説明

多焦点X線位相コントラスト・イメージング・システム

【課題】複数のX線エミッタを有する位相コントラスト・イメージング・システム及び方法を提供する。
【解決手段】イメージング対象物を通って検出器へX線を送出する複数のX線エミッタを含む。隣り合うX線エミッタは、相異なる時間に作動して、検出器に衝突するX線の混同を避けることができる。各X線エミッタは独立に動作させて、全体の患者線量を減じるために異なる線束出力を供給させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影イメージング・システム及び方法に関し、より詳しくは、軟部組織をイメージングすることのできるX線撮影イメージング・システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線撮影法は、患者又は対象物にX線放射線を照射して、その内部構造の画像を(フィルム又はディジタル媒体上に)生成するイメージング(画像作成)手法である。通常のX線撮影法は、同様な減衰係数を持つ軟部組織を区別する有用性に制限があり、従って、この種類の組織のイメージングには余り適していない。具体的に述べると、この効果は、様々な軟部組織の種類についてのエネルギ依存性の質量減衰係数の差異が僅かであるためである。これらの差異は、X線エネルギが高くなると小さくなり、従って、これらの差異を正確に測定することは困難になる。
【0003】
X線と物質との相互作用の数学的モデルでは、複素屈折率として知られている構成要素を利用し、これは、X線放射線屈折特性をモデル化する実数成分と、X線放射線吸収特性をモデル化する虚数成分とを有する。物質の種類、厚さ、及び照射されたX線放射線のスペクトルに依存して、複素屈折率の屈折成分は、通常の吸収イメージング法よりも、様々なX線エネルギにおける組織の特性の僅かな差異を識別するための多量の且つ良好な情報を提供することができる。通常のX線撮影法は、骨と組織との間の場合のような、X線吸収特性の大きな差異に感応する。例えば、頭部のX線画像は頭蓋骨を明瞭に現し、これは頭蓋骨が多量の放射線を吸収するからである。しかしながら、該画像は内部の脳構造の大部分を明瞭に現していず、脳構造はX線画像上で比較的特徴のない領域として表される。X線の吸収に基づいた通常のX線撮影法と異なり、位相感応(phase sensitive) イメージングは、筋肉及び腱のような様々な種類の軟部組織を全て高いコントラストで区別する潜在能力を持つ。
【0004】
位相感応イメージングでは軟部組織がより高いコントラストで見出されるので、被走査容積内のイメージング対象の特徴部(腫瘍組織の存在のような任意の組織の異常を含む)をより明瞭に区別することができる。従って、位相感応イメージングは、例えば、早期の腫瘍の大きさ及び位置を現して、それにより医師が(薬物治療、針生検、及び放射線治療の適切な線量の内の1つ以上を含む)適切な処置を行えるようにする潜在能力を持つ。
【0005】
物質の複素屈折率の実数成分(屈折成分)が1に近いので、それは典型的には1−δで表され、ここで、δは1からの差である。周期律表中のほぼ全ての元素では、δは虚数部βよりも大きい、ここで、複素屈折率nはn=1−δ−iβと定義される。胸部組織についてのデータを図1に示す。「Phys.Med.Biol.」誌、第49巻(2004年)、3573〜3583頁に所載のLewis等による論文「Medical phase contrast X-ray imaging: current status and future prospects(医用位相コントラストX線イメージング:現況と将来の展望)」を参照されたい。図1で、X線光子エネルギが診断用医用イメージングに典型的に用いられる20〜150KeVの範囲にある場合、δは虚数部βよりも103 〜105 倍大きい。δとβとの比が大きいと、その結果として画像中のコントラストが有意に高くなるであろうと仮定したくなるが、βが信号吸収項であることに気付くべきである。従って、画像中に提供される組織のコントラストは、イメージング対象の組織の種類、組織の厚さ、及び照射されるX線放射線のスペクトルに左右される。δとβとの間の大きな差は、20KeV〜150KeVのエネルギ・スペクトル範囲にわたって、(例えば、胸部組織を含む)殆どの物質について当てはまる。従って、位相感応イメージング法は、エネルギ減衰に基づくイメージング法よりも軟部組織に対する感度を大きくすることができる。位相感応イメージング法が標準的な減衰に基づくイメージング法に対して相補的な情報を検出し且つ軟部組織のコントラストをより高くすることができるので、位相感応イメージングは人に対するX線照射線量を低くする機会を与えることができる。
