説明

多糖類の処理剤

【課題】室温付近でセルロース等の各種多糖類を溶解することが可能であり、かつ、粘度が低く液体としての取扱い性および被処理物の処理性の良好な多糖類の処理剤を提供すること。
【解決手段】式(1)で示されるイミダゾリウム系カチオンおよび(CH3O)(R3)PO2-(R3は、水素原子、メチル基、またはメトキシ基を示す。)から構成されるイオン液体からなる多糖類の処理剤。


(式中、R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類の処理剤に関し、さらに詳述すると、ジアルキルイミダゾリウム系カチオンと、リン酸系アニオンとからなる多糖類の処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン液体に、セルロース、絹、ウール等の高分子物質が溶解することが知られている(非特許文献1:JACS, 2002, vol.124, p.4274-4275、非特許文献2:JACS, 2004, vol.126, p.14350-14351、非特許文献3:Green Chem., 2005, vol.7, p.606-608参照)。
中でも、セルロースについては、セルロースのイオン液体溶液を利用した再生や、化学修飾、表面処理などが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1(特表2005−506401号公報)には、実質的に水を含まない1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドなどのイオン液体中にセルロースを溶解させてセルロース溶液を調製し、これに水を加えてセルロースを再生させる方法が開示されている。
特許文献2(国際公開第2005/054298号パンフレット)には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドに代表されるイオン液体にセルロースを溶解し、セルロースの水酸基をエーテル化する手法が開示されている。
特許文献3(特表2005−530910号公報)には、イオン液体を含む布地処理剤で処理されたセルロース系布地は、機能的または美観的に優れた外観を示し、繊維強化効果が発揮され得ることが開示されている。
【0004】
特許文献4(特開2002−3478号公報)には、窒素原子上にアルコキシアルキル基を有するイミダゾリウム系イオン液体が、合成高分子、蛋白質、多糖、糖誘導体の溶解能を有することが開示されている。
特許文献5(特開2006−137677号公報)には、カルボン酸系アニオンを有する高極性非ハロゲン系イオン液体が、セルロース、キチン、キトサン等の難溶性多糖類の溶解能を有することが開示されている。
【0005】
しかしながら、上記各文献に開示されているような、セルロース等の多糖類の溶解能を有するイオン液体のほとんどが室温で固体であるため、多糖類を室温で処理することは困難である。このため、イオン液体が溶融するような比較的高い温度で処理する必要があり、エネルギーコストが大きくなるという問題がある。しかも、処理温度を高くすると、被処理物である多糖類の分子量が著しく低下し、その結果、処理後の多糖類の物性が低下するという問題もある。
また、従来のイオン液体は、粘度が高いため、液体としての取扱い性に劣るうえに、被処理物との接触およびその後の被処理物内部への浸透などに時間を要するという問題もある。
【0006】
なお、特許文献6(仏国特許出願公開第2486079号明細書)には、イミダゾリウムカチオンと、特定のリン酸系アニオンとからなるイオン液体が開示されているが、このイオン液体がセルロースなどの溶解能を有することについては開示されていない。
【0007】
【特許文献1】特表2005−506401号公報
【特許文献2】国際公開第2005/054298号パンフレット
【特許文献3】特表2005−530910号公報
【特許文献4】特開2002−3478号公報
【特許文献5】特開2006−137677号公報
【特許文献6】仏国特許出願公開第2486079号明細書
【非特許文献1】JACS, 2002, vol.124, p.4274-4275
【非特許文献2】JACS, 2004, vol.126, p.14350-14351
【非特許文献3】Green Chem., 2005, vol.7, p.606-608
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、室温付近でセルロース等の各種多糖類を溶解することが可能であり、かつ、粘度が低く液体としての取扱い性および被処理物の処理性の良好な多糖類の処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ジアルキルイミダゾリウム系カチオンと、リン酸系アニオンとからなるイオン液体が、30℃付近の温度で液体であり、かつ、この温度で比較的低粘度であること、および30℃付近でセルロースなどの多糖類を溶解し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で示されるイミダゾリウム系カチオンおよび(CH3O)(R3)PO2-(R3は、水素原子、メチル基、またはメトキシ基を示す。)から構成されるイオン液体からなることを特徴とする多糖類の処理剤、
【化1】

