説明

多目的車両

【課題】多目的車両において、走行機体の前後重量バランスを良好に確保できるようにする。
【解決手段】本願発明の多目的車両1は、前後四車輪3,4にて支持された走行機体2と、走行機体2に搭載されたエンジン5と、少なくとも左右両後車輪4にエンジン5の回転を伝達するミッションケース7と、操縦ハンドル26及び運転座席34と、運転座席34の後方に配置された荷台52とを備える。荷台52は、走行機体2の後部に配置されたエンジンルーム8上に前後移動可能に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフロードに使用されるピックアップ等の多目的車両に係り、より詳しくは、走行機体の左右に前車輪及び後車輪を配置し、エンジン、ミッションケース及び荷台等が走行機体に搭載された多目的車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、多目的車両においては、走行機体に搭載されたエンジンからの動力をミッションケースに伝達し、当該ミッションケースにて適宜変速された変速動力を前車輪及び後車輪のうち少なくとも一方に出力することにより、前後進走行するように構成されている。そして、走行機体の運転部に配置された操縦ハンドルの操作によって、左右の前車輪のかじ取り角度を変更する(前車輪の操向方向を左右に動かす)ように構成されている。
【0003】
この種の多目的車両の中には、運転部の後方に位置する車体フレームに上向き開口箱型の荷台を搭載し、ダンプ用油圧シリンダにて荷台の前部を持ち上げて荷台を後方に傾斜させ得るように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−255963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、多目的車両は山野や泥濘地といった不整地で使用されることが多く、運転時の安全性の観点から、走行機体の前後重量バランスを良好に維持することは重要な課題である。しかし、多目的車両の荷台に搭載される荷には、様々な大きさ・重量のものが考えられるから、空荷の状態と荷の収容量が多い状態とでは、走行機体の前後重量バランスが全く異なることになる。
【0005】
従って、空荷の状態を基準に走行機体の前後重量バランスを設定しておくと、荷の収容量が多いときに、走行機体の前後重量バランスが崩れて走行が不安定になるおそれがあり、逆に、荷の収容量が多い状態を基準に走行機体の前後重量バランスを設定しておくと、空荷のときに、走行機体の前後重量バランスが崩れて走行が不安定になるおそれがあった。
【0006】
そこで、本願発明は、走行機体の前後重量バランスを良好に確保できる多目的車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、前後四車輪にて支持された走行機体と、前記走行機体に搭載されたエンジンと、少なくとも前記左右両後車輪に前記エンジンの回転を伝達するミッションケースと、操縦ハンドル及び運転座席と、前記運転座席の後方に配置された荷台とを備えている多目的車両であって、前記荷台は、前記走行機体の後部に配置されたエンジンルーム上に前後移動可能に設けられているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した多目的車両において、前記エンジンルームの左右両側部には、前記後車輪を上方から覆うリヤカウルが設けられており、前記運転座席の後方と前記リヤカウルとの間にステップ部が設けられており、前記荷台の前面には、前記荷台を後退させた状態で前記ステップ部上の人が凭れ掛かる補助クッション体を備えているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載した多目的車両において、前記ステップ部の左右外側には、当該部位を仕切る側ガード板が設けられているというものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、荷台は走行機体の後部に配置されたエンジンルーム上に前後移動可能に設けられているから、荷の収容量が多かったり重量物を運搬したりする場合は、前記荷台を前方にスライド移動させておくことにより、前記走行機体の重心が後方に移動して走行が不安定になるのを防止できる。逆に、空荷の場合は、前記荷台を後方にスライド移動させておくことにより、前記走行機体の前後重量バランスを簡単に向上できる。従って、前記荷台の状態に拘らず、前記走行機体の前後重量バランスを良好な状態に維持でき、走行安定性を向上できるという効果を奏する。また、前記荷台を後方にスライド移動させることによって、前記運転座席から前記荷台後部までの距離を拡大できるから、前記荷台を含む前記走行機体後部に長物を搭載することも可能になる。
