説明

多糖類組成物、乳化剤、増粘剤、増粘乳化剤、離水防止剤、食品、多糖類組成物の製造方法

【課題】アラビアガムの代替品となる食品素材を提供する。
【解決手段】
担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞を培養し、有機溶媒を添加し沈殿させて得るゼリー状物質を乳化剤、増粘剤、及び離水防止剤として用いる。有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ヘキサンのいずれかを培養液の体積比で2倍以上加え、沈殿物を用いる。また、担子菌類はスッポンタケ、サンコタケ、カゴタケ、ツマミタケ、シラタマタケのいずれかであり、子嚢菌類は、ゴムタケ、オオゴムタケのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類組成物、乳化剤、増粘剤、増粘乳化剤、離水防止剤、食品、多糖類組成物の製造方法に係り、特に担子菌類又は子嚢菌類を用いた多糖類組成物、乳化剤、増粘剤、増粘乳化剤、離水防止剤、食品、多糖類組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の天然志向が高まり、化学合成物質を用いた食品素材よりも、天然素材を用いた食品素材が好まれるようになった。
このため、食品素材の一種として用いられる乳化剤も天然素材が好まれるようになった。乳化剤は、極性又は無極性の液体を混合して分散するための加工に使用する添加物である。食品添加物として用いられる乳化剤は、マヨネーズに用いられるレシチンのように水と油を混合させるものがあり、タンパク質と水を混和させるものも存在する。
しかしながら、乳化剤の原料となる天然素材は種類が少なく、低分子ではレシチン、高分子ではカゼイン、ホエイ、ゼラチン、大豆タンパク等が用いられるだけであった。
また、耐酸性や耐塩性等、食品の品質に直結する機能を兼ね備えた高分子の乳化剤の天然素材は、更に種類が少なかった。
【0003】
また、食品素材としては、少量の添加で食品の粘度を上げる、すなわち水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質である増粘剤、増粘安定剤がよく用いられている。
このような増粘剤としては、キサンタンガム、カラギナン、ペクチン等が用いられている。このうち、キタンサンガムは、澱粉等を、グラム陰性菌であるキサントモナス(Xanthomonas campestris)で発酵させて製造される増粘多糖類である。キタンサンガムの成分は、グルコース、マンノース、グルクロン酸等である。
【0004】
ここで、天然素材で乳化活性を持つ増粘多糖類として、アラビアガムが知られている。また乳化剤として用いられる天然素材のうち、多糖類を含むものはアラビアガムのみである。
アラビアガムはガラクトースが主鎖で、側鎖にアラビノース、ガラクトース、ラムノース、グルクロン酸を有する酸性多糖である。また、タンパク質も含まれていることが明らかにされている。
我が国のアラビアガムの国内需要は年間およそ1800トンで、そのうち約1500トンが食品に応用されている。アラビアガムは、主にアイスクリームやガムシロップに乳化剤や安定剤(離水防止剤)として利用されている。
アラビアガムは、アフリカのエチオピアからセネガルに分布するネムノキ科アカシア属のアラビアゴムノキから採取される。
したがって、原産国での自然災害や政情不安定などが原因で価格が高騰することが問題となっている。
【0005】
そのため、安価で安定に供給できる乳化活性を有する増粘剤がしばしば必要となる。
ここで、従来のアラビアガムの代替品として、特許文献1及び特許文献2を参照すると、大豆から抽出した乳化活性を有する多糖類の技術が開示されている(以下、従来技術1とする。)。
従来技術1の乳化剤は、食品をはじめ化粧品、トイレタリー製品、医薬品更には工業用途などの様々な分野において利用できる乳化剤組成物、特に酸性水中油型乳化物の製造に適した乳化剤組成物を提供することができる。
【0006】
一方で、担子菌類や子嚢菌類(キノコ)は古くから食品や漢方薬として利用されてきた。キノコの中には、子実体の幼菌時代にゼリー状の塊を有し、やがてそれが破れて子実体(カサと柄)が伸びるという特徴を持つものが存在する。このような菌の代表的な例として、担子菌(Basidiomycota)では、スッポンタケ目の菌が挙げられ、スッポンタケ(Phallus impudicus L.:Pers)、キヌガサダケ(Dictyophra indusiata(Vent.:Peris.) Fisch)、サンコタケ(黄色型)(Pseudocolus schellenbergiae (Sumst.) Johnson)、カゴタケ(Ileodictyon gracile Berk)が、ゼリー状の塊を生成する。
また、スッポンタケ目以外の子嚢菌・担子菌子実体のある種もゼリー状の塊を作ることが知られている。たとえば、担子菌類では、プロトファルス科のシラタマタケ(Kobayasia nipponica (Kobayasi) Imai et Kawam)も、ゼリー状の塊を生成する。また、子嚢菌類(Ascomycota)では、ゴムタケ(Bulgaria inquinans Fr.)、オオゴムタケ(Galiella celebica (P. Henn.) Nannf.)が同様にゼリー状の塊を生成する。
キヌガサダケは中国では宮廷料理にも用いられる高級キノコであり、スッポンタケも食茸である。
【0007】
ここで、非特許文献1を参照すると、近年、スッポンタケ目の二核細胞の培養液中にゼラチン様物質が生成することが見出され、効率的な培養条件が検討されている。
非特許文献1によると、このゼラチン様物質にはアミノ酸が含まれており、なおかつ見かけがゼリー状であるため、タンパク質が含まれていると考えられ、「ゼラチン様物質」と称していた。
また、非特許文献1では、多糖とタンパク質が共有結合していると考えられており、タンパク質:糖の重量比は8:2〜6:4であった。
【0008】
また、キノコの子実体には酸性多糖類が含まれていることが知られている。それらの酸性多糖類のうち、α−L−イズロン酸とβ−D−グルクロン酸が1:2の存在比で1−4結合している高分子多糖がスッポンタケ子実体から単離され、その分子量は凡そ15万であった(非特許文献2)。
【0009】
また、ゴムタケ子実体のゼラチン様物質中にはβ−1,6グルカンが含まれていることが明らかになっている(非特許文献3)。その分子量は凡そ2万6千である。
【0010】
また、微生物由来のβグルカンと既存の食品用タンパク質を混合した複合体が乳化安定性を有することが知られている。
すなわち、低分子食品用乳化剤によるエマルションの乳化を安定化させることが記述されているものの、βグルカン−食品用タンパク質複合体は、顕著な乳化力を有することはなかった(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−46851号公報
【特許文献2】特許4525592号公報
【特許文献3】特開2005−82517号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Siti Hajar Noor、横谷吾子、宮原敏郎、長尾一孝、「スッポンタケによるゼラチン様物質の発酵生産の効率化」、第61回日本生物工学会、日本、名古屋大学、、平成21年9月24日、平成21年度、、、。
【非特許文献2】Hiroshi Tsuchihashi, Toshio Yadomae, and Toshio Miyazaki、"Studies on Fungal Polysaccharides XXXI. Localization and structual analysis of a glycuronan from Phallus impudicus"、Trans. Mycol. Soc. Japan、Japan、、1982、23、、p.29−35.
