説明

多細胞系代謝モデルおよびその方法

【課題】多細胞系代謝モデルおよびその方法の提供。
【解決手段】本発明は、ホモ・サピエンスゲノム中の遺伝子間の相互結合およびそれらに関連する反応および作用物質を記載するイン・シリコモデルを提供する。また、本発明は、細胞内の異なる生化学ネットワークの間の、ならびに細胞間の相互結合を記載するイン・シリコモデルも提供する。細胞間の異なる生化学ネットワーク内の相互結合は、例えば、異なる位置、組織、器官内の細胞を含めた細胞の群の間の、あるいは多細胞生物の異なる機能を行う細胞間の相互作用を記載することができる。従って、該モデルを用いて、ヒト細胞を含めた多細胞生物に由来する細胞の細胞挙動の異なる態様を刺激することができ、ならびにそれを用いて、細胞の群の細胞挙動相互作用の異なる態様を刺激することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、化学反応ネットワークの活性の分析、さらに詳しくは、複数の相互作用反応ネットワークの活性を刺激し、それを予測するための計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物および遺伝子を基礎にした薬剤を含めた治療剤は、ヒトの病気の治療または予防を目標とし、医薬産業によって迅速に開発されつつある。薬草製品、ビタミンおよびアミノ酸を含めたダイエットサプリメントもまた、栄養補助食品産業によって開発され、市販されつつある。ヒト細胞中またはヒト細胞間の生化学反応ネットワークの複雑性のため、代謝産物、遺伝子または蛋白質などの特定の標的の豊富性または活性における治療剤またはダイエット成分によって引き起こされる比較的重要でない摂動さえ、数百の生化学反応に影響し得る。これらの摂動は、癌細胞または他の病理学的に過剰増殖性細胞の場合における細胞静止または細胞死などの望ましい治療効果を導き得る。しかしながら、これらの摂動は、該摂動の全身効果が考慮されないならば、毒性副産物の生成などの望ましくない副作用も導き得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
薬物および栄養補助食品開発に対する現在のアプローチは、全身細胞挙動に対する分子標的における摂動の効果を考慮しない。細胞活性を修復し、作り出し、または無能とする効果的な方法を設計するためには、一体化された見通しからのヒト細胞挙動を理解するのが必須である。
【0004】
生化学反応の高度に集積されたネットワークに関係するプロセスの例である細胞代謝は、ホメオスタシス、増殖、分化、プログラムされた細胞死(アポトーシス)および運動性を含めた全ての正常な細胞または生理学的プロセスにとって基本的なものである。細胞代謝の改変は、膨大な数のヒト病気を特徴付ける。例えば、組織損傷は、しばしば、グルコース、脂肪酸およびアミノ酸の異化の増大によって特徴付けられ、これは、もし執拗であれば、器官の機能不全を導き得る。固形腫瘍で起こるような低酸素供給(低酸素症)および栄養物供給の条件の結果、解糖および新生血管形成の活性化を含めた、膨大な適合代謝変化をもたらす。代謝機能不全は神経変性病、心血管病、神経筋障害、肥満および糖尿病にも寄与する。現在、正常な病理学的プロセスに対する細胞代謝の重要性に拘わらず、ヒト細胞における細胞代謝の詳細な系列的理解が現在欠如している。
【0005】
かくして、生理学的、病理学的および治療的条件下で多細胞挙動の異なる態様を刺激するのに用いることができる、中核の代謝反応ネットワークおよび特殊化された細胞型における代謝反応ネットワークを含めた、細胞内および細胞間の相互作用反応ネットワークを記載するモデルに対する要求が存在する。本発明はこの要求を満足し、同様に関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、(a)複数の作用物質を第一の細胞による複数の反応に関連付ける第一のデータ構造体であって、該反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;(b)複数の作用物質を第二の細胞による複数の反応に関連付ける第二のデータ構造体であって、該反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;(c)複数の系内作用物質を該第一および第二の細胞の間の複数の系内反応に関連付ける第三のデータ構造体であって、該系内反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;(d)該第一、第二および第三のデータ構造体についての該複数の反応についての拘束条件のセット、および(e)該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適用するとき、目的機能を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定するためのコマンドであって、該少なくとも1つの流束分布が第一および第二の細胞の生理学的機能を予測するコマンド;を有するコンピュータ読取可能媒体を提供する。第一、第二および第三のデータ構造体は複数のデータ構造体を含むこともできる。加えて、多細胞生物の生理学的機能を予測する方法が提供される。該方法は、(a)複数の作用物質を第一の細胞からの複数の作用物質に関連付ける第一のデータ構造体を供し、該反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(b)複数の作用物質を第二の細胞による複数の反応に関連付ける第二のデータ構造体を供し、該反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(c)複数の系内作用物質を該第一および第二の細胞間の複数の系内の反応に関連付ける第三のデータ構造体を供し、該系内反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(d)該第一、第二および第三のデータ構造体に対する該複数の反応についての拘束条件のセットを提供する工程;(e)目的機能を提供する工程、ならびに(f)該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適用するとき、目的機能を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定する工程であって、該少なくとも1つの流束分布が該第一および第二の細胞の生理学的機能を予測する工程;を含む。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
(a)複数の作用物質を第一の細胞による複数の反応に関連付ける第一のデータ構造体であって、該反応の各々が、反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;
(b)複数の作用物質を第二の細胞による複数の反応に関連付ける第二のデータ構造体であって、該反応の各々が、反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;
(c)複数の系内作用物質を該第一および第二の細胞の間の複数の系内反応に関連付ける第三のデータ構造体であって、該系内反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;
(d)該第一、第二および第三のデータ構造体に対する該複数の反応についての拘束条件のセット、および
(e)該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定するためのコマンドであって、該少なくとも1つの流束分布が該第一および第二の細胞の生理学的機能を予測するコマンド;
を含むコンピュータ読取可能媒体。
(項目2)
前記第一のデータ構造体が第一の反応ネットワークを含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目3)
前記第二のデータ構造体が第二の反応ネットワークを含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目4)
前記第一または第二のデータ構造体が複数の反応ネットワークを含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目5)
さらに、1以上の第四のデータ構造体および1以上の第四の拘束条件のセットを含み、各第四のデータ構造体は複数の作用物質を多細胞生物内の1以上の第三の細胞による複数の反応に関連付け、前記反応の各々は反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目6)
前記1以上の第四のデータ構造体が複数のデータ構造体を含む、項目5に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目7)
前記複数のデータ構造体が複数の異なる細胞についてのデータ構造体を含む、項目6に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目8)
前記複数のデータ構造体が複数の異なる細胞型に対するデータ構造体を含む、項目6に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目9)
前記1以上の第三の細胞が少なくとも4細胞、5細胞、6細胞、7細胞、8細胞、9細胞、10細胞、100細胞、1000細胞、5000細胞、10,000細胞以上を含む、項目7または8に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目10)
前記第一および第二の細胞が真核生物細胞を含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目11)
前記第一および第二の細胞が原核生物細胞を含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目12)
前記第一および第二の真核生物細胞が同一組織または器官の細胞を含む、項目10に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目13)
前記第一および第二の真核生物細胞が異なる組織または器官の細胞を含む、項目10に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目14)
前記反応の少なくとも1つが関連遺伝子を示すように注釈される、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目15)
さらに、前記関連遺伝子を特徴付ける情報を有する遺伝子データベースを含む、項目14に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目16)
前記反応の少なくとも1つが調節された反応である、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目17)
前記拘束条件のセットが前記調節された反応についての可変拘束条件を含む、項目16に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目18)
前記少なくとも1つの系内反応が造血系、尿、結合組織、収縮系、リンパ系、呼吸器系または腎臓系で行われる1以上の反応を含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目19)
前記系内反応が炭酸水素塩緩衝系、アンモニア緩衝系、ホルモン、シグナリング分子、ビタミン、ミネラル、またはその組合せよりなる群から選択される作用物質または反応を含む、項目18に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目20)
前記第一または第二の細胞が乳腺細胞、肝細胞、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、肝臓脂肪細胞、赤色骨格筋細胞、白色骨格筋細胞、中間骨格筋細胞、平滑筋細胞、赤血球細胞、脂肪細胞、単球、網状赤血球、線維芽細胞、ニューロン細胞、上皮細胞、または表5に記載された細胞から選択される、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目21)
前記生理学的機能が代謝産物収率、ATP収率、バイオマス要求、成長、トリアシルグリセロール貯蔵、筋肉収縮、乳分泌および酸素輸送能力から選択される、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目22)
前記データ構造体が線形代数方程式の組を含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目23)
前記コマンドが最適化問題を含む、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目24)
前記複数の作用物質における少なくとも1つの作用物質、または前記複数の反応における少なくとも1つの反応がサブ系または区画への帰属で注釈される、項目1に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目25)
前記複数の反応における第一の基質または産物が第一の区画に帰属され、前記複数の反応における第二の基質または産物が第二の区画に帰属される、項目24に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目26)
複数の反応が、複数の関連遺伝子を示すように注釈され、前記遺伝子データベースが前記複数の関連遺伝子を特徴付ける情報を含む、項目15に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目27)
(a)複数の第一のデータ構造体であって、該第一のデータ構造体の各々が複数の作用物質を多細胞生物内の複数の第一の細胞による複数の反応に関連付け、該反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;
(b)複数の第二のデータ構造体であって、該複数の第二のデータ構造体の各々が複数の作用物質を該多細胞生物内の複数の第二の細胞による複数の反応に関連付け、該反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;
(c)複数の第三のデータ構造体であって、該第三のデータ構造体の各々が複数の系内作用物質を該多細胞生物内の複数の系内反応に関連付け、該系内反応の各々は反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;
(d)該第一、第二および第三のデータ構造体に対する該複数の反応についての拘束条件のセット、および
(e)該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定するためのコマンドであって、該少なくとも1つの流束分布が該多細胞生物の生理学的機能を予測するコマンド;
を含むコンピュータ読取可能媒体。
(項目28)
前記第一のデータ構造体が第一の反応ネットワークを含む、項目27に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目29)
前記第二のデータ構造体が第二の反応ネットワークを含む、項目27に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目30)
前記第一または第二のデータ構造体が複数の反応ネットワークを含む、項目27に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目31)
さらに、複数の第四のデータ構造体および1以上の第四の拘束条件のセットを含み、前記複数の第四のデータ構造体の各々が複数の作用物質を多細胞生物内の複数の第三の細胞による複数の反応に関連付け、前記反応の各々は反応の基質として同定された作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む、項目27に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目32)
前記複数の第一ないし第四のデータ構造体が複数の異なる細胞についてのデータ構造体を含む、項目31に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目33)
前記複数の第一ないし第四のデータ構造体が複数の異なる細胞型についてのデータ構造体を含む、項目31に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目34)
前記1以上の第三の細胞が少なくとも4細胞、5細胞、6細胞、7細胞、8細胞、9細胞、10細胞、100細胞、1000細胞、5000細胞、10,000細胞またはそれ以上を含む、項目32または33に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目35)
(a)複数の作用物質を第一の細胞による複数の反応に関連付ける第一のデータ構造体を提供する工程であって、該反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;
(b)複数の作用物質を第二の細胞による複数の反応に関連付ける第二のデータ構造体を提供する工程であって、該反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;
(c)複数の系内作用物質を該第一および第二の細胞の間の複数の系内反応に関連付ける第三のデータ構造体を提供する工程であって、該系内反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;
(d)該第一、第二および第三のデータ構造体に対する該複数の反応についての拘束条件のセットを提供する工程;
(e)目的関数を提供する工程、ならびに、
(f)該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定し、該少なくとも1つの流束分布が該第一および第二の細胞の生理学的機能を予測する工程;
を含む、多細胞生物の生理学的機能を予測する方法。
(項目36)
前記第一のデータ構造体が第一の反応ネットワークを含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目37)
前記第二のデータ構造体が第二の反応ネットワークを含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目38)
前記第一または第二のデータ構造体が複数の反応ネットワークを含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目39)
さらに、1以上の第四のデータ構造体および1以上の第四の拘束条件のセットを含み、各第四のデータ構造体は複数の作用物質を多細胞生物内の1以上の第三の細胞による複数の反応に関連付け、前記反応の各々は反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目40)
前記1以上の第四のデータ構造体が複数のデータ構造体を含む、項目39に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目41)
前記複数のデータ構造体が複数の異なる細胞についてのデータ構造体を含む、項目40に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目42)
前記複数のデータ構造体が複数の異なる細胞型についてのデータ構造体を含む、項目40に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目43)
前記1以上の第三の細胞が少なくとも4細胞、5細胞、6細胞、7細胞、8細胞、9細胞、10細胞、100細胞、1000細胞、5000細胞、10,000細胞またはそれ以上を含む、項目41または42に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目44)
前記第一および第二の細胞が真核生物細胞を含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目45)
前記第一および第二の細胞が原核生物細胞を含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目46)
前記第一および第二の真核生物細胞が同一組織または器官の細胞を含む、項目44に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目47)
前記第一および第二の真核生物細胞が異なる組織または器官の細胞を含む、項目44に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目48)
前記反応の少なくとも1つが関連遺伝子を示すように注釈された、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目49)
さらに、前記関連遺伝子を特徴付ける情報を有する遺伝子データベースを含む、項目48に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目50)
前記反応の少なくとも1つが調節された反応である、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目51)
前記拘束条件のセットが前記調節された反応についての可変拘束条件を含む、項目50に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目52)
前記少なくとも1つの系内反応が、造血系、尿、結合組織、収縮系、リンパ系、呼吸器系または腎臓系で行われる1以上の反応を含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目53)
前記系内反応が炭酸水素塩緩衝系、アンモニア緩衝系、ホルモン、シグナリング分子、ビタミン、ミネラルまたはその組合せよりなる群から選択される反応または作用物質を含む、項目52に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目54)
前記第一または第二の細胞が乳腺細胞、肝細胞、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、肝臓脂肪細胞、赤色骨格筋細胞、白色骨格筋細胞、中間骨格筋細胞、平滑筋細胞、赤血球細胞、脂肪細胞、単球、網状赤血球、線維芽細胞、ニューロン細胞、上皮細胞、または表5に記載された細胞から選択される、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目55)
前記生理学的機能は代謝細胞収率、ATP収率、バイオマス要求、成長、トリアシルグリセロール貯蔵、筋肉収縮、乳分泌、および酸素輸送能力から選択される、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目56)
前記データ構造が線形代数方程式の組を含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目57)
前記コマンドが最適化問題を含む、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目58)
前記複数の作用物質における少なくとも1つの作用物質、または前記複数の反応における少なくとも1つの反応が、サブ系区画への帰属で注釈される、項目35に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目59)
前記複数の反応における基質または産物が第一の区画に帰属され、前記複数の反応における第二の基質または産物が第二の区画に帰属される、項目58に記載のコンピュータ読取可能媒体。
(項目60)
複数の反応が複数の関連遺伝子を示すように注釈され、前記遺伝子データベースが前記複数の関連遺伝子を特徴付ける情報を含む、項目49に記載のコンピュータ読取可能媒体。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、仮定代謝ネットワークの模式図を示す。
【図2】図2は、図1に示された仮定代謝ネットワークに置くことができる質量平衡拘束および流束拘束(可逆性拘束)を示す。
【図3】図3は、図1に示された仮定代謝ネットワークについての化学量論行列(S)を示す。
【図4】図4は、パネルAにおいて、例示的な生化学反応ネットワークおよび、パネルBにおいて、パネルAにおける反応ネットワークについての例示的な調節制御構造を示す。
【図5−1】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−2】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−3】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−4】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−5】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−6】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−7】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−8】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図5−9】図5は、中枢的なヒト代謝の代謝ネットワークを示す。
【図6】図6は、トリオース−リン酸イソメラーゼについての遺伝子−蛋白質−反応会合の例を示す。
【図7−1】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−2】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−3】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−4】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−5】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−6】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−7】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−8】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−9】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−10】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−11】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−12】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−13】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−14】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−15】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−16】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−17】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−18】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−19】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−20】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−21】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−22】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−23】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−24】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−25】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−26】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−27】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−28】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−29】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−30】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−31】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−32】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−33】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−34】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図7−35】図7は、脂肪細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図8】図8は、筋細胞代謝モデルにおける筋肉収縮を示す。
