説明

多結晶セラミックス接合体およびその製造方法

【課題】高強度で、多結晶セラミックス基材の変形が少なく、半導体や液晶の製造装置用部材として使用されてもコンタミネーションの発生が少ない多結晶セラミックス接合体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】Yを主体相として含む第1の多結晶セラミックス基材と、AlまたはYを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とが、接合層を介して接合された多結晶セラミックス接合体であって、前記接合層は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む複合酸化物からなる多結晶セラミックス接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶セラミックス接合体およびその製造方法に関し、詳しくは、半導体や液晶製造の際に使用される多結晶セラミックス接合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の製造工程では、一般的に、フッ素や塩素等のハロゲン系腐食性ガスのプラズマを用いたプラズマ処理が行われている。プラズマ処理は、たとえば、半導体製造のドライエッチングプロセスやプラズマコーティング等の工程で用いられる。
【0003】
プラズマは、通常、電子温度およびイオン衝撃エネルギーが高い。このため、プラズマ処理装置内の内壁等のプラズマに接触する部材には、プラズマによる腐食を防止するために、高い耐プラズマ性が要求される。
【0004】
従来、このような耐プラズマ性が高い材料としては、イットリアや高純度アルミナ等が用いられてきた。しかし、イットリアや高純度アルミナは高価であるため、プラズマに接触する部材の全体をイットリアや高純度アルミナで作製すると部材のコストが高くなる。
【0005】
そこで、プラズマに接触する部材のうち、プラズマに曝される必要な部分のみをイットリアや高純度アルミナ等の耐プラズマ性の高い材料で作製するとともに、プラズマにさらされない部分を汎用アルミナ等の安価な材料で作製し、両者を接合して多結晶セラミックス接合体を得ることが提案されている。
【0006】
多結晶セラミックス接合体において、イットリアや高純度アルミナ等の耐プラズマ性の高い部材と、汎用アルミナ等の耐プラズマ性の高くない部材とは、たとえば、有機系の接着剤や、無機系のナノ粉末等を用いて焼結したり、金属ろう等を用いたりすることにより接合される。
【0007】
また、多結晶セラミックス接合体は、異なるセラミックス材料の焼成前の成形体同士を接触させ、焼成して接合することによっても、得ることができる。
【0008】
たとえば、特許文献1(特開2002−192655号公報)には、セラミック基材と、周期律表第2族や第3族元素を主成分とする耐食性焼結体とを、セラミック基材と耐食性焼結体との相互拡散層を介して接合した多結晶セラミックス接合体が記載されている。
【0009】
この多結晶セラミックス接合体は、セラミック基材の原料となるセラミック基材成形体と、耐食性焼結体の原料となる耐食性焼結体成形体とを用いて複合成形体を形成し、焼成して相互拡散層を形成することにより、セラミック基材と耐食性焼結体とを接合したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−192655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、有機系接着剤や金属ろうを用いて接合した多結晶セラミックス接合体は、半導体や液晶の製造装置中で使用したときに、接着剤に起因するダストやコンタミネーション、脱ガス等が発生して、製造装置中のウェーハ等を汚染するという課題があった。
【0012】
これに対し、ナノ粉末を用いて接合した多結晶セラミックス接合体は、半導体や液晶の製造装置中で使用しても不純物等は低レベルに抑えられる。しかし、ナノ粉末を用いて接合した多結晶セラミックス接合体は、接合強度が低いために破損しやすいという課題があった。
【0013】
また、異なる材質を直接接合した多結晶セラミックス接合体は、材質間の熱膨張差等により、剥がれが発生しやすいという課題があった。
【0014】
なお、多結晶セラミックス接合体の接合強度を高くするためには、より高温で焼成して接合する方法も考えられる。しかし、より高温で焼成すると、多結晶セラミックス基材に変形(クリープ)が発生易いという課題があった。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高強度で、多結晶セラミックス基材の変形が少なく、半導体や液晶の製造装置用部材として使用されてもコンタミネーションの発生が少ない多結晶セラミックス接合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の多結晶セラミックス接合体およびその製造方法は、Yを主体相として含む第1の多結晶セラミックス基材と、AlまたはYを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とを接合する接合層を、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる3種類以上の酸化物を含む複合酸化物とすると、高強度で、多結晶セラミックス基材の変形が少なく、半導体や液晶の製造装置用部材として使用されてもコンタミネーションの発生が少ない多結晶セラミックス接合体が得られることを見出して完成されたものである。
