説明

多糖結合ニトリックオキサイド−求核剤付加物

【課題】ニトリックオキサイド放出の選択性を高めるために作用を局在化することができ、持続的な生物学的効果のための効率的な投薬を達成するようにニトリックオキサイドの放出を制御しうる、ニトリックオキサイド/求核剤付加物を含有する組成物の提供。
【解決手段】下式で表される群から選ばれるニトリックオキサイド放出N22-官能基を含む多糖を含有する、ニトリックオキサイド放出が可能な高分子組成物、および該高分子組成物を含む医薬組成物。


(ここで、Xは当該[N2O2]基に共有結合しており、[N2O2]基は当該部位Xを介して当該多糖に結合している。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、ニトリックオキサイド(nitric oxide)放出が可能なニトリックオキサイド/求核剤付加物(nitric oxide/nucleophile adduct)を含有する組成物に関する。特に本発明は、多糖に結合し、生理的環境でニトリックオキサイドを放出するニトリックオキサイド/求核剤付加物を含有する組成物、かかるニトリックオキサイド/求核剤付加物組成物を含有する医薬組成物、およびニトリックオキサイドの投与を必要とする生物学的障害を治療するために当該組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ニトリックオキサイド(NO)は近年、血圧の正常な生理学的制御、マクロファージ誘導性の細胞性塞栓や細胞毒性、ならびに神経伝達を含め多様な生体制御過程に関与するようになった(Moncada et al.,「L−アルギニン由来のニトリックオキサイド:生体制御系」(“Nitric Oxide from L-Arginine: A Bioregulatory System”),Excerpta Medica,International Congress Series 897(Elsevier Science Publishers B.V.: Amsterdam,1990); Marletta et al.,「ニトリックオキサイドの生物学的意義の解明」(“Unraveling the Biological Significance of Nitric Oxide”),Biofactors2,219-225(1990); Ignarro,「ニトリックオキサイド 細胞を介した伝達の為の新しいシグナルトランスダクションの機構」(“Nitric Oxide.A Novel Signal Transduction Mechanism for Transcellular Communication”),Hypertension(Dallas)16,477-483(1990))。代謝されてニトリックオキサイドを放出する化合物および水溶液中で自発的にニトリックオキサイドを放出する化合物を含めた、ニトリックオキサイドを送達することのできる多数の化合物が開発されている。
【0003】
代謝されてニトリックオキサイドを放出するそれらの化合物には、広く使用されているニトロ血管拡張剤、三硝酸グリセリンおよびニトロプルシドナトリウムが含まれる(Ignarro et al.,J. Pharmacol. Exp. Ther.218,739-749(1981); Ignarro,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.30,535-560(1990); Kruszyna et al.,Toxicol.Appl.Pharmacol.91,429-438(1987); Wilcox et al.,Chem.Res.Toxicol.3,71-76(1990))。他の化合物であるS−ニトロソ−N−アセチルペニシラミンは溶液中でニトリックオキサイドを放出し、DNA合成阻害に有効であると報告されている(Garg et al.,Biochem.and Biophys.Res.Comm.171,474-479(1990))。
【0004】
数多くのニトリックオキサイド−求核剤複合体が報告されている(例えば、Drago,ACS Adv.Chem.Ser.,Vol.36,p.143-149(1962))。LonghiおよびDrago,Inorg.Chem.,2,85(1963)も参照。これらの複合体の幾つかは加熱または加水分解によりニトリックオキサイドを放出することが知られている(例えば、Maragos et al.,J.Med.Chem.34,3242-3247,1991)。
【0005】
インビトロでの、腫瘍細胞に対するニトリックオキサイドの溶液の細胞増殖抑制効果が証明されてきた。特に、インビトロで、ニトリックオキサイドの溶液が腫瘍細胞のDNA合成およびミトコンドリア呼吸を阻害することが示されている(Hibbs et al.,Biochem.and Biophys.Res.Comm.157,87-94(1988); Stuehr et al.,J.Exp.Med.169,1543-1555(1989))。
【0006】
内皮細胞由来平滑筋弛緩因子(EDRF)は血管平滑筋の弛緩に関与する相互作用剤のカスケードの一部で働く、不安定な体液性の作用剤である。従ってEDRFは、血流に対する血管抵抗の制御や血圧の制御において重要である。幾つかの血管拡張剤は、内皮細胞からEDRFを放出させることにより作用する(Furchgott,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.,24,175-197,1984 を参照)。1987年には、PalmerらはEDRFが単純な分子であるニトリックオキサイドNOと等価であることの証拠を示した(Nature,317,524-526,1987)が、より最近にはその結論に異論が唱えられている(Myers et al.,Nature,345,161-163,1990)。
【0007】
しかしながら、ニトリックオキサイドは純粋な形態では、水性媒体に対して限られた溶解度を有する反応性の高いガスである(窒素酸化物の環境保健規準に関するWHO対策グループ、窒素酸化物、環境保健規準4(WHO Task Group on Environmental Health Criteria for Oxides of Nitrogen,Oxides of Nitrogen,Environmental Health Criteria 4)(世界保健機関:ジュネーブ、1977年))。従って、大多数の生物学的システムにニトリックオキサイドを早期に分解させることなく確実に導入することは困難である。
【0008】
ニトリックオキサイドの投与における困難性は、ある場合にはニトリックオキサイドを、薬理学上プロドラッグの形態で投与することにより克服することが可能である。三硝酸グリセリンやニトロプルシドナトリウムといった化合物は比較的安定であるが、酸化還元活性化されてはじめてニトリックオキサイドを放出する(Ignarro et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.218,739-749(1981); Ignarro,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.30,535-560(1990); Kruszyna et al.,Toxicol.Appl.Pharmacol.91,429-438(1987); Wilcox et al.,Chem.Res.Toxicol.3,71-76(1990))。この特徴はある適用では有利となるかもしれないが、三硝酸グリセリンに対する耐性が、関係する酵素/補因子システムの消耗によって発現したり(Ignarro et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.25,171-191(1985); Kuhn et al.,J.Cardiovasc.Pharmacol.14(Suppl.11),S47-S54(1989))、ニトロプルシドの長期投与の間に代謝的に生成したシアン化物による毒性のように、重大な障害にもなりうる(Smith et al.,「生物学的に反応性の中間体の抜粋集」生物学的に反応性の中間体IV、分子的および細胞的効果とそれらの人間の健康に対する影響(“A Potpourri of Biologically Reactive Intermediates”,Biological Reactive Intermediates IV.Molecular and Cellular Effects and Their Impact on Human Health)(Witmer et al.編)、実験医学と生物学における進歩、第283巻(プレナムプレス、ニューヨーク、1991年)365〜369頁(Advances in Experimental Medicine and Biology Volume 283(Plenum Press: New York,1991),pp.365-369)。
【0009】