(式中、R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を示す。)
2. 前記R1およびR2が、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖アルキル基である1の多糖類の処理剤、
3. 前記イミダゾリウム系カチオンが、式(2)で示される2の多糖類の処理剤、
【化2】

4. 表面処理剤、膨潤剤または溶解剤である1〜3のいずれかの多糖類の処理剤、
5. 1〜4のいずれかの多糖類の処理剤を用いる多糖類の処理方法、
6. 1〜4のいずれかの多糖類の処理剤に、1種または2種以上の多糖類が溶解してなるドープ、
7. 6のドープから再生された多糖類、
8. 6のドープに、前記イオン液体に相溶し、かつ、前記多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体を加え、または6のドープを、前記イオン液体に相溶し、かつ、前記多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体に加えることを特徴とする再生多糖類の製造方法、
9. 式(1)で示されるイミダゾリウム系カチオンと、(CH3O)(CH3)PO2-、または(CH3O)2PO2-とからなることを特徴とするイオン液体、
【化3】

(式中、R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を示す。)
10. 前記R1およびR2が、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖アルキル基である9のイオン液体、
11. 前記イミダゾリウム系カチオンが、式(2)で示される9または10のイオン液体
【化4】

を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る多糖類の処理剤は、ジアルキルイミダゾリウム系カチオンと、リン酸系アニオンとから構成されており、室温付近で液体状態を示し、かつ、低粘度である。したがって、本発明の多糖類の処理剤を用いることで、従来のイオン液体では不可能であった室温付近での多糖類の処理が可能となる。
また、本発明の多糖類の処理剤は、粘度が低いことから取扱い性に優れるばかりでなく、セルロースをはじめとする各種多糖類の溶解性に優れるとともに、セルロースを溶解した場合の分子量低下がほとんどない。
さらに、本発明の多糖類の処理剤は、各種多糖類の溶解能を有しているため、この多糖類の処理剤と複数種の多糖類とを含むドープを調製し、これから、多糖類を再生させることで、従来にないブレンド物の調製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る多糖類の処理剤は、式(1)で示されるイミダゾリウム系カチオンおよび(CH3O)(R3)PO2-(R3は、水素原子、メチル基、またはメトキシ基を示す。)から構成されるイオン液体からなるものである。
一般的にイオン液体とは、100℃以下で流動性があり、完全にイオンから成る液体をいうが、本発明の多糖類の処理剤を構成するイオン液体は30℃で液状である。
【0013】
【化5】

(式中、R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を示す。)
【0014】
式(1)において、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、n−ペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
これらの中でも、多糖類の溶解・膨潤能を高めるため、および化合物の融点を下げるという観点から、炭素数1〜8の直鎖アルキル基が好ましく、特に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の炭素数1〜5の直鎖アルキル基が好適である。
【0015】
また、化合物の融点を低くするという観点から、カチオンとして非対称な形状であること、すなわち、R1およびR2が異なるアルキル基であることが好ましい。この場合、原料の入手が容易であり、合成も簡便であることから、R1およびR2どちらか一方がメチルまたはエチル基であることが、特に好適である。
具体的なカチオンとしては、1−メチル−3−(n−ペンチル)イミダゾリウムイオン、1−(n−ブチル)−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−n−プロピルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン(式(2))などが挙げられる。
【0016】
【化6】