【図9−1】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−2】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−3】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−4】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−5】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−6】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−7】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−8】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−9】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−10】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−11】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−12】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−13】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−14】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−15】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−16】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−17】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−18】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−19】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−20】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−21】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−22】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−23】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−24】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−25】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−26】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−27】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−28】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−29】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−30】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−31】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−32】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−33】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−34】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図9−35】図9は、筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−1】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−2】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−3】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−4】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−5】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−6】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−7】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−8】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−9】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−10】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−11】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−12】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−13】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−14】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−15】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−16】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−17】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−18】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−19】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−20】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−21】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−22】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−23】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−24】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−25】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−26】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−27】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−28】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−29】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−30】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−31】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−32】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−33】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−34】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−35】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−36】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−37】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−38】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−39】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−40】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−41】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−42】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−43】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−44】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−45】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−46】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−47】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−48】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−49】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−50】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−51】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−52】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−53】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−54】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−55】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−56】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−57】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−58】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−59】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−60】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−61】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−62】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−63】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−64】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−65】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−66】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−67】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−68】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−69】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図10−70】図10は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝の代謝ネットワークを示す。
【図11】図11は、脂肪細胞モデルにおけるトリアシルグリセロール分解を示す。
【図12】図12は、嫌気的運動の間における乳酸蓄積の結果としての筋肉収縮の損傷を示す。時間は任意単位である。乳酸(Y乳酸)生産の濃度および収率はモル/モルグルコースで表す。
【図13】図13は、筋細胞におけるグリコーゲン資化(左側に強調する)−対−グルコース資化(右側に強調する)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ホモ・サピエンスゲノム中の遺伝子間の相互結合およびそれらに関連する反応および作用物質を記載するイン・シリコモデルを提供する。また、本発明は、細胞内の異なる生化学ネットワークの間の、ならびに細胞間の相互結合を記載するイン・シリコモデルも提供する。細胞間の異なる生化学ネットワーク内の相互結合は、例えば、異なる位置、組織、器官内の細胞を含めた細胞の群の間の、あるいは多細胞生物の異なる機能を行う細胞間の相互作用を記載することができる。従って、該モデルを用いて、ヒト細胞を含めた多細胞生物に由来する細胞の細胞挙動の異なる態様を刺激することができ、ならびにそれを用いて、細胞の群の細胞挙動相互作用の異なる態様を刺激することができる。細胞のそのような群は、例えば、同一組織型のものなどの真核生物細胞、または原核生物細胞のコロニー、または多細胞生物からの同一または異なる組織型に由来する異なるタイプの真核生物細胞を含む。細胞挙動相互作用を含めた細胞挙動の異なる態様は異なる正常な、病理学的および治療的条件下で刺激することができ、それにより、治療的、診断的および研究的適用のための価値ある情報を提供することができる。本発明のモデルの1つの利点は、それらが、ホモ・サピエンス細胞の活性を含めた、多細胞生物の活性、細胞相互作用および個々の細胞を刺激かつ予測する全体論的アプローチを提供する点にある。従って、該モデルおよび方法を用いて、現実的な診断および治療目的で、器官、生理学的系および全身代謝を含めた、複数の相互作用する細胞の活性を刺激することができる。
【0009】
1つの実施形態において、本発明は、ホモ・サピエンス細胞の代謝モデルを参照することによって例示される。真核生物細胞のこのイン・シリコモデルは、2以上の相互作用ネットワークに由来する細胞挙動を記載する。何故ならば、それは、後に記載するように、代謝、調節および他のネットワーク相互作用を含むことができるからである。2以上の相互作用ネットワークを含む細胞モデルの作成および使用に適用できる本発明のモデルおよび方法もまた、2以上のネットワークが多細胞生物の細胞または組織などの区画間で分離されるマルチ−ネットワークモデルの作成および使用に適用することができる。従って、本発明のホモ・サピエンスまたは他の真核生物細胞モデルは、本発明のモデルおよび方法の、組織、器官、生理学的系または全生物の細胞の間の、および内の多数の生化学ネットワークの相互作用を記載するモデルへの適用を例示する。
【0010】
別の実施形態において、本発明のホモ・サピエンス代謝モデルを用いて、運動の間に、または腫瘍において骨格筋で起こるような好気的条件から嫌気的条件への変化の効果を決定することができ、あるいは種々のダイエットの変化の効果を決定することができる。ホモ・サピエンス代謝モデルを用いて、ホスホフルクトキナーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、ホスホグリセリン酸ムターゼ、乳酸デヒドロゲナーゼおよびアデノシンデアミナーゼなどの代謝系における欠陥のごとく、遺伝子的欠陥の結果を決定することもできる。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、ヒト脂肪細胞および筋細胞の統合された2つの細胞モデルのネットワーク再構成、特徴および刺激性能を含む多細胞相互作用のモデルを提供する。この多細胞モデルもまた、細胞外生理学的系についての系内生化学ネットワークを含んでいた。該モデルは、細胞内の成分の生化学的ネットワークの各々を再構成し、次いで、それらを、系内生化学ネットワークの付加、および異なる生理学的条件下での2つの細胞型の達成された正確な予測性能と一緒に組み合わせることによって作成した。そのような多細胞代謝モデルは、ホモ・サピエンス代謝モデルについて前記したのと同一の決定で使用することができる。該決定は、細胞、組織、生理学的系または生物レベルで実行することができる。
【0012】
多細胞およびホモ・サピエンス代謝モデルもまた、薬物デザインのための適当な標的を選択するのに用いることができる。そのような標的は、シミュレーションにおいて正または負に変調した場合に、所望の治療結果を生じる遺伝子、蛋白質または作用物質を含む。本発明のモデルおよび方法は、目的とする細胞機能に対する治療剤またはダイエットサプリメントの効果を予測するのに用いることもできる。同様に、該モデルおよび方法を用いて、標的細胞における無関係な細胞機能に対する治療剤の望ましいおよび望ましくない副作用、ならびに他の細胞型で起こるかもしれない望ましいまたは望ましくない効果の双方を予測することができる。かくして、本発明のモデルおよび方法は薬物の開発プロセスを現在可能であるよりも迅速かつコスト的に有利とすることができる。
【0013】
該多細胞およびホモ・サピエンス代謝モデルを用いて、特定の生化学反応の、ゲノムで見出される酵素コード遺伝子への帰属を予測し、または確証し、および現在のゲノムデータによって示されない反応または経路の有無を同定することもできる。かくして、該モデルを用いて、研究および発見プロセスをガイドすることができ、恐らくは、臨床的重要性のある新しい酵素、医薬または代謝産物の同定を導く。
【0014】
本発明のモデルは複数の作用物質を複数の反応に関連付けるデータ構造体に基づいており、該反応の各々が、該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む。データ構造体に含まれる反応は、中核の代謝反応、または1以上の与えられた細胞型に特異的な反応などの、ホモ・サピエンス細胞を含めた、全てまたはほとんどの細胞に、あるいは細胞の特定の型または種に共通するものであり得る。
【0015】
本明細書中で用いるように、用語「反応」は、細胞中でまたは細胞によって起こる、基質を消費し、または産物を形成する変換を意味することを意図する。該用語は、細胞のゲノムによって遺伝子的にコードされる1以上の酵素の活性により起こる変換を含むことができる。該用語は、細胞において自然発生的に起こる変換を含むこともできる。ホモ・サピエンス反応を参照して用いる場合、該用語は、ホモ・サピエンス細胞において、または該細胞によって起こる、基質を消費し、または産物を形成する変換を意味することを意図する。該用語に含まれる変換は、例えば、求核または親電子的付加、求核的または親電子的置換、脱離、異性化、脱アミノ化、リン酸化、メチル化、還元、酸化によるような化学的組成の変化、あるいは作用物質を1つの細胞区画から別の細胞区画へ移動させる輸送反応により起こるものなどの位置の変化を含む。輸送反応の場合には、反応の基質および産物は化学的に同一であり得、産物は、特定の細胞区画中の位置に従って区別することができる。かくして、化学的に変化しない作用物質を第一の区画から第二の区画へ輸送する反応は、その基質として、第一の区画中の作用物質および、その産物としての、第二の区画中の作用物質を有する。イン・シリコモデルまたはデータ構造体を参照するのに用いる場合、反応は、基質を消費し、または産物を生じる化学的な変換を表すことを意図する。
【0016】
本明細書中で用いるように、用語「作用物質」は、細胞において、または細胞によって起こる反応の基質または産物である化学物質を意味することを意図する。該用語は、ゲノムによってコードされた1以上の酵素によって行われる反応、1以上の非遺伝子的にコードされた高分子、蛋白質または酵素によって行われる細胞または生物で起こる反応、あるいは細胞中で自然発生的に起こる反応の基質または産物を含むことができる。ホモ・サピエンス作用物質に言及するのに用いる場合、該用語は、ホモ・サピエンス細胞において、または該細胞によって起こる反応の基質または産物である化学物質を意味することを意図する。代謝産物は該用語の意味の中にある作用物質であると理解される。イン・シリコモデルまたはデータ構造体に言及するのに用いる場合、作用物質は、細胞において、または細胞によって起こる反応の基質または産物である化学物質を表すことを意図する。
【0017】
本明細書中で用いるように、用語「基質」は、反応によって1以上の産物に変換することができる作用物質を意味することを意図する。該用語は、例えば、求核または親電子付加、求核または親電子置換、脱離、異性化、脱アミノ化、リン酸化、メチル化、還元、酸化により化学的に変化されるべき、あるいは膜を横切って、または異なる区画へ輸送されるなどして位置を変化させるべき作用物質を含むことができる。
【0018】
本明細書中で用いるように、用語「産物」は、1以上の基質との反応に由来する作用物質を意味することを意図する。該用語は、例えば、求核または親電子付加、求核または親電子置換、脱離、異性化、脱アミノ化、リン酸化、メチル化、還元または酸化により化学的に変化された、あるいは膜を横切って、または異なる区画へ輸送されるなどして位置を変化した作用物質を含むことができる。
【0019】
本明細書中で用いるように、用語「化学量論係数」は、化学反応における1以上の作用物質の数および1以上の産物の数を関連付ける定数を意味することを意図する。典型的には、該数は整数である。というのは、それらは、対応する変換を記載する基本的に平衡が保たれた化学方程式における各作用物質の分子の数を示すからである。しかしながら、ある場合には、該数は、例えば、集中反応で用いる場合に、あるいは経験的なデータを反映させるために、非−整数値を採ることができる。
【0020】
本明細書中で用いるように、用語「複数」は、ホモ・サピエンス反応または作用物質を含めた反応または作用物質に言及するのに用いる場合、少なくとも2の反応または作用物質を意味することを意図する。該用語は、2ないし、特定の細胞または複数細胞について天然で起こる作用物質または反応の数の範囲の反応または作用物質のいずれの数も含むことができる。かくして、該用語は、例えば、少なくとも10、20、30、50、100、150、200、300、400、500、600以上の反応または作用物質を含むことができる。反応または作用物質の数は、特定のホモ・サピエンス細胞で起こる天然に生じる反応の合計数の少なくとも20%、30%、50%、60%、75%、90%、95%または98%などの、ホモ・サピエンス細胞または複数細胞を含めた特定の細胞または複数細胞についての天然に生じる反応の合計数の一部として表すことができる。
【0021】
同様に、用語「複数」は、データ構造体に言及するのに用いる場合、少なくとも2のデータ構造体を意味することを意図する。該用語は、2ないし、特定のサブ系、系、細胞内系、細胞分画、オルガネラ、細胞外空間、サイトゾル、ミトコンドリア、核、小胞体、細胞の群、組織、器官または生物についての天然で生じる生化学ネットワークの数までの範囲のデータ構造体のいずれの数も含むことができる。従って、該用語は、例えば、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、25、20、25、50,100以上の生化学ネットワークを含むことができる。該用語は、ホモ・サピエンスを含めた原核生物または真核生物細胞で起こる前記特定のカテゴリーのいずれかについての天然に生じるネットワークの合計数の一部として表すことができる。
【0022】
本明細書中で用いるように、用語「データ構造体」は、特異的なデータ操作機能を指示するように設計された、データエレメント間の物理的なまたは論理的な関係を意味することを意図する。該用語は、例えば、組み合わせて、あるいはそうでなければ、作用物質が行列またはネットワークにおいて関連できる反応についての表示のリストのように操作して加えることができるデータエレメントのリストを含むことができる。該用語は、作用物質を反応に相関させる行列などの情報の2以上のリストからのデータエレメントを相関させる行列を含むこともできる。該用語に含まれる情報は、例えば、化学反応の基質または産物、1以上の基質を1以上の産物に関連付ける化学反応、反応に置かれる拘束、または化学量論係数を表すことができる。
【0023】
本明細書中で用いるように、用語「拘束(条件)」は、反応についての上方または下方境界を意味することを意図する。境界は、反応を通じての質量、電子またはエネルギーの最小または最大の流れを特定することができる。境界は、さらに、反応の方向性を特定することができる。境界はゼロなどの一定の値、無限、または整数などの数値であり得る。別法として、境界は以下に記載する可変境界値であり得る。
【0024】
本明細書中で用いるように、用語「変数」は、拘束に言及して用いる場合、拘束関数によって作用されるに応じた値の組のいずれかを採ることができることを意味することを意図する。用語「関数」は、拘束条件との関係で用いる場合、コンピュータおよび数学分野で理解されるように、該用語の意味に合致することを意図する。関数は、変化がオンまたはオフされる反応に対応するように二値であり得る。別法として、連続関数は、境界値の変化が活性の増加または減少に対応するように用いることができる。そのような増加または減少は、値の組を不連続な整数値に変換することができる関数によって、二値化または効果的にデジタル化することもできる。該用語に含まれる関数は、境界値を、作用物質、反応、酵素または遺伝子などの生化学反応ネットワーク参画体の存在、不在または量に相関させることができる。該用語に含まれる関数は、境界値を、境界限界によって拘束される反応を含む反応ネットワークにおける少なくとも1つの反応の結果に相関させることができる。該用語に含まれる関数は、時間、pH、温度またはレドックスポテンシャルなどの環境条件と相関させることもできる。
【0025】
本明細書中で用いるように、用語「活性」は、反応に言及して用いる場合、反応によって生じる産物の量、反応によって消費される基質の量、または産物が生成される、あるいは基質が消費される速度を意味することを意図する。反応によって生じる産物の量、反応によって消費される基質の量、または産物が生成され、あるいは基質が消費される速度は反応についての流束に関して言及することもできる。
【0026】
本明細書中で用いるように、用語「活性」は、ホモ・サピエンス細胞または多細胞相互作用に言及するのに用いる場合、初期状態から最終状態への変化の大きさまたは速度を意味することを意図する。該用語は、例えば、細胞によって消費される、または生成される化学物質の量、細胞によって化学物質が消費され、または生成される速度、細胞の成長の量または速度、またはエネルギー、または質量または電子が反応の特別なサブセットを通じて流れる量または速度を含むことができる。
【0027】
本発明は、複数のホモ・サピエンス作用物質をホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体を有するコンピュータ読取可能媒体を提供し、ホモ・サピエンス反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む。
【0028】
また、(a)複数の作用物質を第一の細胞による複数の反応に関連付ける第一のデータ構造体であって、該作用物質の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;(b)複数の作用物質を第二の細胞による複数の反応に関連付ける第二のデータ構造体であって、該反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;(c)複数の系内作用物質を該第一および第二の細胞の間の複数の系内反応に関連付ける第三のデータ構造体であって、該系内反応の各々が該反応の基質として同定される作用物質、該反応の産物として同定される作用物質、および該基材および該産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体;(c)該第一、第二および第三データ構造体に対する該複数の反応についての拘束条件のセット、および(d)該拘束条件のセットが該第一および第二のデータ構造体に適用されるとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定するためのコマンドであって、該少なくとも1つの流束分布が該第一および第二の細胞の生理学的機能を予測するコマンド;を有するコンピュータ読取可能媒体も提供される。
【0029】
適用に依って、ホモ・サピエンス細胞モデルまたは方法を含めた、本発明の多細胞、マルチ−ネットワークまたは単一細胞モデルもしくは方法いずれかについての複数の反応は、中核代謝反応または周辺代謝反応から選択される反応を含むことができる。本明細書中で用いるように、用語「中核」は、代謝経路に言及して用いる場合、解糖新生、ペントースリン酸経路(PPP)、トリカルボン酸(TCA)回路、グリコーゲン貯蔵、電子移動系(ETS)、リンゴ酸/アスパラギン酸シャトル、グリセロールリン酸シャトル、原形質膜およびミトコンドリア膜トランスポーターから選択される代謝経路を意味することを意図する。本明細書中で用いるように、用語「周辺」は、代謝経路に言及するのに用いる場合、中核代謝経路の一部ではない1以上の反応を含む代謝経路を意味することを意図する。
【0030】
複数の作用物質は、各反応について、それが消費または生成される反応を表すいずれかのデータ構造体における複数の反応に関連付けることができる。かくして、本明細書中においては、「反応ネットワークデータ構造体」というデータ構造体は、生物学的反応ネットワークまたは系の表示として働く。本発明の反応ネットワークデータ構造体において表示できる反応ネットワークの例は、実施例において示される、ホモ・サピエンスの中核代謝反応を構成する反応、または骨格筋細胞の代謝反応のコレクションである。本発明の反応ネットワークデータ構造体において表示できる反応ネットワークのさらなる例は、脂肪細胞の中核代謝反応およびトリアシルグリセロール(TAG)生合成経路を構成する反応;筋細胞の中核代謝反応およびエネルギーおよび収縮反応、および腎臓の緩衝機能を供給する系内反応のコレクションである。
【0031】
ヒト細胞を含めた多細胞生物において、または多細胞相互作用の間で起こり得る全ての可能な反応の中から、特定の反応ネットワークデータ構造体に含む作用物質の選択は、細胞の型または複数型、およびモデル化される生理学的、病理学的または治療的条件に依存し、さらに後に記載されるように、実験的に、あるいは文献から決定することができる。
【0032】
多細胞相互作用の特定のネットワークデータ構造体に含まれるべき反応は、例えば、遺伝子または蛋白質発現プロフィールを用いて実験的に決定することができ、該細胞の分子特徴は発現レベルに相関させることができる。細胞型における遺伝子または蛋白質の発現または発現の欠如は、反応が発現された遺伝子(類)および/または蛋白質(類)への会合によってモデルに含まれるか否かを決定するのに用いることができる。かくして、実験技術を用いて、いずれの遺伝子および/または蛋白質が特異的な細胞型で発現されるかを決定し、さらに、この情報を用いて、いずれの反応が目的とする細胞型で存在するかを決定するのが可能である。このように、ヒト細胞で起こり得る反応の全てからの反応のサブセットを選択して、特異的細胞型を表す反応の組を含める。cDNA発現プロフィールは、例えば、乳癌細胞の分類で有用であることが示されている(Sorlieら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.98(19):10869−10874(2001))。
【0033】
本発明の方法およびモデルは、いずれの多細胞相互作用にも、ならびに例えば、胚性幹細胞、造血系幹細胞、分化した造血系細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、皮膚細胞、神経細胞、腎臓細胞、肺細胞、肝臓細胞、脂肪細胞および内分泌細胞(例えば、膵臓のベータ島細胞、乳腺細胞、副腎細胞、および他の特殊化されたホルモン分泌細胞)を含めた分化のいずれかの段階にあるいずれのホモ・サピエンス細胞型にも適用することができる。同様に、本発明の方法およびモデルは、2以上の同一細胞型または2以上の異なる細胞型を含めた、これらの細胞型のいずれかの間のいずれかの相互作用に適用することができる。実施例IVにおいて後に記載するのは、分化生理学的条件下で筋細胞および脂肪細胞の間で起こる相互作用の例である。
【0034】
本発明の方法およびモデルは正常な細胞、病理学的細胞、ならびに正常な細胞間の相互作用、病理学的細胞の間の相互作用、または正常および病理学的細胞の間の相互作用の組合せに適用することができる。ホメオスタシス、増殖、分化、アポトーシス、収縮および運動性を含めた、種々の注目する生理学的活性を呈する正常な細胞をモデル化することができる。遺伝的または発生的異常、栄養欠乏、環境攻撃、感染(細菌、ウイルス、原生動物または真菌剤によるものなど)、新形成、老化、改変された免疫または内分泌機能、組織損傷、またはこれらの因子のいずれかの組合せを反映する細胞を含めた、病理学的細胞もモデル化することができる。病理学的細胞は、例えば、炭水化物、脂質または蛋白質代謝の種々の代謝障害、肥満、糖尿病、心血管病、線維症、種々の癌、腎不全、免疫病理、神経変性病、およびOnline Mendelian Inheripance in
Manデータベース(Center for Medical Genetics,Johns Hopkins University(Baltimore,MD)and
National Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,MD))に記載された種々の一遺伝子代謝障害を含めた、ヒト病理学などの病理学のいずれかの型の代表であり得る。
【0035】
本発明の方法およびモデルは、反応ネットワークにおける参画体を標的とし、または相互作用反応ネットワークに対する効果を引き起こす薬物で処理された細胞、コードされた蛋白質の発現を増加または減少させる遺伝子−ベースの治療剤で処理された細胞または組織、および放射線で処理された細胞および組織などの、治療摂動を受ける細胞または生物に適用することもできる。本明細書中で用いるように、用語「薬物」とは、例えば、そのいずれも所望により静細胞、標的化または検出可能部位をタグとして付すこともできる、小分子化合物、ペプチドおよび他の高分子、ペプチドミメティックおよび抗体を含めた、公知のまたは提案された治療機能を持ついずれの分子性質の化合物もいう。用語「遺伝子−ベースの治療剤」とは、例えば、正常なまたは改変された蛋白質活性を持つ発現可能な遺伝子、アンチセンス化合物、リボザイム、DNAザイム、RNA干渉化合物(RNAi)などを含めた、核酸治療剤をいう。治療剤は、細胞におけるいずれの位置にある、反応ネットワークにおける対象についても標的とすることが可能であり、この対象としては、細胞外部位、細胞表面部位、小胞体、ミトコンドリアおよび核内部にある対象が挙げられる。遺伝子または蛋白質発現プロフィールにおける改変などの、治療的処置に対する、細胞、組織、またはその相互作用の応答で集まる実験データを用いて、特定の細胞型の病理学的状態についてのネットワークまたはネットワークの組合せを仕立てることができる。
【0036】
本発明の方法およびモデルは、ホモ・サピエンス細胞、組織および生理学的系を含めた、細胞、組織および生理学的系に適用することができる。というのは、それらは、初代培養単離体における、または樹立された細胞系における、または全身における、無傷器官における、または組織外植体におけるようにいずれの形態でも存在するからである。従って、該方法およびモデルは細胞間情報伝達および/または器官間情報伝達、基質または(間葉細胞と相互作用する幹細胞、またはその組織ミクロ環境と相互作用する癌細胞、または正常な支質無しのベータ−島細胞などの)隣接細胞への接着の効果、および多細胞系に関連する他の相互作用をコードすることができる。
【0037】
本発明の反応ネットワークデータ構造体で用いるべき作用物質は、化合物データベースから入手することができ、あるいはデータベースに貯蔵することができる。本明細書中で用いるように、用語「化合物データベース」は、生物学的反応の基質および産物を含む複数の分子を含有するコンピュータ読取可能媒体を意味することを意図する。該複数の分子は、複数生物に見出される分子を含むことができ、それにより、普遍的化合物データベースを構成する。別法として、該複数分子は特定の生物に起こるものに限定することができ、それにより、生物−特異的化合物データベースを構成する。化合物データベースにおける各作用物質は化学種、およびそれが存在する細胞区画に従って同定することができる。かくして、例えば、細胞外区画におけるグルコース−対−サイトゾルにおけるグルコースの間で区別をなすことができる。加えて、作用物質の各々は、一次または二次代謝経路の代謝産物として特定することができる。一次または二次代謝経路の代謝産物としての作用物質の同定は、反応における作用物質の間のいずれの化学的区別も示さないが、そのような指定は反応の大きなネットワークの目に見える表示において援助することができる。
【0038】
本明細書中で用いるように、用語「区画」は、作用物質が第二の領域における少なくとも1つの他の作用物質から分離されるように、少なくとも1つの作用物質を含有する細分割された領域を意味することを意図する。該用語に含まれる細分割された領域は細胞の細分割された領域と相関させることができる。かくして、該用語に含まれる細分割された領域は、例えば、細胞の細胞内空間;細胞の周りの細胞外空間;ペリプラズム空間、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ装置、空胞または核などのオルガネラの内部空間、あるいは膜または他の物理学的バリアによって別のものから分離されたいずれかの細胞下空間であり得る。例えば、ミトコンドリア区画は、細胞または組織の細分割された領域である、細胞の細胞内空間の細分割された領域である。細分割された領域は、例えば、生物の組織、器官または生物学的系の異なる領域または系を含むこともできる。細分割された領域を作成して、物理的バリアに相関されない反応ネットワークにおける実質的境界を作り出すことができる。実質的境界は、ネットワーク中の反応を異なる区画またはサブ構造にセグメント化する目的でなすことができる。
【0039】