ニトリックオキサイドが内皮細胞から放出され、それが血管平滑筋の弛緩の原因であり、従って血圧の制御ができるという証明は、インビボでニトリックオキサイドを送達することが可能な人工的な薬剤の開発につながった。そのような薬剤の非常に重要なクラスはニトリックオキサイド−求核剤複合体である。最近、ある種のニトリックオキサイド−求核剤複合体を用いて哺乳類の心臓血管障害を治療する方法が開示された(例えば、米国特許第4,954,526号)。これらの化合物はアニオン性N22-基またはその誘導体を含有する。Maragos et al.,J.Med.Chem.,34,3242-3247,1991 も参照。これらの化合物の多くは薬理学的に特に有望であることが判明した。なぜなら、ニトロプルシドやニトログリセリンのようなニトロ血管拡張剤と異なり、最初に代謝される必要がなくニトリックオキサイドを放出するからである。純粋に自発的にニトリックオキサイドを放出できることが現在知られている唯一の他のシリーズの薬剤は、R−S−NO構造の化合物群、すなわち、S−ニトロソチオールシリーズである(Stamler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,89,444-448,1992)。しかしながら、R−S−NO→NO反応は速度論的に複雑で、制御が難しく(Morley et al.,J.Cardiovasc.Pharmacol.21,670-676(1993))、長い酸化還元活性化(McAninly et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Comm.,1758-1759(1993))および代謝(Kowaluk et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.225,1256-1264(1990))がこれらの化合物に関して報告されている。さらに、S−ニトロソチオールにおける窒素の酸化状態は、ニトリックオキサイドの酸化状態の+2ではなく+3である。R−S−N=O化合物のR基の違いはそれらの化学的、従って薬理学的特性を変える手段を提供するが、NONOエート(NONOate)シリーズはこの点で特に柔軟性がある。2秒から20時間にわたる再現可能な半減期を有するNONOエートが製造されている。それらをO−アルキル化して、1週間以下またはそれ以上の半減期で自発的にNOを発生する化合物、あるいは代謝により酸素置換基が除去されるまで全くNOを放出することができないプロドラッグのいずれも提供することができる。NONOエート官能基は2つの酸素原子を介して金属中心に配位することができるし、ペプチドに結合することができるし、固体高分子マトリックス中に結合して点としてのNO源を提供することができる。このような多様なNO放出速度、物理的形態、および生体内の特定の部位に目標を定めてNOを送達するための可能な計画を提供するので、NONOエートはNO供与体薬剤を開発するために努力がはらわれる最も有益な一連の化合物となるのである。
【0010】
水溶液中でニトリックオキサイドを放出するニトリックオキサイド/求核剤複合体(NONOエート)はまた、米国特許第4,954,526号、米国特許第5,039,705号、米国特許第5,212,204号、米国特許第5,155,137号、米国特許第5,208,233号、米国特許第5,250,550号、米国特許第5,366,997号、および米国特許第5,389,675号にも開示されている(Maragos et al.,J.Med.Chem.34,3242-3247(1991)も参照)。
【0011】
研究されてきた単量体ニトリックオキサイド/求核剤付加物は有望であるにもかかわらず、それらは媒体中に均一に分布する傾向があるため薬理学的適用は制限されてきた。このような均一分布は多くの研究適用においては非常に有利であるが、作用の選択性を危うくする傾向がある。これらのニトリックオキサイド/求核剤付加物のあるものの適用を制限するもう一つの要因は、それらがニトリックオキサイドを比較的速く放出する傾向にある点であり、そのために持続性の生物学的効果を達成するためには頻繁に投与する必要があるということである。従って、適用部位にニトリックオキサイド放出の効果を集中することができ、効果的な投薬の為にニトリックオキサイド放出を制御することができるニトリックオキサイド放出組成物が必要とされる。
【0012】
従って本発明の主要な目的は、ニトリックオキサイド放出の選択性を高めるために作用を局在化することができるニトリックオキサイド/求核剤付加物を含有する組成物を提供することである。本発明の他の目的は、持続的な生物学的効果のための効率的な投薬を達成するようにニトリックオキサイドの放出を制御しうる、ニトリックオキサイド/求核剤付加物を含有する組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、ニトリックオキサイド/求核剤付加物が高分子に結びついている(associated)、ニトリックオキサイドを放出することが可能な、ニトリックオキサイド/求核剤付加物を含有する組成物を提供することである。より詳細な本発明の目的は、生体内でニトリックオキサイドを放出することができて、NOの放出後、生体から容易に除去される、ニトリックオキサイド/求核剤付加物を含有する多糖組成物を提供することである。本発明のこれらのおよびその他の目的や長所、ならびに他の発明の特徴は、ここに述べる発明の記載から明らかとなるだろう。
【発明の概要】
【0013】
発明の要旨
本発明は、高分子、特に多糖に結合しているニトリックオキサイド放出N22-官能基を含有する、ニトリックオキサイド放出が可能な組成物を提供する。「高分子に結合している」とは、N22-官能基が物理的にあるいは化学的に高分子マトリックスの一部と結びつけられている(associated)、高分子マトリックスに取り込まれている(incorporated)、あるいは含まれている(contained)ことを意味する。N22-官能基の高分子との物理的な結びつき(association)または結合(bonding)は、高分子をニトリックオキサイド/求核剤複合体と共沈させることにより、ならびにN22-基の高分子との共有結合により達成することができる。N22-官能基の高分子との化学的結合は、例えば、ニトリックオキサイド/求核剤付加物の求核剤部分が高分子と共有結合し、N22-基が結合している求核剤残基が高分子自身の一部を形成するような(すなわち、高分子のバックボーン(backbone)中にある、または高分子のバックボーン上のペンダント基に結合している)共有結合であってもよい。ニトリックオキサイド放出N22-官能基が高分子の一部に結びついている、高分子に取り込まれているまたは高分子内に含有されている、すなわち高分子に「結合」 (“bound”)している方法は本発明において重要ではなく、全ての結びつき(association)、取り込み(incorporation)および結合(bonding)の手段が本発明で意図されている。
【0014】
本発明はまた、医薬的に許容しうる担体および高分子、特に多糖(当該高分子に結合しているニトリックオキサイド放出N22-官能基を有する)を含有する医薬組成物を提供する。本発明の高分子結合ニトリックオキサイド放出N22-官能基組成物は、例えば、当該高分子結合組成物がインプラント、ステント、パッチなどの形態であるときのように、それ自身が医薬組成物として機能するものでもよい。
【0015】
本発明はさらに、高分子、特に多糖、および当該高分子に結合しているニトリックオキサイド放出N22-官能基を含有する組成物を治療有効量のニトリックオキサイドを放出するのに十分な量で投与することを含む、ニトリックオキサイドの投与が治療となる生物学的障害の治療方法を提供する。
好ましい態様の詳細な説明
本発明はニトリックオキサイド放出N22-官能基を高分子マトリックス、特に多糖に取り込むことによって有用な医薬剤が提供され得るという発見に基づいている。従って、N22-官能基はここでその語が定義されているように「高分子に結合している」。N22-官能基を高分子マトリックスに取り込むことで、目的とする生物学的部位に特異性をもって適用できる高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤付加物組成物が提供されるということが発見された。高分子結合付加物組成物の部位特異的適用は、ニトリックオキサイド放出N22-官能基の作用の選択性を高める。もし高分子に結合しているN22-官能基が必然的に局在化しているならば、ニトリックオキサイド放出の効果はそれらが接触した組織中に集中するだろう。もし高分子が可溶性であれば、たとえば標的組織に対して特異的な抗体に結合するあるいはそのような抗体の誘導体とする(derivatization)ことによって、作用の選択性をさらにアレンジすることができる。同様に、重要な受容体に対するリガンドの認識配列を模倣した小さなペプチドにN22-含有多糖を結合することにより、核酸中の標的配列との部位特異的な相互作用が可能なオリゴヌクレオチドに結合する場合と同様な、ニトリックオキサイド放出の局在化した集中した効果を与える。
【0016】
さらに、高分子マトリックスにN22-官能基を取り込むことにより、ニトリックオキサイド/求核剤付加物がニトリックオキサイドを比較的速く放出する傾向を減らすことができる。これはN22-官能基によるニトリックオキサイドの放出を持続させ、所望の生物学的効果を達成するための効率的な投薬を可能にするので、投薬の回数を減らすことができる。
【0017】
他のいかなる特定の理論に束縛されているわけでもないが、本発明の高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤付加物組成物のニトリックオキサイド放出の持続性は、組成物の物理的構造と静電効果の両方に帰すると考えられる。したがって、もし高分子が不溶性固体であるならば、粒子の表面に近いN22-基は速く放出されうるはずだが、より深く埋め込まれたものは立体的に遮蔽され、ニトリックオキサイドが媒体中を進んで行くためにより多くの時間および/またはエネルギーを必要とすると考えられる。予想外にも、N22-官能基の周辺の正電荷の増加によって、ニトリックオキサイド発生の半減期もまた増大する傾向があることが見出された。この速度遅延の機構は単に反発静電相互作用、すなわち、N22-基の周辺のH+反発正電荷の数が増大することにより、正電荷に荷電したH+イオンのN22-官能基に対する攻撃を阻害し、H+が触媒する分解速度を遅延させることに基づくのかもしれない。たとえば、ニトリックオキサイドと反応させることでニトリックオキサイド放出N22-官能基を形成させることのできるアミノ基を高分子支持体に結合することによって、その全てを消費しない程度のニトリックオキサイドで処理すると、水に曝された後にN22-基を取り囲む数多くの正に荷電しているアンモニウム中心(それはニトリックオキサイド放出N22-官能基からのニトリックオキサイド損失をおこしうるH+イオンのアプローチを静電気的に阻害する)を含むようになる、部分的に変換された構造を製造することができる。
【0018】
高分子に結合したニトリックオキサイド放出N22-官能基は一般に水性の環境と接触すると、水性の環境において自発的にニトリックオキサイドを放出することができる。すなわち、当該官能基は、三硝酸グリセリンやニトロプルシドナトリウムに必要とされるような酸化還元反応あるいは電子伝達によって活性化する必要がない。本発明に関して有用なニトリックオキサイド/求核剤複合体の幾つかは特定の方法による活性化が必要なものもあるが、これは単に目的とする特定の細胞の周辺でニトリックオキサイドを放出する
【0019】
【化1】

