説明

多発性硬化症の治療のためのエストロゲン受容体αモジュレーターの使用方法

本発明は、エストロゲン受容体αアゴニスト活性をもつ作用物質、特に、選択的エストロゲン受容体モジュレーターを、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における自己免疫性病態を治療する方法を提供する。エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する化合物を選択する段階を含む、多発性硬化症の治療に有用な化合物を選択する方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的に、自己免疫疾患を治療するための治療法、より具体的には、自己免疫疾患の治療のためのエストロゲン受容体α(ERα)アゴニスト活性を有する化合物の使用に関する。特に、本発明は、自己免疫疾患の治療のための選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の使用に関する。さらに、本発明は、自己免疫疾患の治療に有用な化合物を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多発性硬化症(MS)は、免疫系がミエリンの成分に対して不適切な免疫応答をする、中枢神経系(CNS)の自己免疫疾患である。それは、CNSの炎症およびミエリン損傷を特徴とする。CD4+ Tヘルパー-1(TH-1)細胞およびそれらの産物(例えば、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターフェロン-γ(IFN-γ)およびメタロプロテイナーゼ)は、ほとんどの免疫病理を媒介する。
【0003】
多数の自己免疫疾患に関して、多発性硬化症の発生率は、男性と比べて女性においてより高い(2〜3倍)1。MSにおけるエストロゲンの免疫調節性効果が示されている。例えば、臨床疾患は、エストロゲンレベルが高い妊娠中に寛解し、分娩後期間中に悪化する2-4。さらに、症状における改善が、エストラジオールを与えられたMS患者において報告された5。エストロゲンは、T細胞の機能に直接的に影響を及ぼすように考えられ、MS患者由来のT細胞クローンによるサイトカイン産生の調節が示された6-8。加えて、エストリオールによる転写因子NF-κBの抑制がこれらの細胞で示されている8
【0004】
エストロゲンはまた、多発性硬化症についての明確なモデルであるマウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において疾患活性を調節することが示されている9-13。このモデルは、SERM/組織選択的エストロゲン(TSE)およびエストロゲン受容体α選択的アゴニストでの治療を試験するために用いられた。
【0005】
SERMは、エストロゲン受容体に結合する薬物のクラスであり、組織選択的効果を示す。例えば、SERMラロキシフェン(raloxifene)は、骨、脂質および凝固因子へのエストロゲン-アゴニスト効果、ならびに乳房および子宮へのエストロゲン-アンタゴニスト効果を有する19。SERMは、1) 16-エピエストリオール、エタモキシトリフェトール、クロミフェン、およびタモキシフェンのような抗エストロゲンとして以前に知られている作用物質;2) 19-ノルテストステロン誘導体、チボロン;3) ラロキシフェンおよびその類似体;ならびに4) ドロロキシフェン、トレミフェン、イドキシフェンおよびレボルメロキシフェンのような最近のトリフェニルエチレン誘導体を含みうる19。SERMは、受容体への結合において内因性エストロゲンと競合し、エストロゲン作用を活性化するかまたは遮断するかのいずれかでありうる19
【0006】
本発明の目的は、エストロゲン受容体α活性を有する作用物質、具体的にはSERMの投与により自己免疫病態を治療するための新規の方法を提供することである。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する少なくとも1つの作用物質を、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における自己免疫病態を治療する方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、選択的エストロゲン受容体モジュレーターを、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における自己免疫病態を治療する方法を提供する。
【0009】
本発明はさらに、エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する化合物を選択する段階を含む、多発性硬化症の治療に有用な化合物を選択する方法を提供する。
【0010】
本出願の一部を形成する詳細な説明および添付の図面から、本発明をより完全に理解することができる。