【非特許文献3】Hongtao Bi, Xiuzhen Ni, Xiaoyu Liu, Jeff Iteku, Guihua Tai, Yifa Zhou, and Jimin Zhao, "A novel water−soluble β−(1−>6)−D−glucan isolated from the fruit bodies of Bulgaria inquinans (Fries).、Carbohydrate Res.、、、2009、344、、p.1254−1258.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来技術1を基に市販されている大豆多糖は、乳化をしやすくするために粘度を下げているため、増粘剤としての機能は小さかった。また、従来技術1の大豆多糖は、乳化能力がアラビアガムよりも優れているとはいえなかった。
また、非特許文献1に記載のスッポンタケ目の二核細胞の培養液中のゼラチン様物質は、そもそも組成が十分には分かっておらず、用途も知られていなかった。
このため、アラビアガムと同等かまたはそれ以上の乳化力及び増粘作用を兼ね備えた、天然由来の多糖類組成物が強く求められていた。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の多糖類組成物は、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞を培養し、培養液の体積比で2倍以上の有機溶媒を添加し沈殿させて得るゼリー状物質を用いたことを特徴とする。
本発明の多糖類組成物は、前記有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ヘキサンのいずれかであることを特徴とする。
また、本発明の多糖類組成物は、前記担子菌類は、スッポンタケ(Phallus impudicus L.:Pers)、キヌガサダケ(Dictyophra indusiata(Vent.:Peris.) Fisch)、サンコタケ(黄色型)(Pseudocolus schellenbergiae (Sumst.) Johnson)又は(赤色型)、カゴタケ(Ileodictyon gracile Berk)、ツマミタケ(Lysurus mokusin (L.:Pers.) Fr.)、シラタマタケ(Kobayasia nipponica (Kobayasi) Imai et Kawam)のいずれかであり、前記子嚢菌類は、ゴムタケ(Bulgaria inquinans Fr.)、オオゴムタケ(Galiella celebica (P. Henn.) Nannf.)のいずれかであることを特徴とする。
また、本発明の乳化剤は、前記多糖類組成物を用いたことを特徴とする。
また、本発明の増粘剤は、前記多糖類組成物を用いたことを特徴とする。
また、本発明の増粘乳化剤は、前記多糖類組成物を用いたことを特徴とする。
また、本発明の離水防止剤は、前記多糖類組成物を用いたことを特徴とする。
また、本発明の離水防止剤は、ゲル化剤を含むことを特徴とする。
また、本発明の食品は、前記多糖類組成物を用いたことを特徴とする。
また、本発明の食品は、油の質量に対して、前記多糖類組成物を2〜20質量%含むマヨネーズ風ドレッシングであることを特徴とする。
また、本発明の食品は、固体状食品の質量に対して、前記多糖類組成物を0.2〜5質量%含む耐冷凍性の嚥下食であることを特徴とする。
また、本発明の多糖類組成物の製造方法は、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞を液体培地で培養し、菌体を除去した培養液に有機溶媒を添加し、沈殿したゼリー状物質を乾燥・粉末化することを特徴とする。
また、本発明の多糖類組成物の製造方法は、前記液体培地は、ジャガイモ−グルコース培地、又はCY−1培地であり、グルコース2〜3質量%、ポリペプトン0.2〜0.3質量%を含み、前記培養の初発pHは6〜7、培養温度は25℃〜30℃であることを特徴とする。
また、本発明の多糖類組成物の製造方法は、分生子を形成する前記担子菌類又は前記子嚢菌類を、グルコースを炭素源とする無機塩培地で前記培養し、培養された種菌をCY−1培地で培養することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞のゼリー状物質を用いることで、アラビアガムと同等以上の乳化力および増粘作用を備えた多糖類組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明の実施の形態の実施例1に係る組成物の乳化実験の乳化当日の写真である。
【図1B】本発明の実施の形態の実施例1に係る組成物の乳化実験の一週間後の写真である。
【図2A】本発明の実施の形態の実施例1に係る組成物の通常法での粒度分布測定の結果を示すグラフである。
【図2B】本発明の実施の形態の実施例1に係る組成物の耐酸性での粒度分布測定の結果を示すグラフである。
【図2C】本発明の実施の形態の実施例1に係る組成物の耐塩性での粒度分布測定の結果を示すグラフである。
【図2D】本発明の実施の形態の実施例1に係る組成物の濃厚系での粒度分布測定の結果を示すグラフである。
【図3A】本発明の実施の形態の実施例2及び比較例4に係る粘度測定結果のグラフである。
【図3B】本発明の実施の形態の実施例1、3及び比較例5に係る粘度測定結果のグラフである。
【図4A】本発明の実施の形態の比較例8に係る解凍後の嚥下食漬け物の写真である。
【図4B】本発明の実施の形態の実施例8に係る解凍後の嚥下食漬け物の写真である。
【図5】本発明の実施の形態に係る実施例1〜3のO/Wエマルションに吸着しているタンパク質のSDS−pageの結果の写真である。
【図6A】本発明の実施の形態の実施例1と同様の通常沈殿物の中性での乳化実験の一週間後の写真である。
【図6B】本発明の実施の形態の実施例12に係る濃縮後沈殿物の中性での乳化実験の一週間後の写真である。
【図7A】本発明の実施の形態の実施例12に係る濃縮後沈殿物の耐酸性の乳化実験の一週間後の写真である。
【図7B】本発明の実施の形態の実施例12に係る濃縮後沈殿物の耐塩性の乳化実験の一週間後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の形態>
本発明者らは、種々の検討を行い、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液を、エタノール等の有機溶媒で沈殿させてろ過すると、容易にゼリー状の沈殿物質(以下、担子菌類又は子嚢菌類由来のゼリー状物質という。)が得られることを見いだした。
そして、本発明者らは、この担子菌類又は子嚢菌類由来のゼリー状物質が、きわめて強い乳化力及び増粘作用を有することを見出し、様々な実験を行った。そして、食品及び様々な製品に用いることができる乳化剤及び増粘剤として、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物を完成させた。
【0019】
具体的には、本発明者らは、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液をエタノールで沈殿させた組成物について鋭意研究を進め、この見かけがゼリー状の物質は、タンパク質と多糖の複合体であることを見いだした。
しかしながら、このゼリー状物質が糖を示すのか、タンパク質を示すのかは不明であった。
そこで、本発明者らが調べたところ、このゼリー状物質に含まれるタンパク質は、ゼラチンとはアミノ酸の組成比が異なっていた。また、このタンパク質は、ゲルろ過分析の結果から、分子量2000〜3000程度のものが主であると考えられた。
【0020】