本明細書中で用いるように、用語「サブ構造」は、情報の一部を別々に操作し、または分析することができるように、データ構造体中の他の情報から分離されるデータ構造体中の情報の一部を意味することを意図する。この用語は、例えば、内部フラックス経路、交換フラックス経路、中枢代謝経路、末梢代謝経路または二次的代謝経路を含めた、生物学的機能に従って細分割された部分を含むことができる。該用語は、データ構造体の特定のタイプの分析または操作を可能とする計算的または数学的原理に従って細分割された部分を含むことができる。
【0040】
反応ネットワークデータ構造体に含まれる反応は、生化学的または生理学的相互作用を呈するホモ・サピエンス、他の多細胞生物、または単一細胞生物の複数の代謝反応の基質、産物および化学量論を含む代謝反応データベースから得ることができる。反応ネットワークデータ構造体における作用物質は、各々が、反応で起こる化学的変換を記載するためにそれに割り当てられた化学量論的係数を持つ、特定の反応の基質または産物いずれかとして命名することができる。各反応は、可逆的または不可逆的方向のいずれで起こるものとしても記載される。可逆的反応は、順方向および逆方向の双方で働く1つの反応として表すことができるか、あるいは2つの付加逆的反応に分解することができ、1つは順方向反応に対応するものであって、他は逆方向反応に対応するものである。
【0041】
反応ネットワークデータ構造体に含まれる反応は系内または交換反応を含むことができる。系内反応は、相対的量のある種の代謝産物を補充するか、またはそれを排出するように働く、化学種および輸送プロセスの化学的におよび電気的に平衡化された相互変換である。これらの系内反応は、変換またはトランスロケーションいずれかとして分類することができる。変換は、基質および産物としての化合物の区別される組を含有する反応であり、他方、トランスロケーションは異なる区画に位置する作用物質を含有する。かくして、その化学的組成を変化することなく、代謝産物を細胞外環境からサイトゾルへ単純に輸送する反応はトランスロケーションとして唯一分類され、他方、細胞外基質を採り、それをサイトゾル産物に変換する反応はトランスロケーションであって変換である。さらに、系内反応は独立した細胞、組織、器官または生理学的系の1以上の生化学的または生理学的機能を表す反応を含むことができる。例えば、造血系および細胞内環境についての腎臓の緩衝機能はシステム内反応として表すことができ、独立した反応ネットワークとしての、または構成細胞の1以上の反応ネットワークと融合された多細胞相互作用に含まれ得る。
【0042】
交換反応は、供給源およびシンクを構成するものであり、区画への、区画からの、または仮定系境界を横切っての代謝産物の通過を可能とする。これらの反応は、シミュレーション目的でのモデルに含まれ、ホモ・サピエンスに対する代謝要求を表す。それらはある場合には化学的に平衡化され得るが、それらは典型的には平衡化されておらず、しばしば、単一の基質または産物を有し得るに過ぎない。約束事項として、交換反応はさらに要求交換および入力/出力交換反応に分類される。
【0043】
多細胞またはホモ・サピエンス代謝反応ネットワークに対する代謝要求は、公表された文献で利用できる、あるいは実験的に決定することができる細胞、複数細胞、組織、器官または生物の乾燥重量組成から容易に決定することができる。ホモ・サピエンス細胞についての摂取速度および維持要件もまた、公表された文献から得ることもでき、あるいは実験的に決定することができる。
【0044】
入力/出力交換反応を用いて、細胞内作用物質が、本発明のモデルによって表される反応ネットワークに進入し、またはそこから出るのを可能とする。細胞外代謝産物の各々については、対応する入力/出力交換反応を作り出すことができる。これらの反応は、反応によって生じた1つの産物、または産物無しの化学量論係数として示される代謝産物に関して常に可逆的である。この特定の約束を採用して、代謝産物が反応ネットワークから生じ、またはそこから取り出されている場合には正の流束値(活性レベル)、および代謝産物が反応ネットワークで消費され、またはそこへ導入される場合には、負の流束値を採るのを可能とする。これらの反応は、さらに、シミュレーションのコースの間にさらに拘束されて、いずれの代謝産物が細胞に利用され、細胞によって分泌され得るかを正確に特定する。
【0045】
要求交換反応は、常に、少なくとも1つの基質を含有する不可逆的反応として特定される。これらの反応は、典型的には、代謝ネットワークによる細胞内代謝産物の生産、または成長とも言われるバイオマス形成に導く反応の表示におけるように平衡化された比率での多くの作用物質の集合生成を表すように処方される。
【0046】
要求交換反応は、本発明のモデルにおいていずれかの代謝産物について導入することができる。最も普通には、これらの反応は、代替目的で生産すべき、アミノ酸、ヌクレオチド、リン脂質、および他のバイオマス構成成分、または代謝産物などの、新しい細胞を作り出す目的で細胞によって生産されることが要求される代謝産物について導入される。一旦これらの代謝産物が同定されれば、不可逆的であって、単位の化学量論係数でもって基質としての代謝産物を特定する要求交換反応を作り出すことができる。これらの明細でもって、もし反応が活性であれば、それは、潜在的な生産要求に合致するシステムによる代謝産物の正味の生産に導く。反応ネットワークデータ構造体において要求交換反応として表すことができ、かつ本発明の方法によって分析することができるプロセスの例は、例えば、個々の蛋白質の生産または分泌;アミノ酸、ビタミン、ヌクレオシド、抗生物質または界面活性剤などの個々の代謝産物の生産または分泌;運動または筋肉収縮などの外来性エネルギーを必要とするプロセスのためのATPの生産;またはバイオマス構成要素の形成を含む。
【0047】
個々の代謝産物に配置されるこれらの要求交換反応に加えて、規定された化学量論比率で複数の代謝産物を利用する要求交換反応を導入することができる。これらの反応を集合要求交換反応という。集合要求反応の例は、例えば、特定の細胞または生物の成長速度における同時の複数のバイオマス構成要素の形成をシミュレートすることによって、細胞に配置される細胞成長に関連する同時成長要求または生産要件をシミュレートするのに用いられる反応である。
【0048】
特定の反応ネットワークは、上述した反応およびそれらの相互作用を例示するために図1に供される。反応は、以下に記載される図3に示された例示的なデータ構造体において表示することができる。図1に示された反応ネットワークは、作用物質BおよびGに作用する可逆的反応R、および1当量のBを2当量のFに変換する反応Rなどの陰影をつけた卵型によって示される区画内で全てが起こる系内反応を含む。図1に示される反応ネットワークは、入力/出力交換反応AxtおよびExt、および1当量のDおよび1当量のFに応答して成長を表す要求交換反応V成長などの交換反応を含む。他の系内反応は、作用物質Aを区画に移し、それを作用物質Gに変換するトランスロケーションおよび変換反応であるR、および区画から作用物質Eを移す輸送反応である反応Rを含む。
【0049】
反応ネットワークは、化学量論的行列Sとして表すことができる線形代数方程式の組として表すことができ、Sはm×n行列であり、mは作用物質または代謝産物の数に対応し、nはネットワークで起こる反応の数に対応する。図1の反応ネットワークを表す化学量論行列の例を図3に示す。図3に示すように、行列における各列は特定の反応nに対応し、各行は特定の作用物質mに対応し、および各Smm要素はnで示された反応における作用物質mの化学量論係数に対応する。化学量論行列は、作用物質が反応の基質または産物であるか否か、値が反応によって消費されたまたは生じた作用物質の当量の数に相関するか否かを示す符号を有する化学量論係数に従った、各反応に参画する作用物質に関連するRおよびRなどの系内反応を含む。−Extおよび−Axtなどの交換反応は、同時に、化学量論係数に相関する。作用物質Eによって例示されるように、同一化合物が、当該化合物を輸出する交換反応(R)が、各々、−1および1の化学量論係数によって相関されるように、内部作用物質(E)および外部反応対(E外部)として別々に処理できる。しかしながら、該化合物は、その区画の位置によって別々の作用物質として処理されるゆえに、内部作用物質(E)を生じるが、外部作用物質(E外部)に作用しないRなどの反応は、各々、1および0の化学量論係数によって相関される。V成長などの要求反応もまた、適当な化学量論係数によって基質と相関する化学量論行列に含まれ得る。
【0050】
後にさらに詳細に記載されるように、化学量論行列は、反応ネットワークを表し、それを分析するための便宜なフォーマットを提供する。何故ならば、それは迅速に操作でき、それを用いて、例えば、線形計画法または一般的凸計画法を用いることによってネットワーク特性を計算することができるからである。反応ネットワークデータ構造体は、それが、作用物質および反応を化学量論行列について前記で例示したように、かつ後に例示するものなどの方法を用いて1以上の反応の活性を決定するのに操作することができるように関連付けることができる限り、種々の様式を採ることができる。本発明で有用な反応ネットワークデータ構造体の他の例は、連結グラフ、化学反応のリストまたは反応方程式の表を含む。
【0051】
反応ネットワークデータ構造体は、2以上の細胞の相互作用、ホモ・サピエンス細胞代謝またはそのいずれかの部分の間に起こる代謝に関与する全ての反応を含むように構築することができる。本発明の反応ネットワークデータ構造体に含めることができる生物代謝反応の部分は、例えば、解糖、TCA回路、PPPまたはETSなどの中枢代謝経路;あるいはアミノ酸生合成、アミノ酸分解、プリン生合成、ピリミジン生合成、脂質生合成、脂肪酸代謝、ビタミンまたは補因子生合成、輸送プロセスおよび代替炭素源異化などの周辺代謝経路を含む。周辺経路内の個々の経路の例を表1に記載する。本発明の反応ネットワークデータ構造体に含めることができる代謝反応の部分の他の例は、例えば、TAG生合成、筋肉収縮要件、炭酸水素塩緩衝液系および/またはアンモニア緩衝液系を含む。これらおよび他の反応の具体的な例は、後に、および実施例においてさらに記載する。
【0052】
特定の適用に応じて、反応ネットワークデータ構造体は、表1にリストした反応のいずれかまたは全てを含めた複数のホモ・サピエンス反応を含むことができる。同様に、反応ネットワークデータ構造体は実施例IないしIVに記載された反応を含むこともでき、例えば、単一反応ネットワーク、細胞内で相互作用する複数反応ネットワーク、ならびに細胞または生理学的系の間で相互作用する複数の反応ネットワークを含む。
【0053】
いくつかの適用では、最小数の反応を含む反応ネットワークデータ構造体を用いて、特定のホモ・サピエンス活性、または環境条件の特定の組の下にある多細胞相互作用の活性を達成するのが有利であり得る。最小数の反応を有する反応ネットワークデータ構造体は、異なる反応、または反応の組が系統的に取り出され、効果が観察される対話様式で後に記載するシミュレーション方法を実行することによって同定することができる。従って、本発明は、複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体を含有するコンピュータ読取可能媒体を提供し、該複数のホモ・サピエンス反応は少なくとも65の反応を含む。例えば、表2および3に示される中核代謝反応データベースは65の反応を含み、グルコースを含めた多数の炭素源についての好気性および嫌気性代謝をシミュレートするのに十分である。同様に、本発明は、多細胞相互作用の複数の作用物質を多細胞相互作用からの複数の反応に関連付けるデータ構造体を含むコンピュータ読取可能媒体を提供し、該反応は2つの細胞の相互作用について少なくとも430を含む。多細胞相互作用の間のそのような反応は、例えば、表11に例示される。
【0054】
特定の細胞型または複数細胞型、テストすべき生理学的、病理学的または治療的状態、本発明のモデルまたは方法の細胞相互作用の所望の活性および数に応じて、反応ネットワークデータ構造体は、少なくとも200、150、100または50の反応などのより少ない数の反応を含むことができる。比較的少数の反応を有する反応ネットワークデータ構造体は、シミュレーションを実行するのに必要な計算の回数および資源を低下させる利点を提供することができる。望まれる場合、反応の特定のサブセットを有する反応ネットワークデータ構造体を作成し、または用いることができ、特定のシミュレーションに関連しない反応は省略される。別法として、より大きな数の反応を含めて、本発明の方法の精度または分子の詳細を増加させ、あるいは特定の適用に適合させることができる。かくして、反応ネットワークデータ構造体は、起こる反応の数までの、あるいはホモ・サピエンスを含めた多細胞相互作用による、あるいはホモ・サピエンスを含めた多細胞相互作用で起こる反応の十分な組の活性をシミュレートするのが望まれる少なくとも300、350、400、450、500、550、600以上の反応を含むことができる。ホモ・サピエンスを含めた多細胞生物の代謝反応に関連して実質的に完全な反応ネットワークデータ構造体は、シミュレートすべき広い範囲の条件に関連する利点を提供し、他方、より少数の代謝反応はシミュレートすべき条件の特定のサブセットに対して特異的である。
【0055】
ホモ・サピエンス反応ネットワークデータ構造体は、ホモ・サピエンスにおいて、またはそれによって起こる、およびSaccharomyces cerevisiaeなどの別の生物において、またはそれによって天然でまたは操作により起こらない1以上の反応を含むことができる。特定の細胞型のホモ・サピエンス反応ネットワークデータ構造体は、別の細胞型で起こる1以上の反応を含むことができることは理解される。本発明の反応ネットワークデータ構造体へのそのような異種反応の付加は、例えば、イン・ビボおよびエクス・ビボ遺伝子治療アプローチを設計する場合に、異種遺伝子導入および蛋白質発現の結果を予測する方法で用いることができる。同様に、多細胞相互作用についての反応ネットワークは、全く、細胞相互作用の起源の種内で起こる1以上の反応を含むこともできるか、あるいは1以上の異なる種からの1以上の異種反応を含有することができる。
【0056】
本発明の反応ネットワークデータ構造体に含まれる反応は代謝反応であり得る。反応ネットワークデータ構造体は、調節反応、シグナル変換反応、細胞周期反応、発生プロセスを制御する反応、アポトーシスに関与する反応、低酸素症に対する応答に関与する反応、細胞−細胞または細胞−基質相互作用に対する応答に関与する反応、蛋白質合成およびその調節に関与する反応、遺伝子転写および翻訳、およびその調節に関与する反応、および細胞およびその細胞下構成要素の組立に関与する反応などの他のタイプの反応を含むように構築することもできる。
【0057】
前記したような、反応ネットワークデータ構造体、あるいは代謝反応データベースで利用できるものなどのデータ構造体で用いる反応の指標は、特定の反応についての情報を含むように注釈することができる。反応は、例えば、反応の、該反応を行う蛋白質、高分子または酵素への帰属、該蛋白質、高分子または酵素をコードする遺伝子(類)の帰属、特定の代謝反応の酵素番号(EC番号)、反応が属する反応のサブセット、情報が得られた文献の引用、または反応がホモ・サピエンスまたは他の生物で起こると考えられる信頼性のレベルを含むように注釈することができる。本発明のコンピュータ読取可能媒体は、注釈された反応を含む遺伝子データベースを含むことができる。そのような情報は、後に記載する本発明の代謝反応データベースまたはモデルを形成する間に得ることができる。
【0058】
本明細書中で用いるように、用語「遺伝子データベース」とは、反応を実行する1以上の高分子へ反応を帰属させる、あるいは反応を実行する1以上の高分子をコードする1以上の核酸を帰属させるように注釈される少なくとも1つの反応を含むコンピュータ読取可能媒体を意味することを意図する。遺伝子データベースは、そのいくらかまたは全てが注釈される複数の反応を含むことができる。注釈としては、例えば、高分子についての名称;機能の高分子への帰属;高分子を含有する、または高分子を生産する生物の帰属;高分子についての細胞下位置の帰属;高分子が、発現される、または分解される反応の実行に関して調節される条件の帰属;高分子を調節する細胞構成要素の帰属;高分子についてのアミノ酸またはヌクレオチド配列;mRNAアイソフォーム、酵素アイソフォーム、またはいずれかの他の望ましい注釈、ゲノムデータベースにおいて高分子について見出される注釈を含むことができる。このような注釈としては、例えば、NCBI(ncbi.nlm.gov)によって維持管理されているサイトの1つであるGenbank、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)(www.genome.ad.jp/kegg/)、蛋白質データベースSWISS−PROT(ca.expasy.org/sprot/)、NCBIによって維持管理されるLocusLinkデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/locuslink/)、英国のG.P.Moss of Queen Mary and Westfield Collegeによって維持管理されるEnzyme Nomenclature(酵素命名法)データベース(www.chem.qmw.ac.uk/iubmb/enzyme/)に見出されるものが挙げられる。
【0059】
本発明の遺伝子データベースは、ホモ・サピエンスを含めた多細胞生物における遺伝子またはオープンリーディングフレームの実質的に完全な遺伝子、あるいは生物のゲノムによってコードされる実質的に完全なコレクションを含むことができる。別法として、遺伝子データベースは、生物における遺伝子またはオープンリーディングフレームの部分、あるいは実質的に全ての代謝遺伝子または高分子を含む部分などの生物のゲノムによってコードされる高分子の部分を含むことができる。該部分は、生物のゲノムによってコードされる遺伝子またはオープンリーディングフレーム、あるいはそこでコードされる高分子の少なくとも10%、15%、20%、25%、50%、75%、90%または95%であり得る。遺伝子データベースは、生物のゲノムの少なくとも10%、15%、20%、25%、50%、75%、90%または95%などの生物のゲノムについてのヌクレオチド配列の少なくとも部分によってコードされる高分子を含むこともできる。従って、本発明のコンピュータ読取可能媒体は、ホモ・サピエンスゲノムを含めた生物のゲノムの部分によってコードされる各高分子についての少なくとも1つの反応を含むことができる。
【0060】
本発明の、ホモ・サピエンスモデルを含む多細胞相互作用のイン・シリコモデルは、反復プロセスにより構築されるが、このプロセスは、モデルに加えるべき特定の反応に関する情報を収集すること、反応ネットワークデータ構造体で反応を表現すること、および予備的シミュレーションを実行することを含み、この予備的シミュレーションでは、拘束条件のセットが反応ネットワークに与えられ、その出力が評価されることで、そのネットワークにおけるエラーが同定される。特定の代謝産物の非天然蓄積または消費に至る欠陥のようなネットワークにおけるエラーが、後に記載するように同定され得、モデルの所望の性能が達成されるまでシミュレーションを反復する。反復的モデル構築のための例示的な方法を実施例Iに提供する。多細胞相互作用では、反復プロセスは、実施例IVに記載されたように、1以上の成分反応を生じさせ、続いて、成分をより高次のマルチ−ネットワークシステムに組み合わせることを含む。例えば、成分は、中枢代謝反応ネットワーク、および脂肪細胞についてのTAG生合成、または筋細胞についての筋肉収縮などの細胞特異的反応ネットワークを含むことができる。中枢代謝、および細胞特異的反応ネットワークの単一モデルへの組合せは、例えば、細胞特異的反応ネットワークを生じさせる。成分は、より大きな多細胞系の構成要素である、個々の細胞型、組織、生理学的系、または系内反応ネットワークを含むこともできる。これらの成分をより大きなモデルに組み合わせると、例えば、その種々の相互作用と一緒に、多細胞系の関係および相互作を記載するモデルを生じる。
【0061】
かくして、本発明は、コンピュータ読取可能媒体において、複数の作用物質を複数の反応に関連付けるデータ構造体を作成する方法を提供する。該方法は:(a)複数の反応、および反応の基質および産物である複数の作用物質を同定する工程;(b)外複数の作用物質をデータ構造体における該複数のホモ・サピエンス反応に関連付ける工程であって、反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および基質および産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(c)外複数の反応についての拘束条件のセットを作成する工程;(d)目的関数を提供する工程;(e)該拘束条件のセットをデータ構造体に適用するとき、該目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定する工程、ならびに、(f)もし少なくとも1つの流束分布が生理学を予測しなければ、次いで、データ構造体および反復工程に反応を加え、またはそれらから反応を削除する工程、(g)もし少なくとも1つの流束分布が生理学を予測すれば、次いで、データ構造体をコンピュータ読取可能媒体に貯蔵する工程を含む。該方法は、ホモ・サピエンスを含めた単一もしくは多細胞生物内の、またはその間の多細胞相互作用に適用することができる。
【0062】
本発明のデータ構造体に含めるべき情報は、例えば、注釈されたゲノム配列情報および生化学文献を含めた種々の源から集めることができる。
【0063】
注釈されたヒトゲノム配列情報の源は、例えば、KEGG、SWISS−PROT、LocusLink、酵素命名法データベース、International Human
Genome Sequencing Consortium(国際ヒトゲノム配列決定協会)および商業的データベースを含む。KEGGは、実質的な量の代謝再構成を含めた広い範囲の情報を含む。304の生物のゲノムをここにアクセスすることができ、遺伝子産物は、しばしば、マップによって表されるCF関数(coordinated fucntion)によってグループ分けされる(例えば、解糖に関与する酵素は一緒にグループ分けされるであろう)。該マップは、代謝の種々の部分についての代謝産物を結合させる酵素を示す生化学経路鋳型である。これらの一般的な経路鋳型は、生物のゲノムにおいて同定されている与えられた鋳型に対する酵素を強調することによって与えられた生物につき慣用化されている。酵素および代謝産物は活性であり、アクセスする場合、化学量論、構造、別名等についての有用な情報を生じる。
【0064】
SWISS−PROTは、蛋白質の機能についての詳細な情報を含む。アクセス可能な情報は代替遺伝子および遺伝子産物名称、機能、構造および配列の情報、関連する文献などを含む。
【0065】
LocusLInkは、遺伝子が位置し、関連する遺伝子座、組織特異性、細胞位置、および種々の病気状態における遺伝子産物の意味するものについての一般的な情報を含む。
【0066】
Enzyme Nomenclature(酵素命名法)データベースを用いて、2つの生物の遺伝子産物を比較することができる。しばしば、2以上の生物における同様な機能を持つ遺伝子についての遺伝子名称は、無関係である。これが当てはまる場合、E.C.(Enzyme Commission)番号は、遺伝子産物の機能の明確な指標として用いることができる。酵素命名法データベース情報における全て、Eupopean Journal of Biochemistry(Blackwell Science,Malden,MA)に見出される現在5つの別冊を持つEnzyme Nomenclature(酵素命名法)(Academic Press,San Diego,California,1992)に公表されている。
【0067】
生化学情報の供給源は、例えば、代謝に関連する一般的資源、ヒト代謝に特異的に関連する資源、および特定のヒト細胞型の生化学、生理学および病理学に関連する資源を含む。
【0068】
本明細書中に記載されたヒト反応データベースおよびモデルを作成するのに用いられた、代謝に関連する一般的情報の源は、J.G.Salway,Metabolism at a Glance,2nd ed.,Blackwell Science,Malden,MA(1999)and T.M.Devlin,ed.,Textbook of Biochemistry with Clinical Correlations,4th ed.,John Wiley and Sons,New York,NY(1997)であった。ヒト代謝−特異的資源はJ.R.Bronk,Human Metabolism:Functional Diversity and Integration,Addison Wesley Longman,Essex,England(1999)を含むものであった。
【0069】
本明細書中に記載された骨格筋代謝モデルおよびシミュレーションと組み合わせて用いられる文献は、R.Maughanら、Biochemistry of Exercixe and Training,Oxford University Press,Oxford,England(1997)ならびに、S.Carpenterら、Pathology of Skeletal Muscle,2nd ed.,Oxford University Press,Oxford,England(2001)などの筋肉病理学に関する文献、Journal of Physiology(Cambridge University Press,Cambridge,England)に見出されることができるような、筋肉代謝に関するより特異的な論文を含むものであった。
【0070】
多細胞相互作用の間の、またはそのための代謝のイン・シリコモデルを開発する間において、考慮することができるデータのタイプは、例えば、しばしば、反応および該反応の化学量論に関連する蛋白質(類)を直接的に示す、あるいは細胞抽出物内で起こる反応の存在を間接的に示す化学反応の実験的特徴付けに関連する情報である生化学情報;生化学的事象を行うのに関係する特定の蛋白質(類)を考慮することが示されている遺伝子(類)の実験的同定および遺伝子的特徴付けに関する情報である遺伝子情報;次いで、生化学的事象を実行する蛋白質にリンクされる、計算配列分析を介する、オープンリーディングフレームおよび機能的帰属の同定に関する情報であるゲノム情報;特異的生化学事象(特に、転座)の存在を推定するのに用いられる化合物の同化および異化の証拠を提供する、総じての細胞生理学、フィットネス特徴、基質資化、および表現型決定の結果に関する情報である生理学的情報;および代謝ネットワークに配置されたある要求を満足するのに反応が必要であるか否かのような反応の状態に関する予測に導く本明細書中に記載されたものなどの方法を用いて細胞、組織または生理学的系の活性をシミュレートするコースを通じて生じた情報であるモデリング情報を含む。考慮することができる多細胞生物に関連するさらなる情報は、例えば、遺伝子アレイ分析によって、または発現された配列タグ(EST)分析からによる等の実験的に決定することができる、あるいは生化学および生理学文献から得ることができる、細胞型−特異的または条件−特異的遺伝子発現情報を含む。
【0071】
多細胞生物の反応ネットワークで起こる反応の大部分は、細胞中の染色体内で見出される遺伝子の転写および翻訳を通じて作り出される酵素/蛋白質によって触媒される。残りの反応は、自然発生的に、または非−酵素プロセスを介して起こる。さらに、反応ネットワークデータ構造体は、特定の反応経路への、またはそれからの工程を加え、または削除する反応を含むことができる。例えば、反応を加えて、経験的に観察される活性を考慮し、多細胞相互作用についてのモデルの性能を最適化、または改善することができる。別法として、反応を削除して、中間工程が経路を通じての流束をモデル化するのに必要でない場合に、経路における中間工程を除去することができる。例えば、もし経路が3つの非−分岐工程を含むならば、反応を組み合わせ、または一緒に加え、正味の反応を得ることができ、それにより、反応ネットワークデータ構造体を貯蔵するのに必要なメモリ、およびデータ構造体の操作に必要な計算資源を低下させることができる。
【0072】
遺伝子にコードされた酵素の活性により起こる反応は、ゲノム配列決定および引き続いてのゲノム注釈から同定された遺伝子をリストするゲノムデータベースから得ることができる。ゲノム注釈は、オープンリーディングフレームの位置決定、および相同性からの機能の他の公知の遺伝子または経験的に決定された活性への帰属よりなる。そのようなゲノムデータベースは、ホモ・サピエンス配列を含めた、注釈された核酸または蛋白質配列を含有する公的または私的データベースを通じて獲得することができる。所望により、例えば、Covertら、Trends in Biochemical Sciences
26:179−186(2001)およびPalsson,WO00/46405に記載されたように、モデルの開発者はネットワーク再構築を行い、遺伝子、蛋白質、および反応の間のモデル内容の合体を確立することができる。
【0073】
反応を反応ネットワークデータ構造体または代謝反応データベースに加えるので、反応を可能とし/触媒する蛋白質/酵素に対する公知のまたは推定関連付け、およびこれらの蛋白質をコードする関連遺伝子を有するものは注釈によって同定することができる。従って、それらの関連蛋白質もしくは遺伝子、または双方に対する反応の全てについての適当な関連付けを帰属させることができる。これらの関連付けを用いて、遺伝子および蛋白質の間の、ならびに蛋白質および反応の間の非線形関係を捉えることができる。いくつかの場合においては、1つの遺伝子は、次いで、1つの反応を行う1つの蛋白質をコードする。しかしながら、しばしば、活性な酵素複合体を作り出すのに必要な複数の遺伝子があり、しばしば、同一反応を行うことができる1つの蛋白質または複数の蛋白質によって行うことができる複数の反応がある。これらの関連付けは該関連付けないロジック(すなわち、ANDまたはOR関係)を捉える。これらの関連付けを持つ代謝反応データベースを注釈すると、該方法を用いて、シミュレーションを実行し、またはホモ・サピエンス活性を含めた多細胞相互作用活性を予測する関係で、反応レベルにおけるのみならず、遺伝子または蛋白質レベルにおいて特定の反応を加え、または排除する効果を決定するのを可能とすることができる。
【0074】
本発明の反応ネットワークデータ構造体を用いて、反応を行う蛋白質、または該蛋白質をコードする遺伝子の同一性のいずれかの知識、または注釈とは独立して、複数のホモ・サピエンス反応を含めた多細胞相互作用から起こる複数の反応における1以上の反応の活性を決定することができる。遺伝子または蛋白質同一性で注釈されるモデルは、蛋白質またはコーディング遺伝子が帰属されない反応を含むことができる。細胞代謝ネットワークにおける反応の大部分は生物のゲノム中の遺伝子に関連するが、既知の遺伝子関連付けがないモデルに含まれる実質的な数の反応もある。そのような反応は、観察された生化学または細胞活性に基づく生化学または細胞ベースの測定または理論的考慮などの遺伝学に必ずしも関連しない他の情報に基づいて反応データベースに加えることができる。例えば、自然発生的に起こり得るか、あるいは、蛋白質−可能化反応ではない多くの反応がある。さらに、関連する蛋白質または遺伝学は現在確認されていない細胞における特定の反応の出現は、本発明の反復モデル形成方法によるモデル形成の間に示すことができる。
【0075】
反応ネットワークデータ構造体または反応データベースにおける反応は、所望であれば、注釈によってサブシステムに帰属させることができる。反応は、伝統的に同定された代謝経路(解糖、アミノ酸代謝等)に従う等の生物学的基準に従い、あるいは反応を組み込むまたは操作するモデルの操作を容易とする数学的または計算基準に従って細分割することができる。反応データベースを細分割するための方法および基準は、Schillingら、J.Theor.Ciol.203:249−283(2000)、およびSchusterら、Bioinformatics 18:351−361(2002)にさらに詳細に記載されている。サブシステムの使用は、極端な経路分析などの多数の分析方法で有利であり得、モデルの内容の管理をより容易とすることができる。サブシステムへ反応を帰属させることは、シミュレーションについての全モデルの使用に影響することなく達成することができるが、サブシステムへの反応の帰属は、ユーザが、特に、種々のタイプの分析を行うのに有用であり得るサブシステムにおける反応をサーチするのを可能とすることができる。従って、反応ネットワークデータ構造体は、例えば、2以上のサブシステム、5以上のサブシステム、10以上のサブシステム、25以上のサブシステム、または50以上のサブシステムを含めた、いずれかの数の所望のサブシステムを含むことができる。
【0076】
反応ネットワークデータ構造体または代謝反応データベースにおける該反応は、多細胞相互作用の1以上の細胞において、あるいはホモ・サピエンス細胞などの細胞内の1以上の反応ネットワークにおいて該反応が起こると考えられる信頼性を示す値で注釈することができる。信頼性のレベルは、例えば、利用可能なデータを裏付ける量および形態の関数であり得る。このデータは、公開された文献、記載された実験結果、または計算分析の結果を含めた種々の形態で入ることができる。さらに、データは、遺伝子学、生化学および/または生理学的データに基づく細胞における化学反応の存在に対する直接的または間接的な証拠を提供することができる。
【0077】
本発明は、さらに、(a)複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体であって、該ホモ・サピエンス反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および基質および産物を関連付ける化学量論係数を含む構造体、および(b)該複数のホモ・サピエンス反応について設定された拘束を含むコンピュータ読取可能媒体を提供する。同様に、コンピュータ読取可能媒体は、複数の反応を、第一および第二の細胞内の、および第一および第二の相互作用反応の間の系内のための複数の反応に関連付けることができる。
【0078】
拘束は、拘束条件のセットを用いて代謝ネットワークにおける流束のいずれかの値に課すことができる。これらの拘束は、恐らくは、存在する限定される量の酵素に由来する与えられた反応を通じての最小または最大の許容される流束の表示であり得る。加えて、拘束は、反応ネットワークデータ構造体における反応または輸送流束のいずれかの方向または可逆性を決定することができる。ヒト生物におけるような、複数の細胞が相互作用するイン・ビボ環境に基づいて、必須分子の生合成用に細胞に利用可能な代謝資源を決定することができる。対応する輸送流束を活性化できる、基質、および代謝ネットワークによって生じる副産物についての入力および出力に関する細胞間のイン・シリコ相互作用を提供する。
【0079】
図1に示された仮定反応ネットワークに戻り、拘束を、以下のように、図2に示された例示的な様式で各反応に課すことができる。拘束は、図3に示された化学量論行列の反応を拘束するのに用いることができる様式で供される。行列で、または線形計画法において用いる拘束条件についての様式は、便宜には、
【0080】
【数1】