【0017】
本発明の多結晶セラミックス接合体は、上記問題点を解決するものであり、Yを主体相として含む第1の多結晶セラミックス基材と、AlまたはYを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とが、接合層を介して接合された多結晶セラミックス接合体であって、前記接合層は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む複合酸化物からなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の多結晶セラミックス接合体の製造方法は、上記問題点を解決するものであり、Yを主体相として含む第1の多結晶セラミックス基材と、AlまたはYを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とを、接着剤を介して接着し、熱処理して接合する多結晶セラミックス接合体の製造方法であって、前記接着剤は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む接着剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多結晶セラミックス接合体およびその製造方法によれば、高強度で、多結晶セラミックス基材の変形が少なく、半導体や液晶の製造装置用部材として使用されてもコンタミネーションの発生が少ない多結晶セラミックス接合体およびその製造方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[多結晶セラミックス接合体]
本発明の多結晶セラミックス接合体は、第1の多結晶セラミックス基材と、第2の多結晶セラミックス基材とが、接合層を介して接合された接合体である。
【0021】
(第1の多結晶セラミックス基材)
本発明で用いられる第1の多結晶セラミックス基材は、接合層を介して第2の多結晶セラミックス基材と接合される多結晶セラミックス基材である。
【0022】
第1の多結晶セラミックス基材は、Yを主体相として含む多結晶セラミックス基材である。
【0023】
ここで、第1の多結晶セラミックス基材がYを主体相として含むとは、第1の多結晶セラミックス基材中のY結晶相の質量比率が最も大きいことを意味する。
【0024】
第1の多結晶セラミックス基材は、従属相として、さらに、たとえばAl、ZrOおよびSiO等の結晶相、またはY、Al、ZrおよびSiから選ばれる元素を2種以上含む酸化物からなる結晶相もしくは非晶質相を含んでいてもよい。
【0025】
第1の多結晶セラミックス基材は、Y結晶相の質量比率が、通常70〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは95〜100質量%である。
【0026】
第1の多結晶セラミックス基材において、Y結晶相の質量比率が上記範囲内にあると、耐プラズマ性が高いため好ましい。
【0027】
(第2の多結晶セラミックス基材)
本発明で用いられる第2の多結晶セラミックス基材は、接合層を介して第1の多結晶セラミックス基材と接合される多結晶セラミックス基材である。
【0028】
第2の多結晶セラミックス基材は、AlまたはYを主体相として含む多結晶セラミックス基材である。
【0029】
ここで、第2の多結晶セラミックス基材がAlまたはYを主体相として含むとは、第2の多結晶セラミックス基材中のAl結晶相またはY結晶相の質量比率が最も大きいことを意味する。
【0030】
以下、第2の多結晶セラミックス基材について、Alを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材と、Yを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とに分けて説明する。
【0031】
<Alを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材>
Alを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とは、第2の多結晶セラミックス基材中のAl結晶相の質量比率が最も大きい多結晶セラミックス基材である。
【0032】
Alを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材は、従属相として、さらに、たとえばY、ZrOおよびSiO等の結晶相、またはY、Al、ZrおよびSiから選ばれる元素を2種以上含む酸化物からなる結晶相もしくは非晶質相を含んでいてもよい。
【0033】
たとえば、Alを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材には、従属相としてZrO結晶相を含むものと、ZrO結晶相を含まないものとがある。