【0011】
発明の詳細な説明
本明細書に開示されているように、エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する作用物質の哺乳動物への投与は、自己免疫病態の重症度を低下させる。これらの効果は、部分的に、末梢および病態の部位においてT細胞によるTH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を低下させることに対するそのようなアゴニストの効果によるものと考えられる。
【0012】
したがって、本発明は、エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する作用物質を、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における自己免疫病態を治療する方法を提供する。本発明はまた、選択的エストロゲン受容体モジュレーターを、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における自己免疫病態を治療する方法を提供する。
【0013】
本発明の方法を、様々な自己免疫病態に関して実施することができる。そのような病態は、当技術分野において公知であり、限定されるものではないが、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、自己免疫性甲状腺炎、ブドウ膜炎、重症筋無力症、炎症性腸疾患およびシェーグレン症候群を含む。本発明の好ましい態様において、哺乳動物は、雌、雄、ヒトまたは非ヒトであってよい。
【0014】
本発明の態様において、エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する作用物質は、経口、経皮的、呼吸、皮下および静脈内の経路から選択される経路により投与される。
【0015】
本発明の好ましい態様において、TH-1サイトカインは、TNF-α、IFN-γおよびIL-2からなる群より選択され、TH-2サイトカインは、IL-4、IL-5およびIL-10からなる群より選択される。当業者は、TH-1媒介型免疫応答がTNF-α、IFN-γ、IL-2を含む炎症誘発性サイトカインの分泌を特徴とすることを認識している。TH-2媒介型応答は、IL-4、IL-5およびIL-10のような抗炎症性サイトカインの分泌を特徴とする。本発明の一つの好ましい態様において、TH-1サイトカインの産生は、作用物質の投与により抑制される。本発明のもう一つの好ましい態様において、TH-1およびTH-2サイトカインの両方の産生が抑制される。本発明のさらなる態様において、TH-1サイトカインの産生は抑制され、TH-2サイトカインの産生は増加する。
【0016】
好ましい態様として、ERαアゴニストは、抗炎症性活性、例えばNF-κB活性の低下を示す。もう一つの好ましい態様において、ERαアゴニストは非ステロイド性である。
【0017】
本発明のさらなる態様において、SERMは、ラロキシフェン(raloxifene)、タモキシフェン(tamoxifen)、ラソフォキシフェン(lasofoxifene)、イドキシフェン(idoxifene)、ドロロキシフェン(droloxifene)、バゼドキシフェン(bazedoxifene)およびトレミフェン(toremifene)、ならびにそれらの誘導体および類似体を含む群から選択される。本発明のもう一つの態様において、選択的エストロゲン受容体モジュレーターは、脳または中枢神経系に生物学的作用を発揮する。
【0018】
本発明はまた、エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する化合物を選択する段階を含む、多発性硬化症の治療に有用な化合物を選択する方法を提供する。ルシフェラーゼのような受容体を用いるインビトロでアゴニスト活性をアッセイするための通常のアッセイは、当技術分野において周知である。それらのERαアゴニストアッセイについて参照として組み入れられている以下の刊行物がアゴニストアッセイの実例となる:Lyttle CR, Damian-Matsumura P., Juul H., Butt TR, Human estrogen receptor regulation in a yeast model system and studies on receptor agonists and antagonists, J. Steroid Biochem Mol Biol 42:677-685 (1992); Katzenellenbogen BS, Bhardwaj B, Fang H, Ince BA, Pakdel F, Reese JC, Schodin D, Wrenn CK, Hormone binding and transcription activation by estrogen receptors: analyses using mammalian and yeast systems, J Steroid Biochem Mol Biol 47:39-48 (1993); PCT International Publication No. WO 00/37681; Webb P, Lopez GN, Greene GL, Baxter JD, Kushner PJ, 1992, The limits of the cellular capacity to mediate an estrogen response, Mol Endocrinology, 6(2):157-67。