多発性硬化症を診断するための生物マーカー、及びその方法
本発明は、異なる型の多発性硬化症を診断及び鑑別診断するための方法を説明する。本方法は、臨床的に診断された再発寛解型又は一次性進行型の形態の多発性硬化症を罹病している患者に由来する試料内の、代謝産物と呼ばれる特定の低分子の強度を測定し、それらの強度を健常者の集団内で認められる強度と比較し、したがって多発性硬化症のマーカーを同定する。方法は、再発寛解型多発性硬化症に苦しむ被検者を、二次性進行型多発性硬化症から鑑別診断することも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床的に診断された多発性硬化症又は他の神経障害と正常な患者で有意に異なる存在量又は強度を有すると見出される低分子又は代謝産物に関する。本発明は、多発性硬化症及び他の神経障害、又は多発性硬化症若しくは他の神経障害に罹る危険のある個体を診断する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症は、30歳未満の人々が影響を受ける最も一般的な神経障害であり、中枢神経系(CNS、central nervous system)の最も一般的な疾患である癲癇のみに次ぐ2番目である(MacDonald、B.K., et al. The incidence and lifetime prevalence of neurological disorders in a prospective community-based study in the UK. Brain, 2000. 123: p. 665-76)。多発性硬化症は、局所的及び個別的区域での炎症並びにCNSの白質中の脱髄をもたらす自己免疫障害であると一般的に受け入れられている。
【0003】
北米での多発性硬化症の罹患率は、500人に1人から1000人に1人に及び、推定50,000人のカナダ人及び400,000人の米国人が影響を受け、世界中でおよそ二百万人が影響を受けている。疫学研究によると、女性はこの疾患を発症する可能性が2倍で、発症年齢は比較的早期(30歳がピーク)であり、北欧人の子孫である人々により高い感受性があることが明らかになっている(Martyn, C. Epidemiology. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992)。様々の学説によると、種々の環境要因(Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p. 55-70;Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992;Poser, C.M. Trauma and multiple sclerosis: an hypothesis. J Neuro, 1987. 234: p.155-9;Chelmicka-Schorr, E., and Amason, B.G. Nervous stem-immune system interactions and their role in multiple sclerosis. Ann Neurol, 1994. 36: p.29-s32)、免疫機能障害(Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p.55-70;Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992)、及び遺伝子異常(Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p. 55-70;Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992)がこの障害の発症に関与すると示唆されているが、病因は未だに不明である。ミエリンタンパク質に対する自己免疫反応をもたらすあらゆる要因が、多発性硬化症をもたらすと仮定するのが妥当である。病因に関わる最も受け入れられている学説では、幾つかの要因が考慮されており、遺伝的に感受性のある個体がウイルス又はトキシンなどの外来性の物体に曝露され、あるタイプの分子擬態を介してミエリンタンパク質に対する自己免疫反応が惹起されることが示唆されている。およそ5年〜15年前に、最初の臨床症状が明白に/歴然となった(Noseworthy, J.H., et al. Multiple sclerosis. N Engl J Med, 2000. 343: p.938-52)。
【0004】
多発性硬化症の病理学的な特徴は、斑又は病変として知られている、ミエリンが減少した個別的及び局所的区域である。これらの斑は、可変量の脱髄、グリオーシス、炎症、浮腫、及び軸索分解からなり得る(ffrench-Constant, C. Pathogenesis of multiple sclerosis. Lancet, 1994. 343: p.271-5)。斑の正確な位置は患者の間で異なるが、一般的な解剖学的パターンは歴然としている。ヒト脳内の斑は、室周囲、側頭葉内、脳梁内、視神経内、脳幹内、及び/又は小脳内に位置し、1つ又は複数の血管を取り囲む傾向がある(Noseworthy, J.H., et al. Multiple sclerosis. N Engl J Med, 2000. 343: p.938-52;Prineas. J.W., and McDonald, W.I. Demyelinating diseases. Arnold: London, 1997)。過半数の多発性硬化症患者は、脊髄頸部内に班を有する(Kidd, D., et al. Spinal cord MRI using multi-array coils and fast spin echo. II. Findings in multiple sclerosis. Neurology, 1993. 43: p.2632-7)。斑の生理学的な帰結は、感覚障害及び/又は運動障害として現れる神経インパルスの伝達の遅延又は遮断である。2000年には、Lucchinettiら(Lucchinetti, C.W., et al. Heterogeneity of multiple sclerosis lesions: implication for the pathogenesis of demyelination. Ann Neurol, 2000. 47: p.707-17)が、多発性硬化症斑の4つの特徴的パターンを、組織学的特性の観点から説明した。それらのパターンの2つは、脱髄がCNS内のミエリン産生細胞、すなわちオリゴデンドロサイトの破壊から生じることを示唆し、他の2つのパターンは、ミエリン破壊がT細胞又はT細胞に加えてミエリン鞘を標的にする抗体から生じることを示す。オリゴデンドロサイトが破壊される2つのパターンは、一方のパターンで特定のミエリンタンパク質が選択的に破壊されることで互いに異なる。T細胞を含有する脱髄病変は、一方のパターンで特徴的であるイムノグロブリンを含有する沈着及び補体の活性化のため異なる。多発性硬化症斑の4パターンの発見は、この障害の脱髄の過程が幾つかの様式で達成できることを示し、それ故、これらの斑の形成を引き起こす過程であればどれでも多発性硬化症の臨床的徴候をもたらすという考えを支持するため、重要であった。
【0005】
しかしながら、多発性硬化症斑の病理学検査は、主として、疾患の一時点でのスナップショットを表すに過ぎない死後組織に由来する点で問題がある。この組織の多くは、多発性硬化症に数年間罹病していた個体から取得され、したがって疾患の慢性期に由来する組織を代表する。死後組織は疾患の病理についての情報を幾らか提供できるが、どのように疾患が進行するのか又はどこで病変が始まったのかを解明できない。多発性硬化症病変をインビボで視覚化するためには、磁気共鳴画像法(MRI、Magnetic resonance imaging)が一般的に使用されている。しかしながら、病変の病理学的組成についての情報が提供できないため、多発性硬化症病変の研究にMRIを使用することには制限がある。
【0006】
多発性硬化症の初期診断は、典型的には、再発寛解型(RR型多発性硬化症)又は一次性進行型(PP型多発性硬化症)のいずれかである。PP型多発性硬化症は、患者の10〜15%の初期診断であり、疾患罹病中にいかなる臨床的寛解がない症状の漸進的悪化と定義される(Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992;Keegan. B.M., and Noseworthy, J.H. Multiple Sclerosis. Annu Rev Med, 2002. 52: 285-302)。RR型多発性硬化症は、80%の患者の初期診断であるように最も一般的な形態であり、少なくとも24時間続く臨床的な発病(再発)後に起こる部分的又は完全な回復(寛解)により定義される。RR型多発性硬化症患者の90%は、初期診断の20年以内に二次性進行型の形態の多発性硬化症(SP型多発性硬化症)に進み、症状が悪化し寛解期間は最終的に消失しよう。15年間以内のRR型多発性硬化症患者の幾らかは、症状の悪化及び長期の寛解期間を伴わずに再発をほとんど経験しないが、それらの患者は、良性多発性硬化症(BN型多発性硬化症)を発症したのであろう。現在、なぜ患者がPP型多発性硬化症又はRR型多発性硬化症のいずれかを初期に現すかを示す根拠はない。
【0007】
2001年には、マクドナルド診断基準(McDonald Criteria)(McDonald, W.I, et al. Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis: guidelines from the international panel on the diagnosis of multiple sclerosis. Ann Neurol, 2001. 50: 121-7)が公表され、多発性硬化症の診断が標準化された。この診断基準の基本的特徴は、時間及び空間の両方において多発性である病変の客観的根拠を含む。1)個体が2回の発症/再発を経験した場合及び2)複数の病変が時間及び空間により分離されている臨床的根拠がある場合、臨床的根拠だけで十分に診断の確定ができる。個体がこの臨床的診断基準に達していない場合は、MRI、脳脊髄液(CSF、cerebrospinal fluid)分析及び/又は視覚誘発電位(VEP、visual evoked potential)の追加的な準臨床的検査が実施される。MRIは、時間及び空間の両方において病変が多発性であることの客観的根拠を提供できるため、最も高感度で特異的な準臨床的検査である。CSF分析は、病変の免疫反応又は炎症反応の根拠を提供でき、臨床的症状及びMRI診断基準が満たされない際に診断を支援できるが、病変又は発症の時間的又は空間的多発性についての情報を提供できない。多発性硬化症におけるVEPは遅発性であるが、よく保たれた波形を示し、最初の病変が視覚経路に影響を与えない場合、第2の病変の根拠を提供するために使用できる。準臨床的検査により提供される補完的根拠は、a)多発性硬化症の罹病、b)多発性硬化症の非罹病、又はc)多発性硬化症の罹病の疑いのいずれかの診断をもたらすことができる。多発性硬化症を罹病していると診断された個体の大多数は、RR型多発性硬化症の形態を示し、そのため病変の時間的及び空間的多発性が歴然としていることが多い。しかしながら、PP型多発性硬化症では寛解期間がないため、準臨床的検査が診断を確定するために特に重要である。CSF分析及びMRI又はVEPのいずれかは、空間についての客観的根拠を提供するために取得しなければならず、その一方でMRIの使用及び1年間の連続した臨床的症状の進行は、時間的な多発性についての根拠を提供できる。
【0008】
これらの準臨床的検査を使用する以前は、医師が診断を確定できるまでに平均7年を費やしていた。今日、これらの検査を使用すると、数カ月以内にRR型多発性硬化症の診断を確定できる。マクドナルド診断基準は診断に必要な時間を大幅に減少させたが、多発性硬化症の疑いがあると診断される個体、又は最終的にPP型多発性硬化症の診断を受けることになる個体にとっては、この診断基準は不十分である。
【0009】
準臨床的検査は、多発性硬化症の診断を支援し、病変の多発性に関する情報を提供できるが、病変の病理学的組成に関する具体的な情報は得られない。加えて、準臨床的検査結果の解釈は主観的であり、訓練された人材の専門的知識が必要である。さらに、多発性硬化症斑の病理学検査及び準臨床的検査などの手段は、疾患に対する感受性についてはいかなる情報も提供しないが、むしろいったん症状が明白になった時点で使用される。
【非特許文献1】1.MacDonald, B.K., et al. The incidence and lifetime prevalence of neurological disorders in a prospective community-based study in the UK. Brain, 2000. 123: p. 665-76
【非特許文献2】2. Martyn, C. Epidemiology. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992
【非特許文献3】3.Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p. 55-70
【非特許文献4】4.Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992
【非特許文献5】5.Poser, C.M. Trauma and multiple sclerosis: an hypothesis. J Neuro, 1987. 234: p. 155-9
【非特許文献6】6.Chelmicka-Schorr, E., and Amason, B.G. Nervous stem-immune system interactions and their role in multiple sclerosis. Ann Neurol, 1994. 36: p.29-s32
【非特許文献7】7.Noseworthy, J.H., et al. Multiple sclerosis. N Engl J Med, 2000. 343: p.938-52
【非特許文献8】8.ffrench-Constant, C. Pathogenesis of multiple sclerosis. Lancet, 1994. 343: p.271-5
【非特許文献9】9.Prineas. J.W., and McDonald, W.I. Demyelinating diseases. Arnold: London, 1997
【非特許文献10】10.Kidd, D., et al. Spinal cord MRI using multi-array coils and fast spin echo. II. Findings in multiple sclerosis. Neurology, 1993. 43: p. 2632-7
【非特許文献11】11.Lucchinetti, C.W., et al. Heterogeneity of multiple sclerosis lesions: implication for the pathogenesis of demyelination. Ann Neurol, 2000. 47: p. 707-17
【非特許文献12】12.Keegan. B.M., and Noseworthy, J.H. Multiple Sclerosis. Annu Rev Med, 2002. 52: 285-302
【非特許文献13】13.McDonald, W.I, et al. Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis: guidelines from the international panel on the diagnosis of multiple sclerosis. Ann Neurol, 2001. 50: 121-7
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多発性硬化症又は他の神経障害を罹病している人と正常な患者で有意に異なる存在量又は強度を有すると見出される低分子又は代謝産物に関する。本発明は、それらの低分子又は代謝産物が前臨床的な病理学的状態の指標であり得る、多発性硬化症に伴う神経病理を有する人とそのような病理のない人で有意に異なる存在量又は強度を有する低分子又は代謝産物にも関する。本発明は、多発性硬化症及び他の神経障害を診断する方法にも関する。
【0011】
本発明は、1つ又は複数の疾患又は特定の健康状態の診断方法を発見、認証、及び実行するための新規な方法を提供する。特に、本発明は、試料内に存在する特定の低分子のレベルを測定し、それらを「正常な」参照レベルと比較することにより、ヒトの多発性硬化症を診断及び鑑別診断する方法を提供する。
【0012】
上述の方法により診断される神経障害のタイプは、多発性硬化症、又は他のタイプの脱髄性障害であり得る。ヒトから取得する試料は、血液試料であり得る。
【0013】
多発性硬化症(再発寛解型又は一次性進行型)に苦しむ被検者の診断及び/又は再発寛解型から二次性進行型多発性硬化症に推移する被検者の鑑別診断のための方法が提供される。
【0014】
本出願における特定の「健康状態」は多発性硬化症を指すものとするがそれに限定はされず、ハイスループットスクリーニング(HTS、high throughput screening)アッセイを含む本発明の方法は、以下のために使用できる:
1.個体から採取した任意の生体試料を使用して、複数の健康状態間を識別できる低分子代謝産物生物マーカーを同定すること;
2.本出願に記載のように、血清、血漿、全血、CSF、及び/又は他の組織生検内で同定された代謝産物を使用して健康状態を特異的に診断すること;
3.本出願で言及されている方法などの教師ありの統計的方法を使用して、最適な診断アッセイの性能統計に必要な最少数の代謝産物特徴を選択すること;
4.LC−MS/MS、MSn及びNMRを使用して、非標的メタボロミクス分析から選択された生物マーカー代謝産物の構造的特徴を同定すること;
5.血清、血漿、全血、CSF、唾液、尿、毛髪、及び/又は他の組織生検内の、選択された代謝産物のレベルをアッセイするためのハイスループットLC−MS/MS法を開発すること;及び
6.患者の血清又は他の生体液若しくは組織のフーリエ変換質量分析(FTMS、Fourier Transform Mass Spectrometry)の解析から明らかになった代謝産物特徴の任意の組合せのレベルを、質量分析、NMR、UV検出、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法、enzyme-linked immunosorbant assay)、化学反応、画像解析、又はその他を含むがそれらに限定はされない任意の方法を使用して決定することにより、所定の健康状態、又はある健康状態の発症の危険性を診断すること。
【0015】
本発明は、上述の方法で明らかになった特徴の任意の1つ又は組合せを使用して、1つ又は複数の健康状態について一般集団を長期的にモニタリング又はスクリーニングすることを提供する。
【0016】
本発明は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症と、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症と、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症と、本明細書中では参照試料とも呼ばれる正常試料で統計的に有意な差分存在量を有する数百の代謝産物質量も提供する。同定された代謝産物質量の中で、4から45個の間の代謝産物質量の最適なパネルが使用でき、又は任意の数、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、又は45個の代謝産物質量の最適なパネルを使用して、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症と、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症と、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症と正常な状態を鑑別できる。特定の、非限定的な実施例では、36個の代謝産物質量の最適なパネルが使用できる。
【0017】
本発明は、正常試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約257個の代謝産物質量のパネルも提供し(表1を参照)、さらなる実施例では、パネルは約240個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、9個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、正常試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用でき、例えば、9個の代謝産物のパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する物質を含み得る。
【0018】
また、本発明は、正常試料と比較して、血清試料内のPP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約100個の代謝産物質量のパネルを提供し(表2を参照)、さらなる実施例では、パネルは約60個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、5個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、正常試料と比較して、血清試料内のPP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用でき、例えば、5個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する物質を含み得る。
【0019】
加えて、本発明は、正常試料と比較して、血清試料内のSP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約226個の代謝産物質量のパネルを提供し(表3を参照)、さらなる実施例では、パネルは約129個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、18個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、正常試料と比較して、血清試料内のSP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用でき、例えば、18個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する物質を含み得る。
【0020】
さらに、本発明は、SP型多発性硬化症試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約142個の代謝産物質量のパネルも提供し(表4を参照)、さらなる実施例では、パネルは約135個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、6個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、本明細書中では参照試料とも呼ばれるSP型多発性硬化症試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の指標として使用でき、例えば、6個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する物質を含み得る。
【0021】
本発明は、本明細書中では参照試料とも呼ばれるRR型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症患者からSP型多発性硬化症への推移の診断指標として使用できる約148個の代謝産物質量のパネルをさらに提供し(表5を参照)、より特定の実施例では、5個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、RR型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症患者からSP型多発性硬化症への推移の初期神経病理変化の指標として使用でき、例えば、5個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する物質を含み得る。
【0022】
さらに、本発明は、本明細書中では参照試料とも呼ばれるSP型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症からSP型多発性硬化症への推移の診断指標として使用できる約309個の代謝産物質量のパネルを提供し(表6を参照)、さらなる実施例では、パネルは約42個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、8個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、SP型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症からSP型多発性硬化症への推移の初期神経病理変化の指標として使用でき、例えば、8個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、及び787.5452を有する物質を含み得る。
【0023】
本発明は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症又は臨床的に診断されたSP型多発性硬化症を罹病している1人又は複数の患者由来の1つ又は複数の試料を導入するステップであり、複数の代謝産物を含有する該試料を高分解能質量分析計、例えばフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTICR−MS、Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometer)に導入するステップと;代謝産物のデータを取得、同定及び定量化するステップと;該同定化及び定量化データのデータベースを生成するステップと;試料からのデータを、正常な被検者(多発性硬化症を罹病していない人)由来の試料からの対応するデータと比較、同定及び定量化するステップと;1つ又は複数の異なる代謝産物を同定するステップと;最適な診断のために必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップとを含む、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症を診断する方法をさらに提供する。
【0024】
本発明のさらなる実施形態では、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、又は臨床的に診断されたSP型多発性硬化症を罹病している1人又は複数の患者由来の1つ又は複数の試料を導入するステップであり、複数の代謝産物を含有する該試料をFTICT−MSに導入するステップと;代謝産物のデータを取得、同定及び定量化するステップと;該同定化及び定量化データのデータベースを生成するステップと;試料からの同定及び定量化データを、正常な被検者(多発性硬化症を罹病していない人)由来の試料からの対応するデータと比較するステップと;1つ又は複数の異なる代謝産物を同定するステップと;最適な診断のために必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップとを含む、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症に特異的な生物マーカーを同定する方法が提供される。RR型多発性硬化症の最適な診断のために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。PP型多発性硬化症の最適な診断のために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症の最適な診断のために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症からRR型多発性硬化症患者を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、及び787.5452を有する代謝産物からなる群から選択できる。RR型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、1つ又は複数の代謝産物マーカーを定量化するために患者由来の試料をスクリーニングするステップと、代謝産物マーカーの量を、正常な被検者(多発性硬化症を罹病していない人)由来の試料からの対応するデータと比較するステップとを含む、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症について該患者を診断する方法が提供される。RR型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。PP型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する代謝産物からなる群から選択できる。健常対照からSP型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症からRR型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、及び787.5452を有する代謝産物からなる群から選択できる。RR型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。
【0026】
本発明の1つの実施形態で、上記で参照された多発性硬化症生物マーカーの幾つかの分子式及び提唱構造を決定した。それらを以下にまとめる。その結果によれは、生物マーカーは、糖、リン脂質及びトコフェロールの誘導体であると考えられる。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
