説明

多発性硬化症を診断するための手段及び方法

本発明は、診断方法の分野に関する。具体的には、本発明は、被験体における多発性硬化症の診断方法、被験体が多発性硬化症の治療を必要とするかどうかの特定方法、又は多発性硬化症の治療が成功したかどうかの判定方法を包含する。さらに、被験体において多発性硬化症の活動性状態を診断する又はそのリスクを予測する方法に寄与する。本発明はまた、上記方法を実施するためのツール、例えば診断デバイスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断方法の分野に関する。具体的には、本発明は、被験体における多発性硬化症の診断方法、被験体が多発性硬化症の治療を必要とするかどうかの特定方法、又は多発性硬化症の治療が成功したかどうかの判定方法を包含する。さらに、被験体において多発性硬化症の活動性状態を診断する又はそのリスクを予測する方法に寄与する。本発明はまた、上記方法を実施するためのツール、例えば診断デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、世界中でおよそ100万人が罹患し、若年成人において長期かつ重度の障害を引き起こす、最も一般的な中枢神経系(CNS)の疾患である。その病因論はわかっていないが、脳の白質及び脊髄内の自己分子に対するT細胞媒介型の炎症プロセスがその発病の基礎となっている概念を支持する強力な証拠がある。ミエリン反応性T細胞はMS患者及び健常個体の両方に存在するため、MSにおける原発性免疫異常は、T細胞活性化状態の増強と厳密ではない活性化要件を生じる調節機構の機能不全に関与している可能性が高い。従って、病因には、CNSの外側における脳炎誘発性の、すなわち自己免疫ミエリン特異的T細胞の活性化と、それに続いて血液脳関門の隙間、T細胞及びマクロファージの浸潤、ミクログリア活性化、脱髄、並びに不可逆的神経損傷が含まれる(Aktas 2005, Neuron 46, 421-432;Zamvil 2003, Neuron 38:685-688;又はZipp 2006, Trends Neurosci. 29, 518-527)。T細胞の脳炎誘発性(encephalitogenicity)の原因となる機構については多くがわかっているが、CNSへの及びCNS内での有害なリンパ球応答を調節する身体の内因性調節機構に関してはまだほとんどわかっていない。さらに、T細胞媒介性脱髄に関する広範囲の研究にもかかわらず、CNS内のin vivoにおける損傷プロセスは完全には理解されていない。
【0003】
現在、MSの診断には、神経画像検査、脳脊髄液の分析及び誘発電位などの診断ツールが用いられている。脳及び脊髄の磁気共鳴映像法は、脱髄(病変又はプラーク)を可視化することができる。ガドリニウムを造影剤として静脈内投与して、活性プラークを標識することができ、除去によって、評価の時点で症候と関係しない組織学的病変の存在を証明する。腰椎穿刺から得られる脳脊髄液の分析は、中枢神経系の慢性炎症の証拠をもたらす。MSを有する患者の75〜80%において見られる炎症マーカーであるオリゴクローナルバンドについて脳脊髄液を分析することができる(Link 2006, J Neuroimmunol. 180 (1-2): 17-28)。しかし、上記の技法はいずれもMSのみに特異的なものではない。従って、生検又は死後検査のみが信頼性のある診断をもたらすことが最も多い。
【0004】
MSは、中枢神経系の臨床的に高度に異種性(heterogeneous)の炎症疾患であるため、個々の患者における疾患の診断、その経過の予測、治療の必要性、治療の種類の予測を促進するために、診断及び予後マーカーが必要とされている。現在利用可能な治療に対する応答は、疾患の経過からの所見はなく、患者間で異なる。マーカーがあれば適用すべき薬剤の選択を軽減し、それは市場にさらなる薬剤が登場する、数年内によりさらに重要となるだろう。さらに、急速に進行する患者は、最初の段階から、良性の疾患経過をたどる患者よりも積極的に処置する必要がある。組織損傷、特に神経損傷のマーカーは、急速に進行した後に障害となる患者においてのみ又は該患者において高く発現されうる。一方、破壊的な副作用を有する可能性のある積極的な治療による患者の処置には、治療応答マーカー及びリスク管理が必要である。従って、疾患の活動性及び治療に対する応答のためのマーカーは、患者の予後を判定するために有益であり、また個人向けの治療の調整を可能とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、MSを信頼性をもって診断するため、並びに治療の成功を評価するための手段及び方法が高く望まれているが、まだ利用可能ではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、被験体において多発性硬化症を診断する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表1及び/又は表2に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより多発性硬化症が診断される上記ステップ
を含む方法に関する。
【0007】
本発明において記載する方法としては、上述のステップより本質的になる方法又はさらなるステップを含む方法が含まれる。しかしながら、本方法は、好ましい実施形態では、ex vivoで行われる方法、すなわち、人体又は動物体に対して実施されない方法であることを理解されたい。本方法は、好ましくは自動化により支援することができる。
【0008】
本明細書において用いられる「診断する」という用語は、被験体がMS疾患に罹患しているか否かを評価することを意味する。当業者であればわかるであろうが、そのような評価は、検査される被験体の100%に対して正しいことが好ましいが、通常はそうでない可能性がある。しかしながら、この用語は、統計学的に有意な一部の被験体を正確に評価でき、従って診断することを必要とする。当業者であれば、労苦もなく、種々の周知の統計学的評価ツールを用いて、たとえば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、その一部が統計学的に有意であるかどうかを判定することが可能である。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見いだされる。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.2、0.1、0.05である。
【0009】
この用語は、MS又はその症候の個々の診断、並びに患者の継続的なモニタリングを含む。モニタリング、すなわち種々の時点におけるMS又はそれに付随する症候の存在又は不在の診断には、MSに罹患していることがわかっている患者のモニタリング、並びにMSを発症するリスクを有することがわかっている被験体のモニタリングが含まれる。さらに、モニタリングは、患者の治療が成功したかどうか、又は少なくともMSの症候が特定の治療によって徐々に改善しうるかどうかを判定するためにも用いられる。
【0010】
本明細書において用いられる「MS(多発性硬化症)」という用語は、それに罹患した被験体において長期の重篤な障害を引き起こす中枢神経系(CNS)の疾患に関する。MSの病因には、CNSの外側における脳炎誘発性の、すなわち自己免疫ミエリン特異的T細胞の活性化と、それに続いて血液脳関門の隙間、T細胞及びマクロファージの浸潤、ミクログリア活性化、脱髄、並びに不可逆的神経損傷が含まれる。MSの4つの標準化亜型の定義があり、これらもまた本発明において使用する上記用語に包含される:すなわち、再発寛解型、二次性進行型、一次性進行型及び再発進行型がある。再発寛解型は、予測不能な再発の後に、疾患の活動性の新たな兆候がない数ヶ月から数年の寛解を特徴としている。発病(活動性状態)の間に生じる欠陥は、消散するか又は後遺症として残る。これは、MSに罹患した被験体の85〜90%の初期過程を説明する。いわゆる良性MSの場合には、欠陥は、活動性状態の間に常に消散する。二次性進行型MSは、最初に再発寛解型MSを有し、続いて一定の寛解期間なく急性発病の間に進行性の神経減少を開始するものを説明している。時折の再発とわずかな寛解が生じうる。疾患の開始と、再発寛解型から二次性進行型MSへの変換との間の時間の中央値は、約19年である。一次性進行型は、最初のMS症候後に寛解を示すことのない約10〜15%の被験者を説明する。これは、寛解及び改善が全くない又は時折そしてわずかにしかなく、発症からの障害の進行を特徴としている。一次性進行型の発症年齢は、他の亜型よりも遅い年齢である。再発進行型MSは、発症から、安定な神経減少を示すが、明らかな多重型の発症を示す被験者を説明する。これは、全ての亜型の極めて稀なものである。また、上述した亜型の群に割り当てることのできない非定型MSの事例もいくつかある。
【0011】