【0020】
を遊離させるために必要なだけである。たとえば、アニオン性[N(O)NO]-官能基に保護基を共有結合させることにより、代謝により保護基を除去することのできる器官に分子が到達するまでニトリックオキサイド放出を遅らせる手段が提供される。たとえば、目的とする腫瘍、生物学的障害、細胞、または組織に特異的な酵素により選択的に開裂される保護基を選択することにより、所望の効果が最大限に奏するようにニトリックオキサイド/求核剤複合体の作用の目標を定めることができる。本発明の高分子結合、すなわち、多糖結合ニトリックオキサイド放出組成物は水溶液中でニトリックオキサイドを放出することができるが、そのような化合物は好ましくは生理的条件下でニトリックオキサイドを放出する。
【0021】
ニトリックオキサイド放出N22-官能基は、好ましくはニトリックオキサイド/求核剤付加物、たとえば、ニトリックオキサイドと求核剤との複合体であり、最も好ましくは部位
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Xは任意の適当な求核剤残基を示し、有機または無機部位であってよい)を含むニトリックオキサイド/求核剤複合体である。求核剤残基は、好ましくは第一アミン(例えば、(CH32CHNH[N(O)NO]NaにおけるX=(CH32CHNH)、第二アミン(例えば、(CH3CH22N[N(O)NO]NaにおけるX=(CH3CH22N)、ポリアミン(例えば、両性イオンH2N(CH23NH2+(CH24N[N(O)NO]-(CH23NH2におけるX=スペルミン、両性イオンCH3CH2CH2N[N(O)NO]-CH2CH2CH2NH3+におけるX=3−(n−プロピルアミノ)プロピルアミン)、またはオキシド(すなわち、NaO[N(O)NO]NaにおけるX=O-)、またはそれらの誘導体である。このようなニトリックオキサイド/求核剤複合体は安定な固体であり、ニトリックオキサイドを予測された速度で生物学的に使用可能な形態で送達することができる。
【0024】
求核剤残基は、複合体が安定な化合物であっても、スルファイト(例えば、NH43S[N(O)NO]NH4におけるX=SO3-)のようなものでないことが好ましい。なぜなら、当該残基は、過酷な非生理的条件下においてのみ、水性の環境においてニトリックオキサイドを放出することができるからである。
【0025】
他の適切なニトリックオキサイド/求核剤複合体には、次の式を有するものが含まれる。
【0026】
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,212,204号に記載されている
【0027】
【化3】