【0011】
請求項2の発明によると、前記エンジンルームの左右両側部には、前記後車輪を上方から覆うリヤカウルが設けられており、前記運転座席の後方と前記リヤカウルとの間にステップ部が設けられているから、前記荷台を最後方の位置まで後退させれば、前記運転座席と前記リヤカウルと前記荷台とで囲まれた前記ステップ部の上方空間に人が乗り込めることになる。従って、多目的車両の乗員数を簡単に増加できるという効果を奏する。
【0012】
更に、前記荷台の前面には、前記荷台を後退させた状態で前記ステップ部上の人が凭れ掛かる補助クッション体を備えているから、前記ステップ部上に乗った人の腰や背中を安定的に支持でき、前記運転座席の後方にある前記ステップ部での乗り心地を向上できる。
【0013】
請求項3の発明によると、前記ステップ部の左右外側には、当該部位を仕切る側ガード板が設けられているから、前記ステップ部上に乗った人の足が前記走行機体から左右外側に飛び出るのを防止でき、安全性が高まるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、多目的車両としてのユーティリティビークル(以下、UTVという)に適用した図面(図1〜図12)に基づいて説明する。
【0015】
図1及び図2に示すように、UTV1の走行機体2は、操舵用車輪としての左右一対の前車輪3と、走行用車輪としての左右一対の後車輪4とで支持されている。走行機体2の後部側には動力源としてのエンジン5が搭載されている。エンジン5にて両後車輪4及び両前車輪3を回転駆動させることにより、UTV1は前後進走行するように構成されている。
【0016】
走行機体2は、その略中央底部を支える底フレーム板6a、底フレーム板6aから前向きに突出した左右一対の前フレーム6b、及び底フレーム板6aから後ろ向きに突出した左右一対の後フレーム6c等からなる車体フレーム枠6を備えている。車体フレーム枠6の後部側(底フレーム板6a及び後フレーム6c上)には、密閉構造のエンジンルーム8が搭載されている。
【0017】
エンジンルーム8内には、エンジン5と、当該エンジン5からの動力を適宜変速して両後車輪4及び両前車輪3に伝達する油圧無段変速機付きのミッションケース7とが収容されている。実施形態のエンジン5及びミッションケース7は、車体フレーム枠6の後部に配置されたリヤ差動ケース48(詳細は後述する)より前方に位置していて、エンジンルーム8内において前後直列状に連設された状態で配置されている。エンジン5及びミッションケース7は、防振ゴム体(図示省略)を介して車体フレーム枠6に一体的に防振支持されている。
【0018】
エンジンルーム8は、左右長手の前部ボックス部8aと前後長手の後部ボックス部8bとにより平面視略T字状に形成されており、後部ボックス部8bの左右幅寸法Wbに比べて、前部ボックス部8aの左右幅寸法Wfの方が大きくなっている(図4参照)。この場合、後部ボックス部8b内にエンジン5が位置し、前部ボックス部8a内にミッションケース7が位置している。後部ボックス部8bの左右両側部には、後車輪4を上方から覆うリヤカウル9が左右外向きに突出するように一体に設けられている。
【0019】
前部ボックス部8a内のうちミッションケース7を挟んで左右一方には、エンジン5への吸気をろ過するためのエアクリーナ10が配置されており、他方には、エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11が配置されている。エアクリーナ10は、吸気ダクト12を介してエンジン5の吸気マニホールド13に接続されている。
【0020】
後部ボックス部8bの後面部には、エンジン5冷却液を冷やすためのラジエータ14が取り付けられている。ラジエータ14の後面側はエンジンルーム8外に露出している。ラジエータ14の後方には、エンジン5の排気音を減少させるための排気マフラー15が配置されている。排気マフラー15は、車体フレーム枠6を構成する後フレーム6cに支持された後上フレーム16に吊支されていて、後部ボックス部8bを貫通した排気ダクト17を介してエンジン5の排気マニホールド18に接続されている。従って、ラジエータ14と排気マフラー15とは、エンジンルーム8の後方で且つ後述する荷台52の下方に位置することになる。
【0021】