MSに付随する症候としては、感覚変化(感覚鈍麻及び感覚異常)、筋力低下、筋攣縮、運動障害、協調及び平衡障害(運動失調)、会話障害(構音障害)又は嚥下障害(嚥下困難)、視覚障害(眼振、視神経炎、又は複視)、倦怠、急性又は慢性疼痛、排尿及び排便困難がある。症候として、種々の程度の認識機能障害、並びにうつ病又は情緒不安定の情動性症状も生じることがある。障害の進行及び症候の重度の主な臨床尺度は、総合障害度スケール(Expanded Disability Status Scale:EDSS)である。
【0012】
MSの別の症候は当技術分野で周知であり、Stedman又はPschyremblなどの医学の標準的な教科書に記載されている。
【0013】
本明細書において用いられる「バイオマーカー」という用語は、本明細書において記載する疾患又は効果の指標として機能する分子種を意味する。該分子種は、被験体のサンプル中に見いだされる代謝物質自体であってもよい。さらに、バイオマーカーはまた、該代謝物質に由来する分子種であってもよい。そのような場合、実際の代謝物質は、サンプル中で又は測定方法の過程で化学的に修飾されることがあり、その修飾の結果として、化学的に異なる分子種、すなわちアナライトが測定される分子種となる。そのような場合、アナライトは実際の代謝物質を表し、各医学的状態の指標として同じ可能性を有することが理解されよう。さらに、本発明において、バイオマーカーは、1つの分子種に必ずしも対応するものではない。むしろ、バイオマーカーは、化合物の立体異性体又はエナンチオマーを含みうる。さらにバイオマーカーは、異性体分子の1つの生物学的クラスの異性体の集合を表すこともある。その異性体は、ある場合には同じ分析特性を示し、従って、以下に記載する実施例において使用されている方法を含む種々の分析方法によっては区別することができない。しかし、異性体は、少なくとも同じ集合の式パラメータを有し、従って、例えば脂質の場合には、脂肪酸及び/又はスフィンゴ塩基部分において同じ鎖長及び同じ二重結合数を有する。
【0014】
本発明に係る方法において、上述のバイオマーカー群、すなわち表1及び/又は表2に示されるバイオマーカー群、の少なくとも1つの代謝物質を測定するものである。しかし、より好ましくは、評価の特異度及び/又は感度を強化するためにバイオマーカー群を測定しうる。そのような群は、表に示されるバイオマーカーの、好ましくは少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10又は最大全てを含む。本明細書に記載する具体的なバイオマーカーに加えて、他のバイオマーカーを同様に本発明の方法において測定することも好ましい。
【0015】
本発明の方法の好ましい実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーは、表1a及び/又は表2aに示されるバイオマーカーの群から選択される。かかるバイオマーカーの増加は、多発性硬化症の指標となる。
【0016】
本発明の方法の別の好ましい実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーは、表1b及び/又は表2bに示されるバイオマーカーの群から選択される。かかるバイオマーカーの減少は、多発性硬化症の指標となる。
【0017】
本明細書において用いられる代謝物質とは、特定の代謝物質の少なくとも1つの分子から特定の代謝物質の複数の分子までを指す。さらに、代謝物質の群とは、各代謝物質ごとに少なくとも1分子〜複数分子が存在しうる、複数の化学的に異なる分子を意味することが理解されよう。本発明において、代謝物質は、生物学的材料(生物など)に含まれるものをはじめとするすべてのクラスの有機又は無機の化学化合物を包含する。本発明において、代謝物質は、小分子化合物であることが好ましい。より好ましくは、複数の代謝物質が想定される場合、該複数の代謝物質とは、メタボローム、すなわち、特定の時間に特定の条件下で生物、器官、組織、体液又は細胞に含まれる代謝物質の集合を意味する。
【0018】
代謝物質とは、代謝経路の酵素の基質、そのような経路の中間体、又は代謝経路により得られる産物のような小分子化合物のことである。代謝経路は、当技術分野で周知であり、種間で異なりうる。好ましくは、該経路としては、少なくとも、クエン酸回路、呼吸鎖、解糖、糖新生、ヘキソース一リン酸経路、酸化的ペントースリン酸経路、脂肪酸の産生及びβ酸化、尿素回路、アミノ酸生合成経路、タンパク質分解経路(たとえばプロテアソームによる分解)、アミノ酸分解経路、次の物質の生合成又は分解が挙げられる:脂質、ポリケチド(たとえば、フラボノイド及びイソフラボノイドなど)、イソプレノイド(たとえば、テルペン、ステロール、ステロイド、カロテノイド、キサントフィルなど)、炭水化物、フェニルプロパノイド及びその誘導体、アルカロイド、ベンゼノイド、インドール、インドール硫黄化合物、ポルフィリン、アントシアン、ホルモン、ビタミン、補因子(たとえば補欠分子族又は電子伝達体)、リグニン、グルコシノレート、プリン、ピリミジン、ヌクレオシド、ヌクレオチド、及び関連分子、たとえば、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、又はmRNA。したがって、小分子化合物代謝物質は、好ましくは、次のクラスの化合物を包含する:アルコール、アルカン、アルケン、アルキン、芳香族化合物、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミン、イミン、アミド、シアニド、アミノ酸、ペプチド、チオール、チオエステル、リン酸エステル、硫酸エステル、チオエーテル、スルホキシド、エーテル、又は上述の化合物の組合せ若しくは誘導体。代謝物質のうちの小分子は、正常な細胞機能、器官機能、又は動物の成長、発生若しくは健康に必要とされる一次代謝物質でありうる。さらに、小分子代謝物質は、不可欠な生態学的機能を有する二次代謝物質、たとえば、生物をその環境に適応できるようにする代謝物質をも包含する。そのうえさらに、代謝物質は、一次代謝物質及び二次代謝物質に限定されるものではなく、人工小分子化合物をも包含する。そのような人工小分子化合物は、投与されるか又は生物により取り込まれるが上で定義したような一次代謝物質でも二次代謝物質でもない外因的に供給される小分子に由来する。たとえば、人工小分子化合物は、動物の代謝経路により薬物から得られる代謝産物でありうる。さらに、代謝物質は、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、及びポリヌクレオチド、たとえば、RNA又はDNAをも包含する。より好ましくは、代謝物質は、50Da(ダルトン)〜30,000Da、最も好ましくは30,000Da未満、20,000Da未満、15,000Da未満、10,000Da未満、8,000Da未満、7,000Da未満、6,000Da未満、5,000Da未満、4,000Da未満、3,000Da未満、2,000Da未満、1,000Da未満、500Da未満、300Da未満、200Da未満、100Da未満の分子量を有する。しかしながら、好ましくは、代謝物質は少なくとも50Daの分子量を有する。最も好ましくは、本発明において、代謝物質は50Da〜1,500Daの分子量を有する。
【0019】
本明細書において用いられる「サンプル」という用語は、体液、好ましくは、血液、血漿、血清、唾液、尿、若しくは脳脊髄液に由来するサンプル、又は生検などにより細胞、組織、若しくは器官、特に脳及び脊椎を含むCNSから得られるサンプルである。サンプルは、より好ましくは血液、血漿又は血清サンプルであり、最も好ましくは血漿サンプルである。生物学的サンプルは、本明細書中の他の箇所に明記されるような被験体に由来するものでありうる。上述のさまざまなタイプの生物学的サンプルを取得するための技術は、当技術分野で周知である。たとえば、血液サンプルは、血液採取により取得可能であり、一方、組織又は器官のサンプルは、例えば生検などにより取得可能である。
【0020】
上述のサンプルは、好ましくは、本発明の方法に使用される前に前処理される。以下にさらに詳細に記載されるように、この前処理としては、化合物の放出若しくは分離又は過剰の材料若しくは廃物の除去に必要な処理が挙げられる。好適な技術としては、化合物の遠心分離、抽出、分画、限外濾過、タンパク質沈降とそれに続く濾過及び精製、並びに/又は濃縮が挙げられる。さらに、化合物の分析に好適な形態又は濃度で化合物を提供するために、他の前処理が行われる。たとえば、本発明の方法でガスクロマトグラフィ連結質量分析を使用する場合、該ガスクロマトグラフィを行う前に化合物を誘導体化する必要があろう。好適な所要の前処理は、本発明の方法を実施するために使用される手段に応じて異なり、当業者に周知である。上に記載したように前処理されたサンプルもまた、本発明に従って用いられる「サンプル」という用語に包含される。
【0021】
本明細書において用いられる「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物を意味する。被験体は、より好ましくは霊長類であり、最も好ましくはヒトである。好ましくは、被験体は、MSを罹患していることが疑われるもの、すなわち該疾患に伴う症候の一部又は全てを既に示しているものである。
【0022】