【0034】
以下、Alを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材について、従属相としてZrO結晶相を含む第2の多結晶セラミックス基材と、ZrO結晶相を含まない第2の多結晶セラミックス基材とに分けて説明する。
【0035】
[Alを主体相として含み従属相としてZrOを含む第2の多結晶セラミックス基材]
Alを主体相として含み従属相としてZrOを含む第2の多結晶セラミックス基材とは、第2の多結晶セラミックス基材中のAl結晶相の質量比率が最も大きく、かつZrO結晶相を含む多結晶セラミックス基材である。
【0036】
Alを主体相として含み従属相としてZrOを含む第2の多結晶セラミックス基材は、Al結晶相の質量比率が、通常50〜99質量%、好ましくは70〜99質量%、さらに好ましくは85〜99質量%である。
【0037】
また、Alを主体相として含み従属相としてZrOを含む第2の多結晶セラミックス基材は、ZrO結晶相の質量比率が、通常1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは1〜15質量%である。
【0038】
Alを主体相として含み従属相としてZrO結晶相を含む第2の多結晶セラミックス基材において、Al結晶相およびZrO結晶相の質量比率が上記範囲内にあると、第1の多結晶セラミックス基材との熱膨張率の差が小さいため好ましい。
【0039】
[Alを主体相として含みZrOを含まない第2の多結晶セラミックス基材]
Alを主体相として含みZrOを含まない第2の多結晶セラミックス基材とは、第2の多結晶セラミックス基材中のAl結晶相の質量比率が最も大きく、かつZrOを実質的に含まない多結晶セラミックス基材である。
【0040】
Alを主体相として含みZrOを含まない第2の多結晶セラミックス基材は、Al結晶相の質量比率が、通常90質量%以上、好ましくは95〜100質量%、さらに好ましくは99〜100質量%である。
【0041】
Alを主体相として含みZrOを含まない第2の多結晶セラミックス基材において、Al結晶相の質量比率が上記範囲内にあると、接合材との密着性(親和性)が高く、基材の強度も高いため好ましい。
【0042】
<Yを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材>
を主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とは、第2の多結晶セラミックス基材中のY結晶相の質量比率が最も大きい多結晶セラミックス基材である。
【0043】
を主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材は、従属相として、さらに、たとえばAl、ZrOおよびSiO等の結晶相、またはY、Al、ZrおよびSiから選ばれる元素を2種以上含む酸化物からなる結晶相もしくは非晶質相を含んでいてもよい。
【0044】
を主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材は、Y結晶相の質量比率が、通常90〜100質量%、好ましくは95〜100質量%、さらに好ましくは99〜100質量%である。
【0045】
を主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材において、Y結晶相の質量比率が上記範囲内にあると、接合材との密着性(親和性)が高いため好ましい。
【0046】
なお、第2の多結晶セラミックス基材がYを主体相として含む多結晶セラミックス基材である場合、この第2の多結晶セラミックス基材と第1の多結晶セラミックス基材とは、Yを主体相として含む多結晶セラミックス基材である点で一致する。
【0047】
このため、Yを主体相として含む多結晶セラミックス基材同士を接合層を介して接合した多結晶セラミックス接合体においては、いずれの多結晶セラミックス基材を、第1の多結晶セラミックス基材または第2の多結晶セラミックス基材と決定するかが問題となる。
【0048】
この場合は、Yを主体相として含む多結晶セラミックス基材のいずれか一方を適宜第1の多結晶セラミックス基材と決定し、他方の多結晶セラミックス基材を第2の多結晶セラミックス基材と決定すればよい。
【0049】
(第1の多結晶セラミックス基材と第2の多結晶セラミックス基材との平均熱膨張率の差)
第1の多結晶セラミックス基材と第2の多結晶セラミックス基材とは、第1の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率と、第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率との差が小さいと、多結晶セラミックス接合体が接合層で破断し難いため好ましい。
【0050】
具体的には、第1の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率と第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率との差の絶対値が、第1または第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率の大きい方の値に対して、通常10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0051】