好ましくは、そのようなアッセイにおいて、「エストロゲン受容体αアゴニスト」は、エストロゲン活性について選択されたアッセイにおいて測定される場合、17-βエストラジオールのER-α活性を実質的に模倣する化合物として定義される。
【0019】
本発明の好ましい態様において、化合物はSERMである。本発明のさらなる態様において、化合物は、本明細書の実施例2に記載されているように、少なくとも約20%〜100% TNFα産生を減少させる。他の態様において、減少は、少なくとも30%、40%、50%、60%または80%であってもよい。
【0020】
略語および用語の定義
以下の定義は、本明細書に用いられる用語および略語の完全な理解のために提供される。
【0021】
本明細書および添付された特許請求の範囲に用いられる場合、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」および「その(the)」は、文脈上他に明らかな規定がない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「一つのエストロゲン受容体αアゴニスト(an estroten receptor α agonist)」への言及は、複数のそのようなアゴニストを含む。
【0022】
本明細書における略語は、以下のように、測定の単位、技術、性質または化合物に対応する:「μg」はマイクログラムを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「μM」はマイクロモルを意味し、「mM」はミリモルを意味し、「s.c.」は皮下を意味し、「i.p.」は腹腔内を意味し、および「p.o」は経口を意味する。
【0023】
「多発性硬化症」は、MSと略される。
「中枢神経系」は、CNSと略される。
「Tヘルパー-1」および「Tヘルパー-2」は、それぞれ、TH-1およびTH-2と略される。
「腫瘍壊死因子-α」は、TNF-αと略される。
「インターフェロン-γ」は、IFN-γと略される。
「核因子-κB」は、NF-κBと略される。
「実験的自己免疫性脳脊髄炎」は、EAEと略される。
「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」は、SERMと略される。
「組織選択的エストロゲン」は、TSEと略される。
「エストロゲン受容体」は、ERと略される。
「インターロイキン」は、ILと略される。
「プロテオリピドタンパク質ペプチド」は、PLPと略される。
「完全フロイントアジュバント」は、CFAと略される。
「移入後」は、PTと略される。
【0024】
本明細書に用いられる場合、用語「自己免疫性病態」は、有害な自己免疫応答により媒介される病態を指す。多くの自己免疫性病態において、T細胞は、1つまたは複数の組織において宿主成分を異物として認識し、その組織を攻撃する。
【0025】
本明細書に用いられる用語「治療」は、防止的な(例えば、予防の)、治癒力のある、または軽減する治療を含み、本明細書に用いられる「治療すること」もまた、防止的な、治癒力のある、または軽減する治療を含む。自己免疫性病態に関する「治療すること」とは、治療の任意の観察できる効果を指す。有益な効果は、感受性のある哺乳動物における臨床症状の発生の遅延、疾患の一部もしくは全部の臨床症状の重症度における低下、疾患のより遅い進行、疾患の再発の数における低下、病態の部位におけるもしくは循環している病原性T細胞の数または活性(例えば、サイトカイン分泌)における低下、個体の健康全般もしくは満足な状態により、または特定の疾患に特異的である当技術分野において周知の他のパラメーターにより、証明されうる。
【0026】
本明細書に記載されるように、用語「エストロゲン受容体α活性を有する作用物質」は、ERα活性を示す作用物質であり、これらに限定されるものではないが、選択的エストロゲン受容体モジュレーターおよび組織選択的エストロゲンを含む。この用語はまた、部分アゴニスト、ペプチド、ポリペプチド、遺伝子、遺伝子断片、非ペプチド低分子、天然産物、アンチセンスDNAおよびmRNAを含んでもよい。
【0027】