【0006】
減衰と屈折とにそれぞれ起因したX線の吸収量及び位相シフトの両方を同時に測定することが可能である。可視光及び全ての電磁放射線と同様に、X線は粒子及び波の両方の性質を持つと見なすことができる。通常の吸収に基づくX線撮影法では、どの程度までX線が解剖学的構造を投下したか又はしなかったかを記録する。位相感応イメージングは、X線波面が、対象物の屈折特性に起因して、対象物を通過する際にその最初の位置に対してどの程度まで変更されたかを測定する。この位相シフトは、それが放射線を屈折させる組織の性質に依存して変わるので、非常に判明し易い。他方、通常のX線撮影法では、X線 の位相シフトに殆ど感応せず、従って、異なる検出法が必要である。
【0007】
位相コントラスト・イメージング(PCI)はX線放射線を用いてフィルム又はディジタル媒体上に画像を作成し、これによってイメージング対象物又は組織の屈折特性を可視化する処理法である。当業者に知られているように、伝播に基づく方法、干渉法、回折増強イメージング法、及びX線微分位相コントラスト・イメージング法のような、幾つかの位相感応イメージング法が開発されている。このようなPCI法は、例えば、マンモグラフィ(X線乳房撮影法)のような医用診断用イメージング技術において有用である。
【0008】
図2及び図3は、既知のPCIシステム10を概略表示する。PCIシステム10は、幅wを持つ潜在的にインコヒーレント(非干渉性)のX線源15を含み、X線源15は、X線放射線17を対象物20に送出する。X線放射線17は対象物20を通ってイメージング検出器25へ伝播する。フィルム利用PCIシステムの場合、イメージング検出器25は、フィルムを処理するプロセッサと通信する。ディジタルPCIシステムの場合、イメージング検出器25は、該イメージング検出器25で得られたデータを処理して、対象 物20の関心のある領域の画像を作成するプロセッサと通信する。
【0009】
X線源からのX線は一部が吸収性格子30を透過する。吸収性格子30は、それぞれシリコン及び金のような(複数の線(line)又は罫(ruling)として表される)低減衰及び高減衰材料の交互のパターンで形成することができる。各々の高減衰材料(個々の線又は罫)の厚さは、入射X線を吸収するのに充分な厚さとする。吸収性格子30の使用により、擬似コヒーレント波面の電磁放射線を発生する機構が提供され、これによって、シンクロト ロンの代わりに標準的なX線源を使用することが可能になる。
【0010】
吸収性格子30は、個別にはコヒーレントであるが相互にはインコヒーレントである二次X線源の配列体を生成する。X線源15自体がコヒーレントであるように、一次X線源15の幅wが充分小さい場合、吸収性格子30はシステム10から除去することができる。対象物20とのX線17の衝突により、コヒーレントな小群のX線17の各々が僅かな屈折αを生じる。屈折量は、対象物20の局部的な微分位相勾配に比例する。屈折αから生じる透過X線の小さな角度偏向の結果、格子35及び40の組合せを通る局部的透過強度に変化が生じる。格子35は、大きな位相シフトを生じさせながら低い減衰特性を持つシリコン又はニッケルなどの材料を有する個別の線又は罫で形成された非吸収性位相格子である。代替の形態では、格子35は吸収性格子である。格子35は、図には対象物と格子40との間に配置されるものとして示されているが、格子30と対象物20との間に配置することができる。格子40は、シリコン及び金のような低減衰及び高減衰材料の交互のパターンを有する個別の格子要素で形成された吸収性格子である。この格子は、格子要素の反復ステッピング(歩進操作)と検出器信号の測定とによって比較的粗い分解能を持つ検出器を利用して位相コントラスト信号のサンプリングを改善することができる。検出器が位相コントラスト信号を完全に分解することができる場合、格子40はシステム10から除去することができ、その結果、測定手順において段階的手順は必要とされない。
【0011】
格子30から格子35までの距離は「l(エル)]であり、また格子35から格子40までの距離は「d」である。吸収性格子30の1つの高減衰の線又は罫の中点から隣の高減衰の線又は罫の中点までの測定値は、格子ピッチP0 である。非吸収性格子35の格子 ピッチはP1 であり、また吸収性格子40の格子ピッチはP2 である。
【0012】
検出器25で対象物20の高品質の画像を得るため、コヒーレントな小群のX線17の各々が検出器25における画像形成プロセスに積極的に寄与することが必要である。その ためには、システム10の幾何学的構成は、次式を満たすべきである。すなわち、
