説明

多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断するための診断剤及びその使用方法

【課題】多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断するための診断剤及びその使用方法を提供する。
【解決手段】多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する診断剤、および採取された血液に含まれる、M蛋白のL鎖中の糖鎖構造を判別する方法であって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記L鎖とを反応させる工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断するための診断剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)は血液がんの一種であり、骨融解や、腎障害などの多様な症状を引き起こす病気であるため、早期に発見し、各症状に応じた適切な治療を行っていくことが必要とされる。多発性骨髄腫は、骨髄で腫瘍性形質細胞が増殖することによってモノクローナルな異常グロブリンであるM蛋白を産生することから、多発性骨髄腫に罹患しているか否かを診断する方法として、産生されるM蛋白をマーカーとする方法が用いられてきた。
しかしながら、M蛋白の量を測定するのみでは、他にもM蛋白を産生する病気があることから多発性骨髄腫であると確定診断することはできず、ましてや、多発性骨髄腫であると判明した後でも、どのような症状が起こっているのかをM蛋白の量から推定することは不可能であるため、多様な症状を想定した多種様々な精密検査を行う必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断するための診断剤及びそれを用いた診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の各項よりなる。
(1)採取された血液に含まれる、M蛋白のL鎖中の糖鎖構造を判別する方法であって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記L鎖とを反応させる工程を含む方法。
(2)前記レクチンがConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上であって、前記レクチンと反応したL鎖を特定する工程をさらに含む、(1)項に記載の方法。
(3)前記レクチンがLCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上であって、前記レクチンと反応しなかったL鎖を特定する工程をさらに含む、(1)項に記載の方法。
(4)前記レクチンがAALおよびSSAからなる群から選択される1種以上であって、前記レクチンと反応したL鎖を特定する工程をさらに含む、(1)項に記載の方法。
(5)前記糖鎖構造がN型糖鎖であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
【0005】
(6)多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する診断剤。
(7)多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、ConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する、(6)項に記載の診断剤。
(8)多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、LCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する、(6)項に記載の診断剤。
(9)多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する、(6)項に記載の診断剤。
【0006】
(10)多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断する方法であって、前記患者の血液中に含まれる、M蛋白のL鎖中のN型糖鎖の構造を判別する工程と、判別された構造を基に前記脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断する工程、を含む方法。
(11)ConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記脊椎動物の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記レクチンと反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、(10)項に記載の方法。
(12)LCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記脊椎動物の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記レクチンと反応しなかったL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、(10)項に記載の方法。
(13)AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記脊椎動物の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記レクチンと反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、(10)項に記載の方法。
(14)前記構造が、下式のいずれかであることを特徴とする(10)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
【化1】

【0007】
(15)多発性骨髄腫のモデル動物の中から骨融解症状を発症しているモデル動物をスクリーニングする方法であって、(10)〜(14)に記載の診断方法によって、前記モデル動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断する工程を含む方法。
(16)多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するためのバイオマーカーであって、採取された血液中に含まれるM蛋白のL鎖上の糖鎖構造である、バイオマーカー。
(17)採取された血液において、M蛋白のL鎖中の糖鎖構造を検出する検出方法であって、前記糖鎖構造が下記(I)及び/又は(II)で表される糖鎖構造であることを特徴とする検出方法。
【化2】

(18)前記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、前記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない化合物を用いて、前記糖鎖構造を検出することを特徴とする、(17)に記載の検出方法。
(19)前記化合物が、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチン、または、前記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、前記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない抗体であることを特徴とする、(17)または(18)に記載の検出方法。
(20)下式(II)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、下式(I)で表される糖鎖構造を実質的に認識しない抗体。
【化3】

(21)下式(I)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、下式(II)で表される糖鎖構造を実質的に認識しない抗体
【化4】

(22)多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、(20)または(21)に記載の抗体を含有する診断剤。
(23)(20)に記載の抗体と、前記患者の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記抗体と反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、(10)に記載の方法。
(24)(21)に記載の抗体と、前記患者の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記抗体と反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していないと診断される、(10)に記載の方法。
(25)多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための化合物のスクリーニング方法であって、下式(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下式(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【化5】

(26)多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための化合物のスクリーニング方法であって、下式(I)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下式(II)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を選択する工程を含むスクリーニング方法。
【化6】