エンジンルーム8内には、後方に向けてエンジン5及びミッションケース7を冷やすための外気が流通するように構成されている。すなわち、エンジンルーム8(前部ボックス部8a及び後部ボックス部8b)の底面には、エンジンルーム8内に外気を取り入れるための外気導入口19が形成されている(図3参照)。実施形態では、車体フレーム枠6の底フレーム板6aにて前部ボックス部8aの底面が構成され、左右の後フレーム6cに支持された底カバー板6dにて後部ボックス部8bの底面が構成されている。そして、底フレーム板6a及び底カバー板6dに、上下に貫通する複数本のスリット状の貫通穴が前後方向に適宜間隔を空けて並ぶように形成されており、これら貫通穴群が外気導入口19となっている。ラジエータ14の前面側には冷却電動ファン20が配置されており、冷却電動ファン20の前面側には防塵網20aが張設されている。
【0022】
従って、冷却電動ファン20が回転すると、エンジンルーム8内の空気が下から後方に流れてその圧力が低下することにより、エンジンルーム8内外の圧力に差が生じ、各外気導入口19から外気が取り込まれる。当該取り込まれた外気にてエンジン5、ミッションケース7及びラジエータ14が冷却される。エアクリーナ10にも外気が導入される。エンジンルーム8内を流通して暖められた空気は、エンジンルーム8後部にあるラジエータ14の箇所からエンジンルーム8外に排出される。なお、貫通穴の形状は、小径の円形状、三角形状、又は四角形状といった様々な形状を採用できる。
【0023】
一方、走行機体2の上面前部を覆うボンネット21内には、エンジン5始動時等の電力供給のためのバッテリ22が配置されている。ボンネット21の前部には、走行機体2の前方を照らす左右一対の前照灯23が取り付けられている。ボンネット21の左右両側部には、左折右折の意思表示のための方向指示灯24が取り付けられている。ボンネット21後部の上側には、丸形の操縦ハンドル26を有する操縦コラム25が設けられている。
【0024】
車体フレーム枠6を構成する底フレーム板6cには、走行機体2のキャビン28(操縦部)を区画するロプスフレーム27が立設されている。実施形態のロプスフレーム27は、左右一対の枠パイプ27aと、左右両枠パイプ27aの上部側をつなぐ横桟パイプ27bとにより構成されている。各枠パイプ27aの後部側は、側面視において後述する荷台52の側面に一部が重なるほど後ろ向きに張り出していて、キャビンスペース(乗降空間)が広くなっている。
【0025】
ボンネット21後部の上側に設けられた操縦コラム25は、ロプスフレーム27にて囲われたキャビン28内に突出している。実施形態では、左右の前車輪3を舵取りするための操縦ハンドル26が操縦コラム25の左上面側に配置されている。操縦コラム25のうち操縦ハンドル26の左側には、各方向指示灯24を点滅操作するための方向指示操作レバー29が設けられている。
【0026】
操縦ハンドル26の右側には、ミッションケース7内にある変速ギヤ機構(図示省略)を切換操作するための変速操作レバー30が設けられている。操縦コラム25のうち方向指示操作レバー29より更に左側には、後述する荷台52を上下回動操作(ダンプ操作)するための荷台操作レバー31が設けられている。
【0027】
操縦コラム25の下方には、左右の後車輪ブレーキ機構(図示省略)を作動させるためのブレーキペダル79と、エンジン回転数を変更させたり油圧無段変速機のトラニオンアーム(図示省略)を作動させて、車速を適宜変更するためのアクセルペダル80とが配置されている。
【0028】
図1及び図2に示すように、ロプスフレーム27で囲われたキャビン28内には、操縦コラム25の後側に、エンジンルーム8の前部ボックス部8aが位置している。前部ボックス部8a上には、上向きに開口した物品収容部33(図5参照)を複数有する左右横長のトレー体32が着脱可能に取り付けられており、トレー体32上には、複数人(実施形態では3人)が座乗可能な運転座席34が設けられている。従って、エンジンルーム8の前部ボックス部8aは、運転座席34を支持する座席支持台としても機能している。
【0029】
運転座席34は座体35と背もたれ体36とにより構成されている。座体35は左右複数個に分割されている。実施形態では、左側に位置する運転者用の座体35と、中央及び右側に位置する同乗者用(2人掛け)の座体35とに分かれている。運転者用の座体35は、トレー体32における左側の物品収容部33に被さっている。同乗者用の座体35は、トレー体32における中央及び右側の2つの物品収容部33に被さっている。
【0030】
また、背もたれ体36も左右複数個に分割されている。実施形態では、前述の座体35に対応するように、左側に位置する運転者用の背もたれ体36と、中央及び右側に位置する同乗者用(2人掛け)の背もたれ体36とに分かれている。各背もたれ体36は、これに対応する座体35に対して、それぞれ独立して横枢軸38を中心に、複数段階又は無段階に角度調節し得るように構成されている。特に、同乗者用の背もたれ体36は、その前面が座体に当接するほど前倒し可能に構成されている。
