナログフィルタ39が接続される。
【0059】次に、第3実施例について説明する。図10R>0に、第3実施例による多点セル型計量装置の要部を示す斜視図を示す。この実施例においては、複数(この例では2つ)の計量セル1,2間の被計量物20を計量する任意位置に単一の床振動検出セル16が配置されている。
【0060】図11に、上記構成の多点セル型計量装置における信号処理部の構成図を示す。図11(A)において、計量セル1,2により計測された計量信号は増幅器22で増幅され、単一の床振動検出セル16により計測されたアナログ床振動検出信号は増幅器22で増幅された後、上記と同様にマルチプレクサ24を介してA/D変換器26でディジタル変換され、計量セル1,2からは計量信号W1,W2が、床振動検出セル16からは床振動検出信号YがCPU25に入力される。図11(B)において、CPU25は、これらの信号W1,W2,Yにディジタルフィルタリング手段28によりフィルタリング処理を行い、フィルタ済信号FW1,FW2,FYを出力する。
【0061】次に、CPU25は、これらフィルタ済信号FW1,FW2,FYに対して感度補償手段52により感度補償処理を行う。そして、感度補償されたフィルタ済信号FW1とFW2とを、スパン調整手段60により計量セル1,2間の感度補正処理をした後、加算手段46により加算処理を行って信号TWを出力する。次に、この加算処理された信号TWと感度補償されたフィルタ済信号FYとについて床振動補償手段48により減算処理を行い、原加算計量信号BWを出力し、その後、上記と同様に安定演算を行って加算計量信号AWを出力する。こうして、計量セル1(2)と床振動検出セル16との間で感度補償され、床振動成分が低減され、かつ、計量セル1、2間の出力感度比に応じて補正された安定した出力データが得られる。
【0062】図12に、図11の配置を示す模式図を示す。以下、この図を用いてフィルタ済信号FW1,FW2,FYに対して感度補償処理を行う感度算出手段54と感度補正手段56とからなる感度補償手段52の動作を詳細に説明する。
【0063】まず、感度算出手段54の動作を説明する。計量コンベヤ10の重心をMG 、計量セル1,2に負荷される重量をM1 ,M2 とし、さらにLを計量コンベヤ10の長さ、m,nを重心MG の位置、x,yを被計量物20の位置、a,bを床振動検出セル16の位置とすると、モ−メント計算により次式が成立する。
1 =(yM+nMG )/L M2 =(xM+mMG )/L (9)
【0064】いま、各セルのばね定数をk1 ,k2 ,k16とし、床振動検出セル16の重り18をM16とすると、床振動検出セル16を基準にした床振動に対する各計量セルの出力感度比α1 、α2 は、α1 =M1 16/M161α2 =M2 16/M162である。ただし、床振動検出セル16で検出する床振動の周波数は各セル系の固有振動数より十分低く、従って、出力感度比は固有振動による影響を受けないものとする。
【0065】この算出された出力感度比α1 、α2 に基づいて、感度補正手段56により、フィルタ済信号FW1,FW2,FYについて感度補正処理を行う。つまり、各計量セルの床振動による出力をZ1 ,Z2 とすると、Z1 ,Z2 から求めた床振動検出セル16の位置における床振動検出セル16の出力感度での床振動分Z16(フィルタ済信号FY1の出力値)は、 Z16=(b・Z1 /α1 +a・Z2 /α2 )/L =b・(M161 /(yM+nMG )k16)・Z1 +a・(M162 /(xM+mMG )k16)・Z2 (10)
となる。
【0066】ところで、被計量物20が負荷されたときの各計量セル1,2のフィルタ済計量信号FW1,FW2の出力値O1 ,O2 は、負荷重量と床振動分との合計であるから、次式が成立する。
1 =(yM+nMG )/L+Z1 2 =(xM+mMG )/L+Z2 (11)
【0067】一方、(10)式において、被計量物20の重量MG を床振動に対する計量セル1,2の出力の条件に加えた場合に、床振動検出セル16の位置、計量コンベヤ10の重心位置および被計量物20の位置が同じとき(b=y=n,a=x=m)、および、計量セル1,2のばね定数が等しいとき(k1 =k2 =k)、次式が成立する。
16=(M16k/(M+MG )k16)・(Z1 +Z2 ) (12)
