説明

多糖マトリックス及び金属ナノ粒子からなる三次元ナノ複合材料、並びにその調製及び使用

本発明においては、中性又はアニオン性多糖及び金属ナノ粒子が均一に分散し且つ安定化している枝分かれしたカチオン性多糖の多糖組成物からなるポリマーマトリックスにより形成された三次元構造の形としてのナノ複合材料が記載されている。適切なゲル化技術を用いるか又は適切な脱水によって、上記ナノ複合材料は、ヒドロゲルとしての水和形態又は非水和形態の異なる形をしている三次元マトリックスである。上記ナノ複合材料は、強力な抗菌活性の広域スペクトルを有するが、細胞毒性を示さない。細胞毒性がないことに加えて、金属粒子ナノスケール及びポリマー鎖上の生物学的シグナルの存在と関係がある特定の抗菌特性は、抗菌特性が備わっている新世代の生体材料の開発、並びに生物医学分野、医薬品分野及び食品分野における他の多くの用途に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性又はアニオン性多糖と金属ナノ粒子が均一に分散し且つ安定化している枝分かれしたカチオン性多糖との多糖組成物からなる複合ポリマーマトリックスを含む三次元ナノ複合材料に関するものであり、前記枝分かれしたカチオン性多糖は、そのようにして金属系ナノ複合材料を形成している。更に、本発明は、前記三次元ナノ複合材料の調製と、生物医学分野、医薬品分野及び食品分野での使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、天然の多糖は、生体適合性ポリマーとして認識されており;そのようなものとして、それらは、生物医学分野での適用のため、例えば生物学的に活性のある化合物又は組織工学の細胞のキャリヤーとして、長い期間採用され、よく研究された材料である。医薬品業界と食品業界の両方において最も使用されるものの中でも、アルギネート及びキトサンは、それらの存在量、比較的低いコスト、高い生体適合性、及び含水量の高いヒドロゲルの形態として三次元マトリックスを適当な条件下で作る能力を理由に言及され得る。しかしながら、キトサンは、その水溶性の著しいpH依存性やその水溶液中におけるアルギネートのようなアニオン性多糖との非混和性と関係のある適用制限をいくらか示しており、それは、該アニオン性多糖と共に、例えば組織工学等の分野における適用目的では使用できないコアセルベートを作る。キトサンは、それが細胞特異的シグナルを保有せず、それ故に生物活性に欠けるため、更なる制限をアルギネートと共有する。それらの理由のため、上述の制限を克服することのできるキトサン誘導体が、現在のところ研究開発されている。
【0003】
近年では、様々なキトサン誘導体が、ポリマー鎖の化学修飾によって得られた。それらの修飾には、線状キトサン鎖を形成するD−グルコサミン単位のアミノ残基にかかわる反応が広く用いられる。特に、N−結合側鎖として糖単位(単糖及びオリゴ糖)を導入することにより、pHを酸性値まで下げる必要も無く水溶性キトサン誘導体を得ることが可能となり、また、この方法では、結果として起こり得る水溶液の酸性度によるポリマー分解の問題をも回避する。
【0004】
US 4,424,346(Hall,L.D.及びYalpani,M.)では、それら誘導体の合成及びその非酸性水媒体中での水溶解度を初めて記載している。特に、US 4,424,346は、ラクトースによるキトサン誘導体が、3〜5%より高い濃度の水溶液中で硬質ゲルを生じさせる一方、(特にCa、Cr、Zn塩化物、Kクロム酸塩、ホウ酸との)塩又は酸混合物及びそれらの組み合わせの中ではゲル化も沈澱もしないことを開示した。また、上述の特許は、他のオリゴ糖、即ちセロビオースにより誘導体化したキトサンが、水溶液中では本質的にゲルを形成しないものの、アルギネートと混合した場合には硬質ゲルを形成することに言及した。このゲル形成は、正のポリカチオン電荷と負のポリアニオン電荷間の強い相互作用が原因であり、系のコアセルベーション、さもなければ例えば細胞等の生体物質のマイクロカプセル化に使用する際に制限となるプロセスをもたらす。
【0005】
特許出願WO2007/135116(Paoletti S.et al.)は、コアセルベーションの問題を克服するためのアニオン性多糖とカチオン性多糖の混合物を含有するポリマー溶液の調製方法と、その生物医学分野における使用を記載している。
【0006】
加えて、特許出願WO2007/135114(Paoletti S.et al.)は、水和又は非水和の三次元構造体と、薬理学的に活性のある分子及び細胞をカプセルに包む目的に対して有用である、適切なゲル化剤によりゲル化された、上述のアニオン性多糖とカチオン性多糖のポリマー混合物からそれらを調製する方法とを記載している。
【0007】
時節がら多糖への大きな興味と共に、ナノ技術に関連した非常に興味のある他の研究分野は、特定の金属ナノ粒子を含むナノ複合材料を調製するためのそれらの使用可能性についてである。実際、ナノ粒子を安定化させるため、金属粒子がポリマー鎖との相互作用により均一に分散しているナノ複合材料系を得ることを可能にする多糖溶液は、有利に使用される可能性がある。従って、多糖の役割は、その特定の特性を十分に引き出す可能性を予期することで、金属ナノ粒子の形成及び安定化に関係しており;実際、金属ナノ粒子は、特定の光学特性、触媒特性及び抗菌特性が備わっていることが知られている。事実、抗菌性材料の分野における銀、金、銅、亜鉛及びニッケル等の金属の使用は、特に皮膚の創傷を治療するための、市場に大きな影響を及ぼしている。Johnson&Johnson(登録商標)及びConvatec(登録商標)等の会社は、最近になって銀ナノ粒子の抗菌特性に基づく薬物を市場に出している。それら金属の周知な抗菌活性を例えばガーゼ、包帯、パッチの開発に利用するのに適切な多糖系ナノ複合材料によって、同様な適用が見出される可能性がある。後の製品は、広域スペクトル抗菌活性又は殺菌活性を持った含水量の高いゲルが与えられている可能性がある。実際、火傷及び潰瘍のような皮膚又は粘膜の病変を治療するための新しい治療の助けの必要性が依然として残っている。それらの病変は、現在採用されている抗生物質治療に対し非常に抵抗性がある場合が多く;加えて、それらはまた、例えば細胞増殖及び/又は適切な組織の水和を増強するといった組織修復のための生物学的効果を更に必要とする。三次元のヒドロゲル構造体は、とりわけ後の側面に特に有利な場合があり、細胞表現型に干渉せずに細胞の複製に適した環境を確保することができる。
【0008】
その上、三次元の水和構造体を得る可能性はまた組織工学用途のためにも大変興味深く、ここでは、多糖に特有の生物活性特性を抗菌活性と組み合わせることが望ましい。
【0009】
組織工学の分野では、人体に埋め込まれるべき生体材料上に抗菌被膜を作るため、大きな努力がなされており;この場合、ほとんどの危険因子は、抗菌薬それ自体の細胞毒性の可能性に関係している。例えば、整形外科の分野において、人工関節置換術の作業及び露出していない骨折の骨接合術は、手術感染に関する清潔手術の一種を表す(非特許文献1)。しかしながら、生体材料の宿主組織内への埋め込みは、細菌負荷が若干小さい場合でも感染の発症及び生存を促進することができる。手術前後の予防における進歩にもかかわらず、細菌感染及び真菌感染は今でも非常に一般的であり;これは、時間延長によるそれら微生物の整形外科用デバイスへの付着の危険性に原因する(非特許文献2)。それらのデータは、新世代の生体材料と関係がある代わりの抗菌薬を開発する重要性を裏付ける。
【0010】
US 7255881(Gillis et al.)は、上述の問題に対して可能性のある解決策を提供する。事実、その特許は、抗菌用途のため、蒸気相からの化学堆積及び物理堆積(「化学蒸着」CVD、「物理蒸着」PVD)並びに液相中での化学堆積及び物理堆積等の技術を介して様々な種類の支持体上に形成された銀系被膜を開示する。銀が堆積している多糖支持体に関しては、キトサン、アルギネート及びヒアルロン酸について言及している。それらの技術は、適切なマトリックス内に均一に分散した金属ナノ粒子の形成に向いているものではなく、連続的な表面銀(ナノ結晶、多結晶又は非晶質)層の形成に向けていることに注意する。その上、それらの堆積技術に必要とされる温度及び圧力の条件は、多糖や、その骨格の一部であることが望ましい可能性のある(ペプチド又はタンパク質のような)生物活性生体分子の安定性と適合するものではなく、生きている細胞にかかわる組織工学用途の場合には、なおさらそうである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 4,424,346
【特許文献2】WO2007/135116
【特許文献3】WO2007/135114
【特許文献4】US 7255881