【0031】
各座体35は、トレー体32における物品収容部33の上向き開口を開閉するように、後部側の横支軸37を中心にそれぞれ独立して跳ね上げ回動可能に構成されている。すなわち、各座体35は物品収容部33に対する蓋として機能しているのであり、各座体35を跳ね上げ回動させることによって、トレー体32の物品収容部33が開放されることになる。なお、各座体35はトレー体32に対して着脱可能な構成であってもよい。
【0032】
同乗者用の背もたれ体36(運転者用以外のもの)の後面には、物品(荷)を収容するための収容凹部39が後ろ向き開口状に形成されている。このため、同乗者用の背もたれ体36を前倒しした場合は、収容凹部39が上向きに開口することになり(図6参照)、運転者が収容凹部39に物品(荷)を載置し易い状態になる(収容凹部39が使い勝手の良い状態になる)。
【0033】
なお、トレー体32が前部ボックス部8a上に着脱可能に取り付けられているので、前部ボックス部8aの上面を開口させておくか又は着脱可能に構成するかしておけば、運転座席34及びトレー体32を取り外すことによって、前部ボックス部8a内のミッションケース7を露出させることが可能になる。かかる構成を採用すると、ミッションケース7のメンテナンス性を向上できる。
【0034】
図1及び図2に示すように、左右両前車輪3は、独立懸架機構40を介して車体フレーム枠6の前フレーム6bに支持されている。エンジン5の動力は、ミッションケース7の前車輪用変速出力軸(図示省略)から、前部ボックス部8aの前面を貫通した自在継手付きの前車輪用推進軸41を経由して、前フレーム6bに取り付けられたフロント差動ケース42に伝達される。そして、フロント差動ケース42に左右外向きに突設された前車輪駆動軸43を介して、左右の前車輪3に回転動力が伝達される結果、左右の前車輪3が回転駆動することになる。
【0035】
走行機体2の前部には、油圧式のパワーステアリングユニット44が左右端部側を上下動させるように回動可能に配置されている。パワーステアリングユニット44から左右外向きに突出したピストンロッド45の先端に、ナックルアーム46が連結されている。パワーステアリングユニット44における左右のピストンロッド45の伸縮動によって、左右の前車輪3の舵取り角(操向角度)が変わるように構成されている。
【0036】
すなわち、操縦ハンドル26の回動操作により、その切り角(操作量)に比例してパワーステアリング用のパワーシリンダバルブ47が作動し、パワーステアリングユニット44における左右のピストンロッド45が伸縮動する。その結果、ナックルアーム46を介して前車輪3の舵取り角が変わり、操縦ハンドル26の切り角に応じて走行機体2の進行方向が変わることになる。なお、操舵用の機構は、前述した油圧式のパワーステアリングユニット44に限らず、電動モータを動力源とする電動式のパワーステアリングユニットでもよい。電動式のパワーステアリングユニットの場合はラック&ピニオン形式を採用でき、ラック&ピニオン形式の中でも、ステアリングシャフトを駆動させるコラムアシスト型、ラックシャフトに噛み合うピニオンを駆動させるピニオンアシスト型、又は、ラックシャフト自体を駆動するラックアシスト型を選択できる。
【0037】
また、図1〜図4に示すように、車体フレーム枠6の後フレーム6cには、リヤ差動ケース48が取り付けられている。実施形態では、エンジンルーム8の後部ボックス部8b(具体的には底カバー板6d)に、下向き及び左右外向きに開口した凹み部8cが形成されており、当該凹み部8c内にリヤ差動ケース48が配置されている。従って、実施形態のエンジン5は、リヤ差動ケース48のある凹み部8cより前方に位置している。
【0038】
左右両後車輪4は、独立懸架機構49を介して車体フレーム枠6の後フレーム6cに支持されている。エンジン5の動力は、ミッションケース7の後車輪用変速出力軸(図示省略)から、後部ボックス部8bにおける凹み部8cの前面を貫通した自在継手付きの後車輪用推進軸50を経由して、リヤ差動ケース48に伝達される。そして、リヤ差動ケース48に左右外向きに突設された後車輪駆動軸51を介して、左右の後車輪4に回転動力が伝達される結果、左右の後車輪4が回転駆動することになる。
【0039】
さて、エンジンルーム8の後部ボックス部8b上には、上向き開口箱型の荷台52が移動案内手段53を介して設けられている。移動案内手段53は、荷台52を後部ボックス部8bに対して前後スライド可能で、且つ、後部側を回動中心として上下回動可能に支持するためのものであり、後部ボックス部8bの上面に配置された左右一対の可動レール54と、荷台52の下面側に配置された左右一対で前後2組の転動コロ55と、荷台52を上下回動させるダンプ機構としてのダンプ用油圧シリンダ56とを備えている。