【0017】
本発明の多糖類の処理剤において、イオン液体を構成するアニオンは、(CH3O)(R3)PO2-(R3は、水素原子、メチル基、またはメトキシ基を示す。)であるが、セルロースなどの多糖類の溶解能に優れ、低粘度のイオン液体を与えることから、R3は、水素原子またはメトキシ基であることが好ましい。
上記イオン液体は、1種単独で、または2種以上混合して多糖類の処理剤とすることができる。
【0018】
本発明の多糖類の処理剤は、各種多糖類の表面処理剤、溶解剤、膨潤剤などとして好適に用いることができる。
本発明において、溶解とは、多糖類が媒体中に均一相として存在するように視認されることをいう。膨潤とは、媒体が多糖類の凝集分子鎖中に浸入し、分子鎖同士の相互作用が緩和されているが、完全に分子鎖の凝集が解かれるまでには至っていない状態をいう。
【0019】
多糖類の処理剤の粘度は、低い程好ましいが、処理剤の多糖類への浸透の容易さや、液体としての取扱いの容易さ、連続工程の場合に洗浄層への処理剤の混入を少なくすることなどを考慮すると、30℃で500mPa・s以下であることが好ましく、400mPa・s以下がより好ましく、200mPa・s以下であることが好適である。
なお、本発明の多糖類の処理剤には、その効果を発現させる限度においてその他の成分を添加することもできる。その他の成分としては、香料、染料、撥水剤、撥油剤、抗菌剤、防カビ剤などが挙げられる。
【0020】
本発明の多糖類の処理剤で処理される多糖類としては、上述したイオン液体に溶解または膨潤するものであり、例えば、セルロース、ヘミセルロース、グリコーゲン、デンプン、キチン、キトサン、アガロース、カラギーナンなどが挙げられる。
セルロースとしては、植物由来セルロース、動物由来セルロース、バクテリア由来セルロース、再生セルロースが挙げられる。具体的には、綿、麻、竹、バナナ、月桃、ハイビスカスローゼル、ケナフ、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、レーヨン、キュプラ、テンセル、イオン液体による再生セルロースなどが挙げられ、イオン液体に溶解,膨潤し得る限り、それらの誘導体でもよい。誘導体としては、例えばセルロースの水酸基をエーテル化またはエステル化した誘導体や、シアノエチル化した誘導体などが挙げられる。
なお、セルロースの結晶構造は任意であり、I型、II型、III型、IV型、非晶のいずれか1つの構造またはそれらの組合せからなる構造を有するセルロースを採用できる。また、セルロースの結晶化度に関わらず用いることができる。
上記多糖類の構造は任意であり、糸,織物,編物,不織布,紙等の繊維構造物、フィルム、ビーズ、板、ブロックなどの各種構造を採用できる。
【0021】
また、本発明の多糖類の処理剤で処理される多糖類は、当該処理剤に溶解または膨潤しない物質を含んでいてもよい。
このような物質としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアミド(ナイロン)、ポリスチレンなどの高分子化合物や、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、ロックウールなどが挙げられる。
なお、これらの物質の含有量は任意であるが、多糖類全体に対して、5〜95質量%程度が好適である。
【0022】
以上で説明した多糖類の処理剤を用いた多糖類の処理方法は、当該処理剤を、多糖類または多糖類を含む被処理物と接触させて、(被処理物中の)多糖類を膨潤または溶解させたり、表面処理したりするものである。
接触方法としては特に制限はなく、当該処理剤中へ多糖類(被処理物)を浸漬させたり、当該処理剤を含む槽内に多糖類(被処理物)を通過させたりする方法や、多糖類(被処理物)へ当該処理剤を噴霧する方法などが挙げられる。
【0023】
接触時間は、所望の効果に応じて適宜決定すればよく、例えば、多糖類を、本発明の処理剤と長時間接触させることにより、多糖類は、その内部まで膨潤や溶解し、一方、当該処理剤と短時間接触させることにより、多糖類は、その表面近傍のみが膨潤や溶解する。一般的には、0.01秒から180分間程度の範囲で適宜調節すればよい。
接触温度は、多糖類の処理剤が液体状である温度領域であればよい。本発明の多糖類の処理剤は30℃で液体であることから、加熱なしに多糖類(被処理物)の処理が可能でエネルギー的に有利である。具体的には、0〜100℃程度が好ましく、20〜60℃程度がより好ましい。
【0024】
接触処理後の多糖類(処理物)に残存した多糖類の処理剤は、この処理剤と相溶でかつ処理後の多糖類を溶解・膨潤させない溶液で洗浄することで容易に除去することができる。
このような溶媒としては、例えば、水、メタノール,エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、クロロホルム等が挙げられる。
接触処理および必要に応じて行われる洗浄処理後、処理後の多糖類(処理物)を適宜乾燥させればよい。乾燥手法は任意であり、公知の各種方法を用いることができる。具体例としては、ヒートドラム、熱風、赤外線、天日による方法などが挙げられる。
【0025】
本発明に係るドープは、上述したイオン液体からなる多糖類の処理剤と、多糖類とを含み、多糖類がイオン液体に溶解しているものである。この場合、多糖類は2種以上用いてもよい。
このドープ中の多糖類の含有量は、使用する多糖類の種類にもよるため一概には規定できないが、本発明のドープにおいては、0.1〜50質量%程度とすることができる。
本発明のドープの調製法は特に限定されるものではなく、上述したイオン液体に多糖類を添加・溶解して調製しても、多糖類にイオン液体を添加・溶解して調製してもよい。
なお、溶解時に適宜加熱してもよい。
【0026】
本発明のドープを用いることで再生多糖類を製造することができ、特に2種以上の多糖類を含むドープの場合には、これら各多糖類のブレンド物を製造することができる。既に述べたように、本発明のイオン液体は、室温付近で液体状であるとともに粘度が低く、多糖類をより低温で溶解し得、多糖類の物性低下などを起こしにくいものであるため、各種多糖類の物性の低下が抑制されたブレンド物を容易に得ることができる。