ヒト血清内の多発性硬化症に特異的な生物マーカーの同定は、侵襲性が最小限であるため極めて有用であり、臨床症状が出現する前に多発性硬化症病理の存在を検出するために使用できる。血清検査は侵襲性が最小限であり、一般集団により受け入れられよう。現在同定されている代謝産物質量は、RR型多発性硬化症と、PP型多発性硬化症と、SP型多発性硬化症と、正常な血清で統計的に有意な差分存在量を有することが見出され、それらの最適なパネルを抽出し、疾患存在の診断指標として使用できる。血清内の低分子又は代謝産物に基づく診断アッセイは、特定の代謝産物を検出可能な比較的単純で対費用効果の高いアッセイに発展させることができる。本方法を現行の臨床的化学検査機器と互換性がある臨床アッセイへ移行させることは、商業的に受容可能で効率的であり、急速な世界的普及をもたらし得る。さらに、検査を実施し解釈する高度に訓練された人材を雇用することがなくなろう。
【0034】
本発明は、健常者と比較して、RR型多発性硬化症及びPP型多発性硬化症を罹病している個体内で増加する分子のパネルに関するため、特定のタイプの多発性硬化症に対する感受性の指標として、又はその代わりに非常に初期の疾患発症の指標としてこの検査を使用できる。高度に正確な、血清内の多発性硬化症の素因アッセイの可能性は、この種のアッセイでは初めてとなろう。
【0035】
本発明が多発性硬化症の診断に与える影響は、危険性を評価するために文字通り全ての人を生涯にわたって長期的にスクリーニングできるため、多大であろう。本発明の検査の性能特性が一般集団を代表することを考慮すると、臨床症状の出現の前に疾患の進行を検出する可能性を有し得るため、この検査だけでも現在利用できる他の任意のスクリーニング方法より優れている可能性がある。
【0036】
本発明のこの概要は、本発明の全ての特徴を説明するとは必ずしも限らない。
【0037】
これらの及び他の本発明の特徴は、添付した図面が参照される以下の説明からより明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、臨床的に診断された多発性硬化症又は他の神経障害と正常な患者で有意に異なる存在量又は強度を有すると見出される低分子又は代謝産物に関する。本発明は、多発性硬化症及び他の神経障害を診断する方法にも関する。
【0039】
本発明は、1つ又は複数の疾患又は特定の健康状態の診断方法を発見、認証、及び実行するための新規な方法を提供する。特に、本発明は、試料内に存在する特定の低分子のレベルを測定し、それらを「正常な」参照レベルと比較することによりヒトの多発性硬化症を診断及び鑑別診断する方法を提供する。参照試料は、正常試料又は他の形態の多発性硬化症を罹病している患者由来の試料であり得る。試料は、それらに限定はされないが、血液、尿、唾液、毛髪、脳脊髄液(CSF)、生検又は剖検試料を含む任意の生体試料であり得る。本方法は、多発性硬化症を罹病している患者由来の試料内の、代謝産物とも呼ばれる特定の低分子の強度を測定し、それらの強度を健常な(非多発性硬化症の)個体の集団内で認められる強度と比較する。
【0040】
試料内で測定された低分子は、本明細書中では、「マーカー」、「生物マーカー」、又は「代謝産物」と呼ばれてもよい。代謝産物は、当技術分野で公知である任意の方法で、例えば、それらに限定されないが、質量(「代謝産物質量」又は「精密質量」とも呼ばれる)、分子式、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、MS/MS若しくはMSnスペクトル、分子構造、又はそれらの任意の組合せにより特徴付けることができる。「代謝産物特徴」という用語は、代謝産物、その断片、その類似体、又はその化学的等価物を指す。
【0041】
本発明は、本明細書中で開示された代謝産物の全て又はサブセットを使用して、任意のタイプ(複数可)の神経障害を診断又は除外することを企図する。神経障害のタイプは、アルツハイマー病(AD、Alzheimer's disease)、レビー小体型認知症(DLB、dementia with Lewy bodies)、前頭側頭様型認知症(FTD、frontotemporal lobe dementia)、血管誘発型認知症(例えば、多発脳梗塞性認知症)、無酸素現象誘発型痴呆症(例えば、心停止)、脳外傷誘発型認知症(例えば、拳闘家認知症[ボクサー認知症])、感染性作用物質への曝露から生じる認知症(例えば、クロイツフェルトヤコブ病)又は毒物への曝露から生じる認知症(例えば、アルコール誘発型認知症)、急性散在性脳脊髄炎、ギランバレー症候群、副腎白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経萎縮症、HTLV関連脊髄炎、クラッベ病神経障害、フェニルケトン尿症、カナバン病、ペリツェウスメルツバッハー病、アレキサンダー病、視神経脊髄炎、橋中央ミエリン溶解、異染性白質ジストロフィー、シルダー病、自閉症、多発性硬化症、パーキンソン病、双極性障害、虚血症、ハンチントン舞踏病、大うつ病性障害、閉鎖性頭部外傷、水頭症、健忘症、不安障害、外傷性脳障害、強迫性障害、統合失調症、精神遅滞、癲癇及び/又は免疫応答、脱髄、脊髄炎若しくは脳脊髄炎を伴う任意の他の状態を含むが、それらに限定されない。
【0042】
本発明は、ヒトから取得した試料内に存在する特定の低分子のレベルを測定し、それらを「正常な」参照レベルと比較することにより、多発性硬化症及びそのサブタイプを診断する方法を提供する。
【0043】
特定の集団内の所定の健康状態の生化学マーカーが存在するかどうかを決定するためには、その健康状態(すなわち特定の疾患)を代表する患者群及び「正常な」対応群が必要である。その後、FTMS及び/又はLC−MSを使用して試料に存在する生化学物質を分析して2つの群間の生化学的差異を同定するために、特定の健康状態の範疇にある患者から採取した生体試料を、類似の健康状態の範疇にある患者だけでなく正常集団から採取した同一試料と比較する。生体試料は、血液(血清/血漿)、脳脊髄液(CSF)、尿、便、唾液、又は腫瘍、隣接した正常な平滑筋及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、毛髪、脳、腎臓、膵臓、肺、大腸、胃、若しくはその他を含む任意の固形組織の生検を含むが、それらに限定されない体内の任意の場所が起源であり得る。特に関心があるのは、血清である試料である。「血清」という用語を本明細書中で使用するが、当業者であれば、血漿、全血、又は全血の亜分画が使用できることを認識しよう。
【0044】
特定の代謝産物を検出可能なアッセイの開発は比較的単純で対費用効果が高いため、試料内の低分子又は代謝産物に基づく本発明の方法は、理想的なスクリーニング検査を作り上げる。本検査は侵襲性が最小限で、多発性硬化症病理の指標であり、多発性硬化症のサブタイプを互いに鑑別するのに有用であり得る。本方法を、現行の臨床的化学検査機器に適合する臨床アッセイへ転換させることは、商業的に受容可能であり効率的である。さらに、本発明の方法は、検査を実施及び/又は解釈する高度に訓練された人材を必要としない。
【0045】
本発明は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症と、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症と、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症と、正常な血清で、統計的に有意な差分存在量を有すると見出された数百の代謝産物質量も提供する。
【0046】
非標的メタボロミクス戦略。多数の非標的メタボロミクス戦略は、NMR(Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82)、GC−MS(Fiehn, O., et al. Metabolite profiling for plant functional genomics. Nat Biotechnol, 2000. 18(11): p. 1157-61;Hirai, M.Y., et al., Integration of transcriptomics and metabolomics for understanding of global responses to nutritional stresses in Arabidopsis thaliana. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101(27): p. 10205-10;Roessner, U., et al., Metabolic profiling allows comprehensive phenotyping of genetically or environmentally modified plant systems. Plant Cell, 2001.13(1): p. 11-29)、LC−MS、及びFTMS戦略(Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82;Castrillo, J.I., et al., An optimized protocol for metabolome analysis in yeast using direct infusion electrospray mass spectrometry. Phytochemistry, 2003. 62(6): p. 929-37;Fiehn, O., Metabolomics-the link between genotypes and phenotypes. Plant Mal Biol, 2002. 48(1-2): p. 155-71;Aharoni, A., et al., Nontargeted metabolome analysis by use of Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry. Omics, 2002. 6(3): p. 217-34)を含む科学文献で説明されている。発現が異なる代謝産物を見出すために本出願で採用した代謝プロファイリング戦略は、Phenomenome Discoveries社が開発した非標的FTMS戦略であった(Roessner, U., et al., Metabolic profiling allows comprehensive phenotyping of genetically or environmentally modified plant systems. Plant Cell, 2001.13(1): p. 11-29;Aharoni, A., et al., Nontargeted metabolome analysis by use of Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry. Omics, 2002. 6(3): p. 217-34;Hirai, M.Y., et al., Elucidation of gene-to-gene and metabolite-to-gene networks in arabidopsis by integration of metabolomics and transcriptomics. J Biol Chem, 2005. 280(27): p. 25590-5;Murch, S.J., et al., A metabolomic analysis of medicinal diversity in Huang-qin (Scutellaria baicalensis Georgi) genotypes: discovery of novel compounds. Plant Cell Rep, 2004. 23(6): p. 419-25;Tohge, T., et al., Functional genomics by integrated analysis of metabolome and transcriptome of Arabidopsis plants over-expressing an MYB transcription factor. Plant J, 2005.42(2): p. 218-35;米国公開出願第2004−0029120号Al明細書、カナダ特許出願第2,298,181号明細書、及び国際公開第01/57518号パンフレットも参照されたい)。非標的分析は、事前にいかなる知識も持たずに、又は分析前に構成要素の選択をせずに、試料内のできるだけ多数の分子を測定することを含む。したがって、非標的分析が新規の代謝産物生物マーカーを見出す可能性は、事前の定義リストにある分子を検出する標的法と比較して高い。本発明は、
1.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と健常対照;
2.臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者と健常対照;
3.臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者と健常対照;
4.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者;
5.SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者;
5.SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者
で異なる血清試料内の代謝産物構成要素を同定する非標的法を使用する。
【0047】
試料処理。患者から血液試料を採血する場合、試料を処理し得る幾つかの方法がある。処理の範囲は、全くしない(すなわち、凍結全血)又は特定の細胞タイプの単離のように複雑であり得る。最も一般的で定常的な手順は、全血から血清又は血漿のいずれかを調製することを含む。本発明は、ろ紙又は他の固定物質などの固相支持体上に血液試料の染みを付けることを含む全ての血液試料の処理方法も企図する。
【0048】
試料の抽出。上述した処理済の血液試料を、その後さらに処理して、処理済の血清試料内に含有される生化学物質の検出及び測定に採用する系統的分析技術に適合させる。処理のタイプは、少ないところではさらなる処理無しから複雑なところでは差分抽出及び化学誘導体化まで及び得る。抽出法は、メタノール、エタノール、アルコール及び水の混合液、又は酢酸エチル若しくはヘキサンなどの有機溶媒など、一般的溶媒中での超音波処理法、ソックスレー抽出法、マイクロ波支援抽出法(MAE、microwave assisted extraction)、超臨界流体抽出法(SFE、supercritical fluid extraction)、高速溶媒抽出法(ASE、accelerated solvent extraction)、高圧液体抽出法(PLE、pressurized liquid extraction)、加圧熱水抽出法(PHWE、pressurized hot water extraction)、及び/又は表面活性剤支援抽出法(PHWE、surfactant assisted extraction)を含み得る。FTMS非標的分析用の代謝産物を抽出する好ましい方法は、無極性代謝産物が有機溶媒に溶解し、極性代謝産物が水性溶媒に溶解する液体/液体抽出を実施することである。
【0049】
抽出物の質量分析の解析。生体試料の抽出物は、直接注入又はクロマトグラフィー分離後のいずれかにより、基本的にあらゆる質量分析プラットフォームでの分析に適している。典型的な質量分析計は、試料内の分子をイオン化するイオン源、及びイオン化された分子又は分子の断片を検出する検出器から構成される。一般的なイオン源の例は、電子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI、electrospray ionization)、大気圧化学イオン化、大気圧光イオン化(APPI、atmospheric pressure photo ionization)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI、matrix assisted laser desorption ionization)、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI、surface enhanced laser desorption ionization)、及びそれらの派生型を含む。一般的な質量分離及び検出システムは、四重極型、四重極イオントラップ型、線形イオントラップ型、飛行時間型(TOF、time-of-flight)、磁場型、イオンサイクロトロン型(FTMS)、オービトラップ型、並びにそれらの派生型及び組合せを含み得る。FTMSがMSを基盤とする他のプラットフォームに優る点は、より低分解能の装置ではその多くが見逃されるであろう、わずか1ダルトンの数百分の1だけ異なる代謝産物の分離を可能にするその高度な分解能力である。
【0050】
訓練用分類指標。相互検証された訓練用分類指標を、マイクロアレイ予測解析(PAM)(http://www-stat.stanford.edu/〜tibs/PAM/)アルゴリズム(Tibshirani, R., et al., Diagnosis of multiple cancer types by shrunken centroids of gene expression. Proc Natl Acad Sci U S A, 2002. 99(10): p. 6567-72)を使用して生成した。本方法は、診断が既知である試料を使用して分類指標アルゴリズム訓練することを含み、その後盲検診断した試料(すなわち検査セット)に適用できる。人工神経回路網(ANN、artificial neural network)、サポートベクターマシン(SVM、support vector machine)、部分最小二乗識別分析法(PLSDA、partial least squares discriminative analysis)、亜線形連想法、ベイズ推論法、教師ありの主成分分析法、収縮重心法(shrunken centroid)又はその他を含む(概説はWu, B., et al., Comparison of statistical methods for classification of ovarian cancer using mass spectrometry data. Bioinformatics, 2003. 19(13): p. 1636-43を参照)幾つかの教師ありの方法が存在し、それらのいずれを使用しても最良の特徴セットを特定できる。
【0051】
実施例1〜4を参照し、分子式、MS/MS断片化パターン、及びNMRデータの類似性に基づき、診断特徴セットを含む同定された血清内の代謝産物、又はそのサブセットを化学的に関連付けることができる。加えて、FTMSデータセットに存在し、多発性硬化症集団内での存在量の増加も示し、同定したサブセットに類似した分子式を共有する他の関連化合物が多数存在する。したがって、その結果は、共通の構造的特性を共有する代謝産物類全体が、多発性硬化症患者において異常性であることを示唆する。理論に結びつけることは望まないが、これらの代謝産物レベルの制御に関与する生化学経路が、多発性硬化症患者では混乱している可能性があり、したがって想定される介入治療標的であり得る。考えうる介入のタイプは、関与経路に関わるタンパク質のアゴニスト若しくはアンタゴニストの開発及び/又は関与代謝産物の濃度を減少させるであろう栄養補助剤の開発又はこれらの代謝産物の濃度を減少させる前駆薬剤又は前駆栄養剤の開発を含む。
【0052】
本発明は、精密質量及び分子式の決定、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、及びMS/MS又はMSnスペクトルを含んでよい、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症の鑑別診断に使用する代謝産物の構造的特徴も提供する。これらの特徴を決定するために使用する技術は、C18カラムを使用する逆相LC−MS後のMSによる分析、衝突誘起解離(CID、collision induced dissociation)を使用したMS/MS断片化、磁気共鳴(NMR)、及び抽出を含むがそれらに限定されない。種々の方法により取得した代謝産物の特徴は、次に代謝産物の構造を決定するために使用する。
【0053】
本発明は、多発性硬化症及び正常な状態を鑑別診断するハイスループット法も提供する。本方法は親分子の断片化を含み、非限定的な例では、これはQ−Trap(商標)システムにより達成できる。代謝産物の検出は、比色化学アッセイ(UV、又は他の波長)、抗体に基づく酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、チップ及びPCRに基づく核酸検出用アッセイ、ビーズに基づく核酸検出法、尿検査化学アッセイ又はその他の化学反応、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放出断層撮影法(PET、positron emission tomography)スキャン、コンピュータ断層撮影法(CT、computerized tomography)スキャンなどの画像解析、磁気共鳴法(NMR)、及び種々の質量分析に基づくシステムを含む種々のアッセイプラットフォームの1つを使用して実施できる。
【0054】
本発明の代謝産物及び方法は、病歴、神経画像解析、誘発電位、及び脳脊髄液内のタンパク質性及び炎症性要素の脳脊髄液分析を含む現行の多発性硬化症用の診断手段と組み合わせることもできる。画像技術は、構造的磁気共鳴画像法(MRI)、造影MRI、陽電子放出断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影法(CT)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、脳波記録法(EEG、electroencephalography)、単陽電子放出断層撮影法(SPECT、single positron emission tomography)、事象関連電位法、脳磁気図検査法、及び/又は多様な画像法を含むがそれらに限定されない。臨床的評価は、Kurtzkeの総合障害度評価尺度(EDSS、extended disability status scale)、多発性硬化症インパクト尺度(MSIS、multiple sclerosis impact scale)、スクリプス神経評価尺度(NRS、neurologic rating scale)、歩行指標(AI、ambulation index)、MS関連症状尺度、MS患者用15項目日常生活活動セルフケア尺度、労働不能状態尺度、機能的自立尺度、及び/又は核間性眼筋麻痺を含むがそれらに限定されない。当業者であれば、本明細書中に記載の代謝産物及び方法と現行の技術を組み合わせることは、任意の形態の多発性硬化症及び/又はその病理を診断又は鑑別する可能性を有すると認識しよう。
【0055】
以下の実施例で本発明をさらに例証する。
【実施例1】
【0056】
発現が異なる代謝産物の同定
発現が異なる代謝産物を、健常対照と同様に、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症に罹病している個体で同定する。
【0057】
臨床試料。上述の多発性硬化症血清診断アッセイ用の試料は、健常者並びに臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者を代表する集団から取得した。本発明に記載のRR型多発性硬化症の生化学マーカーは、RR型多発性硬化症と臨床的に診断された患者由来の93個の血清試料、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症を罹病している18人の患者由来の血清試料、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症を罹病している22人の患者由来の血清試料、及び対照由来の51個の血清試料の分析から導き出された。RR型多発性硬化症を罹病している93人の患者を、さらに2群:依然として再発寛解型の疾患経過を示す患者(平均罹病期間は5.9年、n=46)及び慢性的二次性進行型の疾患経過へ推移する患者(平均罹病期間は11.4年、n=47)のうちの1つに分割した。4群の試料は、様々な非多発性硬化症関連の健康状態を示す、幅広い年齢、デモグラフィック、体重、職業にわたる個体の多様な集団に由来した。試料は全て、同時に採取した。
【0058】
本実施例で使用した184個の血清試料内に含有される代謝産物を、超音波処理及び激しい攪拌(ボルテックス攪拌)を介して極性及び無極性抽出物に分離した。
【0059】
184人(93人の臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、18人の臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、22人の臨床的に診断されたSP型多発性硬化症、及び51人の健常対照)から採取した血清抽出物の分析は、FTMSへの直接注入並びにESI又は大気圧化学イオン化(API)のいずれかによる、ポジティブ及びネガティブの両モードでのイオン化により実施した。試料抽出物は、ネガティブイオン化モード用には、メタノール:0.1%(v/v)水酸化アンモニウム(50:50、v/v)中に、又はポジティブイオン化モード用には、メタノール:0.1%(v/v)ギ酸(50:50、v/v)中に、3倍又は6倍のいずれかに希釈した。APCI用には、試料抽出物を希釈せずに直接注入した。分析は全て、7.0Tアクティブシールド超伝導磁石を備えたBruker Daltonics社製APEX IIIフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(Bruker Daltonics社製、Billerica、MA)で実施した。試料は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びAPCIを使用して、毎時1200μLの流速で直接注入した。イオン移動/検出パラメータは、セリン、テトラアラニン、レセルピン、ヒューレットパッカード調整混合物及び副腎皮質刺激ホルモン断片4〜10の標準混合物を使用して最適化した。加えて、装置の製造業者の推奨に従って装置条件を調整し、100〜1000amuの質量範囲にわたるイオン強度及び広域帯集積を最適化した。100〜1000amuの取得範囲にわたる質量の精度のため、上記で言及した標準物質の混合物を使用して各試料スペクトルを内部的に較正した。
【0060】
抽出物及びイオン化モードの組合せを含む全部で6つの個々の分析が各試料で得られた:
水性抽出物
1.ポジティブESI(分析モード1101)
2.ネガティブESI(分析モード1102)
有機抽出物
3.ポジティブESI(分析モード1201)
4.ネガティブESI(分析モード1202)
5.ポジティブAPCI(分析モード1203)
6.ネガティブAPCI(分析モード1204)
【0061】
質量分析のデータ処理。線形最小二乗回帰直線を使用して、各内部標準の質量ピークが理論的質量と比較して<1ppmの質量誤差になるように質量軸の値を較正した。Bruker Daltonics Inc.社製のXMASSソフトウエアを使用して、1メガワードのサイズのデータファイルを取得し、2メガワードまでゼロ挿入を行った。フーリエ変換及び振幅計算の前に、sinmデータ変換を実施した。各分析からの質量スペクトルを統合して、各ピークの精密質量及び絶対強度を含むピークリストを作成した。100〜2000m/zの範囲の化合物を分析した。異なるイオン化モード及び極性にわたるデータを比較及びまとめるために、水素付加体形成を前提にして、検出した全質量ピークを対応する中性質量に変換した。次いで、DISCOVAmetrics(商標)ソフトウエア(Phenomenome Discoveries Inc.社製、Saskatoon、SK、カナダ)を使用し、自己生成型2次元(質量対試料強度)アレイを生成した。多ファイルからのデータを統合し、次にこの一体化ファイルを処理して全ての個有質量を決定した。各個有質量の平均を決定し、y座標とした。この値は、統計的に等しいと決定した検出済の全精密質量の平均を表す。この装置のこの較正標準物質での質量精度がおよそ1ppmであることを考慮すると、当業者であれば、これらの平均質量は、この平均質量の±5ppm内に入る個々の質量を含むことができることを認識しよう。分析のために最初に選択した各ファイル毎に列を生成し、それをx座標とする。次に、選択したファイルの各々に見出される各質量の強度を、それが対応するx、y座標に書き込んだ。強度値を含まなかった座標は、空白のまま残した。いったんアレイ内に書き込まれると、データはさらに処理、視覚化、及び解釈され、推定される化学的同一性が帰属された。次に、各スペクトルをピークピックして、検出した全代謝産物の質量及び強度を取得した。次に、全モードからのこれらのデータを融合させ、試料毎に1つのファイルを作成した。次に、全184個の試料からのデータを融合及び整列させ、各試料が列により表され、各個有代謝産物が単一の行により表される代謝産物の2次元アレイを作成した。代謝産物試料の所定の組合せに対応するセル内に、その試料内の代謝産物の強度を表示した。データをこの書式で表すと、試料群間で差異を示す代謝産物を決定できる。
【0062】
高度なデータ解釈−血清生物マーカー。スチューデントt検定を使用して、以下の異なる臨床群の間で有意に異なった血清内の代謝産物を選択した:
1.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=46)及び対照(n=51)、[240個の代謝産物、表1を参照];
2.臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者(n=18)及び対照(n=51)、[60個の代謝産物、表2を参照];
3.臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者(n=22)及び対照(n=51)、[129個の代謝産物、表3を参照];
4.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=46)及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症(n=22)、[135個の代謝産物、表4を参照];
5.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=46)及びSP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=47)、[148個の代謝産物、表5を参照];