【0028】
〔式中、Jは有機または無機部位であり、好ましくは炭素原子を介してN22-基の窒素と結合していない部位であり、M+xは医薬上許容されるカチオン(式中、xはカチオンの原子価である)であり、aは1または2であり、bおよびcは中性化合物を与える最も小さい整数であり、好ましくは該化合物はアラノシン(alanosine)またはドパスチン(dopastin)の塩ではない。〕;
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,155,137号に記載されている
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、bおよびdは同一または異なって0または1であり、R1、R2、R3、R4およびR5は同一または異なって水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、x、yおよびzは同一または異なって2〜12の整数である。);
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,250,550号に記載されている
【0031】
【化5】

【0032】
(式中、Bは
【0033】
【化6】

【0034】
であり、R6およびR7は同一または異なって水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、fは0〜12の整数であり、ただしBが置換されたピペラジン部位
【0035】
【化7】

【0036】
の場合、fは2〜12の整数である。);
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,250,550号に記載されている
【0037】
【化8】

【0038】
(式中、R8は水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、R9は水素またはC1−C12直鎖または分枝鎖アルキルであり、gは2〜6である。);
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,039,705号に記載されている
【0039】
【化9】

【0040】
(式中、R1およびR2は独立して直鎖または分枝鎖C1−C12アルキル基およびベンジル基からなる群より選ばれ(ただし、α炭素原子上で分枝していない)、あるいはR1およびR2がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基、好ましくはピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノまたはモルホリノ基を形成し、M+xは医薬上許容されるカチオンであり、xはカチオンの原子価である。);
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,389,675号に記載されている
【0041】
【化10】

【0042】
(式中、Mは医薬上許容される金属、またはxが少なくとも2の場合、異なる2種の医薬上許容される金属の混合物であり、Lは(R12N−N22)とは異なる配位子であり、少なくとも1つの金属に結合しており、R1およびR2はそれぞれ有機部位であり、それらは同一または異なっていてよく(ただし、Mが銅、xが1、Lがメタノール、およびyが1の場合、R1またはR2の少なくとも1つはエチルではない)、xは1〜10の整数であり、x’は金属Mの形式的な酸化状態(formal oxidation state)を示し、1〜6の整数であり、yは1〜18の整数であり、yが少なくとも2の場合、配位子Lは同一または異なっていてもよく、zは1〜20の整数であり、Kは化合物を必要な程度まで中性にする医薬上許容される対イオンである。);
言及によってここに組み入れられる米国特許第4,954,526号に記載されている
【0043】
【化11】

【0044】
(式中、RはC2-8低級アルキル、フェニル、ベンジルまたはC3-8シクロアルキルであり、R基のいかなるものも1〜3個の置換基で置換されていてもよく、その置換基は同一または異なっていて、ハロゲン、ヒドロキシ、C1-8アルコキシ、−NH2、−C(O)NH2、−CH(O)、−C(O)OHおよび−NO2からなる群より選ばれ、Xは医薬上許容されるカチオン、医薬上許容される金属中心、またはC1-8低級アルキル、−C(O)CH3および−C(O)NH2からなる群より選ばれる医薬上許容される有機基であり、yは1〜3であり、Xの原子価と一致する。);
言及によってここに組み入れられる米国特許第5,366,997号に記載されている
【0045】
【化12】