0 =P2 ×l(エル)/d 。
【0013】
PCIシステム10の1つの欠点は、その大きさである。実際の格子及び検出器は形状が平面状であるので、好ましいX線ビームは平面波である。平面波は、通常のX線管15を対象物から比較的離れた距離に配置することによって、近似させることができる、典型的な線源−検出器間の距離は約150〜約200センチメータ(cm)とすることができる。このような距離は、従来のマンモグラフィ・システムに見られる典型的な距離である約65cmの線源−対象物間距離よりもかなり長い。PCIシステム10の別の欠点は、診断用医用イメージングに実際に使用するためには、視野(FOV;field-of-view )が制限されていることである。PCIシステム10のFOVは、幅が約5〜6cmで、高さが約2cmである。
【0014】
そこで、位相コントラスト・イメージング・システム及び方法を改善することが望ましい。このようなPCIシステムの改善は、システムの全体の大きさを減じると共に、既知 のPCIシステムのイメージング視野を増大させることが望ましい。
【発明の概要】
【0015】
本発明の一実施形態では、複数のX線エミッタを持つ位相コントラスト・イメージング・システムを提供する。
【0016】
本発明の一態様では、位相コントラスト・イメージング・システムを提供し、該システムは、検出器を含むと共に、イメージング対象物と検出器との間又は複数のX線エミッタとイメージング対象物との間に配置された非吸収性格子を含む。
【0017】
本発明の一実施形態では、複数のX線エミッタから対象物を通って検出器へX線を送出することを含む、対象物の位相コントラスト・イメージング方法を提供する。
【0018】
本発明の一態様では、位相コントラスト・イメージング方法を提供し、該方法は、随意選択により第1の吸収性格子を通って対象物へX線を送出する段階と、対象物を通ってX線を伝播させる段階と、中央の非吸収性又は吸収性格子を通って、また随意選択により第2の吸収性格子を通って検出器へX線を伝送させる段階とを含む。
【0019】
本発明のこれらの及び他の特徴、態様及び利点は、添付の図面と共に以下の記載を考察すると、更によく理解及び/又は説明できよう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、エネルギに対して複素屈折率の実数部及び虚数部のパラメータをプロットしたグラフである。「Phys.Med.Biol.」誌、第49巻(2004年)、3573〜3583頁に所載のLewis等による論文「Medical phase contrast X-ray imaging: current status and future prospects(医用位相コントラストX線イメージング:現況と将来の展望)」を参照。
【図2】図2は、既知の位相コントラスト・イメージング・システムの概略図である。「Nature Physics」誌、第2巻(2006年)、258〜261頁に所載のPfeiffer等による論文「Phase retrieval and differential phase contrast imaging with low-brilliance X-ray sources (低照度X線源を用いた位相回復及び微 分位相コントラスト・イメージング)」を参照。
【図3】図3は、図2の位相コントラスト・イメージング・システムの概略上面図である。「Nature Physics」誌、第2巻(2006年)、258〜261頁に所載のPfeiffer等による論文「Phase retrieval and differential phase contrast imaging with low-brilliance X-ray sources (低照度X線源を用いた位相回復及び微分位相コントラスト・イメージング)」を参照。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に従った位相コントラスト・イメージング・システムの概略上面図である。
【図5】図5は、平均腺線量に対して画像スコアをプロットしたグラフである。