(27)前記化合物が、低分子化合物、抗体、またはレクチンであることを特徴とする(25)または(26)に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断するための診断剤及びそれを用いた診断方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態における、マススペクトルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==バイオマーカー==
本発明のバイオマーカーは、多発性骨髄腫の患者が有する、M蛋白のL鎖中のN型糖鎖である。マンノース及びガラクトースと、N−アセチルグルコサミンの繰り返し構造を有し、N型糖鎖を結合したパターンである場合には、骨融解症状を伴う多発性骨髄腫であると高確率で診断することができる。また、分岐型構造を基本骨格とし、フコース、N−アセチルノイラミン酸を持つN型糖鎖を結合したパターンである場合には、骨融解症状を伴わない多発性骨髄腫であると高確率で診断することができる。
好ましくは、下式(I)及び/又は下式(II)で表される糖鎖構造をマーカーとし、M蛋白のL鎖中のN型糖鎖が下式(II)である時には、骨融解症状を伴う多発性骨髄腫であると高確率で診断することができ、M蛋白のL鎖中のN型糖鎖が下式(I)である時には、骨融解症状を伴わない多発性骨髄腫であると高確率で診断することができる。
【化7】

【0012】
==診断剤==
本発明に係る診断剤は、多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、多発性骨髄腫の患者が有する、M蛋白のL鎖中のN型糖鎖に関し、その構造を明らかにできる薬剤であれば限定されないが、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチン、下式(II)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、好ましくは下式(I)で表される糖鎖構造を認識しない抗体を含有する診断剤、または、下式(I)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、好ましくは下式(II)で表される糖鎖構造を認識しない抗体を含有する診断剤が好ましい。そして、その剤形化には、当業者に周知の薬学的に許容される担体、希釈剤、緩衝液等の製剤用添加物が用いられてもよい。
【化8】

なお、本明細書において、多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断するための診断剤という場合、多発性骨髄腫の患者の中から、骨融解症状を発症していることを高確率で特定できる診断剤、および、多発性骨髄腫の患者の中から、骨融解症状を発症していないことを高確率で特定できる診断剤を含むものとする。
【0013】
==バイオマーカーの検出方法==
多発性骨髄腫の患者が骨融解症状を発症しているか否かは、患者のM蛋白のL鎖中に、骨融解症状を診断できるバイオマーカーを検出できるか否かによって診断できる。
【0014】
バイオマーカーの検出方法は、特に限定されないが,多発性骨髄腫の患者の血液に含まれるM蛋白のL鎖と、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチン、または、下式(II)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、好ましくは下式(I)で表される糖鎖構造を認識しない抗体、または、下式(I)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、好ましくは下式(II)で表される糖鎖構造を認識しない抗体とを反応させることによって検出することが好ましい。これらのレクチンの場合、検出対象のバイオマーカーの構造は、下式(I)及び(II)で表される糖鎖構造であってもよく、そうでなくてもよい。
【化9】

具体的には、多発性骨髄腫の患者から採取された血液に含まれるM蛋白のL鎖と、ConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンとを反応させた後、L鎖が検出された場合、その患者は骨融解症状を発症していると高確率で診断することができる。または、多発性骨髄腫の患者から採取された血液に含まれるM蛋白のL鎖と、LCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンとを反応させた後、L鎖が検出されなかった場合、その患者を、骨融解症状を発症していると高確率で診断することができる。さらに、多発性骨髄腫の患者の血液に含まれるM蛋白のL鎖と、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンとを反応させた後、L鎖が検出された場合、その患者を、骨融解症状を発症していないと高確率で診断することができる。
【0015】
多発性骨髄腫の患者から採取された血液に含まれるM蛋白のL鎖と、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンとを反応させる方法、および、レクチンと反応した、または、反応しなかったL鎖を特定する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法で行うことが好ましい。
患者から採取された血液から、血清を分離し、得られた血清から、アフィニティークロマトグラフ法を用いてM蛋白を精製する。精製したM蛋白を、SDS−PAGEで分離し、PVDF膜に転写する。膜上のM蛋白と、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンとを接触させることによって反応させ、M蛋白のL鎖に結合したレクチンを検出することによって、L鎖上のバイオマーカーを検出する。レクチンの検出は、当業者に公知の方法で行えばよく、例えば、レクチンに結合させたビオチンやHRPなどの標識を検出することによって、レクチンを検出することができ、この結果、特定のレクチンと反応するL鎖、あるいはそのレクチンと反応しないL鎖を特定することができる。
【0016】
本発明に係るバイオマーカーを検出する方法は、上記のレクチンと反応させる方法以外にも、例えば、飛行時間型質量分析計(TOF-MS)を利用する測定方法、高速液体クロマトグラフィー-質量分析計(LC-MS)を利用する測定方法、ガスクロマトグラフィー-質量分析計(GC-MS)を利用する測定方法、NMR分析を利用する測定方法、酵素法による測定方法、質量分析計のみによる測定方法、高速液体クロマトグラフィーのみを利用する測定方法、及び、ガスクロマトグラフィーのみを利用する測定方法等の公知の方法が挙げられる。
【0017】
下式(II)で表される糖鎖構造を特異的に認識する抗体を用いる場合、多発性骨髄腫の患者から採取された血液に含まれるM蛋白のL鎖に対してこの抗体を用い、下式(II)で表される糖鎖構造がM蛋白のL鎖上に存在するかどうかを調べることによって、骨融解症状を診断できるバイオマーカーを検出できる。また、下式(I)で表される糖鎖構造を特異的に認識する抗体を用いる場合、多発性骨髄腫の患者から採取された血液に含まれるM蛋白のL鎖に対してこの抗体を用い、下式(I)で表される糖鎖構造がM蛋白のL鎖上に存在するかどうかを調べることによって、骨融解症状を診断できるバイオマーカーを検出できる。これらのときの検出方法は、エンザイムイムノアッセイ(ELISA)、イムノクロマトグラフィーなど、当業者に公知の方法を用いることができる。
【化10】