第1の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率と第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率との差の絶対値が上記範囲内にあると、多結晶セラミックス基材同士の熱膨張差による内部応力が小さいため、接合の際に接合層で破断し難くなる。
【0052】
一方、第1の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率と第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率との差の絶対値が10%を越えると、多結晶セラミックス基材同士の熱膨張差による内部応力が大きいため、接合の際に接合層で破断し易くなる。
【0053】
(接合層)
接合層は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む複合酸化物からなり、この複合酸化物により、第1の多結晶セラミックス基材と第2の多結晶セラミックス基材とを接合する。
【0054】
接合層を構成する複合酸化物は、Y、AlおよびSiOからなるY−Al−SiO系複合酸化物、またはY、Al、SiOおよびZrOからなるY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物であると、耐プラズマ性が高いため好ましい。
【0055】
なお、本発明では、プラズマ処理の際に接合層を構成する複合酸化物からY、Al、SiおよびZr等の元素単体からなるコンタミネーションが発生する可能性がある。しかし、Y、Al、SiおよびZr等のコンタミネーションは、半導体製造のドライエッチングプロセスやプラズマコーティング等のプラズマ処理をあまり妨害しないため、特に問題とならない。
【0056】
<Y−Al−SiO系複合酸化物>
接合層を構成する複合酸化物がY、AlおよびSiOからなるY−Al−SiO系複合酸化物である場合、Y−Al−SiO系複合酸化物は、Y100質量部に対して、Alを、通常5〜400質量部、好ましくは50〜350質量部、さらに好ましくは50〜200質量部含む。
【0057】
また、Y−Al−SiO系複合酸化物は、Y100質量部に対して、SiOを、通常40〜1000質量部、好ましくは100〜800質量部、さらに好ましくは100〜500質量部含む。
【0058】
接合層を構成するY−Al−SiO系複合酸化物中のAlおよびSiOの含有量が上記範囲内にあると、多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性および4点曲げ強度が高くなる。ここで、4点曲げ強度とは、JIS R 1601に準拠した4点曲げ強度を意味する。
【0059】
一方、接合層を構成するY−Al−SiO系複合酸化物中のAlおよびSiOの含有量が上記範囲外にあると、複合酸化物の融点が高くなりすぎるために、接合が困難になる、接合の際に多結晶セラミックス基材の変形が生じる、接合強度が低下する等の問題が生じやすくなる。
【0060】
接合層を構成するY−Al−SiO系複合酸化物は、AlおよびSiOの含有量がそれぞれ上記範囲内にあると、多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性および4点曲げ強度がより高くなるため好ましい。
【0061】
<Y−Al−SiO−ZrO系複合酸化物>
接合層を構成する複合酸化物がY、Al、SiOおよびZrOからなるY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物である場合、Y−Al−SiO−ZrO系複合酸化物は、Y100質量部に対して、Alを、通常5〜400質量部、好ましくは50〜350質量部、さらに好ましくは50〜200質量部含む。
【0062】
また、Y−Al−SiO−ZrO系複合酸化物は、Y100質量部に対して、SiOを、通常40〜1000質量部、好ましくは100〜800質量部、さらに好ましくは100〜500質量部含む。
【0063】
さらに、Y−Al−SiO−ZrO系複合酸化物は、Y100質量部に対して、ZrOを、通常0.001〜1000質量部、好ましくは100〜800質量部含む、さらに好ましくは200〜600質量部含む。
【0064】
接合層を構成するY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物中のAl、SiOおよびZrOの含有量が上記範囲内にあると、多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性が高くなる。
【0065】
一方、接合層を構成するY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物中のAl、SiOおよびZrOの含有量が上記範囲外にあると、複合酸化物の融点が高くなりすぎるために、接合が困難になる、接合の際に多結晶セラミックス基材の変形が生じる、接合強度が低下する等の問題が生じやすくなる。