【0081】
[式中、vは代謝流束ベクトル、bは最小流束値であって、aは最大流束値である]などの線形不等式によって表すことができる。かくして、aは与えられた反応を通じての最大許容流束を表す有限な値を採ることができ、あるいはbは与えられた反応を通じる最小許容流束を表す有限な値を採ることができる。加えて、ある可逆的な反応または輸送流束を順方向および逆方向に操作させたままとするように選択するならば、図2における反応Rで示されるように、bを負の無限に設定し、かつaを正の無限に設定することによって、流束は拘束されないままとすることができる。もし反応が順方向反応においてのみ進行するならば、図2における反応R、R、R、R、およびRで示されたように、bを0に設定し、他方、aを負の無限に設定する。例として、特定の蛋白質の遺伝子的欠失または非−発現の事象をシミュレートするために、問題となる遺伝子または蛋白質に関連する対応する代謝反応の全てを介する流束は、aおよびbを0に設定することによって0まで低下される。さらに、もし特定の成長基質の不在をシミュレートすることを望むならば、aおよびbを0に設定することによって、代謝産物を細胞に入れるようにする対応する輸送流束を単に0となるように拘束することができる。他方、もし基質が輸送メカニズムを介して細胞に入り、または細胞から出るのを可能とするに過ぎないならば、対応する流束は適切に拘束されて、このシナリオを反映することができる。
【0082】
能動的に起こる反応の能力は、基質の利用可能性を丁度超えた多数のさらなる因子に依存する。本発明のモデルおよび方法において変数拘束条件として表すことができるこれらの因子は、例えば、蛋白質/酵素を安定化するのに必要な補因子の存在、酵素的阻害および活性化因子の存在または不在、対応するmRNA転写体の翻訳を通じての蛋白質/酵素の能動的形成、関連する遺伝子の転写、または最終的には、化学反応が生物内で行うことができるか否かを決定するこれらのプロセスを制御するにおいて助ける化学的シグナルおよび/または蛋白質の存在を含む。ヒト細胞型の調節において特に重要なもののうちには、細胞活性を制御するためのパラクリンおよびエンドクリンシグナリング経路の実行である。これらの場合において、細胞は、遠く離れたところまで運ばれて、離れた標的に作用する(エンドクリンシグナリング)または局所的メディエータとして作用することができる(パラクリンシグナリング)シグナリング分子を分泌する。エンドクリンシグナリング分子の例はインスリンなどのホルモンを含み、他方、パラクリンシグナリング分子の例はアセチルコリンなどの神経伝達物質を含む。これらの分子は、細胞中の生化学反応の活性に影響するシグナリングカスケードを通じての細胞応答を誘導する。調節は、後に記載する変数拘束条件を提供することによって、イン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルにおいて表すことができる。
【0083】
かくして、本発明は、(a)複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体であって、反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および基質および産物を関連付ける化学量論係数を含み、反応の少なくとも1つが調節された反応である構造体;および(b)該複数の反応についての拘束条件のセットであって、調節された反応についての可変拘束条件を含む拘束条件のセットを含むコンピュータ読取可能媒体を提供する。加えて、本発明は、2以上の細胞についての系内についてのデータ構造体、および調節された反応についての可変拘束条件を含むデータ構造体内の複数の反応についての拘束条件のセットを含むコンピュータ読取可能媒体を提供する。
【0084】
本明細書中で用いるように、用語「調節された」とは、データ構造体における反応に言及して用いる場合、拘束条件の値の変化、または可変拘束条件を有する反応のため改変された流束を経験する反応を意味することが意図される。
【0085】
本明細書で用いるように、用語「調節反応」は、蛋白質、高分子、または酵素の活性を改変する化学的変換または相互作用を意味することを意図する。化学的変換または相互作用は、蛋白質、高分子または酵素を翻訳後に修飾する場合に起こるような、蛋白質、高分子または酵素の活性を直接的に改変することができるか、あるいは化学的変換または結合事象が蛋白質、高分子または酵素の改変された発現に導く場合に起こるような蛋白質、高分子または酵素の活性を間接的に改変することができる。かくして、転写または翻訳調節経路は、蛋白質、高分子または酵素あるいは関連する反応を間接的に改変することができる。同様に、間接的な調節反応は、調節反応ネットワークにおける下流成分または参画体のため起こる反応を含むことができる。データ構造体またはイン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルに言及して用いられる場合、例えば、該用語は、第二の反応に対する拘束条件の値を変化させることによって第二の反応を通じて流束を改変する関数によって第二の反応に関連付けられた第一の反応を意味することを意図する。
【0086】
本明細書中で用いるように、用語「調節データ構造体」は、反応を活性化し、または阻害する事象、反応または反応のネットワークの表示を意味することを意図し、該表示は操作または分析することができる様式である。反応を活性化する事象は、反応を開始させる事象、または反応についての速度または活性のレベルを増加させる事象であり得る。反応を阻害する事象は、反応を停止する事象、または反応についての速度または活性のレベルを減少させる事象であり得る。調節データ構造体において表示できる反応は、例えば、転写および翻訳反応などの反応を行う高分子の発現を制御する反応を、リン酸化、脱リン酸化、プレニル化、メチル化、酸化または共有結合修飾などの蛋白質または酵素の翻訳後修飾に至る反応、プレ−またはプロ−配列の除去などの蛋白質または酵素を処理する反応、蛋白質または酵素を分解する反応、または蛋白質または酵素の組立てに至る反応を含む。
【0087】
本明細書中で用いるように、用語「調節事象」は、反応で利用できる作用物質の量から独立した反応を通じての流束のモディファイアーを意味することを意図する。該用語に含まれる修飾は、反応を行う酵素の存在、不在、または量の変化であり得る。該用語に含まれるモディファイアーは、シグナル変換反応などの調節反応、あるいはpH、温度、レドックスポテンシャルまたは時間の変化などの環境条件であり得る。イン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルまたはデータ構造体に言及して用いられる場合、あるいは多細胞相互作用についてのモデルまたはデータ構造体に言及して用いられる場合、調節事象は、反応に利用できる作用物質の量から独立した多細胞相互作用において、ホモ・サピエンス反応、または1以上の細胞で起こる反応を通じての流束のモディファイアーの表示であることを意図すると理解されるであろう。
【0088】
ホモ・サピエンスで起こる1以上の反応に対する調節の効果は、本発明のイン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルまたは多細胞モデルを用いて予測することができる。イン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルまたは多細胞モデルにおける反応についての変数拘束条件を提供することによって調べられる特定の条件の関係では、調節を考慮しなければならない。そのような拘束条件は条件−依存性拘束条件を構成する。データ構造体は、ブールロジック陳述としての調節反応を表すことができる(Reg−反応)。変数は、反応が反応ネットワークで用いるのに利用可能である場合、変数は1の値を採り、もし反応がいくつかの調節特徴のため制限されるのであれば、0の値を採るであろう。一連のブール陳述を次いで導入して、例えば、Covertら、J.Theor.Biol.213:73−88(2001)に記載された調節ネットワークを数学的に表すことができる。例えば、代謝産物Aを輸入する輸送反応(A_in)の場合には、代謝産物Aが図4に示された反応R2を阻害する場合、ブール規則は:
【0089】
【数2】