【0046】
〔式中、R1およびR2は独立して、C1-12直鎖アルキル、アルコキシまたはアシルオキシで置換されたC1-12直鎖アルキル、ヒドロキシまたはハロゲン置換されたC2-12直鎖アルキル、C3-12分枝鎖アルキル、ヒドロキシ、ハロゲン、アルコキシまたはアシルオキシで置換されたC3-12分枝鎖アルキル、置換されていないか、またはヒドロキシ、アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはベンジルで置換されているC3-12直鎖およびC3-12分枝鎖オレフィンから選ばれるか、あるいはR1およびR2がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基、好ましくはピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノまたはモルホリノ基を形成し、R3は、置換されていないか、またはヒドロキシ、ハロゲン、アシルオキシまたはアルコキシで置換されているC1-12直鎖およびC3-12分枝鎖アルキル、置換されていないか、またはハロゲン、アルコキシ、アシルオキシまたはヒドロキシで置換されているC2-12直鎖またはC3-12分枝鎖オレフィン、置換されていないかまたは置換されているC1-12アシル、スルホニルおよびカルボキサミドから選ばれる基;あるいはR3は式−(CH2n−ON=N(O)NR12(式中、nは2〜8の整数であり、R1およびR2は上記に定義した通り)で表される基であり、ただし、R1、R2およびR3はヘテロ原子のαにハロゲンまたはヒドロキシ置換基(a halo or a hydroxy substituent α to a hetero atom)を含まない。〕
本発明によれば、高分子はポリエーテルである。好ましくは、ポリエーテルは多糖である。多糖はセルロース、デンプン、デキストランおよびキシランを包含する。多糖は修飾または誘導体化されていてもよい。適切な修飾多糖としては、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、デキストランエーテル、デキストランエステル、デキストランカルバメート等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明において使用に適した高分子の物理的および構造的特徴は狭く臨界的なものではなく、むしろ最終的な用途に依存する。本発明の高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤付加物組成物を局所、皮膚、経皮投与あるいは類似の用途に使用することを意図する場合には、当該組成物が生物分解性である必要がないことは、当業者であれば理解されるであろう。経口摂取等のある用途には、高分子結合組成物の高分子が生理的環境下においてゆっくりと溶解すること、あるいは生物分解性であることが望ましい。
【0048】
本発明の高分子結合ニトリックオキサイド放出組成物は、治療されるべき生物学的障害に応じて、広範な種類の適用および広範な種類の形態において有用性が見いだされるであろう。例えば、高分子はそれ自体で構造的に十分にインプラント、パッチ、ステント等として使える。さらに、実例として、高分子結合組成物は他の高分子マトリックス、基質等に取り込ませたり、あるいはマイクロカプセル化したりしてもよい。
【0049】
上述の化合物を含めた、N22-官能基を有するニトリックオキサイド放出複合体は、高分子支持体に多数の異なる方法で結合させることができる。例えば、上述の化合物は、かかる化合物を高分子とともに共沈させることにより、該高分子に結合できる。共沈方法は、例えば、高分子とニトリックオキサイド/求核剤化合物とを可溶化し、溶媒を留去することを含む。
【0050】
あるいは、ニトリックオキサイド放出N22-官能基は、上記の式を有するタイプのニトリックオキサイド/求核剤複合体を、その場で高分子上に形成することにより、高分子に結合されてもよい。N22-官能基は、高分子のバックボーン(backbone)の原子に結合するか、高分子バックボーンにぶらさがっている基に結合してもよく、あるいは単に高分子マトリックスに補足されるだけでもよい。N22-官能基が高分子バックボーン中にある場合、高分子は将来の放出のためにニトリックオキサイドと反応して該ニトリックオキサイドを結合することができる部位をバックボーンに有する。例えば、高分子がポリエチレンイミンの場合、高分子は、ニトリックオキサイドと反応して、窒素でN22-官能基を形成する求核窒素原子をバックボーン中にもつ。N22-官能基が高分子バックボーンにぶらさがっている基の場合、高分子は、ニトリックオキサイドと反応してN22-官能基を形成し得る、適当な求核残基を含むか、あるいは当該求核残基で誘導体とされている。このように、適当な求核残基を含む高分子または適当に誘導体とされた高分子とニトリックオキサイドとの反応は、高分子結合ニトリックオキサイド放出N22-官能基を提供する。
【0051】
本発明の高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤組成物は広範囲の生物学的利用性を有する。ニトリックオキサイドが、特に多能で重要なバイオエフェクター種であり、血管緊張低下、神経伝達および免疫反応のような重大な身体の機能において機能的に関与している(Moncada et al.,Pharmacol.Rev.,43,109-142,1991)という高まりつつある認識に鑑みて、ニトリックオキサイド放出が必要とされる適用に、本発明の組成物は有用性が見い出される。例えば、高分子結合ニトリックオキサイド放出N22-官能基を血栓形成性を低下させるために血管移植片の表面に結合させてもよい。
【0052】
以下は、本発明の高分子結合組成物の広範な使用および適用についてさらに詳細に説明するものであるが、本発明はこれになんら限定されるものではない。よって、例えばニトリックオキサイドによってもたらされる劇的ではあるが短期間の、肺の血管および気管支の拡張特性(Roberts et al.,Circulation(Suppl.II),84:A1279,1991)に鑑みて、高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤付加物組成物のエアロゾル形態での肺への投与を、多様な肺障害の治療に使用してもよい。胃の酸性条件に耐えうる、アニオン性N22-官能基を含有する長時間持続する薬剤の経口投与製剤を高血圧の治療に使用してもよい。天然の、内因性のニトリックオキサイドは陰茎勃起のエフェクターとして同定されているので(Blakeslee,New York Times,1992年1月9日,A1頁)、本発明の高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤付加物組成物は男性のインポテンツの治療のための適当な陰茎インプラント、経皮投与用パッチ剤あるいはコンドームに組み込むことができる。ある種の単量体ニトリックオキサイド/求核剤付加物の血小板凝集の阻害能は、立証されている細胞増殖抑制活性とあいまって、血管形成術後の再狭窄の予防の為の非常に貴重な二股のアプローチ(two-pronged approach)を予期させる。すなわち、高分子結合ニトリックオキサイド放出N22-官能基組成物で製造されるステントは、損傷をうけた内皮部位での細胞の分裂を阻害し、そしてこれらの部位での血小板の付着も予防するという両方に用いることができ、閉塞の再発の危険性を最小限にする。腫瘍細胞によるニトリックオキサイドの生成と該細胞の転移能間の反比例の関係が提案されているので(Radomski et al.,Cancer Res.,51,6073-6078,1991)、高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤組成物を癌患者における転移の危険性を減ずるのに用いることができる。同様に本発明の高分子結合ニトリックオキサイド/求核剤組成物は、プロテーゼや胸部インプラントのような医療用インプラントに関わる固形癌の発生の危険性を減ずる手段として、生体に外科的に連結する前にそれらを被覆するのに用いることができると考えられる。さらにニトリックオキサイドは、胃の運動性、神経伝達、侵害受容、およびその他の本来自然な役割にも関連していることが示されているので、本発明の組成物はそれらの適用においても使用することができる。
【0053】
本発明の高分子結合ニトリックオキサイド放出N22-官能基組成物を動物に投与する適当な方法を利用し得ること、およびある特定の組成物を投与するために一を超える投与経路を用いることができるが、ある特定の投与経路が別の投与経路よりも、より迅速により効果的な反応を提供することは、当業者であれば理解できるであろう。医薬的に許容される担体もまた当業者によく知られている。
担体の選択は、特定の組成物ならびに該組成物を投与するために用いられる特定の方法によりある程度決定されるだろう。従って、本発明の医薬組成物の適当な製剤は多種多様である。
【0054】
経口投与に適した製剤は、(a)水または生理食塩水のような希釈剤に溶解した有効量の高分子結合組成物のような液体溶液、(b)予め決められた量の活性成分を固形物又は顆粒としてそれぞれ含むカプセル剤、小袋剤(sachet)または錠剤、(c)適当な液体に懸濁した懸濁剤、および(d)適当な乳剤からなりうる。錠剤は、乳糖、マンニトール、トウモロコシ澱粉、バレイショ澱粉、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、及び他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、矯味剤、及び薬理学的に適合し得る担体の一またはそれ以上を含んでいてもよい。ロゼンジ剤は、矯味剤、通常、ショ糖およびアラビアゴムまたはトラガント中に活性成分を含み、同様に香剤は、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアラビアゴム乳剤、ゲル剤等の不活性基剤中に活性成分を含み、活性成分に加えて当分野で知られた担体を含む。
【0055】