【0066】
接合層を構成するY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物は、Al、SiOおよびZrOの含有量がそれぞれ上記範囲内にあると、多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性がより高くなるため好ましい。
【0067】
<接合層の厚さ>
接合層は、厚さが、通常5〜500μm、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは30〜250μmである。
【0068】
接合層の厚さが上記範囲内にあると、接合強度が高く、かつ接合層にクラックや破断が生じ難い接合層が得られる。
【0069】
一方、接合層の厚さが500μmを超えると、接合層にクラックや破断が生じ易くなる。また、接合層の厚さが5μm未満であると、接合強度が低くなるおそれがある。
【0070】
本発明の多結晶セラミックス接合体は、たとえば、半導体製造装置用または液晶製造装置用の多結晶セラミックス接合体として、使用することができる。
【0071】
[多結晶セラミックス接合体の製造方法]
本発明の多結晶セラミックス接合体の製造方法は、第1の多結晶セラミックス基材と、第2の多結晶セラミックス基材とを、接着剤を介して接着し、熱処理して接合する方法である。
【0072】
本発明の多結晶セラミックス接合体の製造方法に用いられる第1の多結晶セラミックス基材および第2の多結晶セラミックス基材は、本発明の多結晶セラミックス接合体で説明したものと同じであるため、説明を省略する。
【0073】
(接着剤)
本発明で用いられる接着剤は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む接着剤である。
【0074】
接着剤は、たとえば、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物と、水とを混合してペースト状にすることにより得られる。
【0075】
接着剤は、Y、Al、SiOおよび水を含むY−Al−SiO系接着剤、またはY、Al、SiO、ZrOおよび水を含むY−Al−SiO−ZrO系接着剤であると、耐プラズマ性が高い接合層が得られるため好ましい。
【0076】
接着剤の原料として用いられるY、Al、SiOおよびZrOは、接着剤を第1の多結晶セラミックス基材または第2の多結晶セラミックス基材の接着面に塗布しやすいように、粉末状であることが好ましい。
【0077】
<Y−Al−SiO系接着剤>
接着剤がY−Al−SiO系接着剤である場合、接着剤は、Y、AlおよびSiOを、接合層を構成するY−Al−SiO系複合酸化物と同じ質量比率で含む。
【0078】
すなわち、Y−Al−SiO系接着剤は、Y100質量部に対して、Alを、通常5〜400質量部、好ましくは50〜350質量部、さらに好ましくは50〜200質量部含む。
【0079】
また、Y−Al−SiO系接着剤は、Y100質量部に対して、SiOを、通常40〜1000質量部、好ましくは100〜800質量部、さらに好ましくは100〜500質量部含む。
【0080】
−Al−SiO系接着剤中のAlおよびSiOの含有量が上記範囲内にあると、多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性および4点曲げ強度が高くなる。
【0081】
一方、Y−Al−SiO系接着剤中のAlおよびSiOの含有量が上記範囲外にあると、接着剤を焼成して得られる複合酸化物の融点が高くなりすぎるために、接合が困難になる、接合の際に多結晶セラミックス基材の変形が生じる、接合強度が低下する等の問題が生じやすくなる。
【0082】
−Al−SiO系接着剤は、AlおよびSiOの含有量がそれぞれ上記範囲内にあると、得られる多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性および4点曲げ強度がより高くなるため好ましい。
【0083】
<Y−Al−SiO−ZrO系接着剤>
接着剤がY−Al−SiO−ZrO系接着剤である場合、接着剤は、Y、Al、SiOおよびZrOを、接合層を構成するY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物と同じ質量比率で含む。
【0084】
すなわち、Y−Al−SiO−ZrO系接着剤は、Y100質量部に対して、Alを、通常5〜400質量部、好ましくは50〜350質量部、さらに好ましくは50〜200質量部含む。
【0085】
また、Y−Al−SiO−ZrO系接着剤は、Y100質量部に対して、SiOを、通常40〜1000質量部、好ましくは100〜800質量部、さらに好ましくは100〜500質量部含む。
【0086】
さらに、Y−Al−SiO−ZrO系接着剤は、Y100質量部に対して、ZrOを、通常0.001〜1000質量部、好ましくは100〜800質量部含む、さらに好ましくは200〜600質量部含む。
【0087】