【0027】
再生多糖類や、ブレンド物を製造する具体的手法としては、イオン液体に相溶し、かつ、多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体を本発明のドープに加えたり、イオン液体に相溶し、かつ、多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体に本発明のドープを加えたりすることで再生多糖類やブレンド物を系内で析出させる手法が挙げられる。
【0028】
ここで、イオン液体に対して相溶し、かつ、多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体の具体例としては、水、メタノール,エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル類、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、クロロホルムなどが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、水、アルコール類が好ましく、環境面を配慮すると水がより好ましい。
なお、「多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体」とは、多糖類を全く溶解しない媒体という意味ではなく、本発明のドープに加え、その添加量を臨界量以上に増大させた場合に多糖類やそのブレンド物を析出させることが可能な媒体を意味する。
【0029】
本発明のドープと上記媒体との使用割合は、多糖類が析出してくる割合であれば任意であり、また使用する媒体によっても変動するものであるため一概に規定することはできないが、効率的に多糖類を析出させるためには、媒体/ドープの液量比は1以上が好ましく、2以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。
なお、ドープ中に媒体を加える方法、媒体中にドープを加える方法は任意である。
【0030】
再生多糖類やブレンド物の形態は、特に限定されるものではなく、粉状、粒状、塊状、綿状、短繊維状、長繊維状、棒状、スポンジ状、フィルム状等の各種形状とすることができる。
たとえば、ドープを上記媒体に加える手法では、Tダイなどを通してドープを媒体中に押し出すなどにより、フィルム状や、長繊維状の再生多糖類やブレンド物を連続的に得ることもできる。
【実施例】
【0031】
以下、合成例および実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例におけるイオン液体の構造確認は、1H−NMRおよび13C−NMR(日本電子(株)製、ECX−400)を用いて行い、粘度測定は、Brookfield DV-I + Viscometerを用いて行った。
また、イオン液体に添加したセルロース(粉末)が溶解したことは、目視により、セルロース(粉末)が分散混合した状態から均一透明な溶液になることで判断した。
【0032】
[1]イオン液体の合成
[合成例1]
N−エチルイミダゾール(東京化成工業(株)製)12gと、小過剰モル量のトリメチルリン酸(東京化成工業(株)製)とをアルゴン雰囲気下、25℃で混合した。反応溶液を60℃に加熱し、この温度で24時間攪拌した。反応後に減圧下で未反応のトリメチルリン酸を留去し、得られた溶液をジエチルエーテル(関東化学(株)製)300mlに滴下し、1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、上澄みのジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去し、無色透明の液体を得た。得られた液体を80℃で24時間の加熱真空乾燥を行い、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ジメチルリン酸塩([C2mim][(MeO)2PO2])27gを得た。このイオン液体の30℃での粘度は、182mPa・sであった。
合成例1で得られたイオン液体の1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルを図1,2に示す。なお、測定は、重クロロホルムを溶媒として行った(以下、同様)。
【0033】
[合成例2]
N−エチルイミダゾール(東京化成工業(株)製)12gと、小過剰モル量のジメチル亜リン酸(東京化成工業(株)製)とをアルゴン雰囲気下、25℃で混合した。反応溶液を70℃に加熱し、この温度で24時間攪拌した。反応後に減圧下で未反応のトリメチルリン酸を留去し、得られた溶液をジエチルエーテル(関東化学(株)製)300mlに滴下し、1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、上澄みのジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去し、無色透明の液体を得た。得られた液体を80℃で24時間の加熱真空乾燥を行い、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチル亜リン酸塩([C2mim][(MeO)(H)PO2])24gを得た。このイオン液体の30℃での粘度は、77mPa・sであった。
合成例2で得られたイオン液体の1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルを図3,4に示す。
【0034】
[合成例3]