本明細書において用いられる「量の測定」という用語は、サンプル中の本発明の方法によって測定すべきバイオマーカーの少なくとも1つの特徴的特性を測定することを意味する。本発明において特徴的特性とは、バイオマーカーの物理的性質及び/又は化学的性質(生化学的性質を包含する)を特徴付ける特性のことである。そのような性質としては、たとえば、分子量、粘度、密度、電荷、スピン、光学活性、色、蛍光、化学発光、元素組成、化学構造、他の化合物と反応する能力、生物学的読取り系で応答を引き起こす能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)などが挙げられる。該性質の値は、特徴的特性として機能しうる。また、当技術分野で周知の技術により測定可能である。さらに、特徴的特性は、標準的操作、たとえば、乗算、除算、又は対数計算のような数学的計算により、バイオマーカーの物理的性質及び/又は化学的性質の値から導かれる任意の特性でありうる。最も好ましくは、少なくとも1つの特徴的特性は、該少なくとも1つのバイオマーカー及びその量の測定及び/又は化学的同定を可能にする。従って、特性値はまた、その特性値を導いたバイオマーカーの存在量に関する情報を含むことが好ましい。例えば、バイオマーカーの特性値は、質量スペクトルのピークでありうる。かかるピークは、バイオマーカーの特徴的な情報、すなわちm/z情報又は質量/電荷比(又は率)、並びにサンプル中のそのバイオマーカーの存在量(すなわちその量)に関する強度値を含む。
【0023】
上述したように、サンプルに含まれる各バイオマーカーは、好ましくは、本発明に従って定量的又は半定量的に測定可能である。定量的測定では、本明細書において上で参照した特徴的特性(複数可)に関して測定される値に基づいて、バイオマーカーの絶対量若しくは正確な量が測定されるか又はバイオマーカーの相対量が測定されるかのいずれかであろう。バイオマーカーの正確な量を測定できないか又は測定しない場合、相対量を測定しうる。この場合、バイオマーカーの存在量が、該バイオマーカーを第2の量で含む第2のサンプルと対比して増加又は減少しているかどうかを、測定することが可能である。好ましい実施形態において、該バイオマーカーを含む第2のサンプルは、本明細書の他の箇所に記載されるように参照計算値であるべきである。従って、バイオマーカーの定量的分析は、バイオマーカーの半定量的分析と呼ばれることもある分析をも包含する。
【0024】
さらに、本発明の方法に使用される測定は、好ましくは、上で参照した分析ステップの前に化合物分離ステップを使用することを含む。好ましくは、該化合物分離ステップでは、サンプルに含まれる代謝物質の時間分解分離が得られる。したがって、好ましくは、本発明において使用される分離に好適な技術としては、すべてのクロマトグラフィ分離技術、たとえば、液体クロマトグラフィ(LC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、ガスクロマトグラフィ(GC)、薄層クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、又はアフィニティークロマトグラフィが挙げられる。これらの技術は、当技術分野で周知であり、当業者であれば労苦もなく適用可能である。最も好ましくは、LC及び/又はGCが、本発明の方法で想定されるクロマトグラフィ技術である。バイオマーカーのそのような測定に好適なデバイスは、当技術分野で周知である。好ましくは、質量分析、特には、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析若しくはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィ連結質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、任意の逐次連結質量分析、たとえばMS-MS若しくはMS-MS-MSなど、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析、又は飛行時間質量分析(TOF)が使用される。最も好ましくは、以下に詳細に記載されるようにLC-MS及び/又はGC-MSが使用される。これらの技術については、たとえば、Nissen, 1995, Journal of Chromatography A, 703:37-57、米国特許第4,540,884号、又は米国特許第5,397,894号(その開示内容は参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。質量分析技術の他の選択肢として又はそれに追加して、次の技術を化合物測定に使用可能である:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴イメージング(MRI)、フーリエ変換赤外分析(FT-IR)、紫外(UV)分光、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光、又はフレームイオン化検出(FID)。これらの技術は、当業者に周知であり、労苦もなく適用可能である。本発明の方法は、好ましくは、自動化により支援されるものとする。たとえば、サンプルの処理又は前処理をロボット工学により自動化することが可能である。データの処理及び比較は、好ましくは、好適なコンピュータプログラム及びデータベースにより支援される。上で本明細書に記載したような自動化を行えば、本発明の方法をハイスループット方式で使用することが可能である。
【0025】
さらに、少なくとも1つのバイオマーカーはまた、特異的な化学的アッセイ又は生物学的アッセイにより測定可能である。該アッセイは、サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーを特異的に検出できるような手段を含むものとする。好ましくは、該手段は、バイオマーカーの化学構造を特異的に認識可能であるか、又は他の化合物と反応する能力若しくは生物学的読取り系で応答を引き起こす能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)に基づいてバイオマーカーを特異的に同定可能である。バイオマーカーの化学構造を特異的に認識可能な手段は、好ましくは、化学構造(たとえば、レセプター若しくは酵素)と特異的に相互作用する抗体又は他のタンパク質である。たとえば、特異的抗体は、当技術分野で周知の方法によりバイオマーカーを抗原として用いて取得可能である。本明細書中で参照される抗体は、ポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の両方、さらにはそれらのフラグメント、たとえば、抗原又はハプテンに結合可能なFv、Fab、及びF(ab)2フラグメントを包含する。本発明はまた、所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とが組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体を包含する。さらに、一本鎖抗体も包含される。ドナー配列は、通常、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造上及び/又は機能上適合するアミノ酸残基をも含みうる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製可能である。バイオマーカーを特異的に認識可能な好適なタンパク質は、好ましくは、該バイオマーカーの代謝変換に関与する酵素である。該酵素は、バイオマーカーを基質として使用可能であるか又は基質をバイオマーカーに変換可能である。さらに、該抗体は、バイオマーカーを特異的に認識するオリゴペプチドを生成する基礎として使用可能である。これらのオリゴペプチドは、たとえば、該バイオマーカーに対する酵素の結合ドメイン又は結合ポケットを含むものとする。好適な抗体及び/又は酵素に基づくアッセイは、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫検査、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、又は固相免疫検査でありうる。さらに、他の化合物と反応する能力に基づいて、すなわち、特異的な化学反応により、バイオマーカーを測定することも可能である。さらに、生物学的読取り系で応答を引き起こす能力に基づいて、サンプル中のバイオマーカーを測定することが可能である。生物学的応答は、サンプルに含まれるバイオマーカーの存在及び/又は量を示す読取り値として検出されるものとする。生物学的応答は、たとえば、遺伝子発現の誘導又は細胞若しくは生物の表現型応答でありうる。好ましい実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーの測定は、定量的方法、例えばサンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーの量の測定もまた可能とする方法である。
【0026】