本明細書に用いられる場合、用語「哺乳動物」は、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウスまたは他の獣医学的もしくは実験的哺乳動物を指す。当業者により、哺乳動物の1つの種において免疫病態の重症性を低下させる治療法が哺乳動物の別の種への治療の効果を予測することが認められている。当業者はまた、ヒト免疫病態の信頼できる動物モデルが、多発性硬化症の信頼できる動物モデルであるEAEを含めて、公知であることを認識している。
【0028】
「TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに有効な量」とは、自己免疫病態を治療するという望ましい結果を達成するための、必要な投与量および期間における、有効な量を指す。本発明の方法においてTH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに有効なエストロゲン受容体αアゴニストの量が、選択された特定のアゴニスト、投与経路、および個体において望ましい応答を誘発するアゴニストの能力によるだけでなく、軽減されるべき病状または状態の重症度、個体の年齢、性別、体重、患者の存在の状態、および治療される病的状態の重症度などの因子、その後特定の患者が受ける同時投薬または特別食、ならびに当業者が認めているものと思われる他の因子によって、個体間で変動するものであり、適切な投与量が最終的には主治医の裁量であることは認識されているものと思われる。投与計画を、改善された治療応答を与えるように調整することができる。「TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに有効な量」はまた、治療的に有益作用がアゴニストの任意の毒性または有害作用を上回るものである。
【0029】
好ましくは、エストロゲン受容体αアゴニストは、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生が、治療の開始時点におけるこれらのサイトカインの産生と比較して減少するような投与量および期間で、本発明の方法において投与される。そのような治療はまた、自己免疫疾患の症状の全般的重症度を、治療の開始前の症状の重症度と比較して、低下させるのに有益でありうる。好ましい態様において、投与量は、0.5 mg/kg/日から500 mg/kg/日までの範囲であり、または、少なくとも約10 mg/kg/日、約50 mg/kg/日、約100 mg/kg/日もしくは約150 mg/kg/日である。
【0030】
実施例
本発明は、以下の実施例においてさらに定義される。これらの実施例は、本発明の好ましい態様を示しているが、例証としてのみ与えられることは理解されるべきである。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的特徴を確かめることができ、その精神および範囲から逸脱することなく、それを様々な使用および状態に適応させるように本発明の様々な変更および改変を加えることができる。
【0031】
実施例1:多発性硬化症の動物モデルにおける化合物のインビボ投与の効果
この実施例は、多発性硬化症の動物モデルにおいて、エストロゲン受容体α選択的アゴニストのインビボ投与が、結果として、発症の遅延、ならびに疾患の発生率および重症度の減少を生じる。
【0032】
材料および方法
動物
25匹の無傷の雌(生後6〜8週間)SJLマウス(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME)をEAEの養子移入モデルにおけるドナーマウスとして用いた。
【0033】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の誘導
EAEを、以前に記載された方法の改変を用いてPLP感作された脾臓細胞の養子移入により誘導した20。マウスを、完全フロイントアジュバント(CFA)中で乳化されたプロテオリピドタンパク質ペプチド139〜151位(PLP)で免疫した。各動物は、4 mg/mlの熱死滅かつ乾燥した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(H37RA株)を含む0.2 ml容量のCFAにおける150 μgのPLPを受けとった。PLP/CFA乳濁液を、2つの部位に(背中および尾の付け根に)皮下注射した。各部位に0.1 mlを注射した。10日後、マウスを安楽死させ、脾臓を採取した。単細胞懸濁液を脾臓から作製した。赤血球の溶解後、細胞を、75 cm2 組織培養フラスコにおいて、RPMI-10(10% 熱不活性化ウシ胎児血清、100 U/ml ペニシリン、100 μg/ml ストレプトマイシン、2 mM グルタミン、50 μM 2-メルカプトエタノールを含むRPMI培地)中で3日間、5x106細胞/mlの濃度で培養した。PLPを5 μg/mlの最終濃度で添加した。細胞を5% CO2で37℃にてインキュベートした。インキュベーション後、PLP刺激されたエフェクター細胞を収集し、リン酸緩衝食塩水で洗浄し、卵巣切除された雌(生後6〜8週間)SJLマウス(1.5x107細胞/マウス)に腹腔内注射した。疾患は、典型的には、細胞の移入後(PT)7〜14日目に発症する。