【0068】計量セル1,2の出力O1 ,O2 を加算したものが計量機の出力Oであるので、(9),(11)式から、O=O1 +O2=M+MG +Z1 +Z2となる。この式と、(12)式により求められる(Z1 +Z2 )とにより、被計量物20の重量Mは次のように求められる。
M=O−(MG +((M+MG )k16/M16k)・Z16
このように、被計量物20の重量Mは簡単な計算で求められ、高速な計量が可能となる。また、単一の床振動検出セル16を配置しているので、装置の構造が簡単になる。
【0069】なお、上記各実施例では、被計量物20が計量コンベヤ10上を搬送される間に計量していたが、この発明は被計量物20を計量台上に静止させて計量する装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例に係る多点セル型計量装置の概略を示す側面図を示す図である。
【図2】上記の多点セル型計量装置における計量信号を示す信号波形図である。
【図3】上記の多点セル型計量装置の要部を示す斜視図である。
【図4】上記の多点セル型計量装置の信号処理部を示す構成図である。
【図5】計量台支持具の変形例を示す断面図である。
【図6】AFV技術の理論を説明するロードセルのモデルを示す図である。
【図7】同ロードセルの配置を示す図である。
【図8】第2実施例による多点セル型計量装置の信号処理部を示す構成図である。
【図9】上記の多点セル型計量装置の設置場所の床振動モードを示す図である。
【図10】第3実施例による多点セル型計量装置の要部を示す斜視図である。
【図11】上記の多点セル型計量装置の信号処理部を示す構成図である。
【図12】上記の多点セル型計量装置の配置を示す模式図である。
【図13】従来の多点セル型計量装置の構成を示す図である。
【図14】振動モデルを示す図である。
【図15】床振動が加わった場合の振動モデルを示す図である。
【符号の説明】
1,2…計量セル、10…計量台(計量コンベヤ)、161 ,162 …床振動検出セル、42,44…床振動補償手段、62…感度算出手段、64…感度補正手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 計量台を複数の計量セルにより支持して各計量セルからの計量信号を加算した加算信号により上記計量台の負荷荷重を求める多点セル型計量装置であって、上記各計量セルと同一の床に設置されて床振動を検出する床振動検出セルと、上記床振動検出セルから出力される床振動検出信号の振動成分によって上記計量信号または加算信号を補正することにより、床振動に起因する計量信号の誤差を補償した床振動補正済信号を出力する床振動補償手段と、上記計量台における上記計量セルの数以上の異なる箇所に順次分銅を載置したときの各計量セルの出力値から各計量セル間の出力感度比を求める感度算出手段と、求めたそれぞれの出力感度比に基づいて、上記計量信号を補正する感度補正手段とを備えている多点セル型計量装置。
【請求項2】 請求項1において、床振動検出セルは、各計量セルの近傍に1つずつ配置されている多点セル型計量装置。
【請求項3】 請求項1において、床振動検出セルは、複数配置され、床振動補償手段は、上記複数の床振動検出セルから出力される床振動検出信号の振動成分に基づいて床の振動モードを検出し、計量セルが設置された位置の床の上下方向の変位を算出する床振動算出手段と、算出された変位により上記計量信号から床振動の成分を除去した振動補正済信号を生成する床振動補正手段とを備えている多点セル型計量装置。
【請求項4】 請求項1において、床振動検出セルは単一であり、かつ、各計量セルの間に配置されている多点セル型計量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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【図15】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開平7−209066
【公開日】平成7年(1995)8月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−293744
【出願日】平成6年(1994)11月1日
【出願人】(000147833)株式会社イシダ (859)