説明

多糖体の製造方法

【課題】 培養工程が一段階ですみ、コッコミクサ藻体の濃度管理も一度ですむので、非常に簡単な製造方法となり、純粋なコッコミクサ藻体の培養が可能となり、高品質な規格が要求される医薬品の素材としても利用でき、しかも光をまったく照射する必要がないため、光の照射度の管理はまったく不要で、光熱費も低減でき、大量製造にも経済的に非常に有利な多糖体の製造方法を提供する。
【解決手段】 コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下で液体培地に接種して培養するものとしている。また、コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下で液体培地に、乾燥藻体として0.001重量%以上接種して、乾燥藻体として約0.03重量%まで培養するものとしている。さらに、前記暗嫌気条件下が、密閉式タンク培養槽であるものとしている。
【選択図面】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コッコミクサ藻体を原料とする多糖体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コッコミクサ藻体を原料とする多糖体の製造方法として、透明体からなる縦型の偏平形状の水槽中の無機液体培地に、コッコミクサ藻体を接種して、この水槽に白色・昼色蛍光灯または白熱灯の光を照射することによりコッコミクサ藻体中に多糖体を生産させるものが存在した。すなわち、この多糖体の製造方法は、コッコミクサ藻体を、縦型偏平水槽の無機液体培地に接種して、光照射しつつ、かつ、炭酸ガス含有空気を通気しつつ培養するものであり、コッコミクサ藻体を、PVC濃度0.9〜1.7ml/lの割合で接種して、水槽の前・後面の何れかの一面または水槽の前・後面と左・右側面との何れかの二面から、照度3000〜9000lxの光を照射して、PVC濃度1.8〜4.9ml/lまで培養する第一工程と、このPVC濃度1.8〜4.9ml/lの培養液に、水槽の前・後面の二面または水槽の前・後面と左・右側面との四面から、照度5500〜10500lxの光を照射して、PVC濃度5.0〜7.0ml/lまで培養する第二工程と、このPVC濃度5.0〜7.0ml/lの培養液に、水槽の前・後面の二面または水槽の前・後面と左・右側面との四面から、照度6000〜17500lxの光を照射して、PVC濃度10.0〜11.0ml/lまで培養する第三工程とからなるものとしている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−290093号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の多糖体の製造方法は、コッコミクサ藻体の培養工程として三工程という複数の工程を有し、しかも各工程でのコッコミクサ藻体の濃度管理や、光の照射度の管理が必要であるため、各工程が煩雑になるという問題点を有していた。
【0004】
また、上記従来の多糖体の製造方法は、前記一〜三工程の何れも長時間にわたり光を照射する必要があるため、光熱費が多大にかかり、多糖体の大量製造には経済的に不利であるという問題点を有していた。
【0005】
さらに、上記従来の多糖体の製造方法は開放式であるために、各製造工程中に、外部から他の藻類や、藻類以外のバクテリア等の菌が混入してしまい、純粋なコッコミクサ藻体を培養することができないという問題点を有していた。
【0006】
そこで、この発明は、上記従来の問題点を解消することを課題としており、培養工程が一段階ですみ、コッコミクサ藻体の濃度管理も一度ですみ、非常に簡単な製造方法となる多糖体の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。また、この発明は、密閉式の製造方法とし、純粋なコッコミクサ藻体の培養を可能とし、高品質な規格が要求される医薬品の素材としても利用できる多糖体の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。さらに、この発明は、光をまったく照射する必要がないため、光の照射度の管理はまったく不要で、光熱費も低減でき、大量製造にも経済的に非常に有利な多糖体の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、この発明の多糖体の製造方法は、コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下で液体培地に接種して培養するものとしている。
【0008】
また、この発明の多糖体の製造方法は、コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下で液体培地に、乾燥藻体として0.001重量%以上接種して、乾燥藻体として約0.03重量%まで培養するものとしている。