上に記載のように、少なくとも1つのバイオマーカーの測定は、好ましくは、質量分析(MS)を含む。本明細書において用いられる質量分析には、本発明に従って測定しようとする化合物、すなわちバイオマーカーに対応する分子量(すなわち質量)又は質量変数の測定を可能にする全ての技術が含まれる。本明細書において用いられる質量分析は、好ましくは、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析、逐次連結質量分析、例えばMS-MS若しくはMS-MS-MS、ICP-MS、Py-MS、TOF、又は上記技術を用いた併用手法に関する。これらの技術を適用する方法は当業者に周知である。さらに、好適なデバイスは市販されている。より好ましくは、本明細書において用いられる質量分析はLC-MS及び/又はGC-MS、すなわち、前のクロマトグラフィー分離ステップと動作可能に連結された質量分析に関する。より好ましくは、本明細書において用いられる質量分析には四重極MSが含まれる。最も好ましくは、四重極MSは以下のように実施する:(a)質量分析器の最初の分析四重極におけるイオン化により生じるイオンの質量/電荷指数(m/z)の選択、(b)衝突ガスで満たされ、衝突室として機能する、さらに次の四重極に加速電圧を印加することによる、ステップ(a)で選択されたイオンのフラグメンテーション、(c)さらに次の四重極における、ステップ(b)のフラグメンテーションプロセスにより生じるイオンの質量/電荷指数の選択であって、それにより上記方法のステップ(a)〜(c)は、イオン化プロセスの結果として物質の混合物中に存在する全てのイオンの質量/電荷指数の分析を少なくとも1回行い、それにより四重極が衝突ガスで満たされるが、加速電圧は分析中には印加されない。本発明において用いるべき最も好ましい質量分析についての詳細はWO 03/073464号に見出すことができる。
【0027】
より好ましくは、質量分析は、液体クロマトグラフィ(LC)MS及び/又はガスクロマトグラフィ(GC)MSである。本明細書において用いられる液体クロマトグラフィとは、液相又は超臨界相における化合物(すなわち代謝物質)の分離を可能にする全ての技術を意味する。液体クロマトグラフィは、移動相中の化合物が固定相を通過することを特徴とする。化合物が異なる速度で固定相を通過する場合には、これらは、個々の化合物の各々がその特異的な保持時間(すなわち、化合物がシステムを通過するのに必要な時間)を有するため、所定時間で分離される。本明細書において用いられる液体クロマトグラフィにはHPLCも含まれる。液体クロマトグラフィ用の装置は市販されており、例えばAgilent Technologies, USAから入手可能である。本発明において使用されるガスクロマトグラフィは、原理として、液体クロマトグラフィと同等に動作する。しかし、液体移動相中の化合物(すなわち代謝物質)を固定相を通過させるのではなく、化合物は気体容積中に存在する。化合物は、固定相として固体支持体材料を含むカラム、又は固定相として機能する若しくはそれでコーティングされた壁を通過する。同様に、各化合物は、カラムを通過するのに要する特異的な時間を有する。さらにガスクロマトグラフィの場合には、 好ましくは、ガスクロマトグラフィの前に化合物を誘導体化することが想定される。誘導体化の好適な技術は当技術分野で周知である。好ましくは、本発明において誘導体化は、好ましくは極性化合物のメトキシ化(methoxymation)及びトリメチルシリル化、並びに、好ましくは非極性(すなわち親油性)化合物のメチル基転移、メトキシ化(methoxymation)及びトリメチルシリル化に関する。
【0028】
「参照」という用語は、本明細書において記載する医学的症状、すなわち疾患の有無、疾患の状態又は効果に相関付けることのできる、各バイオマーカーの特徴的特性の値を意味する。好ましくは、参照は、検査対象のサンプルに見いだされる、閾値量と本質的に同じ又はそれより高い量が医学的状態の存在の指標となり、一方、低い量が医学的状態の不在の指標となる、バイオマーカーの閾値量である。また好ましくは、参照は、検査対象のサンプル中に見いだされる、閾値と同じ又はそれより低い量が医学的状態の存在の指標となり、一方、高い量が医学的状態の不在の指標となる、バイオマーカーの閾値量であってもよい。
【0029】
上述の本発明の方法において、参照は、好ましくは、MSに罹患していることがわかっている被験体由来のサンプルから得られる参照量である。このような場合、試験サンプル中に見いだされる少なくとも1つのバイオマーカーの本質的に同じ量は、疾患の存在の指標となる。さらに、参照は、同様に好ましくは、MSに罹患していないことがわかっている被験体、好ましくは見かけ上健康な被験体から得られる。このような場合、試験サンプル中に見いだされる少なくとも1つのバイオマーカーの、参照量と比較して変化した量は、疾患の存在の指標となる。参照計算値、最も好ましくは、検査される被験体を含む個体集団の少なくとも1つのバイオマーカーの相対量又は絶対量の平均値又は中央値にも同じことが当てはまる。該集団の個体の少なくとも1つのバイオマーカーの絶対量又は相対量は、本明細書中の他の箇所に明記されるように測定可能である。好適な参照値、好ましくは平均値又は中央値の計算方法は、当技術分野で周知である。上で参照した被験体集団は、複数の被験体、好ましくは、少なくとも5、10、50、100、1,000、又は10,000の被験体を含むものとする。本発明の方法により診断される被験体と該複数の被験体の被験体とは、同一種であることが理解されよう。
【0030】
特徴的特性の値、定量的測定の場合は強度値が本質的に同一であれば、試験サンプルの量と参照量とは本質的に同一である。本質的に同一とは、2つの量の差が、好ましくは、有意ではなく、強度の値が参照値に基づいて少なくとも1〜99パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、40〜60パーセンタイルの範囲内、好ましくは参照値に基づいて50、60、70、80、90、若しくは95パーセンタイルであることを意味する。2つの量が本質的に同じであるかどうかを決定するための統計学的検定は当技術分野で周知であり、また本明細書の他の箇所において記載されている。
【0031】
一方、2つの量について観察される差は統計学的に有意な差である。相対量又は絶対量の差は、好ましくは、参照値に基づいて、45〜55パーセンタイル、40〜60パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、1〜99パーセンタイルの著しい範囲外にある。好ましい変化及び調節倍率は、添付の表と実施例に記載している。
【0032】
好ましくは、参照、すなわち少なくとも1つのバイオマーカーの少なくとも1つの特徴的特性の値は、データベースのような好適なデータ記憶媒体中に記憶されて、従って、将来の評価にも利用可能となる。
【0033】
「比較」という用語は、バイオマーカーの測定量が、参照と本質的に同一であるか、又は参照と異なっているかを判定することを指す。好ましくは、バイオマーカーは、観察される差が本明細書の他の箇所で記載する統計学的手法により決定することができる、統計学的に有意である場合に、参照と差がある(異なる)とみなされる。差が統計学的に有意ではない場合には、バイオマーカーの量及び参照量は本質的に同一である。上に記載した比較に基づいて、被験体は、疾患に罹患しているか又は罹患していないと評価することができる。
【0034】
本明細書中で参照される具体的バイオマーカーの場合、相対量の変化(すなわち、調節「倍率」)の好ましい値又は調節の種類(すなわち、より多い若しくはより少ない相対量及び/若しくは絶対量をもたらす「上方」調節若しくは「下方」調節)は、以下の表及び実施例に示される。被験体において所与のバイオマーカーが「上方調節」されることがこれらの表で示されるのであれば、相対量及び/又は絶対量は増加するであろう。「下方調節」されるのであれば、バイオマーカーの相対量及び/又は絶対量は減少するであろう。さらに、変化「倍率」は、増加又は減少の度合いを示す。たとえば、2倍増加とは、1つの群(例えばMS群)の中央値が、他の群(例えば対照群)のバイオマーカーの量の中央値の2倍であることを意味する。
【0035】
比較は、好ましくは、自動化により支援される。たとえば、2つの異なるデータセット(たとえば、特徴的特性(複数可)の値を含むデータセット)を比較するためのアルゴリズムを含む好適なコンピュータプログラムを使用することが可能である。そのようなコンピュータプログラム及びアルゴリズムは、当技術分野で周知である。上に述べたとおりであるが、手動で比較を行うことも可能である。
【0036】
有利なことに、本発明の基礎となる研究において、前述した具体的バイオマーカーの量は、MSの指標であることが見いだされた。従って、原則として、サンプル中の前記バイオマーカーの少なくとも1つを用いて、被験体がMSに罹患しているかどうかを評価することができる。これは、特に、疾患の効率的な診断、並びにMSの前臨床及び臨床管理の改善、並びに患者の効率的なモニタリングに役立つ。さらに、本発明の基礎となる知見はまた、以下に詳しく記載するように、MSに対するさらに効果的な薬物に基づく治療法の開発も促進する。