−Al−SiO−ZrO系接着剤中のAl、SiOおよびZrOの含有量が上記範囲内にあると、多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性が高くなる。
【0088】
一方、Y−Al−SiO−ZrO系接着剤中のAl、SiOおよびZrOの含有量が上記範囲外にあると、接着剤を焼成して得られる複合酸化物の融点が高くなりすぎるために、接合が困難になる、接合の際に多結晶セラミックス基材の変形が生じる、接合強度が低下する等の問題が生じやすくなる。
【0089】
−Al−SiO−ZrO系接着剤は、Al、SiOおよびZrOの含有量がそれぞれ上記範囲内にあると、得られる多結晶セラミックス接合体の耐プラズマ性がより高くなるため好ましい。
【0090】
<接着剤層の厚さ>
接着剤は、第1の多結晶セラミックス基材または第2の多結晶セラミックス基材の接着面に塗布される。
【0091】
接着剤が塗布されてなる接着剤層は、厚さが、通常5〜500μm、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは30〜250μmである。
【0092】
接着剤層は、第1の多結晶セラミックス基材および第2の多結晶セラミックス基材とともに酸化炉等で熱処理されることにより、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む複合酸化物からなる接合層となる。
【0093】
熱処理の温度は、通常1400〜1700℃、好ましくは1400〜1600℃、さらに好ましくは1450〜1550℃である。熱処理の温度が、上記範囲内にあると、接合層の接合強度が高いため好ましい。また、熱処理の時間は、通常1〜10時間、好ましくは3〜6時間である。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0095】
[実施例1−1]
(多結晶セラミックス接合体の作製)
<第1の多結晶セラミックス基材>
第1の多結晶セラミックス基材として、イットリア(Y)のみからなる平板状のイットリア多結晶セラミックス基材を用意した(基材A−1)。
基材A−1について、20〜900℃における平均熱膨張率を測定した。
20〜900℃における平均熱膨張率(1/K)は、JIS R 1618に準拠して測定したものである。
【0096】
表1に、基材A−1の組成を示す。
【表1】

【0097】
<第2の多結晶セラミックス基材>
第2の多結晶セラミックス基材として、アルミナ(Al)のみからなる平板状のアルミナ多結晶セラミックス基材を用意した(基材B−1)。
また、基材B−1について、基材A−1と同様にして、20〜900℃における平均熱膨張率を測定した。
【0098】
表2に、基材B−1の組成を示す。
【表2】

【0099】
<平均熱膨張率の差の比率>
基材A−1の20〜900℃における平均熱膨張率と、基材B−1の20〜900℃における平均熱膨張率とから差を求め、この差を絶対値として表した。
この平均熱膨張率の差の絶対値を、基材A−1の20〜900℃における平均熱膨張率と基材B−1の20〜900℃における平均熱膨張率のうちの大きい方の値で除して、平均熱膨張率の差の比率(%)を算出した。
<接着剤>
接着剤として、イットリア(Y)粉末100質量部と、アルミナ(Al)粉末200質量部と、シリカ(SiO)粉末400質量部とを、水とともに混合して、イットリア、アルミナおよびシリカを含むペーストを作製した。
<第1および第2の多結晶セラミックス基材の接合>
基材A−1の表面に接着剤であるペーストを、焼成後の接合層の厚さが200μmになるように塗布し、このペーストが塗布された表面に基材B−1を載置して、基材A−1と基材B−1とが接着剤で仮接着された仮接着体を作製した。
この仮接着体を、大気中、1500℃で5時間熱処理したところ、基材A−1と基材B−1とが接合層で接合された多結晶セラミックス接合体が得られた。
(多結晶セラミックス接合体の評価)
得られた多結晶セラミックス接合体について、JIS R 1601に準じて、4点曲げ強度を測定した。4点曲げ強度測定用のサンプルは、多結晶セラミックス接合体の接合層が破断面になるように作製した。
表3に、基材の種類と平均熱膨張率の差の比率を示す。表4に、ペースト中の酸化物の組成、接合層の厚さ、および4点曲げ強度の測定結果を示す。
なお、以下に示す実施例および比較例についても、表3に基材の種類と平均熱膨張率の差の比率を示し、表4にペースト中の酸化物の組成、接合層の厚さ、および4点曲げ強度の測定結果を示した。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
[実施例1−2〜1−7]
接着剤であるペースト中の酸化物の組成、または接合層の厚さを表4に示すように変えた以外は実施例1−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例1−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0103】
[実施例1−8]
<第1の多結晶セラミックス基材>
第1の多結晶セラミックス基材として、イットリア(Y)のみからなる平板状のイットリア多結晶セラミックス基材を用意した(基材A−2)。