【0040】
左右一対の可動レール54は前後に長い内向き開口略樋状に形成されている。両可動レール54の後端部は、後上フレーム16に上向き突設されたヒンジ部材57に対して左右横長の回動支軸58にて上下回動可能に軸支されている。これら両可動レール54の回動支軸58回りの上下回動にて、荷台52が上下回動可能になっている。
【0041】
図12(a)に詳細に示すように、荷台52の下面には左右一対で前後2組のヒンジ板59が下向きに突設されており、各組の左右両ヒンジ板59に、転動軸60がそれぞれ回転可能に軸支されている。そして、各転動軸60におけるヒンジ板59より左右外側の箇所に、転動コロ55が取り付けられている。各転動コロ55は、対応する可動レール54の内面側に嵌め込まれている。このため、荷台52は左右両可動レール54に沿って前後スライド可能になっている(図7参照)。
【0042】
荷台52の一側方には、ロック操作具としての回動式の荷台固定レバー61が配置されている。荷台固定レバー61は、左右両可動レール54を横方向に貫通し且つ荷台52側に設けられたレバー軸62回りに回動操作可能に構成されている。レバー軸62の嵌る穴は前後に長いスライド長穴69になっており、このため、荷台固定レバー61は、荷台52と共にスライド長穴69に沿って前後移動可能に構成されている。
【0043】
図12(b)(c)に詳細に示すように、レバー軸62には後ろ向き(前向きでもよい)で側面視鉤型の係合爪63が一体に設けられている一方、各可動レール54の底板には、係合爪63の先端部を係脱させる係合部としての複数個の係合穴70が前後方向に沿って適宜間隔で飛び飛びに形成されている。従って、荷台固定レバー61をレバー軸62回りに回動させて係合爪63を係合穴70から離脱させると、荷台52は左右両可動レール54に沿って前後スライド移動可能になり、レバー軸62の係合爪63を係合穴70に嵌め込む(係合させる)ことにより、荷台52は前後移動不能に保持されることになる。
【0044】
そして、荷台固定レバー61のレバー軸62にはコイル状のばね部材71が巻き付けられている。ばね部材71の一端部は係合爪63に上から当接し、他端部は可動レール54の内面上部に当接している。ばね部材71は、係合爪63を係合穴70から離脱させると弾性復元力が強くなるように巻き付けられている。このため、荷台固定レバー61は、ばね部材71にて常時係合方向(係合爪63が係合穴70に嵌る方向)に付勢されている。
【0045】
荷台52を上下回動させるためのダンプ用油圧シリンダ56は、エンジンルーム8における後部ボックス部8b内の上部側に配置されている。後部ボックス部8bの上面には、ダンプ用油圧シリンダ56を通すための前後に長い長穴64が形成されている。ダンプ用油圧シリンダ56におけるシリンダ側の端部は、後部ボックス部8bの後部内面に設けられたシリンダブラケット65に上下回動可能に枢支されている。ダンプ用油圧シリンダ56におけるピストンロッド66側の端部は、左右両可動レール54をつなぐ連結バー67に固定されたロッドブラケット68に上下回動可能に枢支されている。
【0046】
ダンプ用油圧シリンダ56におけるピストンロッド66の伸縮動によって、荷台52が回動支軸58回りに上下回動するように構成されている。すなわち、荷台操作レバー31の傾動操作にてダンプシリンダバルブ(図示省略)が切換作動し、ダンプ用油圧シリンダ56のピストンロッド66が伸縮動する。その結果、荷台52が後方斜め下向きに傾斜したダンプ姿勢(傾斜姿勢)になったり、水平姿勢になったりすることになる。
【0047】
左右両可動レール54及び連結バー67は、荷台52を上下回動可能に支持するダンプフレームに相当する。また、レバー軸62側の係合爪63は、ダンプフレーム(左右両可動レール54及び連結バー67)に対する荷台52の前後スライド位置を調節するためのロック手段に相当する。
【0048】
以上の通り、実施形態の荷台52は前後スライド位置を段階的に調節できる。その上、ロック手段としての係合爪63の存在により、実施形態の荷台52は、いずれの前後スライド位置であっても、位置ずれを防止しながら回動支軸58回りに上下回動できる(ダンプ用油圧シリンダ56にて後傾できる)。従って、最前方のスライド位置にある荷台52を上下回動させることもできるし(図8参照)、最後方のスライド位置にある荷台52を上下回動させることもできる(図9参照)。
【0049】