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Tucci G. et al., Giornale Italiano di Ortopedia e Traumatologia, 2005; 31:121-129
【非特許文献2】Zimmerli W. et al., New England J. Med., 2004; 351(16):1645-54
【発明の概要】
【0013】
本発明の第一の目的は、三次元ナノ複合材料系を提供することにあり、ここでは、サイズの制御された金属ナノ粒子が多糖マトリックス中に均一に分散しており、前記マトリックスはゲル状又は固体状であり、その特性は、生物医学分野における生物学的適用に特に適していることである。
【0014】
更なる目的は、かかる三次元ナノ複合材料が、単純で経済的に都合のよい化学的アプローチにより、特には、限定されないものの、生体適合性で且つ生理活性のあるヒドロゲル及び脱水ヒドロゲルを生成することによって得られることである。
【0015】
更なる目的は、市販の多糖を容易に用いることによりそれらの系を改良することにあり、該多糖は化学操作を受けず、該系の複雑な予備操作の必要もない。
【0016】
上記目的を実現するため、発明者らは、好ましくは植物源又は細菌源から生じる中性又はアニオン性多糖と、枝分かれしたカチオン性多糖とを含む少なくとも2成分の組成物であって、後者の多糖は金属ナノ粒子を取り込むことが可能であり、上記中性又はアニオン性多糖は水和又は非水和の三次元固体マトリックス(例えば、様々な形態のヒドロゲル、ミクロスフェア、スカフォールド、繊維マトリックス)及び/又は表面/体積比が高いマトリックス(湿潤の又は脱水した膜及びフィルム)を形成することができる組成物に基づく適切な多糖系を開発した。このように、金属ナノ粒子を均一に取り込んでいるカチオン性分岐多糖により形成される系は、それ自体がナノ複合材料である。
【0017】
従って、第一の態様において、本発明の目的は、少なくとも一種の中性又はアニオン性の(リオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの)多糖と、金属ナノ粒子が均一に分散し且つ安定化している少なくとも一種のカチオン性分岐多糖からなる金属系ナノ複合材料とからなるポリマーマトリックスを含む三次元ナノ複合材料にあり、ここで、上記中性又はアニオン性多糖は、中性又はアニオン性多糖それ自体の種類に応じた適切な物理的又は化学的ゲル化手段によりゲル化されている。
【0018】
コアセルベートの形成を引き起こさないために、適切なpH値及びイオン強度で作業することで、金属ナノ粒子含有カチオン性分岐多糖の溶液を中性又はアニオン性多糖溶液と混合することができた。次いで、適切なゲル化手段により、イオンチャンネル型又は温度転移型ゲルを形成する中性又は酸性多糖の能力を利用することによって、それらの中性又はアニオン性多糖と、枝分かれした塩基性多糖それ自体を介して均一に分散し且つ安定化している金属ナノ粒子を取り込んでいる枝分かれした塩基性多糖との混合物からなる、水和又は非水和の三次元マトリックスを得ることができた。
【0019】
従って、第二の態様において、本発明の目的は、少なくとも一種のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖と、金属ナノ粒子が均一に分散し且つ安定化している少なくとも一種のカチオン性分岐多糖からなる金属系ナノ複合材料とからなるポリマーマトリックスを含む三次元ナノ複合材料の製造方法であって、前記三次元ナノ複合材料は、少なくとも一種のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖と、金属ナノ粒子を取り込んでいる少なくとも一種のカチオン性分岐多糖からなる金属系ナノ複合材料の水溶液から得られることを特徴とする製造方法であり、ここで、それらの水溶液は、イオン強度が少なくとも50mMで且つ350mM以下であり、pHが少なくとも7であり、また、それらの水溶液は、リオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖のゲル化をもたらすことが可能な物理的又は化学的ゲル化手段によって処理される。それらの水溶液は、モル浸透圧濃度が250〜300mMの範囲にあることが好ましい。
【0020】
よって、かかる製造方法により得られる三次元ナノ複合材料もまた本発明の目的である。
【0021】
その上、本発明に従う三次元ナノ複合材料は、強力な広域スペクトル抗菌活性を有しているものの、細胞毒性効果がないことが分かった。
【0022】
従って、本発明の更なる目的は、生物医学分野における、特には抗菌用途のための、それら三次元ナノ複合材料の使用である。実際、本発明の対象である三次元複合材料は、皮膚科学分野(例えば、血管代謝皮膚潰瘍)及び整形外科分野(例えば、骨人工関節用被膜)、歯科分野(歯周病原性細菌感染の治療)、心臓病分野、泌尿器科分野(ステント用被膜)、並びに一般的な手術治療分野における生体材料としての有用な適用を約束する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】その図は、ラクトースによるキトサン誘導体(C:以下、キトラック(Chitlac)と称する:CAS登録番号85941−43−1)に基づく銀ナノ粒子(nAg)によって形成された金属系ナノ複合材料をアルギネート(A)マトリックス中に含むヒドロゲル形態の三次元ナノ複合材料を示す(AC−nAgゲル)。その組成は、0.2%(w/v)キトラック、1.5%(w/v)アルギネート、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、10mMのヘペス緩衝液、30mMのCaCO、60mMのGDL(D−グルコノ−δ−ラクトン)である。ヒドロゲルの調製を例8に記載する。
【図2】その図は、キトラック系金ナノ粒子(nAu)によって形成される金属系ナノ複合材料をアルギネートマトリックス中に含むヒドロゲル形態の三次元ナノ複合材料を示す(AC−nAuゲル)。その組成は、0.2%(w/v)キトラック、1.5%(w/v)アルギネート、0.5mMのHAuCl、10mMのヘペス緩衝液、30mMのCaCO、60mMのGDLである。その調製を例9に記載する。
【図3】その図は、三次元ナノ複合材料AC−nAgゲルのミクロスフェアを示す(0.2%(w/v)キトラック、1.5%(w/v)アルギネート、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、10mMのヘペス緩衝液、30mMのCaCO、60mMのGDL)。その調製を例13に記載する。
【図4】その図は、アルギネート−キトラックヒドロゲル形態の三次元ナノ複合材料(ACゲル、例6、左側)に関し、アルギネート−キトラック−nAgヒドロゲル形態の三次元ナノ複合材料(AC−nAgゲル、例8、右側)と比較した、E.coli ATCC25922の細菌増殖テストを示す。
【図5】その図は、三次元ナノ複合材料AC−nAgミクロスフェアを含有する懸濁液と240分間接触したE.coli ATCC25922の細菌コロニー計数テストを示す。ミクロスフェアの調製を例13に記載する。そのコントロールは、20%ミューラー・ヒントン培地での増殖によって表される(T0及び240min)。
【図6】その図は、三次元ナノ複合材料アルギネート−キトラックヒドロゲル(ACゲル、例6、左側)に関し、三次元ナノ複合材料アルギネート−キトラック−nAuヒドロゲル(AC−nAgゲル、例9、右側)と比較した、E.coli ATCC25922の細菌増殖テストを示す。
【図7】その図は、接触による三次元ナノ複合材料AC−nAgゲル(例8、斜線)並びに37℃の培地中での24時間及び72時間後の関連抽出物の、LDH(乳酸脱水素酵素)放出として評価される、線維芽細胞株(NIH−3T3)に関する細胞毒性テストを示す。そのコントロールは、i)接着細胞(コントロール、コンフルエント)、ii)銀ナノ粒子がない場合のアルギネート−キトラックゲルと接触した細胞(ACゲル、例6、横線)、iii)銀ナノ粒子がない場合のアルギネート−キトラックゲルからの所定の時間(24時間)材料と接触して保たれた液体培地(以下、「抽出物」と称する)と接触した細胞(ACゲル抽出物、直交メッシュ)によって表される。