【0009】
さらに、この発明の多糖体の製造方法は、前記暗嫌気条件下が、密閉式タンク培養槽であるものとしている。
【発明の効果】
【0010】
この発明の多糖体の製造方法は、以上に述べたように構成されているので、培養工程が一段階ですみ、コッコミクサ藻体の濃度管理も一度ですむので、非常に簡単な密閉式の製造方法となり、純粋なコッコミクサ藻体の培養が可能となり、高品質な規格が要求される医薬品の素材としても利用できる。しかも、光をまったく照射する必要がないため、光の照射度の管理はまったく不要で、光熱費も低減でき、多糖体の大量製造にも経済的に非常に有利なものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の多糖体の製造方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0012】
この発明の多糖体の製造方法は、コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下である密閉式タンク培養槽中の液体培地(pH6〜8)に対して、乾燥藻体として0.001重量%以上接種し、培養温度を20〜30°Cとし、攪拌翼を1分間に10〜120回転させ、乾燥藻体として約0.03重量%まで培養するものとしている。
【0013】
この発明の多糖体の製造方法において、前記コッコミクサ藻体としては、緑色植物部門(Chlorohta) 、緑藻(Chlorococcaceae) 、クロロコックム目(Chlorococcales)、クロロコックム科(Chlorococcaceae) に属するコッコミクサ・ミノール(Coccomyxa minor) 、コッコミクサ・グロエオボトリディフォルミス(Coccomyxa gloeobotrydiformis)などのコッコミクサ株すべてを指す。
【0014】
また、発明の多糖体の製造方法において、前記液体培地としては、培地100リットルの対して、KNO3 が100〜300g、KH2 PO4 が100〜160g、MgSO4 ・7H2 Oが200〜300g、グルコースが500〜1,500g、EDTAが0.5〜1g、クエン酸第二鉄が0.49〜2.45g、H3 BO3 が0.11〜0.55g、MoO3 が30〜150mg、CoCl2 が10〜50mg、CuSO4 ・5H2 Oが10〜50mg、ZnSO4 ・7H2 Oが10〜50mgの割合で含有したものを用いた。
【0015】
以下、この発明の多糖体の製造方法を、実施例に基づいて詳細に説明する。
(実施例1)
液体培地(培地1リットルに対して、KNO3 が2.5g、KH2 PO4 が1.35g、MgSO4 ・7H2 Oが2.5g、グルコースが5.0g、EDTAが0.007g、クエン酸第二鉄が0.0049g、H3 BO3 が0.0011g、MoO3 が0.3mg、CoCl2 が0.1mg、CuSO4 ・5H2 Oが0.1mg、ZnSO4 ・7H2 Oが0.1mgの割合で含有。pH7.5)1リットルを、密閉式のステンレスタンク培養槽(1.5リットル容)に入れ、培養温度を25°Cとし、攪拌翼を1分間に10回転させ、培地中にコッコミクサ乾燥藻体として0.002重量%になるように接種して培養を開始した。1週間後、コッコミクサ乾燥藻体として0.03重量%に達したので培養を止めて、得られた培養液をシャ−プレス遠心分離機(15,000回転/分)で分別した。分別して得られたコッコミクサペーストを蒸留水で洗浄し、凍結乾燥法により乾燥させ、3.2gの乾燥藻体を得た。そこで、乾燥藻体の一般化学組成を定量し、結果を表1に示した。また、乾燥藻体のアミノ酸分析をし、結果を表2に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
次に、得られた乾燥藻体中の多糖体含量を、以下のようにして定量し、結果を表3に示した。
【0019】
先ず、乾燥藻体を100倍容の又は窒素置換したH2 SO4 に溶かし、封管中で105°C、3時間加水分解した後、BaCO3 末で中和し濾過して、濾液を濃縮した。生成した単糖をNaBH4 で室温で2時間還元後、ピリジン:無水酢酸(1:1v/v)を加え、室温で一夜、アセチル化した。得られた糖アルコールアセテートをクロロホルムに溶かし、ガスクロマトグラフィー分析法で定量した結果、31.5gであった。多糖体は、ガラクトース、グルコース、マンノース、ラムノースなどを構成糖としており、多糖体含量は、乾燥藻体中15.8%であった。
【0020】
対照として、同条件でクロレラ藻体(クロレラピレノイドーサ)を培養し、同様に乾燥藻体中の多糖体含量を定量した結果を同じく表3に示した。多糖体含量は、乾燥藻体中15.8%であった。よって、コッコミクサ乾燥藻体中に含まれる多糖体含量は、クロレラ乾燥藻体中に含まれる多糖体含量の5.48倍であった。
【0021】
【表3】