【0018】
本発明に係るバイオマーカーを測定する方法は、1種類の測定方法で測定しても良く、複数種類の測定方法を組み合わせて測定しても良い。複数種類の測定方法の組み合わせとして、例えば、レクチンを用いた反応を複数種類組み合わせてもよく、レクチンによる反応と、レクチンを用いない測定方法とを組み合わせても良い。
【0019】
なお、バイオマーカーによる診断を、生検などの、従来の診断方法と組み合わせて診断してもよい。
【0020】
このように、本発明に係るバイオマーカーを用いることによって、多発性骨髄腫に伴う骨融解症状を診断することが可能となる。
【0021】
また、本発明のバイオマーカーを用いることにより、多発性骨髄腫のモデル動物の中から、骨融解症状を発症しているモデル動物、および、骨融解症状を発症していないモデル動物を容易にスクリーニングすることができる。
例えば、候補となるヒト以外の脊椎動物から採取した血液に含まれるM蛋白のL鎖と、ConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンまたは下式(II)で表される糖鎖構造を特異的に認識する抗体とを反応させた後、反応したと検出されたL鎖を有する多発性骨髄腫のモデル動物に対し、骨融解症状を発症していると高確率で判断することができる。または、候補となるヒト以外の脊椎動物から採取した血液に含まれるM蛋白のL鎖と、LCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンとを反応させた後、反応したと検出されなかったL鎖を有する多発性骨髄腫のモデル動物に対し、骨融解症状を発症していると高確率で判断することができる。または、候補となるヒト以外の脊椎動物から採取した血液に含まれるM蛋白のL鎖と、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンまたは下式(I)で表される糖鎖構造を特異的に認識する抗体とを反応させた後、反応したと検出されたL鎖を有する多発性骨髄腫のモデル動物に対し、骨融解症状を発症していないと高確率で判断することができる。
【化11】

【0022】
==多発性骨髄腫を診断するための化合物のスクリーニング方法==
本発明にかかる、多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための化合物のスクリーニング方法は、下記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、好ましくは下記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を選択する工程、または、下記(I)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、好ましくは下記(II)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を選択する工程を含む。ここで、化合物は特に限定されないが、使いやすさ又は特異性の点から、低分子化合物、抗体、またはレクチンであることが好ましい。
【化12】

【0023】
従って、候補化合物として用いることのできる化合物も特に限定されないが、既知の低分子化合物ライブラリーや、骨融解症状を発症した脊椎動物から採取した血液や血液分画、その血液に含まれるM蛋白やそのL鎖を用いて作成した抗体ライブラリーや、既知のレクチンライブラリーなどから得られる化合物を用いることが好ましい。そのため、例えば、スクリーニング方法は、抗体ライブラリーを作製する工程を含んでもよいが、この場合、抗体ライブラリーが骨融解症状を発症した脊椎動物から採取した血液や血液分画、その血液に含まれるM蛋白やそのL鎖を用いて作製されるのが好ましい。
【0024】
下記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない化合物を選択する方法は特に限定されず、候補化合物を下記(I)で表される糖鎖構造及び(II)で表される糖鎖構造と接触させる工程と、上述したバイオマーカーの検出方法と同様の方法によって、下記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を同定する工程を含む。また、下記(I)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下記(II)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない化合物を選択する方法についても同様であり、候補化合物を下記(I)で表される糖鎖構造及び(II)で表される糖鎖構造と接触させる工程と、上述したバイオマーカーの検出方法と同様の方法によって、下記(I)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下記(II)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を同定する工程を含み、これに限定されない。
【化13】