【図8】その図は、接触による三次元ナノ複合材料AC−nAuゲル(例9、AC−nAu Cont.)並びに37℃の培地中での24時間及び72時間後の関連抽出物(AC−nAu Est.)の、LDH(乳酸脱水素酵素)放出として評価される、骨芽細胞株(MG63)に関する細胞毒性テスト(LDH)を示す。そのコントロールは、接着細胞(接着)、金属ナノ粒子がない場合のアルギネート−キトラックゲルと接触した細胞(例6、AC Cont.)、金属ナノ粒子がない場合のアルギネート−キトラックゲルからの抽出物(AC Est)、ZnDBCを含むポリウレタンディスクと接触した細胞(PU、ISO10993−5に従う接触系のポジティブコントロール)、Triton溶液での細胞(抽出物のポジティブコントロール)によって表される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
三次元構造体:その定義は、本願の目的のため、変形を受けない場合に形状及び大きさを維持することが可能な、水和又は非水和の構造体を示す。
【0025】
本発明に開示の三次元構造体は、以下詳細に説明されるポリカチオン性分岐多糖中において均一に且つ永久に分散している金属ナノ粒子によって形成された材料を含む中性又はアニオン性多糖マトリックスによって形成されるナノ複合材料である。よって、第一の例においては、「三次元ナノ複合材料」の定義は、本発明のナノ複合材料を示すのに使用される。
【0026】
ヒドロゲル:一般に、「ヒドロゲル」の語は、変形を受けない場合に形状及び大きさを維持することが可能な、非常に水和している半固体の三次元構造体を示す。それらは、適切に架橋した多糖の半希釈溶液から得られる場合がある。
【0027】
以下の説明において、「ナノ複合材料ヒドロゲル」はまた、先に定義したように、水和した場合の本発明の三次元ナノ複合材料構造体を示すのに使用できる。
【0028】
ナノ複合材料:一般に、「ナノ複合材料」の語は、巨視的材料(マトリックス)を介したナノメートルサイズの粒子(充填材)からなる系を示す。本発明は、中性又はアニオン性多糖マトリックスにおけるナノ複合材料(例えば、枝分かれしたカチオン性多糖中で均一且つ永久に分散している金属ナノ粒子)の包含から生じる三次元ナノ複合材料であるが、ここで、この前者の材料は、主に「金属系ナノ複合材料」として示される。特に、金属系ナノ複合材料は、キトサンのアルジトール又はアルドン酸多糖誘導体による又は該誘導体中での金属イオンの還元によって形成された金属ナノ粒子で構成されている。よって、以下の説明においては、「金属系ナノ複合材料」の他、この材料に関連して、「金属ナノ粒子系ナノ複合材料」を用いる。
【0029】
コロイド溶液(又はコロイド):サイズが1〜1,000nmの粒子が連続溶媒中に分散している系である。
【0030】
「インサイチューでの」ゲル化:ゲル化剤の制御された放出がある(例えば、アルギネートのCa2+イオン)ゲル化方法である。これは、ゲル化剤がその後第二成分(例えば、グルコノ−δ−ラクトン、GDL)を加えるときに放出される不活性化形態のゲル化剤(例えば、CaCO)を使用することによって達成される。
【0031】
本発明に記載される三次元ナノ複合材料の目的及び利点は、本発明の非限定的な例として、三次元ナノ複合材料を調製する一部の例とそれらの抗菌活性及び細胞毒性を評価する生物学的特性評価を記載する以下の詳細な説明から、より一層理解されることになる。
【0032】
説明
達成しようとする目的のため、金属ナノ粒子のナノスケールに関する特性を利用する多糖系ナノ複合材料系の調製及び特徴付けに関する側面が取り組まれている。
【0033】
本発明によれば、三次元ナノ複合材料は、少なくとも一種のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖と、カチオン性分岐多糖中で均一に分散し且つ安定化している金属ナノ粒子を取り込んでいる少なくとも一種のカチオン性分岐多糖からなる金属系ナノ複合材料との組成物からなるポリマーマトリックスから形成される。枝分かれしたカチオン性多糖は、本発明に従う三次元ナノ複合材料における二重の機能を有しており:i)一側面では、主として金属ナノ粒子を適切に取り込み安定化させる機能と、ii)他の側面では、追加として、三次元マトリックスが主に中性又はアニオン性多糖の適切なゲル化手段によりゲルを形成する能力によるものであるため、実質的に多糖(例えば、少なくとも一種のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖と少なくとも一種のカチオン性分岐多糖)の組成物であるマトリックスの形成に貢献する機能である。よって、かかる多糖の組成物は、一の可能性がある実施態様において2成分であり、中性又は酸性多糖と枝分かれしたカチオン性多糖とによって形成される。
【0034】
本発明の目的に有用な中性又は酸性多糖は、a)アルギネート、ペクテート及びペクチネートよりなる群から選択される、リオトロピックゲルが形成可能な酸性多糖;b)サーモトロピックゲルを生じることが可能な中性多糖(この場合、それらは、アガロース、スクレログルカン、シゾフィラン、及びカードランよりなる群から選択されるのが好ましい);c)サーモ−リオトロピックゲルを生じることが可能な酸性多糖(この場合、それらは、硫酸アガロース、ι−及びκ−カラギーナン、硫酸セルロース、ジェランガム、ラムサンガム、ウィーランガム(ウエランガムとも呼ぶ)、並びにキサンタンガムよりなる群から選択されるのが好ましい)である。
【0035】
中性又は酸性多糖の平均分子量(MW)は、2,000kDa以下とすることができ、好ましくは100kDa〜1,000kDaであり、200kDaの平均分子量を用いるのが更に好ましい。
【0036】
よく知られているように、それらの中性又はアニオン性多糖は、適切な条件下で三次元構造体(水和の場合、ゲル様又はヒドロゲル)を形成する特徴を有する。実際、ヒドロゲルの形成に関する側面は、実質的に、リオトロピック多糖のイオン溶液又はサーモトロピック多糖の冷却溶液と接触したときに中性又はアニオン性多糖がヒドロゲルをすぐに形成する能力に関係している。酸性のサーモ−リオトロピック多糖の場合、ゲル化手段は、物理的及び/又は化学的なものの双方/一方とすることができ、そのため、イオンでも適切な温度でもその両方でもよい。
【0037】
一方、金属ナノ粒子の形成及び保有に関する側面は、実質的に、第二の多糖成分、即ち枝分かれしたカチオン性多糖に関係している。本発明の目的のため、キトサンのアジトール又はアルドン酸分岐誘導体があり、ここで、D−グルコサミン単位は、炭素原子C2上の−NH−官能基を用いて線状キトサン鎖結合を形成し、単糖又はオリゴ糖のアルジトール又はアルドン酸ポリオール残基は、互いに同一であるか又は異なっており、一般式(I)
【化1】

[式中:
Rは、−CH−又は−CO−であり;
は、水素、又は単糖、又はオリゴ糖であり;
は、−OH又は−NHCOCHである]によって表される。
【0038】
代表する目的のため、キトサン分岐誘導体における単糖又はオリゴ糖のアルジトール又はアルドン酸ポリオール残基で置換されたD−グルコサミン単位は、一般式(II)によって表され、ここで、「n」は線状キトサン鎖を構成するD−グルコサミン単位の総数を指す:
【化2】

【0039】
本発明の目的のため、好ましいキトサンの分岐誘導体において、Rが単糖である場合には、前記単糖が、ガラクトース、グルコース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、及びN−アセチルガラクトサミンよりなる群から選択され、Rがオリゴ糖である場合には、前記オリゴ糖が、2個のグリコシド単位を含むことができる。
【0040】
一般式(I)のアルジトール又はアルドン酸の単糖又はオリゴ糖残基は、1〜3個のグリコシド単位を含む単糖又はオリゴ糖であることが好ましく、更に好ましい態様によれば、それらアルジトール又はアルドン酸のポリオール残基は、2〜3個のグリコシド単位を含むオリゴ糖の残基であり、一層好ましくは、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、キトビオース、キトトリオース及びマンノビオース並びにそれらの対応するアルドン酸よりなる群から選択される。本発明の目的のため、最も好ましいキトサンのオリゴ糖誘導体は、ラクトースによる誘導体である(キトラック;CAS登録番号85941−43−1)。
【0041】
その上、金属ナノ粒子を均一に分散し且つ安定化させるため、一般式(I)の単糖又はオリゴ糖によるキトサンアミノ基の化学置換度は、少なくとも40%であることが必要である。キトサンアミノ基の前記単糖又はオリゴ糖による置換度は、50%〜80%の範囲が好ましく、70%であることが更に好ましい。
【0042】
上述のオリゴ糖誘導体を得るために使用できるキトサンの平均分子量(以下、MWと称する)は、1,500kDa以下であり、400kDa〜700kDaの範囲が好ましい。
【0043】
キトサンの単糖又はオリゴ糖分岐誘導体からなるポリマーマトリックス中に組み込まれる金属ナノ粒子は、銀、金、白金、パラジウム、銅、亜鉛、ニッケル及びそれらの混合物から優先的に選択される金属から作られる。