【0022】
(実施例2)
液体培地(培地100リットルに対して、KNO3 が125g、KH2 PO4 が135g、MgSO4 ・7H2 Oが250g、グルコースが1,500g、EDTAが0.7g、クエン酸第二鉄が0.49g、H3 BO3 が0.11g、MoO3 が30mg、CoCl2 が10mg、CuSO4 ・5H2 Oが10mg、ZnSO4 ・7H2 Oが10mgの割合で含有。pH7.5)100リットルを、密閉式のステンレスタンク培養槽(100リットル容)に入れ、培養温度を28°Cとし、攪拌翼を1分間に60回転させ、培地中にコッコミクサ乾燥藻体として0.001重量%になるように接種して培養を開始した。10日後、コッコミクサ乾燥藻体として0.03重量%に達したので培養を止めて、得られた培養液をシャ−プレス遠心分離機(15,000回転/分)で分別した。分別して得られたコッコミクサペーストを蒸留水で洗浄し、凍結乾燥法により乾燥させ、275gの乾燥藻体を得た。そこで、乾燥藻体の一般化学組成を定量し、結果を表4に示した。また、乾燥藻体中に含まれる多糖体構成を表5に示した。
【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
(実施例3)
液体培地(培地400リットルに対して、KNO3 が800g、KH2 PO4 が270g、MgSO4 ・7H2 Oが500g、グルコースが4,000g、EDTAが1.4g、クエン酸第二鉄が0.98g、H3 BO3 が0.22g、MoO3 が60mg、CoCl2 が20mg、CuSO4 ・5H2 Oが20mg、ZnSO4 ・7H2 Oが20mgの割合で含有。pH7.5)400リットルを、密閉式のステンレスタンク培養槽(500リットル容)に入れ、培養温度を26°Cとし、攪拌翼を1分間に120回転させ、培地中にコッコミクサ乾燥藻体として0.005重量%になるように接種して培養を開始した。8日後、コッコミクサ乾燥藻体として0.027重量%に達したので培養を止めて、得られた培養液をシャ−プレス遠心分離機(15,000回転/分)で分別した。分別して得られたコッコミクサペーストを蒸留水で洗浄し、凍結乾燥法により乾燥させ、758gの乾燥藻体を得た。そこで、乾燥藻体の一般化学組成を定量し、結果を表6に示した。また、乾燥藻体中に含まれる多糖体構成を表7に示した。
【0026】
【表6】

【0027】
【表7】

【0028】
(実施例4)
液体培地(培地400リットルに対して、KNO3 が1,000g、KH2 PO4 が540g、MgSO4 ・7H2 Oが1,000g、グルコースが6,000g、EDTAが2.8g、クエン酸第二鉄が1.96g、H3 BO3 が0.44g、MoO3 が120mg、CoCl2 が40mg、CuSO4 ・5H2 Oが40mg、ZnSO4 ・7H2 Oが40mgの割合で含有。pH7.5)400リットルを、密閉式のステンレスタンク培養槽(500リットル容)に入れ、培養温度を26°Cとし、攪拌翼を1分間に60回転させ、培地中にコッコミクサ乾燥藻体として0.008重量%になるように接種して培養を開始した。6日後、コッコミクサ乾燥藻体として0.03重量%に達したので培養を止めて、得られた培養液をシャ−プレス遠心分離機(15,000回転/分)で分別した。分別して得られたコッコミクサペーストを蒸留水で洗浄し、凍結乾燥法により乾燥させ、895gの乾燥藻体を得た。そこで、乾燥藻体の一般化学組成を定量し、結果を表8に示した。また、乾燥藻体中に含まれる多糖体構成を表9に示した。
【0029】
【表8】

【0030】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下で液体培地に接種して培養することを特徴とする多糖体の製造方法。
【請求項2】
コッコミクサ藻体を、暗嫌気条件下で液体培地に、乾燥藻体として0.001重量%以上接種して、乾燥藻体として約0.03重量%まで培養することを特徴とする多糖体の製造方法。
【請求項3】
前記暗嫌気条件下が、密閉式タンク培養槽であることを特徴とする請求項1または2記載の多糖体の製造方法。