6.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=47)、及びSP型多発性硬化症患者(n=22)、[42個の代謝産物、表6を参照]。
【0063】
p<0.05より小さい代謝産物が有意であると見なされた。
【0064】
表1〜6は、血清中の濃度又は量が検査集団間で有意に異なり(p<0.05)、したがって前述の各集団を特定するための潜在的な診断的有用性を有する代謝産物特徴を示す。特徴は精密質量及び分析モードにより説明され、それらは合わせて、各代謝産物の推定分子式及び化学的特性(極性及び推定官能基など)を提供するのに十分である。
【0065】
各臨床ペアについては、前述のように、相互検証された訓練用分類指標をPAMアルゴリズムを使用して生成した。診断が既知である試料を使用して分類指標アルゴリズムを訓練し、次いで盲検試料(すなわち検査セット)に適用した。
【0066】
最少数の代謝産物で取得した最も低い訓練用分類指標を、それぞれの臨床ペア用に選択した。図1Aのグラフは、種々の閾値(使用者が定義可能なPAMパラメータ)で所定の訓練誤差を達成するのに必要な代謝産物の数を示す。このプロットは、誤差率が22%より少ない(0.22訓練誤差)訓練用分類指標が、5つの代謝産物特徴で可能であることを示す(閾値がおよそ3.59、矢印を参照)。図1Bのグラフは概念的に1Aのグラフと類似しているが、1Bのグラフは、PAMプログラムに組み込まれている相互検証手順に従った、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び対照患者用の訓練済分類指標の誤分類誤差を示す。菱形により結ばれた直線は以前の結果を反映し、対照についての相互検証された最小誤分類誤差がわずか5個の代謝産物を使用して達成されたことを示す。このグラフは、わずか3つの代謝産物特徴を使用しただけで、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(四角で描かれている)が93%の精度でRR型多発性硬化症を罹病していると診断されたが、この閾値では対照の誤分類が66%(矢印参照)であったことを示す。RR型多発性硬化症患者及び対照の各々の相互検証された診断確率を個別に図2に示す。臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者は全てグラフの右側に、対照は左側に列挙する。各試料はグラフ上の2点を含み、1つはRR型多発性硬化症を罹病している確率(四角)を示し、もう1つはRR型多発性硬化症を罹病していない確率(すなわち正常、菱形)を示す。このグラフから、6つのRR型多発性硬化症試料が非多発性硬化症と分類され、5つの対照がRR型多発性硬化症と分類された。5個の代謝産物を表7に列挙した。次いでJROCFIT(http://www.rad.jhmi.edu/jeng/javarad/roc/JROCFITi.html)を使って受信者動作特性(ROC)曲線を図3に生成するために予測された確率を使用したが、これは真陽性画分(RR型多発性硬化症を罹病していると予測されたRR型多発性硬化症を罹病している人々)対偽陽性画分(RR型多発性硬化症を罹病していると予測された対照個体)を示す。曲線下面積は81.4%であり、感度が94.3%、及び特異性が72.5%である。全体的に見て、相互検証設計に基づく診断精度は、81.4%である。
【0067】
上記第1の主成分分析は、各臨床ペアの最適な代謝産物の初期同定を可能にした。これらの知見を確認するために、第2のPAM分析を実施した。各臨床ペアについての第2の分析(以下で考察)は、一般的に第1の主成分分析より多数の代謝産物を提供した。この代謝産物の拡張セットから、臨床的な健康状態間を鑑別するための最良な候補を同定し、それらは一般的に初期に同定した代謝産物に対応した。
【0068】
第2のPAM法では、各臨床ペアの試料を無作為に半分に分割し、一方の半分を使用して分類指標を生成し、他の半分を診断用の盲検「検査セット」として使用した。第1の方法はより多くの試料を使用して分類指標を生成するため、その予測精度が第2の手法より高いことが期待され、したがって高い診断精度のためにより少数の代謝産物を必要としよう。臨床的に診断されたRR型多発性硬化症の全患者の先行実施例に従い、訓練セットは30人の臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び26人の対照で構成した。盲検検査試料がRR型多発性硬化症特異的であるか又は対照であるかのいずれかの予測確率を、図4にプロットする。結果は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症試料の4つに、対照であることのより高い確率が与えられ、4つの対照に、RR型多発性硬化症であることのより高い確率が与えられたことを示す。これらの試料を使用して誤分類誤差を最も低くするために必要な代謝産物の最適数は、表8に列挙した16個である。次に、分類指標を使用して残りの試料(盲検;17人の臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び25人の対照)の診断を予測した。表9は、検査セットで使用した患者並びに彼らの実際の及び予測された診断を含む。次いで、図4からの確率をROC曲線に変換した(図5)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が76.5%、特異性が84.0%、及び全体的な診断精度は81.0%であった。
【0069】
PAM分析を各臨床ペアについて繰り返した。誤分類誤差を最小にするのに必要な代謝産物の最適数と共に、各訓練用セットで使用した試料数を表10に列挙する。次に訓練セット用の分類指標を使用し、各臨床ペアについて、残りの試料の診断の予測をした。
【0070】
i)臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者及び対照。表11は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表11からの確率をROC曲線に変換した(図6)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が44.4%、特異性が92%、及び全体的な診断精度は79.4%であった。
【0071】
ii)臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者及び対照。表12は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表12からの確率をROC曲線に変換した(図7)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が63.6%、特異性が100%、及び全体的な診断精度は88.9%であった。
【0072】
iii)臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及びSP型多発性硬化症患者。表13は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表13からの確率をROC曲線に変換した(図8)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が88.9%、特異性が100%、及び全体的な診断精度は97.1%であった。
【0073】
iv)SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者[RR−SP]及びRR型多発性硬化症患者。表14は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表14からの確率をROC曲線に変換した(図9)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が100%、特異性が92.3%、及び全体的な診断精度は95.7%であった。
【0074】
v)SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者[RR−SP]及びSP型多発性硬化症患者。表15は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表15からの確率をROC曲線に変換した(図10)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が72.7%、特異性が95.5%、及び全体的な診断精度は87.9%であった。
【0075】
約240個の代謝産物の初期パネル及び約16個の代謝産物の拡張セットを使用して、9個の代謝産物の組合せが、正常試料と比較したRR型多発性硬化症の血清診断検査の診断基準を満たすことが判定された。9個の代謝産物の最良の組合せは、質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物を含む。これらは実際の質量であるが、当業者であれば、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すと認識しよう。
【0076】
約60個の代謝産物の初期パネル、及び約7個の代謝産物の拡張セットを使用して、5個の代謝産物の組合せが、正常試料と比較したPP型多発性硬化症の血清診断検査の診断基準を満たすことが判定された。5個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する代謝産物を含む。
【0077】
約129個の代謝産物の初期パネル、及び約16個の代謝産物の拡張セットを使用して、18個の代謝産物の組合せが、正常試料と比較したSP型多発性硬化症の血清診断検査の診断基準を満たすことが判定された。18個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する代謝産物を含む。
【0078】
約135個の代謝産物の初期パネル、及び約16個の代謝産物の拡張セットを使用して、6個の代謝産物の組合せが、SP型多発性硬化症と比較したRR型多発性硬化症の血清指標についての診断基準を満たすことが判定された。6個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する代謝産物を含む。
【0079】
約148個の代謝産物の初期パネル、及び約9個の代謝産物の拡張セットを使用して、5個の代謝産物の組合せが、RR型多発性硬化症患者と比較した、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP]の血清指標についての診断基準を満たすことが判定された。5個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物を含む。
【0080】
約42個の代謝産物の初期パネル、及び約17個の代謝産物の拡張セットを使用して、8個の代謝産物の組合せが、SP型多発性硬化症患者と比較した、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP]の血清指標についての診断基準を満たすことが判定された。8個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、787.5452を有する代謝産物を含む。
【0081】
異なる臨床群の生物マーカーの平均±SEMを表す棒グラフを図11〜16に示す。対照個体に対する3つの非対照状態は、以下のように記述できる:
1.RR型多発性硬化症対対照:
a.生物マーカー 452.3868−増加
b.生物マーカー 496.4157−増加
c.生物マーカー 524.4448−増加
d.生物マーカー 540.4387−増加
e.生物マーカー 578.4923−増加
f.生物マーカー 580.5089−増加
g.生物マーカー 594.4848−増加
i.生物マーカー 596.5012−増加
h.生物マーカー 597.5062−増加
2.PP型多発性硬化症対対照:
a.生物マーカー 202.0453−増加
b.生物マーカー 216.0400−増加
c.生物マーカー 243.0719−増加
d.生物マーカー 244.0559−増加
e.生物マーカー 857.7516−増加
3.SP型多発性硬化症対対照:
a.生物マーカー 194.0803−減少
b.生物マーカー 428.3653−増加
c.生物マーカー 493.3850−減少
d.生物マーカー 541.3415−減少
e.生物マーカー 565.3391−減少
f.生物マーカー 576.4757−減少
g.生物マーカー 578.4923−減少
h.生物マーカー 590.4964−減少
i.生物マーカー 594.4848−減少
j.生物マーカー 595.4883−減少
k.生物マーカー 596.5012−減少
l.生物マーカー 596.5053−減少
m.生物マーカー 597.5062−減少
n.生物マーカー 597.5068−減少
o.生物マーカー 805.5609−増加
p.生物マーカー 806.5643−増加
q.生物マーカー 827.5446−増加
r.生物マーカー 886.5582−減少
【0082】
RR型多発性硬化症患者に対する2つの慢性臨床群は、以下のように記述できる:
1.SP型多発性硬化症対RR型多発性硬化症:
a.生物マーカー 540.4387−減少
b.生物マーカー 576.4757−減少
c.生物マーカー 594.4848−減少
d.生物マーカー 595.4883−減少
e.生物マーカー 596.5012−減少
f.生物マーカー 597.5062−減少
2.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症[RR−SP]対RR型多発性硬化症:
a.生物マーカー 576.4757−減少
b.生物マーカー 578.4923−減少
c.生物マーカー 594.4848−減少
d.生物マーカー 596.5012−減少
e.生物マーカー 597.5062−減少
【0083】
SP型多発性硬化症患者に対する、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP]は、以下のように記述できる:
1.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症[RR−SP]対SP型多発性硬化症:
a.生物マーカー 617.0921−増加
b.生物マーカー 746.5118−増加
c.生物マーカー 760.5231−増加
d.生物マーカー 770.5108−増加
e.生物マーカー 772.5265−増加
f.生物マーカー 784.5238−増加
g.生物マーカー 786.5408−増加
e.生物マーカー 787.5452−増加
【0084】
次いで生物マーカーパネルを種々の臨床群に適用し、最良の分離を示した10人の患者を各臨床群毎に選択した。臨床群当たり10人の患者だけを使用して、全血清代謝産物についてのスチューデントt検定を実施した。
1.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=10)及び対照(n=10)、[257個の代謝産物、表16を参照];
2.臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者(n=10)及び対照(n=10)、[100個の代謝産物、表17を参照];
3.臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者(n=10)及び対照(n=10)、[226個の代謝産物、表18を参照];
4.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=10)及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症(n=10)、[142個の代謝産物、表19を参照];
5.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=10)及び臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=10)、[148個の代謝産物、表20を参照];
6.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=10)及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者(n=10)、[309個の代謝産物、表19を参照]。
【0085】
本実施例のために使用した試料セット(184人)は、種々の地理的背景、並びに様々な年齢及び健康状態の個体で構成されていた。したがって、本知見は一般的な多発性硬化症集団を代表すると予期される。
【実施例2】
【0086】
見出された代謝産物の独立した方法確認
本発明で説明した代謝産物及びそれらの臨床的変数との関連を、別の質量分析システムを使用してさらに確認した。調査中の臨床的変数の間で強度が異なる代謝産物を同定する目的で質量及び強度情報を取得するために、各変数群からの代表的試料抽出物を、ABI社製Q-Star、又はそれと同等の質量分析計と接続したHP社製1050型高速液体クロマトグラフィー(HPLC、high-performance liquid chromatography)、又はそれと同等機器を使用したLC−MSで再分析した。
【0087】
ある人の血液内で同定した代謝産物のレベルを決定し、それらのレベルを正常な「参照」集団内でのレベルと比較することにより、その人がRR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、又は初期段階のSP型多発性硬化症を罹病しているかどうかを予測する。これは、幾つかの方法の1つで行われる:1)多発性硬化症のある形態を罹病しているパーセント確率を出力する、検査試料を分類するための予測アルゴリズムを既述のように使用すること。予測的手法は、代謝産物の強度が測定される限りアッセイ法とは独立して機能しよう。2)質量分析計からの閾値強度レベルを設定することに基づく方法を適用し、ある人の特性が、疾患状態を示す閾値の上か又は下かを決定すること。3)正常及び疾患集団内で36個の血清代謝産物のモル濃度を決定する定量アッセイを使用すること。次いで、多発性硬化症陽性対非多発性硬化症陽性の絶対閾値濃度を決定する。臨床的状況において、これは、代謝産物又は代謝産物の組合せの測定レベルが特定の濃度を上回る場合、その人があるタイプの多発性硬化症について陽性である関連可能性があろうことを意味する。
【実施例3】
【0088】
主要代謝産物生物マーカーの構造解明
代謝産物の構造解明に使用できる特徴は、精密質量及び分子式、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、並びにMS/MS又はMSnスペクトルを含む。これらのデータは、特定の代謝産物の指紋として使用でき、構造が完全に決定されたかどうかに関わりなく、特定の代謝産物に独特な識別指標である。データは以下を含む:
【0089】
1.LC滞留時間。目的の代謝産物を含有する抽出物を、C18カラム及びMSによる分析を使用した逆相LC−MSにかけ、標準条件下での滞留時間を決定する。
【0090】
2.MS/MSスペクトル。衝突誘起解離(CID)を使用したMS/MS断片化を実施することにより、目的の代謝産物をさらに特徴付ける。このMS/MS分析は、リアルタイムに(すなわち、クロマトグラフィーの溶出工程中に)又はクロマトグラフィーの分離工程から収集した分画に対してオフラインで実施する。所定の分子構造は、規定条件下で特定の断片化パターンを決定され、その分子に特異的である(人の指紋に相当)。わずかな分子構造の変化でさえ、異なる断片化パターンをもたらすことができる。分子の同一性の指紋を提供するだけでなく、CIDによって生じた断片は、分子構造についての洞察を得るために使用され、高度に特異的なハイスループット定量検出法を生み出す(例えば、Hager, J.W., et al., High-performance liquid chromatography-tandem mass spectrometry with a new quadrupole/linear ion trap instrument. J Chromatogr A, 2003. 1020(1): p. 3-9;Hopfgartner, G., et al., Triple quadrupole linear ion trap mass spectrometer for the analysis of small molecules and macromolecules. J Mass Spectrom, 2004. 39(8): p. 845-55;Xia, Y.Q., et al., Use of a quadrupole linear ion trap mass spectrometer in metabolite identification and bioanalysis. Rapid Commun Mass Spectrom, 2003. 17(11): p. 1137-45;Zhang, M.Y., et al., Hybrid triple quadrupole-linear ion trap mass spectrometry in fragmentation mechanism studies: application to structure elucidation of buspirone and one of its metabolites. J Mass Spectrom, 2005. 40(8): p. 1017-1029を参照)。
【0091】
3.NMRスペクトル。MS/MS断片化は、代謝産物について高度に特異的な記述的情報を提供する。しかしながら、NMRは分子構造を解析及び確認できる。NMR分析技術は典型的には質量分析技術より感度が低いため、HPLCでは複数回注入を実施し、目的代謝産物に対応する滞留時間の部分を収集及び混合した。次いで混合抽出物を気化させて乾燥し、NMR分析に適した溶媒に再溶解させる。
【0092】
多くのNMR技術及び装置が利用可能であり、例えば、NMRスペクトルデータは、目的代謝産物のクロマトグラフィー分離及び精製後に、クライオプローブを備えたBruker社製Avance600MHz分光計で記録する。異核種多量子相関法(HMQC、heteronuclear multiple quantum correlation)、異核間多数結合相関法(HMBC、heteronuclear multiple bond correlation)などの2DNMR技術だけでなく、1HNMR、13CNMR、非差分スペクトル法(no-difference spec)が、生物マーカーの構造解明の作業に使用される。
【0093】
4.抽出条件。抽出の条件は生物マーカーの化学的特性についての洞察も提供する。血清(実施例1から)内の9個の代謝産物は全て、ネガティブモードでイオン化(APCI)されたが、それは、カルボン酸又はリン酸などの酸性部分を含有する分子に特徴的である。水素原子を放出可能な任意の部分は、ネガティブイオン化モードで検出できる。代謝産物マーカーは酢酸エチルの有機画分中に抽出されたが、それは、これらの代謝産物が酸性条件下で無極性であることを示す。
【0094】
全ての化学物質及び媒体は、Sigma-Aldrich Canada Ltd.社、Oakville、ON.、Canadaから購入した。溶媒は全てHPLC級であった。HPLC分析は、4連ポンプ、自動注入器、脱気器、及びインラインろ過器付きのHypersil社製ODSカラム(5μm粒子径シリカ、4.6i.dx200mm)を備えた高速液体クロマトグラフィーで実施した。移動相:1.0ml/分の流速で52分間にH2O−MeOH〜100%MeOHの直線勾配。高分解能(HR、high resolution)質量スペクトル(MS、mass spectra)は、Bruker社製apex7Tフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)分光計で記録し、MS/MSデータは、ポジティブ及びネガティブモードの両方での、大気圧化学イオン化(APCI)及びエレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源を備えたQStar XL TOF質量分析計を使用して収集した。
【0095】
代謝産物特徴のデータ
生物マーカー1
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C28H51O4− 測定値;451.3795、計算値 451.3793。MS/MS m/z(相対強度):451([M−H]−,20%)、433(100%)、407(30%)、389(90%)、281(10%)、279(25%)、183(20%)、169(10%)、153(10%)、125(20%)、111(25%)、97(25%)。
生物マーカー2
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C30H55O5− 測定値;495.4054。計算値 495.4055 MS/MS m/z(相対強度):495([M−H]−,5%)、451(5%)、477(15%)、(433(15%)、415(5%)、307(5%)、297(45%)、279(100%)、235(5%)、223(20%)、215(70%)、197(90%)、179(50%)、181(10%)、169(100%)、157(25%)、155(10%)、153(5%)、141(10%)、139(5%)、127(10%)、125(10%)、113(5%)。
生物マーカー3
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C32H59O5− 測定値;523.4375、計算値;523.4368。MS/MS m/z(相対強度):523([M−H]−,30%)、505(100%)、487(25%)、479(40%)、463(40%)、461(45%)、443(40%)、365(30%)、337(20%)、299(25%)、297(25%)、281(25%)、279(40%)、271(65%)、269(20%)、253(35%)、251(55%)、243(30%)、225(65%)、197(55%)、171(20%)、169(25%)、157(20%)、155(10%)、143(10%)、141(20%)、139(20%)。
生物マーカー4
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C32H59O6− 測定値;539.4312、計算値;539.4317。MS/MS m/z(相対強度):539([M−H]−,20%)、521(100%)、503(50%)、495(40%)、477(40%)、461(30%)、459(40%)、419(30%)、335(70%)、315(40%)、313(40%)、297(60%)、279(90%)、259(40%)、255(40%)、253(20%)、243(20%)、241(30%)、225(20%)、223(30%)、213(30%)、179(20%)、171(40%)、155(30%)、141(50%)、127(40%)。
生物マーカー5
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H63O5− 測定値;575.4678、計算値;575.4681。MS/MS m/z(相対強度):575([M−H]−,45%)、557(75%)、539(70%)、531(30%)、513(60%)、495(100%)、417(50%)、403(60%)、371(25%)、297(15%)、279(40%)。
生物マーカー6
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H65O5− 測定値;577.4850、計算値;577.4837。MS/MS m/z(相対強度):577([M−H]−,45%)、559(75%)、541(70%)、533(30%)、515(60%)、497(100%)、419(50%)、405(60%)、387(25%)、373(25%)、297(15%)、281(25%)、279(40%)。
生物マーカー7
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H67O5− 測定値;579.5016、計算値;579.4994。MS/MS m/z(相対強度):579([M−H]−,45%)、561(90%)、543(40%)、535(25%)、517(60%)、499(100%)、421(20%)、407(20%)、389(20%)、375(20%)、299(25%)、281(30%)、279(40%)、263(10%)、253(15%)、185(10%)、171(25%)。
生物マーカー8
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H65O6− 測定値;593.4775、計算値;593.4787。MS/MS m/z(相対強度):593([M−H]−,50%)、575(55%)、557(30%)、549(15%)、531(20%)、513(25%)、495(10%)、421(15%)、371(30%)、315(50%)、297(100%)、279(90%)。 201(30%)、171(60%)、141(25%)、127(25%)。
生物マーカー9
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H67O6− 測定値;595.4939、計算値;595.4943。MS/MS m/z(相対強度):595([M−H]−,20%)、577(20%)、559(15%)、551(5%)、515(15%)、497(5%)、423(5%)、373(15%)、315(75%)、297(70%)、281(40%)、279(100%)、269(5%)、251(5%)、171(25%)、155(15%)、153(10%)、141(15%)、139(10%)、127(15%)。
生物マーカー10
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C43H78O10P− 測定値;785.5329、計算値;785.5338。MS/MS m/z(相対強度):758([M−H]−,100%)、529(10%)、425(20%)、273(73%)、169(5%)、125(100%)、97(5%)。
生物マーカー11
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C5H12O7P− 測定値;215.0322、計算値;215.0326。MS/MS m/z(相対強度):215([M−H]−,100%)、197(30%)、171(40%)、153(90%)、135(20%)。