【0037】
前文に記載した用語の定義及び説明は、以下に別途記載しない限り、必要な変更を加えて、以下に示す本発明の実施形態に準用する。
【0038】
本発明はまた、被験体が多発性硬化症の治療を必要とするかどうかを特定する方法であって、MSを診断する上記方法のステップと、多発性硬化症が診断された場合に被験体をその必要があると特定するさらなるステップを含む方法に関する。
【0039】
本明細書において用いられる「多発性硬化症の治療を必要とする」という表現は、被験体における疾患が、MS又はそれに付随する症候の改善又は治療のために治療的介入が必要である又は有益である状態にあることを意味する。従って、本発明の基礎となる研究の知見は、被験体におけるMSの診断を可能とするだけではなく、MS治療によって処置すべき被験体の特定をも可能とする。その被験体が特定された場合には、本方法は、MSの治療について推奨するステップをさらに含みうる。
【0040】
本発明に従って使用される多発性硬化症の治療は、好ましくは、以下:インターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、アザチオプリン、シクロホスファミド、ガラティラメル酢酸、免疫グロブリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ロイスタチン、IVIg、ナタリズマブ、テリフルノミド、スタチン、ダクリズマブ、アレムツズマブ、リツキシマブ、スフィンゴシン-1-リン酸アンタゴニストフィンゴリモド(FTY720)、クラドリビン、フマル酸エステル、ラキニモド、B細胞に影響する薬剤、及びCD49dに対するアンチセンス薬からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤の投与を含む又はその投与からなる治療に関する。
【0041】
さらに本発明は、多発性硬化症の治療が成功したかどうかを判定する方法であって、
(a)被験体の第1サンプル及び第2サンプルにおける、表1、表2、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップであって、第1サンプルは多発性硬化症の治療の開始前又は開始時に採取されたものであり、第2サンプルは該治療の開始後に採取されたものである上記ステップ、並びに
(b)第1サンプルにおける上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を第2サンプルにおける量と比較するステップであって、それにより第1サンプルと比較して第2サンプルにおいて測定された量の変化は多発性硬化症の治療が成功していることの指標となる上記ステップ
を含む方法を包含する。
【0042】
MS又は少なくともその一部の症候が非処置被験体と比較して治療又は改善されている場合に、MS治療は成功していると理解されうる。これは、好ましくは表1及び/又は表2に示されるバイオマーカーによって調べることができる。さらに、本明細書では、疾患の進行が阻止されるか又は非処置被験体と比較して少なくとも減速している場合にも治療は成功していることを意味する。これもまた、好ましくは表1及び/又は表2に示されるバイオマーカーによって調べることができる。さらに、疾患の進行は活動性状態の頻繁な発生頻度と関連しているため、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーによっても評価することができる。
【0043】
上記方法の好ましい実施形態において、上記変化は減少であり、少なくとも1つのバイオマーカーは表1a及び/又は表2aに示されるバイオマーカーから選択される。
【0044】
本発明の方法のまた別の好ましい実施形態において、上記変化は増加であり、少なくとも1つのバイオマーカーは表1b及び/又は表2bに示されるバイオマーカーから選択される。
【0045】
本発明はさらに、被験体において多発性硬化症の活動性状態を診断する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより多発性硬化症が診断される上記ステップ
を含む方法に関する。
【0046】
本方法に関して、参照量は、好ましくは、MSの安定状態を示す被験体から得られることが理解されよう。参照量は、疾患の安定状態を示すことがわかっている任意の被験体から得ることができる。これはまた、診断対象の被験体の以前のサンプルから参照量を導いたこと(以前のサンプルは、被験体が安定状態を示す段階に得られたものである)を含む。
【0047】
上記方法の好ましい実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーは、表3aに示されるバイオマーカーの群から選択されるものであり、その少なくとも1つのバイオマーカーの増加はMSの活動性状態の指標となる。
【0048】
上記方法の別の好ましい実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーは、表3b及び/又は表4に示されるバイオマーカーの群から選択されるものであり、その少なくとも1つのバイオマーカーの減少はMSの活動性状態の指標となる。
【0049】
本発明はまた、被験体が多発性硬化症を発症するリスクを有するかどうかを予測する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表1及び/又は表2に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより被験体が多発性硬化症を発症するリスクを有するかどうかが予測される上記ステップ
を含む方法に関する。
【0050】
本明細書において用いられる「予測(する)」という用語は、一般的に、サンプルを取得した後の特定の時間窓(すなわち予測窓)内に被験体が医学的症状又はそれに伴う症候を発症する可能性(確率)を決定することを意味する。こうした予測が、検査される被験体全て(100%)について正確である必要はないことは理解されよう。しかし、上記の予測は、被験体集団(例えばコホート研究の被験体群)の統計学的に有意な一部の被験体について正確であることが想定される。一部が統計学的に有意であるかどうかは、本明細書の他の箇所に記載する統計学的手法により決定することができる。
【0051】
被験体が多発性硬化症を発症するリスクを有するかどうかを予測する上記方法の好ましい実施形態において、本方法は、上記の(第1)サンプルを採取した後に採取された被験体のさらなる1以上のサンプルを用いて繰り返し行う。従って、最初の予測を行った後に予測を数回反復して行うことによって、本方法の予測力がさらに高まるだろう。
【0052】
また本発明は、被験体が多発性硬化症の活動性状態を発症するリスクを有するかどうかを予測する方法を想定している。かかる方法は、
(a)被験体のサンプルにおける、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより被験体が多発性硬化症の活動性状態を発症するリスクを有するかどうかが予測される上記ステップ
を含む。
【0053】
さらに、本発明は、被験体が多発性硬化症の活動性状態に対する治療を必要とするかどうかを特定する方法であって、被験体が多発性硬化症の活動性状態を発症するリスクを有するかどうかを予測する上記方法のステップと、被験体が多発性硬化症の活動性状態を発症するリスクを有すると予測された場合には被験体をその必要があると特定するさらなるステップを含む方法に関する。
【0054】
少なくとも1つのバイオマーカーを測定するための前述の方法は、デバイスに組み込むことができる。本明細書において用いられるデバイスは、少なくとも前述の手段を含むものである。さらにデバイスは、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーの検出された特徴的特性、同様に好ましくは測定されたシグナル強度の比較及び評価のための手段も含む。デバイスの手段は、好ましくは、互いに動作可能に連結されている。これらの手段を動作可能に連結する方法は、デバイスに組み込まれる手段の種類に応じて異なる。例えば、自動で定性的又は定量的にバイオマーカーを測定する手段を適用する場合には、評価を容易にするために、該自動動作手段により得られるデータを例えばコンピュータプログラムにより処理することが可能である。好ましくは、そのような場合、上記手段は単一のデバイスに組み込まれる。従って、上記デバイスは、バイオマーカーの分析ユニットと、得られたデータを評価のために処理するコンピュータユニットとを備えていてもよい。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識がなくても適用可能なもの、例えば単にサンプルをロードするだけでよい検査ストリップ又は電子デバイスである。
【0055】