【0034】
疾患重症度の程度は、表1に示された尺度を用いて毎日モニターされた。
(表1)疾患重症度の尺度

【0035】
疾患に対する化合物の効果を評価するために、レシピエントマウスに10% エタノール/90% コーンオイルの媒体を用いて、指示された用量で毎日(s.c.またはp.o.)化合物を投与した。対照動物は、媒体のみを受けとった。マウスは、ドナー細胞の養子移入の5〜7日前から投薬された。
【0036】
組織学的分析
ピーク疾患において(PTの14日目)、マウスをCO2で安楽死させた。脳および脊髄を死体解剖で取り出し、10%緩衝ホルマリン中で固定した。脳は、3つの区分(大まかに、前大脳、中脳および小脳)に切断され、単一ブロックとして包埋された。脊髄は、10% HClで脱灰され、単一ブロックとして包埋された頸部、胸部および腰部の区分へ切断された。標準H&E(ヘマトキシリンおよびエノシン)スライドグラスを、提出された各マウス由来の各組織ブロックから調製し、マウスあたり2枚の得られたH&Eスライドを評価した。
【0037】
スライドを評価し、見られる病変を、存在(P=存在)および/または重症度について主観的に点数化した。重症度評点は、0=WNL(正常範囲内(within normal limits))、1=軽微または極微、2=軽度、3=中程度、4=顕著、および5=重度である。器官に関しての発見の位置は、血管周囲、室周囲、上衣または髄膜として、およびまた、限局性(小領域で、切片全体ではない)または広汎性(検査された切片全体に)としても示された。限局性は、非常に局所的であり、かつあらゆる構造を冒すものではないこととして定義された。限局性として定義されない発見は、広汎性であるか、またはあらゆる構造を冒していた(例えば、すべての血管)。見られた白血球は、主にリンパ球およびマクロファージであり、場合によっては好中球を含んだ。髄鞘脱落は、脊髄における白質管のはっきりしたオープンホールとして観察された。
【0038】
EAEの典型的マウスモデルは、白血球の微小から中程度までの大きさの凝集物の散在している病巣を有し、まれに、患部組織に広汎性浸潤巣を有する。
【0039】
PLP特異的リコール応答:サイトカイン産生
EAEをもつマウス由来の脾細胞によるサイトカイン産生に対するインビボで投与された化合物の効果を調べるために、マウスをピーク疾患において(PTの14日目)CO2で安楽死させ、脾臓を収集した。脾臓は個々に単細胞懸濁液へと処理された。赤血球の溶解後、細胞をRPMI-10に再懸濁し、5x106細胞/mlの濃度で24ウェル組織培養プレートで培養した。細胞を5 μg/ml PLPで刺激した。3日後、上清を回収し、使用まで-20℃で凍結した。サイトカイン(TNF-α、IFN-γ、IL-5、IL-4、IL-2)は、市販のフローサイトメトリーキット(Cytometric Bead Array, Becton Dickinson BioSciences, San Diego, CA)を用いて上清中で測定された。IL-10は、IL-10特異的ELISAキット(Becton Dickinson BioSciences)を用いて測定された。
【0040】
PLP初回刺激を受けたエフェクター細胞によるサイトカイン産生への化合物の効果をインビトロで調べるために、SJLマウスをCFA中で乳化されたPLPで免疫した。10日後、脾臓を収集し、単細胞懸濁液を作製した。赤血球の溶解後、脾細胞は、化合物の存在下において、3日間、37℃、5% CO2で、5 μg/ml PLPで刺激された。対照試料は刺激されず、培地のみ(「培地」)中で培養された。化合物を1 μMの最終濃度で添加した。3日のインキュベーション後、上清を収集し、-20℃で保存した。サイトカイン(TNF-α、IFN-γ、IL-5、IL-4、IL-2)は、Cytometric Bead Arrayキットを用いて上清において測定された。
【0041】
抗原刺激によるエフェクターT細胞の増殖に対する化合物の効果
PLP刺激に応答してのインビトロでのエフェクターT細胞の増殖の影響を調べるために、T細胞増殖を以下のアッセイを用いるフローサイトメトリーにより調べた。SJLマウスをCFA中で乳化されたPLPで免疫した。10日後、脾臓を収集し、単細胞懸濁液を作製した。赤血球の溶解後、脾細胞を、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識した。その後、CFSE標識細胞を、3日間、37℃、5% CO2で、PLPとインキュベートした。化合物を1 μMの最終濃度で添加した。分裂したCD4+細胞の割合を測定するために、フローサイトメトリー分析の前に、CFSE標識細胞をCD4マーカーに特異的な抗体で染色した。
【0042】
結果
I. PLP初回刺激を受けたエフェクター細胞の養子移入により誘導されたEAEに対するSERM/組織選択的エストロゲンの効果