特に図9に示すように、最後方のスライド位置にある荷台52を上向き回動させてダンプ姿勢にする場合は、荷台52の対地高さを簡単に低くできる。このため、従来のダンプ荷台構造よりも地面に近い位置で荷物が落下することになり、落下時の衝撃によって荷物が損傷するのを防止できる。例えばベールの結束用トワイン等が切断するのを防止できる。また、バラ積みされた土砂等の粒状の荷物を荷台52から落下させるときに、粒状の荷物の飛散範囲を従来よりも狭くできる。例えば土砂等の落下によって土埃が広範囲に発生するのを低減できる。
【0050】
最後方のスライド位置にある荷台52を上向き回動させてダンプ姿勢にし、荷台52の対地高さを簡単に低くできるということは、逆の見方をすれば、従来のダンプ荷台構造よりも地面に近い位置で荷台52に荷物を積み込めるということになる。従って、荷物を高く持ち上げなくても前記荷台に荷物を簡単に積み込むことができ、荷物の積み込み作業性を向上できる。
【0051】
荷の収容量が多かったり重量物を運搬したりする場合は、荷台52を前方にスライド移動させておくことにより、走行機体2の重心が後方に移動して走行が不安定になるのを防止できる。逆に、空荷の場合は、荷台52を後方にスライド移動させておくことにより、走行機体2の前後重量バランスを簡単に向上できる。従って、荷台52の状態に拘らず、走行機体2の前後重量バランスを良好な状態に維持でき、走行安定性を向上できる。荷台52を後方にスライド移動させることによって、運転座席34から荷台52後部までの距離を拡大できるから、荷台52を含む走行機体2後部に長物を搭載することも可能になる。
【0052】
また、実施形態では、ロック手段としての係合爪63は荷台52側に設けられていて、荷台52の側方に位置するロック操作具としての荷台固定レバー61に連動連結されており、荷台固定レバー61の操作にて、係合爪63が各可動レール54に形成された係合部としての係合穴70に係脱するように構成されているから、荷台52のロック(位置固定)・ロック解除作業を簡単に行えるという利点もある。
【0053】
なお、荷台52を上向き回動させてダンプ姿勢にした場合は、後部ボックス部8bの上面が露出することになるから、後部ボックス部8bの上面を開口させておくか又は着脱可能に構成するかしておけば、荷台52を上向き回動させてダンプ姿勢にすることによって、後部ボックス部8b内のエンジン5を露出させることが可能になる。かかる構成を採用すると、エンジン5のメンテナンス性を向上できる。荷台52を前後スライド移動させるには様々の機構を採用できる。また、荷台52の上下回動(傾動)もダンプ用油圧シリンダ56に限らず、モータでの駆動など様々の機構を採用できる。
【0054】
以上の構成によると、荷台52の下方に位置する車体フレーム枠6の後部側に、密閉構造のエンジンルーム8が搭載されており、エンジンルーム8内には、エンジン5とミッションケース7とが収容されているから、UTV1における騒音や振動の外部伝達を抑制して、防音性及び防振性を向上できる。また、荷台52下方のスペースを有効利用して、エンジン5とミッションケース7とをコンパクトに組み付けることが可能になる。
【0055】
エンジン5及びミッションケース7は、車体フレーム枠6の後部に配置されたリヤ差動ケース48より前方に位置していて、エンジンルーム8内において前後直列状に連設された状態で配置されているから、重量物であるエンジン5及びミッションケース7が走行機体2の前後方向の中心寄りに位置することになり、走行機体2の前後重量バランスを簡単に向上できる。
【0056】
また、走行機体2の左右方向の中心線に沿うようにして、エンジン5とミッションケース7とを並べることが可能になるから、走行機体2全体としての重心を低くできると共に、走行機体2全体の重量バランスも向上できる。従って、走行安定性の向上に貢献できる。
【0057】
エンジンルーム8内には、後方に向けてエンジン5及びミッションケース7を冷やすための外気が流通するように構成されているから、エンジンルーム8内に取り込んだ外気にてエンジン5及びミッションケース7を冷却し、暖められた空気をエンジンルーム8の後部から外へ排出できる。すなわち、エンジンルーム8内で暖められた空気を簡単に換気して、エンジンルーム8内の温度上昇を抑制できる。
【0058】
実施形態では、エンジンルーム8(前部ボックス部8a及び後部ボックス部8b)の底面には、エンジンルーム8内に外気を取り入れるための外気導入口19が形成されているから、エンジンルーム8内で生ずる騒音は、下向きの外気導入口19から地面に向けて漏れ出すが、かかる騒音は、外気導入口19の位置が運転座席34に着座するオペレータから離れているために距離に起因して減衰したり、地面からの反射にて減衰したりすることになる。従って、エンジンルーム8の底面に外気導入口19を形成することは、防音性の向上の点でも効果が大きい。
【0059】