【0044】
キトサンの単糖又はオリゴ糖分岐誘導体からなるポリマーマトリックス中に含まれるナノ粒子は、サイズが5nm〜150の範囲であり、特には、制御された平均金属ナノ粒子サイズが30〜50nmである。
【0045】
それらのナノ粒子の本質的特徴は、イオン性を持つわずかな原子で作られたクラスターの残留する存在を除外しないものの、それらのナノ粒子が主として還元形態の金属であるということと、多糖マトリックス中での分散/安定化においてはキトサンそれ自体のアミノ基に近接した単糖又はオリゴ糖側鎖が関与するということである。
【0046】
それらに縛られるものではないものの、カチオン性多糖マトリックスと金属との好ましい比は、コロイド溶液の形態での金属系ナノ複合材料にゆだねられるが、前記金属系ナノ複合材料はまた脱水フィルム又は粉末の形態とすることもでき、更には該材料それ自体の調製からの残留する対イオンを除去するために透析さえされてもよい。コロイド水溶液の形態での金属系ナノ複合材料においては、出発金属塩の濃度(モル濃度として表される)に対する多糖濃度(%w/vとして表される)の比が、0.0025〜20であり、好ましくは0.2である。
【0047】
従って、カチオン性多糖のグラム当たりに組み込まれることのできる金属の質量(mgとして表される)は、3,000mg/g〜0.3mg/gとすることができ、優先的には多糖のグラム当たりに組み込まれる金属が50mgである。
【0048】
本発明に従う三次元ナノ複合材料のかかる成分は、適切な条件下、外因性還元剤の存在又は不在下における塩基性多糖の水溶液を用いて調製できる。
【0049】
本発明に従う三次元ナノ複合材料のこの成分を調製する方法は、
a)枝分かれしたカチオン性多糖の水溶液を2%(w/v)以下の濃度で調製する工程と;
b)金属塩の水溶液を0.1mM〜20mMの濃度で調製する工程と;
c)それら多糖の溶液にそれら金属塩の溶液を加え、金属ナノ粒子が均一に分散しているコロイド溶液を得るまで混合する工程と;
を少なくとも含む。
【0050】
得られるコロイド溶液に還元剤を加えることは任意である。
【0051】
枝分かれしたカチオン性多糖の存在下での金属ナノ粒子の形成は、例外的によく分散して安定化した金属ナノ粒子系を作製し、一般にナノメートルスケールに関連する利益を失うことに至る、予備形成金属ナノ粒子の大きな凝集クラスターを溶液中で生じる周知の傾向を回避する。
【0052】
その一般的な特徴において、金属系ナノ複合材料の調製方法は、次のとおりである:単糖又はオリゴ糖によるキトサン分岐誘導体の水溶液を異なる濃度(2%(w/v)以下、好ましくは0.05%(w/v)〜1%(w/v)、更に好ましくは0.2%)で調製する。次いで、金属の最終濃度を0.1mM〜20mM、更に好ましくは1mM〜14mM、一層好ましくは1mMで得るために、その多糖溶液を、銀、金、白金、パラジウム、銅、亜鉛及びニッケルから選択され、好ましくは塩化物、過塩素酸塩及び硝酸塩から選択される金属塩(例えば、AgNO、HAuCl、CuSO、ZnCl、NiCl)の溶液と混合する。アスコルビン酸、クエン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム及びシアノ水素化ホウ素ナトリウムから選択されるのが好ましい適切な既知の還元剤を、金属状態のナノ粒子を得るために、該溶液へ任意に加えることができる。上記還元剤は、0.05mM〜10mMの濃度で加えられ、該濃度は0.5mMであるのが好ましい。
【0053】
しかしながら、別のやり方として、他のポリマー系については、単糖又はオリゴ糖側鎖が本質的に金属イオンの還元剤として作用し、ポリマーマトリックス中に分散しているナノ粒子をインサイチューで形成することが可能であるため、還元剤がない場合でも、単糖又はオリゴ糖によるキトサン分岐誘導体と金属ナノ粒子とから形成される金属系ナノ複合材料を調製できることを見出した。この場合、金属ナノ粒子は、キトサン誘導体溶液を、選択された金属の塩溶液と適切な濃度で単に混合するだけで得られる。また、この場合、多糖及び金属塩の濃度は、先に報告したとおりである。
【0054】
しかしながら、両方の場合では、キトサンの単糖又はオリゴ糖分岐誘導体上に存する窒素原子及び側部置換基の化学特性及び物理化学特性のため、金属イオンは、配位相互作用によって高分子と相互作用しており、一方、単糖又はオリゴ糖、例えばラクトースの側鎖の存在は、ナノ粒子が凝集しようとする自然な傾向を妨げるために効果的な立体障害を提供する。外因性還元剤又はキトサン分岐誘導体の単糖若しくはオリゴ糖鎖によって生じるその後のイオン還元は、多糖鎖によって安定化したナノ粒子の形成をもたらす。
【0055】
両方の場合において、組み込まれ得る銀の質量と多糖の質量の割合は、先に報告したとおりであり、グラム当たりのmgとして報告される。
【0056】
予想外にも、上述の中性又は酸性多糖、特にはアルギネートからなるポリマー成分と、一般式(I)のアルジトール又はアルドン酸ポリオールによるキトサンの分岐誘導体であって、金属ナノ粒子を備え、既に本質的にはナノ複合材料(例えば金属系ナノ複合材料)である塩基性多糖のポリマー成分とを水溶液中で混合すると、得られるナノ複合材料は、三次元マトリックスであるか又は安定なヒドロゲルであり、金属ナノ粒子の存在にもかかわらず、それらは本質的にコアセルベートでなく、該ナノ粒子はキトサンの分岐誘導体中に均一に分散したままであることが分かった。
【0057】
実際、本発明に従うヒドロゲル又は三次元マトリックスの形成は、二つの成分(例えば、中性又は酸性多糖及び金属系ナノ複合材料)を水溶液中で混合することによって得られ、アニオン性又は中性多糖をゲル化することが可能な適切な薬剤によるその後の処理によって適当な特徴を有する。
【0058】
特に、少なくとも一種の中性又はアニオン性のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピック多糖と、均一に分散し且つ安定化した金属ナノ粒子を取り込んでいる少なくとも一種の枝分かれしたカチオン性多糖からなる金属系ナノ複合材料とからなるポリマーマトリックスを含む三次元ナノ複合材料は、溶液のイオン強度が少なくとも50mMで且つ350mM以下であり、pHが少なくとも7である二つの成分の水溶液から、それらの溶液を、中性又はアニオン性のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピック多糖をゲル化することが可能な化学的又は物理的ゲル化手段により処理することにより得られる。
【0059】
それら二つの成分から三次元マトリックス又はヒドロゲルを得るための好適な条件(実質的には濃度、pH、イオン強度)は、典型的に、pHが生理的範囲で、特には7〜8の間で、更に好ましくはpHが7.4であり、モル浸透圧濃度が250〜300mMであり、イオン強度が50mM〜350mMで、好ましくは150mMであり、好ましくはNaClを0.05M〜0.35M、更に好ましくは0.15Mの濃度で加えることにより得られる水溶液である。
【0060】
上記ゲル化手段は、リオトロピックアニオン性多糖の種類によって適切な1価、2価又は3価のイオンから選択でき、サーモトロピック多糖については、50℃以下又は10℃以上の温度間で選択できる。知られているように、サーモ−リオトロピック多糖について、ゲル化手段は、イオン等の化学的手段と、温度等の物理的手段との両方であり得る。2種類のゲル化手段間での選択は、当該技術分野においてよく知られているように、ゲル化されるべき酸性のサーモ−リオトロピック多糖によって実質的に決まる。
【0061】
アルギネート及びペクテート等の多糖について、それらのイオンは、マグネシウムを除いたアルカリ土類イオン及び遷移金属であり、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、鉛、銅、マンガン及びそれらの混合物よりなる群から選択されるのが好ましく、又はそれらは、希土類イオンであり、ガドリニウム、テルビウム、ユーロピウム及びそれらの混合物よりなる群から選択されるのが好ましい。
【0062】
ゲル化に適合したそれらイオンの水溶液の濃度は、10mMより高く、好ましくは10mM〜100mMであり、更に好ましくは50mMである。そのゲル化溶液は、CaClの濃度が50mMで、イオン強度が0.15Mであるのが好ましい。
【0063】
カラギーナンの場合、好ましくはカリウム、ルビジウム及びセシウムよりなる群から選択され、50mM以上、好ましくは50mM〜200mM、更に好ましくは0.1Mの濃度のアルカリイオンを用いることができる。
【0064】