この上で、本発明者らは、更に検討を重ねた結果、上述の担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液、特にスッポンタケからエタノールを加えて沈殿物を得た後、残りのろ液を濃縮してさらにエタノールを加えると、また沈殿が生じることを見いだした。その沈殿物は主にタンパク質であり、粘度が低かったが乳化力があることを明らかにした。
すなわち、本発明者らは、少なくともスッポンタケでは、タンパク質と多糖は共有結合していないことを明らかにし、多糖類組成物である本発明を完成させた。この実験結果についても、後述の実施例で示す。
【0021】
実際に、同様のゼリー状物質を産生するゴムタケのOil(油)/Water(水)エマルション(以下、O/Wエマルションという。)に吸着しているタンパク質の分析を行ったところ、SDS−page(SDS−polyaclylamidegel electrophoresis)にかけると、ゴムタケ培養産物においては吸着タンパク質の存在は確認できなかった。
すなわち、ゼリー状の物質の本体は多糖であり、高度な増粘性と乳化力を備えていることが分かった。なお、上述のスッポンタケの例のように、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、乳化作用のあるタンパク質を含んでいてもよい。
【0022】
そこで、本発明者らは、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から、この多糖を含み、菌種によっては乳化力のあるタンパク質を含めた沈殿を得るために、鋭意実験を行った。
結果として、本発明者らは、濾過等で菌体を除去した培養液に、有機溶媒を培養液の体積比で2倍程度の有機溶媒を添加させることで、上述の非特許文献1のゼラチン様物質よりも増粘性と乳化力が高い、多糖類組成物を得ることができることを見いだし、本発明を完成させた。この多糖類組成物は、上述したように、乳化力を高めるタンパク質を含ませることができる。なお、使用する担子菌類又は子嚢菌類の種類、培養液の種類、更には有機溶媒の種類に合わせて、適宜、加える有機溶媒の量を調整することが好適である。
また、培養液から沈殿物を得るために得るための有機溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ヘキサン等、食品添加物にも用いられる安全な有機溶媒を用いることができる。この際、特にエタノールを用いることで、安全に、乳化・増粘作用を阻害することなく沈殿物を得ることができる。
なお、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、菌体内よりも、培養液中に多く溶解存在している。このため、菌体より直接取得しても僅かしか得られない。よって、菌体を除去することで、より効率的に本実施形態に係る多糖類組成物を得ることができる。
【0023】
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、乳化あるいは増粘が必要とされる様々な食品を含む各種製品への添加効果が期待できる、有用な天然食品由来の乳化・増粘剤として、安定的に供給できる。これにより、アラビアガムの代替となる安全な乳化剤・増粘剤を提供することができる。
また、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、冷凍した食品を含む各種製品の解凍時の離水を抑える離水抑制剤としても用いることができる。
【0024】
本発明実施の形態に係る多糖類組成物は、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞が培養液中に生産するゼリー状物質を抽出し、これを用いる乳化剤及び増粘剤である。
このようなゼリー状物質を産生する性質を有する担子菌類としては、食用に用いられるスッポンタケ、キヌガサダケ、サンコタケ、カゴタケ、ツマミタケ、シラタマタケを用いることができる。また、子嚢菌類としては、ゴムタケ、オオゴムタケを用いることができる。また、サンコタケに関しては、サンコタケ(黄色型)と(紅色型)のいずれも用いることができる。
【0025】
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞の培養液から得られるゼリー状物質を、培養液の体積比で2倍以上の有機溶媒を加えて沈殿させ、当該沈殿物を乾燥させた粉末を用いることが好適である。この粉末は、食品用の油を乳化でき、しかも増粘作用、及び解凍時の離水抑制作用も有する。よって、卵を用いないマヨネーズや、嚥下食用冷凍食品なども調製できる、優れた食品用乳化・増粘剤となる。
また、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物を用いた食品として、これらゼリー状物質を用いて乳化あるいは増粘させることを特徴とする乳化食品又は増粘食品の製造法も提供する。
【0026】
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物の具体的な製造方法としては、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞の培養タンクに、通気性の良いものを用いることが望ましい。この培養タンクの素材としては、ガラス製やステンレス製等、どのような素材を用いても良い。
【0027】
本発明の実施の形態に係る担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞の培養に用いる培地は種類によって異なるが、例えばサンコタケの場合、GM寒天培地(グルコース無機塩寒天培地)で二核細胞・有性細胞を培養し、それを種菌としてCY−1培地で液体培養し、多糖生産を行う。15日〜20日間の培養(100mLスケール)にて、2gのグルコースから100〜150mgの多糖生産が可能である。
スッポンタケの場合、ジャガイモ−グルコース培地、またはCY−1培地で液体培養する方法が好適である。また、CY−1培地100mLあたり、グルコース2〜3g、ポリペプトン0.2〜0.3gを使用して培養することが好適である。
培養条件としては、初発pHは6〜7が最適である。温度は25℃〜30℃が好適である。培養時間は通常20日〜35日ほど必要であるが、繰り返し回分培養が可能な種においては、繰り返し回分培養後の培養日数は7日〜14日くらいに短縮される。この回分培養の実際の収率は、例えば、スッポンタケの三角フラスコ培養の場合30℃、30日培養、培地CY−1(100mL)、炭素源(グルコース)2%(w/v)の場合:エタノール沈殿での生成物は430mg(グルコース当たりの収率:21.5%(w/w))であり、これを使って回分培養すると、30℃、15日培養、培地100mLにおいて、CY−1培地、グルコース2%、及びポリペプトン0.2%の培養条件では、エタノール沈殿での生成物は331mg得られた。CY−1培地、グルコース3%、及びポリペプトン0.3%の培養条件では、エタノール沈殿での生成物は515mg得られており、少なくとも3回は繰り返し培養可能であることが明らかとなっている。また、グルコース当たりの収率は、本発明者らの以前の研究によると、最高で20%(w/w)前後と考えられる(Siti Hajar Noor、横谷吾子、宮原敏郎、長尾一孝、「スッポンタケ二核細胞株による効率的ゼラチン様物質生産」、2009年度合同沖縄大会(日本農芸化学会関西・中四国・西日本支部、日本栄養・食糧学会九州・沖縄支部、日本食品科学工学会西日本支部)、2009年)。培養スケールは通常100mL程度であるが、必要に応じてスケールアップも可能である。