生物マーカー12
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C25H51NO9P− 測定値;540.3337、計算値;540.3301。MS/MS m/z(相対強度):540([M−H]−,>1%)、480(17%)、255(100%)、242(>1%)、224(5%)、168(>1%)、153(>1%)、78(>1%)。
生物マーカー13
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C27H51NO9P− 測定値;564.3313、計算値;564.3307。MS/MS m/z(相対強度):564([M−H]−,>1%)、504(10%)、279(100%)、242(>1%)、224(5%)、168(>1%)、153(>1%)、78(>1%)。
生物マーカー14
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C6H12O6Na+ 測定値;203.0531、計算値;205.0526。MS/MS m/z(相対強度):203([M+H]+,100%)、159(15%)、115(23%)、89(38%)、97(5%)。
生物マーカー15
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C8H13O7Na+ 測定値;245.0637、計算値;245.0631。MS/MS m/z(相対強度):245([M+H]+,100%)、227(5%)、209(5%)、155(10%)、125(15%)、83(5%)。
生物マーカー16
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C29H49O2+ 測定値;429.3732、計算値;429.3727。MS/MS m/z(相対強度):429([M+H]+,1%)、205(5%)、165(100%)。
生物マーカー17
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C46H81NO8P+ 測定値;806.5687、計算値;806.5694。MS/MS m/z(相対強度):806([M+H]+,21%)、478(>1%)、237(>1%)、184(100%)。
生物マーカー18
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C7H15O6+ 測定値;195.0881、計算値;195.0863。MS/MS m/z(相対強度):195([M+H]+,2%)、177(>1%)、165(>1%)、163(>1%)、138(100%)、123(6%)。
生物マーカー19
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C54H100NO6+ 測定値;858.7594、計算値;858.7545。MS/MS m/z(相対強度):858([M+H]+,100%)、576(10%)、314(12%)、165(7%)、151(10%)、95(2%)。
【0096】
生物マーカーの精密質量を使用して分子式を推定した。生物マーカーのタンデム質量分析計を使用して構造を提唱し、それを表22にまとめた。生物マーカーは、糖、リン脂質及びトコフェロールの誘導体であると考えられた。
【0097】
各多発性硬化症生物マーカーについて得られたMS/MSスペクトルデータを使用して、それらの構造を推定した。MS生物マーカー1〜9のMS/MS断片化パターンを、CRCのパネル(本出願者の同時係属出願PCT/CA第2006/001502号パンフレットを参照;国際公開CA第2007/030928号パンフレットとして2007年3月22日に公開された)の断片化パターンに比較すると、多くの類似性が認められた。CRC及びこれらのMS生物マーカー両方に共通したイオン化モードに加えて、それらのMS/MSスペクトルはまた、[M−H−CO2]、[M−H−H2O]及び[M−H−CO2−H2O]−による断片喪失だけでなく、全ての検出された生物マーカーについて、C18:1又はC18:2(m/z281、279)のフィチル鎖型脂肪酸物質に対応する断片化イオンのシグナルも示した。別の類似性は、MS生物マーカー1〜9のMS/MSスペクトルが、フィチル側鎖切断後のクロマン型環系の喪失と推定される断片化イオンを示したことである[(153(1)、197(2)、225(3、4)、279(5、6、7)及び281(8、9)、表23〜31)]。これらの所見は、生物マーカー1〜9についてトコフェロール型構造の帰属に繋がった。水及び二酸化炭素の喪失(複数可)は、遊離ヒドロキシル基及びカルボン酸基の存在を示唆する。MS/MSスペクトルに認められたような、MS生物マーカーとCRCのマーカーの主な差異は、開環したクロマン環系及び1位において提唱される鎖延長である。
【0098】
HRAPCI−MSにより、1の分子式を不飽和度3のC28H52O4と決定した。上記で示したように、1のMS/MSスペクトルは、水の喪失(m/z433)、二酸化炭素(m/z407)の喪失及びフィチル側鎖の存在(m/z279)の喪失による断片化イオンを示した。m/z153で認められた断片化イオンを、フィチル側鎖喪失後に生じたシクロヘキセニル環系と帰属した。これらの推定に基づき、代謝産物1の構造を表22に示したように帰属した。
【0099】
上記で示したように、代謝産物2〜9は、1との構造的類似性の全て並びに追加的なヒドロキシル化及び1位における酸素原子とのエーテル結合を介した鎖延長を有する。これらの生物マーカーのフィチル側鎖の切断後に残されたシクロヘキセニル環単位は、不飽和度及びヒドロキシル化の数に幾らかの差異を有する独特の断片化イオンを生じさせた。2ではm/z197、3及び4ではm/z225、5、6及び8ではm/z279並びに7及び9ではm/z281(表23〜31を参照)で認められたこれらのイオンを使用して、異なるアルキル鎖延長;それぞれ適切なヒドロキシル化を伴うエチル、ブチル及びオクチルを帰属した。少し詳しくは、これらの断片化パターンは明らかに各シクロヘキセニル環系間の差異を示す。1位における鎖延長がない1では、C2−C3で切断された際にシクロヘキセニル環断片がもたらされ、式C10H17O(m/z153)が生じた。1位においてエチル化が起こると考えられ、環上に追加的なヒドロキシ基のある2では、シクロヘキセニル環断片の式は1に比べてC2H4O実体分だけの増加を示し、したがって断片は式としてC12H21O2(m/z197)を有する。これらの予測は2のMS/MSスペクトルの所見と合致し、したがって構造の帰属を認証した。3及び4では、鎖延長がブチル単位(C4H9)で起こると考えられ、したがって、2と比較した際、式C14H25O2(m/z225)を有するC2H4実体分の増加が認められた。生物マーカー5〜9では、1位におけるアルコキシ鎖延長はC8H17実体によった。それらの式及びMS/MSスペクトルを比較すると、7及び9(C36H68O5及びC36H68O6)は、9における追加的な酸素原子を除いて類似の特徴を示した。したがって、これはフィチル鎖上に帰属した。したがって、7及び9については、シクロヘキセニル環要素の断片化イオンが、m/z281(C18H33O2)で認められた。同様に、生物マーカー6(C36H66O5)及び8(C36H66O6)は、7及び9と同じような類似性を示し、唯一の差異は不飽和が付加されたことであり、したがってシクロヘキセニル断片は、m/z279(C18H31O2)にあった。6及び8と比較して5(C36H64O5)に不飽和度が追加されているが環断片m/z279(C18H31O2)を有することは、フィチル鎖上に不飽和が追加されたことを示唆した。これらの推定に基づき、代謝産物2〜9の構造を表22に示したように帰属した。
【0100】
1〜9と同一モードで検出された生物マーカー10は、FT−ICRMSの分子式データに基づき異なる種類の代謝産物であることを示唆した。取得した式、C43H79O10Pは、ヒドロキシル化ジアシルグリセロール−リン脂質型の構造を示唆する。提唱された構造及びMS/MS断片をそれぞれ表22及び表32に示す。
【0101】
ネガティブモードのエレクトロスプレーイオン化で血清の水性抽出物から取得した、生物マーカー11〜13のMS/MSデータは、個別に分析してそれらの構造を推定した。このパネルで同定された生物マーカーは、C5H13O7P、C25H52NO9P、及びC27H52NO9Pの式を有した。11(C5H13O7P)のMS/MSデータは、HPO3基だけでなく2つの水分子の喪失による断片を示し(表33)、それらは提唱された構造を使用して帰属できる。生物マーカー12及び13、(m/z541.3415、C25H52NO9P及びm/z565.3391、C27H52NO9P)は、2つの前立腺癌の生物マーカーと同一であることが見出された(2007年3月23日に提出された、本出願者の同時係属出願PCT/CA第2007/000469号パンフレットを参照)。ネガティブモードのエレクトロスプレーイオン化(ESI)で最も共通して認められたイオンは、グリセロホスホイニシトール、グリセロホスホセリン、グリセロホスファチジン酸及びグリセロホスホエタノールアミンなどの酸性リン脂質である。しかしある状況下では、ホスホコリンは、ネガティブESIモードでのイオン種として、[M+Cl]−又は[M+酢酸塩/ギ酸塩]−の付加体として検出され得る。ESI水性抽出物の検査手順はギ酸の使用を伴うため、これらのイオンがホスホコリンのギ酸塩付加体であり得る可能性は高い。ギ酸塩基の付加の結果として、ネガティブESIにかけた際に、対応する分子イオン([M−H+]−)を形成するグリセロホスホコリンの中性群が形成され、そうするとイオン化部位はフォスファチジン基である。これは、負に電荷したリン酸イオンを親イオンとして残すリン酸基の脱プロトン化を示唆する。生物マーカー12及び13の断片化分析を表34及び35に示す。
【0102】
生物マーカー14〜19のMS/MSデータは、ポジティブモードのESI及びAPCIで血清の有機及び水性抽出物から取得した。生物マーカー14及び15(水性抽出物)は、MS/MS断片指紋を使用して、低質量モノサッカライドに関連する代謝産物のナトリウム付加物として同定した(表36及び37)。有機抽出物からの生物マーカー16(表38)、(m/z428.3653、C29H48O2)は、そのMS/MSスペクトルが、追加的な不飽和度を除いてαトコフェロール標準物質のスペクトルと非常に類似していたので、αトコフェロールの誘導体として帰属した。血清の有機抽出物からの生物マーカー17(表39)、(m/z805.5609、C46H80NO8P)はまた、MS/MSデータが、N-メチル置換されたホスホエタノールアミン骨格だけでなくEPA及びオレイル基の存在を示す断片化イオンを示したため、オレイル、エイコサペンテン酸(EPA、eicosapentenoic)、N-メチルホスホエタノールアミンと提唱した。APCIイオン源を使用した代謝産物18(表40)及び19(表41)のMS/MSスペクトルデータは、それぞれモノサッカライド及びスフィンゴ脂質由来の生物マーカーと推定的に帰属した。
【実施例4】
【0103】
商業的ハイスループット法の開発
記載した代謝産物サブセットの定常的な分析のために、ハイスループット分析法を開発する。検出する分子に依存して、対費用効果の高い多くのタイプのアッセイプラットフォームの選択肢が現在利用可能である。これらは、比色化学アッセイ(UV、又は他の波長)、抗体に基づく酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、チップ及びPCRに基づく核酸検出用アッセイ、ビーズに基づく核酸検出法、尿検査化学アッセイ、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)スキャン、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンなどの画像解析、及び種々の質量分析に基づくシステムを含む。
【0104】
本方法は、現行の検査器具類及び世界中の多数の検査室に容易に設置される三重極−四重極質量分析計に適合するハイスループットMS/MS法の開発を含む。Q-Trap(商標)システムが、親分子の単離、断片化に使用され、次いでその断片が測定される。
【0105】
全ての引用は参照により本明細書に組み込まれる。
【0106】
1つ又は複数の実施形態に関して本発明を説明してきた。しかしながら、当業者であれば、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲を逸脱せずに多くの変形及び変更をなし得ることは、明らかである。
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
【表9】
【0110】
【表10】
【0111】
【表11】
【0112】
【表12】
【0113】
【表13】
【0114】
【表14】
【0115】
【表15】
【0116】
【表16】
【0117】
【表17】
【0118】
【表18】
【0119】
表12:臨床的に診断されたSP型多発性硬化症及び対照についての代謝産物の最適数及び予測結果。
【0120】
【表19】
【0121】
【表20】
【0122】
【表21】
【0123】
【表22】
【0124】
【表23】
【0125】
【表24】
【0126】
【表25】
【0127】
【表26】
【0128】
【表27】
【0129】
【表28】
【0130】
【表29】
【0131】
【表30】
【0132】
【表31】
【0133】
【表32】
【0134】
【表33】
【0135】
【表34】
【0136】
【表35】
【0137】
【表36】
【0138】
【表37】
【0139】
【表38】
【0140】
【表39】
【0141】
【表40】
【0142】
【表41】
【0143】
【表42】
【0144】
【表43】
【0145】
【表44】
【0146】
【表45】
【0147】
【表46】
【0148】
【表47】
【0149】
【表48】
【0150】
【表49】
【0151】
【表50】
【0152】
【表51】
【0153】
【表52】
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】Aは、本発明の実施形態による、マイクロアレイ予測解析(PAM、Prediction Analysis of Microarray)訓練エラープロットを表し、Bは相互検証された誤分類エラープロットを表す図である。
【図2】本発明の実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び対照の相互検証された診断確率を表す図である。
【図3】本発明のさらなる実施形態による、相互検証された確率に基づく受信者動作特性(ROC、receiver-operator characteristic)曲線を表す図である。
【図4】本発明のさらなる実施形態による、盲検検査セットの診断予測を表す図である。
【図5】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び対照の予測された検査セットに基づくROC曲線を表す図である。
【図6】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症及び対照に基づくROC曲線を表す図である。
【図7】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症及び対照に基づくROC曲線を表す図である。
【図8】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症及びSP型多発性硬化症に基づくROC曲線を表す図である。
【図9】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及びSP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症に基づくROC曲線を表す図である。
【図10】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者及びSP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者に基づくROC曲線を表す図である。
【図11】本発明のさらなる実施形態による、9個のRR型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの、対照と比較した平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図12】本発明のさらなる実施形態による、5個のPP型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの、対照と比較した平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図13】本発明のさらなる実施形態による、18個のSP型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの、対照と比較した平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図14】本発明のさらなる実施形態による、SP型多発性硬化症と比較した、6個のRR型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図15】本発明のさらなる実施形態による、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者と比較した、5個のRR型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図16】本発明のさらなる実施形態による、SP型多発性硬化症と比較した、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者の8個の血清生物マーカーのパネルの平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【0155】
(参考文献)
1. MacDonald, B.K., et al. The incidence and lifetime prevalence of neurological disorders in a prospective community-based study in the UK. Brain, 2000. 123: p. 665-76.
2. Martyn, C. Epidemiology. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992.
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【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床的に診断された多発性硬化症又は他の神経障害と正常な患者で有意に異なる存在量又は強度を有すると見出される低分子又は代謝産物に関する。本発明は、多発性硬化症及び他の神経障害、又は多発性硬化症若しくは他の神経障害に罹る危険のある個体を診断する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症は、30歳未満の人々が影響を受ける最も一般的な神経障害であり、中枢神経系(CNS、central nervous system)の最も一般的な疾患である癲癇のみに次ぐ2番目である(MacDonald、B.K., et al. The incidence and lifetime prevalence of neurological disorders in a prospective community-based study in the UK. Brain, 2000. 123: p. 665-76)。多発性硬化症は、局所的及び個別的区域での炎症並びにCNSの白質中の脱髄をもたらす自己免疫障害であると一般的に受け入れられている。
【0003】
北米での多発性硬化症の罹患率は、500人に1人から1000人に1人に及び、推定50,000人のカナダ人及び400,000人の米国人が影響を受け、世界中でおよそ二百万人が影響を受けている。疫学研究によると、女性はこの疾患を発症する可能性が2倍で、発症年齢は比較的早期(30歳がピーク)であり、北欧人の子孫である人々により高い感受性があることが明らかになっている(Martyn, C. Epidemiology. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992)。様々の学説によると、種々の環境要因(Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p. 55-70;Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992;Poser, C.M. Trauma and multiple sclerosis: an hypothesis. J Neuro, 1987. 234: p.155-9;Chelmicka-Schorr, E., and Amason, B.G. Nervous stem-immune system interactions and their role in multiple sclerosis. Ann Neurol, 1994. 36: p.29-s32)、免疫機能障害(Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p.55-70;Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992)、及び遺伝子異常(Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p. 55-70;Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992)がこの障害の発症に関与すると示唆されているが、病因は未だに不明である。ミエリンタンパク質に対する自己免疫反応をもたらすあらゆる要因が、多発性硬化症をもたらすと仮定するのが妥当である。病因に関わる最も受け入れられている学説では、幾つかの要因が考慮されており、遺伝的に感受性のある個体がウイルス又はトキシンなどの外来性の物体に曝露され、あるタイプの分子擬態を介してミエリンタンパク質に対する自己免疫反応が惹起されることが示唆されている。およそ5年〜15年前に、最初の臨床症状が明白に/歴然となった(Noseworthy, J.H., et al. Multiple sclerosis. N Engl J Med, 2000. 343: p.938-52)。
【0004】
多発性硬化症の病理学的な特徴は、斑又は病変として知られている、ミエリンが減少した個別的及び局所的区域である。これらの斑は、可変量の脱髄、グリオーシス、炎症、浮腫、及び軸索分解からなり得る(ffrench-Constant, C. Pathogenesis of multiple sclerosis. Lancet, 1994. 343: p.271-5)。斑の正確な位置は患者の間で異なるが、一般的な解剖学的パターンは歴然としている。ヒト脳内の斑は、室周囲、側頭葉内、脳梁内、視神経内、脳幹内、及び/又は小脳内に位置し、1つ又は複数の血管を取り囲む傾向がある(Noseworthy, J.H., et al. Multiple sclerosis. N Engl J Med, 2000. 343: p.938-52;Prineas. J.W., and McDonald, W.I. Demyelinating diseases. Arnold: London, 1997)。過半数の多発性硬化症患者は、脊髄頸部内に班を有する(Kidd, D., et al. Spinal cord MRI using multi-array coils and fast spin echo. II. Findings in multiple sclerosis. Neurology, 1993. 43: p.2632-7)。斑の生理学的な帰結は、感覚障害及び/又は運動障害として現れる神経インパルスの伝達の遅延又は遮断である。2000年には、Lucchinettiら(Lucchinetti, C.W., et al. Heterogeneity of multiple sclerosis lesions: implication for the pathogenesis of demyelination. Ann Neurol, 2000. 47: p.707-17)が、多発性硬化症斑の4つの特徴的パターンを、組織学的特性の観点から説明した。それらのパターンの2つは、脱髄がCNS内のミエリン産生細胞、すなわちオリゴデンドロサイトの破壊から生じることを示唆し、他の2つのパターンは、ミエリン破壊がT細胞又はT細胞に加えてミエリン鞘を標的にする抗体から生じることを示す。オリゴデンドロサイトが破壊される2つのパターンは、一方のパターンで特定のミエリンタンパク質が選択的に破壊されることで互いに異なる。T細胞を含有する脱髄病変は、一方のパターンで特徴的であるイムノグロブリンを含有する沈着及び補体の活性化のため異なる。多発性硬化症斑の4パターンの発見は、この障害の脱髄の過程が幾つかの様式で達成できることを示し、それ故、これらの斑の形成を引き起こす過程であればどれでも多発性硬化症の臨床的徴候をもたらすという考えを支持するため、重要であった。
【0005】
しかしながら、多発性硬化症斑の病理学検査は、主として、疾患の一時点でのスナップショットを表すに過ぎない死後組織に由来する点で問題がある。この組織の多くは、多発性硬化症に数年間罹病していた個体から取得され、したがって疾患の慢性期に由来する組織を代表する。死後組織は疾患の病理についての情報を幾らか提供できるが、どのように疾患が進行するのか又はどこで病変が始まったのかを解明できない。多発性硬化症病変をインビボで視覚化するためには、磁気共鳴画像法(MRI、Magnetic resonance imaging)が一般的に使用されている。しかしながら、病変の病理学的組成についての情報が提供できないため、多発性硬化症病変の研究にMRIを使用することには制限がある。
【0006】
多発性硬化症の初期診断は、典型的には、再発寛解型(RR型多発性硬化症)又は一次性進行型(PP型多発性硬化症)のいずれかである。PP型多発性硬化症は、患者の10〜15%の初期診断であり、疾患罹病中にいかなる臨床的寛解がない症状の漸進的悪化と定義される(Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992;Keegan. B.M., and Noseworthy, J.H. Multiple Sclerosis. Annu Rev Med, 2002. 52: 285-302)。RR型多発性硬化症は、80%の患者の初期診断であるように最も一般的な形態であり、少なくとも24時間続く臨床的な発病(再発)後に起こる部分的又は完全な回復(寛解)により定義される。RR型多発性硬化症患者の90%は、初期診断の20年以内に二次性進行型の形態の多発性硬化症(SP型多発性硬化症)に進み、症状が悪化し寛解期間は最終的に消失しよう。15年間以内のRR型多発性硬化症患者の幾らかは、症状の悪化及び長期の寛解期間を伴わずに再発をほとんど経験しないが、それらの患者は、良性多発性硬化症(BN型多発性硬化症)を発症したのであろう。現在、なぜ患者がPP型多発性硬化症又はRR型多発性硬化症のいずれかを初期に現すかを示す根拠はない。
【0007】
2001年には、マクドナルド診断基準(McDonald Criteria)(McDonald, W.I, et al. Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis: guidelines from the international panel on the diagnosis of multiple sclerosis. Ann Neurol, 2001. 50: 121-7)が公表され、多発性硬化症の診断が標準化された。この診断基準の基本的特徴は、時間及び空間の両方において多発性である病変の客観的根拠を含む。1)個体が2回の発症/再発を経験した場合及び2)複数の病変が時間及び空間により分離されている臨床的根拠がある場合、臨床的根拠だけで十分に診断の確定ができる。個体がこの臨床的診断基準に達していない場合は、MRI、脳脊髄液(CSF、cerebrospinal fluid)分析及び/又は視覚誘発電位(VEP、visual evoked potential)の追加的な準臨床的検査が実施される。MRIは、時間及び空間の両方において病変が多発性であることの客観的根拠を提供できるため、最も高感度で特異的な準臨床的検査である。CSF分析は、病変の免疫反応又は炎症反応の根拠を提供でき、臨床的症状及びMRI診断基準が満たされない際に診断を支援できるが、病変又は発症の時間的又は空間的多発性についての情報を提供できない。多発性硬化症におけるVEPは遅発性であるが、よく保たれた波形を示し、最初の病変が視覚経路に影響を与えない場合、第2の病変の根拠を提供するために使用できる。準臨床的検査により提供される補完的根拠は、a)多発性硬化症の罹病、b)多発性硬化症の非罹病、又はc)多発性硬化症の罹病の疑いのいずれかの診断をもたらすことができる。多発性硬化症を罹病していると診断された個体の大多数は、RR型多発性硬化症の形態を示し、そのため病変の時間的及び空間的多発性が歴然としていることが多い。しかしながら、PP型多発性硬化症では寛解期間がないため、準臨床的検査が診断を確定するために特に重要である。CSF分析及びMRI又はVEPのいずれかは、空間についての客観的根拠を提供するために取得しなければならず、その一方でMRIの使用及び1年間の連続した臨床的症状の進行は、時間的な多発性についての根拠を提供できる。
【0008】
これらの準臨床的検査を使用する以前は、医師が診断を確定できるまでに平均7年を費やしていた。今日、これらの検査を使用すると、数カ月以内にRR型多発性硬化症の診断を確定できる。マクドナルド診断基準は診断に必要な時間を大幅に減少させたが、多発性硬化症の疑いがあると診断される個体、又は最終的にPP型多発性硬化症の診断を受けることになる個体にとっては、この診断基準は不十分である。
【0009】