例えばアガロースのようなサーモトロピックヒドロゲルに導く多糖溶液の場合、ヒドロゲルの調製は、ゲル形成温度より低い温度に冷却することによって行われる。該多糖溶液は、サーモトロピック多糖によるヒドロゲル形成が生じる温度より高い温度で調製される。この温度では、サーモトロピック多糖はヒドロゲルを形成しない。多糖溶液を調製する温度は、好ましくは50℃〜30℃の範囲であり、更に好ましくは37℃である。ヒドロゲルの形成は、ゲル形成温度より低い温度に冷却されたゲル化槽中に多糖溶液を滴下することで起こる。この温度は、好ましくは10℃〜40℃の範囲であり、更に好ましくは20℃である。
【0065】
本発明の目的のため、中性又はアニオン性多糖と金属ナノ粒子を含む枝分かれした塩基性多糖との少なくとも2成分の混合物は、中性又はアニオン性多糖の総ポリマー濃度が4%(w/v)以下である。それら総ポリマー濃度は、好ましくは1.5%〜3%(w/v)の範囲であり、更に好ましくは2%(w/v)である。
【0066】
本発明の目的のため、酸性多糖と金属ナノ粒子が取り込まれているカチオン性多糖との重量比は、8:1〜1:1(中性又はアニオン性多糖:カチオン性多糖)であり、好ましくは8:1〜5:1であり、更に好ましくは7.5:1である。
【0067】
従って、本発明の三次元ナノ複合材料は、少なくとも以下の工程を含む調製方法に従って得られる:
i.少なくとも一種の中性又はアニオン性のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピック多糖と、(上述のようにして調製された)金属ナノ粒子を取り込んでいる少なくとも一種のキトサンの単糖又はオリゴ糖誘導体からなる金属系ナノ複合材料との混合物の水溶液を調製する工程であって、前記水溶液はイオン強度が少なくとも50mMで且つ350mM以下であり、pHが少なくとも7である工程と;
ii.先の工程で調製した混合物の水溶液を、適切な化学的又は物理的ゲル化手段を用いて処理することにより、中性又はアニオン性のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピック多糖をゲル化する工程である。
【0068】
特に、この後者の工程は、リオトロピックアニオン性多糖の架橋イオンを含有する溶液中に又はサーモトロピック多糖の適切な温度の溶液中に針を通して滴下することで、或いは「インサイチューでの」ゲル化により実現できる。サーモ−リオトロピック多糖については、ゲル化プロセスのためのイオン溶液及び適切な温度の溶液の両方を用いることができる。
【0069】
上述の方法の場合、ナノ複合材料が得られ、ここで、多糖から作ったポリマーマトリックスは、三次元であって、ヒドロゲルの形態であるか又はその後の脱水プロセスを受けた場合には非水和の形態である。更に、それらのマトリックスは、シリンダー、ミクロスフェア、ディスク、乾燥フィルム及び粉末として様々な形態をとることができ、又は繊維を作るために押し出すことができる。
【0070】
アルギネートの場合、シリンダーは、不活性形態の架橋イオン、例えばCaCO又はCa−EDTA錯体を多糖溶液に加えることで調製できる。次いで、例えばGDL(D−グルコノ−δ−ラクトン)のような、ゆっくりと加水分解する物質を加える。例えば、この懸濁液を、シリンダー形状の又は円盤状の容器内に移し、そこで24時間保つ。次いで、多糖溶液のゲルシリンダーを容器から抜き出す。インサイチューでのシリンダー形成は、カルシウムイオンの放出による。
【0071】
本発明の三次元ナノ複合材料の抗菌活性を試験するため、三次元ナノ複合材料ゲルのミクロスフェアの存在下における、半固体支持体上での細菌増殖テストと細菌コロニーの計数テストとを行い;金属ナノ粒子の存在のため、かかるゲル表面や三次元ナノ複合材料ゲルのミクロスフェアと接触して置かれた懸濁液中では細菌が増殖しないことを示し、それにより、強い抗菌活性が明確に示される。
【0072】
異なる真核細胞株に関する細胞毒性テストは、それらの三次元ナノ複合材料ゲルが効果的な殺菌効果を維持していても、細胞毒性がないことを示す。
【0073】
以下、非制限的な例証目的のため、本発明に従うヒドロゲル又は非水和3Dマトリックスの調製と、その抗菌性タイプの生物活性とを説明する。
【実施例】
【0074】
一つのアニオン性多糖と、金属ナノ粒子を含む一つのキトサンオリゴ糖誘導体からなる金属系ナノ複合材料との溶液からの三次元ナノ複合材料ヒドロゲルの調製
例1:ラクトースによるキトサン誘導体(以下、「キトラック(Chitlac)」)の合成
メタノール溶液(55mL)及びpH4.5の1%酢酸緩衝液(55ml)の110mL中に、キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を溶解する。ラクトース(2.2g)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有する、メタノール溶液(30mL)及びpH4.5の1%酢酸緩衝液(30mL)の60mLを加える。その混合物を24時間攪拌して置いておき、透析管(カットオフ12,000Da)に移し、4℃での伝導率が4μSに到達するまで0.1MのNaCl(2回の交換)及び脱イオン水で透析する。最後に、その溶液をMillipore0.45μmフィルター上にろ過し、凍結乾燥する。
【0075】
例2:セロビオースによるキトサン誘導体(以下、「キトセル(Chitcell)」)の合成
メタノール溶液(55mL)及びpH4.5の1%酢酸緩衝液(55mL)の110mL中に、キトサン(1.5g、アセチル化度11%)を溶解する。セロビオース(2.2g)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(900mg)を含有する、メタノール溶液(30mL)及びpH4.5の1%酢酸緩衝液(30mL)の60mLを加える。その混合物を24時間攪拌して置いておき、透析管(カットオフ12,000Da)に移し、4℃での伝導率が4μSに到達するまで0.1MのNaCl(2回の交換)及び脱イオン水で透析する。最後に、その溶液をMillipore0.45μmフィルター上にろ過し、凍結乾燥する。
【0076】
例3:キトラック中に銀ナノ粒子を含む金属系ナノ複合材料の調製
以下の手順に従うキトラック溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMの最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0077】
例4:キトセル中に銀ナノ粒子を含む金属系ナノ複合材料の調製
以下の手順に従うキトセル溶液中でのアスコルビン酸による金属イオンの還元時にナノ粒子が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトセル水溶液を調製する。次いで、1mMのAgNO最終濃度を得るために、そのキトセル溶液を硝酸銀溶液と混合する。次いで、0.5mMに等しい最終濃度を得るために、アスコルビン酸溶液を加える。
【0078】
例5:キトラック中に金ナノ粒子を含む金属系ナノ複合材料の調製
以下の手順に従う多糖キトラックによる金属イオンの還元時にナノ粒子が得られる:濃度0.4%(w/v)のキトラック水溶液を調製する。次いで、1mMのHAuCl最終濃度を得るために、そのキトラック溶液を四塩化金酸と混合する。
【0079】
例6:アルギネート−キトラックに基づくシリンダー形状ヒドロゲルの、「インサイチューでの」ゲル化を用いた調製
キトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、要望通りの大きさのプラスチックシリンダー(例えば16mM(φ)×18mM(h))に移し、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。
【0080】
例7:アルギネート−キトラック及び金属ナノ粒子に基づく三次元ナノ複合材料ヒドロゲルの、「インサイチューでの」ゲル化を用いた調製
例3に従い調製した金属ナノ粒子を含むキトラック溶液を、CaCO(最終濃度は40mM以下、好ましくは15mM〜30mMである)の存在下、アルギネート溶液(最終アルギネート濃度は4%(w/v)以下、好ましくは1%(w/v)〜2%(w/v)の範囲である)に加え、次いで、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%最終ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。
【0081】
例8:アルギネート−キトラック及び銀ナノ粒子に基づくシリンダー形状三次元ナノ複合材料ヒドロゲルの、「インサイチューでの」ゲル化を用いた調製
例3に従い調製した銀ナノ粒子を含むキトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、要望通りの大きさのプラスチックシリンダー(例えば16mM(φ)×18mM(h))に移し、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。