他の選択肢として、少なくとも1つのバイオマーカーの測定方法は、好ましくは互いに動作可能に連結されたいくつかのデバイスを含むシステムに組み込むことが可能である。具体的には、上に詳細に記載したように本発明の方法を実施できるように手段を連結する必要がある。したがって、動作可能に連結された(operatively linked)とは、本明細書において用いられる場合、好ましくは、機能的に連結された(functionally linked)ことを意味する。本発明のシステムに使用される手段に応じて、該手段間のデータ伝送を可能にする手段、たとえば、ガラスファイバーケーブル及びハイスループットデータ伝送用の他のケーブルを用いて各手段を他の手段に接続することにより、該手段を機能的に連結することが可能である。それにもかかわらず、本発明では、たとえばLAN(無線LAN、W-LAN)を介する手段間の無線データ転送も想定される。好ましいシステムは、バイオマーカーを測定する手段を含む。本明細書において用いられるバイオマーカーの測定手段とは、バイオマーカーの分離手段(たとえばクロマトグラフィデバイス)、及び代謝物質の測定手段(たとえば質量分析デバイス)を含むものである。好適なデバイスについては、上に詳細に記載されている。本発明のシステムに使用される好ましい化合物分離手段としては、クロマトグラフィデバイス、より好ましくは液体クロマトグラフィ用、HPLC用、及び/又はガスクロマトグラフィ用のデバイスが挙げられる。好ましい化合物測定デバイスは、質量分析デバイス、より好ましくはGC-MS、LC-MS、直接注入質量分析器、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析器、逐次連結質量分析器(たとえばMS-MS若しくはMS-MS-MS)、ICP-MS、Py-MS又はTOFを含む。好ましくは、分離手段と測定手段とを互いに連結させる。最も好ましくは、本明細書中の他の箇所に詳細に記載されるように、LC-MS及び/又はGC-MSを本発明のシステムに使用する。さらに、バイオマーカーの測定手段から得られた結果の比較手段及び/又は分析手段も含まれるものとする。結果の比較手段及び/又は分析手段は、少なくとも1つのデータベース、及び結果を比較するために実装されたコンピュータプログラムを含みうる。また、上述のシステム及びデバイスの好ましい実施形態については、以下に詳細に記載する。
【0056】
従って、本発明は、以下:
(a)表1、1a、1b、2、2a、2b、3、3a、3b又は4のいずれかに示される少なくとも1つのバイオマーカーについての検出器を含む分析ユニットであって、該検出器により検出されるバイオマーカーの量を測定するために適合されている上記分析ユニットと、これと機能的に接続された、
(b)少なくとも1つのバイオマーカーの測定量と参照量との比較を実施するための具体的に埋め込まれたコンピュータプログラムコード、及びバイオマーカーに関する参照量を含むデータベースを備えたコンピュータを含む評価ユニットであって、それにより、少なくとも1つの代謝物質についての比較結果が、表1、1a、1b、2、2a、2b、3、3a、3b又は4のいずれかにおける少なくとも1つのバイオマーカーそれぞれについて示された調節の種類及び/又は調節倍率と本質的に同一である場合に、被験体における多発性硬化症、被験体が多発性硬化症の治療を必要とするか、又は多発性硬化症の治療の成功が特定される、上記評価ユニットと
を備えた診断デバイスに関する。
【0057】
好ましい実施形態において、上記デバイスは、表1、1a、1b、2、2a、2b、3、3a、3b又は4のいずれかにおける少なくとも1つのバイオマーカーそれぞれについて示された調節の種類及び/又は調節倍率の値を含む追加のデータベース、並びに測定された調節の種類及び/又は調節倍率の値と上記データベースに含まれるものとの比較を実施するための具体的に埋め込まれた追加のコンピュータプログラムコードを備える。
【0058】
さらに本発明は、上に記載の医学的状態又は効果の指標(すなわち、被験体における多発性硬化症の診断、被験体が多発性硬化症の治療を必要とするか否かの特定、又は多発性硬化症の治療が成功したか否かの判定)となる少なくとも1つのバイオマーカーの特性値を含むデータ集合に関する。
【0059】
「データ集合」という用語は、物理的及び/又は論理的に一まとめにしうるデータの集合を意味する。したがって、データ集合は、単一のデータ記憶媒体又は互いに動作可能に連結された物理的に分離されたデータ記憶媒体に組込み可能である。好ましくは、データ集合は、データベースを利用して実装される。したがって、本明細書において用いられるデータベースとは、好適な記憶媒体上のデータ集合を包含するものである。さらにデータベースは、好ましくは、データベース管理システムをも含む。データベース管理システムは、好ましくは、ネットワーク型、階層型、又はオブジェクト指向型のデータベース管理システムである。そのうえさらに、データベースは、連邦データベース又は統合データベースでありうる。より好ましくは、データベースは、分散型(連邦)システムとして、たとえばクライアントサーバシステムとして実装されるであろう。より好ましくは、データベースは、検索アルゴリズムにより試験データセットをデータ集合に含まれるデータセットと比較できるように構築可能である。具体的には、そのようなアルゴリズムを用いて、上に記載した医学的状態又は効果の指標となる類似又は同一のデータセットが得られるように、データベースを検索することが可能である(たとえば、クエリー検索)。したがって、データ集合で同一又は類似のデータセットを同定できれば、試験データセットは、該医学的状態又は効果と関連付けられるであろう。その結果として、データ集合から得られた情報を、例えば上述した本発明の方法のための参照として用いることが可能である。より好ましくは、データ集合は、上で記載した群のいずれかに含まれるすべての代謝物質の特性値を含む。
【0060】
上記を考慮して、本発明は、上述のデータ集合を含むデータ記憶媒体を包含する。
【0061】
本明細書において用いられる「データ記憶媒体」という用語は、単一の物理的要素に基づくデータ記憶媒体、たとえば、CD、CD-ROM、ハードディスク、光記憶媒体、又はディスケットを包含する。さらに、この用語は、好ましくはクエリー検索に好適な方式で、上述のデータ集合を提供するように互いに動作可能に連結された物理的に分離された要素よりなるデータ記憶媒体をも包含する。
【0062】
本発明はまた、
(a)サンプルの少なくとも1つのバイオマーカーの特性値を比較するための手段と、それと動作可能に連結された
(b)上に記載したようなデータ記憶媒体
とを含むシステムに関する。
【0063】
本明細書において用いられる「システム」という用語は、互いに動作可能に連結された異なる手段に関する。該手段は、単一のデバイスに組み込みうるか、又は互いに動作可能に連結された物理的に分離されたデバイスでありうる。バイオマーカーの特性値を比較するための手段は、好ましくは、上で述べたような比較用のアルゴリズムに基づいて動作する。データ記憶媒体は、好ましくは、それぞれの記憶データセットが上で記載した医学的状態又は効果の指標となる上述のデータ集合又はデータベースを含む。したがって、本発明のシステムを用いれば、データ記憶媒体に記憶されたデータ集合に試験データセットが含まれるかどうかを同定することが可能である。その結果として、本発明の方法は、本発明のシステムにより実施することができる。
【0064】
システムの好ましい実施形態では、サンプルのバイオマーカーの特性値を測定する手段が含まれる。「バイオマーカーの特性値を測定する手段」という用語は、好ましくは、代謝物質を測定するための上述のデバイス、たとえば、質量分析デバイス、NMRデバイス、又はバイオマーカーの化学的アッセイ若しくは生物学的アッセイを行うためのデバイスを意味する。
【0065】
さらに本発明は、上に記載した群のいずれかから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの測定手段を含む診断用手段に関する。
【0066】
「診断用手段」という用語は、好ましくは、本明細書中の他の箇所に詳細に明記されるような診断用デバイス、システム、又は生物学的アッセイ若しくは化学的アッセイを意味する。
【0067】
「少なくとも1つのバイオマーカーの測定手段」という表現は、バイオマーカーを特異的に認識可能なデバイス又は作用剤を意味する。好適なデバイスは、分光測定デバイス、たとえば、質量分析デバイス、NMRデバイス、又はバイオマーカーの化学的アッセイ若しくは生物学的アッセイを行うためのデバイスでありうる。好適な作用剤は、バイオマーカーを特異的に検出する化合物でありうる。本明細書において用いられる検出とは、二工程プロセスであってもよい。すなわち、最初に、化合物を検出対象のバイオマーカーに特異的に結合させ、続いて、検出可能なシグナル、たとえば、蛍光シグナル、化学発光シグナル、放射性シグナルなどを発生させることが可能である。検出可能なシグナルを発生させるために、さらなる化合物が必要になることもある。こうした化合物はすべて、「少なくとも1つのバイオマーカーの測定手段」という用語に包含される。バイオマーカーに特異的に結合する化合物は、本明細書中の他の箇所に詳細に記載されており、好ましくは、酵素、抗体、リガンド、レセプター、又はバイオマーカーに特異的に結合する他の生物学的分子若しくは化学物質などである。