本発明の高分子結合ニトリックオキサイド放出組成物は、単独でまたは他の適当な成分と組み合わせて、吸入により投与されるエアロゾル製剤に調製され得る。これらエアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の加圧された許容し得る噴射剤中に置かれる。
【0056】
非経口投与に適切な製剤としては、抗酸化剤、緩衝液、制菌剤および該製剤を投薬を受ける者の血液と等張にするための溶質を含有することのできる水性および非水性の等張性無菌注射溶液、および懸濁化剤、溶解補助剤、増粘剤、安定化剤および保存剤を含有することのできる水性および非水性の無菌の懸濁液が包含される。該製剤は、アンプルおよびバイアルのような1回投与量または複数回投与量の密閉された容器で供せられ、注射には使用直前に、例えば水のような無菌の液体担体を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)した状態で保存され得る。即席注射溶液および懸濁液は前に述べた種類の無菌の粉末剤、顆粒剤および錠剤から調製され得る。
【0057】
本発明において動物、特にヒトに投与する量は、適当な時間枠にわたって該動物に対して治療の効果を奏するのに十分な量とすべきである。投与量は、用いられるある特定の組成物の強さ、治療すべき動物の状態および該動物の体重により決定されるであろう。投与量はまた、ある特定組成物の投与に伴うかもしれない悪い副作用の有無、性質及び程度によっても決定されるであろう。
【0058】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例I
この実施例では、二つの異なる方法によるペンダント[N22]基を含有する多糖高分子の調製について説明する。
【0060】
A.デキストラン(MW=515,000,9g,55mmol,167meq−OH,Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO から入手可能)を水(800ml)に溶解した。水酸化ナトリウム(8ml,10M,80mmol)および臭化シアン(CNBr,8g,75mmol)を水(100ml)に溶解したばかりのものをデキストラン溶液に添加した。ジエチレントリアミン(DETA,24.7g,222.9mmol)またはジプロピレントリアミン(DPTA,31.8g,222.9mmol)を活性化したデキストラン溶液にすばやく添加した。pHを10.0に調整し、この溶液を連続して一晩攪拌した。翌日、この溶液を150ml容の塩化メチレンで2回抽出し、冷却流水に対して一晩透析した。溶液のpHを7.0に調整した後、溶液を凍結乾燥して白色固体を得た。これを粉末に粉砕した(DETAグラフトデキストラン9.6gおよびDPTAグラフトデキストラン9.2g)。グラフトが成功したことは、グラフトしたデキストラン(DETA−デキストラン)を1N NaOHに対して滴定することにより確認した。
【0061】
DPTA−またはDETA−グラフトデキストラン(3.6g)を、水(15.6ml)および10M NaOH(2ml)に溶解し、得られた溶液をワーリングブレンダー(Waring blender)に入れた軽油(300ml)に注ぎ、2分間攪拌し、CNBr(2g,18.87mmol)(水16mlに溶解したてのもの)を懸濁液に添加し、さらに2分間攪拌した後、懸濁液を石油エーテル(300ml,3回)、エタノール(95%,500ml,2回)および無水エタノール(500ml)で抽出することにより架橋した。
【0062】
得られたDETA−グラフトマイクロスフェア(1g)を乾燥テトラヒドロフラン(THF,25ml)に懸濁し、NO圧(70psi)下で48時間攪拌した。この時間の経過後、マイクロスフェアを濾過し、THF(200ml)で洗浄し、乾燥した。DPTA−グラフトマイクロスフェア(0.6g)を同様にアセトニトリル(25ml)に懸濁し、NOと反応させ、同様の条件で後処理した。DETA−グラフトマイクロスフェアから、1N HCl中で1mg当たり約40nmolのNOを得た。DPTA−グラフトマイクロスフェアから、1N HCl中で1mg当たり約650nmolのNOを得た。
【0063】
B.DPTAのNO付加物(“DPTA−NONO”,[H2N(CH2)3]2N[N(O)NO]H,両性イオン形)をHrabie et al.,J.Org.Chem., 58,1472-1476(1993)に記載の方法で調製した。デキストラン(3.6g,22.2mmol)を水(15.6ml)に溶解した。水酸化ナトリウム(5ml,10M,50mmol)およびDPTA−NONO(1.5g,9.2mmol)をこの溶液に添加した。次いでこの溶液をワーリングブレンダーに入れた軽油(300ml)に注ぎ、混合物を2分間攪拌した。CNBr(5g)(水35mlに溶解したてのもの)を添加して、攪拌をさらに2分間続けた。この溶液を石油エーテル(300ml,3回)、95%エタノール(500ml)および35%エタノール(1リットル,3回)で後処理した。最後の洗液の262nmでの吸光度を測定した。DPTA−NONOに対応するピークが観察されなくなったら、マイクロスフェアを無水エタノール(1リットル)で洗浄することにより最終的に脱水した。濾過し、乾燥した生成物は2.7gであった。CNBr:デキストラン−OHのモル比0.70〔CNBr(5g)および10M NaOH(5ml)で架橋したデキストラン(3.6g)〕を用いてマイクロスフェアを得た。
【0064】
これらのNONOエートグラフトマイクロスフェア、すなわち、[N(O)NO]-官能基を含有するマイクロスフェアのNO含量を分析した。インビトロでのNO放出プロフィールをニトリックオキサイド分析機(Lear-Siegler Corp.,Englewood,CO)を用いて測定した。サンプリングチャンバーは、NOガスをチャンバー内に蓄積させる二方弁が両端に取り付けられているガスインピンジャー(バブラー)ボトル(gas impinger(bubbler)bottle)で構成されている。サンプリングチャンバーの一端はNO分析機に接続され、他端は流量計とヘリウムガスタンクに接続されている。ヘリウムガスを10psigでシステム内に通して送り、流量計を150〜200ml/分に調整した。サンプリングチャンバーに50mlの1M HClまたは他の適当な媒体を充填し、溶液からガスを除いた。秤量したNONOエート−グラフトマイクロスフェアを、ヘッドスペース分析機に入っている水溶液(pH=7.0,リン酸緩衝生理食塩水または1N HCl,50ml)に加えた。懸濁液のヘッドスペースに蓄積されたニトリックオキサイドをヘリウムを用いてNO分析機内へ吹き込んだ。NO放出の調査は、全て室温で行うか、または室温から初めて10℃づつの段階でサンプル懸濁液を加熱するいずれかで行った。この後、種々の時間でヘッドスペース中のニトリックオキサイドを集め、2分間にわたり分析機内へ吹き込んだ。生じたシグナルをHewlett-Packard 350 インテグレーターにより積分した。
【0065】
種々の容積の硝酸カリウム(100または1000μM)を塩化バナジウム(III)の熱溶液(1N HCl中に1M)に注入することによりNOの標準曲線を作成した。生じたNOを同様にしてNO分析機に吹き込んだ。硝酸塩が塩化バナジウム−還元媒体中で定量的に反応してNOを形成すると仮定して、発生したNOからのピーク面積を対応する硝酸塩のナノモルに対してプロットした。DPTA−NONOから製造されたマイクロスフェア1mg当たり約190nmolのNOを得た。
実施例II
この実施例では、ポリエチレンイミンセルロースNONOエートの調製について説明する。
【0066】
ポリエチレンイミンセルロース(PEIセルロース)(7.0g,15.4mmol)をアセトニトリル(70ml)と共に、マグネティックスターバーを備えた変形Aceスレッド反応びん(Ace thread reaction bottle)に入れた。この溶液に、NOとN2を同時に送ることのできる2つのガス流入口から構成された四方ガスバルブセットアップを通して窒素ガスを10分間飽和させた。第3の流出口はシステムをオープンに保つのに使用した。全てのガス接続部は透明なテフロンチューブとステンレススチールすえ込み固定取付具でつくった。次いでニトリックオキサイドガスを70psigの圧力で30分間加え、反応びんを閉じて加圧下で反応を維持した。このNOガスを加える手順を1日おきに10日間にわたり繰り返し、その後、過剰のNOを抜いてN2ガスを15分間加えた。黄色生成物(6.82g)を濾過により単離し、アセトニトリル、次いでエーテルで洗浄し、真空下で一晩乾燥した。このポリエチレンイミンセルロースポリマーはpH7.4緩衝液中で高分子1mg当たり約67nmolのNOを放出した。
実施例III
この実施例では、ポリエチレンイミンセルロース(PEIセルロース)NONOエート繊維の合成について説明する。
【0067】
エピクロロヒドリン(0.43mL)およびトリエチルアミン(1.0mL)
を蒸留水(100mL)中のセルロース繊維(2.0g)に添加した。この溶液を室温で24時間振とうし、濾過し、蒸留水で洗浄して未反応の出発原料を除去した。この繊維を蒸留水(100mL)に再懸濁し、ポリエチレンイミン(PEI,MW600)を添加した。このPEIグラフト繊維を濾過し、蒸留水で洗浄し、室温で24時間乾燥した。この繊維を誘導体にするために高圧(70psig)ニトリックオキサイドガスを24時間使用した。生成物を濾過により単離し、アセトニトリル(200mL)、次いでエーテル(100mL)で洗浄し、室温で一晩乾燥した。このPEIセルロースNONOエート繊維は、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩水中で高分子1mg当たり0.98nmolのNOを放出することがわかった。
【0068】
ここに挙げた刊行物は、各刊行物が言及によって組み込まれるために個々にそして具体的に述べられ、ここに完全に明らかにされたと同程度に、ここに言及することで組み入れられるものである。
【0069】
本発明を、好ましい態様を強調して説明してきたが、当業者には好ましい態様が変更され得ることが自明であろう。本発明はここで特に記載された以外の方法でも実施され得ることが意図される。従って、本発明は添付の特許請求の範囲の精神と範囲に包含されるすべての変形を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