【0082】
粒子凝集又はポリマー相分離はゲル化中及びゲル化後に発生しないことを明確に示すことには価値がある。図1において分かるように、得られた三次元ナノ複合材料は、黄色−オレンジ色のヒドロゲルである(その色は、銀の濃度によって変わる)。
【0083】
例9:アルギネート−キトラック及び金ナノ粒子に基づくシリンダー形状三次元ヒドロゲルの、「インサイチューでの」ゲル化を用いた調製
例5に従い調製した金ナノ粒子を含むキトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのHAuCl、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、要望通りの大きさのプラスチックシリンダー(例えば16mM(φ)×18mM(h))に移し、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。
【0084】
得られた三次元ナノ複合材料ヒドロゲルサンプルを図2に示す。
【0085】
例10:銀ナノ粒子の場合の(マンニトールに)アルギネート−キトラック溶液からのシリンジを用いた三次元ナノ複合材料スフェアの調製
以下の最終濃度の多糖溶液を調製した。1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。23G針付きシリンジを用い、その溶液を、50mMのCaCl及び0.15Mのマンニトール並びに10mMのヘペス緩衝液(pH7.4)を含有する溶液中に、磁気ロッドによって攪拌しながら滴下した。その球体は、ゲル化槽中で10分間攪拌しながら保たれ、その後、除去し、脱イオン水で洗浄した。
【0086】
例11:銀ナノ粒子の場合の(NaClに)アルギネート−キトラック溶液からのシリンジを用いた三次元ナノ複合材料スフェアの調製
以下の最終濃度の多糖溶液を調製した。1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。23G針付きシリンジを用い、その溶液を、50mMのCaCl及び0.15Mのマンニトール並びに10mMのヘペス緩衝液(pH7.4)を含有する溶液中に、磁気ロッドによって攪拌しながら滴下した。その球体は、ゲル化槽中で10分間攪拌しながら保たれ、その後、除去し、脱イオン水で洗浄した。
【0087】
例12:金ナノ粒子の場合のアルギネート−キトラック溶液からのシリンジを用いた三次元ナノ複合材料スフェアの調製
以下の最終濃度の多糖溶液を調製した。1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのHAuCl、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。23G針付きシリンジを用い、その溶液を、50mMのCaCl及び0.15Mのマンニトールを含有する溶液(ゲル化槽)中に、磁気ロッドによって攪拌しながら滴下した。その球体は、ゲル化槽中で10分間攪拌しながら保たれ、その後、除去し、脱イオン水で洗浄した。
【0088】
例13:銀ナノ粒子の場合のアルギネート−キトラック溶液からの静電ビーズ発生器を用いた三次元ナノ複合材料ミクロスフェアの調製
以下の最終濃度の多糖溶液を調製した。1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。その溶液を、50mMのCaCl及び0.15nmのマンニトールを含有するゲル化槽中に、磁気ロッドによって攪拌しながら滴下した。静電発生器を用いてミクロスフェアのサイズを制御しており、該静電発生器は、そのサイズを縮小するために滴の表面張力に作用することが可能である。使用される条件は、典型的に、電圧5kV、内部針の直径0.7mM、ゲル化槽と針の間の距離4cm、2成分ポリマー溶液の流量10mL/minであった。そのミクロスフェアをゲル化溶液中に攪拌しながら10分間置いておき、その後、除去し、脱イオン水で洗浄した。
【0089】
得られた三次元ナノ複合材料ミクロスフェアサンプルを図3に示す。
【0090】
例14:金ナノ粒子の場合のアルギネート−キトラック溶液からの静電ビーズ発生器を用いた三次元ナノ複合材料ミクロスフェアの調製
以下の最終濃度の多糖溶液を調製した:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのHAuCl、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。その溶液を、50mMのCaCl及び0.15nmのマンニトールを含有するゲル化槽中に、磁気ロッドによって攪拌しながら滴下した。
【0091】
静電ビーズ発生器を用いてミクロスフェアのサイズを制御しており、該静電ビーズ発生器は、そのサイズを縮小するために滴の表面張力に作用することが可能である。使用される条件は、典型的に、電圧5kV、内部針の直径0.7mM、ゲル化槽と針の間の距離4cm、2成分ポリマー溶液の流量10mL/minである。そのミクロスフェアをゲル化溶液中に攪拌しながら10分間置いておき、その後、除去し、脱イオン水で洗浄した。
【0092】
例15:「インサイチューでの」ゲル化を用いたアルギネート−キトラック及び銀ナノ粒子に基づく表面/体積比の高い三次元ナノ複合材料ヒドロゲルの調製
例3に従い調製した銀ナノ粒子を含むキトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%最終ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、平滑面(スライド、ペトリ皿等)上に注ぎ、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。
【0093】
例16:「インサイチューでの」ゲル化を用いたアルギネート−キトラック及び銀ナノ粒子に基づく三次元ナノ複合材料脱水フィルムの調製
例3に従い調製した銀ナノ粒子を含むキトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのAgNO、0.25mMのC、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%最終ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、平滑面(スライド、ペトリ皿等)上に注ぎ、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。次いで、三次元ナノ複合材料の固体脱水フィルムを得るため、その三次元ナノ複合材料ゲルを空気乾燥させる。
【0094】
例17:「インサイチューでの」ゲル化を用いたアルギネート−キトラック及び金ナノ粒子に基づく表面/体積比の高い三次元ナノ複合材料ヒドロゲルの調製
例5に従い調製した金ナノ粒子を含むキトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのHAuCl、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%最終ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、平滑面(スライド、ペトリ皿等)上に注ぎ、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。
【0095】
例18:「インサイチューでの」ゲル化を用いたアルギネート−キトラック及び金ナノ粒子に基づく三次元ナノ複合材料フィルムの調製
例5に従い調製した金ナノ粒子を含むキトラック溶液に、NaCl及びヘペス緩衝液の存在下、アルギネート溶液を、以下の最終濃度を得るために加える:1.5%(w/v)アルギネート、0.2%(w/v)キトラック、0.5mMのHAuCl、0.15MのNaCl、0.01Mのヘペス緩衝液、pH7.4である。次いで、CaCO溶液(濃度30mM)を加え、その後、緩徐なゲル化が可能なように、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)([GDL]/[Ca2+]=2)を加える。抗菌性試験のため、20%最終ミューラー−ヒントン培地を加える(4.2g/L)。その最終溶液を、平滑面(スライド、ペトリ皿等)上に注ぎ、暗闇で24時間置いておき、ゲル化させる。次いで、三次元ナノ複合材料の固体フィルムを得るため、その三次元ナノ複合材料ゲルを空気乾燥させる。
【0096】
例19:ミクロスフェアの調製