担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞の大量培養方法としては、エアーリフト培養を行うことが好ましい。この際に、植物培養の二重巻式エアーリフト培養器を用いまると、ペレットが大きくなり詰まるため、気泡塔型発酵槽を用いることが好適である。なお、通常のジャーファメンター(Jar fermentor)での培養を行うと、攪拌翼によって菌糸が切断され、菌体収率、酸性多糖生産も減少するため望ましくない。
【0028】
また、アカカゴタケ科のサンコタケやツマミタケは、分生子(一核胞子)を形成するため、培養を継続すると一核細胞が増える。一核細胞の菌糸は酸性多糖を生産しないため、生産物が急激に減少する。
よって、このようなアカカゴタケ科の菌を用いた場合は、二核細胞・有性細胞株を、グルコースを炭素源とする無機塩培地で培養し、分生子の形成をおこなわないグルコース無機塩培地で培養した菌株を得る。これを種菌としてCY−1培地で培養すると、二核細胞・有性細胞の培養液からゼリー状物質が得られる。
【0029】
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞由来ゼリー状物質であり、培養液にエタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ヘキサン等の有機溶媒を添加して沈殿させることにより、容易に単離できる。有機溶媒の添加量は培養液の2倍以上の体積量があれば十分であるが、それ以上添加することもできる。また、必要に応じて、遠心分離やろ過することによって単離しても何ら差し支えない。このゼリー状物質は、減圧乾燥することにより、一塊の固体となる。そして、この固体を、乳鉢などで粉末とすることができる。この粉末は、所定量を計測でき、容易に扱うことができる。
また、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物に係る粉末は、水、油混合液に添加し、ディスパーサーで高速攪拌することにより、O/Wエマルションが容易に調製できる。この二核細胞・有性細胞由来ゼリー状物質を油に混合する場合、重量比(質量比)で2〜20%程度の割合が好ましい。
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、食用の担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞由来ゼリー状物質であり、O/Wエマルションの製造に必要な様々な分野の製品、食品、化粧品、トイレタリー製品、医薬品、工業用製品等に安全に用いることができる。
【0030】
すなわち、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、耐酸性及び耐塩性の乳化物又は増粘剤として用いることができる。この乳化剤又は増粘剤は、細胞培養による生成物を用いるため、有用な天然食品素材として、安定的に供給できる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、卵、あるいは他の食品用乳化剤を用いなくても高濃度の植物油を乳化できる。このため、卵不使用のマヨネーズ風ドレッシングが得られる。特に、マヨネーズ風ドレッシングにおいては、増粘作用と乳化作用の両方の特性をもつ増粘乳化剤が必要なため、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は特に好適である。さらに、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、担子菌類又は子嚢菌類由来であり、動物性のコレステロールをほぼ含まないという特徴を有するため、健康によい。
すなわち、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、各種のドレッシング及びドレッシングタイプ調味料として、ドレッシング、ドレッシングタイプ調味料、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング等に用いることができる。
さらに、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、その他の調味料・ソース類にも用いることができる。
【0031】
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、単独または既成の増粘剤との併用で耐冷凍性の嚥下食が製造できる。このため卵アレルギー患者や嚥下困難者などの病態食にも有用な食品素材を安定的に提供することができる。その他、様々な食品に応用できる。
本発明の実施の形態に係る担子菌類又は子嚢菌類の嚥下食は、固体状の食品を水、および二核細胞・有性細胞由来ゼリー状物質の粉末と混合し、ミキサーなどで粉砕し、加熱混合後に冷却して製造する。これにより、まとまりの良い、適度な粘度を有する、飲み込みやすい嚥下食が容易に得られる。
この嚥下食用の二核細胞・有性細胞由来のゼリー状物質の粉末の混合割合としては、重量比(質量比)で固体状食品の0.2%〜5%が好ましい。
【0032】
なお、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、優れた乳化作用及び増粘作用に加え、食味に優れているため、様々な食品に用いることができる。
本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、食品としては、各種食用精製加工油脂、例えば、マーガリン、ファットスプレッド、フラワーペースト、ショートニング等のマーガリン類に用いることができる。また、ジャム類にも用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、食パン、菓子パン、その他のパン等のパン類、ビスケット、クッキー、クラッカー、カットパン及びパイ並びにこれらの加工品等にも用いられる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、その他の焼菓子、キャンデー、チョコレート、チューインガム、油菓子、干菓子、豆菓子、砂糖漬け菓子、ねりようかん等に用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、和生菓子、まんじゅう、洋生菓子、菓子パンを含む生菓子にも用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、茶漬、ふりかけ食品を含む、各種の加工食品等にも用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、ナチュラルチーズ、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖煉乳、無糖脱脂煉乳、加糖煉乳、加糖脱脂煉乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、醗酵乳、乳酸菌飲料等の乳製品に用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、氷菓子、粉末清涼飲料、粉末清涼飲料、酒精飲料に用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、海藻加工品、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、魚肉ねり製品等にも用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、骨付ハム、ボンレスハム、ロースハム、ショルダーハム、ベリーハム、プレスハム、混合プレスハム、ソーセージ、ベーコンロースベーコン、ショルダーベーコン、コンビーフ等の食肉製品に用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、生めん、ゆでめん、乾めん、即席めんに用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、ビーフン、煎餅等の米加工品、豆腐、豆乳、油揚げ、納豆等の豆類加工製品に用いることができる。