【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。本実施例では、多発性骨髄腫であると予め診断された患者に対し、本発明のマーカーを用いることにより、実際に、骨融解症状を発症している患者を区別し得る、および/または、骨融解症状を発症していない患者を区別しうることを示す。
【0026】
[実施例] バイオマーカーの測定
[1] 多発性骨髄腫の診断
多発性骨髄腫の診断は、まず骨髄穿刺を行って、骨髄中に骨髄腫細胞が10%以上あり、かつ、骨髄腫による臓器障害、具体的には、M蛋白血症(M蛋白>3g/dL)、高カルシウム血症(血清カルシウム>11mg/dL)、腎機能障害(血清クレアチニン>2mg/dL)、貧血(ヘモグロビン<10g/dL)、および、骨融解病変(全身X線写真)のうち一つ以上所見がある患者を抽出した後、さらにこれらの患者の全身のX線撮影を行い、全身の骨の状態を診断することによって、多発性骨髄腫に罹患していると診断した。
また、多発性骨髄腫に罹患していると診断された患者について、全身のX線撮影またはCT撮影を行うことによって、骨融解症状を発症しているか否かを診断した。
このようにして診断された多発性骨髄腫の患者17名から、本発明のバイオマーカーを測定するために血液を採取し、さらに、採取した血液から遠心分離によって血清を分離した。なお、多発性骨髄腫の患者の内訳は、男12例、女5例、年齢56.0±8.9歳、IgG−κ型5例、IgG−λ型10例、IgA−κ型2例であり、また、また、合併症として、髄外腫瘤形成が7例、著明な骨融解病変が14例、そして、貧血が15例でみられた。
【0027】
[2] レクチンとの反応
本項目では、多発性骨髄腫の患者の血液に含まれるM蛋白のL鎖と、様々な種類のレクチンとを反応させることによって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択されるレクチンと反応させた場合に、多発性骨髄腫の患者が骨融解症状を発症している、および/または、発症していないと高確率で判定できることを示す。
【0028】
多発性骨髄腫の患者から取り出した各血清から、アフィニティークロマトグラフ法を用いてM蛋白を精製した。具体的には、まず、アフィニティーカラム担体としてHiTrap NHS−activated HP Columns(1mL、GEヘルスケア・ジャパン)を用い、抗ヒトκ鎖抗体(DAKO)1mLを加えてカラム内に抗体を結合させることによって、κ鎖精製用アフィニティーカラムを作成した。同様に、抗ヒトλ鎖抗体(DAKO)を用いて、λ鎖精製用アフィニティーカラムを作成した。引き続き、血清100μLをPBS900μLに溶解し、全量を1mLとした。試料中のM蛋白L鎖の抗原性に合わせ、先ほど作成したκ鎖精製用またはλ鎖精製用アフィニティーカラム中へ、希釈した血清をアプライした。さらに、カラム内をPBS10mLで洗浄後、0.5M塩化ナトリウムを含む50mMグリシン−塩酸緩衝液(pH2.5)を5mL流すことによって、L鎖を回収した。
このようにして精製したL鎖と、100mMトリス−2%SDS−20%スクロース−0.06%ロモフェノールブルー(BPB)−100mMジチオスレイトール(DTT)とを等量混合し、100℃で5分間インキュベートすることによって、SDS−PAGE用試料を調製した。SDS−PAGEは、泳動用ゲルに4−20%のグラジエントゲル、泳動用緩衝液に0.1%SDS−0.025Mトリス−0.192Mグリシン緩衝液(pH8.3)を用い、塗布蛋白量は0.25μg、そして、15mA定電流の条件で約90分通電することによって行った。
ゲルからPVDF膜への試料の転写は、セミドライ法を用いた。陽極側より、0.3Mトリス−5%メタノールで湿らせたろ紙、0.025Mトリス−5%メタノールで湿らせたろ紙、親水化したPVDF膜、泳動後のゲル、および、0.025Mトリス−5%メタノール−0.04M6−アミノカプロン酸で湿らせたろ紙の順に重ね、2mA/cm定電流で1時間かけて転写した。転写後のPVDF膜を、ブロッキング液(EZ Block ATTO)によりブロッキングし、0.5%Tween20−PBSで1分間洗浄した。
【0029】
レクチンとの反応は、表1に示すレクチンを用い、表2に示すレクチン濃度にて、1時間行った。反応後、0.5%Tween20−PBSで5分間4回洗浄した。
HRPで標識されたレクチンと反応させたものは、0.2mg/mLジアミノベンチジン−0.006%過酸化水素水溶液で発色させた。また、Biotinで標識されたレクチンは、表2に示した作用濃度でストレプトアビジン−HRP(DAKO)と1時間反応させた後に、上記の発色液で発色させた。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
発色させた結果を、表3に示す。表3の縦軸は、反応させたレクチンの種類を表し、横軸は、多発性骨髄腫の患者から取り出したM蛋白のL鎖のサンプル番号を表している。サンプル番号1〜14の各患者は、骨融解症状を発症しており、サンプル番号15〜17の各患者は、骨融解症状を発症していない。また、表中の+および−は、対応するレクチンとサンプルとが反応したか否かを表しており、+は反応したことを表し、−は反応しなかったことを表している。+の数は、反応した際の強度を表している。
【0033】
【表3】