実施形態では、エンジンルーム8の前側が運転座席34の下方にまで延出して前部ボックス部8aになっているから、荷台52の下方にあるエンジンルーム8の容積が広くなり、エンジン5及びミッションケース7冷却用の外気を多く確保できることになる。従って、エンジン5やミッションケース7の冷却効率の向上が可能になる。また、前部ボックス部8a内にミッションケース7と燃料タンク11とが配置されているから、容積を拡大させたエンジンルーム8の前部スペースを有効利用できるという利点もある。
【0060】
エンジンルーム8の後方で且つ荷台52の下方には、エンジン冷却液を冷やすためのラジエータ14と、エンジン5の排気音を減少させるための排気マフラー15とが配置されているから、荷台52の後部下方のデッドスペースを活用して、ラジエータ14と排気マフラー15とをコンパクトに配置できる。しかも、熱の発生源にもなるラジエータ14及び排気マフラー15をエンジンルーム8の後方に位置させるので、エンジンルーム8内の温度上昇を容易に抑制できる。
【0061】
更に、エンジン5が内蔵された後部ボックス部8bの左右幅寸法Wbに比べて、ミッションケース7が内蔵された前部ボックス部8aの左右幅寸法Wfの方が大きくなっており、外気の取り込み側であるエンジンルーム8前部の容積を広く取れるから、エンジン5及びミッションケース7冷却用の外気をより一層多く確保できることになる。従って、エンジン5やミッションケース7の冷却効率の向上に高い効果を発揮できる。
【0062】
前部ボックス部8a上には、上向きに開口した物品収容部33を複数有する左右横長のトレー体32が配置されており、トレー体32上には、運転座席34を構成する座体35が、トレー体32の物品収容部33を開閉するように跳ね上げ可能又は着脱可能に配置されているから、運転座席34の下側を物品(荷)の収容空間として活用でき、物品収容部33内に入れた物品(荷)が雨に濡れたり外部に飛び出したりすることを、座体35にて確実に防止できる。
【0063】
また、座体35は左右複数個に分割されていて、分割された各座体35がそれぞれ独立して跳ね上げ可能又は着脱可能に構成されているから、乗員(運転者及び同乗者)の人数や着座状態に応じて、トレー体32の物品収容部33を有効利用することが可能になる。
【0064】
更に、運転座席34は、座体35と、座体35に対して複数段階又は無段階に角度調節可能な背もたれ体36とを有しているから、乗員(運転者や同乗者)の体格に合わせて背もたれ体36の角度を設定でき、楽な姿勢で着座できる。
【0065】
しかも、背もたれ体36は左右複数個に分割されており、分割された各背もたれ体36がそれぞれ独立して複数段階又は無段階に角度調節可能に構成されているから、背もたれ体36の角度を、運転者及び同乗者各人の体格に合わせることができ、座り心地の良い設定にできる。
【0066】
同乗者用の背もたれ体36(運転者用以外のもの)の後面には、物品(荷)を収容するための収容凹部39が、同乗者用の背もたれ体36を前倒しした場合に収容凹部39が上向きに開口するように形成されているから、運転者の近辺に物品(荷)を載置し易いという利点がある。収容凹部39を使用しない場合は、同乗者用の背もたれ体36を起立させておけば、収容凹部39内に埃等が溜まるのを抑制できる。
【0067】
次に、キャビン28及び荷台52周辺の構造について説明する。前述の通り、ロプスフレーム27の左右両後部側は、側面視で荷台52の側面に一部重なるように後ろ向きに張り出した形状になっている(図7〜図11参照)。具体的には、左右の枠パイプ27aの後部側が、側面視で荷台52の側面に一部重なるほど後ろ向きに張り出している。このため、ロプスフレーム27にて囲われたキャビン28のスペース(乗降空間)が広くなっており、乗員(運転者及び同乗者)がキャビン28内に乗降し易い。
【0068】
また、運転座席34と荷台52の間にロプスフレームが存在する構造に比べて、乗員が運転座席34に乗り込む姿勢で荷台52に荷を入れる際にロプスフレーム27が邪魔になることが少ないから、運転座席34への乗降動作と荷台52への荷の出し入れ動作とを、一連の動作(連続した動作)で簡単に行えるという利点もある。
【0069】
図7〜図11に示すように、キャビン28内のうち運転座席34(前部ボックス部8a)の後方とリヤカウル9との間には、側面視く字状のステップ部72が設けられている。実施形態のステップ部72は、リヤカウル9と同様に、エンジンルーム8(前部ボックス部8aの後面と後部ボックス部8bの左右側部)に一体に設けられている。また、ステップ部72の左右外側はロプスフレーム27の枠パイプ27aにて支持されている。
【0070】