また、本発明の実施の形態に係る乳化剤又は増粘剤は、豆腐類、漬け物、そうざい、味噌、冷凍食品、レトルト食品、その他の乳化作用、増粘作用が必要な、上述した以外のあらゆる食品に用いることができる。
なお、これらの食品へ配合する場合は、その目的に応じて配合量を決定することができる。
【0033】
また、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、安全な担子菌類又は子嚢菌類由来のゼリー状物質であるため、化粧品、トイレタリー製品、医薬品、工業用製品などの様々な分野においても利用できる。
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、化粧品としては、例えば、皮膚用化粧品、仕上用化粧品、メークアップ化粧品、ベースメークアップ化粧品、ポイントメークアップ化粧品、基礎化粧品、ヘアトニック、香水・オーデコロン、頭髪用化粧品、歯磨き、シャンプー、リンス、身体用の石鹸、入浴剤、フレグランス化粧品、医薬部外品等に用いることができる。ここで、皮膚用化粧品としては、化粧水、美容液、パック等の整肌用化粧品、保護用乳液、保護用クリーム等の保護用化粧品、美白化粧品、紫外線防止化粧に用いることができる。
本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、医薬品としては、軟膏や硬膏の基材、錠剤、顆粒、粉末製剤用の賦形剤、内服薬、液体薬の分散剤として用いることができる。
なお、これらの食品や医薬品へ配合する場合は、その目的に応じて配合量を決定することができる。
【0034】
なお、本発明の実施の形態に係る多糖類組成物は、食品、化粧品、医薬品等へ配合する場合、乳化増粘効果を損なわない範囲で従来公知の乳化剤、増粘剤、添加剤、その他の配合成分等を加えて配合してもよい。
【実施例】
【0035】
以下で、図面に基づいて本発明を実施例により更に順次説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0036】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養法及びゼリー状物質の単離〕
[実施例1]
まず、スッポンタケの二核細胞・有性細胞培養及びゼリー状物質の単離を行った(実施例1)。
具体的には、スッポンタケの子実体を採取し、組織片単離法により二核細胞・有性細胞を単離した。これをCY−1寒天培地にて培養した。CY−1培地の組成は、下記の表1に示す。
その後、CY−1寒天培地にて培養した二核細胞・有性細胞を、CY−1液体培養装置に添加し、エアコンプレッサー等で十分に通気しながら30℃で3日間培養した。初発pHは6.5であった。
培養終了後、ブフナーロートにろ紙を敷き、吸引ろ過してペレット状の菌体を濾取した。濾取した菌体は、80℃で加熱乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
また、生成したゼリー状物質を含む濾過後の培養液0.1Lにエタノールを0.2L添加し、次いで桐山ロートでろ過し、減圧乾燥し、乾燥収量0.4gの固形状の組成物を得た。
この実施例1の組成物を乳鉢で微細粉末にして、乳化、増粘作用を評価した。
【0037】
【表1】

【0038】
[実施例2〜5]
その他の担子菌類又は子嚢菌類である、サンコタケ(実施例2)、ゴムタケ(実施例3)、キヌガサダケ(実施例4)、ツマミタケ(実施例5)についても、二核細胞・有性細胞培養及びゼリー状物質の単離を行った。
これらの二核細胞・有性細胞培養の条件と、結果として得られたゼリー状物質の乾燥収量を、下記の表2に示す。なお、実施例2〜5の組成物の減圧乾燥と微細粉末化については、実施例1と同様に行った。
これらの実施例の組成物についても、乳化、増粘作用を評価した。
【0039】
【表2】

【0040】
ここで、実施例1〜5の各菌類の培養において、スッポンタケ科のスッポンタケ(実施例1)、キヌガサダケ(実施例4)、及びズキンタケ科のゴムタケ(実施例3)はCY−1培地での培養で分生子を形成せず、ゼラチン様物質を生産し続けるので培養を継続できた。
【0041】
しかしながら、アカカゴタケ科のサンコタケ(実施例2)、ツマミタケ(実施例5)は、分生子を形成するため、培養を継続すると一核細胞が増えて、生産物が急激に減少するという問題があった。
そこで、これらの菌では、二核細胞・有性細胞株を、グルコースを炭素源とする無機塩培地で培養し、これを種菌としてCY−1培地で培養した。これにより、二核細胞・有性細胞株を用いた当初の培養と同程度の収率が得られた。
これらの培養に係る培養液は、上述の表1に記載のCY−1培地を用いた。具体的な培養方法としては、CY−1培地100mlを仕込んだ300ml容量の三角フラスコに、1mlの種菌植菌後、適当な時間回転振盪培養(25℃、150rpm)した。初発pHは6.5であった。
【0042】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞から抽出したゼリー状物質を用いた乳化実験〕
(乳化実験におけるO/Wエマルションの調製)
次に、実施例1〜3の各ゼリー状物質を用いた乳化実験を行った。具体的には、O/Wエマルションを調製して乳化の評価をした。
ここでは、実施例1〜3について、担子菌由来ゼリー状物の乾燥粉末を水に加えて分散させ、市販のサラダ油(昭和産業株式会社製「オレインリッチ」)を加えた後、ホモゲナイザー(KINEMATIKA AG製「PT MR−3000」、シャフト:直径12mm)で乳化させた(20000rpm、2分)。
【0043】
(乳化実験の目視評価)
調製したO/Wエマルションは、通常法、耐酸性、耐塩性、及び濃厚系のそれぞれについて評価した。この際、それぞれ乳化した当日と、室温(20℃)放置1週間後の2回測定した。
通常法を評価する場合のサンプルは、所定量のO/Wエマルションを用いて評価した。耐酸性を評価する場合のサンプルは、水の代わりに1%酢酸水溶液を用いた。耐塩性を評価する場合は水の代わりに5%NaCl水溶液を用いた。濃厚系を評価する場合のサンプルにおいては、油の割合を20%増量した。
各乳化実験条件に係る担子菌又は子嚢菌類のゼリー状物質の乾燥粉末、水、油のそれぞれの混合重量は、下記の表3に示す通りである。
【0044】
【表3】

【0045】
乳化実験の評価においては、静置の状態と軽く振った時の状態を目視し、合一、凝集などを目視で判定して、安定性の評価とした。
実施例1〜3における乳化実験の目視判定の結果を、下記の表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
また、実際の乳化実験における結果写真の例を、図1Aと図1Bに示す。図1Aと図1Bは、実施例1のスッポンタケの二核細胞・有性細胞培養物が生産したゼリー状物を用いて、実施例1に記載の方法で調製したO/Wエマルションの乳化実験の結果である。
図1Aは、乳化当日における、左から通常法、耐酸性(1%酢酸水溶液)、耐塩性(5%NaCl水溶液)、濃厚系のそれぞれの結果の写真である。
図1Bは、室温放置1週間後における、左から通常法、耐酸性(1%酢酸水溶液)、耐塩性(5%NaCl水溶液)、濃厚系でのそれぞれの写真である。
【0048】
[比較例1〜3]
また、比較例として、市販の乳化剤であるシュガーエステル(比較例1)、アラビアガム(比較例2)、大豆多糖(比較例3)の乳化実験も行い、同様に評価した。