【0090】
を陳述することができる。この陳述は、もし反応A_inが起こらないならば(すなわち、もし代謝産物Aが存在しなければ)、反応R2が起こり得ることを示す。同様に、反応R2の阻害に導く閾値を超えるまたはその未満のAの量を示す変数Aに調節を帰属させることができる。生化学反応ネットワークにおける反応の各々に対応する変数に対する値を提供するいずれの関数を用いても、調節データ構造体における調節反応または調節反応の組を表すこともできる。そのような関数は、例えば、系のダイナミクスを詳細に記載するフィジーロジック、ヒューリスティック則−ベースの記述、微分方程式または運動論的方程式を含むことができる。
【0091】
反応に課される反応拘束条件は、以下の一般的な方程式を用いる相互作用細胞のイン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルまたは多細胞モデルに組み込むことができる:
【0092】
【数3】

【0093】
反応R2の例についてはこの式は以下のように書かれる。
【0094】
【数4】

【0095】
かくして、シミュレーションのコースの間に、反応R2が起こる細胞の内部での代謝産物Aの存在または不在に依存して、反応R2についての流束の上方境界についての値は、各々、0から無限まで変化するであろう。
【0096】
拘束関数、および初期関連値に対する条件−依存性拘束条件によって考慮される調節事象またはネットワークの効果でもって、多細胞相互作用のホモ・サピエンス反応ネットワークまたは1以上の反応ネットワークの挙動は、後に記載されるように考慮された条件についてシミュレートすることができる。
【0097】
変数拘束条件がデータ構造体における反応の結果に依存する場合について調節は前記で例示されたが、複数の変数拘束条件を、多細胞相互作用をイン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルまたは他のモデルに含めて、複数の反応の調節を表すことができる。さらに、前記した例示的な場合において、調節構造体は、特定の環境条件によって反応が阻害されることを述べる一般的制御を含む。このタイプの一般的制御を用い、生物内の特定の化学反応の活性な性質を決定するのを担う調節構造に分子メカニズムおよびさらなる詳細を一体化させることが可能である。
【0098】
調節は本発明のモデルによってシミュレートすることもでき、それを用いて、モデル化すべき反応ネットワークに関与する正確な分子メカニズムの知識無くしてホモ・サピエンス生理学関数を予測することができる。かくして、該モデルを用いて、ネットワークにおけるいずれか1つの反応のイン・ビボ観察から明らかでない、あるいは特定の反応に対するそのイン・ビボ効果が知られていない全体としての調節事象または因果関係を予測することができる。そのような全体としての調節効果は、pH、温度、レドックスポテンシャルまたは時間の経過などの全体としての環境条件に由来するものを含むことができる。
【0099】
先に記載され、かつ後にさらに記載するように本発明の方法およびモデルは、広い範囲の多細胞相互作用に適応可能である。多細胞相互作用は、例えば、コロニー増殖および化学走性などの原核生物細胞の間の相互作用を含む。多細胞相互作用は、例えば、同一または異なる細胞型の2以上の細胞の協調作用などの2以上の真核生物細胞の間の相互作用を含む。同一細胞型の協調作用の具体例は、筋細胞の収縮活性の組み合わせ出力を含む。異なる細胞型の協調作用の具体例は、脂肪細胞のエネルギー生産、および脂肪細胞から入手可能なエネルギーの消費に基づく筋細胞の収縮活性を含む。多細胞相互作用は、例えば、宿主細胞、および細菌、ウイルスまたは虫などの病原体の間の相互作用、ならびに例えば、宿主細胞および微生物の間の共生相互作用を含むことができる。共生微生物は例えば、E.coliを含むことができる。宿主および微生物相互作用のさらなる例は、宿主に感染に対する防御を提供する、皮膚および口および膣フローラに存在する細菌共同体を含む。さらに、本発明のモデルおよび方法を用いて、例えば、宿主細胞または組織、病原体および共生微生物の相互作用を含めた複数の動的多細胞相互作用の間の反応ネットワークを再構築するのに用いることもできる。
【0100】
多細胞相互作用は、例えば、異なる組織、異なる器官および/または生理学的系の細胞の間の相互作用、ならびに多細胞生物内のいくつかのまたは全ての細胞、組織器官および/または生理学的系の間の相互作用も含む。そのような相互作用の具体例は生物のホメオスタシス、シグナル変換、エンドクリン系、エキソクリン系、感覚変換、分泌、造血系、免疫系、細胞の移動、細胞の接着、細胞の侵入、およびニューロンおよびシナプス変換を含む。多数の多細胞相互作用が当該分野で良く知られており、同様に再構築し、シミュレートして本発明のモデルおよび方法を用いて、その活性を予測することができる。
【0101】
例えば、ホモ・サピエンス細胞の調節されたおよび代謝反応ネットワークを含めた、複数反応ネットワークの構築および使用に関して本明細書中で供された教示およびガイダンスを仮定すれば、当業者であれば、いずれの多細胞相互作用の構築および使用のために本発明のモデルおよび方法をいかにして使用するかを知っているであろう。そのような多細胞相互作用の具体例は前記した多細胞相互作用の他の例は、後の表5に記載された細胞などの2以上の細胞の間で起こる全ての相互作用を含まず、そのような多細胞相互作用は同一または異なる生理学的カテゴリーまたは機能的特徴付け内の細胞の間で起こり得る。同様に、そのような多細胞相互作用は、同一内の細胞の間で、および異なる生理学的カテゴリーまたは機能的特徴付けの間で起こり得る。異なる細胞相互作用の数およびタイプは、本発明の方法を用いて生産される多細胞モデルによって決定されるであろう。
【0102】
多細胞相互作用のモデルは、例えば、1以上の組織および器官の細胞の間の相互作用を含むこともできる。本発明のモデルおよび方法を適応して、組織または器官のいくつかまたはすべての細胞型の間の相互作用の活性を予測することができる。本発明のモデルおよび方法は、2以上の組織または器官のいくつかまたは全ての細胞型の間の相互作用を含む反応ネットワークを含むこともできる。組織または器官、およびそれらの各細胞型および機能の具体例は以下に表6に示す。本発明のモデルおよび方法は、例えば、それらの各活性を予測するためにこれらの相互作用のいくつかまたは全ての相互作用を含むことができる。同様に、表7は肝臓の細胞型を例示する。本明細書中に供される教示およびガイダンスを仮定すれば、本発明のモデルおよび方法を用いて、これらの細胞型のいくつかまたはすべてについての反応ネットワークのイン・シリコ再構築を構成して、肝臓の活性のいくつかまたは全てを予測することができる。さらに、組織および器官内の、およびその間のものを含めた、表5ないし7に例示されたいくつかまたは全ての多細胞相互作用についての反応ネットワークのイン・シリコ再構成を生じさせることができ、これを用いて、生物の1以上の組織のいくつかまたは全ての活性を予測することができる。従って、本発明は、ヒト生物、組織、細胞およびそのような細胞系によって行われる物理的または生理学的機能を含めた全生物のイン・シリコ再構築を提供する。
【0103】
また、本発明は、相互作用して同一または異なる活性を実行する複数の反応ネットワークのイン・シリコ再構成を提供する。該複数は小さな、中程度のまたは大きな複数であり得、同一の細胞、異なる細胞内に、あるいは異なる組織または生物に存在することができる。同一の細胞内に存在するそのような複数の具体例は、筋細胞についてのまたは脂肪細胞についての実施例IVにおいて後に例示される反応ネットワークを含む。異なる細胞または組織に存在するそのような複数の具体例は、カップリングされた脂肪細胞−筋細胞代謝についての実施例IVにおいて後に例示される反応ネットワークを含む。異なるネットワーク内の異なる反応ネットワークの間の相互作用の別の例は、病原体および宿主細胞の間の相互作用を含む。
【0104】
簡単に述べれば、かつ先に記載されたように、複数のデータ構造体を含み、各々が、複数の作用物質を多細胞相互作用内の各細胞による複数の反応に関連付けるコンピュータ読取可能培地または複数培地を生じさせることができる。該反応は、反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、基質および該産物に関連する化学量論係数を含む。2つの細胞型の集団を含めた2つの細胞相互作用において、該複数のデータ構造体は、2つの細胞または2つの細胞型の集団内の反応に対応する第二のデータ構造を含むことができる。データ構造体は、各細胞の反応ネットワークを記載する。
【0105】
2つの細胞を含む多細胞相互作用の最適化のためには、第三のデータ構造体が、複数の系内作用物質を、第一および第二の細胞の間の複数の系内反応に関連付けるのに特に有用である。系内反応の各々は反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む。系内データ構造体は、独立したデータ構造体として、あるいはそのような2つの細胞相互作用モデル内のいずれかのまたは双方の細胞についての1以上のデータ構造体の成分として再構築に含めることができる。第三のデータ構造体によって表される系内反応の具体例は、脂肪細胞および筋細胞相互作用を記載する2つの細胞モデルで使用される炭酸水素塩およびアンモニア緩衝系について図10に示される。
【0106】
先におよび後に記載される本発明のモデルおよび方法に関して、多細胞相互作用を記載するコンピュータ読取可能媒体は、第一、第二および第三のデータ構造体の各々についての複数の反応のための拘束条件のセット、ならびに該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適応するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定するためのコマンドも含む。目的関数は、例えば、先に例示された目的関数、後にまたは実施例において例示されるもの、ならびに本明細書中に供される教示およびガイダンスを仮定すれば当業者に良く知られた種々の他の目的関数であり得る。1以上の流束分布を決定することによる最適化問題の解決は、モデルの第一および第二の細胞の間の相互作用の結果として起こる生理学的機能を予測するであろう。
【0107】
第一、第二または第三のデータ構造体の各々の、1以上の反応ネットワークを含むことができる。例えば、図5ないし10を参照し、そこに例示される細胞の各々についての反応ネットワークは、中枢代謝および細胞特異的反応などの各細胞内の異なるネットワークとして定義することができる。この所見を適用して、脂肪細胞および筋細胞は、各々、少なくとも2つの反応ネットワークを含む。細胞内反応ネットワークおよび交換反応と一緒に組み合わせると、図6に例示された2つの細胞の相互作用は、少なくとも5つの異なる反応ネットワークによって記載できる。従ってこの2つの細胞モデルの相互作用は、少なくとも5つのデータ構造体を用いて記載することができる。別法として、反応ネットワークは、各細胞内の全てのネットワークとして定義することができる。細胞内反応ネットワークおよび交換反応と一緒に組み合わせると、例示された脂肪細胞および筋細胞の相互作用が、少なくとも3つの異なる反応ネットワークによって記載することができる。各細胞についての1つの反応ネットワーク、および系内反応についての1つの反応ネットワーク。従って、第一、第二または第三のデータ構造体は、例えば、2、3、4、5、10、20または25以上、ならびにこれらの例示的数字の間の、およびそれを越える全ての整数を含めた複数の2以上の反応ネットワークよりなることができる。同様に、本明細書中に供された教示およびガイダンスを仮定すれば、本発明のモデルおよび方法を作成し、それを用いて、細胞間ネットワーク相互作用または細胞内ネットワーク相互作用の活性および/または生理学的関数を予測することができる。後者の相互作用は、例えば、多細胞生物の、または全生物の異なる組織、器官の細胞を含めた2以上の細胞の間の相互作用の活性および/または生理学的関数を予測することもできる。
【0108】
データ構造内の反応ネットワークの数に関しては、本発明のモデルおよび方法は、先に例示した3を超えるデータ構造体を使用することもできる。例えば、本発明のモデルおよび方法は、1以上の第四の拘束条件のセットを有する1以上の第四のデータ構造体を含むことができ、各第四のデータ構造体は、モデルに既に含まれた細胞からの、あるいは多細胞相互作用内の1以上の第三の細胞からの複数の作用物質に関連付ける。1以上の第四のデータ構造体の使用は、組織、器官、生理学的系または生物内の細胞などの大きな複数の細胞を含めた3以上の相互作用細胞の間の相互作用を再構築する場合に特に有用である。そのような第四のデータ構造体内の反応の各々は、反応の基質として同定された作用物質、反応の産物として同定された作用物質、および基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む。
【0109】
第四のデータ構造体の数は、多細胞相互作用の第一および第二の細胞よりも大きな細胞数に対応することができ、例えば、複数のデータ構造体を含むことができる。2つの細胞相互作用の具体的な実施形態に関しては、3以上の相互作用細胞についての複数のデータ構造体は、細胞相互作用内の異なる細胞に対応することができ、ならびに細胞相互作用内の異なる細胞型に対応することができる。細胞の数は、例えば、少なくとも4の細胞、5の細胞、6の細胞、7の細胞、8の細胞、9の細胞、10の細胞、100の細胞、1000の細胞、5000の細胞、10,000細胞以上を含むことができる。従って、多細胞相互作用細胞内の、あるいはそのような多細胞相互作用の挙動を予測する方法で用いられる細胞の数は、相互作用細胞、組織、器官、生理学的系または全生物の群を構成するいくつかのまたは全ての細胞を含むことができる。本発明の多細胞相互作用モデルおよび方法は、異なるタイプの、あるいは異なる組織、器官、生理学的系または生物からの相互作用細胞の群を構成するいくつかまたは全ての細胞を含むことができる。生物は単一細胞原核生物または真核生物または多細胞真核生物であり得る。異なる細胞型の具体例は乳腺細胞、肝細胞、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、肝臓脂肪細胞、赤色骨格筋細胞、白色骨格筋細胞、中間骨格筋細胞、平滑筋細胞、赤血球細胞、脂肪細胞、単球、網状赤血球、線維芽細胞、ニューロン細胞上皮細胞、または表5に記載された1以上の細胞を含む。予測できる多細胞相互作用に由来する生理学的機能の具体例は、代謝産物収率、ATP収率、バイオマス要求、成長、トリアシルグリセロール貯蔵、筋肉収縮、乳分泌および酸素輸送能力を含む。
【0110】
本発明の多細胞相互作用モデルまたは方法の系内反応は、細胞外イン・ビボ環境に言及して、および特に、腎臓系の機能を供給することによってのこの環境の緩衝化に言及して、先および後に例示されている。本明細書中に供される教示およびガイダンスを仮定すれば、当業者であれば、いずれかの細胞外反応、複数の反応、細胞外空間の機能、または別の細胞、組織または生理学的系によって細胞外空間に供給された機能を系内反応ネットワークとして使用することができるのを理解するであろう。そのような反応または活性は、正常なまたは病理学的疾患、あるいはこの系内環境内で起こる双方の疾患を表すことができる。系内反応の具体例は、造血系、尿、結合組織、収縮組織または細胞、リンパ系、呼吸器系、または腎臓系で行われる1以上の反応を含む。1以上の系内データ構造体に含まれる反応または作用物質は、例えば、炭酸水素塩緩衝液系、アンモニア緩衝液系、ホルモン、シグナリング分子、ビタミン、ミネラルまたはその組合せであり得る。
【0111】
本明細書中に記載されたホモ・サピエンスモデルおよび方法を含めた、多細胞またはマルチ−ネットワーク相互作用のイン・シリコモデルを、Intel.RTM.マイクロプロセッサおよび実行するMicrosoft Windows(登録商標)操作系に基づくものなどのいずれかの慣用的なホストコンピュータ系で実行することができる。UNIX(登録商標)またはLINUX(登録商標)オペレーティングシステムを用い、かつIBM.RTM.,DEC.RTM.またはMotorola.RTM.マイクロプロセッサに基づくものなどの他のシステムも考えられる。本明細書中に記載されるシステムおよび方法は、クライアント−サーバーシステム、およびインターネットなどの広域ネットワークで実行することを考えることもできる。
【0112】
本発明の方法またはモデルを実行するためのソフトウエアは、Java(登録商標)、C、C++、Visual Basic、FORTRANまたはCOBOLなどのいずれかの良く知られたコンピュータ言語で書くことができ、いずれかの良く知られたコンパチブルコンプライアを用いて編集することができる。本発明のソフトウエアは、通常、ホストコンピュータシステムのメモリに貯蔵された指令から実行される。メモリまたはコンピュータ読取可能媒体はハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク、マグネト−オプティカルディスク、ランダムアクセスメモリ、読出専用メモリまたはフラッシュメモリであり得る。本発明で用いるメモリまたはコンピュータ読取可能媒体は、単一コンピュータ内に含ませることができるか、あるいはネットワークに分布させることができる。ネットワークは、局所領域ネットワーク(LAN)または広域ネットワーク(WAN)などの当該分野で知られた多数の慣用的なネットワークシステムのいずれかであり得る。本発明で用いることができるクライアント−サーバ環境、データベースサーバおよびネットワークが当該分野で良く知られている。例えば、データベースサーバはUNIX(登録商標)、関連データベース管理システムの実行、World Wide Web適用およびWorld Wide Webサーバなどのオペレーティングシステムで実行することができる。他のタイプのメモリおよびコンピュータ読取可能媒体もまた、本発明の範囲内で機能することが考えられる。
【0113】
本発明のデータベースまたはデータ構造体は、例えば、標準一般化マーカップ言語(SGML)、ハイパーテキストマーカップ言語(HTML)またはイクステンシブルマーカップ言語(XML)を含めたマーカップ言語フォーマットで表すことができる。マーカップ言語を用いて、本発明のデータベースまたはデータ構造体に貯蔵された情報にタグを付し、それにより、便宜な注釈、およびデータベースおよびデータ構造体の間のデータの移動を提供することができる。特に、XMLフォーマットは、反応、作用物質およびそれらの注釈のデータ表示を構造化し;例えば、ネットワークまたはインターネットにわたるデータベース内容を交換するのに;ドキュメント目的モデルを用いて個々のエレメントを更新するのに;あるいは本発明のデータベースまたはデータ構造体の異なる情報内容に対して多数のユーザに対する種々のアクセスを提供するのに有用であり得る。XML計画法、およびXML暗号を書くためのエディタは、例えば、Ray,“Learning XML”O’Reilly and Associates,Sebastopol,CA(2001)に記載されているように当該分野で公知である。
【0114】
拘束条件のセットを反応ネットワークデータ構造体に適用して、拘束条件のセットによって特定された特定の組の環境条件下で反応ネットワークを通る質量の流束をシミュレートすることができる。代謝過渡現象および/または代謝反応を特徴付ける時定数は、典型的には、時間ないし日のオーダーの細胞成長の時定数と比較して、ミリ秒ないし秒のオーダーであり非常に迅速であるゆえに、過渡現象質量平衡を単純化して、定常状態挙動のみを考慮することができる。さて、反応ネットワークデータ構造体が化学量論行列である例を参照し、定常状態質量平衡は、線形方程式の以下のシステム:
【0115】
【数5】

【0116】
[式中、Sは前記定義の化学量論行列であり、vは流束べクトルである]を用いて適用することができる。この式は、化学量論の結果としての代謝ネットワークに課された質量、エネルギー、およびレドックスポテンシャル拘束条件を規定する。各々、反応拘束および質量平衡を表す式1および5を一緒にすると、代謝遺伝子型の能力および拘束、および生物の代謝ポテンシャルを効果的に規定する。式5を満足する全てのベクトルvは、Sの数学的零空間で起こると言われている。かくして、零空間は、質量、エネルギー、またはレドックス平衡拘束を侵さない定常状態代謝流束分布を規定する。典型的には、流束の数は質量平衡拘束の数よりも大きく、かくして、複数の流束分布は質量平衡拘束条件を満足し、零空間を占める。代謝流束分布の実行可能な組を規定する零空間は、規定された解空間に導く式1に記載された反応拘束を適用することによってサイズがさらに低下する。この空間における点は流束分布、よって、ネットワークについての代謝表現型を現す。全ての解の組内の最適な解は、言明された目的および拘束条件のセットが供給された場合に、数学的最適化方法を用いて決定することができる。いずれの解の計算もモデルのシミュレーションを構成する。
【0117】
ヒト細胞の活性についての目的は選択することができる。多細胞生物の全体としての目的は成長または再生であり得るが、個々のヒト細胞型は、一般には、生物に利益になり得るが、確かに個々の細胞には利益とならない、アポトーシス(プログラムされた細胞死)のおそらくは極端な目的に対してさえ、かなりより複雑な目的を有する。例えば、ある種の細胞型は、エネルギー生産を最大化する目的を有することができ、他方、他のものは、特定のホルモンの生産、細胞外マトリックス成分、または収縮力などの機械的な特性を最大化する目的を有する。ヒト骨格筋などの、細胞の再生が遅い場合には、成長およびその効果は考慮する必要がない。他の場合には、バイオマス組成物および成長速度は流束の「維持」タイプに組み込むことができ、成長を最適化するよりはむしろ、前駆体の生産は実験知識に合致するレベルで設定され、異なる目的が最適化される。
【0118】
癌細胞を含めたある種の他のタイプは、細胞成長を最大化する目的を有するものと考えることができる。成長はバイオマス組成物の文献値、あるいは前記したように得られたものなどの実験的に決定された値に基づく生合成要件の項目で規定することができる。かくして、バイオマス生成は、適当な比率で中間体代謝産物を除去する交換反応と定義することができ、および目的関数として表すことができる。中間体代謝産物を排出するに加えて、この反応流束を形成して、ATP、NADHおよびNADPHなどのエネルギー分子を利用して、満足されなければならないいずれかの維持要件を組み込むことができる。この新しい反応流束は、次いで、システムは目的関数として満足されなければならない別の拘束/平衡式となる。例として図3の化学量論行列を用い、そのような拘束の付加は、さらなる列V成長を化学量論行列に加えて、流束を表して、代謝システムに課される生産要求を記載するのに似ている。従って、この新しい流束を目的関数として設定し、かつシステムに、全ての他の流束に対する拘束の与えられた組についてこの流束の値を最大化するのは、生物の生長をシミュレートするための方法である。
【0119】
拘束条件のセットを反応ネットワークデータ構造体に適用する化学量論行列の例を継続することは以下に説明できる。式5に対する解は最適問題として処方することができ、特定の目的を最小化する流束分布が見出される。数学的には、この最適化問題は:
Zを最小化する (式6)
【0120】
【数7】