図11に示すように、荷台52を最後方のスライド位置まで後退させた状態では、運転座席34とリヤカウル9と荷台52とで囲まれたステップ部72の上方空間に、人が乗り込めるようになっている。この場合、荷台52の前面には、ステップ部72上の人が凭れ掛かる左右一対の補助クッション体74を備えている。ステップ部72の左右外側には当該部位を仕切る側ガード板73が設けられている。実施形態の側ガード板73は前部ボックス部8aの側面部から後方に延びている。
【0071】
かかる構成によると、運転座席34とリヤカウル9とで囲まれたステップ部72の上方空間を物品(荷)の収容空間として活用でき、乗員の近辺に物品(荷)を載置し易い。また、ステップ部72の左右外側に側ガード板73を設けているので、ステップ部72上に載置された物品(荷)の脱落を簡単に防止できる。
【0072】
その上、荷台52を最後方のスライド位置まで後退させれば、運転座席34とリヤカウル9と荷台52とで囲まれたステップ部72の上方空間に人が乗り込めるので、UTV1の乗員数を簡単に増加できる。更に、荷台52の前面に設けられた補助クッション体74により、ステップ部72上に乗った人の腰や背中を安定的に支持でき、運転座席34の後方にあるステップ部72での乗り心地を向上できる。また、側ガード板73の存在により、ステップ部72上に乗った人の足が走行機体2から左右外側に飛び出るのを防止できる。
【0073】
なお、前述した各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】UTVの全体側面図である。
【図2】UTVの全体平面図である。
【図3】エンジンルームの側面断面図である。
【図4】エンジンルームの平面断面図である。
【図5】座体を跳ね上げ回動させた状態の要部拡大平面図である。
【図6】背もたれ体を前倒しした状態の要部拡大平面図である。
【図7】荷台が最後方のスライド位置にある状態の要部拡大側面図である。
【図8】最前方のスライド位置にある荷台をダンプ姿勢にした状態の要部拡大側面図である。
【図9】最後方のスライド位置にある荷台をダンプ姿勢にした状態の要部拡大側面図である。
【図10】UTVの全体斜視図である。
【図11】ステップ部上に人を乗せた状態の要部拡大側面図である。
【図12】(a)は移動案内手段の正面断面図、(b)はロック手段の正面断面図、(c)はロック手段の側面断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 多目的車両としてのUTV
2 走行機体
3 前車輪
4 後車輪
5 エンジン
7 ミッションケース
8 エンジンルーム
8a 前部ボックス部
8b 後部ボックス部
9 リヤカウル
10 エアクリーナ
11 燃料タンク
14 ラジエータ
15 排気マフラー
19 外気導入口
26 操縦ハンドル
27 ロプスフレーム
27a 枠パイプ
27b 横桟パイプ
32 トレー体
33 物品収容部
34 運転座席
35 座体
36 背もたれ体
39 収容凹部
48 リヤ差動ケース
52 荷台
53 移動案内手段
54 可動レール
55 転動コロ
56 ダンプ用油圧シリンダ
61 荷台固定レバー
67 連結バー
69 スライド長穴
70 係合部としての係合穴
71 ばね部材
72 ステップ部
73 側ガード板
74 補助クッション体




【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後四車輪にて支持された走行機体と、前記走行機体に搭載されたエンジンと、少なくとも前記左右両後車輪に前記エンジンの回転を伝達するミッションケースと、操縦ハンドル及び運転座席と、前記運転座席の後方に配置された荷台とを備えている多目的車両であって、
前記荷台は、前記走行機体の後部に配置されたエンジンルーム上に前後移動可能に設けられている、
多目的車両。
【請求項2】
前記エンジンルームの左右両側部には、前記後車輪を上方から覆うリヤカウルが設けられており、前記運転座席の後方と前記リヤカウルとの間にステップ部が設けられており、前記荷台の前面には、前記荷台を後退させた状態で前記ステップ部上の人が凭れ掛かる補助クッション体を備えている、
請求項1に記載した多目的車両。
【請求項3】
前記ステップ部の左右外側には、当該部位を仕切る側ガード板が設けられている、
請求項2に記載した多目的車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−95108(P2010−95108A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266745(P2008−266745)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】