比較例1のシュガーエステルとしては、三菱化学フーズ社製「リョートーシュガーエステルP1670」を用いた。比較例2のアラビアガムとしては、三栄薬品貿易株式会社製「アラビックコールSS」を用いた。また、比較例3の大豆多糖としては、不二製油株式会社製の「ソヤファイブS−DN」を用いた。
比較例1〜3における乳化実験結果(目視判定)の結果を、下記の表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
(乳化実験の粒度分布評価)
さらに、上述の実施例1のスッポンタケ二核細胞・有性細胞培養物が生産したゼリー状物質を用いて、実施例1に記載の方法で調製したO/Wエマルションの粒度分布を測定、評価した。粒度分布測定においては、堀場製作所製LA−920を用いた。この粒度分布についても、乳化した当日と室温放置(20℃)1週間後の状態の評価を行った。
図2A〜図2Dは、この実施例1を用いたO/Wエマルションの粒度分布測定の結果を示すグラフである。それぞれ、図2Aが通常法、図2Bが耐酸性に係る1%酢酸水溶液、図2Cが耐塩性に係る5%NaCl水溶液、図2Dが濃厚系での粒径分布の結果を示す。それぞれの図において、菱形が乳化当日のグラフ、四角が室温放置1週間後のグラフを示す。
【0051】
上述のとおり、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から抽出したゼリー状物質は乳化力を示した。
特に、実施例1のスッポンタケ、実施例2のサンコタケの培養産物はアラビアガムや大豆多糖よりも耐塩性、耐酸性に優れた乳化活性を示した。
【0052】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から抽出したゼリー状物質の水溶液の粘度測定〕
次に、実施例1〜3の各ゼリー状物質の水溶液の粘度測定を行った。
具体的な実験方法としては、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から抽出したゼリー状物質の乾燥粉末0.05gを水5gに加えて、PT MR−3000、シャフト:直径12mm、KINEMATIKA AG製ホモゲナイザーで分散させた(20000rpm、2分)。
このサンプルを室温で1日放置し、膨潤させた後、粘度測定した。粘度は回転粘度計DVM−B(東京計器株式会社製)を用いて測定した。この測定の際には、サーキュレーター(RTE7、NESRAB)を用いてサンプルの温度を変え、5℃、20℃、34℃で測定した。
【0053】
[比較例4、5]
また、比較例として、市販のキタンサンガム(比較例4)と、アラビアガム(比較例5)を用いた粘度についても測定した。比較例4、5の粘度測定の方法は、実施例1〜3と同様である。
ここで、比較例4のキサンタンガムとしては、丸善薬品産業株式会社製「キサンタンガムST」を用いた。
比較例5のアラビアガムとしては、三栄薬品貿易株式会社製「アラビックコールSS」を用いた。
【0054】
図3A、図3Bは、各種担子菌類又は子嚢菌類由来ゼリー状物の見かけの粘度を測定した粘度測定結果のグラフである。
図3Aは、キサンタンガム(比較例4)と、サンコタケ(実施例2)との比較を示す(回転数30rpm)グラフである。
図3Bは、アラビアガム(比較例5)と、スッポンタケ(実施例1)及びゴムタケ(実施例3)との比較を示す(回転数60rpm)グラフである。
図3A、図3Bから分かるとおり、サンコタケの粘度が高く、重量比較でキサンタンガムと同程度であった。次いでスッポンタケ、ゴムタケの順に粘度が高く、いずれもアラビアガムよりは粘度が高いことが分かった。
【0055】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から抽出したゼリー状物質を用いた、マヨネーズ風ドレッシングの調製〕
[実施例6、7]
次に、上述の実施例1のスッポンタケ由来のゼリー状物質の乾燥粉末と、実施例2のサンコタケ由来のゼリー状物質の乾燥粉末とを用いて、マヨネーズ風ドレッシングを製造した。スッポンタケ由来のマヨネーズ風ドレッシングを実施例6、サンコタケ由来のマヨネーズ風ドレッシングを実施例7とする。
具体的な調製方法としては、スッポンタケ、およびサンコタケ由来のゼリー状物質の乾燥粉末0.2gを水2g、食塩0.3g、ミツカン株式会社製の酢を3g、ギャバン株式会社製の胡椒0.03gの混合物に加えて分散させ、昭和産業株式会社製サラダ油「オレインリッチ」2g(サンコタケの場合は5g)を加えた後、PT MR−3000、シャフト:直径12mm、KINEMATIKA AG製ホモゲナイザーで乳化させ(20000rpm、2分)、マヨネーズ風ドレッシングを調製した。
これらを、きゅうりに付けて食べ、おいしさとなめらかさについて、被検者3人で、5点満点において官能評価した。
【0056】
[比較例6、7]
比較例6として、マヨネーズ(味の素株式会社製)も同様に評価した。
また、比較例7として、市販のマヨネーズ風ドレッシング(日清オイリオグループ株式会社製)も同様に評価した。
官能評価の結果を下記の表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6の結果から明らかなように、スッポンタケ(実施例6)及びサンコタケ(実施例7)の培養産物を用いたマヨネーズ風ドレッシングは、市販のマヨネーズ(比較例6)、マヨネーズ風ドレッシング(比較例7)に迫るおいしさ、なめらかさであることが分かった。
すなわち、卵や他の食品用乳化剤を全く用いなくてもマヨネーズ風ドレッシングを調製できるため、卵アレルギー患者など、卵を食べられない消費者に提供できることが分かった。
【0059】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から抽出したゼリー状物質を用いた、嚥下食用漬物の調製〕
[実施例8〜11、比較例8]
次に、実施例1〜3の各ゼリー状物質を用いて、嚥下困難者用食品(以下、嚥下食という。)を調製した。
つぼ漬け(セブンプレミアム製)200gと水200gを混合し、5分間茹でた。室温に冷却後、ミキサー(MX−X108、パナソニック社製)で約1分粉砕し、容器に移し、水を足して400gに戻した。40gまたは20gずつ容器に分け、市販のゲル化剤(サンサポート1015、三栄源エフエフアイ株式会社製)2%(重量%)を加えたものに担子菌類又は子嚢菌類由来ゼリー状物の乾燥粉末0.3%を添加した(実施例8〜10)。また、市販ゲル化剤を用いずに担子菌由来ゼリー状物の乾燥粉末2%のみを添加し、嚥下食を調製した(実施例11)。また、比較例として、市販のゲル化剤のみを添加した嚥下食も調製した(比較例1)。これらの調製の配合量を下記の表7に示す。
次いでこれらの混合物を泡立て器を用いて攪拌しながら90℃に加熱した後、水を加えて40gとし、室温に戻し、−40℃に1時間冷却した。次いで冷蔵庫で解凍し、離水の有無を目視確認した。
さらに10℃に保温後、テクスチャーアナライザーを用いて物性測定を行った。
【0060】
(嚥下困難者用食品の物性測定)
本発明で実施した物性測定は、厚生労働省食安発第0212001号『特別用途食品の表示許可等について』(<URL:http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin93.pdf>)の20頁に記載されている『えん下困難者用食品の試験方法』に基づいて行った。
すなわち、サンプルを直径40mm、高さ15mmのステンレス容器に充填し、山電株式会社製テクスチャーアナライザーTPUを用いて圧縮測定した。プランジャーは直径20mm、高さ8mmの山電株式会社製の樹脂製のものを用い、圧縮速度は10mm/sec、クリアランス5mmで2回測定した。
本実施例又は比較例の嚥下困難者用食品は、室温又は冷却してから食べる食品なので、10℃±2℃で測定した。
サンプルは測定直前まで十分な時間保温装置に入れておいてから取り出して、すぐに、圧縮応力、付着性、凝集性について測定した。