【0068】
さらに本発明は、上に記載した群のいずれかから選択される少なくとも1つのバイオマーカーを含む診断用組成物に関する。
【0069】
上述した群のいずれかから選択される少なくとも1つのバイオマーカーは、バイオマーカー、すなわち本明細書の他の箇所に記載したように被験体の医学的状態又は効果についての指標分子として機能するだろう。従って、代謝物質分子自体は、診断用組成物として、好ましくは本明細書において記載する手段によって可視化又は検出する際の診断用組成物として機能しうる。従って、本発明に従ってバイオマーカーの存在を示す診断用組成物はまた、物理的にはバイオマーカー、例えば抗体の複合体を含んでもよく、検出対象の代謝物質は診断用組成物として機能する。そのため、診断用組成物はさらに、本明細書の他の箇所に記載される代謝物質の検出用手段を含んでもよい。あるいは、検出手段、例えばMS又はNMRに基づく技術を使用する場合には、リスク状態の指標として機能する分子種は、検査対象の試験サンプルに含まれる少なくとも1つのバイオマーカーでありうる。従って、本発明に関して記載する少なくとも1つのバイオマーカーは、バイオマーカーとしてその同定のために、それ自体が診断用組成物として機能しうる。
【0070】
全般的に、本発明は、多発性硬化症を診断するための、被験体のサンプルにおける、表1、2、1a、2a、又は1b、2bのいずれかに示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用、多発性硬化症の活動性状態を診断するための、被験体のサンプルにおける、表3、4、3a、4a又は3b、4bのいずれかに示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用、あるいは多発性硬化症を予測するための、被験体のサンプルにおける、表1及び/又は2のバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用、並びに多発性硬化症の活動性状態を予測するための、被験体のサンプルにおける、表3及び/又は4のバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの使用を包含する。
【0071】
本明細書において引用したすべての参照文献は、その開示内容全般に関して又は上に示した具体的な開示内容に関して、本明細書に参照として組み込むものとする。
【0072】
以下の実施例により、本発明を説明するが、該実施例によって本発明の範囲を制限又は限定する意図はない。
【実施例】
【0073】
実施例1:代謝物質の測定
ヒト血清サンプルを調製し、LC-MS/MS及びGC-MSに供した。
【0074】
サンプルを次の手順で調製した:タンパク質を血清から沈降により分離した。水、及びエタノールとジクロロメタンの混合物を加えた後、残留サンプルを極性の水相(極性画分)と親油性の有機相(脂質画分)に分画した。
【0075】
脂質抽出物のトランスメタノリシスのために、140μlのクロロホルム、37μlの塩酸(37重量%HCl水溶液)、320μlのメタノール及び20μlのトルエンの混合物を、蒸発させた抽出物に加えた。その容器を密封し、2時間100℃にて振とうしながら加熱した。次いで溶液を蒸発乾固させた。残留物を完全に乾燥した。
【0076】
カルボニル基のメトキシム化を、密封した容器中でメトキシアミン塩酸塩(ピリジン中の20mg/ml、100μl、1.5時間、60℃にて)との反応によって行った。奇数炭素数の直鎖脂肪酸の溶液20μl(3/7(v/v)ピリジン/トルエン中の、7〜25個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.3mg/mLと27、29及び31個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.6mg/mLの溶液)を時間標準として加えた。最後に、100μlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)による誘導体化を30分間60℃にて、密封した容器中で再び行った。GC中への注入前の最終体積は220μlであった。
【0077】
極性相については、次の手順で誘導体化を実施した。カルボニル基のメトキシム化を、密封した容器中でメトキシアミン塩酸塩(ピリジン中の20mg/ml、50μl、1.5時間、60℃にて)との反応によって行った。奇数炭素数の直鎖脂肪酸の溶液10μl(3/7(v/v)ピリジン/トルエン中の、7〜25個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.3mg/mLと27、29及び31個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.6mg/mLの溶液)を時間標準として加えた。最後に、50μlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)による誘導体化を30分間60℃にて、密封した容器中で再び行った。GC中への注入前の最終体積は110μlであった。
【0078】
GC-MSシステムはAgilent 5973 MSDと連結したAgilent 6890 GCから成る。自動サンプラーはCTCからのCompiPal又はGCPalである。
【0079】
分析については、通常の市販キャピラリー分離カラム(30m x 0.25mm x 0.25μm)を使用し、このカラムは分析すべきサンプル材料と相分離ステップからの画分に応じて0%〜35%の芳香族部分を含有する異なるポリ-メチル-シロキサン固定相を備えた(例えば: DB-1ms、HP-5ms、DB-XLB、DB-35ms、Agilent Technologies)。1μLまでの最終体積を分割せずに注入し、オーブン温度プログラムを70℃にてスタートし、十分なクロマトグラフィ分離と各アナライトピークの走査数を達成するために、サンプル材料と相分離ステップからの画分に応じて異なる昇温速度で340℃にて終了した。さらにRTL(Retention Time Locking(保持時間ロッキング)、Agilent Technologies)を分析に使用し、通常のGC-MS標準条件、例えば名目上1〜1.7ml/minの定常流、及び移動相ガスとしてヘリウム、イオン化を70eVの電子衝突で行い、m/z範囲15〜600内で2.5〜3走査/secの走査速度及び標準チューン条件により走査した。
【0080】
HPLC-MSシステムはAPI 4000質量分析計(Applied Biosystem/MDS SCIEX、Toronto、Canada)と連結したAgilent 1100 LCシステム(Agilent Technologies、Waldbronn、Germany)から構成された。HPLC分析は、市販のC18固定相(例えば:GROM ODS 7 pH、Thermo Betasil C18)を備えた逆相分離カラムで実施した。10μLまでの最終サンプル体積の蒸発させかつ再構成した極性及び親油性相を注入し、分離はメタノール/水/ギ酸又はアセトニトリル/水/ギ酸勾配を用いて200μL/minの流量にて勾配溶出により実施した。
【0081】
質量分析は、エレクトロスプレーイオン化により非極性画分(脂質画分)についてはポジティブモードでそして極性画分についてはネガティブモードで、多重反応モニタリング(MRM)モード及び100〜1000amuのフルスキャンを用いて行った。
【0082】
ステロイドとそれらの代謝物質はオンラインSPE-LC-MS(固相抽出-LC-MS)により測定した。カテコールアミンとそれらの代謝物質はYamada et al.(Yamada 2002, Journal of Analytical Toxicology, 26(1): 17-22))が記載したオンラインSPE-LC-MSにより測定した。
【0083】
血清サンプル中の複合脂質の分析:
クロロホルム/メタノールを用いる液/液抽出によって、血清から総脂質を抽出した。
【0084】
続いて、Christie 1985(Journal of Lipid Research (26), 507-512))に従って、順相液体クロマトグラフィ(NPLC)によって脂質抽出物を11の異なる脂質群へと分画した。
【0085】
遊離脂肪酸(FFA)、ジアシルグリセリド(DAG)、トリアシルグリセリド(TAG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、遊離ステロール(FS)、ホスファチジルセリン(PS)の脂質クラスをGCによって測定した。
【0086】
TMSH(水酸化トリメチルスルホニウム)による誘導体化を行った後に、GC-MSにより画分を分析したところ、クラスに分離された脂質のアシル部分に対応する脂肪酸メチルエステル(FAME)を得た。C14〜C24のFAMEの濃度を各画分で測定した。
【0087】