以前に示されているように、17β-エストラジオール(E2)での治療は、結果として、発症の遅延、並びに疾患の発生率および重症度の減少を生じた(図1A;参照文献9、11〜13)。このモデルにおけるエストロゲンの防護効果がエストロゲン受容体に媒介されたかのどうかを測定するために、マウスをE2およびエストロゲン受容体アンタゴニストICI 182,780の両方で治療した。ICIは、E2の疾患への効果を消失させた(図1A)。
【0043】
E2での治療、またはSERMラロキシフェンもしくは化合物A[2-(ヒドロキシフェニル)-3-メチル-1-[4-(2-ピペリジン-1-イル-エトキシ)ベンジル]-1H-インドール-5-オールハイドロクロライド一水和物]での治療は、結果として、発症の遅延、並びに疾患の発生率および重症度の減少を生じた(図1Bおよび表2)。これらの化合物の疾患の臨床的徴候への効果と一致して、他の治療群からのマウスと比較して、化合物Aで治療されたマウス由来の脊髄および脳に浸潤する炎症性細胞の量において低下があった。さらに、化合物Aで治療されたマウス由来の脊髄において髄鞘脱落は検出されなかった。
【0044】
(表2)組織学的所見

a=所見をもつ脳の数/評価された総数
b=見られた病変の平均重症度評点
0=正常範囲内、1=軽微、2=軽度、3=中程度、4=顕著、および5=重度
【0045】
II. PLP初回刺激を受けたエフェクター細胞の養子移入により誘導されたEAEへのエストロゲン受容体選択的アゴニストの効果
E2またはERα選択的アゴニストPPT(プロピルピラゾールトリオール)での治療は、結果として、発症の遅延、並びに疾患の発生率および重症度の減少を生じた(図2)。さらに、PPTで治療されたマウスは、媒体またはERβ選択的アゴニストで治療されたマウスと比較して、脳および脊髄において炎症を低減させた(表3)。組織学的検査により、PPTを投与されたマウスは、媒体対照マウスと比較して最も多くの正常組織を有することが明らかにされた。4つの全ては、脳の基底部においてのみ(腹側表面上の後脳/小脳/脳橋/延髄の周囲のみ)であるが、髄膜にわずかな白血球浸潤巣があった。これらのマウスはいずれも脊髄病変を有さなかった;これらのマウスの脊髄はすべて正常範囲内であった。
【0046】
(表3)

a=所見をもつ脳の数/評価された総数
b=見られた病変の平均重症度評点
0=正常範囲内、1=軽微、2=軽度、3=中程度、4=顕著、および5=重度
【0047】
III. PLP特異的リコール応答:サイトカイン産生に対するER選択的アゴニストの効果
ERα選択的アゴニストPPTの疾患への効果と一致して、PPTでのマウスの治療は、結果として、インビトロで、PLPでの脾細胞の刺激によるサイトカイン産生の減少を生じた(図3)。Th1/炎症促進性(TNF-α、IFN-γ、IL-2)およびTh2/抗炎症性(IL-4、IL-5、IL-10)サイトカインの両方がPPTでのインビボ治療により抑制され、PPTが、病原性Th1応答から防護的Th2応答への免疫偏移によるというよりむしろ、T細胞活性化を阻害することにより疾患を抑制しうることを示した。対照的に、ERα選択的アゴニストは、サイトカイン産生に影響を及ぼさなかった(、媒体群と比較してp<0.05) 。
【0048】
実施例2:インビトロでの抗原特異的免疫応答に対する化合物の効果
組織選択的エストロゲン(化合物A)およびERα選択的リガンド(PPT)の、抗原特異的免疫応答に対する効果をインビトロで調べた。
【0049】
A. 抗原刺激におけるエフェクターT細胞の増殖に対する化合物の効果
PLP初回刺激を受けたエフェクター細胞の、組織選択的エストロゲン化合物AまたはERα選択的アゴニストPPTでの治療は、結果として、抗原特異的T細胞の増殖の減少を生じた(図4)。CD4+細胞集団およびCD4-細胞集団の両方の増殖が抑制された。これらの結果は、これらの化合物のそれぞれが、部分的に、抗原特異的T細胞のクローン増殖を制限することにより作用する可能性があることを示唆している。
【0050】
B. 抗原におけるエフェクター細胞によるサイトカイン産生に対する化合物の効果
PLP初回刺激を受けたエフェクター細胞の、組織選択的エストロゲン化合物Aまたはα選択的アゴニスト(PPT)での治療は、結果として、抗原刺激によるサイトカイン産生の減少を生じた(図5)。両方の化合物は、炎症促進性(TH-1)サイトカインTNF-αの産生を阻害した。化合物AおよびERα選択的アゴニストPPTの両方はまた、IFN-γ産生を抑制した。これらの細胞と組織選択的エストロゲン化合物Aとのインキュベーションはまた、結果として、抗炎症性サイトカインIL-4の付随した増加を生じたが、他の化合物は効果を生じなかった。これらの結果は、ERα選択的アゴニスト(PPT)が、抗原特異的サイトカイン産生に対して組織選択的エストロゲンとは異なる効果を生じている可能性があることを示唆している。前者は、炎症促進性(TH-1)サイトカインの産生を阻害することによりEAEを抑制することができるが、組織選択的エストロゲンは、さらに、防護的抗炎症性/TH-2免疫応答への免疫偏移を促進することができる。