この測定の結果を、下記の表7に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
表7に示すように、市販ゲル化剤のみを用いた場合でも、本発明の担子菌類又は子嚢菌類の由来ゼリー状物乾燥粉末を混合、または単独で用いた場合でも、調製した嚥下食用漬け物は、平成21年に厚生労働省が定めた『嚥下困難者用食品たる表示の許可基準』の物性基準を満たした。
この嚥下困難者用食品の基準は3つに分かれており、冷やして使用する食品は10℃および20℃において、基準Iは硬さが2.5×103〜1×104N/m2、付着性が4×102J/m3以下、凝集性が0.2〜0.6である。基準IIは硬さが1×103〜1.5×104N/m2、 付着性が1×103J/m3以下、凝集性が0.2〜0.9である。最も基準値が大きい許可基準IIIにおいても、硬さが3×102〜2×104N/m2、付着性が1.5×103J/m3以下である。
本発明の実施例8、9、11においては基準IIを満たし、実施例10においては基準IIIを満たした。
表8に示す通り、市販のゲル化剤のみを用いた嚥下食用漬け物は離水が多かったが、本発明の担子菌又は子嚢菌類由来ゼリー状物乾燥粉末を混合して調製した嚥下食用漬け物は、離水が抑えられた。
【0063】
図4Aと図4Bに、実際の解凍後の嚥下食漬け物の写真を示す。
図4Aは、比較例8の「サンサポート1015」のみを用いて調製した漬け物である。このように、図4Aの比較例8では、液だまり(ドリップ)が見られており、離水が多いことが分かる。
図4Bは、実施例8の「サンサポート1015」とスッポンタケ由来ゼリー状物乾燥粉末を添加して調製した漬け物である。図4Bの実施例8では、離水した際の液だまりがほとんど見られないことが分かる。
【0064】
(嚥下困難者用食品の官能測定)
次いでこれらを被検者1人で官能評価した。官能評価結果及び離水の結果を下記の表8に示す。
【0065】
【表8】

【0066】
この官能測定の結果、本実施例8〜10の担子菌又は子嚢菌類由来のゼリー状物質の乾燥粉末と、市販のゲル化剤を用いた嚥下困難者用食品は、保形性、滑らかさ、または咽喉でのまとまり感において効果が見られた。
また、実施例11の担子菌又は子嚢菌類由来ゼリー状物乾燥粉末のみを用いて調製した嚥下食用漬け物は、離水、及び滑らかさにおいて顕著な効果を示したが、保形性が無かった。
従って、他の保形性のある市販ゲル化剤と本発明品を混合して用いることにより、保形性が良く、離水の少ない、優れた嚥下食用冷凍食品が容易に調製できると考えられる。
【0067】
以上のように、本発明の実施例の組成物として、担子菌又は子嚢菌類二核細胞・有性細胞を液体培養し、有機溶媒を添加し沈殿させて得るゼリー状物質を用いた、優れた食品用の乳化剤、増粘剤、及び離水防止剤を得ることができる。
すなわち、本発明の各実施例の組成物は、従来のアラビアガムに比べて、優れた乳化力、及び増粘作用を有する。
また、本発明の各実施例の組成物は、冷凍解凍時における離水防止剤としても有用であり、乳化、増粘、離水防止が必要とされる様々な食品への添加効果が期待でき、安定的に供給できる。
【0068】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞ゼリー状物質の分析〕
以下で、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養法及びゼリー状物質自体の分析についての実施例について説明する。
具体的には、アミノ酸組成、O/Wエマルションのタンパク質の分析、及び沈殿物を取得した後の培養液を濃縮してタンパク質の沈殿を得た際の乳化実験の実施例について説明する。
【0069】
(担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞培養液から抽出したゼリー状物質を用いたO/Wエマルションに吸着しているタンパク質の分析)
次に、O/Wエマルションに吸着しているタンパクのSDSpageを行い、ゼリー状物質に吸着しているタンパク質の分析を行った実験結果について説明する。
この例では、上述の実施例1〜3の担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞由来ゼリー状物質の乾燥粉末0.1gを、水10gに加えて分散させ、サラダ油(昭和産業株式会社製、「オレインリッチ」)1gを加えた後、ホモゲナイザー(KINEMATIKA AG社製、PT MR−3000、シャフト:直径12mm)で、20000rpmで2分攪拌して乳化させ、O/Wエマルションを得た。次いでファルコンチューブ50mL(ベクトンディッキンソン社製)に移し、水を適量加え、5000rpmで30分間遠心分離させた(遠心機、日立himac製、CF16RX)。次いで、クリーム層と水層に分け、それぞれを凍結乾燥した。ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥して粉末を得た。また、これとは別に、スッポンタケについては、子実体の乾燥・粉砕粉末を用いた。
これらの粉末0.5mgをとり、サンプルバッファー(インビトロゲン社製、NP0007)0.1mLに懸濁させ、2−メルカプトエタノール10μLを加え、100℃で10分加熱した。
次いで、SDS−pageを行った(アトー株式会社製、パジェルSPG520L)。泳動バッファーはLaemmli Buffer(0.3%Tris、1.44%Gly、0.1%SDSの混合水溶液)を用いた。泳動後、クマシー染色した。
【0070】
図5を参照して、このSDS−pageの結果について説明する。図5は、上述の実施例1〜3のゼリー状物質を用いたO/Wエマルションの油滴吸着タンパク質の分析結果を示す写真である。各レーンのうち、左から2つのレーンはマーカーであり、次に、それぞれ、スッポンタケ培養産物のクリーム層、スッポンタケ培養産物の水層、スッポンタケ子実体のクリーム層、スッポンタケ子実体の水層、サンコタケ培養産物のクリーム層、サンコタケ培養産物の水層、ゴムタケ培養産物のクリーム層、ゴムタケ培養産物の水層についての泳動結果を示す。これらの各レーンにて、タンパク質の有無がバンドとして示される。
結果として、スッポンタケ、サンコタケ培養産物にはエマルション油滴に吸着するタンパク質が存在していることがわかった。
しかしながら、ゴムタケ培養産物においては吸着タンパク質の存在は確認できなかった。すなわち、ゴムタケは上述の乳化実験の実施例で示したように、ゴムタケ由来の多糖類には乳化作用がある。そして、同様な酸性多糖類が含まれる他の担子菌類においても、主に多糖類組成物が乳化に関わることが分かる。
【0071】
(スッポンタケ培養液の残った濃縮後沈殿物の乳化)
[実施例12]
次に、図6A〜7Bを参照して、スッポンタケ培養液の残った濃縮後沈殿物の乳化実験について説明する。
スッポンタケを実施例1の方法と同様に培養し、エタノールを培養液の2倍重量加え、沈殿物を得た。この沈殿物は、実施例1の沈殿物と同様である(以下、通常沈殿物という。)。
次いで残った濾液を減圧濃縮し、凡そ100mLになったところで再びエタノールを2倍以上添加して沈殿物を0.20g得た(実施例12。以下、濃縮後沈殿物という。)。この濃縮後沈殿物は、多糖類と共有結合していないタンパク質であることが分かっている。
これらの通常沈殿物と、濃縮後沈殿物について、上述の乳化実験と同様のO/Wエマルションの調製方法に基づいて乳化物を得た。この乳化物の調製から1週間後の乳化状態について、目視で観察した。
図6Aは、実施例1と同様に調製した、中性の通常沈殿物の乳化状態の写真である。乳化状態が十分保たれていることが分かる。
図6Bは、実験例12のスッポンタケ培養液の中性の濃縮後沈殿物の乳化状態の写真である。こちらも、十分な乳化状態が保たれていることが分かる。