コレステリルエステル及びスフィンゴミエリンについてそれぞれ特異的な多重反応モニタリング(MRM)遷移の検出を有するエレクトロスプレーイオン化(ESI)及び大気圧化学イオン化(APCI)を用いて、脂質クラスのコレステリルエステル(CE)及びスフィンゴミエリン(SM)をLC-MS/MSにより分析した。
【0088】
実施例2:データ分析
血清サンプルは無作為化分析シーケンス設計で、各サンプルのアリコートから作製したプールサンプル(いわゆる「プール」)を用いて分析した。生ピークデータを、分析シーケンス当たりのプールの中央値に対して正規化してプロセスの変動性を説明した(いわゆる「比」)。
【0089】
包括的分析バリデーションステップの後、各アナライトについてのデータをプールサンプルからのデータに対して正規化した。これらサンプルは、プロセスの変動性を説明するために全プロセスを通して並行して実行した。
【0090】
多発性硬化症に罹患している患者70名、及び健常対照者59名からの血清サンプルを分析した。患者70名のうち、43名は多発性硬化症の安定段階にあったが、27名は活動性病変に罹患していた。全ての被験者についての他の臨床情報(例えば、性別、年齢、BMI、サンプル採取日、疾患状態、薬物治療、EDSS(総合障害度スコア:Expanded Disability Status Score)、及び治療)をこの分析に部分的に含めた。
【0091】
ウェルチ検定(不等分散を想定する2方向t検定)により群を比較し、ウェルチ検定のp値は統計学的有意性を示す。効果の大きさを示す、群当たりの代謝物質レベルの中央値の比が得られた。調節の種類は、各代謝物質について、参照に対して各群が増加(比>1、参照「倍率」とも呼ばれる)していれば「上方」、参照に対して減少(比<1、参照「倍率」とも呼ばれる)していれば「下方」として決定した。
【0092】
分析結果を、以下の表にまとめる。
【表1】




【表2】



【表3】



【表4】

【0093】
実施例1(代謝物質の測定)における種々の脂質クラスを指す表中の略称:
CE:コレステロールエステル
SM:スフィンゴミエリン
FFA:遊離脂肪酸
DAG:ジアシルグリセリド
TAG:トリアシルグリセリド
PI:ホスファチジルイノシトール
PE:ホスファチジルエタノールアミン
PC:ホスファチジルコリン
LPC:リゾホスファチジルコリン
FS:遊離ステロール
脂肪酸の略称法:
C24:1:炭素骨格中に24個の炭素原子及び1つの二重結合を有する脂肪酸。
【表5】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において多発性硬化症を診断する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表1及び/又は表2に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより多発性硬化症が診断される上記ステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
少なくとも1つのバイオマーカーが、表1a及び/又は表2aに示されるバイオマーカーの群から選択されるものであり、その少なくとも1つのバイオマーカーの増加は多発性硬化症の指標となる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのバイオマーカーが、表1b及び/又は表2bに示されるバイオマーカーの群から選択されるものであり、その少なくとも1つのバイオマーカーの減少は多発性硬化症の指標となる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
参照量が見かけ上健康な被験体から得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
被験体が多発性硬化症の治療を必要とするかどうかを特定する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法のステップと、多発性硬化症が診断された場合に被験体をその必要があると特定するさらなるステップを含む、上記方法。
【請求項6】
多発性硬化症の治療が成功したかどうかを判定する方法であって、
(a)被験体の第1サンプル及び第2サンプルにおける、表1、表2、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップであって、第1サンプルは多発性硬化症の治療の開始前又は開始時に採取されたものであり、第2サンプルは該治療の開始後に採取されたものである上記ステップ、並びに
(b)第1サンプルにおける上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を第2サンプルにおける量と比較するステップであって、それにより第1サンプルと比較して第2サンプルにおいて測定された量の変化は多発性硬化症の治療が成功していることの指標となる上記ステップ
を含む、上記方法。
【請求項7】
変化が減少であり、少なくとも1つのバイオマーカーが表1a及び/又は表2aに示されるバイオマーカーから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
変化が増加であり、少なくとも1つのバイオマーカーが表1b及び/又は表2bに示されるバイオマーカーから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
治療が、インターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、アザチオプリン、シクロホスファミド、ガラティラメル酢酸、免疫グロブリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ロイスタチン、IVIg、ナタリズマブ、テリフルノミド、スタチン、ダクリズマブ、アレムツズマブ、リツキシマブ、スフィンゴシン-1-リン酸アンタゴニストフィンゴリモド(FTY720)、クラドリビン、フマル酸エステル、ラキニモド、B細胞に影響する薬剤、及びCD49dに対するアンチセンス薬からなる群より選択される少なくとも1つの薬剤の投与を含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
被験体において多発性硬化症の活動性状態を診断する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより多発性硬化症が診断される上記ステップ
を含む、上記方法。
【請求項11】
少なくとも1つのバイオマーカーが、表3aに示されるバイオマーカーの群から選択されるものであり、その少なくとも1つのバイオマーカーの増加は多発性硬化症の活動性状態の指標となる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのバイオマーカーが、表3b及び表4に示されるバイオマーカーの群から選択されるものであり、その少なくとも1つのバイオマーカーの減少は多発性硬化症の活動性状態の指標となる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
参照量が多発性硬化症の安定状態を示す被験体から得られる、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
被験体が多発性硬化症を発症するリスクを有するかどうかを予測する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表1及び/又は表2に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより被験体が多発性硬化症を発症するリスクを有するかどうかが予測される上記ステップ
を含む、上記方法。
【請求項15】
被験体が多発性硬化症の活動性状態を発症するリスクを有するかどうかを予測する方法であって、
(a)被験体のサンプルにおける、表3及び/又は表4に示されるバイオマーカーから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの量を測定するステップ、並びに
(b)上記少なくとも1つのバイオマーカーの量を参照量と比較するステップであって、それにより被験体が多発性硬化症の活動性状態を発症するリスクを有するかどうかが予測される上記ステップ
を含む、上記方法。

【公表番号】特表2013−512444(P2013−512444A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541460(P2012−541460)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068508
【国際公開番号】WO2011/067243
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(511012983)メタノミクス ヘルス ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】