【0034】
表3のConAの欄に着目してみると、骨融解症状を発症しているサンプル番号1〜14とは、全14サンプル中11個がConAと反応したのに対し、骨融解症状を発症していないサンプル番号15〜17とは、全3サンプル中いずれもがConAと反応しなかったことが分かる。従って、ConAと反応したM蛋白のL鎖を有する多発性骨髄腫の患者は、骨融解症状を発症していると高確率で判定することができる。
同様に、ECA、BPAおよびDBAの欄に着目してみると、サンプル番号1〜14のうち複数個と反応したのに対し、サンプル番号15〜17とは、全く反応しなかったことが分かる。従って、ECA、BPAまたはDBAと反応したM蛋白のL鎖を有する多発性骨髄腫の患者は、骨融解症状を発症していると高確率で判定することができる。
【0035】
また、表3のLCAの欄に着目してみると、骨融解症状を発症していないサンプル番号15〜17とは、全3サンプル中全てがLCAと反応したのに対し、骨融解症状を発症しているサンプル番号1〜14とは、全14サンプル中3個しか反応しなかった。従って、LCAと反応しなかったM蛋白のL鎖を有する多発性骨髄腫の患者は、骨融解症状を発症していると高確率で判定することができる。
同様に、AALおよびSSAの欄に着目してみると、サンプル番号15〜17とは、非常に高確率で反応したのに対し、サンプル番号1〜14とは、全く反応しなかった。従って、AALまたはSSAと反応しなかったM蛋白のL鎖を有する多発性骨髄腫の患者は、骨融解症状を発症していると高確率で判定することができる。
【0036】
表3のAALの欄に着目してみると、骨融解症状を発症していないサンプル番号15〜17とは、全3サンプルの全てがAALと反応したのに対し、骨融解症状を発症しているサンプル番号1〜14とは、全14サンプル中いずれもがAALと反応しなかったことが分かる。従って、AALと反応したM蛋白のL鎖を有する多発性骨髄腫の患者は、骨融解症状を発症していないと高確率で判定することができる。
同様に、SSAの欄に着目してみると、サンプル番号15〜17とは、全3サンプルの全てがSSAと反応したのに対し、サンプル番号1〜14とは、全く反応しなかった。従って、SSAと反応したM蛋白のL鎖を有する多発性骨髄腫の患者は、骨融解症状を発症していないと高確率で判定することができる。
【0037】
[3] バイオマーカーの構造
本項目では、骨融解症状を発症している多発性骨髄腫の患者と、骨融解症状を発症していない多発性骨髄腫の患者との間で、バイオマーカーであるM蛋白のL鎖中のN型糖鎖の構造が異なることを示す。
【0038】
骨融解症状を発症している多発性骨髄腫の患者と、骨融解症状を発症していない多発性骨髄腫の患者とのそれぞれから血清を取り出し、[2] レクチンとの反応の欄に記載した方法に従って、M蛋白を精製し、さらにSDS−PAGEによりH鎖とL鎖とを分けた。CBB染色後、染色されたバンドを回収した。
住友ベークライト社の糖鎖精製キット「BlotGlyco(登録商標)」のプロトコルのうち、「2. シアル酸のメチルエステル化」の工程を除いた、サンプル前処理およびMALDI-TOF MS測定用操作プロトコルを実施した。試料のMALDI−TOF MSは、マトリックスにCHCA(島津製作所)を用い、AXIMA−CFR(島津製作所)のリフレクトロンモードで測定した。結果を、図1に示す。
図1に示すように、2つの糖鎖構造と一致する質量にピークが検出された。これらのピークのうち、S1は、シアル酸のカルボキシル基が脱離したものであり、S2は、糖鎖とシアル酸が脱離した構造に帰属できることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取された血液に含まれる、M蛋白のL鎖中の糖鎖構造を判別する方法であって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記L鎖とを反応させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記レクチンがConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上であって、前記レクチンと反応したL鎖を特定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レクチンがLCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上であって、前記レクチンと反応しなかったL鎖を特定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記レクチンがAALおよびSSAからなる群から選択される1種以上であって、前記レクチンと反応したL鎖を特定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記糖鎖構造がN型糖鎖であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
多発性骨髄腫に罹患した脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する診断剤。
【請求項7】
多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、ConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する、請求項6に記載の診断剤。
【請求項8】
多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、LCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する、請求項6に記載の診断剤。
【請求項9】
多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンを含有する、請求項6に記載の診断剤。
【請求項10】
多発性骨髄腫のヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断する方法であって、前記患者の血液中に含まれる、M蛋白のL鎖中のN型糖鎖の構造を判別する工程と、判別された構造を基に前記脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断する工程を含む方法。
【請求項11】
ConA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記患者の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記レクチンと反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
LCA、AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記脊椎動物の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記レクチンと反応しなかったL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
AALおよびSSAからなる群から選択される1種以上のレクチンと、前記脊椎動物の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記レクチンと反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記構造が、下式のいずれかであることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【化1】