準臨床的検査は、多発性硬化症の診断を支援し、病変の多発性に関する情報を提供できるが、病変の病理学的組成に関する具体的な情報は得られない。加えて、準臨床的検査結果の解釈は主観的であり、訓練された人材の専門的知識が必要である。さらに、多発性硬化症斑の病理学検査及び準臨床的検査などの手段は、疾患に対する感受性についてはいかなる情報も提供しないが、むしろいったん症状が明白になった時点で使用される。
【非特許文献1】1.MacDonald, B.K., et al. The incidence and lifetime prevalence of neurological disorders in a prospective community-based study in the UK. Brain, 2000. 123: p. 665-76
【非特許文献2】2. Martyn, C. Epidemiology. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992
【非特許文献3】3.Sayetta, R.B. Theories of the etiology of multiple sclerosis: a critical review. J Clin Lab Immunol, 1986. 21: p. 55-70
【非特許文献4】4.Matthews, W.B. Clinical aspects. McAlpine's Multiple Sclerosis. New York: Churchill Livingston, 1992
【非特許文献5】5.Poser, C.M. Trauma and multiple sclerosis: an hypothesis. J Neuro, 1987. 234: p. 155-9
【非特許文献6】6.Chelmicka-Schorr, E., and Amason, B.G. Nervous stem-immune system interactions and their role in multiple sclerosis. Ann Neurol, 1994. 36: p.29-s32
【非特許文献7】7.Noseworthy, J.H., et al. Multiple sclerosis. N Engl J Med, 2000. 343: p.938-52
【非特許文献8】8.ffrench-Constant, C. Pathogenesis of multiple sclerosis. Lancet, 1994. 343: p.271-5
【非特許文献9】9.Prineas. J.W., and McDonald, W.I. Demyelinating diseases. Arnold: London, 1997
【非特許文献10】10.Kidd, D., et al. Spinal cord MRI using multi-array coils and fast spin echo. II. Findings in multiple sclerosis. Neurology, 1993. 43: p. 2632-7
【非特許文献11】11.Lucchinetti, C.W., et al. Heterogeneity of multiple sclerosis lesions: implication for the pathogenesis of demyelination. Ann Neurol, 2000. 47: p. 707-17
【非特許文献12】12.Keegan. B.M., and Noseworthy, J.H. Multiple Sclerosis. Annu Rev Med, 2002. 52: 285-302
【非特許文献13】13.McDonald, W.I, et al. Recommended diagnostic criteria for multiple sclerosis: guidelines from the international panel on the diagnosis of multiple sclerosis. Ann Neurol, 2001. 50: 121-7
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多発性硬化症又は他の神経障害を罹病している人と正常な患者で有意に異なる存在量又は強度を有すると見出される低分子又は代謝産物に関する。本発明は、それらの低分子又は代謝産物が前臨床的な病理学的状態の指標であり得る、多発性硬化症に伴う神経病理を有する人とそのような病理のない人で有意に異なる存在量又は強度を有する低分子又は代謝産物にも関する。本発明は、多発性硬化症及び他の神経障害を診断する方法にも関する。
【0011】
本発明は、1つ又は複数の疾患又は特定の健康状態の診断方法を発見、認証、及び実行するための新規な方法を提供する。特に、本発明は、試料内に存在する特定の低分子のレベルを測定し、それらを「正常な」参照レベルと比較することにより、ヒトの多発性硬化症を診断及び鑑別診断する方法を提供する。
【0012】
上述の方法により診断される神経障害のタイプは、多発性硬化症、又は他のタイプの脱髄性障害であり得る。ヒトから取得する試料は、血液試料であり得る。
【0013】
多発性硬化症(再発寛解型又は一次性進行型)に苦しむ被検者の診断及び/又は再発寛解型から二次性進行型多発性硬化症に推移する被検者の鑑別診断のための方法が提供される。
【0014】
本出願における特定の「健康状態」は多発性硬化症を指すものとするがそれに限定はされず、ハイスループットスクリーニング(HTS、high throughput screening)アッセイを含む本発明の方法は、以下のために使用できる:
1.個体から採取した任意の生体試料を使用して、複数の健康状態間を識別できる低分子代謝産物生物マーカーを同定すること;
2.本出願に記載のように、血清、血漿、全血、CSF、及び/又は他の組織生検内で同定された代謝産物を使用して健康状態を特異的に診断すること;
3.本出願で言及されている方法などの教師ありの統計的方法を使用して、最適な診断アッセイの性能統計に必要な最少数の代謝産物特徴を選択すること;
4.LC−MS/MS、MSn及びNMRを使用して、非標的メタボロミクス分析から選択された生物マーカー代謝産物の構造的特徴を同定すること;
5.血清、血漿、全血、CSF、唾液、尿、毛髪、及び/又は他の組織生検内の、選択された代謝産物のレベルをアッセイするためのハイスループットLC−MS/MS法を開発すること;及び
6.患者の血清又は他の生体液若しくは組織のフーリエ変換質量分析(FTMS、Fourier Transform Mass Spectrometry)の解析から明らかになった代謝産物特徴の任意の組合せのレベルを、質量分析、NMR、UV検出、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法、enzyme-linked immunosorbant assay)、化学反応、画像解析、又はその他を含むがそれらに限定はされない任意の方法を使用して決定することにより、所定の健康状態、又はある健康状態の発症の危険性を診断すること。
【0015】
本発明は、上述の方法で明らかになった特徴の任意の1つ又は組合せを使用して、1つ又は複数の健康状態について一般集団を長期的にモニタリング又はスクリーニングすることを提供する。
【0016】
本発明は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症と、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症と、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症と、本明細書中では参照試料とも呼ばれる正常試料で統計的に有意な差分存在量を有する数百の代謝産物質量も提供する。同定された代謝産物質量の中で、4から45個の間の代謝産物質量の最適なパネルが使用でき、又は任意の数、例えば4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、又は45個の代謝産物質量の最適なパネルを使用して、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症と、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症と、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症と正常な状態を鑑別できる。特定の、非限定的な実施例では、36個の代謝産物質量の最適なパネルが使用できる。
【0017】
本発明は、正常試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約257個の代謝産物質量のパネルも提供し(表1を参照)、さらなる実施例では、パネルは約240個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、9個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、正常試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用でき、例えば、9個の代謝産物のパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する物質を含み得る。
【0018】
また、本発明は、正常試料と比較して、血清試料内のPP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約100個の代謝産物質量のパネルを提供し(表2を参照)、さらなる実施例では、パネルは約60個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、5個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、正常試料と比較して、血清試料内のPP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用でき、例えば、5個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する物質を含み得る。
【0019】
加えて、本発明は、正常試料と比較して、血清試料内のSP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約226個の代謝産物質量のパネルを提供し(表3を参照)、さらなる実施例では、パネルは約129個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、18個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、正常試料と比較して、血清試料内のSP型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用でき、例えば、18個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する物質を含み得る。
【0020】
さらに、本発明は、SP型多発性硬化症試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の診断指標として使用できる約142個の代謝産物質量のパネルも提供し(表4を参照)、さらなる実施例では、パネルは約135個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、6個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、本明細書中では参照試料とも呼ばれるSP型多発性硬化症試料と比較して、血清試料内のRR型多発性硬化症の疾患経過の指標として使用でき、例えば、6個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する物質を含み得る。
【0021】
本発明は、本明細書中では参照試料とも呼ばれるRR型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症患者からSP型多発性硬化症への推移の診断指標として使用できる約148個の代謝産物質量のパネルをさらに提供し(表5を参照)、より特定の実施例では、5個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、RR型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症患者からSP型多発性硬化症への推移の初期神経病理変化の指標として使用でき、例えば、5個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する物質を含み得る。
【0022】
さらに、本発明は、本明細書中では参照試料とも呼ばれるSP型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症からSP型多発性硬化症への推移の診断指標として使用できる約309個の代謝産物質量のパネルを提供し(表6を参照)、さらなる実施例では、パネルは約42個の代謝産物質量を含有できる。より特定の実施例では、8個の代謝産物質量の最適なパネルが抽出され、SP型多発性硬化症と比較して、RR型多発性硬化症からSP型多発性硬化症への推移の初期神経病理変化の指標として使用でき、例えば、8個の代謝産物の最適なパネルは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、及び787.5452を有する物質を含み得る。
【0023】
本発明は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症又は臨床的に診断されたSP型多発性硬化症を罹病している1人又は複数の患者由来の1つ又は複数の試料を導入するステップであり、複数の代謝産物を含有する該試料を高分解能質量分析計、例えばフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTICR−MS、Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometer)に導入するステップと;代謝産物のデータを取得、同定及び定量化するステップと;該同定化及び定量化データのデータベースを生成するステップと;試料からのデータを、正常な被検者(多発性硬化症を罹病していない人)由来の試料からの対応するデータと比較、同定及び定量化するステップと;1つ又は複数の異なる代謝産物を同定するステップと;最適な診断のために必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップとを含む、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症を診断する方法をさらに提供する。
【0024】
本発明のさらなる実施形態では、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、又は臨床的に診断されたSP型多発性硬化症を罹病している1人又は複数の患者由来の1つ又は複数の試料を導入するステップであり、複数の代謝産物を含有する該試料をFTICT−MSに導入するステップと;代謝産物のデータを取得、同定及び定量化するステップと;該同定化及び定量化データのデータベースを生成するステップと;試料からの同定及び定量化データを、正常な被検者(多発性硬化症を罹病していない人)由来の試料からの対応するデータと比較するステップと;1つ又は複数の異なる代謝産物を同定するステップと;最適な診断のために必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップとを含む、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症に特異的な生物マーカーを同定する方法が提供される。RR型多発性硬化症の最適な診断のために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。PP型多発性硬化症の最適な診断のために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症の最適な診断のために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症からRR型多発性硬化症患者を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、及び787.5452を有する代謝産物からなる群から選択できる。RR型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、1つ又は複数の代謝産物マーカーを定量化するために患者由来の試料をスクリーニングするステップと、代謝産物マーカーの量を、正常な被検者(多発性硬化症を罹病していない人)由来の試料からの対応するデータと比較するステップとを含む、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症について該患者を診断する方法が提供される。RR型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。PP型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する代謝産物からなる群から選択できる。健常対照からSP型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症からRR型多発性硬化症を診断するための血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。SP型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、及び787.5452を有する代謝産物からなる群から選択できる。RR型多発性硬化症と比較して、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症(RR−SP)を最適に鑑別するために必要な血清試料内の代謝産物マーカーは、±5ppmの違いは同一の代謝産物を示すであろう精密質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物からなる群から選択できる。
【0026】
本発明の1つの実施形態で、上記で参照された多発性硬化症生物マーカーの幾つかの分子式及び提唱構造を決定した。それらを以下にまとめる。その結果によれは、生物マーカーは、糖、リン脂質及びトコフェロールの誘導体であると考えられる。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
ヒト血清内の多発性硬化症に特異的な生物マーカーの同定は、侵襲性が最小限であるため極めて有用であり、臨床症状が出現する前に多発性硬化症病理の存在を検出するために使用できる。血清検査は侵襲性が最小限であり、一般集団により受け入れられよう。現在同定されている代謝産物質量は、RR型多発性硬化症と、PP型多発性硬化症と、SP型多発性硬化症と、正常な血清で統計的に有意な差分存在量を有することが見出され、それらの最適なパネルを抽出し、疾患存在の診断指標として使用できる。血清内の低分子又は代謝産物に基づく診断アッセイは、特定の代謝産物を検出可能な比較的単純で対費用効果の高いアッセイに発展させることができる。本方法を現行の臨床的化学検査機器と互換性がある臨床アッセイへ移行させることは、商業的に受容可能で効率的であり、急速な世界的普及をもたらし得る。さらに、検査を実施し解釈する高度に訓練された人材を雇用することがなくなろう。
【0034】
本発明は、健常者と比較して、RR型多発性硬化症及びPP型多発性硬化症を罹病している個体内で増加する分子のパネルに関するため、特定のタイプの多発性硬化症に対する感受性の指標として、又はその代わりに非常に初期の疾患発症の指標としてこの検査を使用できる。高度に正確な、血清内の多発性硬化症の素因アッセイの可能性は、この種のアッセイでは初めてとなろう。
【0035】
本発明が多発性硬化症の診断に与える影響は、危険性を評価するために文字通り全ての人を生涯にわたって長期的にスクリーニングできるため、多大であろう。本発明の検査の性能特性が一般集団を代表することを考慮すると、臨床症状の出現の前に疾患の進行を検出する可能性を有し得るため、この検査だけでも現在利用できる他の任意のスクリーニング方法より優れている可能性がある。
【0036】
本発明のこの概要は、本発明の全ての特徴を説明するとは必ずしも限らない。
【0037】
これらの及び他の本発明の特徴は、添付した図面が参照される以下の説明からより明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明は、臨床的に診断された多発性硬化症又は他の神経障害と正常な患者で有意に異なる存在量又は強度を有すると見出される低分子又は代謝産物に関する。本発明は、多発性硬化症及び他の神経障害を診断する方法にも関する。
【0039】
本発明は、1つ又は複数の疾患又は特定の健康状態の診断方法を発見、認証、及び実行するための新規な方法を提供する。特に、本発明は、試料内に存在する特定の低分子のレベルを測定し、それらを「正常な」参照レベルと比較することによりヒトの多発性硬化症を診断及び鑑別診断する方法を提供する。参照試料は、正常試料又は他の形態の多発性硬化症を罹病している患者由来の試料であり得る。試料は、それらに限定はされないが、血液、尿、唾液、毛髪、脳脊髄液(CSF)、生検又は剖検試料を含む任意の生体試料であり得る。本方法は、多発性硬化症を罹病している患者由来の試料内の、代謝産物とも呼ばれる特定の低分子の強度を測定し、それらの強度を健常な(非多発性硬化症の)個体の集団内で認められる強度と比較する。
【0040】
試料内で測定された低分子は、本明細書中では、「マーカー」、「生物マーカー」、又は「代謝産物」と呼ばれてもよい。代謝産物は、当技術分野で公知である任意の方法で、例えば、それらに限定されないが、質量(「代謝産物質量」又は「精密質量」とも呼ばれる)、分子式、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、MS/MS若しくはMSnスペクトル、分子構造、又はそれらの任意の組合せにより特徴付けることができる。「代謝産物特徴」という用語は、代謝産物、その断片、その類似体、又はその化学的等価物を指す。
【0041】
本発明は、本明細書中で開示された代謝産物の全て又はサブセットを使用して、任意のタイプ(複数可)の神経障害を診断又は除外することを企図する。神経障害のタイプは、アルツハイマー病(AD、Alzheimer's disease)、レビー小体型認知症(DLB、dementia with Lewy bodies)、前頭側頭様型認知症(FTD、frontotemporal lobe dementia)、血管誘発型認知症(例えば、多発脳梗塞性認知症)、無酸素現象誘発型痴呆症(例えば、心停止)、脳外傷誘発型認知症(例えば、拳闘家認知症[ボクサー認知症])、感染性作用物質への曝露から生じる認知症(例えば、クロイツフェルトヤコブ病)又は毒物への曝露から生じる認知症(例えば、アルコール誘発型認知症)、急性散在性脳脊髄炎、ギランバレー症候群、副腎白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経萎縮症、HTLV関連脊髄炎、クラッベ病神経障害、フェニルケトン尿症、カナバン病、ペリツェウスメルツバッハー病、アレキサンダー病、視神経脊髄炎、橋中央ミエリン溶解、異染性白質ジストロフィー、シルダー病、自閉症、多発性硬化症、パーキンソン病、双極性障害、虚血症、ハンチントン舞踏病、大うつ病性障害、閉鎖性頭部外傷、水頭症、健忘症、不安障害、外傷性脳障害、強迫性障害、統合失調症、精神遅滞、癲癇及び/又は免疫応答、脱髄、脊髄炎若しくは脳脊髄炎を伴う任意の他の状態を含むが、それらに限定されない。
【0042】
本発明は、ヒトから取得した試料内に存在する特定の低分子のレベルを測定し、それらを「正常な」参照レベルと比較することにより、多発性硬化症及びそのサブタイプを診断する方法を提供する。
【0043】
特定の集団内の所定の健康状態の生化学マーカーが存在するかどうかを決定するためには、その健康状態(すなわち特定の疾患)を代表する患者群及び「正常な」対応群が必要である。その後、FTMS及び/又はLC−MSを使用して試料に存在する生化学物質を分析して2つの群間の生化学的差異を同定するために、特定の健康状態の範疇にある患者から採取した生体試料を、類似の健康状態の範疇にある患者だけでなく正常集団から採取した同一試料と比較する。生体試料は、血液(血清/血漿)、脳脊髄液(CSF)、尿、便、唾液、又は腫瘍、隣接した正常な平滑筋及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、毛髪、脳、腎臓、膵臓、肺、大腸、胃、若しくはその他を含む任意の固形組織の生検を含むが、それらに限定されない体内の任意の場所が起源であり得る。特に関心があるのは、血清である試料である。「血清」という用語を本明細書中で使用するが、当業者であれば、血漿、全血、又は全血の亜分画が使用できることを認識しよう。
【0044】
特定の代謝産物を検出可能なアッセイの開発は比較的単純で対費用効果が高いため、試料内の低分子又は代謝産物に基づく本発明の方法は、理想的なスクリーニング検査を作り上げる。本検査は侵襲性が最小限で、多発性硬化症病理の指標であり、多発性硬化症のサブタイプを互いに鑑別するのに有用であり得る。本方法を、現行の臨床的化学検査機器に適合する臨床アッセイへ転換させることは、商業的に受容可能であり効率的である。さらに、本発明の方法は、検査を実施及び/又は解釈する高度に訓練された人材を必要としない。
【0045】
本発明は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症と、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症と、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症と、正常な血清で、統計的に有意な差分存在量を有すると見出された数百の代謝産物質量も提供する。
【0046】
非標的メタボロミクス戦略。多数の非標的メタボロミクス戦略は、NMR(Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82)、GC−MS(Fiehn, O., et al. Metabolite profiling for plant functional genomics. Nat Biotechnol, 2000. 18(11): p. 1157-61;Hirai, M.Y., et al., Integration of transcriptomics and metabolomics for understanding of global responses to nutritional stresses in Arabidopsis thaliana. Proc Natl Acad Sci U S A, 2004. 101(27): p. 10205-10;Roessner, U., et al., Metabolic profiling allows comprehensive phenotyping of genetically or environmentally modified plant systems. Plant Cell, 2001.13(1): p. 11-29)、LC−MS、及びFTMS戦略(Reo, N.V., NMR-based metabolomics. Drug Chem Toxicol, 2002. 25(4): p. 375-82;Castrillo, J.I., et al., An optimized protocol for metabolome analysis in yeast using direct infusion electrospray mass spectrometry. Phytochemistry, 2003. 62(6): p. 929-37;Fiehn, O., Metabolomics-the link between genotypes and phenotypes. Plant Mal Biol, 2002. 48(1-2): p. 155-71;Aharoni, A., et al., Nontargeted metabolome analysis by use of Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry. Omics, 2002. 6(3): p. 217-34)を含む科学文献で説明されている。発現が異なる代謝産物を見出すために本出願で採用した代謝プロファイリング戦略は、Phenomenome Discoveries社が開発した非標的FTMS戦略であった(Roessner, U., et al., Metabolic profiling allows comprehensive phenotyping of genetically or environmentally modified plant systems. Plant Cell, 2001.13(1): p. 11-29;Aharoni, A., et al., Nontargeted metabolome analysis by use of Fourier Transform Ion Cyclotron Mass Spectrometry. Omics, 2002. 6(3): p. 217-34;Hirai, M.Y., et al., Elucidation of gene-to-gene and metabolite-to-gene networks in arabidopsis by integration of metabolomics and transcriptomics. J Biol Chem, 2005. 280(27): p. 25590-5;Murch, S.J., et al., A metabolomic analysis of medicinal diversity in Huang-qin (Scutellaria baicalensis Georgi) genotypes: discovery of novel compounds. Plant Cell Rep, 2004. 23(6): p. 419-25;Tohge, T., et al., Functional genomics by integrated analysis of metabolome and transcriptome of Arabidopsis plants over-expressing an MYB transcription factor. Plant J, 2005.42(2): p. 218-35;米国公開出願第2004−0029120号Al明細書、カナダ特許出願第2,298,181号明細書、及び国際公開第01/57518号パンフレットも参照されたい)。非標的分析は、事前にいかなる知識も持たずに、又は分析前に構成要素の選択をせずに、試料内のできるだけ多数の分子を測定することを含む。したがって、非標的分析が新規の代謝産物生物マーカーを見出す可能性は、事前の定義リストにある分子を検出する標的法と比較して高い。本発明は、