【0051】
結論
SERM/TSEラロキシフェンおよび化合物A、並びにERα選択的アゴニストPPTでの治療は、EAEを抑制し、結果として、疾患の発生の遅延、並びに発生率および重症度の減少を生じた。これらの化合物で治療されたマウスにおける疾患の臨床的徴候の抑制は、脳および脊髄における病態ならびに白血球浸潤の低減と付随している。これは、これらの化合物が、脳および脊髄への病原性細胞の輸送を制限すること、例えば、接着分子発現を減少させることおよび/またはケモカイン/ケモカイン受容体発現に影響を及ぼすことにより、疾患を低減させうることを示唆している。PLP初回刺激を受けたエフェクター細胞の養子移入により誘導された疾患の、SERM/TSEおよびERα選択的アゴニストでの抑制は、これらの化合物が、脳炎惹起性エフェクター細胞の活性を変える能力を有することを示唆している。これらの発見は、分化したエフェクター細胞が、ナイーブ細胞と比較して、エストロゲンの効果に対してより抵抗性があるという概念と対照的である13
【0052】
本明細書に示されたインビトロデータは、ERα選択的アゴニスト、優先的にはSERMまたはER抗炎症性リガンドが抗原特異的T細胞増殖およびサイトカイン産生へ直接的効果を生じ、それにより、病原性T細胞の増殖および分化を制限しうることを示唆している。リガンドのすべての3つの型は、炎症促進性(TH-1)サイトカインの産生を抑制するのに効果的である。しかし、組織選択的エストロゲンはさらに、防護的抗炎症性(TH-2)サイトカインの産生を促進することができ、これらの分子がPLP特異的免疫応答へ異なる効果を生じることができることを示唆している。
【0053】
SERM/TSEがこのモデルにおいて疾患の経過を変えることができるという観察は、マウスの全身性エリテマトーデス、ループスについてのマウスモデルにおける、SERMおよびエストロゲンアンタゴニストの既知の効果を考慮すれば、やや驚くべきことである。SERMは、ループス、疾患がエストロゲンにより悪化する自己免疫性疾患に有益な治療効果をもつことが示されている14-18。SERMはループスにおいてアンタゴニスト様式で作用するように考えられるため、SERMがEAEにおいて類似したアンタゴニスト活性を有するであろうと予想された。したがって、その予想は、SERMは効果がないか、またはEAEを悪化させるかのいずれかであろうと思われた。それどころか、SERMは、疾患抑制活性を実証した。
【0054】
参考文献


【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】疾患のエストロゲン媒介性抑制に対するERアンタゴニストICIの効果を示す。
【図1B】EAEに対するラロキシフェンと化合物Aの効果を示す。
【図2】EAEに対するER選択的リガンドの効果を示す。
【図3A】EAEをもつマウス由来の脾細胞によるTNF-α産生に対するER選択的リガンドのインビボ投与の効果を示す。
【図3B】EAEをもつマウス由来の脾細胞によるIL-4産生に対するER選択的リガンドのインビボ投与の効果を示す。
【図3C】EAEをもつマウス由来の脾細胞によるIFN-γ産生に対するER選択的リガンドのインビボ投与の効果を示す。
【図3D】EAEをもつマウス由来の脾細胞によるIL-5産生に対するER選択的リガンドのインビボ投与の効果を示す。
【図3E】EAEをもつマウス由来の脾細胞によるIL-2産生に対するER選択的リガンドのインビボ投与の効果を示す。
【図3F】EAEをもつマウス由来の脾細胞によるIL-10産生に対するER選択的リガンドのインビボ投与の効果を示す。
【図4A】抗原刺激におけるCD4-細胞の増殖に対する化合物の効果を示す。
【図4B】抗原刺激におけるCD4+細胞の増殖に対する化合物の効果を示す。
【図5A】抗原刺激におけるエフェクターT細胞によるTNF-α産生に対する化合物の効果を示す。
【図5B】抗原刺激におけるエフェクターT細胞によるIFN-γ産生に対する化合物の効果を示す。
【図5C】抗原刺激におけるエフェクターT細胞によるIL-4産生に対する化合物の効果を示す。
【図5D】抗原刺激におけるエフェクターT細胞によるIL-2産生に対する化合物の効果を示す。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する少なくとも1つの作用物質を、TH-1および/またはTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における自己免疫性病態を治療する方法。
【請求項2】
自己免疫性病態が、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、自己免疫性甲状腺炎、ブドウ膜炎、炎症性腸疾患およびシェーグレン症候群からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