【図6】図6は、動作エネルギに対して放射線エネルギの吸収量及び照射量をプロットしたグラフである。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に従った対象物の位相コントラスト・イメージングのためのプロセスを例示する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書では、本発明の実施形態及び態様をより明確にするため及び当業者がその製造を行い易くするために或る特定の定義及び方法を提供する。特定の用語又は語句についての定義を提供すること(又は提供しないこと)は、何らかの特別な重要性があること(又は、何ら重要でないこと)を意味するものではなく、むしろ、特に別段に明記しない限り、用語は、関連技術分野における当業者による通常の使用法に従って解釈されるべきである。
【0022】
特に別段に定義しない限り、本書で用いられる技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を持つ。本書で用いられる「第1」、「第2」などの用語の使用は何らかの順序や品質や重要性を表しているものではなく、むしろ一要素を別の要素から区別するために用いている。また、「或る」などの数を特記していない用語は量を制限するものではなく、むしろ記載した項目が少なくとも1つ存在していることを表す。また、「前」、「後」、「上」、「下」などの用語は、特に別段に明記しない限り、単に説明の便宜のために用いているに過ぎず、何らかの位置又は空間的配向に制限されない。範囲について述べている場合、同じ構成要素又は特性を対象とする全ての範囲の端点が含まれていて、独立に組み合わせ可能である(例えば、「最大で約25重量%まで、又は、より具体的には、約5重量%〜約20重量%」の範囲は、「約5重量%〜約25重量%」の両端の値とそれらの中間の全ての値を含む)。
【0023】
量に関して用いられる修飾語「約」は、その記載した値を含むと共に、記載の前後関係で決定される意味を持つ(例えば、特定の量の測定値に関連した誤差の程度を含む)。明細書全体を通じて「一実施態様」、「別の実施形態」、「実施形態」などと云う場合、これは、その実施形態に関連して記載した特定の要素(例えば、特徴、構造、及び/又は特性)が、本書で述べた少なくとも1つの実施形態に含まれていて、他の実施形態に存在すること又は存在しないことがあることを意味する。更に、記述した本発明の種々の特徴が、様々な実施形態において任意の適当な態様で組み合わせることができることを理解されたい。
【0024】
図4に例示された位相コントラスト・イメージング(PCI)システム100は、場合によっては吸収性格子30を通って、対象物20へX線を送出するX線源を含む。対象物20を通って伝播した後、X線は、中央の非吸収性又は吸収性格子35を通って、また場合によっては吸収性格子40をも通ってX線検出器25へ進む。代替の態様では、非吸収性格子35をX線源と対象物20との間に配置することができる。
【0025】
PCIシステム100のX線源は、X線焦点又はエミッタの配列体110を含む。X線焦点は、限定するものではないが、タングステン・フィラメント、冷陰極放出装置、電界エミッタ及びカーボン・ナノチューブから供給される電子ビームによってX線を発生することを含む、反射型又は透過型線源を有する任意の種類のX線放出装置のX線焦点であってよい。マンモグラフィ動作に使用するためのPCIシステム100の一実施形態では、配列体110内の個々のエミッタは、約0.3ミリメートル(mm)の幅を持つことができる。一実施形態では、エミッタ間のピッチは約1.3cmである。個々のエミッタ寸法を0.3cmとし且つ焦点間の距離を1.3cmとした12個のエミッタの線形配列では、配列体110における視野は約20cmである。
【0026】
一実施形態では、配列体110は、交互配置された第1組のX線焦点112及び第2組のX線焦点114を持つ。各組112は多数のX線焦点112a〜112nを含む。X線焦点112a〜112nはそれぞれX線117a〜117nを放出する。各組114は多数のX線焦点114a〜114nを含む。X線焦点114a〜114nはそれぞれX線119a〜119nを放出する。ここで、各々の個別の焦点のX線束は個別に変えることができること、すなわち、同じ組の焦点の内の異なる焦点を、対象物20の部分上で異なるX線強度が生じるように動作させることができることを理解されたい。これにより、放出される放射線を患者に適合させて、もって可能な最低の患者線量で最適な画像品質を達成することができる。更に、個別のX線焦点112a〜112n又は114a〜114nは同時に動作させることができ、或いは逐次的に動作させることができる。両方の組のX線焦点は図4で区別されている。これは可能な1つの実施形態に過ぎず、複数のX線焦点を2つ以上の組に区別することができる。
【0027】