【0121】
[式中、Zは、この線形組み合わせにおける重みcを用いる代謝流束vの線形組合せとして表される目的である。]として記載することができる。最適化問題は、同等な最大化問題として;すなわち、Zの符号を変化させることによって記載することもできる。最適化問題を解くためのいずれのコマンドを用いることもでき、例えば、線形計画法コマンドを含む。
【0122】
本発明のコンピュータシステムは、さらに、1以上の反応の表示を受けることができるユーザインターフェイスを含む。本発明のユーザインターフェイスは、データ構造体を修飾するための少なくとも1つの化合物、拘束条件のセット、または拘束条件のセットをデータ表示に適用するためのコマンド、またはその組合せを送ることもできる。該インターフェイスは、メニューまたはダイヤログボックスなどの選択をなすためのグラフ手段を有するグラフィックユーザインターフェイスであり得る。該インターフェイスは、主要スクリーンからの選択を為すことによって接近可能な層状スクリーンを配置することができる。ユーザインターフェイスは、代謝反応データベースなどの本発明で有用な他のデータベースへのアクセス、または反応ネットワークデータ構造体における反応または作用物質、あるいはホモ・サピエンス生理学を含めた多細胞生物の生理学に関連する情報を有する他のデータベースへのリンクを提供することができる。また、ユーザインターフェイスは、反応ネットワークのグラフ表示、または本発明のモデルを用いるシミュレーションの結果を表示することができる。
【0123】
初期反応ネットワークデータ構造体および拘束条件のセットが作成されると、このモデルを予備的なシミュレーションによってテストすることができる。予備的シミュレーションの間の、ネットワーク、あるいは代謝産物が生じ得るが、消費できない、あるいは代謝産物を消費できるが生産できない「デッド−エンド」におけるギャップを同定することができる。予備的シミュレーションの結果に基づき、さらなる反応を必要とする代謝再構築の領域を同定することができる。このようなギャップの決定は、反応ネットワークデータ構造体の適当なクエリを通じて容易に計算することができ、シミュレーション戦略の使用を要求する必要はなく、しかしながら、シミュレーションはそのようなギャップを位置決定する代替アプローチであろう。
【0124】
予備的シミュレーションテストおよびモデル内容遂行段階において、現存するモデルを一連の機能テストに付して、それが、必要なバイオマス構成要素を生じ、およびモデル化すべき特定の細胞型の基本的生理学的特徴に関する予測を生じさせる能力などの基本的要件を実行できるかを決定することができる。実行する予備テストが多ければ、生じるモデルの質はより高い。典型的には、発生のこの段階で用いるシミュレーションの大部分は単一の最適化であろう。単一最適化を用いて、どのようにして代謝資源が1つの最適化問題に対する解から道筋決定されるかを示す単一流束分布を計算することができる。最適化問題は、後の実施例に示されるように線形計画法を用いて解くことができる。結果は、反応マップ上での流束分布のディスプレイとして見ることができる。一時的反応をネットワークに加えて、それらが、モデリング/シミュレーション要件に基づいてモデルに含めるべきかを決定することができる。
【0125】
本発明のモデルが、前記した基準に従って反応ネットワークデータ構造体の内容に関して十分に完成すると、該モデルを用いて、反応ネットワークにおける1以上の反応の活性をシミュレートすることができる。シミュレーションの結果は、例えば、表、グラフ、反応ネットワーク、流束分布マップまたは表現型位相面グラフを含めた種々のフォーマットで表示することができる。
【0126】
かくして、本発明は、ホモ・サピエンス生理学的関数を予測する方法を提供する。該方法は、(a)複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体を提供する工程であって、ホモ・サピエンス反応の各々が、反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(b)該複数のホモ・サピエンス反応についての拘束条件のセットを提供する工程;(c)目的関数を提供する工程、ならびに、(d)該拘束条件のセットをデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定し、それにより、ホモ・サピエンス生理学的機能を予測する工程を含む。
【0127】
生理学的機能を予測する方法は、(a)複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体を提供する工程であって、該ホモ・サピエンス反応の各々が、反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含み、該反応の少なくとも1つが調節された反応である工程;(b)該複数の反応についての拘束条件のセットを提供する工程であって、該拘束条件のセットが調節された反応についての可変拘束条件を含む工程;(c)条件−依存性値を可変拘束条件に供する工程;(d)目的関数を提供する工程、ならびに、(e)該拘束条件のセットをデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定し、それにより、ホモ・サピエンス生理学的機能を予測する工程を含むことができる。
【0128】
さらに、多細胞生物の生理学的機能を予測する方法も提供される。該方法は(a)複数の作用物質を第一の細胞による複数の反応に複数の作用物質を関連付ける第一のデータ構造体を提供する工程であって、該作用物質の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(b)第二の細胞による複数の反応に複数の作用物質を関連付ける第二のデータ構造体を提供する工程であって、該反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(c)複数の系内作用物質を該第一および第二の細胞の間の複数の系内反応に関連付ける第三のデータ構造体を提供する工程であって、該系内反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(d)該第一、第二および第三のデータ構造体についての該複数の反応についての拘束条件のセットを提供する工程;(e)目的関数を提供する工程、ならびに、(f)該拘束条件のセットを該第一および第二のデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定し、該少なくとも1つの流束分布が該第一および第二の細胞の生理学的機能を予測する工程を含む。
【0129】
本明細書中で用いるように、用語「生理学的機能」は、ホモ・サピエンスに言及して用いる場合、多細胞生物および/またはホモ・サピエンス生物または全体としての細胞を含めた、全体としての生物の活性を意味することを意図する。該用語に含まれる活性は、例えば、2以上の相互作用細胞またはホモ・サピエンス細胞の初期状態から、2以上の相互作用細胞またはホモ・サピエンス細胞の最終状態までの変化の大きさまたは速度であり得る。該用語に含まれる活性は、例えば、成長、エネルギー生産、レドックス同等生産、バイオマス生産、発生、または炭素、窒素、硫黄、ホスフェート、水素または酸素の消費であり得る。活性は、2以上の相互作用細胞またはホモ・サピエンス細胞における特定の反応、例えば、あるいは組織、器官または生物などの複数の相互作用細胞で起こる反応の実質的に全て、あるいはホモ・サピエンス細胞で起こる反応の実質的に全て(例えば、筋肉収縮)の関係で決定される、または予測される特定の反応の出力でもあり得る。該用語に含まれる特定の反応の例はバイオマス前駆体の生産、蛋白質の生産、アミノ酸の生産、プリンの生産、ピリミジンの生産、脂質の生産、脂肪酸の生産、補因子の生産、または代謝産物の輸送である。生理学的機能は、部分が単離して観察される場合に、部分の合計からではなく全体から出現する緊急の特性を含むことができる(例えば、Palsson,Nat.Biotech 18:1147−1150(2000))。
【0130】
ホモ・サピエンス反応を含めた、2以上の相互作用細胞内の反応の生理学的機能は、流束分布の位相面分析を用いて決定することができる。位相面は、二次元または三次元で表示できる可能な集合の表示である。例として、基質および酸素摂取などの成長条件を記載する2つのパラメータは、二次元空間の2つの軸として定義することができる。最適な流束分布は、二次元空間を規定する交換流束を調整しつつ線形計画法問題を反復して解くことによって、この面における全ての点について前記した反応ネットワークデータ構造体および拘束条件のセットから計算することができる。有限な数の定性的に異なる代謝経路資化パターンをそのような面において同定することができ、これらの領域の境界を定めるように線を描くことができる。該領域を規定する境界決定は、例えば、Chvatal,Linear Programming New York,W.H.Freeman and Co.(1983)に記載された線形最適化のシャドウプライス(shadow price)を用いて決定することができる。該領域を一定シャドウプライス構造の領域という。シャドウプライスは、負、ゼロ、または正のいずれかであって、xおよびy軸によって表される摂取速度に従ってグラフ化される数としての目的関数に向けての各作用物質の固有の値を規定する。シャドウプライスがゼロとなる場合、摂取速度の値が変化するにつれて、最大反応ネットワークにおける定性的なシフトがある。
【0131】
表現型位相面における1つの境界形成線は最適の線(LO)と定義される。この線は、各代謝流束の間の最適な関係を表す。LOは、x−軸流束を変化させ、成長流束として定義される目的関数で最適y−軸流束を計算することによって同定することができる。表現型位相面分析から、所望の活性が最適である条件を決定することができる。最大摂取速度は、拘束条件のセットによって表される環境条件内の反応ネットワークの予測された結果であるプロットの有限領域の定義に導く。同様な分析は、プロット上の各次元が異なる摂取速度に対応する場合、複数次元で行うことができる。Edwardsら、Biotech Bioeng.77:27−36(2002)に記載されたものなどの位相面分析の使用のためのこれらおよび他の方法を用いて、本発明のイン・シリコ・ホモ・サピエンスモデルを用いてシミュレーションの結果を分析することができる。
【0132】
ホモ・サピエンスの生理学的機能は、流束分布を表示するための反応マップを用いて決定することもできる。ホモ・サピエンスの反応マップを用いて、種々のレベルにおいて反応ネットワークを見ることができる。細胞代謝反応ネットワークの場合において、反応マップは全体的斜視図を表す全反応補充を含むことができる。別法として、反応マップは、前記した反応サブシステムに対応する領域などの代謝の特定の領域に、あるいは個々の経路または反応にさえ焦点を当てることができる。
【0133】
かくして、本発明は、ホモ・サピエンス生理学的機能の表示を生じる装置を提供し、該表示は(a)複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体を提供する工程であって、ホモ・サピエンス反応の各々が、反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(b)該複数のホモ・サピエンス反応についての拘束条件のセットを提供する工程;(c)目的関数を提供する工程;(d)拘束条件のセットをデータ構造体に適用するとき、目的関数を最小化または最大化する少なくとも1つの流束分布を決定し、それにより、ホモ・サピエンス生理学的機能を予測する工程、ならびに、(e)1以上のホモ・サピエンス反応の活性の表示を生じる工程を含むプロセスによって生産される。同様に、本発明は、組織、器官、生理学的系または全生物を含めた2以上の相互作用細胞の表示を生じる装置を提供し、複数の作用物質を、各型の相互作用細胞についてのおよび1以上の系内機能についての複数の反応に関連付けるデータ構造体が供される。該複数のデータ構造体についての複数の反応、ならびに拘束条件のセットが適応されて、2以上の相互作用細胞の生理学的機能を予測する場合、目的関数を最小化または最大化する目的関数のための拘束条件のセットが供される。該装置は、2以上の相互作用細胞の1以上の反応の活性の表示を生じる。
【0134】
本発明の方法を用いて、例えば、アミノ酸の生合成、アミノ酸の分解、プリンの生合成、ピリミジンの生合成、脂質の生合成、脂肪酸の代謝、補因子の生合成、代謝産物の輸送、および代替炭素源の代謝を含めた、複数のホモ・サピエンス反応の活性を決定することができる。加えて、該方法を用いて、前記した、または表1にリストされた1以上の反応の活性を決定することができる。
【0135】
本発明の反応を用いて、ホモ・サピエンス突然変異体の表現型、または2以上の細胞の間の異常な細胞相互作用を決定することができる。1以上の反応の活性は前記した方法を用いて決定することができ、反応ネットワークデータ構造体は、ホモ・サピエンスにおいて、または多細胞生物または多細胞相互作用で起こる1以上の遺伝子−関連反応を欠如する。別法として、該方法を用いて、多細胞相互作用のモデルにおいて、あるいはホモ・サピエンスで天然には生じない反応を反応ネットワークデータ構造体に加える場合、1以上の反応の活性を決定することができる。遺伝子の欠失もまた、反応を通じての流束を0に拘束し、それにより、反応をデータ構造体内にとどめることによって、本発明のモデルにおいて表すこともできる。かくして、シミュレーションをなして、ホモ・サピエンスおよび/またはホモ・サピエンス細胞を含めた、多細胞相互作用内で1以上の細胞に遺伝子を加え、または遺伝子を1以上の細胞から除去する効果を予測することができる。該方法は、末梢代謝経路において反応を行う遺伝子産物についてコードする遺伝子を加え、または欠失させる効果を決定するのに特に有用であり得る。
【0136】
薬物標的、またはホモ・サピエンス機能を含めた多細胞相互作用の機能に影響するいずれかの他の剤に対する標的は、本発明の方法を用いて予測することができる。そのような予測は、反応を取り出して、薬物または剤による合計阻害または防止をシミュレートすることによってなすことができる。別法として、特定の反応における活性の部分的阻害または低下は、改変された拘束で持って該方法を実行することによって予測することができる。例えば、低下した活性は、標的反応の代謝流束ベクトルaまたはb値を改変して、疎外のレベルに対応する有限な最大または最小流束値を反映させることによって本発明のモデルに導入することができる。同様に、反応の活性を開始させ、または増加させることによって反応を活性化する効果は、特定の反応を欠如する反応ネットワークデータ構造体でもって該反応を行うことによって、あるいは標的反応の代謝流束ベクトルによるaまたはb値を改変して、活性化のレベルに対応する最大または最小流束値を反映することによって予測することができる。該方法は、末梢代謝経路における標的を同定するのに特に有用であり得る。
【0137】
活性化または阻害がホモ・サピエンス機能を含めた多細胞相互作用の機能に対する所望の効果を生じる反応を同定すると、多細胞系において反応を実行する酵素または高分子、あるいは該抗素または高分子を発現する遺伝子は、薬物または他の剤に対する標的として同定することができる。本発明の方法によって同定された標的についての候補化合物は、公知の方法を用いて単離し、または合成することができる。化合物を単離、または合成するそのような方法は、例えば、標的の公知の特性に基づく合理的設計(例えば、DeCampら、Protein Engineering Principles and Practice,Ed.Cleland and Craik,Wiley−Liss,New York pp.467−506(1996))、化合物のコンビナトーリアルライブラリーに対する標的のスクリーニング(例えば、反復的アプローチを記載するHoughtenら、Nature,354,84−86(1991);Dooleyら、Science,266,2019−2022(1994)、または位置−スキャンニングアプローチを記載するR.Houghtenら、PCT/US91/08694および米国特許第5,556,762号参照)、あるいは焦点を合わせたライブラリーを得るための双方の組合せ。当業者であれば、当該分野で知られた標的または活性アッセイの特性に基づいたスクリーンで用いるべきアッセイ条件をルーチン的に決定するのを知っており、またはルーチン的に決定できるであろう。
【0138】
候補薬物または剤は、前記した方法によって、または当該分野で公知の多の方法によって同定されたかを問わず、ホモ・サピエンス・イン・シリコモデル、または本発明の方法を含めた、イン・シリコモデルまたは多細胞相互作用の方法を用いて確証することができる。生理学的機能に対する候補薬物または剤の効果は、イン・ビトロまたはイン・ビボで測定された候補薬物または剤の存在下で標的に対する活性に基づいて予測することができる。この活性は、反応をモデルに加え、反応をモデルから除去し、あるいはモデルにおける反応に対する拘束条件を調整して、反応の活性に対する候補薬物または剤の測定された効果を反映させることによって、多細胞系のイン・シリコモデルにおいて表すことができる。これらの条件下でのシミュレーションを実行することによって、ホモ・サピエンス生理学的機能を含めた、多細胞系の生理学的機能に対する候補薬物または剤の全体論効果を予測することができる。
【0139】
本発明の方法を用いて、例えば、多細胞相互作用、組織、器官、生理学的機能またはホモ・サピエンス細胞の活性に対する1以上の環境成分または条件の効果を決定することができる。前記したように、交換反応を、環境成分の摂取、化合物の環境への放出他の環境要求に対応する反応ネットワークデータ構造体に加えることができる。環境成分または条件の効果は、交換反応標識反応の代謝流束ベクトルに対するaまたはb値が調整されたシミュレーションを実行して、環境成分または条件の効果に対応する有限な最大または最小流束値を反映させることによってさらに調べることができる。環境成分は、例えば、多細胞系の環境に加えた場合、生物またはホモ・サピエンス細胞が摂取され代謝できる代替炭素源または代謝産物であり得る。環境成分は、例えば、最小培地組成物に存在する成分の組合せでもあり得る。かくして、該方法を用いて、ホモ・サピエンスの特定の活性を含めた、多細胞相互作用または系の特定の活性を支持することができる最適または最小培地組成を決定することができる。
【0140】
本発明は、さらに、ホモ・サピエンスについての所望の活性を達成するための環境成分のセットを決定する方法を提供する。該方法は、(a)複数のホモ・サピエンス作用物質を複数のホモ・サピエンス反応に関連付けるデータ構造体を提供する工程であって、該ホモ・サピエンス反応の各々が反応の基質として同定される作用物質、反応の産物として同定される作用物質、および該基質および該産物を関連付ける化学量論係数を含む工程;(b)該複数のホモ・サピエンス反応についての拘束条件のセットを提供する工程;(c)該拘束条件のセットをデータ表示に供し、それにより、1以上のホモ・サピエンス反応の活性を決定する工程;(d)工程(a)ないし(c)に従って1以上のホモ・サピエンス反応の活性を決定する工程であって、該拘束条件のセットが環境成分の量に結合した上方または下方を含む工程、ならびに(e)変化させた拘束条件のセットで工程(a)ないし(c)を反復する工程であって、工程(e)で決定された活性が工程(d)で決定された活性と比較して改良されている工程;を含む。同様に、環境成分のセットを決定して、多細胞相互作用についての望まれる活性を達成する方法も提供される。該方法は、複数の作用物質を、相互作用細胞の各タイプについての、および1以上の系内機能についての複数の反応に関連付ける反応のデータ構造体を供し;該複数のデータ構造体に対する該複数の反応についての拘束条件のセットを供し、ならびに該拘束条件のセットを適用して、2以上の相互作用細胞の生理学的機能を予測する場合に、目的関数を最小化または最大化する目的関数を供し;環境成分の量に結合した上方または下方を有する拘束条件のセットを用いて、1以上の相互作用細胞内の1以上の反応の活性を決定し、活性が改良されるまでこれらの工程を反復することを含む。
【0141】
本発明の種々の具体例の活性に実質的に影響しない収縮もまた、本明細書中で提供された本発明の定義内に含まれると理解される。従って、以下の実施例は説明的であって、本発明を限定する意図ではない。
【実施例】
【0142】
実施例I
本実施例は、普遍的なホモ・サピエンス代謝反応データベース、ホモ・サピエンス中核代謝反応データベース、およびホモ・サピエンス筋肉細胞代謝反応データベースの構築を示す。本実施例は、ホモ・サピエンス中核代謝モデルおよびホモ・サピエンス筋肉細胞代謝モデルを創製するのに用いる反復モデル形成プロセスを示す。
【0143】
普遍的ホモ・サピエンス反応データベースは、ゲノムデータベースおよび生化学文献から調製した。表1に示される反応データベースは以下の情報を含む:
遺伝子座ID−LocusLinkウェブサイトで見出される遺伝子の遺伝子座の数
遺伝子Ab−該遺伝子で用いられる種々の略語
反応化学量論は、全ての代謝産物および反応の方向、ならびに可逆性を含む。
【0144】
E.C.−酵素番号。
【0145】
普遍的反応データベースに含まれるさらなる情報は、表1に示さないが、関連反応が見出されるSalway,supra(1999)の章;もし反応が主として所与の区画で起こるならば、細胞位置;SWISS PROTに記録された遺伝子を突き止めるのに用いることができるSWISS PROT識別子;与えられた遺伝子座における遺伝子の完全な名称;遺伝子の染色体位置;遺伝子に関連するMan(MIM)データにおけるメンデル遺伝;および遺伝子が主としてある組織で発現されるならば、組織のタイプを含むものであった。全体として、1130の代謝酵素またはトランスポーターをコードする遺伝子を普遍的反応データベースに含めた。
【0146】
普遍的反応データベースにおける59の反応を同定し、それは、現在ゲノム注釈なくして、Salway supra(1999)に見出される生物学的データに基づいて含まれたものであった。生化学文献またはゲノム注釈に記載されていない10のさらなる反応は、引き続いて、予備的シミュレーションテストおよびモデルの内容の改善に従って反応データベースに含めた。これらの69の反応を表1の最後に示す。
【0147】
表1に示された普遍的ホモ・サピエンス反応データベースから、中核代謝反応データベースを確立し、これは、J.G.Salway,Metabolism at a Glance,2nd ed.,Blackwell Science,Malden,MA(1999)の章1、3、4、7、9、10、13、17、18および44に記載されたように、中核代謝反応ならびにいくつかのアミノ酸および脂肪酸代謝反応を含むものであった。中核代謝反応データベースは、ホモ・サピエンスゲノムにおける737の遺伝子を占める、211のユニークな反応を含むものであった。中核代謝反応データベースを用いて、その全体におけるものではないが、実施例IIに記載された中核代謝モデルを創製した。
【0148】
筋肉細胞のモデル化を可能とするために、中核反応データベースを拡大して、ホモ・サピエンスゲノム中の889遺伝子を占める、446のユニークな反応を含めた。この骨格筋代謝反応データベースを用いて、実施例IIに記載された筋肉代謝モデルを創製した。
【0149】
中核および筋肉細胞代謝反応データベースが編集されたら、反応を、代謝ネットワークデータ構造体、または「化学量論入力ファイル」として表示した。例えば、表2に示される中核代謝ネットワークデータ構造体は33の可逆的反応、31の非−可逆的反応、97の行列の列および52のユニークな酵素を含む。表2中の各反応は、基質または複数基質(負の数)および産物または複数産物(正の数);化学量論;各反応の名称(0に続く用語);および反応が可逆的であるか否か(反応名称に続くR)を示すように表示する。ミトコンドリア中に現れる代謝産物は「m」によって示され、細胞外空間に現れる代謝産物は「ex」によって示される。
【0150】
予備的シミュレーションを実行し、あるいは生理学的条件をシミュレートするためには、入力および出力の組を定義しなければならず、ネットワーク目的関数を特定しなければならない。炭素源としてグルコースを用いてホモ・サピエンス中核代謝ネットワークの最大ATP生産を計算するために、グルコースについての非−ゼロ摂取値を割り当て、表2に示された表示を用い、ATP生産を目的関数として最大化した。ネットワークの性能は、流束平衡分析方法を用い、所与の目的関数、および入力ファイル中で規定される拘束のセットについて最適化することによって知られた。モデルは、シミュレーションの結果を調査し、適当な変化を実行することによって反復方式で改善した。
【0151】
この反復手法を用い、2つの代謝反応ネットワークを創製し、ヒト中核代謝およびヒト骨格筋細胞代謝を表した。
【0152】
実施例II
本実施例は、ホモ・サピエンス中核代謝モデルを用い、どのようにしてヒト代謝を正確にシミュレートできるかを示す。
【0153】
表3に示されるヒト中核代謝反応データベースを、ヒト中核代謝のシミュレーションで用いた。この反応データベースは合計65の反応を含み、解糖の古典的な生化学経路、ペントースリン酸経路、トリクエン酸回路、酸化的リン酸化、グリコーゲン貯蔵、リンゴ酸/アスパラギン酸シャトル、グリセロールリン酸シャトル、および原形質膜およびミトコンドリア膜トランスポーターをカバーする。反応ネットワークを3つの区画:サイトゾル、ミトコンドリア、および細胞外空間に分割した。ネットワークにおける代謝産物の合計数は50であり、そのうち35はミトコンドリアにも出現する。この中核代謝ネットワークは250のヒト遺伝子を占める。
【0154】
中核代謝ネットワークを用いてシミュレーションを実行するためには、Salway,上記(1999)を参照として用いて、P/O比率などのネットワーク特性を特定した。電子輸送系(ETS)を介するNADHの酸化は、2.5のATP分子を創製するように設定し(すなわち、NADHについて2.5のP/O比率)、FADHのそれは1.5のATP分子に設定した(すなわち、FADHについて1.5のP/O比率)。
【0155】
中核代謝ネットワークを用い、好気性および嫌気性で代謝をイン・シリコでシミュレートした。代謝副産物の分泌は、公知の生理学的パラメータと合致した。全ての12の前駆体−代謝産物(グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸、リボース−5−リン酸、エリスロース−4−リン酸、トリオースリン酸、3−ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸、アセチルCoA、α−ケトグルタル酸、スクシニルCoA、およびオキサロ酢酸)の最大収率を調べ、その理論的収率の値を越えるものは見出されなかった。
【0156】
最大ATP収率もまたサイトゾルおよびミトコンドリアで調べた。Salway,上記(1999)は、膜プロトン−結合輸送システムの不在下において、エネルギー収率は、グルコースの分子当たり38ATP分子であり、そうでなければ、グルコースの分子当たり31のATPの分子である。中核代謝モデルは、Salway,上記(1999)によって記載されたのと同一の値を示した。ミトコンドリアにおけるエネルギー収率は、グルコース分子当たりATPの38分子であると決定された。これは、ミトコンドリア膜を横切ってのプロトン−結合トランスポーターの不在下におけるエネルギーの生産と同等である。というのは、全てのプロトンは酸化的リン酸化でのみ利用されたからである。サイトゾルにおいては、エネルギー収率は、グルコース分子当たりATPの30.5分子であると計算された。この値は、Salway,上記(1999)によって記載されたように、ミトコンドリア膜を横切っての代謝産物交換のコストを反映する。
実施例III
本実施例は、ホモ・サピエンス筋肉細胞代謝モデルを用い、種々の生理学的および病理学的条件下で、どのようにしてヒト筋肉細胞代謝が正確にシミュレートできるかを示す。
【0157】
実施例Iに記載するように、中核代謝モデルを、骨格筋細胞で起こり、脂肪酸合成およびβ−酸化、トリアシルグリセロールおよびリン脂質形成、およびアミノ酸代謝などの、中核モデルで見出される古典的な代謝経路に新しい機能を加える全ての主な反応も含むように拡大した。表4に示される筋肉細胞反応データベースを用い、シミュレーションを行った。生化学反応を、再度、サイトゾルおよびミトコンドリア区画に区画分けした。
【0158】
ヒト骨格筋細胞の生理学的挙動をシミュレートするためには、目的関数を定義しなければならなかった。筋肉細胞の成長は、数時間ないし数日のタイムスケールで起こる。しかしながら、シミュレーションにおける注目するタイムスケールは、数分ないし数十分のオーダーであり、運動の間の代謝の変化の時間を反映する。かくして、(エネルギー生産と定義され、それに関連する)収縮は、目的関数となるように選択し、さらなる拘束を課して、細胞における成長要求を表すことはしなかった。
【0159】
ネットワークの挙動を研究し、テストするためには、12の生理学的症例(表8)および5つの病気症例(表9)を調べた。代謝産物の入力および出力は表8に示されたように特定され、最大エネルギー生産および代謝産物分泌を計算し、考慮した。
【0160】
【表8】