哺乳動物が雌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
哺乳動物が雄である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物が非ヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
作用物質が、経口、経皮的、呼吸、皮下および静脈内の経路から選択される経路により投与される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
TH-1サイトカインが、TNF-α、IFN-γおよびIL-2からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
TH-2サイトカインが、IL-4、IL-5およびIL-10からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
作用物質が核因子-κB活性を減少させる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
作用物質が非ステロイド性である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
作用物質が、TH-1およびTH-2サイトカインの産生を減少させるのに十分な量で投与される選択的エストロゲン受容体モジュレーターである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
自己免疫性病態が、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、乾癬、自己免疫性甲状腺炎、ブドウ膜炎、炎症性腸疾患およびシェーグレン症候群からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物が雌である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物が雄である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
哺乳動物がヒトである、請求項12記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物が非ヒトである、請求項12記載の方法。
【請求項18】
選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、経口、経皮的、呼吸、皮下および静脈内の経路から選択される経路により投与される、請求項12記載の方法。
【請求項19】
TH-1サイトカインが、TNF-α、IFN-γおよびIL-2からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項20】
TH-2サイトカインが、IL-4、IL-5およびIL-10からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項21】
選択的エストロゲン受容体モジュレーターが核因子-κB活性を減少させる、請求項12記載の方法。
【請求項22】
選択的エストロゲン受容体モジュレーターが、ラロキシフェン(raloxifene)、タモキシフェン(tamoxifen)、ラソフォキシフェン(lasofoxifene)、イドキシフェン(idoxifene)、ドロロキシフェン(droloxifene)、バゼドキシフェン(bazedoxifene)およびトレミフェン(toremifene)からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項23】
エストロゲン受容体αアゴニスト活性を有する化合物を選択する段階を含む、多発性硬化症の治療に有用な化合物を選択する方法。
【請求項24】
化合物が選択的エストロゲン受容体モジュレーターである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
化合物がTNFα産生を少なくとも約20%減少させる、請求項23記載の方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2006−515616(P2006−515616A)
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500772(P2006−500772)
【出願日】平成16年1月5日(2004.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/000037
【国際公開番号】WO2004/062653
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(302042209)ワイス (7)
【Fターム(参考)】