先に報告した特定の例13及び14のミクロスフェアは、既知の方法に従って、特には:a)シリンジを用い、一のアニオン性多糖と金属粒子を含むキトサンの単糖又はオリゴ糖誘導体である一の金属系ナノ複合材料との溶液を適切なゲル化槽中に手動で滴下し、b)トロンヘイム(ノルウェー)NTNU大学バイオテクノロジー研究所のグドムンド(Gudmund Skjak[ここで、aはリング符号付きのaである]−Brael[ここで、aeはaとeの合字である])教授により開発され、Strand et al.,2002,J.of Microencapsulation 19,615−630に記載された一の静電ビーズ発生器を用いることにより調製された。かかる装置は、Plexiglas製安全スタンドに含まれるオートクレーブ処理可能な針支持体に接続された、適切なスイッチにより調節可能な電圧(10kV以下)が加えられる静電ビーズ発生器で構成される。
【0097】
ポンプで調節され、内径が1mmの格子で作ったパイプに接続されたシリンジで構成されるスタンド外側のシステムを用いて、出発溶液を、ゲル化溶液を含有する結晶化装置(スタンド内)中に滴下し、ここで、該結晶化装置には電極が挿入されている。その機器は、針先端とゲル化溶液の自由表面との間に一定の電位差を生じており、該電位差は調節でき、0〜10kVに及ぶ。その電位差は、針先端からポリマー滴(負に帯電)の突然の脱離をもたらし、それ故に小さなサイズ(<200μm)であってもカプセルを有することを可能にする。カプセルのサイズは、内部針の直径、針のゲル溶液表面からの距離、ポリマー流量等の他の要因を変えることによっても調節できる。
【0098】
例20:シリンダーの調製
先に報告した特定の例6、8及び9のゲルシリンダー及びディスクは、多糖及び金属系ナノ複合材料を含有する溶液をシリンダー形状の容器中に注ぐことにより調製された。シリンダー形状のヒドロゲルのサイズは、後のもののサイズによって決まる。異なるサイズ(高さ及び内径)が完全に許容可能であるものの、典型的に、シリンダー形状容器の寸法は、高さが18mmであり、内径が16mmであり、一方、円盤状の容器の寸法は、高さが8mmであり、内径が16mmである。
【0099】
例21:生物学的特性評価
A.抗菌活性
三次元ナノ複合材料ゲルの抗菌活性をテストするため、様々な濃度の異なる菌種をゲル表面に塗りつけた。グラム陰性菌(Escherichia coli,Pseudomonas aeruginosa)及びグラム陽性菌(Staphylococcus aureus,Staphylococcus epidermidis)の両方についてテストした。コントロールは、寒天ゲル及びナノ粒子がない場合のアルギネート−キトラックゲル(ACゲル)によって表される。「一晩の」インキュベーション後、細菌コロニーは、コントロールでははっきりと分かるが、ナノ粒子を含有するゲル(AC−nAgゲル)では全くなく(図4)、それ故に、それらの材料によって果たされる殺菌作用の有効性が証明される。
【0100】
更に、銀ナノ粒子を含有するナノ複合材料ゲルミクロスフェア(AC−nAg)を作製し、細菌溶液(Escherichia coli)と接触させ;そのコントロールは、アルギネート−キトラックゲルミクロスフェア(銀ナノ粒子なし)によって表される。その結果は、細菌コロニーの濃度がコントロールで増加するものの、銀ナノ粒子を含むミクロスフェアの場合では、3を超える対数単位減少させることを実証する。
【0101】
例13に従って得られるナノ複合材料ミクロスフェア並びに例6及び9に従って得られるナノ複合材料ヒドロゲルでさえも、図5及び6にそれぞれ示されるように、効果的な抗菌作用を発揮できることを証明した。
【0102】
B.細胞毒性
骨芽細胞(MG63)、肺細胞(HEPG2)及び線維芽細胞(3T3)等の真核細胞株に関するゲルの細胞毒性を評価するためのテストを行った。そのテストでは、細胞による乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を測定及び評価しており、それは、細胞傷害及び細胞死に関係している。LDHテストは、三次元ナノ複合材料ゲルが、図7において分かるように、例えば線維芽細胞の場合に、テストした細胞に対して細胞毒性効果を生じないことを実証する。実際、24時間及び72時間後、AC−nAgで処理した細胞とコントロール(即ち、アルギネート−キトラックゲルで処理した細胞及び未処理細胞)間での乳酸脱水素酵素(LDH)の放出において著しい違いは見られない。
【0103】
金ナノ粒子を含有するアルギネート−キトラック系ゲル(AC−nAuゲル)である同様な三次元ナノ複合材料の場合でも同様の結果が報告され;図8において分かるように、この種類のゲルは、同様に真核細胞に対して細胞毒性がない。
【0104】
それらの結果の組み合わせにより、キトラック中に形成され安定化しているナノ粒子を含有するアルギネート−キトラック系ヒドロゲルのような本発明に従う三次元ナノ複合材料は、均質な構造が備わっており、ここで、ナノ粒子は凝集せず、強力な殺菌活性を有するものの、真核細胞に対しては毒性がないと結論を出すことが可能である。
【0105】
それらの新規な三次元ナノ複合材料系は、以下の利点を提供する:
・既に実証されているかかるキトサン誘導体のオリゴ糖側鎖による細胞刺激の生物学的特性(Marsich et al.,“Alginate/lactose-modified chitosan hydrogels: A bioactive biomaterial for chondrocyte encapsulation”, Journal of biomedical materials research-Part A, 2008 Feb; 84(2):364-76)と、殺菌活性を持つ金属ナノ粒子を形成させ安定化させるキトサン分岐誘導体の能力を組み合わせる、統合した系の開発である。この新規の「糖−ナノ技術」アプローチは、「糖鎖生物学的」成分によって与えられる生理活性とナノ粒子の特異的性質とを利用する材料を設計するための新規の機器を提供することになる;
・i)中性又はアニオン性多糖とii)金属ナノ粒子を取り込んでいるキトサンのカチオン性分岐単糖又はオリゴ糖誘導体との混合組成物を用いた三次元ゲルの調製の可能性であって、金属ナノ粒子の存在にもかかわらず、それらは(クラスiのポリアニオンに対して)反対の電荷を有するが、二つのクラスi)及びii)のそれぞれに独立して属する2種類のポリマー間の適当な条件下での完全混和性を利用することによる調製の可能性である。一方、知られているように、アニオン性多糖、特にアルギネートでのコアセルベーション現象は、オリゴ糖分岐のないキトサンのような他のカチオン性ポリマーを用いることによって起こる;
・得られたナノ複合材料ゲルは、それらが強力な殺菌活性を有していても、真核細胞に対して毒性がないことが分かる;
・使用したゲル化法により、異なる適用ニーズに適し得る形状及びサイズの材料を得られるようにする(例えば、湿潤及び乾燥フィルム、スカフォールド、ミクロスフェア、繊維等)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖と、金属ナノ粒子を均一に取り込んでいる少なくとも一種のカチオン性分岐多糖からなる金属系ナノ複合材料とからなるポリマーマトリックスを備えてなり、前記中性又はアニオン性多糖が適切な化学的又は物理的ゲル化手段によりゲル化されていることを特徴とする三次元ナノ複合材料。
【請求項2】
リオトロピックアニオン性多糖は、アルギネート、ペクテート、及びペクチネートよりなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項3】
サーモトロピック中性多糖は、アガロース、スクレログルカン、シゾフィラン、及びカードランよりなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項4】
サーモ−リオトロピックアニオン性多糖は、硫酸アガロース、ι−及びκ−カラギーナン、硫酸セルロース、ジェランガム、ラムサンガム、ウィーランガム、並びにキサンタンガムよりなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項5】
前記中性又はアニオン性多糖は、平均分子量(MW)が2,000kDa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項6】
前記中性又はアニオン性多糖は、平均分子量(MW)が100kDa〜1,000kDaの範囲であることを特徴とする請求項5に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項7】