基材A−2について、基材A−1と同様にして20〜900℃における平均熱膨張率を測定した。
表1に、基材A−2の組成を示す。
<第2の多結晶セラミックス基材>
第2の多結晶セラミックス基材として、アルミナ(Al)のみからなる平板状のアルミナ多結晶セラミックス基材を用意した(基材B−2)。
基材B−2について、基材A−1と同様にして20〜900℃における平均熱膨張率を測定した。
表2に、基材B−2の組成を示す。
<平均熱膨張率の差の比率>
基材A−2および基材B−2について、実施例1−1と同様にして、平均熱膨張率の差の比率を算出した。
<第1および第2の多結晶セラミックス基材の接合>
基材A−1に代えて基材A−2を用いるとともに基材B−1に代えて基材B−2を用いた以外は実施例1−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
(多結晶セラミックス接合体の評価)
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例1−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0104】
[実施例1−11〜1−16]
接着剤であるペースト中の酸化物の組成、または接合層の厚さを表4に示すように変えた以外は実施例1−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例1−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0105】
[実施例1−17]
<第1の多結晶セラミックス基材>
第1の多結晶セラミックス基材として、イットリア(Y)のみからなる平板状のイットリア多結晶セラミックス基材を用意した(基材A−3)。
基材A−3について、基材A−1と同様にして20〜900℃における平均熱膨張率を測定した。
表1に、基材A−3の組成を示す。
<第2の多結晶セラミックス基材>
第2の多結晶セラミックス基材として、アルミナ(Al)のみからなる平板状のアルミナ多結晶セラミックス基材を用意した(基材B−3)。
基材B−3について、基材A−1と同様にして20〜900℃における平均熱膨張率を測定した。
表2に、基材B−2の組成を示す。
<平均熱膨張率の差の比率>
基材A−3および基材B−3について、実施例1−1と同様にして、平均熱膨張率の差の比率を算出した。
<第1および第2の多結晶セラミックス基材の接合>
基材A−1に代えて基材A−3を用いるとともに基材B−1に代えて基材B−3を用いた以外は実施例1−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
(多結晶セラミックス接合体の評価)
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例1−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0106】
[実施例2−1]
(多結晶セラミックス接合体の作製)
<第1の多結晶セラミックス基材>
第1の多結晶セラミックス基材として、基材A−1を用いた。
<第2の多結晶セラミックス基材>
第2の多結晶セラミックス基材として、基材B−1を用いた。
<接着剤>
接着剤として、イットリア(Y)粉末100質量部と、アルミナ(Al)粉末200質量部と、シリカ(SiO)粉末400質量部と、ジルコニア(ZrO)粉末300質量部とを、水とともに混合して、イットリア、アルミナ、シリカおよびジルコニアを含むペーストを作製した。
<第1および第2の多結晶セラミックス基材の接合>
上記接着剤を用いた以外は実施例1−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
(多結晶セラミックス接合体の評価)
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例1−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0107】
[実施例2−2〜2−9]
接着剤であるペースト中の酸化物の組成、または接合層の厚さを表4に示すように変えた以外は実施例2−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例2−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0108】
[実施例2−10]
<第1の多結晶セラミックス基材>
第1の多結晶セラミックス基材として、基材A−2を用いた。
<第2の多結晶セラミックス基材>
第2の多結晶セラミックス基材として、基材B−2を用いた。
<第1および第2の多結晶セラミックス基材の接合>
基材A−1に代えて基材A−2を用いるとともに基材B−1に代えて基材B−2を用いた以外は実施例2−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
(多結晶セラミックス接合体の評価)
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例2−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0109】