からなる群より選ばれるニトリックオキサイド放出[N22]官能基を含む多糖を含有する、ニトリックオキサイド放出が可能な高分子組成物(ここで、Xは当該
【化2】

に結合している部位であり、[N22]基は当該部位Xを介して当該多糖に結合している)。
【請求項2】
当該ニトリックオキサイド放出[N22]官能基が、次のI、II、III、IV、V、VI、VIIおよびVIIIからなる群より選ばれる式の化合物からのもので、当該多糖に含まれている請求項1記載の高分子組成物。
【化3】

〔式中、Jは有機または無機部位であり、好ましくは炭素原子を介して複合体の残りの部分の窒素と結合していない部位であり、M+xは医薬上許容されるカチオン(式中、xはカチオンの原子価である)であり、aは1または2であり、bおよびcは中性化合物を与える最も小さい整数である。〕;
【化4】

(式中、bおよびdは同一または異なって0または1であり、R1、R2、R3、R4およびR5は同一または異なって水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、x、yおよびzは同一または異なって2〜12の整数である。);
【化5】

(式中、Bは
【化6】

であり、R6およびR7は同一または異なって水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、fは0〜12の整数であり、ただしBが置換されたピペラジン部位
【化7】

の場合、fは2〜12の整数である。);
【化8】

(式中、R8は水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、R9は水素またはC1−C12直鎖または分枝鎖アルキルであり、gは2〜6である。);
【化9】

(式中、R1およびR2は独立して直鎖または分枝鎖C1−C12アルキル基およびベンジルからなる群より選ばれ、M+xは医薬上許容されるカチオンであり、xはカチオンの原子価である。);
【化10】

(式中、Mは医薬上許容される金属、またはxが少なくとも2の場合、異なる2種の医薬上許容される金属の混合物であり、Lは(R12N−N22)とは異なる配位子であり、少なくとも1つの金属に結合しており、R1およびR2はそれぞれ有機部位であり、それらは同一または異なっていてよく、xは1〜10の整数であり、x’は金属Mの形式的な酸化状態を示し、1〜6の整数であり、yは1〜18の整数であり、yが少なくとも2の場合、配位子Lは同一または異なっていてもよく、zは1〜20の整数であり、Kは化合物を必要な程度まで中性にする医薬上許容される対イオンである。);
【化11】

(式中、RはC2-8低級アルキル、フェニル、ベンジルまたはC3-8シクロアルキルであり、R基のいかなるものも1〜3個の置換基で置換されていてもよく、その置換基は同一または異なっていて、ハロゲン、ヒドロキシ、C1-8アルコキシ、−NH2、−C(O)NH2、−CH(O)、−C(O)OHおよび−NO2からなる群より選ばれ、Xは医薬上許容されるカチオン、医薬上許容される金属中心、またはC1-8低級アルキル、−C(O)CH3および−C(O)NH2からなる群より選ばれる医薬上許容される有機基であり、yは1〜3であり、Xの原子価と一致する。);および
【化12】

〔式中、R1およびR2は独立して、C1-12直鎖アルキル、アルコキシまたはアシルオキシで置換されたC1-12直鎖アルキル、ヒドロキシまたはハロゲン置換されたC2-12直鎖アルキル、C3-12分枝鎖アルキル、ヒドロキシ、ハロゲン、アルコキシまたはアシルオキシで置換されたC3-12分枝鎖アルキル、置換されていないか、またはヒドロキシ、アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはベンジルで置換されているC3-12直鎖およびC3-12分枝鎖オレフィンから選ばれるか、あるいはR1およびR2がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基、好ましくはピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノまたはモルホリノ基を形成し、R3は、置換されていないか、またはヒドロキシ、ハロゲン、アシルオキシまたはアルコキシで置換されているC1-12直鎖およびC3-12分枝鎖アルキル、置換されていないか、またはハロゲン、アルコキシ、アシルオキシまたはヒドロキシで置換されているC2-12直鎖またはC3-12分枝鎖オレフィン、置換されていないかまたは置換されているC1-12アシル、スルホニルおよびカルボキサミドから選ばれる基、あるいはR3は式−(CH2n−ON=N(O)NR12(式中、nは2〜8の整数であり、R1およびR2は上記に定義した通り)である。〕
【請求項3】
当該[N22]官能基が、式IIIの化合物からのもので、Bは置換されたピペラジン部位
【化13】