1.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と健常対照;
2.臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者と健常対照;
3.臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者と健常対照;
4.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者;
5.SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者;
5.SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者と臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者
で異なる血清試料内の代謝産物構成要素を同定する非標的法を使用する。
【0047】
試料処理。患者から血液試料を採血する場合、試料を処理し得る幾つかの方法がある。処理の範囲は、全くしない(すなわち、凍結全血)又は特定の細胞タイプの単離のように複雑であり得る。最も一般的で定常的な手順は、全血から血清又は血漿のいずれかを調製することを含む。本発明は、ろ紙又は他の固定物質などの固相支持体上に血液試料の染みを付けることを含む全ての血液試料の処理方法も企図する。
【0048】
試料の抽出。上述した処理済の血液試料を、その後さらに処理して、処理済の血清試料内に含有される生化学物質の検出及び測定に採用する系統的分析技術に適合させる。処理のタイプは、少ないところではさらなる処理無しから複雑なところでは差分抽出及び化学誘導体化まで及び得る。抽出法は、メタノール、エタノール、アルコール及び水の混合液、又は酢酸エチル若しくはヘキサンなどの有機溶媒など、一般的溶媒中での超音波処理法、ソックスレー抽出法、マイクロ波支援抽出法(MAE、microwave assisted extraction)、超臨界流体抽出法(SFE、supercritical fluid extraction)、高速溶媒抽出法(ASE、accelerated solvent extraction)、高圧液体抽出法(PLE、pressurized liquid extraction)、加圧熱水抽出法(PHWE、pressurized hot water extraction)、及び/又は表面活性剤支援抽出法(PHWE、surfactant assisted extraction)を含み得る。FTMS非標的分析用の代謝産物を抽出する好ましい方法は、無極性代謝産物が有機溶媒に溶解し、極性代謝産物が水性溶媒に溶解する液体/液体抽出を実施することである。
【0049】
抽出物の質量分析の解析。生体試料の抽出物は、直接注入又はクロマトグラフィー分離後のいずれかにより、基本的にあらゆる質量分析プラットフォームでの分析に適している。典型的な質量分析計は、試料内の分子をイオン化するイオン源、及びイオン化された分子又は分子の断片を検出する検出器から構成される。一般的なイオン源の例は、電子衝撃、エレクトロスプレーイオン化(ESI、electrospray ionization)、大気圧化学イオン化、大気圧光イオン化(APPI、atmospheric pressure photo ionization)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI、matrix assisted laser desorption ionization)、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI、surface enhanced laser desorption ionization)、及びそれらの派生型を含む。一般的な質量分離及び検出システムは、四重極型、四重極イオントラップ型、線形イオントラップ型、飛行時間型(TOF、time-of-flight)、磁場型、イオンサイクロトロン型(FTMS)、オービトラップ型、並びにそれらの派生型及び組合せを含み得る。FTMSがMSを基盤とする他のプラットフォームに優る点は、より低分解能の装置ではその多くが見逃されるであろう、わずか1ダルトンの数百分の1だけ異なる代謝産物の分離を可能にするその高度な分解能力である。
【0050】
訓練用分類指標。相互検証された訓練用分類指標を、マイクロアレイ予測解析(PAM)(http://www-stat.stanford.edu/〜tibs/PAM/)アルゴリズム(Tibshirani, R., et al., Diagnosis of multiple cancer types by shrunken centroids of gene expression. Proc Natl Acad Sci U S A, 2002. 99(10): p. 6567-72)を使用して生成した。本方法は、診断が既知である試料を使用して分類指標アルゴリズム訓練することを含み、その後盲検診断した試料(すなわち検査セット)に適用できる。人工神経回路網(ANN、artificial neural network)、サポートベクターマシン(SVM、support vector machine)、部分最小二乗識別分析法(PLSDA、partial least squares discriminative analysis)、亜線形連想法、ベイズ推論法、教師ありの主成分分析法、収縮重心法(shrunken centroid)又はその他を含む(概説はWu, B., et al., Comparison of statistical methods for classification of ovarian cancer using mass spectrometry data. Bioinformatics, 2003. 19(13): p. 1636-43を参照)幾つかの教師ありの方法が存在し、それらのいずれを使用しても最良の特徴セットを特定できる。
【0051】
実施例1〜4を参照し、分子式、MS/MS断片化パターン、及びNMRデータの類似性に基づき、診断特徴セットを含む同定された血清内の代謝産物、又はそのサブセットを化学的に関連付けることができる。加えて、FTMSデータセットに存在し、多発性硬化症集団内での存在量の増加も示し、同定したサブセットに類似した分子式を共有する他の関連化合物が多数存在する。したがって、その結果は、共通の構造的特性を共有する代謝産物類全体が、多発性硬化症患者において異常性であることを示唆する。理論に結びつけることは望まないが、これらの代謝産物レベルの制御に関与する生化学経路が、多発性硬化症患者では混乱している可能性があり、したがって想定される介入治療標的であり得る。考えうる介入のタイプは、関与経路に関わるタンパク質のアゴニスト若しくはアンタゴニストの開発及び/又は関与代謝産物の濃度を減少させるであろう栄養補助剤の開発又はこれらの代謝産物の濃度を減少させる前駆薬剤又は前駆栄養剤の開発を含む。
【0052】
本発明は、精密質量及び分子式の決定、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、及びMS/MS又はMSnスペクトルを含んでよい、RR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、及びSP型多発性硬化症の鑑別診断に使用する代謝産物の構造的特徴も提供する。これらの特徴を決定するために使用する技術は、C18カラムを使用する逆相LC−MS後のMSによる分析、衝突誘起解離(CID、collision induced dissociation)を使用したMS/MS断片化、磁気共鳴(NMR)、及び抽出を含むがそれらに限定されない。種々の方法により取得した代謝産物の特徴は、次に代謝産物の構造を決定するために使用する。
【0053】
本発明は、多発性硬化症及び正常な状態を鑑別診断するハイスループット法も提供する。本方法は親分子の断片化を含み、非限定的な例では、これはQ−Trap(商標)システムにより達成できる。代謝産物の検出は、比色化学アッセイ(UV、又は他の波長)、抗体に基づく酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、チップ及びPCRに基づく核酸検出用アッセイ、ビーズに基づく核酸検出法、尿検査化学アッセイ又はその他の化学反応、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放出断層撮影法(PET、positron emission tomography)スキャン、コンピュータ断層撮影法(CT、computerized tomography)スキャンなどの画像解析、磁気共鳴法(NMR)、及び種々の質量分析に基づくシステムを含む種々のアッセイプラットフォームの1つを使用して実施できる。
【0054】
本発明の代謝産物及び方法は、病歴、神経画像解析、誘発電位、及び脳脊髄液内のタンパク質性及び炎症性要素の脳脊髄液分析を含む現行の多発性硬化症用の診断手段と組み合わせることもできる。画像技術は、構造的磁気共鳴画像法(MRI)、造影MRI、陽電子放出断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影法(CT)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、脳波記録法(EEG、electroencephalography)、単陽電子放出断層撮影法(SPECT、single positron emission tomography)、事象関連電位法、脳磁気図検査法、及び/又は多様な画像法を含むがそれらに限定されない。臨床的評価は、Kurtzkeの総合障害度評価尺度(EDSS、extended disability status scale)、多発性硬化症インパクト尺度(MSIS、multiple sclerosis impact scale)、スクリプス神経評価尺度(NRS、neurologic rating scale)、歩行指標(AI、ambulation index)、MS関連症状尺度、MS患者用15項目日常生活活動セルフケア尺度、労働不能状態尺度、機能的自立尺度、及び/又は核間性眼筋麻痺を含むがそれらに限定されない。当業者であれば、本明細書中に記載の代謝産物及び方法と現行の技術を組み合わせることは、任意の形態の多発性硬化症及び/又はその病理を診断又は鑑別する可能性を有すると認識しよう。
【0055】
以下の実施例で本発明をさらに例証する。
【実施例1】
【0056】
発現が異なる代謝産物の同定
発現が異なる代謝産物を、健常対照と同様に、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症に罹病している個体で同定する。
【0057】
臨床試料。上述の多発性硬化症血清診断アッセイ用の試料は、健常者並びに臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者を代表する集団から取得した。本発明に記載のRR型多発性硬化症の生化学マーカーは、RR型多発性硬化症と臨床的に診断された患者由来の93個の血清試料、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症を罹病している18人の患者由来の血清試料、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症を罹病している22人の患者由来の血清試料、及び対照由来の51個の血清試料の分析から導き出された。RR型多発性硬化症を罹病している93人の患者を、さらに2群:依然として再発寛解型の疾患経過を示す患者(平均罹病期間は5.9年、n=46)及び慢性的二次性進行型の疾患経過へ推移する患者(平均罹病期間は11.4年、n=47)のうちの1つに分割した。4群の試料は、様々な非多発性硬化症関連の健康状態を示す、幅広い年齢、デモグラフィック、体重、職業にわたる個体の多様な集団に由来した。試料は全て、同時に採取した。
【0058】
本実施例で使用した184個の血清試料内に含有される代謝産物を、超音波処理及び激しい攪拌(ボルテックス攪拌)を介して極性及び無極性抽出物に分離した。
【0059】
184人(93人の臨床的に診断されたRR型多発性硬化症、18人の臨床的に診断されたPP型多発性硬化症、22人の臨床的に診断されたSP型多発性硬化症、及び51人の健常対照)から採取した血清抽出物の分析は、FTMSへの直接注入並びにESI又は大気圧化学イオン化(API)のいずれかによる、ポジティブ及びネガティブの両モードでのイオン化により実施した。試料抽出物は、ネガティブイオン化モード用には、メタノール:0.1%(v/v)水酸化アンモニウム(50:50、v/v)中に、又はポジティブイオン化モード用には、メタノール:0.1%(v/v)ギ酸(50:50、v/v)中に、3倍又は6倍のいずれかに希釈した。APCI用には、試料抽出物を希釈せずに直接注入した。分析は全て、7.0Tアクティブシールド超伝導磁石を備えたBruker Daltonics社製APEX IIIフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(Bruker Daltonics社製、Billerica、MA)で実施した。試料は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びAPCIを使用して、毎時1200μLの流速で直接注入した。イオン移動/検出パラメータは、セリン、テトラアラニン、レセルピン、ヒューレットパッカード調整混合物及び副腎皮質刺激ホルモン断片4〜10の標準混合物を使用して最適化した。加えて、装置の製造業者の推奨に従って装置条件を調整し、100〜1000amuの質量範囲にわたるイオン強度及び広域帯集積を最適化した。100〜1000amuの取得範囲にわたる質量の精度のため、上記で言及した標準物質の混合物を使用して各試料スペクトルを内部的に較正した。
【0060】
抽出物及びイオン化モードの組合せを含む全部で6つの個々の分析が各試料で得られた:
水性抽出物
1.ポジティブESI(分析モード1101)
2.ネガティブESI(分析モード1102)
有機抽出物
3.ポジティブESI(分析モード1201)
4.ネガティブESI(分析モード1202)
5.ポジティブAPCI(分析モード1203)
6.ネガティブAPCI(分析モード1204)
【0061】
質量分析のデータ処理。線形最小二乗回帰直線を使用して、各内部標準の質量ピークが理論的質量と比較して<1ppmの質量誤差になるように質量軸の値を較正した。Bruker Daltonics Inc.社製のXMASSソフトウエアを使用して、1メガワードのサイズのデータファイルを取得し、2メガワードまでゼロ挿入を行った。フーリエ変換及び振幅計算の前に、sinmデータ変換を実施した。各分析からの質量スペクトルを統合して、各ピークの精密質量及び絶対強度を含むピークリストを作成した。100〜2000m/zの範囲の化合物を分析した。異なるイオン化モード及び極性にわたるデータを比較及びまとめるために、水素付加体形成を前提にして、検出した全質量ピークを対応する中性質量に変換した。次いで、DISCOVAmetrics(商標)ソフトウエア(Phenomenome Discoveries Inc.社製、Saskatoon、SK、カナダ)を使用し、自己生成型2次元(質量対試料強度)アレイを生成した。多ファイルからのデータを統合し、次にこの一体化ファイルを処理して全ての個有質量を決定した。各個有質量の平均を決定し、y座標とした。この値は、統計的に等しいと決定した検出済の全精密質量の平均を表す。この装置のこの較正標準物質での質量精度がおよそ1ppmであることを考慮すると、当業者であれば、これらの平均質量は、この平均質量の±5ppm内に入る個々の質量を含むことができることを認識しよう。分析のために最初に選択した各ファイル毎に列を生成し、それをx座標とする。次に、選択したファイルの各々に見出される各質量の強度を、それが対応するx、y座標に書き込んだ。強度値を含まなかった座標は、空白のまま残した。いったんアレイ内に書き込まれると、データはさらに処理、視覚化、及び解釈され、推定される化学的同一性が帰属された。次に、各スペクトルをピークピックして、検出した全代謝産物の質量及び強度を取得した。次に、全モードからのこれらのデータを融合させ、試料毎に1つのファイルを作成した。次に、全184個の試料からのデータを融合及び整列させ、各試料が列により表され、各個有代謝産物が単一の行により表される代謝産物の2次元アレイを作成した。代謝産物試料の所定の組合せに対応するセル内に、その試料内の代謝産物の強度を表示した。データをこの書式で表すと、試料群間で差異を示す代謝産物を決定できる。
【0062】
高度なデータ解釈−血清生物マーカー。スチューデントt検定を使用して、以下の異なる臨床群の間で有意に異なった血清内の代謝産物を選択した:
1.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=46)及び対照(n=51)、[240個の代謝産物、表1を参照];
2.臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者(n=18)及び対照(n=51)、[60個の代謝産物、表2を参照];
3.臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者(n=22)及び対照(n=51)、[129個の代謝産物、表3を参照];
4.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=46)及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症(n=22)、[135個の代謝産物、表4を参照];
5.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=46)及びSP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=47)、[148個の代謝産物、表5を参照];
6.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=47)、及びSP型多発性硬化症患者(n=22)、[42個の代謝産物、表6を参照]。
【0063】
p<0.05より小さい代謝産物が有意であると見なされた。
【0064】
表1〜6は、血清中の濃度又は量が検査集団間で有意に異なり(p<0.05)、したがって前述の各集団を特定するための潜在的な診断的有用性を有する代謝産物特徴を示す。特徴は精密質量及び分析モードにより説明され、それらは合わせて、各代謝産物の推定分子式及び化学的特性(極性及び推定官能基など)を提供するのに十分である。
【0065】
各臨床ペアについては、前述のように、相互検証された訓練用分類指標をPAMアルゴリズムを使用して生成した。診断が既知である試料を使用して分類指標アルゴリズムを訓練し、次いで盲検試料(すなわち検査セット)に適用した。
【0066】
最少数の代謝産物で取得した最も低い訓練用分類指標を、それぞれの臨床ペア用に選択した。図1Aのグラフは、種々の閾値(使用者が定義可能なPAMパラメータ)で所定の訓練誤差を達成するのに必要な代謝産物の数を示す。このプロットは、誤差率が22%より少ない(0.22訓練誤差)訓練用分類指標が、5つの代謝産物特徴で可能であることを示す(閾値がおよそ3.59、矢印を参照)。図1Bのグラフは概念的に1Aのグラフと類似しているが、1Bのグラフは、PAMプログラムに組み込まれている相互検証手順に従った、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び対照患者用の訓練済分類指標の誤分類誤差を示す。菱形により結ばれた直線は以前の結果を反映し、対照についての相互検証された最小誤分類誤差がわずか5個の代謝産物を使用して達成されたことを示す。このグラフは、わずか3つの代謝産物特徴を使用しただけで、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(四角で描かれている)が93%の精度でRR型多発性硬化症を罹病していると診断されたが、この閾値では対照の誤分類が66%(矢印参照)であったことを示す。RR型多発性硬化症患者及び対照の各々の相互検証された診断確率を個別に図2に示す。臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者は全てグラフの右側に、対照は左側に列挙する。各試料はグラフ上の2点を含み、1つはRR型多発性硬化症を罹病している確率(四角)を示し、もう1つはRR型多発性硬化症を罹病していない確率(すなわち正常、菱形)を示す。このグラフから、6つのRR型多発性硬化症試料が非多発性硬化症と分類され、5つの対照がRR型多発性硬化症と分類された。5個の代謝産物を表7に列挙した。次いでJROCFIT(http://www.rad.jhmi.edu/jeng/javarad/roc/JROCFITi.html)を使って受信者動作特性(ROC)曲線を図3に生成するために予測された確率を使用したが、これは真陽性画分(RR型多発性硬化症を罹病していると予測されたRR型多発性硬化症を罹病している人々)対偽陽性画分(RR型多発性硬化症を罹病していると予測された対照個体)を示す。曲線下面積は81.4%であり、感度が94.3%、及び特異性が72.5%である。全体的に見て、相互検証設計に基づく診断精度は、81.4%である。
【0067】
上記第1の主成分分析は、各臨床ペアの最適な代謝産物の初期同定を可能にした。これらの知見を確認するために、第2のPAM分析を実施した。各臨床ペアについての第2の分析(以下で考察)は、一般的に第1の主成分分析より多数の代謝産物を提供した。この代謝産物の拡張セットから、臨床的な健康状態間を鑑別するための最良な候補を同定し、それらは一般的に初期に同定した代謝産物に対応した。
【0068】
第2のPAM法では、各臨床ペアの試料を無作為に半分に分割し、一方の半分を使用して分類指標を生成し、他の半分を診断用の盲検「検査セット」として使用した。第1の方法はより多くの試料を使用して分類指標を生成するため、その予測精度が第2の手法より高いことが期待され、したがって高い診断精度のためにより少数の代謝産物を必要としよう。臨床的に診断されたRR型多発性硬化症の全患者の先行実施例に従い、訓練セットは30人の臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び26人の対照で構成した。盲検検査試料がRR型多発性硬化症特異的であるか又は対照であるかのいずれかの予測確率を、図4にプロットする。結果は、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症試料の4つに、対照であることのより高い確率が与えられ、4つの対照に、RR型多発性硬化症であることのより高い確率が与えられたことを示す。これらの試料を使用して誤分類誤差を最も低くするために必要な代謝産物の最適数は、表8に列挙した16個である。次に、分類指標を使用して残りの試料(盲検;17人の臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び25人の対照)の診断を予測した。表9は、検査セットで使用した患者並びに彼らの実際の及び予測された診断を含む。次いで、図4からの確率をROC曲線に変換した(図5)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が76.5%、特異性が84.0%、及び全体的な診断精度は81.0%であった。
【0069】
PAM分析を各臨床ペアについて繰り返した。誤分類誤差を最小にするのに必要な代謝産物の最適数と共に、各訓練用セットで使用した試料数を表10に列挙する。次に訓練セット用の分類指標を使用し、各臨床ペアについて、残りの試料の診断の予測をした。
【0070】
i)臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者及び対照。表11は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表11からの確率をROC曲線に変換した(図6)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が44.4%、特異性が92%、及び全体的な診断精度は79.4%であった。
【0071】
ii)臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者及び対照。表12は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表12からの確率をROC曲線に変換した(図7)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が63.6%、特異性が100%、及び全体的な診断精度は88.9%であった。
【0072】
iii)臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及びSP型多発性硬化症患者。表13は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表13からの確率をROC曲線に変換した(図8)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が88.9%、特異性が100%、及び全体的な診断精度は97.1%であった。
【0073】
iv)SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者[RR−SP]及びRR型多発性硬化症患者。表14は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表14からの確率をROC曲線に変換した(図9)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が100%、特異性が92.3%、及び全体的な診断精度は95.7%であった。
【0074】
v)SP型多発性硬化症に推移する臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者[RR−SP]及びSP型多発性硬化症患者。表15は、代謝産物の拡張セット並びに検査セットで使用した患者の実際の及び予測された診断を含む。表15からの確率をROC曲線に変換した(図10)。盲検検査セットの分類に基づく性能特性は、感度が72.7%、特異性が95.5%、及び全体的な診断精度は87.9%であった。
【0075】
約240個の代謝産物の初期パネル及び約16個の代謝産物の拡張セットを使用して、9個の代謝産物の組合せが、正常試料と比較したRR型多発性硬化症の血清診断検査の診断基準を満たすことが判定された。9個の代謝産物の最良の組合せは、質量(ダルトンで測定)452.3868、496.4157、524.4448、540.4387、578.4923、580.5089、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物を含む。これらは実際の質量であるが、当業者であれば、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すと認識しよう。
【0076】
約60個の代謝産物の初期パネル、及び約7個の代謝産物の拡張セットを使用して、5個の代謝産物の組合せが、正常試料と比較したPP型多発性硬化症の血清診断検査の診断基準を満たすことが判定された。5個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)202.0453、216.04、243.0719、244.0559、857.7516を有する代謝産物を含む。
【0077】
約129個の代謝産物の初期パネル、及び約16個の代謝産物の拡張セットを使用して、18個の代謝産物の組合せが、正常試料と比較したSP型多発性硬化症の血清診断検査の診断基準を満たすことが判定された。18個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)194.0803、428.3653、493.385、541.3415、565.3391、576.4757、578.4923、590.4964、594.4848、495.4883、596.5012、596.5053、597.5062、597.5068、805.5609、806.5643、827.5446、886.5582を有する代謝産物を含む。
【0078】
約135個の代謝産物の初期パネル、及び約16個の代謝産物の拡張セットを使用して、6個の代謝産物の組合せが、SP型多発性硬化症と比較したRR型多発性硬化症の血清指標についての診断基準を満たすことが判定された。6個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)540.4387、576.4757、594.4848、595.4883、596.5012、597.5062を有する代謝産物を含む。
【0079】
約148個の代謝産物の初期パネル、及び約9個の代謝産物の拡張セットを使用して、5個の代謝産物の組合せが、RR型多発性硬化症患者と比較した、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP]の血清指標についての診断基準を満たすことが判定された。5個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)576.4757、578.4923、594.4848、596.5012、597.5062を有する代謝産物を含む。
【0080】
約42個の代謝産物の初期パネル、及び約17個の代謝産物の拡張セットを使用して、8個の代謝産物の組合せが、SP型多発性硬化症患者と比較した、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP]の血清指標についての診断基準を満たすことが判定された。8個の代謝産物の最良の組合せは、±5ppmの差異は同一の代謝産物を示すであろう質量(ダルトンで測定)617.0921、746.5118、760.5231、770.5108、772.5265、784.5238、786.5408、787.5452を有する代謝産物を含む。