配列体110は一次元で示されているが、配列体は二次元に配列構成できることを理解されたい。一実施形態では、配列体110は約10個のエミッタの線形配列を有する。別の実施形態では、配列体110は約16個のエミッタの二次元配列を有する。当然のことながら、エミッタの数は2つ以上にすることができる。また当然のことながら、二次元配列体は4つ以上のエミッタを持つことができ、また2×2、3×3、4×4などの正方形の配列体に、又は交互配置した1×2の三角形の配列体に、又は交互配置した2×3、2×4などの矩形の配列体に形成することができる。更に、配列体110は非平面状に、例えば、一方向に湾曲した形状に形成することができる。
【0028】
また更に、各エミッタは、微小焦点、或いは複数の個別の小線源の配列体を含むことができる。各々の小線源は、個々にはコヒーレントであるが、他の小線源に対しては相互にインコヒーレントである。小線源の配列体は、スリットの配列体すなわち追加の振幅格子を線源に接近して配置することによって、又は(例えば、カーボン・ナノチューブを持つ )極微小焦点の配列体を生成することによって、作成することができる。
【0029】
PCIシステム100がマンモグラフィに用いられる場合、格子30の高減衰の各々の線又は罫は、格子30全体に入射するX線の50%以上を阻止するために、各々の線材に 入射するX線のほぼ全てを阻止するように特定の材料及び厚さで作られる。
【0030】
図4に示されているように、隣り合うX線焦点112及び114の間では放出されたX線117及び119にオーバーラップ(一部の重なり合い)が存在する。例えば、X線117aがX線119aとオーバーラップし、またX線117nがX線119nとオーバー ラップする。X線焦点112及び114の逐次的な動作について以下に説明する。
【0031】
多数のX線焦点を利用することにより、FOVが制限されている従来のPCIシステムの欠陥を克服する。位相コントラスト画像を形成する際、各X線焦点は独立に考慮することができる。更に、幾つかのX線焦点が放出を行っているときに検出器25でデータを取得することができる。
【0032】
また、PCIシステム100は、エミッタ110から検出器25までの距離を、PCIシステム10に見られる100〜200cmから、通常のマンモグラフィ・システムに見られる距離まで減じることができると云う点で、PCIシステム10のような従来のPCIシステムの欠点を克服する。焦点の幅w及び格子ピッチPi のような横方向寸法もまた、比例して縮小される。
【0033】
隣り合うX線放出範囲が接触又はオーバーラップすることは、イメージング対象物を確実に完全にカバーするために不可欠である。しかしながら、多数のX線放出から生じた検出器におけるデータ信号について起こり得る何らかの混乱を避けるために、一実施形態では隣り合うX線焦点を別々の時間に動作させる。例えば、X線焦点112が第1の時間に放出し、またX線焦点114が第1の時間とは異なる第2の時間に放出するようにする。具体的に述べると、(X線焦点112aを含む)X線焦点112が作動されて、(X線117aを含む)X線117を放出する。X線117aは、格子30、対象物20、格子35及び格子40を通った後、検出器25の部分25aに衝突する。データが検出器の部分25aからプロセッサ(図示せず)によって取得される。プロセッサへの読み出しの後、(X線焦点114aを含む)X線焦点114が作動される。X線119bが検出器25の部分25bに衝突する。図示のように、部分25bは検出器25の部分25aとオーバーラップする。ここで、エミッタ110と格子30,35,40と検出器25は、部分25a及び25bのような検出器25の隣り合う部分が、互いとオーバーラップする代わりに、互いと接触するように、互いに対して配置することができることを理解されたい。
【0034】
全てのX線焦点の完全な1サイクルの動作の後、格子40を検出器25に対して相対的に移動させることができ、次いでX線焦点の別の完全な1サイクルの動作を遂行することができる。格子40の移動は、式P2 /nに基づいて、小さい距離である。ここで、nは、位相コントラスト信号の所望のオーバーサンプリングに等しい。検出器25が位相変調を検出できることが重要であり、そのための1つのオプションは、吸収性格子をステッピングにより利用することである。前に述べたように、位相コントラスト信号をサンプリングするために適当な分解能を持つ検出器が利用可能である場合、格子40は省略すること ができ、また各組のX線焦点について唯一つのデータ収集が必要なだけである。
【0035】