【0161】
【表9】

【0162】
骨格筋モデルを、運動および食物飢餓の種々の段階の間に利用可能な種々の炭素源の資化についてテストした(表8)。好気性から嫌気性へのシフトにおけるネットワークの副産物分泌を、運動の生理学的結果と定量的に比較し、発酵副産物の分泌および降下したエネルギー収率などの同一の一般的特徴を呈することが見出された。
【0163】
ネットワーク挙動を5つの病気の症例についても調べた(表9)。テスト症例は、モデルの予測能力に対するそれらの生理学的関連性に基づいて選択した。簡単に述べれば、マッカードル病はグリコーゲン分解の損傷によって特徴付けられる。タルイ病はホスホフルクトキナーゼの欠乏によって特徴付けられる。調べた残りの病気は、代謝酵素のホスホグリセリン酸キナーゼ、ホスホグリセリン酸ムターゼ、および乳酸デヒドロゲナーゼの欠乏によって特徴付けられる。各場合において、代謝産物の流束および副産物分泌の変化を、ネットワークに対する唯一の炭素源としてのグリコーゲンおよびホスホクレアチン、および系をそのままにする唯一の代謝副産物としてのピルビン酸、乳酸、およびアルブミンでの好気性から嫌気性への代謝シフトについて調べた。病気症例をシミュレートするために、対応する欠乏酵素を0まで拘束した。全ての症例において、エネルギー生産のひどい低下が運動の間に示され、臨床的症例で見られる病気の状態を表す。
【0164】
実施例IV
本実施例は、多細胞モデルの構築およびシミュレーションを示し、ヒト脂肪細胞および単球の間の相互作用を示す。
【0165】
前記した特別な実施例は、E.coliなどの原核生物およびS.cerevisiaeなどの真核生物を含めた微生物における、ならびにヒトなどの調節相互作用を必要とする複雑な多細胞生物についての代謝をモデル化する拘束−ベースのアプローチの使用を示す。以下に記載するのは、本発明の組成物および方法を用いる、モデル化手法、ネットワークの内容、ならびにヒトアジポサイト(脂肪細胞)およびミオサイト(筋肉細胞)の統合された2−細胞モデルのネットワーク特徴および代謝性能を含めたシミュレーション結果である。シミュレーションを行って、短距離競争およびマラソンの生理学的条件の間における脂肪細胞および筋細胞の結合関数に対応する区別される生理学的条件の間における2つの細胞型の結合機能を例示した。
【0166】
ヒト代謝ネットワークモデルは、前記したような生化学、生理学およびゲノムデータを用いて再構築した。簡単に述べると、ゲノム、生化学、および/または生理学情報に基づいて、注目する特定の細胞型で起こることが知られている生化学反応を加えることによって、中枢代謝ネットワークを細胞−特異的モデルの構築のための鋳型として用いた。細胞−特異的モデルを再構築するための他の方法は、データベース中の細胞内へのそれらの組織特異性および位置に拘わらず、ヒト代謝で起こる全ての生化学経路および生化学反応を再構築し、次いで、遺伝子発現、プロテオミックス、メタボロミックス、および他のタイプの「オミック」データなどのゲノム、生理学、生化学、および/または高スループットデータに基づいて、特定の細胞、組織、および/または器官で起こる反応を分離することにより細胞−、組織−、器官−特異的モデルを再構築することを含むものであった。この後者のアプローチにおいて、細胞−、組織−、および/または器官−特異的反応に加えて、反応を加えて、代謝産物を平衡化して、細胞、組織、器官および/または全ヒト体重の生化学、生理学および遺伝学を表すことができる。以下に記載されるアプローチにおいては、中枢代謝ネットワークの初期再構築、続いての、細胞−特異的モデルの開発、上位概念的中枢代謝ネットワークの再構築は、ヒト代謝を再構築し、モデル化するのに必要な工程ではない。むしろ、それを行って、再構築プロセスを加速する。
【0167】
多細胞脂肪細胞−筋細胞モデルの実行を、構成成分の再構築に言及して以下に記載する。この点に関して、中枢ヒト代謝ネットワークの再構築を最初に記載し、続いて、脂肪細胞および筋肉細胞特異的ネットワークについての再構成手法を記載する。2つの細胞−特異的モデルを組み合わせて、ヒト代謝についての多細胞モデルを創製する再構築手法を次に記載する。
【0168】
中枢ヒト代謝の代謝ネットワーク
中枢ヒト代謝の代謝ネットワークを、より多くの特異的細胞モデルを再構築するための鋳型および出発点として構築した。ヒト代謝についての中枢代謝ネットワークを構築するために、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes KEGG,National Center for Biotechnology information or NCBI、およびthe Universal Protein Resource or UniProtデータベースから入手した1557の注釈されたヒト遺伝子の大要を用いた。ゲノムおよびプロテオミックデータに加えて、ヒト代謝の生化学についてのいくつかの主要なテキストブックおよび刊行物も用い、それはHuman Metabolism:Functional Diversity and Integration,Ed.by J.R.Bronk,Harblow,Addison,Wesley,Longman(1999);Textbook of Biochemistry with Clinical Correlations,Ed.by Thomas M.Devlin,New York,Wiley−Liss(2002)、およびMetabolism at a Glance,Ed.By J.G.Salway,Oxford,Malden,MA.Blackwell
Science(1999)を含むものであった。ヒト中枢代謝のネットワーク再構築は解糖、糖新生、クエン酸回路(TCA回路)、ペントースリン酸経路、ガラクトース、マロニル−CoA、乳酸、およびピルビン酸代謝についての代謝経路を含むものであった。従前に記載された方法をこの構築のために同様に用い、ならびに後に記載するものも用いた。代謝反応を細胞外空間、サイトゾル、ミトコンドリアおよび小胞体に区画化した。生化学経路に加えて、生化学文献および生理学証拠に基づいて交換反応を含めて、異なるオルガネラおよびサイトゾル膜を横切っての代謝産物の輸送を供した。
【0169】
ヒト代謝についての完成された中枢代謝ネットワークを図5に示し、そこでは、ダッシュ線がオルガネラ、細胞、または系の境界を示す。大きなダッシュ線の矩形(黒色)はサイトゾル膜を表す。大きなダッシュ線の丸(赤色)はミトコンドリア膜を表し、小さなダッシュ線丸(緑色)は小胞体膜を表す。ヒト中枢代謝ネットワークは、そのうち25がトランスポーターである80の反応、および60のユニークな代謝産物5を含む。遺伝子−蛋白質−反応会合の代表的な例は図6に示され、そこでは、オープンリーディングフレームまたはORF(7167)がmRNA転写体(TPI1)に会合される。次いで、該転写体を、対応する反応(TPI)を触媒する翻訳された蛋白質(TPi1)に会合させる。
【0170】
脂肪細胞代謝ネットワーク
脂肪細胞はトリアシルグリセロールを合成し、貯蔵するための特殊化された細胞である。トリアシルグリセロール(TAG)は、白色脂肪組織においてジヒドロキシアセトンリン酸および脂肪酸から合成される。脂肪細胞で合成されるトリアシルグリセロールは、脂肪細胞における特殊化された経路を介して脂肪酸およびグリセロールに加水分解できる(または分解できる)。トリアシルグリセロールから放出される脂肪酸は細胞を去り、エネルギー生産のために筋細胞などの他の細胞型に輸送される。ヒト乳腺脂肪組織におけるトリアシルグリセロールの脂肪酸組成は実験的に測定されており(Raclotら、324:911−5(1997))、それは、必須、非−必須、飽和、不飽和、偶数および奇数−鎖の脂肪酸を含む(表10)。
【0171】
(表10 ヒトにおける脂肪細胞TAGの脂肪酸組成、イン・ビトロでこれらの細胞によって放出されたNEFA、および脂肪酸の相対的動員(%NEFA/%TAG))
【0172】
【表10】

【0173】
脂肪細胞代謝モデルは、非−必須飽和、不飽和、偶数および奇数−鎖の脂肪酸の生合成経路を、表10にリストされた21の脂肪酸についての中枢代謝ネットワークに加えることによって構築した。残りの13の必須脂肪酸を、細胞外空間を介して細胞に供給し、環境からの栄養取り込みを表す。全ての34の脂肪酸からのトリアシルグリセロール(TAG)の生合成についての経路を、脂肪細胞におけるTAGの形成および貯蔵を説明するために含めた。TAG分解を表すために、TAGの脂肪酸への加水分解についての反応も含めた。脂肪酸の合成、およびTAGの生合成および分解に加えて、細胞内空間から環境への脂肪酸の放出を可能とするために輸送反応を含めた。
【0174】
脂肪細胞の代謝モデルは、合計198の反応を含み、そのうち63はトランスポーターである。脂肪細胞モデルを図7に示し、そこでは、ダッシュ線はオルガネラ、細胞、または系の境界を示す。大きなダッシュ線の矩形(黄色)は脂肪細胞のサイトゾル膜を表す。2つの大きなダッシュ線の丸(赤色)はミトコンドリア膜を表し、頂部における小さなダッシュ線の丸(緑色)は小胞体膜を表す。示されるように、代謝反応は細胞外、サイトゾル、ミトコンドリア、および小胞体に区画化した。前記したように、細胞外空間は細胞外部の環境を表し、これは、身体外の空間、結合組織、および細胞の間の間隙空間を含むことができる。
【0175】
筋細胞代謝ネットワーク
筋肉収縮に必要なエネルギーは、一般には、グルコース、貯蔵されたグリコーゲン、ホスホクレアチン、および脂肪酸によって供される。筋細胞モデルは、ホスホクレアチンキナーゼ反応、ミオシン−アクチン活性化メカニズムおよびβ−酸化経路を中枢代謝ネットワークに加えることによって構築した。筋肉収縮は、ミオアクチンのミオシン−ATPへの、ミオシン−ATPのミオシン−ADP−Pへの、ミオシン−ADT−Pのミオシン−アクチン−ADP−P複合体への、ミオシン−アクチン−ADP−Pのミオアクチンへの順次の変換、および引き続いての、図8に示される筋肉収縮の形成によって表した。
【0176】
ミオシンのミオシン−アクチン−ADP−P複合体への変換、および筋肉の収縮の結果、ATPおよびHOのADP、H,およびPへの正味の変換が生じる。
【0177】
筋細胞代謝についての完全な再構築された代謝モデルは図9に示され、そこでは、ダッシュ線はオルガネラ、細胞、または系の境界を示す。大きなダッシュ線の矩形(茶色)は筋細胞のサイトゾル膜を表す。2つの大きなダッシュ線の丸(赤色)はミトコンドリア膜を表す。中程度のサイズのダッシュ線丸(紫色)はペルオキシソーム膜を表し、小さなダッシュ線の丸(緑色)は小胞体膜を表す。筋細胞ネットワークは、合計205の反応を含み、その内46は輸送反応である。ホスホクレアチニンを利用するための反応、ならびに飽和、不飽和、偶数−および奇数−鎖脂肪酸およびそれらの中間のβ−酸化のための選択された経路もまたモデルに含め、図9に示される。従前のネットワークモデルに関して、代謝反応は細胞外、サイトゾル、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、および小胞体に区画化されていた。
【0178】
多細胞脂肪細胞−筋細胞の再構築
ヒト代謝についての多細胞モデルを創製するために、脂肪細胞および筋細胞の2つのモデルの代謝機能を、2つの個々の細胞型における全ての代謝反応を含むモデルを再構築することによって一体化させた。次いで、2つの細胞型の相互反応を(系内)空間内に表し、これは、血液、尿、および間隙空間などの結合組織、および外側環境または(系外)空間を表す。環境からの代謝産物および必須脂肪酸の取込を表すために、適当な輸送反応を加えて、系外境界を横切って代謝産物を交換した。炭酸水素およびアンモニア緩衝液系は腎臓で機能するので、それらを含めることによって、さらなる反応も加えて、系内空間中の代謝産物を平衡化させた。これらの反応は、最初は省略されていたが、間隙空間中の細胞外プロトンを緩衝するための統合された系についての要件が明らかとなり、シミュレーションテストが開始されれば、モデルを改良するために加えられた。合わせた脂肪細胞−筋細胞モデルは430の反応および240のユニークな代謝産物を含む。完全な再構築を図10に示し、反応の要約を表11に記載する。図10に記載された全ての反応の実質的に完全なリストは以下に表15に記載する。
【0179】
(表11 中枢代謝ネットワーク、脂肪細胞、筋細胞、および多細胞脂肪細胞−筋細胞モデルのネットワーク特性)
【0180】
【表11】

【0181】
図10において、ダッシュ線は、再度、オルガネラ、細胞、または系の境界を示す。最も外側の大きなダッシュ線矩形(黒色)はヒト身体内部および外部の環境を分離する。2つの内部のダッシュ線矩形は、脂肪細胞のサイトゾル膜(頂部、黄色)および筋細胞サイトゾル膜(底部、茶色)を表す。脂肪細胞および筋細胞サイトゾル(赤色)内のより大きなダッシュ線丸の対はミトコンドリア膜を表す。筋細胞サイトゾル(紫色)における中程度のサイズのダッシュ線丸はペルオキシソーム膜を表し、脂肪細胞および筋細胞サイトゾル(緑色)内の小さなダッシュ線丸は小胞体膜を表す。
【0182】
代謝シミュレーション
統合された多細胞モデルを作製するための計算およびインフラストラクチュア要件は、最初に細胞−特異的モデルの、次いで、統合された多細胞再構成のネットワーク特性を調べることによって評価した。
【0183】
中枢ヒト代謝の代謝モデル
中枢ヒトモデルの代謝能力は、グルコース当たり12の前駆体代謝産物の最大収率の計算を通じて決定した。結果を表12に示す。全ての場合において、ネットワークの収率は、スクシニル−CoA以外の最大理論値未満かまたはそれと同等であった。スクシニル−CoAの場合には、ピルビン酸カルボキシラーゼ反応、PCmを介してCOを取り込むことによって可能であった。前駆体代謝産物収率に加えて、グルコースのモル当たりの最大ATP収率をネットワークにおいて計算した。中枢ヒト代謝についての最大ATP収率は31.5モルのATP/モルグルコースであると計算され、これは、従前に計算された値(Voら、J.Biol.Chem.279:39532−40.(2004))と合致する。
【0184】
(表12 グルコース当たりの前駆体代謝産物についての最大理論および中枢ヒト代謝産物ネットワーク収率)単位はモル/モルグルコースである。
【0185】
【表12】

【0186】
生きた細胞におけるバイオマス要求は、アミノ酸、脂質、および細胞の一体性、維持および成長を提供するのに必要な他の分子などの生合成成分の生産のための要件である。全ての生合成成分は、表12に示された中枢代謝における12の前駆体代謝産物から作製した。しかしながら、哺乳動物細胞における成長およびバイオマス維持の速度は、典型的には、代謝活性の速度よりもかなり低い。かくして、細胞の生合成要件を表すためには、ATPについて最大化しつつ、12の前駆体代謝産物の生産のために小さな流束要求を課した。実験的測定の不在下において、生合成要件を満足するネットワークの能力は、全ての代謝産物が以下の反応に記載されたものの化学量論係数でもって同時に作製される反応を構築することによって調べた。
前駆体要求:3pg[c]+accoa[m]+akg[m]+e4p[c]+f6p[c]+g3p[c]+g6p[c]+oaa[m]+pep[c]+pyr[c]+r5p[c]+succoa[m]→(2)coa[m]
定量的な測定の不在下で、前記反応は、細胞におけるバイオマスおよびエネルギーの双方の要件を同時に満足するネットワークの能力を示すように働く。0.01ミリモル/gDWの前駆体代謝産物の要求での中枢代謝についての最大ATP収率は29.0と計算され、前駆体代謝産物の生成のためのエネルギーおよび炭素要件が、予測されるように、細胞における最大エネルギー生産を低下させ、この量は再構築されたモデルを用いて定量することができるのを示す。脂肪細胞組織におけるトリアシルグリセロールの貯蔵および資化
従前に記載されたように、脂肪細胞の主な機能はトリアシルグリセロールを合成し、貯蔵し、および加水分解することである。貯蔵されたTAGを用いて、飢餓の間に、または高−エネルギー要求条件下でATPを生成することができる。TAG加水分解の結果、脂肪細胞における脂肪酸およびグリセロールが形成される。脂肪酸は筋肉細胞などの他の組織に輸送され、そこで、それらは資化されて、エネルギーを生じさせることができる。グリセロールはさらに肝臓および他の組織によって資化され、そこで、それはグリセロールリン酸に変換され、解糖経路に入る。
【0187】
脂肪細胞におけるグルコースからトリアシルグリセロールの貯蔵をシミュレートするために、サイトゾルトリアシルグリセロールに対する内部要求を最大化することによってTAG合成をシミュレートした。グルコース当たりのトリアシルグリセロールの最大収率は、いずれのバイオマスの要求も無くして、0.06モルTAG/モルグルコースであると計算された。どのようにして貯蔵されたTAGを再利用して脂肪酸を生じるかを示すために、グルコースを含めた全ての他の炭素源の流入をゼロに拘束し、肝臓によって取り込まれると推定されるグリセロール分泌を最大化した。2モルのサイトゾルプロトンが系を去るのが可能である場合、1モルのグリセロール/モルTAGまたは100%のグリセロール収率が計算された。過剰の2つのプロトンがTAG分解経路で形成された。図11で示すように、TAGの分解は以下の3つの工程:(1)TRIGH_ac_HS_ub;(2)12DGRH_ac_HS_ub、および(3)MGLYCH_ac_HS_ub)で行った。この経路の最終産物として生じたグリセロールは、プロトン−結合シンポートメカニズムを介して細胞の外に輸送された。3つの工程においてTAGは完全に脂肪酸およびグリセロールに加水分解され、各工程において、1つのプロトンが放出された。グリセロール輸送は1つのプロトンに結合された。かくして、2つのプロトンの正味の量は分解したモルTAG当たり生じた。
【0188】
プロトンを平衡化するために、サイトゾル膜を横切ってのATPase反応を用いた。しかしながら、β−酸化的経路はこの脂肪細胞モデルに含まれていなかったので、このネットワークは膜結合ATPaseを用いて内部プロトンを平衡化することができなかった。β−酸化的経路を脂肪細胞モデルに加えると、モデルはプロトンを完全に平衡化させることができる。
【0189】
トリアシルグリセロール合成および加水分解に加えて、グルコースについての最大ATP収率(YATP/グルコース)を脂肪細胞モデルで計算した。中枢ヒト代謝ネットワークに関しては、YATP/グルコースは31.5モルATP/モルグルコースであった。好気性および嫌気性運動の間の筋肉収縮
筋肉細胞における必要なエネルギーは一般には、グルコース、貯蔵されたグリコーゲン、およびホスホクレアチンによって供給される。短距離競技などの嫌気的運動の間に、例えば、筋肉組織における血管は圧縮され、細胞は身体の残りから隔離される(Devlin,上記)。この圧縮は組織への酸素供給を制限し、細胞における嫌気的エネルギー代謝を強要する。その結果、乳酸が生じて、レドックスポテンシャルを平衡化して、細胞の外へ分泌されなければならない。肝臓においては、乳酸はグルコースに変換される。しかしながら、迅速な筋肉収縮および筋肉組織への減少した血流は嫌気性運動の間に乳酸蓄積を引き起こし、筋肉収縮を迅速に損なう。飢餓の間に、または高−エネルギー要求下で筋肉組織のグルコースおよびグリコーゲン貯蔵は迅速に枯渇し、脂肪細胞によって供給されたトリアシルグリセロール分子におけるエネルギー貯蔵を用いて、ATPを生成させる。
【0190】
定常状態における筋肉生理学を刺激するためには、ホスホクレアチンキナーゼ反応、ミオシン−アクチン活性化メカニズム、およびβ−酸化経路を中枢代謝ネットワークに含めた。グルコース、貯蔵されたグリコーゲン、ホスホクレアチン、および供給された脂肪酸によって供されるエネルギーから生成する最大量の収縮を測定することによって筋肉組織の生理学的機能をシミュレートした。
【0191】
筋細胞モデルの代謝能力は、まず、グルコースについての最大ATP収率を計算することによって評価した。中枢ヒト代謝ネットワークに関しては、YATP/グルコースは31.5モルATP/モルグルコースであった。筋肉収縮もまた、唯一の炭素源としてのグルコースで調べた。グルコースでの最大筋肉収縮は好気性条件では31.5モル/モルグルコースと計算され、嫌気性条件では2モル/モルグルコースと計算された。乳酸は嫌気性収縮の間に副産物として分泌された(収率 乳酸/グルコース=2モル/モル)。
【0192】
乳酸は嫌気性代謝の間に蓄積するので、その分泌速度は、乳酸を血液に放出する要求を迅速には満足しない。嫌気性運動における筋肉収縮の損傷をシミュレートするために、最大乳酸分泌速度を嫌気性条件下でのその最大値の75%、50%、25%、および0%に拘束した。これらの異なる拘束を用いる結果を図12に示し、時間は任意単位として示され、収縮の速度および乳酸の分泌は単位時間あたりの細胞質量あたりのモルで表し、rは速度に対応し、lacは乳酸に対応する。結果は、より多くの乳酸が嫌気性代謝に蓄積すればするほど、最大許容乳酸分泌は減少し、最大筋肉収縮は比例して減少することを示す。
【0193】
筋肉収縮を、エネルギー源としての貯蔵されたグリコーゲンおよびホスホクレアチンでもシミュレートした。グリコーゲンについての最大収縮は好気性条件では32.5モル/モルグリコーゲンと計算され、嫌気性条件では3モル/モルグリコーゲンと計算された。グルコースと比較して、グリコーゲンによって生じた最大収縮との間の観察された差は、解糖の第一工程におけるリン酸化またはグルコキナーゼ工程の不在下から生起する。グリコーゲン−対−グルコース資化の結果は図13に示し、グリコーゲン資化経路が左側の厚い曲がった矢印として示され(赤色)、グルコース資化経路は右側に厚いまっすぐな矢印として示される(青色)。ダッシュ線丸(緑色)は小胞体膜を表す。好気性および嫌気性双方の条件下でのホスホクレアチニンからの最大収縮は1モル/モルホスホクレアチンであると計算された。ホスホクレアチンから生じたエネルギーは、酸化的リン酸化を通じて生じたエネルギーから独立しており、かくして、好気性および嫌気性双方の条件において同一であると計算された。
【0194】
加えて、筋細胞組織におけるβ−酸化経路は、ネットワークに、奇数−および偶数−鎖のおよび飽和および不飽和脂肪酸の脂肪酸酸化の例として、エイコサノエート(n−C20:0)、オクタレセノエート(C18:1,n−9)、およびペンタデカノエート(C15:0)を供給することによって調べた。結果を表13に示し、これは、筋細胞モデルにおける最大収縮がエイコサノエートでは134モル/モルであり、オクタレセノエートでは118.5モル/モルであり、およびペンタデカノエートでは98.5モル/モルであったことを示す。該結果は、炭素−モルベースでは、全ての脂肪酸はほぼ同一収縮を生じ、これはATP収率と同等であったことも示す。収縮は、グルコースから生じたものよりも炭素収率の項目ではより大きいと観察された(すなわち、5.3モルATP/C−モルグルコースと比較して〜6.6モルATP/C−モル脂肪酸)。パルミテート(C16:0)についての最大ATP収率も106モルATP/モルパルミテートと計算され、これは従前に計算された値(Voら、上記)と合致した。脂肪酸モル当たり1モルのサイトゾルプロトンが脂肪酸酸化のためにネットワークに供給された。
(表13 異なる脂肪酸を与えた筋細胞モデルにおける最大収縮)
【0195】
【表13−1】

【0196】
以下の反応で示されるように、細胞における脂肪酸CoA形成を平衡化するのに、脂肪酸当たり単位のプロトンがネットワークで必要とされる:
【0197】
【表13−2】