【0081】
異なる臨床群の生物マーカーの平均±SEMを表す棒グラフを図11〜16に示す。対照個体に対する3つの非対照状態は、以下のように記述できる:
1.RR型多発性硬化症対対照:
a.生物マーカー 452.3868−増加
b.生物マーカー 496.4157−増加
c.生物マーカー 524.4448−増加
d.生物マーカー 540.4387−増加
e.生物マーカー 578.4923−増加
f.生物マーカー 580.5089−増加
g.生物マーカー 594.4848−増加
i.生物マーカー 596.5012−増加
h.生物マーカー 597.5062−増加
2.PP型多発性硬化症対対照:
a.生物マーカー 202.0453−増加
b.生物マーカー 216.0400−増加
c.生物マーカー 243.0719−増加
d.生物マーカー 244.0559−増加
e.生物マーカー 857.7516−増加
3.SP型多発性硬化症対対照:
a.生物マーカー 194.0803−減少
b.生物マーカー 428.3653−増加
c.生物マーカー 493.3850−減少
d.生物マーカー 541.3415−減少
e.生物マーカー 565.3391−減少
f.生物マーカー 576.4757−減少
g.生物マーカー 578.4923−減少
h.生物マーカー 590.4964−減少
i.生物マーカー 594.4848−減少
j.生物マーカー 595.4883−減少
k.生物マーカー 596.5012−減少
l.生物マーカー 596.5053−減少
m.生物マーカー 597.5062−減少
n.生物マーカー 597.5068−減少
o.生物マーカー 805.5609−増加
p.生物マーカー 806.5643−増加
q.生物マーカー 827.5446−増加
r.生物マーカー 886.5582−減少
【0082】
RR型多発性硬化症患者に対する2つの慢性臨床群は、以下のように記述できる:
1.SP型多発性硬化症対RR型多発性硬化症:
a.生物マーカー 540.4387−減少
b.生物マーカー 576.4757−減少
c.生物マーカー 594.4848−減少
d.生物マーカー 595.4883−減少
e.生物マーカー 596.5012−減少
f.生物マーカー 597.5062−減少
2.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症[RR−SP]対RR型多発性硬化症:
a.生物マーカー 576.4757−減少
b.生物マーカー 578.4923−減少
c.生物マーカー 594.4848−減少
d.生物マーカー 596.5012−減少
e.生物マーカー 597.5062−減少
【0083】
SP型多発性硬化症患者に対する、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP]は、以下のように記述できる:
1.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症[RR−SP]対SP型多発性硬化症:
a.生物マーカー 617.0921−増加
b.生物マーカー 746.5118−増加
c.生物マーカー 760.5231−増加
d.生物マーカー 770.5108−増加
e.生物マーカー 772.5265−増加
f.生物マーカー 784.5238−増加
g.生物マーカー 786.5408−増加
e.生物マーカー 787.5452−増加
【0084】
次いで生物マーカーパネルを種々の臨床群に適用し、最良の分離を示した10人の患者を各臨床群毎に選択した。臨床群当たり10人の患者だけを使用して、全血清代謝産物についてのスチューデントt検定を実施した。
1.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=10)及び対照(n=10)、[257個の代謝産物、表16を参照];
2.臨床的に診断されたPP型多発性硬化症患者(n=10)及び対照(n=10)、[100個の代謝産物、表17を参照];
3.臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者(n=10)及び対照(n=10)、[226個の代謝産物、表18を参照];
4.臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=10)及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症(n=10)、[142個の代謝産物、表19を参照];
5.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=10)及び臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者(n=10)、[148個の代謝産物、表20を参照];
6.SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者[RR−SP](n=10)及び臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者(n=10)、[309個の代謝産物、表19を参照]。
【0085】
本実施例のために使用した試料セット(184人)は、種々の地理的背景、並びに様々な年齢及び健康状態の個体で構成されていた。したがって、本知見は一般的な多発性硬化症集団を代表すると予期される。
【実施例2】
【0086】
見出された代謝産物の独立した方法確認
本発明で説明した代謝産物及びそれらの臨床的変数との関連を、別の質量分析システムを使用してさらに確認した。調査中の臨床的変数の間で強度が異なる代謝産物を同定する目的で質量及び強度情報を取得するために、各変数群からの代表的試料抽出物を、ABI社製Q-Star、又はそれと同等の質量分析計と接続したHP社製1050型高速液体クロマトグラフィー(HPLC、high-performance liquid chromatography)、又はそれと同等機器を使用したLC−MSで再分析した。
【0087】
ある人の血液内で同定した代謝産物のレベルを決定し、それらのレベルを正常な「参照」集団内でのレベルと比較することにより、その人がRR型多発性硬化症、PP型多発性硬化症、又は初期段階のSP型多発性硬化症を罹病しているかどうかを予測する。これは、幾つかの方法の1つで行われる:1)多発性硬化症のある形態を罹病しているパーセント確率を出力する、検査試料を分類するための予測アルゴリズムを既述のように使用すること。予測的手法は、代謝産物の強度が測定される限りアッセイ法とは独立して機能しよう。2)質量分析計からの閾値強度レベルを設定することに基づく方法を適用し、ある人の特性が、疾患状態を示す閾値の上か又は下かを決定すること。3)正常及び疾患集団内で36個の血清代謝産物のモル濃度を決定する定量アッセイを使用すること。次いで、多発性硬化症陽性対非多発性硬化症陽性の絶対閾値濃度を決定する。臨床的状況において、これは、代謝産物又は代謝産物の組合せの測定レベルが特定の濃度を上回る場合、その人があるタイプの多発性硬化症について陽性である関連可能性があろうことを意味する。
【実施例3】
【0088】
主要代謝産物生物マーカーの構造解明
代謝産物の構造解明に使用できる特徴は、精密質量及び分子式、極性、酸/塩基特性、NMRスペクトル、並びにMS/MS又はMSnスペクトルを含む。これらのデータは、特定の代謝産物の指紋として使用でき、構造が完全に決定されたかどうかに関わりなく、特定の代謝産物に独特な識別指標である。データは以下を含む:
【0089】
1.LC滞留時間。目的の代謝産物を含有する抽出物を、C18カラム及びMSによる分析を使用した逆相LC−MSにかけ、標準条件下での滞留時間を決定する。
【0090】
2.MS/MSスペクトル。衝突誘起解離(CID)を使用したMS/MS断片化を実施することにより、目的の代謝産物をさらに特徴付ける。このMS/MS分析は、リアルタイムに(すなわち、クロマトグラフィーの溶出工程中に)又はクロマトグラフィーの分離工程から収集した分画に対してオフラインで実施する。所定の分子構造は、規定条件下で特定の断片化パターンを決定され、その分子に特異的である(人の指紋に相当)。わずかな分子構造の変化でさえ、異なる断片化パターンをもたらすことができる。分子の同一性の指紋を提供するだけでなく、CIDによって生じた断片は、分子構造についての洞察を得るために使用され、高度に特異的なハイスループット定量検出法を生み出す(例えば、Hager, J.W., et al., High-performance liquid chromatography-tandem mass spectrometry with a new quadrupole/linear ion trap instrument. J Chromatogr A, 2003. 1020(1): p. 3-9;Hopfgartner, G., et al., Triple quadrupole linear ion trap mass spectrometer for the analysis of small molecules and macromolecules. J Mass Spectrom, 2004. 39(8): p. 845-55;Xia, Y.Q., et al., Use of a quadrupole linear ion trap mass spectrometer in metabolite identification and bioanalysis. Rapid Commun Mass Spectrom, 2003. 17(11): p. 1137-45;Zhang, M.Y., et al., Hybrid triple quadrupole-linear ion trap mass spectrometry in fragmentation mechanism studies: application to structure elucidation of buspirone and one of its metabolites. J Mass Spectrom, 2005. 40(8): p. 1017-1029を参照)。
【0091】
3.NMRスペクトル。MS/MS断片化は、代謝産物について高度に特異的な記述的情報を提供する。しかしながら、NMRは分子構造を解析及び確認できる。NMR分析技術は典型的には質量分析技術より感度が低いため、HPLCでは複数回注入を実施し、目的代謝産物に対応する滞留時間の部分を収集及び混合した。次いで混合抽出物を気化させて乾燥し、NMR分析に適した溶媒に再溶解させる。
【0092】
多くのNMR技術及び装置が利用可能であり、例えば、NMRスペクトルデータは、目的代謝産物のクロマトグラフィー分離及び精製後に、クライオプローブを備えたBruker社製Avance600MHz分光計で記録する。異核種多量子相関法(HMQC、heteronuclear multiple quantum correlation)、異核間多数結合相関法(HMBC、heteronuclear multiple bond correlation)などの2DNMR技術だけでなく、1HNMR、13CNMR、非差分スペクトル法(no-difference spec)が、生物マーカーの構造解明の作業に使用される。
【0093】
4.抽出条件。抽出の条件は生物マーカーの化学的特性についての洞察も提供する。血清(実施例1から)内の9個の代謝産物は全て、ネガティブモードでイオン化(APCI)されたが、それは、カルボン酸又はリン酸などの酸性部分を含有する分子に特徴的である。水素原子を放出可能な任意の部分は、ネガティブイオン化モードで検出できる。代謝産物マーカーは酢酸エチルの有機画分中に抽出されたが、それは、これらの代謝産物が酸性条件下で無極性であることを示す。
【0094】
全ての化学物質及び媒体は、Sigma-Aldrich Canada Ltd.社、Oakville、ON.、Canadaから購入した。溶媒は全てHPLC級であった。HPLC分析は、4連ポンプ、自動注入器、脱気器、及びインラインろ過器付きのHypersil社製ODSカラム(5μm粒子径シリカ、4.6i.dx200mm)を備えた高速液体クロマトグラフィーで実施した。移動相:1.0ml/分の流速で52分間にH2O−MeOH〜100%MeOHの直線勾配。高分解能(HR、high resolution)質量スペクトル(MS、mass spectra)は、Bruker社製apex7Tフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)分光計で記録し、MS/MSデータは、ポジティブ及びネガティブモードの両方での、大気圧化学イオン化(APCI)及びエレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源を備えたQStar XL TOF質量分析計を使用して収集した。
【0095】
代謝産物特徴のデータ
生物マーカー1
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C28H51O4− 測定値;451.3795、計算値 451.3793。MS/MS m/z(相対強度):451([M−H]−,20%)、433(100%)、407(30%)、389(90%)、281(10%)、279(25%)、183(20%)、169(10%)、153(10%)、125(20%)、111(25%)、97(25%)。
生物マーカー2
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C30H55O5− 測定値;495.4054。計算値 495.4055 MS/MS m/z(相対強度):495([M−H]−,5%)、451(5%)、477(15%)、(433(15%)、415(5%)、307(5%)、297(45%)、279(100%)、235(5%)、223(20%)、215(70%)、197(90%)、179(50%)、181(10%)、169(100%)、157(25%)、155(10%)、153(5%)、141(10%)、139(5%)、127(10%)、125(10%)、113(5%)。
生物マーカー3
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C32H59O5− 測定値;523.4375、計算値;523.4368。MS/MS m/z(相対強度):523([M−H]−,30%)、505(100%)、487(25%)、479(40%)、463(40%)、461(45%)、443(40%)、365(30%)、337(20%)、299(25%)、297(25%)、281(25%)、279(40%)、271(65%)、269(20%)、253(35%)、251(55%)、243(30%)、225(65%)、197(55%)、171(20%)、169(25%)、157(20%)、155(10%)、143(10%)、141(20%)、139(20%)。
生物マーカー4
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C32H59O6− 測定値;539.4312、計算値;539.4317。MS/MS m/z(相対強度):539([M−H]−,20%)、521(100%)、503(50%)、495(40%)、477(40%)、461(30%)、459(40%)、419(30%)、335(70%)、315(40%)、313(40%)、297(60%)、279(90%)、259(40%)、255(40%)、253(20%)、243(20%)、241(30%)、225(20%)、223(30%)、213(30%)、179(20%)、171(40%)、155(30%)、141(50%)、127(40%)。
生物マーカー5
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H63O5− 測定値;575.4678、計算値;575.4681。MS/MS m/z(相対強度):575([M−H]−,45%)、557(75%)、539(70%)、531(30%)、513(60%)、495(100%)、417(50%)、403(60%)、371(25%)、297(15%)、279(40%)。
生物マーカー6
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H65O5− 測定値;577.4850、計算値;577.4837。MS/MS m/z(相対強度):577([M−H]−,45%)、559(75%)、541(70%)、533(30%)、515(60%)、497(100%)、419(50%)、405(60%)、387(25%)、373(25%)、297(15%)、281(25%)、279(40%)。
生物マーカー7
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H67O5− 測定値;579.5016、計算値;579.4994。MS/MS m/z(相対強度):579([M−H]−,45%)、561(90%)、543(40%)、535(25%)、517(60%)、499(100%)、421(20%)、407(20%)、389(20%)、375(20%)、299(25%)、281(30%)、279(40%)、263(10%)、253(15%)、185(10%)、171(25%)。
生物マーカー8
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H65O6− 測定値;593.4775、計算値;593.4787。MS/MS m/z(相対強度):593([M−H]−,50%)、575(55%)、557(30%)、549(15%)、531(20%)、513(25%)、495(10%)、421(15%)、371(30%)、315(50%)、297(100%)、279(90%)。 201(30%)、171(60%)、141(25%)、127(25%)。
生物マーカー9
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C36H67O6− 測定値;595.4939、計算値;595.4943。MS/MS m/z(相対強度):595([M−H]−,20%)、577(20%)、559(15%)、551(5%)、515(15%)、497(5%)、423(5%)、373(15%)、315(75%)、297(70%)、281(40%)、279(100%)、269(5%)、251(5%)、171(25%)、155(15%)、153(10%)、141(15%)、139(10%)、127(15%)。
生物マーカー10
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C43H78O10P− 測定値;785.5329、計算値;785.5338。MS/MS m/z(相対強度):758([M−H]−,100%)、529(10%)、425(20%)、273(73%)、169(5%)、125(100%)、97(5%)。
生物マーカー11
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C5H12O7P− 測定値;215.0322、計算値;215.0326。MS/MS m/z(相対強度):215([M−H]−,100%)、197(30%)、171(40%)、153(90%)、135(20%)。
生物マーカー12
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C25H51NO9P− 測定値;540.3337、計算値;540.3301。MS/MS m/z(相対強度):540([M−H]−,>1%)、480(17%)、255(100%)、242(>1%)、224(5%)、168(>1%)、153(>1%)、78(>1%)。
生物マーカー13
HRAPCI−MS m/z:[M−H]−、C27H51NO9P− 測定値;564.3313、計算値;564.3307。MS/MS m/z(相対強度):564([M−H]−,>1%)、504(10%)、279(100%)、242(>1%)、224(5%)、168(>1%)、153(>1%)、78(>1%)。
生物マーカー14
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C6H12O6Na+ 測定値;203.0531、計算値;205.0526。MS/MS m/z(相対強度):203([M+H]+,100%)、159(15%)、115(23%)、89(38%)、97(5%)。
生物マーカー15
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C8H13O7Na+ 測定値;245.0637、計算値;245.0631。MS/MS m/z(相対強度):245([M+H]+,100%)、227(5%)、209(5%)、155(10%)、125(15%)、83(5%)。
生物マーカー16
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C29H49O2+ 測定値;429.3732、計算値;429.3727。MS/MS m/z(相対強度):429([M+H]+,1%)、205(5%)、165(100%)。
生物マーカー17
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C46H81NO8P+ 測定値;806.5687、計算値;806.5694。MS/MS m/z(相対強度):806([M+H]+,21%)、478(>1%)、237(>1%)、184(100%)。
生物マーカー18
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C7H15O6+ 測定値;195.0881、計算値;195.0863。MS/MS m/z(相対強度):195([M+H]+,2%)、177(>1%)、165(>1%)、163(>1%)、138(100%)、123(6%)。
生物マーカー19
HRAPCI−MS m/z:[M+H]+、C54H100NO6+ 測定値;858.7594、計算値;858.7545。MS/MS m/z(相対強度):858([M+H]+,100%)、576(10%)、314(12%)、165(7%)、151(10%)、95(2%)。
【0096】
生物マーカーの精密質量を使用して分子式を推定した。生物マーカーのタンデム質量分析計を使用して構造を提唱し、それを表22にまとめた。生物マーカーは、糖、リン脂質及びトコフェロールの誘導体であると考えられた。
【0097】
各多発性硬化症生物マーカーについて得られたMS/MSスペクトルデータを使用して、それらの構造を推定した。MS生物マーカー1〜9のMS/MS断片化パターンを、CRCのパネル(本出願者の同時係属出願PCT/CA第2006/001502号パンフレットを参照;国際公開CA第2007/030928号パンフレットとして2007年3月22日に公開された)の断片化パターンに比較すると、多くの類似性が認められた。CRC及びこれらのMS生物マーカー両方に共通したイオン化モードに加えて、それらのMS/MSスペクトルはまた、[M−H−CO2]、[M−H−H2O]及び[M−H−CO2−H2O]−による断片喪失だけでなく、全ての検出された生物マーカーについて、C18:1又はC18:2(m/z281、279)のフィチル鎖型脂肪酸物質に対応する断片化イオンのシグナルも示した。別の類似性は、MS生物マーカー1〜9のMS/MSスペクトルが、フィチル側鎖切断後のクロマン型環系の喪失と推定される断片化イオンを示したことである[(153(1)、197(2)、225(3、4)、279(5、6、7)及び281(8、9)、表23〜31)]。これらの所見は、生物マーカー1〜9についてトコフェロール型構造の帰属に繋がった。水及び二酸化炭素の喪失(複数可)は、遊離ヒドロキシル基及びカルボン酸基の存在を示唆する。MS/MSスペクトルに認められたような、MS生物マーカーとCRCのマーカーの主な差異は、開環したクロマン環系及び1位において提唱される鎖延長である。
【0098】
HRAPCI−MSにより、1の分子式を不飽和度3のC28H52O4と決定した。上記で示したように、1のMS/MSスペクトルは、水の喪失(m/z433)、二酸化炭素(m/z407)の喪失及びフィチル側鎖の存在(m/z279)の喪失による断片化イオンを示した。m/z153で認められた断片化イオンを、フィチル側鎖喪失後に生じたシクロヘキセニル環系と帰属した。これらの推定に基づき、代謝産物1の構造を表22に示したように帰属した。
【0099】
上記で示したように、代謝産物2〜9は、1との構造的類似性の全て並びに追加的なヒドロキシル化及び1位における酸素原子とのエーテル結合を介した鎖延長を有する。これらの生物マーカーのフィチル側鎖の切断後に残されたシクロヘキセニル環単位は、不飽和度及びヒドロキシル化の数に幾らかの差異を有する独特の断片化イオンを生じさせた。2ではm/z197、3及び4ではm/z225、5、6及び8ではm/z279並びに7及び9ではm/z281(表23〜31を参照)で認められたこれらのイオンを使用して、異なるアルキル鎖延長;それぞれ適切なヒドロキシル化を伴うエチル、ブチル及びオクチルを帰属した。少し詳しくは、これらの断片化パターンは明らかに各シクロヘキセニル環系間の差異を示す。1位における鎖延長がない1では、C2−C3で切断された際にシクロヘキセニル環断片がもたらされ、式C10H17O(m/z153)が生じた。1位においてエチル化が起こると考えられ、環上に追加的なヒドロキシ基のある2では、シクロヘキセニル環断片の式は1に比べてC2H4O実体分だけの増加を示し、したがって断片は式としてC12H21O2(m/z197)を有する。これらの予測は2のMS/MSスペクトルの所見と合致し、したがって構造の帰属を認証した。3及び4では、鎖延長がブチル単位(C4H9)で起こると考えられ、したがって、2と比較した際、式C14H25O2(m/z225)を有するC2H4実体分の増加が認められた。生物マーカー5〜9では、1位におけるアルコキシ鎖延長はC8H17実体によった。それらの式及びMS/MSスペクトルを比較すると、7及び9(C36H68O5及びC36H68O6)は、9における追加的な酸素原子を除いて類似の特徴を示した。したがって、これはフィチル鎖上に帰属した。したがって、7及び9については、シクロヘキセニル環要素の断片化イオンが、m/z281(C18H33O2)で認められた。同様に、生物マーカー6(C36H66O5)及び8(C36H66O6)は、7及び9と同じような類似性を示し、唯一の差異は不飽和が付加されたことであり、したがってシクロヘキセニル断片は、m/z279(C18H31O2)にあった。6及び8と比較して5(C36H64O5)に不飽和度が追加されているが環断片m/z279(C18H31O2)を有することは、フィチル鎖上に不飽和が追加されたことを示唆した。これらの推定に基づき、代謝産物2〜9の構造を表22に示したように帰属した。
【0100】
1〜9と同一モードで検出された生物マーカー10は、FT−ICRMSの分子式データに基づき異なる種類の代謝産物であることを示唆した。取得した式、C43H79O10Pは、ヒドロキシル化ジアシルグリセロール−リン脂質型の構造を示唆する。提唱された構造及びMS/MS断片をそれぞれ表22及び表32に示す。
【0101】
ネガティブモードのエレクトロスプレーイオン化で血清の水性抽出物から取得した、生物マーカー11〜13のMS/MSデータは、個別に分析してそれらの構造を推定した。このパネルで同定された生物マーカーは、C5H13O7P、C25H52NO9P、及びC27H52NO9Pの式を有した。11(C5H13O7P)のMS/MSデータは、HPO3基だけでなく2つの水分子の喪失による断片を示し(表33)、それらは提唱された構造を使用して帰属できる。生物マーカー12及び13、(m/z541.3415、C25H52NO9P及びm/z565.3391、C27H52NO9P)は、2つの前立腺癌の生物マーカーと同一であることが見出された(2007年3月23日に提出された、本出願者の同時係属出願PCT/CA第2007/000469号パンフレットを参照)。ネガティブモードのエレクトロスプレーイオン化(ESI)で最も共通して認められたイオンは、グリセロホスホイニシトール、グリセロホスホセリン、グリセロホスファチジン酸及びグリセロホスホエタノールアミンなどの酸性リン脂質である。しかしある状況下では、ホスホコリンは、ネガティブESIモードでのイオン種として、[M+Cl]−又は[M+酢酸塩/ギ酸塩]−の付加体として検出され得る。ESI水性抽出物の検査手順はギ酸の使用を伴うため、これらのイオンがホスホコリンのギ酸塩付加体であり得る可能性は高い。ギ酸塩基の付加の結果として、ネガティブESIにかけた際に、対応する分子イオン([M−H+]−)を形成するグリセロホスホコリンの中性群が形成され、そうするとイオン化部位はフォスファチジン基である。これは、負に電荷したリン酸イオンを親イオンとして残すリン酸基の脱プロトン化を示唆する。生物マーカー12及び13の断片化分析を表34及び35に示す。
【0102】
生物マーカー14〜19のMS/MSデータは、ポジティブモードのESI及びAPCIで血清の有機及び水性抽出物から取得した。生物マーカー14及び15(水性抽出物)は、MS/MS断片指紋を使用して、低質量モノサッカライドに関連する代謝産物のナトリウム付加物として同定した(表36及び37)。有機抽出物からの生物マーカー16(表38)、(m/z428.3653、C29H48O2)は、そのMS/MSスペクトルが、追加的な不飽和度を除いてαトコフェロール標準物質のスペクトルと非常に類似していたので、αトコフェロールの誘導体として帰属した。血清の有機抽出物からの生物マーカー17(表39)、(m/z805.5609、C46H80NO8P)はまた、MS/MSデータが、N-メチル置換されたホスホエタノールアミン骨格だけでなくEPA及びオレイル基の存在を示す断片化イオンを示したため、オレイル、エイコサペンテン酸(EPA、eicosapentenoic)、N-メチルホスホエタノールアミンと提唱した。APCIイオン源を使用した代謝産物18(表40)及び19(表41)のMS/MSスペクトルデータは、それぞれモノサッカライド及びスフィンゴ脂質由来の生物マーカーと推定的に帰属した。
【実施例4】
【0103】
商業的ハイスループット法の開発