[実施例2−11〜2−17]
接着剤であるペースト中の酸化物の組成、または接合層の厚さを表4に示すように変えた以外は実施例2−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例2−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0110】
[実施例2−18]
<第1の多結晶セラミックス基材>
第1の多結晶セラミックス基材として、基材A−3を用いた。
<第2の多結晶セラミックス基材>
第2の多結晶セラミックス基材として、基材B−3を用いた。
<第1および第2の多結晶セラミックス基材の接合>
基材A−1に代えて基材A−3を用いるとともに基材B−1に代えて基材B−3を用いた以外は実施例2−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体を作製した。
(多結晶セラミックス接合体の評価)
得られた多結晶セラミックス接合体について、実施例2−1と同様にして4点曲げ強度を測定した。
【0111】
[比較例1および2]
接着剤であるペースト中の酸化物の組成、または接合層の厚さを表4に示すように変えた以外は実施例1−1と同様にして、多結晶セラミックス接合体の作製を試みた。
しかし、基材A−1と基材B−1とは、接合できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の多結晶セラミックス接合体およびその製造方法は、たとえば、半導体や液晶製造のためのプラズマ処理の際に使用される多結晶セラミックス接合体に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
を主体相として含む第1の多結晶セラミックス基材と、
AlまたはYを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とが、
接合層を介して接合された多結晶セラミックス接合体であって、
前記接合層は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む複合酸化物からなることを特徴とする多結晶セラミックス接合体。
【請求項2】
前記接合層を構成する複合酸化物は、Y、AlおよびSiOからなるY−Al−SiO系複合酸化物であり、
前記複合酸化物は、Y100質量部に対して、Alを5〜400質量部、SiOを40〜1000質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の多結晶セラミックス接合体。
【請求項3】
前記接合層を構成する複合酸化物は、Y、Al、SiOおよびZrOからなるY−Al−SiO−ZrO系複合酸化物であり、
前記複合酸化物は、Y100質量部に対して、Alを5〜400質量部、SiOを40〜1000質量部、ZrOを0.001〜1000質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の多結晶セラミックス接合体。
【請求項4】
前記第2の多結晶セラミックス基材は、Alを主体相として含む多結晶セラミックス基材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多結晶セラミックス接合体。
【請求項5】
前記第2の多結晶セラミックス基材は、従属相としてZrOを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多結晶セラミックス接合体。
【請求項6】
前記接合層は、厚さが5〜500μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多結晶セラミックス接合体。
【請求項7】
前記第1の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率と、前記第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率との差の絶対値が、前記第1または第2の多結晶セラミックス基材の20〜900℃の平均熱膨張率の大きい方の値に対して10%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の多結晶セラミックス接合体。
【請求項8】
を主体相として含む第1の多結晶セラミックス基材と、
AlまたはYを主体相として含む第2の多結晶セラミックス基材とを、
接着剤を介して接着し、熱処理して接合する多結晶セラミックス接合体の製造方法であって、
前記接着剤は、Y、Al、SiOおよびZrOから選ばれる少なくとも3種類の酸化物を含む接着剤であることを特徴とする多結晶セラミックス接合体の製造方法。

【公開番号】特開2013−95644(P2013−95644A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241535(P2011−241535)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】