【請求項15】
多発性骨髄腫のモデル動物の中から骨融解症状を発症しているモデル動物をスクリーニングする方法であって、請求項10〜14に記載の診断方法によって、前記モデル動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断する工程を含む方法。
【請求項16】
多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するためのバイオマーカーであって、採取された血液中に含まれるM蛋白のL鎖上の糖鎖構造である、バイオマーカー。
【請求項17】
採取された血液において、M蛋白のL鎖中の糖鎖構造を検出する検出方法であって、
前記糖鎖構造が下記(I)及び/又は(II)で表される糖鎖構造であることを特徴とする検出方法。
【化2】

【請求項18】
前記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、前記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない化合物を用いて、前記糖鎖構造を検出することを特徴とする、請求項17に記載の検出方法。
【請求項19】
前記化合物が、LCA、ConA、AAL、SSA、ECA、BPAおよびDBAからなる群から選択される1種以上のレクチン、または、前記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、前記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない抗体であることを特徴とする、請求項17または18に記載の検出方法。
【請求項20】
下式(II)で表される糖を特異的に認識し、下式(I)で表される糖鎖構造を実質的に認識しない抗体。
【化3】

【請求項21】
下式(I)で表される糖鎖構造を特異的に認識し、下式(II)で表される糖鎖構造を実質的に認識しない抗体。
【化4】

【請求項22】
多発性骨髄腫に罹患したヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための診断剤であって、請求項20または21に記載の抗体を含有する診断剤。
【請求項23】
請求項20に記載の抗体と、前記脊椎動物の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記抗体と反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していると診断される、請求項10に記載の方法。
【請求項24】
請求項21に記載の抗体と、前記患者の血液中に含まれるM蛋白のL鎖とを反応させることによって、前記構造が判別され、前記抗体と反応したL鎖を有する前記脊椎動物が骨融解症状を発症していないと診断される、請求項10に記載の方法。
【請求項25】
多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための化合物のスクリーニング方法であって、
下記(II)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下記(I)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を選択する工程と、
を含むスクリーニング方法。
【化5】

【請求項26】
多発性骨髄腫のヒトまたはヒト以外の脊椎動物が骨融解症状を発症しているか否かを診断するための化合物のスクリーニング方法であって、
下式(I)で表される糖鎖構造と特異的に結合し、下式(II)で表される糖鎖構造と実質的に結合しない候補化合物を選択する工程と、
を含むスクリーニング方法。
【化6】

【請求項27】
前記化合物が、低分子化合物、抗体、またはレクチンであることを特徴とする請求項25または26に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−159297(P2012−159297A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17058(P2011−17058)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名/生物物理化学 2010.9 第61回日本電気泳動学会総会抄録号 発行日/平成22年7月29日 発行所/日本電気泳動学会 該当ページ/2010;54:33
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】