記載した代謝産物サブセットの定常的な分析のために、ハイスループット分析法を開発する。検出する分子に依存して、対費用効果の高い多くのタイプのアッセイプラットフォームの選択肢が現在利用可能である。これらは、比色化学アッセイ(UV、又は他の波長)、抗体に基づく酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、チップ及びPCRに基づく核酸検出用アッセイ、ビーズに基づく核酸検出法、尿検査化学アッセイ、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)スキャン、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンなどの画像解析、及び種々の質量分析に基づくシステムを含む。
【0104】
本方法は、現行の検査器具類及び世界中の多数の検査室に容易に設置される三重極−四重極質量分析計に適合するハイスループットMS/MS法の開発を含む。Q-Trap(商標)システムが、親分子の単離、断片化に使用され、次いでその断片が測定される。
【0105】
全ての引用は参照により本明細書に組み込まれる。
【0106】
1つ又は複数の実施形態に関して本発明を説明してきた。しかしながら、当業者であれば、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲を逸脱せずに多くの変形及び変更をなし得ることは、明らかである。
【0107】
【表7】
【0108】
【表8】
【0109】
【表9】
【0110】
【表10】
【0111】
【表11】
【0112】
【表12】
【0113】
【表13】
【0114】
【表14】
【0115】
【表15】
【0116】
【表16】
【0117】
【表17】
【0118】
【表18】
【0119】
表12:臨床的に診断されたSP型多発性硬化症及び対照についての代謝産物の最適数及び予測結果。
【0120】
【表19】
【0121】
【表20】
【0122】
【表21】
【0123】
【表22】
【0124】
【表23】
【0125】
【表24】
【0126】
【表25】
【0127】
【表26】
【0128】
【表27】
【0129】
【表28】
【0130】
【表29】
【0131】
【表30】
【0132】
【表31】
【0133】
【表32】
【0134】
【表33】
【0135】
【表34】
【0136】
【表35】
【0137】
【表36】
【0138】
【表37】
【0139】
【表38】
【0140】
【表39】
【0141】
【表40】
【0142】
【表41】
【0143】
【表42】
【0144】
【表43】
【0145】
【表44】
【0146】
【表45】
【0147】
【表46】
【0148】
【表47】
【0149】
【表48】
【0150】
【表49】
【0151】
【表50】
【0152】
【表51】
【0153】
【表52】
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】Aは、本発明の実施形態による、マイクロアレイ予測解析(PAM、Prediction Analysis of Microarray)訓練エラープロットを表し、Bは相互検証された誤分類エラープロットを表す図である。
【図2】本発明の実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び対照の相互検証された診断確率を表す図である。
【図3】本発明のさらなる実施形態による、相互検証された確率に基づく受信者動作特性(ROC、receiver-operator characteristic)曲線を表す図である。
【図4】本発明のさらなる実施形態による、盲検検査セットの診断予測を表す図である。
【図5】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及び対照の予測された検査セットに基づくROC曲線を表す図である。
【図6】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたPP型多発性硬化症及び対照に基づくROC曲線を表す図である。
【図7】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症及び対照に基づくROC曲線を表す図である。
【図8】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症及びSP型多発性硬化症に基づくROC曲線を表す図である。
【図9】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたRR型多発性硬化症患者及びSP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症に基づくROC曲線を表す図である。
【図10】本発明のさらなる実施形態による、臨床的に診断されたSP型多発性硬化症患者及びSP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者に基づくROC曲線を表す図である。
【図11】本発明のさらなる実施形態による、9個のRR型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの、対照と比較した平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図12】本発明のさらなる実施形態による、5個のPP型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの、対照と比較した平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図13】本発明のさらなる実施形態による、18個のSP型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの、対照と比較した平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図14】本発明のさらなる実施形態による、SP型多発性硬化症と比較した、6個のRR型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図15】本発明のさらなる実施形態による、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者と比較した、5個のRR型多発性硬化症血清生物マーカーのパネルの平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【図16】本発明のさらなる実施形態による、SP型多発性硬化症と比較した、SP型多発性硬化症に推移するRR型多発性硬化症患者の8個の血清生物マーカーのパネルの平均信号対雑音±SEMを表す図である。
【0155】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性硬化症又は別の神経障害を診断するための1つ又は複数の代謝産物マーカーを同定する方法であって、
a)多発性硬化症又は別の神経障害を罹病している1人又は複数の患者由来の1つ又は複数の試料を導入するステップであり、複数の代謝産物を含有する前記試料を高分解能質量分析計に導入するステップと;
b)前記代謝産物の定量化データを取得するステップと;
c)前記定量化データのデータベースを作成するステップと;
d)前記試料からの定量化データを、1つ又は複数の参照試料からの試料から得られる対応するデータと比較するステップと;
e)前記試料と前記1つ又は複数の参照試料で異なる1つ又は複数の代謝産物マーカーを同定するステップとを含み、
前記1つ又は複数の代謝産物マーカーが表1、2、3、4、5、6に列挙されている代謝産物又はそれらの任意の組合せから選択される方法。
【請求項2】
最適な診断に必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高分解能質量分析計がフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、正常な参照試料と比較した再発寛解型であり、表1に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した一次性進行型であり、表2に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した二次性進行型であり、表3に列挙されている代謝産物、二次性進行型と比較した再発寛解型であり、表4に列挙されている代謝産物、再発寛解型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表5に列挙されている代謝産物、及び二次性進行型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表6に列挙されている代謝産物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
患者の多発性硬化症若しくは別の神経障害、又は多発性硬化症若しくは別の神経障害の危険性を診断する方法であって、
a)前記患者から試料を取得するステップと;
b)前記試料を分析して1つ又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを取得するステップと;
c)前記1つ又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを、1つ又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと;
d)前記比較を使用して多発性硬化症若しくは別の神経障害、又は多発性硬化症若しくは別の神経障害の危険性を診断するステップとを含み、
前記1つ又は複数の代謝産物マーカーが表1、2、3、4、5、6に列挙された代謝産物又はそれらの任意の組合せから選択される方法。
【請求項6】
ステップb)が、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)により試料を分析することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
方法がハイスループット法であり、ステップb)が直接注入又は液体クロマトグラフィー及び線形イオントラップタンデム質量分析により試料を分析することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
1つ又は複数の参照試料が、対照個体から取得した複数の試料;以前に患者から取得した1つ又は複数の基準試料;又はその組合せである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、正常な参照試料と比較した再発寛解型であり、表1に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した一次性進行型であり、表2に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した二次性進行型であり、表3に列挙されている代謝産物、二次性進行型と比較した再発寛解型であり、表4に列挙されている代謝産物、再発寛解型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表5に列挙されている代謝産物、及び二次性進行型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表6に列挙されている代謝産物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
多発性硬化症代謝産物マーカーが正常な参照試料と比較した再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)496.4157、b)524.4448.c)540.4387、d)580.5089、e)594.4848、f)596.5012若しくはg)578.4923の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C30H56O5、b)C32H60O5、c)C32H60O6、d)C36H68O5、e)C36H66O6、f)C36H68O6、g)C36H66O5によりさらに特徴付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化1】
b)
c)
d)
e)
f)
g)
によりさらに特徴付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多発性硬化症代謝産物マーカーが正常な参照試料と比較した一次性進行型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)216.04、b)202.0453、c)244.0559、d)857.7516の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C5H13O7P、b)C6H11O6Na、c)C8H13O7Na、d)C54H99NO6によりさらに特徴付けられる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化2】
,
b)
,
c)
,
d)
によりさらに特徴付けられる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
多発性硬化症代謝産物マーカーが正常な参照試料と比較した二次性進行型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)541.3415、b)565.3391、c)428.3653、d)805.5609、e)194.0803、f)578.423の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C25H52NO9P、b)C27H52NO9P、c)C29H48O2、d)C48H80NO8P、e)C7H14O6、f)C36H66O5によりさらに特徴付けられる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化3】
,
b)
,
c)
,
d)
,
e)
,
f)
によりさらに特徴付けられる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
多発性硬化症代謝産物マーカーが二次性進行型参照試料と比較した再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)540.4387、b)576.4757の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C32H60O6、b)C36H64O5によりさらに特徴付けられる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化4】
,
b)
によりさらに特徴付けられる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、二次性進行型参照試料と比較した、二次性進行型に推移する再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)786.5408の、又は実質的にそれに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C43H79O10Pによりさらに特徴付けられる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化5】
によりさらに特徴付けられる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、再発寛解型参照試料と比較した、二次性進行型に推移する再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)576.4757、b)578.4923の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項26】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C36H64O5、b)C36H66O5によりさらに特徴付けられる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化6】
,
b)
によりさらに特徴付けられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
a)452.3868、b)496.4157、c)524.4448、d)540.4387、e)576.4757、f)578.4923、g)580.5089、h)594.4848、i)596.5012、j)786.5408、k)216.04、l)541.3415、m)565.3391、n)202.0453、o)244.0559、p)428.3653、q)805.5609、r)194.0803、s)857.7516の、又は実質的にそれらに等しいダルトンで測定された精密質量を有する代謝産物からなる群から選択される化合物。
【請求項29】
それぞれ分子式a)C28H52O4、b)C30H56O5、c)C32H60O5、d)C32H60O6、e)C36H64O5、f)C36H66O5、g)C36H68O5、h)C36H66O6、i)C36H68O6、j)C43H79O10P、k)C5H13O7P、l)C25H52NO9P、m)C27H52NO9P、n)C6H11O6Na、o)C8H13O7Na、p)C29H48O2、q)C46H80NO8P、r)C7H14O6、s)C54H99NO6によりさらに特徴付けられる、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
それぞれ構造
a)
【化7】
,
b)
,
c)
,
d)
,
e)
,
f)
,
g)
,
h)
,
i)
,
j)
,
k)
,
l)
,
m)
,
n)
,
o)
,
p)
,
q)
,
r)
,
s)
によりさらに特徴付けられる、請求項29に記載の化合物。
【請求項31】
多発性硬化症又は別の神経障害を診断するための、請求項28〜30のいずれかに記載の1つ又は複数の化合物の使用。
【請求項1】
多発性硬化症又は別の神経障害を診断するための1つ又は複数の代謝産物マーカーを同定する方法であって、
a)多発性硬化症又は別の神経障害を罹病している1人又は複数の患者由来の1つ又は複数の試料を導入するステップであり、複数の代謝産物を含有する前記試料を高分解能質量分析計に導入するステップと;
b)前記代謝産物の定量化データを取得するステップと;
c)前記定量化データのデータベースを作成するステップと;
d)前記試料からの定量化データを、1つ又は複数の参照試料からの試料から得られる対応するデータと比較するステップと;
e)前記試料と前記1つ又は複数の参照試料で異なる1つ又は複数の代謝産物マーカーを同定するステップとを含み、
前記1つ又は複数の代謝産物マーカーが表1、2、3、4、5、6に列挙されている代謝産物又はそれらの任意の組合せから選択される方法。
【請求項2】
最適な診断に必要な最少数の代謝産物マーカーを選択するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高分解能質量分析計がフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTMS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、正常な参照試料と比較した再発寛解型であり、表1に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した一次性進行型であり、表2に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した二次性進行型であり、表3に列挙されている代謝産物、二次性進行型と比較した再発寛解型であり、表4に列挙されている代謝産物、再発寛解型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表5に列挙されている代謝産物、及び二次性進行型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表6に列挙されている代謝産物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
患者の多発性硬化症若しくは別の神経障害、又は多発性硬化症若しくは別の神経障害の危険性を診断する方法であって、
a)前記患者から試料を取得するステップと;
b)前記試料を分析して1つ又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを取得するステップと;
c)前記1つ又は複数の代謝産物マーカーの定量化データを、1つ又は複数の参照試料から取得した対応するデータと比較するステップと;
d)前記比較を使用して多発性硬化症若しくは別の神経障害、又は多発性硬化症若しくは別の神経障害の危険性を診断するステップとを含み、
前記1つ又は複数の代謝産物マーカーが表1、2、3、4、5、6に列挙された代謝産物又はそれらの任意の組合せから選択される方法。
【請求項6】
ステップb)が、液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)により試料を分析することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
方法がハイスループット法であり、ステップb)が直接注入又は液体クロマトグラフィー及び線形イオントラップタンデム質量分析により試料を分析することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
1つ又は複数の参照試料が、対照個体から取得した複数の試料;以前に患者から取得した1つ又は複数の基準試料;又はその組合せである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、正常な参照試料と比較した再発寛解型であり、表1に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した一次性進行型であり、表2に列挙されている代謝産物、正常な参照試料と比較した二次性進行型であり、表3に列挙されている代謝産物、二次性進行型と比較した再発寛解型であり、表4に列挙されている代謝産物、再発寛解型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表5に列挙されている代謝産物、及び二次性進行型と比較した二次性進行型に推移する再発寛解型であり、表6に列挙されている代謝産物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
多発性硬化症代謝産物マーカーが正常な参照試料と比較した再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)496.4157、b)524.4448.c)540.4387、d)580.5089、e)594.4848、f)596.5012若しくはg)578.4923の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C30H56O5、b)C32H60O5、c)C32H60O6、d)C36H68O5、e)C36H66O6、f)C36H68O6、g)C36H66O5によりさらに特徴付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化1】
b)
c)
d)
e)
f)
g)
によりさらに特徴付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多発性硬化症代謝産物マーカーが正常な参照試料と比較した一次性進行型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)216.04、b)202.0453、c)244.0559、d)857.7516の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C5H13O7P、b)C6H11O6Na、c)C8H13O7Na、d)C54H99NO6によりさらに特徴付けられる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化2】
,
b)
,
c)
,
d)
によりさらに特徴付けられる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
多発性硬化症代謝産物マーカーが正常な参照試料と比較した二次性進行型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)541.3415、b)565.3391、c)428.3653、d)805.5609、e)194.0803、f)578.423の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C25H52NO9P、b)C27H52NO9P、c)C29H48O2、d)C48H80NO8P、e)C7H14O6、f)C36H66O5によりさらに特徴付けられる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化3】
,
b)
,
c)
,
d)
,
e)
,
f)
によりさらに特徴付けられる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
多発性硬化症代謝産物マーカーが二次性進行型参照試料と比較した再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)540.4387、b)576.4757の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C32H60O6、b)C36H64O5によりさらに特徴付けられる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化4】
,
b)
によりさらに特徴付けられる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、二次性進行型参照試料と比較した、二次性進行型に推移する再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)786.5408の、又は実質的にそれに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C43H79O10Pによりさらに特徴付けられる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化5】
によりさらに特徴付けられる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
多発性硬化症代謝産物マーカーが、再発寛解型参照試料と比較した、二次性進行型に推移する再発寛解型であり、前記代謝産物マーカーが、ダルトンでa)576.4757、b)578.4923の、又は実質的にそれらに等しい精密質量を有する代謝産物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項26】
1つ又は複数の代謝産物が分子式a)C36H64O5、b)C36H66O5によりさらに特徴付けられる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1つ又は複数の代謝産物が構造
a)
【化6】
,
b)
によりさらに特徴付けられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
a)452.3868、b)496.4157、c)524.4448、d)540.4387、e)576.4757、f)578.4923、g)580.5089、h)594.4848、i)596.5012、j)786.5408、k)216.04、l)541.3415、m)565.3391、n)202.0453、o)244.0559、p)428.3653、q)805.5609、r)194.0803、s)857.7516の、又は実質的にそれらに等しいダルトンで測定された精密質量を有する代謝産物からなる群から選択される化合物。
【請求項29】
それぞれ分子式a)C28H52O4、b)C30H56O5、c)C32H60O5、d)C32H60O6、e)C36H64O5、f)C36H66O5、g)C36H68O5、h)C36H66O6、i)C36H68O6、j)C43H79O10P、k)C5H13O7P、l)C25H52NO9P、m)C27H52NO9P、n)C6H11O6Na、o)C8H13O7Na、p)C29H48O2、q)C46H80NO8P、r)C7H14O6、s)C54H99NO6によりさらに特徴付けられる、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
それぞれ構造
a)
【化7】
,
b)
,
c)
,
d)
,
e)
,
f)
,
g)
,
h)
,
i)
,
j)
,
k)
,
l)
,
m)
,
n)
,
o)
,
p)
,
q)
,
r)
,
s)
によりさらに特徴付けられる、請求項29に記載の化合物。
【請求項31】
多発性硬化症又は別の神経障害を診断するための、請求項28〜30のいずれかに記載の1つ又は複数の化合物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2009−538416(P2009−538416A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511314(P2009−511314)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000932
【国際公開番号】WO2007/137410
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000932
【国際公開番号】WO2007/137410
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(504353730)フェノメノーム ディスカバリーズ インク (16)
【Fターム(参考)】
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