【0198】
ATP平衡式(すなわち、ATP+HO→ADP+P+H)に関しては、正味の反応は1モル少ないHOおよびHを有する。水は膜を通じて自由に拡散することができる。しかしながら、細胞膜は遊離プロトンに対して不浸透性であり、かくして、プロトンは全ての区画において平衡化した。細胞におけるプロトンの要件はプロトン−結合脂肪酸トランスポーターで満足させることができる。内膜を横切ってのプロトンの電気化学的グラジエントは、E.coliにおける長鎖脂肪酸輸送装置にエネルギーを与えるにおいて重要な役割を演じ、内膜を横切ってのプロトンの電気化学的勾配は最適な脂肪酸輸送で必要である(DiRussoら、Mol.Cell.Biochem.192:41−52(1999))。S.cerevisiaeにおける脂肪酸トランスポーターも研究されているが、輸送のメカニズムについては現在利用できる証拠はない。プロトン結合脂肪酸トランスポーターを該モデルで用いると、プロトンのモルを系に供給するための要件は排除された。
【0199】
脂肪細胞−筋細胞結合機能
筋肉細胞は、それらの貯蔵されたグリコーゲンおよびホスホクレアチン含有量に大いに頼っている。しかしながら、好気性運動の間に、筋肉細胞のグルコース、グリコーゲン、およびホスホクレアチン貯蔵は枯渇し、筋細胞におけるエネルギーの発生は脂肪酸の酸化によって達成される。リポリシスまたは脂質分解は、脂肪酸の血管を介しての脂肪細胞から筋細胞への移動に続いて筋肉細胞で進行する。
【0200】
多細胞代謝のモデル化は本明細書中にて記載された拘束−ベースのアプローチを用いて実行し、そこでは、脂肪細胞および筋細胞の代謝ネットワークを図10に示したように多細胞代謝モデルに組み合わせた。統合されたモデルは、短距離競技に対応するものなどの嫌気性運動、およびマラソンに対応するものなどの好気性運動の間におけるネットワークエネルギー要件を計算することによって評価した。純粋に付加的な見通しから、脂肪細胞モデルからの反応の全てを筋細胞モデルからのそれとを組み合わせることを、組合せネットワークについての十分なインジケーターとして最初に行って、統合された生理学的結果を計算した。しかしながら、このようにして厳密に組み合わせた2つのモデルに関しては、それらは、以下に記載したものおよび、特に、以下の「マラソンにおける筋肉収縮」セクションに記載された結果などの統合された機能を計算するにおいて不十分であった。炭酸水素塩およびアンモニアについての緩衝液系の添加は、組み合わせモデルがより効率的にかつ予測可能に機能することを可能とした。振り返ってみると、系内反応を含めるのは、例えば、腎臓が統合された代謝生理学において演じる役割と合致する。
【0201】
短距離競技の間における筋肉収縮についての統合されたモデルのシミュレーション:短距離競技における筋細胞のエネルギー要件は極端に高く、かつ筋肉に存在する燃料から主として供給される。加えて、酸素は、好気性代謝をトリガーするのに十分に早く細胞には輸送できない。短距離競技におけるエネルギーの5%のみが酸化的リン酸化を介して供給されており、残りのATPは貯蔵されたグリコーゲンおよびホスホクレアチンからの嫌気性代謝から生じると見積もられている(Biochemical and Physiological Aspects of Human Nutrition,Philadelphia,Ed.by M.H.Stipanuk,W.B.Saunders,(2000))。
【0202】
短距離競技における筋肉の代謝活性をシミュレートするために、表14に示すように、多細胞モデルにグルコース、グリコーゲン、およびホスホクレアチンを供給することによって、好気性条件における最大筋肉収縮を計算した。加えて、酸素供給をゼロに拘束することによって、筋肉収縮を嫌気性条件下でシミュレートした。最大収縮は、予測されるように、隔離された筋細胞モデルにおけるのと同一であると計算され、これは、統合されたモデルが単一細胞モデルで観察された機能性を維持することを示す。
【0203】
(表14 脂肪細胞−筋細胞統合モデルにおけるシミュレーションの結果
【0204】
【表14】

【0205】
マラソンの間における筋肉収縮についての統合されたモデルのシミュレーション:マラソンにおける合計エネルギー消費は約12,000kJまたは2868kcalであり、これは、約750gの炭水化物または330gの脂肪の燃焼と同等である(Stipanuk,上記)。身体中の合計貯蔵炭水化物は約400ないし900gに過ぎないので、脂肪組織からの動員された脂肪酸は、好気性代謝において、特に、マラソンにおいて筋肉細胞に対して供給されたエネルギーの重要な部分を提供する。
【0206】
筋肉細胞における脂肪酸の好気性酸化をシミュレートするために、統合されたモデルが、グルコースによって供給された場合に脂肪細胞区画においてトリアシルグリセロールを合成し、貯蔵することができることを最初に示した。単一細胞モデルに関しては、統合された脂肪細胞−筋細胞ネットワークは脂肪細胞区画においてTAGを貯蔵することができた。結果を表14に示す。加えて、脂肪細胞において貯蔵されたTAGから生じた系内空間へのグリセロール分泌を最大化することによって、TAG分解および血液への脂肪酸動員をシミュレートした。単一細胞モデルに関しては、TAG加水分解を統合された脂肪細胞−筋細胞モデルでシミュレートし、最大グリセロール分泌速度は同一であることが示された。
【0207】
2つの細胞型の結合された機能を示すために、グルコース、貯蔵されたグリコーゲン、およびホスホクレアチンを含めた全ての他の代替炭素源を0に拘束し、脂肪細胞にエネルギー源として貯蔵されたトリアシルグリセロールを供給することによって好気性運動での筋肉収縮をシミュレートした。2つのモデルの間の脂肪酸の適切な移動を確実とするために、交換流束を含めた。脂肪酸C12:0、C14:0、C15:0、C16:0、C18:1 n−9、およびC20:0についてのβ−酸化的経路を含むネットワークにおける最大筋肉収縮をシミュレートし、253.9モル/モルTAGであると計算された。このシミュレーションにおける合計収縮は、モデルに各脂肪酸が個々に供給されたならば、生じる最大収縮の合計である。統合されたモデルを用いる結果は、トリアシルグリセロールからの筋肉細胞で生じたエネルギーは付加的に生じ、2つの細胞型における代謝産物平衡は細胞においてエネルギー生産を低下させないことを示した。
【0208】
これらの研究は、さらに、多細胞統合代謝モデルのモデル化への拘束−ベースのアプローチの適用を示す。また、結果は、炭酸水素塩およびアンモニア緩衝液系などの系内反応を統合された脂肪細胞−筋細胞モデルに取り込むことによって、多細胞ネットワークのモデル化が最適化されることを示す。再構築されたモデルおよびシミュレーションの結果は、本発明の方法を用い、種々の細胞型の代謝機能を研究し、理解し、再現することができることも示す。さらに、系における複数の細胞型の機能のカップリングは、種々の代謝産物の輸送を通じて示され、異なる細胞型の結合機能は、生物学的に適切な目的関数を課すことによって検討した。最後に、再構築されたモデルを用い、筋細胞への脂肪酸の輸送メカニズムなどのネットワーク修飾をさらに予測する能力も示された。これらの結果は、多細胞モデル化を、さらなるゲノム、生化学、生理学、および高スループットデータセットを含めた、2を超える細胞の、同一種、または複数の異なる種の間で、組織、器官、および全身を含めた種々の細胞型に対応するモデル化まで拡大することができることも示す。
【0209】
本出願を通じて、種々の刊行物を括弧に入れて参照した。これらの刊行物の全体も開示をここに引用して本出願に一体化させて、本発明が属する分野の水準をより十分に記載する。
【0210】
本発明を開示された実施形態を参照して記載してきたが、当業者であれば、前記で詳細に記載した具体的な実施例および実験は、本発明の例示的な説明に過ぎないことを容易に認識するであろう。本発明の精神を逸脱することなく種々の改変をなすことができることが理解されるべきである。従って、本発明は特許請求の範囲によってのみ規定される。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【表1−6】

【表1−7】

【表1−8】

【表1−9】

【表1−10】

【表1−11】

【表1−12】

【表1−13】

【表1−14】

【表1−15】

【表1−16】

【表1−17】

【表1−18】

【表1−19】

【表1−20】

【表1−21】

【表1−22】

【表1−23】

【表1−24】

【表1−25】

【表1−27】

【表1−28】

【表1−29】

【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表3−1】

【表3−2】

【表4−1】

【表4−2】

【表5−1】

【表5−2】

【表5−3】

【0211】
胃腺酸分泌細胞(塩化水素分泌)
膵臓腺房細胞(重炭酸塩および消化酵素分泌)
小腸のパーネト細胞(リゾチウム分泌)
肺のII型肺胞細胞(界面活性剤分泌)
肺のクラーラ細胞

ホルモン分泌細胞
下垂体前葉細胞
成長ホルモン産生細胞
乳腺刺激ホルモン分泌細胞(Lactotrope)
甲状腺刺激ホルモン産生細胞(Thyrotrope)
ゴナドトロピン産生細胞(Gonadotrope)
副腎皮質刺激因子(Corticotrope)
下垂体中葉細胞、メラニン細胞刺激ホルモンを分泌
大型細胞神経分泌細胞
オキシトシンを分泌
バソプレッシンを分泌
セロトニンを分泌する消化管および呼吸器系管細胞
エンドルフィンを分泌
ソマトスタチンを分泌
ガストリンを分泌
セクレチンを分泌
コレシストキニンを分泌
インスリンを分泌
グルカロンを分泌
ボンベシンを分泌
甲状腺細胞
甲状腺上皮細胞
傍濾胞細胞
上皮小体細胞
上皮小体主細胞
好酸性細胞
副腎細胞
クロマフィン細胞
ステロイドホルモン(ミネラルコルチコイドおよびグルココルチコイド)を分泌
テストステロンを分泌する精巣のライディッヒ細胞
エストロゲンを分泌する卵胞の内卵胞膜細胞
プロゲステロンを分泌する破裂した卵胞の黄体細胞
腎臓の傍糸球体装置細胞(レニン分泌)
腎臓の緻密斑細胞
腎臓の周血管極細胞
腎臓の血管間膜細胞

上皮吸収細胞(腸、外分泌腺および尿生殖路)
(微小絨毛を備えた)腸刷子縁細胞
外分泌腺線条部導管細胞
胆嚢上皮細胞
腎臓近位細管刷子縁細胞
腎臓遠位細管細胞
精巣輸出管(Ductulus efferens)無線毛細胞
精巣上体主細胞
精巣上体基底細胞

代謝および貯蔵細胞
肝細胞(肝臓細胞)
白色脂肪細胞
褐色脂肪細胞
肝臓脂肪細胞

バリア機能細胞(肺、消化管、外分泌腺および尿生殖路)
I型肺胞細胞(肺の空気隙を裏打ちする(lining))
膵管細胞(腺房中心細胞)
(汗腺、唾液腺、乳腺等の)非線条部導管細胞
腎糸球体壁細胞
腎臓糸球体有足突起
(腎臓中の)ヘンレループ薄セグメント細胞
腎臓集合管細胞
(精嚢、前立腺等の)管細胞

閉鎖内部体腔を裏打ちする上皮細胞
血管およびリンパ系血管内皮有窓性細胞
血管およびリンパ系血管内皮連続細胞
血管およびリンパ系血管内皮脾臓細胞
滑膜細胞(関節腔を裏打ちする、ヒアルロン酸分泌)
漿膜細胞(腹腔、胸腔、および心臓周囲腔を裏打ちする)
扁平上皮細胞(耳の外リンパ腔を裏打ちする)
扁平上皮細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
微小絨毛を備えた内リンパ嚢の柱細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
微小絨毛無しの内リンパ嚢の柱細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
暗細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
前庭膜細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
血管条基底細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
血管条縁細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
クラウディウスの細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
ベッチャーの細胞(耳の内リンパ腔を裏打ちする)
脈絡叢細胞(脳脊髄液分泌)
軟膜クモ膜扁平上皮細胞
目の色素沈着毛様体上皮細胞
目の非色素沈着毛様体上皮細胞
角膜内皮細胞
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
推進(propulsive)機能を備えた線毛細胞
呼吸器系管線毛細胞
(女性における)卵管線毛細胞
(女性における)子宮内膜線毛細胞
(男性における)精巣網線毛細胞
(男性における)精巣輸出管線毛細胞
中枢神経系の線毛上衣細胞(脳腔を裏打ちする)

細胞外マトリックス分泌細胞
エナメル芽上皮細胞(歯エナメル分泌)
耳の前庭器の半月面上皮細胞(プロテオグリカン分泌)
コルチ歯間上皮細胞の器官(毛様細胞を被覆する天蓋膜の分泌)
疎性結合組織線維芽細胞
角膜線維芽細胞
腱線維芽細胞

骨髄細網組織線維芽細胞
他の非上皮線維芽細胞
毛細血管周囲細胞
椎間円板の髄核細胞
セメント芽細胞/セメント細胞(歯根骨様セメント質分泌)
象牙芽細胞/象牙細胞(歯のデンチン分泌)
硝子軟骨細胞
線維軟骨細胞
弾性軟骨細胞
骨芽細胞/骨細胞
前骨芽細胞(骨芽細胞の幹細胞)
目の硝子体の硝子体細胞
耳の外リンパ腔の星細胞

収縮性細胞
赤色骨格筋細胞(遅い)
白色骨格筋細胞(速い)
中間骨格筋細胞

筋紡錘の核袋細胞
筋紡錘の核鎖細胞
星細胞(幹細胞)
通常の心筋細胞
結節性心筋細胞
プルキンエ線維細胞
平滑筋細胞(種々のタイプ)
虹彩の筋上皮細胞
外分泌腺の筋上皮細胞
赤血球細胞

血液および免疫系細胞
赤血球(赤血球細胞)
巨核細胞(血小板前駆体)
単球
結合組織マクロファージ(種々のタイプ)
表皮ランゲルハンス細胞
(骨中の)破骨細胞
(リンパ組織における)樹状細胞
(中枢神経中の)小膠細胞
好中球性顆粒球
好酸球性顆粒球
好塩基球性顆粒球
肥満細胞
ヘルパーT細胞
サプレッサーT細胞
細胞傷害性T細胞
B細胞
ナチュラルキラー細胞
網状赤血球
血液および免疫系についての幹細胞および連合先祖(committed progenitor)(種々のタイプ)
感覚変換器細胞
目の光受容体杆細胞
目の光受容体青色−感受性錐体細胞
目の光受容体緑色−感受性錐体細胞
目の光受容体赤色−感受性錐体細胞
コルチの器官の聴覚内側毛様細胞
コルチの器官の聴覚外側毛様細胞
耳の前庭装置のI型毛様細胞(加速および重力)
耳の前庭装置のII型毛様細胞(加速および重力)
I型味蕾細胞
嗅覚受容体ニューロン
嗅覚上皮の基底細胞(嗅覚ニューロンについての幹細胞)
I型頸動脈小体細胞(血液pHセンサー)
II型頸動脈小体細胞(血液pHセンサー)
表皮のメルケル細胞(触覚センサー)
触覚一次感覚ニューロン(種々のタイプ)
冷−感受性一次感覚ニューロン
熱−感受性一次感覚ニューロン
痛み−感受性一次感覚ニューロン(種々のタイプ)
固有受容一次感覚ニューロン(種々のタイプ)

自律神経ニューロン細胞
コリン作動性神経細胞(種々のタイプ)
アドレナリン作動性神経細胞(種々のタイプ)
ペプチド作動性神経細胞(種々のタイプ)

感覚器官および末梢ニューロン支持細胞
コルチ器の内側柱状細胞
コルチ器の外側柱状細胞
コルチの器官の内側支持細胞
コルチの器官の外側支持細胞
コルチの器官の境界細胞
コルチの器官のヘンゼン細胞
前庭器支持細胞
I型味蕾支持細胞
嗅覚上皮支持細胞
シュワン細胞
星細胞(末梢神経細胞体を被包する)
腸膠細胞

中枢神経系ニューロンおよび膠細胞
ニューロン細胞(広く種々のタイプ、未だ余り分類されておらず)
神経膠星状細胞(種々のタイプ)
稀突起神経膠細胞

レンズ細胞
前方(anterior)レンズ上皮細胞
クリスタリン−含有レンズ線維細胞

色素細胞
メラノサイト
網膜色素沈着上皮細胞

生殖細胞
卵原細胞/卵母細胞
精子細胞
精母細胞
精原細胞(精母細胞についての幹細胞)
精子

栄養細胞
卵胞細胞
(精巣における)セルトーリ細胞
胸腺上皮細胞

表6
ヒト組織
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上皮組織 結合組織
単層(単純)上皮 流性結合組織
扁平 リンパ
立方体様 血液
円柱 固有結合組織
感覚 疎性結合組織
筋上皮細胞 輪紋状
多層上皮 疎性結合組織および炎症
置き換えまたは重層扁平上皮 脂肪
重層立方体様および円柱上皮 網様
尿路上皮(移行上皮) 密な結合組織
精上皮 規則的(コラーゲン)
腺 不規則(コラーゲン)
外分泌腺 規則的(弾性)
管および細管 支持結合組織
内分泌腺 骨様組織
神経組織 緻密
ニューロン 格子状
CNSにおける多極ニューロン 軟骨
神経 硝子質
PNSの神経 弾性
受容体 繊維軟骨
マイスナーおよびパチーニ小体 筋肉組織
非−黄紋
平滑筋
黄紋
骨格筋
心筋

系 主な構造
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−骨格 骨、軟骨、腱、靱帯、および関節
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−筋肉 筋肉(骨格、心臓および平滑)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−外皮 皮膚、髪、爪、胸
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−循環 心臓、血管、血液
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−呼吸器 気管、気道、肺
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−免疫 リンパ節および血管、白血球細胞
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−消化 口、食道、胃、肝臓、膵臓、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、直腸、
胆嚢、膵臓、小腸および大腸
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−排出および尿 腎臓、尿管、膀胱、尿道
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−神経 脳、脊髄、神経、感覚器官、受容器、脊髄神経節
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−内分泌 内分泌腺、松果体腺、下垂体腺、副腎、胸腺、およびホルモン−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−リンパ系 リンパ節、脾臓、リンパ管
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−生殖系 卵巣、子宮、ファロピアン管、(女性における)乳腺、輸精管、
前立腺、(男性における)精巣、臍帯、胎盤
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


機能
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
構造の提供;内部器官の支持および保護
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
構造の提供;体幹および四肢の支持および移動;体を通っての物質の移動
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
病原体に対する保護;体温の調節の援助
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
栄養および廃棄物の全ての体組織へのおよびそれからの輸送
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
空気の肺へのおよび肺からの運搬、ガス(酸素および二酸化炭素)の交換
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
感染および病気に対する保護の提供
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

食物の貯蔵および消化;栄養の吸収;廃棄物の排除
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
廃棄物の排除;水および化学物質平衡の維持
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
体の運動および感覚の制御および協調;意識および創造性の制御;
他の身体系のモニターおよび維持の援助
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ホメオスタシスの維持;代謝、水およびミネラルの平衡、成長および性的な発達、
および生殖の調節
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
組織液を清浄し、血液に戻し、体に進入する病原体を破壊
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
配偶子および子孫の生産
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
表7
肝臓の細胞
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
肝細胞類洞周囲(イトウ)細胞
内皮細胞
マクロファージ(クッパー細胞)
リンパ球(ピット細胞)
胆管樹の細胞
立方体様上皮細胞
円柱上皮細胞
結合組織細胞
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【表15−1】

【表15−2】

【表15−3】

【表15−4】

【表15−5】

【表15−6】

【表15−7】

【表15−8】

【表15−9】

【表15−10】

【表15−11】

【表15−12】

【表15−13】

【表15−14】

【表15−15】

【表15−16】

【表15−17】

【表15−18】

【表15−19】

【表15−20】

【表15−21】

【表15−22】

【表15−23】

【表15−24】

【表15−25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図5−6】
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【図5−7】
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【図5−8】
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【図5−9】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図7−6】
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【図7−7】
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【図7−8】
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【図7−9】
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【図7−10】
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【図7−11】
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【図7−12】
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【図7−13】
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【図7−14】
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【図7−15】
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【図7−16】
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【図7−17】
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【図7−18】
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【図7−19】
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【図7−20】
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【図7−21】
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【図7−22】
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【図7−23】
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【図7−24】
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【図7−25】
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【図7−26】
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【図7−27】
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【図7−28】
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【図7−29】
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【図7−30】
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【図7−31】
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【図7−32】
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【図7−33】
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【図7−34】
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【図7−35】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図9−5】
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【図9−6】
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【図9−7】
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【図9−8】
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【図9−9】
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【図9−10】
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【図9−11】
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【図9−12】
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【図9−13】
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【図9−14】
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【図9−15】
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【図9−16】
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【図9−17】
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【図9−18】
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【図9−19】
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【図9−20】
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【図9−21】
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【図9−22】
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【図9−23】
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【図9−24】
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【図9−25】
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【図9−26】
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【図9−27】
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【図9−28】
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【図9−29】
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【図9−30】
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【図9−31】
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【図9−32】
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【図9−33】
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【図9−34】
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【図9−35】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図10−5】
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【図10−6】
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【図10−7】
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【図10−8】
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【図10−9】
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【図10−10】
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【図10−11】
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【図10−12】
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【図10−13】
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【図10−14】
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【図10−15】
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【図10−16】
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【図10−17】
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【図10−18】
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【図10−19】
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【図10−20】
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【図10−21】
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【図10−22】
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【図10−23】
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【図10−24】
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【図10−25】
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【図10−26】
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【図10−27】
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【図10−28】
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【図10−29】
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【図10−30】
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【図10−31】
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【図10−32】
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【図10−33】
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【図10−34】
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【図10−35】
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【図10−36】
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【図10−37】
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【図10−38】
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【図10−39】
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【図10−40】
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【図10−41】
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【図10−42】
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【図10−43】
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【図10−44】
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【図10−45】
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【図10−46】
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【図10−47】
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【図10−48】
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【図10−49】
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【図10−50】
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【図10−51】
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【図10−52】
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【図10−53】
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【図10−54】
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【図10−55】
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【図10−56】
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【図10−57】
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【図10−58】
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【図10−59】
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【図10−60】
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【図10−61】
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【図10−62】
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【図10−63】
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【図10−64】
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【図10−65】
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【図10−66】
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【図10−67】
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【図10−68】
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【図10−69】
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【図10−70】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−101691(P2013−101691A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−24285(P2013−24285)
【出願日】平成25年2月12日(2013.2.12)
【分割の表示】特願2008−523048(P2008−523048)の分割
【原出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(504356052)ジェノマティカ・インコーポレイテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】Genomatica, Inc.
【Fターム(参考)】