次に図5を参照して説明すると、通常のマンモグラフィでは、相異なる軟部組織の間の吸収コントラストが比較的大きい場合、低いX線格子エネルギ値、典型的には10〜40KeVで作動される。この比較的低いエネルギ・レベルでは、吸収コントラストは比較的高い。PCIシステム100のようなPCIシステムは、X線吸収に基づいて動作していないが、代わりにX線位相コントラストに基づいて動作するので、該PCIシステムは、60KeVのような比較的高いレベルで動作することができる。このようなレベルでは、吸収線量が比較的低く、これにより患者に対して有害な電離性放射線の照射が少なくなる。更に、図5に示されているように、特定の種類の位相コントラスト・イメージングである回折増強イメージングによる実験では、放射線医師が、通常のX線吸収画像と比較して、位相コントラスト・イメージングの画像では遙かに低いX線線量で様々な特徴を検出できることを表している。また、図6中の上側のグラフは、様々な組織の種類の、すなわち、脂肪組織、乳房組織、筋肉及び血液のエネルギ依存性吸収量を示す。図6中の下側のグラフは、格子エネルギの関数として線束密度当りの増分線量を示す。下側のグラフでは、線束密度当りの増分線量が約60KeVのX線エネルギで最小になることが分かる。
【0036】
次に図7について説明すると、PCIシステム100のようなPCIイメージング・システムを用いて、患者のような対象物をイメージングするための方法が記述されている。段階200において、対象物が複数のX線エミッタと中央の非吸収性又は吸収性格子との間の位置に配置される。システム内に存在する場合、第1の吸収性格子が複数のX線エミッタに対して配置され、また高減衰の複数の線又は格子要素が、放出されたX線の50%以上を阻止するように製造される。理想的には、格子の高減衰(吸収性)部分に衝突する全てのX線が減衰し、且つ低減衰の複数の線又は格子要素に衝突する全てのX線が透過するようにする。
【0037】
段階205において、複数のX線エミッタがX線を対象物へ、場合によっては第1の吸収性格子を通って送出する。第1の吸収性格子は、X線の幾分かを吸収して、残りのX線を対象物へ透過させる。段階205は、多数回遂行することができる。例えば、複数のX線エミッタを、交互に配置された第1組のエミッタ及び第2組のエミッタに分割することができる。第1組のエミッタは第1の時間に作動することができ、また第2組のエミッタは、第1の時間とは異なる第2の時間に作動することができる。
【0038】
段階210において、X線は、対象物を通り、続いて非吸収性又は吸収性格子を通り、場合によっては更に第2の吸収性格子を通って検出器へ伝播する。複数のX線エミッタは、隣り合うエミッタからのX線が検出器に衝突する際に少なくとも互いに接触するように、それぞれ他のエミッタに対して且つ格子に対して且つ検出器に対して配置される。具体的に述べると、1つのエミッタからのX線が第1の検出器部分で検出器に衝突し、また隣のエミッタからのX線が第2の検出器部分で検出器に衝突する。第1及び第2の検出器部分は少なくとも互いに接触するが、互いとオーバーラップしてもよい。検出器での各信号の起点について混同は避けるべきであるので、隣り合うエミッタは、検出器におけるそれぞれのX線衝突区域がオーバーラップしている場合、異なる時間に作動するのが好ましい。段階205と同様に、段階210は多数回遂行することができる。
【0039】
段階215において、第2の吸収性格子(それがシステム内に存在する場合)を検出器に対して移動させることができ、次いで、段階205及び210を再び遂行することができる。代替の態様では、中央の格子又は線源の格子(それがシステム内に存在する場合)を、代わりに移動させることができ、次いで、段階205及び210を再び遂行することができる。この段階に対しては、原則として、同じ目的を達成する幾つかの代替態様があることを理解されたい。上記の段階215は、限定することを意味しているものではなく、また当業者に知られているような、位相コントラスト信号をサンプリングするための1つの機構を有する。多数のイメージング段階を遂行して、検出器で形成されたデータを収集し、該データは、放射線医師に提供する画像を構成するために用いられる。上記の複数の段階は、トモシンセシス又は断層撮影法を遂行するために患者に対するシステムの異なる位置について更に繰り返すことができる。例えば、このプロセスは、線源15の多数の角度で、格子30,35,40の多数の角度で、及び対象物20に対する検出器25の多数の角度で繰り返して、三次元位相コントラスト・コンピュータ断層撮影画像を再構成することができる。段階205及び210の場合と同様に、段階215は多数回遂行することができる。最後に、段階220において、検出器からの信号は、対象物の位相コントラスト画像を形成するためにプロセッサへ転送される。