N−エチルイミダゾール(東京化成工業(株)製)12gと、小過剰モル量のジメチルメチルホスホン酸(東京化成工業(株)製)とをアルゴン雰囲気下、25℃で混合した。反応溶液を110℃に加熱し、この温度で72時間攪拌した。反応後に減圧下で未反応のジメチルメチルホスホン酸を留去し、得られた溶液をジエチルエーテル(関東化学(株)製)300mlに滴下し、1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、上澄みのジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去した。沈殿物にさらにジエチルエーテル300mlを添加して1時間激しく攪拌した。攪拌後に1時間静置し、ジエチルエーテル層を除去し、無色透明の液体を得た。得られた液体を80℃で24時間の加熱真空乾燥を行い、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチルジメチルホスホン酸塩([C2mim][(MeO)(Me)PO2])25gを得た。このイオン液体の30℃での粘度は、331mPa・sであった。
合成例3で得られたイオン液体の1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルを図3,4に示す。
【0035】
[2]セルロースの溶解実験(ドープの調製)
[実施例1]
合成例1で得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ジメチルリン酸塩([C2mim][(MeO)2PO2])を、1gずつ4つの容器に分取し、窒素雰囲気下で4、6、8、10質量%量のセルロース(Aldrich社製、微結晶セルロース(Micro Crystalline Cellulose)、分子量=重合度200〜300)と個々に混合し、密閉した。
25℃から5℃毎に加熱し、各温度で30分間攪拌しながらセルロースの溶解温度を記録した。その結果、4、6、8、10質量%量のセルロース(粉末)が完全に溶解する温度はそれぞれ、50、55、60、65℃であった。
【0036】
[実施例2]
合成例2で得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチル亜リン酸塩([C2mim][(MeO)(H)PO2])を1gずつ4つの容器に分取し、窒素雰囲気下で4、6、8、10質量%量のセルロース(Aldrich社製、微結晶セルロース(Micro Crystalline Cellulose)、分子量=重合度200〜300)と個々に混合し、密閉した。
25℃から5℃毎に加熱し、各温度で30分間攪拌しながらセルロースの溶解温度を記録した。その結果、4、6、8、10質量%量のセルロース(粉末)が完全に溶解する温度はそれぞれ、30、35、40、45℃であった。
【0037】
[実施例3]
合成例3で得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチルジメチルホスホン酸塩([C2mim][(MeO)(Me)PO2])を1gずつ4つの容器に分取し、窒素雰囲気下で4、6、8、10質量%量のセルロース(Aldrich社製、微結晶セルロース(Micro Crystalline Cellulose)、分子量=重合度200〜300)と個々に混合し、密閉した。
25℃から5℃毎に加熱し、各温度で30分間攪拌しながらセルロースの溶解温度を記録した。その結果、4、6、8、10質量%量のセルロース(粉末)が完全に溶解する温度はそれぞれ、40、45、50、55℃であった。
【0038】
[実施例4]
合成例1、2、3で得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ジメチルリン酸塩([C2mim][(MeO)2PO2])、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチル亜リン酸塩([C2mim][(MeO)(H)PO2])、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム メチルジメチルホスホン酸塩([C2mim][(MeO)(Me)PO2])をそれぞれ1g分取し、窒素雰囲気下で4質量%量のセルロース(Aldrich社製、微結晶セルロース(Micro Crystalline Cellulose)、分子量=重合度200〜300)を混合し、密閉した。
混合溶液を25℃で攪拌し、セルロースが完全に溶解するまでの時間を記録した。その結果、4質量%量のセルロース(粉末)が25℃で完全に溶解する時間はいずれも5時間であった。
【0039】
[3]セルロースの再生
[実施例5]
実施例1〜3で調製した微結晶セルロースを10質量%量溶解した各種イオン液体溶液に、過剰量のメタノールまたはエタノールを添加し、氷浴中で攪拌した。沈殿物(再生セルロース)を分取したあと、過剰量の温メタノールまたは温エタノールで繰り返し洗浄した。得られた粉末を室温で風乾し、更に減圧下室温で12時間乾燥し、再生セルロースを得た。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】合成例1で得られたイオン液体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】合成例1で得られたイオン液体の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】合成例2で得られたイオン液体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】合成例2で得られたイオン液体の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】合成例3で得られたイオン液体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】合成例3で得られたイオン液体の13C−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるイミダゾリウム系カチオンおよび(CH3O)(R3)PO2-(R3は、水素原子、メチル基、またはメトキシ基を示す。)から構成されるイオン液体からなることを特徴とする多糖類の処理剤。
【化1】