である請求項2記載の高分子組成物。
【請求項4】
当該[N22]官能基が、式Vの化合物からのもので、R1およびR2がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基を形成するようにR1およびR2が選ばれる請求項2記載の高分子組成物。
【請求項5】
複素環基がピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノおよびモルホリノからなる群より選ばれる請求項4記載の高分子組成物。
【請求項6】
当該[N22]官能基が、式VIIIの化合物からのもので、複素環基がピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノおよびモルホリノからなる群より選ばれる請求項2記載の高分子組成物。
【請求項7】
当該官能基の部位Xが多糖鎖のペンダント基の一部である請求項1記載の高分子組成物。
【請求項8】
多糖と、
【化14】

(ここで、Xは当該
【化15】

に結合している部位である)からなる群より選ばれるニトリックオキサイド放出[N22]官能基を含む化合物との共沈生成物を含有する、ニトリックオキサイド放出が可能な高分子組成物。
【請求項9】
当該[N22-]官能基が、次のI、II、III、IV、V、VI、VIIおよびVIIIからなる群より選ばれる式の化合物に含まれている請求項8記載の高分子組成物。
【化16】

〔式中、Jは有機または無機部位であり、M+xは医薬上許容されるカチオン(式中、xはカチオンの原子価である)であり、aは1または2であり、bおよびcは中性化合物を与える最も小さい整数である。〕;
【化17】

(式中、bおよびdは同一または異なって0または1であり、R1、R2、R3、R4およびR5は同一または異なって水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、x、yおよびzは同一または異なって2〜12の整数である。);
【化18】

(式中、Bは
【化19】

であり、R6およびR7は同一または異なって水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、fは0〜12の整数であり、ただしBが置換されたピペラジン部位
【化20】

の場合、fは2〜12の整数である。);
【化21】

(式中、R8は水素、C3-8シクロアルキル、C1-12直鎖または分枝鎖アルキル、ベンジル、ベンゾイル、フタロイル、アセチル、トリフルオロアセチル、p−トルイル、t−ブトキシカルボニルまたは2,2,2−トリクロロ−t−ブトキシカルボニルであり、R9は水素またはC1−C12直鎖または分枝鎖アルキルであり、gは2〜6である。);
【化22】

(式中、R1およびR2は独立してC1−C12直鎖または分枝鎖アルキルおよびベンジルからなる群より選ばれ、M+xは医薬上許容されるカチオンであり、xはカチオンの原子価である。);
【化23】

(式中、Mは医薬上許容される金属、またはxが少なくとも2の場合、異なる2種の医薬上許容される金属の混合物であり、Lは(R12N−N22)とは異なる配位子であり、少なくとも1つの金属に結合しており、R1およびR2はそれぞれ有機部位であり、それらは同一または異なっていてよく、xは1〜10の整数であり、x’は金属Mの形式的な酸化状態を示し、1〜6の整数であり、yは1〜18の整数であり、ただし、yが少なくとも2の場合、配位子Lは同一または異なっていてもよく、zは1〜20の整数であり、Kは化合物を必要な程度まで中性にする医薬上許容される対イオンである。);
【化24】

(式中、RはC2-8低級アルキル、フェニル、ベンジルまたはC3-8シクロアルキルであり、R基のいかなるものも1〜3個の置換基で置換されていてもよく、その置換基は同一または異なっていて、ハロゲン、ヒドロキシ、C1-8アルコキシ、−NH2、−C(O)NH2、−CH(O)、−C(O)OHおよび−NO2からなる群より選ばれ、Xは医薬上許容されるカチオン、医薬上許容される金属中心、またはC1-8低級アルキル、−C(O)CH3および−C(O)NH2からなる群より選ばれる医薬上許容される有機基であり、yは1〜3の整数であり、Xの原子価と一致する。);および
【化25】

〔式中、R1およびR2は独立して、C1-12直鎖アルキル、アルコキシまたはアシルオキシで置換されたC1-12直鎖アルキル、ヒドロキシまたはハロゲン置換されたC2-12直鎖アルキル、C3-12分枝鎖アルキル、ヒドロキシ、ハロゲン、アルコキシまたはアシルオキシで置換されたC3-12分枝鎖アルキル、置換されていないか、またはヒドロキシ、アルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはベンジルで置換されているC3-12直鎖または分枝鎖オレフィンから選ばれるか、あるいはR1およびR2がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基を形成し、R3は、置換されていないか、またはヒドロキシ、ハロゲン、アシルオキシまたはアルコキシで置換されているC1-12直鎖およびC3-12分枝鎖アルキル、置換されていないか、またはハロゲン、アルコキシ、アシルオキシまたはヒドロキシで置換されているC2-12直鎖またはC3-12分枝鎖オレフィン、置換されていないかまたは置換されているC1-12アシル、スルホニルおよびカルボキサミドから選ばれる基、あるいはR3は式−(CH2n−ON=N(O)NR12(式中、nは2〜8の整数であり、R1およびR2は上記に定義した通り)である。〕
【請求項10】
当該化合物が式IIIの化合物であり、Bは置換されたピペラジン部位
【化26】

である請求項9記載の高分子組成物。
【請求項11】
当該化合物が式Vの化合物であり、R1およびR2がそれらが結合している窒素原子と共に複素環基を形成するようにR1およびR2が選ばれる請求項9記載の高分子組成物。
【請求項12】
複素環基がピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノおよびモルホリノからなる群より選ばれる請求項11記載の高分子組成物。
【請求項13】
当該化合物が式VIIIの化合物であり、複素環基がピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノおよびモルホリノからなる群より選ばれる請求項9記載の高分子組成物。

【公開番号】特開2010−111675(P2010−111675A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−281020(P2009−281020)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願平8−531128の分割
【原出願日】平成8年4月10日(1996.4.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502151152)アメリカ合衆国 (3)
【出願人】(509340322)ユニヴァーシティ オヴ アクロン (1)
【Fターム(参考)】