【0040】
以上、本発明を限られた数の実施形態のみに関連して詳しく説明したが、本発明がこのような開示した実施形態に制限されるものではないことが容易に理解されよう。むしろ、本発明は、これまで説明していないが本発明の精神及び範囲に相応する任意の数の変形、変更、置換又は等価な構成を取り入れるように修正することができる。例えば、実施形態を、最初は単一であることを暗示するような用語で記述したが、多数の構成要素を利用できることを理解されたい。更に、本発明の様々な実施形態を説明したが、本発明の様々な面が説明した実施形態の幾つかのみを含み得ることを理解されたい。従って、本発明は、上記の説明によって制限されるものと考えるべきではなく、「特許請求の範囲」に記載の範囲によって制限される。
【符号の説明】
【0041】
10 PCIシステム
15 X線源
17 X線放射線
20 対象物
25 イメージング検出器
25a、25b 検出器部分
30 吸収性格子
35 格子
40 格子
100 位相コントラスト・イメージング(PCI)システム
110 X線焦点又はエミッタの配列体
112(112a〜112n) 第1組のX線焦点
114(114a〜114n) 第2組のX線焦点
117(117a〜117n) X線
119(119a〜119n) X線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のX線エミッタ(110)を有する位相コントラスト・イメージング・システム(100)。
【請求項2】
前記複数のX線エミッタは線形配列に構成されている、請求項1記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項3】
前記複数のX線エミッタは二次元配列に構成されている、請求項1記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項4】
検出器(25)と、
イメージング対象物(20)と前記検出器(25)との間又は複数のX線エミッタとイメージング対象物との間に配置された非吸収性格子又は吸収性格子(35、40)と、
を有する請求項1記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項5】
前記複数のX線エミッタは少なくとも2組のエミッタ(112、114)を有し、少なくとも第1組のエミッタ(112)が第2組のエミッタ(114)と交互に配置されている、請求項4記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項6】
前記第1組のエミッタが第1の時間にX線を送出し、また前記第2組のエミッタが前記第1の時間とは異なる第2の時間にX線を送出する、請求項5記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項7】
少なくとも前記第1組のエミッタ及び前記第2組のエミッタからのX線強度が可変であり且つ患者線量を最小にするように構成されている、請求項5記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項8】
前記複数のX線エミッタは、前記第1組のエミッタから放出されたX線が第1の検出器部分(25a)に衝突し且つ前記第2組のエミッタから放出されたX線が第2の検出器部分(25b)に衝突するように、前記検出器に対して配置されており、また、前記第1及び第2の検出器部分は少なくとも互いに接している、請求項5記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項9】
更に、前記複数のX線エミッタと前記対象物との間に配置された吸収性格子を有している請求項4記載の位相コントラスト・イメージング・システム。
【請求項10】
前記イメージング・システムは、マンモグラフィ・システム、一般X線撮影装置、トモシンセシス・システム、又はコンピュータ断層撮影システムである、請求項4記載の位相コントラスト・イメージング・システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254294(P2012−254294A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−119193(P2012−119193)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】