(式中、R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記R1およびR2が、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖アルキル基である請求項1記載の多糖類の処理剤。
【請求項3】
前記イミダゾリウム系カチオンが、式(2)で示される請求項2記載の多糖類の処理剤。
【化2】

【請求項4】
表面処理剤、膨潤剤または溶解剤である請求項1〜3のいずれか1項記載の多糖類の処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の多糖類の処理剤を用いる多糖類の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の多糖類の処理剤に、1種または2種以上の多糖類が溶解してなるドープ。
【請求項7】
請求項6記載のドープから再生された多糖類。
【請求項8】
請求項6記載のドープに、前記イオン液体に相溶し、かつ、前記多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体を加え、または請求項6記載のドープを、前記イオン液体に相溶し、かつ、前記多糖類の溶解能を実質的に有しない媒体に加えることを特徴とする再生多糖類の製造方法。
【請求項9】
式(1)で示されるイミダゾリウム系カチオンと、(CH3O)(CH3)PO2-、または(CH3O)2PO2-とからなることを特徴とするイオン液体。
【化3】

(式中、R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を示す。)
【請求項10】
前記R1およびR2が、互いに同一でも異なっていてもよい、炭素数1〜8の直鎖アルキル基である請求項9記載のイオン液体。
【請求項11】
前記イミダゾリウム系カチオンが、式(2)で示される請求項9または10記載のイオン液体。
【化4】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−132558(P2010−132558A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67933(P2007−67933)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】