図7Aは、スッポンタケ培養液の実施例12の濃縮後沈殿物において、上述の乳化実験と同様に耐酸性(1%酢酸水溶液)を測定した際の、O/Wエマルションの写真である。濃縮後沈殿物は、耐酸性も良好であった。
図7Bは、同じ実施例12の濃縮後沈殿物を、こちらも上述の乳化実験と同様に耐塩性(5%NaCl水溶液)を測定した際の、O/Wエマルションの写真である。こちらも、耐塩性が良好であった。
つまり、濃縮後沈殿物を用いた場合でも、1週間後も、中性、耐酸性、耐塩性いずれも良好であった。
このように、スッポンタケにおいては、通常沈殿物に加えて、濃縮後沈殿物のタンパク質を取得することで、更に乳化剤として用いることができる。
【0072】
〔担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞ゼリー状物質の培養方法〕
(気泡塔培養による酸性多糖の生産)
次に、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞の大量培養方法について説明する。
担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞は、通常のジャーファメンターで培養すると、攪拌翼によって菌糸が切断され、菌体収率、酸性多糖生産も減少するという問題があった。
このため、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞は、気泡塔培養(エアーリフト培養)の方が良いと考えられる。しかしながら、通常の植物培養の二重巻式気泡塔培養器を用いると、ペレットが大きくなりすぎ、詰まってしまうという問題があった。
このため、担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞の大量培養においては、気泡塔型発酵槽(例えば、宮原敏郎、永谷尚紀、三井亮二、田中三男、「Aspergillus nigaerを用いた曝着培養によるアミラーゼの生産に及ぼす不溶性高分子の添加の影響」、日本、、岡山理科大学紀要、2009年、第45号A、p.79を参照)を用いることが好適である。
この気泡塔型発酵槽を用いて、CY−1培地、培養温度:30℃で大量培養した例について、以下の表9に示す。気泡塔型培養は1LのCY−1培養培地を用い、通気:0.5L/minで行った。表9では、スッポンタケを数回、気泡塔培養した際の、最良の結果を示す。
なお、この気泡塔型発酵槽による培養において、フラスコ培養は300ml容量三角フラスコにCY−1培地100mlを入れ、株式会社サンキ精機製いわしやSCS−12R型ロータリー培養器で300r.p.m.で培養したものを1Lに換算した。
【0073】
【表9】

【0074】
結果として、気泡塔培養後の担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞は、気泡塔培養では、生産多糖の収率が少し低下しているものの、一般的に生産の最低量を確保できる。スッポンタケの気泡塔培養では、二核細胞のペレットが大きくなり、中空のペレットとなり、表面積も小さくなるが、生産性を高めることができる。また、子嚢菌の有性細胞は糸状生育となり、これも生産性を増加できる。
さらに、溶存酸素量の増加で培養日数が短くなり、生産多糖も増加することを示唆しており、コストを低減できる。また、エアーにより攪拌するため、攪拌羽による菌糸の切断が起こらず、製造効率を高めることができる。
【0075】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、アラビアガムに比べて、優れた乳化力、及び増粘作用を有し、また、冷凍解凍時における離水防止剤としても有用であり、乳化、増粘、離水防止が必要とされる様々な物への添加効果が期待できる有用な天然の食品素材が安定に供給できるため、産業上に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞を培養し、培養液の体積比で2倍以上の有機溶媒を添加し沈殿させて得るゼリー状物質を用いた
ことを特徴とする多糖類組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ヘキサンのいずれかである
ことを特徴とする請求項1に記載の多糖類組成物。
【請求項3】
前記担子菌類は、スッポンタケ(Phallus impudicus L.:Pers)、キヌガサダケ(Dictyophra indusiata(Vent.:Peris.) Fisch)、サンコタケ(黄色型)(Pseudocolus schellenbergiae (Sumst.) Johnson)又は(赤色型)、カゴタケ(Ileodictyon gracile Berk)、ツマミタケ(Lysurus mokusin (L.:Pers.) Fr.)、シラタマタケ(Kobayasia nipponica (Kobayasi) Imai et Kawam)のいずれかであり、
前記子嚢菌類は、ゴムタケ(Bulgaria inquinans Fr.)、オオゴムタケ(Galiella celebica (P. Henn.) Nannf.)のいずれかである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の多糖類組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に係る多糖類組成物を用いた乳化剤。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に係る多糖類組成物を用いた増粘剤。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に係る多糖類組成物を用いた増粘乳化剤。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に係る多糖類組成物を用いた離水防止剤。
【請求項8】
ゲル化剤を含むことを特徴とする請求項7に記載の離水防止剤。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか1項に係る多糖類組成物を用いた食品。
【請求項10】
油の質量に対して、前記多糖類組成物を2〜20質量%含むマヨネーズ風ドレッシングである
ことを特徴とする請求項9に記載の食品。
【請求項11】
固体状食品の質量に対して、前記多糖類組成物を0.2〜5質量%含む耐冷凍性の嚥下食である
ことを特徴とする請求項9に記載の食品。
【請求項12】
担子菌類又は子嚢菌類の二核細胞・有性細胞を液体培地で培養し、
菌体を除去した培養液に有機溶媒を添加し、
沈殿したゼリー状物質を乾燥・粉末化する
ことを特徴とする多糖類組成物の製造方法。
【請求項13】
前記液体培地は、ジャガイモ−グルコース培地、又はCY−1培地であり、グルコース2〜3質量%、ポリペプトン0.2〜0.3質量%を含み、
前記培養の初発pHは6〜7、培養温度は25℃〜30℃である
ことを特徴とする請求項12に記載の多糖類組成物の製造方法。
【請求項14】
分生子を形成する前記担子菌類又は前記子嚢菌類を、グルコースを炭素源とする無機塩培地で前記培養し、
培養された種菌をCY−1培地で培養する
ことを特徴とする請求項12又は13に記載の多糖類組成物の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2013−34419(P2013−34419A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172124(P2011−172124)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】