前記カチオン性分岐多糖は、キトサンの分岐誘導体(ここで、D−グルコサミン単位は、炭素原子C2上の官能基−NH−を用いてキトサンの線状鎖結合を形成し、アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基は、互いに同一でも異なっていてもよく、一般式(I)
【化1】

[式中:
Rは、−CH−又は−CO−であり;
は、水素、単糖又はオリゴ糖であり;
は、−OH又は−NHCOCHである]によって表される)であることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項8】
前記アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基が、1〜3個のグリコシド単位を含む単糖又はオリゴ糖の残基であることを特徴とする請求項7に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項9】
が単糖である場合、前記単糖が、ガラクトース、グルコース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、及びN−アセチルガラクトサミンよりなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項10】
前記アルジトール又はアルドン酸のポリオール残基が、ラクトース、セロビオース、セロトリオース、マルトース、マルトトリオース、キトビオース、キトトリオース、マンノビオース及びそれらのアルドン酸の残基よりなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項11】
前記キトサンの分岐誘導体は、D−グルコサミン単位のアミン基の化学置換度が40%より高いことを特徴とする請求項7に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項12】
前記置換度が、50%〜80%の範囲であることを特徴とする請求項11に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項13】
前記キトサンは、平均分子量が1,500kDa以下であることを特徴とする請求項7に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項14】
前記キトサンは、平均分子量(MW)が400kDa〜700kDaの範囲であることを特徴とする請求項13に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項15】
カチオン性分岐多糖との金属系ナノ複合材料に含まれる金属ナノ粒子が、銀、金、白金、パラジウム、銅、亜鉛、ニッケル及びそれらの混合物よりなる群から選択される金属であることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項16】
前記ナノ粒子は、平均サイズが5nm〜150nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項17】
カチオン性多糖のg当たりの金属の質量(mg)は、3,000mg/g〜0.3mg/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項18】
カチオン性多糖のg当たりの金属の質量(mg)は、50mg/gであることを特徴とする請求項17に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項19】
中性又はアニオン性多糖の金属ナノ粒子を含むカチオン性分岐多糖に対する重量比は、8:1〜1:1(中性又はアニオン性多糖:カチオン性多糖)の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項20】
中性又はアニオン性多糖の金属ナノ粒子を含むカチオン性分岐多糖に対する重量比は、8:1〜5:1の範囲であることを特徴とする請求項19に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項21】
抗菌薬として用いるための、請求項1〜20のいずれかに記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項22】
請求項1〜20のいずれかに記載の三次元ナノ複合材料の製造方法であって、前記三次元ナノ複合材料は、少なくとも一種のリオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖と、金属ナノ粒子を均一に取り込んでいる少なくとも一種のカチオン性分岐多糖からなる金属系ナノ複合材料との混合物の水溶液を調製すること(ここで、前記水溶液はイオン強度が少なくとも50mMで且つ350mM以下であり、pHが少なくとも7である)、及び前記水溶液を、リオトロピック、サーモトロピック又はサーモ−リオトロピックの中性又はアニオン性多糖をゲル化することが可能な化学的又は物理的手段によって処理することにより得られることを特徴とする製造方法。
【請求項23】
前記水溶液は、モル浸透圧濃度が250〜300mMの範囲であることを特徴とする請求項22に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項24】
前記イオン強度は、濃度が0.05M〜0.35Mの範囲であるNaClの添加によって得られることを特徴とする請求項22に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項25】
リオトロピック又はサーモ−リオトロピック多糖のゲル化手段が、一価、二価又は三価のイオンから選択されるイオンの塩の水溶液であることを特徴とする請求項22に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項26】
前記水溶液の塩濃度が10mMより高いことを特徴とする請求項25に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項27】
前記水溶液の塩濃度が10mM〜100mMの範囲であることを特徴とする請求項26に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項28】
サーモトロピック又はサーモ−リオトロピック多糖のゲル化手段は、10℃〜40℃の範囲の温度であることを特徴とする請求項22に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項29】
前記温度が20℃であることを特徴とする請求項28に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項30】
中性又はアニオン性多糖のポリマー濃度が4%(w/v)以下であることを特徴とする請求項22に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項31】
前記ポリマー濃度が、1.5〜3%(w/v)の範囲であることを特徴とする請求項30に記載の三次元ナノ複合材料の製造方法。
【請求項32】
請求項22〜31のいずれかに記載の製造方法によって得られる三次元ナノ複合材料。
【請求項33】
前記ポリマーマトリックスが、ヒドロゲル又は非水和マトリックスであることを特徴とする請求項32に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項34】
前記ポリマーマトリックスが、シリンダー形状、ミクロスフェア、スカフォールド、ゲル−スラブ、フィルム及び繊維から選択される異なる形態であることを特徴とする請求項32に記載の三次元ナノ複合材料。
【請求項35】
抗菌薬としての、請求項1〜20及び32〜34のいずれかに記載の三次元ナノ複合材料の使用。
【請求項36】
創傷治癒における請求項35に記載の三次元ナノ複合材料の使用。
【請求項37】
外科用途における請求項35に記載の三次元ナノ複合材料の使用。
【請求項38】
農業及び食品用途における請求項35に記載の三次元ナノ複合材料の使用。

【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−528746(P2011−528746A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519164(P2011−519164)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059432
【国際公開番号】WO2010/010123
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508345830)ユニヴァーシタ デグリ ステュディ デイ トリエステ (4)
【Fターム(参考)】